以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
(第1実施形態)
本実施形態では、光フィルター(複数の波長可変バンドパスフィルターを備える)を含む光機器(ここでは分光測定器とする)を例にとって、光フィルターの構成例や動作例について説明する。なお、分光測定器の例としては、例えば、測色器、分光分析器、分光スペクトラムアナライザー等があげられる。
(分光測定器の全体構成例と光フィルターの構成例)
図1(A)および図1(B)は、分光測定器の全体構成例と光フィルターの構成例を示す図である。例えば、サンプル200の測色を行う場合には光源100が用いられ、また、サンプル200の分光分析を行う場合には、光源100’が用いられる。
図1(A)に示されるように、分光測定器は、光源100(あるいは100’)と、複数の波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(1)〜可変BPF(4))を備える光フィルター(分光部)300と、フォトダイオード等の受光素子PD(1)〜PD(4)を含む受光部400と、受光部400から得られる受光信号(光量データ)に基づいて、所与の信号処理を実行して分光光度分布等を求める信号処理部600と、可変BPF(1)〜可変BPF(4)の各々を駆動する駆動部301と、可変BPF(1)〜可変BPF(4)の各々の分光帯域を可変に制御する制御部303と、を有する。信号処理部600は、信号処理回路501を有し、必要に応じて、補正演算部500を設けることも可能である。分光光度分布の測定によって、例えば、サンプル200の測色や、サンプル200の成分分析等を行うことができる。
なお、光フィルター300および受光部400によって、光フィルターモジュール350が構成される。光フィルターモジュール350は、分光測定器に適用できる他、例えば、光通信装置の受信部(受光光学系と受光素子を含む)としても使用可能である(この例については、図15を用いて後述する)。本実施形態における光フィルターモジュール350は、透過光の波長範囲を広くとることができ、小型軽量で、かつ使い勝手がよいという利点がある。
また、信号処理部600は、上記のとおり、受光部400から得られる受光信号(光量データ)を補正する補正演算部500を含むことができる。例えば、受光部400から得られる信号に関して、ノイズを除去するための補正を実行すると、分光測定の精度を向上させることができる。なお、ノイズは、例えば、可変BPF(1)〜(4)の各々の透過率の半値幅が広いことに起因して、各フィルターに対応する受光信号に重畳される不要な帯域の受光成分である。
また、光源100(100’)としては、例えば、白熱電球、蛍光灯、放電管、LED等の固体発光素子を用いた光源(固体発光素子光源)等を使用することができる。
図1(B)に示すように、光フィルター300は、実質的に、波長400nm〜700nmの広範囲にわたる波長帯域(すなわち所望帯域)をカバーする、複数の分光帯域を設定可能なバンドパスフィルターである。すなわち、光フィルター300は、第1波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(1))と、第2波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(2))と、第3波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(3))と、第4波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(4))と、を有する。
第1波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(1))は、波長400nm〜460nmの波長帯域(第1波長帯域)の光を分光し、かつ、帯域幅が20nmに設定されている4つの分光帯域(透過波長帯域)b1〜b4を有する。b1〜b4の各々の帯域の中心波長は、400nm,420nm,440nmおよび460nmである。第2波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(2))は、480nm〜540nmの波長帯域(第2波長帯域)を分光し、帯域幅が20nmに設定されている4つの分光帯域(透過波長帯域)b5〜b8を有する。b5〜b8の各々の帯域の中心波長は、480nm,500nm,520nmおよび540nmである。第3波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(3))は、波長560nm〜620nmの波長帯域(第3波長帯域)を分光し、帯域幅が20nmに設定されている4つの分光帯域(透過波長帯域)b9〜b12を有する。b9〜b12の各々の帯域の中心波長は、560nm,580nm,600nmおよび620nmである。第4波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(4))は、640nm〜700nmの波長帯域(第4波長帯域)を分光し、帯域幅が20nmに設定されている4つの分光帯域(透過波長帯域)b13〜b16を有する。b13〜b16の各々の帯域の中心波長は、640nm,660nm,680nmおよび700nmである。なお、図1(B)において、p1〜p16の各々は、光フィルター300が分光測定器に使用される場合における測定ポイントを示している(すなわち、16個の測定ポイントが設定されていることになる)。
図1(A)および図1(B)に示される本実施形態における光フィルター300は、所望波長帯域(カバーすべき波長帯域)を一つの波長可変フィルターでカバーするのではなく、複数の(つまり2以上の)波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(1)〜可変BPF(4))を用いてカバーするという構成を採る。
すなわち、2以上の波長可変バンドパスフィルター(第1波長可変バンドパスフィルターである可変BPF(1)ならびに第2波長可変バンドパスフィルターである可変BPF(2))が少なくとも設けられる。
波長可変バンドパスフィルターは、一つの光学フィルターで、実質的に複数の分光帯域を実現することができ、簡易な構成で広い波長域をカバーでき、使い勝手がよいという特性を有する。本実施形態では、この波長可変バンドパスフィルターを複数個使用し、各フィルターに、分光する帯域を割り当てることによって、より広い範囲の波長域を効率的にカバー可能な、簡素化された構成をもつ光フィルターが実現される。これによって、例えば、個々の波長可変バンドパスフィルターの可動部の可動範囲を抑制して、アクチュエーターの駆動電圧の上昇を抑制することができる。また、例えば、各波長可変バンドパスフィルターに使用される光学膜(例えば、屈折率の異なる膜を積層した構造をもち、光の反射特性と透過特性とを併せ持つ光学膜)の構造または構成(厚み等を含む)を簡素化することができる。よって、光フィルターの設計上の負荷(設計負荷)ならびに製造上の負荷(プロセス負荷)を低減することができる。
(可変ギャップエタロンフィルターについて)
図1(A)および図1(B)に示される波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(1)〜可変BPF(4))の各々は、例えば、可変ギャップエタロンフィルター(単に、可変ギャップエタロンという場合がある)によって構成することができる。可変ギャップエタロンのギャップ値を制御することによって、一つの光学フィルターを用いて、実質的に複数の(つまり2以上の)分光帯域を実現することが可能である。
例えば、図1(B)の例では、第1波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(1))は、ギャップ値を4段階にわたって変化させることができる可変ギャップエタロンを用いて構成することができる。したがって、第1波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(1))は、実質的に、分光帯域として、第1波長帯域(400nm〜460nm)内の第1波長400nmを中心波長とする第1分光帯域b1と、第1波長帯域(400nm〜460nm)内の第2波長を中心波長とする第2分光帯域b2と、を少なくとも有している。第2波長は、第1波長とは異なり、かつ、波長軸上で、第1波長から少なくとも第1分光帯域の帯域幅(つまり20nm)以上離れている波長であり、ここでは420nmである。さらに、中心波長が第3波長(440nm)である20nmの帯域幅をもつ第3分光帯域b3,中心波長が第4波長(460nm)である20nmの帯域幅をもつ第4分光帯域b4を有している。
同様に、第2波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(2))は、ギャップ値を4段階にわたって変化させることができる可変ギャップエタロンを用いて構成することができる。したがって、第2波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(2))は、実質的に、分光帯域として、第2波長帯域(480nm〜540nm)内の第5波長を中心波長とする第5分光帯域b5と、第2波長帯域(480nm〜540nm)内の第6波長500nmを中心波長とする第6分光帯域b6を少なくとも有している。さらに、中心波長が第7波長(520nm)である20nmの帯域幅をもつ第7分光帯域b7,中心波長が第8波長(540nm)である20nmの帯域幅をもつ第8分光帯域b8を有している。
図2(A)〜図2(D)は、可変ギャップエタロンフィルターの原理と構造例を示す図である。図2(A)に示すように、可変ギャップエタロンフィルターは、互いに対向して配置される第1基板(例えば固定基板)20と、第2基板(例えば可動基板)30と、第1基板20の主面(表面)に設けられる第1光学膜40と、第2基板30の主面(表面)に設けられる第2光学膜50と、各基板によって挟持された、各基板間のギャップ(距離)を調整するためのアクチュエーター(例えば静電アクチュエーターや圧電素子等)80a,80bと、を有する。
なお、第1基板20および第2基板30の少なくとも一方が可動基板であればよく、双方を可動基板とすることも可能である。アクチュエーター80aおよびアクチュエーター80bは各々、駆動部(駆動回路)301aおよび駆動部(駆動回路)301bの各々によって駆動される。また、各駆動部(駆動回路)301a,301bの動作は、制御部(制御回路)303によって制御される。
所定角度θで外部から入射する光Linは、ほとんど散乱されることなく第1光学膜40を通過する。第1基板20に設けられた第1光学膜40と第2基板30に設けられた第2光学膜50との間で、光の反射が繰り返され、これによって、光の干渉が生じ、特定の条件を満たす波長の光のみが強められ、その強められた波長の光の一部は、第2基板30上の第2光学膜50を通過して、受光部(受光素子)400に到達する。干渉によってどの波長の光が強め合うかは、第1基板20と第2基板30との間のギャップG1に依存する。よって、ギャップG1を可変に制御することによって、通過する光の波長帯域を変化させることができる。
図2(B)は、可変ギャップエタロンフィルターの断面構造の一例を示している。可変ギャップエタロンは、対向して平行に配置される第1基板20および第2基板30と、第1光学膜40および第2光学膜50と、を有する。ギャップ(光学膜間の距離)はG1に設定されている。
図2(C)は、第1基板20(例えばガラス基板)上に形成される第1光学膜40の構造例を示している。第1光学膜40は、一対(ワンペア)のシリコン酸化膜(SiO2膜(屈折率n=1.5))および酸化チタン膜(TiO2膜(屈折率n=2.5))を少なくとも有する積層膜である。第1光学膜40は、反射膜として機能し、また光透過膜としての機能を併せ持つ。なお、酸化チタン膜の上には、保護膜としての酸化膜が形成されている。この保護膜としての酸化膜の厚みを調整することによって、ギャップG1を微調整することも可能である。第2光学膜50も同様の構成とすることができる。
図2(D)は、積層する光学膜のペア数に依存して、バンドパスフィルターの光透過特性がどのように変化するかを示している(但し、一例である)。単層膜(ワンペアの膜)の場合は、例えば実線で示すようなバンドパスフィルター特性(透過率の半値幅w1)となり、多層膜(2ペア以上の膜)の場合は、例えば実線で示すようなバンドパスフィルター特性(透過率の半値幅w2(w2>w1))となる。このように、光学膜を構成するペア数を増加させることによって、バンドパスフィルターにおける透過率の半値幅(つまり光透過帯域の帯域幅)を広げることができる。
但し、例えば、図1(B)で示したような、400nm〜700nmの広い波長帯域を、一つのバンドパスフィルターでカバーしようとすると、光学膜の構造が複雑化し、設計上の負担やプロセス上の負担が増大する。これに対して、先に説明したように、本発明では複数の波長可変フィルターを採用し、各波長可変フィルターの各々に、分光する帯域を割り当てることによって、一つの波長可変フィルターの負担を軽減することができる。
つまり、可変ギャップエタロンは、構成が簡易で、小型化、低価格に適した波長可変フィルターであり、この可変ギャップエタロンフィルターを複数使用して、各フィルターの各々に異なる波長帯域を分光させることによって、例えば、簡素化された構成を備え、小型軽量で、広い波長範囲をカバー可能な使い勝手のよい光フィルターを、無理なく実現することができる。
複数の波長可変バンドパスフィルターの負担が軽減されていることから、それらの複数の波長可変バンドパスフィルターの各々に設けられる光学膜の構成材料を共通化することができる。よって、光フィルターの製造負荷の軽減(例えば、製造プロセスの簡素化)を図ることができる。
以下、可変ギャップエタロンの具体的な構造例について説明する。図3(A)および図3(B)は、可変ギャップエタロンの具体的な構造例と、その動作を説明するための図である。
図3(A)において、第1基板20と例えば一体で、第2基板30を可動に支持する支持部22が形成されている。支持部22は、第2基板30に設けてもよく、あるいは第1,第2基板20,30とは別体で形成してもよい。
第1,第2基板20,30は、それぞれ例えば、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラスなどの各種ガラスや、水晶などにより形成することができる。これらの中でも、各基板20,30の構成材料としては、例えばナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ金属を含有したガラスが好ましく、このようなガラスにより各基板20,30を形成することで、光学膜(反射膜)40,50や、各電極60,70の密着性や、基板同士の接合強度を向上させることが可能となる。そして、これらの2つの基板20,30は、例えばプラズマ重合膜を用いた表面活性化接合などにより接合されることで、一体化されている。第1,第2基板20,30の各々は、一辺が例えば10mmの正方形に形成され、ダイヤフラムとして機能する部分の最大直径は例えば5mmである。
第1基板20は、例えば、厚みが500μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。第1基板20は、第2基板30と対向する対向面のうちの中央の第1対向面20A1に、例えば円形の第1光学膜40が形成されている。同様に、第2基板30は、厚みが例えば200μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。第2基板30は、第1基板20と対向する対向面30Aの中央位置に、第1光学膜40と対向する例えば円形の第2光学膜50が形成されている。
なお、第1,第2光学膜40,50は、例えば直径が約3mmの円形状に形成されている。この第1,第2光学膜40,50は、例えば、透過率の半値幅も狭く分解能が良好な、例えばTiO2とSiO2との積層膜からなる誘電体多層膜を使用することができ、また、AgC層等によって構成することもできる。第1,第2光学膜40,50は、例えば、スパッタリングなどの手法により第1,第2基板20,30に形成することができる。光学膜の膜厚寸法は、例えば0.03μmに形成されている。本実施形態では、第1,第2光学膜40,50として、可視光全域を分光できる光学膜を用いる。
さらに、第1,第2基板20,30の各対向面20A1,20A2,30Aとは逆側の面にて、第1,第2光学膜40,50に対応する位置に図示しない反射防止膜(AR)を形成することができる。この反射防止膜は、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成され、第1,第2基板20,30の界面での可視光の反射率を低下させ、透過率を増大させる。
これら第1,第2光学膜40,50は、図3(A)に示す電圧非印加状態にて第1ギャップG1を介して対向配置されている。なお、ここでは第1光学膜40を固定鏡とし、第2光学膜50を可動鏡とするが、上述した第1,第2基板20,30の態様に応じて、第1,第2光学膜40,50のいずれか一方又は双方を可動とすることができる。
平面視で第1光学膜40の周囲の位置であって、第1基板20の第1対向面20A1の周囲の第2対向面20A2には、例えば下部電極(第1電極)60が形成されている。なお、以下の説明において、平面視とは各基板の基板厚み方向から基板平面を見た場合をいう。同様に、第2基板30の対向面30Aには、下部電極60と対向して上部電極(第2電極)70が設けられている。下部電極(第1電極)60と上部電極(第2電極)70は、第2ギャップG2を介して、対向配置されている。なお、下部電極60および上部電極70の表面は、絶縁膜にて被覆することができる。
本実施形態では、第1基板20が第2基板30と対向する面は、第1光学膜40が形成される第1対向面20A1と、平面視で第1対向面20A1の周囲に配置されて、下部電極60が形成される第2対向面20A2とを有する。第1対向面20A1と第2対向面20A2とは同一面であってもよいが、本実施形態では第1対向面20A1と第2対向面20A2との間には段差があり、第1対向面20A1の方が第2対向面20A2よりも第2基板30に近い位置に設定している。これにより、第1ギャップG1<第2ギャップG2の関係が成立する。
また、光フィルター300では、平面視で第2光学膜50の周囲に配置された上部電極70に共通電圧(例えば接地電圧)を印加し、平面視で第1光学膜40の周囲に配置された下部電極60に電圧を印加することによって、図3(B)に示すように、対向電極間に矢印で示す静電力(個々では静電引力)F1を生じさせることができる。すなわち、下部電極60および上部電極70によって静電アクチュエーター80が構成される。この静電引力F1によって、第1,第2光学膜40,50間の第1ギャップG1を初期ギャップの大きさよりも小さいギャップとなるように可変に制御することができる。光学膜間のギャップの大きさによって透過光の波長が決まる。よって、ギャップを変化させることで透過波長を選択することが可能となる。
図3(B)に示すように、入射光は、例えば第2基板30の上方から入射する。可変ギャップエタロンのギャップ値によって決まる波長帯域(分光帯域)の光のみが第1基板20を通過して出力光となる。その出力光は、受光部400によって受光され、受光強度に応じた電気信号(受光信号)が得られる。
図3(A)および図3(B)に示す例では、可動基板である第2基板30の撓み性を確保するために、図1に示すように、上部電極(第2電極)70が形成される領域を例えば厚み寸法が50μm程度の薄肉部34としている。この薄肉部34は、第2光学膜50が配置される領域の厚肉部32、および支持部22と接触する領域の厚肉部36よりも肉薄に形成されている。換言すれば、第2基板30は、第2光学膜50及び上部電極70が形成される面30Aは平坦面であり、第2光学膜50が配置される第1領域に厚肉部32が形成され、上部電極70が形成される第2領域に薄肉部34が形成される。こうして、薄肉部34にて撓み性を確保しながら、厚肉部32を撓み難くすることで、第2光学膜50は平面度を保ってギャップを可変することが可能となる。
図4(A)〜図4(C)は、可変ギャップエタロンフィルターにおける、電極および光学膜の配置を説明するための図である。図4(A)は可変ギャップエタロンフィルターの断面図であり(参照符号は前掲の図面と同じである)、図4(B)は、上部電極(第2電極)70および第2光学膜50の平面視における配置を示す図であり、図4(C)は、下部電極(第1電極)60および第1光学膜40の平面視における配置を示す図である。
図4(A)〜図4(C)に明記されるように、第1基板20の中央部に第1光学膜40が設けられ、第2基板30の中央部において、第1光学膜40に対向するように第2光学膜50が設けられている。また、第1電極(第1駆動電極)40は、第1基板20に設けられ、平面視において、第1光学膜40の周囲に(具体的には、第1光学膜40を取り囲むように)形成されており、第2電極(第2駆動電極)50は、第2基板30に設けられ、平面視において、第2光学膜50の周囲に(具体的には、第2光学膜50を取り囲むように)形成されている。なお、図4(A)および図4(B)において、参照符号70Aおよび60Aは各々、引き出し電極を示す。
このような構造をもつ光フィルター300は、光学膜(第1光学膜40および第2光学膜50)が形成される領域と、電極(下部電極60および上部電極70)が形成される領域とは、平面視で異なる領域となり(図4(B)および図4(C)参照)、よって、特許文献1に記載される例のように光学膜と電極とが積層されることはない。よって、第1,第2基板20,30の少なくとも一方(本実施形態では第2基板30)が可動基板とされても、光学膜と電極が積層されないために可動基板は撓み易さを確保できる。しかも、特許文献1に記載される光フィルターとは異なり、下部電極60および上部電極70上には光学膜が形成されないので、透過型または反射型波長可変干渉フィルターとして光フィルター300を利用しても、下部、上部電極60,70を、透明電極とする制約も生じない。なお、下部、上部電極60,70を仮に透明電極としたとしても、透過特性には影響が及ぶ。これに対して、図4の例では、下部電極60および上部電極70上には光学膜が形成されず、電極部分は光が通過しない領域となる。よって、透過型波長可変干渉フィルターである光フィルター300において、所望の透過特性を確保することが容易である。
図5は、静電アクチュエーターを用いたギャップ制御について説明するための図である。図5に示される駆動部(駆動回路)301には、DAC(D/A変換器)114と、デジタル制御部112と、が設けられる。DAC(D/A変換器)114は、基準電圧源120から供給される、値の異なる複数の基準電圧値の各々をアナログ電圧に変換する。そのアナログ電圧は、駆動電圧として、例えば、静電アクチュエーターを構成する上部電極(第2電極)70に印加される。一方、下部電極(第1電極)60の電位は固定されている(例えば接地されている)。上部電極(第2電極)70と下部電極(第1電極)60の間に電位差ΔVsegが生じると、これに伴って静電引力が発生し、可動基板である第2基板30が撓み、第1光学膜40と第2光学膜50との間のギャップが変化する(つまり、ギャップが縮小される)。
図6は、ギャップを4段階で変化させることが可能な(つまりギャップ可変数が4である)可変ギャップエタロンフィルターの透過特性の一例を示す図である。つまり、図6は、ギャップを4段階にわたって変化させた場合の、可変ギャップエタロンの分光帯域の変化を示している。可変ギャップエタロンフィルターを透過する光の波長λ(λ0〜λ3)とギャップG(G0〜G3)との関係は、図6に示されるように、ギャップGが狭くなるとフィルターの分光帯域の中心波長λが短くなるという関係にある(なお、可変ギャップエタロンにおいて、ギャップの屈折率をnとしたとき、ギャップが空気で満たされているのならばn=1である)。
図7は、合計で16段階のギャップ変化を可能とするための可変ギャップエタロンフィルターの構成の一例と、その駆動方法の一例を示す図である。図7において、4個の可変ギャップエタロンフィルター10A〜10Dが並置されている。ここでは、一例として光学膜の初期ギャップG1が各可変ギャップエタロンフィルター10A〜10Dで同じ場合について説明する。各可変ギャップエタロンフィルター10A〜10Dの各々は、4段階のギャップ変化が可能な、可変数4の波長可変バンドパスフィルターである。可変ギャップエタロンフィルター10A,10B,10C,10Dの順で、分光する波長帯域の波長が長くなる。
可変ギャップエタロンフィルター10A〜10Dの各々の初期ギャップは共にG1に設定されている。但し、各フィルター10A〜10Dの各々の、駆動開始直後の印加電圧(駆動電圧)のレベルは異なっている。つまり、各フィルター10A〜10Dの各々の駆動開始直後の印加電圧(駆動電圧)はVA,VB,VC,VDであり、VA>VB>VC>VDの関係にある。図7に示される構成をもつ光フィルター300を、例えば分光測定器に適用した場合、図1(B)に示したように、16ポイント(p1〜p16)の分光測定が可能である。
(分光分布を求める方法について)
次に、受光信号に基づいて、波長可変バンドパスフィルターに入射する光の分光特性を求める方法について説明する。図8(A)〜図8(D)は、波長可変バンドパスフィルターに入射する光の分光特性を求める方法を説明するための図である。
ここでは、図8(A)において、太い破線で示されるような分光強度分布をもつ光(例えば、赤色の光)が、波長可変バンドパスフィルター(可変ギャップエタロンフィルター)に入射する場合を考える。可変ギャップエタロンフィルターは、ギャップを4段階にわたって変化させることによって、実質的に、図8(B)に示すような、4つの分光帯域を実現することが可能である。つまり、可変ギャップエタロンフィルターは、4つの分光帯域を有する、ギャップ可変数が4である波長可変バンドパスフィルターである。
図8(C)に示されるように、ギャップ値がG3であるとき、可変ギャップエタロンは、波長λ3を中心波長とした透過特性を有している。受光部(受光素子)400に到達する光量は、波長λ3を中心波長とした可変ギャップエタロンの透過特性と入射光の強度とによって決定される(具体的には、透過率と光強度との積によって決定される)。図8(D)に示されるように、ギャップ値がG2であるとき、可変ギャップエタロンは、波長λ2を中心波長とした透過特性を有している。
図9(A)〜図9(D)は、波長可変バンドパスフィルターに入射する光の分光特性を求める方法を説明するための図である。図9(A)に示されるように、ギャップ値がG1であるとき、可変ギャップエタロンは、波長λ1を中心波長とした透過特性を有している。図9(B)に示されるように、ギャップ値がG0であるとき、可変ギャップエタロンは、波長λ0を中心波長とした透過特性を有している。
受光部400からは、図9(C)に示されるような受光光量に応じた電流I3〜I0の各々が出力される。各フィルターの中心波長λと、電流の電流値との関係を求めることによって、図9(D)に示されるような分光特性を示す特性線を描くことができる。具体的には、図9(C)に示される測定データ(電流値)に基づいて、信号処理部600(図1参照)が補完演算(線形補完等)を実行することによって、入射光の分光分布が検出される。つまり、図9(D)に示されるグラフにおける電流値は、受光強度に置き換えることが可能であることから、入射した光の分光特性が検出されたことになる。
(第2実施形態)
前掲の実施形態では、隣接する第1波長帯域(400nm〜460nm)と第2波長帯域(480nm〜540nm)の各々の帯域幅は同じであった(図1(B)参照)。これに対して、本実施形態では、隣接する第1波長帯域と第2波長帯域の各々の帯域幅に差を設ける。すなわち、第2波長帯域は、第1波長帯域よりも長波長側の波長帯域であるとき、第2波長帯域の帯域幅は、第1波長帯域の帯域幅よりも広く設定される。これは、短波長側ほど、長い波長帯域を確保することがむずかしくなることを考慮したものである。
例えば、第1波長帯域を分光する第1波長可変バンドパスフィルターおよび第2波長帯域を分光する第2波長可変バンドパスフィルターの各々で使用する光学膜の材料(ならびに構成)を共通化したとき、共通の光学膜を用いて実現できるバンドパスフィルターの帯域幅は、短波長側ほど短くなる傾向がある。例えば、バンドパスフィルターの帯域幅を決定するパラメーターとして、そのバンドパスフィルターを透過する波長自体が含まれている場合には、波長が短いほど、そのパラメーターの値が小さくなり、結果的にバンドパスフィルターの帯域幅も短くなる。
例えば、分光測定器において、所定帯域幅の8つの分光帯域が必要である場合に、第1波長帯域に4つの分光帯域を割り当て、第2波長帯域に同じく4つの分光帯域を割り当てる場合を想定する。この場合、上述の事情から、短波長側の第1波長帯域が、第2波長帯域に比べて短くなり、したがって、第1波長帯域において、4つの分光帯域を割り当てる(つまり、4点の測定点を確保する)ことが難しくなる場合があり得る。この場合には、短波長側の波長帯域を分光する第1波長可変バンドパスフィルターに使用する光学膜に関して、別材料の使用(ならびに別構造の採用)といった対策が必要となる。この場合には、光学膜の製造上の負担が増加する。
そこで、本実施形態では、第1波長帯域と第2波長帯域とで帯域幅に差があることを許容し、長波長側の第2波長帯域の帯域幅を、短波長側の第1波長帯域の帯域幅よりも広く設定する。これによって、短波長側の第1波長帯域において、分光帯域の数を無理に確保する必要がなくなり、無理のない光フィルターの設計が可能となる。以下、具体的に説明する。
(波長帯域の帯域幅についての考察)
先に図2(C)を用いて説明したように、光学膜は、屈折率が異なる一対の膜(積層膜)を1単位(ワンペア)として構成することができる。上側に積層される膜は屈折率nHが大きく、下側に積層される膜は屈折率nLが小さい。
光学膜として、ワンペアの積層膜を使用する場合(上側膜1層、下側膜1層、合計で2層の場合)、分光帯域の短波長側のエッジ波長をλ
1とし、長波長側のエッジ波長をλ
2とする。このとき、λ1とλ2は各々、下記(1)式および(2)式のように表すことができる。
したがって、分光帯域の帯域幅Δλは、下記(4)式で表すことができる。
(4)式からわかるように、分光帯域の帯域幅は、中心波長λ
0に依存しており、中心波長(λ
0)が短くなるほど、分光帯域の帯域幅も短くなる。
ここで、一例として、4つの可変ギャップエタロンフィルターを用いて分光測定を実行する場合を考える。測定範囲を可視光領域の400nm〜700nmとして、入射光の分光分布を、20nm幅の帯域毎に求めるためには、16箇所の波長で測定する必要がある。各可変フィルターで4箇所ずつ測定すればよいが、短波長側のフィルターは(4)式より帯域が短いため、長波長側に比べて4箇所の測定が困難になりやすい。この対策として、短波長側の光学膜は別構造にする必要が生じる場合もあり得る。そこで、本実施形態では、長波長側のフィルターで短波長側よりも多くの測定箇所を設けるようにする。簡易に測定を実施することが可能となる。
すなわち、第1波長帯域内において、所定帯域幅(例えば20nmピッチ)の複数の分光帯域が設けられ、また、第1波長帯域よりも長波長側の第2波長帯域内において、所定帯域幅(例えば20nmピッチ)の複数の分光帯域が設けられ、第1波長帯域内に設けられる複数の分光帯域の数をmとし、第2波長帯域内において設けられる複数の分光帯域の数をnとした場合に、m<nが成立する。
つまり、本実施形態では、上記(4)式から、長波長側の第2波長帯域の帯域幅の方が長くなるため、これに合わせて、第1波長帯域と第2波長帯域の各々に割り当てる分光帯域の数を均等にせずに、短波長側の第1波長帯域では、その数を少なく設定するという設計手法が採用される。
例えば、7つの分光帯域(7つの測定ポイント)が必要である場合に、第1波長帯域には3個(m=3)の分光帯域(3個の測定ポイント)を設定し、第2波長帯域には4個(n=4)の分光帯域(4個の測定ポイント)を設定する。これによって、短波長側の波長帯域に関しても、共通の光学膜を用いた波長可変バンドパスフィルターによる分光が可能となり、光フィルター(複数の波長可変バンドパスフィルターを備える光フィルター装置)の全体としての構成が複雑化しない。よって、製造上の負荷や設計上の負荷の増大が生じない。
また、従来は、広い波長帯域を1つの波長可変フィルターを使用してカバーしていたが、この従来例では、フィルターの可動部の可動範囲が大きくなるため、駆動電圧のダイナミックレンジが広くなり、駆動電圧のピーク値が高くなる。また、全波長帯域をカバーできる光学膜の設計が必要となり、光学膜の構造が複雑になる。本実施形態では、波長可変フィルターを複数個用い、各波長可変フィルターに異なる波長帯域を割り当てることによって、一つの波長可変フィルターの分光処理の負担を軽減することができる。つまり、波長可変フィルターを複数用いることにより、1つのフィルターの測定範囲が狭くなるため、アクチュエーターの可動範囲も狭くなり、よって、駆動電圧を低減でき(省電力効果)ならびに、1回の駆動電圧の変化量が小さくなることから、駆動電圧を大きく変化させる場合に比べて、駆動電圧の精度が向上するという効果を得ることができる。また、光学膜の設計も容易化される。よって、設計負荷ならびにプロセス負荷を低減することが可能となる。
(具体的な設計例)
図10(A)および図10(B)は、第2実施形態における波長可変フィルターの特性の具体的な設計例を示す図である。なお、ここでは、波長可変フィルターは、分光測定装置に使用されるものとする。
図10(A)に示すように、光フィルターは全体として、400nm〜700nmの所望帯域をカバーする。従来は、一つの波長可変フィルター(一つの波長可変バンドパスフィルター)で全帯域をカバーしていたが、図10(A)に示される例では、4個の波長可変フィルター(第1波長可変フィルター〜第4波長可変フィルター)を使用し、各フィルターに異なる波長帯域を割り当てる。
第1波長可変フィルターは、400nm〜440nmの第1波長帯域を分光し、第1波長帯域内で3点の測定ポイント(p1〜p3)が設定される。つまり、3つの分光帯域が設定される。また、第2波長可変フィルターは、460nm〜520nmの第2波長帯域を分光し、第2波長帯域内で、4点の測定ポイント(p4〜p7)が設定される。つまり、4つの分光帯域が設定される。また、第3波長可変フィルターは、540nm〜600nmの第3波長帯域を分光し、第3波長帯域内で、4点の測定ポイント(p8〜p11)が設定される。つまり、4つの分光帯域が設定される。また、第4波長可変フィルターは、620nm〜700nmの第4波長帯域を分光し、第3波長帯域内で、5点の測定ポイント(p12〜p16)が設定される。つまり、5つの分光帯域が設定される。
図10(B)には、複数の波長可変フィルターの各々の特性の設計例が示される。ここでは、2層の光学膜(ワンペアの光学膜)を各フィルターで共通に使用するものとし、かつ、上側の膜の屈折率nHが2.5,下側の膜の屈折率nLが1.5であり、設定される一つの分光帯域の幅を20nmとしてシミュレーションを行っている。
上述のとおり、最も波長が短い帯域を分光する第1波長可変フィルターに関して、広い帯域を確保することがむずかしくなるが、本例では、測定ポイント数を減らしているために、必要帯域を無理なく確保することができる。
つまり、第1波長可変フィルターに関して、中心波長λ0は420nmであり、必要帯域は400nm〜440nmである。上記(4)式において、帯域幅Δλは139nmになり、このとき、短波長側のエッジ波長λ1は362nmであり、長波長側のエッジ波長λ2は501nmである。λ1とλ2で定まる波長帯域(362nm〜501nm)は、上記の必要帯域(400nm〜440nm)を満足する。したがって、最も短い波長帯域を分光する第1波長可変フィルターにおいて、他のフィルターと共通の光学膜を用いたとしても、無理なく必要帯域をカバーすることができる。
他の波長可変フィルターに関しても、必要帯域を無理なく確保することができる。つまり、第2波長可変フィルターに関して、中心波長λ0は490nmであり、必要帯域は460nm〜520nmであり、帯域幅Δλは162nmとなり、このとき短波長側のエッジ波長λ1は422nmであり、長波長側のエッジ波長λ2は584nmであり、λ1とλ2で定まる波長帯域(422nm〜584nm)は、必要帯域(460nm〜520nm)を満足する。
また、第3波長可変フィルターに関して、中心波長λ0は570nmであり、必要帯域は540nm〜600nmであり、帯域幅Δλは188nmとなり、このとき、短波長側のエッジ波長λ1は491nmであり、長波長側のエッジ波長λ2は679nmであり、λ1とλ2で定まる波長帯域(491nm〜679nm)は、必要帯域(540nm〜600nm)を満足する。
また、第4波長可変フィルターに関して、中心波長λ0は660nmであり、必要帯域は620nm〜700nmであり、帯域幅Δλは218nmになり、このとき、短波長側のエッジ波長λ1は569nmであり、長波長側のエッジ波長λ2は787nmであり、λ1とλ2で定まる波長帯域(569nm〜787nm)は、必要帯域(620nm〜700nm)を満足する。
(波長可変エタロンを3個以上使用する場合における帯域幅についての考察)
図11は、波長可変エタロンを3個以上使用する場合における、各フィルターが分光する帯域幅についての考察を説明するための図である。図11において、Wは、所望波長帯域であり、W1は、第1波長可変バンドパスフィルターが分光する第1波長帯域であり、W2は、第2波長可変バンドパスフィルターが分光する第2波長帯域であり、W3は、第3波長可変バンドパスフィルターが分光する第3波長帯域である。また、第1波長帯域〜第3波長帯域の各々の帯域幅は、W1L,W2L,w3Lである。
第1波長帯域W1において、2つの測定ポイント(p1,p2)が設定されている。第1波長帯域W1における測定ポイントの数(つまり、設定される分光帯域の数)をmとすると、図11に示される例ではm=2である。また、第2波長帯域W2において、3つの測定ポイント(p3,p4,p5)が設定されている。第2波長帯域W2における測定ポイントの数(つまり、設定される分光帯域の数)をnとすると、図11に示される例ではn=3である。また、第3波長帯域W3において、4つの測定ポイント(p6,p7,p8,p9)が設定されている。第2波長帯域W2における測定ポイントの数(つまり、設定される分光帯域の数)をsとすると、図11に示される例ではs=4である。
つまり、図11に示される例では、m<n<sであり、隣接する波長帯域における分光帯域の数の差は1である(n=m+1,s=m+1)。但し、これに限定されるものではなく、例えば、図10(A)に示した例のように、隣接する波長帯域における分光帯域の数が等しい場合もあり得る(m=nあるいはn=s)。
したがって、上記の例を総合的に考察すると、m,n,sとの関係に関して、以下の制約が導き出される。ここでm,n,sは、前提として2以上の自然数である。つまり、「第1波長帯域w1内において設けられる複数の分光帯域の数をmとし、第2波長帯域w2において設けられる複数の分光帯域の数をnとし、第3波長帯域w3内において設けられる複数の分光帯域の数をsとした場合に、m<n≦sまたはm≦n<sが成立し、かつ、m<nであるとき、n=m+1であり、また、n<sであるとき、s=n+1である」ということができる。
m,n,sに関して、このような制約を設けると、分光帯域を長くするのがむずかしい短波長域で、帯域幅を短くし、長波長域で帯域幅を長くするという原則を基本としつつ、隣接する波長帯域を分光する2つの波長可変バンドパスフィルター間の、分光帯域数の差を0または1とすることができる(分光帯域数のばらつきを大きくしない効果がある)。よって無理のない設計が可能である。例えば、設定される分光帯域の数に大きな差があると、各波長可変バンドパスフィルターのトータルの分光処理時間に大きなバラツキが生じるが、隣接する波長帯域間で、分光帯域数の差が0または1になっていれば、各波長可変バンドパスフィルターのトータルの分光処理時間を、例えば、略均一にすることが容易となる。
(第3実施形態)
本実施形態では、各波長可変バンドパスフィルターにおける、一つの分光帯域あたりの保持期間に着目する。例えば、第1波長可変バンドパスフィルターの分光帯域がm回変化する場合における一つの分光帯域あたりの保持期間をΔtmとし、第2波長可変バンドパスフィルターの分光帯域がn回(n>m)変化する場合における一つの分光帯域あたりの保持期間をΔtnとした場合に、Δtm>Δtnに設定する。
ここで、例えば、第1波長可変バンドパスフィルターおよび第2波長可変バンドパスフィルターとして、可変ギャップエタロンフィルターを使用する。また、各波長可変バンドパスフィルターにおける可動基板のトータルの移動量(トータルのギャップ変化量)は通常、各帯域のフィルターで異なるが、一例としてトータルのギャップ変化量が同じである場合を想定する。例えば、可動基板のトータルのギャップ変化量をGとしたとき、第1波長可変バンドパスフィルターに関しては、分光帯域を1回変化させる毎に、ギャップ値は(G/m)だけ変化することになり、第2波長可変バンドパスフィルターに関しては、分光帯域を1回変化させる毎に、ギャップ値は(G/n)だけ変化することになる。m<nであるため、(G/m)>(G/n)である。つまり、各バンドパスフィルターの1回あたりのギャップ変化量を比較すると、第1波長可変バンドパスフィルターの1回あたりのギャップ変化量(G/m)の方が大きい。よって、アクチュエーターに供給される駆動電圧の、1回あたりの変化量(ステップ的な電圧変化量)は、第1波長可変バンドパスフィルターの方が大きいことになる。駆動電圧の変化量が大きいと、その駆動電圧が安定するまでのセトリングタイム(安定化時間)が長くなる。
この点に着目し、本態様では、第1波長可変バンドパスフィルターにおける一つの分光帯域あたりの保持期間をΔtmとし、第2波長可変バンドパスフィルターにおける一つの分光帯域あたりの保持期間をΔtnとした場合に、Δtm>Δtnに設定する。つまり、第1波長可変バンドパスフィルターの駆動電圧の1回あたりの変化量が大きいことから、セトリングタイムを長くとって、1回の分光帯域の保持期間Δtmを、Δtnに比べて長く設定するものである。これによって、第1波長可変バンドパスフィルターの駆動に関しては、駆動電圧のセトリング期間を確保することができ、第2波長可変バンドパスフィルターの駆動に関しては、無駄に長い保持期間を設けることがなくなる。よって、無理のない、かつ効率的な分光処理が実現される。
また、本実施形態では、各波長可変バンドパスフィルターが分光処理を開始してから分光処理を終了するまでの時間を略均一化することも可能である。つまり、制御部303(図1参照)が、m・Δtmと、n・Δtnとが同じになるように、ΔtmおよびΔtnを設定することによって、各フィルターのトータルの処理時間を略同じにすることも可能である。すなわち、Δtm>Δtn,かつm<nであるときに、ΔtmおよびΔtnの長さを調整すれば、m・Δtmと、n・Δtnとを略同じにすることができる。各波長可変バンドパスフィルターの、トータルの分光処理時間が均一化されることによって、例えば分光測定器における信号処理が容易化される。例えば各信号の処理タイミングを合わせやすくなる。このことは、分光測定器等の光機器における信号処理の効率化に貢献する。以下、具体的に説明する。
図12(A)〜図12(C)は、複数の可変波長バンドパスフィルターの駆動方法の一例を示す図である。まず、図12(A)および図12(B)を参照する。図12(A)は、第1波長可変バンドパスフィルターの駆動電圧波形例を示し、図12(B)は、第2波長可変バンドパスフィルターの駆動電圧波形例を示す。
図12(A)において、時刻t1に、第1波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(1))を用いた測定が開始され、時刻t2において、エタロンのギャップが更新され、時刻t3において、測定が終了する。合計で、2回の分光測定(測定1aおよび測定2a)が実行される。測定開始から測定終了までの時間をTとし、1回の測定時間(一つのギャップの保持期間)をΔtmとする。また、時刻t1における駆動電圧のレベルはVA0であり、時刻t2における駆動電圧のレベルはVA1であり、時刻t3における駆動電圧のレベルはVA2である。VA1とVA0との差(およびVA2とVA1との差)は、ΔVxである。また、時刻t1〜時刻t3における、ギャップのトータルの変化量をGとする。
また、図12(B)において、時刻t1に、第2波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(2))を用いた測定が開始され、時刻t4において、エタロンのギャップの1回目の更新がなされ、時刻t5において、エタロンのギャップの2回目の更新がなされ、時刻t3において、測定が終了する。合計で、3回の分光測定(測定1b,測定2bおよび測定3b)が実行される。測定開始から測定終了までの時間は、図12(A)の場合と同様にTであり、また、1回の測定時間(一つのギャップの保持期間)をΔtnとする。Δtn<Δtmである。また、時刻t1における駆動電圧のレベルはVB0であり、時刻t4における駆動電圧のレベルはVB1であり、時刻t5における駆動電圧のレベルはVB2であり、時刻t3における駆動電圧のレベルはVB3である。VB1とVB0との差(VB2とVB1との差、VB3とVB2との差)は、ΔVyである。ここで、ΔVy<ΔVxである。また、時刻t1〜時刻t3における、ギャップのトータルの変化量をGとする。
図12(A)および図12(B)のような駆動電圧波形とすれば、第1波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(1))の測定開始から測定終了までの時間と、第2波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(2))の測定開始から測定終了までの時間を同じ(共にT)とすることができる。
図12(C)は、さらに、第3波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(3))を追加して、3個のフィルターによって分光測定を行う場合の、1つのギャップ当たりの保持期間(測定時間)の例を示している。隣接する第1波長帯域W1と第2波長帯域W2、ならびに、隣接する第2波長帯域W2と第3波長帯域W3を考える。第1波長帯域W1の帯域幅はW1Lであり、第2波長帯域W2の帯域幅はW2Lであり、第3波長帯域W3の帯域幅はW3Lである。また、第1波長帯域W1における測定ポイント数(分光帯域数)はmであり、第2波長帯域W2おける測定ポイント数(分光帯域数)はnであり、第3波長帯域W3における測定ポイント数(分光帯域数)はsである。
可変ギャップエタロンの可動基板のトータルのギャップ変化量をGとしたとき、第1波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(1)に関しては、分光帯域を1回変化させる毎に、ギャップ値は(G/m)だけ変化することになり、第2波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(2))に関しては、分光帯域を1回変化させる毎に、ギャップ値は(G/n)だけ変化することになる。そして、第3波長可変バンドパスフィルター(可変BPF(3))に関しては、分光帯域を1回変化させる毎に、ギャップ値は(G/s)だけ変化することになる。ここで、(G/m)>(G/n)>(G/s)が成立する。
各フィルターの1回のギャップ更新当たりの駆動電圧の変化量をΔVx,ΔVy,ΔVzとすると、ΔVx>ΔVy>ΔVzである。各フィルターの1つのギャップの保持期間(1回の測定時間)をΔtm,Δtn,Δtsとすると、Δtm>Δtn>Δtsである。ここで、Δtm,Δtn,Δtsの長さを適宜、調整することによって、各フィルターのトータルの測定時間Tに関して、T≒m・Δtm≒n・Δtn≒s・Δtsとすることができる。
このように、3個以上のフィルターを使用する場合であっても、各フィルターの1回の測定時間を適宜、調整することによって、各フィルターの測定開始から測定終了までの時間を揃えることができる。よって、例えば分光測定器における信号処理において、信号の処理タイミングを合わせやすくなり、効率的な信号処理を行える。
(第4実施形態)
図13は、本発明に係る一実施形態の分析機器の一例である測色器の概略構成を示すブロック図である。図13において、測色器700は、光源装置202と、分光測定器203と、測色制御装置204と、を備えている。
この測色器700は、光源装置202から検査対象Aに向かって例えば白色光を射出し、検査対象Aで反射された光である検査対象光を分光測定器203に入射させる。そして、分光測定器203にて検査対象光を分光し、分光した各波長の光の光量を測定する分光特性測定を実施する。言い換えると、検査対象Aで反射された光である検査対象光を光フィルター(エタロン)10に入射させ、エタロン10から透過した透過光の光量を測定する分光特性測定を実施する。そして、測色制御装置204は、得られた分光特性に基づいて、検査対象Aの測色処理、すなわち、どの波長の色がどの程度含まれているかを分析する。
光源装置202は、光源210、複数のレンズ212(図1には1つのみ記載)を備え、検査対象Aに対して白色光を射出する。また、複数のレンズ212には、コリメーターレンズが含まれており、光源装置202は、光源210から射出された白色光をコリメーターレンズにより平行光とし、図示しない投射レンズから検査対象Aに向かって射出する。
分光測定器203は、図13に示すように、エタロン10と、受光素子を含む受光部220と、駆動回路230と、制御回路部240と、を備えている。また、分光測定器203は、エタロン10に対向する位置に、検査対象Aで反射された反射光(測定対象光)を、内部に導光する図示しない入射光学レンズを備えている。
受光部220は、複数の光電交換素子(受光素子)により構成されており、受光量に応じた電気信号を生成する。そして、受光部220は、制御回路部240に接続されており、生成した電気信号を受光信号として制御回路部240に出力する。なお、エタロン10と受光部(受光素子)220とでユニット化して、光フィルターモジュールを構成することができる。
駆動回路230は、エタロン10の下部電極60、上部電極70、および制御回路部240に接続される。駆動回路230は、制御回路部240から入力される駆動制御信号に基づいて、下部電極60および上部電極70間に駆動電圧を印加し、第2基板30を所定の変位位置まで移動させる。駆動電圧としては、下部電極60と上部電極70との間に所望の電位差が生じるように印加されればよく、例えば、下部電極60に所定の電圧を印加し、上部電極70をアース電位としてもよい。駆動電圧としては、直流電圧を用いるのが好ましい。
制御回路部240は、分光測定器203の全体動作を制御する。この制御回路部240は、図13に示すように、例えばCPU250、記憶部260などにより構成されている。そして、CPU250は、記憶部260に記憶された各種プログラム、各種データに基づいて、分光測定処理を実施する。記憶部260は、例えばメモリーやハードディスクなどの記録媒体を備えて構成され、各種プログラム、各種データなどを適宜読み出し可能に記憶する。
ここで、記憶部260には、プログラムとして、電圧調整部261、ギャップ測定部262、光量認識部263、および測定部264が記憶されている。なお、ギャップ測定部262は上述の通り省略しても良い。
また、記憶部260には、第1ギャップG1の間隔を調整するために静電アクチュエーター80,90に印加する電圧値、およびその電圧値を印加する時間を関連付けた図7に示す電圧テーブルデータ265が記憶されている。
測色制御装置204は、分光測定器203および光源装置202に接続されており、光源装置202の制御、分光測定器203により取得される分光特性に基づく測色処理を実施する。この測色制御装置204としては、例えば汎用パーソナルコンピューターや、携帯情報端末、その他、測色専用コンピューターなどを用いることができる。
そして、測色制御装置204は、図13に示すように、光源制御部272、分光特性取得部270、および測色処理部271などを備えて構成されている。光源制御部272は、光源装置202に接続されている。そして、光源制御部272は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光源装置202に所定の制御信号を出力し、光源装置202から所定の明るさの白色光を射出させる。分光特性取得部270は、分光測定器203に接続され、分光測定器203から入力される分光特性を取得する。
測色処理部271は、分光特性に基づいて、検査対象Aの色度を測定する測色処理を実施する。例えば、測色処理部271は、分光測定器203から得られた分光特性をグラフ化し、図示しないプリンターやディスプレイなどの出力装置に出力するなどの処理を実施する。
図14は、分光測定器203の分光測定動作の一例を示すフローチャートである。まず、制御回路部240のCPU250は、電圧調整部261、光量認識部263、および測定部264を起動させる。また、CPU250は、初期状態として、測定回変数nを初期化(n=0に設定)する(ステップS1)。なお、測定回変数nは、0以上の整数の値をとる。
この後、測定部264は、初期状態、すなわち、静電アクチュエーター80に電圧が印加されていない状態で、エタロン10を透過した光の光量を測定する(ステップS2)。なお、この初期状態における第1ギャップG1の大きさは、例えば分光測定器の製造時において予め測定し、記憶部260に記憶しておいてもよい。そして、ここで得られた初期状態の透過光の光量、および第1ギャップG1の大きさを測色制御装置204に出力する。
次に、電圧調整部261は、記憶部260に記憶されている電圧テーブルデータ265を読み込む(ステップS3)。また、電圧調整部261は、測定回変数nに「1」を加算する(ステップS4)。
この後、電圧調整部261は、電圧テーブルデータ265から、測定回変数nに対応する第1,第2電極62,64の電圧データ及び電圧印加期間データを取得する(ステップS5)。そして、電圧調整部261は、駆動回路230に駆動制御信号を出力し、電圧テーブルデータ265のデータに従って、静電アクチュエーター80を駆動する処理を実施する(ステップS6)。
また、測定部264は、印加時間経過タイミングで、分光測定処理を実施する(ステップS7)。すなわち、測定部264は、光量認識部263により透過光の光量を測定させる。また、測定部264は、測定された透過光の光量と、透過光の波長とを関連付けた分光測定結果を測色制御装置204に出力する制御をする。なお、光量の測定は、複数回または全ての回数の光量のデータを記憶部260に記憶させておき、複数回毎の光量のデータまたは全ての光量のデータの取得後に、まとめて、それぞれの光量を測定してもよい。
この後、CPU250は、測定回変数nが最大値Nに達したか否かを判断し(ステップS8)、測定回変数nがNであると判断すると、一連の分光測定動作を終了する。一方,ステップS8において、測定回変数nがN未満である場合、ステップS4に戻り、測定回変数nに「1」を加算する処理を実施し、以降、ステップS5〜ステップS8の処理を繰り返す。
(光機器の他の例)
図15は、本発明に係る一実施形態の光機器の他の例である波長多重通信システムの送信機の概略構成を示すブロック図である。波長多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)通信では、波長の異なる信号は干渉し合わないという特性を利用して、波長が異
なる複数の光信号を一本の光ファイバー内で多重的に使用すれば、光ファイバー回線を増設せずにデータの伝送量を向上させることができるようになる。
図15において、波長多重送信機800は、光源100からの光が入射される光フィルター300を有し、光フィルター300からは複数の波長λ0,λ1,λ2,…の光が透過される。波長毎に送信器311,312,313が設けられる。送信器311,312,313からの複数チャンネル分の光パルス信号は、波長多重装置321にて1つに合わせられて一本の光ファイバー伝送路331に送出される。
本発明は光符号分割多重(OCDM: Optical Code Division Multiplexing)送信機にも同様に適用できる。OCDMは、符号化された光パルス信号のパターンマッチングによってチャンネルを識別するが、光パルス信号を構成する光パルスは、異なる波長の光成分を含んでいるからである。
以上説明したように、本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、例えば、波長可変フィルターを複数用いることにより、1つのフィルターの測定範囲が狭くなったため、アクチュエーターの稼動範囲も狭くなり、よって、一つのフィルター当たりの駆動電圧を低減することができる。また、例えば、1回の駆動電圧の変化量が少なくなるため、駆動電圧をより正確に制御でき、この点で、駆動精度を向上することができる。また、例えば、各波長可変フィルターの帯域が狭くなるため、光学膜の構造が簡単化される。よって、使用可能な光学膜の種類の自由度が増える等のメリットがある。また、例えば、広い波長帯域をカバーする場合であっても、光学膜の材料(ならびに構造)を共通化することができる。よって、設計的、プロセス的にも負荷が軽減される。また、例えば、長波長側の波長帯域の帯域幅を長くすることによって、短波長側に必要な測定波長範囲(帯域)を短くできる。よって、短波長側において、必要な帯域を無理なく確保することができ、各波長帯の測定を容易に行えるようになる。また、例えば、短波長側の波長帯域において、測定ポイント数を減少させることによって、短波長側の波長帯域においても無理のない測定を行うことができる。
本発明は、光フィルター、光フィルターモジュール、分光測定器(測色センサーやガスセンサー等)および光機器(光通信装置等)などに用いて好適である。
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。