本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は一実施例の誘導加熱調理器の本体1の斜視図であり、図2は図1に一点鎖線AA′で示される部分に調理鍋6を載せたときの概略縦断面図である。以下では、誘導加熱が可能な鍋置き場所が2口、ラジエントヒータやハロゲンヒータ等のヒーター(加熱源)の放射熱で加熱可能な鍋置き場所が1口ある3口の誘導加熱調理器を例に挙げ説明を行うが、本発明の適用対象はこれに限られず例えば誘導加熱が可能な鍋置き場所を3口設けた誘導加熱調理器であっても良い。なお、調理鍋6は、誘導加熱に適した磁性体の鉄鍋であっても良いし、非磁性体のアルミ鍋、銅鍋であっても良い。
図1および図2に示すように、本体1の上面には、結晶化ガラス等の非磁性体によって形成されたトッププレート2が装着されている。また、トッププレート2の手前には、各口の加熱開始あるいは加熱コースを指示するスイッチ、各口の加熱状態(温度等)を表示する表示器が配置される操作表示部3が装着されている。
トッププレート2の上面には、その下に配置される加熱コイル7あるいはラジエントヒータの最外半径におよそ一致する半径の円4が加熱可能な鍋置き場所を示すために印刷されている。また、トッププレート2は普通可視光に対して透明であるため、上面にはフリットガラスに耐熱塗料を混入した耐熱耐久性の意匠印刷、下面には耐熱面塗装を施し、機器内部が見えないようにしてある。誘導加熱が可能な鍋置き場所2口の円4の中央から約50mmずれた位置に後述する鍋温度検出のために前記印刷、塗装を行っていない赤外線透過窓5が設けられている。この赤外線透過窓5は赤外光を透過させるためであり、この部分だけ赤外光に対しては透明な可視光カット部材(耐熱フィルムまたはガラス)を下面に装着しても良い。
トッププレート2の上面の各口(円4)に、調理鍋6を置き加熱調理を行う。図2に示すように、加熱コイル7にインバータ回路8(高周波電流供給手段)からの高周波電流を供給すると、外周側の第1のコイル7aと内周側の第2のコイル7bに分割された加熱コイル7が高周波磁界9(図中破線で示す)を発生し、この高周波磁界9が調理鍋6と鎖交して、渦電流を発生し、そのジュール熱により調理鍋6自身が誘導加熱され発熱する。従って、調理鍋6内の調理物は、調理鍋6自身の発熱によって加熱調理される。このとき、調理鍋6の下にあるトッププレート2も、発熱した調理鍋6からの伝熱あるいは放射熱により高温になる。
図3に加熱コイル7周辺の断面を詳しく示す。図3に示すようにトッププレート2下面には第1のコイル7aと第2のコイル7bの間にコイル間隙7cを備えて分割された加熱コイル7が耐熱プラスチックで構成されるコイルベース10内に同心円状(渦巻き状)に巻かれて配置される。加熱コイル7の下側にはコイルベース部材内部にコ字状のフェライト11が凸部を上にして放射状に配置されている。このフェライト11は加熱コイル7が発生する磁束をトッププレート2上の調理容器である調理鍋6に効率良く導くために配置される。また、磁束がコイルベース10下部に漏洩するのを防止する。フェライト11は透磁率が高く磁束はほとんどフェライト11内を通過するからである。
コイルベース10の下には加熱コイル7を冷却するためのコイル冷却風路15が設置される。コイル冷却風路15は二つに分けられ、一つは第1のコイル7aの内周側に接続され、第2のコイル7bおよび第1のコイル7a上面を冷却するコイル上面冷却風路15a、他の一つは第1のコイル7aの下面を冷却するコイル下面冷却風路15bである。コイルベース10の中心部分下に位置するコイル冷却風路15aの上面には円形上のコイル上面冷却風送出孔15cが開口している。
コイルベース10の中心部は円筒状の内空洞14aになっており、第1のコイル7aの内周側にはフェライト11を内蔵する放射上梁に繋がる円筒状の外空洞壁14bになっている。この外空洞壁14bの下部に、コイル冷却風路15aのコイル上面冷却風送出孔15cが接続される。コイル上面冷却風送出孔15cの周囲にはグラスウール等のシール材16が設けられ先の外空洞壁14bに接続されている。
コイル冷却風路15の下にはインバータ回路8等の回路基板を内蔵する回路冷却風路17a、17bが2段重ねて設けられ、夫々には左右の加熱コイル7L、7R(図13)のインバータ回路等が内蔵されている。これらの冷却風路は本体1に固定される。
コイルベース10はコイル下面冷却風路15bまたは回路冷却風路17aに固定される3個のコイルベース受け12からバネ13で押され、トッププレート2の下面に押し付けられる。
コイル冷却風送出孔15c下のコイル上面冷却風路15a中には鍋温度検出装置18が配置される。鍋温度検出装置18は誘導加熱された調理鍋6の底面温度をトッププレート2の赤外線透過窓5を透過する赤外線から検出する。また、本実施例の赤外線投光手段35(図6)および赤外線反射受光手段36(図6)も内蔵され加熱される調理鍋6底面の反射率を検出する。
加熱調理中にはコイル上面冷却風路15a、コイル下面冷却風路15b、回路冷却風路17a、17bには本体1に内蔵されるファン(図示せず)から外気が導入される。コイル上面冷却風路15a内を流れる冷却風は鍋温度検出装置18を冷却しながらコイル上面冷却風送出孔15cから円筒状の外空洞壁14b内のコイル間隙7cおよび内空洞14aを上昇し、コイル間隙7cおよび内空洞14a上部から、トッププレート2に遮られトッププレート2と加熱コイル7の間をコイル径方向外側に流れ、加熱コイル7の上面およびトッププレート2下面を冷却する。コイル下面冷却風路15bの第1のコイル7aの下面にあたる部分には小さな孔が複数開けられ、コイル下面冷却風路15b内を流れる冷却風は、ここから第1のコイル7a下面に向かって噴流してこれを冷却する。
図4にトッププレート2を除いた図3の上面図の詳細を示す。加熱コイル7、コイルベース10、コイル冷却風路15aの詳細構成図である。加熱コイル7および内空洞14aと鍋温度検出装置18の水平面での位置関係を示す。
加熱コイル7は、テフロン(登録商標)等で絶縁被膜されるリッツ線で同心円状に同一方向に巻回され、外周側の第1のコイル7aと内周側の第2のコイル7bに分割される。そのコイル間隙7cは幅およそ15mmの同心帯状をなし、第1のコイル7aの巻き終わりはコイル間隙7cを架橋し第2のコイル7bの巻き始めとなり、第1のコイル7aと架橋線7dと第2のコイル7bで加熱コイル7を構成する。コイルベース10には第1のコイル7aの内周側に円筒状の外空洞壁14bが設けられ、その内側がコイル間隙7cとなっている。また、第2のコイル7bの内周側に内空洞14aが設けられる。さらに、コイル間隙7cの一部、放射状に配置される二つのフェライト11間に楕円筒状のセンサ視野筒19(およそ縦12mm、横24mmの楕円)が設けられ、このセンサ視野筒19の下に鍋温度検出装置18が設置される。
センサ視野筒19の上部横にはトッププレート2の赤外線透過窓5の横下面に接触するようにサーミスタ20が設置される。
誘導加熱された鍋底面からの赤外線はトッププレート2の赤外線透過窓5を透過し、センサ視野筒19から後で詳細に説明する鍋温度検出装置18に内蔵されるサーモパイル25に入射する。また赤外線投光手段35の投光する赤外線はセンサ視野筒19、赤外線透過窓5を通過して調理鍋6の底で反射され、この反射光は赤外線反射受光手段36で受光される。
図5は先の図4を裏から見た図を示す。コイルベース10には2個のコイル端子21が設けられ、低電圧端子21aには第1のコイル7aの巻き始めが接続され、高電圧端子21bには第2のコイルの巻き終わりが接続される。この端子にはインバータ回路8の出力線22がねじで固定される。銅やアルミニウム等の非磁性体の鍋では4〜5kVの高電圧が出力される高電圧出力線22bは高電圧端子21bに接続される。
図4、図5で説明したように鍋温度検出装置18は、架橋線7dの近傍をさけ、かつ高電圧出力線22bが接続される高電圧端子21bから離れた位置にあるコイル間隙7cに設けられたセンサ視野筒19の下にそのケース窓30(図6)が位置するように設置される。
加熱コイル7を二つの部分に分割し、そのコイル間隙7cにセンサ視野筒19を設け、その下に鍋温度検出装置18を設ける理由は、加熱コイル7の径方向幅中間部の磁束が一番強く、この上の調理鍋6底が一番高温に加熱され、その部分の温度を正確に検出するのが異常過熱の防止に役立つためである。
図6に鍋温度検出装置18の詳細を示す。
図6(a)は、鍋温度検出装置18の平面図を示す。鍋温度検出装置18は、ヒートシンク26を被せた赤外線検出センサ(サーモパイル25)、放物面反射鏡51と赤外線発光LED50で構成される赤外線投光器35(赤外線投光手段)、赤外線フォトトランジスタ54と受光器遮光壁55で構成される赤外線反射受光器36(赤外線反射受光手段)を中心に構成される。
サーモパイル25と赤外線投光手段35、赤外線反射受光手段36はサーモパイル25の出力信号を増幅するサーモパイル温度検出回路72(後で詳細を説明する)と反射率検出回路73(後で詳細を説明する)が実装される電子回路基板27に配置されている。
また、電子回路基板27には、電子回路基板27の裏面に実装した赤外線発光LED50の光源から出た赤外線を放物面反射鏡51が反射して電子回路基板27の表面側に通過させるため開口部53が設けられている。
このサーモパイル25と赤外線投光手段35、赤外線反射受光手段36および電子回路基板27は、全体をプラスチック部材の赤外線センサケース29(一点鎖線で示す)内に密封される。この赤外線センサケース29には赤外線を透過させるためにケース窓30が開けられ、このケース窓30にはトッププレート2を構成する結晶化ガラスとほぼ同じ光学特性(但し図8薄線で示すように1μm以上の長波長側の光学特性はほぼ同じだが、短波長側でトッププレート2に比べて透過率小の領域が400nmほどあり、この部分の可視光がカットされるため目には赤黒く見える)を持つ結晶化ガラスを薄く四角形に切り出したものを結晶化ガラス光学フィルタ31として嵌め込んである。
そして、結晶化ガラス光学フィルタ31の下にヒートシンク26を被せたサーモパイル25と赤外線投光手段35、赤外線反射受光手段36が電子回路基板27上に実装されている。この赤外線センサケース29は、周りをアルミニウム等の透磁率がほぼ1の金属ケース32(2点鎖線で示す)で覆っている。当然、先のケース窓30の所は開口されている。そして、更にアルミニウム製等の金属ケース32は、周りをプラスチック部材の外側赤外線センサケース33で覆っている。当然先のケース窓30の所は開口されている。つまり、サーモパイル25は3重のケースで覆われた形になっている。
そして、鍋温度検出装置18はそのケース窓30がコイルベース10のセンサ視野筒19内を望むようにコイル上面冷却風路15a内に設置される。
図6(a)中のA−A′線に沿った断面図を図6(b)に示す。これは、赤外線センサケース29内に設置される電子回路基板27に装着されるサーモパイル25および赤外線投光手段35、赤外線反射受光手段36と赤外線センサケース29のケース窓30、結晶化ガラス光学フィルタ31との位置関係を示す断面図である。
図7に赤外線投光手段35、赤外線反射受光手段36の詳細構成を示す。
赤外線投光手段35は赤外線発光素子としての面実装タイプの赤外線発光LED50と放物面にアルミあるいはクロム等の高反射率金属をメッキあるいは蒸着した放物面反射鏡51、投光器遮光壁52から構成される。放物面は、放物線Y=X2/4F((0,F):焦点位置)を回転してできる面であり、プラスチック部材上面にこの面を凹に構成し、この表面にアルミあるいはクロムをメッキあるいは蒸着して放物面反射鏡51を作製する。放物面反射鏡51は高輝アルミを成型して作製しても良い。赤外線発光LED50は放物面反射鏡51のほぼ焦点に、その発光が放物面反射鏡51に照射されるように配置される。
赤外線反射受光手段36は砲弾型のプラスチックレンズを持つ赤外線フォトトランジスタ54で構成され、放物面反射鏡51の焦点同軸上に赤外線発光LED50の反対側に受光面を上向けて装着される。
図に示すように、放物面反射鏡51より反射した赤外線は、その周囲を投光器遮光壁52で囲われ、投光赤外線が電子回路基板27に装着される他電子部品に影響しないようにしている。赤外線発光LED50の発光は点発光(点光源)ではないため放物面反射鏡51の焦点にその発光点を配置しても、放物面反射鏡51で反射する光線が完全な平行光線にはならない。投光器遮光壁52がなければ平行でない光線が結晶化ガラス光学フィルタ31で反射され他電子部品に到達するからである。また赤外線フォトトランジスタ54は投光赤外線が直接赤外線フォトトランジスタ54に入射しないように、上面を除き周囲及び下面を受光器遮光壁55で囲う。
電子回路基板27には、電子回路基板27の裏面に実装した赤外線発光LED50の光源を電子回路基板27の表面側(赤外線フォトトランジスタ54の実装面側)へ照射するために放物面反射鏡51で反射された光を通過させる開口部53が設けられ、赤外線フォトトランジスタ54と赤外線発光LED50に接続される反射率検出回路73(後で詳細を説明する)、サーモパイル25の出力信号を増幅するサーモパイル温度検出回路72(後で詳細を説明する)が搭載されている。
その開口部53は、赤外線フォトトランジスタ54と赤外線発光LED50を実装できる基板部27aと、赤外線フォトトランジスタ54と赤外線発光LED50への電源や信号線のパターを配線できる基板部27bと基板部27cによって二個の開口部53に分割されている。以後の説明では、この二個に分割されている開口部53を1つの開口部53として取り扱う。
そして、赤外線フォトトランジスタ54と赤外線発光LED50は開口部53の略中心になるように設けられている。
また、開口部53は、電子回路基板27の限られたスペースに効率よく部品が搭載できて、開口面積を大きく取れるように四角形の形状の開口としている。
また、開口部53は、放物面反射鏡51より小さく開口している。
赤外線フォトトランジスタ54と赤外線発光LED50への電源や信号線のパターの配線部は基板部の27bもしくは27cのどちらか一方だけでも良い。
図8にトッププレート2および結晶化ガラス光学フィルタ31の光学特性(各波長での透過率)を示す。また図9(a)に赤外線発光LED50の分光強度特性および赤外線フォトトランジスタ54の分光感度特性を示す。図9(b)に赤外線発光LED50の発光強度指向特性、赤外線フォトトランジスタ54の受光感度指向特性を示す。
赤外線発光LED50は930nm付近の近赤外光を発光し、広視野角(半値角度120゜程度)のもので、光線は放物面反射鏡51で反射され、ほぼ平行光線となり上方に投光される。広視野角のものとしたのは放物面で反射する平行光線の強度分布が均一となるようにするためである。赤外線フォトトランジスタ54の受光面上には可視光プラスチックで砲弾型レンズが構成され、先の投光赤外光の物体(鍋底面)での反射赤外光を比較的狭い視野角(半値角度20゜から40゜程度)で受光し、その受光量に比例した光電流を出力する。しかし、受光はこの視野角よりは受光器遮光壁55の開口で規定される。また砲弾型レンズを持たないフォトトランジスタでも良いが、レンズを有する方が集光効率が高く受光感度の点で望ましい。なお、赤外線発光LED50の発光波長は930nmに限らず700nmから900nmの近赤外領域のものであればよい。また赤外線フォトトランジスタ54は波長700nmから900nmの近赤外領域に分光感度特性をもつものであればよい。これらの波長は図8に示したトッププレート2及び結晶化ガラス光学フィルタ31の光学特性と調理鍋6の放射する赤外線波長領域から規定される。つまり使用する赤外線の波長は、トッププレート2及び結晶化ガラス光学フィルタ31を透過するものであればよく、かつ安価な素子であることが条件となる。また、温度検出の赤外線センサであるサーモパイル25が受光する赤外線領域(鍋の調理温度から1μm以上の波長域、後述する図18を参照)をはずしたものが望ましい。このため、本実施例では図9に示す光学特性の赤外線発光LED50、赤外線フォトトランジスタ54を使用している。
この赤外線投光手段35、赤外線反射受光手段36は説明のように赤外線発光LED50と赤外線フォトトランジスタ54の対で構成されトッププレート2上に置かれた調理鍋6底面の反射率を検出するものである。
赤外線投光手段35、赤外線反射受光手段36の投光器遮光壁52、受光器遮光壁55の上面は結晶化ガラス光学フィルタ31の下面直下に位置する。これは投光赤外線発光が直上の結晶化ガラス光学フィルタ31で反射され、直接赤外線反射受光手段36の赤外線フォトトランジスタ54で受光されるのを防止するためである。
図8に示したように、赤外線発光LED50の赤外線発光は結晶化ガラス光学フィルタ31を85%以上透過するが、残り15%は反射され、この反射光はすぐ同軸上に配置される赤外線フォトトランジスタ54で受光される恐れがある。この受光レベルは反射面である結晶化ガラス光学フィルタ31下面との距離が短いと大きく、本来目的であるトッププレート2上にある鍋底面での反射光の受光に影響する。このため、本実施例では、図示するように結晶化ガラス光学フィルタ31と投光器遮光壁52、受光器遮光壁55の上端との距離を500μm以内程度にまで接近させ、赤外線発光LED50の発光赤外線の結晶化ガラス光学フィルタ31で反射する反射分が赤外線フォトトランジスタ54で受光されないようにしている。理想的には結晶化ガラス光学フィルタ31下面と投光器遮光壁52および受光器遮光壁55の上面を接触させたほうが望ましい。
図10にサーモパイル25の詳細を示す。
図10(a)はヒートシンク26とサーモパイル25の斜視図を示す。図10(b)はヒートシンク26を除いた図10(a)中B−B′で示す線でのサーモパイル25の断面図であり、図10(c)は図10(b)中C−C′で示す線での断面の平面図である。なお、熱電対が見えるように、赤外線吸収膜25−9を省略して示してある。
サーモパイル25は熱電対(サーモカップル)を多数縦列接続した(パイリング)したもので、ニッケルめっき鋼板等の金属キャン25−1と金属ステム25−2からなる金属ケース25−3内にこれが内蔵されている。およそ300μm厚のシリコン基材25−4表面に電気的および熱的に絶縁するためシリコン酸化膜25−5を形成し、この上にポリシリコン、アルミを順次パターン蒸着しポリシリコン蒸着膜25−6、アルミ蒸着膜25−7で熱電対を多数作成し、これを縦列接続する。ポリシリコン、アルミ接合点(測温接点)のあるシリコン基材25−4中央部には、黒体に近い酸化ルビジウム膜等の赤外線吸収膜25−9を形成する。ポリシリコンおよびアルミ蒸着膜の一端は冷接点25−10であり、これはシリコン基材25−4周囲のシリコン酸化膜25−5上に配置する。シリコン基材25−4の裏面を周囲(冷接点25−10)を残して290μmまでエッチングし、測温接点部分のあるシリコン基材25−4の厚みを10μmに形成する。これは熱電導の良好なシリコンを薄くすることで、測温接点部25−8と冷接点25−10の熱伝導を少なくし測温接点部と冷接点部を熱的に絶縁するためである。
このシリコン基材25−4を金属ケース25−3の金属ステム25−2にボンド等の接着剤で固定する。同時に金属ステム25−2にはセラミック上に膜形成したNTCサーミスタ25−11を同様に配置する。これは金属ケース25−3内にある熱電対の雰囲気温度を検出し、熱電対の熱起電力を補正するためである。詳細は後述する。金属ステム25−2には絶縁シールされた4本の金属ピン25−12が貫通配置されており、この金属ピン25−12に先の熱電対の出力とNTCサーミスタ25−11がワイヤ接続される。金属ステム25−2には、筒状の金属キャン25−1が窒素等の不活性ガス中で被せられ溶着される。この金属キャン25−1の上面には小穴の窓25−13が開けられ、ここに内側からガラス凸レンズ25−14が装着されている。この小穴の垂直下に先の測温接点部25−8(赤外線吸収膜25−9の下にある)が位置するようにシリコン基材25−4が固定される。このガラス凸レンズ25−14は赤外線透過窓5の視野範囲が赤外線吸収膜25−9に結像するように設計される。
サーモパイル25内の測温接点部25−8(赤外線吸収膜25−9の下にある)にはこの小穴の窓25−13を通過しガラス凸レンズ25−14で集光された赤外線で加熱され、この加熱温度上昇は通過した赤外線エネルギーに比例し、熱電対の冷接点25−10と測温接点部25−8の温度差に比例した電圧が熱電対出力の金属ピン25−12に出力される。図11にこのサーモパイル25の視野特性を示す。ガラス凸レンズ25−14のため、視野角は狭く、本実施例ではセンサ視野筒19の上端で約直径10mmの円が半値角内となっている。
前述したようにサーモパイル25は金属ケース25−3が熱的には熱電対の冷接点部25−10と同じであり、この温度変動がそのままサーモパイル25の出力変動となってしまう。そのため、ヒートシンク26を熱バッファ(熱容量を大きくする)として装着して周囲温度変化に対する出力変動を減少させる。
図12に反射率検出のために赤外線投光手段35が鍋底に向けて赤外線を投光し調理鍋6での反射光を赤外線反射受光器36が受光する様子を示す。また赤外線投光器35の投光範囲すなわち赤外線投光手段35が鍋底に投光する赤外線範囲とサーモパイル25の受光範囲の概略関係を示す。赤外線発光LED50の発光する赤外線は放物面反射鏡51で反射し平行光線となりトッププレート2すなわち鍋底に概垂直に投光される。ここで反射された赤外光線は赤外線反射受光手段36で受光される。図では反射光の散乱成分を示している。また本実施例では、サーモパイル受光視野の左半分が反射率検出の投光範囲と重複させるように、サーモパイル25のすぐ横に赤外線投光手段35を配置している。半値角より広い部分の左側が反射率検出のための投光範囲と重なっている。なお赤外線フォトトランジスタ54は放物面反射鏡51の焦点と同軸上に配置しているが、同軸上から多少ずれても良いのはあきらかである。
図13に本実施例の誘導加熱調理器の制御ブロック図を示す。マイクロコンピュータ60が誘導加熱調理器の動作を制御する。以下記号Rは図1の手前右にある誘導加熱口に関するブロックを表し、記号Lは図1の手前左にある誘導加熱口に関するブロックを表す。2つのインバータ回路8Rおよび8Lは加熱コイル7R及び7Lに高周波電流を供給する。このインバータ回路8R、8Lの動作周波数及びコイルへの供給電力を調整するのが周波数制御回路61R、61L及び電力制御回路62R、62Lである。動作周波数を変化させるのは、鍋の金属種類によって高周波電流の周波数で誘導加熱効率が変化するためである。一般に鉄では20kHz、これより抵抗率の低い銅、アルミでは70kHz以上の周波数が用いられる。この周波数切り替えは図示しない鍋種類判別手段の判断に基づいてマイクロコンピュータ60が周波数制御回路を制御して行う。
各インバータ回路8R、8Lには整流回路63から直流電圧が供給される。この整流回路63には電源スイッチ64を介して3端子200Vの商用電源65が接続されている。商用電源の接地端子は本体1の金属部に接地線で接続される。ラジエントヒータ66にはラジエントヒータ回路67を介して商用電源65が接続され、ラジエントヒータ回路67がラジエントヒータ66に供給する電力を制御する。
マイクロコンピュータ60には、操作表示部3の操作スイッチ68、表示回路69が接続され使用者の操作指示を受け付け、機器の動作状態表示を行う。また、ブザー70が接続され使用者の操作ボタン押しあるいはエラー等の警告などを報知する。マイクロコンピュータ60は使用者の指示に従い、周波数制御回路61R、61Lと電力制御回路62R、62L及びラジエントヒータ回路67を制御して、トッププレート2上の調理鍋6を加熱する。
サーモパイル25はサーモパイル温度検出回路72に接続され出力が増幅され、マイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。赤外線投光手段35の赤外線発光LED50、赤外線反射受光手段36の赤外線フォトトランジスタ54は反射率検出回路73に接続され、マイクロコンピュータ60のポート出力で赤外線発光LED50の発光を制御され、調理鍋6で反射された赤外光は赤外線フォトトランジスタ54で受光され、その出力信号は増幅されマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。サーモパイル温度検出回路72および反射率検出回路73の動作の詳細は後述する。
反射率補正手段はマイクロコンピュータ60のソフトウエアで行われる。後で詳細は述べる。
また、マイクロコンピュータ60は反射率検出回路73の出力から調理鍋の赤外線反射率を知り、反射率で補正して調理鍋の温度を検出する。この処理もマイクロコンピュータ60のソフトウエアで行われる。(反射率補正手段の動作)そして、電力制御回路62を介して、調理鍋6の加熱を制御する。この処理法の詳細は後述する。
図14にサーモパイル温度検出回路72の詳細を示す。サーモパイル25の熱電対出力(熱起電力)(図中(+)、(−)記号間の電圧)はオペアンプ72−1で約2000倍に増幅され出力端子72−2に出力される。この出力電圧はマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。オペアンプ72−1の増幅度は抵抗72−3(=R1)と抵抗72−4(=R2)の比(R2/R1)で決まる。また、サーモパイル25内のNTCサーミスタ25−11は、回路電源電圧を抵抗72−5、72−6、72−7で分圧された電圧源(抵抗72−6の両端)に抵抗72−8と直列接続された状態で接続され、この抵抗72−8との接続点aは熱電対出力端子(−)に接続されている。NTCサーミスタ25−11は負の温度特性を持った抵抗素子であり温度上昇で抵抗値が低下する。このため、サーモパイル25内の温度が上昇すると先の接続点aの電圧は上昇する。熱電対出力(図中(+)、(−)記号間の電圧)は測温接点部25−8(赤外線エネルギーで加熱される点)と冷接点(熱電対出力端子)25−10の温度差に比例する。このため、サーモパイル25の設置される雰囲気温度で金属ケース25−3内雰囲気(NTCサーミスタ25−11が内蔵される)温度が上昇すると熱電対出力は減少する。この減少を接続点aの電圧上昇で補償する。すなわちNTCサーミスタ25−11はサーモパイル(熱電対)25の出力すなわち測定対象の放射赤外線エネルギーによる出力が周囲温度で変化するのを防ぐために使用される。つまり、サーモパイル25の周囲温度が変化しても、測定対象の温度すなわち入射する赤外線エネルギーが変化しなければ出力変化を起こさないという冷接点温度補償を行っている。
図15に反射率検出回路73の詳細を示す。図15において、50は発光素子である赤外線発光LEDであり、その発光波長は930nmである。54は赤外線フォトトランジスタであり、例えばピーク感度波長が880nmで赤外線発光LED50の発光波長930nmでもピーク感度の95%の感度をもつものである。図16に反射率検出回路73の動作タイミングチャートを示す。赤外線発光LED50はトランジスタ73−1で駆動される。この駆動はマイクロコンピュータ60の出力ポートから駆動信号端子73−8に入力される信号で制御される。図16(a)にこの信号を示す。デューティ50%の矩形波信号(周波数約2kHz)を駆動信号端子73−8に入力すると、赤外線発光LED50は信号が5Vのとき発光し、0Vのときは消灯する。この発光強度は赤外線発光LED50に流す電流に比例し、この電流は抵抗73−2の値で決められる。本実施例では抵抗値を固定して発光強度は一定である。この赤外発光が放物面反射鏡51で反射され平行光となり、結晶化ガラス光学フィルタ31を透過して、トッププレート2及び調理鍋6の底面で反射され、受光素子である赤外線フォトトランジスタ54で受光されると光電流により抵抗73−3に電圧が発生する。この電圧を図16(b)に示す。反射が大きく(受光量が多く)なれば電圧は比例して大きくなる。この信号電圧はコンデンサ73−4で直流分がカットされ、ダイオード73−5、73−6で倍電圧整流され、直流信号としてオペアンプ73−7で構成される直流増幅器に入力され、ここで増幅される。図16(c)(d)にこれを示す。この増幅された直流電圧は出力端子73−9から出力される。この出力はマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。
このように反射率検出回路73は発光強度が一定のキャリア変調された近赤外光を鍋底面に平行光として投光し、鍋で反射される赤外光を受光してその直流電圧を反射電圧として得ることで反射率に相当する値を検出する。図17に調理鍋6がトッププレートに置かれている場合といない場合の反射率検出回路73の出力を示す。調理鍋6が置かれていない場合にはトッププレート2のみでの反射でありこれは一定の値を示す。(トッププレート2の赤外波長930nmでの透過率は90%であり残りは反射される。)これからの増加分が調理鍋6からの反射分であり、この量が調理鍋6の反射率に相当するものである。
赤外発光を約2kHzでキャリア変調し、受光回路で直流成分をコンデンサ73−4でカットしているのは、自然光の直流成分あるいは白熱電灯、蛍光灯などの照明機器に含まれる低周波成分(商用電源周波数)が鍋の反射率検出に影響するのを防止するためである。(可視光は結晶化ガラス光学フィルタ31である程度カットされる。)また、赤外線フォトトランジスタ54の暗電流の影響も防止している。
以下本実施例の動作、特に反射率検出と鍋温度検出および調理動作を説明する。
トッププレート2上に置かれた調理鍋6は誘導加熱により発熱する。この加熱により調理鍋6底面からは赤外線が放射される。この全放射エネルギーEは鍋温度Tの4乗に比例したものである(E=σT4;ステファン・ボルツマンの法則)。図18にプランクの分布則から算出される黒体温度の分光放射エネルギーを示す。この分光放射エネルギーを全波長域で積分すれば、全放射エネルギーEが求まり、これは温度(絶対温度)の4乗に比例する。これが前述のステファン・ボルツマンの法則であり、この係数σがステファン・ボルツマン係数である。分光放射エネルギーのピーク波長はウィーンの変移則から、調理温度100〜300℃で5μm〜8μmである。
誘導加熱された鍋底は、黒体温度の全放射エネルギーEに鍋底の放射率εを乗じた全放射エネルギーを温度に応じて放出する。すなわち黒体温度の全放射エネルギーEと鍋底温度のそれ(E′=εσT4)との比が放射率εである。
一方、非磁性体である結晶化ガラス(トッププレート2)の光学特性は図8に実線で示したように、0.2μm〜2.9μmの波長の光を80%以上透過し、3〜4.5μmの波長の光を30%程度透過し、4.5μmよりも長い波長、及び、0.2μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。この光学特性のため鍋から放射される赤外線放射エネルギー(図18参照)の大部分(波長5μm以上の大部分)はトッププレート2を通過できない。通過できるのは鍋から放射される全赤外線放射エネルギーの1%程度である。
赤外線センサとしては周知のように、赤外線フォトダイオード、赤外線フォトトランジスタのような量子型とサーモパイル、焦電素子のような熱型とがある。量子型センサは量子効果で赤外線を検出するため狭い波長帯域で高い感度を持ち、熱型は広い波長帯域で低い感度を持つのが特徴である。量子型は半導体の種類で感度波長が決められ、シリコンのように安価に購入できるものは実用感度波長が可視光外(0.8μm)から1μm以下のため、検出温度の範囲が300℃以上となる。一方熱型は量子型に比べ、可視光から20μm以下の広い波長帯域で均一の低い感度を持つ(原理的には波長依存性を持たない)。このため、センサへの赤外線受光面の前に光学フィルタを設け、検出温度範囲波長を狭めて外乱を防ぐ。
本実施例では、調理温度範囲が100から300℃であるため、赤外線センサとして熱型であるサーモパイルを用いる。同じ熱型の焦電素子は微分型のセンサであるため、赤外線入射を断続する必要があり、普通機械的なチョッパ機構が使われる。このため、信頼性の点で誘導加熱調理器のような家電品に用いるのは不向きである。一方サーモパイルはこのような機構を必要とせず、また、近年MEMS等の技術により半導体プロセスを用い構成する熱電対を微小化し多数堆積(パイリング)して感度を向上させたものが安価に供給されている。
近年多くの体温計に用いられるサーモパイルの光学フィルタとしては透過波長が1〜15μmのものが使われる。これはウィーンの変移則から人体の赤外線放射エネルギーのピーク波長が約10μm(体温36℃)であり、上記光学フィルタを用いるのが最適なためである。
この光学フィルタを有するサーモパイルを用いて、トッププレート2を通して調理鍋の温度(25〜300℃)を非接触で計測しようとすると、前述したようにサーモパイルに到達する赤外線エネルギーは約1/100に減衰するためとほとんど計測できない。
そのため、本実施例の鍋温度検出装置18では、サーモカップル(熱電対)を半導体プロセスで比較的容易に作成できるポリシリコン・アルミニウム金属対とし、これを50ほど堆積したサーモパイル25を用い、その出力を増幅回路で2000倍に増幅し微小な赤外線エネルギーを検出できるようにしている。
サーモカップルで物体の温度を計測する場合には、冷接点を氷点(0℃)に固定して測温接点を物体に接触させて計測する。サーモパイル25は図10で説明したように、サーモカップルが多数堆積されたものであり、入射赤外線で加熱される多数の測温接点とシリコン基材25−4上にある多数の冷接点で構成される。そして、冷接点は金属ケース25−3の金属ステム25−2にボンドで固定されるため、熱的にはサーモパイル25の金属ケース25−3(金属キャン25−1と金属ステム25−2)が冷接点となっている。そして、この金属ケース25−3は通常のサーモカップルのように氷点に固定することができない。
仮に、一つのサーモカップルの熱起電力が5μV/℃、パイル数50、直流増幅器の増幅度を2000とすると、金属ケース37の温度が1℃変化すると、直流増幅器の出力では500mVの電圧変動になる。つまり、サーモパイル25周囲の温度変動を押さえることが必要になる。
本実施例の鍋温度検出装置18は、加熱調理中の鍋底高温部を検出可能にするために、分割された加熱コイル7が発生する高周波磁界の磁束密度が最も強いコイル間隙7c直下に配置される。この位置は、加熱コイル7の下に放射状に配置される棒状フェライト11の間であり、磁束はほとんどフェライト中を通過するため漏れ磁束の少ない場所ではある。しかし、加熱コイル7下面からの距離は20mm程度であるため漏れ磁束は大きく、ここに位置する金属を誘導加熱しその温度を上昇させる。例えば3kWの高周波電力を加熱コイルに入力してトッププレート2上に載置される調理容器である調理鍋6を誘導加熱する場合には、この場所にある磁性体の鋼板では約30℃も温度上昇する。非磁性体のアルミニウムでも約5℃も温度上昇する。
調理中、誘導加熱される鍋底は100〜300℃の高温になる。そして、トッププレート2および下面の加熱コイル7も鍋底からの熱伝導、熱輻射で高温となる。
さらに、加熱コイル7には十数アンペアの高周波電流を流すためコイル自身もジュール発熱する。これらトッププレート2、加熱コイル7を冷却するため、コイル冷却風路15a、15bには外気が導入され、前述のように加熱コイル7に風を当てて冷却する。
また、鍋温度検出装置18の配置される下には加熱コイルに高周波電力を供給するインバータ回路8が冷却風路17a、17b中に配置される。このインバータ回路は20〜90kHz、十数アンペアの電流をスイッチングする回路から構成される。このため、大きな電磁波を輻射することになる。
このように、鍋温度検出装置18、特に内蔵されるサーモパイル25は、(1)加熱コイル7からの漏れ磁束、(2)コイル冷却のための冷却風による温度変化、(3)インバータ回路から輻射される電磁波ノイズ、に晒されることになる。これら外乱に対応して、鍋温度検出装置18は加熱調理中の鍋底高温部を検出しなければならない。
前述したサーモパイル温度検出回路72の動作説明のごとく、サーモパイル25の出力が雰囲気温度で変化しないように、内蔵のNTCサーミスタ25−11を用いて回路的に温度補償をしている。しかし、NTCサーミスタ25−11はセラミックチップの上に薄膜で形成され、これを金属ステム25−2にボンド等で固定されているため、熱的には冷接点25−10と等価である金属ステム25−2すなわち金属ケース25−3の温度変化に追従しにくく、時間遅れが生じる。また、温度抵抗特性の非線形性のため広い温度範囲で正確に温度補償するのが難しい。これらの点でサーモパイル25の周囲温度変化に即応して前述回路で十分な温度補償を行うのは難しい。具体的には1℃/数10分程度の温度変化には対応できるが、1℃/1分程度の温度変化に追従させるのは困難である。前述したように、誘導加熱調理開始と同時に加熱コイル7を冷却するため外気が導入される。前の調理である程度、鍋温度検出装置18と周囲の雰囲気温度が上昇していた場合には、このとき鍋温度検出装置18は急速に(1℃/1分以上で)冷却されることになる。
サーモパイル25が内蔵される鍋温度検出装置18はなるべく一定温度雰囲気におくのが望ましい。このため、本実施例では、外気が導入されるコイル上面冷却風路15a内に鍋温度検出装置18を設置し調理中には外気でサーモパイル25とサーモパイル温度検出回路72を冷却しこれらの温度上昇を防止している。また、コイル上面冷却風路15a内の気流がサーモパイル25の金属ケース25−3およびサーモパイル温度検出回路72の半導体、抵抗等に直接当たり熱ゆらぎを起こすのを防ぐため、防風ケースである赤外線センサケース29でこれを覆っている。また、サーモパイル25とサーモパイル温度検出回路72は赤外線センサケース29内の空気で空気断熱されることにもなる。温度変化に対して安定にサーモパイル25の出力を直流増幅した後低い出力インピーダンスの信号電圧として、後述するマイクロコンピュータ60のAD端子に出力している。
さらに、この赤外線センサケース29をアルミニウム等の透磁率がほぼ1である金属ケース32で覆い、加熱コイルが発生する交流磁場を遮蔽することでサーモパイル25の金属ケース32が加熱コイル7の発生する高周波交流磁界で誘導加熱され温度上昇しないようにしている。また、この金属ケース32は、鍋温度検出装置18の下部に配置されるインバータ回路8からのパルス雑音(放射電磁波)に対しての電磁シールドにもなっている。
この金属ケース32は、加熱調理中には周囲雰囲気温度および加熱コイル7からの漏れ磁束で誘導加熱され、アルミニウムの場合5〜10℃温度上昇する。この温度上昇がおさまる前に続けて調理を行う場合、外気を急速に導入して金属ケース32に当てると金属ケース32が急速に冷え、結果赤外線センサケース29内のサーモパイル25の周囲温度が急に低下することになる。この逆の場合、例えば冬朝一番に調理を行う場合、機体内の金属ケース32は夜十分に冷却され5℃程度にあり、使用者が20℃に暖房された調理室で調理を開始した場合には、この暖気が冷却風路15aに導入され、20℃の暖気が5℃の金属ケース32に当てられることになる。本実施例では、このような外気による金属ケース32の急激な温度変化を防止するために、この金属ケース32を更にプラスチックの外側赤外線センサケース33で覆っている。これで金属ケース32に直接冷却風をあてずに風による温度急変を防止している。
さて、トッププレート2は誘導加熱された調理鍋6から赤外線放射を吸収することおよび接触熱伝導とで加熱される。図8で実線に示すように、トッププレート2は0.2μm〜2.9μmの波長の光を80%以上透過し、3〜4.5μmの波長の光を30%程度透過し、4.5μmよりも長い波長、及び、0.2μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。
放射エネルギーが物質表面に入射すると、その一部ρは反射され、一部αは吸収され、残りτは透過する。これらの量の間には、エネルギー保存則からρ+α+τ=1が成立する。トッププレート2上に調理鍋6が置かれた状態では、調理鍋6の赤外線放射エネルギーのトッププレート2での反射はほとんどゼロとみなせるため、トッププレート2では吸収率α+透過率τ=1が成立していると見てよい。キルヒホフの法則より吸収率α=放射率εであるため、トッププレート2は調理鍋6からの赤外線放射エネルギーのうち、0.2μm〜2.9μmの波長では80%以上透過し、残り20%を吸収しこれを放射する。また、3〜4.5μmの波長では30%程度透過し、残り70%を吸収しこれを放射する。4.5μmよりも長い波長、及び、0.2μmよりも短い波長ではほとんど透過せず、すべてを吸収してこれを放射する。熱伝導で加熱された分も同様である。波長4.5μm以上では熱伝導加温の赤外線エネルギーはほとんどトッププレート2表面から放射される。
このため、サーモパイル25を使用して、トッププレート2上の調理鍋6の温度を検出する場合にはトッププレート2自身が放射する赤外線が問題となる。例えばサーモパイル25に付属するガラス凸レンズ25−14の透過波長が1〜15μmであれば、トッププレート2が放射する4.5μmよりも長い波長の赤外線によってサーモパイル25の出力が大きく影響を受け、トッププレート2上の調理鍋6の鍋底の温度を正確に検出できないことになる。トッププレート2を透過する鍋の放射赤外線エネルギーは1μm〜2.9μmの約2μmの帯域、これに対しトッププレート2自身が放射する赤外線エネルギーは4.5μm〜15μmの約10μmの帯域であり、同じ温度であればサーモパイル出力のうち、調理鍋6の温度による分の5倍がトッププレート2の温度によることになる。
本実施例では、上記を防止するためサーモパイル25で構成される鍋温度検出装置18の赤外線センサケース29に、赤外線を透過させるためのケース窓30を開け、このケース窓30にトッププレート2を構成する結晶化ガラスを薄く四角形に切り出したものを結晶化ガラス光学フィルタ31として嵌め込んである。そして、サーモパイル25に入射する赤外線の内トッププレート2が放射する分を除去する。トッププレートが放射する波長2.9μm以上の部分はトッププレート2と同じ透過特性を持つ結晶化ガラス光学フィルタ31の光学特性によってサーモパイル25への入射が阻止される。
結晶化ガラス光学フィルタ31をトッププレート以外の材料で作成しても良いが、図8で実線に示すような急峻な特性を示す光学フィルタを作成するのは非常に困難で高価なものになる。
また、結晶化ガラス光学フィルタ31は、その下に配置されるサーモパイル25や赤外線投光手段35、赤外線反射受光手段36等がトッププレート2の赤外線透過窓5から見えなくする効果をもたせている。前述したように(図8の破線で示すように)1μm以上の長波長側の光学特性はトッププレート2とほぼ同じだが、短波長側でトッププレート2に比べて透過率小の領域が400nmほどあり、この部分の可視光がカットされるため目には赤黒く見え、下に配置される部品を見えなくしている。
前述したように赤外線投光手段35を構成する赤外線発光LED50の発光波長及び赤外線反射受光手段36を構成する赤外線フォトトランジスタ54の分光感度波長を700nmから1μmの近赤外領域にしているのは、上記調理鍋6の放射赤外線エネルギーは1μm〜2.9μmの約2μmの帯域をはずし、且つトッププレート2及び結晶化ガラス光学フィルタ31の透過する波長領域から決めている。
更に、サーモパイル25のガラス凸レンズ25−14として波長5μm以上を透過させない5μmショートパスフィルタを有するガラス(図8に薄線で示す)を用いている。これは周囲温度で暖められる結晶化ガラス光学フィルタ31自身および赤外線センサケース29が放射する赤外線の波長5μm以上は透過させないようにするためである。というのは先に述べたように鍋から放射される1〜2.9μmの赤外線エネルギーはトッププレート2で通過を制限されているため非常に微小であり、サーモパイル25の出力増幅を大きくせざるを得ないため周囲温度での5μm以上の赤外線放射に敏感であり、徹底的に鍋底以外からの4.5μm以上の赤外線がサーモパイル25の赤外線吸収膜25−9に入射するのを防止する必要があるためである。
なおこのガラス凸レンズ25−14をトッププレート2や結晶化ガラス光学フィルタ31と同じ結晶化ガラスで作成してもよい。こうすれば前述した理由で結晶化ガラス光学フィルタ31の温度による赤外線放射をよりよく遮断することができるので好適である。
図19に鍋底として黒体を図3の実施例の赤外線透過窓5に置いた場合の、黒体温度Tnとサーモパイル温度検出回路72出力端子72−2の出力電圧Vの関係を示す。黒体はトッププレート2が加熱されない程度の短時間戴置した場合であり、センサ視野筒19、結晶化ガラス光学フィルタ31の温度上昇もない。
常温から100℃まではほぼ0.5Vであり、100℃を越えると温度に比例した電圧が出力される。0.5Vはサーモパイル温度検出回路72の電源電圧(5V)を抵抗72−5、72−6、72−7で分圧した電圧(図13中a点で示す)0.5Vがオペアンプ72−1のバイアス電圧として与えてあるためである。100℃を越えるとサーモパイル25の出力電圧が大きくなり、オペアンプ72−1で約2000倍に増幅されて0.5V以上の電圧として観測される。このバイアス電圧はサーモパイル温度検出回路72の故障検出用に与えてある。出力端子72−2の出力電圧値からこの0.5Vを引いた値(0.5Vからの電圧上昇値)が検出した鍋底面温度に比例したものである。マイクロコンピュータ60はサーモパイル温度検出回路72出力端子72−2の出力電圧をAD変換して読み込むが、この電圧から0.5Vを引いた値である鍋温度検出電圧Vt(=V−0.5)をもとに後述処理を行い鍋温度を得る。図19の関係は予めマイクロコンピュータ60のROMにテーブルデータ(鍋温度変換TBL)として記憶しておく。
図20にトッププレート2のみを加熱したときのトッププレート温度Ttとサーモパイル温度検出回路72出力端子72−2の出力電圧Vの関係を示す。但し前述の0.5Vを引いた値で示してある。鍋が置かれていないトッププレート2の赤外線透過窓5近傍を熱風で加熱した時のトッププレート温度Ttとサーモパイル温度検出回路72出力端子72−2の出力電圧の関係を示す。このとき、センサ視野筒19、結晶化ガラス光学フィルタ31が加熱されないようにする。図20の関係は予めマイクロコンピュータ60のROMにテーブルデータ(トッププレートTBL)として記憶しておく。
実際の調理で調理鍋6を誘導加熱した場合には、サーモパイル25には誘導加熱された調理鍋6からの放射赤外線のほかに、トッププレート2自体からの放射赤外線も入射される。これはトッププレート2自体も調理鍋6からの熱放射、熱伝導のため加熱されこの温度での赤外線を放射するためである。このため図20のデータテーブルをもたせ、サーミスタ20でトッププレート2の温度を検出して、この放射分を差し引くことが必要となる。前述したように鍋温度検出でこのトッププレート2温度による赤外線放射の影響を結晶化ガラス光学フィルタ31で除去低減することを述べたが、2.9から4.9μmの波長範囲ではトッププレート温度の放射分を結晶化ガラス光学フィルタ31で除去できないためである。
鍋温度検出装置18に内蔵される赤外線投光手段35、赤外線反射受光手段36を図12に示すように配置するとトッププレート2上に調理鍋6がない場合、赤外線発光LED50の放射した赤外光(波長930nm)は大部分が結晶化ガラス光学フィルタ31およびトッププレート2を透過し赤外線フォトトランジスタ54には戻ってこない。しかし、一部は結晶化ガラス光学フィルタ31およびトッププレート2で反射される。これは結晶化ガラス光学フィルタ31およびトッププレート2の透過率が波長930nmで85%および90%であり、残り15%および10%の赤外光は反射されるためである。特に結晶化ガラス光学フィルタ31で反射される分は赤外線発光LED50の同軸上にある赤外線フォトトランジスタ54に直接戻るため、本実施例では図12に示すように、投光器遮光壁52、受光器遮光壁55上面を結晶化ガラス光学フィルタ31下面に接するように配置してこの反射光が赤外線フォトトランジスタ54に入射するのを防止している。
このため、図19に示すように反射率検出回路73の出力は、トッププレート2上に調理鍋6がある場合(a)V1となり、調理鍋6がない場合(b)V2となる。正味の鍋での反射電圧VrはVr=V2−V1となる。
鍋温度検出装置18を図3に示すように配置し、内蔵する反射率検出回路73を用いて、トッププレート2上に反射率が既知の金属板を配置したときの反射率検出回路73の出力から得られる先の反射電圧Vrと反射率の関係を図21に示す。図中に近似線も示す。この関係を用いれば、反射率検出回路73の出力電圧から反射率が得られる。そして、この関係をテーブルデータにあるいは近似式の係数値をあらかじめマイクロコンピュータ60のROMに記憶しておく。
調理鍋6のような金属物質ではキルヒホフの法則により温度Tの物質表面から放射される赤外線エネルギー(E=εσT4)の放射率εと表面の反射率ρの間にはε+ρ=1の関係が成立する。(透過率α=0とする)調理鍋6では放射率の違いにより同じ鍋底温度でありながら、放射される赤外線エネルギーが異なる。このため、サーモパイル出力すなわち鍋温度検出装置18の出力が異なるという問題が生じる。そこで調理鍋底の反射率を検出して放射率を求め鍋温度検出装置18の出力を補正してから温度に換算する必要がある。これを行うために先に説明した反射率に相当する量である反射電圧Vrを求め、これから反射率を得るのが反射率検出回路73である。この反射率を1から引いて放射率を得る。
図22にトッププレート2に置かれた数種の鍋について、鍋温度検出装置18の出力(サーモパイル温度検出回路72の出力V)から前述した0.5Vのオフセット電圧Voを引いた値Vt(鍋温度検出電圧)と鍋底面温度Tとの関係の一例を示す。図中に各鍋底面の放射率も示す。図22に示すように放射率によって鍋温度検出装置18の出力と鍋底温度の関係が異なることがわかる。図22の(a)で示す鍋は放射率が0.9と黒体に近い。(b)は放射率が0.57、(c)は0.43、(d)は0.24である。(b)、(c)、(d)の電圧値を放射率で除算すると、図中に破線で示すものとなり、ほぼ1本の曲線に集約することができることが分かる。各出力Vtは各鍋の全放射エネルギー(E′=εσT4)に比例し、これを放射率で除算するのは、前述したように黒体の全放射エネルギー(E=σT4)に換算することを意味する。そして、各鍋の放射率が分かれば、各鍋の鍋温度を黒体の放射温度に還元できることを意味している。
図23に、各種鍋において放射温度計を用いて計測した放射率と図12(図3)で先の各種鍋をトッププレート2上に置き反射率検出回路73を用いて得た反射率(図21の反射電圧と反射率の関係を適用)の関係を示す。鍋によってキルヒホフの法則(放射率+反射率=1)から外れるものもあるが、放射率と反射率の間には強い相関がある。キルヒホフの法則から外れるのは反射率の検出において、投光した赤外線の反射赤外線全てを受光していないためである。物理的な正確さを求める場合には被測定対象物に直接レーザービーム等のスポット光を照射し、全反射光を積分球で受光し、照射赤外線エネルギーと全反射赤外線エネルギーの比から反射率を求める必要がある。しかし、本実施例のように赤外線発光LED50と赤外線フォトトランジスタ54を用い、しかもトッププレート2を通して行う場合にはまず反射する赤外光をすべて受光することはできない。このため図示するように直線関係(キルヒホフの法則)からずれ、ばらついたものになる。
図12(図3)の実施例で、各種鍋の反射電圧Vrと、誘導加熱し鍋温度が200℃に到達した時点のサーモパイル温度検出回路72の出力電圧Vtを観測した。そして、鍋の中で黒体に近い鍋(放射率=0.95)を基準とし、各鍋の出力電圧を何倍すれば基準の鍋の出力に合わせられるかという観点で再構築した。この倍率は図22で説明した放射率分の1(1/ε)に相当する。この倍率を反射補正係数Kとして、反射電圧Vrの関係で示したのが図24である。反射補正係数Kと反射電圧Vrは強い相関があり、図示したようにほぼ直線で近似できる。(本来図23の説明で述べたように直線となるはずである。)この近似直線を反射補正係数テーブル(TBL)としてマイクロコンピュータ60のROMに記憶しておく。
ここで従来の単一素子による反射率検出と本実施例の平行光線投光と反射受光による反射率検出の相違を説明する。図25にこの概略を模式的に示す。単一発光素子および受光素子は直径3mmの砲弾型レンズ付で開口面も直径3mm、放物面反射鏡は10mm正方形、単一受発光素子間隔は1mmとしている。図ではトッププレート2および結晶化ガラス光学フィルタ31は単に赤外光を透過させるものとして省略している。正確にはこれらによる光線の屈折(屈折率=1.45)も考慮する必要があるが、トッププレートの厚さは4mmであり、発光および受光素子までの距離約35mmを考えると、入射角は数度のためガラス内を光線は直進し鍋面で反射すると考えてよい。結晶化ガラス光学フィルタ31は受光素子に近接させ、発光光線が受光素子に入射しないように投光器遮光壁52、受光器遮光壁55を設けているため単に光線は通過するだけと考えてよい。
図25に示すように発光光線(太線)は鍋底で反射し反射光線(細線)は受光素子で受光される。鍋での反射光線には入射角=反射角で鏡面反射する直反射光と入射角≠反射角の散乱光がある。実際の鍋では散乱光が支配的となる。図において鍋面上に斜線で示す面積は鍋面で反射し受光される光線の分布を示す。従来単一素子の場合、受光できるのは受光左側の狭い範囲に限定される。本実施例の場合、単一素子での1本の鍋底に垂直な発光光線が、放物面反射鏡51全面の複数発光光線となって鍋に垂直に投光され、この散乱反射の多くが受光される。完全に平行光線であれば直反射光は受光されないが、前述したように発光が点光源でないため平行光線でないものも多く存在する。このため受光周辺では直反射光も受光される。実験によれば同一発光強度のLED、同一感度の受光素子を用いたとき、従来単一素子の場合には1mm2以下の面積の反射光しか受光されないのに対し、本実施例では16mm2もの面積の反射光を受光できた。
このように反射率を求める際には、赤外線発光LED50の投光光線をトッププレート2になるべく垂直に入射させ、ここに置かれる鍋での反射光のすべて(主に散乱光を)を赤外線フォトトランジスタ54に導くのが望ましい。つまり本実施例のように、放物面反射鏡51の焦点に赤外線発光LED50を配置し、平行光(トッププレート2に対しては垂直光)を投光すれば良い。こうすればより広い面積での平均的な反射率を検出することができる。
図26に、図24と同様に反射電圧Vrと反射補正係数K(1/放射率)の関係を2種類の鍋について鍋底の位置を8か所かえて観測した例を単一素子と本実施例の反射率検出回路について示す。単一素子の場合、同一鍋でも場所により反射電圧Vrは大きくばらつく。一方本実施例の場合、検出場所が変わってもほぼ同一の反射電圧である。単一素子の場合狭い範囲の反射であり、その範囲での鍋底の状態に大きく影響される。たまたまそこに汚れがあれば反射電圧が大きく他の場所と異なる。本実施例では広い範囲で平均的な反射率を検出することになるので部分的な汚れ、傷、模様などに検出反射率が影響されることが少ない。
また本実施例では、鍋温度検出装置18内のサーモパイル25のトッププレート2上での視野面とこの反射率検出発光のトッププレート2上での反射面はほぼ同一面である。このため、図12に示すように鍋温度検出装置18内にサーモパイル25と赤外線投光手段35、赤外線反射受光手段36を並べて配置している。このため、反射補正係数と反射率の乖離(バラツキ)も少ない。
解析では反射補正係数Kが0.1異なると温度検出では4℃の誤差になる。単一素子の場合図26のB鍋では反射補正係数が1異なる場合があるため温度検出では40℃の誤差となる。
以上、本実施例では鍋の材質、鍋底の形状、汚れの強弱によらず平均的で正確な反射率の検出が可能となり、サーモパイル出力を補正することで、どんな鍋でも正確な鍋温度検出が可能となる。
以下では、本実施例の動作について、手前右側の円表示4に調理鍋6を置き、所定温度で所定時間調理鍋を加熱して調理を行う場合として説明する。図27にこの動作のフローチャートを示す。図示していない電源を投入し、調理鍋6を置いた誘導加熱口の操作スイッチで所定の温度および調理時間を設定し(ステップS1)調理開始を指示すると(ステップS2)、マイクロコンピュータ60はまず反射率検出回路73を制御して載置された鍋の反射データ(反射率に相当)を取り込み反射率を検出する(ステップS3)。同時に加熱コイル7およびインバータ回路8等を冷却するため、図示しないファンを駆動してコイル上面冷却風路15a、コイル下面冷却風路15bおよび回路冷却風路17a、17bに外気を導入する。
反射率を検出するステップS3を図28に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。マイクロコンピュータ60は反射率検出回路73の出力端子73−9にポートから図12(a)の赤外線LED駆動信号を出力する(ステップS3−1)。所定時間例えば200ms出力した後(ステップS3−2)、駆動信号端子73−8に出力される電圧V2をAD端子より読み込む(ステップS3−3)。そして、赤外線LED駆動信号を停止する(ステップS3−4)。次に予め記憶されている鍋が置かれていない時の電圧V1を先に読み込んだ電圧V2から引き反射電圧Vrを算出する(ステップS3−5)。そして、予め記憶されている反射電圧と反射率の関係から反射率ρを得る(ステップS3−6)。
ステップS3に続いて、電力制御回路62、周波数制御回路61、インバータ回路8を制御して加熱コイル7に電力を供給し誘導加熱を開始する(ステップS4)。加熱コイル7に電力が供給されると、加熱コイル7から高周波磁界9が発せられ、トッププレート2上の調理鍋6が誘導加熱される。この誘導加熱によって調理鍋6の温度が上昇し、調理鍋6内の被加熱物の調理が開始される。マイクロコンピュータ60は誘導加熱を開始すると、一定時毎に鍋温度検出装置18の出力を読み込み、鍋温度を検出する(ステップS5)。
ここで、鍋温度検出動作(ステップS5)を詳細に説明する。図29に鍋温度検出のフローチャートを示す。マイクロコンピュータ60は鍋温度検出装置18(サーモパイル温度検出回路72)の出力電圧Vを読み込み(ステップS5−1)、この値から0.5Vを引きこれを鍋温度検出電圧Vtとする(ステップS5−2)。
同時にサーミスタ20とサーミスタ温度検出回路75からトッププレート2の温度を読み込む(ステップS5−3)。そして、予めトッププレートテーブル(テーブルをTBLと略記する)として記憶してあるトッププレート温度Ttとサーモパイル温度検出回路72の出力の関係から、トッププレート2の温度T1aでの赤外線量電圧Vaを得る(ステップS5−4)。続いて先の鍋温度検出電圧Vtから前記Vaを減算する(ステップS5−5)。この処理により前述した外乱としてのトッププレート2からの赤外線量を除去する。この減算後の電圧をVtとする。
そして、誘導加熱直前に検出した反射率から、放射率(=1−反射率)を得て(ステップS5−6)、この減算後の鍋温度検出電圧Vtを除算する(ステップS5−7)(反射率補正の動作)。除算後のVtに前述V0=0.5Vを加算し、予め温度変換TBLとして記憶してあるVnとTnの関係であるデータテーブルを引いて(ステップS5−8)、鍋温度に変換し鍋温度Tnを出力する(ステップS5−9)。
なお、放射率を算出する過程(ステップS5−6)と鍋温度検出電圧Vtを放射率で除算する過程(ステップS5−7)の代わりに、予め倍率a=1/放射率(a=1/ε)の値(1以上の値になる)を反射補正係数Kとして、この反射補正係数Kと反射電圧Vrの関係(図24に直線で示す関係)をテーブルとして記憶し、反射電圧Vrから前記反射補正テーブルで反射補正係数値Kを得て(ステップS5−10)、VtにKを乗算したのち(ステップS5−11)、VnとTnの関係であるデータテーブル(鍋温度変換TBL)を引いて鍋温度を出力してもよい。こうすれば、マイクロコンピュータの処理時間を要する除算を使用しなくてすみ処理の高速化が図れる。図30にこの場合のフローチャートを示す。
続いてステップS5で検出した鍋温度Tnが所定の温度に到達したら(ステップS6)、電力制御回路62を制御して加熱コイル7に供給する電流を所定量減少させる(ステップS7)。そして、調理時間タイマーをスタートさせる(ステップS8)。一定時毎の鍋温度検出(ステップS9)を続けながら(ステップS10)、加熱コイル7に供給する電流を所定量増減させて(ステップS11、S12)、鍋温度を一定(Tc)に保つ。そして、所定の調理時間が経過したら(ステップS13)、調理終了をブザーで使用者に報知して、加熱コイル7への電力投入を停止する(ステップS14)。こうして、調理鍋6の被調理物は設定された温度および時間で調理される。
以上の説明では反射率検出を誘導加熱直前に1度だけ行う例を示したがこれに限ることはない。通常の鍋では誘導加熱中(温度が高温になっても)反射率は変化しない。また、赤外線発光LED50では長時間連続発光において寿命の問題がある。本説明ではこれらの点を考慮して1調理につき誘導加熱直前の1回の反射率検出に限定した。当然、発光電流を低減して調理中に一定周期で反射率検出を行っても良い。特に薄手の鍋では高温による鍋底変形で反射率が変化することもある。さらに、色塗装を底面に施した鍋では、高温で塗装が変性し反射率が変化することもある。この場合には加熱中でも定期的に反射率検出を行うのが望ましい。この場合当然磁場の影響を避けるために、実施例のように非磁性金属体で赤外線投光手段35、赤外線反射受光手段36および反射率検出回路73を囲うのが望ましい。
また、調理中に鍋を動かす(浮かす)場合もある。この時赤外線透過窓5上にある鍋底の位置が変化するため反射率(放射率)も変化する。この場合には鍋を動かした(浮かした)時点でサーモパイル温度検出回路72の検出する電圧が急激に変化する。そして、鍋を再び置いた時点でサーモパイル温度検出回路72の検出する電圧はこの時点での鍋底面温度に対応する値に復帰する。この変化を捉え再度反射率の検出するのが望ましい。
また調理中に別の鍋に交換する場合もある。この時反射率は当然変化する。この場合には今ある鍋を退かした時点でサーモパイル温度検出回路72の検出する電圧が急激に低下する。そして、別温度の鍋を置いた時点でサーモパイル温度検出回路72の検出する電圧はこの鍋底面温度に対応する値に復帰する。この変化を捉え再度反射率の検出するのが望ましい。
以上説明した誘導加熱調理器によれば、調理温度150から300℃の広い温度範囲において、鍋の材質、鍋底の形状、汚れの強弱によらず調理鍋6の加熱最高温度を正確に安定して検出でき、適切に加熱コイルへの高周波電力を制御することで最適な調理が可能となる。