JP5840517B2 - 表面品質に優れたほうろう材の製造方法 - Google Patents
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Description
ほうろう材は、耐水性、耐熱性、耐食性、耐酸性、耐溶剤性などに優れ、古くから、鍋・釜などの器物類、洗面器・洗面台・台所流し台・浴槽などの家庭用品類、薬品・醸造などの貯蔵用タンク類、建物の内装外装・トンネル内壁などの建材類等に、使用されている。
ほうろう材は、上記したように、ガラス質のフリット、顔料や粘土などのミル添加物、水などで構成された釉薬を、生地に塗布して乾燥し焼き固めた(焼成した)ものであるため、陶磁器のようにほうろう層の内部には大、小の気泡が数多く存在する。これら気泡は、使用した釉薬に起因して形成されたものである。
このような設備を配設できない場合や、とくに夏場のように、夜でも気温が下がらない暑い季節においては、釉薬のエージングは避けられず、多少の表面品質劣化や、製品歩留り低下を懸念しながら操業しなければならないという問題があった。また、釉薬が長期保留にならないように、釉薬のミル引き量と操業とをマッチングさせて、短期間の間に釉薬を使い切るなどの緻密な操業管理を徹底する必要があるが、そのような操業管理を行うことが困難な場合もあり問題となっていた。
まず、エージングされた釉薬のpHを測定したところ、エージングされた釉薬は、製造(ミル引きした)直後の釉薬に比べて、pHが高くなっていることを見出した。pHが高くなった釉薬を使用してほうろう層を形成すると、ほうろう層内に形成される気泡が大きくなる傾向を示すことを見出し、釉薬のpHを製造時の値近傍またはそれ以下まで低くすることを考えた。
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
下引き釉薬を、実験室(室温:約25℃)で30日間放置して、エージングさせた。通常、ミル引きした直後(製造直後)の下引き釉薬のpHは10.0程度である。一方、エージング後の下引き釉薬のpHは10.7となっていた。なお、下引き釉薬として、フリット分の質量%で、SiO2:30〜40%を含み、残部が、Na2O:10〜30%、CaO:5〜10%、B2O3:5〜10%、Al2O3:1〜10%、CuO:1〜5%、F2:1〜5%、MnO:1〜2%、Ni:1〜2%、CoO:0〜1%などを含有する釉薬を用いた。
そして、生地用鋼板(大きさ:100×150mm)を用意し、前処理として、該鋼板を4%硫酸ニッケル水溶液中に1分間浸漬する処理(Ni処理)を施した。
ついで、下引き層の上層として、焼成後の膜厚が全体で100μmになるように、Ti酸化物系の上引き釉薬をスプレー塗布する施釉を行った。なお、上引き釉薬としては、フリット分の質量%で、SiO2:30〜40%を含み、残部が、TiO2:15〜25%、B2O3:2〜6%などを含有する釉薬を用いた。
得られたほうろう材から、断面が観察面となるように組織観察用試験片を採取し、観察面を#320〜#1500のエメリー紙で研磨し、さらにバフ研磨を行い、水洗、乾燥し、ほうろう層内の気泡を観察した。
釉薬では、含まれるガラス質のフリットからNa等の成分が溶出し、例えば、次(1)式
Na2O+H2O→2NaOH ‥‥(1)、
次(2)式
Na2SiO3+H2O→SiO2+2NaOH ‥‥(2)
で示されるように、NaOH等に変化する。そして、NaOH等(アルカリ成分)が、経時変化(エージング)により、さらに増大し、釉薬のpHが増大するものと考えられる。
その釉薬が生地に施釉され乾燥されたのち、焼成中に、例えば、粘土中の結晶水が熱分解する次(3)式
2H2O→2H2+O2 ‥‥(3)
で示されるような反応や、あるいは鋼板表面が酸化される次(4)式
3Fe+4H2O→Fe3O4+4H2 ‥‥(4)
に示されるような反応で、新たに生成したH2と釉薬内のNaOHが反応して、次(5)式
2NaOH+H2→2Na+2H2O ‥‥(5)
に示されるような反応で、H2O(水蒸気)が発生し、ほうろう層内で気泡を生成、成長するものと考えられる。
エージングした釉薬内に、塩酸HCl を添加することにより、次(6)式
NaOH+HCl→NaCl+H2O ‥‥(6)
のように、生成されたNaOH等のOH−イオンがHClのH+イオンで中和され、エージングにより増大したNaOH等が減少し、OH−イオンによる悪影響が軽減され、上記した焼成中に生じる(5)式で示される反応が抑えられて、ほうろう層中における気泡の生成と成長が抑制されたものと考えられる。
図2、図3から、図1と同様に、エージングした下引き釉薬に塩酸以外の酸性水溶液を添加して、あるいは酸性ガスである二酸化炭素ガスを吹き込んで、pHを低下させることにより、施釉−乾燥−焼成後のほうろう層内に存在する気泡の平均直径が小さくなっていることがわかる。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)生地に、釉薬を塗布する施釉工程と、塗布した釉薬を乾燥する乾燥工程と、焼成工程を順次施し、生地表面にほうろう層を形成するほうろう材の製造方法であって、前記釉薬が、酸性水溶液を添加してpH:8.0以上かつpH:10.50以下に調整したものであることを特徴とする表面品質に優れたほうろう材の製造方法。
(2)生地に、下引き釉薬を塗布する下引き施釉工程と、該塗布した下引き釉薬を乾燥する下引き乾燥工程と、乾燥した下引き釉薬を焼成する下引き焼成工程を少なくとも1回以上施し、生地表面に下引きほうろう層を形成し、ついで、該下引きほうろう層の上層として、上引き釉薬を塗布する上引き施釉工程と、塗布した上引き釉薬を乾燥する上引き乾燥工程と、乾燥した上引き釉薬を焼成する上引き焼成工程を少なくとも1回施し、上塗りほうろう層を形成するほうろう材の製造方法であって、前記下引き釉薬が、酸性水溶液を添加してpH:8.0以上かつpH:10.50以下に調整したものであることを特徴とする表面品質に優れたほうろう材の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記酸性水溶液が、塩酸水溶液であることを特徴とするほうろう材の製造方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記酸性水溶液を添加してpH:8.0以上かつpH:10.50以下に調整することに代えて、酸性ガスを吹き込んでpH:8.0以上かつpH:10.50以下に調整することを特徴とするほうろう材の製造方法。
(5)(4)において、前記酸性ガスが、二酸化炭素ガスであることを特徴とするほうろう材の製造方法。
まず、生地を用意する。生地は、熱延鋼板、冷延鋼板、アルミめっき鋼板、ステンレス鋼板などの鉄系材料とすることが好ましい。用意された生地に、前処理を施す。前処理は、とくに限定する必要はないが、脱脂、硫酸水溶液で洗浄する硫酸酸洗、硫酸ニッケル水溶液に浸漬する硫酸ニッケル処理(Ni処理)、中和、乾燥等の、常用の処理を施すことが好ましい。
なお、下引き釉薬は、SiO2、Na2O、B2O3、CaO、Al2O3などを主成分としたガラス質のフリットと、粘土などのミル添加物と、水とを、ボールミル等に装填し粉砕して、生成されるスラリー状のスリップである。下引き釉薬として一般的な組成は、フリット分の質量%で、SiO2:30〜50%を含み、残部が、Na2O:10〜30%、CaO:1〜20%、B2O3:5〜25%、Al2O3:1〜10%、CuO:1〜10%、F2:1〜7%、MnO:0〜6%、NiO:0〜6%、CoO:0〜6%などを含有する組成である。
釉薬のpHが10.5を超えると、施釉−乾燥−焼成後のほうろう層内の気泡が粗大化し、ほうろう層表面まで浮上するか、あるいはほうろう層外へ放出され、泡、毛穴、ピンホール、黒点などを形成し、表面欠陥を増加させる。このため、本発明では酸性水溶液、あるいは酸性ガスの吹込みにより調整する釉薬のpHは10.5以下に限定した。なお、好ましくは、10.3以下である。
また、添加する酸性水溶液は、酸性水溶液であればよく、とくにその種類を限定する必要はないが、塩酸水溶液、硫酸水溶液、酢酸水溶液、あるいは容易に入手しやすい炭酸水溶液(市販の炭酸飲料水)とすることが好ましい。その中でも塩酸水溶液は、それ以外の酸性水溶液に比べて、釉薬の粘性変化が小さいことから好ましい。
CO2+H2O→HCO3+H ‥‥(7)
H+NaOH→Na+H20 ‥‥(8)
なお、酸性ガスは、健康上、無害なものであればよく、とくに二酸化炭素ガスに限定されない。
さらに、下引き乾燥工程に引続いて、乾燥された下引き釉薬を焼成する下引き焼成工程を施す。焼成は、750℃以上好ましくは850℃以下の温度に加熱された加熱炉に装入し、好ましくは1〜10分間保持する。これにより、生地表面に所望膜厚の下引きほうろう層を形成することができる。所望の下引きほうろう層を形成するために、下引き施釉工程−下引き乾燥工程−下引き焼成工程は、少なくとも1回は必要で、膜厚が薄かったり、焼き切れなどの不測の事態が発生した場合にはさらに繰返すことが必要となる。
上引きほうろう層の形成に際しては、下引きほうろう層形成時と同様に、上引き施釉工程において、上引き釉薬に酸性水溶液を添加あるいは酸性ガスを吹き込んでpHを10.5以下に調整することが好ましい。これにより、上引き釉薬がエージングしている場合にはとくに、下引き釉薬と同様に、とくに表面品質が向上するという効果が期待できる。しかし、上引き施釉工程で、上引き釉薬に酸性水溶液を添加すると、ほうろう表面の色彩、耐薬品性等の特性に影響する恐れがある場合には、上引き釉薬への酸性水溶液の添加は避けたほうがよい。
上引き乾燥工程における乾燥は、100〜500℃に加熱された乾燥炉に装入し、好ましくは1〜10分間保持する処理とすることが好ましい。
さらに、上引き乾燥工程に引続いて、乾燥された上引き釉薬を焼成する上引き焼成工程を施す。上引き工程における焼成は、750℃以上好ましくは850℃以下の温度に加熱された加熱炉に装入し、好ましくは1〜10分間保持する処理とすることが好ましい。
つぎに、本発明をさらに、実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
なお、下引きほうろう層の形成では、原材料をミル引きして釉薬としてから30日経過した、密着促進材であるNiとCoを含んだ系統の下引き釉薬(pH10.7)100リットルに、2%塩酸水溶液、2%硫酸水溶液を、表1に示すように種々変化した添加量(リットル)で混合し、撹拌した釉薬(下引き釉薬)を利用し、生地(鋼板)にスプレー塗布して、表1に示すライン速度で連続的に下引き施釉した。また、塩酸水溶液、硫酸水溶液に代えて、二酸化炭素ガスを表1に示す添加量、吹き込んだ。なお、市販のpH測定器で、混合したのちの釉薬のpHを測定し、表1に付記した。
なお、上引き施釉は、pH:8.5程度のエージングしていない上引き釉薬を主として使用した。一部の上引き施釉では、エージングした上引き釉薬(pH:9.0)に酸性水溶液として、塩酸水溶液を添加してpH:8.0とした上引き釉薬を使用した。
なお、エージングしたままの下引き釉薬を利用して、施釉した場合を従来例とした。
得られたほうろう材から、断面が観察面となるように組織観察用試験片を採取し、観察面を#320〜#1500のエメリー紙で研磨し、さらにバフ研磨を行ったのち、水洗、乾燥し、断面組織観察に供した。ほうろう層断面を、光学顕微鏡(倍率:200倍)で観察し、10視野について撮影した。得られた組織写真を用いて、ほうろう層断面における下引き釉薬と上引き釉薬の界面を挟んで厚さ方向に±25μm、界面と平行する方向に300μmの領域(面積:15000μm2)について、領域内に存在する気泡の個数、気泡が占める面積率を計測した。そして、気泡1個当たりの平均面積を算出し、その平均面積を用いて、気泡の円相当直径(平均)を算出した。
Claims (5)
- 生地に、釉薬を塗布する施釉工程と、塗布した釉薬を乾燥する乾燥工程と、焼成工程を順次施し、生地表面にほうろう層を形成するほうろう材の製造方法であって、
前記釉薬が、酸性水溶液を添加してpH:8.0以上かつpH:10.50以下に調整したものであることを特徴とする表面品質に優れたほうろう材の製造方法。 - 生地に、下引き釉薬を塗布する下引き施釉工程と、該塗布した下引き釉薬を乾燥する下引き乾燥工程と、乾燥した下引き釉薬を焼成する下引き焼成工程を少なくとも1回以上施し、生地表面に下引きほうろう層を形成し、ついで、該下引きほうろう層の上層として、上引き釉薬を塗布する上引き施釉工程と、塗布した上引き釉薬を乾燥する上引き乾燥工程と、乾燥した上引き釉薬を焼成する上引き焼成工程を少なくとも1回施し、上塗りほうろう層を形成するほうろう材の製造方法であって、
前記下引き釉薬が、酸性水溶液を添加してpH:8.0以上かつpH:10.50以下に調整したものであることを特徴とする表面品質に優れたほうろう材の製造方法。 - 前記酸性水溶液が、塩酸水溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載のほうろう材の製造方法。
- 前記酸性水溶液を添加してpH:8.0以上かつpH:10.50以下に調整することに代えて、酸性ガスを吹き込んでpH:8.0以上かつpH:10.50以下に調整することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のほうろう材の製造方法。
- 前記酸性ガスが、二酸化炭素ガスであることを特徴とする請求項4に記載のほうろう材の製造方法。
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