(実施形態1)
本実施形態の負荷制御装置1は、図1に示すように、双方向に流れる電流をオン・オフする双方向スイッチ10と、双方向スイッチ10の導通(オン)・遮断(オフ)を切り替える駆動回路20とを備えている。図1の例では、負荷制御装置1は、交流電源32から負荷(電気機器等)31への供給電力のスイッチングに用いられており、双方向スイッチ10が交流電源32と負荷31との間に挿入されている。
双方向スイッチ10は、それぞれトランジスタからなる第1および第2のスイッチング素子11,12を一体に有する素子である。なお、以下では第1および第2のスイッチング素子11,12に共通する点については、両スイッチング素子11,12を特に区別せずに説明する。
第1および第2の各スイッチング素子11,12は制御端子としてのゲート端子と、第1端子・第2端子としてのドレイン端子とソース端子とを有する。詳しくは後述するが、スイッチング素子11,12は窒化物系半導体などのワイドバンドギャップの半導体材料を用いたFET(Field-Effect Transistor)からなる。ワイドバンドギャップとは、たとえばシリコン(Si)のバンドギャップ(1.1eV)の2倍以上のバンドギャップ(2.2eV以上)をいう。これにより、双方向スイッチ10は、導通(オン)状態での電流経路に存在する電気抵抗であるオン抵抗が比較的低く且つ大電流にも対応可能であって高耐圧のパワーデバイスを実現することが可能になる。ここでいうワイドバンドギャップ半導体とは、たとえば周期律表第2周期の軽元素を構成要素とする半導体と定義されており、窒化物系半導体のほか、炭化珪素(SiC)なども含んでいる。
双方向スイッチ10は、第1のスイッチング素子11のドレイン端子・ソース端子間の電流経路と、第2のスイッチング素子12のドレイン端子・ソース端子間の電流経路とが直列に接続されて構成されている。ここでは、両スイッチング素子11,12は、互いのドレイン端子同士が接続され、第1のスイッチング素子11のソース端子が交流電源32に接続され、第2のスイッチング素子12のソース端子が負荷31に接続されている。
駆動回路20は、第1および第2の各スイッチング素子11,12のゲート端子・ソース端子にそれぞれ接続されており、各スイッチング素子11,12のゲート端子・ソース端子間に制御電圧としてのゲート電圧Vg1,Vg2を印加する。ここで、駆動回路20は、両方のスイッチング素子11,12に対して同値のゲート電圧を印加するので、以下、各スイッチング素子11,12にそれぞれ印加されるゲート電圧Vg1とゲート電圧Vg2とを特に区別しないときには単に「ゲート電圧Vg」という。
駆動回路20は、ゲート電圧Vgを制御することにより、各スイッチング素子11,12のドレイン端子・ソース端子間の電流経路の導通・遮断を切り替え、双方向スイッチ10をオンオフ制御する。スイッチング素子11,12は、ゲート電圧Vgが所定の閾値を下回る場合にドレイン端子・ソース端子間の電流経路が遮断され、ゲート電圧Vgが閾値を超える場合にドレイン端子・ソース端子間の電流経路が導通するノーマリオフ型のスイッチ素子を構成する。
ここで、駆動回路20は、双方向スイッチ10にゲート電圧Vgを印加する素子駆動部としてのゲート駆動部21と、ゲート駆動部21の動作を制御する制御部22とを有している。ゲート駆動部21は、出力電圧(ゲート電圧Vg)の大きさが可変である直流電圧源からなる。制御部22は、外部からのオンオフ信号を受け、オンオフ信号が「H」の期間に双方向スイッチ10にゲート電圧Vgが印加され双方向スイッチ10がオンするように、ゲート駆動部21に対して駆動信号を出力する。駆動信号を受けたゲート駆動部21は、駆動信号によって決まる大きさのゲート電圧Vgを第1および第2の両スイッチング素子11,12に印加する。
次に、本実施形態における双方向スイッチ10の基本的な構造および動作について簡単に説明する。
双方向スイッチ10を構成する各スイッチング素子11,12は、ガリウムナイトライド(GaN)などの窒化系物系半導体材料を用いたFETであって、本実施形態ではAlGaN/GaNヘテロ接合を用いたFETを採用している。
このスイッチング素子11,12を用いた双方向スイッチ10は、JFET(junction FET)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor FET)の特性と同じく、図2(a)に示すようにゲート電圧Vgの大きさに応じて素子電流Idの最大値が決定される。ここでいう素子電流Idは、双方向スイッチ10の両端間を流れる電流であって、各スイッチング素子11,12のドレイン電流に相当する。
図2(a)では、ゲート電圧VgがG1,G2,G3(G1<G2<G3)のそれぞれの場合における、双方向スイッチ10の両端に掛かる電圧(以下、「極間電圧」という)Vs(横軸)と素子電流Id(縦軸)との関係を表している。ここで、ゲート電圧Vg=G1のときの素子電流Idの最大値は「I1」、ゲート電圧Vg=G2のときの素子電流Idの最大値は「I2」、ゲート電圧Vg=G3のときの素子電流Idの最大値は「I3」である(I1<I2<I3)。つまり、双方向スイッチ10は、ゲート電圧Vgが高くなるほど両端間に流せる電流の最大値が大きくなる。
なお、ゲート電圧Vgが十分大きければ図2(a)に示すように極間電圧Vsと素子電流Idとは略比例関係にある。図2(a)の例では、極間電圧Vs=V1のときに素子電流Id=I1、極間電圧Vs=V2のときに素子電流Id=I2、極間電圧Vs=V3のときに素子電流Id=I3となる(V1<V2<V3)。
また、各スイッチング素子11,12は、ジャンクションゲート構造を持ち、図2(b)に示すようにゲート電圧Vg(横軸)が大きくなるに連れてゲート端子から流れ込む制御電流としてのゲート電流Ig(縦軸)が増加する特性を有している。そのため、スイッチング素子11,12はゲート電圧Vgが大きくなればゲート電力(Vg×Ig)も大きくなる。このゲート電力は、スイッチング素子11,12をオンするために駆動回路20のゲート駆動部21から供給されるので、ゲート電圧Vgが大きくなると駆動回路20の消費電力が増加することになる。
さらにまた、この双方向スイッチ10は、図2(c)に示すように極間電圧Vs(横軸)の大きさに応じて各スイッチング素子11,12のゲート電流Ig(縦軸)の大きさが変化する。ここで、極間電圧Vsに対するゲート電流Igの大きさは、極間電圧Vsについて高電位側になるスイッチング素子と低電位側になるスイッチング素子とで異なる。本実施形態では負荷制御装置1は交流電源32に接続されているので、双方向スイッチ10に印加される極間電圧Vsの極性は周期的に入れ替わるので、高電位側と低電位側とは交互に入れ替わることになる。
すなわち、低電位側のスイッチング素子においては、図2(c)に実線で示すように極間電圧Vsが増加するに従ってゲート電流Igは減少する。一方、高電位側のスイッチング素子においては、図2(c)に二点鎖線で示すように極間電圧Vsが増加するに従ってゲート電流Igは増加する。また、低電位側のスイッチング素子と高電位側のスイッチング素子とは、ゲート電圧Vgが同値であれば極間電圧Vsがゼロのときのゲート電流Igが同値になる。なお、いずれのスイッチング素子11,12においても、極間電圧Vsがある大きさを超えるとゲート電流Igは一定となる。
低電位側のスイッチング素子において、極間電圧Vsの増加に従ってゲート電流Igが減少するのは以下の理由による。つまり、各スイッチング素子11,12のゲート端子とその直下との間にはダイオードが形成されており、このダイオードに印加される順方向電圧が低下するとゲート電流Igが減少することになる。ここで、極間電圧Vsが増加すると、素子電流Idが増加するためドレイン端子・ソース端子間の抵抗(チャネル抵抗)によってゲート端子直下の電位が上昇し、上記ダイオードの順方向電圧が低下してゲート電流Igは減少する。
一方、高電位側のスイッチング素子において、極間電圧Vsの増加に従ってゲート電流Igが増加するのは以下の理由による。ここでは、第1のスイッチング素子11が高電位側となる場合を例とし、スイッチング素子11の第1端子・第2端子のうち素子電流Idに対して上流側になる端子をドレイン端子、下流側になる端子をソース端子として説明する。
素子電流Idが十分に小さいときには極間電圧Vsが略ゼロであるため、スイッチング素子11のドレイン端子とソース端子とは略同電位になる。したがって、駆動回路20がスイッチング素子11のドレイン端子・ゲート端子間に印加するゲート電圧Vgと同等の電圧が、スイッチング素子11のソース端子・ゲート端子間にも印加されることになる。これに対して、極間電圧Vsが増加して素子電流Idが増加すると、スイッチング素子11のドレイン端子の電位はソース端子の電位よりも高くなるため、スイッチング素子11のソース端子・ゲート端子間にはゲート電圧Vgより大きな電圧が印加されることになる。スイッチング素子11のソース端子・ゲート端子間電圧が増加するとゲート電流Igは増加する関係にあるため、結果的に、高電位側のスイッチング素子においては、極間電圧Vsが増加するとゲート電流Igが増加する。
ところで、本実施形態の負荷制御装置1は、双方向スイッチ10の各スイッチング素子11,12に流れ込むゲート電流Ig1,Ig2を検出する電流検出部40を駆動回路20に備え、電流検出部40の検出値が制御部22へ入力されるように構成されている。以下、第1のスイッチング素子11のゲート電流Ig1と第2のスイッチング素子12のゲート電流Ig2とを特に区別しないときには単に「ゲート電流Ig」という。
ゲート電流Igは、上述したように極間電圧Vsの増加に伴い、低電位側のスイッチング素子では減少し、高電位側のスイッチング素子では増加する。ここで、極間電圧Vsは双方向スイッチ10の両端間を通して負荷31に流れる負荷電流(=素子電流)ILの大きさに応じて変動するので、結果的に、電流検出部40の検出値(ゲート電流Ig)には負荷31に流れる負荷電流ILの大きさが反映されることになる。
また、上述のようにゲート電流Igの大きさは高電位側のスイッチング素子と低電位側のスイッチング素子とで異なるので、本実施形態では、電流検出部40は第1および第2の各スイッチング素子11,12ごとに個別に設けられている。制御部22には、各電流検出部40の検出値が個別に入力される。
制御部22は、外部から入力されるオンオフ信号と、電流検出部40から入力される検出値(ゲート電流Ig)との両方に基づいて、ゲート駆動部21に与える駆動信号を決定する。つまり、制御部22は、オンオフ信号が「H」の期間において、ゲート電流Igの大きさに応じたゲート電圧Vgが双方向スイッチ10に印加されるように、ゲート駆動部21に与える駆動信号を調節する。ここでは、制御部22は、2個のスイッチング素子11,12のうち低電位側のスイッチング素子のゲート電流Igが小さくなるほどゲート電圧Vgが大きくなるように、駆動信号を変化させる。したがって、双方向スイッチ10は、電流検出部40の検出値に応じたゲート電圧Vgで駆動されることになる。
ここにおいて、ゲート電流Igは高電位側のスイッチング素子と低電位側のスイッチング素子とで異なるが、上述のように高電位側と低電位側とは交互に入れ替わるので、どちらのスイッチング素子11,12が低電位側であるか特定することはできない。ただし、本実施形態のようにゲート電圧Vgが同値であれば、図2(c)に示すように高電位側と低電位側とでは低電位側のスイッチング素子の方がゲート電流Igは極間電圧Vsの大きさに関わらず小さくなる。そこで、本実施形態では、制御部22は、2つの電流検出部40にて検出される各スイッチング素子11,12のゲート電流Igのうち、小さい方のゲート電流Igを低電位側のスイッチング素子のゲート電流Igとして用いる。
以下の説明では、駆動回路20がゲート電圧Vgの大きさをG1,G2,G3の3段階で変化させる場合を例示し、駆動回路20がゲート電圧Vgを切り替えるときの基準となる極間電圧Vsの閾値をV1,V2,V3(V1<V2<V3)とする(図2(a)参照)。要するに、制御部22は、極間電圧VsがVs≦V1のときにゲート電圧Vg=G1となり、極間電圧VsがV1<Vs≦V2のときにゲート電圧Vg=G2となり、極間電圧VsがV2<Vs≦V3のときにゲート電圧Vg=G3となるように、駆動信号を決定する。
ここで、極間電圧Vs=V1となるのは、図2(c)に示すようにゲート電圧Vg=G1で低電位側のゲート電流Igが「It1」のときである。同様に、極間電圧Vs=V2となるのは、ゲート電圧Vg=G2で低電位側のゲート電流Igが「It2」のときであり、極間電圧Vs=V3となるのは、ゲート電圧Vg=G3で低電位側のゲート電流Igが「It3」のときである。そこで、制御部22は、ゲート電圧Vg=G1のときに低電位側のゲート電流IgがIg>It1であればゲート電圧Vg=G1になり、このゲート電流IgがIg≦It1になればゲート電圧Vg=G2になるように、駆動信号を決定する。同様に、制御部22は、ゲート電圧Vg=G2のときに低電位側のゲート電流IgがIg≦It2になれば、ゲート電圧Vg=G3になるように駆動信号を決定する。
次に、本実施形態の負荷制御装置1の動作について説明する。
オンオフ信号が「H」になると、制御部22からの駆動信号によりゲート駆動部21が駆動され、ゲート駆動部21からのゲート電圧Vgにより双方向スイッチ10がオンして負荷31に負荷電流ILが流れ始める。ここで、駆動回路20は、オンオフ信号が「H」に変化した直後にはゲート電圧VgをG1,G2,G3のうち最も低いG1に設定する。したがって、制御部22は、電流検出部40で検出される低電位側のゲート電流IgがIt1より大きければ、ゲート電圧Vgを初期値(G1)から変化させないように駆動信号を固定する。
負荷電流ILが増加してI1に達し、極間電圧VsがV1を超えると、低電位側のゲート電流IgはIt1以下になるため、制御部22は、ゲート電圧VgをG1からG2(>G1)に変化させるように、ゲート駆動部21に与える駆動信号を変化させる。その後、制御部22は、電流検出部40で検出される低電位側のゲート電流IgがIt2よりも大きい間は、ゲート電圧VgをG2から変化させないように駆動信号を固定する。
負荷電流ILがさらに増加してI2に達し、極間電圧VsがV2を超えると、低電位側のゲート電流IgはIt2以下になるため、制御部22は、ゲート電圧VgをG2からG3(>G2)に変化させるように、ゲート駆動部21に与える駆動信号を変化させる。その後、制御部22は、電流検出部40で検出される低電位側のゲート電流IgがIt3よりも大きい間は、ゲート電圧VgをG3から変化させないように駆動信号を固定する。
すなわち、駆動回路20は、電流検出部40で検出される低電位側のゲート電流Igが所定の閾値(It1,It2)以下になる度に、双方向スイッチ10に印加されるゲート電圧Vgを高くするように動作する。
その後、オンオフ信号が「L」になると、制御部22からの出力が停止してゲート駆動部21の動作が停止し、ゲート電圧Vgがゼロになることにより双方向スイッチ10がオフして負荷電流ILが停止する。再びオンオフ信号が「H」になると、制御部22からの駆動信号によりゲート駆動部21が再駆動され、ゲート駆動部21からのゲート電圧Vg(=G1)により双方向スイッチ10がオンして負荷31に負荷電流ILが流れ始める。
また、オンオフ信号が「H」の期間中において、負荷電流ILは増加するだけではなく減少することもあるため、一旦閾値を超えた極間電圧Vsが、負荷電流ILの減少に伴い低下して閾値を下回る場合がある。この場合における負荷制御装置1の動作について以下に説明する。
極間電圧Vs=V1となるのは、ゲート電圧Vg=G1で低電位側のゲート電流Ig=It1のときの他、ゲート電圧Vg=G3で低電位側のゲート電流Igが「It31」のとき、ゲート電圧Vg=G2で低電位側のゲート電流Igが「It21」のときがある。また、極間電圧Vs=V2となるのは、ゲート電圧Vg=G2で低電位側のゲート電流Ig=It2のときの他、ゲート電圧Vg=G3で低電位側のゲート電流Igが「It32」(<It31)のときがある。
そこで、制御部22は、ゲート電圧Vg=G3のときに低電位側のゲート電流IgがIt32<Ig≦It31になればゲート電圧Vg=G2になり、このゲート電流IgがIg>It31になればゲート電圧Vg=G1になるように、駆動信号を決定する。同様に、制御部22は、ゲート電圧Vg=G2のときに低電位側のゲート電流IgがIg>It21になれば、ゲート電圧Vg=G1になるように駆動信号を決定する。
したがって、ゲート電圧Vg=G3の場合において、負荷電流ILが減少してI2に達し、極間電圧VsがV2以下になると、低電位側のゲート電流IgはIt32を超えるため、制御部22は、ゲート電圧VgをG2に変化させるように、駆動信号を変化させる。その後、制御部22は、電流検出部40で検出される低電位側のゲート電流IgがIt2<Ig≦It21の範囲内にある間は、ゲート電圧VgをG2から変化させないように駆動信号を固定する。
負荷電流ILがさらに減少してI1に達し、極間電圧VsがV1以下になると、低電位側のゲート電流IgはIt21を超えるため、制御部22は、ゲート電圧VgをG2からG1に変化させるように、ゲート駆動部21に与える駆動信号を変化させる。その後、制御部22は、電流検出部40で検出される低電位側のゲート電流IgがIg>It1の範囲内にある間は、ゲート電圧VgをG1から変化させないように駆動信号を固定する。
すなわち、駆動回路20は、電流検出部40で検出される低電位側のゲート電流Igが所定の閾値(It31,It32,It21)を超える度に、双方向スイッチ10に印加されるゲート電圧Vgを低くするように動作する。
ただし、ゲート電圧Vgを下げるための極間電圧Vsの閾値と、ゲート電圧Vgを上げるための極間電圧Vsの閾値との間に差が付けられていてもよい。たとえば、ゲート電圧VgをG1からG2に上げるための極間電圧Vsの閾値がV1であれば、ゲート電圧VgをG2からG1へ下げるための極間電圧Vsの閾値はV1よりも小さいV11であってもよい。これにより、極間電圧Vsが上昇して制御部22がゲート電圧VgをG1からG2に切り替えた後、負荷電流ILのリンギングなどにより極間電圧Vsが一時的に低下しても、制御部22はゲート電圧VgをG2に保つことが可能である。つまり、ゲート電圧Vgの頻繁な切り替えに伴い生じる損失を低減することができる。
次に、本実施形態の負荷制御装置1の具体的な構成について図3を参照して説明する。なお、図1ではスイッチング素子11,12の等価回路で双方向スイッチ10が表されていたのに対し、図3では双方向スイッチ10は1つの素子として表されているが、いずれの双方向スイッチ10も機能は同一である。
負荷制御装置1は、ゲート駆動部21が、トランス23,24と、トランス23,24の一次巻線231,241に直列に接続されたスイッチ要素としてのトランジスタ(ここではMOSFET)25,26とを有するフライバックコンバータから構成されている。ここで、ゲート駆動部21は、第1および第2の各スイッチング素子11,12のゲート端子・ソース端子間にゲート電圧Vg1,Vg2をそれぞれ印加するため、フライバックコンバータは各スイッチング素子11に対応してそれぞれ設けられている。
一次巻線231,241とトランジスタ25,26との直列回路には、直流電源(図示せず)から一定の直流電圧Vddが印加されており、トランジスタ25,26のゲート端子には制御部22から周期的な矩形波からなる駆動信号が入力されている。これにより、駆動信号が「H」、「L」を交互に繰り返すことによって一次巻線231,241に間欠的に電流が流れ、各トランス23,24の二次巻線232,242に電圧が発生することになる。
第1のスイッチング素子11駆動用のトランス23の二次巻線232は、両端間にダイオードD1を介してコンデンサC1が接続されており、電圧発生時にダイオードD1を介してコンデンサC1を充電する。同様に、第2のスイッチング素子12駆動用のトランス24の二次巻線242は、両端間にダイオードD2を介してコンデンサC2が接続されており、電圧発生時にダイオードD2を介してコンデンサC2を充電する。各コンデンサC1,C2は、それぞれ第1および第2の各スイッチング素子11,12のゲート端子・ソース端子間に接続されている。
これにより、ゲート駆動部21は、コンデンサC1の両端に生じる電圧をゲート電圧Vg1として第1のスイッチング素子11に印加し、コンデンサC2の両端に生じる電圧をゲート電圧Vg2として第2のスイッチング素子12に印加する。第1のスイッチング素子11に印加されるゲート電圧Vg1と第2のスイッチング素子12に印加されるゲート電圧Vg2とは、たとえば両トランス23,24の巻数比を調節するなどして異なる値とすることもできるが、本実施形態では同値である。
一方、制御部22は、電流検出部40で検出される低電位側のゲート電流Igの大きさに応じてオンデューティが決まる矩形波を、駆動信号としてゲート駆動部21に出力する。これにより、ゲート駆動部21は、低電位側のゲート電流Igの大きさに応じたオンデューティにてPWM(Pulse Width Modulation)制御されることになる。
図4は、ゲート駆動部21を構成しているフライバックコンバータのPWM制御時の動作の説明図である。ここでは、第2のスイッチング素子12駆動用のフライバックコンバータについて説明するが、第1のスイッチング素子11駆動用のフライバックコンバータについても同様である。
トランジスタ26が駆動信号によりオンオフ制御されると、図4(a)に示すようにトランス24の一次巻線241に一次側電流Ipが流れ、トランス24の二次巻線242には二次側電圧Voが発生する。これにより、ダイオードD2を通して二次側電流Isが流れてコンデンサC2が充電され、フライバックコンバータの出力端間には下記数1の式で表されるゲート電圧Vg2が生じる。数1では、Dは駆動信号のオンデューティ、Nsはトランス24の二次巻線242の巻数、Npは一次巻線241の巻数、Vddは一次巻線241とトランジスタ26との直列回路に印加される直流電圧を表している。
このフライバックコンバータは、重負荷状態(負荷抵抗が小さいとき)では、トランス24に電流が連続的に流れる電流連続モード(臨界モードを含む)で動作する。電流連続モードにおいては、トランス24の一次巻線241を流れる一次側電流Ipは、一次巻線241のインダクタンスをLpとしてVdd/Lpで表される傾きで、トランジスタ26がオンの期間(図4の「Ton」の期間)に時間経過に伴って増加する。また、トランス24の二次巻線242を流れる二次側電流Isは、二次巻線242のインダクタンスをLsとして−Vo/Lsで表される傾きでトランジスタ26がオフの期間(図4の「Toff」の期間)に時間経過に伴って減少する。
ここで、フライバックコンバータは、図4(b),(c)に示すように電流連続モード(臨界モードを含む)においては出力電流(つまりゲート電流Ig)Ioが増加すると、その増加分に応じて一次側電流Ipと二次側電流Isとの両方が増加する。つまり、図4(b)の臨界モードにある状態で出力電流Ioが増加すると、一次側電流Ipおよび二次側電流Isが出力電流Ioの増加分に応じて増加し(図4(c)の斜線部分)、図4(c)の電流連続モードへ移行する。なお、図4(b)は臨界モードにおける一次側電流Ip(上段)と二次側電流Is(下段)を表し、図4(c)は電流連続モードにおける一次側電流Ip(上段)と二次側電流Is(下段)を表している。
そこで、本実施形態では、電流検出部40は、各一次巻線231,241とそれぞれ直列になるようにトランス23,24ごとに個別に設けられており、各トランス23,24の一次側電流Ipを個別に検出する(図3参照)。このように、トランス23,24ごとに一次側電流231,241を電流検出部40で個別に検出することにより、電流検出部40は、各フライバックコンバータの出力電流Io、つまり各スイッチング素子11,12のゲート電流Igを個別に検出することができる。
そのため、トランス23,24以外には、絶縁用のフォトカプラや高耐圧部品を用いることなく、電流検出部40は、制御部22と絶縁された双方向スイッチ10のゲート電流Igを制御部22側で検出でき、負荷制御装置1の小型化が可能になる。要するに、電流検出部40がトランス23,24の二次側で各スイッチング素子11,12のゲート電流Igを検出する構成に比べると、二次側で検出したゲート電流を一次側(制御部22側)に出力する必要がないため高耐圧部品の部品点数を少なくできる。
以上説明した構成によれば、負荷制御装置1は、負荷31に流れる負荷電流ILが小さければゲート電圧Vgを低くでき、双方向スイッチ10を駆動するために消費される電力(ゲート電力)を小さく抑えることができるという利点がある。すなわち、駆動回路20は、ゲート電圧Vgを一定値に固定するのではなく、双方向スイッチ10のゲート電流Igの大きさに応じてゲート電圧Vgを変化させるので、負荷電流ILの大きさに合わせた適切なゲート電圧Vgで双方向スイッチ10を駆動できる。
したがって、負荷制御装置1は、比較的大きな負荷電流ILに対応させられる場合でも、負荷電流ILが小さいときには双方向スイッチ10に印加されるゲート電圧Vgを低く抑えることができる。これにより、負荷制御装置1は、ゲート端子から流れ込むゲート電流Igも小さく抑えることができ、双方向スイッチ10を駆動するために駆動回路20から供給される電力、つまり駆動回路20の消費電力も比較的小さく抑えることが可能になる。
また、本実施形態では、駆動回路20は、負荷電流ILの増加に伴いゲート電圧Vsを高くするだけでなく、負荷電流ILの減少に伴いゲート電圧Vsを低下させるので、負荷電流ILが減少した場合でも消費電力を低減することができる。そのため、負荷制御装置1は、双方向スイッチ10がオンした直後に突入電流が生じる負荷31に用いられる場合でも、突入電流で一時的に増加した負荷電流ILが減少した後には、ゲート電圧Vsを低くして駆動回路20の消費電力を低減することができる。
ここにおいて、負荷制御装置1は、上述したような突入電流に対応するため、オンオフ信号が「H」に切り替わってから所定の始動期間に亘っては、極間電圧Vsに依らずにゲート電圧Vgを最大値(ここではVg=G3)に維持するように構成されていてもよい。すなわち、始動期間には突入電流によって大きな負荷電流ILが流れることがあるため、制御部22は、双方向スイッチ10がオンした直後の所定時間(始動期間)には、ゲート電圧Vgを最大値に固定して大きな負荷電流ILを流せる状態とする。この始動期間においては、制御部22は、電流検出部40から入力される検出値(ゲート電流Ig)が変化しても、ゲート電圧Vgの切り替えは行わない。始動期間が経過すると、負荷制御装置1は、上述したようにゲート電流Igに応じてゲート電圧Vgを切り替える動作に移行する。
この構成によれば、双方向スイッチ10がオンした直後に、ゲート電圧Vgが最大値に固定されるので、ゲート電圧VgがG1からG2、G2からG3へと段階的に切り替えられる場合に比べ、ゲート電圧Vgの切り替えに伴う損失を小さく抑えることができる。しかも、始動期間の経過後には、ゲート電圧Vgを低下させることができるので、駆動回路20の消費電力を低減することができる。
また、負荷制御装置1は、素子電流(=負荷電流)Idが増加するのに伴ってゲート電圧Vgを高くするが、ゲート電圧Vgの切り替え時には双方向スイッチ10が飽和領域に入るため、図5に示すように極間電圧Vsが一時的に高くなる。極間電圧Vsが高くなると双方向スイッチ10の発熱量が増大するので、結果的に、ゲート電圧Vgが頻繁に切り替えわると双方向スイッチ10での損失が大きくなる。
そこで、本実施形態の他の例として、負荷制御装置1は、ゲート電圧Vgを上昇させた後の一定時間はゲート電圧Vgを低下させる動作を行わないように構成されていてもよい。すなわち、制御部22は、ゲート電圧Vgを上昇させた時点から一定時間の不感期間を設定し、この不感期間には電流検出部40から入力される検出値(ゲート電流Ig)が増加しても、ゲート電圧Vgを低下させる動作は行わない。ただし、不感期間においても、制御部22は、ゲート電流Igの減少に伴ってゲート電圧Vgを上昇させる動作については行う。不感期間が経過すると、駆動回路20は、その時点でのゲート電流Igに応じてゲート電圧Vgを切り替える動作に移行する。この機能は、たとえばピークホールド回路を用いて、不感期間の間はゲート電圧Vgがピーク値に保持されるように駆動回路20を構成することにより実現される。
この構成では、負荷電流ILのリンギングなどにより極間電圧Vsが頻繁に変動する場合に、一旦上がったゲート電圧Vgは不感期間が経過するまでは低下させられることがなく、ゲート電圧Vgの頻繁な切り替えに伴い生じる損失を低減することができる。
なお、スイッチング素子11,12はゲート端子とドレイン端子とソース端子とを有するトランジスタであればよく、ワイドバンドギャップの半導体材料を用いたFETに限らない。
また、上記実施形態では、駆動回路20が低電位側のゲート電流Igの閾値を用いてゲート電圧VgをG1,G2,G3の3段階で変化させる場合を例示したが、この例に限らず、ゲート電圧Vgはゲート電流Igの大きさに応じて連続的に変化してもよい。すなわち制御部22は、低電位側のゲート電流Igが小さくなるほどゲート電圧Vgが高くなり、低電位側のゲート電流Igが大きくなるほどゲート電圧Vgが低くなるように、低電位側のゲート電流Igの大きさに応じてゲート電圧Vgを変化させる構成であればよい。
(実施形態2)
本実施形態の負荷制御装置1は、図6に示すようにゲート駆動部21を構成するトランス23が1つである点が実施形態1の負荷制御装置1と相違する。
本実施形態では、ゲート駆動部21は、第1および第2の各スイッチング素子11,12のゲート端子・ソース端子間にゲート電圧Vg1,Vg2をそれぞれ印加するため、第1の二次巻線232と第2の二次巻線233とを有するトランス23が用いられている。一次巻線231とトランジスタ25との直列回路には、直流電源(図示せず)から一定の直流電圧Vddが印加されており、トランジスタ25のゲート端子には制御部22から周期的な矩形波からなる駆動信号が入力されている。これにより、駆動信号が「H」、「L」を交互に繰り返すことによって一次巻線231に間欠的に電流が流れ、第1および第2の各二次巻線232,233に電圧が発生することになる。
第1の二次巻線232は、両端間にダイオードD1を介してコンデンサC1が接続されており、電圧発生時にダイオードD1を介してコンデンサC1を充電する。同様に、第2の二次巻線233は、両端間にダイオードD2を介してコンデンサC2が接続されており、電圧発生時にダイオードD2を介してコンデンサC2を充電する。各コンデンサC1,C2は、それぞれ第1および第2の各スイッチング素子11,12のゲート端子・ソース端子間に接続されている。
これにより、ゲート駆動部21は、コンデンサC1の両端に生じる電圧をゲート電圧Vg1として第1のスイッチング素子11に印加し、コンデンサC2の両端に生じる電圧をゲート電圧Vg2として第2のスイッチング素子12に印加する。第1のスイッチング素子11に印加されるゲート電圧Vg1と第2のスイッチング素子12に印加されるゲート電圧Vg2とは、たとえば両二次巻線232,233の巻数比を調節するなどして異なる値とすることもできるが、本実施形態では同値である。
電流検出部40は、トランス23の一次巻線231と直列に接続されており、一次巻線231を流れる一次側電流Ipを検出する。ここで、トランス23の第1および第2の二次巻線232,233には、それぞれ各スイッチング素子11,12のゲート電流Ig1,Ig2に相当する大きさの二次側電流Isが流れる。そのため、電流検出部40では、第1および第2の両スイッチング素子11,12のゲート電流Ig1,Ig2の和を検出することができる。
ところで、本実施形態のゲート駆動部21は、フライバックコンバータの出力電圧の大きさに応じてゲート電流Igの上限値を制限する電流制限部27をさらに有している。電流制限部27は、二次巻線232,233ごとに設けられており、それぞれコンデンサC1,C2の両端に生じるゲート電圧Vg1,Vg2の大きさに応じてゲート電流Ig1,Ig2の上限値を制限する。具体的には、電流制限部27は、図7(a)に示すように、低電位側のゲート電流Igの最大値が上限となるようにゲート電圧Vgの大きさに応じてゲート電流Igを制限する。つまり、電流制限部27により、高電位側のゲート電流Igが、ゲート電圧Vgごとに定められた上限値Im1,Im2,Im3に制限されることになる。なお、図7(a)では、低電位側(実線)と高電位側(二点鎖線)とのそれぞれについて、極間電圧Vs(横軸)とゲート電流Ig(縦軸)との関係を示している。
そのため、電流検出部40で検出されるゲート電流Ig1,Ig2の和(Ig1+Ig2)は、図7(b)に示すように図7(a)の低電位側のゲート電流Igが各上限値Im1,Im2,Im3の分だけ底上げされた値となる。したがって、制御部22では、上限値Im1,Im2,Im3が既知であれば、電流検出部40で検出されるゲート電流Ig1,Ig2の和から各上限値Im1,Im2,Im3を差し引くことにより、低電位側のゲート電流Igを求めることができる。
以上説明した本実施形態の負荷制御装置1によれば、実施形態1のようにトランスを2つ用いることなく、1つのトランス23の一次側電流Ipから低電位側のゲート電流Igを検出することができる。そのため、トランスを2つ用いる場合に比べて、負荷制御装置1の小型化を図ることができるという利点がある。
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。