JP5840217B2 - 印字方法および印字装置 - Google Patents
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Description
例えば、平織りまたは綾織りなどから構成される布が被印字物の場合では、経糸と緯糸の交差頻度の違いで糸の繊維密度が異なる領域が生じる。また、糸を織る際の糸張力等の違いによっても繊維密度が異なる領域が生じる。このような、繊維密度が異なる領域に打滴されたインクは、式(1)で示すように、繊維間の空隙の大きさ、すなわち繊維密度に応じた浸透速度で被印字物の厚さ方向へ浸透される。
L2=d・γ・t・cosθ/4η ・・・(1)
なお、Lは浸透距離、dは繊維間の空隙サイズ、γは表面張力、tは時間、θはインクと繊維の間の濡れ性を示す接触角、ηはインクの粘度である。
このため、被印字物におけるインクの最終着弾位置は、繊維密度の違いに起因して被印字物の厚さ方向および被印字物に沿う方向にそれぞれ差が生じ、これが均一な発色の妨げとなっている。
織物の部分的な毛管力の差は、例えば織物の一部にインク滴を供給したときのインクの浸透速度差として検出することが出来る。インク滴供給後、インクは繊維の厚さ方向に浸透し始めるが、繊維密度の低い空隙の多い領域への浸透速度が速いことが観察できる。
また、織物をインク液に完全に浸した後に、引き上げ、スクイズ(ローラ等で液量を絞る)させると、スクイズ直後は均一にインクを含有し、色ムラが検出できないが、乾燥を伴う時間経過と共にインクの移動が起こり、繊維密度の高い領域、すなわち毛管力の高い領域のインク濃度が高くなることが観察される。
また、インクが被印字物中へ浸透する距離は、前記第1の凝集剤の供給量により制御することができる。また、前記第1の凝集剤は、被印字物を構成する糸を所定の距離だけインクが浸透したところで粘度が上昇したインクの移動が抑制されるように設定されるのが好ましい。
また、インクジェット法により打滴されるインクがアニオン性に荷電される粒子、ポリマーから構成される場合は、前記第1の凝集剤および前記第2の凝集剤はカチオン性の素材が使用出来る。また、インクジェット法により打滴されるインクがカチオン性に荷電される、粒子、ポリマーから構成される場合は、前記第1の凝集剤および前記第2の凝集剤はアニオン性の素材が使用できる。
また、被印字物は、複数の繊維から構成される糸による織物または編み物、不織布等繊維から構成される素材からなり、前記糸の交差頻度が異なる領域を有することが好ましい。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る印字方法を行う印字装置の構成を示す。印字装置は、インクジェット法により打滴されるインクを所定の粘度まで上昇させるための凝集剤Aを予め被印字物Pに供給する第1の凝集剤供給装置1と、インクジェット法でインクを被印字物Pに打滴するインク供給装置2と、被印字物Pの内部に浸透して凝集剤Aにより所定の粘度に上昇されたインクを固定するための凝集剤Bを被印字物Pに供給する第2の凝集剤供給装置3と、被印字物P内に固定されたインクを被印字物Pに定着させる定着装置4とを有する。
なお、被印字物Pとしては、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維、綿、毛、絹等の動物または植物性繊維から構成される糸で織られた布、あるいは編まれた編み物など、繊維密度の異なる領域を有するものが用いられる。
このように、インクが所定の粘度に上昇することでインクの移動速度を低下させることができ、インクが被印字物Pの糸の太さ距離まで浸透してから凝集剤Bにより固定されるまでの間に、周囲の毛管力により被印字物Pに沿う方向に拡散しないように、すなわちインクの移動が一定の範囲内(インク供給装置2から順次打滴されるインクの着弾位置ピッチ程度あるいは被印字物を構成する糸の太さ程度の範囲)に留まるように所定の粘度が設定される。また、凝集剤Aの供給量は、インクが糸の太さ距離まで浸透したところで所定の粘度となるように、被印字物Pの素材、糸の太さ、インクの種類、インクの供給量などに基づいて設定される。
なお、インクに含まれる染料は、被印字物Pの素材に応じたものが用いられ、例えば、被印字物Pがポリエステル繊維からなる場合には分散染料を、被印字物Pが木綿などの植物繊維からなる場合には反応性染料を、被印字物Pがナイロンおよび動物性繊維(毛または絹など)からなる場合には酸性染料をそれぞれ用いることができる。
インクとしては、アニオン性に荷電されたものが使用できる。例えば、アニオン性の荷電調節剤で荷電された顔料分散物を含むインクを使用することができる。あるいはアニオン性染料水溶液を使用することが出来る。
なお、インクの粘度調整、粒子分散の安定のため、酢酸ビニル系、アクリル系、ポリエステル系あるいはウレタン系等の水性ポリマー分散液、PVAあるいはアルギン酸等の水性ポリマーをインクに添加することもできる。これらポリマーはアニオンに荷電されていることが望ましい。また、インクジェットヘッドの乾燥を防ぐ目的で、エチレングリコール、グリセリン等の水可溶性高沸点溶剤を添加することもできる。
このようにしてインクを調整し、染料、荷電調節剤、あるいは水性ポリマーなどを被凝集剤として機能させることができる。
凝集反応は、インク中において中性あるいはアルカリ性に調整された状態でイオン解離していることで分散安定しているアニオン性分散安定剤に対し、凝集剤AおよびBとして有機酸を加え酸性とするとその解離度が低くなって分散が不安定となり凝集される。これに伴い、インクに含まれる分散安定剤が凝集し、凝集剤AおよびBの濃度に応じた粘度の上昇がそれぞれ引き起こされる。
アニオン性界面活性剤およびアニオン性水性ポリマーとしては、水中で解離した時に陰イオンとなる基を含むものが使用され、例えば、カルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造を持つものが使用される。具体的には、カルボン酸系の荷電調節剤として脂肪酸塩やコール酸塩が、スルホン酸系の荷電調節剤として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、またはアルキルポリオキシエチレン硫酸塩が、リン酸構造を持つ荷電調節剤としてモノアルキルリン酸塩などが利用できる。一方、凝集剤AおよびBに用いられる酸としては、マロン酸、クエン酸、酢酸等の有機酸、希塩酸などの無機酸が利用できる。
まず、図1に示されるように、繊維密度の異なる領域を含む被印字物Pが一定方向に移動される。ここで、被印字物Pは、ポリエステル繊維からなるものとする。
被印字物Pが移動されて第1の凝集剤供給装置1に到達すると、第1の凝集剤供給装置1は被印字物Pに対して、例えばカチオン高分子が0.1〜0.3重量%含まれる凝集剤Aを供給する。供給された凝集剤Aは、被印字物Pを構成する糸の内部にまで浸透される。
第2の凝集剤供給装置3から供給された凝集剤Bは、インクに含まれる未反応の被凝集剤、すなわち凝集剤Aと反応していない被凝集剤と凝集反応して、被印字物Pにおいて一定の範囲内に留められたインクをそれぞれ固定し、インクの移動を完全に停止させる。このようにして、繊維密度の異なる領域を含む被印字物Pを厚さ方向に糸の内部まで均一に浸透したインクを被印字物Pに沿う方向に拡散させることなく固定することができる。また、被印字物に沿う方向への毛管力によるインクの移動を止めることが出来るので、被印字物の面方向の発色パターンはインクジェットインクの供給パターンにより制御することが可能となる。
これにより、被印字物Pを表面から裏面まで均一に染色すると共に、図6に示すようにインクのにじみを織りのピッチ範囲に収めることができる。
また、第2の凝集剤供給装置3は、凝集剤Bの供給が被印字物Pに浸透したインクの移動に影響しないようになるべく少ない量で供給するのが好ましく、濃度を高くすると共に液滴のサイズを小さくして供給するのが好ましい。例えば、エアースプレー法により数μm〜20μm程度の微粒子にして供給することができ、エアースプレーを間欠吹きかけにすることでその供給量を調整することができる。
アクリルアミドとN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートまたはN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートモノマーとを共重合したN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート系共重合物や、ポリビニルアミジン系高分子、両性高分子などが利用できる。
アニオン性の凝集剤としては、例えば、水溶性あるいは水分散性高分子に親水基としてカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造をもつものが使用できる。具体的には、動植物油脂脂肪酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸等のソーダ塩、カリウム塩等が使用できる。また、カチオン性のインクとしては、アルカリ性染料などのカチオン性の色材を含むと共にカチオン性の荷電調節剤が使用される。カチオン性の荷電調節剤としては、水中で解離した時に陽イオンとなるものが使用され、例えば、親水基としてテトラアルキルアンモニウムを持つものが使用される。具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、またはアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩などが利用できる。
実施の形態1において、第1の凝集剤供給装置1から供給される凝集剤Aは、インク供給装置2から被印字物Pに打滴されたインクが糸の太さ距離程度浸透した時点でインクを所定の粘度まで上昇させるような量で供給されていたが、これに限られず、凝集剤Aの供給量を制御することで、凝集剤Aとインクに含まれる被凝集剤との凝集反応が起こる深さを、コントロールすることもできる。
このように、実施の形態1と比べ、凝集剤Aとインクの凝集反応が若干早く起こるように凝集剤Aの供給量を調整することで、印字されたインクを被印字物Pの印字側表面近傍に多く分布させることが出来る。被印字物Pの印字側表面近傍に位置する色材は染色時の光学濃度への寄与が大きく、上記のようにインクを被印字物Pの印字側表面近傍に多く分布させることにより、少ないインク量で十分な光学濃度のある染色を実現することが出来る。さらに、色材の分布を被印字物Pの厚みの半分程度に制御し、裏面から別の色のインクを印字することで、表面と裏面で異なる色に印字された被印字物Pを作成することも出来る。
なお、凝集剤Bは、被印字物Pにインクを印字後、未凝集のインクが毛管力により移動して濃度ムラになる前に供給することが望ましく、インク印字方向と同方向から供給することが望ましい。このため、第2の凝集剤供給装置3としては、例えば、インクジェット法、エアースプレー法、ロールコーターなどによる供給装置を用いることが好ましい。
例えば、図10に示すように、第1の凝集剤供給装置1とインク供給装置2の間に乾燥装置14を配置し、第1の凝集剤供給装置1から凝集剤Aが供給された被印字物Pを乾燥装置14により一旦乾燥させることもできる。乾燥された被印字物Pは、インク供給装置2に供され、インク供給装置2から打滴されたインクと被印字物P内の凝集剤Aが凝集反応することにより、所定の粘度まで上昇されたインクが被印字物Pの一定の範囲内に留められる。その後、実施の形態1および2と同様にして、被印字物Pに第2の凝集剤供給装置3から凝集剤Bが供給されてインクが被印字物Pに完全に固定され、定着装置4により被印字物Pに色材が定着される。
図11に示されるように、実施の形態3に係る印字方法で用いられる印字装置は、入力データに基づいてインク、凝集剤Aおよび凝集剤Bの供給量を演算することでそれぞれの供給を自動化すると共に、被印字物Pに印字した結果をフィードバックすることでそれぞれの供給量を順次補正することができる。
また、凝集剤Aの供給量あるいは種類を切り替えることで、被印字物Pへのインクの浸透位置を制御することも出来る。さらに、印字および発色処理等を施し、染色が完了した被印字物Pの光学特性を表裏両面で計測することにより、被印字物Pへのインクの浸透位置を計測してその結果をフィードバックすることも可能である。
まず、供給量演算部21には、インク、凝集剤Aおよび凝集剤Bの供給量に関する情報が入力データとしてオペレータにより入力される。インクの供給量に関する情報としては、印字画像の情報(画素毎の色など)および被印字物Pの情報(素材、厚み、糸の太さなど)などが入力される。また、凝集剤AおよびBに関する情報としては、被印字物Pの情報、インクの情報(種類、濃度、被凝集剤の等電点など)などが入力される。
被印字物Pに印字された印字画像は、光学センサなどからなる計測装置24および24aにより光学特性が計測され、その計測値が印字結果計測値入力部25に入力されることで被印字物Pに印字した結果がフィードバックされる。供給量演算部21は、印字結果計測値入力部25から入力された計測値に基づいて、目標の発色を実現するようにインク、凝集剤Aおよび凝集剤Bの供給量を補正し、補正されたそれぞれの供給量に応じて駆動部23が第1の凝集剤供給装置1、インク供給装置2および第2の凝集剤供給装置3をそれぞれ駆動し、被印字物Pへの印字が行われる。
Claims (10)
- 繊維密度が異なる領域を含む被印字物にインクジェット法によりインクを打滴して印字を行う印字方法であって、
インクジェット法により打滴されるインクを所定の粘度まで上昇させるための第1の凝集剤を予め被印字物に供給し、
インクジェット法でインクを被印字物に打滴し、
前記第1の凝集剤と同じ成分からなる第2の凝集剤を被印字物に供給して、前記第1の凝集剤により所定の粘度に上昇されたインクの移動を停止させ、
前記第1の凝集剤は、前記第2の凝集剤の濃度より低い濃度を有することを特徴とする印字方法。 - 前記第1の凝集剤および前記第2の凝集剤の供給量の総和は、被印字物に打滴されたインク中の被凝集剤が前記第1の凝集剤および前記第2の凝集剤と反応して等電点を超えるように設定される請求項1に記載の印字方法。
- インクが被印字物中へ浸透する距離は、前記第1の凝集剤の供給量により制御される請求項1または2に記載の印字方法。
- 前記第1の凝集剤の供給量は、被印字物を構成する糸を所定の距離だけインクが浸透したところで粘度が上昇したインクの移動が抑制されるように設定される請求項3に記載の印字方法。
- 前記第1の凝集剤は、ディップ法により供給される請求項1〜4のいずれか一項に記載の印字方法。
- 前記第2の凝集剤は、エアースプレー法により供給される請求項1〜5のいずれか一項に記載の印字方法。
- インクジェット法により打滴されるインクはアニオン性に荷電されると共に、前記第1の凝集剤および前記第2の凝集剤はカチオン性に荷電される請求項1〜6のいずれか一項に記載の印字方法。
- インクジェット法により打滴されるインクはカチオン性に荷電されると共に、前記第1の凝集剤および前記第2の凝集剤はアニオン性に荷電される請求項1〜7のいずれか一項に記載の印字方法。
- 被印字物は、複数の繊維から構成される糸による織物または編み物からなり、前記糸の交差頻度が異なる領域を有する請求項1〜8のいずれか一項に記載の印字方法。
- 繊維密度が異なる領域を含む被印字物にインクジェット法によりインクを打滴して印字を行う印字装置であって、
インクジェット法により打滴されるインクを所定の粘度まで上昇させるための第1の凝集剤を予め被印字物に供給する第1の凝集剤供給装置と、
前記第1の凝集剤供給装置により前記第1の凝集剤が供給された被印字物にインクジェット法でインクを打滴するインク供給装置と、
前記第1の凝集剤により所定の粘度に上昇されたインクの移動を停止させるための前記第1の凝集剤と同じ成分からなる第2の凝集剤を被印字物に供給する第2の凝集剤供給装置と
を有し、
前記第1の凝集剤供給装置は、前記第2の凝集剤の濃度より低い濃度を有する前記第1の凝集剤を供給することを特徴とする印字装置。
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