JP5905194B2 - 糸状浮遊細胞パターニング基材 - Google Patents

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Description

本発明は、細胞を浮遊培養可能な糸状浮遊細胞パターニング基材に関するものである。
現在、いろいろな動物や植物の細胞培養が行われており、また、新たな細胞の培養法が開発されている。細胞培養の技術は、細胞の生化学的現象や性質の解明、有用な物質の生産などの目的で利用されている。さらに、培養細胞を用いて、人工的に合成された薬剤の生理活性や毒性を調べる試みがなされている。
何かに接着して生育する接着依存性細胞は、何かに接着していない浮遊状態では長期間生存することができない。このような接着依存性を有した細胞の培養には、細胞が接着するための表面を有する培養皿が用いられている。
一方、培養細胞を基材上の微小な部分にのみ接着させ、配列させる技術が報告されている。このような技術により、培養細胞を人工臓器やバイオセンサ、バイオリアクターなどに応用することが可能になる。培養細胞を配列させる方法としては、細胞に対して接着の容易さが異なるような表面がパターンをなしているような基材を用い、この表面で細胞を培養し、細胞が接着するように加工した表面だけに細胞を接着させることによって細胞を配列させる方法がとられている。
例えば、特許文献1では、回路状に神経細胞を増殖させるなどの目的で、静電荷パターンを形成した電荷保持媒体を細胞培養に応用している。また、特許文献2では、細胞非接着性あるいは細胞易接着性の光感受性親水性高分子をフォトリソグラフィ法によりパターニングした表面上への培養細胞の配列を試みている。
さらに、特許文献3では、細胞の接着率や形態に影響を与えるコラーゲンなどの物質がパターニングされた細胞培養基材と、この基材をフォトリソグラフィ法によって作製する方法について開示している。このような基材の上で細胞を培養することによって、コラーゲンなどがパターニングされた表面により多くの細胞を接着させ、細胞のパターニングを実現している。
しかしながら、このような方法では、平面パターン状に細胞を培養することは可能となるが3次元パターン状に細胞を培養することが困難であるといった問題があった。
このため、生体内において3次元パターン状に存在する血管等の細胞についての評価、すなわち、3次元パターン状であることによる細胞への影響や、3次元パターン状となるメカニズム等の評価に用いることができなかった。
一方、3次元的に培養する方法としては、マトリゲルやゼラチン等のゲル材料に細胞を埋包する方法が用いられてきた。
このような方法によれば確かに3次元的なパターンに細胞を培養することは可能であるが、細胞がゲル材料内で無秩序に増殖するため、細胞を所望の3次元パターンとなるように培養することは困難であった。このため、同一の3次元パターンの細胞に対して様々な条件で培養した際の評価を定量的に行うことは困難であった。
また、このようなゲル材料で細胞を培養した場合、細胞は、これらのゲル材料に接着した状態となる。このため、足場材料としてのゲル材料の影響を排除した上での細胞の3次元培養や評価、すなわち、足場材料のない状態での3次元培養や評価を行うことが困難であるといった問題があった。
特開平2−245181号公報 特開平3−7576号公報 特開平5−176753号公報
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、細胞を浮遊培養可能な糸状浮遊細胞パターニング基材を提供することを主目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、刺激により細胞接着性が変化する刺激応答性領域と、細胞易接着性を有する細胞接着領域と、細胞非接着性を有する細胞非接着領域と、を有し、上記刺激応答性領域は少なくとも2箇所において上記細胞接着領域と隣り合い、上記刺激応答性領域および上記細胞接着領域の境界部分である少なくとも2つの分離された接着境界を有し、上記刺激応答性領域が、上記接着境界間を結ぶように配置され、上記細胞非接着領域が、上記刺激応答性領域の周囲に配置されていることを特徴とする糸状浮遊細胞パターニング基材を提供する。
本発明によれば、上記糸状浮遊細胞パターニング基材上に細胞を播種・培養しシート状細胞を形成した後に、上記刺激応答性領域に刺激を与えることにより、上記細胞接着領域では細胞が担持された状態であり、かつ上記刺激応答性領域では細胞が上記刺激応答性領域表面から剥離した状態となるので、培地中に浮遊している細胞を含む糸状浮遊培養細胞結合集団を形成することができる。すなわち、細胞を容易に3次元パターン状かつ足場のない状態で浮遊培養し、種々の評価を行うことができる。
また、上記細胞接着領域の距離等を調整することにより、上記細胞への張力による影響についても評価することができる。
本発明においては、2つの上記接着境界が対向して設けられていることが好ましい。上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に形成することができるからである。
本発明においては、上記刺激応答性領域が、2つの上記接着境界を結ぶ領域と接しない領域を含むものであることが好ましい。
上記糸状浮遊培養細胞結合集団の再接着抑制を、上記刺激応答性領域に細胞非接着性を継続して発現させることなく達成することができるからである。その結果、細胞非接着性を継続して発現させるために、低温度条件等の細胞培養に不適な刺激や、紫外線等の細胞にダメージを与える刺激を継続して付与する必要がある刺激応答性領域を用いた場合であっても、このような刺激の付与を行うことなく、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に保持し培養することが可能となるからである。
例えば、上記刺激応答性領域として最適な細胞培養温度より低温で細胞非接着性を発現する温度応答性領域を用いる場合であっても、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を低温で培養せずとも、上記刺激応答性領域に再接着することなく安定的に保持し培養することが可能となる。したがって、良好な培養条件下で上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に培養し、評価を行うことが可能となるからである。
本発明においては、上記刺激応答性領域が、温度変化により細胞接着性が変化する温度応答性材料を含むことが好ましい。刺激の付与が容易だからである。
本発明においては、上記温度応答性材料が、ポリイソプロピルアクリルアミドであることが好ましい。細胞の培養に適した温度において細胞易接着性を有し、細胞へのダメージの少ない温度で細胞非接着性を発現することから、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を容易に形成することができるからである。
本発明は、上述の糸状浮遊細胞パターニング基材に含まれる刺激応答性領域および細胞接着領域上に、上記刺激応答性領域が細胞易接着性を有する条件で、血管内皮細胞を播種・培養することにより、上記刺激応答性領域および上記細胞接着領域に接着したシート状血管内皮細胞を形成する血管内皮細胞培養工程と、上記刺激応答性領域に刺激を与え、細胞非接着性を発現させることにより、上記シート状血管内皮細胞のうち上記刺激応答性領域に接着していた血管内皮細胞を培地中に浮遊させ、上記細胞接着領域に接着した糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を形成する刺激付与工程と、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を培地中に浮遊させた状態で培養し、管腔化させ糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団とする管腔化工程と、を有することを特徴とする糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法を提供する。
本発明によれば、上記糸状浮遊細胞パターニング基材を用いることにより、容易に糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団を得ることができる。
本発明においては、上記刺激応答性領域の幅が、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を管腔化可能なものであることが好ましい。容易に糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団を得ることができるからである。
本発明は、細胞易接着性を有する細胞接着領域を有する基板と、上記細胞接着領域に2箇所で接着し、培地中に浮遊している管腔化血管内皮細胞を含む糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団と、を有することを特徴とする糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板を提供する。
本発明によれば、3次元パターン状に形成された糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の評価を容易に行うことができる。
本発明は、細胞を浮遊培養可能な糸状浮遊細胞パターニング基材を提供できるといった効果を奏する。
本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の一例を示す概略平面図である。 図1のA−A線断面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略平面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略平面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略平面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略平面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略平面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略平面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略平面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略平面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略平面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略平面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略平面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略断面図である。 本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の他の例を示す概略断面図である。 本発明の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法を示す工程図である。 図16のX−X線断面図である。 実施例で作製した共焦点顕微鏡観察結果である。
本発明は、糸状浮遊細胞パターニング基材およびそれを用いた糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法、ならびに、糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板に関するものである。
以下、本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材、糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法、および糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板について詳細に説明する。
A.糸状浮遊細胞パターニング基材
まず、本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材について説明する。
本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材は、刺激により細胞接着性が変化する刺激応答性領域と、細胞易接着性を有する細胞接着領域と、細胞非接着性を有する細胞非接着領域と、を有し、上記刺激応答性領域は少なくとも2箇所において上記細胞接着領域と隣り合い、上記刺激応答性領域および上記細胞接着領域の境界部分である少なくとも2つの分離された接着境界を有し、上記刺激応答性領域が、上記接着境界間を結ぶように配置され、上記細胞非接着領域が、上記刺激応答性領域の周囲に配置されていることを特徴とするものである。
このような本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材について図を参照して説明する。図1は、本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の一例を示す概略平面図であり、図2は、図1のA−A線断面図である。
図1および図2に例示するように、本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材10は、刺激により細胞接着性が変化する刺激応答性材料を含む刺激応答性層1と、細胞易接着性を有する細胞接着材料を含む細胞接着層2と、細胞非接着性を有する細胞非接着材料を含む細胞非接着層3と、を有し、上記刺激応答性層1の露出表面である刺激応答性領域11および上記細胞接着層2の露出表面である細胞接着領域12の境界部分である2つの分離された接着境界Bを有し、上記刺激応答性領域11が上記接着境界B間を結ぶように配置され、上記細胞非接着層3の露出表面である細胞非接着領域13が上記刺激応答性領域11の周囲に配置されているものである。また、上記刺激応答性層1、細胞接着層2および細胞非接着性層3を支持する基材4を有するものである。
従来の方法では、所望の3次元パターン状に細胞を培養することが難しく、同一の3次元パターンの細胞に対して様々な条件で培養した際の評価を定量的に行うことは困難であった。また、足場材料のない状態で3次元パターン状の細胞を培養する方法がなく、足場材料の影響を排除した上で評価を行うことは困難であった。
これに対して、本発明によれば、上記糸状浮遊細胞パターニング基材上に細胞を播種・培養することにより、細胞間結合で細胞同士が少なくとも単層で結合されたシート状細胞を形成した後に、上記刺激応答性領域に刺激を与えることにより、上記シート状細胞のうち上記刺激応答性領域に接着していた部分のみが剥離し、培地中に浮遊する。また、剥離した細胞は、一般的に足場のない状態では収縮し、糸状となる。このため、培地中に浮遊し、かつ、両端が固定された糸状の細胞結合集団である糸状浮遊培養細胞結合集団を形成することができる。すなわち、培地中で細胞を所望の3次元パターン状に培養することが可能となる。
ここで、通常、支持体に接着した細胞の剥離には、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)等の酵素を用いて、細胞間接着分子を構成するタンパク質等を分解する方法が用いられる。このような方法では、細胞−支持体表面の結合だけでなく、細胞−細胞間の結合も弱めてしまう。このため、上記シート状細胞にダメージを与えてしまうといった問題があった。
しかしながら、本発明においては、上記刺激応答性領域を用いるものであるため、このような酵素の使用を不要なものとすることができるため、上記シート状細胞にダメージを与えることなく、上記刺激応答性領域から剥離することができる。さらに、上記細胞−細胞間の結合を弱めることがないため、上記刺激応答性領域から剥離した際に、上記シート状細胞から細胞を分離することや、上記シート状細胞が切断されることを抑制することができる。
したがって、3次元パターン状の糸状浮遊培養細胞結合集団を容易かつ安定的に形成できるのである。
また、細胞を培地中に浮遊した状態とすることができるため、通常、足場のない状態での培養が困難な細胞であっても、足場のない状態で安定的に培養することができる。
さらに、細胞は、一般的に足場のない状態では収縮し、上記糸状浮遊培養細胞結合集団に張力が発生する。したがって、例えば、上記刺激応答性領域と境界を形成する細胞接着領域の距離等を調整することにより、上記糸状浮遊培養細胞結合集団の張力による影響を評価することが可能となる。
このように、本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材を用いることにより、所望の3次元パターン状かつ足場のない状態の細胞を容易かつ安定的に浮遊培養することを可能とすることができるのである。また、その結果、今までにない新規な評価を行うことが可能となるのである。
本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材は、刺激応答性領域、細胞接着性領域および細胞非接着性領域を少なくとも有するものである。
以下、本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の各構成について詳細に説明する。
1.刺激応答性領域
本発明における刺激応答性領域は、刺激応答性材料を含む刺激応答性層の表面のうち、露出した範囲であり、刺激により細胞接着性を変化させることにより培養する細胞の接着および剥離を行なうことができるものである。
(1)刺激応答性領域
本発明における刺激応答性領域は、上記刺激応答性領域は少なくとも2箇所において上記細胞接着領域と隣り合い、上記細胞接着領域との間に2つの分離された接着境界を形成し、上記接着境界間を結ぶように配置されるものであり、上記細胞非接着領域により周囲が囲まれるものである。
本発明における刺激応答性領域は、特定の刺激により細胞接着性が良好な細胞易接着性を発現している状態から、細胞の接着性が悪い性質である細胞非接着性を発現している状態に変化し得るものである。
ここで、上記刺激応答性領域が細胞易接着性を発現しているとは、上記刺激応答性領域上で、細胞が接着、伸展しやすく、細胞接着伸展率が高い状態であることをいうものである。本発明において、このような細胞接着伸展率が高い状態としては、具体的には、細胞接着伸展率が60%以上である状態とすることができる。
本発明においては、なかでも、80%以上であることが好ましい。効率的に細胞を培養し、シート状細胞を形成させることができるからである。
なお、本発明における細胞接着伸展率は、播種密度が4000cells/cm以上30000cells/cm未満の範囲内でウシ血管内皮細胞を播種し、37℃インキュベーター内(CO濃度5%)に保管し、14.5時間培養した時点で接着伸展している細胞の割合({(接着している細胞数)/(播種した細胞数)}×100(%))を表すものである。
また、上記細胞の播種は、10%FBS(血清)入りDMEM培地に懸濁させて培養基材上に播種し、その後、上記細胞ができるだけ均一に分布するよう、上記細胞が播種された培養基材をゆっくりと振とうすることにより行うものである。
さらに、細胞接着伸展率の測定は、測定直前に培地交換を行って接着していない細胞を除去した後に行う。また、細胞接着伸展率の測定箇所としては、細胞の存在密度が特異的になりやすい箇所(例えば、存在密度が高くなりやすい所定領域の中央、存在密度が低くなりやすい所定領域の周縁)を除いて測定を行うものである。
また、上記刺激応答性領域が細胞非接着性を発現している場合には、上記刺激応答性領域上で細胞が接着、伸展しにくく、細胞接着伸展率が低い状態であることをいうものである。本発明において、このような細胞接着伸展率が低い状態としては、具体的には、上記細胞接着伸展率が5%以下である状態とすることができる。本発明においては、なかでも2%以下であることが好ましい。
したがって、上記刺激応答性領域に細胞を播種すると、細胞易接着性を発現している際には細胞が上記刺激応答性領域に接着するが、細胞非接着性を発現している際には細胞が上記刺激応答性領域に接着することを阻害されるため、上記刺激応答性領域に接着していた細胞を剥離することができる。
本発明に用いられる刺激応答性領域の形状としては、上記接着境界間を結ぶように配置、すなわち、上記接着境界間で連続して設けられ、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、既に説明した図1に示すように、上記接着境界間を結ぶ直線状のもの、図3に例示する円弧状等の曲線状のもの、図4に例示する複数の直線を組み合わせて形成されたパターン状のもの、および図5に例示する楕円形状等によるライン状や、円形状、多角形状のもの等とすることができる。また、図6に例示するように、刺激応答性領域の形状が網目状のもの等であってもよい。また、既に説明した図1〜図6に示す刺激応答性領域および細胞接着領域のパターンを複数組み合わせたものであってもよい。
本発明においては、なかでも、上記細胞非接着領域との境界に多角形状の頂点を含まない形状であることが好ましい。例えば、既に説明した図4に示すように、上記非接着境界に多角形の頂点が存在する場合、上記頂点において細胞が固着し、上記刺激応答性領域に刺激を与えたとしてもシート状細胞が安定的に剥離することができない可能性があるからである。
なお、図3〜図6中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
また、本発明においては、上記刺激応答性領域の形状が、本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材を用いて形成される糸状浮遊培養細胞結合集団の培地中に浮遊する部位が平面視上位置する領域と重ならない領域を含む形状であることが好ましい。
上記糸状浮遊培養細胞結合集団の再接着抑制を、上記刺激応答性領域に細胞非接着性を継続して発現させることなく達成することができるからである。その結果、細胞非接着性を継続して発現させるために、低温度条件等の細胞培養に不適な刺激や、紫外線等の細胞にダメージを与える刺激を継続して付与する必要がある刺激応答性領域を用いた場合であっても、このような刺激の付与を行うことなく、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に保持し培養することが可能となるからである。
例えば、上記刺激応答性領域として最適な細胞培養温度より低温で細胞非接着性を発現する温度応答性領域を用いる場合であっても、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を低温で培養せずとも、上記刺激応答性領域に再接着することなく安定的に保持し培養することが可能となる。したがって、良好な培養条件下で上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に培養し、評価を行うことが可能となるからである。
本発明においては、2つの上記接着境界が対向して設けられている場合には、上記刺激応答性領域が、2つの上記接着境界を結ぶ領域と接しない領域を含むもの、すなわち、2つの上記接着境界を結ぶ領域のうち、上記刺激応答性領域と重複する領域が少ないことが好ましく、なかでも、上記糸状浮遊培養細胞結合集団の浮遊している部分の長さが、50μm以上とすることができるものであることが好ましく、特に、100μm以上とすることができるものであることが好ましい。上記糸状浮遊培養細胞結合集団の評価を安定的に行うことができるからである。
本発明に用いられる刺激応答性領域の幅としては、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に形成できるものであれば特に限定されるものではなく、刺激応答性領域の形状、細胞の種類等に応じて適宜設定されるものである。
本発明においては、20μm〜2000μmの範囲内であることが好ましく、なかでも40μm〜500μmの範囲内であることが好ましい。
また、本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材が糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団の形成に用いられる場合には、上記幅が、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を管腔化可能なものであることが好ましい。糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団を容易に形成可能とすることができるからである。
このような管腔化可能な幅としては、20μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、なかでも40μm〜400μmの範囲内であることが好ましい。
本発明に用いられる刺激応答性領域の数としては、本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材内に少なくとも1つ含まれるものであれば特に限定されるものではない。本発明においては、既に説明した図1に示すように、糸状浮遊細胞パターニング基材内に1つであっても良く、図7に例示するように、複数有するものであっても良い。
なお、図7中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
本発明に用いられる刺激応答性領域の種類としては、1種類のみであっても良く、異なる刺激に応答する複数の刺激応答性領域を含むものであっても良い。
本発明における上記刺激応答性領域は少なくとも2箇所において上記細胞接着領域と隣り合い、上記細胞接着領域との境界である少なくとも2つの分離された接着境界を有するものである。
ここで、上記接着境界とは、上記刺激応答性領域および細胞接着領域の境界であり、上記刺激応答性領域および細胞接着領域上に細胞同士が結合した、連続したシート状細胞を形成でき、上記刺激応答性領域に刺激を与えた後に、上記刺激応答性領域および細胞接着領域上で連続したシート状細胞を維持できるものであれば特に限定されるものではない。
したがって、通常、上記接着境界は、上記刺激応答性領域と上記細胞接着領域とが平面視上接している箇所を示すものであるが、本発明においては、これに限定されるものではない。例えば、図8に例示するように、上記刺激応答性領域11および細胞接着領域12の間に、上記刺激応答性領域11および細胞接着領域12上で培養される細胞30同士が接着することができる幅で配置された細胞非接着領域13a等の他の領域が存在するものであっても良い。
本発明においては、なかでも、平面視上、上記刺激応答性領域および細胞接着領域が接する箇所であること、すなわち、上記刺激応答性領域および細胞接着領域の間に細胞非接着領域を含まない箇所であることが好ましい。本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材を用いて糸状浮遊培養細胞結合集団を形成した際に、上記接着境界で糸状浮遊培養細胞結合集団が切断する等の不具合を低減させ、安定的に糸状浮遊培養細胞結合集団を形成することができるためである。
なお、図8中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
また、本発明における接着境界は、上記糸状浮遊培養細胞結合集団が浮遊した糸状となる細胞の起点と終点となる部位である。したがって、既に説明した図1、図3および図5においては、上記刺激応答性領域および細胞接着領域の境界のうち、対向する2辺が接着境界Bとなる。
このような本発明おける接着境界同士の位置関係としては、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に形成できる配置であれば特に限定されるものではなく、例えば、上記接着境界が2つの場合には、2つの上記接着境界が対向して設けられていることが好ましい。上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に形成することができるからである。
本発明における接着境界の位置としては、上記接着境界間を結ぶように配置された刺激応答性領域、すなわち、上記接着境界間に連続した刺激応答性領域を有するように配置されるものであれば特に限定されるものではない。
例えば、既に説明した図1に示すように、平面視上、上記刺激応答性領域の外周に配置されるものや、図9に例示するように、平面視上、上記刺激応答性領域内に配置されるものや、図10に例示するように、上記刺激応答性領域内および上記刺激応答性領域の外周に配置されるものとすることができる。
なお、図9および図10中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。また、上記刺激応答性領域は少なくとも2箇所において上記細胞接着領域と隣り合うものであるが、隣り合うとは、上述のように、上記刺激応答性領域内に配置されるものも含むものである。
本発明に用いられる接着境界の数としては、少なくとも2つであれば特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜設定することができる。
例えば、図11(a)および(b)に例示するように3つとすることもできる。
なお、図11中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
また、本発明において上記各細胞接着領域との間で形成される接着境界の数としては、1つの刺激応答性領域との間に少なくとも2つの接着境界を形成できるものであれば良い。
したがって、1つの細胞接着領域に1つの上記接着境界を形成するものであっても良く、1つの細胞接着領域に複数の上記接着境界を形成するものであっても良い。
具体的には、既に説明した図1に例示するように、1つの細胞接着領域に1つの接着境界を形成するものであっても良く、図12(a)および(b)に例示するように、1つの細胞接着領域に複数の接着境界Bを有するものであっても良い。
なお、図12中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
本発明における接着境界の長さとしては、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に形成できる距離であれば特に限定されるものではなく、20μm以上が好ましい。
本発明に用いられる刺激応答性領域の上記細胞接着領域に対する高さとしては、安定的に糸状浮遊培養細胞結合集団を形成可能であれば特に限定されるものではないが、上記刺激応答性領域および細胞接着領域が同一の高さ、すなわち同一平面上に形成されるものであっても良く、異なるものであっても良い。
本発明に用いられる刺激応答性領域は、上記細胞非接着領域により周囲が囲まれるもの、すなわち、上記細胞非接着領域が上記刺激応答性領域の周囲に配置され、外周に上記細胞非接着領域との非接着境界を有するものである。
ここで、上記非接着境界は、上記刺激応答性領域に刺激を与えた際に、上記非接着境界に沿って、上記シート状細胞を培地中に浮遊させることができるものであれば特に限定されるものではない。このような非接着境界は、通常、平面視上、上記細胞非接着領域と接しているが、例えば、上記刺激応答性領域および細胞非接着領域の間に、上記刺激応答性領域に刺激を与えた際に、上記非接着境界に沿って、上記シート状細胞を培地中に浮遊させることができる程度の幅で形成された細胞接着領域等の他の領域が存在する箇所も含むものである。
本発明においては、なかでも、平面視上、上記細胞非接着領域と接する箇所であること、すなわち、上記刺激応答性領域および細胞非接着領域の間に他の領域を含まない箇所であることが好ましい。安定的に糸状浮遊培養細胞結合集団を形成することができるからである。
本発明に用いられる刺激応答性領域の上記細胞非接着領域との位置関係としては、少なくとも上記刺激応答性領域の周囲が上記細胞非接着領域により囲まれるものであれば特に限定されるものではなく、既に説明した図1に示すように、平面視上、上記刺激応答性領域の外周において上記非接着境界を有する関係や、図13に例示するように、上記刺激応答性領域の外周において上記非接着境界を有する関係と上記非接着境界が上記刺激応答性領域内に含まれる関係とを組み合わせたものとすることができる。
なお、図13中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
本発明に用いられる刺激応答性領域の上記細胞非接着領域に対する高さとしては、安定的に糸状浮遊培養細胞結合集団を形成可能であれば特に限定されるものではない。
(2)刺激応答性層
本発明に用いられる刺激応答性層は、上記刺激応答性材料を含み、平面視上、露出した表面である刺激応答性領域を有するものである。
(a)刺激応答性材料
本発明に用いられる刺激応答性材料としては、刺激の有無により細胞接着性が変化し、培養する細胞の接着および剥離を行なうことができる刺激応答性材料を含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、温度、光、pH、電位および磁力によりそれぞれ細胞接着性が変化する温度応答性材料、光応答性材料、pH応答性材料、電位応答性材料、および磁力応答性材料等を挙げることができる。
本発明においては、なかでも、温度応答性材料であることが好ましい。刺激の付与が容易だからである。
本発明に用いられる刺激応答性材料の細胞接着性の変化としては、少なくとも、細胞易接着性を有する状態から細胞非接着性を有する状態に変化することができるものであれば特に限定されるものではなく、可逆的に変化するものであっても良く、非可逆的に変化するものであっても良く、用途によって選択されるものである。
本発明に用いられる刺激応答性材料の上記刺激応答性層中の含有量としては、刺激により上記刺激応答性層の表面である刺激応答性領域に所望の接着性の変化を得られるものであれば特に限定されるものではなく、上記材料の種類等によって異なるものである。
本発明に用いられる温度応答性材料は、温度変化により、細胞接着性が変化するものであれば特に限定されるものではない。
本発明における温度応答性材料の細胞易接着性を発揮する温度領域が、10℃〜45℃の範囲内であることが好ましく、なかでも、33℃〜40℃の範囲内であることが好ましい。上記温度領域が上述の範囲内であることにより、細胞を安定的に培養することができるからである。
本発明における温度応答性材料の細胞非接着性を発揮する温度領域が、1℃〜36℃の範囲内であることが好ましく、なかでも、4℃〜32℃の範囲内であることが好ましい。上記温度領域が上述の範囲内であることにより、細胞へのダメージの少ないものとすることができるからである。
このような本発明に用いられる温度応答性材料としては、具体的には、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド、及び、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド等を挙げることができ、なかでもPIPAAm、ポリ−N−n―プロピルメタクリルアミド、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミドを好ましく用いることができ、特に、PIPAAmを好ましく用いることができる。細胞易接着性を有する温度領域および細胞非接着性を有する温度領域が上述の温度領域であり、ダメージの少ないものとすることができるからである。
また、本発明においては、上記温度応答性材料が1種類のみからなるものであっても良く、2種類以上含むものであっても良い。また、温度領域の調整するため、上記温度応答性材料同士および/またはその他のポリマーと共重合したものを用いるものであっても良い。
本発明に用いられる光応答性材料としては、光照射の有無により細胞接着性が変化するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、特開2005−210936号公報に開示されるような、光触媒や、アゾベンゼン、ジアリールエテン、スピロピラン、スピロオキサジン、フルギドおよびロイコ色素等の光応答成分を含むものを用いることができる。
本発明に用いられる電位応答性材料としては、電位の印加により、細胞接着性が変化するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、特開2008−295382号公報に開示されるような、電極と、RGD配列を含むペプチド等の細胞易接着性部分を有し、上記電極表面にチオレートを介して結合するアルカンチオール、システイン、アルカンジスルフィド等のスペーサ物質とを有するものを挙げることができる。
本発明に用いられる磁力応答性材料としては、磁力の付与・除去により細胞接着性が変化するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、特開2005−312386号公報に開示されるような、フェライト等の磁性粒子を正電荷リポソームに封入した磁性粒子封入正電荷リポソームを挙げることができる。
(b)刺激応答性層
本発明に用いられる刺激応答性層は、少なくとも上記刺激応答性材料を含むものである。
本発明においては、上記刺激応答性を阻害しない範囲内において、必要に応じて、レベリング剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤、増感剤等の添加剤や、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ジアリルフタレート、エチレンプロピレンジエンモノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ナイロン、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリベンズイミダゾール、ポリアクリルニトリル、エピクロルヒドリン、ポリサルファイド、ポリイソプレンや、ポリエチレングリコール、MPCポリマー(商品名)等の両性イオン高分子等のバインダー樹脂を含むものであっても良い。
本発明に用いられる刺激応答性層の膜厚としては、刺激応答性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではなく、具体的には、0.5nm〜 300nmの範囲内であることが好ましく、なかでも1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
本発明に用いられる刺激応答性層の形成方法としては、所望のパターンに形成可能であれば特に限定されるものではない。
具体的には、上記刺激応答性材料を含む刺激応答性材料組成物をスピンコート等の公知の塗布方法を用いて塗布し、フォトリソ法によりパターニングする方法や、グラビア印刷やフレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット法などの公知のパターン塗布法を用いて上記刺激応答性材料組成物をパターン状に塗布する方法を挙げることができる。
また、上記刺激応答性層が、刺激応答性材料として光触媒等の無機物のみからなるものである場合には、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法等の真空製膜法を用いる方法を挙げることができる。均一な膜厚の層とすることができるからである。
2.細胞接着領域
本発明に用いられる細胞接着領域は、上記細胞接着材料を含む細胞接着層の表面のうち、露出した範囲であり、細胞易接着性を有し細胞を接着することができるものである。
(1)細胞接着領域
本発明における細胞接着領域は、上記刺激応答性領域との間で接着境界を形成するものである。
このような細胞接着領域の細胞接着性の程度としては、所望の細胞易接着性を示すものであれば特に限定されるものではなく、上記刺激応答性領域が細胞易接着性を発現している場合の細胞接着性と同様とすることができる。
本発明における細胞接着領域の数、形状、配置としては、刺激応答性領域と細胞接着領域とが少なくとも2つの接着境界を有することができるものであれば良い。既に説明した図1に示すように細胞接着領域が複数の領域に分かれたものであっても良く、また図12に示すように刺激応答性領域と1の細胞接着領域が少なくとも2つの接着境界をもつように配置されたものであっても良い。
本発明に用いられる細胞接着領域の形状としては、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に接着・支持できるものであれば特に限定されるものではない。
本発明に用いられる細胞接着領域の1つ当りの面積としては、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に接着・支持できるものであれば特に限定されるものではない。
本発明に用いられる細胞接着領域の種類としては、1種類のみであっても良く、異なる細胞接着材料を含む細胞接着領域を含むものであっても良い。
本発明に用いられる細胞接着領域の上記細胞非接着領域との関係としては、上記細胞非接着領域とが接していても良く、接していない状態であっても良い。目的とする糸状浮遊培養細胞結合集団のパターンに応じて適宜設定されるものである。
本発明に用いられる細胞接着領域の上記細胞非接着領域に対する高さとしては、安定的に糸状浮遊培養細胞結合集団を形成可能であれば特に限定されるものではなく、既に説明した図2に示すように、上記細胞非接着領域より低いものであっても良く、図14に例示するように、上記細胞非接着領域より高いものであっても良い。
なお、図14中の符号については、図1のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
(2)細胞接着層
本発明に用いられる細胞接着層としては、上記細胞接着材料を含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば生物化学的特性により細胞易接着性を有するものであってもよく、また物理化学的特性により細胞易接着性を有するもの等であってもよい。
このような細胞接着材料としては、一般的な細胞培養基板等に用いられる細胞接着材料を用いることができ、例えば物理化学的特性により細胞と接着する材料としては、例えば親水化ポリスチレン、ポリリジン等の塩基性高分子、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等の塩基性化合物およびそれらを含む縮合物等が挙げられる。
また、生物化学的に細胞と接着性を有する材料としては、フィブロネクチン、ラミニン、テネイシン、ビトロネクチン、RGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)配列含有ペプチド、YIGSR(チロシン−イソロイシン−グリシン−セリン−アルギニン)配列含有ペプチド、コラーゲン、アテロコラーゲン、ゼラチン、およびこれらの混合物、例えばマトリゲル等が挙げられる。
また、各種ガラス、プラズマ処理を施したポリスチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
本発明に用いられる細胞接着層が含有可能な添加剤やバインダー樹脂、ならびに膜厚および形成方法としては、上記「1.刺激応答性領域」の項に記載の内容と同様とすることができる。
3.細胞非接着領域
本発明に用いられる細胞非接着領域は、上記細胞非接着材料を含む細胞非接着層の表面のうち、露出した範囲であり、細胞非接着性を有するものである。
(1)細胞非接着領域
本発明に用いられる細胞非接着領域は、少なくとも上記刺激応答性領域の周囲に配置されるものである。
このような細胞非接着領域の細胞接着性の程度としては、所望の細胞非接着性を示すものであれば特に限定されるものではなく、上記刺激応答性領域が細胞非接着性を発現している場合の細胞接着性と同様とすることができる。
本発明における細胞非接着領域の数としては、上記刺激応答性領域の形状のシート状細胞を形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、既に説明した図1に示すように1つであっても良く、既に説明した図12および13に示すように複数であっても良い。
本発明に用いられる細胞非接着領域の形状としては、少なくとも上記刺激応答性領域の周囲を囲み、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に形成できるものであれば特に限定されるものではない。
本発明に用いられる細胞非接着領域の種類としては、1種類のみであっても良く、異なる細胞非接着材料を含む複数の細胞非接着領域を含むものであっても良い。
本発明に用いられる細胞非接着領域の上記刺激応答性領域との非接着境界からの幅としては、上記刺激応答性領域の形状に細胞を接着させ培養することができるものであれば良く、例えば、5μm以上であることが好ましく、なかでも、10μm以上であることが好ましい。
(2)細胞非接着層
本発明に用いられる細胞非接着層は、細胞非接着材料を含むものである。
このような細胞非接着材料としては、細胞と非接着性を有するものであれば良く、例えば水和能の高い材料を用いることができる。水和能の高い材料を細胞非接着材料として用いた場合には、細胞非接着材料の周りに水分子が集まった水和層が形成される。通常、このような水和能の高い物質は水分子との親和性の方が細胞との親和性より高いことから、細胞は上記水和能の高い材料と接着することができず、細胞との接着性が低いものとなるのである。ここで、上記水和能とは、水分子と水和する性質をいい、水和能が高いとは、水分子と水和しやすいことをいうこととする。
本発明において水和能が高く細胞非接着材料として用いられる材料としては、例えばポリエチレングリコールや、ベタイン構造等を有する両性イオン材料、リン脂質含有材料等が挙げられる。
また、上記細胞非接着材料として、撥水性または撥油性を有する材料や、超親水性を有する材料も用いることができる。
細胞非接着材料の撥水性や撥油性、または超親水性によって、細胞と細胞非接着材料との間における相互作用を小さいものとすることができ、細胞との接着性を低いものとすることができるからである。
上記撥水性または撥油性を有する材料としては、例えば撥水性または撥油性の有機置換基を有するものを用いることができ、具体的にはゾルゲル反応等によりクロロまたはアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して大きな強度を発揮するオルガノポリシロキサン、反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサン等や撥水性または撥油性の有機置換基を有する界面活性剤も用いることができる。
上記界面活性剤としては、例えば、日光ケミカルズ(株)製NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
さらに上記超親水性を有する材料としては、エネルギー照射に伴う光触媒の作用等によって、上記オルガノポリシロキサン等の有機置換基を分解したもの等が挙げられる。
なお、上記細胞非接着材料は、界面活性を有することが好ましい。例えば、上記細胞非接着材料を含有する細胞非接着材料組成物を塗布した後、乾燥させる際等に、塗膜表面に偏在する割合が高まり、結果として良好な細胞非接着性を得られるからである。
本発明に用いられる細胞非接着層が含有可能な添加剤やバインダー樹脂、ならびに膜厚および形成方法としては、上記「1.刺激応答性領域」の項に記載の内容と同様とすることができる。
4.糸状浮遊細胞パターニング基材
本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材は、少なくとも、上記刺激応答性領域、細胞接着領域、および細胞非接着領域を含むものである。
本発明においては、既に説明した図2に示すように、上記刺激応答性領域、細胞接着領域、および細胞非接着領域を構成する刺激応答性層、細胞接着層および細胞非接着層を支持する基材を含むものであっても良い。
このような基材としては、上記刺激応答性層、細胞接着層および細胞非接着層等を支持することができるものであれば特に限定されるものではない。
このような基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、アクリル等が挙げられる。ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクタン、もしくはその共重合体のような生分解性ポリマーであってもよい。
本発明においては、なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネートを好ましく用いることができ、特に、ポリエチレンテレフタレートを好ましく用いることができる。透明性、寸法安定性、機械的性質、電気的性質、耐薬品性等の性質に優れているからである。
また、図15(a)および(b)に例示するように、上記刺激応答性層1が、上記細胞接着層2および細胞非接着層3を支持する基材として用いられるように、上記刺激応答性層、細胞接着層および細胞非接着層のいずれかを、他の層を支持する基材とするものであっても良い。
さらに、必要に応じて、露出表面を有さない他の層や、他の領域となる露出表面を有する他の層を含むものであっても良い。
本発明の糸状浮遊細胞パターニング基材の用途としては、種々の細胞からなる糸状浮遊培養細胞結合集団が形成された糸状浮遊培養細胞結合集団付基板に用いることができる。
なお、このような用途に用いられる細胞としては、血球系等の非接着性細胞、細胞間結合の弱い細胞以外なら、生体に存在するあらゆる組織とそれに由来する細胞を用いることができる。
具体的には、後述する血管内皮細胞や、心筋細胞等の筋肉系の細胞等を用いることができ、これらの細胞からなる糸状浮遊培養細胞結合集団(糸状浮遊細胞パターン)が形成された浮遊培養細胞結合集団付基板(糸状浮遊細胞パターン付基板)を形成し、さらに、上記浮遊培養細胞結合集団付基板を用いて化合物アッセイ等種々の評価・分析等に用いることができる。
B.糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法
次に、糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法について説明する。
本発明の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法は、上記糸状浮遊細胞パターニング基材に含まれる刺激応答性領域および細胞接着領域上に、上記刺激応答性領域が細胞易接着性を有する条件で、血管内皮細胞を播種・培養することにより、上記刺激応答性領域および細胞接着領域に接着したシート状血管内皮細胞を形成する血管内皮細胞培養工程と、上記刺激応答性領域に刺激を与え、細胞非接着性を発現させることにより、上記シート状血管内皮細胞のうち上記刺激応答性領域に接着していた血管内皮細胞を培地中に浮遊させ、上記細胞接着領域に接着した糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を形成する刺激付与工程と、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を培地中に浮遊させた状態で培養し、管腔化させ糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団とする管腔化工程と、を有することを特徴とするものである。
このような本発明の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法について、図を参照して説明する。図16は、本発明の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法の一例を示す工程図であり、図17は図16のX−X線断面図である。図16および17に例示するように、本発明の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法は、上記糸状浮遊細胞パターニング基材10に含まれる刺激応答性層1の刺激応答性領域11および細胞接着層の細胞接着領域12上に、上記刺激応答性領域11が細胞易接着性を有する条件で、血管内皮細胞31を播種・培養することにより(図16(a)および図17(a))、上記刺激応答性領域11および細胞接着領域12に接着したシート状血管内皮細胞32を形成する血管内皮細胞培養工程(図16(b)および図17(b))と、上記刺激応答性領域11に刺激を与え、細胞非接着性を発現させることにより、上記シート状血管内皮細胞32のうち上記刺激応答性領域11に接着していた血管内皮細胞を培地中に浮遊させ、上記細胞接着領域12に接着した糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団33を形成する刺激付与工程(図16(c)および図17(c))と、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団33を培地中に浮遊させた状態で培養し、管腔化させ糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団34を形成し、糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団34を有する糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板20を形成する管腔化工程(図16(d)および図17(d))と、を有するものである。
なお、図16および17中の符号については、図1および2のものと同一の部材を示すものであるので、ここでの説明は省略する。
本発明によれば、上記糸状浮遊細胞パターニング基材を用いることにより、容易に糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団を得ることができる。
本発明の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法は、血管内皮細胞培養工程、刺激付与工程および管腔化工程を少なくとも有するものである。
1.血管内皮細胞培養工程
本発明の製造方法における血管内皮細胞培養工程は上述の糸状浮遊細胞パターニング基材に含まれる刺激応答性領域および細胞接着領域上に、上記刺激応答性領域が細胞易接着性を有する条件で、血管内皮細胞を播種・培養することにより、上記刺激応答性領域および細胞接着領域に接着したシート状血管内皮細胞を形成する工程である。
本工程において用いられる血管内皮細胞は、培養により血管を形成する細胞であれば特に限定されるものではなく、各生物、特に動物より得られるものを用いることができる。
本工程において、上記刺激応答性領域が細胞易接着性を有する条件としては、上記刺激応答性領域を構成する刺激応答性材料の種類により異なるものであり、上述の細胞易接着性を発揮することができる条件であれば特に限定されるものではない。
具体的には、上記刺激応答性材料がPIPAAmである場合には、上記刺激応答性領域を32℃より高い温度条件とすることが挙げられる。
本工程において上記血管内皮細胞を播種する方法としては、上記刺激応答性領域および上記刺激応答性領域と少なくとも2つの分離された接着境界を形成する細胞接着領域上に均一に血管内皮細胞を播種する方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な播種方法を用いることができる。例えば、上記糸状浮遊細胞パターニング基材を培地中に浸漬させた状態で、上記血管内皮細胞を播種する方法を挙げることができる。
本工程において上記血管内皮細胞を培養する方法としては、上記刺激応答性領域および細胞接着領域に接着したシート状血管内皮細胞を形成することができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な培養方法を用いることができる。
本工程において形成されるシート状血管内皮細胞は、血管内皮細胞同士が結合しているものであり、上記刺激応答性領域から剥離した場合であっても、細胞同士が結合した状態を維持できるものである。
2.刺激付与工程
本発明の製造方法における刺激付与工程は、上記刺激応答性領域に刺激を与え、細胞非接着性を発現させることにより、上記シート状血管内皮細胞のうち上記刺激応答性領域に接着していた血管内皮細胞を培地中に浮遊させ、上記細胞接着領域に接着した糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を形成する工程である。
本工程において上記刺激応答性領域に刺激を与える方法としては、上記刺激応答性領域に細胞非接着性を発現させ、上記刺激応答性領域から上記シート状血管内皮細胞を剥離させることにより、糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を形成できることができる方法であれば良く、上記刺激応答性領域の種類により異なるものである。
具体的には、上記刺激応答性材料がPIPAAmである場合には、上記シート状血管内皮細胞が付着した糸状浮遊細胞パターニング基材を、32℃以下の温度に設定されたインキュベーター内に静置する方法等を用いることができる。
また、本工程においては、上記刺激応答性領域に刺激を与えた後に、上記刺激応答性領域にピペッティング等の外部応力を加える処理を行うものであっても良い。上記シート状血管内皮細胞をより安定的に剥離させることができるからである。
なお、上記刺激応答性領域から剥離され、足場を失ったシート状血管内皮細胞の各細胞は表面積を小さくするように収縮する。したがって、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団は、上記刺激応答性領域から剥離したシート状血管内皮細胞により自発的に形成される。
3.管腔化工程
本発明の製造方法における管腔化工程は、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を培地中に浮遊させた状態で培養し、管腔化させ糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団とする工程である。
本工程において、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を培地中に浮遊させた状態で培養する方法としては、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を管腔化させ糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団とすることができる方法であれば特に限定されるものではない。
本工程においては、なかでも、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団が上記刺激応答性領域に再接着しない条件で培養する培養方法であることが好ましい。糸状の糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団が浮遊した状態を保つことにより、3次元培養による影響をより精度良く評価することができるからである。
このような培養方法としては、例えば、上記刺激応答性領域が細胞非接着性を発現させた状態で培養する方法を挙げることができる。より具体的には、上記刺激応答性材料がPIPAAmである場合、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団が上記細胞接着領域に付着した糸状浮遊細胞パターニング基材を、32℃以下の温度に設定されたインキュベーター内に静置して培養する方法を用いることができる。
また、上記刺激応答性領域が、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団の培地中に浮遊する部位が平面視上位置する領域と重ならない形状の糸状浮遊細胞パターニング基材を使用する培養方法であっても良い。
また、本工程における培養方法としては、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団に管腔化を促す成長因子等を培地中に添加した状態で培養する方法であることが好ましい。
なお、このような成長因子等としては、例えば、bFGFやVEGF等を挙げることができる。
4.糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法
本発明の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法は、血管内皮細胞培養工程、刺激付与工程および管腔化工程を少なくとも有するものである。
本発明においては、上記工程に加えて、上記血管内皮細胞の状態を確認する確認工程等のその他の工程を含むものであっても良い。
C.糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板
次に糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板について説明する。
本発明の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板は、細胞易接着性を有する細胞接着領域を有する基板と、上記細胞接着領域に2箇所で接着し、培地中に浮遊している管腔化血管内皮細胞を含む糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団と、を有することを特徴とするものである。
このような糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板について、図を参照して説明する。既に説明した図16(d)および図17(d)に例示するように、本発明の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板20は、細胞接着領域12を含む糸状浮遊細胞パターニング基材10と、上記糸状浮遊細胞パターニング基材10に含まれる刺激応答性領域11と少なくとも2つの分離された接着境界を形成する細胞接着領域12に接着し、培地中に浮遊している管腔化血管内皮細胞を含む糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団34とを有するものである。
本発明によれば、3次元パターン状に形成された糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の評価を容易に行うことができる。
本発明の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板は、基板と、糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団とを有するものである。
以下、本発明の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板の各構成について説明する。
1.基板
本発明に用いられる基板は、細胞易接着性を有する細胞接着領域を有するものである。
このような細胞接着領域を有する基板としては、糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団を所望のパターンで接着可能なものであれば特に限定されるものではなく、上記糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団が2箇所で接着可能なように設けられた細胞接着領域のみを有する基板や、上記糸状浮遊細胞パターニング基材を用いることができる。本発明においては、なかでも、上記糸状浮遊細胞パターニング基材であることが好ましい。上記糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団を容易に形成できるからである。
なお、上記糸状浮遊細胞パターニング基材の各構成については、上記「A.糸状浮遊細胞パターニング基材」の項に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
本発明においては、なかでも、上記糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団が上記刺激応答性領域に再接着しないものであることが好ましい。糸状の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団が浮遊した状態を保つことにより、3次元培養による影響をより精度良く評価することができるからである。
上記糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団が上記刺激応答性領域に再接着しないものとしては、例えば、上記刺激応答性領域が細胞非接着性を発現させた状態のものを用いることができる。より具体的には、上記刺激応答性材料がPIPAAmである場合には、上記糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団が付着した糸状浮遊細胞パターニング基材を、32℃以下の温度まで低下させたものを用いることができる。
また、上記刺激応答性領域が、上記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団の培地中に浮遊する部位が平面視上位置する領域と重ならない形状の糸状浮遊細胞パターニング基材を用いるものであっても良い。細胞にダメージを与えるような刺激を継続して与えなければ細胞非接着性を発現しない刺激応答性材料を用いた場合であっても、上記刺激を一度与えるだけで、上記糸状浮遊培養細胞結合集団を安定的に保持し培養することができ、細胞へのダメージの少ないものとすることができるからである。
2.糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団
本発明に用いられる糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団は、上記細胞接着領域に接着し、培地中に浮遊している管腔化血管内皮細胞を含むものであれば特に限定されるものではない。
このような糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の数は、1本であっても良く、2本以上であっても良い。
また、上記糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団は、分岐を有するものであっても良く、分岐を含まないものであっても良い。
本発明に用いられる糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の形成方法としては、上記基板の細胞接着領域に安定的に接着させたものとする方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、上記「B.糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法」の項に記載の方法や、ピンセット等を用いて上記管腔化血管内皮細胞の端部を上記基板に含まれる細胞接着領域に接着させる方法を用いることができる。本発明においては、なかでも、上記「B.糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法」の項に記載の方法を用いることが好ましい。上記糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の形成が容易だからである。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
[実施例1]
(1)温度応答性フィルムの作製
N−イソプロピルアクリルアミドを、最終濃度20重量%になるようにイソプロピルアルコール(IPA)に溶解させた。市販の易接着性ポリエチレンテレフタレートフィルム(三光産業社より入手、透明50−Fセパ1090)(以下において「易接着PET」と略することがある)を調達し、これを10cm角に切断した。ここに上記溶液を、易接着PETの易接着面に展開し、ミヤバーでコーティングした。電子線照射装置(岩崎電気社製)を用いて該サンプル上に電子線照射を行い、該溶液をグラフト重合した。このときの電子線照射線量は300kGyであった。
(2)細胞接着阻害領域の形成
メタクリロキシシラン(モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社より入手、TSL8370)を用意し、これをイソプロピルアルコール(IPA)で0.1重量%になるように希釈した。
上記で得られたフィルムを、0.7mm厚ガラスにテープで固定し、スピンナー(ミカサ製)を用いて、メタクリロキシシランをコーティングし、シラン処理を行った。このときのスピンナー法の条件は700rpm×3秒であった。
次いで、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量300、アルドリッチ社より入手)が最終濃度50重量%になるように、純水で希釈し、ここに、重合開始剤として、2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロオキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン(アルドリッチ社より入手)を最終濃度1重量%になるように加えた。この溶液をスターラーで15分間攪拌した。
これをシラン処理したフィルム上に1mL展開し、150μm厚PETフィルム(東レ株式会社製)を用いて所望のパターン形状が形成されるように、マスキングした。次いで、フォトマスクをマスキングフィルム上からギャップ200μm離してセットし、500mWマルチライト(ウシオ電機社製)を用いて、10秒間光照射した。光照射条件は、波長、365nmで、照度は75mW/cmであった。
その後、マスキングフィルムを剥離し、シラン処理基材上にポリエリレングリコールジアクリレートが固定化されていることを目視で確認した。これにより、200μm線幅の網状温度応答性領域を残して細胞非接着領域を設けた。
(3)細胞接着領域の形成
60mmφディッシュに細胞非接着領域が設けられた温度応答性フィルムを貼り付け、EOG滅菌後、網パターン周囲にコラーゲンTypeIで細胞接着領域を設け、37℃インキュベーターにて2時間放置した。
これにより、細胞接着領域と、細胞非接着領域と、細胞接着領域および細胞非接着領域の開口部に形成された刺激応答性領域(温度応答性領域)と、を有する糸状浮遊細胞パターニング基材を作製した。
(4)細胞培養
続いて、上記糸状浮遊細胞パターニング基材上に、ウシ血管内皮細胞(P20)を1×10cells/cmの密度で播種し6日間培養後、20℃インキュベーターに移した。20℃インキュベーター内では、温度応答性領域が細胞非接着領域となるため、網状パターンに接着していた細胞結合集団は基材から剥離した。
そして、周囲を把持されパターンを維持した状態で培地中を浮遊した状態となった。20℃で7日間培養後、37℃で24時間培養し、細胞をCalcein(同仁化学社製Calcein-AM solution)染色した。共焦点顕微鏡で観察すると、図18に示すように、糸状浮遊培養細胞結合集団結合集団の断面が中空管構造となっている様子が観察された。
1 … 刺激応答性層
2 … 細胞接着層
3 … 細胞非接着層
4 … 基材
10 … 糸状浮遊細胞パターニング基材
11 … 刺激応答性領域
12 … 細胞接着領域
13 … 細胞非接着領域
20 … 糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板
21 … 細胞
31 … 血管内皮細胞
32 … シート状血管内皮細胞
33 … 糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団
34 … 糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団

Claims (6)

  1. 刺激により細胞接着性が変化する刺激応答性領域と、
    細胞易接着性を有する細胞接着領域と、
    細胞非接着性を有する細胞非接着領域と、
    を有し、
    前記刺激応答性領域は少なくとも2箇所において前記細胞接着領域と隣り合い、
    前記刺激応答性領域および前記細胞接着領域の境界部分である少なくとも2つの分離された接着境界を有し、
    前記刺激応答性領域が、前記接着境界間を結ぶように配置され、
    前記細胞非接着領域が、前記刺激応答性領域の周囲に配置されており、
    2つの前記接着境界が対向して設けられており、
    前記刺激応答性領域が、平面視上、2つの前記接着境界を結ぶ領域と接しない領域を含むものであることを特徴とする糸状浮遊細胞パターニング基材。
  2. 前記刺激応答性領域が、温度変化により細胞接着性が変化する温度応答性材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の糸状浮遊細胞パターニング基材。
  3. 前記温度応答性材料が、ポリイソプロピルアクリルアミドであることを特徴とする請求項2に記載の糸状浮遊細胞パターニング基材。
  4. 請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の糸状浮遊細胞パターニング基材に含まれる刺激応答性領域および細胞接着領域上に、前記刺激応答性領域が細胞易接着性を有する条件で、血管内皮細胞を播種・培養することにより、前記刺激応答性領域および前記細胞接着領域に接着したシート状血管内皮細胞を形成する血管内皮細胞培養工程と、
    前記刺激応答性領域に刺激を与え、細胞非接着性を発現させることにより、前記シート状血管内皮細胞のうち前記刺激応答性領域に接着していた血管内皮細胞を培地中に浮遊させ、前記細胞接着領域に接着した糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を形成する刺激付与工程と、
    前記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を培地中に浮遊させた状態で培養し、管腔化させ糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団とする管腔化工程と、
    を有することを特徴とする糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法。
  5. 前記刺激応答性領域の幅が、前記糸状浮遊培養血管内皮細胞結合集団を管腔化可能なものであることを特徴とする請求項4に記載の糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団の製造方法。
  6. 請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の糸状浮遊細胞パターニング基材と、
    前記細胞接着領域に2箇所で接着し、培地中に浮遊している管腔化血管内皮細胞を含む糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団と、
    を有することを特徴とする糸状浮遊培養管腔化血管内皮細胞結合集団付基板。
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