以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態の光音響画像処理装置を示す。光音響画像処理装置(光音響画像診断装置)10は、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、及び光源(レーザユニット)13を備える。光音響画像処理装置10は、超音波画像と光音響画像との双方を生成可能である。
レーザユニット13は、光源であり、被検体に照射する光(レーザ光)を生成する。レーザ光の波長は、観察対象物に応じて適宜設定すればよい。レーザユニット13は、例えばヘモグロビンの吸収が大きい波長、具体的には750nmや800nmの波長の光を出射する。レーザユニット13が出射するレーザ光は、例えば光ファイバなどの導光手段を用いてプローブ11まで導光され、プローブ11から被検体に照射される。あるいは、プローブ11以外の場所から光照射を行うこととしてもよい。
プローブ11は、被検体に対して音響波(超音波)を出力(送信)する音響波送信手段と、被検体内からの音響波(超音波)を検出する音響波検出手段とを有する。音響波検出手段の音響波検出素子は、音響波送信手段の音響波送信素子を兼ねていてもよい。例えば1つの超音波振動子(素子)を、超音波の送信と検出との双方に用いてもよい。プローブ11は、例えば一次元的に配列された複数の超音波振動子を有しており、それら複数の超音波振動子から超音波を出力し、出力された超音波に対する反射音響波(以下、反射音響信号とも呼ぶ)を複数の超音波振動子により検出する。また、プローブ11は、被検体内の測定対象物がレーザユニット13からの光を吸収することで生じた光音響波(以下、光音響信号とも呼ぶ)を複数の超音波振動子により検出する。なお、1つのプローブ11が超音波送信手段と超音波検出手段との双方を有している必要はなく、超音波送信手段と超音波検出手段とを分けて、超音波の送信と超音波の受信とを別の場所で行うこととしてもよい。
超音波ユニット12は、受信回路21、AD変換手段22、受信メモリ23、データ分離手段24、光音響画像生成手段25、超音波画像生成手段26、音速分布生成手段27、悪性度分布画像生成手段28、画像合成手段29、トリガ制御回路30、送信制御回路31、及び制御手段32を有する。制御手段32は、超音波ユニット12内の各部を制御する。受信回路21は、プローブ11が検出した音響波の検出信号(光音響信号又は反射音響信号)を受信する。AD変換手段22は、受信回路21が受信した光音響信号及び反射音響信号をサンプリングしてデジタル信号に変換する。AD変換手段22は、例えばADクロック信号に同期して、所定のサンプリング周期で音響波の検出信号をサンプリングする。
トリガ制御回路30は、レーザユニット13に対して光出射を指示する光トリガ信号を出力する。レーザユニット13は、図示しないYAGやチタン−サファイアなどのレーザ媒質を励起するフラッシュランプ41と、レーザ発振を制御するQスイッチ42とを含む。レーザユニット13は、トリガ制御回路30がフラッシュランプトリガ信号を出力すると、フラッシュランプ41を点灯し、レーザ媒質を励起する。トリガ制御回路30は、例えばフラッシュランプ41がレーザ媒質を十分に励起させると、Qスイッチトリガ信号を出力する。Qスイッチ42は、Qスイッチトリガ信号を受けるとオンし、レーザユニット13からレーザ光を出射させる。フラッシュランプ41の点灯からレーザ媒質が十分な励起状態となるまでに要する時間は、レーザ媒質の特性などから見積もることができる。
なお、トリガ制御回路30からQスイッチを制御するのに代えて、レーザユニット13内において、レーザ媒質を十分に励起させた後にQスイッチ42をオンにしてもよい。その場合は、Qスイッチ42をオンにした旨を示す信号を超音波ユニット12側に通知してもよい。ここで、光トリガ信号とは、フラッシュランプトリガ信号とQスイッチトリガ信号の少なくとも一方を含む概念である。トリガ制御回路30からQスイッチトリガ信号を出力する場合はQスイッチトリガ信号が光トリガ信号に対応し、レーザユニット13にてQスイッチトリガのタイミングを生成する場合はフラッシュランプトリガ信号が光トリガ信号に対応していてもよい。光トリガ信号が出力されることで、被検体に対するレーザ光の照射及び光音響信号の検出が行われる。
また、トリガ制御回路30は、送信制御回路31に、超音波送信を指示する超音波送信トリガ信号を出力する。送信制御回路31は、超音波送信トリガ信号を受けると、プローブ11から超音波を送信させる。超音波送信トリガ信号が出力されることで、被検体に対する超音波の送信及び反射音響信号の検出が行われる。
更に、トリガ制御回路30は、AD変換手段22に対して、サンプリング開始を指示するサンプリングトリガ信号を出力する。トリガ制御回路30は、光トリガ信号又は超音波送信トリガ信号の出力後、所定のタイミングでサンプリングトリガ信号を出力する。トリガ制御回路30は、例えば光音響信号を検出する場合は、光トリガ信号の出力後、好ましくは、被検体に実際にレーザ光が照射されるタイミングで、サンプリングトリガ信号を出力する。例えばトリガ制御回路30は、Qスイッチトリガ信号の出力と同期してサンプリングトリガ信号を出力する。また、トリガ制御回路30は、反射音響信号を検出する場合は、超音波送信トリガ信号と同期してサンプリングトリガ信号を出力する。AD変換手段22は、サンプリングトリガ信号を受けると、プローブ11にて検出された光音響信号又は反射音響信号のサンプリングを開始する。
AD変換手段22は、サンプリングした光音響信号及び反射音響信号を、受信メモリ23に格納する。受信メモリ23には、例えば半導体記憶装置を用いることができる。あるいは、受信メモリ23に、その他の記憶装置、例えば磁気記憶装置を用いてもよい。受信メモリ23には、光音響信号のサンプリングデータ(光音響データ)と、反射音響信号のサンプリングデータ(反射超音波データ)とが格納される。データ分離手段24は、受信メモリ23に格納された光音響信号と反射音響信号とを分離する。データ分離手段24は、分離した光音響信号を光音響画像生成手段25に渡す。また、分離した反射音響信号を超音波画像生成手段26と音速分布生成手段27に渡す。
音速分布生成手段27は、データ分離手段24から反射音響信号を受け取り、受け取った反射音響信号に基づいて、被検体内を進行する音響波の音速分布を生成する。音速分布の生成の手法は特に限定されない。音速分布の生成には、音響波に基づいて音速分布の推定を行う任意の手法を用いることができる。
光音響画像生成手段25は、光音響信号に基づいて光音響画像を生成する。光音響画像生成手段25は、光音響画像再構成手段251、検波・対数変換手段252、及び光音響画像構築手段253を含む。超音波画像生成手段26は、反射音響信号に基づいて超音波画像(反射音響画像)を生成する。超音波画像生成手段(反射音響波画像生成手段)26は、超音波画像再構成手段261、検波・対数変換手段262、及び超音波画像構築手段263を含む。
光音響画像再構成手段251は、データ分離手段24から光音響信号を受け取り、光音響信号を再構成する。光音響画像再構成手段251は、光音響信号に基づいて、断層画像である光音響画像の各ラインのデータを生成する。ここで、再構成された光音響信号は、光音響画像とみなすことができる。光音響画像再構成手段251は、遅延加算法(Delay and Sum、位相整合加算、整相加算と同義)により、光音響信号を再構成する。光音響画像再構成手段251は、例えば64素子分の光音響信号を、各素子(各超音波振動子)の位置に応じた遅延時間で加算し、1ライン分のデータを生成する。このとき、光音響画像再構成手段251は、各素子で検出された光音響信号を、音速分布生成手段27で生成された音速分布を用いて各素子の遅延時間を補正しながら遅延加算する。
検波・対数変換手段252は、光音響画像再構成手段251が出力する各ラインのデータの包絡線を生成し、その包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げる。光音響画像構築手段253は、対数変換が施された各ラインのデータに基づいて、光音響画像を生成する。光音響画像構築手段253は、例えば光音響信号(ピーク部分)の時間軸方向の位置を、断層画像における深さ方向の位置に変換して光音響画像を生成する。
超音波画像再構成手段261は、データ分離手段24から反射音響信号を受け取り、反射音響信号を再構成する。超音波画像再構成手段261は、受け取った反射音響信号に基づいて、断層画像である超音波画像の各ラインのデータを生成する。ここで、再構成された反射音響信号は、超音波画像とみなすことができる。超音波画像再構成手段261は、例えば64素子分の反射音響信号を、各素子の位置に応じた遅延時間で加算し、1ライン分のデータを生成する。このとき、超音波画像再構成手段261は、各素子で検出された反射音響信号を、音速分布生成手段27で生成された音速分布を用いて各素子の遅延時間を補正しながら遅延加算する。
検波・対数変換手段262は、超音波画像再構成手段261が出力する各ラインのデータの包絡線を生成し、その包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げる。超音波画像構築手段263は、対数変換が施された各ラインのデータに基づいて、超音波画像を生成する。超音波画像生成手段26における超音波画像の生成は、信号が反射音響信号であることを除けば、光音響画像生成手段25における光音響画像の生成と同様でよい。
悪性度分布画像生成手段28は、光音響画像再構成手段251で再構成された光音響信号(光音響画像)と、音速分布生成手段27で生成された音速分布とに基づいて、悪性度が高いと考えられる部分の分布を示す悪性度分布画像を生成する。ここで、光音響画像において信号強度が高い個所は、光吸収体、例えば血管が密集しているところであると考えられる。一方、音速分布において音速が速い個所は、組織が硬くなっているところであると考えられる。そこで、本実施形態では、特に、光音響画像の強度が強く、かつ、音速が速い部分を、悪性度が高いと考えられる部分として推定し、その部分を画像化した悪性度分布画像を生成する。
画像合成手段29は、悪性度分布画像生成手段28で生成された悪性度分布画像と、超音波画像生成手段26で生成された超音波画像とを合成する。画像合成手段29は、更に、光音響画像生成手段25で生成された光音響画像を合成してもよい。画像合成手段29は、例えば超音波画像に対して光音響画像と悪性度分布画像とを重畳することで、画像合成を行う。画像表示手段14は、画像合成手段29で合成された画像を、表示モニタなどに表示する。画像合成を行わずに、画像表示手段14に、悪性度分布画像と光音響画像と超音波画像と切り替えて表示してもよい。あるいは、悪性度分布画像と光音響画像と超音波画像とを並べて表示してもよい。
光音響信号と反射音響信号の取得シーケンスについて説明する。図2は、データ取得シーケンス例を示す。同図において、モード「US」は反射音響信号の取得を表し、モード「PA」は光音響信号の取得を表している。ここでは、プローブ11は、音響波検出器素子及び音響波送信素子として、1次元配列された128素子の超音波振動子を有しているものとする。
光音響信号の取得では、レーザユニット13からの光を被検体に照射した後に、64素子ずつ光音響信号の取り込みを行う。すなわち、計128素子のデータを2回に分けて取得する。例えば、1回目のレーザ発光後に素子番号が1−64素子の超音波振動子で検出された光音響信号を取得し、2回目のレーザ発光後に素子番号が65−128素子の超音波振動子で検出された光音響信号を取得する。一方、反射音響信号の取得では、64素子の超音波振動子から超音波の送信を行った後に、その64素子の超音波振動子で反射音響信号を取得する。なお、一次元配列された超音波振動子の端部では、64素子よりも少ない数の素子で超音波の送受信を行う。反射音響信号の取得では、超音波の送受信を行う超音波振動子の範囲(開口位置)を1素子ずつずらしながら、ラインbyラインで反射音響信号を取得する。
図2のシーケンス例では、光音響信号の取得2回に対して、反射音響波信号を128回行っている。これは、前述のように光音響波は64素子ずつの2エリアに分けてデータを取得しているのに対して、反射音響波は1回の送受信で1ラインを生成するために128ラインの生成には128回の送受信が必要だからである。その際、時間的な律速となるのはレーザ光源の繰り返しであるため、1つ目のエリアの光音響のデータ取得と2つ目のエリアの光音響のデータ取得との間に64回の超音波を送受信することで、最も効率よく両者のデータが取得できる。より詳細には、装置はUSモードで動作を開始し、ライン1からライン31まで開口位置を1素子ずつずらしながら(ライン1からライン31は端部であるため、実際には1素子ずつ開口素子を広げながら)超音波の送受信を行い、反射音響信号を取得する。次いで、PAモードに移行し、レーザユニット13からのレーザ光を被検体に照射して、1つ目のエリアに対応する64素子で光音響信号を検出する。次いで、USモードで、ライン32からライン95まで開口位置を1素子ずつずらしながら超音波の送受信を行い、反射音響信号を取得する。その後、PAモードに移行してレーザユニット13からのレーザ光を被検体に照射し、2つ目のエリアに対応する64素子で光音響信号を取得する。続いて、USモードで、ライン96からライン128まで開口位置を1素子ずつずらしながら(ライン95からライン128は端部であるため、実際には1素子ずつ開口素子を狭めながら)超音波の送受信を行い、反射音響信号を取得する。
図3は、図2のUSモードの各ラインに対応する開口素子で検出された反射音響信号を示し、図4は、再構成後の超音波画像を示す。図3において、縦軸は超音波送信からの経過時間を示している。各ライン64素子の反射音響信号(ただし端部では開口素子は64素子よりも少ない)を遅延加算(位相整合加算)することで、ライン1からライン128までの各ラインのデータが生成され、図4に示す1フレームの超音波画像を生成できる。
図5は、図2のPAモードの各エリアに対応する開口素子で検出された光音響信号を示し、図6は、再構成後の光音響信号(光音響画像)を示す。図5において、縦軸は被検体に対するレーザ光の照射からの経過時間を示している。2つのエリアの計128素子分の光音響信号を再構成することで、図6に示す光音響画像を生成できる。
なお、上記では超音波はラインbyライン、光音響は2つのエリアに分割して光音響信号を検出するものとして説明したが、超音波についても、2つのエリアのそれぞれで超音波の送受信を行い、反射音響信号を検出することとしてもよい。例えば、被検体に対して光を照射してエリア1に対応する素子番号1−64の超音波振動子で光音響信号を検出した後に、素子番号1−64の超音波振動子からフォーカスなしで被検体に対して超音波を送信し、反射音響信号を検出してもよい。エリア2についても同様に、光照射後にエリア2に対応する素子番号65−128の超音波振動子で光音響信号を検出し、次いで、素子番号65−128の超音波振動子から被検体に対して超音波を送信して反射音響信号を検出してもよい。光音響信号と反射音響信号の検出は、どちらが先でもよい。
上記では、光音響信号を2つのエリアに分割して検出することとしたが、領域分割は行わなくてもよい。例えば被検体に対して光を照射した後に、全128素子で光音響信号を検出するようにしてもよい。この場合、光照射は1回で済む。また、反射音響信号についても同様に、全128素子から例えばフォーカスなしで超音波を送信し、128素子で反射音響信号を検出してもよい。
音響信号と反射音響信号とを同じエリアで検出する場合、一方の信号の検出を開始したのち、AD変換手段22によるサンプリングを継続した状態で他方の信号を検出し、双方の信号を連続的に取得するようにしてもよい。例えば光音響信号の検出を先に行う場合、トリガ制御回路30は、光トリガ信号(フラッシュランプトリガ信号又はQスイッチトリガ信号)を出力した後、光音響信号の検出を終了するタイミングで超音波送信トリガ信号を出力する。このとき、AD変換手段22はサンプリングを中断せず、サンプリングを継続する。言い換えれば、トリガ制御回路30は、AD変換手段22がサンプリングを継続している状態で、超音波送信トリガ信号を出力する。超音波送信トリガ信号に応答してプローブ11が超音波送信を行うことで、プローブ11で検出される音響波は、光音響波から反射音響波に変わる。AD変換手段22がサンプリングを継続することで、光音響信号と反射音響信号とを連続的にサンプリングすることができる。この場合、光音響波の検出開始から反射音響波の検出終了までの間の時間を、別々にサンプリングする場合に比して短縮することができ、双方の画像を重畳して表示する際に、画像間の位置ずれを抑制することができる。
ここで、AD変換手段22が光音響信号と反射音響信号とを同一のサンプリングレートでサンプリングする場合には、反射音響信号を1/2にリサンプルするリサンプル手段を設けるとよい。1/2リサンプル手段は、例えば反射音響信号を時間軸方向に1/2に圧縮する。リサンプルを行う理由は、被検体内の深さ方向の同じ位置で光音響信号及び反射音響信号が発生したとすると、反射音響信号の場合は、プローブ11から送信された超音波がその位置まで進むまでに要する時間が必要なため、超音波送信から反射音響信号検出までの時間が、光照射から光音響信号検出までの時間の倍の時間となるためである。つまり、光音響信号は片道分の時間で検出されるのに対し、反射音響信号は往復分の時間がかかるためである。リサンプルを行うのに代えて、反射音響信号検出時のAD変換手段22のサンプリングレートを、光音響信号検出時のサンプリングレートの半分に制御してもよい。
続いて、音速分布の生成について説明する。図7は、プローブの超音波振動子と被検体内の光吸収体とを示す。同図において、横軸方向は一次元配列された超音波振動子の配列方向を表し、縦軸は被検体の深さ方向を表している。斜線で示す領域は、反射音響信号検出時の開口素子を表す。開口素子の直下には反射体45が存在する。開口素子を形成する例えば64素子から被検体の深さ方向に超音波を送信し、反射体45からの反射音響波を検出することを考える。
図8は、開口素子で検出された反射音響信号の時間分布に示す。同図において、縦軸は超音波送信からの経過時間を表している。同図に示すように、開口内の各素子で検出される反射体45(図7)からの反射音響信号の検出時刻は、開口内における反射体45の位置と、各超音波振動子との位置関係に応じて変化する。図9は、再構成された1ライン分のデータを示す。図8に示す64素子分の反射音響信号を遅延加算することで、反射音響信号が1点に収束する、超音波画像の1ライン分のデータが得られる。一連の処理を各ラインに対して行うことで、1フレームの超音波画像が生成できる。
図10は、被検体内の音速が一定ではないときの反射音響信号の時間分布を示す。図8に示す反射音響信号を再構成する際に、被検体内の音速が想定音速に一致しており、かつ、音速が被検体内の位置に依存して変化しなければ、反射音響信号を遅延加算する際に各素子に与える遅延時間は、反射体と各素子との位置関係から一義的に定まる。しかし、音速が均一でない場合、検出された反射音響信号の時間分布は、図10に破線で示すように、実線で示す音速が均一である場合からずれる。その場合、遅延加算する際に均一な想定音速を仮定した理想的な遅延曲線で遅延しても、反射音響信号を1点に収束させることができなくなる。そこで、検出された反射音響信号が1点に再構成されるような仮想音速値を求める。仮想音速値を各画素について求めていくことで、被検体内の音速分布が求まる。
図11は、音速分布を求める際の動作手順の一例を示す。ここでは、反射音響信号を、時間軸を深さ方向の位置に置き換えた画像とみなして説明する。音速分布生成手段27は、ある素子のある時間軸方向の位置(ある画素)における反射音響信号の信号強度が所定の値以上であるか否かを判断する(ステップA1)。音速分布生成手段27は、信号強度が所定の値以上のとき、その画素(着目画素)について位相を計算する(ステップA2)。音速分布生成手段27は、ステップA2では、例えば被検体内の音速分布を仮定し、その仮定に基づいて、着目画素に対応する素子をほぼ中心に含む開口素子のそれぞれに対して、遅延加算を行う際の遅延時間を設定する。
音速分布生成手段27は、ステップA2で計算した位相に基づいて、開口素子内の反射音響信号を遅延加算した際の画素の輝度値(再構成された信号の信号強度)を評価する(ステップA3)。音速分布生成手段27は、ステップA3で評価した輝度値が最大値であるか否かを判断する(ステップA4)。最大値でない場合は、ステップA2に戻り、異なる音速分布を仮定して位相を計算し直す。音速分布生成手段27は、ステップA4で輝度値が最大になったと判断するまで、ステップA2とステップA3を繰り返し実行し、最大輝度値を与える位相を求める。
音速分布生成手段27は、ステップA4で輝度値が最大であると判断すると、着目画素における位相データ(位相分布)をメモリなどの記憶手段に格納する(ステップA5)。音速分布生成手段27は、例えば輝度値が最大になるときの、開口素子のそれぞれに与える遅延時間の情報を、着目画素における位相データとして記憶手段に格納する。遅延時間情報に代えて、着目画素から各素子に向かう方向の音速のデータを、位相データとして格納してもよい。また、各素子に与える遅延時間又は各素子に向かう方向の音速データを、所定の関数(例えば二次関数以上の関数)で近似した際の関数パラメータを、位相データとして記憶手段に格納してもよい。
音速分布生成手段27は、全ての画素を処理したか否かを判断する(ステップA6)。未処理の画素が残っているときはステップA1に戻り、次の画素について、輝度値が所定の値以上であるか否かを判断する。ここで、輝度値が所定の値よりも小さいと判断された画素は、位相の変化に対する輝度値の変化が評価できない。従って、ステップA1で輝度値が所定の値よりも小さいと判断された場合は、位相計算を行わずに、輝度値が所定の値以上となる画素が選択されるまで、ステップA1を繰り返す。
音速分布生成手段27は、ステップA6で未処理の画素がないと判断すると、ステップA5で格納された位相データに基づいて、音速分布を生成する(ステップA7)。位相データに基づく音速分布の生成(推定)には、既知の手法を用いることができる。
音速分布生成手段27は、音速分布に基づく位相データを、音速補正テーブルとして光音響画像再構成手段251と超音波画像再構成手段261とに出力する。光音響画像再構成手段251は、音速補正テーブルに基づく遅延時間で、光音響信号を遅延加算する。また、超音波画像再構成手段261は、音速補正テーブルに基づく遅延時間で、反射音響信号を再構成する。音速分布生成手段27から音速補正テーブルを出力するのに代えて、音速分布のデータを光音響画像再構成手段251と超音波画像再構成手段261とに出力し、それら手段において音速分布データに基づく遅延時間で遅延加算を行うようにしてもよい。
音速分布の求め方は、上記したものには限定されない。例えば特許文献3に記載された方法と同様な方法で局所音速値を計算し、その分布を求めることとしてもよい。すなわち、ホイヘンスの原理を用いて、被検体内の着目領域よりも浅い領域に設定された格子点と着目領域とにおける最適音速値を判定し、着目領域における最適音速値に基づいて、超音波を着目領域に送信したときに着目領域から受信される受信波を演算し、着目領域における仮定音速を仮定して、仮定音速に基づいて各格子点における最適音速値から求めた各格子点からの受信波を合成して合成受信波を得て、受信波と合成受信波に基づいて着目領域における局所音速値を判定することで局所音速値を求め、その分布を求めてもよい。
引き続き、動作手順を説明する。図12は光音響画像処理装置の動作手順を示す。トリガ制御回路30は、超音波送信トリガ信号を送信制御回路31に出力する。送信制御回路31は、超音波送信トリガ信号を受け取ると、プローブ11から超音波を送信させる(ステップB1)。プローブ11は、超音波の送信後、送信した超音波に対する反射音響信号を検出する(ステップB2)。プローブ11が検出した反射音響信号は、受信回路21を介してAD変換手段22に入力される。AD変換手段22は、反射音響信号をサンプリングしてデジタルデータに変換し、受信メモリ23に格納する。
続いて、トリガ制御回路30は、フラッシュランプトリガ信号をレーザユニット13に出力する。レーザユニット13では、フラッシュランプトリガ信号に応答してフラッシュランプ41が点灯し、レーザ媒質の励起が開始される。トリガ制御回路30は、Qスイッチトリガ信号をレーザユニット13に送り、Qスイッチ42をオンさせることで、レーザユニット13からパルスレーザ光を出射させる(ステップB3)。トリガ制御回路30は、例えばフラッシュランプトリガ信号を出力するタイミングと所定の時間関係にあるタイミングでQスイッチトリガ信号を出力する。例えばトリガ制御回路30は、フラッシュランプ発光から150μ秒後に、Qスイッチトリガ信号を出力する。
レーザユニット13から出射したレーザ光は、被検体に照射される。被検体内では、照射されたパルスレーザ光による光音響信号が発生する。プローブ11は、被検体内で発生した光音響信号を検出する(ステップB4)。プローブが検出した光音響信号は、受信回路21を介してAD変換手段22に入力される。AD変換手段22は、光音響信号をサンプリングしてデジタルデータに変換し、受信メモリ23に格納する。なお、反射音響信号と光音響信号の検出は、どちらを先に行ってもよい。また、例えば図2に示すシーケンスに従って、反射音響信号と光音響信号とを交互に検出するようにしてもよい。
データ分離手段24は、受信メモリ23から光音響信号を読み出し、読み出した光音響信号を光音響画像生成手段25に与える。また、受信メモリ23から反射音響信号を読み出し、読み出した反射音響信号を超音波画像生成手段26と音速分布生成手段27とに与える。音速分布生成手段27は、データ分離手段24から受け取った反射音響信号に基づいて、音速分布を生成する(ステップB5)。
光音響画像生成手段25は、データ分離手段24から受け取った光音響信号に基づいて、光音響画像を生成する(ステップB6)。その際、光音響画像生成手段25は、ステップB5で生成された音速分布に基づく遅延時間で各素子の光音響信号を遅延加算する。被検体内部の位置に応じた音速の違いを考慮した再構成を行うことで、音速の分布が均一でない場合でも、1つの光音響波の発生源から出た光音響信号を光音響画像上の1つの点に収束させることができる。
超音波画像生成手段26は、データ分離手段24から受け取った反射音響信号に基づいて、超音波画像を生成する(ステップB7)。その際、超音波画像生成手段26は、ステップB5で生成された音速分布に基づく遅延時間で各素子の反射音響信号を遅延加算する。被検体内部の位置に応じた音速の違いを考慮した再構成を行うことで、音速の分布が均一でない場合でも、1つの反射音響波の発生源から出た反射音響信号を超音波画像上の1つの点に収束させることができる。
悪性度分布画像生成手段28は、光音響画像生成手段25から光吸収体の分布を表す光音響画像を入力し、音速分布生成手段27から音速の分布を表す音速分布(音速マップ)を入力する。なお、図1では、光音響画像再構成手段251が再構成した光音響信号を光吸収体の分布を表すデータとして悪性度分布画像生成手段28に入力しているが、これに代えて、検波・対数変換手段252が出力する検波・対数変換後の光音響信号、又は、光音響画像構築手段253が生成した光音響画像を、光吸収体の分布を表すデータとして入力するようにしてもよい。
悪性度分布画像生成手段28は、光音響画像と被検体内の音速分布とに基づいて、悪性度が高いと考えられる部分の分布を示す悪性度分布画像を生成する(ステップB8)。悪性度分布画像生成手段28は、例えば音速が周囲に比して速いか又は所定の値よりも高く、かつ、再構成された光音響信号(光音響画像)の信号強度が所定の値以上の箇所を、悪性度が高い部分として特定し、その部分の分布を示す悪性度分布画像を生成する。悪性度分布画像生成手段28は、音速と光音響画像の信号強度のうちの少なくとも一方に応じて、悪性度が高い個所として特定された箇所に対応する画素の輝度又は表示色の少なくとも一方を変化させてもよい。
画像合成手段29は、超音波画像と悪性度分布画像とを合成し(ステップB9)、画像表示手段14の表示画面上に合成画像を表示させる。例えば悪性度分布画像生成手段28が、悪性度が高い部分として特定された部分を赤色で表示するような悪性度分布画像を生成し、超音波画像にそのような悪性度分布画像を重畳させることで、ユーザに悪性度が高い部分を明示するようにしてもよい。その際、例えば音速と光音響画像の信号強度とに応じて、音速が速いか又は光音響画像の信号強度が大きいほど、悪性度分布画像における輝度値を高くするようにして、より悪性度が高いと考えられる部分が目立つようにしてもよい。あるいは、音速と光音響画像の信号強度とに応じて、青色から赤色へと段階的に表示色が変化するカラーマップを用いて、悪性度分布画像における画素の色を決定するようにしてもよい。
本実施形態では、光音響画像と音速分布とに基づいて、悪性度分布画像を生成する。ユーザは、光音響画像を観察することで光吸収体の分布を知ることができ、一方、音速分布を観察することで被検体内の音速が速いところと遅いところを知ることができる。光音響画像と音速分布とを組み合わせ、光吸収体の分布と音速とが一定の基準を満たす部分を悪性度が高いと考えられる部分として特定し、その部分を悪性度分布画像で表示する。本実施形態では、特に、光音響画像の信号強度が高く、かつ、音速が速い部分を悪性度が高い個所として特定することができる。このようにする場合、医師などのユーザは、悪性度分布画像を観察することで、光吸収体が密集し、かつ、組織が硬化している部分を容易に発見することができる。このように、本実施形態では、光音響で得られた情報と音速分布とを組み合わせ、医師などのユーザに対して、診断等に有用な情報を提供できる。
ユーザは、例えば超音波画像上で、腫瘍などの病変を識別する。超音波画像に対して悪性度分布画像を重畳することで、ユーザは、病変に対応する部分の悪性度を把握することができる。超音波画像からの病変の抽出は、超音波ユニット12が行ってもよい。例えば悪性度分布画像生成手段28は、超音波画像生成手段26から超音波画像を入力し、超音波画像から腫瘍などの病変部を抽出する。腫瘍抽出の手法は特に問わない。例えばパターン認識と輝度とを組み合わせて、超音波画像から腫瘍を抽出する。悪性度分布画像生成手段28は、抽出された病変部に対応する領域について、悪性度分布画像を生成する。この場合、ユーザは、悪性度分布画像を観察することで、超音波画像で腫瘍などが認められる部分について、その悪性度を判定することができる。
なお、光音響画像の生成に際しては、レーザユニット13を複数の波長の光を出射可能に構成し、レーザユニット13から被検体に相互に異なる複数の波長のレーザ光を照射してもよい。その場合、光音響画像生成手段25は、被検体内の光吸収体における光吸収特性の波長依存性を利用して、例えば動脈と静脈とが判別可能な光音響画像を生成してもよい。
例えば被検体に対して波長約750nmの光と、波長約800nmの光を照射する。ヒトの動脈に多く含まれる酸素化ヘモグロビン(酸素と結合したヘモグロビン:oxy-Hb)の波長750nmにおける分子吸収係数は、波長800nmにおける分子吸収係数よりも高い。一方、静脈に多く含まれる脱酸素化ヘモグロビン(酸素と結合していないヘモグロビンdeoxy-Hb)の波長750nmにおける分子吸収係数は、波長800nmにおける分子吸収係数よりも低い。この性質を利用し、波長800nmで得られた光音響信号に対して、波長750nmで得られた光音響信号が相対的に大きいのか小さいのかを調べることで、動脈からの光音響信号と静脈からの光音響信号とを判別することができる。
図13は、2つの波長の光を被検体に照射する場合の光音響画像生成手段の構成例を示す。光音響画像生成手段25aは、光音響画像再構成手段251、検波・対数変換手段252、及び光音響画像構築手段253に加えて、2波長データ演算手段254と強度情報抽出手段255と有する。光音響画像再構成手段251は、被検体に第1の波長の光が照射されたときの光音響信号(第1の光音響信号)と、第2の波長の光が照射されたときの光音響信号(第2の光音響信号)とを、それぞれ再構成する。光音響画像再構成手段251は、再構成した第1の光音響信号及び第2の光音響信号を、2波長データ演算手段254と強度情報抽出手段255とに渡す。
2波長データ演算手段254は、被検体に照射された複数波長の光のそれぞれに対応した光音響信号間の相対的な信号強度の大小関係を示すデータを生成する。2波長データ演算手段254は、例えば第1の光音響信号と第2の光音響信号との比を、相対的な信号強度の大小関係を示すデータとして生成する。例えば、第1の光音響信号の信号強度をXとし、第2の光音響信号の信号強度をYとしたとき、Y/Xを、相対的な信号強度の大小関係を示すデータとする。2つの光音響信号の比(Y/X)を相対的な信号強度の大小関係を示すデータにするのに代えて、tan−1(Y/X)を相対的な信号強度の大小関係を示すデータとして用いてもよい。
強度情報抽出手段255は、各波長に対応した光音響信号に基づいて信号強度を示す強度情報を生成する。強度情報抽出手段255は、例えば(X2+Y2)1/2を、強度情報として生成する。検波・対数変換手段252は、強度情報抽出手段255で抽出された強度情報を示すデータの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げる。
光音響画像構築手段253は、2波長データ演算手段254で生成された2波長データの相対的な大小関係の情報と、強度情報抽出手段255で生成された強度情報とに基づいて、光音響画像を生成する。光音響画像構築手段253は、例えば入力された強度情報に基づいて、光吸収体の分布画像における各画素の輝度(階調値)を決定する。また、光音響画像構築手段253は、例えば位相情報に基づいて、光吸収体の分布画像における各画素の色(表示色)を決定する。光音響画像構築手段253は、例えば相対的な大小関係を示すデータの範囲を所定の色に対応させたカラーマップに用いて、入力された大小関係を示すデータに基づいて各画素の色を決定する。
光音響画像構築手段253は、例えばtan−1(Y/X)を光音響信号間の相対的な大小関係を示すデータとしたとき、例えば0°が赤色で45°に近づくに連れて無色(白色)になるように色が徐々に変化すると共に、90°が青色で45°に近づくに連れて白色になるように色が徐々に変化するようなカラーマップを用いて光音響画像を生成する。第1の光音響信号が第2の光音響信号よりも大きい部分は動脈に対応し、第2の光音響信号が第1の光音響信号よりも大きい部分は静脈に対応するため、そのようなカラーマップを用いることで、光音響画像上で、動脈に対応した部分を赤色で表わし、静脈に対応した部分を青色で表わすことができる。
上記では、2つの波長の光が照射される例について説明したが、光音響画像の生成に際して被検体に照射されるパルスレーザ光の波長の数は2つには限られない。3以上のパルスレーザ光を被検体に照射し、各波長に対応する光音響信号に基づいて光音響画像を生成してもよい。
また、上記実施形態では、音速分布生成手段27が、反射音響波に基づいて音速分布を生成する例について説明したが、これには限定されず、音速分布生成手段27は、反射音響波及び光音響波の少なくとも一方に基づいて音速分布を生成すればよい。例えば音速分布生成手段27は、データ分離手段24から光音響信号(光音響データ)を受け取り、光音響信号に基づいて音速分布を生成する。音速分布生成のアルゴリズムには、反射音響波に基づく音速分布生成と同様なアルゴリズムを用いることができる。
音速分布を生成する際に使用する音響波の検出信号は、1回分の音響波送信に対して検出された反射音響信号、又は、1回分の光照射により生じた光音響信号には限定されない。例えば、超音波送信を複数回行い、複数回分の反射音響信号を加算平均して音速分布を生成してもよい。また、光照射を複数回行い、複数回分の光音響信号を加算平均して音速分布を生成してもよい。超音波画像及び光音響画像の生成も、同様に、加算平均された反射音響信号及び光音響信号に基づいて画像生成を行ってもよい。
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の光音響画像処理装置及び方法は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。