デジタルプリント時には、デバイス間の色再現特性の相違を埋めて、印刷物の色を意図した色に近似させるためのカラーマッチング処理が行われる。このカラーマッチング処理では、例えば黒のベタ部分に関しても実際の印刷物の色と意図した色とを近似させるためのデータ修正が行われる。
しかしながら、本来意図している黒の色感と実際の印刷物のインクの黒色の色感とは必ずしも一致しないため、デジタルプリントでベタ部を描画した箇所は、実際にはベタ画像にならず、網パターンの形状が若干目立つ場合がある。特に、文字・線画の印刷画像では、エッジ部においてガタツキが視認され、印刷された文字・線画の見栄えが悪くなる場合がある。一方、文字・線画の見栄えを重視して網パターンの形状が残らないように印刷画像のデータを修正すると、本来意図している黒色と印刷物の黒色の近似性が悪くなる。
したがって、理想的なプリント品質を実現する観点からは、図画の画像では色再現性を重視し、文字・線画の画像ではエッジ再現性を重視することが望ましい。しかしながら、特許文献1に開示される従来技術では、図画像における色再現性及び文字・線画画像におけるエッジ再現性の両者を同時に理想的な状態にするような印刷データの修正はできず、いずれか一方の再現性を優先させる必要がある。
一方、特許文献2のカラー印刷装置では、図形の画像データと文字の画像データとを別々に処理をした後に両画像データが合成され、印刷画像のオブジェクト毎に適正化された色補正が行われる。したがって、特許文献2のカラー印刷装置によれば、図形データに対しては色再現性を重視した画像処理を施し、文字データに対してはエッジ再現性を重視した画像処理を施し、画像処理後の図形データと文字データとを合成することで、図形及び文字の両方を理想的なプリント品質にすることも可能である。
このようなデジタルプリントでは、過剰な色材(インク、トナー等)が記録媒体に付与されることで生じうる画質劣化を回避するため、記録媒体に付与する色材の総量を制限することも行われている。
しかしながら、特許文献2のカラー印刷装置のようにオブジェクト毎に色補正処理を行う印刷処理では、オブジェクト毎の色補正を最適化しつつ色材総量を適切に制限する処理を行うことが難しく、特に異なるオブジェクト種別が重なる印刷箇所では過剰色材が付与され易い。したがって、図画データ及び文字・線画データの各々に対し、色材総量制限を考慮したデータ補正(階調補正)をオブジェクト種別に応じて適切に行うことで、図画データに関しては十分な色再現性を確保し、文字・線画データに関してはエッジ再現性を優先し、さらに過剰色材の付与を防ぐ色材総量制限条件をも満たす新たな手法の提案が望まれている。
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、色材総量を考慮しつつ、印刷画像のオブジェクト種別(図画、文字・線画)毎に望まれる画像処理を適切且つ簡単に行うことができる技術を提供することを目的とする。
本発明の一態様は、オブジェクト毎に予め設定される階調レンジに画像データの階調レンジを調整する階調レンジ調整手段と、画像データに基づく色材総量を制限するように、オブジェクト毎に設定される階調レンジに調整された画像データのデータ変換をする色材総量制限手段と、を備える画像処理装置であって、色材総量制限手段は、色材総量を制限するように、画像データの階調データを調整する総量制限階調調整手段と、総量制限階調調整手段による階調データの調整前の画像データ及び総量制限階調調整手段による階調データの調整後の画像データを所定の階調値と比較し、総量制限階調調整手段に入力される画像データの階調データが所定の階調値以下であり、且つ、総量制限階調調整手段から出力される画像データの階調データが所定の階調値よりも大きい場合に、総量制限階調調整手段から出力される画像データの階調データを所定の階調値以下に修正する修正手段と、を有する画像処理装置に関する。
本態様によれば、階調レンジ調整手段においてオブジェクト毎に階調レンジが調整された後に、色材総量を制限するように画像データの階調データが調整され、さらに色材総量制限処理前後の画像データが所定の階調値と比較され、この比較結果に基づいて画像データの階調データが修正される。これにより、オブジェクト毎に適正化された階調レンジに画像データを調整することができ、また色材総量制限処理前後の画像データの階調データに不具合がある場合には、その不具合に応じた階調データの修正が可能である。
なお、ここでいう「オブジェクト」とは、画像データを構成する各要素を指し、例えば図画(図形、写真、グラデーションパターン等)や文字線画(文章、ライン等)といった要素がオブジェクトに含まれうる。
また、「階調レンジ」とは、階調幅(階調範囲)のことであり、「オブジェクト毎に予め設定される階調レンジ」とは、各オブジェクトに対して予め定められて割り当てられている「対応の階調幅(階調範囲)」のことである。
また、「画像データに基づく色材総量」とは、画像データから導き出される色材の総量のことであり、複数色のデータを含む画像データでは、その複数色の色材量の合計となる。なお「色材」には、画像形成(印刷)を行う画像形成デバイスによって記録媒体に付与されるインクやトナー等が含まれうる。
望ましくは、修正手段で用いられる所定の階調値は、階調レンジ調整手段によって調整されるオブジェクト毎に予め設定される階調レンジに基づく。
この場合、色材総量制限処理前後の画像データと比較される「所定の階調値」がオブジェクト毎に予め設定される階調レンジに基づくため、修正手段は、予め設定されるオブジェクトの階調特性を加味した、画像データの階調修正を行うことが可能となる。
望ましくは、画像処理装置は、画像データを、文字線画オブジェクトの画像データと、図画オブジェクトの画像データとに分離判別するオブジェクト分離判別手段を更に備える。また望ましくは、階調レンジ調整手段は、図画オブジェクトの画像データの階調レンジが文字線画オブジェクトの画像データの階調レンジよりも狭くなるように、画像データの階調レンジを調整し、修正手段で用いられる所定の階調値は、階調レンジ調整手段によって調整される図画オブジェクトに予め設定される階調レンジに基づく。
この場合、「所定の階調値」が文字線画オブジェクトの画像データの階調レンジよりも狭い図画オブジェクトの画像データの階調レンジに基づくため、図画オブジェクトの階調レンジ特性を加味した画像データの階調修正を行うことが可能となり、文字線画オブジェクトの画像データは広い階調レンジで表現可能となる。
なお「文字線画オブジェクト」とは、文字及びライン(テキスト、ラインアート)等の要素を指し、比較的高度なエッジ再現性が求められるオブジェクトを含む。一方「図画オブジェクト」とは、図形及び写真(イメージ、スムーズシェード)等の要素を指し、文字線画オブジェクト以外の要素が図画オブジェクトに含まれうる。
望ましくは、階調レンジ調整手段によって調整されるオブジェクト毎に予め設定される階調レンジのうち、図画オブジェクトに設定される階調レンジの最大値は、文字線画オブジェクトに設定される階調レンジの最大値よりも小さい。
この場合、文字線画オブジェクトの画像データは、図画オブジェクトよりも大きな階調値によって表現可能であり、エッジ再現性に優れた文字線画像の形成が可能となる。
望ましくは、修正手段は、総量制限階調調整手段に入力される画像データが所定の階調値以下であり、且つ、総量制限階調調整手段から出力される画像データが所定の階調値よりも大きい場合に、総量制限階調調整手段から出力される画像データを所定の階調値以下に修正する。
この場合、色材総量制限処理によって画像データの階調データに不具合が生じても、修正手段によってその不具合を修正することが可能となる。特に、所定の階調値がオブジェクトに基づくものである場合には、オブジェクトに応じた不具合を修正することも可能となる。
望ましくは、色材総量制限手段によってデータ変換された画像データのガンマ補正を行うガンマ補正手段を更に備える画像処理装置であって、ガンマ補正手段は、階調レンジ調整手段によって調整されるオブジェクト毎に予め設定される階調レンジに基づいて、画像データのガンマ補正を行う。
この場合、ガンマ補正手段は、予め設定されるオブジェクトの階調特性を加味した、ガンマ補正を行うことが可能となる。
望ましくは、ガンマ補正前の画像データとガンマ補正後の画像データとの関係を規定するガンマ補正規定ラインは、ガンマ補正前の画像データにおける所定の階調値に対応する点で傾きが不連続となる。
この場合、所定の階調値を境に、異なるガンマ特性によってガンマ補正を実施することができる。したがって、所定の階調値が、オブジェクト種別を区別する値である場合には、区別されるオブジェクト種別毎に異なるガンマ特性のガンマ補正を行うことも可能となる。
望ましくは、画像処理装置は、階調レンジ調整手段によって階調レンジが調整されたオブジェクト別の画像データを合成する合成手段と、合成手段によって合成された画像データの階調レンジの上限値を所定値に調整するクリッピング手段と、を更に備える。また望ましくは、色材総量制限手段は、クリッピング手段によって階調レンジの上限値が調整された画像データのデータ変換をする。
この場合、合成手段による合成後の画像データの階調値がオブジェクトの重畳等により過大になったとしても、クリッピング手段により階調レンジの上限値が所定値に調整される。したがって、色材総量制限手段は、この所定値以下の階調データを持つ画像データに対して色材総量制限処理を実施することが可能となる。
本発明の別の態様は、上記の画像処理装置と、画像処理装置から得られる画像データに基づいて印刷を行う画像形成部と、を備える印刷装置に関する。
本発明の別の態様は、オブジェクト毎に予め設定される階調レンジに画像データの階調レンジを調整するステップと、画像データに基づく色材総量を制限するように、オブジェクト毎に設定される階調レンジに調整された画像データのデータ変換をするステップと、を含む画像処理方法であって、画像データに基づく色材総量を制限するように画像データのデータ変換をするステップは、色材総量を制限するように、画像データの階調データを調整するステップと、色材総量を制限するように階調データを調整する前の画像データ及び色材総量を制限するように階調データを調整した後の画像データを所定の階調値と比較し、色材総量を制限するように、画像データの階調データを調整するステップにおいて入力される画像データの階調データが所定の階調値以下であり、且つ、色材総量を制限するように、画像データの階調データを調整するステップにおいて出力される画像データの階調データが所定の階調値よりも大きい場合に、色材総量を制限するように、画像データの階調データを調整するステップにおいて出力される画像データの階調データを所定の階調値以下に修正するステップと、を有する画像処理方法に関する。
本発明の別の態様は、オブジェクト毎に予め設定される階調レンジに画像データの階調レンジを調整する手順と、画像データに基づく色材総量を制限するように、オブジェクト毎に設定される階調レンジに調整された画像データのデータ変換をする手順と、をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、画像データに基づく色材総量を制限するように画像データのデータ変換をする手順は、色材総量を制限するように、画像データの階調データを調整する手順と、色材総量を制限するように階調データを調整する前の画像データ及び色材総量を制限するように階調データを調整した後の画像データを所定の階調値と比較し、色材総量を制限するように、画像データの階調データを調整する手順において入力される画像データの階調データが所定の階調値以下であり、且つ、色材総量を制限するように、画像データの階調データを調整する手順において出力される画像データの階調データが所定の階調値よりも大きい場合に、色材総量を制限するように、画像データの階調データを調整する手順において出力される画像データの階調データを所定の階調値以下に修正する手順と、を有するプログラムに関する。
本発明によれば、オブジェクト毎に階調レンジが調整された後に、色材総量を制限するように画像データの階調データが調整され、さらに色材総量制限処理前後の画像データが所定の階調値と比較され、この比較結果に基づいて画像データの階調データが修正される。
これにより、オブジェクト毎に適正化された階調レンジに画像データを調整することができ、また所定の階調値との比較によって、色材総量制限処理前後の画像データの階調データに不具合がある場合には、その不具合に応じた階調データの修正が可能になる。
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
以下の実施形態では、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)の4種の色材を使用するプリンタシステムを対象とする。なお、プリンタシステムの種類や色材(種類、数)は特に限定されず、プリンタシステムの種類によらずに以下の実施形態を適用できる。したがって、プリンタシステムとして、例えば、オフセット印刷機、電子写真、レーザープリンタ、インクジェットプリンタなどを用いることができ、色材として、プリンタシステムに応じてインク、トナー等を使用することができる。
図1は、画像印刷時の入出力信号の概略を示すブロック図である。
プリンタシステム12において画像印刷を行う場合、コンピュータ等によって構成される画像信号入力装置10がプリンタシステム12に接続され、CMYKデータやRGBデータを含む入稿データ信号が画像信号入力装置10からプリンタシステム12に送られる。
画像信号入力装置10は、印刷画像の元になる画像データ(図画データ及び文字・線画データ)を作成及び調整し、この画像データのCMYKデータやRGBデータを含む信号を入稿データ信号としてプリンタシステム12に送る。
この画像信号入力装置10は、DTP編集装置としてのコンピュータによって構成され、DTPソフトウエアやそれに関連する各種のソフトウエアがインストールされている。入稿データ信号の画像データは、オブジェクト(図画、文字線画等)の種別毎に対応のソフトウエアによって作られ、合成ソフトウエアによってオブジェクト毎のデータが合成されることで作成される。したがって、入稿データ信号に含まれる画像データは、図画、文字線画等の各種のオブジェクトデータが集合して構成されることとなる。このようにして作成される画像データは、所定のPDL(ページ記述言語;Adobe system社のポストスクリプト等)形式で、入稿データ信号として画像信号入力装置10からプリンタシステム12に送られる。なお、入稿データ信号には、画像データのオブジェクト種別、作成時に使用したソフトウエア(クリエイタ)、座標情報、色情報等、各種の情報が印刷データとして含まれ、これらの印刷データは相互に対応づけられている。
一方、プリンタシステム12の画像処理部14は、入力された入稿データ信号に対して後述の一連の画像処理を施し、印刷画像信号を作成して後段の画像印刷部16に送信する。画像印刷部16は、画像処理部14において画像処理された印刷画像信号(画像データ)に基づき、CMYKインクを吐出して用紙等の記録媒体に所望画像を形成して印刷を実行する。画像印刷部16は、各種のプリンタとして構成することができ、例えばレーザープリンタ、インクジェットプリンタ、等の任意の構成をとることが可能である。
なお、図1に示す例では、画像処理部14及び画像印刷部16が一体的に設けられることでプリンタシステム12が構成されるが、画像信号入力装置10、画像処理部14及び画像印刷部16の実現態様は特に限定されない。したがって、画像信号入力装置10、画像処理部14及び画像印刷部16は、一体的に設けられてもよいし、別体として設けられてもよく、例えば画像処理部14を画像信号入力装置10及び/又は画像印刷部16と一体的に設けてもよいし、別体として設けてもよい。
図2は、画像処理部14の機能構成を示すブロック図である。画像処理部14は、CMS(カラーマネージメントシステム)処理部20、オブジェクト判別部(オブジェクト分離判別手段)22、階調レンジ調整部24、合成部26、クリッピング部28、総量制限処理部30、ガンマ補正部32、階調変換部34及び記憶部36を有する。
CMS処理部20は、画像を扱うデバイス間で表示色の統一を図るため、プリンタプロファイルを用いたカラーマネージメントシステム処理(CMS処理)を行い、デバイスに依存しない色再現域を介して画像データ変換を行う。例えば、入稿データ信号が「画像信号入力装置10に依存する色空間を基準に色表現されるデータ(例えば、CMYKデータ、RGBデータ等)」に基づく場合、対応の「デバイス非依存色空間(CIE Lab(以下「L*a*b*」とも表記する)等)で色表現されるデータ」を介し、「プリンタシステム12に依存する色空間を基準とした色表現データ(CMYKデータ)」に変換する処理がCMS処理部20で行われる。このCMS処理によって、色表現特性の異なる画像信号入力装置10とプリンタシステム12とが接続されても、各デバイスにおいて統一的な色表示が可能となる。したがって、画像信号入力装置10において表現可能な色空間とプリンタシステム12(画像印刷部16)において表現可能な色空間とは必ずしも合致している必要はなく、例えば「画像信号入力装置10の色空間の大きさ<プリンタシステム12(画像印刷部16)の色空間の大きさ」のような関係が成立する場合に対しても、以下の実施形態を適用することが可能である。なお、CMS処理部20は、入稿データ信号(印刷データ)内のオブジェクト属性に関する情報を損なうことなくCMS処理を行う。
オブジェクト判別部22は、入力される画像信号に含まれるオブジェクト属性に関する情報を参照して画像データのオブジェクトを判別し、画像データを、文字線画オブジェクトの画像データと、図画オブジェクトの画像データとに分離(分類)する。オブジェクト判別部22における画像データの分離判別手法は特に限定されず、例えば入稿データ信号に含まれる印刷データを参照して画像データのオブジェクト種別を分離判別してもよいし、画像データを作成したソフトウエア(クリエイタ)に基づいて画像データのオブジェクト種別を分離判別してもよい。これらのオブジェクト種別の判別は、ページ記述言語(PDL)の記述に基づいて行うことが可能である。
階調レンジ調整部24は、判別したオブジェクト種別に応じた階調レンジに、画像データの階調レンジを調整する。すなわち、階調レンジ調整部24では、オブジェクト毎に予め設定される階調レンジに画像データの階調レンジを調整し、例えば文字線画オブジェクトの画像データはエッジ再現性を重視した階調レンジに調整され、図画オブジェクトの画像データは色再現性を重視した階調レンジに調整される。具体的には、階調レンジ調整部24は、図画オブジェクトの画像データの階調レンジが文字線画オブジェクトの画像データの階調レンジよりも狭くなるように画像データの階調レンジを調整し、例えば、階調レンジ調整部24によって調整されるオブジェクト毎に予め設定される階調レンジのうち、図画オブジェクトに設定される階調レンジの最大値を、文字線画オブジェクトに設定される階調レンジの最大値よりも小さくする(下記の例では、図画オブジェクトに設定される階調レンジの最大値は252とされ、文字線画オブジェクトに設定される階調レンジの最大値は255とされている)。これは、色再現性の観点からは必ずしも高階調値が必要とされない一方で、エッジ再現性の観点からは高階調値を利用することでエッジ部を際立たせることができ視認性に優れるということを考慮したものである。
合成部26は、オブジェクト種別毎に階調レンジが調整されたオブジェクト別の画像データを合成する。すなわち、階調レンジ調整部24においてオブジェクト毎に別々に階調レンジの調整が行われた画像データ同士が合成部26で合成され、例えば文字線画オブジェクトの画像データと図画オブジェクトの画像データとは、階調レンジ調整部24では別個に処理されるが、合成部26における合成処理によって再び各種のオブジェクトの集合によって構成される合成画像データを構成する。
クリッピング部28は、合成部26によって合成された画像データの階調レンジの上限値を所定値に調整する。これは、異なるオブジェクトが重なる箇所の画像データについては、合成部26の合成処理によって画像データ(階調値)が足し合わされるため、プリンタシステム12(画像印刷部16)の印刷性能を超えた階調値が合成画像データに付与される場合があることを考慮したものである。クリッピング部28は、画像印刷部16の印刷性能に応じた階調レンジに画像データを調整し、画像印刷部16によって表現可能な最大階調値(下記の例では255)を超える画像データ(CMYKデータ)の階調値をこの最大階調値に変換する。これにより、画像印刷部16の印刷性能を超えた階調レンジの画像データが後段に送られることを防ぎ、画像処理の簡素化を図ることができる。なお、クリッピング部28によって調整される階調レンジの上限値(所定値)は、画像印刷部16によって表現可能な最大階調値に限定されるものではなく、要求される視認性等の各種要因を考慮した任意の値(階調値)に設定されてもよい。
総量制限処理部30は、クリッピング部28によって階調レンジの上限値が調整された画像データに対し、画像データに基づく色材総量を制限するデータ変換処理を施し、画像データの信号総量が所定値以上にならないよう制限をかける。これは、プリントデバイスによる記録媒体上への色材の載せ過ぎによるプリント品質の不具合をなくすために実施される。本例のようにCMYKの4色の画像信号が取り扱われる場合には、色材総量制限処理前後のCMYK信号値(階調値)が相互に対応づけられた4次元変換LUT(ルックアップテーブル)に基づいて、色材総量制限処理を実施することが可能である。なお、色材総量制限処理は、LUTを利用する手法に限定されず、マトリクス等を利用した任意の手法を採用することが可能である。この色材総量制限処理によって、画像データから導き出されるCMYKインク総量が規定値を超さないようなCMYKデータ(画像データ)を得ることができ、色材の記録媒体上への過剰付与が防がれている。
本例の総量制限処理部30は、詳細については後述するが、色材総量を制限するように画像データの階調データを調整する総量制限階調調整部31aと、総量制限階調調整部31aによる階調データの調整前後の画像データの階調値を所定の階調値と比較し、この比較結果に基づいて総量制限階調調整部31aから出力される画像データの階調データを修正する修正部31bとを含む。修正部31bは、総量制限階調調整部31aに入力される画像データが所定の階調値以下であり、且つ、総量制限階調調整部31aから出力される画像データが所定の階調値よりも大きい場合に、総量制限階調調整部31aから出力される画像データを所定の階調値以下に修正する。
修正部31bで用いられる「所定の階調値」は、階調レンジ調整部24によって調整されるオブジェクト毎に予め設定される階調レンジに基づき設定され、特に、階調レンジ調整手段によって調整される図画オブジェクトに予め設定される階調レンジに基づき設定可能である。例えば、階調レンジ調整部24によって調整されるオブジェクト毎に予め設定される階調レンジのうち、図画オブジェクトに対して設定される階調レンジの最大値が、文字線画オブジェクトに設定される階調レンジの最大値よりも小さい場合、修正部31bで用いられる「所定の階調値」を図画オブジェクトに対して設定される階調レンジの最大値としてもよい。この場合、後段の各処理部において、この「所定の階調値」を超える階調データを有する画像データが「文字線画オブジェクト」に係る画像データであることを容易に認識することが可能となり、そのような画像データに対しては「文字線画オブジェクト」に最適化された各種処理を積極的に施すことが可能となる。
ガンマ補正部32は、適切な階調の画像が画像印刷部16によって記録媒体上に印刷されるようにするため、総量制限処理部30によって色材総量制限データ変換された画像データに対してガンマ補正を行う。本例のガンマ補正部32は、詳細については後述するが、階調レンジ調整部24で参照した「オブジェクト毎に予め設定される階調レンジ」に基づいて画像データのガンマ補正(階調変換)を行い、オブジェクト種別(とりわけ文字線画オブジェクト)に応じたガンマ補正を実施する。
階調変換部34は、総量規制された画像データ(CMYKデータ)を、網点画像の画像データに階調変換し、画像印刷部16で処理可能なCMYKの階調データに変換する。
記憶部36は、画像処理部14の各部において用いる各種データ類(データ、プログラム等)を記憶し、画像処理部14の各部は、記憶部36に記憶されるデータ類の読み出し、追記、書き換え等を適宜行うことが可能である。
図3は、画像処理部14の各部における処理の流れを示すブロック図である。
入稿データ信号が画像処理部14に入力されると、画像データはオブジェクト判別部22においてオブジェクト種別の判別が行われ(S10)、図画オブジェクトの画像データと文字線画オブジェクトの画像データとに大別(分類)される。そして、CMS処理部20において、図画オブジェクトの画像データ及び文字線画オブジェクトの画像データの各々は、カラーマッチングプロファイルP1に基づくCMS処理が施され、画像印刷部16の色再現特性に応じた画像データに変換される(S11a、S11b)。CMS処理が施された画像データは、階調レンジ調整部24においてオブジェクト種別毎の階調レンジの調整処理が行われ、オブジェクト毎に予め設定される階調レンジに画像データの階調レンジが調整される。すなわち、本例の階調レンジ調整部24では、図画オブジェクトの画像データに対しては図画オブジェクト用の階調レンジ調整が行われ(S12a)、文字線画オブジェクトの画像データに対しては文字線画オブジェクト用の階調レンジ調整が行われる(S12b)。
上述のように、CMS処理部20では、「文字線画オブジェクト」と「図画オブジェクト」とでCMS条件が別個になる。CMS処理を2種類の分類されたオブジェクトで別個にしている理由は、CMS処理によって文字線画オブジェクトが図画オブジェクトと同じ階調レンジ(0−252)になってしまった場合、後段の階調レンジ調整処理(S12B)後も、階調レンジが0−252のままで保持され、そのあとの処理で画像オブジェクトのデータなのか、文字線画オブジェクトのデータなのかの区別できなくなってしまう場合があるからである。そのため、文字線画オブジェクトのCMS処理(S11b)では出力後も0−255の階調レンジを維持するように、「文字線画オブジェクト」と「図画オブジェクト」とでCMS処理を別個に分ける。
そして、オブジェクト種別毎に階調レンジ調整が行われた画像データは合成部26によって合成され、オブジェクト集合体としての画像データが合成作成される(S13)。その後、クリッピング部28におけるクリッピング処理によって画像データの最大階調値が制限され(S14)、総量制限処理部30における総量制限プロファイル(4次元変換LUT)P2に基づく信号総量制限処理によって、画像データに基づく色材総量を制限するように画像データのデータ変換が行われ、色材総量が制限された画像データが作られる(S15)。そして、ガンマ補正部32におけるガンマ補正プロファイルP3に基づくガンマ補正処理によって、画像印刷部16の入出力信号特性に基づく画像データの補正が行われ(S16)、階調変換部34におけるディザパターンプロファイルに基づく網点処理(S17)によって、画像印刷部16に供給される印刷画像信号が作られる。
次に、画像処理部14における上記各種処理のうち、階調レンジ調整処理(S12a、S12b)〜ガンマ補正処理(S16)の詳細について説明する。
図4は、階調レンジ調整処理〜ガンマ補正処理の詳細を示す概念図であり、図5は、図4に示す各種処理の流れを示すフロー図である。
本例では、画像印刷部16がCMYK各色を8ビット表現可能であり、対応の階調値として0〜255を取り得る場合について説明する。なお、以下の例では、プリンタ(画像印刷部16)で表現可能な濃度階調が十分に広く、一番濃い階調(最大階調値=255)まで使用しなくても図画オブジェクトの画像の色を十分再現できる場合について説明する。
画像データ(CMYKデータ)は、オブジェクト判別部22によるオブジェクト判別結果(図5のS10)に基づいて図画オブジェクトの画像データと文字線画オブジェクトの画像データとに分類される。オブジェクト種別に基づいて分類されたCMYKデータは、CMS処理(S11a、S11b)及び階調レンジ調整処理(S12a、S12b)を受ける。CMS処理部20においてカラーマッチング処理された後に階調レンジ調整部24に入力される画像データのCMYKデータは、オブジェクト判別部22によるオブジェクト判別結果に基づいて、オブジェクト種別毎に予め設定される階調レンジに画像データの階調レンジが調整される。すなわち、階調レンジ調整部24において、図画オブジェクトの画像データ(図画信号)と文字線画オブジェクトの画像データ(文字・線画信号)とは、階調レンジ調整部24において別々に処理される。
図4に示す例では、0〜255の階調レンジを持つ図画オブジェクトの画像データ(CMYK1)は、階調レンジ調整処理によって、各色を0〜252の範囲の階調レンジを持つ画像データ(CMYK2)に変換調整される。一方、文字線画オブジェクトの画像データ(CMYK1’)は、階調レンジ調整処理によって、各色を0〜255の範囲の階調レンジを持つ画像データ(CMYK2’)に調整される。本例では、階調レンジ調整部24に入力される文字線画オブジェクトの画像データは0〜255の階調レンジを持つので、階調レンジ調整部24は、図画オブジェクトの画像データ(CMYK1’)に対して階調レンジを変換することなく、図画オブジェクトの画像データ(CMYK2’)を出力する(CMYK1’=CMYK2’)。
なお、この階調レンジ調整処理で調整される図画オブジェクトの画像データの階調レンジの上限値は、「252」に限定されず、プリンタ(画像印刷部16)によって表現可能な最大階調値よりも小さく、文字線画オブジェクトの画像データの階調レンジ調整処理後の階調レンジの上限値よりも小さく、プリンタ(画像印刷部16)によって図画オブジェクトの画像の色を十分に再現可能な階調値であればよい。
そして、0〜252の階調レンジに調整された図画オブジェクトの画像データと0〜255の階調レンジに調整された文字線画オブジェクトの画像データとは合成部26によって合成され(足し合わされ)、合成画像の画像データ(CMYK3)が作られる(S13)。したがって、この合成画像の画像データ(CMYK3)において、図画オブジェクトのみの箇所は0〜252の階調範囲で表現され、文字・線画データオブジェクトのみの箇所は0〜255の階調範囲で表現され、図形オブジェクト及び文字線画オブジェクトが重畳する箇所は255を超える階調値を階調範囲の最大値として表現される(0〜507)。
そして、合成画像の画像データ(CMYK3)の階調データが階調値255を超える場合(S14aのY)、画像印刷部16によって再現可能な最大階調値(本例では255)に合成画像データの階調値をクリッピングする処理がクリッピング部28によって行われ、0〜255の階調レンジで表される画像データ(CMYK4)が作られる(S14b)。なお、階調データが階調値255以下の場合(S14aのN)、画像データの階調値はクリッピングされることなく、階調データは変更されない。
階調データのクリッピング処理を経た画像データ(CMYK4)は、総量制限処理部30において信号総量制限処理を受け、色材総量(本例では階調データ)が調整される(S15a)。
具体的には、まず総量制限階調調整部31aにおいて、クリッピング後(色材総量制限処理前)の画像データ(CMYK4)が予め定められた対応の色材総量制限処理後の画像データ(CMYK5)に変換され、色材総量を制限するように画像データの階調データが調整される。この色材総量制限処理では、色材総量制限処理前の画像データ(CMYK4)と色材総量制限処理後の画像データ(CMYK5)とが相互に対応づけられた4次元変換LUTを参照使用することができる。なお、色材総量制限処理後の画像データ(CMYK5)は、テストチャート印字等によって予め求められており、色材の過剰付与による不具合が生じないようなCMYKの各色の色材量(階調データ)が色材総量制限処理前の画像データに適宜割り当てられている。LUTに直接的に定義されていない画像データについては、総量制限階調調整部31aによる補間等の処理によって、色材総量制限処理後の画像データが適宜導き出される。
そして、修正部31bにおいて、色材総量制限処理による階調データの調整の前後の画像データが所定の階調値(本例では図画オブジェクトに対して設定される階調レンジの最大値「252」)と比較され、この比較結果に基づいて総量制限階調調整部31aから出力される「色材総量を制限するように階調データを調整した後の画像データ」の階調データが修正される。
すなわち、総量制限階調調整部31aに対する画像データの入力信号値と出力信号値とが、修正部31bにおいて色信号別に比較される。本例では、クリッピング処理後の画像データ(CMYK4:色材総量制限処理前画像データ)が合成部26から総量制限階調調整部31aに送信されると共に修正部31bにも送信され、また色材総量制限処理後の画像データ(CMYK5)が総量制限階調調整部31aから修正部31bに送信される。修正部31bは、CMYK各色に関し、「色材総量制限処理前の画像データの階調データが252以下か否か」及び「色材総量制限処理後の階調データが252よりも大きいか否か」を調べる(S15b)。「色材総量制限処理前の階調データが252よりも大きい場合」や「色材総量制限処理後の階調データが252以下の場合」(S15bのN)、修正部31bは入力される画像データに対して特段の処理を加えず、後段のガンマ補正部32に画像データを送る。一方、「色材総量制限処理前の階調データが252以下」且つ「色材総量制限処理後の階調データが252よりも大きい」と判定される場合(S15bのY;「C4≦252且つC5>252」「M4≦252且つM5>252」「Y4≦252且つY5>252」「K4≦252且つK5>252」)、修正部31bは色材総量制限処理後の階調データを252に設定する(S15c;「C5=252」「M5=252」「Y5=252」「K5=252」)。
本例では、階調レンジ調整処理(S12a、S12b)後の図画信号(図画オブジェクト画像データ)は0−252の階調レンジ内に収まるはずなので、総量制限階調調整部31aの入力信号(色材総量制限処理前画像データ)の階調値が252以下の場合は、階調値が252以内に収まるように修正部31bで色材総量制限処理後の画像データが処理される。したがって、総量制限階調調整部31aの入力信号(色材総量制限処理前画像データ)の階調値が252以下であるのに、総量制限階調調整部31aの出力信号(色材総量制限処理後画像データ)の階調値が252を超している場合には、画像データの階調値は修正部31bによって252にクリッピング処理される。これにより、後段のガンマ補正部で、図画信号(図画オブジェクトの画像データ)に対して文字線画信号(文字線画オブジェクトの画像データ)に最適化された処理が行われないようにする。
なお、文字線画オブジェクトの画像データや図画信号(図画オブジェクトの画像データ)と文字・線画信号(文字線画オブジェクトの画像データ)とが重なりあった画像データであって、色材総量制限処理後の階調値が252を超える場合には、252を超える階調値(252〜255)を持った状態で画像データが後段のガンマ補正部32に送られる。したがって、文字・線画信号に関しても、総量制限処理部30は、色材総量(インク総量)とエッジ品質の両方を最適化することができる。
そして、総量制限処理部30において色材総量制限処理を経た画像データ(CMYK6)は、ガンマ補正部32によってガンマ補正による階調変換処理が施され、ガンマ補正後の画像データ(CMYK7)が作られる(S16)。特に本例では、ガンマ補正前の画像データとガンマ補正後の画像データとの関係を規定するガンマ補正規定ラインは、ガンマ補正前の画像データにおける所定の階調値「252」に対応する点で傾きが不連続となる。本例で用いられるガンマ補正プロファイルP3に基づくガンマ補正規定ライン(図4参照)では、入力階調値0〜252の範囲及びの入力階調値252〜255の範囲の各範囲でのガンマ補正規定ラインの傾きが異なっており、入力階調値252においてガンマ補正規定ラインの傾きが不連続となっている。本例では、図画オブジェクトに対応する階調レンジ(0〜252)におけるガンマ補正規定ラインの傾きよりも文字線画オブジェクト特有の階調レンジ(252〜255)におけるガンマ補正規定ラインの傾きのほうが大きい。より具体的には、入力階調値「0」の場合の出力階調値は「0」であり、入力階調値「252」の場合の出力階調値は「250」であり、入力階調値「255」の場合の出力階調値は「255」となるようなガンマ補正が行われる。
このように、本例のガンマ補正は、図画オブジェクトの階調レンジに対応する0〜252の範囲では濃度階調(色再現性)を重視した設計となっており、文字・線画オブジェクトの画像データ特有の階調値253〜255の範囲ではエッジ再現性をより重視した設計となっている。
ガンマ補正後の画像データは、階調変換部34において所定の階調変換処理が施された後に、印刷画像信号として後段の画像印刷部16に送られ、画像印刷部16における画像印刷に供される。
以上説明したように、本実施形態の画像処理装置によれば、領域別に合成方法を変えるような複雑な処理をすることなく、信号総量を考慮して、画像及び文字・線画の両者の品質を高いレベルで確保することができる。
特に、合成処理後に色材総量制限を行う過程で、階調値(階調レンジ)に基づいて、入力信号値に文字・線画情報が含まれているかが判断されるため、オブジェクト毎に求められる色彩やエッジの再現性を加味した適切な色材総量制限処理を実施して、図画及び文字・線画の各々の画質を最適化することができる。
なお、上述の画像信号入力装置10及びプリンタシステム12(画像処理部14、画像印刷部16)を構成する各部は、任意のハードウェア、ソフトウエア(プログラム)、或いは両者の組み合わせによって適宜実現可能である。したがって、例えば、オブジェクト毎に予め設定される階調レンジに画像データの階調レンジを調整する手順と、画像データに基づく色材総量を制限するように、オブジェクト毎に設定される階調レンジに調整された画像データのデータ変換をする手順(色材総量を制限するように、画像データの階調データを調整する手順、及び色材総量を制限するように階調データを調整する前の画像データ及び色材総量を制限するように階調データを調整した後の画像データを所定の階調値と比較し、この比較結果に基づいて色材総量を制限するように階調データを調整した後の画像データの階調データを修正する手順)とをコンピュータに実行させるためのプログラムによって、画像処理部14(CMS処理部20、オブジェクト判別部22、階調レンジ調整部24、合成部26、クリッピング部28、総量制限処理部30、ガンマ補正部32、階調変換部34)等を構成することも可能であり、そのようなプログラムはコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。