JP5904473B2 - 貯穀チョウ目害虫を合成超音波で忌避せしめる方法 - Google Patents
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また合成性フェロモン剤を用いる交信攪乱により、ノシメマダラメイガの交尾を阻害すること自体は不可能ではない。しかしながらフェロモン剤を設置すると外部からの同種のオス成虫の飛来・侵入を促進するおそれがあるため、かかる防除方法も適用することはできない。
農業害虫や園芸害虫においては、本邦においてコウモリの発する超音波を利用した害虫防除法又は関連技術がすでにいくつか報告されている(防虫装特許文献1、防虫用 特許文献2、特許文3)。
果樹栽培に対する害虫防除については、果実に穿孔被害をもたらす吸汁性ヤガ類の成虫のモモ園への飛来・侵入を抑えることについて報告されている(小池 2008 非特許文献1)。
また、ノシメマダラメイガについては、オス成虫を誘引する性フェロモン化合物の濃度が高くなると、音圧の高い超音波を提示してもオス成虫の飛来を阻害できなくなることも報告されている(非特許文献11)。
より具体的には、ノシメマダラメイガが忌避しやすい超音波のパルス構造(パルス長・パルス間間隔)を特定し、メスによる産卵のための飛来・侵入及びオスによる交尾のための飛来・侵入を抑制する方法を開発した。
(1)合成超音波を用いてノシメマダラメイガのオス成虫及びメス成虫のうち特に既交尾メス成虫の食物貯蔵施設への飛来を抑止する方法であって、下記の音響パラメータを有する合成超音波を前記食物貯蔵施設に適用し、前記ノシメマダラメイガのオス成虫及びメス成虫、特に既交尾メス成虫の飛翔行動を阻害することを含む方法:
ア)構成周波数40〜60 kHz
イ)パルス長20〜40 ms
ウ)パルス間間隔(パルス間の静音部の長さ)30〜50 ms
エ)上記ア)〜ウ)のパルス3つ〜7つで1つのパルス・グループとし、パルス・グループ間間隔(パルス・グループ間の静音部の長さ)100〜140 ms
オ)音圧80〜120 dB SPL(測定距離1m;0 dB SPL = 20 μPa)。
(3)1つのパルス・グループが5つのパルスから構成される上記(1)又は(2)の方法。
(4)パルス長30〜100 msの合成超音波を適用し、ノシメマダラメイガのオス成虫及びメス成虫の飛翔行動及び歩行を阻害することを含む上記(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5)合成超音波が単一周波数成分からなる純音である上記(1)〜(4)のいずれかの方法。
(6)食物貯蔵施設におけるノシメマダラメイガによる該食物貯蔵施設に貯蔵された食物に対する加害を防ぐ方法であって、上記(1)〜(5)のいずれかの方法により前記食物貯蔵施設への前記ノシメマダラメイガのオス成虫及びメス成虫のうち特に既交尾メス成虫の飛来を阻害することを含む方法。
(7)合成超音波の音響パラメータが下記ア)〜オ)に示されるパラメータである上記(6)の方法:
ア)構成周波数40〜60 kHz
イ)パルス長20〜40 ms
ウ)パルス間間隔(パルス間の静音部の長さ)30〜50 ms
エ)上記ア)〜ウ)のパルス3つ〜7つで1つのパルス・グループとし、パルス・グループ間間隔(パルス・グループ間の静音部の長さ)100〜140 ms
オ)音圧80〜120 dB SPL(測定距離1m;0 dB SPL = 20 μPa)。
ノシメマダラメイガの行動を阻害する超音波については、上記各文献のいくつかにも記載のとおりすでに知られている。しかしながら、同各文献に記載されているのはせいぜい同種の行動が一時的に(2秒間程度)阻害されることに留まり、より長期にわたり同種の行動を阻害する方法についてはこれまで知られていない。
これに対して本発明の方法は、ノシメマダラメイガのオス成虫及びメス成虫の飛来・侵入行動および交尾行動を長期間(6時間以上)にわたり阻害する。そのため、本発明の方法は、従来技術を上回る効果を奏するのである。
ア)構成周波数40〜60 kHz
イ)パルス長20〜40 ms
ウ)パルス間間隔(パルス間の静音部の長さ)30〜50 ms
エ)上記ア)〜ウ)のパルス3つ〜7つで1つのパルス・グループとし、パルス・グループ間間隔(パルス・グループ間の静音部の長さ)100〜140 ms
オ)音圧80〜120 dB SPL(測定距離1m;0 dB SPL = 20 μPa)。
また本明細書において「食物貯蔵施設」の語は、穀物その他の食物及びそれらの加工品が貯蔵された倉庫や建造物を意味し、施設の内部および外部のいずれをも包含する。
本明細書において、合成超音波を指して単に「超音波」と記載することがある。
超音波の構成周波数は、常に一定でなくてよく1つのパルス・グループにおいて、あるいはパルス・グループごとに、変化してよい。
超音波のパルス長は、常に一定でなくてよく1つのパルス・グループにおいて、あるいはパルス・グループごとに、変化してよい。
なお、ある種の害虫においては、超音波を検知すると生殖に関する行動を一時的に中止するが、超音波の連続的な提示によりその効果は低下することが分かっている。本発明の方法においては超音波のパルス間間隔を設定し、さらに同間隔を上記のような間隔とすることにより、上記のような「慣れ」が生じるのを回避することができる。
また 超音波のパルス間間隔は、常に一定でなくてよく1つのパルス・グループにおいて、あるいはパルス・グループごとに、変化してよい。
1つのパルス・グループを構成するパルスの個数は、適宜改変してよく、パルスの個数として4つ〜7つは好ましく、5つは最も好ましい。
また1つのパルス・グループにおけるパルス・グループ間間隔は常に一定でなくてもよい。
本発明の方法においては超音波のパルス・グループ間間隔を設定し、さらに同間隔を上記のような間隔とすることにより、ノシメマダラメイガにおいて上記のような「慣れ」が生じるのを一層効果的に回避することができる。
本発明の方法において用いられる上記パルス・グループあたりのパルス個数を1秒間あたりのパルス出力回数に換算して表すと、例えば1秒間あたり11回〜20回である。本発明の方法においては、かかるパルス出力回数の範囲において、30〜50 msのパルス間間隔の一群をパルス・グループとし、パルス・グループ間における間隔を前記パルス間間隔より大きい100〜140 msとすることにより、所期の効果が奏されるのである(図1)。
超音波の超音波の音圧は、常に一定でなくてよく1つのパルス・グループにおいて、あるいはパルス・グループごとに、変化してよい。ただし、音圧が高いほど、ノシメマダラメイガの飛来をより遠距離から阻害することができるため好ましい。
例えば交尾後のノシメマダラメイガメス成虫においては、暗期開始直後の1時間の時間帯における産卵基質への飛来が積極的に行われる。したがって、かかる時間帯に前記合成超音波を出力することは好ましい。
また、ノシメマダラメイガメス成虫においては、上記時間帯以外にも産卵基質に飛来する場合がある。したがって、オス成虫と同様に明期最後半2時間頃から全暗期中にわたり前記合成超音波を出力することはより好ましい。
例えばノシメマダラメイガの未交尾のメス成虫が性フェロモンを放散するのは暗期前半が中心であるため、かかる時間帯を含む時間帯に前記合成超音波出力することは好ましく、明期最後半2時間頃から全暗期中にわたり前記合成超音波を出力することはより好ましい。
(参考例1)パルス・グループを含まない合成超音波の、ノシメマダラメイガ成虫(オス成虫)の歩行行動に対する影響
種々のパルス長を有する合成超音波のパルスを0.5秒間に1回の割合で1秒間(2パルス/秒)出力し、ノシメマダラメイガ成虫の歩行行動に対する影響を調べた。周波数は50 kHzであり、音圧は100 dB SPL(測定距離10 cm;成虫から10 cmの距離で出力)であった。
なお前記のとおり合成超音波のパルスの出力は1秒間に2回の割合(0.5秒間に1回の割合で1秒間(2パルス/秒))で行われたため、パルス間間隔はパルス長によって相違した。すなわち、パルス長が長いほどパルス間間隔は必然的に小さくなった。より具体的には、例えばパルス長30 ms及び100 msにおいて、パルス間間隔はそれぞれ470 ms及び400 msであった。
その結果、パルス長30 ms以上において、合成超音波によりノシメマダラメイガ成虫の歩行が中止された(図2)。この結果から、パルスを0.5秒間に1回の割合で1秒間(2パルス/秒)出力した場合、パルス長が30 ms以上であればノシメマダラメイガ成虫の歩行行動を阻害することができることが明らかになり、かかる条件によりノシメマダラメイガ成虫の飛翔行動も阻害し得ると推察された。
また、パルス長が30 ms以上であればパルスを1秒間に2回の割合(0.5秒間に1回の割合で1秒間(2パルス/秒))より高い頻度で出力しても、ノシメマダラメイガ成虫の歩行行動及び飛翔行動を阻害することができることも推察された。
種々のパルス長を有する合成超音波を15分間にわたり出力し、ノシメマダラメイガオス成虫の交尾のための飛翔行動に対する影響を調べた。周波数は50 kHzであり、パルス間間隔はパルス長5 msについては11 ms、パルス長30 msについては30 ms、パルス長339 msについては26 msであり、音圧は100 dB SPL(測定距離10 cm)であった。直径11.5 cm、全長66 cmのアクリル製の風洞内の風上(風速0.25 m/sec)に誘引源として市販の合成性フェロモン剤と縦、横それぞれ10 cmの粘着板を設置し、風下にオス成虫を放飼した。合成超音波は風洞外の風上から風下に向けて出力し、15分間で粘着板に捕獲されたオス成虫の数から誘引率を算出した。誘引率が低かった場合は、飛翔行動が阻害されたものと解釈した。
その結果、パルス長30 msにおいては合成超音波によりノシメマダラメイガオス成虫の飛翔行動が阻害されたのに対し、パルス長5 ms及びパルス長339 msのいずれについても、合成超音波によりノシメマダラメイガオス成虫の飛翔行動は阻害されなかった(図3)。
参考例1の試験においてはパルス長が30 msより長いパルスに対してノシメマダラメイガオス成虫の行動が阻害されたことを併せ考えると、パルス長が339 msのパルスにおける低い飛来阻害効果は、より長時間(15分間)にわたり合成超音波を適用したことにより、ノシメマダラメイガオス成虫に聴覚的な慣れが生じたものと考えられた。
上記と同様の条件下で、種々のパルス長を有する合成超音波を15分間にわたり出力し、ノシメマダラメイガメス成虫の産卵のための飛翔行動に対する影響を調べた。ただし、誘引源として10 gの米ヌカを使用し、風洞外の風上に設置した。
その結果、パルス長30 msにおいては合成超音波によりノシメマダラメイガメス成虫の飛翔行動が阻害されたのに対し、パルス長5 ms及びパルス長339 msのいずれについても、合成超音波によりノシメマダラメイガメス成虫の飛翔行動は阻害されなかった(図4)。
参考例1の試験においてはパルス長が30 msより長いパルスに対してノシメマダラメイガメス成虫の行動が阻害されたことを併せ考えると、パルス長が339 msのパルスにおける低い飛来阻害効果は、より長時間(15分間)にわたり合成超音波を適用したことにより、ノシメマダラメイガメス成虫においても聴覚的な慣れが生じたものと考えられた。
ノシメマダラメイガの人為的高密度発生条件下におけるパルス・グループを含む合成超音波による、同種成虫の加工食品への接近(飛翔)行動に対する影響を調べた。周波数は54.5 kHz、パルス長は22.5 ms、パルス間間隔は42.5 ms、一つのパルス・グループに含まれるパルスの個数は5つ、パルス・グループ間間隔は128 ms、音圧は79 dB SPL(測定距離150 cm)であり、この合成超音波を暗期開始から6時間にわたり前記ノシメマダラメイガ成虫に適用した。ケージの大きさは縦、横、高さがそれぞれ45、135、45 cmであり、ケージ内の長辺方向の一端の床部に縦、横が15、20 cmの粘着板を設置し、粘着板中央部に5 gの米ヌカを置いた(以下、米ヌカトラップ)。超音波スピーカを2つ搭載した合成超音波出力装置の試作機を1台用い、粘着板を置いた方のケージの一端の外側にケージから10 cmの距離に配置した。この時、ケージの長辺方向の内側に向けて超音波を出力した。
暗期開始直後に、米ヌカトラップを設置しなかった方のケージの一端からノシメマダラメイガ成虫を放飼し、米ヌカトラップへの誘引数を調べ、同誘引数によりノシメマダラメイガ成虫の飛翔行動に対する影響の有無を調べた。
その結果、前記合成超音波によりノシメマダラメイガ成虫の飛翔行動が顕著に阻害された(図5)。すなわち、本発明の方法によりノシメマダラメイガ成虫の飛翔行動が、長時間(少なくとも6時間)にわたって阻害されることが明らかになった。聴覚的な慣れは生じにくかったものと推定される。
Claims (5)
- 合成超音波を用いてノシメマダラメイガのオス成虫及びメス成虫の食物貯蔵施設への飛来を抑止する方法であって、下記の音響パラメータを有する合成超音波を前記食物貯蔵施設に適用し、前記ノシメマダラメイガのオス成虫及びメス成虫の飛翔行動を阻害することを含む方法:
ア)構成周波数40〜60 kHz
イ)パルス長20〜40 ms
ウ)パルス間間隔(パルス間の静音部の長さ)30〜50 ms
エ)上記ア)〜ウ)のパルス3つ〜7つで1つのパルス・グループとし、パルス・グループ間間隔(パルス・グループ間の静音部の長さ)100〜140 ms
オ)音圧80〜120 dB SPL(測定距離1m;0 dB SPL = 20 μPa)。 - メス成虫に既交尾メス成虫が含まれる、請求項1に記載の方法。
- 1つのパルス・グループが5つのパルスから構成される請求項1又は2に記載の方法。
- パルス長30〜100 msの合成超音波を適用し、ノシメマダラメイガのオス成虫及びメス成虫の歩行を阻害することをさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 合成超音波が単一周波数成分からなる純音である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
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JP2015228828A (ja) | 2015-12-21 |
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