JP5891665B2 - 送液ポンプ、液体循環装置、及び医療機器 - Google Patents

送液ポンプ、液体循環装置、及び医療機器 Download PDF

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Description

本発明は、液体を圧送する送液ポンプ、液体循環装置、及び医療機器に関する。
ポンプ室の容積を増大させて液体を吸い込んだ後、ポンプ室の容積を減少させて液体を圧送する動作を繰り返す送液ポンプが知られている(例えば、特許文献1参照)。この送液ポンプでは、ポンプ室容積を増大させて減少させる度に、ポンプ室内の流体が圧送される。1回あたりの送液量は、ポンプ室の最大容積から最小容積を減算した容積(排除体積)にほぼ等しく、したがって、送液ポンプの送液量は、時間あたりにポンプ室容積の増大及び減少を行った回数(駆動回数)に、排除体積を乗算した値にほぼ等しくなる。このため、時間あたりの駆動回数を増加させれば、駆動回数に比例して送液量を増加させることができる。
特開2011−103930号公報
しかし、従来の送液ポンプにおいては、時間あたりの駆動回数を増加させると、次第に送液量を増加させることが困難になるという問題があった。以下、この点について詳しく説明する。
図8は、従来の送液ポンプのおおまかな構造を例示した説明図である。ポンプ室の一部がダイアフラムで形成されており、ケースに収められた圧電素子を伸張させてダイアフラムを変形させる。すると、ポンプ室内の液体が出口流路から圧送される。また、液体の圧送後、圧電素子に印加した駆動電圧を取り除くと、伸張していた圧電素子が元の長さに戻ってポンプ室容積を増大させる。すると、入口側バッファー室の液体が逆止弁を通ってポンプ室に供給される。また、入口側バッファー室には、入口流路から液体が補充される。
図9は、圧電素子に駆動信号を印加したときのポンプ室の内部圧力の変化を示した説明図である。図9(A)に示したように、圧電素子に駆動電圧を印加すると、圧電素子が伸張するのでポンプ室の内部圧力が急激に上昇し、その結果、ポンプ室内の液体が出口流路から圧送され、それに伴ってポンプ室の内部圧力も下降する。また、圧電素子に印加された駆動電圧を取り除くと、圧電素子が縮小し、ポンプ室容積が増大するのでポンプ室の内部圧力が更に下降し、やがて負圧となる。その結果、入口側バッファー室から液体が流入するので、ポンプ室の内部圧力は直ぐに回復する。
送液ポンプの一般的な駆動条件では、送液ポンプを駆動する周期(ポンプ室の容積を増減させる1サイクルあたりの時間)や、駆動電圧を印加してから取り除くまでの時間に比べて、ポンプ室の内部圧力が上昇したり下降したりする期間は十分に短い。このため、ポンプ室内で加圧された液体が出口流路から完全に圧送された後に駆動電圧を取り除いていると考えてよい。また、駆動電圧を取り除いて容積が増大したポンプ室に、入口側バッファー室から液体が完全に補充された後に、駆動電圧を印加すると考えてよい。その結果、パルス状の駆動信号が印加される度に、排除体積に相当する液体が圧送されることになる。
ところが、出口流路に接続される液体流路が大きな流路抵抗を有していたり(液体流路が細く長い場合など)、粘度の高い液体を圧送したりする場合には、ポンプ室の容積が減少したときに、排除体積分の液体がポンプ室から流れるまでに時間がかかるようになる。このため、ポンプ室の内部圧力が下降するのに長い時間がかかる。
図9(B)には、液体流路が大きな流路抵抗を有する場合、あるいは粘度の高い液体を圧送する場合に、ポンプ室の内部圧力が低下する様子が一点鎖線で示されている。図中の破線で示した一般的な場合(流路抵抗が小さく、液体の粘度も小さい場合)と比較すると、ポンプ室の内部圧力が下降するまでに長い時間がかかっている。このことは、排除体積分の液体が送液されるまでに時間がかかることを示している。そして、内部圧力が下降する前(ポンプ室から排除体積分の液体が送液される前)に駆動電圧を取り除くと、送液を中断して入口側バッファー室から液体を補充することになるので、ポンプ室容積を減少させてから増大させる1回あたりの送液量の効率低下を引き起こす。
また、液体流路が大きな流路抵抗を有しておらず、液体の粘度が高くない場合であっても、送液ポンプを駆動する周期(ポンプ室の容積を増減させる1サイクルあたりの時間)が大変に短い場合(駆動周波数が高い場合)には同様なことが起こり得る。すなわち、液体流路が大きな流路抵抗を有しておらず、液体の粘度が高くない場合でも、圧電素子を伸張させた瞬間に排除体積分の液体がポンプ室内から流れるわけではなく、排除体積分の液体が流れるためには、短時間とはいえ何某かの時間がかかる。したがって、排除体積分の液体が流れるために要する時間よりも短い周期で、送液ポンプを駆動した場合には送液量の効率低下を引き起こす。
結局、液体流路の流路抵抗や、液体の粘度などに拘わらず、ポンプ室から排除体積分の液体が流れ出すために要する時間(ポンプ室の内部圧力が低下するために要する時間)よりも短い周期で送液ポンプを駆動すると、送液量の効率が低下することになる。そして、この送液量の効率低下は、図9(B)に示したようにポンプ室の内部圧力が下降する時定数τを考えると、時定数τよりも短い周期で送液ポンプを駆動すると、送液量の効率低下が無視できなくなるほど大きくなる。ここで、時定数τは、後述するポンプ室のコンプライアンスと、出口流路の入口から液体流路の出口までの流路抵抗との積で決定される。
図10は、送液ポンプの駆動周波数(駆動周期の逆数)と送液量との関係を示した説明図である。従来の一般的な送液ポンプの駆動条件は、駆動周波数が1/τよりも十分に低いために、送液量が駆動周波数に比例して増加していた。しかし、図中に実線で示したように、駆動周波数が高くなるとやがて、駆動周波数を増加させたほどには送液量が増加しなくなり、1/τよりも高い駆動周波数では送液ポンプの送液量の効率が大幅に低下してしまう。また、圧電素子を駆動する際に投入する電気エネルギーは、駆動周波数にほぼ比例するため、このような送液量の効率低下は、圧電素子に投入した電気エネルギーのロスが増大することを示している。
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、ポンプ室の内部圧力が下降する時定数τよりも短い周期で送液ポンプを駆動した場合でも、効率よく液体を送液することが可能で、圧電素子に投入した電気エネルギーのロスを大幅に削減する高効率な送液ポンプ、液体循環装置、及び医療機器の提供を目的とする。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]本適用例に係る送液ポンプは、液体流路を介して液体を送液する送液ポンプであって、前記送液ポンプは、容積が変更可能なポンプ室と、前記ポンプ室から前記液体流路に向けて前記液体が流出する出口流路と、前記出口流路と前記液体流路との間に設けられて、前記ポンプ室のコンプライアンスよりも大きなコンプライアンスを有する出口側バッファー室と、前記ポンプ室に前記液体を供給する入口流路と、前記入口流路と前記ポンプ室との間に設けられた逆止弁と、を備え、前記送液ポンプは、前記ポンプ室の容積を増減させる1サイクルあたりの時間が、前記ポンプ室のコンプライアンスと前記出口流路の入口から前記液体流路の出口までの流路抵抗との積で定められる時定数よりも短いことを特徴とする。
本適用例によれば、ポンプ室の容積を増大させることによって、入口流路から逆止弁を介してポンプ室に液体を吸い込んだ後、ポンプ室の容積を減少させることによって、出口流路から液体流路に向けて液体を送液する。出口流路と液体流路との間には、ポンプ室のコンプライアンスよりも大きなコンプライアンスを有する出口側バッファー室が設けられている。そして、送液ポンプは、ポンプ室の容積を増減させる1サイクルあたりの時間が、ポンプ室のコンプライアンスと出口流路の入口から液体流路の出口までの流路抵抗との積で定められる時定数τよりも短い。
こうすれば、ポンプ室の容積を減少させると、ポンプ室で加圧された液体が出口流路を介して出口側バッファー室に移動するので、ポンプ室の内部圧力が直ぐに(時定数τよりも短い時間で)下降する。そして、出口流路を通る液体の慣性によってポンプ室の内部圧力が負圧となり、逆止弁を介して直ぐにポンプ室に液体が供給されるので、この時定数τよりも短い周期で送液ポンプを駆動した場合でも、効率よく液体を送液することが可能となる。一方、出口側バッファー室に流入した液体は液体流路に向かって流れようとするが、液体流路の流路抵抗によって徐々にしか流れない。このため出口側バッファー室の内部圧力が上昇すると同時に、ポンプ室の内部圧力は下降しているので、ポンプ室から出口側バッファー室に向かう流れは弱められる。このとき、ポンプ室から出口側バッファー室との間には逆止弁が設けられていないので、やがて出口側バッファー室からポンプ室への逆流が生じる。しかし、ポンプ室と入口流路との間には逆止弁が設けられているので、液体の逆流に伴ってポンプ室の内部圧力が再び上昇し、逆流していた液体が出口側バッファー室に向けて流れ出す。これにより、再びポンプ室が負圧となり、入口側バッファー室からポンプ室に更に液体を供給することが可能となる。このように、ポンプ室と出口流路と出口側バッファー室との間で生じる圧力振動が発生する結果、ポンプ室により多くの液体を供給することができる。このため、ポンプ室容積を減少させてから増加させる1回あたりの送液量は、ポンプ室の最大容積から最小容積を減算した容積(排除体積)よりも多くすることが可能となる。また、このように効率よく液体を送液することが可能なポンプを用いれば、圧電素子に投入する電気エネルギーを大幅に削減することも可能となるので、省エネルギーに貢献することができる。
[適用例2]上記適用例に記載の送液ポンプにおいて、前記出口流路の流路抵抗が、前記液体流路の流路抵抗よりも低くしておいてもよい。
本適用例によれば、液体流路の流路抵抗に拠らずにポンプ室の内部圧力が直ぐに下降することに加え、ポンプ室と出口側バッファー室との間で生じる圧力振動が減衰し難くなるので、ポンプ室に何度も負圧を生じさせることができ、ポンプ室に効率よく液体を供給することができる。その結果、時定数τよりも短い周期で送液ポンプを駆動した場合でも、効率よく液体を送液することが可能となる。
[適用例3]上記適用例に記載の送液ポンプにおいて、前記出口側バッファー室のコンプライアンスは、前記ポンプ室のコンプライアンスに対して10倍以上に設定することとしてもよい。
本適用例によれば、出口側バッファー室のコンプライアンスが、ポンプ室のコンプライアンスに対して十分に大きくなければ、ポンプ室から出口側バッファー室に向けて液体を圧送しようとしたときに、出口側バッファー室に接続された液体流路の流路抵抗の影響が現れる。これに対して、出口側バッファー室のコンプライアンスが、ポンプ室のコンプライアンスに対して10倍以上あれば、ポンプ室から液体を圧送する際に、出口側バッファー室に接続された液体流路の流路抵抗はほとんど無視できるようになる。その結果、ポンプ室の内部圧力を直ぐに下降させることができるので、効率よく液体を送液することが可能となる。
[適用例4]上記適用例に記載の送液ポンプにおいて、前記入口流路と前記逆止弁との間に入口側バッファー室を備え、前記液体流路を前記入口流路に接続することによって、前記出口流路から前記液体流路に向けて送液した液体を、前記入口側バッファー室に還流させるようにしてもよい。
本適用例によれば、液体流路に送液された液体は入口側バッファー室で溜められた後、逆止弁を介してポンプ室に供給される。したがって、ポンプ室から送液された液体が出口側バッファー室に溜まって、液体流路になかなか流れ出さなくても、逆止弁を介してポンプ室に供給する液体が不足することがない。このため、ポンプ室に液体を十分に供給できずに、送液ポンプの能力が低下する事態を回避することが可能となる。
[適用例5]上記適用例に記載の送液ポンプにおいて、前記入口側バッファー室のコンプライアンスが、前記出口側バッファー室のコンプライアンスに対して5倍以上に設定されていてもよい。
本適用例によれば、入口側バッファー室のコンプライアンスが出口側バッファー室のコンプライアンスに対して5倍以上あれば、ポンプ室に供給する液体が不足することがないことが実験的に確かめられている。このため、送液ポンプの能力を十分に発揮させることが可能となる。
[適用例6]上記適用例に記載の送液ポンプにおいて、圧電素子を用いて前記ポンプ室の容積を変更することとしてもよい。
本適用例によれば、圧電素子を用いれば、大きな力でかつ急激にポンプ室の容積を減少させることができるので、ポンプ室と出口側バッファー室との間に大きな圧力振動を発生させることができる。その結果、この圧力振動を利用して液体を圧送することで、効率よく液体を送液することが可能となる。
[適用例7]本適用例に係る液体循環装置は、上記に記載の送液ポンプを用いたことを特徴とする。
例えば、プロジェクターの光源は大きな熱を発生するので冷却が必要となる。また、大きな光量を得ようとすると発生する熱も大きくなるので、冷却能力を向上させる必要が生じる。
本適用例によれば、送液ポンプは小型でありながら高い送液能力(冷却能力)を有しているので、冷媒液などの液体を循環させることによって冷却する流体循環装置に適用することができる。そして、本発明の送液ポンプを液体循環装置として搭載すれば、小型で、光量の大きなプロジェクターを構成することが可能となる。
[適用例8]本適用例に係る医療機器は、上記に記載の送液ポンプを用いたことを特徴とする。
例えば、薬剤や栄養剤を内包するマイクロカプセルを形成することに用いる薬液噴射具や、水あるいは生理食塩水などの液体を加圧して、噴射ノズルから細くしぼった状態で生体組織などに噴射することで、生体組織の切開や切除などを行うジェットメスなどの手術具を含む医療機器においては、高圧な噴射能力が必要となる。
本適用例によれば、送液ポンプは小型でありながら高い送液能力を有しているので、本発明の送液ポンプを搭載すれば、小型で噴射能力の高い医療機器を構成することが可能となる。
本実施例の送液ポンプの構成を示した説明図。 本実施例の送液ポンプで圧電素子に駆動信号を印加したときのポンプ室の内部圧力を示した説明図。 出口側バッファー室の有無による送液量の違いを示した説明図。 ポンプ室の容積に対する出口側バッファー室の容積の影響を示した説明図。 本実施例の送液ポンプの駆動を開始した後に送液量が安定するまでの時間変化を示した説明図。 本実施例の送液ポンプを用いて循環流路を構成した場合を例示した説明図。 出口側バッファー室の容積に対する入口側バッファー室の容積の影響を示した説明図。 従来の送液ポンプのおおまかな構造を例示した説明図。 圧電素子に駆動信号を印加したときのポンプ室の内部圧力の変化を示した説明図。 送液ポンプの駆動周波数と送液量との関係を示した説明図。
図1は、本実施例の送液ポンプの構成を示した説明図である。図示されるように、本実施例の送液ポンプ100は、図8に示した従来の送液ポンプに対して、出口側バッファー室118が設けられている点が異なっている。すなわち、本実施例の送液ポンプ100においても、ポンプ室102の一部がダイアフラム104で形成されており、ケース108には圧電素子106が収められ、また、ポンプ室102の上部には、逆止弁110を介して入口側バッファー室112が設けられている。入口側バッファー室112には、入口流路114から液体が供給される。また、ポンプ室102は、出口流路116を介して出口側バッファー室118に接続されており、出口側バッファー室118には、液体流路122が接続されている。
圧電素子106に駆動信号を印加して圧電素子106を伸張させると、ダイアフラム104が変形してポンプ室102の容積が減少する。すると、ポンプ室102内の液体が出口流路116を介して出口側バッファー室118に流入し、出口側バッファー室118から液体流路122に送液される。
図2は、本実施例の送液ポンプ100で圧電素子106に駆動信号を印加したときのポンプ室102の内部圧力を示した説明図である。図2(A)には圧電素子106に印加する駆動信号が示されている。また、図2(B)及び図2(C)は、出口側バッファー室118の容積が異なる場合について、内部圧力の時間変化が示されている。図2(A)に示されるように、駆動信号の電圧(駆動電圧)が上昇すると圧電素子106が伸張してポンプ室102の容積を減少させるので、ポンプ室102の内部圧力が急激に上昇する。このとき、出口流路116と液体流路122との間には出口側バッファー室118があるために、ポンプ室102で加圧された液体が出口側バッファー室118に移動して、ポンプ室102の内部圧力が直ぐに下降する。この現象をポンプ室102側から見ると、出口側バッファー室118の向こう側に存在する液体流路122は、出口側バッファー室118が存在するためにポンプ室102にはほとんど影響を与えることがなく、単に出口流路116が接続されているのと同じような状態となる。
これは、以下のようにして説明することができる。液体流路122や出口流路116などの円管流路に液体が流量Qで流れるとき、その円管流路の任意の2点間の内部圧力差ΔPは、以下の(1)式で表すことができる。
ΔP=Q×R ・・・(1)
ここで、Rは上述した円管流路の任意の2点間の流路抵抗値である。流路中の液体の流れが定常で層流(ハーゲン・ポアズイユ流れ)となるような場合は、2点間の長さがLで半径rの円管流路に絶対粘性μの液体が流れるとき、流路抵抗Rは、以下の(2)式で表すことができる。
R=8×μ×L/(πr4) ・・・(2)
ただし、図9(B)に示すような従来の送液ポンプのように、出口流路116と液体流路122との間に出口側バッファー室118がない場合は、ポンプ室102の容積の増減が伴う。このため、出口流路116と液体流路122とを流れる液体は非定常な流れとなり、出口流路116や液体流路122の流路抵抗値は(2)式で表される流路抵抗値より4倍程度に高くなる。
また、ポンプ室102や出口側バッファー室118など、流体に満たされた流体室内に圧力が加わったときには、流体室の変形による容積の膨張や流体の圧縮が生じる。例えば、最も単純な場合として、容積がVで体積弾性率がKの流体室に圧縮率κFの流体(ここでは液体とする)で満たされており、流体室内の液体に圧力Pが加わったものとする。このとき、流体室の変形による容積の変化量ΔV1は、
ΔV1=V/K×P ・・・(3)
となる。また、液体の圧縮による体積の変化量ΔV2は、
ΔV2=V×κF×P ・・・(4)
となる。よって、圧力Pに対する見かけ上の流体室の容積の変化量ΔVは、
ΔV=V×(1/K+κF)×P ・・・(5)
となり、このV×(1/K+κF)がコンプライアンスと呼ばれる値である。ここで、流体室が同じ弾性率を持つ部材で、液体が同じ圧縮率を持つ流体であるとき、(5)式は、同じ圧力Pが加わるのであれば、見かけ上の流体室の容積の変化量ΔVは流体室の容積Vに比例することを表している。
以上で説明したように、図9(B)に示すような出口側バッファー室118を有さない従来の送液ポンプでは、出口流路116及び液体流路122で構成される流路抵抗(これまでの実験結果より、(2)式で求められる流路抵抗Rの4倍程度)とポンプ室102のコンプライアンスとの積で定められる時定数τに従って、ポンプ室の内部圧力がゆっくり下降する。しかし、本発明の送液ポンプ100では、ポンプ室102よりもコンプライアンスの大きい出口側バッファー室118が存在するために、ポンプ室102は液体流路122の流路抵抗の影響をほとんど受けない。このため、ポンプ室102の容積が減少して排除体積分の液体が流出しようとするときに、出口流路116の流路抵抗及びイナータンスのみの影響しか受けないため、排除体積分の液体が流れきるための時間が短くなる。
そして、出口流路116を移動した液体は、出口流路116のイナータンスによって慣性力が働くため、ポンプ室102の内部圧力が負圧となり、入口側バッファー室112からポンプ室102に液体を供給することが可能となる。このとき、出口流路116のイナータンスは、入口側バッファー室112とポンプ室102との間の連通路のイナータンスに比べて大きいため、出口流路116を移動する液体は殆どポンプ室102に戻ることはなく、専ら入口側バッファー室112の液体がポンプ室102に供給される。これは、出口側の流路(出口流路116)のイナータンスに比べて、入口側の流路(逆止弁110が設けられた通路部分)のイナータンスが大幅に小さいことに因る。
ここでイナータンスとは、流路の特性値であり、流路の一端に圧力が加わったことによって流路内の流体が流れようとするときの、流体の流れ易さを示している。例えば、最も単純な場合として、断面積がSで長さがLの流路に密度ρの流体(ここでは液体とする)が満たされており、流路の一端に圧力P(正確には、両端での圧力差P)が加わったものとする。流路内の流体には圧力P×断面積Sの力が作用し、その結果、流路内の流体が流れ出す。その時の流体の加速度をaとすると、流路内の流体の質量は密度ρ×断面積S×長さLだから、運動方程式を立てて変形すると、
P=ρ×L×a ・・・(6)
が得られる。更に、流路を流れる体積流量をQ、流路を流れる流体の流速をvとすると、
Q=v×S だから、
dQ/dt=a×S ・・・(7)
が成り立つ。(7)式を(6)式に代入すると、
P=(ρ×L/S)×(dQ/dt) ・・・(8)
となる。この式は、流路内の流体についての運動方程式を、流路の一端に加わる圧力P(正確には両端での圧力差)と、dQ/dtとを用いて表した式である。(8)式は、同じ圧力Pが加わるのであれば、(ρ×L/S)が小さくなるほど、dQ/dtが大きくなる(すなわち、流速が大きく変化する)ことを表している。この(ρ×L/S)が、イナータンスと呼ばれる値である。
図1に示した本実施例の送液ポンプ100では、出口流路116のイナータンスは、内径が小さくかつ通路長が長いので大きな値となる。これに対してポンプ室102の入口側の流路のイナータンスは、逆止弁110が設けられた通路部分の通路長が短いので小さな値となる。このため、ポンプ室102が負圧となったときに、合成イナータンスの大きな出口側の液体はほとんど吸い込まれず、専ら合成イナータンスの小さな入口側の液体がポンプ室102に吸い込まれるのである。以上の理由により、ポンプ室102の容積を減少させると、ポンプ室102で加圧された液体が出口流路116を介して出口側バッファー室118に移動するので、ポンプ室102の内部圧力が直ぐに(時定数τよりも短い時間で)下降する。そして、出口流路116を通る液体の慣性によってポンプ室102の内部圧力が負圧となり、逆止弁110を介して直ぐにポンプ室に液体が供給されるので、この時定数τよりも短い周期で送液ポンプ100を駆動した場合でも、効率よく液体を送液することが可能となる。
一方、出口側バッファー室118に流入した液体は液体流路122の高い流路抵抗によってほとんど流れ出ないので、出口側バッファー室118の内部圧力が上昇する。このとき、ポンプ室102の内部圧力が下降しているため、出口流路116内の液体の慣性力は次第に減少する。ポンプ室102から出口側バッファー室118との間には逆止弁110が設けられていないので、やがて出口側バッファー室118からポンプ室102への逆流が生じる。ポンプ室102へ液体が逆流しても、逆止弁110により入口側バッファー室112へ液体が流れ出ないので、ポンプ室102の内部圧力が再び上昇し、逆流していた液体が出口側バッファー室118に向けて流れ出す。これにより、再びポンプ室102が負圧となり、入口側バッファー室112からポンプ室102に更に液体を供給することが可能となる。このような振動を繰り返すことによって、一度の駆動で逆止弁110を複数回(図2に示した例では2回)開いて、ポンプ室102に液体を供給することが可能となる。
この現象は、通常、ポンプ室102と出口側バッファー室118との間で伝播する液体中の圧力波による伝播と理解されがちである。しかし、本実施例の送液ポンプ100は、ポンプ室102と出口側バッファー室118との距離が短く(出口側バッファー室の大きさにかかわらず、どんなに長くても10cm(センチメートル)程度であり)、液体中の音速を約1000m/sec(メートル/秒)としても、圧力波の伝播による振動周期は最長でも0.2msec(ミリ秒)となる筈である。しかしながら、図2(B)あるいは図2(C)に示す振動の固有振動周期は、出口側バッファー室118の容積が小さい場合には約0.35msec、出口側バッファー室118の容積が大きい場合には約0.4msecとなっており、圧力波の伝播によっては説明することができない。
しかしこの現象は、液体の圧縮性を考慮する(すなわち、液体を圧縮性流体として取り扱う)ことによって、説明することができる。すなわち、ポンプ室102のコンプライアンス、出口流路116のイナータンス、出口側バッファー室118のコンプライアンスで形成される固有振動(共振)と考えれば、その固有振動周期Tは以下の(9)式で表すことができる。
T=2π(MC)1/2 ・・・(9)
ここで、Mは出口流路116のイナータンス、Cはポンプ室102及び出口側バッファー室118の合成コンプライアンスである。また、ポンプ室102のコンプライアンスをC1、出口側バッファー室118のコンプライアンスをC2とすると、合成コンプライアンスCは、以下の(10)式によって与えられる。
C=1/{1/C1+1/C2} ・・・(10)
(9)式に示される固有振動を用いれば、図2に示す振動を再現することが可能となるし、出口側バッファー室118の容積が大きいほど(出口側バッファー室のコンプライアンスが大きくなるので)固有振動周期Tが長くなる現象も説明することができる。また、(9)式及び(10)式から、ポンプ室102の容積によっても固有振動周期Tが変化することが分かる。
図3は、出口側バッファー室118の有無による送液量の違いを示した説明図である。言い換えると、出口側バッファー室118を有さない従来の送液ポンプと、出口側バッファー室118を有する本実施例の送液ポンプ100における送液量の計測結果である。図3に示されるように、出口側バッファー室118を設けることによって、送液量が大幅に増加している。更に、出口側バッファー室118の容積が大きいほど送液量が増加している。これは、次のような理由による。
入口側バッファー室112の液体は、ポンプ室102が負圧になっている期間(負圧期間)にポンプ室102に流入する。したがって、この負圧期間が長い方が、入口側バッファー室112からポンプ室102に流れ込む液体の流量(この流量が送液量となる)が多くなる。ここで、図2に示されるように、ポンプ室102の内部圧力の振動は、出口流路116の流路抵抗によって減衰するため、ポンプ室102の内部圧力が負圧となる回数には限りがある。このため、毎回の負圧期間が長いほどポンプ室102への流量が多くなるので、そのためには固有振動周期Tを長く設定する方がよい。そして、(9)式から明らかなように、固有振動周期Tを長くするためには、合成コンプライアンスCを大きくすればよい。しかし、ポンプ室102の容積(コンプライアンス)を大きくすると、ポンプ室102の容積に対するポンプ室102の容積を減少させたことによる排除体積の割合が小さくなるので、ポンプ室102の圧力が低くなってしまう。そこで、出口側バッファー室118の容積(コンプライアンス)を大きくすることで、送液量を増加することが可能となる。
図4は、ポンプ室102の容積に対する出口側バッファー室118の容積の影響を示した説明図である。言い換えると、出口側バッファー室118の容積(コンプライアンス)を、ポンプ室102の容積(コンプライアンス)に対して異ならせたときの送液量の変化を示した説明図である。図示されるように、出口側バッファー室118の容積(コンプライアンス)は、ポンプ室102の容積(コンプライアンス)に対して10倍以上に設定すると、少なくとも2倍以上の送液量を得ることが可能となり、100倍以上に設定すると送液量が飽和する。尚、この固有振動期間では、ポンプ室102の内部圧力が変動しているが、出口側バッファー室118の容積(コンプライアンス)がポンプ室102の容積(コンプライアンス)に対して大きくなるほど、出口側バッファー室118の内部圧力の変化が小さくなる。このため、ポンプ室102に対して出口側バッファー室118の容積(コンプライアンス)を大きくすることは、脈動を抑制する効果もある。
図5は、本実施例の送液ポンプ100の駆動を開始した後、送液量が安定するまでの時間変化を示した説明図(測定例)である。ここで、図5の実線は図3、図4に示す出口側バッファバッファー室118の容積が大きい(ポンプ室102の容積に対して出口側バッファー室118の容積が100倍)の場合であり、破線は実線の場合よりも出口側バッファバッファー室118の容積が更に大きい(ポンプ室102の容積に対して出口側バッファー室118の容積が200倍)の場合である。送液ポンプ100の駆動を開始した直後は、徐々に出口側バッファー室118の内部圧力が上昇し、それと共に送液量が増加する。出口側バッファー室118の容積(コンプライアンス)が大き過ぎると、出口側バッファー室118の内部圧力の上昇が緩やかになるため、送液量が安定するまでに時間がかかる。このため、出口側バッファー室118の容積(コンプライアンス)は、大き過ぎない方がよい。また、図6に例示したように、液体流路122を流れる液体を入口流路114に還流させて循環流路を構成した場合には、出口側バッファー室118で貯められる液体が多くなると、液体流路122内を循環する液体が不足して入口側バッファー室112が負圧状態となり、送液量が減少してしまうおそれも生じる。これらの理由から、出口側バッファー室118の容積(コンプライアンス)は、ポンプ室102の容積(コンプライアンス)に対して、おおよそ100倍以内が望ましい。
図6は、本実施例の送液ポンプ100を用いて循環流路を構成した場合を例示した説明図である。
図7は、出口側バッファー室118の容積に対する入口側バッファー室112の容積の影響を示した説明図である。言い換えると、入口側バッファー室112の容積(コンプライアンス)を、出口側バッファー室118の容積(コンプライアンス)に対して異ならせたときの送液量の変化を示した説明図である。入口側バッファー室112の容積(コンプライアンス)は、出口側バッファー室118の容積(コンプライアンス)に対して5倍以上に設定すると送液量が安定する。これは、入口側バッファー室112が十分な容積(コンプライアンス)を有していれば、ポンプ室102で送液した液体が出口側バッファー室118に貯められたとしても、入口側バッファー室112が過剰に負圧にならないためと考えられる。このことから、入口側バッファー室112は、出口側バッファー室118に対して5倍以上の容積(コンプライアンス)を有していることが望ましい。
以上、本実施例の送液ポンプ100について説明したが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、プロジェクターなどで発生する熱源を、冷媒液などの流体を循環させることによって冷却する流体循環装置に適用することができる。また、薬剤や栄養剤を内包するマイクロカプセルを形成することに用いる薬液噴射具や、液体流路の先端の径を細くして、流体(水、生理食塩水、薬液など)をその先端から高圧のジェット状に噴射させて対象物を切除するジェットメスなどの手術具を含む医療機器など、様々な電子機器に適用することができる。また、本実施例の送液ポンプ100における出口側バッファー室118や入口側バッファー室112は、必ずしもステンレス鋼などの大変に硬い部材で構成されている必要はなく、弾性率の小さい部材を用いれば、その容積が小さくても十分に大きなコンプライアンスを得ることができ、非常に小さな送液ポンプを実現することが可能となる。
100…送液ポンプ、102…ポンプ室、104…ダイアフラム、106…圧電素子、108…ケース、110…逆止弁、112…入口側バッファー室、114…入口流路、116…出口流路、118…出口側バッファー室、122…液体流路。

Claims (7)

  1. 積が変更可能なポンプ室と、
    前記ポンプ室から液体流路に向けて液体が流出する出口流路と、
    前記出口流路と前記液体流路との間に設けられて、前記ポンプ室のコンプライアンスよりも大きなコンプライアンスを有する出口側バッファー室と、
    前記ポンプ室に前記液体を供給する入口流路と、を備え、
    前記出口流路の流路抵抗が、前記液体流路の流路抵抗よりも低く、
    前記ポンプ室の容積を増減させる1サイクルあたりの時間が、前記ポンプ室のコンプライアンスと前記出口流路の入口から前記液体流路の出口までの流路抵抗との積で定められる時定数よりも短いことを特徴とする送液ポンプ。
  2. 請求項1に記載の送液ポンプにおいて、
    前記入口流路と前記ポンプ室との間に設けられた逆止弁を備える、送液ポンプ。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の送液ポンプにおいて、
    前記出口側バッファー室のコンプライアンスは、前記ポンプ室のコンプライアンスに対して10倍以上であることを特徴とする送液ポンプ。
  4. 容積が変更可能なポンプ室と、
    前記ポンプ室から液体流路に向けて液体が流出する出口流路と、
    前記出口流路と前記液体流路との間に設けられて、前記ポンプ室のコンプライアンスよりも大きなコンプライアンスを有する出口側バッファー室と、
    前記ポンプ室に前記液体を供給する入口流路と、
    前記入口流路と前記ポンプ室との間に設けられた逆止弁と、
    前記入口流路と前記逆止弁との間に設けられた入口側バッファー室と、を備え、
    前記ポンプ室の容積を増減させる1サイクルあたりの時間が、前記ポンプ室のコンプライアンスと前記出口流路の入口から前記液体流路の出口までの流路抵抗との積で定められる時定数よりも短いことを特徴とする送液ポンプ
  5. 請求項4に記載の送液ポンプにおいて、
    前記入口側バッファー室のコンプライアンスが、前記出口側バッファー室のコンプライアンスに対して5倍以上であることを特徴とする送液ポンプ。
  6. 請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の送液ポンプを有する液体循環装置。
  7. 請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の送液ポンプを有する医療機器。
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