以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
図1〜5は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の構成の概略を示す図であり、図1は全体構成の概略を示し、図2〜4は回転電機10の構成の概略を示し、図5は変速機44の構成の概略を示す。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置は、動力(機械的動力)を発生可能な原動機として設けられたエンジン(内燃機関)36と、エンジン36と駆動軸37(車輪38)との間に設けられ、変速比の変更が可能な変速機(機械式変速機)44と、エンジン36と変速機44との間に設けられ、動力(機械的動力)の発生及び発電が可能な回転電機10と、を備える。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置については、例えば車両を駆動するための動力出力装置として用いることができる。
回転電機10は、図示しないステータケースに固定されたステータ16と、ステータ16に対し相対回転可能な第1ロータ28と、ロータ回転軸と直交する径方向においてステータ16及び第1ロータ28と所定の空隙を空けて対向し、ステータ16及び第1ロータ28に対し相対回転可能な第2ロータ18と、を有する。ステータ16は、第1ロータ28より径方向外側の位置に第1ロータ28と間隔を空けて配置されており、第2ロータ18は、径方向においてステータ16と第1ロータ28との間の位置に配置されている。つまり、第1ロータ28は第2ロータ18より径方向内側の位置で第2ロータ18と対向配置されており、ステータ16は第2ロータ18より径方向外側の位置で第2ロータ18と対向配置されている。第1ロータ28はエンジン36と機械的に連結されていることで、第1ロータ28にはエンジン36からの動力が伝達される。一方、第2ロータ18は変速機44を介して駆動軸37に機械的に連結されていることで、駆動軸37(車輪38)には第2ロータ18からの動力が変速機44で変速されてから伝達される。なお、以下の説明では、第1ロータ28を入力側ロータとし、第2ロータ18を出力側ロータとする。
入力側ロータ28は、ロータコア(第1回転子鉄心)52と、ロータコア52にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のロータ巻線30と、を含む。複数相のロータ巻線30に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ロータ巻線30は、ロータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
ステータ16は、ステータコア(固定子鉄心)51と、ステータコア51にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のステータ巻線20と、を含む。複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
出力側ロータ18は、ロータコア(第2回転子鉄心)53と、ロータコア53にその周方向に沿って配設され界磁束を発生する永久磁石32,33と、を含む。永久磁石32は、ロータコア53の外周部にステータ16(ステータコア51)と対向して配設されており、永久磁石33は、ロータコア53の内周部に入力側ロータ28(ロータコア52)と対向して配設されている。ここでは、永久磁石32,33を一体化することも可能である。
入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16のより詳細な構成例を図4に示す。図4に示す例では、入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16が同心円状に配置されている。ステータ16のステータコア51には、径方向内側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース51aがステータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ステータ巻線20がこれらのティース51aに巻回されていることで、磁極が構成される。入力側ロータ28のロータコア52には、径方向外側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース52aがロータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ロータ巻線30がこれらのティース52aに巻回されていることで、磁極が構成される。ステータ16のティース51aと出力側ロータ18の永久磁石32とが出力側ロータ18の回転中心軸(入力側ロータ28の回転中心軸と一致する)に直交する径方向に対向配置されており、入力側ロータ28のティース52aと出力側ロータ18の永久磁石33とがこの径方向に対向配置されている。ステータ巻線20の巻回軸及びロータ巻線30の巻回軸は、この径方向(入力側ロータ28と出力側ロータ18が対向する方向)に一致している。永久磁石32,33はロータ周方向に間隔をおいて配列されており、さらに、永久磁石32はロータコア53内にV字状に埋設されている。ただし、永久磁石32,33については、出力側ロータ18の表面(外周面または内周面)に露出していてもよいし、出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されていてもよい。
クラッチ48は、エンジン36と変速機44との間に、回転電機10(入力側ロータ28及び出力側ロータ18)に対し並列に設けられている。クラッチ48の係合/解放により、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合/その解除を選択的に行うことが可能である。クラッチ48を係合させて、入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に係合させることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18とが一体となって等しい回転速度で回転する。一方、クラッチ48を解放して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合を解除することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転速度差が許容される。ここでのクラッチ48は、例えば油圧や電磁力を利用して係合/解放を切り替えることが可能であり、さらに、クラッチ48に供給する油圧力や電磁力を調整することで締結力を調整することもできる。
変速機44の構成については、公知の常時噛合式のマニュアルトランスミッションと同様の構成を適用可能である。つまり、変速機44は、図5に示すように、出力側ロータ18と機械的に連結されていることで出力側ロータ18からの動力が伝達される入力軸61と、駆動軸37(車輪38)と機械的に連結されていることで車輪38へ動力を伝達する出力軸62と、それぞれ変速比(ギア比)が異なる複数(図5に示す例では4段)の変速ギア機構63−1〜63−4と、複数の変速ギア機構63−1〜63−4のうちのいずれか1つを介して入力軸61と出力軸62とを係合させ、且つ係合させる変速ギア機構を切り替えることが可能な係合機構64と、を有する有段変速機である。
変速ギア機構(1速ギア機構とする)63−1においては、互いに噛み合う入力側ギア63−1a及び出力側ギア63−1bの一方が入力軸61及び出力軸62の一方と係合しており、入力側ギア63−1a及び出力側ギア63−1bの他方が入力軸61及び出力軸62の他方に対し回転可能に支持されている。図5に示す例では、1速ギア機構63−1の入力側ギア63−1aが入力軸61と係合しており、1速ギア機構63−1の出力側ギア63−1bが出力軸62に対し回転可能に支持されている。同様に、kを2〜4のいずれかの整数とすると、変速ギア機構(k速ギア機構とする)63−kにおいても、互いに噛み合う入力側ギア63−ka及び出力側ギア63−kbの一方が入力軸61及び出力軸62の一方と係合しており、入力側ギア63−ka及び出力側ギア63−kbの他方が入力軸61及び出力軸62の他方に対し回転可能に支持されている。図5に示す例では、2速ギア機構63−2の入力側ギア63−2aが入力軸61と係合しており、2速ギア機構63−2の出力側ギア63−2bが出力軸62に対し回転可能に支持されている。そして、3速ギア機構63−3の入力側ギア63−3a及び4速ギア機構63−4の入力側ギア63−4aが入力軸61に対し回転可能に支持されており、3速ギア機構63−3の出力側ギア63−3b及び4速ギア機構63−4の出力側ギア63−4bが出力軸62と係合している。ここでの変速ギア機構63−1〜63−4は、いずれも車両を前進させる(車輪38を正転駆動する)ための前進用のギア機構であり、変速比(ギア比、入力側ギア回転速度/出力側ギア回転速度)の大きい順から並べると、「1速ギア機構63−1」→「2速ギア機構63−2」→「3速ギア機構63−3」→「4速ギア機構63−4」の順となる。
係合機構64においては、1速係合部材64−1が1速ギア機構63−1の出力側ギア63−1bと機械的に連結され、2速係合部材64−2が2速ギア機構63−2の出力側ギア63−2bと機械的に連結され、出力側係合部材64−5が1速係合部材64−1と2速係合部材64−2との間の位置で出力軸62と係合しており、出力側係合スリーブ64−6が出力軸62の軸線方向に沿って移動可能である。さらに、係合機構64においては、3速係合部材64−3が3速ギア機構63−3の入力側ギア63−3aと機械的に連結され、4速係合部材64−4が4速ギア機構63−4の入力側ギア63−4aと機械的に連結され、入力側係合部材64−7が3速係合部材64−3と4速係合部材64−4との間の位置で入力軸61と係合しており、入力側係合スリーブ64−8が入力軸61の軸線方向に沿って移動可能である。
有段変速機44においては、複数の変速段(図5に示す例では1速〜4速)のうちのいずれか1つを選択することが可能であり、且つ選択する変速段の切り替えが可能である。1速ギアまたは2速ギアを選択する場合は、係合機構64は、出力側係合部材64−5とm速係合部材64−m(mは1または2)を出力側係合スリーブ64−6を介して係合させて、m速ギア機構63−mの出力側ギア63−mbを出力軸62と係合させることで、m速ギア機構63−m(入力側ギア63−ma及び出力側ギア63−mb)を介して入力軸61と出力軸62とを係合させる。3速ギアまたは4速ギアを選択する場合は、係合機構64は、入力側係合部材64−7とm速係合部材64−m(mは3または4)を入力側係合スリーブ64−8を介して係合させて、m速ギア機構63−mの入力側ギア63−maを入力軸61と係合させることで、m速ギア機構63−mを介して入力軸61と出力軸62とを係合させる。m速ギアが選択されている場合は、入力軸61に伝達された出力側ロータ18からの動力は、m速ギア機構63−mで現変速段のm速ギアに応じた変速比で変速されて出力軸62から車輪38へ伝達される。そして、現変速段のm速ギアから次変速段のn速ギア(m,nは1〜4のいずれかの整数でm≠n)へ切り替える場合は、係合機構64は、現変速段に対応する係合状態のm速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放することで、m速ギア機構63−mを介した入力軸61と出力軸62との係合を解除して、次変速段に対応する解放状態のn速係合部材64−nと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を係合させることで、n速ギア機構63−nを介して入力軸61と出力軸62とを係合させる。これによって、入力軸61と出力軸62とを係合させる変速ギア機構をm速ギア機構63−mからn速ギア機構63−nに切り替えることができ、変速機44の変速段を現変速段から次変速段に変更する変速動作を行うことができる。
ここでの係合機構64については、1速ギアまたは2速ギアを選択するときに出力軸62と出力側ギア63−mb(mは1または2)との回転を同期させるためのシンクロメッシュ(同期噛合機構)と、3速ギアまたは4速ギアを選択するときに入力軸61と入力側ギア63−ma(mは3または4)との回転を同期させるためのシンクロメッシュとを含んで構成することもできる。また、出力軸62と出力側ギア63−mb(mは1または2)を係合させるためのドグクラッチ機構と、入力軸61と入力側ギア63−ma(mは3または4)を係合させるためのドグクラッチ機構とを含んで、係合機構64を構成することも可能である。このように、常時噛合式のマニュアルトランスミッションでは、変速ギア機構63−1〜63−4と係合機構64とを含んで、入力軸61と出力軸62との間の変速比を多段階(図5に示す例では4段階)に変化させることが可能な変速機構を構成することができる。
直流電源として設けられた充放電可能な蓄電装置42は、例えば二次電池により構成することができ、電気エネルギーを蓄える。蓄電装置42とステータ巻線20との間で電力変換を行う第1電力変換装置として設けられたインバータ40は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ステータ巻線20の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の電力変換も可能である。このように、インバータ40は、蓄電装置42とステータ巻線20との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。
スリップリング95は、入力側ロータ28と機械的に連結されており、さらに、ロータ巻線30の各相と電気的に接続されている。回転が固定されたブラシ96は、スリップリング95に押し付けられて電気的に接触する。スリップリング95は、ブラシ96に対し摺動しながら(ブラシ96との電気的接触を維持しながら)、入力側ロータ28とともに回転する。ブラシ96は、インバータ41と電気的に接続されている。蓄電装置42及びインバータ40のいずれかとロータ巻線30との間で電力変換を行う第2電力変換装置として設けられたインバータ41は、スイッチング素子と、スイッチング素子に対し逆並列接続されたダイオード(整流素子)とを備える公知の構成により実現可能であり、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ41は、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を直流に変換する方向の電力変換も可能である。その際には、ロータ巻線30の交流電力がスリップリング95及びブラシ96により取り出され、この取り出された交流電力がインバータ41で直流に変換される。インバータ41で直流に変換された電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、インバータ41からの直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、インバータ41で直流に変換された電力を蓄電装置42に回収することも可能である。このように、インバータ41は、蓄電装置42及びインバータ40のいずれかとロータ巻線30との間で双方向の電力変換を行うことが可能である。
電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング素子のスイッチング動作を制御してインバータ40での電力変換を制御することで、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子のスイッチング動作を制御してインバータ41での電力変換を制御することで、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、クラッチ48の係合/解放を切り替えることで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合/その解除を切り替える制御も行う。さらに、電子制御ユニット50は、エンジン36の運転状態の制御、及び変速機44の変速段を選択するための係合機構64の駆動制御も行う。本実施形態では、係合機構64の駆動制御による変速機44の変速段の選択が電子制御ユニット50により行われ、変速機44は自動マニュアル変速機(AMT)として機能する。
インバータ40のスイッチング動作により複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生する。そして、ステータ巻線20で発生した回転磁界と永久磁石32で発生した界磁束との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)により、出力側ロータ18にトルク(磁石トルク)を作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。つまり、蓄電装置42からインバータ40を介してステータ巻線20に供給された電力を出力側ロータ18の動力(機械的動力)に変換することができ、ステータ16及び出力側ロータ18を同期電動機(PMモータ部)として機能させることができる。さらに、出力側ロータ18の動力をステータ巻線20の電力に変換してインバータ40を介して蓄電装置42に回収することも可能である。このように、ステータ16のステータ巻線20と出力側ロータ18の永久磁石32とが電磁気的に結合されていることで、ステータ巻線20で発生する回転磁界を出力側ロータ18に作用させて、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)を作用させることができる。さらに、例えば図4に示すように、永久磁石32間に突極部として磁性体(強磁性体)がステータ16(ティース51a)と対向して配置されている例や、永久磁石32が出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されている例では、ステータ16の発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、磁石トルクに加えてリラクタンストルクもステータ16と出力側ロータ18との間に作用する。電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作により例えばステータ巻線20に流す交流電流の振幅や位相角を制御することで、ステータ16と出力側ロータ18との間に作用するトルクを制御することができる。
また、入力側ロータ28が出力側ロータ18に対し相対回転して入力側ロータ28(ロータ巻線30)と出力側ロータ18(永久磁石33)との間に回転差が生じるのに伴ってロータ巻線30に誘導起電力が発生し、この誘導起電力に起因してロータ巻線30に誘導電流(交流電流)が流れることで回転磁界が生じる。そして、ロータ巻線30の誘導電流により生じる回転磁界と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にトルクを作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。このように、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33とが電磁気的に結合されていることで、ロータ巻線30で発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)が作用する。そのため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で動力(機械的動力)を伝達することができ、入力側ロータ28及び出力側ロータ18を誘導電磁カップリング部として機能させることができる。
ロータ巻線30の誘導電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(電磁カップリングトルク)を発生させる際には、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。その際には、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング動作によりロータ巻線30に流れる交流電流を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用する電磁カップリングトルクを制御することができる。一方、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子をオフ状態に維持してスイッチング動作を停止させることで、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置の動作について説明する。
エンジン36が動力を発生している場合は、エンジン36の動力が入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28がエンジン回転方向に回転駆動する。クラッチ48が解放されている状態で、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より高くなると、ロータ巻線30に誘導起電力が発生する。電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。これによって、ロータ巻線30の誘導電流と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用により入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジン回転方向の電磁カップリングトルクが作用して出力側ロータ18がエンジン回転方向に回転駆動する。このように、入力側ロータ28に伝達されたエンジン36からの動力は、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33との電磁気結合によって、出力側ロータ18へ伝達される。出力側ロータ18に伝達された動力は、変速機44で変速されてから駆動軸37(車輪38)へ伝達されることで、車両の前進駆動等、負荷の正転駆動に用いられる。したがって、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動することができ、車両を前進方向に駆動することができる。さらに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転差を許容することができるため、車輪38の回転が停止してもエンジン36がストールすることはない。そのため、回転電機10を発進装置として機能させることができ、摩擦クラッチやトルクコンバータ等の発進装置を別に設ける必要がなくなる。
さらに、ロータ巻線30に発生した交流電力は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出される。取り出された交流電力はインバータ41で直流に変換される。そして、インバータ40のスイッチング動作により、インバータ41からの直流電力がインバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20に供給されることで、ステータ巻線20に交流電流が流れ、ステータ16に回転磁界が形成される。このステータ16の回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石32の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にエンジン回転方向のトルクを作用させることができる。これによって、出力側ロータ18のエンジン回転方向のトルクを増幅させるトルク増幅機能を実現することができる。また、インバータ41からの直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。
さらに、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動するとともに、ステータ巻線20への供給電力を用いて発生させた出力側ロータ18の動力により車輪38の正転方向の回転駆動をアシストすることができる。また、負荷の減速運転時には、電子制御ユニット50は、ステータ巻線20から蓄電装置42へ電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の動力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によってステータ巻線20の電力に変換して蓄電装置42に回収することができる。
また、クラッチ48を係合して入力側ロータ28と出力側ロータ18とを機械的に連結することで、ロータ巻線30に交流電流が流れず入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクが作用しなくても、エンジン36からの動力をクラッチ48を介して駆動軸37(車輪38)へ伝達することができる。これによって、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間のすべりに伴ってロータ巻線30に誘導電流が流れることで生じるジュール損失を抑えることが可能となる。
また、エンジン36の動力を用いずに回転電機10の動力を用いて負荷を駆動する(車輪38を回転駆動する)EV(Electric Vehicle)走行を行う場合は、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の駆動制御を行う。例えば、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からの直流電力を交流に変換してステータ巻線20へ供給するように、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によって出力側ロータ18の動力に変換し、駆動軸37(車輪38)を回転駆動する。このように、エンジン36が動力を発生していなくても、ステータ巻線20への電力供給により車輪38を回転駆動することができる。なお、EV走行を行う場合は、クラッチ48を解放状態に制御する。
また、車両を後退させる(車輪38を逆転方向に回転駆動する)リバース走行を行うときも、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、出力側ロータ18に発生させた動力を変速機44を介して車輪38へ伝達して、車輪38を逆転方向に回転駆動することが可能である。このように、EV走行によりリバース走行を行う場合は、変速機44では、後退用(リバース用)の変速ギア機構を省略することが可能となる。ただし、変速機44にリバース用の変速ギア機構を設け、エンジン36からの動力を変速機44(リバース用の変速ギア機構)を介して車輪38へ伝達することで、リバース走行を行うことも可能である。
また、エンジン36を始動する場合は、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からの直流電力をインバータ41で交流に変換してスリップリング95及びブラシ96を介してロータ巻線30へ供給するように、インバータ41のスイッチング動作を制御することで、ロータ巻線30の交流電流により出力側ロータ18から入力側ロータ28にエンジン回転方向のトルクを作用させる。これによって、蓄電装置42からロータ巻線30への供給電力を用いて入力側ロータ28をエンジン回転方向に回転させてエンジン36のクランキングを行う。エンジン36のクランキングの際には、入力側ロータ28の回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によりエンジン36に繋がる入力側ロータ28にトルクを作用させるが、出力側ロータ18もその反力トルクを受けることになる。そのため、EV走行時にエンジン36を始動する場合は、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給して出力側ロータ18にこの反力トルクを打ち消すトルクを作用させるようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力を用いて出力側ロータ18を回転駆動することができる。なお、エンジン36を始動する場合は、クラッチ48を解放状態に制御する。
エンジン36の動力を駆動軸37へ伝達する場合に、有段変速機44では、係合状態のm速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放し、解放状態のn速係合部材64−nと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を係合させることで、現変速段のm速ギアから次変速段のn速ギアに切り替える変速動作を行うことが可能となる(m,nは1〜4のいずれかの整数でm≠n)。変速動作の際には、m速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放してからn速係合部材64−nと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を係合させるまでの期間において、入力軸61(出力側ロータ18)の回転速度Nmgを現変速段(m速ギア)に応じた回転速度Nrefmから次変速段(n速ギア)に応じた回転速度Nrefnまで変化させる必要がある。アップシフト動作時(m<n)には、入力軸61の回転速度Nmgを減少させる必要があり、ダウンシフト動作時(m>n)には、入力軸61の回転速度Nmgを増加させる必要がある。ただし、m速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放してからn速係合部材64−nと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を係合させるまでの期間においては、変速機44での動力伝達が遮断されることで、エンジン36の動力が駆動軸37(車輪38)に伝達されなくなる。変速動作の際に車輪38に動力が伝達されなくなる期間(変速機44での動力伝達が遮断される期間)を短くするためには、入力軸61の回転速度Nmgを現変速段(m速ギア)に応じた回転速度Nrefmから次変速段(n速ギア)に応じた回転速度Nrefnまで速やかに変化させることが望ましい。
ここで、変速動作の際に車輪38に動力が伝達されなくなる期間を短くするために、m速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放してからn速係合部材64−nと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を係合させるまでの期間において、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16と出力側ロータ18との間にPMモータトルクTmgを作用させることで、入力軸61の回転速度Nmgをm速ギアに対応する回転速度Nrefmからn速ギアに対応する回転速度Nrefnまで変化させる場合を考える。現変速段から次変速段へのアップシフト動作において、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16から出力側ロータ18に減速方向(エンジン回転方向と逆方向)のPMモータトルクTmgを作用させたときに、入力軸61(出力側ロータ18)の回転速度Nmgの時間変化を計算した結果を図6に示す。計算の際には、変速機44の入力軸61側(出力側ロータ18も含む)の慣性モーメントを0.062kg・m2、現変速段に対応する入力軸61の回転速度Nrefmを5500rpm、次変速段に対応する入力軸61の回転速度Nrefnを3000rpmとし、インバータ40の容量(電力変換可能な最大電力)及び蓄電装置42の容量(充放電可能な最大電力)を5kW、7kW、10kW、15kWに変化させながら、入力軸61の回転速度Nmgの時間変化を計算している。図6に示すように、入力軸61の回転速度Nmgを現変速段に対応する回転速度Nrefm=5500rpmから次変速段に対応する回転速度Nrefn=3000rpmまで変化させるのに必要な所要時間は、インバータ40で電力変換可能な最大電力が増加するほど短くなり、5kWで1.46秒、7kWで1.04秒、10kWで0.72秒、15kWで0.48秒となる。ただし、PMモータトルクTmgを作用させることで入力軸61の回転速度Nmgを変化させる場合は、出力側ロータ18とステータ16との回転速度差Nmgの分、ステータ巻線20の電力量が大きくなり、インバータ40を介してステータ巻線20と蓄電装置42との間で電力変換される電力量Pmgも大きくなる。その結果、インバータ40の容量(電力変換可能な最大電力)、及び蓄電装置42の容量(充放電可能な最大電力)を大きくする必要がある。
そこで、本実施形態では、電子制御ユニット50は、有段変速機44の変速段を現変速段のm速ギアから次変速段のn速ギアに変更する場合に、現変速段に対応する係合状態のm速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放したら、ロータ巻線30に交流電流が流れるようにインバータ41での電力変換(スイッチング動作)を制御して入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に電磁カップリングトルクTcoupを作用させることで、入力軸61の回転速度Nmgが次変速段(n速ギア)に対応する目標入力軸回転速度Nrefnに近づくように出力側ロータ18及び入力軸61の回転速度Nmgを変化させる。より具体的には、少なくともm速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放してからn速係合部材64−nと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を係合させるまでの期間において、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28から出力側ロータ18に電磁カップリングトルクTcoupを作用させることで、入力軸61の回転速度Nmgをm速ギアに対応する回転速度Nrefmからn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnまで変化させる。その際に、n速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnは、n速ギア機構63−nの変速比及び駆動軸37の回転速度(車速)から決定される。
さらに、本実施形態では、電子制御ユニット50は、m速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放したら、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に電磁カップリングトルクTcoupを作用させるとともに、ステータ巻線20に交流電流が流れるようにインバータ40での電力変換(スイッチング動作)を制御してステータ16と出力側ロータ18との間にPMモータトルクTmgを作用させることによっても、入力軸61の回転速度Nmgがn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnに近づくように出力側ロータ18及び入力軸61の回転速度Nmgを変化させる。より具体的には、少なくともm速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放してからn速係合部材64−nと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を係合させるまでの期間において、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28から出力側ロータ18に電磁カップリングトルクTcoupを作用させるとともに、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16から出力側ロータ18にPMモータトルクTmgを作用させることによっても、入力軸61の回転速度Nmgをm速ギアに対応する回転速度Nrefmからn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnまで変化させる。その際に、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16から出力側ロータ18に作用するPMモータトルクTmgは、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用する電磁カップリングトルクTcoupと同方向になる。
m速ギアからn速ギアへのアップシフト動作(m<n)においては、m速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放したら、図7,8の矢印Bに示すように、ロータ巻線30に電力供給するようにインバータ41のスイッチング動作を制御して入力側ロータ28から出力側ロータ18に減速方向(エンジン回転方向と逆方向)の電磁カップリングトルクTcoupを作用させることで、入力軸61(出力側ロータ18)の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnへ減少させる。それとともに、図7,8の矢印Aに示すように、ステータ巻線20から電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を制御してステータ16から出力側ロータ18に減速方向(エンジン回転方向と逆方向)のPMモータトルクTmgを作用させることによっても、入力軸61の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnへ減少させる。その際に、図8の矢印A,Bに示すように、ステータ巻線20から回収された交流電力は、インバータ40で直流に変換され、さらに、インバータ41で直流から交流に変換されてブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30へ供給される。ロータ巻線30への供給電力Pcoupとステータ巻線20からの回収電力Pmgとの差は、蓄電装置42の電力Pbにより賄われる。
ただし、アップシフト動作において、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28から出力側ロータ18に減速方向の電磁カップリングトルクTcoupを作用させると、その反作用として、出力側ロータ18から入力側ロータ28に増速方向(エンジン回転方向)の電磁カップリングトルクTcoupが作用する。入力側ロータ28に作用する増速方向のトルクが大きくなりすぎると、エンジン36の回転が急激に吹け上がり、車両の運転者に違和感を与えることになる。そこで、アップシフト動作において、入力軸61の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnへ減少させるときは、エンジン36のトルクの発生を停止させるとともに、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用させる減速方向の電磁カップリングトルクTcoupを、エンジン36の回転が急激に吹け上がらないように、エンジン36の負荷損失トルクTl以下に制限することが好ましい。ここでのエンジン36の負荷損失トルクTlは、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に電磁カップリングトルクTcoupが作用していない状態でエンジン36の回転速度Nengを一定に保つために必要なエンジン36の発生トルクとして表される。例えばエンジン36のフリクショントルクからエンジン36の負荷損失トルクTlを設定することが可能であり、その場合は、エンジン36の負荷損失トルクTlをエンジン36の回転速度Nengに応じて変化させるように設定することも可能である。さらに、エンジン36のフリクショントルクだけでなく、ポンプや発電機等のエンジン補機の駆動トルクも考慮して、エンジン36の負荷損失トルクTlを設定することも可能である。
現変速段から次変速段へのアップシフト動作において、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28から出力側ロータ18に減速方向の電磁カップリングトルクTcoupを作用させるとともに、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16から出力側ロータ18に減速方向のPMモータトルクTmgを作用させたときに、入力軸61(出力側ロータ18)の回転速度Nmgの時間変化を計算した結果を図9に示す。計算の際には、有段変速機44の入力軸61側(出力側ロータ18も含む)の慣性モーメントを0.062kg・m2、エンジン36側(入力側ロータ28も含む)の慣性モーメントを0.1kg・m2、現変速段に対応する入力軸61の回転速度Nrefmを5500rpm、次変速段に対応する入力軸61の回転速度Nrefnを3000rpmとし、電磁カップリングトルクTcoupをエンジン36の負荷損失トルクTl=21Nm以下に制限し、インバータ40,41の容量(電力変換可能な最大電力)及び蓄電装置42の容量(充放電可能な最大電力)を5kW、7kW、10kW、15kWに変化させながら、入力軸61の回転速度Nmgの時間変化を計算している。図9に示すように、入力軸61の回転速度Nmgを現変速段に対応する回転速度Nrefm=5500rpmから次変速段に対応する回転速度Nrefn=3000rpmまで変化させるのに必要な所要時間は、インバータ40,41で電力変換可能な最大電力が増加するほど短くなり、5kWで0.50秒、7kWで0.44秒、10kWで0.37秒、15kWで0.30秒となる。入力側ロータ28及びステータ16の両方から出力側ロータ18に互いに同方向のトルクを作用させることで、ステータ16のみから出力側ロータ18にトルクを作用させる場合と比較して、同じインバータ容量(電力変換可能な最大電力)の条件で、出力側ロータ18(入力軸61)に作用させるトルクを増加させることができ、入力軸61の回転速度Nmgを現変速段に対応する回転速度Nrefmから次変速段に対応する回転速度Nrefnまで変化させるのに必要な所要時間を短くすることができる。
なお、変速動作の際には、入力側ロータ28(エンジン36)と出力側ロータ18との回転速度差Neng−Nmgは、出力側ロータ18とステータ16との回転速度差Nmgよりも十分小さい。そのため、ロータ巻線30の電力とステータ巻線20の電力が同じ条件で、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用する電磁カップリングトルクTcoupは、ステータ16から出力側ロータ18に作用するPMモータトルクTmgよりも十分大きくなる。したがって、ステータ16から出力側ロータ18にPMモータトルクTmgを作用させずに入力側ロータ28のみから出力側ロータ18に電磁カップリングトルクTcoupを作用させる場合であっても、ステータ16のみから出力側ロータ18にPMモータトルクTmgを作用させる場合と比較して、同じインバータ容量(電力変換可能な最大電力)の条件で、出力側ロータ18(入力軸61)に作用させるトルクを増加させることができ、入力軸61の回転速度Nmgを現変速段に対応する回転速度Nrefmから次変速段に対応する回転速度Nrefnまで変化させるのに必要な所要時間を短くすることができる。
現変速段のm速ギアから次変速段のn速ギアへのアップシフト動作(m<n)において、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用させる電磁カップリングトルクTcoup、ステータ16から出力側ロータ18に作用させるPMモータトルクTmg、及び入力軸61(出力側ロータ18)に作用するトルクTcoup+Tmg(いずれもエンジン回転方向を正とする)の時間変化の一例を図10Aに示し、エンジン36(入力側ロータ28)の回転速度Neng、及び入力軸61(出力側ロータ18)の回転速度Nmgの時間変化の一例を図10Bに示す。図10A,10Bに示す例では、時刻t0において、現変速段から次変速段への変速指令が出力されると、クラッチ48が解放されることで入力側ロータ28と出力側ロータ18との機械的係合が解除され、現変速段に対応する係合状態のm速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)が解放される。そして、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28から出力側ロータ18に減速方向の電磁カップリングトルクTcoupを作用させるとともに、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16から出力側ロータ18に減速方向のPMモータトルクTmgを作用させる。これによって、入力軸61の回転速度Nmgを現変速段に対応する回転速度Nrefm(5500rpm)から次変速段に対応する回転速度Nrefn(3000rpm)へ減少させる。図10A,10Bに示す例では、電磁カップリングトルクTcoupがエンジン36の負荷損失トルクTl(21Nm)に等しい条件でのロータ巻線30の電力量Pcoupが、インバータ41の容量(5kW)以下である場合は、エンジン36の回転速度Nengが一定(5500rpm)に保たれるように、エンジン36の負荷損失トルクTlに等しい電磁カップリングトルクTcoupを発生させ、電磁カップリングトルクTcoupがエンジン36の負荷損失トルクTlに等しい条件でのロータ巻線30の電力量Pcoupが、インバータ41の容量を超える場合は、ロータ巻線30の電力量Pcoupがインバータ41の容量に制限されるように電磁カップリングトルクTcoupを発生させる。それとともに、ステータ巻線20の電力量Pmgがインバータ40の容量(5kW)に制限されるように、PMモータトルクTmgを発生させる。時刻t0〜t1においては、図10Aに示すように、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用する減速方向の電磁カップリングトルクTcoupが、ステータ16から出力側ロータ18に作用する減速方向のPMモータトルクTmgよりも大きくなり、図10Bに示すように、エンジン36の回転速度Nengが入力軸61の回転速度Nmgよりも高くなる。
時刻t1において、入力軸61の回転速度Nmgが次変速段に対応する回転速度Nrefn(3000rpm)まで減少すると、次変速段に対応する解放状態のn速係合部材64−nと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を係合させる。そして、ロータ巻線30から電力回収するようにインバータ41のスイッチング動作を制御して入力側ロータ28から出力側ロータ18に増速方向の電磁カップリングトルクTcoupを作用させる(出力側ロータ18から入力側ロータ28に減速方向の電磁カップリングトルクTcoupを作用させる)とともに、ステータ巻線20に電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御してステータ16から出力側ロータ18に増速方向のPMモータトルクTmgを作用させる。これによって、出力側ロータ18の動力を変速機44(n速ギア機構63−n)で変速して車輪38へ伝達するとともに、エンジン36(入力側ロータ28)の回転速度Nengを入力軸61(出力側ロータ18)の回転速度Nmgへ減少させる。図10A,10Bに示す例では、ステータ巻線20及びロータ巻線30の電力量Pmg,Pcoupが5kW以下に制限されるように、ステータ16及び入力側ロータ28から出力側ロータ18にトルクを作用させる。時刻t2において、エンジン36の回転速度Nengが入力軸61の回転速度Nmgまで減少すると、クラッチ48を係合させることで入力側ロータ28と出力側ロータ18を機械的に係合させる。
一方、m速ギアからn速ギアへのダウンシフト動作(m>n)においては、m速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放したら、図11,12の矢印Bに示すように、ロータ巻線30から電力回収するようにインバータ41のスイッチング動作を制御して入力側ロータ28から出力側ロータ18に増速方向(エンジン回転方向)の電磁カップリングトルクTcoupを作用させることで、入力軸61(出力側ロータ18)の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnへ増加させる。電磁カップリングトルクTcoupを作用させる際には、入力側ロータ28の回転速度Nengが出力側ロータ18の回転速度Nmgよりも高い状態を維持するように、電磁カップリングトルクTcoupよりも大きいトルクをエンジン36に発生させることで、出力側ロータ18の回転速度Nmgの増加とともに、エンジン36の回転速度Nengを増加させる。その際には、m速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放するとき(電磁カップリングトルクTcoupを作用させる前)と比較して、ポンプの吐出圧力を減少させたり、発電機の発電電力を減少させる等して、エンジン補機の駆動トルクを減少させることで、エンジン36の負荷損失トルクTlを減少させることも可能である。そして、電磁カップリングトルクTcoupを作用させるとともに、図11,12の矢印Aに示すように、ステータ巻線20に電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御してステータ16から出力側ロータ18に増速方向(エンジン回転方向)のPMモータトルクTmgを作用させることによっても、入力軸61の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnへ増加させる。その際に、図12の矢印A,Bに示すように、ロータ巻線30からスリップリング95及びブラシ96を介して回収された交流電力は、インバータ41で直流に変換され、さらに、インバータ40で直流から交流に変換されてステータ巻線20へ供給される。
以上説明した本実施形態では、有段変速機44の変速段を現変速段のm速ギアから次変速段のn速ギアに変更する場合に、現変速段に対応する係合状態のm速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放したら、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28から出力側ロータ18に電磁カップリングトルクTcoupを作用させることで、入力軸61の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnへ変化させる。入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転速度差Neng−Nmgは、出力側ロータ18とステータ16との回転速度差Nmgよりも十分小さく、発生トルクに対する電力量が抑えられる。そのため、インバータ40,41の容量(電力変換可能な最大電力)、及び蓄電装置42の容量(充放電可能な最大電力)を低減しつつ、入力軸61に作用させるトルクを大きくすることができ、入力軸61の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnまで変化させるのに必要な所要時間を短くすることができる。したがって、変速動作の際に車輪38に動力が伝達されなくなる期間(変速機44での動力伝達が遮断される期間)を短くすることができる。さらに、m速ギアからn速ギアへのアップシフト動作において、入力軸61の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnへ減少させるときは、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用させる減速方向の電磁カップリングトルクTcoupをエンジン36の負荷損失トルクTl以下に制限することで、エンジン36の回転の吹け上がりを抑えることができる。
また、アップシフト動作において、入力軸61の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnへ減少させるときは、電磁カップリングトルクTcoupを作用させるとともに、m速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放するとき(電磁カップリングトルクTcoupを作用させる前)と比較して、ポンプの吐出圧力を増加させたり、発電機の発電電力を増加させる等して、エンジン補機の駆動トルクを増加させることで、エンジン36の負荷損失トルクTlを増加させることも可能である。これによって、エンジン36の回転の吹け上がりを抑えつつ、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用させる減速方向の電磁カップリングトルクTcoupを大きくすることができ、入力軸61の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnまで変化させるのに必要な所要時間をさらに短くすることができる。
また、アップシフト動作において、入力軸61の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnへ減少させるときは、エンジン36(入力側ロータ28)の回転速度Nengが、m速係合部材64−mと出力側係合部材64−5(あるいは入力側係合部材64−7)を解放するときと比較して、所定回転速度以上吹け上がらないように、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用させる減速方向の電磁カップリングトルクTcoupをエンジン36の回転速度Nengに基づいて制御することも可能である。例えばエンジン36の回転速度Nengが増加したら、出力側ロータ18に作用させる減速方向の電磁カップリングトルクTcoupを減少させ、エンジン36の回転速度Nengが減少したら、出力側ロータ18に作用させる減速方向の電磁カップリングトルクTcoupを増加させる。これによって、エンジン36の回転の吹け上がりを抑えつつ、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用させる減速方向の電磁カップリングトルクTcoupを大きくすることができる。
さらに、本実施形態では、入力軸61の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnへ変化させるときに、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16から出力側ロータ18にPMモータトルクTmgを電磁カップリングトルクTcoupとともに作用させることで、入力軸61に作用させるトルクをさらに大きくすることができ、入力軸61の回転速度Nmgをn速ギアに対応する目標入力軸回転速度Nrefnまで変化させるのに必要な所要時間をさらに短くすることができる。その際には、ステータ巻線20及びロータ巻線30の一方に発生した発電電力をインバータ40,41を介してステータ巻線20及びロータ巻線30の他方へ供給することで、電磁カップリングトルクTcoup及びPMモータトルクTmgを出力側ロータ18に作用させることができるので、インバータ40,41通過電力Pmg,Pcoupと比較して蓄電装置42の電力Pbを減らすことができ、インバータ40,41の容量と比較して蓄電装置42の容量をさらに低減することができる。
インバータ40,41の容量を蓄電装置42の容量よりも大きくした場合(インバータ40,41の容量10kW、蓄電装置42の容量5kW)のアップシフト動作の一例を計算した結果を図13に示し、インバータ40,41の容量を蓄電装置42の容量と等しくした場合(インバータ40,41の容量5kW、蓄電装置42の容量5kW)のアップシフト動作の一例を計算した結果を図14に示す。図13(a),14(a)は、エンジン36の回転速度Neng、出力側ロータ18の回転速度Nmg、及びそれらの回転速度差Neng−Nmgの時間変化(いずれもエンジン回転方向を正とする)を示し、図13(b),14(b)は、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用させる電磁カップリングトルクTcoup、及びステータ16から出力側ロータ18に作用させるPMモータトルクTmg(いずれもエンジン回転方向を正とする)の時間変化を示し、図13(c),14(c)は、蓄電装置42の電力Pb(放電時を正、充電時を負とする)、インバータ40通過電力Pmg(ステータ巻線20への電力供給時を正、ステータ巻線20からの電力回収時を負とする)、及びインバータ41通過電力Pcoup(ロータ巻線30への電力供給時を正、ロータ巻線30からの電力回収時を負とする)の時間変化を示す。図13,14に示すように、インバータ40,41の容量を蓄電装置42の容量よりも大きくすることで、入力軸61に作用させるトルクをさらに大きくすることができ、入力軸61の回転速度Nmgをさらに速やかに変化させることができる。図13,14に示す例では、入力軸61の回転速度Nmgを5500rpmから3000rpmまで変化させるのに必要な所要時間を0.51秒から0.39秒に短縮できる。
本実施形態では、変速機44を自動変速機(AT)とすることも可能である。その場合の変速機44も、複数の変速段の中から変速段を選択可能な有段変速機であり、入力軸61と出力軸62との間に設けられ、複数自由度の回転自由度を有する遊星歯車機構と、遊星歯車機構の回転自由度を制限するための複数の摩擦係合装置と、各摩擦係合装置への供給油圧をそれぞれ制御することで各摩擦係合装置の係合/解放をそれぞれ制御する油圧制御装置とを含む公知の構成により実現することが可能である。各摩擦係合装置については、例えばクラッチまたはブレーキにより構成することが可能である。変速機44では、遊星歯車機構の回転自由度が1自由度になるように、油圧制御装置での油圧を利用して変速段に対応する摩擦係合装置を選択的に係合させることで、入力軸61に伝達された出力側ロータ18からの動力を変速段に応じた変速比で変速して出力軸62から車輪38へ伝達することが可能である。さらに、変速機44では、現変速段に対応する係合状態の摩擦係合装置を解放して次変速段に対応する解放状態の摩擦係合装置を係合させることで、変速段(入力軸61と出力軸62との間の変速比)を現変速段に対応する変速比から次変速段に対応する変速比に変更する変速動作を行うことが可能である。このように、自動変速機では、遊星歯車機構と複数の摩擦係合装置とを含んで、入力軸61と出力軸62との間の変速比を多段階に変化させることが可能な変速機構を構成することができる。
有段変速機44が自動変速機である例でも、変速動作の際に、現変速段に対応する摩擦係合装置を解放して次変速段に対応する摩擦係合装置を係合させるまでの期間において、入力軸61の回転速度Nmgを現変速段に応じた回転速度Nrefmから次変速段に応じた回転速度Nrefnまで変化させる必要があるとともに、エンジン36から変速機44を介して車輪38へ伝達される動力が減少する。そこで、有段変速機44が自動変速機である例でも、有段変速機44が自動マニュアル変速機(AMT)である例と同様に、電子制御ユニット50は、有段変速機44の変速段を現変速段から次変速段に変更する場合に、現変速段に対応する係合状態の摩擦係合装置を解放したら、ロータ巻線30に交流電流が流れるようにインバータ41のスイッチング動作を制御して入力側ロータ28から出力側ロータ18に電磁カップリングトルクTcoupを作用させることで、入力軸61の回転速度Nmgが次変速段に対応する目標入力軸回転速度Nrefnに近づくように出力側ロータ18及び入力軸61の回転速度Nmgを変化させる。それとともに、ステータ巻線20に交流電流が流れるようにインバータ40のスイッチング動作を制御してステータ16から出力側ロータ18にPMモータトルクTmgを作用させることによっても、入力軸61の回転速度Nmgが次変速段に対応する目標入力軸回転速度Nrefnに近づくように出力側ロータ18及び入力軸61の回転速度Nmgを変化させることが可能である。これによって、変速動作の際に、入力軸61の回転速度Nmgを現変速段に対応する回転速度Nrefmから次変速段に対応する回転速度Nrefnまで変化させるのに必要な所要時間を短くすることができ、インバータ40,41の容量(電力変換可能な最大電力)、及び蓄電装置42の容量(充放電可能な最大電力)を低減しつつ、車輪38に伝達される動力が減少する期間を短くすることができる。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。