JP5911551B2 - 脱硫剤の製造方法および炭化水素の脱硫方法 - Google Patents

脱硫剤の製造方法および炭化水素の脱硫方法 Download PDF

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本発明は、水蒸気改質プロセスなどにおける炭化水素の脱硫剤の製造方法およびその脱硫剤を利用した炭化水素の脱硫方法に関する。
水蒸気改質プロセスの原料としては、天然ガス、石炭ガス(COG)、液化石油ガス(LPG)、ナフサなどの各種の炭化水素類が用いられるが、これらは、一般的に硫黄分を含んでいる。この硫黄分は、改質プロセスで使用される水蒸気改質触媒およびその周辺のプロセス触媒を被毒し、触媒活性を低下させるので、事前に原料の脱硫処理をおこなう必要がある。
従来、炭化水素を水蒸気改質するに先立っておこなわれている代表的な脱硫方法は、Co−Mo系あるいはNi−Mo系触媒を用いて炭化水素原料中の有機硫黄を水添分解した後、生成する硫化水素を酸化亜鉛に吸着させて除去する水添脱硫法である。
しかし、このような従来方法には問題点がある。すなわち、水添脱硫工程において、処理後の炭化水素中に一定量以上の有機硫黄、特にチオフェンなどの難分解性の有機硫黄がスリップして、酸化亜鉛に吸着されることなく素通りすることがある。
また、吸着に際しては、たとえば、
ZnO+H2S=ZnS+H2
ZnO+COS=ZnS+CO2
で示される平衡のため、H2S、COSなどの量も一定値以下とはならない。特にH2OおよびCO2が存在する場合には、この傾向は著しい。さらに、装置のスタートアップ、シ
ャットダウンなどに際して脱硫系が不安定である場合には、水添脱硫装置および吸着脱硫剤から硫黄が飛散して、精製物中の硫黄濃度が増大することもある。したがって、現在の水蒸気改質プロセスにおける脱硫工程は、精製後の炭化水素中の硫黄濃度が0.1ppm程度となるレベルで管理されている。
一方、水蒸気改質プロセスにおいては、触媒としてNiやRu触媒などが使用されている。これらの金属は、ppm以下の低濃度の硫黄でも、その表面に硫化物を形成することが知られている。たとえば、非特許文献1で明らかにしているように、NiおよびRuの硫黄吸着力は非常に強力であるため、原料中に含まれる硫黄含有量が0.1ppm程度であっても、平衡状態においては、NiおよびRu触媒表面のほとんどが硫黄でおおわれてしまう(硫黄被覆率が0.8以上)。すなわち、水蒸気改質触媒は、硫黄に対して非常に敏感であり、わずかな硫黄の存在によっても触媒活性が低下してしまう。逆にこのことは、現行の炭化水素の脱硫レベルでは、水蒸気改質触媒の硫黄被毒を十分に防止することができないことを意味している。
特に、メタンリッチなガスを製造する代替天然ガス製造プロセスは、低温で実施されるため、硫黄は触媒に吸着されやすく、低濃度の硫黄に対してより敏感である。また、より高温で実施される水蒸気改質プロセスでも、燃料電池リフォーマーのように反応装置の小型化が要求される場合には、低濃度硫黄の影響は深刻となる。
したがって、後流工程での触媒の硫黄被毒を防ぎ、プロセス全体の経済性を向上させるためには、原料中の硫黄含有量をできる限り低減させておくことが極めて望ましい。
このような観点から、特許文献1,2は、銅−亜鉛系脱硫剤の製造方法および銅−亜鉛−アルミニウム系脱硫剤の製造方法を開示している。すなわち、これらの脱硫剤を用いる場合には、原料中の硫黄濃度を1ppb以下に低減できるという顕著な効果が達成されている。しかし、これらの脱硫剤を使用する場合にも、長時間にわたってこの高度の脱硫レベルを維持しようとすれば、脱硫剤使用量を多くしなければならない。
一方、鉄およびニッケルは、硫黄吸着能に優れ、脱硫剤として優れた性能を有することは従来から知られており、いくつかのプロセスにおいて、脱硫剤として用いられている。
しかし、鉄系脱硫剤あるいはニッケル系脱硫剤を水蒸気改質プロセスの脱硫にそのまま適用しようとすることには、大きな障害がある。すなわち、通常水蒸気改質プロセスにおける脱硫は、水素の存在下でおこなわれており、この水素はリフォーマー出口からのリサイクルガスによってまかなわれている。このリサイクルガスは、水素のほかにCOおよびやCO2を含んでいるため、鉄系あるいはニッケル系脱硫剤の存在下では、水素とCOお
よびCO2の反応(メタン化反応)が起こり、大きな発熱を伴うという問題点がある。
特許文献3は、このメタン化反応を抑えるために、原料を水素化脱硫触媒および硫化水素脱硫剤に接触させた後、スチームを導入し、スチーム雰囲気中でニッケル系脱硫剤を使用する方法を開示している。しかし、この方法には、水蒸気改質反応器のみならず、さらに脱硫器にもスチームの導入ラインが必要になること、スチームを脱硫器に導入することにより、ニッケル系脱硫剤の持つ本来の脱硫性能が生かせなくなるという問題点がある。
さらに、水素の非存在下でニッケル系脱硫剤を使用することも報告されている。しかし、有機硫黄化合物を分解し、硫黄を含まない炭化水素として脱離させるためには、本質的に水素が必要である。仮に、水素のない状態で有機硫黄化合物を分解させると、ニッケル脱硫剤上への炭素折出が起こりやすくなり、長期的には差圧の上昇や、脱硫層の閉塞につながる。
そこで、特許文献4には少量の使用により、炭化水素原料を長期間安定して高度に脱硫処理しうる新たな脱硫剤を提供することを主な目的として、銅化合物、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を含む混合物とアルカリ物質の水溶液とを混合して沈殿を生じさせ、得られた沈殿を焼成し、酸化銅−酸化亜鉛−酸化アルミニウム混合物の成形物を得た後、この成形物に鉄およびニッケルから選ばれる少なくとも一種以上を含浸させ、さらに焼成し、得られた酸化物焼成体を水素還元する脱硫剤の製造方法が提案されている。
特開平1−123627号公報 特開平1−123628号公報 特開平2−204301号公報 特許4096128号公報
McCarty et al;J.Chem.Phys. vol.72.No.12,6332,1980:J.Chem.Phys. vol.74,No.10,5877,1981
しかし本発明者らによれば、上述の脱硫剤の製造方法では、得られる脱硫剤の脱硫処理性能は従来に比べて向上するものの、このようにして製造された脱硫剤は機械的強度が従来のものに比べて低下しており、粉化しやすく、運搬、施用時等取扱に注意を要するものとなっていたことがわかった。
そこで、本発明の目的は、機械的強度が高く、かつ、炭化水素原料を長期間安定して高度に脱硫処理しうる新たな脱硫剤を提供することができる技術を提供することにある。
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明の脱硫剤の製造方法の特徴構成は、銅化合物、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を含む混合物(成形物成分)とアルカリ物質の水溶液とを混合して沈殿を生じさせ、得られた沈殿を焼成し、前記成形物成分の成形物を得た後、この成形物に鉄およびニッケルから選ばれる少なくとも一種以上(触媒成分)を目標量含有する含浸液を含浸させる含浸工程を行い、さらに前記含浸液を含浸させた成形物を焼成する焼成工程をおこなう場合に、前記成形物に担持させるべき前記触媒成分を目標量含有する含浸液を作成し、前記含浸液を複数に分け、前記含浸工程を複数回行って前記含浸液の全量を前記成形物に含浸させる点にある。
〔作用効果1〕
上記構成によると、脱硫剤は、全体としては微粒子の凝集体からなる緻密な構造を有しており、非常に小さい銅微粒子が酸化亜鉛粒子表面に分散している。先述の従来の技術と同様に、前記成形物に鉄およびニッケルから選ばれる少なくとも一種以上を目標量含有するから、成形物表面部では、銅と触媒成分とが、微粒子として酸化亜鉛粒子表面上に極めて均一に混合・分散している。そのため、酸化亜鉛との化学的な相互作用により、成形物は高活性状態になっている。したがって、従来、鉄あるいはニッケル単独では起こりやすかったメタン化反応、炭素折出などの副反応が抑制されるとともに、長期にわたり高活性な脱硫性能を維持することができ、炭化水素原料を長期間安定して高度に脱硫処理しうる高い触媒活性を発揮する。また、成形物において、酸化アルミニウムは、全体に均一に分布しており、熱による銅−ニッケル微粒子や酸化亜鉛粒子のシンタリングを防止して、高活性な状態を維持させる。また、酸化アルミニウムは、成形物の耐熱性を大幅に改善し、高温での強度低下および硫黄吸着力の低下を著しく減少させるという大きな利点が得られるので、使用可能温度域を高めることができる。
ここで、従来は、前記含浸液を一度に含浸させる含浸工程を一度だけ行っていたのに対して、本願においては、焼成工程をおこなう場合に、前記成形物に担持させるべき前記触媒成分を目標量含有する含浸液を作成し、前記含浸液を複数に分け、前記含浸工程を複数回行って前記含浸液の全量を前記成形物に含浸させる。ここで、含浸工程は、含浸液を成形物に接触させる行為をいうが、ある含浸工程の後次の含浸工程をおこなうにあたっては、前記成形物が前記含浸液を吸収可能な状態に復帰させる必要があり、本願では含浸工程という場合、次の含浸工程までの待機状態も含むものとする。
すると、前記含浸液は、前記成形物に対してより均一にムラなく含浸されることが予想されるが、本発明者等によると、さらに、このようにして製造される脱硫剤は、従来の製造方法により得られた脱硫剤に比べて高い機械的強度を有することが明らかになった。この製造方法の相違によって機械的強度が向上するメカニズムは明らかになっていないが、おもに、含浸液中の触媒成分濃度が薄いほど、含浸液吸収時に発生する前記成形物表面のひび割れが減少することによる。上記構成により、機械的強度の向上した脱硫剤を製造することができるようになり、かつ、運搬、施用時に取扱容易でかつ高性能な脱硫剤を提供することができるようになった。
また、本発明の脱硫剤の製造方法によると成形物に担持されたニッケル粒子は、従来の方法によって担持されたものよりも小粒径化し、高分散しているため、触媒成分の活性表面積が著しく増大しており、脱硫性能向上がはかれる。
本発明の脱硫剤は、従来の脱硫剤では実施困難であったあるいは不可能であった高度の吸着効果を発揮し得るので、常法にしたがって炭化水素原料をできるだけ脱硫した後、より高度の脱硫をおこなう二次脱硫剤として使用する場合にも、顕著な効果を奏する。
〔構成2、3〕
前記成形物に含浸液を含浸させたる含浸工程を行った後、次の含浸工程をおこなう前に前記成形物を乾燥させる乾燥工程をおこなう、または、
前記成形物に含浸液を含浸させたる含浸工程を行った後、次の含浸工程をおこなう前に前記成形物を焼成する焼成工程をおこなうことが好ましい。
〔作用効果2,3〕
含浸工程を複数回に分けておこなう場合、含浸液が含浸された前記成形物内の水分量が多いと、次の含浸工程を行ったとしても、含浸液を吸収し難いという問題がある。
このような場合、乾燥工程をおこなえば、乾燥により水分が除去され、触媒成分のみが成形物に固定化され、次の含浸工程においてさらに含浸される含浸液が成形物内部にまで吸収されやすくなる。
また、このような操作は、成形物に乾燥固定化した触媒成分をさらに高温で焼成担持させることによっても同様におこなえる。焼成をおこなう場合、まず、乾燥工程をおこなうことが一般的であるが、特段の乾燥工程をおこなうことなく焼成工程をおこなうこともできる。
〔構成4〕
前記成形物中の鉄およびニッケルから選ばれる少なくとも一種以上の含有量が、1〜10重量%としてあれば好ましい。
〔作用効果4〕
触媒成分の含有量(担持量)は、すくなすぎると充分な触媒活性が得られず、多すぎても触媒使用量に対する活性の向上割合が少なくなることから適度な範囲で決定されることが好ましい。この点、触媒成分の含有量を1〜10重量%としてあれば、活性の高い脱硫剤とすることができる。また、このような含有量としてあれば、成形物表面部に触媒成分を存在させることにより、脱硫に関与しない成形物内部における触媒成分量を減らして、効率的な脱硫をおこなうことができる。
〔構成5〕
前記成形物をさらに水素還元することが好ましい。
〔作用効果5〕
上述の触媒成分は、金属状態で最も活性を発揮することが知られており、前記成形物をさらに水素還元することにより、さらに活性の高い脱硫剤とすることができる。
なお、本発明の脱硫剤は、水素還元雰囲気下で用いられる場合があるが、この場合、水素還元をする前の脱硫剤前駆体であっても、使用状態で、活性が高められる形態とし、脱硫剤として使用することができる。
〔構成
また、本発明の炭化水素の脱硫方法の特徴構成は、上記製造方法によって製造された脱硫剤を使用して、水素の存在下に炭化水素を脱硫することを特徴とする。
〔作用効果
すなわち、上記製造方法によって製造された脱硫剤を使用すれば、脱硫活性が高く、機械的強度に優れるから、長期にわたって高品質な炭化水素の脱硫精製をおこなえる。
本発明によるこれらの脱硫剤を使用する場合には、各種ガスおよび油中の硫黄含有量を確実に50ppb以下とし、より好ましい条件下では5ppb以下とし、さらに最適な適当な条件下では0.5ppb以下とすることができる。
本発明方法により精製される炭化水素原料としては、たとえば、各種都市ガス(本明細書においては、C1〜C5の炭化水素の少なくとも1種からなるガス、およびこれらの混合ガスを主成分とし、都市において供給されているガスを意味する)、天然ガス、エタン、プロパン、ブタン、LPG、ライトナフサ、フルレンジナフサ、COGなどが挙げられる。
したがって、機械的強度が高く、運搬、施用時に取扱容易でかつ高性能な脱硫剤を利用することができ、たとえば、燃料電池等に用いられる炭化水素ガスの脱硫精製等を高効率でおこなえる。
以下に、本発明の実施形態にかかる脱硫剤の製造方法、脱硫剤、および、炭化水素の脱硫方法を説明する。なお、以下に好適な実施形態を記すが、これら実施形態はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
(1)成形物の製造
まず、銅化合物(たとえば、硝酸銅、酢酸銅などの少なくとも1種)、亜鉛化合物(たとえば、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛などの少なくとも1種)およびアルミニウム化合物(たとえば、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなどの少なくとも1種)を含む混合液とアルカリ物質(たとえば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの少なくとも1種)を含む水溶液とを混合・撹拌して、沈殿を生じさせる。この場合、アルミニウム化合物をアルカリ物質の溶液に加えておき、この混合液と銅化合物および亜鉛化合物を含む混合液とを混合して、沈殿を生成させてもよい。次いで、生成した沈殿を十分に水洗した後、濾過し、乾燥する。次いで、得られた乾燥物を270〜400℃程度で焼成し、これに水を加えて水性スラリーとした後、濾過し、成形し、乾燥して、酸化銅−酸化亜鉛−酸化アルミニウムの成形物を得る。
混合液中の銅濃度は、通常0.1〜1mol/L程度である。混合液中の亜鉛濃度は、通常0.1〜1mol/L程度である。混合液中のアルミニウム濃度は、通常0.03〜1mol/L程度である。銅化合物と亜鉛化合物とアルミニウム化合物との混合割合は、特に限定されるものではないが、成形物成分の混合物中において銅:亜鉛:アルミニウム(原子比)=1:0.3〜10:0.05〜2程度、より好ましくは1:0.6〜3:0.3〜1程度となるようにする。
必要ならば、あらかじめスラリー中にグラファイトなどの公知の成形助剤を1〜5重量%程度加えておいても良い。
前記成形物は、上記のスラリーを使用して、押出し成形、打錠成形、顆粒成形などの常法にしたがっておこなうことができる。成形物の形状、寸法などは、特に限定されるものではないが、プロセスにおける圧力損失などを考慮して、通常2〜6mm程度の大きさの球状体、錠剤状、顆粒状などとすることが好ましい。
さらに、前記成形物には、金属酸化物、たとえば、酸化クロムなどを2〜3重量%程度を上限として含有させてもよい。この場合には、銅化合物と亜鉛化合物とアルミニウム酸化物とを含む成形物成分の混合物に金属化合物(たとえば、硝酸クロムなど)をあらかじめ溶解しておいても良く、あるいは成形物成分の混合物に、あらかじめ別途に調製しておいた金属化合物の水溶液を混合しても良い。
(2)含浸工程
次いで、上記のようにして得られた成形物に、鉄およびニッケルから選ばれる少なくとも一種以上(触媒成分)を水溶性の塩(例えば、硝酸塩、酢酸塩など)として目標量含有する含浸液を含浸させて、触媒成分を含浸、担持させる。
含浸液は、成形物に含浸、担持させるべき触媒成分の所定量を、水に溶かし、その全量を複数回に分けて前記成形物に吸収させることが触媒成分の担持量を正確に把握するうえで望ましいが、所定濃度の含浸液に成形物を複数回浸漬し、総量で触媒成分の目標量を含有する含浸液が成形物に含浸され、その含浸液に含まれる触媒成分が成形物に担持されるようにおこなってもよい。
具体的には、所定量の成形物にAmolの触媒成分を担持させたい場合に、A/3molの触媒成分をBmLの水に溶解させた含浸液(濃度A/3Bmol/mL)を前記成形物に全量含浸吸収させる工程を3度繰り返す(成形体が3BmLの含浸液を吸収する)ことによって含浸工程を3度に分けておこなう(含浸担持された触媒量は(A/3B)*3B=A)ことができ、あるいは、Amolの触媒成分をBmLの水に溶解させた含浸液(濃度A/Bmol/mL)を1/3量ずつ全量含浸吸収させる工程を3度繰り返す(成形体がBmLの含浸液を吸収する)ことによって含浸工程を3度に分けておこなう(含浸担持された触媒量は(A/B)*B=A)ことができ、所定量の成形物に触媒成分を担持させたい目標量Aにあわせて含浸液の濃度および含浸液の含浸量を調節すればよい。なお、含浸液の量は、含浸液と成形物との接触時間の調整によっても調整することができる。
(3)乾燥工程および焼成工程
含浸工程を行った成形物は、大気中で乾燥された後、大気中通常270〜400℃程度で焼成する。触媒成分の水溶液中の金属としての濃度は、通常0.01〜10mol/L程度とすることが好ましい。
この乾燥工程および焼成工程は、複数回に分けておこなわれる含浸工程のそれぞれに対して各1回ずつおこなわれ、その後さらに含浸工程を、前記成形物に担持された触媒成分量が目標量に達するまで繰り返す。
すなわち、上記の場合、成形物に対して含浸工程から、後述の還元工程までの間に、
含浸工程−乾燥工程−焼成工程−含浸工程−乾燥工程−焼成工程−含浸工程−乾燥工程−焼成工程
を、順に経ることになる。
(4)還元工程
次いで、上記工程を経た焼成体は、触媒成分が担持され、還元性雰囲気にさらされることで脱硫剤として機能する脱硫剤前駆体となっている。この脱硫剤前駆体を、水素を6体積%以下、より好ましくは0.5〜4体積%程度含む水素と不活性ガス(例えば、窒素ガスなど)との混合ガスの存在下に、150〜350℃程度で還元処理することにより、所望の脱硫剤が得られる。
また焼成工程を経た成形体は、還元雰囲気で用いられる脱硫剤とされることが予定されている場合、前記還元工程を省略して脱硫剤とすることができる。この場合、脱硫剤の使用環境において脱硫剤は還元作用を受け、高い脱硫活性を発揮しうる。
本発明による脱硫剤は、公知の吸着タイプの脱硫剤と同様にして、たとえば、所定形状の吸着脱硫装置に充填し、精製すべきガスあるいは油を通過させることにより使用される。
すなわち、炭化水素原料を上記脱硫剤に100〜400℃程度の温度範囲で接触させることにより、炭化水素原料中の硫黄成分を除去することができる。好ましくは、脱硫に先立って、加熱器を用いるかあるいは脱硫ガスと熱交換するなどの方法により、炭化水素原料を予熱し、所定の温度としておく。
通常、脱硫方法は、上記脱硫剤が充填された脱硫管に、炭化水素原料を通じることによりおこなわれる。
前記炭化水素原料には水素ガスが添加されている。添加する水素量は、原料中に含まれている硫黄化合物の種類と量により定めればよいが、硫黄含有量はppmオーダーの量であるため、原料炭化水素に対してモル比で少なくとも0.0005以上、好ましくは0.001以上とすることが望ましい。水蒸気改質プロセスの前処理としての脱硫をおこなう場合には、水蒸気改質反応によってできた水素を一部リサイクルすることもできる。
脱硫管に充填すべき脱硫剤の量は、炭化水素中の硫黄含有量、使用条件などを考慮して適宜設定されるが、通常ガス状炭化水素の場合には、GHSVが100〜5000(h-1)程度、液状炭化水素の場合には、LHSVが1〜10(h-1)程度となるように定めればよい。
また、本発明の脱硫剤の活性低下を抑制し、寿命延長をはかるためには、脱硫剤の充填層の前流側に公知の酸化亜鉛系吸着脱硫剤などを充填し、酸化亜鉛などで吸着され得る硫黄化合物をあらかじめ除去してもよい。この方法によれば、石炭ガスなどを原料として製造された都市ガス中に含まれている硫化水素などが酸化亜鉛などで除去されるので、本発明の脱硫剤の負荷が軽減され、その結果として脱硫剤の寿命を延長させることができる。また、原料ガスにメルカプタン系の硫黄化合物が含まれている場合にも、同様にあらかじめ除去することにより、脱硫剤の負荷を軽減でき、脱硫剤の寿命を延長させることができる。
また、原料中の硫黄分が多い場合には、本発明の脱硫剤の前流側に公知のCo−Mo触媒あるいはNi−Mo触媒と酸化亜鉛脱硫剤とを充填し、公知の水添脱硫法によって硫黄分をあらかじめ数ppm程度まで低下させてもよい。
本発明の脱硫剤は、従来の脱硫剤では実施困難であったあるいは不可能であった高度の吸着効果を発揮し得るので、常法にしたがって炭化水素原料をできるだけ脱硫した後、より高度の脱硫をおこなう二次脱硫剤として使用する場合にも、顕著な効果を奏する。
以下に参考例および比較例を示し、本発明をより詳細に説明する。本発明がこれら参考例により限定されないことは、言うまでもない。
参考例1〕
(脱硫剤A)
硝酸銅および硝酸亜鉛を1:1の割合(モル比)で含有する混合水溶液(濃度はそれぞれ0.5mol/l)を、約60℃に保った炭酸ナトリウム水溶液(濃度0.6mol/l)に撹拌しながら滴下し、沈殿を生じさせた後、沈殿を十分に水で洗浄し、濾過し、乾燥した。次いで、乾燥した沈殿を約280℃で焼成し、水に加えてスラリーとした後、濾過し、乾燥し、成形助剤(グラファイト)を添加し、直径1/8インチに押出し成形物を得た。
次いで、得られた成形物10gに硝酸ニッケル水溶液(Ni濃度0.09g/ml)3.5mlを全量含浸し、乾燥した後、300℃で焼成することを2回繰り返すことで脱硫剤を得た。脱硫剤のニッケルの含有量は6重量%であった。
参考例2〕
(脱硫剤B)
参考例1と同様の操作により得られた成形物10gに硝酸ニッケル水溶液(Ni濃度0.06g/ml)3.5mlを全量含浸し、乾燥した後、300℃で焼成することを3回繰り返すことで脱硫剤を得た。脱硫剤のニッケルの含有量は6重量%であった。
〔比較例1〕
(脱硫剤C)
参考例1と同様の操作により得られた成形物10gに硝酸ニッケル水溶液(Ni濃度0.18g/ml)3.5mlを全量含浸し、乾燥した後、300℃で焼成し、脱硫剤を得た。脱硫剤のニッケルの含有量は6重量%であった。
参考例3〕
(脱硫剤D)
参考例1と同様の操作により得られた成形物10gに硝酸ニッケル水溶液(Ni濃度0.16g/ml)3.5mlを全量含浸し、乾燥した後、300℃で焼成することを2回繰り返すことで脱硫剤を得た。脱硫剤のニッケルの含有量は10重量%であった。
参考例4〕
(脱硫剤E)
参考例1と同様の操作により得られた成形物10gに硝酸ニッケル水溶液(Ni濃度0.11g/ml)3.5mlを全量含浸し、乾燥した後、300℃で焼成することを3回繰り返すことで脱硫剤を得た。脱硫剤のニッケルの含有量は10重量%であった。
〔比較例2〕
(脱硫剤F)
参考例1と同様の操作により得られた成形物10gに硝酸ニッケル水溶液(Ni濃度0.32g/ml)3.5mlを全量含浸し、乾燥した後、300℃で焼成し、脱硫剤を得た。脱硫剤のニッケルの含有量は10重量%であった。
参考例5〕
(脱硫剤G)
実施例1と同様の操作により得られた成形物10gに硝酸ニッケル水溶液(Ni濃度0.06g/ml)3.5mlを全量含浸し、乾燥した後、300℃で焼成することを2回繰り返すことで脱硫剤を得た。脱硫剤のニッケルの含有量は4重量%であった。
〔比較例3〕
(脱硫剤H)
参考例1と同様の操作により得られた成形物10gに硝酸ニッケル水溶液(Ni濃度0.12g/ml)3.5mlを全量含浸し、乾燥した後、300℃で焼成し、脱硫剤を得た。脱硫剤のニッケルの含有量は4重量%であった。
参考例6〕
(脱硫剤I)
参考例1と同様の操作により得られた成形物10gに硝酸ニッケル水溶液(Ni濃度0.06g/ml)3.5mlを全量含浸し、110℃で乾燥することを3回繰り返した後、300℃で焼成することで脱硫剤を得た。脱硫剤のニッケルの含有量は6重量%であった。
〔物性試験〕
前記参考例1〜6および比較例1〜3で調製した脱硫剤A〜Iについて、水素吸着量と圧懐強度の測定を行った。水素吸着量から求めたNi粒子径と圧懐強度を表1に示す。
Figure 0005911551
本表から、前記成形物にNiを含浸する過程で、目標とするNi量を複数回に分けて含浸することで、脱硫性能に影響を及ぼすNi粒子が小径化し、さらに脱硫剤の紛化に影響する圧懐強度が上昇することが確認される。
〔別実施形態〕
上記実施形態では、含浸工程の後、乾燥工程、焼成工程をそれぞれ一度ずつ繰りかえしおこなう例と、含浸工程、乾燥工程をそれぞれ一度ずつ繰り返す例を示したが、乾燥工程なしに焼成工程のみを行ってもよい。すなわち、上記実施例では、
(1)含浸工程−乾燥工程−焼成工程−含浸工程−乾燥工程−焼成工程−含浸工程−乾燥工程−焼成工程
(2)含浸工程−乾燥工程−含浸工程−乾燥工程−含浸工程−乾燥工程−焼成工程
の様に行ったが、
乾燥工程なしでも焼成が可能な場合、
(3)含浸工程−焼成工程−含浸工程−焼成工程−含浸工程−焼成工程
の様に行うこともできる。
本発明による脱硫剤は、炭化水素の脱硫性能に極めて優れ、かつ機械的強度が高いので、運搬、施用時の振動、衝撃等によっても粉化しにくいので、少量の使用により、高度に脱硫された炭化水素を長時間にわたり安定して容易に得ることができる。したがって、炭化水素の水蒸気改質などに際して、硫黄被毒に弱い触媒を使用する場合においても、硫黄被毒を実用上完全に防止することができるなど、硫黄による悪影響を極めて高度なレベルまで排除するのに有用である。

Claims (6)

  1. 銅化合物、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を含む混合物とアルカリ物質の水溶液とを混合して沈殿を生じさせ、得られた沈殿を焼成し、酸化銅−酸化亜鉛−酸化アルミニウム混合物の成形物を得た後、この成形物に鉄およびニッケルから選ばれる少なくとも一種以上の触媒成分を目標量含有する含浸液を含浸させる含浸工程を行い、さらに前記含浸液を含浸させた成形物を焼成する焼成工程をおこなう脱硫剤の製造方法であって、
    前記成形物に担持させるべき前記触媒成分を目標量含有する含浸液を作成し、前記含浸液を複数に分け、前記含浸工程を複数回行って前記含浸液の全量を前記成形物に含浸させる脱硫剤の製造方法。
  2. 成形物に含浸液を含浸させる含浸工程を行った後、次の含浸工程をおこなう前に前記成形物を乾燥させる乾燥工程をおこなう請求項1に記載の脱硫剤の製造方法。
  3. 成形物に含浸液を含浸させる含浸工程を行った後、次の含浸工程をおこなう前に前記成形物を焼成する焼成工程をおこなう請求項1または2に記載の脱硫剤の製造方法。
  4. 前記成形物中の鉄およびニッケルから選ばれる少なくとも一種以上の含有量が、1〜10重量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の脱硫剤の製造方法。
  5. 前記成形物をさらに水素還元する請求項1〜4のいずれか1項に記載の脱硫剤の製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の脱硫剤の製造方法によって製造された脱硫剤を使用して、水素の存在下に炭化水素原料を脱硫することを特徴とする炭化水素の脱硫方法。
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