図1は実施例1の誘導加熱調理器の本体1の斜視図であり、図2は図1中に一点鎖線AA′で示される部分に調理鍋6を載せたときの概略縦断面図である。以下では、誘導加熱が可能な鍋置き場所が2口、ラジエントヒータやハロゲンヒータ等のヒータ(加熱源)の放射熱で加熱可能な鍋置き場所が1口ある3口の誘導加熱調理器を例に挙げ説明を行うが、本発明の適用対象はこれに限らない。特にトッププレートを非結晶化ガラスのホウケイ酸ガラスとする場合は、誘導加熱が可能な鍋置き場所を3口設けた誘導加熱調理器であることが望ましい。これは、ラジエントヒータに比べ、誘導加熱による調理鍋6の加熱時の方がトッププレート2の最高温度を500℃以下と低くするためである。調理鍋6は、誘導加熱に適した磁性体の鉄鍋であっても良いし、非磁性体のアルミ鍋,銅鍋であっても良い。
図1および図2に示すように、本体1の上面には、耐熱ガラス等の非磁性体によって形成されたトッププレート2が装着されている。トッププレート2は、少なくとも耐熱温度が3百数十度の耐熱塗料を用いて文字や略全面の塗装を裏面に施し、表面には鍋の滑り止めとなる印刷を施した非結晶化ガラスを基材とする耐熱ガラスである。本実施例で説明する非結晶化ガラスとは、石英ガラス、高ケイ酸ガラスとホウケイ酸ガラスが含まれ、特に本実施例では、ケイ素が略80%、ホウ酸が10〜15%程度含まれ、熱衝撃温度300℃以上かつ500℃以下のホウケイ酸ガラスをいう。
また、トッププレート2の手前には、各口の加熱開始あるいは加熱コースを指示するスイッチ,各口の加熱状態(温度等)を表示する表示器が配置される操作表示部3が装着されている。
トッププレート2の上面には、その下に配置される誘導加熱コイル7あるいはラジエントヒータの最外半径におよそ一致する半径の円4が加熱可能な鍋置き場所を示すために印刷されている。またトッププレート2は普通可視光に対して透明であるため、上面にはフリットガラスに耐熱塗料を混入した耐熱耐久性の意匠印刷、下面には耐熱面塗装を施し、機器内部が見えないようにしてある。誘導加熱が可能な鍋置き場所2口の円4のほぼ中央には後述する鍋温度検出のため前述塗装がなされていない赤外線透過窓5が設けられている。この赤外線透過窓5は赤外光を透過させるためであり、この部分だけ赤外光に対しては透明な可視光カット部材(耐熱フィルムまたはガラス)を下面に装着しても良い。
トッププレート2の上面の各口(円4)に、調理鍋6を置き加熱調理を行う。図2に示すように、誘導加熱コイル7にインバータ回路8からの高周波電流を供給すると、誘導加熱コイル7が高周波磁界9(図中破線で示す)を発生し、この高周波磁界が鍋6と鎖交して、渦電流を発生し、そのジュール損により調理鍋6自身が誘導加熱され発熱する。従って、調理鍋6内の調理物は、調理鍋6自身の発熱によって加熱調理される。このとき、調理鍋6の下にあるトッププレート2も、発熱した調理鍋6から伝わる熱により高温になる。
図3に誘導加熱コイル周辺の断面を詳しく示す。図3に示すようにトッププレート2下面には誘導加熱コイル7が耐熱プラスチックで構成されるコイルベース10内に渦巻き状に巻かれて配置される。誘導加熱コイル7の下側にはコイルベース部材内部に棒状のフェライト11が放射状に配置されている。このフェライト11は誘導加熱コイル7が発生する磁束をトッププレート2上の調理容器である調理鍋6に効率良く導くために配置される。コイルベース10は本体1に固定されるコイルベース受け12からバネ13で押され、トッププレート2の下面に押し付けられる。
このコイルベース中心部は円筒状の空洞14になっており、この空洞部の下部に円筒状の空洞14から誘導加熱コイル7に冷却風を導くコイル冷却風路15が本体1に固定されて配置される。コイル冷却風路15上面には、先の円筒状の空洞14下面円周に沿うコイル冷却風送出孔16が開けられている。コイル冷却風送出孔16の周囲にはグラスウール等のシール材17が設けられ先の円筒状の空洞14に接続される。この冷却風路15中のコイル冷却風送出孔16には鍋温度検出装置18が配置される。鍋温度検出装置18は誘導加熱された調理鍋6の底面温度をトッププレート2の赤外線透過窓5を透過する赤外線から検出する。
鍋温度検出装置18の横には反射型フォトインタラプタ19が配置される。反射型フォトインタラプタ19はトッププレート2の赤外線透過窓5を通して鍋底面の反射率を検出して鍋温度検出装置18の検出する温度を補正するものである。鍋温度検出装置18および反射型フォトインタラプタ19の詳細動作は後述する。
更に空洞14のほぼ上面中央にはトッププレート2の下面に接するセラミックケース20内にサーミスタ21が配置される。
冷却風路15には本体1に内蔵されるファン(図示せず)から外気が導入され、冷却風は鍋温度検出装置18を冷却するとともにコイル冷却風送出孔16から円筒状の空洞14を上昇しトッププレート2に遮られ空洞14上部から誘導加熱コイル7の方向に流れ誘導加熱コイル7を冷却する。
図3に誘導加熱コイル周辺の断面を詳しく示す。図3に示すようにトッププレート2下面には誘導加熱コイル7が耐熱プラスチックで構成されるコイルベース10内に渦巻き状に巻かれて配置される。誘導加熱コイル7の下側にはコイルベース部材内部に棒状のフェライト11が放射状に配置されている。このフェライト11は誘導加熱コイル7が発生する磁束をトッププレート2上の調理容器である調理鍋6に効率良く導くために配置される。コイルベース10は本体1に固定されるコイルベース受け12からバネ13で押され、トッププレート2の下面に押し付けられる。
このコイルベース中心部は円筒状の空洞14になっており、この空洞部の下部に円筒状の空洞14から誘導加熱コイル7に冷却風を導くコイル冷却風路15が本体1に固定されて配置される。コイル冷却風路15上面には、先の円筒状の空洞14下面円周に沿うコイル冷却風送出孔16が開けられている。コイル冷却風送出孔16の周囲にはグラスウール等のシール材17が設けられ先の円筒状の空洞14に接続される。この冷却風路15中のコイル冷却風送出孔16には鍋温度検出装置18が配置される。鍋温度検出装置18は誘導加熱された調理鍋6の底面温度をトッププレート2の赤外線透過窓5を透過する赤外線から検出する。
鍋温度検出装置18の横には反射型フォトインタラプタ19が配置される。反射型フォトインタラプタ19はトッププレート2の赤外線透過窓5を通して鍋底面の反射率を検出して鍋温度検出装置18の検出する温度を補正するものである。鍋温度検出装置18および反射型フォトインタラプタ19の詳細動作は後述する。
更に空洞14のほぼ上面中央にはトッププレート2の下面に接するセラミックケース20内にサーミスタ21が配置される。
冷却風路15には本体1に内蔵されるファン(図示せず)から外気が導入され、冷却風は鍋温度検出装置18を冷却するとともにコイル冷却風送出孔16から円筒状の空洞14を上昇しトッププレート2に遮られ空洞14上部から誘導加熱コイル7の方向に流れ誘導加熱コイル7を冷却する。
図4にトッププレート2を除いた図3の上面図を示す。誘導加熱コイル7および空洞14とこの直下に設置される鍋温度検出装置18,反射型フォトインタラプタ19およびサーミスタ21の水平面での位置関係を示す。図中に太い一点鎖線で赤外線透過窓5の位置を示している。
図5に鍋温度検出装置18の詳細斜視図を示す。鍋温度検出装置18は、赤外線検出センサであるサーモパイル25を中心に構成される。サーモパイル25はサーモパイルの出力信号を増幅する電子回路基板26に実装され、このサーモパイル25にはプラスチック部材で構成されるリフレクタ27が装着されている。このサーモパイル25と電子回路基板26は、全体をプラスチック部材の赤外線センサケース28内に密封される。この赤外線センサケース28には赤外線を透過させるためにケース窓29にはトッププレート2とほぼ同じ光学特性(但し図12に示すように1μm以上の長波長側の光学特性はほぼ同じ)を持つガラスを薄くケース窓29の形状に切り出したものを光学フィルタ30として嵌め込んである。本実施例ではケース窓29のガラスは非結晶化ガラスを用いて説明するが、特にこれに限らず結晶化ガラスを用いても良い。また、ケース窓29は、可視光カットも目的とするためトッププレート2より可視光の透過率が悪い光学特性を用いることが望ましい。
この赤外線センサケース28は、周りをアルミニウム等の透磁率がほぼ1の金属ケース31で覆っている。当然、先のケース窓29の所は開口されている。そしてこの金属ケース31には接地線32が接続され、3端子商用電源線の接地線が接続される本体1の金属部に接地される。
図6に図5中のB−B′線に沿った断面図を示す。リフレクタ27の内面33にはアルミ蒸着膜で鏡面を形成し、図中の一点鎖線に示すごとくケース窓29,光学フィルタ30を透過した赤外線をサーモパイル25の後述する光学フィルタを通して赤外線吸収膜に集光する。
図7にサーモパイル25の詳細を示す。サーモパイル25は熱電対(サーモカップル)を多数縦列接続した(パイリング)したもので、ニッケルめっき鋼板等の金属キャン35と金属ステム36からなる金属ケース内にこれが内蔵されている。およそ300μm厚のシリコン基材38表面に電気的および熱的に絶縁するためシリコン酸化膜39を形成し、この上にポリシリコン,アルミを順次パターン蒸着し図示しないポリシリコン蒸着膜40,アルミ蒸着膜41で熱電対を多数作成し、これを従属接続する。ポリシリコン,アルミ接合点(測温接点)のあるシリコン基材38中央部には、黒体に近い酸化ルビジウム膜等の赤外線吸収膜43を形成する。ポリシリコンおよびアルミ蒸着膜の一端は冷接点部44であり、これはシリコン基材38の周囲に配置する。シリコン基材38の裏面を周囲(冷接点部)を残して299μmまでエッチングし、測温接点部分のあるシリコン基材の厚みを1μmに形成する。これは熱伝導の良好なシリコンを薄くすることで、測温接点部42と冷接点部44の熱伝導を少なくし測温接点部と冷接点部を熱的に絶縁するためである。
このシリコン基材38を金属ケース内の金属ステム36にボンド等で固定する。同時に金属ステム36にはセラミック上に膜形成したNTCサーミスタ45を同様に配置する。これは金属ケース内にある熱電対の雰囲気温度を検出し、熱電対の熱起電力を補正するためである。詳細は後述する。金属ステム36には絶縁シールされた4本の金属ピン46が貫通配置されており、この金属ピンに先の熱電対の出力とNTCサーミスタ45がワイヤ接続される。ステム36には、筒状の金属キャン35が不活性ガス中で被せられ溶着される。この金属キャン35の上面には小穴の窓47が開けられ、ここに内側から光学フィルタ48(ある波長域の光線を透過する部材)が装着されている。この小穴の垂直下に先の測温接点部42(赤外線吸収膜43の下にある)が位置するようにシリコン基材38が固定される。
サーモパイル25内の熱電対測温接点部42(赤外線吸収膜43の下にある)にはこの小穴の窓47を通過した赤外線で加熱され、この加熱温度上昇は通過した赤外線エネルギーに比例し、熱電対の冷接点部44と測温接点部42の温度差に比例した電圧が熱電対出力の金属ピン46に出力される。
図8は図7中C−C′で示す線での断面の平面図である。ポリシリコン蒸着膜40,アルミ蒸着膜41で作成された熱電対が見えるように、赤外線吸収膜43を省略して示してある。
図9に図3で説明した反射型フォトインタラプタ19の詳細を示す。反射型フォトインタラプタ19は赤外線発光素子としての赤外線LED50と赤外線受光素子としての赤外線フォトトランジスタ51を同一プラスチック部材に並べてモールドしたものである。赤外線LEDの発光面上にはプラスチックでレンズが構成され細いビームで930nm付近の赤外光を上方に照射する。赤外線フォトトランジスタ51の受光面上には可視光阻止のプラスチックでレンズが構成され、先の照射赤外光の物体(鍋底面)での反射赤外光を狭い視野角で受光し、その受光量に比例した電流を出力する。この反射型フォトインタラプタ19は赤外線発光素子と受光素子の対で構成されるものでトッププレート2上に置かれた調理鍋6底面の反射率を計測するものである。
図10に本実施例の誘導加熱調理器の制御ブロック図を示す。マイクロコンピュータ60が誘導加熱調理器の動作を制御する。ここでは符号Rを付したブロックは図1の手前右にある誘導加熱口に関するブロックを表し、符合Lを付したブロックは図1の手前左にある誘導加熱口に関するブロックを表す。2つのインバータ回路8Rおよび8Lは誘導加熱コイル7R及び7Lに高周波電流を供給する。このインバータ回路8R,8Lの動作周波数及びコイルへの供給電力を調整するのが周波数制御回路61R,61L及び電力制御回路62R,62Lである。動作周波数を変化させるのは、鍋の金属種類によって高周波電流の周波数で誘導加熱効率が変化するためである。一般に鉄では20kHz、これより抵抗率の低い銅、アルミでは70kHz以上の周波数が用いられる。この周波数切り替えは図示しない鍋種類判別手段の判断に基づいてマイクロコンピュータ60が周波数制御回路を制御して行う。
各インバータ回路8R,8Lには整流回路63から直流電圧が供給される。この整流回路63には電源スイッチ64を介して3端子200Vの商用電源65が接続されている。商用電源の接地端子は本体1の金属部に接地線で接続される。ラジエントヒータ66にはラジエントヒータ回路67を介して商用電源65が接続され、ラジエントヒータ回路67がラジエントヒータ66に供給する電力を制御する。
マイクロコンピュータ60には、表示操作部の操作スイッチ68,表示回路69が接続され使用者の操作指示を受け付け、機器の動作状態表示を行う。またブザー70が接続され使用者の操作ボタン押しあるいはエラー等の警告などを報知する。マイクロコンピュータ60は使用者の指示に従い、周波数制御回路61R,61Lと電力制御回路62R,62L及びラジエントヒータ回路67を制御して、トッププレート2上の調理鍋6を加熱する。
サーモパイル25はサーモパイル温度検出回路72に接続され出力が増幅され、マイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。フォトインタラプタ19は反射率検出回路73に接続され、マイクロコンピュータ60のポート出力で発光素子の発光を制御され、調理鍋6で反射された赤外光は受光素子で受光され、その出力信号は増幅されマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。サーモパイル温度検出回路72および反射率検出回路73の動作の詳細は後述する。更にサーミスタ21はサーミスタ温度検出回路74に接続され、その出力もマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。
マイクロコンピュータ60は反射率検出回路73の出力から調理鍋6の赤外線反射率を知り、サーモパイル温度検出回路72の出力を反射率で補正して調理鍋の温度を検出する。そして、電力制御回路62を介して、調理鍋6の加熱を制御する。
以下本実施例の動作を説明する。
トッププレート2上に置かれた調理鍋6は誘導加熱により発熱する。この加熱により鍋6底面からは赤外線が放射される。この全放射エネルギーEは鍋温度Tの4乗に比例したものである(E=σT4;ステファン・ボルツマンの法則)。図11にプランクの分布則から算出される黒体温度の分光放射エネルギーを示す。この分光放射エネルギーを全波長域で積分すれば、全放射エネルギーEが求まり、これは温度(絶対温度)の4乗に比例する。これが前述のステファン・ボルツマンの法則であり、この係数σがステファン・ボルツマン係数である。分光放射エネルギーのピーク波長はウィーンの変移則から、調理温度100〜300℃で5μm〜8μmである。
誘導加熱された鍋底は、黒体温度の全放射エネルギーEに鍋底の放射率εを乗じた全放射エネルギーを温度に応じて放出する。すなわち黒体温度の全放射エネルギーEと鍋底温度のそれ(E′=εσT4)との比が放射率εである。
一方、非磁性体である非結晶化ガラス(トッププレート2)の光学特性を図12に実線で示す。図12に実線で示すように、非結晶化ガラスは、0.4μm〜2.5μmの波長の光を80%以上透過し、3〜4μmの波長の光を25%程度透過し、4μmよりも長い波長、及び、0.4μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。この光学特性のため鍋から放射される赤外線放射エネルギー(図11参照)の大部分(波長4μm以上の大部分)はトッププレート2を通過できない。通過できるのは鍋から放射される全赤外線放射エネルギーの1%程度である。
赤外線センサとしては周知のように、赤外線フォトダイオード,赤外線フォトトランジスタのような量子型とサーモパイル、焦電素子のような熱型とがある。量子型センサは量子効果で赤外線を検出するため狭い波長帯域で高い感度を持ち、熱型は広い波長帯域で低い感度を持つのが特徴である。量子型は半導体の種類で感度波長が決められ、シリコンのように安価に購入できるものは実用感度波長が可視光外(0.8μm)から1μm以下のため、検出温度の範囲が300℃以上となる。一方熱型は量子型に比べ、可視光から20μm以下の広い波長帯域で均一の低い感度を持つ(原理的には波長依存性を持たない。)。このため、センサへの赤外線受光面の前に光学フィルタを設け、検出温度範囲波長を狭めて外乱を防ぐ。
本実施例では、調理温度範囲が100から250℃であるため、赤外線センサとして熱型であるサーモパイルを用いる。同じ熱型の焦電素子は微分型のセンサであるため、赤外線入射を断続する必要があり、普通機械的なチョッパ機構が使われる。このため、信頼性の点で誘導加熱調理器のような家電品に用いるのは不向きである。一方サーモパイルはこのような機構を必要とせず、また近年MEMS等の技術により半導体プロセスを用い構成する熱電対を微小化し多数堆積(パイリング)して感度を向上させたものが安価に供給されている。
近年多くの体温計に用いられるサーモパイルの光学フィルタとしては透過波長が1〜15μmのものが使われる。これはウィーンの変移則から人体の赤外線放射エネルギーのピーク波長が約10μm(体温36℃)であり、上記光学フィルタを用いるのが最適なためである。
この光学フィルタを有するサーモパイルを用いて、調理鍋の温度(25〜300℃)を非接触で計測するとサーモパイルの出力として図13に一点鎖線で示す出力が得られる。これは前述のように調理鍋底面を黒体とみなして、これが放射する赤外線エネルギー(プランクの分布則に従う)がサーモパイルの感度で電圧に変換され所定の増幅をしたとして得たものである。このときサーモパイルの感度は波長1〜15μmである一定値とし、波長1〜15μmの赤外線は光学フィルタを一律に90%透過してサーモパイルに入射すると仮定している。
さてこのサーモパイルを図3の構成で鍋温度検出に使用した場合には、鍋底面からの赤外線はトッププレート2を透過してサーモパイル25に入射する。したがってトッププレート2の光学特性(図12)で透過する各波長の赤外線は制限される。前述したように約4μm以上の赤外線はほとんど透過せず、サーモパイル25に入射しない。上述と同様にこの場合の出力を計算すると図13に実線で示すものとなる。出力は1桁程度低下するのが分かる。このためサーモパイル25の出力を、従来の体温計等での使用される直流増幅器の増幅度(約1000倍)に比べ1桁高い増幅度(約10000倍)で直流増幅することが必要になる。このため本実施例の鍋温度検出装置18は同一防風ケースである赤外線センサケース28内部にサーモパイル25とこの出力を増幅する回路基板(後述するサーモパイル温度検出回路72)を設置し、温度変化に対して安定にサーモパイル25の出力を直流増幅した後低い出力インピーダンスの信号電圧として後述するマイクロコンピュータ60のAD端子に出力している。更にこのケースを非磁性体である金属ケース31で蔽うことで、誘導加熱コイル7の強磁界に対して防磁するとともに、他の回路特にインバータ回路からのパルス雑音に対してこの金属ケース31を接地線32で本体1の金属部に接地することで静電シールドをも施している。
図14にサーモパイル温度検出回路72の詳細を示す。サーモパイル25の熱電対出力(熱起電力)(図中(+),(−)記号間の電圧)はオペアンプ72−1,72−2で約10000倍に増幅され出力端子72−3に出力される。この電圧はマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。またサーモパイル内のNTCサーミスタ45は、回路電源電圧を抵抗72−4,72−5,72−6で分圧された電圧源(抵抗72−5の両端)に抵抗72−7と直列接続された状態で接続され、この抵抗72−7との接続点aは熱電対出力端子(−)に接続されている。周知のようにNTCサーミスタ45は負の温度特性を持った抵抗素子であり温度上昇で抵抗値が低下する。このため、サーモパイル25内の温度が上昇すると先の接続点aの電圧は上昇する。熱電対出力(図中(+),(−)記号間の電圧)は測温接点部42(赤外線エネルギーで加熱される点)と冷接点部(熱電対出力端子)44の温度差に比例する。このためサーモパイル25の設置される雰囲気温度でサーモパイル25の金属ケース内雰囲気(NTCサーミスタが内蔵される)温度が上昇すると熱電対出力は減少する。この減少を接続点aの電圧上昇で補償する。すなわちNTCサーミスタ45はサーモパイル(熱電対)25の出力が周囲温度で変化するのを防ぐために使用される。
調理中、誘導加熱コイル7に十数アンペアの高周波電流を流すためコイル自身が発熱する。また誘導加熱コイル7上のトッププレート2には誘導加熱された高温の調理鍋が載置されており、本体1内の誘導加熱コイル下部は調理中70℃の高温になる。サーモパイル25とサーモパイル温度検出回路72からなる鍋温度検出装置18は誘導加熱コイル7の中央下部に設置されるためこの高温雰囲気中に置かれることになる。前述のように、サーモパイル25の出力が雰囲気温度で変化しないように、内蔵のNTCサーミスタ45を用いて温度補償をしているが、サーミスタの非線形性のため広い温度範囲で十分な温度補償を行うのは難しく、鍋温度検出装置18はなるべく低温の一定温度雰囲気におくのが望ましい。このため本実施例では、外気が導入されるコイル冷却風路15内に鍋温度検出装置18を設置して、外気でサーモパイル25とサーモパイル温度検出回路72を冷却しこれらの温度上昇を防止している。またコイル冷却風路内の気流がサーモパイル25の金属ケースおよび回路の半導体,抵抗等に直接当たり熱ゆらぎを起こすのを防ぐため、防風ケースである赤外線センサケース28でこれを覆っている。またサーモパイル25とサーモパイル温度検出回路72は赤外線センサケース28内の空気で空気断熱されることにもなる。つまり、赤外線センサケース28は断熱ケースとしての機能も有する。さらにこの赤外線センサケース28を非磁性体である金属ケース31で覆い、磁気遮蔽することでサーモパイル25の金属ケースが誘導加熱コイル7の発生する高磁界で誘導加熱され温度上昇しないようにしている。この結果、高温,高磁界の中でも安定に鍋底の温度検出を可能にしている。
さてトッププレート2は誘導加熱された調理鍋6から赤外線放射を吸収することおよび接触熱伝導とで加熱される。図12に示したトッププレート2の光学特性から0.4μm〜2.5μmの波長の光を80%以上透過し、3〜4μmの波長の光を25%程度透過し、4μmよりも長い波長、及び、0.4μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。
放射エネルギーが物質表面に入射すると、その一部ρは反射され、一部αは吸収され、残りτは透過する。これらの量の間には、エネルギー保存則からρ+α+τ=1が成立する。トッププレート2上に調理鍋6が置かれた状態では、調理鍋6の赤外線放射エネルギーのトッププレート2での反射はほとんどゼロとみなせるため、トッププレート2では吸収率α+透過率τ=1が成立していると見てよい。キルヒホフの法則より吸収率α=放射率εであるため、トッププレート2は調理鍋6からの赤外線放射エネルギーのうち、0.4μm〜2.5μmの波長では80%以上透過し、残り20%を吸収しこれを放射する。また3〜4μmの波長では25%程度透過し、残り75%を吸収しこれを放射する。4μmよりも長い波長、及び、0.4μmよりも短い波長ではほとんど透過せず、すべてを吸収してこれを放射する。熱伝導で加熱された分も同様である。波長4μm以上では熱伝導加温の赤外線エネルギーはほとんどトッププレート2表面から放射される。
このため、サーモパイル25を使用して、トッププレート2上の調理鍋6の温度を検出する場合にはトッププレート2自身の加熱が放射する赤外線が問題となる。特にトッププレート2自身の加熱が放射する波長4μm以上の赤外線が問題となる。例えばサーモパイル25に付属する光学フィルタ48の透過波長が1〜15μmであれば、トッププレート2が放射する4μmよりも長い波長の赤外線によってサーモパイル25の出力が大きく影響を受け、トッププレート2上の調理鍋底の温度を正確に検出できないことになる。トッププレート2を透過する鍋の放射赤外線エネルギーは1μm〜2.5μmの約1.5μmの帯域、これに対しトッププレート2自身が放射する赤外線エネルギーは4μm〜15μmの約11μmの帯域であり、同じ温度であればサーモパイル出力のうち、調理鍋6の温度による分の5倍がトッププレート2の温度によることになる。
本実施例では、上記を防止するためサーモパイル25で構成される鍋温度検出装置18の赤外線センサケース28に、赤外線を透過させるためのケース窓29を開け、
このケース窓29にトッププレート2を構成する非結晶化ガラスを薄く切り出したものを光学フィルタ30として嵌め込んである。そして、サーモパイル25に入射する赤外線の内トッププレート2が放射する分を除去する。トッププレートが放射する波長2.5μm以上の部分はトッププレート2と同じ透過特性を持つ光学フィルタ30の光学特性によってサーモパイル25への入射が阻止される。
光学フィルタ30をトッププレート以外の材料で作成しても良く、トッププレート2に比べて700nm以下の透過率が低い光学特性とした可視光線カットの効果を付与するものを用いても良い。
更に、サーモパイル25の光学フィルタ48は、トッププレート2と光学フィルタ31を透過した鍋からの赤外線を透過し、かつ波長1μm以下の透過率は、トッププレート2より透過率が低い光学特性である。これは、トッププレート2を透過した鍋からの赤外線はサーモパイルの赤外線吸収膜43に入射し、可視光線が赤外線吸収膜43に入射するのを防止する必要があるためである。これにより、可視光線によるサーモパイルの出力変化が低減し、鍋温度の検出誤差を低減できる。
更に、サーモパイル25の光学フィルタ48として波長4μm以上を透過させない4μmショートパスフィルタを用いている。これは周囲温度で暖められる光学フィルタ31自身および赤外線センサケース29が放射する赤外線をも波長4μm以上は透過させないようにするためである。というのは先に述べたように鍋から放射される1〜2.5μmの赤外線エネルギーはトッププレートで通過を制限されているため非常に微小であり、サーモパイル25の出力増幅を大きくせざるを得ないため周囲温度での4μm以上の赤外線放射に敏感であり、徹底的に鍋底以外からの4μm以上の赤外線がサーモパイルの赤外線吸収膜43に入射するのを防止する必要があるためである。
光学フィルタ30自身および赤外線センサケース28が70℃であるとして、これが放射する赤外線によってサーモパイル25が出力する電圧を計算すると図13にAで示すものになる。ここでサーモパイル25の光学フィルタ48としては1〜15μmの波長を90%透過するものとした。この電圧は同図実線で示すトッププレート2上の鍋底が300℃のときのサーモパイル25が出力する電圧とほぼ同じである。つまり、光学フィルタ48の通過帯域を4μm以下に制限しないと、鍋温度検出装置18が70℃以上の雰囲気ではトッププレート2上の鍋温度を検出できない。
以上の理由からも、本実施例では鍋温度検出装置18をコイル上面冷却風路15a内に設置している。
図15(a)に黒体に近い状態の鍋底面を有するテンプラ鍋を図3の実施例で誘導加熱した場合の、鍋底面温度Tとサーモパイル温度検出回路72出力端子72−3の出力電圧Vの関係を示す。常温から100℃まではほぼ0.5Vであり、100℃を越えると温度のほぼ4乗に比例した電圧が出力される。0.5Vはサーモパイル温度検出回路72の電源電圧(5V)を抵抗72−4,72−5,72−6で分圧した電圧(図14中a点で示す)0.5Vがオペアンプ72−1,72−2のバイアス電圧として与えてあるためである。100℃を越えるとサーモパイル25の出力電圧が大きくなり、オペアンプ72−1,72−2で約10000倍に増幅されて0.5V以上の電圧として観測される。このバイアス電圧はサーモパイル温度検出回路72の故障検出用に与えてある。出力端子72−3の出力電圧値からこの0.5Vを引いた値(0.5Vからの電圧上昇値)が検出した鍋底面温度に比例したものである。図15(b)にこれを示す。マイクロコンピュータ60はサーモパイル温度検出回路72出力端子72−3の出力電圧をAD変換して読み込むが、この電圧から0.5Vを引いた値である鍋温度検出電圧Vt(=V−0.5)をもとに鍋温度を得る。図15(b)の関係は予めマイクロコンピュータ60のROMにテーブルデータとして記憶しておく。
図16に反射率検出回路73の詳細を示す。図16において、50は発光素子である赤外線LEDであり、例えばその発光波長は930nmである。51はフォトトランジスタであり、例えばピーク感度波長が800nmで赤外線LED50の発光波長930nmでもピーク感度の80%の感度をもつものである。図17に反射率検出回路73の動作タイミングチャートを示す。フォトインタラプタ19の発光素子である赤外線LED50はトランジスタ73−1で駆動される。この駆動はマイクロコンピュータ60の出力ポートから駆動信号端子73−2に入力される信号で制御される。図17中(a)にこの信号を示す。デューティ50%の矩形波信号を駆動信号端子73−2に入力すると、赤外線LED50は信号が5Vのとき発光し、0Vのときは消灯する間歇的投光を行う。この発光強度は赤外線LED50に流す電流に比例し、この電流は抵抗73−3の値で決められる。本実施例では抵抗値を固定して発光強度は一定である。この赤外発光が調理鍋底面で反射され、受光素子であるフォトトランジスタ51で受光されると光電流により抵抗73−4に電圧が発生する。この電圧を図17中(b)に示す。反射が大きく(受光量が多く)なれば電圧は比例して大きくなる。この信号電圧はコンデンサ73−5で直流分がカットされ、交流信号(図17中(c)に示す)としてオペアンプ73−6で構成される正転直流増幅器に入力される。ここで交流信号のプラス側成分のみが増幅される。図17中(d)にこれを示す。この増幅されたデューティ50%の信号は充放電回路73−7で直流の平均値電圧に変換され、出力端子73−8から出力される。この出力はマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。
このように反射率検出回路73は発光強度が一定のキャリア変調された赤外光を鍋底面に放射し、鍋で反射される赤外光を受光してその平均値電圧を反射電圧として得ることで反射率に相当する値を検出する。赤外発光をキャリア変調し、受光経路で直流成分をカットしているのは、自然光あるいは白熱電灯,蛍光灯などの照明機器に含まれる赤外光が鍋の反射率検出に影響するのを防止するためである。また、フォトトランジスタ51の暗電流の影響も防止している。
フォトインタラプタ19を図3に示すように配置するとトッププレート2上に調理鍋がない場合、赤外線LED50の放射した赤外光は大部分がトッププレート2を透過するが、一部はトッププレート2で反射される。これはトッププレート2の透過率が波長930nmで90%であり、残り10%の赤外光は反射されるためである。また、赤外線LEDの放射角度のため、トッププレート下面に到達せず経路途中にある物体で反射される赤外光もある。このため図18に示すように反射率検出回路73の出力は、トッププレート上に鍋がある場合(a)V1となり、鍋がない場合(b)V2となる。正味の鍋での反射電圧VrはVr=V1−V2となる。
図19に反射率検出回路73を図3に示すように配置して、トッププレート上に反射率が既知の金属板を配置したときの反射率検出回路73の出力から得られる先の反射電圧Vrと反射率の関係を示す。図中に近似線も示す。この関係を用いれば、反射率検出回路73の出力電圧から反射率が得られる。そしてこの関係をテーブルデータにあるいは近似式の係数値をあらかじめマイクロコンピュータ60のROMに記憶しておく。
調理鍋のような金属物質ではキルヒホフの法則により温度Tの物質表面から放射される赤外線エネルギー(E=εσT4)の放射率εと表面の反射率ρの間にはε+ρ=1の関係が成立する(透過率α=0とする)。調理鍋では放射率の違いにより同じ鍋底温度でありながら、放射される赤外線エネルギーが異なる。このためサーモパイル出力すなわち鍋温度検出装置18の出力が異なるという問題が生じる。そこで調理鍋の反射率を検出して放射率を求め鍋温度検出装置18の出力を補正してから温度に換算する必要がある。これを行うために先に説明した反射率に相当する量である反射電圧Vrを求め、これから反射率を得るのが反射率検出回路73である。この反射率を1から引いて放射率を得る。
図20にトッププレート2に置かれた数種の鍋について、鍋温度検出装置18の出力(サーモパイル温度検出回路72の出力V)から前述した0.5Vのオフセット電圧Voを引いた値Vt(鍋温度検出電圧)と鍋底面温度Tとの関係を示す。図中の各鍋底面の放射率は、(a)は0.9と黒体に近く、(b)は0.57、(c)は0.43、(d)は0.24である。図20の上図に示すように放射率によって鍋温度検出装置18の出力と鍋底温度の関係が異なることがわかる。(a)〜(d)の電圧値を放射率で除算すると、図20の下図に破線で示すものとなり、ほぼ1本の曲線に集約することができることが分かる。各出力Vtは各鍋の全放射エネルギー(E′=εσT4)に比例し、これを放射率で除算するのは、前述したように黒体の全放射エネルギー(E=σT4)に換算することを意味する。そして各鍋の放射率が分かれば、各鍋の鍋温度を黒体の放射温度に還元できることを意味している。例えば図3実施例でトッププレート上に黒体を配置して、黒体温度Tと鍋温度検出装置18の出力Vから0.5を引いた値である鍋温度検出電圧Vtを求め、このTとVtの関係(図15(b))を記録し、これをテーブルデータにあるいは近似式の係数値としてあらかじめマイクロコンピュータ60のROMに記憶しておく。そして、鍋を誘導加熱しているとき、一定時間ごとに鍋温度検出装置18の出力VをAD変換して読み込み、鍋温度検出電圧Vt=V−0.5の演算を施した後、反射率検出回路73で反射率を前述したように得て、この反射率ρをもとにキルヒホフの法則(ρ+ε=1)から放射率εを得、鍋温度検出電圧Vtをこれで除算した後、この値でテーブルデータを牽くあるいは近似式に代入して、鍋温度検出電圧Vtから温度Tを求め、これを検出鍋温度とする。本実施例の鍋温度補正は以上に基づいて行う。
図21に、各鍋において放射温度計を用いて計測した放射率と図3実施例で反射率検出回路73を用いて得た反射率(図19の関係の近似式を適用)の関係を示す。鍋によってキルヒホフの法則からはずれるものもあるが、放射率と反射率の間には強い相関がある。キルヒホフの法則から外れるのは反射率の検出において、鍋表面での散乱により反射赤外線の全てを受光していないためである。反射率を求める際には、赤外線LED50の放射光がトッププレート2になるべく垂直に入射させ、鍋での反射光をなるべく垂直にフォトトランジスタ51に導くのが望ましい。このため、フォトインタラプタ19の受発光面の上に導光筒を配置するのが良い。また鍋温度検出装置18のトッププレート2上位置での視野面とこの反射率検出発光のトッププレート2上での反射面は同一面であるのが望ましい。このため、図4に示すように鍋温度検出装置18と反射型フォトインタラプタ19を並べて配置するのが良い。
以下では、本実施例の動作について、手前右側の口に調理鍋6を置き、所定温度で所定時間調理鍋を加熱して調理を行う場合として説明する。図22にこの動作のフローチャートを示す。図示していない電源を投入し、調理鍋6を置いた誘導加熱口の操作スイッチで所定の温度および調理時間を設定し(ステップS1)調理開始を指示すると(ステップS2)、マイクロコンピュータ60はまず反射率検出回路73を制御して載置された鍋の反射データ(反射率に相当)を取り込み反射率を検出する(ステップS3)。
図23に反射率検出(ステップS3)の詳細なフローチャートを示す。マイクロコンピュータ60は反射率検出回路73の端子73−2にポートから図17(a)の赤外線LED駆動信号を出力する(ステップS3−1)。所定時間例えば200ms出力した後(ステップS3−2)、端子73−8に出力される電圧V2をAD端子より読み込む(ステップS3−3)。そして赤外線LED駆動信号を停止する(ステップS3−4)。次に予め記憶されている鍋が置かれていない時の電圧V1を先の読み込んだ電圧V2から引き反射電圧Vrを算出する(ステップS3−5)。そして予め記憶されている反射電圧と反射率の関係から反射率ρを得る(ステップS3−6)。
続いて対応する電力制御回路62,周波数制御回路61,インバータ回路8を制御して誘導加熱コイル7に電力を供給する(ステップS4)。誘導加熱コイル7に電力が供給されると、誘導加熱コイル7から誘導磁界が発せられ、トッププレート2上の調理鍋6が誘導加熱される。この誘導加熱によって調理鍋6の温度が上昇し、調理鍋6内の被加熱物の調理が開始される。マイクロコンピュータ60は誘導加熱を開始すると、一定時毎に鍋温度検出装置18の出力を読み込み、鍋温度を検出する(ステップS5)。ここで鍋温度検出動作を説明する。
図24に鍋温度検出(ステップS5)の詳細なフローチャートを示す。マイクロコンピュータ60は鍋温度検出装置18(鍋温度検出回路72)の出力電圧を読み込み(ステップS5A−1)、この値から0.5Vを引きこれを鍋温度検出電圧Vtとする(ステップS5A−2)。そして、誘導加熱直前に検出した反射率から、放射率(=1−反射率)を得て(ステップS5A−3)、この鍋温度検出電圧Vtを除算する(ステップS5A−4)。除算後のVtを用い予め記憶してある図15(b)に示すVtとTの関係であるデータテーブルを引いて(ステップS5A−5)、温度Tに変換し鍋温度Tを出力する(ステップS5A−6)。
なお放射率を算出する過程(ステップS5A−3)と鍋温度検出電圧Vtを放射率で除算する過程(ステップS5A−4)の代わりに、予め倍率a=1/放射率(a=1/ε)の値(1以上の値になる)と反射率(あるいは反射電圧Vr)の関係をテーブルとして記憶し、反射率(あるいは反射電圧Vr)から前記テーブルで倍率aを得て、鍋温度検出電圧Vtに倍率を乗算したのち、VtとTの関係であるデータテーブルを引いて鍋温度Tを出力してもよい。こうすれば、マイクロコンピュータの処理時間を要する除算を使用しなくてすみ処理の高速化が図れる。
所定の温度に到達したら(ステップS6)、電力制御回路62を制御して誘導加熱コイル7に供給する電流を所定量減少させる(ステップS7)。そして調理時間タイマーをスタートさせる(ステップS8)。一定時毎の鍋温度検出(ステップS9)を続けながら(ステップS10)、誘導加熱コイル7に供給する電流を所定量増減させて(ステップS11,S12)、鍋温度を一定(Tc)に保つ。そして所定の調理時間が経過したら(ステップS13)、調理終了をブザーで使用者に報知して、誘導加熱コイル7への電力投入を停止する(ステップS14)。こうして、調理鍋6の被調理物は設定された温度および時間で調理される。
以上説明では反射率検出を誘導加熱直前に1度だけ行う例を示したがこれに限ることはない。通常の鍋では誘導加熱中(温度が高温になっても)反射率は変化しない。また赤外線発光LEDでは長時間連続発光において寿命の問題がある。また反射率検出回路73が誘導加熱中の高磁場で妨害を受ける。本説明ではこれらの点を考慮して1調理につき誘導加熱直前の1回の反射率検出に限定した。当然、発光電流を低減して調理中に一定周期で反射率検出を行っても良い。特に薄手の鍋では高温による鍋底変形で反射率が変化することもある。さらに色塗装を底面に施した鍋では、高温で塗装が変性し反射率が変化することもある。この場合には加熱中でも定期的に反射率検出を行うのが望ましい。この場合当然磁場の影響を避けるために、後述する図25実施例のように磁性体で反射型フォトインタラプタ19および反射率検出回路73を囲うのが望ましい。あるいは、反射率検出を行うタイミングで誘導加熱コイル7への電力供給を短時間停止しても良い。
また、調理中に鍋を別の鍋に交換する場合もある。この時反射率は当然変化する。この場合には今ある鍋を退かした時点で鍋温度検出装置18の検出する電圧が急激に低下する。そして別温度の鍋を置いた時点で鍋温度検出装置18の検出する電圧はこの鍋底面温度に対応する値に復帰する。この変化を捉え再度反射率の検出するのが望ましい。
鍋温度検出装置18の他の実施例を図25に示す。図5,図6,図9と同一符号は同一物を示す。本実施例は鍋温度検出装置18の赤外線センサケース28内にサーモパイル25と反射型フォトインタラプタ19を組み込んだものである。赤外線センサケース28のケース窓29に嵌めた光学フィルタ30の一部を凸レンズとし、この下にサーモパイル25を配置して、リフレクタ27を省略している。また反射型フォトインタラプタ19の発光,受光部を光学フィルタ30の下面直下に配置している。これは赤外線発光が直上の光学フィルタ30で反射され、受光されるのを防止するためである。
赤外線LED50の赤外線発光は光学フィルタ30を90%以上透過するが、残り10%は反射され、すぐ横のフォトトランジスタ51で受光される。反射面との距離が短いとこのレベルは大きく、本来目的であるトッププレート2上にある鍋底面での反射光の受光に影響する。このため本実施例では、図示するように光学フィルタ30と反射型フォトインタラプタ19(赤外線LED50およびフォトトランジスタ51)の発光・受光面との距離を500μm以内程度にまで接近させ、発光赤外線の反射がフォトトランジスタ51で受光されないようにしている。理想的には光学フィルタ30下面と反射型フォトインタラプタ19の上面を接触させたほうが望ましいが、組み立て公差の点で難しい。
またトッププレート2の温度影響を避けるために、サーモパイル25の光学フィルタ48にトッププレート2の光学特性を持たせても良いのはあきらかである。つまり図7の光学フィルタ48を図5実施例での光学フィルタ30に置き換えることである。この場合、赤外線センサケース28のケース窓29に嵌めた光学フィルタ30は簡略なホウケイ酸ガラスや石英ガラス等に置き換えればよい。石英ガラスは波長5μmまでの赤外線を90%透過する。
本実施例での鍋温度検出とその補正動作は前述した第1実施例と同様であるので説明を省略する。
前述した鍋温度補正の他の一実施例を説明する。これは前述のように反射率を求め、放射率に変換して演算処理する方法でなく、反射電圧Vrによるグループ分けとテーブル引きのみで検出鍋温度を補正するものである。
図26に、各種鍋での図3実施例での鍋底面温度Tが200℃時の鍋温度検出電圧Vt(鍋温度検出装置18の出力から0.5Vを引いた値)と反射電圧Vrの関係を示す。このように反射電圧Vrと鍋温度検出電圧Vtの間には強い相関がある。そこで反射電圧Vrで図示するように例えば4つのグループ(a,b,c,d)に鍋を分類する。そしてそのグループの中で代表的な鍋を一つ選びこの鍋温度検出電圧Vtと鍋底面温度Tの関係をテーブルとして予め記憶する。例えば図20の(a)(b)(c)(d)を各グループの代表として鍋温度検出電圧Vtと鍋底面温度Tの関係をテーブルとして予め記憶する。この場合4つのグループに対応して4つのテーブルを作成する。そして鍋温度検出電圧Vtを得ながら、反射電圧Vrでグループ分けし、そのグループの鍋温度検出電圧Vtと温度Tのテーブルを切り替えて引き、温度Tを出力する。
図27に上記方法による鍋温度検出フローチャートを示す。鍋温度検出装置18の出力を読み込み(ステップS5B−1)、これからオフセットの0.5Vを引き鍋温度検出電圧Vtを得る(ステップS5B−2)。そして反射電圧Vrでグループのどこに入るかを判断し(ステップS5B−3)、そのグループの代表である鍋温度検出電圧Vtと鍋底面温度Tの関係テーブルを引いて(ステップS5B−4)、温度Tを出力する(ステップS5B―5)。テーブルとしてオフセット電圧0.5Vを含んだ形すなわち図15(a)に示すような鍋温度検出装置18の出力電圧Vと鍋底温度Tの形で予め記憶しておけば、ステップS3−2の引き算処理をなくすことができる。本実施例によれば、より簡易に温度Tを補正して出力することができる。
以上で説明した本発明の非結晶化ガラス製トッププレートの加熱調理器によれば調理温度150から300℃の広い温度範囲において、鍋の材質,鍋底の形状,汚れの強弱そしてトッププレート温度の影響を受けることなく、調理鍋6の温度を正確に捉えたものとなっている。このため、マイクロコンピュータ60の誘導加熱コイル7に対する電力制御も、調理鍋6の温度変化に即応したものにすることができ、結果的に巧く調理を行うことができる。また、サーミスタのように温度検出遅れがないため空焚き等の急激な鍋温度上昇にも追随でき、これを検出して油発火等の恐れがあるときには誘導加熱を即停止することも可能になる。トッププレートの非結晶化ガラスであるホウケイ酸ガラスの熱衝撃温度は約350℃(結晶化ガラスの熱衝撃温度は約800℃)であり、結晶化ガラスに比べて低い値となるが、本発明の鍋温度検出手段により鍋底最高温度上昇を300℃付近で抑えることができるため、ホウケイ酸ガラスの損傷を防止できることとなり、安全な誘導加熱調理器を提供できる。
また、非結晶化ガラスは結晶化ガラスに比べて透明感があることから、トッププレートにホウケイ酸ガラスの非結晶化ガラスを用いることで、高級感のあるデザインを施すことができる。
誘導加熱調理器の外郭となるトッププレートの強度は、電気用品安全法(電安法と呼称)の別表第八1(2)ケに記載されているように、質量250gで、ロックウェル硬度R100の硬さに表面をポリアミド加工した半径10mmの球面を有するおもり(鋼球)を20cmの高さから落球させて、割れやひびの無いことを確認する必要がある。
ホウケイ酸ガラスの非結晶化ガラスは上記の電安法の外郭強度の基準を満たす。さらに、ガラス厚4mmのトッププレートに鋼球約500gを落球させた試験を行った結果、結晶化ガラスは高さ約50cmからの落球で割れ、ホウケイ酸ガラスの場合は高さ約130cmからの落球で割れを生じた。ホウケイ酸ガラスは、結晶化ガラスに外郭強度が高いことから、例えばトッププレートのガラス厚4mmから3mmなどの変更が可能となり、トッププレートの薄型が図れる。
トッププレートが薄くなるとガラスを透過する赤外線の透過率が増加することとなり、調理鍋からの赤外線エネルギーが鍋温度検出装置に入射する量が増加し、鍋温度の検出精度の向上効果が得られる。
また、トッププレートの薄型化により、誘導加熱調理器の軽量化が図れ、輸送や流通の工程において省エネルギーとなり輸送費などのコスト低減効果が得られる。