図1は実施例1の誘導加熱調理器の本体1の斜視図であり、図2は図1中に一点鎖線AA′で示される部分に調理鍋6を載せたときの概略縦断面図である。以下では、誘導加熱が可能な鍋置き場所が2口、ラジエントヒータやハロゲンヒータ等のヒータ(加熱源)の放射熱で加熱可能な鍋置き場所が1口ある3口の誘導加熱調理器を例に挙げ説明を行うが、本発明の適用対象はこれに限られず例えば誘導加熱が可能な鍋置き場所を3口設けた誘導加熱調理器であっても良い。なお、調理鍋6は、誘導加熱に適した鉄鍋(磁性体)とするが、誘導加熱調理器が非磁性体のアルミ鍋,銅鍋であっても良い。
図1および図2に示すように、本体1の上面には、非磁性体(結晶化ガラス等)によって形成されたトッププレート2が装着されている。またトッププレート2の手前には、各口の加熱開始あるいは加熱コースを指示するスイッチ、各口の加熱状態(温度等)を表示する表示器が配置される操作表示部3が装着されている。
トッププレート2の上面には、その下に配置される加熱コイル7あるいはラジエントヒータの最外半径におよそ一致する半径の円表示4が加熱可能な鍋置き場所を示すために印刷されている。またトッププレート2は普通可視光に対して透明であるため、上面にはフリットガラスに耐熱塗料を混入した耐熱耐久性の衣装印刷、下面には耐熱面塗装を施し、機器内部が見えないようにしてある。誘導加熱が可能な鍋置き場所2口の円表示4のほぼ中央から約50mmの位置に後述する鍋温度検出のために前述印刷,塗装がなされていない赤外線透過窓5が設けられている。この赤外線透過窓5は赤外光を透過させるためであり、この部分だけ赤外光に対しては透明な可視光カット部材(耐熱フィルムまたはガラス)を下面に装着しても良い。
トッププレート2の上面の各口(円表示4)に、調理鍋6を置き加熱調理を行う。図2に示すように、加熱コイル7にインバータ回路8(高周波電流供給手段)からの高周波電流を供給すると、外周側の第1のコイル7aと内周側の第2のコイル7bに分割された加熱コイル7が高周波磁界9(図中破線で示す)を発生し、この高周波磁界が鍋6と鎖交して、渦電流を発生し、そのジュール熱により調理鍋6自身が誘導加熱され発熱する。従って、調理鍋6内の調理物は、調理鍋6自身の発熱によって加熱調理される。このとき、調理鍋6の下にあるトッププレート2も、発熱した調理鍋6から伝わる熱により高温になる。
図3に加熱コイル7周辺の断面を詳しく示す。図3に示すようにトッププレート2下面には第1のコイル7aと第2のコイル7bの間にコイル間隙7cを備えて分割された加熱コイル7が耐熱プラスチックで構成されるコイルベース10内に同心円状(渦巻き状)に巻かれて配置される。加熱コイル7の下側にはコイルベース部材内部にコ字状のフェライト11が凸部を上にして放射状に配置されている。このフェライト11は加熱コイル7が発生する磁束をトッププレート2上の調理容器である調理鍋6に効率良く導くために配置される。また磁束がコイルベース10下部に漏洩するのを防止する。フェライト11は透磁率が高く磁束はほとんどフェライト11内を通過するからである。
コイルベース10の下には加熱コイル7を冷却するためのコイル冷却風路15が設置される。コイル冷却風路15は二つに分けられ、一つは第1のコイル7aの内周側に接続され、第2のコイル7bおよび第1のコイル7a上面を冷却するコイル上面冷却風路15a、他の一つは第1のコイル7aの下面を冷却するコイル下面冷却風送出孔15bである。コイルベース10の中心部分下に位置するコイル上面冷却風路15aの上面には円形上のコイル上面冷却風送出孔15cが開口している。
コイルベース10の中心部は円筒状の内空洞14aになっており、第1のコイル7aの内周側にはフェライト11を内蔵する放射上梁に繋がる円筒状の外空洞壁14bになっている。この外空洞壁14bの下部に、コイル上面冷却風路15aのコイル上面冷却風送出孔15cが接続される。コイル上面冷却風送出孔15cの周囲にはグラスウール等のシール材16が設けられ先の外空洞壁14bに接続されている。
冷却風路15の下にはインバータ回路8等の回路基板を内蔵する回路冷却風路17a,17bが2段重ねて設けられ、夫々には左右の加熱コイル7L,7Rのインバータ回路等が内蔵されている。これらの冷却風路は本体1に固定される。
コイルベース10はコイル下面冷却風送出孔15bまたは回路冷却風路17aに固定される3個のコイルベース受け12からバネ13で押され、トッププレート2の下面に押し付けられる。
コイル上面冷却風送出孔15c下のコイル上面冷却風路15a中には鍋温度検出装置18が配置される。鍋温度検出装置18は誘導加熱された調理鍋6の底面温度をトッププレート2の赤外線透過窓5を透過する赤外線から検出する。
更に内空洞14aのほぼ上面中央にはトッププレート2の下面に接するセラミックケース20内にサーミスタ21が配置される。
加熱調理中にはコイル上面冷却風路15a,コイル下面冷却風送出孔15b,回路冷却風路17a,17bには本体1に内蔵されるファン(図示せず)から外気が導入される。コイル上面冷却風路15a内を流れる冷却風は鍋温度検出装置18を冷却しながらコイル上面冷却風送出孔15cから円筒状の外空洞壁14b内のコイル間隙7cおよび内空洞14aを上昇し、コイル間隙7cおよび内空洞14a上部から、トッププレート2に遮られトッププレート2と加熱コイル7の間をコイル径方向外側に流れ、加熱コイル7の上面およびトッププレート2下面を冷却する。コイル下面冷却風送出孔15bの第1のコイル7aの下面にあたる部分には小さな孔が複数開けられ、コイル下面冷却風送出孔15b内を流れる冷却風は、ここから第1のコイル7a下面に向かって噴流してこれを冷却する。
図4にトッププレート2を除いた図3の上面図の詳細を示す。加熱コイル7,コイルベース10,コイル上面冷却風路15aの詳細構成図である。加熱コイル7および内空洞14aと鍋温度検出装置18,サーミスタ21の水平面での位置関係を示す。
加熱コイル7は、ポリテトラフルオロエチレンに代表されるフッ素樹脂等で絶縁被膜されるリッツ線で同心円状に同一方向に巻回され、外周側の第1のコイル7aと内周側の第2のコイル7bに分割される。そのコイル間隙7cは幅およそ15mmの同心帯状をなし、第1のコイル7aの巻き終わりはコイル間隙7cを架橋し第2のコイル7bの巻き始めとなり、第1のコイル7aと架橋線7dと第2のコイル7bで加熱コイル7を構成する。コイルベース10には第1のコイル7aの内周側に円筒状の外空洞壁14bが設けられ、その内側がコイル間隙7cとなっている。また第2のコイル7bの内周側に内空洞14aが設けられ、この内部にセラミックケース20内に内蔵されるサーミスタ21が配置される。さらにコイル間隙7cの一部、放射状に配置される二つのフェライト11間に円筒状のセンサ視野筒19(内径約12mm)が設けられ、このセンサ視野筒19の下に鍋温度検出装置18が設置される。
誘導加熱された鍋底面からの赤外線はトッププレート2の赤外線透過窓5を透過し、センサ視野筒19から後で詳細に説明する鍋温度検出装置18に内蔵されるサーモパイル25に入射する。
図5は先の図4を裏から見た図を示す。コイルベース10には2個のコイルの低電圧端子21a,高電圧端子21bが設けられ、低電圧端子21aには第1のコイル7aの巻き始めが接続され、高電圧端子21bには第2のコイルの巻き終わりが接続される。この端子にはインバータ回路8の出力線22a,22bがねじで固定される。銅やアルミニウム等の非磁性体の鍋では4〜5kVの高電圧が出力される高電圧出力線22bは高電圧端子21bに接続される。
図4,図5で説明したように鍋温度検出装置18は、架橋線7dの近傍をさけ、かつ高電圧出力線22bが接続される高電圧端子21bから離れた位置にあるコイル間隙7cに設けられたセンサ視野筒19の下にそのケース窓30が位置するように設置される。
図6に鍋温度検出装置18の詳細斜視図を示す。鍋温度検出装置18は、赤外線検出センサであるサーモパイル25と反射型フォトインタラプタ26を中心に構成される。サーモパイル25と反射型フォトインタラプタ26はサーモパイルの出力信号を増幅するサーモパイル温度検出回路72(後で詳細を説明する)と反射率検出回路73(後で詳細を説明する)が実装される電子回路基板27に配置され、このサーモパイル25にはプラスチック部材で構成されるリフレクタ28が装着されている。このサーモパイル25と反射型フォトインタラプタ26および電子回路基板27は、全体をプラスチック部材の赤外線センサケース29(一点鎖線で示す)内に密封される。この赤外線センサケース29には赤外線を透過させるためにケース窓30が開けられ、このケース窓30にはトッププレート2を構成する結晶化ガラスとほぼ同じ光学特性(但し図15破線で示すように1μm以上の長波長側の光学特性はほぼ同じだが、短波長側でトッププレートに比べて透過率小の領域が400nmほどあり、この部分の可視光がカットされるため目には赤黒く見える)を持つ結晶化ガラスを薄く正方形に切り出したものを結晶化ガラス光学フィルタ31として嵌め込んである。そして結晶化ガラス光学フィルタ31の下にリフレクタ28が装着されたサーモパイル25と反射型フォトインタラプタ26が電子回路基板27上に実装されている。この赤外線センサケース29は、周りをアルミニウム等の透磁率がほぼ1の金属ケース32(2点鎖線で示す)で覆っている。当然、先のケース窓30の所は開口されている。そして更にアルミニウム金属ケース32は、周りをプラスチック部材の外側赤外線センサケース33で覆っている。当然先のケース窓30の所は開口されている。つまりサーモパイル25は3重のケースで覆われた形になっている。
そして、鍋温度検出装置18はそのケース窓30がコイルベース10のセンサ視野筒19内を望むようにコイル上面冷却風路15a内に設置される。
図7(a)に図6中のA−A′線に沿った断面図を示す。これは、赤外線センサケース29内に設置されるサーモパイル25、これに装着されるリフレクタ28の断面とサーモパイル25が電子回路基板27を含む断面図である。サーモパイル25に装着されるリフレクタ28の内面は、サーモパイル25内の赤外線吸収膜に一つの焦点結ぶ楕円曲面28aの一部が形成され、この楕円曲面28aはアルミ蒸着膜28bで鏡面となっている。このため図中の一点鎖線に示すごとくケース窓30に配置された結晶化ガラス光学フィルタ31を透過した赤外線はこの鏡面である楕円曲面で反射され、サーモパイル25の後述する光学フィルタ48を通して赤外線吸収膜に集光する。サーモパイル25の金属ピン(接続端子)46は電子回路基板27のパターンにハンダ付けされる。
図7(b)に同じく図6中のB−B′線に沿った断面図を示す。これは、赤外線センサケース29内に設置される電子回路基板27に装着されるサーモパイル25および反射型フォトインタラプタ26と赤外線センサケース29のケース窓30,結晶化ガラス光学フィルタ31との位置関係を示す断面図である。
図8にサーモパイル25の詳細を示す。図8(a)はサーモパイル25の断面図であり、図8(b)は図8(a)中C−C′で示す線での断面の平面図である。熱電対が見えるように、赤外線吸収膜を省略して示してある。
サーモパイル25は熱電対(サーモカップル)を多数縦列接続した(パイリング)したもので、ニッケルめっき鋼板等の金属キャン35と金属ステム36からなる金属ケース37内にこれが内蔵されている。およそ300μm厚のシリコン基材38表面に電気的および熱的に絶縁するためシリコン酸化膜39を形成し、この上にポリシリコン,アルミを順次パターン蒸着しポリシリコン蒸着膜40,アルミ蒸着膜41で熱電対を多数作成し、これを従属接続する。ポリシリコン,アルミ接合点(測温接点)のあるシリコン基材38中央部には、黒体に近い酸化ルビジウム膜等の赤外線吸収膜43を形成する。ポリシリコンおよびアルミ蒸着膜の一端は冷接点44であり、これはシリコン基材38の周囲に配置する。シリコン基材38の裏面を周囲(冷接点部)を残して290μmまでエッチングし、測温接点部分のあるシリコン基材の厚みを10μmに形成する。これは熱電導の良好なシリコンを薄くすることで、測温接点部42と冷接点部44の熱電導を少なくし測温接点部と冷接点部を熱的に絶縁するためである。
このシリコン基材38を金属ケース37の金属ステム36にボンド等で固定する。同時に金属ステム36にはセラミック上に膜形成したNTCサーミスタ45を同様に配置する。これは金属ケース37内にある熱電対の雰囲気温度を検出し、熱電対の熱起電力を補正するためである。詳細は後述する。金属ステム36には絶縁シールされた4本の金属ピン46が貫通配置されており、この金属ピンに先の熱電対の出力とNTCサーミスタ45がワイヤ接続される。ステム36には、筒状の金属キャン35が不活性ガス中で被せられ溶着される。この金属キャン35の上面には小穴の窓47が開けられ、ここに内側から光学フィルタ48(ある波長域の光線を透過する部材)が装着されている。この小穴の垂直下に先の測温接点部42(赤外線吸収膜43の下にある)が位置するようにシリコン基材38が固定される。
サーモパイル25内の熱電対測温接点部42(赤外線吸収膜43の下にある)にはこの小穴の窓46を通過した赤外線で加熱され、この加熱温度上昇は通過した赤外線エネルギーに比例し、熱電対の冷接点部44と測温接点部42の温度差に比例した電圧が熱電対出力の金属ピン46に出力される。
図9に反射型フォトインタラプタ26の詳細を示す。反射型フォトインタラプタ26は赤外線発光素子としての赤外線LED50と赤外線受光素子としての赤外線フォトトランジスタ51を同一プラスチック部材に並べてモールドしたものである。赤外線LEDの発光面上にはプラスチックでレンズが構成され細いビームで930nm付近の赤外光を上方に照射する。赤外線フォトトランジスタ51の受光面上には可視光阻止のプラスチックでレンズが構成され、先の照射赤外光の物体(鍋底面)での反射赤外光を狭い視野角で受光し、その受光量に比例した電流を出力する。この反射型フォトインタラプタ26は赤外線発光素子と受光素子の対で構成されるものでトッププレート2上に置かれた調理鍋6底面の反射率を計測するものである。
図10に本実施例の誘導加熱調理器の制御ブロック図を示す。マイクロコンピュータ60が誘導加熱調理器の動作を制御する。以下記号Rは図1の手前右にある誘導加熱口に関するブロックを表し、記号Lは図1の手前左にある誘導加熱口に関するブロックを表す。2つのインバータ回路8Rおよび8Lは加熱コイル7R及び7Lに高周波電流を供給する。このインバータ回路8R,8Lの動作周波数及びコイルへの供給電力を調整するのが周波数制御回路61R,61L及び電力制御回路62R,62Lである。動作周波数を変化させるのは、鍋の金属種類によって高周波電流の周波数で誘導加熱効率が変化するためである。一般に鉄では20kHz、これより抵抗率の低い銅,アルミでは70kHz以上の周波数が用いられる。この周波数切り替えは図示しない鍋種類判別手段の判断に基づいてマイクロコンピュータ60が周波数制御回路を制御して行う。
各インバータ回路8R,8Lには整流回路63から直流電圧が供給される。この整流回路63には電源スイッチ64を介して3端子200Vの商用電源65が接続されている。
商用電源の接地端子は本体1の金属部に接地線で接続される。ラジエントヒータ66にはラジエントヒータ回路67を介して商用電源65が接続され、ラジエントヒータ回路67がラジエントヒータ66に供給する電力を制御する。
マイクロコンピュータ60には、操作表示部3の操作スイッチ68,表示回路69が接続され使用者の操作指示を受け付け、機器の動作状態表示を行う。またブザー70が接続され使用者の操作ボタン押しあるいはエラー等の警告などを報知する。マイクロコンピュータ60は使用者の指示に従い、周波数制御回路61R,61Lと電力制御回路62R,62L及びラジエントヒータ回路67を制御して、トッププレート2上の調理鍋6を加熱する。
サーモパイル25はサーモパイル温度検出回路72に接続され出力が増幅され、マイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。反射型フォトインタラプタ26は反射率検出回路73に接続され、マイクロコンピュータ60のポート出力で発光素子の発光を制御され、調理鍋6で反射された赤外光は受光素子で受光され、その出力信号は増幅されマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。サーモパイル温度検出回路72および反射率検出回路73の動作の詳細は後述する。更にサーミスタ21はサーミスタ温度検出回路74に接続され、その出力もマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。
マイクロコンピュータ60は反射率検出回路73の出力から調理鍋の赤外線反射率を知り、サーモパイル温度検出回路72の出力を反射率で補正して調理鍋の温度を検出する。そして、電力制御回路62を介して、調理鍋6の加熱を制御する。
図11にサーモパイル温度検出回路72の詳細を示す。サーモパイル25の熱電対出力(熱起電力)(図中(+),(−)記号間の電圧)はオペアンプ72−1で約2000倍に増幅され出力端子72−2に出力される。この出力電圧はマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。オペアンプ72−1の増幅度は抵抗72−3(=R1)と抵抗72−4(=R2)の比(R2/R1)で決まる。またサーモパイル内のNTCサーミスタ45は、回路電源電圧を抵抗72−5,72−6,72−7で分圧された電圧源(抵抗72−6の両端)に抵抗72−8と直列接続された状態で接続され、この抵抗72−8との接続点aは熱電対出力端子(−)に接続されている。NTCサーミスタ45は負の温度特性を持った抵抗素子であり温度上昇で抵抗値が低下する。このため、サーモパイル25内の温度が上昇すると先の接続点aの電圧は上昇する。熱電対出力(図中(+),(−)記号間の電圧)は測温接点42(赤外線エネルギーで加熱される点)と冷接点(熱電対出力端子)44の温度差に比例する。このためサーモパイル25の設置される雰囲気温度で金属ケース37内雰囲気(NTCサーミスタが内蔵される)温度が上昇すると熱電対出力は減少する。この減少を接続点aの電圧上昇で補償する。すなわちNTCサーミスタ45はサーモパイル(熱電対)25の出力が周囲温度で変化するのを防ぐために使用される。増幅度を決める抵抗72−4(=R2)に並列に抵抗72−9(=R3)と3個のダイオード72−10を直列接続したものが接続されている。これはオペアンプの出力電圧がダイオードの順方向電圧(約0.6V)の3個分1.8Vを越えた場合に増幅度を減少させるものである。1.8Vまでは増幅度=R2/R1であるが、これを越えると増幅度=(R2//R3)/R1となる。これは後述するようにサーモパイルの鍋温度検出範囲を拡大するものである。これが無い場合には、サーモパイル出力が鍋底温度の4乗に比例するため高温で急速に出力が増加し、鍋底温度が300℃で回路出力電圧が5Vで飽和するが、ある場合には400℃まで飽和しないようにできる。
図12,図13を用いて反射率検出回路73の詳細を示す。図12において、50は発光素子である赤外線LEDであり、例えばその発光波長は930nmである。51は赤外線フォトトランジスタであり、例えばピーク感度波長が800nmで赤外線LED50の発光波長930nmでもピーク感度の80%の感度をもつものである。図13に反射率検出回路73の動作タイミングチャートを示す。反射型フォトインタラプタ26の発光素子である赤外線LED50はトランジスタ731で駆動される。この駆動はマイクロコンピュータ60の出力ポートから駆動信号端子73−2に入力される信号で制御される。図13(a)にこの信号を示す。デューティ50%の矩形波信号を駆動信号端子73−2に入力すると、赤外線LED50は信号が5Vのとき発光し、0Vのときは消灯する。この発光強度は赤外線LED50に流す電流に比例し、この電流は抵抗73−3の値で決められる。本実施例では抵抗値を固定して発光強度は一定である。この赤外発光が調理鍋底面で反射され、受光素子である赤外線フォトトランジスタ51で受光されると光電流により抵抗73−4に電圧が発生する。この電圧を図13(b)に示す。反射が大きく(受光量が多く)なれば電圧は比例して大きくなる。この信号電圧はコンデンサ73−5で直流分がカットされ、交流信号(図13(c)に示す)としてオペアンプ73−6で構成される正転直流増幅器に入力される。ここで交流信号のプラス側成分のみが増幅される。図13(d)にこれを示す。この増幅されたデューティ50%の信号は充放電回路73−7で直流の平均値電圧に変換され、出力端子73−8から出力される。この出力はマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。
このように反射率検出回路73は発光強度が一定のキャリア変調された赤外光を鍋底面に放射し、鍋で反射される赤外光を受光してその平均値電圧を反射電圧として得ることで反射率に相当する値を検出する。赤外発光をキャリア変調し、受光経路で直流成分をカットしているのは、自然光あるいは白熱電灯,蛍光灯などの照明機器に含まれる赤外光が鍋の反射率検出に影響するのを防止するためである。また、赤外線フォトトランジスタ51の暗電流の影響も防止している。
以下本実施例の動作を説明する。
トッププレート2上に置かれた調理鍋6は誘導加熱により発熱する。この加熱により鍋6底面からは赤外線が放射される。この全放射エネルギーEは鍋温度Tの4乗に比例したものである。(E=σT4;ステファン・ボルツマンの法則)図14にプランクの分布則から算出される黒体温度の分光放射エネルギーを示す。この分光放射エネルギーを全波長域で積分すれば、全放射エネルギーEが求まり、これは温度(絶対温度)の4乗に比例する。これが前述のステファン・ボルツマンの法則であり、この係数σがステファン・ボルツマン係数である。分光放射エネルギーのピーク波長はウィーンの変移則から、調理温度100〜300℃で5μm〜8μmである。
誘導加熱された鍋底は、黒体温度の全放射エネルギーEに鍋底の放射率εを乗じた全放射エネルギーを温度に応じて放出する。すなわち黒体温度の全放射エネルギーEと鍋底温度のそれ(E′=εσT4)との比が放射率εである。
一方、非磁性体である結晶化ガラス(トッププレート2)の光学特性を図15に実線で示す。図15中実線で示すように、結晶化ガラスは、0.2μm〜2.9μmの波長の光を80%以上透過し、3〜4.5μmの波長の光を30%程度透過し、4.5μmよりも長い波長、及び、0.2μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。この光学特性のため鍋から放射される赤外線放射エネルギー(図14参照)の大部分はトッププレートを通過できない。
赤外線センサとしては周知のように、赤外線フォトダイオード,赤外線フォトトランジスタのような量子型とサーモパイル、焦電素子のような熱型とがある。量子型センサは量子効果で赤外線を検出するため狭い波長帯域で高い感度を持ち、熱型は広い波長帯域で低い感度を持つのが特徴である。量子型は半導体の種類で感度波長が決められ、シリコンのように安価に購入できるものは実用感度波長が可視光外(0.8μm)から1μm以下のため、検出温度の範囲が300℃以上となる。一方熱型は量子型に比べ、可視光から20μm以下の広い波長帯域で均一の低い感度を持つ(原理的には波長依存性を持たない。)。このため、センサへの赤外線受光面の前に光学フィルタを設け、検出温度範囲波長を狭めて外乱を防ぐ。
本実施例では、調理温度範囲が100から250℃であるため、赤外線センサとして熱型であるサーモパイルを用いる。同じ熱型の焦電素子は微分型のセンサであるため、赤外線入射を断続する必要があり、普通機械的なチョッパ機構が使われる。このため、信頼性の点で誘導加熱調理器のような家電品に用いるのは不向きである。一方サーモパイルはこのような機構を必要とせず、また近年MEMS等の技術により半導体プロセスを用い構成する熱電対を微小化し多数堆積(パイリング)して感度を向上させたものが安価に供給されている。
近年多くの体温計に用いられるサーモパイルの光学フィルタとしては透過波長が1〜15μmのものが使われる。これはウィーンの変移則から人体の赤外線放射エネルギーのピーク波長が約10μm(体温36℃)であり、上記光学フィルタを用いるのが最適なためである。
この光学フィルタを有するサーモパイルを用いて、調理鍋の温度(25〜300℃)を非接触で計測するとサーモパイルの出力として図16に一点鎖線で示す出力が得られる。
これは前述のように調理鍋底面を黒体とみなして、これが放射する赤外線エネルギー(プランクの分布則に従う)がサーモパイルの感度で電圧に変換され所定の増幅をしたとして得たものである。このときサーモパイルの感度は波長1〜15μmである一定値とし、波長1〜15μmの赤外線は光学フィルタを一律に90%透過してサーモパイルに入射すると仮定している。
さてこのサーモパイルを図3の構成で鍋温度検出に使用した場合には、鍋底面からの赤外線はトッププレート2を透過してサーモパイル25に入射する。したがってトッププレート2の光学特性(図15実線)で透過する各波長の赤外線は制限される。前述したように約5μm以上の赤外線はほとんど透過せず、サーモパイル25に入射しない。上述と同様にこの場合の出力を計算すると図16に実線で示すものとなる。出力は1桁程度低下するのが分かる。このためサーモパイル25の出力を、従来の体温計等での使用される直流増幅器の増幅度に比べ1桁程度高い増幅度で直流増幅することが必要になる。
前述したように、サーモパイルはサーモカップル(熱電対)を多数積み重ねた(直列に接続)(パイリング)したものである。一つのサーモカップルの熱起電力をEiボルト/℃とし、これをN個接続すればサーモパイルの熱起電力VはN・Eiボルト/℃となる。
つまりパイル数Nのサーモカップル出力はN・Eiボルト/℃となる。今前述の体温計のように1000倍程度の増幅度で実用に供されるサーモパイルを誘導加熱調理器に使用するとした場合、前述のトッププレートの影響で10000倍の増幅度を必要とする。一般的に直流増幅器では、オフセット電圧の温度ドリフトにより1000倍程度の増幅度が限界と言われる。したがって、誘導加熱調理器に用いるサーモパイルでは、パイル数を数10から数100に増やしたものが用いられる。つまり一般のサーモパイルに比べパイル数を増やすことで感度を上げている。
サーモパイルでよく使われるサーモカップル金属対は図8で説明したように半導体プロセスで比較的容易に作成できるポリシリコン・アルミニウムであり、この熱起電力は約10μV/℃である。電磁調理器で用いるサーモパイルは、これをパイル数50程度に堆積したものが用いられる。
サーモカップルで物体の温度を計測する場合には、冷接点を氷点(0℃)に固定して測温接点を物体に接触させて計測する。サーモパイルは図8で説明したように、サーモカップルが多数堆積されたものであり、入射赤外線で加熱される多数の測温接点とシリコン基材38上にある多数の冷接点で構成される。そして冷接点は金属ケース37の金属ステム36にボンドで固定されるため、熱的にはサーモパイルの金属ケース37(金属キャン35と金属ステム36)が冷接点となっている。そしてこの金属ケース37は通常のサーモカップルのように氷点に固定することができない。
仮に、サーモカップルの熱起電力が10μV/℃、パイル数50、直流増幅器の増幅度を1000とすると、金属ケース37の温度が1℃変化すると、直流増幅器の出力では500mVの電圧変動になる。つまりサーモパイル25周囲の温度変動を押さえることが必要になる。
本実施例の鍋温度検出装置18は、加熱調理中の鍋底高温部を検出可能にするために、分割された加熱コイル7が発生する高周波磁界の磁束密度が最も強いコイル間隙7c直下に配置される。この位置は、加熱コイル7の下に放射状に配置される棒状フェライト11の間であり、磁束はほとんどフェライト中を通過するため漏れ磁束の少ない場所ではある。しかし加熱コイル7下面からの距離は20mm程度であるため漏れ磁束は大きく、ここに位置する金属を誘導加熱しその温度を上昇させる。例えば3kWの高周波電力を加熱コイルに入力してトッププレート2上に載置される調理容器である鍋を誘導加熱する場合には、この場所にある磁性体の鋼板では約30℃も温度上昇する。非磁性体のアルミニウムでも約5℃も温度上昇する。
調理中、誘導加熱される鍋底は100〜300℃の高温になる。そしてトッププレート2および下面の加熱コイル7も鍋底からの熱伝導,熱輻射で高温となる。
さらに加熱コイル7には十数アンペアの高周波電流を流すためコイル自身も発熱する。これらトッププレート,加熱コイルを冷却するため、コイル上面冷却風路15a,コイル下面冷却風送出孔15bには外気が導入され、前述のように加熱コイル7に風を当てて冷却する。
また、鍋温度検出装置18の配置される下には加熱コイルに高周波電力を供給するインバータ回路8が冷却風路17a,17b中に配置される。このインバータ回路は20〜90kHz、十数アンペアの電流をスイッチングする回路から構成される。このため大きな電磁波を輻射することになる。
このように、鍋温度検出装置18、特に内蔵されるサーモパイル25は、(1)加熱コイル7からの漏れ磁束、(2)コイル冷却のための冷却風による温度変化、(3)インバータ回路から輻射される電磁波ノイズ、に晒されることになる。これら外乱に対応して、鍋温度検出装置18は加熱調理中の鍋底高温部を検出しなければならない。
前述したサーモパイル温度検出回路72の動作説明のごとく、サーモパイル25の出力が雰囲気温度で変化しないように、内蔵のNTCサーミスタ45を用いて回路的に温度補償をしている。しかし、NTCサーミスタ45はセラミックチップの上に薄膜で形成され、これを金属ステム36にボンド等で固定されているため、熱的には冷接点と等価である金属ステム36すなわち金属ケース37の温度変化に追従しにくく、時間遅れが生じる。また、温度抵抗特性の非線形性のため広い温度範囲で正確に温度補償するのが難しい。これらの点でサーモパイル25の周囲温度変化に即応して前述回路で十分な温度補償を行うのは難しい。具体的には1℃/10分程度の温度変化には対応できるが、1℃/1分程度の温度変化に追従させるのは困難である。前述したように、誘導加熱調理開始と同時に加熱コイル7を冷却するため外気が導入される。前の調理である程度、鍋温度検出装置18と周囲の雰囲気温度が上昇していた場合には、このとき鍋温度検出装置18は急速に(1℃/1分以上で)冷却されることになる。
サーモパイル25が内蔵される鍋温度検出装置18はなるべく一定温度雰囲気におくのが望ましい。このため、本実施例では、外気が導入されるコイル上面冷却風路15a内に鍋温度検出装置18を設置し調理中には外気でサーモパイル25とサーモパイル温度検出回路72を冷却しこれらの温度上昇を防止している。また、コイル上面冷却風路15a内の気流がサーモパイル25の金属ケース37およびサーモパイル温度検出回路72の半導体、抵抗等に直接当たり熱ゆらぎを起こすのを防ぐため、防風ケースである赤外線センサケース29でこれを覆っている。また、サーモパイル25とサーモパイル温度検出回路72は赤外線センサケース29内の空気で空気断熱されることにもなる。温度変化に対して安定にサーモパイル25の出力を直流増幅した後低い出力インピーダンスの信号電圧として、後述するマイクロコンピュータ60のAD端子に出力している。
さらに、この赤外線センサケース29をアルミニウム等の透磁率がほぼ1である金属ケース32で覆い、加熱コイルが発生する交流磁場を遮蔽することでサーモパイル25の金属ケース37が加熱コイル7の発生する高周波交流磁界で誘導加熱され温度上昇しないようにしている。また、この金属ケース32は、鍋温度検出装置18の下部に配置されるインバータ回路からのパルス雑音(放射電磁波)に対しての電磁シールドにもなっている。
この金属ケース32は、加熱調理中には周囲雰囲気温度および加熱コイル7からの漏れ磁束で誘導加熱され、アルミニウムの場合5〜10℃温度上昇する。この温度上昇がおさまる前に続けて調理を行う場合、外気を急速に導入して金属ケース32に当てると金属ケース32が急速に冷え、結果赤外線センサケース29内のサーモパイル25の周囲温度が急に低下することになる。この逆の場合、例えば冬朝一番に調理を行う場合、機体内の金属ケース32は夜十分に冷却され5℃程度にあり、使用者が20℃に暖房された調理室で調理を開始した場合には、この暖気がコイル上面冷却風路15aに導入され、20℃の暖気が5℃の金属ケース37に当てられることになる。本実施例では、このような外気による金属ケース32の急激な温度変化を防止するために、この金属ケース32を更にプラスチックの外側赤外線センサケース33で覆っている。これで金属ケース32に直接冷却風をあてずに風による温度急変を防止している。
さて、トッププレート2は誘導加熱された調理鍋6から赤外線放射を吸収することおよび接触熱伝導とで加熱される。図15で実線に示すように、トッププレート2は0.2μm〜2.9μmの波長の光を80%以上透過し、3〜4.5μmの波長の光を30%程度透過し、4.5μmよりも長い波長、及び、0.2μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。
放射エネルギーが物質表面に入射すると、その一部ρは反射され、一部αは吸収され、残りτは透過する。これらの量の間には、エネルギー保存則からρ+α+τ=1が成立する。トッププレート2上に調理鍋6が置かれた状態では、調理鍋6の赤外線放射エネルギーのトッププレート2での反射はほとんどゼロとみなせるため、トッププレート2では吸収率α+透過率τ=1が成立していると見てよい。キルヒホフの法則より吸収率α=放射率εであるため、トッププレート2は調理鍋6からの赤外線放射エネルギーのうち、0.2μm〜2.9μmの波長では80%以上透過し、残り20%を吸収しこれを放射する。また3〜4.5μmの波長では30%程度透過し、残り70%を吸収しこれを放射する。4.5μmよりも長い波長、及び、0.2μmよりも短い波長ではほとんど透過せず、すべてを吸収してこれを放射する。熱伝導で加熱された分も同様である。波長4.5μm以上では熱伝導加温の赤外線エネルギーはほとんどトッププレート2表面から放射される。
このため、サーモパイル25を使用して、トッププレート2上の調理鍋6の温度を検出する場合にはトッププレート2自身の加熱が放射する赤外線が問題となる。特に図15に斜線で示す波長の赤外線が問題となる。例えばサーモパイル25に付属する光学フィルタ48の透過波長が1〜15μmであれば、トッププレート2が放射する4.5μmよりも長い波長の赤外線によってサーモパイル25の出力が大きく影響を受け、トッププレート2上の調理鍋底の温度を正確に検出できないことになる。トッププレート2を透過する鍋の放射赤外線エネルギーは1μm〜2.9μmの約2μmの帯域、これに対しトッププレート2自身が放射する赤外線エネルギーは4.5μm〜15μmの約10μmの帯域であり、同じ温度であればサーモパイル出力のうち、調理鍋6の温度による分の5倍がトッププレート2の温度によることになる。
本実施例では、上記を防止するためサーモパイル25で構成される鍋温度検出装置18の赤外線センサケース29に、赤外線を透過させるためのケース窓30を開け、このケース窓30にトッププレート2を構成する結晶化ガラスを薄く正方形に切り出したものを結晶化ガラス光学フィルタ31として嵌め込んである。そしてサーモパイル25に入射する赤外線の内トッププレート2が放射する分を除去する。トッププレートが放射する図15に斜線で示す部分の波長は結晶化ガラス光学フィルタ31の光学特性によって(図15に斜線で示す部分の波長は透過しない)サーモパイル25への入射が阻止される。
結晶化ガラス光学フィルタ31をトッププレート以外の材料で作成しても良いが、図15で実線に示すような急峻な特性を示す光学フィルタを作成するのは非常に困難で高価なものになる。
また、結晶化ガラス光学フィルタ31は、その下に配置されるリフレクタ28のアルミニウム蒸着反射鏡面28bがトッププレート2の赤外線透過窓5から見えなくする効果をもたせている。前述したように(図15の破線で示すように)1μm以上の長波長側の光学特性はトッププレート2とほぼ同じだが、短波長側でトッププレートに比べて透過率小の領域が400nmほどあり、この部分の可視光がカットされるため目には赤黒く見え、アルミニウム鏡面を見えなくしている。
更に、サーモパイル25の光学フィルタ48として波長5μm以上を透過させない5μmショートパスフィルタ(図15に薄線で示す)を用いている。これは周囲温度で暖められる結晶化ガラス光学フィルタ31自身および赤外線センサケース29が放射する赤外線をも波長5μm以上は透過させないようにするためである。というのは先に述べたように鍋から放射される1〜2.9μmの赤外線エネルギーはトッププレートで通過を制限されているため非常に微小であり、サーモパイル25の出力増幅を大きくせざるを得ないため周囲温度での5μm以上の赤外線放射に敏感であり、徹底的に鍋底以外からの4.5μm以上の赤外線がサーモパイルの赤外線吸収膜43に入射するのを防止する必要があるためである。
結晶化ガラス光学フィルタ31自身および赤外線センサケース29が70℃であるとして、これが放射する赤外線によってサーモパイル25が出力する電圧を計算すると図16にAで示すものになる。ここでサーモパイル25の光学フィルタ48としては1〜15μmの波長を90%透過するものとした。この電圧は同図実線で示すトッププレート2上の鍋底が300℃のときのサーモパイル25が出力する電圧とほぼ同じである。つまり、光学フィルタ48の通過帯域を5μm以下に制限しないと、鍋温度検出装置18が70℃以上の雰囲気ではトッププレート2上の鍋温度を検出できない。
以上の理由からも、本実施例では鍋温度検出装置18をコイル上面冷却風路15a内に設置している。
図17に黒体に近い状態の鍋底面を有するテンプラ鍋を図3の実施例で誘導加熱した場合の、鍋底面温度Tとサーモパイル温度検出回路72出力端子72−2の出力電圧Vの関係を示す。図中破線で示すのは、サーモパイル温度検出回路72で抵抗72−9,ダイオード72−10が無い場合である。この場合、前述したようにサーモパイル出力は温度の4乗に比例するため、鍋底面温度Tが200℃を越えると出力が急上昇して、回路出力は電源電圧5Vに飽和する。これを防止するのがダイオード72−10と抵抗72−9の回路である。出力が1.8Vを越える近傍からオペアンプ72−1の増幅度を低下させ、図中実線で示すように400℃まで出力が飽和しないようにすることで、検出できる温度範囲を回路で拡大している。
常温から100℃まではほぼ0.5Vであり、100℃を越えると温度に比例した電圧が出力される。0.5Vはサーモパイル温度検出回路72の電源電圧(5V)を抵抗72−5,72−6,72−7で分圧した電圧(図11中a点で示す)0.5Vがオペアンプ72−1のバイアス電圧として与えてあるためである。100℃を越えるとサーモパイル25の出力電圧が大きくなり、オペアンプ72−1で約2000倍に増幅されて0.5V以上の電圧として観測される。このバイアス電圧はサーモパイル温度検出回路72の故障検出用に与えてある。出力端子72−2の出力電圧値からこの0.5Vを引いた値(0.5Vからの電圧上昇値)が検出した鍋底面温度に比例したものである。マイクロコンピュータ60はサーモパイル温度検出回路72出力端子72−2の出力電圧をAD変換して読み込むが、この電圧から0.5Vを引いた値である鍋温度検出電圧Vt(=V−0.5)をもとに鍋温度を得る。図17の関係は予めマイクロコンピュータ60のROMにテーブルデータとして記憶しておく。
鍋温度検出装置18に内蔵される反射型フォトインタラプタ26を図3に示すように配置するとトッププレート2上に調理鍋がない場合、赤外線LED50の放射した赤外光(波長930nm)は大部分が結晶化ガラス光学フィルタ31およびトッププレート2を透過し赤外線フォトトランジスタ51には戻ってこない。しかし一部は結晶化ガラス光学フィルタ31およびトッププレート2で反射される。これは結晶化ガラス光学フィルタ31およびトッププレート2の透過率が波長930nmで85%および90%であり、残り15%および10%の赤外光は反射されるためである。特に結晶化ガラス光学フィルタ31で反射される分はすぐ横にある赤外線フォトトランジスタ51に直接戻るため、本実施例では図3に示すように、反射型フォトインタラプタ26前面を結晶化ガラス光学フィルタ31下面に接するように配置してこの反射光が赤外線フォトトランジスタ51に入射するのを防止している。また、赤外線LEDの放射角度のため、トッププレート下面に到達せず経路途中にある物体(センサ視野筒19内面)で反射される赤外光もある。
このため図18に示すように反射率検出回路73の出力は、トッププレート上に鍋がある場合(a)V1となり、鍋がない場合(b)V2となる。正味の鍋での反射電圧VrはVr=V2−V1となる。
反射率検出回路73を図3に示すように配置して、トッププレート上に反射率が既知の金属板を配置したときの反射率検出回路73の出力から得られる先の反射電圧Vrと反射率の関係を図19に示す。図中に近似線も示す。この関係を用いれば、反射率検出回路73の出力電圧から反射率が得られる。そしてこの関係をテーブルデータにあるいは近似式の係数値をあらかじめマイクロコンピュータ60のROMに記憶しておく。
調理鍋のような金属物質ではキルヒホフの法則により温度Tの物質表面から放射される赤外線エネルギー(E=εσT4)の放射率εと表面の反射率ρの間にはε+ρ=1の関係が成立する。(透過率α=0とする)調理鍋では放射率の違いにより同じ鍋底温度でありながら、放射される赤外線エネルギーが異なる。このためサーモパイル出力すなわち鍋温度検出装置18の出力が異なるという問題が生じる。そこで調理鍋底の反射率を検出して放射率を求め鍋温度検出装置18の出力を補正してから温度に換算する必要がある。これを行うために先に説明した反射率に相当する量である反射電圧Vrを求め、これから反射率を得るのが反射率検出回路73である。この反射率を1から引いて放射率を得る。
図20にトッププレート2に置かれた数種の鍋について、鍋温度検出装置18の出力(サーモパイル温度検出回路72の出力V)から前述した0.5Vのオフセット電圧Voを引いた値Vt(鍋温度検出電圧)と鍋底面温度Tとの関係の一例を示す。図中に各鍋底面の放射率も示す。図20に示すように放射率によって鍋温度検出装置18の出力と鍋底温度の関係が異なることがわかる。図20の(a)で示す鍋は放射率が0.9と黒体に近い。(b)は放射率が0.57、(c)は0.43、(d)は0.24である。(b),(c),(d)の電圧値を放射率で除算すると、図中に破線でしめすものとなり、ほぼ1本の曲線に集約することができることが分かる。各出力Vtは各鍋の全放射エネルギー(E′=εσT4)に比例し、これを放射率で除算するのは、前述したように黒体の全放射エネルギー(E=σT4)に換算することを意味する。そして各鍋の放射率が分かれば、各鍋の鍋温度を黒体の放射温度に還元できることを意味している。例えば図3実施例でトッププレート上に黒体を配置して、黒体温度Tと鍋温度検出装置18の出力Vから0.5を引いた値である鍋温度検出電圧Vtを求め、このTとVtの関係を記録し、これをテーブルデータにあるいは近似式の係数値としてあらかじめマイクロコンピュータ60のROMに記憶しておく。そして、鍋を誘導加熱しているとき、一定時間ごとに鍋温度検出装置18の出力VをAD変換して読み込み、鍋温度検出電圧Vt=V−0.5の演算を施した後、反射率検出回路73で反射率を前述したように得て、この反射率ρをもとにキルヒホフの法則(ρ+ε=1)から放射率εを得、鍋温度検出電圧Vtをこれで除算した後、この値でテーブルデータを牽くあるいは近似式に代入して、鍋温度検出電圧Vtから温度Tを求め、これを検出鍋温度とする。本実施例の鍋温度補正は以上に基づいて行う。
図21に、各鍋において放射温度計を用いて計測した放射率と図3で反射率検出回路73を用いて得た反射率(図19の関係の近似式を適用)の関係を示す。鍋によってキルヒホフの法則からはずれるものもあるが、放射率と反射率の間には強い相関がある。キルヒホフの法則から外れるのは反射率の検出において、鍋表面での散乱により反射赤外線の全てを受光していないためである。反射率を求める際には、赤外線LED50の放射光がトッププレート2になるべく垂直に入射させ、鍋での反射光をなるべく垂直に赤外線フォトトランジスタ51に導くのが望ましい。本実施例では鍋温度検出装置18内のサーモパイル25のトッププレート2上位置での視野面とこの反射率検出発光のトッププレート2上での反射面は同一面である。このため、図3に示すように鍋温度検出装置18内にサーモパイル25と反射型フォトインタラプタ26を並べて配置している。
以下では、本実施例の動作について、手前右側の円表示4に調理鍋6を置き、所定温度で所定時間調理鍋を加熱して調理を行う場合として説明する。図22にこの動作のフローチャートを示す。図示していない電源を投入し、調理鍋6を置いた誘導加熱口の操作スイッチで所定の温度および調理時間を設定し(ステップS1)調理開始を指示すると(ステップS2)、マイクロコンピュータ60はまず反射率検出回路73を制御して載置された鍋の反射データ(反射率に相当)を取込み反射率を検出する(ステップS3)。同時に加熱コイル7およびインバータ回路8等を冷却するため、図示しないファンを駆動してコイル上面冷却風路15a,コイル下面冷却風送出孔15bに外気を導入する。
反射率を検出するステップS3を図23に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。マイクロコンピュータ60は反射率検出回路73の端子73−2にポートから図16(a)の赤外線LED駆動信号を出力する(ステップS31)。所定時間例えば200ms出力した後(ステップS3−2)、端子73−8に出力される電圧V2をAD端子より読み込む(ステップS3−3)。そして赤外線LED駆動信号を停止する(ステップS3−4)。次に予め記憶されている鍋が置かれていない時の電圧V1を先に読み込んだ電圧V2から引き反射電圧Vrを算出する(ステップS3−5)。そして予め記憶されている反射電圧と反射率の関係から反射率ρを得る(ステップS3−6)。
ステップS3に続いて、電力制御回路62,周波数制御回路61,インバータ回路8を制御して加熱コイル7に電力を供給し誘導加熱を開始する(ステップS4)。加熱コイル7に電力が供給されると、加熱コイル7から誘導磁界が発せられ、トッププレート2上の調理鍋6が誘導加熱される。この誘導加熱によって調理鍋6の温度が上昇し、調理鍋6内の被加熱物の調理が開始される。マイクロコンピュータ60は誘導加熱を開始すると、一定時毎に鍋温度検出装置18の出力を読み込み、鍋温度を検出する(ステップS5)。
ここで、鍋温度検出動作(ステップS5)を詳細に説明する。図24に鍋温度検出のフローチャートを示す。マイクロコンピュータ60は鍋温度検出装置18(鍋温度検出回路72)の出力電圧Vを読み込み(ステップS5−1)、この値から0.5Vを引きこれを鍋温度検出電圧Vtとする(ステップS5−2)。そして、誘導加熱直前に検出した反射率から、放射率(=1−反射率)を得て(ステップS5−3)、この鍋温度検出電圧Vtを除算する(ステップS5−4)。除算後のVtを用い予め記憶してあるVtとTの関係であるデータテーブルを引いて(ステップS55)、温度Tに変換し鍋温度Tを出力する(ステップS5−6)。
なお、放射率を算出する過程(ステップS5−3)と鍋温度検出電圧Vtを放射率で除算する過程(ステップS5−4)の代わりに、予め倍率a=1/放射率(a=1/ε)の値(1以上の値になる)と反射率(あるいは反射電圧Vr)の関係をテーブルとして記憶し、反射率(あるいは反射電圧Vr)から前記テーブルで倍率aを得て、鍋温度検出電圧Vtに倍率を乗算したのち、VtとTの関係であるデータテーブルを引いて鍋温度Tを出力してもよい。こうすれば、マイクロコンピュータの処理時間を要する除算を使用しなくてすみ処理の高速化が図れる。
ステップS5で検出した温度が所定の温度に到達したら(ステップS6)、電力制御回路62を制御して加熱コイル7に供給する電流を所定量減少させる(ステップS7)。そして調理時間タイマーをスタートさせる(ステップS8)。一定時毎の鍋温度検出(ステップS9)を続けながら(ステップS10)、加熱コイル7に供給する電流を所定量増減させて(ステップS11,S12)、鍋温度を一定(Tc)に保つ。そして所定の調理時間が経過したら(ステップS13)、調理終了をブザーで使用者に報知して、加熱コイル7への電力投入を停止する(ステップS14)。こうして、調理鍋6の被調理物は設定された温度および時間で調理される。
以上の説明では反射率検出を誘導加熱直前に1度だけ行う例を示したがこれに限ることはない。通常の鍋では誘導加熱中(温度が高温になっても)反射率は変化しない。また、赤外線発光LEDでは長時間連続発光において寿命の問題がある。本説明ではこれらの点を考慮して1調理につき誘導加熱直前の1回の反射率検出に限定した。当然、発光電流を低減して調理中に一定周期で反射率検出を行っても良い。特に薄手の鍋では高温による鍋底変形で反射率が変化することもある。さらに色塗装を底面に施した鍋では、高温で塗装が変性し反射率が変化することもある。この場合には加熱中でも定期的に反射率検出を行うのが望ましい。この場合当然磁場の影響を避けるために、実施例のように非磁性金属体で反射型フォトインタラプタ26および反射率検出回路73を囲うのが望ましい。
また、調理中に鍋を別の鍋に交換する場合もある。この時反射率は当然変化する。この場合には今ある鍋を退かした時点で鍋温度検出装置18の検出する電圧が急激に低下する。そして別温度の鍋を置いた時点で鍋温度検出装置18の検出する電圧はこの鍋底面温度に対応する値に復帰する。この変化を捉え再度反射率の検出するのが望ましい。