JP5875773B2 - 紫外光測定方法 - Google Patents

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本願は、紫外光測定方法並びにその方法にて使用される細胞およびベクターに関する。
人類が大量の化石燃料を使用することで大気中の酸素量が減少し、二酸化炭素量が増加していることはよく知られている。大気中の酸素量の減少は、太陽光の紫外線が酸素に当たることで生じているオゾン層の破壊を助長する。オゾン層の破壊により地表近くまで達する紫外線の量が増加すると、皮膚癌を発症するリスクが高まる。このようなリスクは、紫外線に対する耐性が低い北欧等の白人にとって特に顕著である。
また、皮膚癌ほどの強い影響でなくとも、太陽からの紫外線に人体を長時間さらすことは生体に影響をもたらす。例えば、皮膚、目、免疫系等において急性または慢性の疾患を引き起こす可能性がある。例えば、紫外線は皮膚を形成するコラーゲンの繊維にダメージを与え、皮膚の加齢を加速する。また、強い紫外線を目に受けた場合、雪眼炎(雪目、雪眼)や紫外眼炎(電気性眼炎)、白内障、翼状片、瞼裂斑形成等を発症する可能性がある。
一方で、生体への紫外線照射には利点もある。その主たるものは、皮膚におけるビタミンDの生成である。これまでに、紫外線を受ける時間が短いとビタミンDの欠乏が生じ、このことが何万人もの犠牲をもたらしているという主張がなされている。また、ビタミンD欠乏が骨軟化症(くる病)を発症させ、骨の痛み、体重増加時における骨折といった症状をもたらすことが確認されている。
さらには、皮膚の疾患(例えば乾癬、白斑)の治療において、紫外線が利用されている。また、精神病の治療において、精神賦活薬とともに紫外線が利用される場合がある(PUVA療法)。
このように、紫外光が生体へ及ぼす影響は、その強度、波長帯域、照射時間、照射部位等の違いにより多種多様であることがわかっており、生体が受ける紫外光の照射量を測定することは非常に重要である。したがって、生体に対する紫外光の照射量を測定する方法は、紫外光の生体への影響を調べる研究や、紫外光に対するケア商品の開発のための強力なツールとなり得る。
紫外光の検出するための装置として、特許文献1には半導体ベースの検出装置が開示されている。この装置は、400nm以下の光波長域で受光感度を有する光電変換素子を備えている。しかしながら、この装置は、皮膚の表面に達する紫外光の測定には適しているものの、皮膚の内部、さらには生体深部の測定を行うことはできない。
一方、生体由来の物質を用いて紫外光を測定する方法として、非特許文献1にはオプシン5タンパク質とGタンパク質とを混合し、紫外光を当てた時のGタンパク質とGTPγSとの結合量を測定する方法が開示されている。この方法では、その結合量から紫外光の照射量をもとめている。しかしながら、この方法は、生化学的に(すなわち生体外にて)行われる方法であり、生きた細胞または組織における測定に応用することはできない。
また、細胞を用いて紫外光を測定する方法として、非特許文献2には、オプシン5タンパク質およびCa2+−Clチャネルタンパク質を発現するアフリカツメガエルの卵母細胞を利用して、紫外光を当てた時の細胞膜電位の変化を測定する方法が開示されている。この方法では、この膜電位の変化に基づいて、個々の卵母細胞における紫外線の照射量がもとめられる。しかしながら、この方法は、電気化学的に個々の細胞に対して行われる方法であるため、電気化学的な測定方法が確立していない細胞に応用することは困難であり、また、生体組織といった多数および多種類の細胞を用いた測定に応用することはできない。
特開2010−50432号公報
Yamashita et al., 2010, "Opn5 is a UV-sensitive bistable pigment that couples with Gi subtype of G protein." Proceedings of National Academy of Sciences of United States of America, vol.107, No.51, pp.22084-22089 Nakane et al., 2010, "A mammalian neural tissue opsin (Opsin5) is a deep brain photoreceptor in birds." Proceedings of National Academy of Sciences of United States of America, vol.107, No.34, pp.15264-15268
本発明が解決しようとする課題は、優れた紫外光測定方法を提供することである。
実施形態に係る紫外光測定方法は、紫外光に応答して細胞内カルシウム濃度を変化させる紫外光感受性タンパク質と細胞内カルシウム濃度に応答して発光反応に対する触媒作用が変化するカルシウム感受性発光タンパク質とを発現する細胞を作製する細胞作製工程と、前記細胞に対し発光基質を添加する基質添加工程と、前記細胞を紫外光にさらす暴露工程と、前記カルシウム感受性発光タンパク質が触媒する発光反応を検出する検出工程と、前記検出の結果に基づいて、前記細胞に対する前記紫外光の照射量を決定する照射量決定工程とを含む。
実施形態に係る紫外光測定方法によれば、生きた細胞または組織に対して適用可能であり、さらには生体組織といった多数および多種類の細胞に対して適用可能な優れた紫外光測定が可能となる。
図1は、発光観察システム100の全体構成の一例を示す図である。 図2は、発光観察システム100の発光画像撮像ユニット106の構成の一例を示す図である。 図3は、発光観察システム100の発光画像撮像ユニット106の構成の一例を示す図である。 図4は、発光観察システム100の画像解析装置110の構成の一例を示すブロック図である。 図5は、実施形態に係る細胞の一例を示す図である。 図6は、実施形態に係る測定における、光源、対物レンズおよび細胞の構成の一例を示す図である。 図7は、実施形態に係る測定における、CCDカメラ、画像解析装置の構成の一例を示す図である。 図8は、実施形態に係る測定に利用できるカルシウム感受性発光タンパク質の一例を示す図である。 図9は、ヒトのオプシン5およびcpGL4_C_CaM−M13_Nを導入したHEK293細胞において、紫外光照射前の発光画像を示す図である。 図10は、ヒトのオプシン5およびcpGL4_C_CaM−M13_Nを導入したHEK293細胞において、紫外光照射後の発光画像を示す図である。 図11は、選択した細胞での紫外光照射によるcpGL4_C_CaM−M13_Nの発光強度の経時変化を示した図である。
本発明の一実施形態は、紫外光に応答して細胞内カルシウム濃度を変化させる紫外光感受性タンパク質と細胞内カルシウム濃度に応答して発光反応に対する触媒作用が変化するカルシウム感受性発光タンパク質とを発現する細胞を作製する細胞作製工程と、前記細胞に対し発光基質を添加する基質添加工程と、前記細胞を紫外光にさらす暴露工程と、前記カルシウム感受性発光タンパク質が触媒する発光反応を検出する検出工程と、前記検出の結果に基づいて、前記細胞に対する前記紫外光の照射量を決定する照射量決定工程とを含む紫外光測定方法に関する。
実施形態に係る紫外光測定方法によれば、細胞が受けた紫外光を測定することができる。特に、細胞が受けた紫外光の照射量を定量的に測定することができる。また、測定はイメージングによって行うことができるため、細胞ごとに測定できる。さらに、一定間隔で同一の測定領域を測定することで、紫外光の照射に対する変化および時間的変化を解析することができる。細胞ごとに測定することで、細胞間の差異を解析することもできる。紫外光の測定は、未知の量の紫外光を照射して、その照射量を決定するという観点から可能であり、あるいは既知の量の紫外光を照射して、細胞に到達する照射量を決定するという観点からも可能である。
以下に、実施形態に係る紫外光測定方法に含まれる各工程について詳述する。
細胞作製工程とは、紫外光感受性タンパク質とカルシウム感受性発光タンパク質とを含む細胞を作製する工程である。
紫外光感受性タンパク質とは、紫外光に応答して細胞内カルシウム濃度を変化させるタンパク質であり、その詳細については後述する。カルシウム感受性発光タンパク質とは、細胞内カルシウム濃度に応答して発光反応に対する触媒作用が変化するタンパク質であり、その詳細については後述する。対象となる細胞の種類に限定はなく、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞および動物細胞等を使用できる。動物細胞が使用される場合、特に哺乳細胞が使用され、例えばマウスの細胞、サルの細胞およびヒトの細胞が使用される。細胞は、生きた細胞とすることができる。細胞の由来が多細胞生物である場合、細胞は、組織から単離したまたは株化した単一の細胞でもよいし、複数の細胞の集合体であってもよい。このような集合体とは、例えば、組織、個体等である。細胞の集合体を測定対象とする場合、その集合体全体を測定対象としてもよく、またはその集合体に含まれる特定の細胞のみを測定対象としてもよい。
細胞に紫外光感受性タンパク質およびカルシウム感受性発光タンパク質を発現させる方法に特別な限定はなく、既知の導入方法を使用できる。1つの方法は、これらのタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸を細胞に導入し、その後、細胞内でタンパク質を発現させる方法である。例えば、核酸を、または核酸を含む発現ベクターを、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法等によって細胞内に導入し、その核酸からタンパク質を発現させることができる。ベクターから発現させるのではなく、核酸がゲノムに組み込まれた細胞を作製した後、ゲノムからタンパク質を発現させることもできる。別の方法は、細胞外で精製したタンパク質を細胞内に直接導入する方法である。例えば、マイクロインジェクション法によってタンパク質を細胞内に直接注入することができる。または、タンパク質を含む培養液にて細胞をインキュベートさせて、エンドサイトーシスによってタンパク質を細胞に取り込ませることもできる。
基質添加工程とは、細胞作製工程にて作製した細胞に対し発光基質を添加する工程である。実施形態に係る紫外光測定方法では、発光酵素による発光反応を利用するが、この発光反応を生じさせるためには発光基質が必要となる。発光基質は使用する発光酵素に応じて選択される。発光基質の詳細は後述する。発光基質を添加する方法に特別限定はなく、適宜選択できる。例えば、細胞を含む培養液に添加することで、培養液を介して細胞に発光基質を取り込ませることが出来る。また、マイクロインジェクション法等を利用して、発光基質を細胞内に直接注入することもできる。さらには、測定する細胞が組織または個体に含まれる細胞である場合には、血液または体液に発光基質を添加し、血液循環または体液循環を利用して、対象とする細胞に対して送達させることもできる。発光基質の添加のタイミングも適宜選択できる。例えば、細胞への紫外光感受性タンパク質およびカルシウム感受性発光タンパク質の導入の前に、それと同時に、またはその後に発光基質を添加することができる。例えば、一連の操作を通して、細胞を取り扱うための培養液中に発光基質を含めておくことができる。あるいは、マイクロインジェクション法にて当該タンパク質および発光基質を同時に細胞に注入することができる。好ましくは、発光基質は測定の直前に添加される。発光基質の添加量に特別な限定はないが、好ましくは、発光酵素が発光反応を生じるために十分な量で添加される。
暴露工程とは、細胞を紫外光にさらす工程である。この工程は、例えば、照射量を測定したい環境下に細胞を置くこと、または細胞に対して紫外光を照射すること等によって行われる。紫外光とは、例えば、波長領域4〜400nmの電磁放射を意味する。好ましくは、波長領域330〜385nmの電磁放射を意味する。紫外光の光源は、太陽光または人工光源であってよい。人工光源は、屋内において一般的に用いられる照明装置であってもよく、また主に紫外光を照射する光源であってよい。例えば、測定装置として、紫外光を照射するランプが備わった顕微鏡を使用することができる。あるいは、紫外光の光源は、測定対象とは異なる細胞またはそのような細胞中に発現するタンパク質であってもよい。紫外光への暴露の長さ、回数およびタイミングは任意に設定することができる。実施形態に係る紫外光測定方法において、暴露工程とその他の工程との順序は任意に設定することができる。例えば、暴露工程を行った後に検出工程を行うことができ、またはその逆の順序で行うことができる。一実施形態では、暴露前の状態を検出するための検出工程を行い、次に暴露工程を行い、その後、暴露後の状態を検出するための検出工程が行われる。あるいは、測定方法を通して紫外光にさらすことも可能である。しかしながら、紫外光が検出に与える影響を考慮して、検出工程と同時に暴露工程を行わないことが好ましい。
検出工程とは、カルシウム感受性発光タンパク質が触媒する発光反応を検出する工程である。細胞が紫外光を受けると、カルシウム感受性発光タンパク質の発光酵素としての活性が上昇または低下し、その結果、当該タンパク質が触媒する発光反応による発光量が変化する。検出工程では、この発光量を検出する。検出は、例えば目視によって行うことも可能であるが、装置を用いて行うことが好ましい。例えば、蛍光顕微鏡、フローサイトーメーター等を使用することができる。特に、定量性を有する装置を用いることが好ましい。蛍光顕微鏡を使用する場合、検出工程として、画像の撮像を行うこともできる。例えば、発光反応が生じている細胞の画像が取得される。撮像は任意のタイミングで行うことができるが、好ましくは、基質添加から一定時間後に行われる。特に複数の測定を繰り返す場合、測定結果のばらつきを抑えるために、複数の測定を通じて同一のタイミングで撮像することが好ましい。撮像時間は条件に応じて最良の時間が適宜選択される。発光強度が小さい場合、撮像時間(顕微鏡を使用する場合、露出時間)は長くされ、逆に発光強度が大きすぎる場合、撮像時間は短くされる。例えば、5から10秒間の露出時間とすることができる。撮像は、発光反応に係る波長の光のみを取得して行うこともできるが、それと同時に明視野画像または別の波長の光による画像を取得してもよい。例えば、細胞にカルシウム感受性発光タンパク質と同時にプローブ(例えば蛍光または発光タンパク質)を融合した特定のタンパク質を導入し、カルシウム感受性発光タンパク質に由来する光と同時に、当該特定のタンパク質からの光を検出してもよい。なお、撮像に使用される装置については後述する。
照射量決定工程とは、検出の結果に基づいて、細胞に対する紫外光の照射量を決定する工程である。例えば、検出工程において検出した発光量を、この工程において、紫外光の照射量として換算する。定量的に照射量をもとめたい場合には、定量性のある装置を用いて検出工程を行い、その結果から紫外光の照射量を換算することが好ましい。照射量をより正確に得るためには、予め作成した検量線を用いることが好ましい。検量線は、例えば、既知の照射量を受けた細胞における発光量を、複数の照射量において測定することで作成することができる。その後、測定したい紫外光を照射した細胞からの発光量を、この検量線に照らし合わせることで、照射量を決定することができる。検出工程として、画像の撮像を行った場合、取得された画像に基づいて、細胞内のカルシウム濃度等の解析を行うことができる。そのような解析は、コンピュータにて機能するソフトウェアを使用して、発光量を数値に変換してもよい。当該数値を利用して、スタンダードとの比の算出、試料間の比較等が適宜行われ、細胞に対する紫外光の照射量が決定される。また、照射量の決定とは、詳細な数値の決定でなくとも、紫外光を受けたか否かの決定、または設定した一定量を超えたか否かもしくは照射量が設定した範囲に含まれるか否かといった大まかな決定であってもよい。なお、解析に使用される装置については後述する。
次に、細胞に発現させるタンパク質について説明する。
紫外光感受性タンパク質とは、紫外光に応答して細胞内カルシウム濃度を変化させるタンパク質である。紫外光感受性タンパク質として、例えば感光性タンパク質を使用することができる。とりわけ、オプシンファミリーに属するタンパク質を使用することができる。オプシンファミリーのなかでも、紫外光を吸収することが分かっているオプシン5を使用することが好ましい。オプシン5としては、哺乳類、鳥類、魚類、爬虫類、両生類、微生物等に由来するオプシン5を使用できる。特に、哺乳類に由来するオプシン5を使用することが好ましく、ヒト由来のオプシン5を使用することが最も好ましい。
図5には、紫外光感受性タンパク質501としてオプシン5を発現する細胞503を示す。細胞503は、細胞内にカルシウム感受性発光タンパク質502も発現している。オプシン5は、7回膜貫通型の膜タンパク質である。オプシン5は、11−cis−レチナールと結合した状態で紫外光を受けると活性化する。その作用により、細胞内では、カルシウムストアからのカルシウム動員が生じ、細胞内カルシウム濃度が変化する。この細胞内のカルシウム濃度の変化をカルシウム感受性発光タンパク質502が感知する。
カルシウム感受性発光タンパク質とは、細胞内カルシウム濃度に応答して発光反応に対する触媒作用が変化するタンパク質である。例えば、カルシウム感受性発光タンパク質として、発光酵素のN末端側断片と、発光酵素のC末端側断片と、カルシウム結合領域と、カルシウム結合領域と可逆的に結合または解離できる相互作用領域とを含むタンパク質であって、カルシウム結合領域および相互作用領域はC末端側断片とN末端側断片との間に位置するタンパク質を使用することができる。ここにおいて、このタンパク質をカルシウムセンサータンパク質と称する。
カルシウム結合領域とは、細胞内にてカルシウムイオンと可逆的に結合および解離できるペプチドを意味する。カルシウム結合領域の具体例は、例えばカルモジュリン(CaM)またはその断片である。一方、相互作用領域とは、カルシウム結合領域と相互作用することができるペプチドを意味する。特に、相互作用領域は、カルシウムイオンと結合したカルシウム結合領域と結合することができ、カルシウムイオンが解離したカルシウム結合領域から解離することができる。相互作用領域の具体例は、例えばM13ペプチドである。
カルシウム結合領域および相互作用領域として、カルシウム結合タンパク質であるカルモジュリン(CaM)およびカルシウムイオンと結合したカルモジュリンと結合するM13とが一連に繋がったペプチドを使用することができる(Miyawaki A,Llopis J,Heim R,McCaffery JM,Adams JA, Ikura M,Tsien RY. “Fluorescent indicators for Ca2+ based on green fluorescent proteins and calmodulin.” Nature, vol.388(6645), pp.882-887, 1997)。当該文献では、この一連に繋がった連結化ペプチドを用いて、CaMおよびM13が2種の蛍光タンパク質に挟まれた構造を有するカルシウムセンサータンパク質を作製しており、この蛍光センサータンパクを「カメレオンタンパク(以下、カメレオンと称す)」と呼んでいる。特に、カルシウム結合領域および相互作用領域として、カメレオンの230番目から406番目のアミノ酸配列に対応するペプチド、230番目から396番目に対応するペプチド、230番目から401番目に対応するペプチド、230番目から411番目に対応するペプチドまたは230番目から416番目に対応するペプチドを使用することができる。これらの具体的な配列が示されたペプチドは、それらの機能を失わない限り、例えば感度の改良のための変異を含んだものであっても、実施形態に係るカルシウム感受性発光タンパク質に使用することができる。
発光酵素とは発光を伴う反応を触媒する酵素を意味する。発光酵素は、カルシウムセンサータンパク質において、N末端側断片およびC末端側断片として含まれている。「N末端側断片」とは、C末端から複数のアミノ酸が欠失した発光酵素の断片であって、発光酵素活性を失った断片を意味する。「C末端側断片」とは、N末端から複数のアミノ酸が欠失した発光酵素の断片であって、発光酵素活性を失った断片を意味する。
発光酵素としては、例えばルシフェラーゼを使用できる。ルシフェラーゼには、ホタル由来のもの、ウミシイタケ由来のものおよびバクテリア由来のもの等が存在するが、特にホタル由来ルシフェラーゼまたはウミシイタケ(レニラ)由来ルシフェラーゼを使用することが好ましい。また、発光基質は発光酵素に応じて選択されるが、ホタルルシフェラーゼを発光酵素として使用する場合、発光基質としてはルシフェリンを使用することができる。また、レニラルシフェラーゼ発光酵素として使用する場合、発光基質としてはセレンテラジンを使用することができる。特に、N末端側断片としてホタルルシフェラーゼの1番目から416番目のアミノ酸配列に対応するペプチド断片を使用し、C末端側断片としてホタルルシフェラーゼの399番目から550番目のアミノ酸配列に対応するペプチド断片を使用することができる。あるいは、N末端側断片としてレニラルシフェラーゼの1番目から91番目のアミノ酸配列に対応するペプチド断片を使用し、C末端側断片としてレニラルシフェラーゼの92番目から311番目のアミノ酸配列に対応するペプチド断片を使用することができる。これらの具体的な配列が示されたペプチドは、それらの機能を失わない限り、例えば活性の改良のための変異を含んだものであっても、実施形態に係るカルシウム感受性発光タンパク質に使用することができる。
カルシウムセンサータンパク質において、カルシウム結合領域および相互作用領域は、C末端側断片とN末端側断片との間に配置される。カルシウム結合領域および相互作用領域のどちらがカルシウムセンサータンパク質のN末端側に位置してもよいが、上述のカメレオンタンパク質由来のCaM−M13を使用する場合、カルシウムセンサータンパク質のN末端側にカルシウム結合領域であるCaMが位置し、C末端側に相互作用領域であるM13が位置する。一方、発光酵素のC末端側断片およびN末端側断片も、どちらがカルシウムセンサータンパク質のN末端側に位置してもよい。例えば、カルシウムセンサータンパク質のN末端側に発光酵素のN末端側断片を配置し、カルシウムセンサータンパク質のC末端側に発光酵素のC末端側断片を配置してもよい。これに対し、N末端断片およびC末端断片を、発酵酵素における本来の配置に対して円順列置換させてもよい。すなわち、カルシウムセンサータンパク質のN末端側に発光酵素のC末端側断片を配置し、カルシウムセンサータンパク質のC末端側に発光酵素のN末端側断片を配置してもよい。
したがって、カルシウムセンタータンパク質は、例えば、そのN末端側から、発光酵素のC末端側断片、カルシウム結合領域、相互作用領域および発光酵素のN末端側断片が順に並んだ構造を有する。この具体例として、カルシウムセンサータンパク質は配列番号1に示されるアミノ酸配列を有してよい。このタンパク質は、そのN末端側から、ホタルルシフェラーゼのC末端側断片(399番目から550番目)、カメレオンタンパク質のCaM−M13断片(230番目から406番目)およびホタルルシフェラーゼのN末端側断片(1番目から416番目)が配置された構造を有し、「cpGL4_C_CaM−M13_N」と称される(図8(a)参照)。また、カルシウムセンサータンパク質は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有してよい。このタンパク質は、そのN末端側から、レニラルシフェラーゼのC末端側断片(92番目から311番目)、カメレオンタンパク質のCaM−M13断片(230番目から406番目)およびレニラルシフェラーゼのN末端側断片(1番目から91番目)が配置された構造を有し、「cphRL_C_CaM−M13_N」と称される(図8(b)参照)。
カルシウムセンサータンパク質は、カルシウムの存在に応じて、発光酵素としての活性を取得または喪失することができる。カルシウムセンサータンパク質に含まれる発光酵素のC末端側断片およびN末端側断片は、それぞれ発光酵素としての活性を失っているものの、カルシウムセンサータンパク質の構造に応じてC末端側断片とN末端側断片とが接近して結合することで、発光活性を回復することができる。カルシウムセンサータンパク質の構造は、カルシウム結合領域と相互作用領域とによって調節される。例えば、図8(a)に示されるように、cpGL4_C_CaM−M13_Nでは、カルシウムイオンが存在していない場合、C末端側断片とN末端側断片とは適度に接近して結合し発光酵素としての活性を示すが、カルシウムイオンが存在すると、CaMにカルシウムイオンが結合し、さらにそこへM13が結合することで、センサータンパク質全体としての構造が変化し、発光酵素としての活性を失う。一方、図8(b)に示されるcphRL_C_CaM−M13_Nでは、カルシウムイオンが存在していない場合には、C末端側断片とN末端側断片とが結合できず発光酵素としての活性を示さないが、カルシウムイオンが存在するとCaMおよびM13との作用によりセンサータンパク質の構造が変化し、C末端側断片とN末端側断片とが適度に接近して結合するため発光酵素としての活性を示す。このような機構に基づいて、カルシウムセンサータンパク質を用いることで、カルシウムイオンの存在または非存在を、発光酵素による発光の有無として検出することができる。
なお、発光酵素のC末端側断片とN末端側断片との間の「結合」の態様に特別な限定はなく、共有結合または非共有結合等の化学的結合であってもよい。特に、N末端側断片とC末端側断片とが発光酵素の本来の機能を果たしうる程度に「接近」または「接触」している状態であることが好ましい。あるいは、N末端側断片とC末端側断片とが「会合」する状態であってもよい。すなわち、当該表現において使用される「結合」という用語は、「接近」、「接触」または「会合」という意味を含む。
上述のとおり、カルシウムセンサータンパク質は、カルシウムの存在に応じて、発光酵素の活性が消失または回復する。また、実施形態に係る方法は、当該タンパク質のこのような特徴を利用する。従来の分子間のエネルギー共鳴(FRET、BRET等)を利用する技術では、エネルギー共鳴の効率の低さに起因してダイナミックレンジが狭く、また、検出される波長の違いによってカルシウムの存在/非存在が解析される。これに対し、実施形態に係る方法では、ルシフェラーゼといった発光酵素による単純な反応を利用するためダイナミックレンジが広く、イメージングも可能となり、また、カルシウムの存在/非存在は発光の発生/非発生に対応するため、シグナル/ノイズ比の高い検出結果が得られる。
次に、実施形態に係る方法の変形例について説明する。
実施形態に係る方法は、さらに、前記細胞に対しレチナールを添加するレチナール添加工程を含むことができる。オプシンはレチナールと結合した状態で紫外光を受けると活性化する。したがって、レチナールの産生が少ない細胞を用いる場合、レチナール添加工程を設けることが好ましい。特に、紫外光感受性タンパク質としてオプシン5を用いる場合、11−cis−レチナールを添加することが好ましい。ここにいう添加とは、細胞を含む培養液に添加すること、マイクロインジェクション法等を利用して細胞内に直接注入すること、血液または体液に添加して、血液循環または体液循環を介して細胞に送達すること等を含む。また、添加のタイミングも適宜選択できる。例えば、細胞への紫外光感受性タンパク質およびカルシウム感受性発光タンパク質の導入の前に、それと同時に、またはその後に添加することができる。例えば、一連の操作を通して、細胞を取り扱うための培養液中に添加しておくことができる。好ましくは、レチナールは測定の直前に添加される。レチナールの添加量に特別な限定はないが、好ましくは、レチナールが発光反応を生じるために十分な量で添加される。
実施形態に係る方法において、検出工程は、少なくとも暴露工程の前および後に行うことができる。すなわち、細胞を紫外光にさらす前後において、カルシウム感受性発光タンパク質による発光を検出することができる。この場合、紫外光にさらす前後の発光量の変化に基づいて紫外光の照射量を決定することができる。また、実施形態に係る方法において、検出工程は、経時的に繰り返して行うことができる。「経時的」とは、例えば一定間隔置きに行うこと意味する。例えば、いわゆるタイムラプスによる検出を行うことができる。例えば、暴露工程前から方法の終了までの間に、一定間隔置きに連続して発光量を検出することができる。この間隔を可能な限り短くすることで、発光量の詳細な時間的変化を得ることができる。
実施形態に係る方法において、検出工程は、複数の異なる細胞に対して同時に行うことができる。例えば、顕微鏡を用いて検出する場合、1つの視野において複数の細胞を同時に検出することができる。特に、撮像により検出を行う場合、1つの画像に複数の細胞を同時に検出することができる。この場合、一度の撮像において、複数の異なる細胞の画像が取得される。さらに、その後の解析が各々の細胞に対して行うことができる。撮像した1つの画像に含まれる複数の細胞について細胞ごとの解析を行うことが可能であり、または、撮像した複数の画像にそれぞれ含まれる複数の細胞について細胞ごとの解析を行うことが可能である。これにより、紫外光の照射量を時空間的に解析できる。
本発明の一実施形態は、紫外光に応答して細胞内カルシウム濃度を変化させる紫外光感受性タンパク質と細胞内カルシウム濃度に応答して発光反応に対する触媒作用が変化するカルシウム感受性発光タンパク質とを発現する細胞に関する。この細胞は、実施形態に係る方法に使用することができる。実施形態に係る細胞において、紫外光感受性タンパク質を哺乳類オプシン5とすることができ、さらに、この哺乳類オプシン5はヒトオプシン5とすることができる。また、実施形態に係る細胞において、カルシウム感受性発光タンパク質は、上述したセンサータンパク質とすることができる。特に、このカルシウムセンサータンパク質は配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質とすることができる。細胞の種類に限定はなく、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞および動物細胞等を使用できる。動物細胞が使用される場合、特に哺乳細胞が使用され、例えばマウスの細胞、サルの細胞およびヒトの細胞が使用される。細胞は、生きた細胞とすることができる。細胞の由来が多細胞生物である場合、細胞は、組織から単離したまたは株化した単一の細胞でもよいし、複数の細胞の集合体であってもよい。
本発明の一実施形態は、紫外光に応答して細胞内カルシウム濃度を変化させる紫外光感受性タンパク質の遺伝子の塩基配列を有する核酸と細胞内カルシウム濃度に応答して発光反応に対する触媒作用が変化するカルシウム感受性発光タンパク質の遺伝子の塩基配列の核酸と含むベクターに関する。これらの核酸は単一のベクターに含まれる。例えば、これらの核酸はベクターにおいて直列に配置される。このベクターを細胞に導入することで、上記2種の遺伝子を同時に発現する細胞を得ることができる。核酸は、特に、紫外光感受性タンパク質遺伝子およびカルシウム感受性発光タンパク質遺伝子それぞれのORF領域を含む。これらの遺伝子のコドンは、対象とする細胞における発現に最適化されていてよい。また、Kozak配列等、発現量を上昇させるための配列を含んでよく、または付与されていてよい。ベクターは、対象とする細胞における発現のための発現ベクターであってよい。発現ベクターである場合、紫外光感受性タンパク質遺伝子およびカルシウム感受性発光タンパク質遺伝子の配列のほかに、発現を制御するための配列、マーカー遺伝子の配列等、一般的な発現ベクターに含まれる配列を含んでよい。このベクターは、実施形態に係る方法に使用することができる。すなわち、当該発現ベクターを細胞に導入し、タンパク質を発現させて、紫外光の測定に使用できる。
本発明の一実施形態は、紫外光に応答して細胞内カルシウム濃度を変化させる紫外光感受性タンパク質の遺伝子の塩基配列を有する核酸を含むベクターと、細胞内カルシウム濃度に応答して発光反応に対する触媒作用が変化するカルシウム感受性発光タンパク質の遺伝子の塩基配列の核酸を含むベクターとを含むベクターセットに関する。これらのベクターセットを細胞に導入することで、上記2種の遺伝子を同時に発現する細胞を得ることができる。核酸、遺伝子のコドン、Kozak配列等の配列、ベクターの条件等は、上記2種の遺伝子を含むベクターと同様である。
本発明の一実施形態は、実施形態に係る方法に用いることができる装置に関する。すなわち、発光観察システム100に関する。発光観察システム100について、図1から3を用いて説明する。図1は、発光観察システム100の全体構成の一例を示す図である。図2は、発光観察システム100の発光画像撮像ユニット106の構成の一例を示す図である。図3は、発光観察システム100の発光画像撮像ユニット106の構成の一例を示す図である。
まず、図1に示すように、発光観察システム100は、細胞102を収納した容器103(具体的にはシャーレ、スライドガラス、マイクロプレート、ゲル支持体、微粒子担体など)と、容器103を配置するステージ104と、発光画像撮像ユニット106と、画像解析装置110と、で構成されている。微弱な発光を測定するための発光画像撮像ユニット106をステージ104の下側に配置してもよい。これにより、カバー開閉によるサンプル上方からの外乱光を完全に遮断できて発光画像のシグナル/ノイズ比を増すことができる。発光画像撮像ユニット106は、レーザー走査式の光学系であってもよい。
ここで、細胞102は、例えば、実施形態に係る細胞、実施形態に係るベクターを導入した細胞、実施形態に係るベクターセットを導入した細胞であってよい。
また、発光画像撮像ユニット106は、具体的には、正立型の発光顕微鏡であり、細胞102の発光画像を撮像する。発光画像撮像ユニット106は、図示の如く、対物レンズ106aと、ダイクロイックミラー106bと、CCDカメラ106cと、結像レンズ106fと、で構成されている。対物レンズ106aは、具体的には、(開口数/倍率)の値が0.01以上のものである。ダイクロイックミラー106bは、細胞102から発せられた発光を色別に分離し、2色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合に用いる。CCDカメラ106cは、対物レンズ106a、ダイクロイックミラー106bおよび結像レンズ106fを介して当該CCDカメラ106cのチップ面に投影された細胞102の発光画像および明視野画像を撮る。また、CCDカメラ106cは、画像解析装置110と有線または無線で通信可能に接続される。ここで、細胞102が撮像範囲中に複数存在する場合、CCDカメラ106cは、当該撮像範囲中に含まれる複数の細胞102の発光画像および明視野画像を撮像してもよい。結像レンズ106fは、対物レンズ106aおよびダイクロイックミラー106bを介して当該結像レンズ106fに入射した像(具体的には細胞102を含む像)を結像する。なお、図1では、ダイクロイックミラー106bで分離した2つの発光に対応する発光画像を2台のCCDカメラ106cで別々に撮像する場合の一例を示しており、1つの発光を用いる場合には、発光画像撮像ユニット106は、対物レンズ106a、1台のCCDカメラ106cおよび結像レンズ106fで構成されてもよい。
ここで、2色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合、発光画像撮像ユニット106は、図2に示すように、対物レンズ106aと、CCDカメラ106cと、スプリットイメージユニット106dと、結像レンズ106fと、で構成されてもよい。そして、CCDカメラ106cは、スプリットイメージユニット106dおよび結像レンズ106fを介して当該CCDカメラ106cのチップ面に投影された細胞102の発光画像(スプリットイメージ)および明視野画像を撮像してもよい。スプリットイメージユニット106dは、細胞102から発せられた発光を色別に分離し、ダイクロイックミラー106bと同様、2色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合に用いる。
また、複数色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合(つまり、多色の発光を用いる場合)、発光画像撮像ユニット106は、図3に示すように、対物レンズ106aと、CCDカメラ106cと、フィルターホイール106eと、結像レンズ106fと、で構成されてもよい。そして、CCDカメラ106cは、フィルターホイール106eおよび結像レンズ106fを介して当該CCDカメラ106cのチップ面に投影された細胞102の発光画像および明視野画像を撮像してもよい。フィルターホイール106eは、細胞102から発せられた発光をフィルタ交換によって色別に分離し、複数色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合に用いる。
図1に戻り、画像解析装置110は、具体的にはパーソナルコンピュータである。そして、画像解析装置110は、図4に示すように、大別して、制御部112と、システムの時刻を計時するクロック発生部114と、記憶部116と、通信インターフェース部118と、入出力インターフェース部120と、入力装置122と、出力装置124と、で構成されており、これら各部はバスを介して接続されている。
記憶部116は、ストレージ手段であり、具体的には、RAMやROM等のメモリ装置、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等を用いることができる。そして、記憶部116は制御部112の各部の処理により得られたデータなどを記憶する。通信インターフェース部118は、画像解析装置110と、CCDカメラ106cと、の間における通信を媒介する。すなわち、通信インターフェース部118は他の端末と有線または無線の通信回線を介してデータを通信する機能を有する。入出力インターフェース部120は、入力装置122や出力装置124に接続する。ここで、出力装置124には、モニタ(家庭用テレビを含む)の他、スピーカやプリンタを用いることができる(なお、以下で、出力装置124をモニターとして記載する場合がある)。また、入力装置122には、キーボードやマウスやマイクの他、マウスと協働してポインティングデバイス機能を実現するモニターを用いることができる。
また、制御部112は、OS(Operating System)等の制御プログラムや各種の処理手順等を規定したプログラムや所要データを格納するための内部メモリを有し、これらのプログラムに基づいて種々の処理を実行する。そして、制御部112は、大別して、発光画像撮像指示部112aと、発光画像取得部112bと、画像解析部112cと、解析結果出力部112dと、で構成されている。
また、発光画像撮像指示部112aは、通信インターフェース部118を介して、CCDカメラ106cへ発光画像および明視野画像の撮像を指示する。発光画像取得部112bは、CCDカメラ106cで撮像した発光画像および明視野画像を、通信インターフェース部118を介して取得する。ここで、発光画像撮像指示部112aは、発光画像および明視野画像を繰り返し撮像する指示を行ってもよく、複数の異なる細胞102について同時に撮像を実行してもよい。なお、発光画像取得部112bは、撮像した発光画像および明視野画像を、クロック発生部114による時間情報とともに記憶部116に格納してもよい。
また、画像解析部112cは、発光画像取得部112bで取得した発光画像に基づいて、細胞102から発せられる発光の発光強度に基づいて紫外光の量を解析する。ここで、画像解析部112cは、発光画像取得部112bにより繰り返し撮像された複数の発光画像に基づいて、経時的なカルシウム濃度の変動を測定してもよく、複数の異なる細胞102について同時に発光画像が撮像された場合に、複数の発光画像を細胞102ごとに照合して紫外光の量を解析してもよい。
解析結果出力部112dは、画像解析部112cでの解析結果を出力装置124に出力する。より具体的には、解析結果出力部112dは、画像解析部112cで得られた、細胞102から発せられる発光の発光強度に基づく紫外光量の時系列データを、グラフ化して出力装置124に表示する。
以上のような装置を利用した例として、図6および7に特定の実施形態が示される。
図6には、光源601、シャーレ103および対物レンズ106aが示される。なおシャーレは、培養フラスコ、スライドガラス、マイクロプレート、ゲル支持体、微粒子担体等、細胞培養ができるその他の培養器であってもよい。光源601から照射された紫外光により、細胞503において発光が生じ、対物レンズ106aにより拡大されて検出される。細胞503の発光を対物レンズ106aにより拡大することで、個々の細胞における発光を観察することができる。
また、図7には、光源601、対物レンズ106a、CCDカメラ106c、シャーレ103および画像解析装置110が示される。画像解析装置110とCCDカメラ106cとは、有線または無線で通信可能に接続される。なおシャーレは、培養フラスコ、スライドガラス、マイクロプレート、ゲル支持体、微粒子担体等、細胞培養ができるその他の培養器であってもよい。検出工程において、CCDカメラ106cで発光画像を繰り返し撮像して、画像解析装置110に発光画像を繰り返し取り込むことで、同一視野での発光画像が任意の経過時間ごとに得られる。また、検出工程において、同一視野で繰り返し撮像した発光画像が複数得られるので、同一細胞における時空間的な解析ができる。さらに、検出工程において、複数の異なる細胞について同時に実行し、照射量決定工程において、複数の発光画像を細胞ごとに照合するので、個々の細胞における紫外光照射量の変化を時空間的に解析できる。
実施形態に係る方法によって、細胞に対する紫外光の照射を測定した。ヒトオプシン5およびcpGL4_C_CaM−M13_Nを発現する細胞を作製し、発光イメージングにより細胞の発光を検出した。
[前準備:動物細胞発現用プラスミドの作製]
[手順]
紫外光感受性タンパク質の発現ベクターを次の通りに作製した。
ヒト由来のオプシン5遺伝子の全長を合成し、動物細胞発現用プラスミドであるpcDNA3.1(インビトロジェン社製)のBamHI部位とEcoRI部位の間に挿入し、動物細胞発現用プラスミドpcDNA/OPN5を作製した。
カルシウム感受性発光タンパク質の発現ベクターを次の通りに作製した。
N末端側断片遺伝子(cpNLuc:GL4.10遺伝子の1番目から416番目のアミノ酸を含む)およびC末端側断片遺伝子(cpCLuc:GL4.10遺伝子の399番目から550番目のアミノ酸を含む)を次の鋳型およびプライマーセットを用いてPCRにより増幅した。
[使用した鋳型]
pGL4.10(プロメガ(株)製)
[cpNLuc遺伝子作製用合成オリゴDNA配列]
cpNLuc_Fw(配列番号3):5’−ATCAGATCTGAAGATGCCAAAAACATTAAG−3’
cpNLuc_Rv(配列番号4):5’−CTAGAATTCTTAGTCCTTGTCGATGAGAGC−3’
[cpCLuc遺伝子作製用合成オリゴDNA配列]
cpCLuc_Fw(配列番号5):5’−TGTGGATCCAGCCACCATGAGCGGCTACGTTAACAACCCC−3’
cpCLuc_Rv(配列番号6):5’−CAGCTCGAGCACGGCGATCTTGCCGCCCTT−3’
また、CaM−M13遺伝子(カメレオン遺伝子の230番目から406番目のアミノ酸配列に対応する領域を含む)を次の鋳型およびプライマーセットを用いてPCRにより増幅した。
[使用した鋳型]
カメレオン遺伝子(YC2.1)のcDNA
[CaM−M13遺伝子作製用合成オリゴDNA配列]
CaM−M13_Fw(配列番号7):5’−GCCCTCGAGCATGACCAACTGACAGAAGAG−3’
CaM−M13_Rv(配列番号8):5’−CATGGATCCCAGTGCCCCGGAGCTGGAGAT−3’
増幅したそれぞれの断片を、動物細胞発現用プラスミドであるpcDNA3.1(インビトロジェン社製)のBamHI部位とEcoRI部位の間に挿入することでプラスミドpcDNA/cpGL4_C_CaM−M13_Nを得た。
[実験:HEK293細胞での紫外光照射によるカルシウム濃度変動の発光イメージング]
次に、HEK293細胞での紫外光照射によるカルシウム濃度変動の発光イメージングについて以下に説明を行う。
[手順1](HEK293細胞の培養)
HEK293細胞をATCC社より入手し、5% COインキュベーター内で、10% Fetal Bovine Serum、および、1x Nonessential amino acidsを添加したEarle’s MEM/培地(GIBCO社製)で培養した。
[手順2](融合タンパク質発現プラスミドの導入)
細胞を直径35mmガラスボトムディッシュに、2x10/dishの細胞密度で播種し、5% COインキュベーター内で一晩培養し、紫外光感受性タンパク質発現用プラスミドpcDNA/OPN5、およびカルシウム感受性発光タンパク質発現用プラスミドpcDNA/cpGL4_C_CaM−M13_Nを、FuGENE HD(ロシュ社製)を用いてトランスフェクションを行い、5% COインキュベーター内で一晩培養した。
[手順3](発光画像の撮像)
培地中にルシフェリン2mM(プロメガ社製)および11−cis−レチナール10μMを加え、1時間静置した。その後、発光顕微鏡LV(LUMINOVIEW)−200(オリンパス社製)にセットし、5秒間隔で発光画像のタイムラプス撮影を行った。発光観察条件として、対物レンズの倍率は40倍、露出時間は5〜10秒間、ビニングは1x1、EM−CCDカメラiXon(アンドール社製)を用い、画像解析装置110として構成したパーソナルコンピュータに取り込んだ。
[手順4](紫外線照射による発光画像のタイムラプス撮像)
タイムラプス撮影開始から5分後にCCDカメラのシャッターを閉じてから、ハロゲンランプ光源から330−380nmのバンドパスフィルターを通して紫外光照射(0.15〜1.0μW、10〜15秒間)を行い、照射後に再びCCDカメラのシャッターを開いて引き続き発光画像のタイムラプス撮影を行った。
[手順5]
手順3で撮影した各々の発光画像に対して複数のROI(Region of Interest:関心領域)を指定し(図9参照)、また、手順4で撮影した各々の発光画像に対して複数のROIを指定した(図10参照)。そして、指定した各ROIの発光強度を各々の発光画像に基づいて測定し、その発光強度の経時変化をグラフで表示した(図11参照)。発光画像の解析は、画像解析部110として機能するMetamorphソフトウェア(ユニバーサルイメージング社製)を用いて行った。
[結果]
以上の実験の結果、ヒトのオプシン5タンパク質およびカルシウム感受性発光タンパク質cpGL4_C_CaM−M13_Nを利用することによって、紫外光刺激に対するカルシウム応答を発光強度の減少としてシングルセル(単一細胞)レベルで検出することができた(図9〜図11を参照)。
また、個々の細胞における発光強度の変化を見ると、紫外光刺激において細胞間の応答に大きなばらつきのあることがわかった(図11参照)。これまでのカルシウムを介する細胞内情報伝達機構の研究から、カルシウム濃度変化の細胞内分布あるいは時間経過が異なると、シグナルの意味が異なることが明らかにされている。従来の細胞から精製したタンパク質を用いた生化学的な解析では生きた組織や細胞での応答は解析できず、また卵母細胞を用いた電気生理学的解析では生体本来の組織・細胞での解析に対応できなかった。一方、従来のルミノメーターを用いた発光量変化の解析では、細胞集団全体の観測に留まり、個々の細胞の応答までは解析できなかった。ところが、実施形態に係る方法によれば、生きた細胞の生体内の変化を1細胞毎にリアルタイムに観察することができ、細胞内シグナルの働きを詳細に研究することができた。
100…発光観察システム、102…細胞、103…容器(シャーレ)、104…ステージ、106…発光画像撮像ユニット、106a…対物レンズ(発光観察用)、106b…ダイクロイックミラー、106c…CCDカメラ、106d…スプリットイメージユニット、106e…フィルターホイール、106f…結像レンズ、110…画像解析装置、112…制御部、112a…発光画像撮像指示部、112b…発光画像取得部、112c…画像解析部、112d…解析結果出力部、114…クロック発生部、116…記憶部、118…通信インターフェース部、120…入出力インターフェース部、122…入力装置、124…出力装置、501…紫外光感受性タンパク質、502…カルシウム感受性発光タンパク質、503…細胞、601…光源。

Claims (10)

  1. 紫外光に応答して細胞内カルシウム濃度を変化させる紫外光感受性タンパク質と細胞内カルシウム濃度に応答して発光反応に対する触媒作用が変化するカルシウム感受性発光タンパク質とを発現する細胞を作製する細胞作製工程と、
    前記細胞に対し発光基質を添加する基質添加工程と、
    前記細胞を紫外光にさらす暴露工程と、
    前記カルシウム感受性発光タンパク質が触媒する発光反応が生じている細胞の発光画像を取得することにより該発光反応を検出する検出工程と、
    前記検出の結果に基づいて、前記細胞に対する前記紫外光の照射量を細胞ごとに決定する照射量決定工程と
    を含み、
    前記紫外光感受性タンパク質は哺乳類オプシン5であり、前記カルシウム感受性発光タンパク質は、発光酵素のN末端側断片と、前記発光酵素のC末端側断片と、カルシウム結合領域と、前記カルシウム結合領域と可逆的に結合または解離できる相互作用領域とを含むカルシウムセンサータンパク質であって、前記カルシウム結合領域および前記相互作用領域は前記C末端側断片と前記N末端側断片との間に位置するカルシウムセンサータンパク質である、
    紫外光測定方法。
  2. さらに、前記細胞に対しレチナールを添加するレチナール添加工程を含む請求項1に記載の方法。
  3. 前記検出工程は少なくとも前記暴露工程の前および後に行われる請求項1に記載の方法。
  4. 前記検出工程は経時的に繰り返して行われる請求項1に記載の方法。
  5. 前記検出工程は複数の異なる前記細胞に対して同時に行われる請求項1に記載の方法。
  6. 紫外光に応答して細胞内カルシウム濃度を変化させる紫外光感受性タンパク質と細胞内カルシウム濃度に応答して発光反応に対する触媒作用が変化するカルシウム感受性発光タンパク質とを発現する、請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の方法のための細胞。
  7. 前記哺乳類オプシン5はヒトオプシン5である請求項に記載の細胞。
  8. 前記カルシウムセンサータンパク質は配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を含む請求項に記載の細胞。
  9. 紫外光に応答して細胞内カルシウム濃度を変化させる紫外光感受性タンパク質の遺伝子の塩基配列を有する核酸と細胞内カルシウム濃度に応答して発光反応に対する触媒作用が変化するカルシウム感受性発光タンパク質の遺伝子の塩基配列の核酸とを含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の方法のためのベクター。
  10. 紫外光に応答して細胞内カルシウム濃度を変化させる紫外光感受性タンパク質の遺伝子の塩基配列を有する核酸を含むベクターと、細胞内カルシウム濃度に応答して発光反応に対する触媒作用が変化するカルシウム感受性発光タンパク質の遺伝子の塩基配列の核酸を含むベクターとを含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の方法のためのベクターセット。
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