JP5839426B2 - ガス交換膜、高清浄部屋システムおよび建築物 - Google Patents

ガス交換膜、高清浄部屋システムおよび建築物 Download PDF

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Description

この発明は、内部で人が就寝・寛ぎ・作業・労働等の日常生活/活動を行う、家屋・ビルディング等の建物に含まれる部屋に関するもので、当該生活/活動スペースの、建物全体に対する体積比率を下げることなく、内部の粉塵や菌などのダスト微粒子の数を一定以下に維持したり、外部からこれらの混入のないクリーンエア(空気)環境を実現することができ、居住、静養、実験、製造・塗装作業、養護活動、医科/歯科治療等の場として用いて好適な高清浄部屋システムおよびその製造方法ならびに建築物ならびにこれらに用いて好適な壁に関するものである。
人類は、現在コンピュータ技術の発展に伴い、情報処理・通信環境に関しては、有史以来かつて無い高度で便利な環境を実現し、いわば脳にとっては刺激的かつ申し分のない良好な場を実現していると言えようが、反面、体にとっての環境としては、汚染物質の増加や空気中の塵埃、感染性の細菌の浮遊等、現代社会は必ずしも良好な環境とは言い難い。
クリーン環境としては、大規模な半導体製造として従来から存在している。しかし、これは、プロユース、つまり工業用であり、一般住宅などに用いられるいわゆる民生用としては導入されていない。かつて計算機の世界で、ビジネス用大型コンピューターメインフレームと一線を画する形で、”Computer for the rest of us ”を掲げてパーソナルコンピューターが勃興したように、21世紀に入り、環境の重要性が益々高まる中、パーソナルコンピューターの“クリーン環境版”というものが現れても良い。事実、高性能化されて久しい大規模クリーンルームというまさに“メインフレーム”の対極にあるパーソナルクリーンスペースというのは、今後、純粋な民生用に限らず、病院や養老施設等の感染症のリスク回避が重要な場面で必ず重要になってくる。コンスーマー(consumer)の世界にクリーンスペースをもたらすことは、“the rest of us”を超えて、“for all of us”ということで、大変重要である。然るに、このような従来のクリーンルームと一線を画するパーソナルな清浄環境を、一般の生活環境にも導入することは、以下に述べる通り、現状では容易ではない。科学の発展や産業技術高度化を可能とし、多大な貢献をした[内包ガス分子制御に関しての]真空チェンバーに対応して、[塵埃からマイクローブ(microbe)迄、あらゆる空気中を漂う(airborne) 物質に関して、ゼロにすることから、逆に所望のもののみを適切な濃度に制御することのできる]スケーラブル(scalable)で高性能な“空気環境制御装置”を確立することは、我々に課せられた急務である。これにより、バイオサイエンスの発展や医療・療養・養護産業技術の高度化が可能となる。特に、PM2.5問題、更には、生活空間の微生物存在(microbial)環境(マイクロビアル環境)も含めて空気環境を制御することは、このように今後益々重要となってくる。
従来の一般的な住宅を見てみよう。図54はその一例を示す斜視図である。図55は、従来の一般的な住宅の別の一例の断面を示した図である。
図54に示すように、住宅100は、基礎104上に壁101に囲まれて形成された居住部105を有し、居住部105の上部を覆うようにして屋根103が形成されることで風雨、塵埃などの侵入を防いでいる。壁101の少なくとも一枚には窓102を有する。また、図55に示すように、この住宅100においては、上記に示したものと同様に基礎104上に、壁101に囲まれて形成された居住部105を有し、居住部105の上部には居住部105全体を覆うようにして屋根103が設けられている。また、居住部105と屋根103との間に天井裏107bおよび居住部105と基礎104との間に床下107aの二つの空間がそれぞれ設けられ、これらの空間は、例えば、断熱、外気の導入などの役割を有している。
居住部105は、複数の壁101で囲まれて構成されており、例えば、壁101を複数の側壁、天井壁、床壁などとして囲むことで居住部105を構成している。居住部105は、例えば、居住部105内に設けられた間仕切り壁101dなどによって分割され、これによって部屋105a、廊下105bなどが形成され、部屋105aによって囲まれた空間は居住空間106となる。また、間仕切り壁101dはドア108を有する。居住空間106はできるだけ広くなるよう間取りされ、居住空間106と外部空間とは、例えば、床下107a、天井裏107bなどより外気が導入され、部屋内部と外界とは、基本的に空気の導通のある状態にある。
次に、居住スペースを仕切る壁について考察する。図56は、従来の一般的な住宅の壁の施工例を示す斜視図、図57および58は、マンションやビルなどの壁の施工例を示した斜視図である。
図56に示すように、壁101は、一定間隔を置いて内壁101aと外壁101bとを対向させて設け、内壁101aと外壁101bとで挟まれる空間内に間柱108が設けられることによって補強されており、残りの空間が、ほぼ全て断熱材109によって隙間無く充填されている。壁101は、このような構造を有することで重量を抑えるとともに、壁の構造を中身の詰まった中実構造とすることで、断熱、防音効果を高めつつ壁の強度を維持することができる。また、図57に示すように、この壁101の一例においても鉄筋110を内部に有するコンクリートなどで構成された外壁101bと、壁紙101cが設けられた内壁101aとで挟まれる部分には、断熱材109が隙間無く充填されている。また、図58に示すように、この例においても、床スラブ上111上に鉄筋110を有する壁101が設けられており、壁101は中身の詰まった中実構造を有している。このように、従来における住宅、マンション、ビルなどの建築物の壁は、一般的には、固体壁のような中実構造を有していた。一方で、単一壁による壁の重量を抑えるために、住宅などにおいて薄い外壁に対して薄い内壁を設ける場合がある。しかしながら、壁の強度の確保、断熱、防音などの効果を高めるため、従来においては、外壁と内壁の間には補強材、断熱材などが隙間無く充填され、結局この場合においても多層構造を往々にして有し、基本的に、中身のつまった中実構造を有することとなっている。また、従来における中空壁は、例えば、これは2階建て、3階建て等の木造建築における階上の部屋の総重量を下げるべく、できるだけ壁を軽くするためといった意味合いが強く、壁を意図的に中空にし、その中空性を、その壁の接する部屋の清浄度向上に向けて、積極的に利用したものはこれまで無かった。
かかる状況の一方で、国交省は、上述の在来住宅の一般的状況から一歩踏み出すべく、地域性を生かした住宅の促進を打ち出している。また、林野庁も地域材を活用した住まい造りの支援をし始め、省エネ住宅・長期優良住宅へ舵が切られている。また、日本の気候風土に適し、千年数百年以上に亘る歴史に培われた真壁・和瓦の再評価も高まっている。技術の蓄積によって導き出された長期優良住宅の基準としては、耐震性、劣化対策性、省エネルギー性、維持管理対策性の4つがあげられている(例えば、非特許文献1参照。)。これに呼応して、省エネルギー・スマートハウスのコンセプトも日本の住宅メーカー各社から出てきた(例えば、非特許文献2、非特許文献3参照。)。また、一方で、風の通り道ができるような住宅の重要性が指摘されている。
しかしながら、このスマートハウスのコンセプトは、電力を主な対象としたエネルギーマネジメントが主であり、風の通り道改良のコンセプトも、涼風制御といった主に空調の観点での提示に留まっている。
また、一般の住宅、ビルにおけるオフィスなどでも、清浄な環境はますます重要度を増し、需要も高まっている。その理由は、花粉症の対策はもとより、インフルエンザの流行などに対して、家の中に万が一これらの原因物質が持ち込まれた場合においても、すみやかに除去・抑制する必要性が高いからである。
しかしながら、上述の状況から分かる様に、部屋の革新的・本質的性能向上はままならなかった。これは、建物全体に対する生活/活動スペースである部屋の体積比率を、部屋の堅牢さを維持しつつ、できるだけ大きくとることが原則として望まれるものの、在来建築では部屋と外界とは、気流の出入り、即ち、内外のマスフローとしての空気の導通のある状態にある。このことから、部屋の清浄度は基本的には外界のそれと平衡状態にあり、残念ながら、外界とほぼ同等か、排気ガス・ばい煙、土ぼこり等の無い分それよりわずかに良好な程度に留まる。
このような状況では、上記の優れた技術思想であるスマートハウス構想も看板倒れと揶揄されかねず、クオリティオブライフ(quality of life )の向上は相当に困難である。しかしながら、老齢人口比率が増大する日本において、そして遠からず世界の各国において清浄環境を必要とする状況は、益々その度合いが強まり、その導入に待ったなしの状況となると予測される。
例えば、喘息やアトピー性皮膚炎のようなアレルギー疾患患者は近年特に増加の一途を辿っており、このアレルギー性の気道炎症による喘息は、外から侵入する抗原や病原体などの様々な刺激により、引き起こされると考えられている。喘息の発症には、気道上皮細胞のバリア機能の脆弱性が関係している可能性が指摘されている。気道上皮のバリア機能は、細胞の立体構造と細胞間を結ぶ蛋白の機能によって規定される。バリア機能が脆弱な場合は、通常よりも外から物質が侵入しやすく、気道上皮の炎症反応がより一層激しくなる。バリア機能が脆弱な患者の気道上皮細胞が度重なるウイルス感染や炎症により傷害され、修復が正常に行われないことで、免疫機能の変調や環境物質に対する過敏性の発現、慢性持続性気道炎症による気道の構造変化が引き起こされている可能性があるとされている。このように、喘息のアレルギー性の気道炎症罹患者に対しては、入院時はもとより、在宅時の一般生活時においても、外から侵入する抗原や病原体などの様々な刺激をできるだけ抑えることが重要である。これを実現するためには、生活環境における空気の大幅な清浄化が必要であるが、現状の技術でかかる目標を達成するには膨大な費用がかかる。例えば、半導体プロセシングの際などに使用されるUS209Dクラス1(ISOクラス3)のクリーンルームは、スーパークリーンルームと呼ばれる高度にクリーンな空間であるが、このシステムの構築には膨大な費用がかかり、またその維持にも大きな費用がかかる。また、このような清浄環境は、医療環境、特に、インフルエンザなどの空気感染性の疾病の予防、花粉症の抑制、傷んだ呼吸器官の夜間就寝時における回復などが期待される。このような疾患を抱える患者が過ごす日常空間である住宅の部屋にクリーンな空間を導入すること、及び、そのクリーン環境のオンとオフが随意にコントロールできること、更には、そのオンとオフを短いタイムスケールで切り替えられることは、いずれも重要で、実現できれば極めて価値が高いが、現状では、残念ながら不可能である。
さらに、近年においては、花粉症の蔓延や、SARS(サーズ)や新型インフルエンザの流行の可能性、乳幼児や老齢者などの環境弱者のケアなどは喫緊の課題となっている。また、マイクローブサイエンス(microbe science)、ならびにマイクローブ(microbe)とその存在環境の制御は、最近重要性の認識が高まってきている(非特許文献:「The great indoors 」、NewScientist、13 July 2013号、p.30, 非特許文献:「Why manners matter」、NewScientist、21 September 2013 号、p.28, 非特許文献:C.Pinke 等、「Insights into the phylogeny and coding potential of microbial dark matter 」、Nature 499(2013)431)。空気中を漂う無機・有機の塵埃のみならず、生活空間の微生物存在(microbial)環境も含めて空気環境を制御することは益々重要となってきており、それを具現化する技術・装置の実現が喫緊の課題である。
かかる状況で、居住空間の清浄度を上げるという目標を達成するには、所謂クリーンルームの導入が考えられる。即ち、上述したように、一般的な住宅においては、周囲を壁に囲まれることによって居住空間である部屋を形成するが、この部屋を一段目の構造体とし、その中に、更にもう一つ入れ子の部屋を作りこむ。そうすることで、少なくとも清浄度を上げたいと着目している入れ子の内部空間に対しては、通常のクリーンルームの構成を持ち込むことによって、その清浄度を向上させることが在来技術の範疇で実現出来る。
図59は、従来における典型的なクリーンルームを示した図面代用写真である。また、図60はこのクリーンルームの構造を示した断面図である。図59および図60に示すように、このクリーンルーム200は、既設の建築物201を一段目の空間として、内部にクリーンルームとなる作業室202を二段目の空間として入れ子構造で設けた2重の部屋を有するクリーンルームである。作業室202は建築物201の屋根203の内部空間側の面である天井203aから吊元204を確保し、作業室202の天井206に補強材を入れることにより、作業室202の内部に柱の無い空間を作り上げている。作業室202の天井206にはファン・フィルターユニット205が設けられており、吸入口207から吸入され、ファン・フィルターユニット205で濾過された外部の空気が、導入口208から清浄部屋である作業室202内へ導入される。これによって、作業室202内部の圧力は外部に対して相対的に陽圧となり、ファン・ フィルターユニット205を経て作業室202内へ導入された空気が、室内の塵埃と共に、排出口209から、相対的に圧力の低い外部へ漏出することで、作業室202の内部をクラス1〜100程度の高清浄環境に維持する構造となっている。このように、クリーンルーム200は天井と四方の側壁が2重になっている。また、ここでは図示しないが、より高度な半導体用のクリーンルームでは、さらに床も2重にして、層流によるより高度な清浄度を実現すると共に、床下にも配管やメンテナンススペースを配することを可能とする場合がある。この場合、作業室202を形成する部屋が直方体の場合には、その直方体の6面の全てが2重化していることになる。また、従来のクリーンルームでは、外側(一段目)の部屋と内側(二段目)の部屋であるクリーンルームとの間に、膨大な空間が存在する。一段目の部屋からすると、大きな面積および/または体積のロスであるが、通常は、この一段目と二段目の間のスペースを、メンテナンススペースとして活用し、面積および/または体積の減少ロスをできるだけ挽回するのが常套手段である。
上記において示したように、従来のクリーンルームは、建屋の内部空間にクリーンな空間となる作業室を入れ子の構造で作る。このため、建屋の壁と、この作業室の壁との間に、人が入れるような余分のスペースが出来てしまう。このスペースは、例えば、半導体工場などで用いられる産業用、いわゆるプロユースの仕様では、メンテナンス空間や作業スペースとして有効利用されている。しかしながら、上記の従来型のクリーンルーム構造を民生応用し、清浄度を上げるべく民家やビルの一室に導入することは、極めて困難でかつ実用性に乏しかった。その理由は、仮に、この従来型のクリーンルーム構造を一般住宅などに導入するとなると、その入れ子構造性の為、建物全体に対する生活/活動スペースの体積比率を著しく下げてしまうことにある。これでは、ただでさえ、狭苦しい日本の住宅事情において、民家やビルの一室に従来型のクリーンルーム構造を導入するのは事実上不可能といっていい。
また、上述したスマートハウスに代表される、未来型ハウスの例は、構造面からいえば、上述の在来型クリーンルームのように部屋の中に部屋をつくる二重構造である入れ子構造性を有しない単純一重構造に相当する。このような一重構造の壁しか持たない一般の住宅、ビルにおけるオフィスなどでも、清浄な環境はますます重要度を増していることは上述したとおりである。さらに、民家やビルの一室に、上述した従来のクリーンルーム構造を導入することの、さらなる難点は、清浄度を上げようとクリーンルーム構造を導入した部屋とその周りの部屋の間に、圧力差が生じてしまうことである。これは、即ち、クリーン化している部屋からその周りに塵埃を含む空気が、常に、漏出している事態となる。部屋内の空気を外界に放出することは特に問題が生じないと思われるかもしれないが、四季のある日本においては、春や秋はともかく、夏や冬において部屋内の空気を外界に排出することは、同量を外界より吸引することを意味するので、冷暖房で室温を保つことが極めて割高となり、清浄環境を維持することが大変難しくなる。実際、日本を含む世界の一般住宅の中で、部屋と部屋の間、或は部屋と廊下等の間で圧力差があるものというのは存在せず、クリーン環境を一般住宅に持ち込むために、在来クリーンルーム技術を導入することには大きな無理がある。
特に、産業用途への応用を旨とするクリーンルームには、4つの原則があり、この原則を遵守することによって高清浄環境が実現される。この4つの原則とは、
第一に、持ち込まない、
第二に、発生させない、
第三に、堆積させない、
第四に、排除するである。
即ち、第一の「持ち込まない」とは、クリーンルーム内に入る場合に、例えば、材料、機器は、洗浄して持ち込むこと、室圧制御、つまり、室内から室外への気流を維持すること、人の出入りはエアーシャワーより行うなどをすることが挙げられる。第二の「発生させない」とは、クリーンルーム内で活動する場合に、例えば、無塵衣の着用をする、発塵しやすい材料および備品は使わない、ムダな動きを行わないことなどが挙げられる。第三に「堆積させない」とは、例えば、クリーンルームの壁と床面の接合部にカーブを設け、ごみ溜りを作らない、清掃しやすい構造に設計する、凹凸の無い設計にするなどが挙げられる。第四の「排除する」とは、例えば、クリーンルーム内における発塵部付近で排気をし、気流の妨げを極力無くすなどが挙げられる。これらの原則のうち、第一、第三および第四は、一般の居住空間はもとより養護ホーム、医科・歯科治療室などにそのまま適用可能で有効な指針であり、遵守されるべきである。しかしながら、第二の原則の遵守に関しては、内部で人が就寝・寛ぎ・作業・労働等の日常生活/活動を行う住宅や病院或は養護施設などの部屋では、基本的には人々は無塵衣ではない普通の服で活動し、部屋内部での塵の発生は、日常生活・活動の極めて自然な帰結であるので、これを抑えることはクオリティオブライフ向上と真っ向から対立し、事実上、不可能である。このことからも、在来のクリーンルーム技術を単純に一般家庭の部屋や病室等に適用することは、ほぼ完全な無理筋であることが十分見て取れる。
従来のクリーンルームが、上記の第二の原則を必要とすること、即ち、内部発生の塵埃に弱い事実は、クリーンルームに付随するファン・フィルターユニットは、外気こそ濾過するものの、決して内部で発生した塵埃を除去するものではないことに起因する。つまり、在来クリーンルームの原理は、ファン・フィルターユニットを通じて外気を濾過して得られる清浄な空気をクリーンルーム内に導入し、この清浄な空気の体積分の寄与によってクリーンルーム内に存在する塵埃の濃度を“相対的に薄める”ことで、結果としてクリーンルーム内部の清浄度を上げることで成り立っている。つまり、在来クリーンルームは内部発生の塵埃を積極的にとりに行かないという意味で、内部発生の塵埃に対して極めてパッシブなやり方で清浄度を上げているに過ぎない。このようなパッシブなやり方では、塵埃の内部発生が必然的に生じる一般住宅や病院の部屋、或は、塗装工場の作業室では、いわば、これらの塵埃は“野放し”になっているのであり、内部の気体ごと外に排出するしか手はなく、その清浄度を上げることが極めて難しいのは明らかである。さらに、排出される外部にとっては、いい迷惑であることは言うまでもない。この意味で、従来のクリーンルームは、外界が無限の捨て場として存在するという暗黙の前提の上に成り立っており、人間活動の飛躍的拡大により地球すら有限系であるとの認識にたって行動しなければならない21世紀の環境的世界観とは相容れないものである。有限系の認識に立って、セルフコンテインド(self-contained)に、つまり自己完結的に、外部に迷惑を掛けることなく清浄環境を実現することが、きわめて重要である。
このような状況に鑑み、従来型クリーンルームの課題であった清浄度の向上に関し、クリーンルームの清浄度を飛躍的に高めるべく、本発明者らは、100%循環フィードバック系を提案し、また、その有効性を示してきた。100%循環フィードバック系とは、塵埃フィルターから流出する気体を塵埃フィルターの吸入口に導くための気密性の気体流路をフィードバック気体流路とし、流出する気体の全てがフィードバック気体流路を通って塵埃フィルターの入口に流入するように構成されたものである(例えば、特許文献1、2および非特許文献4〜6参照)。
しかしながら、これらのクリーンシステムは、いずれも、予め設けられた部屋の中に置かれて初めて機能するものであった。清浄度では、図60において示した従来のクリーンルームに比べはるかに性能が向上したが、室内の机上において使用するような、いわゆるデスクトップにおいて利用していた。これは、既存の構造物の内部に置くという“入れ子構造性”を有するものであり、これをスケールアップしたとしても、上記に挙げたような“入れ子構造性”に伴う、建物全体に対する生活/活動スペースの体積比率を著しい減少の問題点は依然として残ってしまう。
このように、一般の民生用の部屋であることからは大きくはみ出さず、しかしながらクリーン化はしたいというニーズは多く存在する。即ち、工業用クリーンルームのような形態をとらず、入れ子構造による居住スペースの減少も回避しつつも部屋内部をクリーン化したいということである。このようなニーズの下で、手の届く手段・次善の策として、日常空間である住宅の部屋、ビルのオフィスなどに、いわゆる空気清浄器を導入して、原因物質を取り除くということがなされている。しかしながら、従来の部屋は、外部空間と部屋とが完全には隔絶されていない“半開放系”であり、あるいは、当該清浄の風量と当該部屋の換気率からすると、この“半開放系”描像が良い近似となっている場合が殆どである。即ち、上記清浄機により部屋内の塵埃が1/e(eは自然対数の底)にまで減少する時間までには、部屋の空気の大部分が入れ替わっている。また、出入り口の開閉においても、必ずしも、空気流の発生に関しては最適化されているとは言いがたかった。これらのことから、こうした空気清浄器の効果は限定的であった。上記のような状況に鑑み、所謂、花粉症、喘息はもとより、人工透析等を受けねばならない状況で免疫力の低下が見られる方々をも含む環境弱者の方々は、高いクオリティオブライフを維持するには、今後更に高い清浄度を有する空間、例えば、塵埃・菌・におい等の少ない空間が必要であり、このような空間を形成するにあたっては従来の空気清浄機などによる空気清浄のみでは役不足であった。このように、現時点で、確かに空気清浄機等の市場導入はなされているものの、定量性を持ったクリーン環境の家庭住環境の実現は、全く手がついていない。老齢医療、免疫不全対策等では、無機質的なクリーンルームにいる感覚を全く生じさせない中、例えば、見た目は全く通常の純和風の外観を有する部屋ながら、実は、病院無菌室(US209Dクラス100)はもとより、仕様によってはクラス1の清浄度をもつといった空間・住環境が使用されることが望ましいが、今までは不可能であった。
特許4934061号明細書 特許4451492号明細書 特開2006−200111号公報
「住まい文化新聞」、第21号 2012年3 月1 日、Misawa International株式会社 セキスイハイムカタログ2012年3 月。非特許文献3:Misawa International株式会社カタログhome club 1 、vol. 234、2012年1 月 http://biochemifa.kikkoman.co.jp/products/kit/atpamp/iryou/pdf/24kansan.pdf A.Ishibashi, H.Kaiju, Y.Yamagata and N.Kawaguchi : Electron. Lett.41,735(2005) H.Kaiju, N.Kawaguchi and A.Ishibashi : Rev. Sci. Instrum. 76, 085111(2005) 石橋晃、"クリーンシステムプラットフォーム"、環境と未来 to be published(2012) [平成24年9月30日検索]、インターネット〈URL:http://www.toyobo.co.jp/seihin/fb/procon/prc_09.pdf)
上述したように、見た目には全く普通の部屋でありながらスーパークリーンルーム級の清浄度を有する生活空間は実現できていないのが現状である。建物全体に対する清浄居住環境スペース( 部屋) の床面積や体積比率を下げることなく、かつまた当該清浄居住部屋から外部空間への塵埃排出を伴わず、しかしながら当該清浄居住部屋を、人々がその内部で従来慣習の下、日常生活や活動を営むことのできる環境に保ちつつ、且つ、当該部屋内部で発生する塵埃があっても、当該部屋の内部空間をUS209Dクラス100または、それ以上の清浄度に保てる、アクティブな塵埃除去をできる清浄環境システムはなかった。
すなわち、建物全体に対する部屋の床面積や体積比率を下げることなく、かつ、また、当該清浄居住部屋から外部空間への塵埃排出を伴わずに当該部屋内の塵埃除去ができる清浄環境システムは無かった。また、部屋を、人々がその内部で従来慣習の下、日常生活や活動を営むことのできる環境に保ちつつ、かつ、当該部屋内部で発生する塵埃があっても、当該部屋の内部空間をUS209Dクラス100または、それ以上の清浄度に保てる清浄環境システムはなかった。そして、この両方の機能を兼ね備える清浄環境システムは当然のことながら従来においては皆無であった。そこで、まず、部屋を形成する壁について、特に、部屋を狭くすることを防ぐべく、壁の厚みには手をつけず、壁の内部構造については、強度、防音性能、断熱性能を落とすことなく、清浄環境獲得に向けて性能向上を図る必要が出てきた。
すなわち、清浄環境は、医療環境、特に、インフルエンザなどの空気感染性の疾病の予防、花粉症の抑制、傷んだ呼吸器官の回復などが期待される。しかしながら、住宅メーカー各社が提示するスマートハウスのコンセプトは、電力を主な対象としたエネルギーマネジメントが主であり、風の通り道改良のコンセプトも、涼風制御といった主に空調の観点での提示に留まっていた。また、一般住宅の部屋に、クリーンルームを持ち込むのは、膨大な費用がかかり、入れ子構造性を持ち込むことになるため、無機質な外観並びに内装的にも、スペース的にも許容できない。一般の住宅、ビルのオフィス等に、上述のクリーンルームの構造をそのまま持ち込むと、上述したように入れ子構造導入に伴う居住スペース減少と部屋の内部と外部との間に圧力差が生じ塵埃の収集や放出等、無用の塵埃の移動が生ずるといった不便が生じていた。
つまり、家屋・住宅の一つの部屋とそれ以外の部分との間に圧力差を生じさせた結果として一部分の清浄度を上げることは上述したように許容できない。なぜならば、一つの部屋の塵埃や菌を、住宅内の他の場所に移動させることで、そこの清浄度を劣化させるので、そこに居住・活動する人の安寧を妨げるからである。そのため、このような事態を避け、通常の部屋であることを維持しつつ、清浄性を得る方法として、従来においては、空気清浄器を部屋に導入していた。しかしながら、空気清浄器を部屋に導入しても、通常の環境に比べての清浄度の定性的な(或は、定量的には数分の1〜10分の1程度への塵埃減少といった)向上は謳われてはいても、千分の一以下への塵埃減少(1000倍以上の清浄度向上)という定量的に論ぜられるような著しい向上は全く実現されていなかった。
また、従来のクリーンルームを構成する内壁は、クリーンルーム内部における発塵を抑える為に平滑な樹脂壁などで構成されており、このような無機質な部屋を、一般の住宅の部屋にそのまま適用するのにも無理がある。つまり、日常空間である住宅の部屋、ビルのオフィスなどにクリーンルーム構造を持ち込むことと、ストレス無く自然な日常生活を営むこととは、両立できない。このように、見た目は通常の部屋であるような生活空間を、実は、病院無菌室(US209Dクラス100)級から、同クラス1級のスーパークリーンルーム並の清浄環境とすることができていなかった。
そこで、この発明が解決しようとする課題は、建築構造上の特段のスペース的・構造的負荷の増大をもたらすことなく、翻って、見た目・外観的には、通常の部屋と全く異ならない、日頃の生活空間そのものを、そのままクラス100以上の清浄空間として実現することである。また、従来のクリーンルーム技術を用いることによって起きる、家屋・住宅の或る一つの部屋と家屋のそれ以外の部分との間に圧力差が生じる問題も無く、当該部屋の清浄度を向上することである。また、内部で発生する塵埃を当該部屋に付随するファン・フィルターユニットにより積極的に集塵することで、「発生塵埃を当該部屋の外部へ撒き散らして部屋外部に居住する人々へ迷惑を掛けてしまうような事態」を解消することである。また、これまでの住宅の居住慣習である「部屋の内と外で圧力差が無いこと」に変更を加えることなく、日本や世界の人々が居住・作業し、また治療し、養護される部屋自体が、例えば、クラス1またはそれ以上の高い空気清浄性能を常に維持することができ、快適・安寧に居住・活動できる高清浄部屋システムおよびその製造方法を提供することである。
また、この発明が解決しようとする他の課題は、これまでの住宅の居住慣習の「部屋の内と外で圧力差が無いこと」を維持したまま、日本や世界の人々が居住、作業、或は治療したり、養護されたりする部屋自体が、例えば、クラス1またはそれ以上の高い空気清浄性能を常に維持することができ、快適・安寧に居住・活動できる建築物を提供することである。
また、この発明が解決しようとするさらに他の課題は、まず、この高清浄部屋システムに用いて好適な壁を提供することである。
上記課題を解決するために、新しい機能性の壁を実現し、さらにこれに基いて快適・安寧に居住・活動できる高清浄部屋システムを、新しい技術である等圧クリーン化技術により提供する。
即ち、この発明は、
外気を導入できる内部空間を有する、部屋用の壁であって、
上記壁の端面に外部と上記内部空間とを連通する通気口を有し、
上記内部空間を形成する主要な面の少なくとも一つがダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を有することを特徴とする壁である。
また、この発明は、
少なくとも1つの部屋を有し、
上記部屋を構成する壁の少なくとも一つが、外気を導入できる内部空間を有する、部屋用の壁であって、上記壁の端面に外部と上記内部空間とを連通する通気口を有し、上記内部空間を形成する主要な面の少なくとも一つがダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を有するものであり、
上記部屋内部には、閉空間である居住空間を有し、上記居住空間は、その内部と外部との間において空気の気流としての出入りが無く、上記壁の上記内部空間に、上記壁の上記通気口を通じて上記部屋を取り囲む外部空間より外気を導入し、上記部屋には、上記居住空間の内部に気体が送り出されるように吹き出し口が設けられた第1のファン・フィルターユニットが設けられ、上記部屋の側壁の少なくとも一つには、上記第1のファン・フィルターユニットの吸入口に対応した少なくとも一つの開口が設けられ、上記吹き出し口から上記居住空間の内部に流出する気体の全部が、上記開口を通過し、上記吸入口と上記開口とを気密性を持って連通する気体流路を通って、上記第1のファン・フィルターユニットへ還流するよう構成され、
上記部屋には、上記居住空間に出入り可能に構成された出入り口が設けられていることを特徴とする高清浄部屋システムである。
また、この発明は、
少なくとも1つの部屋を有し、
上記部屋を構成する壁の少なくとも一つが、外気を導入できる内部空間を有する、部屋用の壁であって、上記壁の端面に外部と上記内部空間とを連通する通気口を有し、上記内部空間を形成する主要な面の少なくとも一つがダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を有するものであり、
上記部屋内部には、閉空間である居住空間を有し、上記居住空間は、その内部と外部との間において空気の気流としての出入りが無く、上記壁の上記内部空間に、上記壁の上記通気口を通じて上記部屋を取り囲む外部空間より外気を導入し、上記部屋には、上記居住空間の内部に気体が送り出されるように吹き出し口が設けられた第1のファン・フィルターユニットが設けられ、上記部屋の側壁の少なくとも一つには、上記第1のファン・フィルターユニットの吸入口に対応した少なくとも一つの開口が設けられ、上記吹き出し口から上記居住空間の内部に流出する気体の全部が、上記開口を通過し、上記吸入口と上記開口とを気密性を持って連通する気体流路を通って、上記第1のファン・フィルターユニットへ還流するよう構成され、
上記部屋には、上記居住空間に出入り可能に構成された出入り口が設けられていることを特徴とする建築物である。
また、この発明は、
少なくとも1つの部屋を有し、
上記部屋を構成する壁の少なくとも一つが、外気を導入できる内部空間を有する、部屋用の壁であって、上記壁の端面に外部と上記内部空間とを連通する通気口を有し、上記内部空間を形成する主要な面の少なくとも一つがダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を有するものであり、
上記部屋内部には、当該部屋内気を取り込む開口と、当該吸引空気を清浄化処理後、その全量を、再び、上記部屋内部に戻す吹き出し口とが、対となって設けられていることを特徴とする高清浄部屋システムである。
また、この発明は、
少なくとも1つの部屋を有し、
上記部屋を構成する壁の少なくとも一つが、外気を導入できる内部空間を有する、部屋用の壁であって、上記壁の端面に外部と上記内部空間とを連通する通気口を有し、上記内部空間を形成する主要な面の少なくとも一つがダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を有するものであり、
上記部屋内部には、閉空間である居住空間を有し、上記居住空間は、その内部と外部との間において空気の気流としての出入りが無く、上記壁の上記内部空間に、上記壁の上記通気口を通じて上記部屋を取り囲む外部空間より外気を導入し、上記部屋には、上記居住空間の内部に気体が送り出されるように吹き出し口が設けられた第1のファン・フィルターユニットが設けられ、上記部屋の側壁の少なくとも一つには、上記第1のファン・フィルターユニットの吸入口に対応した少なくとも一つの開口が設けられ、上記吹き出し口から上記居住空間の内部に流出する気体の全部が、上記開口を通過し、上記吸入口と上記開口とを気密性を持って連通する気体流路を通って、上記第1のファン・フィルターユニットへ還流するよう構成され、
上記居住空間の体積をV、上記壁の有する上記膜中の酸素の拡散定数をD、上記膜の厚みをLとした時、上記体積Vと上記膜の面積Aとを、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて部屋の設計を行い製造することを特徴とする高清浄部屋の製造方法である。
部屋とは、閉空間を構成する包囲体によって構成されるものであり、具体的には、例えば、建築物の一室などが挙げられる。建築物としては、例えば、戸建住宅、アパート、マンション、ビルディング、病院、映画館、養護施設、学校、保育園、幼稚園、体育館、工場、塗装ルーム、漆塗り部屋など、人間活動を支えるあらゆる室が挙げられる。また、部屋は、例えば、内部空間を有する移動体内部の部屋などにも適用でき、かかる移動体としては、例えば、自動車、なかんずく救急車、飛行機、旅客列車、旅客バス、ヨット船室、客船などが挙げられる。
部屋の内部と外部との間において空気の気流としての出入りが無いというのは、例えば、高清浄部屋システム稼動中に、当該部屋に関する気流がイン、アウトともに厳密にゼロであることを意味するが、このことに限定されるものではなく、例えば、高清浄部屋の100%循環フィードバックされる空気流量よりはるかに少ない流量の清浄空気流を出し入れすることも含む。また、部屋の内部と外部との間において正味の空気の流れが無いというのは、例えば、部屋の内の外が等圧であることを含む。
出入り口とは、人間などが出入り可能な構成を有していれば基本的には限定されないが、開閉することにより居住空間と外部とを気密性高く遮断可能な構成を有することが好ましい。また、出入り口を出入りするのは、人間に限定されるものではなく、例えば、小動物などであってもよい。出入口としては、例えば、扉、戸などが挙げられ、具体的には、例えば、開き戸、引き戸、引き込み戸、グライドスライド出入り口、折戸、スライドシャッター、巻取り式のシャッターなどが挙げられる。また、出入り口は、例えば、自動であっても手動であってもよい。
壁とは、部屋を構成する閉空間を区切る壁、板などであれば基本的には限定されないが、例えば、天井壁、側壁、床壁、間仕切りなどが挙げられる。また、壁の構成は基本的には限定されないが、例えば、同一材料による単層構造および多層構造、異種材料による多層構造などが挙げられる。また、例えば、内部に筋かいを入れたり、コの字状断面、Hの字状断面またはCの字状断面をもつ金属材を内部に入れたりすることで強度を強めた壁も用いられる。また、壁を構成する材料は、壁を構成した際に、ある程度の剛性を有するものが好ましく、例えば、コンクリート、金属、レンガ、木材、パルプ材、樹脂、石膏、ガラス、複合材料などが挙げられるが、これらのものに限定されるものではなく、壁は、例えば、空気封入をもって躯体を支え得るビニールシート・チューブ複合体などであってもよい。
間仕切りとは、部屋の内部を仕切るようにして設けられるものであれば基本的には限定されるものではないが、例えば、天井板や間仕切り壁などが挙げられる。
居住空間とは、外界から隔絶された空間であれば基本的には限定されないが、例えば、生物が居住可能な大きさを有する空間であることが好ましい。また、人間が居住可能な大きさを有することがより好ましい。生物は、例えば、動物、植物などが挙げられ、具体的には、人間、小型動物である犬、猫、小型植物である観葉植物などである。居住空間を、例えば、小型動物が生息するペット用の部屋とするのであれば、この小型動物が生息するに十分な容積を有すればよい。この場合においては、ペット等の小型動物を住まわせても臭いが無くかつ菌等も浮遊しない、つまり、人間の居住する部屋に内在させても全く害を及ぼさない小部屋として用いることも出来る。居住空間内の酸素濃度は、人間が居住できるよう法律で定められた値を必ず上回るのは勿論、望ましくは18%以上を、より好ましくは、19%以上を常に維持するように、部屋側壁の一部を成すガス交換膜の能力を設定する。また、居住空間内は、独立した部屋である主室と前室とを有して構成することができる。前室とは、主室に入る前に入る部屋である。この前室は、例えば、居住空間に出入り口に対向するように間仕切りが設けられることで形成された、出入り可能な閉空間である。また、この間仕切りには、出入り口が設けられ、主室である居住空間と前室との間を行き来することができる。また、前室は、前室の内部と外部との間において空気の気流としての出入りが無く、前室の内部に気体が送り出されるように吹き出し口が設けられた第2のファン・フィルターユニットが設けられる。また、前室の側壁下部には、第2のファン・フィルターユニットの吸入口に対応した少なくとも一つの開口が設けられ、第2のファン・フィルターユニットの吹き出し口から前室の内部に流出する気体の全部が、開口を通過し、上記第2のファン・フィルターユニットの上記吸入口と上記開口とを気密性を持って連通する第2の気体流路を通って、上記第2のファン・フィルターユニットへ還流するよう構成される。このように構成されることで、出入り口と上記間仕切りに設けられた出入り口とによって、居住空間と上記部屋の外部との間を出入り可能となる。間仕切りに設けられた出入り口は、基本的には限定されるものではなく、上記出入り口と同様に構成することができるが、引き戸であることが好ましく、また、少なくとも一部がダスト微粒子を通さず気体分子は通す膜で構成されることが好ましい。
内部空間とは、壁の内部に形成される空間であれば、基本的には限定されないが、例えば、中空構造を有する単一の壁面(パネル)、部屋の外壁と部屋内部に設けられた内壁とで挟まれることで形成される閉空間などが挙げられる。内部空間は、パネルなどの隔壁を部屋内部に追加して設置することで形成してもよいし、既存の部屋に既に設けられている壁を利用して内部空間を形成してもよい。内部空間を構成する壁としては、具体的には、例えば、中空壁が挙げられる。この中空壁は、壁の少なくとも一部に中空部を有していれば基本的には限定されないが、例えば、壁の内部の少なくとも一部に、壁の上端から下端へ、気体を移動させることができる中空部を有することが好ましく、また、例えば、壁の上端から下端へ、気体を移動させることができるダクトまたはそれと同等の機能を有する構造を担持しうる中空部を備えることが好ましい。また、例えば、壁の一方の側部から対向する側部へと通じる貫通部を有する中空壁であることが好ましい。この貫通部は、壁の側面の少なくとも一部に設けられれば基本的には限定されないが、中空壁が、例えば、直方体の形状を有する場合には、壁の対向する一対の側面の全体に貫通部が設けられることが好ましい。中空壁は、具体的には、例えば、筒型形状を有するものが挙げられ、断面が矩形であるものが好ましい。また、側壁のうち中空壁以外の壁には、筋交いの入った壁や、コの字状断面をもつ金属材を備えた柱を内包する壁を配するのが好ましい。また、中空壁は、例えば、単一の材料で構成されていてもよいし、複数の材料で構成されていてもよい。中空壁が複数の材料で構成される場合には、例えば、外壁と内壁とを一定間隔をおいて対向して設け、外壁と内壁とで形成される空間を中空部とすることが好ましい。この既に設けられている壁を利用することによって、既存の部屋を、居住空間を狭くすることなく高清浄部屋システムとすることができる。
ファン・フィルターユニットとは、送風動力を有する塵埃フィルターであって、塵埃フィルターが、ろ材を用いた塵埃フィルター自体を意味するところ、特にこの塵埃フィルターが送風動力を伴っていることを規定するものであり、具体的には、塵埃フィルターの外部に、この塵埃フィルターと一体的に、あるいは、この塵埃フィルターが置かれた気体流路の途中にこの塵埃フィルターから離れて送風ファンが設けられ、この送風ファンによる送風動力を有することを意味するものである。
以下、必要に応じて、塵埃フィルターから流出する気体を塵埃フィルターの吸入口に導くための気密性の気体流路をフィードバック気体流路と称する。このフィードバック気体流路内を流れる気体は、基本的に、ダスト微粒子を100%は通さない膜を貫くようなマクロなマスフローを生じないため、部屋の外部から部屋の内部へのダスト微粒子の侵入が防止され、部屋の内部の清浄度は悪化することがない。
ダスト微粒子を通さず気体分子は通す膜は、この膜によって隔てる空間の間においてダスト微粒子を通さず気体分子を通すことができる壁であれば基本的には限定されないが、例えば、ダスト微粒子を通さず気体分子は通す膜の隔てる空間の圧力差が0であっても、膜の両側の空気を構成する気体成分の分圧に差があるときには、この膜を介して気体分子が交換され得るものであることが好ましい。このことから、ダスト微粒子を通さず気体分子は通す膜は、例えば、ダスト微粒子を通さず気体分子は通す隔壁とすることもできる。ここで、「ダスト微粒子は通さず」とは、ダスト微粒子を完全に(100%)通さない場合のほか、ダスト微粒子を厳密に100%は通さない場合も含む(以下同様)。より詳細には、ダスト微粒子の阻止率(透過率)は100%(0%)ならずとも、粒径10μ以上の粒子に対しては、少なくとも90%以上(10%以下)、望ましくは99%(1%)以下である。ダスト微粒子を通さず気体分子は通す膜としては、具体的には、例えば、ガス交換膜や、ガス交換膜を織り込むことで得られる2次元構造を持つ面状構造体等が挙げられ、ガス交換膜としては、例えば、防塵フィルター素材、障子紙、不織布、障子紙様のガス交換機能を有する膜、或は、かかる膜を谷折山折した蛇腹状構造体であることが好ましい。ガス交換膜を構成する素材は、例えば、多くの網状構造からなるものが好ましく、さらに、多くの貫通する孔、くぼみ、閉じた空間などが並存しているものが好ましい。このガス交換膜で仕切られた両側の空間を占める気体にその構成分子の濃度に差があれば、両側の濃度が均等になるよう濃度拡散が生じる。ガス交換膜を構成する素材としては、具体的には、例えば、ポリエステルまたはアクリル系等の合成繊維や、パルプ、レーヨン等のセルロース系繊維が用いられうる。ガス交換膜は上記の作用を以って、気体がマスとして動くことが無くとも、部屋内気体の構成分子濃度を、当該膜を介して外界気体のそれとほぼ同一の値に収束させることができる。これらの通気性素材は、圧力差196Paにおいて、通気度(浸透性)1〜100[l/(m2 ・s)]、典型的には30〜70[l/(m2 ・s)]をもつ。その詳細は後段において説明する。また、2次元状構造体は、全体としては2次元的な広がりを備えた構造体であれば、基本的には限定されるものではなく、具体的には、例えば、微視的には表面積拡張構造を持ち全体としては平面状の構造、九十九折り等の表面積拡大構造を繰り返し入れ子状に持つ構造などが挙げられる。
高清浄部屋システムは、少なくとも1つの密閉可能な閉空間を有していれば基本的には限定されないが、例えば、小型動物が居住できる程度の容積を有することが好ましく、また、例えば、人間が居住できる程度の容積を有することがより好ましい。また、例えば、恒常的に高清浄度を保つには、少なくとも2つの密閉可能な閉空間を有することが好ましく、例えば、前室と主室の2室で構成される。前室は、例えば、外部から人間などが直接出入りする部屋である。主室は、例えば、前室に接して設けられており、前室のみから人間などの出入りが可能な部屋である。前室および主室は、いずれも部屋を以って密閉可能な閉空間として構成されている。前室および主室には、ファン・フィルターユニットとフィードバック気体流路とが設けられており、これらが独立してそれぞれの閉空間に設けられていることが好ましい。
この発明の高清浄部屋において、部屋内部のダスト微粒子密度をn(t)、単位面積・単位時間当たりのダスト微粒子の脱離レートをσ、HEPAフィルターのダスト捕集効率をγとすると、閉空間内の流れが均一ではなく場所依存性がある場合には、ダスト微粒子密度n(t)は場所の関数となり、同じく単位面積・単位時間当たりのダスト微粒子脱離レートσも最も一般的に場所の関数と考えられる。この時注目している閉空間Vの内部で、塵が発生したり、消滅したりすることはなく、閉空間V内の位置ベクトルx0 における時刻tのダスト微粒子密度n(x0 、t)は、閉空間内側、即ち部屋内壁面からの影響が伝播することで、その変化が決まり、
なる微分方程式を満たす。
ここで、ベクトルx' s は、閉空間の内表面に対応する位置ベクトルである。おなじく、ファン・フィルターユニットに対する吸入口にあたる部分に対応する位置ベクトルをx' inlet 、吹き出し口にあたる部分に対応する位置ベクトルをx' outletとする。G(x,x' ,t)は、位置x' における塵の発生或いは消失が、主に気体の流れによる伝播と、拡散による伝播により、位置xへ影響を及ぼすことを表す伝播関数である。finは、ファン・フィルターユニットの吸入口における風速を、fout は、ファン・フィルターユニットの吹き出し口における風速を表す。
ここで、クリーン空間、即ち部屋内部の閉空間の体積をV、その閉空間の内面積をS、高清浄環境システムの設置環境(即ち外気)のダスト密度をN0 、風量をFとし、ファン・フィルターユニットにより引き起こされるところの、閉空間V内の空気の流れが至るところ均一で場所依存性が無い場合は、数式(1)の各項は、
にそれぞれ収束し、数式(1)は
という時間のみ関数となる。このとき、この式の解は、
である。従って、十分時間が経った時(t>10V/γF)には、密閉循環系では、その設置環境によらず、
なる究極の清浄度が得られることが、非特許文献6などにおいて発明者により示されている。
他方、従来型クリーンルームの場合では、循環する風量F1 の部分はその都度一回濾過され、外からのフレッシュエアとして導入される風量F2 は2重に濾過されて内部に導入されるので(簡単の為、捕集効率は同一とし、ここでも、空間V内の空気の流れが至るところ均一で場所依存性が無いとして)、
が、内部のダスト数密度の時間変化を記述する式となる。
この式の解は、
である。十分時間が経ったときのダスト密度nは、注目しているチェンバーからの流出風量をF (=F1 +F2 )と記すと、γ〜1であるので、良い近似で、
と表わすことができる。
数式(5)と数式(8)との比較から分かるように、この発明においては、清浄度を支配するパラメータが従来のクリーンユニットとはまったく異なる。従来のクリーンユニットの性能で重要となってくる要素は、上の数式(8)からフィルターの粒子捕集効率γであり、これが1に限りなく近い方がよい。これは、例えば、一般的なクリーンユニットにおいて中性能フィルターよりHEPAフィルター、HEPAフィルターよりULPAフィルターが求められることからも明らかである。
このように、在来システムではフィルターの除去能力がクリーンユニットの性能にダイレクトに効いてくるために、ULPAフィルター、HEPAフィルターなどの高価な高性能フィルターが使われる。このフィルターの片側は常に外気に接しているために、フィルターは目詰まりを起こす。また、フィルターが高性能であればあるほど高いダスト環境下においては目詰まりが発生しやすく、給気効率が著しく低下するので、一般的には2〜3年程度で取り替えられている。この目詰まりを回避する目的で、フィルターの前段にプレフィルターを設けることがあるが、フィルターの数が増大する。フィルターの数の増大はコスト面、メンテナンス面などにおいて負担となるばかりでなく、吸気側の圧力損失も増大することで、電力消費が増大するなどの新たな問題も生じることとなる。
一方で、この発明の高清浄部屋においては、フィルターの粒子捕集効率はそれほど支配的ではなく、むしろ、この発明の高清浄部屋の内部におけるゴミ・塵の湧き出しの方が重要になってくる。この発明の高清浄部屋内の到達清浄度は、部屋の内部環境にのみ支配され、数式(5)に外気のダスト密度N0 が現れないことから判るとおり、この発明の高清浄部屋の設置環境には全く影響されないという極めて好ましい特性を有する。これは従来のクリーンルームやスーパークリーンルームとは大きく異なる利点である。即ち、この発明の高清浄部屋は、建設コストの高い従来型スーパークリーンルームと異なり、製造ラインでも研究室でも、はたまた一般居住空間においても、雨風をしのげる環境であれば、場所を選ばず適用が可能となる。また、数式(5)から分かるように、ダスト捕集効率γが1近くなくても清浄度の劣化がほとんどない点が大きな特長である。従って、廉価なフィルターや光触媒機能付きフィルターを使用しても良好な清浄度を達成することができ、高性能を実現することが出来る。
図15は、中性能のフィルター(γ=0.95)を塵埃フィルターとして、この発明の高清浄部屋内のダスト粒子数の変化を示した略線図である。
図15に示すように、運転開始から5分で部屋内(居住空間)のダスト粒子数は急激に減少して100を下回り、運転開始から40分程度で部屋内(居住空間)のダスト粒子数は10を下回る。このように、この発明の高清浄部屋システムに使用される塵埃フィルターは、HEPAやULPAに代表される3ナイン、5ナインフィルターなどのダスト捕集効率γが1に限りなく近いものでなくても清浄度の劣化がほとんどないことが示された。
いま、居住空間の内部において酸素消費レートBで人などが活動する場合を考える。今、簡単のため、居住空間および、内部空間での空気は十分早くかき回され、双方の内部で空気を構成するガス分子は十分早く均一化すると居住空間および内部空間内部では空間座標依存性を無視することができる。このとき、部屋の内部の時刻tにおける酸素の体積V02(t)、外界と平衡状態にあり部屋内部で酸素消費の無い時の酸素体積をV02、アボガドロ数をN0 、系の置かれた圧力(〜1気圧)における1モルあたりの気体体積をC 、隔壁の面積をA、隔壁を通して包囲体の内部に入ってくる酸素のフラックスをjとすると
が成り立つ。ここで、jは
で与えられる。ただし、φは包囲体の内部の単位体積当たりの酸素分子数、Dはガス交換膜中の酸素の拡散定数で、ガス交換膜に垂直な方向をx軸としたとき、∇はこのx軸方向の微分演算子である。包囲体とは、この場合、部屋または壁の内部空間を意味する。居住空間の体積をV、ガス交換膜の厚みをLとすると、Lは、居住空間の寸法や内部空間の厚みに比べ3桁以上程度小さく、極めて薄いと見なせるので、数式(9)は、
と良い精度で近似することが出来る。V02(t)/Vは時刻tにおける酸素濃度、V02/V=η0 は外界と平衡状態にあり部屋内部で酸素消費の無い時の酸素濃度であることに注意されたい。
これから、微分方程式
が導かれる。数式(12)の厳密解は直ぐ求まるが、ここでは十分時間がたった後の定常状態に対応する解に興味があるので、左辺=0とおくと、時刻tにおける酸素濃度は
と求まる。ここで、部屋内(居住空間)の酸素濃度が、ある一定の値ηより大きいことを要請すると
これから必要な面積Aは
であることが要請される。また、数式(15)は、外界の酸素濃度をηo とすると
と表すこともできる。これにより、守るべき或る酸素濃度ηの関数として、Aには満たすべきある下限が存在することがわかる。数式(16)より、酸素消費量が小さいほど、ガス交換膜が薄いほど、また、ガス分子の拡散定数が大きいほどAは小さくてよいとの指針が得られる。
一般に2次元の膜が与えられると、その膜の両側に、ある一定の圧力差(分圧差)を与えたときにその膜を単位時間、単位面積あたり通過する気体の量として通気度が定義され、実際に測定することがなされている。これにより、上記の定数Dを求めることが出来る。例えば、ガス交換膜の一例である濾布の通気度は196Pa( 〜200Pa) の圧力差に対し、3[l/( dm2 ・min) ]〜数十[l/( dm2 ・min) ]という値が知られている(例えば、非特許文献7参照。ここで、lは体積の単位、リットルである。)。
また、高通気度の膜として、圧力差196Paにおいて、70[l/(m2 ・s)]程度の膜が報告されている(例えば、特許文献3参照)。目標酸素濃度は、日本国内においては必ず18%程度以上であることが法制上求められ、できるだけ20.9%に近いほうが望ましい。障子紙も、紙すきの手法等により、通気度は異なってくるが、大体上記の同じオーダーの通気度を有すると考えて(より厳密には、JISL1096通気性A法(フラジール形法)や、KES通気性試験機等により測定の上)、上記の解析式を用いて、居住空間に隣接する内部空間の少なくとも一部を構成するところのダスト微粒子を通さず気体分子は通す膜、例えば、ガス交換膜の面積を、当該居住空間での酸素消費量と、目標酸素濃度を数式(16)に従って決定することができる。
また、従来のクリーンルームにおいては、クリーンルーム内部において発生した塵埃を外に押し出すのみでパッシブであったのに対し、本発明の高清浄部屋は、内部にて発生した塵埃を100%循環フィードバック系にてアクティブに除去することで短時間(例えば、V/γFの高々数倍の時間のうち)に清浄度が回復し、安定して高清浄部屋内部である居住空間の清浄度を維持できる。このことから、日々の生活において塵埃の発生が避けられない一般居住空間などに本発明の高清浄部屋を適用することにより、居住空間内部において安定した高清浄度を得ることができ、非常に運転コストの小さい高清浄部屋システムとすることができる。
ここで、上記ファン・フィルターユニットに使用されるフィルターは、上記塵埃フィルターに対し光触媒機能フィルターを組み合せたフィルターとすること、あるいは上記塵埃フィルターに対し光触媒による機能を併せ持たせることで、フィルターに複数の機能を併せ持たせる多機能フィルターとすることが有効である。
上記多機能フィルターを実現するにあたり、フィードバック気体流路内における気体の流れに留意し、塵埃フィルターの上流側に光触媒による有機物の分解機構を配置することで、十分な光照射を受けつつ、かつ清浄空間への光触媒材料の流入を防ぐことができる。
即ち、本発明のフィードバック気体流路を備え、流出する気体の全てが気体流路を通って塵埃フィルターの入口に流入するように構成されたもの(以下100%循環フィードバック系と称する)において、更に塵埃除去機能と光触媒機能とを併せ持つ多機能フィルターを用いることにより、化学物質濃度も極限まで下げることができる。これは、塵埃及び細菌等に対し数式(1)から数式(3)への収束が成り立つと共に、数式(3)のnを気体中の化学物質濃度、σを化学物質の発生レート、γを、光触媒による化学物質分解効率と読み替えた式もまた成り立つことから言うことができる。
一方で、通常のシステムに光触媒機能を付加した場合では、外気を外部空間からフィルターを介して取り込んだのち、これを外部空間へ放出するので、取り込まれた外気がフィルターを通る回数は一回或いは高々数回に限られ、化学物質等の光触媒効果による分解もこの限りの通過でしかなされない。
これに対し、本発明では、100%循環フィードバック系により、外気が取り込まれた後に何度も光触媒機構を通過することで、光触媒効果による化学物質等の分解効率を従来例に比べ飛躍的に高めることができる。
従来型クリーンルームに備えられている空気清浄システムにおいて、特に、常に高ダスト雰囲気に直接に接している塵埃フィルターを備える空気清浄システムにおいては、単に塵埃フィルターに光触媒機能を付加した場合、高ダスト雰囲気に接している側の集塵フィルター面には激しい目詰まりが起こり、この塵埃フィルターの目詰まりが光触媒に対しての充分な光の照射を妨げたり、この目詰まりが光触媒材と本来分解されるべき物質との接触を妨げたりすることで、光触媒作用の効率が著しく低下する。
本発明の100%循環フィードバック系は塵埃フィルターを外部空間から隔離された場所に設置するので、直接外気に触れることがない。更に、100%循環フィードバック系に塵埃フィルターを組み込むことで、100%循環フィードバック系の特徴である実質上無限回に相当する循環によって塵埃数を数桁のオーダーで低減させ得る特性を生かし、塵埃フィルターの目詰まりの割合を従来の数千〜1万分の1以下に落とすことができる。これは、同時に、フィルターの目詰まりによる光触媒の化学物質等分解機能の低下の問題を解決することができる。
また、本発明の特徴である集塵効率γが必ずしも1に極めて近い必要のないことを利用し、集塵効率γの値を抑えることで塵埃フィルターの目詰まりを回避したり、光触媒能などの機能が高いものの捕集効率γを1に近づけることの難しかった材料であっても、本発明の循環フィードバックシステムでは、十分高機能の塵埃フィルターとして用いたりできるため、高い清浄度と化学物質等の分解効率の両立を図ることができる。
この集塵効率γの条件が緩和されたことにより、光触媒による化学物質等の分解機能と塵埃除去機能を統合した低塵埃環境の実現が可能となる。光触媒としては、例えば、酸化チタン、白金、パラジウムなどが挙げられる。また、光触媒フィルターとして、例えば、上記に挙げた光触媒を担持した紙フィルター、光触媒を担持した樹脂フィルター、酸化タングステン等よりなるポーラス形状の光触媒セラミックフィルターなどが挙げられる。これは、具体的には、例えば、チタニアやタングステンオキサイド等の光触媒材料を含浸させた不織布(ポリエステル、モダアクリル等を成分とする)よりなる高密度フィルターが挙げられる。また、ポーラス形状の光触媒セラミックフィルターは、光触媒による低有害物質環境と塵埃フィルターによる超清浄環境が同時に実現できる。このように、従来のようなHEPAと光触媒フィルターのタンデム配置などを取らずとも済むので、システムのコンパクト化が図れると同時に、フィルターによる圧力損失を小さく抑えることができ、非常に効率的であるとともに、送風動力の負荷を減少させることで、省エネルギー化にも貢献できる。
単に光触媒を壁などに用いた場合に比べ、本システムは、閉空間内の気体を、塵埃除去機能と光触媒による機能を併せ持ったフィルターに能動的に通過せしめるので、気体中の汚染物質の分解効率が飛躍的に高まる。また、塵埃フィルター表面に光触媒機能を付加することにより、塵埃フィルターに捕獲された菌や塵等を二酸化炭素と水とに分解することができる。これらのことにより、塵埃フィルターの清掃及び交換が不要となり、半永久的に使用可能な塵埃フィルターとすることもできる究極のシステムとなる。特に、本発明の高清浄部屋では、無菌、無塵、無有害ガスの環境が、場所を選ばず、例えば、都会の真ん中であっても実現できるので、この部屋の中に、芳香を放つ樹木やハーブ等の植物を置くことにより、居ながらにして森林浴や自然豊かな高原の空気環境を実現することができる。更に、積極的にアロマの香りを導入する等して、リラクゼーション効果を醸し出すことも可能となる。これらのことにより、喘息の症状の緩解、治癒に資する環境を実現することができる。
この多機能フィルターとしては、上記塵埃フィルターに対し光触媒機能フィルターを追加して組み合せたものとすること、あるいは上記塵埃フィルターに対し光触媒による機能を併せ持たせることで、1つのフィルターに複数の機能を併せ持たせることが好ましい。上記塵埃フィルターに対し光触媒機能フィルターを組み合せる場合には、例えば、光触媒機能フィルターは気体流路内に上記塵埃フィルターに直列に設けられることが好ましい。また、多機能フィルターを光触媒のみで構成することもでき、例えば、ポーラス体で構成されたTiO2 を多機能フィルターとして構成してもよい。この多機能フィルターを実現するにあたっては、フィードバック気体流路内における気体の流れに留意し、多機能フィルターに備えられた光触媒に十分な光が当てつつも、清浄空間内への光触媒材料の流入を防ぐように構成されることが好ましい。具体的には、例えば、塵埃フィルターの上流側に光触媒機能フィルターを配置することで、十分な光照射を受けて有機物の分解機能を発揮しつつも清浄空間への光触媒材料の流入を防ぐことができる。
また、部屋内には、居住空間の内気を排気する、ガス交換機能を有する局所排気装置を有していてもよい。局所排気装置の構成は、基本的には限定されるものではないが、例えば、局所排気装置の内部における空気流の向きが、居住空間の内気と、外気とが、進行方向を共有するようにして構成されていることが好ましく、さらに、局所排気装置の内部で、少なくとも一枚のダスト微粒子を通さず気体分子は通す膜を介して接することで、居住空間の内気を構成する分子の濃度と外気を構成する分子の濃度とが、ダスト微粒子を通さず気体分子は通す膜を介した分子の濃度拡散を通じて平衡状態に近づき、その後、当該居住空間の内気が、居住空間へ還流するように構成されていることが好ましい。上記のように構成された局所排気装置は、例えば、病室や養護室における異臭の緩和、有害臭の除去に好適であり、また、塗装工場などにおいて、塵埃密度を極めて小さく抑えたまま、気中の有機溶剤濃度の低下を実現することができる。
また、フィードバック気体流路内に熱交換器を設けたヒートポンプ式の空気調和機を組み合わせることも可能である。また、この発明の高清浄部屋内に、例えば、イオン放出型の空気清浄機を設けることで、OHラジカルなどのイオンによるウイルスなどの消滅効果を飛躍的に高めることができる。これは、従来において、清浄度の極めて低い外気に触れる環境でこの空気清浄機を設置した場合、発生するイオンが大きな塵埃に取り込まれ、イオンによって、小さな塵埃、ウイルスなどを分解する効果が最大限に発揮できなかった。一方で、この発明の高清浄部屋内においては、存在する塵埃の大きさが極めて小さく、またその量も極めて少なく、また、この発明の高清浄部屋内には外気から新たな塵埃が供給されないので、イオンによって小さな塵埃、ウイルスなどを分解する効果が最大限に発揮できる。また、イオン放出型の空気清浄機内に設けられたフィルターの寿命などを大幅に伸ばすことも可能になる。
この発明によれば、建築構造上の特段のスペース的・構造的負荷の増大をもたらすことなく、翻って、見た目・外観的には、通常の部屋と全く異ならない、日頃の生活空間そのものをそのままで、例えば、30分以内に、実質的には10分程度でクラス100以上の清浄空間として実現するができる。更に、例えば、このシステムを稼動してスイッチオンして10時間後には、US209Dクラス1が実現できる。また、従来のクリーンルーム技術を用いることによって起きる、家屋・住宅の或る一つの部屋の圧力と家屋のそれ以外の部分との間に圧力差が生じる問題が無く、当該部屋の清浄度を向上することができる。また、内部で発生する塵埃を当該部屋に付随するファン・フィルターユニットにより積極的に集塵することで、「発生塵埃を当該部屋の外部へ撒き散らして部屋外部に居住する人々へ迷惑を掛けてしまうような事態」を解消することができる。また、これまでの住宅の居住慣習の圧力差パラメータに変更を加えることなく、日本や世界の人々が居住・作業し、また治療し、養護される部屋自体が、例えば、クラス1またはそれ以上の高い空気清浄性能を常に維持することができ、快適・安寧に居住・活動できる高清浄部屋システムを提供することができる。
上述したように、従来のクリーンルームの定常状態のダスト微粒子密度は環境のダスト微粒子密度No に依存し、かつこのためできるだけダスト捕集効率γが1に近い高品質のフィルターが必要であったのに対し、この発明では、定常状態のダスト微粒子密度n(t)はNo に依存せず(従って設置環境を選ばず)かつγが分母に入っているので(γが1に近いことも重要ではなく)安価な塵埃フィルターでも非常に高い清浄度を実現できる。しかも、この発明では、部屋内の内部のガス成分と設置環境のガス成分との交換が効率的に行われるため、ダスト微粒子に関しては完全密閉環境を、ガス成分に対しては拡散による交換可能な環境を実現することができる。
第1の実施の形態による壁を示した斜視透視図である。 第2の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第3の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 実施例による高清浄部屋システムを組み込む前の部屋を示した上面図である。 実施例による高清浄部屋システムを組み込んだ後の部屋を示した上面図である。 実施例による高清浄部屋システムを組み込んだ後の部屋を示した縦断面図である。 実施例による高清浄部屋システムを組み込んだ後の部屋を廊下から見た場合の透視図である。 実施例による高清浄部屋システムを組み込んだ後の部屋の居住空間である主室を示した図面代用写真である。 実施例による高清浄部屋システムのファン・フィルターユニットを運転した場合における主室内のダスト粒子数の短時間における変化を示した略線図である。 実施例による高清浄部屋システムのファン・フィルターユニットを運転した場合における主室内のダスト粒子数の長時間における変化を示した略線図である。 実施例による高清浄部屋システムの主室内において酸素を消費する実験を行った様子を示した図面代用写真である。 実施例による高清浄部屋システムの主室内において酸素を消費する実験を行った時のブタンガス燃焼量と、主室内の酸素濃度とを示した略線図である。 実施例による高清浄部屋システムの100%循環フィードバック系の内部に光触媒フィルターをさらに設けて運転した場合の、主室内の空気に含まれるアルコールの濃度変化を示した略線図である。 実施例による高清浄部屋システムの100%循環フィードバック系の内部に光触媒フィルターをさらに設けて運転した場合の、主室内の空気に含まれる芳香剤の濃度変化を示した略線図である。 実施例による高清浄部屋システムにおいて、塵埃フィルターを塵埃捕集率γが0.95の中性能フィルターとして運転し、時間に対する主室内における塵埃の数を示した略線図である。 図15において計測され示された主室内における塵埃のうち、粒径が0.5μm以上の塵埃の1立方フィート当りの総数を示した略線図である。 実施例に高清浄部屋システムにおいて、居住空間内に市販の光触媒空気清浄装置を設置して数分間運転し、主室内における塵埃の数を各粒径ごとに示した略線図である。 図17において示された主室内における塵埃のうち、粒径が0.5[μm]の塵埃の1立方フィート当りの総数を示した略線図である。 前室において、前室に備えられたファン・フィルターユニット44を運転した場合のダスト粒子数の短時間における変化を示した略線図である。 前室に備えられたファン・フィルターユニット44を吐出流量の大きなものに変更して運転した場合の、前室におけるダスト粒子数の短時間における変化を示した略線図である。 前室から主室に人間が入った場合の、主室の相対清浄度の変化について示した略線図である。 第4の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第5の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第6の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第7の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第7の実施の形態による高清浄部屋システムの変形例である2ダクト壁埋め込みタイプの循環路を示した断面図である。 第8の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第8の実施の形態による高清浄部屋システムに用いる中空壁の例を示した断面図である。 第8の実施の形態による高清浄部屋システムが適用された住居を示す斜視断面図である。 第8の実施の形態による高清浄部屋システムの動作を示した断面図である。 第9の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第9の実施の形態による高清浄部屋システムの第1の隔壁を、居住空間内の第1の隔壁と対向する側壁側から見た平面図である。 第10の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第11の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第12の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第13の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第14の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第14の実施の形態による高清浄部屋システムの前室の一例を、主室内部から見た斜視図である。 第14の実施の形態による高清浄部屋システムの前室の他の一例を、主室内部から見た斜視図である。 第15の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第16の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第17の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第18の実施の形態による高清浄部屋システムを示した斜視透視図である。 第18の実施の形態による高清浄部屋システムの変形例を示した斜視透視図である。 第19の実施の形態による高清浄部屋システムを示した断面図である。 第19の実施の形態による高清浄部屋システムで使用するガス交換装置の一例を示した斜視図である。 第19の実施の形態による高清浄部屋システムで使用するガス交換装置の一例を示した斜視図である。 第19の実施の形態による高清浄部屋システムで使用するガス交換装置の一例を示した斜視図である。 第19の実施の形態による高清浄部屋システムで使用するガス交換装置の一例を示した斜視図である。 第20の実施の形態による高清浄部屋システムを含む病室・養護ホーム(ハイグレードタイプ)の一例を示した3面図である。 第21の実施の形態による高清浄部屋システムを含む病室・養護ホーム(中グレードタイプ)の一例を示した3面図である。 第21の実施の形態による高清浄部屋システムの変形例を含む病室・養護ホーム(エントリータイプ)の一例を示した3面図である。 少流量ファン・フィルターユニットの一例を示した斜視図である。 従来の一般的な住宅を示す斜視図である。 従来の一般的な住宅を示す斜視断面図である。 従来の一般的な住宅の壁の施工例を示す斜視図である。 従来の一般的なマンションやビルなどの壁の施工例を示す斜視図である。 従来の一般的なマンションやビルなどの壁の施工例を示す斜視図である。 従来のクリーンユニットをデジタルスチルカメラで撮影した図面代用写真である。 従来のクリーンユニットを示した断面図である。 各種のガス交換膜の酸素透過能の測定に用いた酸素透過能測定装置を示す斜視図および背面図である。 図61に示す酸素透過能測定装置を用いて容器内の酸素濃度を時間の関数として測定した結果を示す略線図である。 図61に示す酸素透過能測定装置を用いて容器内のろうそくの燃焼量を時間の関数として測定した結果を示す略線図である。 ガス交換膜として名尾和紙を用いた場合のダスト粒子数の時間変化を示した略線図である。 ガス交換膜として伊万里和紙を用いた場合のダスト粒子数の時間変化を示した略線図である。 ガス交換膜としてTyvek(布様)を用いた場合のダスト粒子数の時間変化を示した略線図である。 ガス交換装置の実機を示す図面代用写真である。 図67に示すガス交換装置を高清浄部屋システムの部屋に組み込んだ一例を示す図面代用写真である。 図68に示す高清浄部屋システムの部屋を完全密閉して内部で酸素消費実験を行った結果を示す略線図である。 第22の実施の形態による高清浄部屋システムにおいて用いられる放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニットを示す上面図、正面図および右側面図である。 第23の実施の形態による高清浄部屋システムにおいて用いられる放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニットを示す上面図、正面図および右側面図である。 第24の実施の形態による高清浄部屋システムにおいて用いられる放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニットを示す上面図、正面図および右側面図である。 ガス交換膜よりなるテント状構造を示す図面代用写真である。 図73に示すテント状構造の内部の粒径0.5μm以上のダスト粒子総数の時間変化を測定した結果を示す略線図である。
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。
<1.第1の実施の形態>
図1AおよびBは、第1の実施の形態である壁(間仕切り壁)を示す。図1Aに示すように、この壁9は、内壁9aと外壁9bとが一定距離を置いて互いに対向して設けられ、この2枚の壁が対向することによって壁の周縁部に形成された開口面4面を全て塞ぐようにして側壁9c〜9fが設けられている。さらに、壁9a〜9fが隙間無く接合されることによって直方体が形成され、この内部に内部空間(中空部)9gが形成されている。また、内壁9aは閉空間である部屋1の居住空間に接して設けられている。この壁9を、例えば、高強度材で構成することによって、全体としては頑健な構造体でありながら外気を導入できる内部空間(中空部)9gを内包する。壁9を構成する側壁9dの両端部には、通気口11が設けられている。この場合、側壁9dの上端部に設けられた通気口11は外気の導入口(インレット)、下端部に設けられた通気口11は排気口(アウトレット)である。また、内壁9aの少なくとも一部はガス交換膜26によって構成されている。また、内部空間9gには、内壁9aと外壁9bとに挟まれるようにして、側壁9cと一定間隔を置いて互いに対向するようにしてC型断面鋼15aが設けられ、側壁9dと一定間隔を置いて互いに対向するようにしてH型断面鋼15bが設けられている。また、C型断面鋼15aおよびH型断面鋼15bは側壁9cおよび側壁9dに平行に設けられている。C型断面鋼15aおよびH型断面鋼15bは、例えば、ガス交換膜26の端部と接するようにして設けられることが好ましく、このようにして設けられることで部屋1を支える十分な強度を確保することができる。また、C型断面鋼15aと側壁9cとの間には、側壁9cの上端部とC型断面鋼15aの下端部とを結ぶようにして筋交い16が設けられている。また、H型断面鋼15bと側壁9bとの間にも、側壁9bの上端部とH型断面鋼15bの下端部とを結ぶようにして筋交い16が設けられている。これにより、部屋1を支えるのに十分な強度を確保することができる。また、C型断面鋼15aおよびH型断面鋼15bの柱材を構成する部材のうち、ガス交換膜26と直交する方向の部材の面には、孔15cが設けられ、この孔15cを通して、自由に気体が流れるよう構成されている。壁9はこのように構成されることで、通気口11を介して、壁9の内部空間である内部空間9gと側壁9dに隣接する廊下33などの家屋オープンスペースとの間で空気のやり取りをする。この空気のやり取りは、好適には、例えば、機械換気により、側壁9dの上端部に設けられた通気口11から強制的に外気(フレッシュエア)を導入し、側壁9dの下端部に設けられた通気口11よりこれを排気する。部屋1の居住空間に接する内壁9aにはガス交換膜26が設けられており、これにより、部屋1内部の空気と、内部空間9gの中の気体とを、気流の流れとしてのやり取りがないようにして隔てている。部屋1の居住空間と内部空間9gとの間で、直接の気流マスフローのやり取りはないものの、空気を構成するガス分子(酸素、窒素、二酸化炭素など)及び、人の生活や活動と共に出るアンモニア等の微量化学物質は、上記ガス交換膜26の両側に濃度差が生じた場合には、濃度拡散が生じ、このガス交換膜26を介して当該分子を交換することで、この壁9の接する部屋1内部の空気を人が居住したり活動したりするのに適した環境に維持できる。また、ガス交換膜26を、ガス交換膜を織り込むことで得られる2次元状構造体に置き換えて構成することもできる。部屋1の構造を支える壁9の外壁9bを構成する部材は、例えば、厚みと強度の十分な板材である高強度材を用いることが好ましく、これに、断熱、防音機能を追加した材料を用いることがより好ましい。このように構成することで、壁9全体として、断熱、断音性能の高い構造体としての機能を担保する。一方、図1Bに示す壁9は、2つの通気口11が、上部側壁である側壁9eに設けられている。それ以外は、図1Aに示す壁9と同様な構成となっている。このように壁9を構成することにより、内部空間9gと壁9eと接する天井裏等の家屋オープンスペースとの間で空気のやり取りをすることができる。
ここで、内壁9aに設けられるガス交換膜26の面積について考える。ガス交換膜26(あるいは2次元状構造体)の面積をAとすると、閉空間である部屋1の居住空間の体積をV、部屋1の居住空間内部の酸素消費レートをB、外界と平衡状態にあり部屋1の居住空間内部で酸素消費の無い時の酸素体積をVO2、ガス交換膜26(あるいは2次元状構造体)の酸素の拡散定数をD、上記居住空間内における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、ガス交換膜26(あるいは2次元状構造体)の面積Aが、少なくとも
を満たすように、ガス交換膜26が設定されている。ガス交換膜26を、例えば、2次元状構造体に置き換える場合において、2次元状構造体が、例えば、九十九折りのような折りたたまれた構造(複数の曲面および/または平面を有する構造)を有する場合には、その構造を引き伸ばし、展開した際の2次元的面積を面積Aとする。これにより、この壁9と接する部屋1の酸素濃度は、目標値であるη以上に保つことができる。
この第1の実施の形態によれば、壁9を、外壁9bと内壁9aとを一定距離を置いて互いに対向するようにして設け、その開口面を塞ぐようにして側壁9c〜9fを設け、内壁9aの少なくとも一部をガス交換膜26で構成したので、これらの壁を高強度材などで構成することによって、全体としては頑健な構造体でありながら外気を導入できる内部空間(中空部)9gを内包する構造とすることができる。また、この壁9の内壁9aを閉空間である居住空間を形成する部屋1に接するようにして設けることで、この壁9を壁全体として、十分な強度、断熱および断音性能の高い構造体としての機能を担保しつつも、部屋1の居住空間と壁9の内部空間9gとの間で、直接の気流マスフローのやり取りをすることなく、気体分子のやり取りをすることができる。つまり、空気を構成する気体分子(酸素、窒素、二酸化炭素など)及び、人の生活や活動と共に出るアンモニア等の微量化学物質が、ガス交換膜26が仕切る空間の両側において濃度差が生じた場合に、濃度拡散が生じ、ガス交換膜26を介して当該分子を交換することで、この壁9が接する部屋1の内部の空気を人が居住したり活動したりするのに適した環境に維持することができる。
<2.第2の実施の形態>
図2は第2の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。
図2に示すように、この高清浄部屋システム10は、異なる2つの独立な部屋が隣り合って構成されている。また、図2はこれらの部屋の内部構成を透視して示している。隣り合う部屋のうち、図面右側には部屋1a、左側には部屋R1 が設けられている。この図において、一点鎖線で表される部屋R1 は仮想的な部屋であって、部屋1aと独立した構成を有していればその構成は限定されない。また、図2中、破線部は、部屋1a内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1aの内部の構成は実線で示している。
部屋1aは直方体形状を有し、高清浄部屋システム10において最も外側の構造であり、閉空間を形成している。この閉空間を構成する部分空間として居住空間6と天井裏5とを有する。天井裏5は、2重天井によって形成される内部空間である。この2重天井は、部屋1aの頂面と、この頂面から一定距離を置いて互いに対向するようにして設けられた天井壁2aとによって構成されている。即ち、居住空間6と天井裏5とは、天井壁2aによって隔てられている。居住空間6を構成する側壁のうち、図中向って右側の壁9が、第1の実施の形態で示した壁9と同様な構成を有しており、第1の実施の形態で示した壁9の内部空間9gと同様な構成を有する内部空間7を内包している。具体的には、一定間隔をおいて互いに平行に設けられた外壁9bと内壁9aとによって構成された二重壁により内部空間7を内包する壁9が構成されている。図1Aにおいて示した壁9を構成する側壁9c〜9fは部屋1aを構成する側壁2e、側壁2c、天井壁2aおよび床壁2gによって構成される。この内部空間7には気体流路24が設けられ、内壁9aの少なくとも一部には開口23が設けられている。この開口23は、天井壁2aの天井裏5側の面上に設置された、ファン・フィルターユニット21の吸入口に対応している。開口23は、例えば、複数有していてもよい。内部空間7の厚み、即ちここでは内壁9aと外壁9bとの距離は、具体的には、例えば、5cm以上40cm以下であることが好ましく、10cm以上20cm以下であることがより好ましい。居住空間6と内部空間7とを隔てる、壁9の内壁9aには、ガス交換膜26が張られている。このガス交換膜26はダスト微粒子は通さず気体分子は通すようにして構成されており、居住空間6と内部空間7との隔壁である内壁9aの一部を構成している。ガス交換膜26は、居住空間6が、例えば、和風あるいは和室様であれば、障子紙を利用することが好適である。ダスト微粒子は通さず気体分子は通す能力を持つ壁構造は、例えば、内壁9aに居住空間6と内部空間7とを連通させる開口部を設け、然る後、ガス交換膜26を、この開口部を完全に塞ぐように貼り付けることで得られる。また、ガス交換膜26はガス交換膜を織り込むことで得られる2次元状構造体とすることもできる。また、壁9の内壁9aによって隔てられた居住空間6内と内部空間7内とにおいて流れる空気の方向が一致するように構成することが好ましく、また、流れの速さも一致するように構成することが好ましい。この構成としては、例えば、居住空間6内に送風機を設けることが好ましい。このように構成することで、ガス交換膜26によるガス交換をスムーズに行うことができる。また、居住空間6内には、部屋1aの左奥隅を構成する側壁2bおよび2eと、これらの側壁に互いに対向して設けられた側壁19aおよび19bと、天井壁2aとによって囲まれた閉空間であるユーティリティースペース19を有する。このユーティリティースペース19は、例えば、トイレやお風呂、洗面台などに利用される。
ファン・フィルターユニット21が設けられる部分の天井壁2aには、ファン・フィルターユニット21の吹き出し口に対応する開口が設けられ、この開口とファン・フィルターユニット21の吹き出し口とが気密性を持って接続されることによって吹き出し口22が形成されている。この吹き出し口22とファン・フィルターユニット21の吹き出し口とは、気密性よく一体化されている。ファン・フィルターユニット21の吹き出し口から気流が出射されることで居住空間6へ清浄気体が供給される。また、ファン・フィルターユニット21は壁9の内部空間7の内部にも設置することができる、
壁9内に形成された内部空間7においては、ガス交換膜26の面から、壁9の厚みの半分程、例えば、5cm以上10cm以下の長さで後退させて、開口23とファン・フィルターユニット21への気体流入口とを気密性を持って連通する気体流路24が設けられている。これにより、ガス交換膜26の両側に十分な気体の存在が可能な体積を確保することができる。気体流路24は、例えば、5cm以上15cm以下の厚みで、幅約90cmのダクト構造とする。開口23は、居住空間6内部の空気を気体流路24内部へ導入する吸入口である。開口23から入った気体は気体流路24を通ってその全量が、ファン・フィルターユニット21の吸入口へ還流する。こうして、100%循環フィードバック系が完成する。一つの壁9の内部空間7をして、ガス交換能力と100%循環フィードバック系を構成する気体流路の格納の2つの機能を備えさせることで、内部のスペースを有効利用できる。ファン・フィルターユニット21は、一般に、居住空間6に付属する100%還流路のどの場所にあっても良く、上述の天井配置のみならず、例えば、壁9内部に床置きの形で格納することもできる。このようにして、図2に示す状況から明らかなように、従来の住宅の部屋に比べ何ら狭小化することなく、極めて清浄な部屋システムを構成することができる。
天井裏5と内部空間7とは、内部空間7を構成する天井壁2aに開口が設けられることで連通して構成されている。天井裏5に接する側壁2eには通気口11aが設けられている。部屋1aの居住空間6に接する側壁2eには、人間が居住空間6と外部空間とを出入り可能な出入り口8を有しており、例えば、廊下(図示せず)と居住空間6との間を自由に行き来することが出来る。また、内部空間7に接する側壁2cには通気口11bが設けられている。この通気口11aおよび11bが外気導入のインレットとアウトレットの役目を果たす。これは、例えば、通気口11aから流入するフレッシュエアは、天井裏5を経由して、部屋1aの壁9の内部空間7へ導入される。ガス交換膜26を介して、居住空間6などで発生した二酸化炭素は、内部空間7側へ、また、酸素は、壁9の内部空間7から、酸素が消費される居住空間6側へと濃度拡散され、以って、ガス交換がなされる。ガス交換後の空気は、通気口11bから排出される。また部屋で発生したガスや化学物質分子も同様にして、壁9の内部空間7を経由して外部へ排出される。通気口11aと通気口11bとのインレットとアウトレットの役目は、建物全体の送風機構により逆転させることも出来る。即ち、通気口11bを経由して外部からフレッシュエアを導入し、通気口11aを経由して上外部へ汚れたエアを放出することもできる。また、通気口11aが複数設けられている場合にあってはインレットとアウトレットとの組み合わせは適宜選択することができ、通気口11bも同様に適宜選択することができる。また、天井壁2aに開口を設けないことで天井裏5と内部空間7とは連通しないように構成することもでき、その場合には通気口11aと通気口11bとを完全に独立した通気口とすることができる。
天井裏5と内部空間7との連通の有無に関わらず、壁9中の内部空間7と居住空間6との間で、ガス交換膜26を介して気体分子のやり取りがされる。すなわち、酸素や二酸化炭素、あるいは生活臭の元となる化学物質分子が、ガス交換膜26が隔てる内外の濃度差に応じて濃度勾配による拡散が行われ、居住空間6の内部の空気を生活・活動に好適なものに保つことができる。ガス交換膜26の面積は、平坦な障子紙様の2次元膜(障子紙)を利用する場合、例えば、135cm×135cmとすると良い。ファン・フィルターユニット21の吹き出し口22から空気が下向きに吹き出されることで居住空間6に空気が供給される。居住空間6内における空気中の塵埃を下方へと押しやると共に、内部空間7を形成する壁9の内壁9aの下部に設けられた開口23から、開口23とファン・フィルターユニット21の吸入口とを気密性を持って連通する気体流路24に流入し、この気体流路24を通って、ファン・フィルターユニット21へ全量が還流する。このようにして、ファン・フィルターユニット21から居住空間6内部へ流出する気体の全部が、ファン・フィルターユニット21へ還流するよう構成されることで100%循環流路が完成する。また、上述したように、部屋1aの側壁の少なくとも一つを第1の実施の形態において示した壁9で構成することによって、この壁9に内包された内部空間7に、ガス交換と100%循環フィードバック系を構成する気体流路の格納との両方の機能を備えさせることできる。これにより、部屋1a内部のスペースを有効利用でき、従来の住宅の部屋にくらべ、何ら部屋を狭くすること無く、外見上も部屋側面にはめ込み式の障子様デザインを持った部屋として極めて自然に超高清浄環境を実現できる。この側壁に設けた障子様のガス交換膜26の裏に照明器具を設置することで、壁自体が光る間接照明の役を果たすことも可能で、この場合、壁9は一人3役の高機能壁として機能する。
また、塵埃除去のみならず、臭い等も分解したい場合には、光触媒61を気体流路24の中に設けるとよい。光触媒61は、光触媒単体の他に、例えば、光触媒と塵埃フィルターとを組み合わせたものであってもよい。光触媒61は、例えば、気体流路24の内部に設けられ、この実施の形態においては、例えば、ファン・フィルターユニット21の塵埃フィルターの上流にファン・フィルターと直列に設けられるが、この設置形態に限定されるものではない。この光触媒61は、この高清浄部屋システムの下では、殆ど無塵状態の中で作動するので、目詰まりの問題から開放され、本来の光触媒機能のみに特化したオペレーションが可能で、光触媒機能が極めて長く維持されることになる。光触媒装置は、一般に利用されている、プラズマクラスター(登録商標)やナノイー(登録商標)等の機能性装置と同じく、本発明の100%循環システムと極めて相性のよいシステムといえる。
この第2の実施の形態によれば、部屋1aの側壁の少なくとも一つを第1の実施の形態において示した壁9で構成したので、第1の実施の形態と同様な利点を有するとともに、一つの内部空間を、ガス交換と100%循環フィードバック系を構成する気体流路の格納との両方の機能を備えさせることで、部屋1a内部のスペースを有効利用でき、従来の住宅の部屋に比べ何ら狭小化することなく、高清浄化システムの基幹部分を埋め込むことができる。また、100%還流路を一つしか設ける必要が無いので、簡便に高清浄部屋システムをローコストで組むことができるという利点を有する。部屋1aの出入りの頻度が少なく、相対的に居住空間6の内部に滞在する時間が長い場合に、好適なシステムとすることができる。
<3.第3の実施の形態>
図3は第3の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。
図3に示すように、この高清浄部屋システム10は、隣り合う部屋のうち、図面左側には部屋1b、右側には部屋R2 が設けられている。この図において、一点鎖線で表される部屋R2 は仮想的な部屋であって、部屋1bと独立した構成を有していればその構成は限定されない。また、図中、破線部は、部屋1b内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1bの内部の構成は実線で示している。
高清浄部屋システムについては、第2の実施の形態において示した高清浄部屋システムよりも更なる高性能を求めるニーズが高まることも起こりうる。例えば、病院における免疫不全治療、養護老人ホームにおける、より完全な感染症予防、一般家庭における自宅療養の際などに適用される場合である。このときは、例えば、病室、養護室となる居住空間6と戸外や廊下との間で出入りするその瞬間にも、この空間の清浄度を劣化させない工夫が必要である。そのためには、第2の実施の形態の部屋1aの構成を利用しつつ、更に追加の構成を導入する。
即ち、部屋1bは、第2の実施の形態において示した部屋1aを構成する側壁である壁9と対向する側壁を、壁9と同様に構成された内部空間12を内包する壁13としたものである。即ち、部屋1bを構成する側壁のうち、出入り口8を有さない側の、互いに対向する側壁のいずれもが内部空間を内包する壁9および壁13で構成され、壁9に内包される内部空間7と壁13に内包される内部空間12とは互いに独立している。また、壁13および内部空間12の構成は、壁9および内部空間7と同様な構成とすることができる。部屋1bは図中向かって左手の壁が、本発明の第1の実施の形態において示した壁9と同様な構成を有する壁13で構成されており、この壁13は、外壁13bと内壁13aとによって構成されている。壁13は第2の内部空間である内部空間12を有しており、この内部空間12はガス交換膜26を介して居住空間6に隣接する空間となっている。内部空間12の厚みは、具体的には、例えば、5cm以上40cm以下であることが好ましく、10cm以上20cm以下であることがより好ましい。これは、後述するように、内部空間12内には気体流路24を内部に格納しなくて良いので、内部空間12の厚みを15cm以下という薄い構造とすることもできる。
内部空間7内部に設けられる気体流路24は内壁9a上に設けられていてもよい。これは、内壁9aの一部をガス交換膜26で構成していないからである。また、壁9および壁13は、壁そのものを気体流路とすることもできる。ただし、壁そのものを還流路とする場合には、壁9に設けられている通気口11bは閉じておく。また、気体流路24の厚みは、上述したものと同様に5cm以上10cm以下であることが好ましいが、内部空間7の厚さまで、気体流路24の厚みを厚くして断面流量を向上させ流れのコンダクタンスを上げることも出来る。壁13の内壁13aの一部はその一部がガス交換膜26で構成されている。
また、天井裏5と、二重壁によって構成される内部空間7と内部空間12とは、天井裏5を介して互いに連通していてもよいし、していなくともよい。また、内部空間7および内部空間12は、いずれか一方が天井裏5と連通していてもよい。内部空間7および12への外気の導入は第2の実施の形態と同様に行うことができ、通気口11aおよび11bのインレットおよびアウトレットの組み合わせは用途によって適宜選択することができる。例えば、部屋1bでは、天井裏5に接する側壁2eに設けられた2つの通気口11aをインとアウトのペアにしているが、上述したように、例えば、通気口11aを共にインとして、アウトは側壁下部の通気口11bに担わせるということも可能である。
居住空間6の部分空間である前室40は、出入り口8に対向するように間仕切りが設けられることで形成される。具体的には、出入り口8を有する部屋1bの側壁2eと、壁13の内壁13aと、ユーティリティースペース19の隔壁19bと、天井壁2aとで囲まれる空間の開口面を塞ぐようにして引き戸47が設けられることで構成される。この引き戸47が間仕切りとして機能する。また、引き戸47は、当該開口面を塞ぐようにして設けられた間仕切り壁の一部に設けられる構成を有していてもよい。また、居住空間6の前室40以外の空間は主室20を構成している。即ち、引き戸47は、前室40と主室20とを仕切る間仕切りの機能を有する。引き戸47を開く時は、ユーティリティースペース19を構成する側壁19aに沿って開くよう設定し、引き戸47の開閉に伴って、無用のデッドスペースの発生がないように配置する。引き戸47が開いたときは、前室40と主室20とは連通するが、引き戸47を閉じることで前室40と主室20とは完全に隔絶される。また、この引き戸47の主面の少なくとも一部は、ガス交換膜26で構成されることが好ましい。ガス交換膜26としては、例えば、障子紙あるいは障子紙様の濾布や不織布フィルター材を選ぶことで、日本古来の書院造りの趣をかもし出しながら、引き戸47にガス交換能を付与することができる。ガス交換膜26を引き戸47に設ける場合には、具体的には、例えば、引き戸47に裏表両面が連通した開口を設け、この開口全体を完全に塞ぐ形態でガス交換膜26を張る。このように構成することで、前室40の内部と外部との間において気流としての出入りが無くても前室40の内部と外部とにおいてガス交換を行うことができる。
前室40を形成する図中左手の壁は壁13によって構成されている。前室40と壁13の内部空間12とを隔てる内壁13aには、ガス交換膜26が張られており、このガス交換膜26が内壁13aの一部を構成している。また、この内部空間12には、ガス交換膜26と平行に、この膜から、内壁13aと外壁13bとの距離の半分程度の距離、即ち5cm以上20cm以下の距離を後退して、気体流路43が格納されている。気体流路43は、内壁13aの最下部に設けられた開口46と、天井裏5の内部の天井壁2a上に設けられたファン・フィルターユニット44の気体流入口とを気密性を持って連通している。ファン・フィルターユニット44は、前室40内部に気体が送り出されるように吹き出し口45に接続されている。吹き出し口45は、吹き出し口22と同様に構成される。気体流路43は、気体流路24と同様にして構成することができるが、例えば、矩形断面のダクトの使用の他、蛇腹パイプを複数並列して連結することが挙げられる。気体流路43は気密性を持って開口46に接続される。前室40内部の空気は、開口46を通じて気体流路43内部へ導入され、その全量が吹き出し口45から前室40の内部に再び戻る。
また、より簡便なタイプとして、この前室40内部の内壁13aに設けられたガス交換膜26を省き、引き戸47を構成するガス交換膜26(障子紙)の機能により代替させることが可能である。気体流路43は、内部空間12の内部に、内部空間12と隔絶して構成されてさえいればよく、例えば、単純に、上記の蛇腹パイプで連結するということでも実現できる。また、この実施の形態では、ガス交換能をできるだけ付与するべく、主室20を構成する天井壁2aの少なくとも一部やユーティリティースペース19を構成する天井壁2aの少なくとも一部などもガス交換膜26で構成されるが、ガス交換膜26の設置の有無や、設置する面積などは、部屋内部の酸素等使用量に応じて適宜設計、選択することができる。
次に、この高清浄部屋システム10の動作について説明する。廊下などの外部空間から、出入り口8を経て入る人は、一旦前室40において、例えば、数十秒〜数分待った後、引き戸47を開けて主室20へ入る。こうすることで、居住するスペースの清浄度を一切劣化させること無く、入ることができる。一方で、人間などが退出するときも、主室20から前室40に入った後、引き戸47を閉じ、然る後、出入り口8から外部へ出ることで、主室20の清浄度を一切劣化させること無く、廊下・戸外へ出ることができる。その他のことは、第1および第2の実施の形態と同様である。
<実施例>
この実施の形態による高清浄部屋システムは、新築の建築物、例えば、家屋、ビル等は勿論のこと、既存の建築物の改築等にも対応できる。この実施例においては、一般的な家屋の部屋に高清浄部屋システムの機構を組み込み、高清浄部屋システム10とした。
図4は高清浄部屋システムの機構を組み込む前の部屋を示した上面図である。
図4に示すように、部屋1は3600mm四方で、高さ約2300mmの直方体形状を有する。また、この部屋1の廊下(図示せず)に面した側壁のうち一方の角部に接する部分には出入り口8が設けられている。また、もう一方の角部には、部屋1内に幅1800mm奥行き900mm高さ2300mmの直方体の収納部19cが形成されている。この空間を、上記に示した、この第3の実施の形態のユーティリティースペース19に相当する一角とみなせば、本実施例は、新築の住宅などに高清浄環境システムを適用するモードであるこの第3の実施の形態と同等の性能を、既に極普通に一般に存在する住宅などの部屋を改築して高清浄環境システムを適用するモードで実施することができる。つまり、部屋1は、出入り口8を有する部屋1の一角に収納部19cというユーティリティースペース19を有するとみなすことができ、例えば、第2の実施の形態において示した部屋1aと同等な空間とみなすことができる。そして、この部屋を改築することによって、高清浄部屋システム10の構成を付与し、この第3の実施の形態で説明した高清浄部屋システムと同等の性能を、既に、ごく普通に一般に存在する住宅などの部屋に対して適用することができる。ここで、部屋1の内部の構成について説明する。部屋1の出入り口8が設けられた側面と対向する側面には、幅1690mm、高さ1170mmの窓部54が設けられている。部屋1内の収納部19c以外の空間である居住空間6は、大きさの異なる二つの直方体空間が連結されることで構成されている。この二つの直方体空間のうち、一方は、収納部19cの側壁19bと、側壁2bのうち側壁19bに互いに対向する部分と、側壁2cのうち側壁19bと側壁2bとに挟まれる部分とによって囲まれる直方体空間であって、出入り口8から居住空間6に入って直ぐのスペースである。この直方体空間の具体的な寸法は、奥行き×幅×高さ=900mm×1800mm×2300mmである。また、この直方体空間は、以下に述べる改築の後、前室40と内部空間57とを構成する。また、他方は、側壁2eと収納部19cの側壁19aと、側壁2dのうち側壁2eと側壁19aとに挟まれる部分と、この側壁2dの部分と対向する側壁2bの部分とによって囲まれる直方体空間であって、部屋1の窓側のスペースである。この直方体空間の具体的な寸法は、奥行き×幅×高さ=2700mm×3600mm×2300mmである。この直方体空間は、以下に述べる改築の後、主室20と内部空間12とを構成する。
図5は、高清浄部屋システムの機構を組み込んだ後の部屋1を示した上面図である。また、図6は、側壁2b側から見た断面図( 透視図) である。図7は、側壁2c側から見た断面図( 透視図) である。
図5〜図7に示すように、部屋1の内部には居住空間6が形成されている。改装後は、上記の2つの直方体空間が間仕切り41と引き戸47とによって間仕切りされることで、居住空間6は主室20および内部空間7とを有する空間と、前室40および内部空間57を有する空間とに分割される。また、ファン・フィルターユニット21の収納部50は、部屋1の天井壁27と平行にパネルを設け、天井壁27と当該パネルとで形成される空間を気密性を持って囲むことでファン・フィルターユニット21と気体流路24とが収納されたファン・フィルターユニット収納部50が形成される。また、側壁(在来壁)2dから約15cm離間して、平行に壁9aを設置することで、側壁(在来壁)2dと内壁9aとが一体となった中空壁である壁9となる。この壁9は第1の実施の形態で示した壁の構成を有していることが好ましい。側壁2dの厚みが約10cmで、内壁9aの厚みが約0.6cmであるので、内部空間を有する二重壁である壁9の全体の厚みは、約26cmとなる。また、上記構成により、この新たな壁9が有する中空スペースであるところの内部空間7の厚みは15cmとなる。また、側壁2bと、出入り口8を有する側壁(在来壁)2cと、側壁(在来壁)2bに対向する部屋1の側壁(在来壁)19bと、間仕切り41と、引き戸47とで囲まれて成る空間は、隔壁56で間仕切りされることで、前室40と内部空間57とに分割される。隔壁56は、側壁2cのドア8側の端部と間仕切り41との間を塞ぐようにして側壁(在来壁)19bと対向して設けられる。前室40は、人が外部空間から部屋1に入る場合に最初に入る空間である。一方、内部空間57は、前室40における100%循環フィードバック流路を格納する空間となる。
引き戸47は、間仕切り41の面上をスライドするようにして設けられ、引き戸47が閉鎖される場合においては、主室20と前室40とを形成するそれぞれの空間とは完全に隔絶される。また、引き戸47の開放時には、引き戸47は、スライドすることで主室20の間仕切り41の主面上の位置に移動する。また、引き戸47は、閉鎖時において前室40が気密性を保つようにして構成されている。また、間仕切り41および引き戸47は、側壁19aと同一平面上に設けられることで、主室20にできるだけ凹凸の無いように設定することが、デッドスペースを減少させ、居住性能も高まるので、望ましい。出入り口8と引き戸47との両方が閉鎖されると前室40は、塵埃微粒子の出入りの無い密閉された状態となる。外部から部屋1へは出入り口8を開けることによって入ることができる。天井裏5内の天井壁2aには、ファン・フィルターユニット44が設けられている。前室40においては、壁56の最下部にファン・フィルターユニット44の吸入口に対応した開口46が設けられ、ファン・フィルターユニット44の吹き出し口45から前室40の内部に流出する気体の全部が、開口46を通過し、ファン・フィルターユニット44の吸入口と開口46とを気密性を持って連通する気体流路43を通って、ファン・フィルターユニット44へ還流することで、100%循環フィードバック系が構成されている。
内壁9aは、上述の通り、部屋1の側壁2dに一定間隔をおいて平行に設けられており、壁9は、主室20にガス交換膜26を介して接する空間7を内包している。壁9は、その端面に気流のインレットとアウトレットとを有しており、内部空間7と外部空間である廊下とは、パイプ55aおよび55bによって接続されている。このように、外部空間と内部空間7との間で気体が交換可能となることで、内部空間7が外気導入空間として機能する。パイプ55aは吸入口11cを有するインレットパイプであり、パイプ55bは排出口11dを有するアウトレットパイプとなる。その外径は10cmである。また、吸入口11cおよび/または排出口11dには、例えば、機械換気装置を設けることが望ましい。この機械換気装置は、具体的には、例えば、主室20内の空気が2時間で1回転以上する程度の風量生成能力を有するものが好ましい。2時間で1回転とは、2時間で主室20内の空気が全て換気されるということである。内壁9aの少なくとも一部はガス交換膜26である障子紙で構成されている。これにより、主室20は、一般の壁材あるいはガス交換膜26を一部に含む側壁で囲まれた閉空間となり、内部空間7と外部空間との間において気流としての空気の出入りが無いが、主室20と、外部に連通した内部空間7との間で気体分子の交換をすることができる。これにより、主室20と、外部に連通した内部空間7との間において、空気を構成するガス成分に濃度差がある場合に、ガス交換膜26を介して、内部空間7と主室20との間において気体を構成するガス分子や、部屋内部での生活や作業に付随して発生する、部屋の空気中に含まれる種々の分子の濃度拡散が生じ、主室20の空気の構成ガス成分は、その濃度が外部のそれと平衡に達する様に移動する。即ち、主室20内の酸素濃度が下がれば、内部空間7よりガス交換膜26を介して、酸素が供給され、主室20内の二酸化炭素濃度が上がれば、内部空間7よりガス交換膜26を介して二酸化炭素が排出される。また、主室20内にて、種々の臭いや化学物質が発生した場合は、その元となる分子は、上記の機構に従って、外界に排出される。
また、主室20には、ファン・フィルターユニット21と気密性を有する気体流路24とで構成された100%循環フィードバック系が接続されている。主室20と内部空間7とを隔てる内壁9aには、100%循環フィードバック系を構成する吸入口である開口23が設けられている。開口23から吸引された気体は、開口23とファン・フィルターユニット21との間を気密性を持って連通する気体流路24を通って、ファン・フィルターユニット21の吸入口に入り、その内部で濾過された後、吹き出し口22を経て、主室20に押し出(排出)され、この空気が部屋内部の塵埃を取り込みながら、再び、開口23へ戻ることにより100%循環フィードバック系が形成される。気体流路24は、本実施例では、直径約10cmの蛇腹パイプである。また、これらの図5〜図7において示したこの実施例は、コンセプトを示すに留め、厳密に寸法や距離をスケールして描いていないが、気体流路24は、ガス交換膜26からは約5cm後退し、壁2dにほぼ接する形となっている。また、主室20と内部空間7とを隔てる内壁9aの少なくとも一部をガス交換膜26の一つの例である障子紙で構成することで、内壁9aによって内部空間7と主室20との間で気体の交換が可能となる。
また、出入り口8によって外部空間と前室40との間で出入りがあった際には、出入り口8と引き戸47とを両方とも閉めた状態で、前室40内の清浄化を行う。具体的には、前室40を閉空間とした後に、上述のファン・フィルターユニット44を用いた100%循環フィードバック系を運転することにより行う。また、後述する図18、図19に示すように、ファン・フィルターユニット44の運転から40数十秒〜数分の後には、前室40の清浄度が格段に高まるので、この後、引き戸47をあけて、前室40から主室20に入ることができる。また、引き戸47は、少なくとも一部を障子紙等ガス交換能を持つ膜で構成することにより、主室20と前室40との間で気流としての空気の出入りが無くとも上述の気体ガス成分のやり取りをすることができる。
図8は、この実施例による高清浄部屋システム10の完成した姿を示した、デジタルスチルカメラによって撮影された写真である。
図8に示すように、奥の壁である壁9がこの実施例において示した壁9であり、この壁9を側壁の一つとして組み込んだ部屋1の主室20内部の写真となっている。窓部54を有する部屋1には、天井部に収納部50に格納されたファン・フィルターユニット21と気体流路24とが設けられ、吹き出し口22より清浄エアが下方へ射出される。壁9は主室20と内部空間7とを隔てる内壁9aを有し、壁9aにはファン・フィルターユニット収納部50が延びて接している。内壁9aの一部は、135cm×135cmの面積を持つ、ガス交換膜26となっており、ガス交換膜26である障子紙で構成されている。また、壁9aの下端部には、吸入口である開口23が設けられている。この開口23には、気体流路24内に大きなごみが侵入しないように網が設けられている。
障子紙面積の決定(order estimation)は、以下の考察に基づく。ガス交換膜26として用いる障子紙は、市販の民生用、汎用品(株式会社アサヒペン製の無地障子紙)であり、通気度等の物性値は提示されていない。そこで、使用する障子紙の通気度を、非特許文献7に示された濾布の通気度の典型的な値の中でも、控えめに見積もった値[〜1l/(dm2 ・min)]:200Pa)を有しているものとして用いる障子紙の形状、大きさなどを設計をし、その面積を決定した。これは、後で述べる様に、実際に主室20の中に人が入って実験を行うので、通気度を控えめに見積もり、面積Aを大きめに設定することは、安全性の面からも好ましいからである。また、上記に示した、数式(12)の第2項が、単位時間当たり、ガス交換膜を介して拡散して来る酸素分子の占める体積F(単位は、例えば[m3 /min])を示しているので、これを濃度差の関数としての式から、圧力(分圧)差の関数としてのものとして勘案し、上記、通気度が単位時間、単位面積当たり、当該圧力差において拡散して来るガス分子の占める体積であることを踏まえると、上記において示した数式(12)に現れる、ガス交換膜のD/Lを、通気度から算出することができる。安全性の面からターゲット酸素濃度η=20.8%と設定すると、ガス交換膜26の面積Aの満たすべき条件は、
となる。また、数式(17)の中途導出式に示すように、D/Lは同式における分母の前係数に相当し、上記通気度の値を基に、約5[m/min]と算定される。
また、ガス交換膜26を、写真に示すように、木枠で格子状に構成された障子窓とすることにより、主室20内部を極めて高い清浄度とすることができるにもかかわらず、主室20に和風の雰囲気を醸し出すことができる。また、内壁9aの最下部に設けられた開口23へは、ファン・フィルターユニット21の気体流入口とを気密性を持って連通する気体流路24が接続され、同流路が内部空間7内を走っている。このように、高清浄部屋システム10は、従来の部屋空間と比較しても何ら違和感なく、和風の外観を伴いながら、同時に極めて高い清浄度を達成することができる。
上記に示したような、主室20と前室40とを連結する構成としては、上記のような例に限らず、例えば、日本伝統の和室や和風旅館の部屋が挙げられる。日本伝統の和風旅館の部屋は、入り口を入ると障子等で奥の部屋(主室20)と仕切られた、所謂、踏み込み(靴・下駄脱ぎスペース)がある。このスペースに上記の前室40の構成を導入することができる。靴を脱ぐことは、まさに、奥の主室20に塵埃を持ち込まない、日本古来の知恵であるが、これに本発明の清浄技術を加えることで、名実共に、日本和室は、世界最高級の清浄度を、伝統の姿を全く失うことなく、世界に冠たる姿を持って指し示すと共に、実用に供することができる。また、日本伝統の住居などであれば、外部を外気導入空間である内部空間7への外気導入源とし、三和土スペースを前室40とし、奥の室を主室20とすることができる。また、近代日本の部屋(マンションなどの部屋)などであれば、外部を外気導入空間である内部空間7への外気導入源とし、玄関スペース(靴・下駄脱ぎ)を前室40とし、奥の室を主室20とすることができる。また、欧米式の一戸建ての住居などであれば、廊下や外部を外気導入空間である内部空間7への外気導入源とし、日本式に玄関スペース(靴・下駄脱ぎ)を新たに設け、前室40とし、残りの部屋スペースを主室20とすることで、花粉症等の対策を打つことができる。
次に、この実施例による高清浄部屋システム10の動作について説明する。まず、主室20内に備えられているファン・フィルターユニット21を単独で運転した場合の主室20内の空気清浄度の変化について説明する。
図9は、主室20内に備えられた100%循環フィードバック系を構成するファン・フィルターユニット21を運転した場合についてのダスト粒子数の時間変化を、短い時間スケールにおいて示した略線図、図10は、同時間変化を長い時間スケールにおいて示した略線図である。
図9および図10に示すように、ファン・フィルターユニット21の運転開始時は、粒径が0.5μm以上の塵埃の総和が10万個/立方フィートを超え(US209Dクラス10万)、0.3μmの以上の塵埃の総和は、立方フィート当り100万を超える、極めて塵埃粒子数の多い、決して清浄とはいえない環境である。ファン・フィルターユニット21の運転開始後は、主室20内の塵埃の粒子数が、運転開始からおよそ5分で1000個程度まで減少し、10分を超えたあたりで、1立方フィートあたり100個以下、即ち、US209Dクラス100以上の良好な清浄度となる。さらに、特に図10に示すように、運転開始から10時間程度経つと、粒径0.5μm以上の塵埃の総和は勿論、0.3μmの以上の塵埃の総和までもが、0カウントを呈することが示された。ここで、図10において示した略線図の縦軸は、対数プロットを行っているため、測定値ゼロは(縦軸、下方無限遠に飛ぶことから)プロットすることができない。よって便宜上、ここでは、測定で得られたゼロカウントは、便宜上、0.01のところにプロットした。また、粒径とは一次粒子の平均粒径のことをいう(以下同様である。)。この結果は、US209Dクラス1級の、高品位半導体工場などで用いられているスーパークリーンルームの清浄度に匹敵し、本実施例において示したような極普通の一般家庭風の外観を持つ部屋で達成できる清浄度としては、世界初であり、日常生活環境上の視覚的な親和性と超高清浄環境の両立ということで、極めて意義深いことと考えられる。
次に、主室20内に人間が滞在することなどによって酸素が消費される場合について説明する。 図11は、主室20内において酸素を消費する実験を行った様子を示した図面代用写真である。図11に示すように、主室20内においてカセットコンロによってブタンガスを燃焼させ、さらに、主室20内に人間を2人滞在させることにより、室内の酸素を消費しつつ、主室20内の酸素濃度を計測した。
図12Aは、この実験の開始から80分までのブタン(C4 10)ガス燃焼量と、主室20内の酸素濃度とを示した略線図である。図12Bは、図12Aのグラフにおける酸素濃度の変化を20%付近において拡大して示した略線図である。
化学式(1)より、ブタンが1モル58g、酸素は同32gであることを考えると、ブタンガスが毎分2g燃焼される際には、酸素の消費量は、約5[l/min.]であることが分かる。これは、人間の約20人分の酸素消費量に相当する。本実施例において用いられる部屋1の広さである約6畳の居住スペースに対しては、入りきれないくらいの人数であり、酸素供給能力を見るには十分な消費量である。この計測に使用したガスコンロは部屋のほぼ真ん中ながら、ファン・フィルターユニットの直下からは外した位置に載置した。また、この計測に使用した酸素濃度計は、ガス交換膜と対向する壁の位置、したがって、ガス交換膜から最も遠い位置に置いた。
また、図12AおよびBに示すように、主室20内の酸素濃度は、20分から60分に至るまでに0.3%ほど減少し、一時的に、20.6%となるが、その後増加に転じる。これは、上記において示した数式(16)においてターゲット酸素濃度とした数値20.8%と良い一致を示す。酸素濃度が一時的に、20.6%まで下がるのは、想定内のアンダーシュートであり、以下のように説明できる。ガスコンロの位置と酸素濃度計の位置の兼ね合いにより、数式(9)〜(15)による解析では、簡単の為、濃度の場所依存性はないとしている。即ち、酸素濃度に空間分布があるのは構成上当然であるが、天井に設置したファン・フィルターユニットの送風動力の効果により、「部屋の中の空気は十分早くかき回されていて、酸素濃度に場所ムラがない」という近似で解いている。そのため、このアンダーシュートは想定内であり、その後、増加に転じた到達点は、20.8%になると考えられ、計算と実験結果の一致はかなり良いと考えられる。このように主室20内の酸素濃度は、居住スペースと、外界と連通している壁9の内部空間7の間に濃度差ができると、これを消す方向に酸素分子の濃度拡散が生じる。これにより、酸素濃度としては、主室20内部で多量の酸素消費があるにもかかわらず、ほぼ、上記に置いて示した数式(15)に基づいた、20.9%に近い値を実現できることが示された。135cm×135cmの正方形形状のガス交換膜26の素材である障子紙を有する壁9に接する主室20内には人間22人が長時間滞在しても酸素が欠乏することがない。これは、主室20と壁9の内部空間7とを隔てるガス交換膜26である障子紙が、内部空間7に導入された外気と主室20の気体の間の各種分子濃度成分をガス交換膜26の両側で平衡化する膜として十分機能していることを示している。
また、上述の、主室20内酸素濃度が減少し始めて約40分経つと下げ止まるという実験結果より、D/Lを算出することもできる。即ち、この系の酸素濃度の変化を記述する微分方程式である数式(12)は、数式(3)の微分方程式と同一の形をしており、厳密解は、数式(4)と同様の形を取る(特に時間依存性としては、両者等しく、tに対し指数関数的変化を示す。より詳細に見ると、数式(4)のγF/Vを、数式(12)のAD/VLで置き換えれば良く、系の時間的振る舞いを把握できる)。指数関数的振る舞いが落ち着くのは、段落[ 0049] にも述べたとおり、指数関数の肩における時間tの係数の逆数のほぼ10倍程度経った時間である。このことから、図12Bの結果に基づいて、{1/(AD/VL)}×10〜40minとすることができる。A=1.35m×1.35m=1.8m2 、また、図5より約6畳の広さで、天井高さが約2.5mであることから、主室20の容積V=24m3 であるので、D/L〜(24m3 /1.8m2 )・10・(1/40min)〜3.3m/minとなり、段落[ 0104] で求めた D/L〜5m/minと良い一致を示す。即ち、本発明の、ダスト粒子は通さず分子の濃度拡散は可能な膜とこれに接する内部空間を有する本発明の壁9とこの壁が接する部屋に100%循環フィードバックシステムを採用したシステムでは、内部で酸素消費実験(ガス燃焼実験)を行うことで、当該膜の重要なパラメータであるD/Lを求めることができる。一旦、この値を求めた後は、本発明の高清浄部屋システムでは、数式(12)が良い近似で成り立ち、この系を特徴付けるパラメータはVL/ADであることに基づき、このVL/ADを{(V/A)/(D/L)}と書き換えることで、ガス交換膜26の性質だけで決まるD/Lというパラメータをもとに、スケーリングに則って、このガス交換膜の接する部屋の設計(VとAの設定、他)を、極めて見通し良く行う方法を新しく提示していることが分かる。つまり、ガス交換に関する、部屋の奥行き、或いは“実効アスペクト比”、V/Aと、ガス交換の“機能空間”における抽象的アスペクト比D/Lとの比率をとっている(次元解析を行うと、(V/A)/(D/L)は、m3 /m2 の次元を持つ分子を、m2 /( m/s) の次元を持つ分母で除している)。空間次元を取り出すと、3D(次元)と2Dの比を、機能空間での2D/1Dで除すことで空間次元が相殺し、残る分母の(1/時間)の次元が、最終的に、全体で時間の次元を持つ量を与えており、これが即ち、系のガス交換の時定数となっている。このように(V/A)/(D/L)でスケールすることから、図5の実施例をさらに高機能化する手段として、塵埃対策的には、ファン・フィルターユニットから射出される空気流を、天井面一面で均一化する(例えば、ファン・フィルターユニットの下には目の細かいメッシュを、これから離れた所には、“目の粗い”メッシュをおく)ことが有効なことが分かっているが、更に、(V/A)/(D/L)の比に基づく、ガス交換能的に追加の改良点として、ファン・フィルターユニットを壁9よりは、壁9に対抗する壁の方に近づけると共に、上記の“目の粗さ”に関しても、壁9から遠い方では、より粗く、壁に近いほうは、むしろやや小さくすることが良いことが分かる。このように、スケーリングに則って、部屋の設計を高清浄度及びガス交換能的に極めて見通し良く的確に行う上で、従来に無い新しい方法を与えている。
上述したように、上記の数式(15)を用いることにより、主室20の酸素消費量が異なるときでも、ガス交換膜26の面積を計算することができる。同様の膜微細構造を有するガス交換膜で拡散定数が同一の場合には、厚みが異なるガス交換膜を使用する場合でも、数式(15)により、やはり適正な面積を計算できる。また、通気度等の性能不明のガス交換膜であっても、ガス交換膜の面積と厚みを押さえた上で、ここに述べた実験を一度行うことで、その性能を把握し、内部で行う作業に応じてガス交換膜の面積を種々の様態に応じて計算し、以降は、自由に主室20を設計することができる。また、数式(12)は、部屋内の気流の回転がよく、空間依存性を考えなくてよい場合の式である。よって、このような機構を備えていない部屋、或いは、機構を備えていてもその機構を止めている場合には、位置依存性を考慮した考察が必要である。しかしながら、このような場合でも、一旦、実験による計測により、面積Aと或る一つの酸素消費レートにおける、部屋内酸素濃度の実験値を得ることができれば、その後は、異なる酸素消費状況下にあっても、上記に示した数式(15)の、L依存性、B依存性、D依存性に従って、必要なガス交換膜26の面積Aを求めることができることは重要である。また、こうして算出した面積Aは、図5の壁2dがガス交換膜26から無限に離れている、即ち、2重壁9の空洞幅が非常に大きい場合、言い換えると、実質的にガス交換膜26が、外界(例えば戸外や廊下の空間)に直接接している場合にも、主室20への適切な酸素供給能を与える値であることに注意されたい。即ち、2重壁9の厚みが実質的に無限大の場合として、主室20と外界との界面にガス交換膜26が単独で存在する場合も本発明の実施例に含まれる。
使用するガス交換膜26に対して上記のD/Lの値を次のようにして計算することができる。そのために、ガス交換膜26の種類を変えて酸素透過能を測定した。この酸素透過能の測定のために、図61AおよびBに示す酸素透過能測定装置を作製した。図61AおよびBに示すように、透明なアクリル板を用いて直方体形状の容器101を作製した。容器101の大きさは幅約20cm、奥行約15cm、高さ約30cmである。この容器101の正面の壁101aの中央に長方形の開口101bを形成し、この開口101bを覆うように、酸素透過能の測定を行うガス交換膜26を外側から貼り付ける。ガス交換膜26の外周部と壁101aとの間が封止されるようにテープなどで目張りをする。容器101の底面に0.1g単位で測定可能な市販のデジタル台はかり102を置き、その上にプラスチック製のかご103を載せた。かご103の底面に蝋燭(ろうそく)104を立てた。蝋燭104に火を付け、時間の関数として、容器101内の酸素濃度および蝋燭104の燃焼量(燃焼済み重量を意味し、酸素消費量に対応する)を測定した。ガス交換膜26としては、各種の障子紙(アサヒペン5641(株式会社アサヒペン製)、名尾和紙(厚手)、名尾和紙(毛柄)、名尾和紙(茶色)、名尾和紙(青色)、直兵衛(商品名))およびデュポン株式会社製の布様のTyvek(登録商標)を用いた。図62は容器101内の酸素濃度の時間変化、図63は蝋燭104の燃焼量の時間変化を示す。図62において{で示した部分に含まれるガス交換膜に対しては、酸素濃度の低下が速く、最終的に蝋燭104が消えた。即ち、参照として用いた(ガス交換能がほぼゼロと見做せる)ビニール膜(◆印)は、最も早く3分弱で、蝋燭104が消え、蝋紙仕立ての名尾和紙(青色)(+印)、名尾和紙(厚手)(△印)は、各々約3分半、4分半程で蝋燭104が消えた。図62において破線で囲った部分に含まれるガス交換膜(アサヒペン5641;■印、布様Tyvek;*印、名尾和紙(毛柄);○印、名尾和紙(茶色);×印、直兵衛;□印)は、炎自体は小さくなるものの、蝋燭104は基本的に最後まで消えなかった。図63において破線の矢印で示したガス交換膜は、酸素濃度の低下が速く、最終的に蝋燭104が消えたものであり、蝋燭104の燃焼量が少ない。他方、図63において破線で囲った部分に含まれるガス交換膜(アサヒペン5641;■印、布様Tyvek;*印、名尾和紙(毛柄);○印、直兵衛;□印、名尾和紙(茶色);×印)は、炎自体は小さくなるものの、蝋燭104は最後まで消えなかったものである。図63より、アサヒペン5641(■印)は、燃焼量が多いのにもかかわらず、図62に示すように酸素濃度は他の障子紙に対して相対的に高いことから、高い酸素透過能を有することが分かる。布様Tyvekも良好な特性を有する。蝋燭の主成分のパラフィンに対し、段落0114の化学式と同様の化学式を立て、図62から燃焼レートBを、また、図63からVO2/V−η(ここでは異なる二つの時刻における酸素濃度値の差)を計算することで、上記のD/Lを算定することができる。ガス交換膜26の材質によって、0.1m/分〜5m/分程度の値を持つことが、この実際の測定で確かめられる。この結果は、段落0106における、上記実験と独立な分析結果と整合的である。
このように、障子戸や障子窓を有する和風の空間を構成し、従来の和風建築と何ら違和感の無い部屋を維持し、かつ、多量の酸素消費を伴う作業や活動を行った際でも、部屋内の空気環境を人間の生存に好適なもの維持しつつ、同時に、部屋内の空気清浄度はUS209Dクラス100を優に超え、同クラス1にも迫る極めて良好な清浄空間を得ることができる。このように、ガス交換膜26を日本古来の障子紙とすることで、伝統的な「書院造り」の端正な佇まいを、現代的な高清浄環境特性を備えさせつつ、再登場させることができ、例えば、レストランや居酒屋などに好適である。また、これらの空間において受動喫煙の弊害を低減することができると期待される。世界の住宅や、レストラン、病院、養護施設へと展開されることで、地球人類の未来の安寧に大いに資すると期待してやまない。
図13は、本実施例の、高清浄部屋システム10において、更に、気体流路24の内部において、ファン・フィルターユニット21の上流側に、直列に光触媒フィルター(セントラル空調用光触媒脱臭ユニットMKU40:日本トーカンパッケージ株式会社製)を配置し、主室20内においてアルコールを一定量揮発させてから、送風量11[m3 /min.]にて、ファン・ フィルターユニット21を運転した場合の、主室20内の空気に含まれるアルコールの濃度変化を示した略線図である。図13に示すように、ファン・フィルターユニット21の運転開始から1分後には、主室20内の空気に含まれ、人間の感じるアルコールの異臭は運転開始前の半分となり、3分後には、ほぼゼロとなる。
図14は、上記と同様な構成にて、主室20内において芳香剤を一定量揮発させて運転した場合の、主室20内の空気に含まれる芳香剤の異臭の度合いを示した略腺図である。図14に示すように、ファン・フィルターユニット21の運転開始から1分後には、主室20内の空気に含まれる芳香剤(プロピレングリコールなど)に関し、人間の感じる臭気は、運転開始前の5分の1となり、2分後には、ほぼゼロとなる。このように、主室20内における臭いの原因となる物質の濃度をかなり短時間に、低減することができる。
図13および図14に示した結果は、光触媒が、内外で空気の出入りが無い状況で、S
σを化学物質の発生量、nを化学物質濃度、γを光触媒のフィルター一回通過あたりの分解効率と読み替えた、上記に示した数式(3)、及び、その解が示す指数関数的濃度減少の効果(数式(4)を参照)と、もう一つは、ガス交換膜26を通じての外界との平衡状態へ達しようとする効果の相乗効果の現れであり、本発明の極めて効率的な作用の証左となっている。
このように、内部に光触媒フィルターを設けた100%循環フィードバック系を用いると、この閉空間内で発生し、内部に滞在する化学物質などの濃度を極めて素早く低下させることが可能となる。これは、上述の通り、この閉空間内の化学物質が100%循環フィードバック系によって繰り返し光触媒と接触することで指数関数的に減少するという、光触媒と100%循環フィードバック系との相乗効果と、ガス交換膜26のガス交換機能に由来する。すなわち、密閉循環フィードバック系の構成を有しない従来型のクリーンユニットに光触媒を組み込んでも、開放系では、光触媒効果は小さい一方、本実施例の高清浄部屋システム10においては、密閉循環による塵埃減少によって、光触媒の機能が本来の化学物質等分解の役割に特化することができる。これらのことにより、本実施例の高清浄部屋システム10では、塵埃フィルターと光触媒との両方において長寿命性と高機能性との両立を実現することができる。
これらのことから、例えば、臭いの発生しやすい、介護ホーム、養護ホーム、病院室内などの閉空間において、この高清浄部屋システム10を適用することによって、室内で臭いの発生があっても瞬時に分解できることから、居住環境を飛躍的に向上させることができる。また、例えば、外部からの化学物質の侵入や内部での化学物質の発生などがあっても、空間を密閉した後に100%循環フィードバック系を運転することによって閉空間内部の化学物質濃度を数分でほぼ0にすることができる。特に、この実施例では、部屋1内、特に、主室20内を無菌かつ無塵にして有害ガス/異臭フリーの環境が実現できるので、この主室20の中に、例えば、小ぶりの樹木、観葉植物やハーブ等の、人間にとって好ましい効能を有する植物を置くことにより、例えば、都会の真ん中であっても、場所を選ばず居ながらにして、最高クラスの“森林浴”が体験できる。更に、積極的にラベンダーやその他、ユーザーそれぞれのニーズに合致したアロマの香りを導入することで、これからの現代人の最大の贅沢である、環境、中でも空気の品質を最大限に引上げることで、リラクゼーション等、人々の体に纏わるポジティブな効果を最大限に引上げることが可能となる。また、例えば、この密閉空間の内壁の一部をガス交換膜26で構成することなどにより、特定の化学物質に対してアレルギー症状を引き起こす化学物質過敏症の患者や、喘息の患者であっても、この空間内であれば、喘息やアレルギー症状を重症化することなく長時間滞在することができる。また、例えば、無塵・無菌環境にて呼吸器を、例えば就寝時の一日約8時間、“無負荷運転”することで、消化器官に対する短期間の断食が効果を奏するとされているのと同様の効果が期待できる。また、例えば、居住・治療空間内を、例えば、クラス1〜10程度の高清浄空間とすることで、無塵かつ無化学物質環境という“バックグラウンドノイズの少ない" 環境で、呼吸器、特に肺を経由した薬の投与を行えば、上述の“S/N比”を飛躍的に向上させた状況での、治療ができると期待される。つまり、在来環境の10億を超える塵埃の影響なく投薬等の医療プロセスを実行できる。老齢人口の増加する日本や、今後同様のことが予測される世界各国において、この高清浄部屋システム10の病院応用や在宅医療応用は極めて大きな可能性を秘めている。
ファン・フィルターユニット21の内部に備えられた塵埃フィルターに対して、光触媒フィルターを流れ方向に直列に備えた100%循環フィードバック系を密閉された閉空間に接続して運転すると、この閉空間内の化学物質の分解効果が飛躍的に向上する。その一方で、塵埃フィルターと光触媒フィルターとを流れ方向に直列に備えるので流れに対する圧力損失が大きくなり、閉空間内に供給できる風量が低下する。この問題に対処するには、ファン・フィルターユニット21のファンを最大静圧の大きいハイパワーなものとすることや、塵埃を除去するフィルターの圧力損失を小さくすることが挙げられる。前者は、コストが増大するとともに消費電力も増大し省エネルギーの観点からできれば避けたい形態である。また後者では、フィルターの塵埃捕集率を下げることによってフィルターによる圧力損失を小さくするため、フィルターの塵埃捕集率に大きく依存する従来型空気清浄システムでは塵埃の捕集性能が下がる。即ち、従来型クリーン系ではこの後者は採用できないが、上記において示した数式(4)に従うこの高清浄部屋システム10では、これを採用することができ、しかも高性能を発揮させることが出来る。
図15は、主室20において、ファン・フィルターユニット21の内部に備えられた塵埃フィルターを塵埃捕集率γが0.95の中性能フィルターとして数分間運転し、主室20内における塵埃の数を各粒径ごとに示した略線図である。図16は、この実験において計測された主室20内における塵埃のうち、粒径が0.5[μm]以上の塵埃の1立方フィート当りの総数を示した略線図で、そのままUS FED−STD−209D規格で評価した際の、主室20の清浄度に対応する。
図15に示すように、ファン・フィルターユニット21の運転開始から4分後における主室20内の塵埃の数は、粒径が0.3[μm]の塵埃は1000個を下回る程度に留まるものの、粒径が0.5[μm]の塵埃は100個を大きく下回り、粒径が0.5[μm]以上の塵埃は10個以下となる。粒径が0.5[μm]以上の塵埃の1立方フィート当りの総数に着目すると、図16に示すように、運転開始から10分で、主室20内における粒径が0.5[μm]以上の塵埃の1立方フィート当りの総数は100個以下となり始め、運転開始から40分を過ぎるとこの塵埃の1立方フィート当りの総数は10個前後となり、その後この値が維持されることで、US209Dクラス10級の清浄度の良好な空間が得られる。
このように、塵埃捕集率γが0.95であっても、US209Dクラス10級の清浄度という高品位な清浄環境を得ることができる。このことから、この高清浄部屋システム10では、フィルターの塵埃捕集率に対する「1に近くあるべし」との要求レベルを格段に下げることができるので、これにより生じるマージンを光触媒機能等の付加価値付与に充てることができる。これによって、塵埃フィルターの目詰まりが起きにくくなり寿命が飛躍的に延びる。また、この場合、主室20に、複数の100%循環フィードバック系を接続してもよい。この複数の100%循環フィードバック系のうち、例えば、一方は、塵埃捕集率は低いが光触媒を有し化学物質分解に特化したフィルターを備えたファン・フィルターユニット21を有する100%循環フィードバック系、もう一方は、塵埃の捕集に特化したフィルターを備えたファン・フィルターユニット21を有する100%循環フィードバック系とすることで、両者の利点を最大限に生かすことができる。ここでは、メインの100%循環フィードバック系が、上述のように、吸入口とファン・フィルターユニット21への気体流入口とを気密性を持って連通する気体流路24を伴い、吹き出し口22と、隔壁下部に設けられた吸入口である開口23との間に距離があり、よって、室内の空気を" ショートサーキット" させずに、全体に亘って動かすことの出来るしっかりしたものであれば、この“主”の100%循環フィードバック系に付随する“従”の循環フィードバック系は、100%循環フィードバック系といっても、メインのループのような厳密な気体流路を必ずしも必要とせず、単に、射出量と吸引量が一致している空気清浄器を、メインの循環システムにより風の動く室内の部位に置くことも推奨され、例えば、当該装置を準オープンスペースにて動作させた場合には到底実現できないような高清浄度が達成される。
図17は、本実施例において、主室20内に設けられる100%循環フィードバック系を構成するファン・フィルターユニット21を、市販の光触媒や金属ラジカルを利用した空気清浄装置(富士フィルム社製 KPD1000)として数十分間運転し、主室20内における塵埃の数を各粒径ごとに示した略線図である。図18は、この実験において計測された主室20内における塵埃のうち、粒径が0.5[μm]以上の塵埃の1立方フィート当りの総数を示した略線図である。KPD1000は風量を0.55[m3 /min.]として運転した。
図17に示すように、粒子数の減少率は数式(1)において示したγに依存する。これは、数式(4)からも明らかである。図中、粒径が大きい10[μm]のものに対しては、粒子数減少は速く、これに対しては、γ〜1というのは良い近似で成立している。しかし粒径が、5[μm]、1[μm]、0.7[μm]、0.5[μm]、0.5[μm]に向かって小さくなるにつれ、粒子数の減少レートが小さくなっていることが分かる。つまり、このKPD1000は、粒径により、捕集率γが異なっていることが分かる。図17で示されたデータより得られた粒子数の減少レートと、数式(4)の指数関数部の時間tに掛かる係数とを比較することにより、VとFは分かっているので、γを算定することができる。この算定により、例えば、粒径5[μm]に対しては、γ=0.75、粒径1[μm]と粒径0.7[μm]とに対しては、γ=0.37、粒径0.5[μm]に対しては、γ=0.33、粒径0.3[μm]に対しては、γ=0.29と求まる。このように、1[μm]より小さい粒径の粒子に対するγは、粒径が10[μm]の粒子に対するγの数分の一程度であることが分かる。KPD1000はダチョウ卵フィルターを装備し、ウイルス除去、臭い除去に主眼を置いたフィルターであり、捕集効率γは、特に、粒径の小さい方で、1をかなり下回るが、この程度のγしか持たないフィルターであっても、US209Dクラス200の比較的良好な清浄度を達成しうることを示している。本実施例の、低価格ながら相応に低性能なフィルターや光触媒システムを、100%循環フィードバックシステムに組み込むことで、高性能なフィルターに匹敵する性能を出させ得るというユニークな特徴が遺憾なく発揮されている。また、本発明の構成要素である100%循環フィードバック系を用いることで、図64〜図66に示すように、名尾和紙(毛柄)、伊万里和紙、布様のTyvek(登録商標)を、ファン・フィルターユニットのフィルターとして用いた場合の、粒径別の捕集効率も得ることができている。これは、マイクロビアル(microbial)環境制御に大きく役立ち、新しい医療・療養・養護環境を与えることができる。
また、ここに述べたγの算定法は、上述した障子紙面積の決定において、必要な面積をオーダーエスティメーション(order estimation)した障子紙に対しても適用することが出来る。即ち、そこで用いた障子紙を折り込んでフィルターを作製し、これを組み込んだファン・フィルターユニットを一定容積の閉空間内で100%循環フィードバック動作させて、各粒径の粒子数がどう変化するかを測定することで、障子紙フィルターを用いた場合においても、図17で示されたものとほぼ同様な性能を示すことがわかった。例えば、株式会社大直の障子紙“直兵衛”を障子紙フィルターとした場合では、粒径0.3[μm]、0.5[μm]、0.7[μm]、1. 0[μm]、5. 0[μm]及び 10[μm]に対し、γは、各々、0.12、0.14、0.18、0.28、0.56及び〜1であった。また、株式会社アサヒペンの障子紙“無地No.5641”を障子紙フィルターとした場合では、粒径0.3[μm]、0.5[μm]、0.7[μm]、1. 0[μm]、5. 0[μm]及び10に対し、γは、各々、0.18、0.21、0.24、0.42、0.71及び〜1であった。このように、従来、低〜中級フィルターでは、集塵効率に関して、粒子数がディケイ(decay) するところまで見ることができず、重量法や比色法しか用いられていなかった(従って精度の良い測定が出来なかった)のに対し、100%循環フィードバックシステムと結合して測定するこの方法は、粒径弁別しつつ、しかも一気に同時測定できるという特長から、測定法としても新しい手法を提供しているということが出来る。一方、上述した(V/A)/(D/L)で部屋をスケールすることも、また、別の側面で垣間見えた新しい手法であり、優れた特長である。今後、この二つ特長が合わさって、相乗効果をもたらすことを考えるとこの実施例において示したシステムが、清浄環境の技術開発・解析において果たす役割、意義は極めて大きいといえる。
上記のUS209Dクラス200級の清浄度は、0.5μm粒子の捕集効率γが1に遠く及ばないフィルターを以って出した値としては、驚異的であるといってよい。例えば、通常のクリーンルームの使い方でこの空気清浄装置(KPD1000:富士フィルム社製)を使っても、塵埃量は、雰囲気塵埃数密度N0 の高々半分程度(数十万個/立方フィート)にしか落ちないのに対し、図18に示したグラフから明らかなように、上述した本実施例のシステム構成で用いれば、N0 より3桁程度小さい値にまで減少させることができる。これこそが、上記において示した数式(5)の直接の帰結であるといえる。また、図17に示すように、同時に計測される酢酸とNH3 の濃度も運転開始から10分後には両者ともに濃度が1ppm以下となる。このように、空気清浄装置と100%循環フィードバック系とを同時に運転させることで、空気清浄装置の性能を飛躍的に向上させることができる。
このように、密閉循環系の空気清浄システムである高清浄部屋システム10においては、塵埃の捕集効率がフィルターの塵埃捕集率には大きく依存しない。そのため、フィルターの塵埃捕集率を下げても開放系の空気清浄システムのときに見られたような塵埃捕集効率の著しい低下が見られない。高清浄部屋システム10では、塵埃補集率が1に近くなくても良いことでできたマージンを殺菌性、減菌性へ振り向けることができる。また、100%循環フィードバック系が接続された密閉空間に、装置に送風口と吸気口とが集積されているようなファン・フィルターユニット、例えば、市販の空気清浄機などを設置するだけでも高清浄環境を得ることができ、さらに、このファン・フィルターユニットに装備されているフィルターの寿命も延ばすことができる。また、100%循環フィードバック系が備えられた主室20の内部に、KPD1000などの市販の光触媒や金属ラジカルを利用した空気清浄装置を独立に設置することも極めて有効である。このような、塵埃抑制よりもウイルス抑制や臭い取りに特化した空気清浄装置を、低塵埃環境に設置することにより、塵埃によるフィルターの詰まりによる性能劣化がほぼゼロに抑えられ、本来のウイルス不活化や脱臭等の役割に特化することができる。さらに、フィルターの目詰まりが殆ど起こらないので長期信頼性を得ることができる。このように、100%循環フィードバック系を具備した本実施例の系に加えて、市販の清浄機・空調機を併用するシステムは、清浄化の能力を、和でなく積でエンハンスでき、当該併用システムの新品時の性能を半永久的に維持することができる。
次に、前室40内に備えられているファン・フィルターユニット44(ピュアスペース1、吐出風量=[1m3 /min]:アズワン社製)を単独で運転した場合の前室40内の空気清浄度について説明する。
図19は、前室40内に接続された100%循環フィードバック系を構成するファン・フィルターユニット44を運転した場合についてのダスト粒子数の短時間における変化を示した略線図である。図19に示すように、ファン・フィルターユニット44を運転後の、前室40内の粒径0.5[μm]以上の塵埃の1立方フィート当りの総数は、運転開始前には数十万個であったものが、運転開始からおよそ5分で3分の1の、1立方フィート当り4万個程度まで減少し、10分を超えたあたりで1立方フィート当り1000個程度に減少する。その後、この清浄度が長時間に亘って保たれる。このように、前室40は、ファン・フィルターユニット44の運転開始からおよそ5分で前室40内部の塵埃の量を効果的に減少させることができる。
図20は、前室40に備えられているファン・フィルターユニット44を、大容量のファン・フィルターユニットであるアズワン社製のピュアスペース10(最大吐出流量=11[1m3 /min])に変更し、吐出風量=11[m3 /min]として運転し、得られた結果を示した略線図である。図20に示すように、前室40内の塵埃粒子数のうち、粒径が0.5[μm]以上の塵埃粒子の総数は、運転開始前においては、1立方フィート当り百万個程度であったものが、ピュアスペース10の運転開始から2分半で、ほぼ0になる。また、粒径が0.3[μm]以上の塵埃粒子の総数は、運転開始前においては1立方フィート当り一千万個程度であったものが、ピュアスペース10の運転開始から2分程度で10個以下となる。このように、前室40の容積に応じて使用するファン・フィルターユニット44を適宜設定することで、前室40内を極めて短時間に超高清浄環境とすることができる。以上のことから、本実施例の高清浄部屋システム10の前室40は、前室としての性能が極めて高いものが得られることが実証できた。これは、例えば、和風旅館の“踏み込み”(靴脱ぎスペース)に腰掛けて、革靴の靴紐をゆっくりと解いている間のごく短時間(約1〜2分の間)に、当該靴脱ぎスペース(前室)の清浄度は、US209Dクラス0.1程度に向上することができることを示している。
次に、高清浄部屋システム10の主室20に前室40を経由して人間が入る場合について説明する。主室20に人間が入る前においては、出入り口8および引き戸47は完全に閉じられており、外部と前室40と主室20とは完全に隔絶されている。また、主室20は、100%循環フィードバック系によって、あらかじめ内部がクリーンに保たれている。
ここで、出入り口8から人間が前室40に入り、出入り口8を閉め、前室40の100%循環フィードバック系を始動すると、上述したように前室40の塵埃が素早くフィルターに捕集され、前室40の清浄度が急速に向上する。この時、人の呼吸によって前室40の酸素は消費されるが、引き戸47にはガス交換膜26として障子紙が張られていることで、上述のガス交換機能で酸素が供給されるので、前室40での滞在には何ら問題は生じない。
このように、出入り口8、引き戸47を閉めた状態で、前室40にて、約2分間待機し、その後、引き戸47を開けて、主室20へ入ることで、主室20の清浄度を下げることなく、外部から主室20に人などが出入りすることができる。
図21は、引き戸47を経由して前室40から主室20へ人が入った時の主室20の相対清浄度の変化について示した略線図である。図21に示すように、出入り口8、前室40、引き戸47を経て、外部空間から主室20へ入った前後での主室20の清浄度に変化はないことが実証された。これは、前室40と主室20との間に設けられた出入り口が引き戸47で構成されているため、開け閉めの際の体積変化がなく、従って、圧力変化や空気送り効果(ピストン効果)も無く、人間の出入りの際に、主室20に対して、気流としての空気の出入りが無い。従って、塵埃の多い外気の流入もないので、主室20の清浄度が常に良好に保たれることを示している。このように、高清浄部屋システム10を前室40と主室20とで構成し、前室40と主室20とを隔てる出入り口を引き戸47としたことで、主室20内の清浄度を保ったまま、主室20と外部との間を行き来することができる。また、出入り口8も、最小限の改装に留めるべく扉のまま維持することもできるが、上記の圧力生成や空気送り効果(ピストン効果)を避ける意味と、病院や特別養護ホーム等では、廊下を通過する人や車椅子との衝突を避けたりする上でも、また、新築等でつくる場合にも、出入り口8も引き戸にすることがより好適である。その他のことは、第1および第2のいずれかの実施の形態と同様である。
この第3の実施の形態によれば、第1および第2の実施の形態と同様な利点を有するとともに、居住空間6を前室40と主室20とに引き戸47によって分割し、前室40側に外部から人間などが出入りする出入り口8を設けたので、外部空間から、出入り口8を経て入った人間などは、一旦、前室40において、数十秒〜2分待った後、引き戸47をあけて、主室20へ入ることで、主室20内の清浄度を一切劣化させること無く、外部空間から主室20へたどり着くことができる。また、この引き戸47には、障子紙等のガス交換膜26を張ることで、日本古来の障子の趣をかもし出しながら、ガス交換能を付与することができる。このように、部屋1を構成する壁9の一部を成すガス交換膜26を障子様濾布、或いは障子紙で構成し、出入り口、並びに、主室と前室(踏み込み)の間仕切りを引き戸とすることで、居住空間6を和風に構成することが可能となり、日本の千年数百年以上に亘る歴史に培われた様式を現代技術と理論解析式である数式(1)〜(17)を通じて洗練されたものとし、単に、単に長期優良住宅のコンセプトやエネルギーマネジメントにとどまることなく、更に清浄な空気環境という、古代の日本には普通にあった最上の空気環境を普通に日常で味わえるものとして現代に蘇らせることができる。また、障子、襖、引き戸などの日本古来のライフスタイルが、本発明を通じて、おしつけではなく、恒常的な清浄空間を実現するための自然かつ必然的な準備・手続きとして再認識されることで、障子紙ガス交換膜と内部空間も持つ壁と100%循環フィードバック系を伴うところの引戸様式の和室を、最先端21世紀型優良生活空間として世界に発信することができる。さらに、一般居住空間内でどうしても発生するダストを塵埃フィルターなどによって能動的に除去できるので、部屋内で発生するダストを単に外部に押し出していた従来のクリーンルームなどと比べて、部屋内を飛躍的に高清浄にできるとともに、内部でダストの発生があっても高い清浄度を維持できる。
<4.第4の実施の形態>
図22は第4の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。図中、破線部は、部屋1aおよび1b内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1aおよび1bの内部の構成は実線で示している。
図22に示すように、この高清浄部屋システム10は、互いに異なる2つの独立な部屋が隣り合って構成されている。隣り合う部屋のうち、図面右側には第2の実施の形態における部屋1a、左側には第3の実施の形態における部屋1bが設けられている。部屋1aと部屋1bとは壁9を隔てて線対称の位置にそれぞれの部屋のユーティリティ−スペース19が配置されている。ユーティリティースペース19がこのように配置されることによって病院や養護ホームに限らず、ホテルやマンション等でも一般的に用いることができる。そのため、既存の建築物に対して、この高清浄部屋システム10を容易に適用することができる。また、入退室が2段式になっているところならいずれも極めてよく作用し、既存の建築物としては、例えば、公衆浴場、プール、陶板浴、岩盤浴、岩盤浴、ネイルサロン、マッサージ等の身体ケア産業、養護ホーム、特老ホーム、病院、幼稚園、学校などに適用が可能なものである。
このように、多数の部屋を有する集合住宅、介護ホーム、病院などに対し必要に応じて、上記システムの構成を組み込むことで簡易に低塵埃空間を得られるだけでなく、化学物質、臭いなども瞬時に分解できる超高清浄空間を得ることができる。また、例えば、部屋1の壁9の内部空間7を連結することで共通の空間としてもよい。この形態は、後述する第21の実施の形態において詳しく説明する。また、部屋1を複数連結し、複数の居住空間または主室の空気の連通がある部位に1つ或は少数のファン・フィルターユニット21を配置した集中システムにより、複数の部屋の一括清浄化を行うこともできる。即ち、各部屋1に備えられた複数の気体流路24を気密性を持って連結し、1つ或は少数のファン・フィルターユニット21で複数の部屋1に清浄空気を供給する。この連結は、例えば、ダクトなどによって行われ、例えば、各部屋1の壁9の内部空間7を順に連結し、ファン・フィルターユニット21を連結した後に、各部屋1の居住空間6または主室20に空気が送風されるように、部屋1にそれぞれ設けられた送風機を連結するようにして構成される。この形態は、後述する第21の実施の形態において詳しく説明する。その他のことは、第1〜第3のいずれかの実施の形態と同様である。
この第4の実施の形態によれば、第1〜第3の実施の形態と同様な利点を有するとともに、既存の建築物に対して容易に適用可能な高清浄部屋システム10を得ることができる。
<5.第5の実施の形態>
図23は第5の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。
図23に示すように、この高清浄部屋システム10は、互いに異なる2つの独立な部屋が隣り合って構成されている。隣り合う部屋のうち、図面左側には部屋1c、右側には部屋R3 が設けられている。この図において、一点鎖線で表される部屋R3 は仮想的な部屋であって、部屋1cと独立した構成を有していればその構成は限定されない。また、図中、破線部は、部屋1c内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1cの内部の構成は実線で示している。
部屋1cは第2の実施の形態において示した部屋1aの図面向かって右側の壁9が、ガス交換のみに特化する壁として与えられている。具体的には、この壁9の内壁9aの一部に、第1の内部空間である内部空間7と居住空間6とが連通するような開口が設けられ、この開口を完全に塞ぐようにしてガス交換膜26が設けられ、一つの内部空間がガス交換のみに特化させて構成される。また、居住空間6内部に、壁9に対向して設けられた側壁である壁13によって形成される第2の内部空間である内部空間12は、天井裏5および外部から完全に隔絶されている。壁13の内壁13aに開口23を設け、内部空間12とファン・フィルターユニット44の吸入口とを気体流路24によって気密性を持って接続することで、内部空間12全体が、気体流路24の一部として構成され、1つの内部空間が100%循環フィードバックのみに特化されて構成される。また、例えば、開口23の横幅は壁9の一方の側部から他方の側部までの範囲であればどのような幅であってもよいが、開口の横幅を広くすることによって居住空間6内の空気全体を一様に吸引することができる。このような構成とすることによって、構成の単純化ができ、また、壁全体を循環路とすることで、側壁下部から一様に気流を吸引して、フィードバックすることができ、居住空間6内全体を一様でムラのない清浄化が可能となる。このように、一つの内部空間を、ガス交換と100%循環フィードバックとの両方の機能を備えさせず、個別化することで、循環路の断面流量を大幅に増加させ、流れのコンダクタンスを大きくしたり、ガス交換効率を向上させたりすることができる。その他のことは、第1〜第4のいずれかの実施の形態と同様である。
この第5の実施の形態によれば、第1〜第4の実施の形態と同様な利点を有するとともに、一つの内部空間を、ガス交換と100%循環フィードバックとの両方の機能を備えさせず、個別化することで、循環路の断面流量を大幅に増加させ、流れのコンダクタンスを大きくしたり、ガス交換効率を向上させたりすることができる。
<6.第6の実施の形態>
図24は第6の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。
図24に示すように、この高清浄部屋システム10は、互いに異なる2つの独立な部屋が隣り合って構成されている。隣り合う部屋のうち、図面左側には部屋1d、右側には部屋R4 が設けられている。この図において、仮想線である一点鎖線で表される部屋R4 は仮想的な部屋であって、部屋1dと独立した構成を有していればその構成は限定されない。また、図中、破線部は、部屋1d内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1dの内部の構成は実線で示している。
部屋1dは第3の実施の形態において示した部屋1bの図面向かって右側の側壁である壁9と壁9によって形成される第1の内部空間である内部空間7とが、第5の実施の形態において示した部屋1c内に設けられる壁13と、壁13によって形成される第2の内部空間である内部空間12と同様な構成を有する。これによって、内部空間7全体が、気体流路24の一部として構成され、1つの内部空間が100%循環フィードバックのみに特化されて構成される。このような構成とすることで、構成の単純化ができ、壁全体を循環路とすることができる。また、側壁下部から一様に気流を吸引して、フィードバックすることができ、居住空間6内全体で一様でムラのない清浄化が可能となる。その他のことは、第1〜第5のいずれかの実施の形態と同様である。
この第6の実施の形態によれば、第1〜第5の実施の形態と同様な利点を有することができる。
<7.第7の実施の形態>
図25は第7の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。図中、破線部は、部屋1cおよび1d内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1cおよび1d内部の構成は実線で示している。
図25に示すように、この高清浄部屋システム10は、互いに異なる2つの独立な部屋が隣り合って構成されている。隣り合う部屋のうち、図面右側には第5の実施の形態において示した部屋1c、左側には第6の実施の形態において示した部屋1dとが、両室を隔てる壁に対して線対称に気体流路24が配置されるようにして設けられている。
図26は、この実施の形態の変形例である2ダクト壁埋め込みタイプの循環路を示した断面図である。
図26に示すように、部屋1cの内部空間12と部屋1dの内部空間7とを共通の空間として内部空間7とし、この内部空間7に、部屋1cおよび部屋1dにそれぞれ設けられる2本の気体流路24を収納したものである。この場合においては、壁9は間仕切り壁としての機能を有し、壁9は2枚の内壁9aが互いに対向するようにして設けられることで構成されている。中心円が黒の二重円の記号は、気流が紙面上向きに流れていることを示す。内部空間7には、上述したように、気体流路24を、例えば入れ子のようにして収納して100%循環フードバック系が構成される。また、気体流路24が設けられた部分の壁材63の一部をガス交換膜26で構成し、ガス交換膜26を隔てる空間である部屋1cの居住空間6と部屋1dの居住空間6との間においてガス交換可能に構成される。内部空間7に気体を流すと、部屋1cおよび部屋1dの両部屋の居住空間6を、両部屋を一切狭くすることなく一気に高清浄部屋とすることができる。すなわち、この構造は、この部屋の狭小化を極限まで抑えることが出来る究極の構造である。在来の部屋の構造に対し、付加的に体積を消費する部分を皆無にすることができ、建物全体に対する清浄居住環境スペース( 部屋) の床面積や体積比率を下げることなく、かつ当該清浄居住部屋から外部空間への塵埃排出を伴わず、当該部屋1の居住空間6を極めて高い清浄度に保つことができる。また、この実施の形態は、居住空間6を主室20、前室40などに置き換えて構成することもできる。
また、例えば、隣接する部屋1の壁9の内部空間7の外気導入空間を連結することで共通の空間としてもよい。また、複数の部屋1を連結して、複数の居住空間6との空気の連通がある部位、即ち、居住空間6に接する一面と、もう一つの上記条件を満たす面である開口23とを結ぶ、気体流路24の両端或は途中部に1つ或は少数のファン・フィルターユニット21を配置した集中システムにより、複数の部屋1の一括清浄化を行うこともできる。この形態は、前室40と主室20とで構成されるような、部屋1の入退室が2段式になっているところならいずれも極めてよく作用し、公衆浴場、プール、岩盤浴、ネイルサロン、マッサージ等の身体ケア産業、養護ホーム、特老ホーム、病院、幼稚園、学校などに適用が可能なものである。その他のことは第4〜6のいずれかの実施の形態と同様である。
この第7の実施の形態によれば、第4〜6の実施の形態と同様な利点を有するとともに、隣接する部屋1に背中合わせで設けられた気体流路24を、2ダクト壁埋め込みタイプの循環路とすることで、在来の部屋の構造に対し、付加的に体積を消費する部分を皆無とすることができ、建物全体に対する清浄居住環境スペース( 部屋) の床面積や体積比率を下げることなく、かつまた当該清浄居住部屋から外部空間への塵埃排出を伴わず、当該部屋の内部空間を極めて高い清浄度に保つことができる。
<8.第8の実施の形態>
図27は第8の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す斜視図である。なお、図中の斜線部は高清浄部屋システム10の構成を明確にするために示したものであり、断面を示すものではない。図中、破線部は、部屋1内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1の内部の構成は実線で示している。
図27に示すように、この高清浄部屋システム10は、密閉された直方体状の部屋1に対して100%循環フィードバック系を組み込むことで構成されている。この中空壁3は、上述した実施の形態における、内壁9aと外壁9bとを有する壁9のうち、一体に形成されており、壁3によって形成される内部空間7は完全に中空となっているものである。部屋1は、壁2によって密閉して包囲されることで構成され、具体的には、天井壁2aと、床壁2gと、複数の側壁2b〜eとによって密閉して包囲されることで構成されている。部屋1を構成する側壁2のうちの少なくとも1枚の側壁は中空壁3によって構成されている。また、中空壁3は、矩形の中空断面を有する筒形状を有している。中空壁3および側壁2bは、天井壁2aと床壁2gとに挟まれるようにして設けられる。即ち、側壁2bと互いに対向する側面2dは天井壁2aの主面上と床壁2gの主面上とにそれぞれ接して設けられている。また、中空壁3は、底面および頂面が筒の開口部となるように設けられ、この2つの開口が天井壁2aの主面と床壁2gの主面とにそれぞれ塞がれることで閉空間を形成する。部屋1は、このように複数の壁によって囲まれることで密閉された閉空間である居住空間6を形成している。また、上述した中空壁3と天井壁2aと床壁2gとで形成される空間が内部空間7を構成している。また、部屋1には、外部から人間が出入り可能な出入り口8が設けられている。また、部屋1の頂面は頂壁2hで構成され、部屋1の天井壁2aと頂壁2hとで挟まれる空間が天井裏5を形成している。
天井裏5内の天井壁2a上には、図中において斜線で示したファン・フィルターユニット21が設けられる。天井壁2aにはファン・フィルターユニット21の吹き出し口に対応する開口が設けられており、この開口とファン・フィルターユニット21の吹き出し口とが気密性を持って接続されることで、居住空間6内に空気を排出する吹き出し口22が形成される。また、ファン・フィルターユニット21が天井壁2aの居住空間6側に設置されることで、ファン・フィルターユニット21の吹き出し口を吹き出し口22とすることもできる。また、中空壁3の居住空間6側の面には居住空間6内の空気を回収する開口23が設けられる。開口23は、好ましくは中空壁3の面の最下部に設けられる。また、中空壁3の頂部には、天井裏5内に設けられた気体流路24の入口が気密性を持って接続され、気体流路24の出口がファン・フィルターユニット21の吸入口と気密性を持って接続される。さらに、中空壁3の開口を塞いでいる天井壁2aに開口25を設けることによって、内部空間7と気体流路24とが気密性を持って挿通し、開口23とファン・フィルターユニット21の吸入口とが気密性を持って接続される。このように、内部空間7を気体流路24の一部として構成し、居住空間6に対して開口23と吹き出し口22とを設けることによって居住空間6に対して100%循環フィードバック系が形成される。また、ファン・フィルターユニット21とそれに接続されている気体流路24とは、居住空間6側の天井壁2aに設けられていてもよく、この場合にあっては中空壁3の居住空間6側の面に開口が設けられ、その開口に気体流路24が気密性を持って接続されることによって、内部空間7と気体流路24とが挿通する。また、居住空間6内にファン・フィルターユニット21が設けられる場合には、例えば、密閉されて構成されたファン・フィルターユニット収納部内に設けられる。
居住空間6は人間などが滞在などする閉空間であって、部屋1を構成する側壁に設けられた出入り口8は、居住空間6に外部から人間などが出入り可能なように設けられている。出入り口8が閉められているとき、居住空間6は外部から完全に密閉されている。また、居住空間6に入るための出入り口8の気密性は高められており、居住空間6は、出入り口8を通じて直接外気が流出および流入する以外には、外気の流出および流入(居住空間6内外における気体導通)が無いエアタイトな構造を有している。また、出入り口8を引き戸47とすることが好ましく、これにより、出入り口8の開閉による外部と居住空間6との圧力変動を最小限にすることができる。このように、居住空間6は、出入り口8が閉じられている場合においては外部空間から完全に密閉されているので、居住空間6に酸素の供給をする機構が必要となる。そこで、中空壁3の外部空間に接する面の少なくとも一部は、図中において斜線で示したガス交換膜26で構成される。これにより、内部空間7と廊下33を構成する空間との間で、気体分子の交換が行われ、例えば、居住空間6と外部空間との間で酸素、二酸化炭素などのやり取りが行われる。
気体流路24と内部空間7とが気密性を持って接続され、中空壁3の居住空間6側の面に開口23が設けられることで、吹き出し口22から排出された気体の全てが開口23、内部空間7、気体流路24を経てファン・ フィルターユニット21を通過し、再び空気が居住空間6に排出するようにして構成される。これは、上述したように、100%循環フィードバックを形成している。このように、居住空間6に対して100%循環フィードバック系を形成し、100%循環フィードバック系を構成するファン・ フィルターユニット21を運転すると、居住空間6内の空気清浄度は上述したように飛躍的に向上する。このように、部屋1は、気体流路24を、中空壁3などによって形成された内部空間7をその一部に構成することで、部屋1と比較して狭くなることなく、高清浄部屋システム10として構成することができる。
また、気体流路の流路内には、例えば、必要に応じて光触媒が設けられる。この気体流路の流路内は、内部空間7の内部と気体流路24の流路内とを含む。光触媒フィルターが設けられる場所は基本的には限定されないが、採光可能な場所であることが好ましく、例えば、気体流路24を構成する壁面を透明材料で構成される透明体で構成することが好ましい。また、例えば、気体流路24と対向する部屋1の壁面を透明体で構成することが好ましい。透明体の材料としては、ガラスなどの透明無機材料、アクリルなどの透明樹脂材料などが挙げられる。また、部屋1に設けられる透明体としては、例えば、出窓などが挙げられる。また、例えば、レンズ、プリズム、光ファイバなどの導波光路を用いて光触媒フィルターに光を供給する構成を有していてもよい。また光触媒フィルターとして、例えば、可視光を利用できるタングステン酸化物系の素材を用いることも好適である。
気体流路24の形状は、内部空間7から導入された気体が全て吹き出し口22から排出されるような外部から完全に密閉した構成を有していれば基本的には限定されないが、例えば、流れの損失の少ない形状であることが好ましい。気体流路24の形状は、具体的には、例えば、矩形形状、正方形形状、円形状、楕円形形状などの断面形状を有する筒形状であることが好ましく、また、例えば、これらの形状を有する気体流路24を組み合わせて構成してもよい。また、筒形状は、例えば、筒が直線的に伸びた形状が好ましい。また、気体流路24は複数の気体流路を並列に構成したものを用いてもよい。また、気体流路24は、例えば、中空壁3の断面と同様な形状を有していることが好ましい。
気体流路24の設置位置は基本的には限定されないが、例えば、内部空間7と接続される位置が中空壁3の開口の中央の領域であることが好ましい。気体流路24は、具体的には、例えば、天井裏5側の天井壁2a上に、天井壁2aの面の一辺に平行に延在するようにして設けられ、内部空間7と気密性を持って接続されることで90度曲がり部を有する気体流路24が構成される。このように構成することで、気体流路24は、内部空間7からは完全に隔絶される。また、気体流路24は、例えば、開口23の位置に対して吹き出し口22が互いに平行な位置となるように設けられることが好ましい。
ガス交換膜26が設けられる位置は、基本的には限定されるものではなく、部屋1を構成する壁の少なくとも一部を構成することができるが、ガス交換膜26が設けられる位置は、例えば、雨、風などの影響を受けない場所であることが好ましい。また、ガス交換膜26が中空壁3の外部空間と接する面の少なくとも一部を構成する場合には、ガス交換膜26を介して流れる気体の流れの方向と流速とが一致するような機構を設けることが好ましい。具体的には、ガス交換膜26に関して内部空間7と対向する領域に、内部空間7に流れる気体に対して流れ方向と流速とが等しくなるように気体を流すことが挙げられる。また、部屋1の内壁面の一部を構成するガス交換膜26を、例えば、障子様に構成することによって、居住空間6を和室として構成することができる。また、このとき、例えば、出入り口8を引き戸として障子戸で構成してもよい。
廊下などの外部空間から内部空間7を経て居住空間6へ酸素が供給される際には、ガス交換膜26は内部空間7内へダストを通さない。また、内部空間7と気体流路24とは密閉されて形成されており、さらに内部空間7と気体流路24とが気密性を持って接続されているので、気体流路24内に天井裏5内などに導入された外気が侵入することはない。これらのことにより、居住空間6内に酸素が供給されても、居住空間6内にダストは供給されず、清浄度は保たれる。
開口23および吹き出し口22の形状は基本的には限定されるものではないが、具体的には、例えば、矩形形状、正方形形状、円形状、楕円形状を有することが好ましい。また、開口23が設けられる位置は、中空壁3の一部に設けられるのであれば基本的には限定されないが、底壁2gになるべく近い位置に設けられることが好ましい。また、吹き出し口22が設けられる位置は基本的には限定されないが、なるべく高い位置に設けられることが好ましく、また、天井壁2aの中心部に近い位置に設けられることが好ましい。また、開口23と吹き出し口22とは、例えば、上述したように互いに平行な位置に設けられることが好ましい。
また、気体流路24の開口23と吹き出し口22との距離は十分な距離を有していることが好ましい。開口23と吹き出し口22との距離は、例えば、開口23と吹き出し口22との間隔分布のうち最も距離が長いものxが、xが定義される方向の居住空間6の距離Xに対して、その比x/Xが0.3よりも大きく、好ましくはx/Xが0.35以上、最も好ましくはx/Xが0.4以上であって、1.0以下の範囲にある方向が少なくともひとつあるように構成されていることが好ましい。
内部空間7の容積は基本的には限定されないが、内部空間7の容積は、できるだけ小さい方がよい。中空壁3が矩形の中空断面を有する壁で構成される場合には、断面の中空部の短辺の長さ( 厚み) は、典型的には8〜20cm程度で、5cm以上40cm以下であることが好ましい。中空部に隣り合う部分には、筋交いやCの字状の断面をもつ鋼材を用い、壁としての強度を持たせることが望ましい。また、内部空間7の厚みとしては、部屋1の構造を支える最小限の厚みとすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
ガス交換膜26は、高清浄部屋システム10を構成する壁の少なくとも一部を構成するように設けられれば、基本的にはどのような位置に設けられてもよいが、例えば、高清浄部屋システム10を構成する壁のうち風雨に晒されるような外壁以外の壁に設けられることが好ましく、また、例えば、通気口11の近傍に設けられることが好ましい。また、通気口11から導入される外気の流れが気体流路24によって妨げられない位置に設けられることが好ましい。
また、ガス交換膜26の形状は基本的には限定されないが、例えば、正方形、長方形などであることが好ましい。また、ガス交換膜26の大きさは基本的には限定されないが、例えば、一枚の大きさが135cm×135cmであることが好ましい。また、居住空間6に滞在する人間1人に対する居住空間6に接する部分のガス交換膜26の面積の合計が500cm2 /人以上であることが好ましく、700cm2 /人以上であることがより好ましく、900cm2 /人以上であることが最も好ましい。
また、ガス交換膜26は、このガス交換膜26によって隔てる両空間において、ダスト微粒子の交換はせず気体分子の交換をする機能を有していれば基本的には限定されないが、例えば、このガス交換膜26によって隔てる空間の間に3%の酸素濃度差が生じた際に0.25L/min以上の酸素分子拡散能を有していることが好ましい。ガス交換膜26としては、具体的には、例えば、布、不織布、障子紙、和紙などであることが好ましい。ガス交換膜26を障子紙で構成する場合にあっては、木組みの格子と組み合わせ障子様の窓である障子窓とすることができる。このように構成することで、廊下33を和風に構成することができる。また、例えば、部屋1を構成する壁の一部に障子窓を設けることもでき、部屋1の内装を和風に構成することができる。
また、出入り口8は、外部空間と居住空間6との間で人間が出入り可能で、さらに両空間を遮断する機能を有していれば、基本的には限定されるものではなく、出入り口として上記に挙げたものを適宜選択することができるが、開閉時における両空間の圧力差が小さい引き戸であることが好ましい。また、引き戸は、例えば、ガス交換膜26である障子紙と組み合わせることで、障子戸とすることができる。
図28A〜Cは、高清浄部屋システム10に用いる、内部空間を内包した壁である中空壁の例を示した断面図である。
図28Aに示すように、この中空壁3は一体に成形されており、矩形の断面を有する筒形状を有している。図28Bに示すように、この中空壁3は、一定間隔を置いて互いに対向して設けられた内壁3aと外壁3bとの間に2本の間柱3cを設けることによって、中空部を有する壁となる。2本の間柱3cは、例えば、中空壁3の互いに対向する側面をそれぞれ構成するようにして設けられる。図28Cに示すように、この中空壁3は、一定間隔を置いて互いに対向して設けられた内壁3aと外壁3bの対向する両側部に柱3dが設けられていることで、両側部の開口が塞がれる。このように、中空壁3は、単一の材料で形成されるだけでなく、複数の材料を組み合わせて構成することもできる。また、部屋1の側壁2に一定間隔をおいて新たな隔壁を設けることによって中空壁を構成するようにしてもよく、この場合、両側部に天井壁、床壁などの壁が設けられることで両側部の開口が塞がれる。このように、例えば、新築の住宅とする場合には、部屋を構成する間仕切りなどを中空壁で構成することで内部空間7を構成し高清浄部屋システム10を構成することができる。部屋を仕切る間仕切りであれば、それほどの強度を要することがないので、内部に補強材などを有さない中空壁3であってもよい。また、例えば、既存の住宅をリフォームする場合にあっては、既存の壁を交換または既存の壁にパネルを追加するなどして中空壁を構成し、これによって内部空間7を構成し高清浄部屋システム10を構成することができる。
図29は第8の実施の形態による高清浄部屋システム10が適用された住居を示す断面斜視図である。
図29に示すように、この住居30は、高清浄部屋システム10と既存の部屋である部屋31と床下空間34とを有し、高清浄部屋システム10と部屋31との間に廊下33を有している。
部屋1は、図27において示したものと同様に壁2を有して包囲された閉空間を構成する。部屋1は、側壁2bと、側壁2c(図示せず)、間仕切り壁2iと、中空壁3と、天井壁2aと、床壁2gとで囲まれることによって構成される。間仕切り壁2iは住居30の内部に部屋1を形成するために設けられる壁であり、出入り口8を有して構成されている。間仕切り壁2iは固体壁で構成されている。また、中空壁3も間仕切り壁として設けられており、間仕切り壁2iと中空壁3とは廊下33に面して設けられている。
部屋31は、壁32で囲まれることによって構成され、具体的には、天井壁32aと、床壁32cと、2枚の側壁32bと、2枚の間仕切り壁32dとによって包囲されることで構成されている。間仕切り壁32dは間仕切り壁2iと同様に固体壁で構成されている。2枚の間仕切り壁32dのうち一方の間仕切り壁32dには出入り口35が設けられている。部屋31はその構成に中空壁3を有さないことを除けば、基本的には部屋1と同様な構成を有する。
廊下33は、人間が往来することができる空間である。廊下33は、部屋1を構成する中空壁3と部屋31を構成する間仕切り壁32dと天井壁32aと床壁32cとで囲まれた空間を有する。また、廊下33は、間仕切り壁2iと天井壁32aと床壁32cとを有して囲まれた空間を有し、さらに、出入り口35を有する間仕切り壁32dと天井壁32aと床壁32cとを有して囲まれた空間を有する。このように廊下33が形成されることによって、人間などが、出入り口35を通じて廊下とそれぞれの部屋との間を出入りすることができる。また、廊下33を形成する中空壁3の面にはガス交換膜26が設けられている。
床下空間34は、部屋1、部屋31および廊下33の下方に床壁を介して形成される空間である。床下空間34は、例えば、住居30の外壁などによって囲まれることによって形成される。この外壁には、例えば、外気の導入を行う外気導入口などが設けられている。また、天井裏5は、部屋1、部屋31および廊下33の上方に天井壁を介して形成される空間である。天井裏5は、例えば、頂壁である屋根4と天井壁2aとで挟まれ、住居の外壁などで囲まれることによって形成される。この外壁にも、例えば、同様に外気導入口などが設けられている。部屋1と、床下空間34および天井裏5とは隔絶されて構成されており、床下空間34および天井裏5と部屋1との間で直接空気のやり取りをすることはない。一方で、例えば、部屋31および廊下33には、天井裏5、床下空間34などから適宜外気が導入される。
高清浄部屋システム10は、図26において示したものと同様に100%循環フィードバック系を部屋1に適用することによって構成されている。高清浄部屋システム10を構成する部屋1の天井壁2aにファン・フィルターユニット21が設けられている。この天井壁2aにはファン・フィルターユニット21の吹き出し口に対応する開口が設けられており、この開口とファン・フィルターユニット21の吹き出し口とが気密性を持って接続されることで、居住空間6内に空気を排出する吹き出し口22が形成される。また、中空壁3の居住空間6側の面には居住空間6内の空気を回収する開口23が設けられる。開口23は、好ましくは中空壁3の居住空間6側の面の最下部に設けられる。また、中空壁3の最上部の側壁には、天井裏5内に設けられた気体流路24の入口が気密性を持って接続され、気体流路24の出口がファン・フィルターユニット21の吸入口と気密性を持って接続される。さらに、中空壁3の最上部に側壁が開口することによって、中空壁3の中空部と気体流路24とが気密性を持って挿通し、開口23とファン・フィルターユニット21の吸入口とが気密性を持って接続される。このように、中空壁3が気体流路24の一部として構成されることによって居住空間6に対して100%循環フィードバック系が形成される。また、中空壁3の廊下33に面する面の少なくとも一部は、ガス交換膜26で構成されており、中空壁3の中空部と廊下33を構成する空間との間で、気体分子の交換が行われる。これによって居住空間6と外部空間である廊下33との間で酸素、二酸化炭素などのやり取りが行われる。図29のガス交換膜26は外界(この場合は廊下空間)と直に接しており、上記段落0117で述べた、ガス交換膜26が外界に直接接する場合の一つの例と理解できる構成であることに注意されたい。即ち、本発明は、中空壁の空間を挟む面の一つが無限遠に存在する場合(つまりガス交換膜が、所定の面積を有しつつ、外界に直に接する場合)も含む。
図30は第8の実施の形態による高清浄部屋システム10の動作を示した断面図である。
図30に示すように、高清浄部屋システム10は、開口23から居住空間6内の空気が吸入され、内部空間7を経て気体流路24内に達し、ファン・フィルターユニット21によって濾過された空気は、吹き出し口22から居住空間6内に排出される。居住空間6内に排出された空気は再び開口23から吸入され、このような回流が繰り返されることによって、居住空間6内の清浄度が上述したように飛躍的に向上する。中空壁3の外気に接する面の少なくとも一部はガス交換膜26で構成されている。このガス交換膜26によって、外部空間と内部空間7との間で気体の交換が行われる。具体的には、内部空間7内に酸素が供給され、内部空間7内の二酸化炭素が外部へ放出される。また、気体の交換が行われる際には外部空間からダストが侵入しない。内部空間7内に供給された酸素は、内部空間7内を流れる空気によって居住空間6に供給される。また居住空間6から吸入され内部空間7内を通る二酸化炭素はガス交換膜26によって外部空間に放出される。その他のことは第1〜7のいずれかの実施の形態と同様である。
この第8の実施の形態によれば、第1〜7の実施の形態と同様な利点を有するとともに、部屋を密閉して構成し、密閉された部屋1によって形成される居住空間6に100%循環フィードバック系を設けたので、居住空間6内を高清浄環境に維持することができる。また、部屋1を構成する壁の少なくとも一部をガス交換膜26で構成したので、居住空間6内部の酸素濃度を一定に維持することができる。また、天井裏5内の天井壁2a上にファン・フィルターユニット21とそれに接続される気体流路24を設け、さらに、部屋1を構成する壁の少なくとも1枚を中空壁3とし、この中空壁3の中空部を気体流路24の一部として100%循環フィードバック系を構成したので、このように部屋1の一部の構成を利用することで100%循環フィードバック系を極めてコンパクトに構成することができ、部屋1を狭くすることなく、また居住者が違和感を覚えることなく居住空間6を高清浄環境に維持することができる。
<9.第9の実施の形態>
図31は第9の実施の形態による高清浄部屋システム10を示したものである。なお、図中の斜線部は高清浄部屋システム10の構成を明確にするために示したものであり、断面を示すものではない。図中、破線部は、部屋1内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1の内部の構成は実線で示している。また、以下においては、図中における壁面などの厚さは図の明瞭化のため省略するものとする。
図31に示すように、この高清浄部屋システム10は、内部空間7を外気導入空間とし、内部空間7の内部に独立して密閉して構成された気体流路24を設けたものである。
内部空間7は、居住空間6内部に第1の隔壁である隔壁17が側壁2bに一定間隔をおいて設けられることによって形成されている。このように、以下の実施の形態においては、図面の明瞭化のために、内部空間7を中空壁ではなく居住空間6内に隔壁であるパネルを設置することによって形成するが、これに限定されるものではなく、例えば、同様な構成を有する中空壁で内部空間7を構成することができる。
隔壁17は、部屋1を構成する側壁のうち、出入り口8を有さない側壁の一枚に一定距離をおいて平行に設けられることで二重壁を構成し、これによって挟まれる空間が内部空間7を構成する。
また、居住空間6には、居住空間6とは隔絶して構成されている内部空間7からフレッシュエアのみを導入することができる。これは、内部空間7内に外気を導入可能に構成し、隔壁17の少なくとも一部をガス交換膜26で構成することで実現される。内部空間7内への外気の導入は、内部空間7を形成する側壁2bに少なくとも1つの通気口11が設けられることによって外気が内部空間7内に導入される。このとき側壁2bの外面は外部空間と接している。また、内部空間7を中空壁で構成する場合にあっては、中空壁の側壁のうち外部空間と接する部分に少なくとも1つの通気口11が設けられる。
また、内部空間7内には、密閉されて構成された気体流路24が内部空間7と隔絶して設けられている。気体流路24は、内部空間7内に入れ子のようにして形成されており、部屋1の頂壁2h上に設けられる気体流路24に気密性を持って接続され、この気体流路24は気密性を持ってファン・フィルターユニット21に接続される。ファン・フィルターユニット21とそれに接続される気体流路24を、居住空間6内の頂壁2hの面上に設ける場合には、例えば、隔壁17に開口を設けて接続する。このように構成されることで、気体流路24は外気導入空間である内部空間7と隔絶し気体流路24内に外気が直接流れ込むことがない。
図32は、隔壁17を、居住空間6内から見た平面図である。
図32に示すように、部屋1には、図中断面斜線部で示された側壁2cに設けられた出入り口8である引き戸47と頂壁2hに設けられた吹き出し口22を有する気体流路24とを有する。気体流路24の内部にはファン・フィルターユニット21が内蔵されている。隔壁17は、少なくとも一部がガス交換膜26で構成されている。また、隔壁17の上部に設けられた開口には気体流路24が接続され、下部には開口である開口23を有する。ガス交換膜26は、障子紙26aと木組格子26bとで障子様に構成されている。また、引き戸47は和風の障子戸に構成されており、居住空間6を和風に構成することができる。
また、気体流路24は、内部空間7の内部と居住空間6とに亘って設けられる。また、ファン・ フィルターユニット21は気体流路24内に設けられる。
気体流路24の設置位置は気体流路24の一部が内部空間7内に設けられていれば基本的には限定されないが、例えば、気体流路24の天井裏5内または居住空間6内に設けられる部分は、部屋1の頂壁2hに設けられることが好ましい。気体流路24が、例えば、居住空間6内の頂壁2hに設けられる場合にあっては、図31に示すような、隔壁17に設けられた気体流路24が気密性を持って挿通もしくは接続可能な開口25を通じて居住空間6内から内部空間7内に至る。気体流路24は、具体的には、例えば、部屋1の頂壁2hに閉じた気体流路24が頂壁2hの一辺に平行に延在するようにして設けられ、開口25に達した気体流路24は開口25に気密性を持って接続され、内部空間7側の開口25には、部屋1の底面から垂直上方に延在して設けられ閉じた気体流路24が気密性を持って接続されることで、90度曲がり部を有する気体流路24が構成される。このとき、部屋1側の気体流路24の端部には、垂直下方に気体が排出可能なように設けられた吹き出し口22に接続され、内部空間7側の気体流路24は、隔壁17の最下部に設けられた開口23と気密性を持って接続することで100%循環フィードバック系を構成する。このように構成することで、気体流路24は、内部空間7からは完全に隔絶される。また、気体流路24は、例えば、開口23の位置に対して吹き出し口22が互いに平行な位置となるように設けられることが好ましく、例えば、気体流路24の形状が矩形形状の断面形状を有する筒形状の場合には、気体流路24は、2つの直方体を組み合わせたL字形状の曲がり管路によって構成される。
内部空間7を構成する部屋1の壁面には、内部空間7内に外気を導入および排出をする通気口11が設けられる。また、隔壁17の少なくとも一部は、ガス交換膜26によって構成されている。このようにして構成されることで、内部空間7内に導入された外気は、ガス交換膜26を通じて居住空間6内に酸素を供給する。また、居住空間6内で発生した二酸化炭素などの不要なガスは、ガス交換膜26を通じて内部空間7内に排出される。また、例えば、居住空間6の内壁面を構成するガス交換膜26を、障子様に構成することによって居住空間6を和室として構成することができる。また、このとき、例えば、出入り口8を引き戸としてもよい。
内部空間7から居住空間6へ酸素が供給される際には、ガス交換膜26は居住空間6内へダスト微粒子を通さない。また、内部空間7内に設けられている気体流路24は気密性を保っているので、気体流路24内に内部空間7内に導入された外気が侵入することはない。これらのことにより、内部空間7内に外気が導入されることで居住空間6内に酸素が供給されても、居住空間6内の清浄度は保たれる。
また、例えば、内部空間7を、気密性を持って仕切ることにより気体流路24を構成することもできる。具体的には、例えば、内部空間7を2枚の隔壁で気密性を持って仕切ることで、開口25と開口23とを有する閉空間を形成する。
開口23および吹き出し口22の形状は基本的には限定されるものではないが、具体的には、例えば、矩形形状、正方形形状、円形状、楕円形状を有することが好ましい。また、部屋1において開口23が設けられる位置は、隔壁17の一部に設けられるのであれば基本的には限定されないが、部屋1の底面になるべく近い位置に設けられることが好ましい。また、部屋1において吹き出し口22が設けられる位置は基本的には限定されないが、なるべく高い位置が好ましく、また、部屋1の中心部に近い位置に設けられることが好ましい。また、開口23と吹き出し口22とは、例えば、上述したように互いに平行な位置に設けられることが好ましい。
また、気体流路24の開口23と吹き出し口22との距離は十分な距離を有していることが好ましい。開口23と吹き出し口22との距離は、例えば、開口23と吹き出し口22との間隔分布のうち最も距離が長いものxが、xが定義される方向の居住空間6の距離Xに対して、その比x/Xが0.3よりも大きく、好ましくはx/Xが0.35以上、最も好ましくはx/Xが0.4以上であって、1.0以下の範囲にある方向が少なくともひとつあるように構成されていることが好ましい。
内部空間7の容積は基本的には限定されるものではなく、適宜設計選択することができる。内部空間7の厚みとしては、典型的には、例えば、10cm以上40cm以下であることが好ましく、また、例えば、8cm以上20cm以下であることがより好ましい。内部空間7の幅としては、用いるファン・フィルターユニット21の横幅程度からこの数倍程度とし、この中空部に隣り合う部分には、筋交いやCの字状の断面をもつ鋼材を用い、壁としての強度を持たせることが望ましい。また、内部空間7の厚みとしては、建築構造上、部屋1の構造を支える最小限の厚みとすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
通気口11が設けられる位置は、内部空間7を構成する部屋1の外壁の中であれば基本的には限定されないが、例えば、内部空間7内に風雨が侵入しないように、内部空間7を構成する部屋1の側壁に設けられる。また、通気口11の形状は基本的には限定されないが、例えば、長方形形状であることが好ましい。また、通気口11の大きさは基本的には限定されないが、400cm2 以上であることが好ましい。また、通気口11には必要に応じて気体を加速させる装置が設けられる。気体を加速させる装置としては、具体的には、例えば、ファンなどが挙げられる。また、通気口11には、外部からの雨、塵、虫などが内部空間7内に侵入しないように、例えば、柵、網、フィルターなどが設けられる。
外気導入空間である内部空間7と居住空間6とは、ガス交換膜26によって気体分子の交換が行われる。例えば、内部空間7を構成する側壁2bに複数の通気口11が設けられる場合にあっては、複数の通気口11のうち、例えば、一方を外気導入口、もう一方を排出口とすると、外気導入口より内部空間7内に取り込まれた酸素を含む外気は、気体分子のみがガス交換膜26を透過して居住空間6に酸素を供給する。また、居住空間6からガス交換膜26を透過して内部空間7に放出された二酸化炭素は、排出口から外部に排出される。
この場合、内部空間7内に1時間当たりに取り込まれる空気の体積流量F0 は、例えば、居住空間6の容積をVとすると、F0 >V/2h[m3 /h]であることが好ましいが、このことに限定されるものではない。また、居住空間6内に発生した二酸化炭素などの人間にとって不要なガスは、気体分子のみがガス交換膜26を透過して居住空間6から内部空間7へ排出され、排出口から外部に放出される。また、例えば、気体流路24を構成する壁面の一部をガス交換膜26で構成することもできる。このように、ガス交換膜26を介して、酸素、二酸化炭素などの気体がやり取りされることで、居住空間6内で酸素の消費があっても居住空間6内の酸素濃度を一定に保つことができ、また、居住空間6内で二酸化炭素などの、人間の生活に不要なガスが発生しても内部空間7を通じて外部に放出することができる。その他のことは第1〜8のいずれかの実施の形態と同様である。
この第9の実施の形態によれば、第1〜8の実施の形態と同様な利点を得ることができるとともに、内部空間7を外気導入空間とし、内部空間7の内部に独立して密閉して構成された気体流路24を設けたので、居住空間6内への外気導入を、100%循環フィードバック系を介さずに行うことができる。また、内部空間7を構成する側壁に複数の通気口を設けることができ、この場合にあっては、複数の通気口11のうち、例えば、一方を外気導入口、もう一方を排出口とすると、外気導入口より内部空間7内に取り込まれた酸素を含む外気は、気体分子のみがガス交換膜26を透過して居住空間6に酸素を供給することができる。また、居住空間6からガス交換膜26を透過して内部空間7に放出された二酸化炭素は、排出口から外部に排出することができる。
<10.第10の実施の形態>
図33は第10の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。なお、図中の斜線部は高清浄部屋システム10の構成を明確にするために示したものであり、断面を示すものではない。図中、破線部は、部屋1内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1の内部の構成は実線で示している。
図33に示すように、この高清浄部屋システム10は、天井裏5を内部空間7とし、天井裏5内部にファン・フィルターユニット21と気体流路24の一部を設けたものである。
内部空間である天井裏5は外気が導入される外気導入空間として構成される。天井裏5は、頂壁2hと天井壁2aと少なくとも1枚の側壁4aとで囲まれることで形成される空間である。側壁4aには、少なくとも1つの通気口11が設けられることで、天井裏5に外気が導入される。天井壁2aには、少なくとも1枚のガス交換膜26が設けられており、天井裏5と居住空間6とは、ガス交換膜26を介して気体分子のやり取りを行う。
気体流路24は、天井裏5内の天井壁2a上に設けられ、同様に天井裏5内の天井壁2aに設けられたファン・フィルターユニット21と接続される。ファン・フィルターユニット21は吹き出し口22と気密性を持って接続される。気体流路24のうち、天井壁2aから下の部分は、基本的には限定されないが、例えば、内部空間7が気体流路24の一部を形成することによって第8の実施の形態に示したものと同様に構成される。また、例えば、居住空間6内の側壁2b上に独立して気体流路24を構成することもできる。その他のことは、第1〜9のいずれかの実施の形態と同様である。
この第10の実施の形態によれば、第1〜9の実施の形態と同様な利点を有するとともに、天井裏5をファン・フィルターユニット21および気体流路24の一部の収納空間とし、さらに外気導入空間としたので、高清浄部屋システム10をコンパクトに構成することができる。
<11.第11の実施の形態>
図34は第11の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。なお、図中の斜線部は高清浄部屋システム10の構成を明確にするために示したものであり、断面を示すものではない。図中、破線部は、部屋1内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1の内部の構成は実線で示している。
図34に示すように、この高清浄部屋システム10は、第9の実施の形態の高清浄部屋システム10において、部屋1を構成する側壁のうち、気体流路24を構成する側壁2bと対向する側壁2dに、外気導入機構および/または内気排出機構として第2の内部空間である内部空間12を設けたものである。この場合、内部空間7は第1の内部空間となる。
外気導入機構および/または内気排出機構である内部空間12は、気体流路24が設けられた側壁と対向する側壁に設けられる。また、例えば、内部空間7が、気体流路24の一部を構成する場合にあっては、側壁2dに内部空間12が形成され、この内部空間12が外気導入空間として構成することができる。この内部空間12は居住空間6とは隔絶して構成されている。内部空間12は、内部空間として上述したものと同様にして構成できるが、例えば、居住空間6内において、側壁2dに一定間隔を置いて第2の隔壁である隔壁18を設ける方法が挙げられる。また、側壁2dを中空壁として内部空間12を構成してもよい。内部空間12を構成する側壁2dには少なくとも一つの通気口11が設けられることにより、内部空間12に外部空間から外気が導入され、また、内部空間12から外部空間に内部気体が排出される。また、通気口11は、内部空間12に接する側壁2cに設けられてもよい。また、隔壁18の少なくとも一部がガス交換膜26で構成されることにより、居住空間6内に、上述したものと同様にして酸素などが供給され、内部空間12へは居住空間6より二酸化炭素などが排出される。
天井裏5と内部空間12とは、例えば、連通させることで共通の外気導入・内気排出機構とすることもできる。一方で、天井裏5と内部空間12とを2つの独立した外気導入・内気排出機構として構成する場合にあっては、一方を外気導入機構、もう一方を内気排出機構とすることができる。この場合、例えば、天井裏5を形成する側壁2c〜2eの少なくとも1枚に設けられる通気口11aを外気導入口、内部空間12を形成する側壁2c〜2eの少なくとも1枚に設けられる通気口11bを内気排出口とすることができる。
通気口11aと、通気口11bとには、例えば、ファンなどが設けられることによって気体が加速され、強制的に外気導入・内気排出空間内に外気の導入および外気導入・内気排出空間内からの気体の排出が行われる。通気口11aと通気口11bとにおける、外気導入口と排出口との組み合わせは、用途に応じて適宜設計選択される。通気口11aを例えば、外気導入口として用いる場合には、通気口11aに設けられるファンは、外部から内部空間12内に向かって気体が加速するように設けられ、排出口として用いられる通気口11bには、例えば、内部空間12内から外部に向かって気体が加速するようにして設けられる。その他のことは、第1〜10のいずれかの実施の形態と同様である。
この第11の実施の形態によれば、第1〜第10の実施の形態と同様な利点を有するとともに、気体流路24が設けられた側壁に対向する側壁に外気導入機構を設けたので、居住空間6の内部への酸素の供給、外部への不要なガス排出などを素早くできる。これによって、通常の居住空間と何ら変わらない形態のまま、居住空間6の素早い換気、居住空間6への潤沢な酸素の供給などができる高清浄部屋システム10を得ることができる。
<12.第12の実施の形態>
図35は第12の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。なお、図中の斜線部は高清浄部屋システム10の構成を明確にするために示したものであり、断面を示すものではない。図中、破線部は、部屋1内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1の内部の構成は実線で示している。
図35に示すように、この高清浄部屋システム10は、第9の実施の形態の高清浄部屋システム10の天井裏5の部分の構成を、第10の実施の形態の高清浄部屋システム10の天井裏5の部分の構成に置き換えたものである。具体的には、天井裏5と側壁2bに形成された内部空間7とをそれぞれ独立した外気導入・内気排出空間とし、天井裏5内から内部空間7内にかけて、天井裏5および内部空間7とは隔絶し、密閉されて構成された気体流路24を設けたものである。
外気導入機構および/または内気排出機構である天井裏5と内部空間7とは、例えば、連通させることで共通の外気導入機構および/または内気排出機構とすることもできる。一方で、天井裏5と内部空間7とを2つの独立した外気導入機構または内気排出機構として構成する場合にあっては、一方を外気導入機構、もう一方を内気排出機構とすることができる。この場合、例えば、天井裏5を形成する側壁2cに設けられる通気口11aを外気導入口とし、内部空間12を形成する側壁2dに設けられる通気口11bは内気排出口とすることができる。その他のことは、第1〜第11のいずれかの実施の形態と同様である。
この第12の実施の形態によれば、第1〜第11のいずれかの実施の形態と同様な利点を得ることができるとともに、第9の実施の形態の高清浄部屋システム10の天井裏5の部分の構成を、第10の実施の形態の高清浄部屋システム10の天井裏5の部分の構成に置き換えて構成したので、居住空間6と外気導入空間との間に設けられるガス交換膜26の面積の総計を大幅に増加させることができる。これにより、居住空間6と外気導入空間との間において、外気導入空間から居住空間6への酸素の供給、居住空間6内で発生などした不要なガスの外気導入空間への排出などの効率が飛躍的に向上し、通常の居住空間6と何ら変わらない形態のまま、居住空間6における素早い換気、居住空間6への潤沢な酸素の供給などができ、居住空間6に多くの人間が長期に亘って滞在可能な高清浄部屋システム10とすることができ、さらに、気体流路24が設けられる空間と外気導入空間とを共通の空間で構成したので、上記の作用を発揮しつつも、省スペース化を図ることができ部屋のうちの居住空間6が占める割合を大きくすることができる。
<13.第13の実施の形態>
図36は第13の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。なお、図中の斜線部は高清浄部屋システム10の構成を明確にするために示したものであり、断面を示すものではない。図中、破線部は、部屋1内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1の内部の構成は実線で示している。
図36に示すように、この高清浄部屋システム10は、第12の実施の形態による高清浄部屋システム10の構成に、第11の実施の形態による高清浄部屋システム10の第2の内部空間12内の構成を組み合わせたものである。
外気導入・内気排出機構である天井裏5と内部空間7と内部空間12とは、例えば、天井裏5といずれか少なくとも1つの内部空間とを連通させることで共通の外気導入・内気排出機構とすることもできる。一方で、天井裏5と内部空間7と内部空間12とを3つの独立した外気導入機構および/または内気排出機構として構成する場合にあっては、これらの空間のうち少なくとも1つの空間を外気導入機構、少なくとも1つの空間を内気排出機構とすることができる。この場合、例えば、天井裏5を形成する側壁2cに設けられる通気口11aを外気導入口、内部空間7および内部空間12を形成するそれぞれの側壁に設けられる通気口11bは内気排出口として機能する。その他のことは、第1〜11のいずれかの実施の形態と同様である。
この第13の実施の形態によれば、第1〜12の実施の形態と同様な利点を得ることができるとともに、通常の居住空間と何ら変わらない形態のまま、居住空間6の素早い換気、居住空間6への潤沢な酸素の供給などをさらに高めることができる高清浄部屋システム10を得ることができる。
<14.第14の実施の形態>
図37は第14の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。なお、図中の斜線部は高清浄部屋システム10の構成を明確にするために示したものであり、断面を示すものではない。図中、破線部は、部屋1内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1の内部の構成は実線で示している。
図37に示すように、この高清浄部屋システム10は、第8の実施の形態による高清浄部屋システム10において、居住空間6の内部に100%循環フィードバック系を備えた前室40を設けたものである。
前室40は、人間が一定時間待機することのできる閉空間であって、居住空間6を隔壁41aおよび41bで仕切ることで形成される。隔壁41aおよび41bは、具体的には、例えば、上述した間仕切り壁などが用いられる。前室40は、具体的には、部屋1の側壁2b、2c、2枚の隔壁41a、41b、底面2gおよび天井壁2aで囲まれることによって形成されている。このように、居住空間6内には、人などが出入り可能な閉空間である前室40を有し、前室40は、居住空間6の内部に新たな閉空間を形成するように隔壁41aおよび41bが設けられている。前室40を構成する部屋1の側壁2cには第1の出入り口である出入り口8を有する。また、出入り口8に対向して設けられた隔壁41aには、第2の出入り口である引き戸47を有する。引き戸47は、例えば、隔壁41aおよび41bのいずれか一方に設置してもよいし、両方に設置してもよい。このように仕切られた居住空間6のうち前室40以外の部分は主室20を構成しており、引き戸47は前室40と主室20との間で出入りが可能なように構成されている。出入り口8と引き戸47とによって、主室20と部屋1の外部との間を前室40を介して出入り可能となっている。
また、前室40は、居住空間6と同様に前室40の内部と外部との間において空気の気流としての出入りが無い。前室40の内部と外部との間とは、前室40の内部と外部空間との間のみならず、前室40の内部と主室20の内部との間も含む。また、前室40の内部に気体が排出されるように、第2のファン・フィルターユニットであるファン・フィルターユニット44が設けられている。また、一定間隔を置いて互いに対向して設けられた隔壁17と側壁2bとで構成された内部空間7内には、第2の気体流路である気体流路43が設けられている。このように、内部空間7内には内部空間7とは隔絶して、2本の独立した気体流路24および気体流路43が形成されている。前室40を形成する隔壁17には、ファン・フィルターユニット44の吸入口に対応した開口46が設けられ、ファン・フィルターユニット44の吹き出し口から前室40の内部に流出する気体の全部が、開口46を通過し、開口46と吹き出し口45とを気密性を持って気体流路43が連通することによってファン・フィルターユニット44へ還流するよう構成されている。
第2のファン・フィルターユニットであるファン・フィルターユニット44は、例えば、ファン・フィルターユニット21と同様な構成を有する。ファン・フィルターユニット44は、例えば、ファン・フィルターユニット21よりも吐出流量の小さい前室40の容積に応じた吐出流量のものが選ばれる。天井壁2aには、ファン・フィルターユニット44の吹き出し口に対応する開口が設けられており、この開口とファン・フィルターユニット44の吹き出し口とが気密性を持って接続されることで、吹き出し口45が構成されている。また、開口46は、ファン・フィルターユニット44の吸入口と気密性を持って接続されて構成されており、例えば、内部空間7を構成する隔壁17または中空壁の領域のうち底面2gに接する領域に形成される。開口46と吹き出し口45とが密閉して接続されることで、前室40に対して100%循環フィードバック系が設けられる。100%循環フィードバック系を構成するファン・ フィルターユニット44を運転すると、前室40内の空気清浄度は上述したように飛躍的に向上する。また、内部空間7は、さらに仕切られることで、気体流路43および/または気体流路24の一部を形成することもできる。具体的には、内部空間7を分割するように2枚の仕切り壁を、一定間隔を置いて互いに対向するようにして設けることで筒状の包囲部が形成される。この筒状の包囲部が、例えば、気体流路43の一部を構成する場合には、前室40に隣接する内部空間7内に形成される。また、内部空間7の上部開口全体を塞ぐようにして天井壁2aが設けられることで、この気体流路43の一部を構成する筒状の包囲部は内部空間7の他の領域から隔絶される。この筒状の包囲部を塞ぐ天井壁2aの領域に開口が設けられた天井裏5内に設けられる気体流路43と気密性を持って接続され、さらにファン・フィルターユニット44と気密性を持って接続される。また、内部空間7に外気が導入されるように通気口11aおよび11bが設けられる。
また、この筒状の包囲部が、例えば、気体流路24の一部を構成する場合には、主室20に隣接する内部空間7内に形成される。この筒状の包囲部は主室20に対して設けられた100%循環フィードバック系を構成する気体流路24の一部として形成される。即ち、この筒状の包囲部は天井裏5内に設けられた気体流路24の一部と気密性を持って接続され、気体流路24は同様に気密性を持ってファン・ フィルターユニット21と接続される。ファン・ フィルターユニット21は上記と同様に吹き出し口22と気密性を持って接続されることで主室20に対して100%循環フィードバック系が形成される。
また、前室40に対して設けられた100%循環フィードバック系を構成する気体流路43は、例えば、第8の実施の形態による高清浄部屋システム10の気体流路24と同様に構成することができる。この場合、居住空間6を前室40と読み替え、気体流路24が隙間なく挿通もしくは接続可能な開口71を、気体流路43が隙間なく挿通もしくは接続可能な開口25と読み替えることができる。
また、前室40の天井壁2cの少なくとも一部をガス交換膜26で構成することにより、前室40と天井裏5との間で気体のやり取りが行われ、天井裏5には、通気口11cから外気が導入されるので、前室40には天井裏5から酸素などが供給され、前室40から天井裏5には二酸化炭素などが排出される。また、隔壁41の少なくとも一部をガス交換膜26で構成して、居住空間6と前室40とで気体のやり取りができるようにしてもよい。
引き戸47は、人が出入りする方向に垂直な方向に設けられたレール48上をスライドすることで開閉する。引き戸47は、前室40から主室20に人が出入り可能な形態を有し、人が出入りする方向に垂直な方向にスライドする形態を有していれば基本的には限定されないが、開閉の際に前室40と主室20とに対して圧力の変動をなるべく起こさない構成を有するものが好ましい。引き戸47は、具体的には、例えば、手動の引き戸、自動のスライド出入り口、半自動のスライド出入り口、巻き取り式のシャッターなどが挙げられる。このような構成を有する出入り口を引き戸47とすることで、開閉の際における前室40と主室20との間の空気流の発生を最小限とすることができる。また、引き戸47によって前室40と主室20とを出入りする際においては、開閉扉としたときに生じる衝突事故を防ぐことができ、狭い空間を有効に利用することができる。また、車椅子などで前室40と主室20とを出入りする際においても、その出入りをスムーズに行うことができる。また、引き戸47の少なくとも一部をガス交換膜26で構成してもよく、この引き戸47としては、具体的には、例えば、障子戸などが挙げられる。
図38は、前室40の一例を、前室40のみを引き戸47である障子戸から見た斜視図である。
図38に示すように、この前室40は、一方の角部を構成する側壁2b、天井壁2a、底面2gによって構成され、もう一方の角部を構成する側面が隔壁41によって構成されており、これらの壁が気密性を持って接合されることで閉空間が形成されている。
前室40は、天井裏5を外気導入空間とし、前室40の内部に設けられた開口46には、ファン・フィルターユニット44に接続された気体流路43が気密性を持って接続されており、ファン・フィルターユニット44の吹き出し口と、天井壁2aに設けられた吹き出し口45とが気密性を持って接続されることによって前室40に対して100%循環フィードバック系が構成されている。気体流路43のうち、気体流路43の折れ曲がり部よりも上流の部分が天井裏5内に設けられ、下流の部分は内部空間7内に設けられる。天井裏5を構成する側壁には通気口11aが設けられ、天井裏5内に外気が導入される。また、天井壁2aは、その一部がガス交換膜26で構成されることで、天井裏5と前室40との間で、ダスト微粒子を交換することなく酸素などの気体粒子を交換することができる。また、内部空間7を構成する側壁2cには通気口11bが設けられ、前室40を形成する隔壁17の一部がガス交換膜26で構成されることによって、内部空間7と前室40との間で、ダスト微粒子を交換することなく酸素などの気体粒子を交換することができる。
また、側壁2cに設けられた出入り口8に対向して設けられた隔壁41には、引き戸47である障子戸47aが設けられる。障子戸47aは、レール48上をスライドすることによって開閉する。障子戸47aは、格子状の木組とガス交換膜26とで構成された障子様の引き戸である。障子戸47aに用いられるガス交換膜26は、好適には障子紙であるが、これに限定されるものではない。
図39は、前室40の他の一例を、前室40のみを前室40の障子戸47aから見た斜視図である。
図39に示すように、この前室40は、図37において示した前室40と基本的には同様な構成を有するが、2重天井壁を有さず、気体流路43が前室40内の頂壁2h上に設けられている。また、側壁2bに設けられた出入り口8に対向して設けられた隔壁41には障子戸47aを収納する戸袋49が設けられている。戸袋49には、障子戸47aが収納されることで高まる戸袋49内の圧力を、例えば、吸入口である開口46などにパイパスするなどして逃がす機構を設けることが好ましい。これによって、障子戸47aの開閉による前室40および前室40が接続される空間における空気の流れを最小限とすることができる。
次に、この高清浄部屋システム10の動作について説明する。外部から、主室20に人間が入る場合、まず出入り口8を通じて前室40に入る。前室40に人間が入るとファン・フィルターユニット44が一定時間動作して、例えば、人間から湧き出る塵埃、前室40内に外部から入った塵埃などを100%循環フィードバック系によって除去する。次に、例えば、前室40内の塵埃の粒子数が一定値以下になったら、引き戸47を開放して主室20に人間が出入り可能となるようにする。主室20においても100%循環フィードバック系が装備されているので、主室20内を常に高い空気清浄度に保つことができる。このように、この高清浄部屋システム10は、外部から人が主室20に出入りする際に、前室40を経由して主室20に出入りするように構成したので、外部と主室20との人の出入りによって主室20の清浄度が著しく低下することがなくなる。その他のことは、第1〜13のいずれか実施の形態と同様である。
この第14の実施の形態によれば、第1〜13のいずれかの実施の形態と同様な利点を得ることができるとともに、居住空間6内に新たに100%循環フィードバック系が設けられた前室40を設け、外部から人が主室20に人間などが出入りする際には、前室40を経由しなければ主室20に出入りできないように構成したので、外部と主室20との人の出入りの際に、主室20にダストを含む外気が直接流れ込むことよる主室20の清浄度の著しい低下が起こらない。また、前室40と主室20との出入りを可能にする出入り口を引き戸47としたので、主室20と前室40とを出入りする場合において圧力の変動を最小限とすることができ、これによって、引き戸47の開閉の際において、ダストを含む外気が主室20内に流れ込むような空気流の発生を最小限とすることができる。また、無機質的なクリーンルーム内にいるという感覚を全く生じさせない中、見た目全く通常の純和風の外観を有する部屋そのものが、実は、病院無菌室(US209Dクラス100)以上の清浄度をもつといった空間・住環境にて生活することができるようになる。
<15.第15の実施の形態>
図40は第15の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。なお、図中の斜線部は高清浄部屋システム10の構成を明確にするために示したものであり、断面を示すものではない。図中、破線部は、部屋1内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1の内部の構成は実線で示している。
図40に示すように、この高清浄部屋システム10は、第9の実施の形態による高清浄部屋システム10において、気体流路24を側壁2d側に設け、気体流路24の折れ曲り部よりも下の部分を主室20内に設けたものである。このように、開口23および気体流路24が、内部空間7が形成された側壁2bとは反対側の側壁2dに設けられることにより、内部空間7を形成する壁面に設けられるガス交換膜26の面積を大幅に増加させることができる。これにより、内部空間7と居住空間6との気体の交換量が大幅に増加し、居住空間6に多数の人間が長時間滞在することになっても安全性を担保できる。この高清浄部屋システム10のその他のことは、第14の実施の形態の高清浄部屋システム10と同様である。
この第15の実施の形態によれば、第14の実施の形態と同様な利点を得ることができるとともに、内壁17におけるガス交換膜26の割合を大幅に増加させることができるので、内部空間7を外気導入空間としたときに、内部空間7と居住空間6との間で交換できる気体の量を大幅に増加することができる。これにより、居住空間6に多数の人間が長時間滞在することになっても安全性を担保できる。
<16.第16の実施の形態>
図41は第16の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。なお、図中の斜線部は高清浄部屋システム10の構成を明確にするために示したものであり、断面を示すものではない。図中、破線部は、部屋1内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1の内部の構成は実線で示している。
図41に示すように、この高清浄部屋システム10は、第10の実施の形態による高清浄部屋システム10において、外気導入空間である内部空間7、天井裏5および内部空間12のうち少なくとも1箇所を連通させて外気導入空間を構成し、気体流路24を、この外気導入空間の内部に外気導入空間とは隔絶するようにして密閉して構成することで開口23と吹き出し口22とを密閉して接続したものである。また、外気導入空間を形成している部屋1の側壁2cの天井裏5を構成する部分には通気口11a、天井裏5を構成する部分には通気口11bが形成され、外気導入空間である内部空間7を構成する天井壁2aおよび隔壁17の少なくとも一部をガス交換膜26で構成したものである。
気体流路24は、例えば、第12の実施の形態による高清浄部屋システム10における気体流路24と同様に構成することができる。この高清浄部屋システム10のその他のことは、第1〜14のいずれかの実施の形態の高清浄部屋システム10と同様に構成することができる。
この第16の実施の形態によれば、第14の実施の形態と同様な利点を得ることができるとともに、内部空間7と内部空間12とを外気導入空間とし、それぞれの外気導入空間と居住空間6とを隔てる壁の少なくとも一部をガス交換膜26で構成したので、外気導入空間と居住空間6とで交換できる気体の量を大幅に増加することができる。これにより、居住空間6に多数の人間が長時間滞在することになっても安全性を担保できる。
<17.第17の実施の形態>
図42は第17の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。なお、図中の斜線部は高清浄部屋システム10の構成を明確にするために示したものであり、断面を示すものではない。図中、破線部は、部屋1内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1の内部の構成は実線で示している。
図42に示すように、この高清浄部屋システム10は、第15の実施の形態による高清浄部屋システム10において、内部空間7と天井裏5と内部空間12とを連通させないようにして構成し、それぞれの空間に独立して通気口11aおよび通気口11bを設けたものである。
内部空間7と天井裏5と内部空間12とは、互いに独立した閉空間を構成しているので、それぞれの空間において、居住空間6と独立して期待のやり取りをすることができる。これにより、通気口11aを、例えば、外気導入口、通気口11bを、例えば、排出口として独立して構成することができ、居住空間6への外気の導入および排出を独立した複数の外気導入空間を通じて行うことができるので、居住空間6に外気の導入のみをする経路および居住空間6から外部へ不要なガスを排出のみをする経路を構成することができる。その他のことは、第10の実施の形態の高清浄部屋システム10と同様である。
この第17の実施の形態によれば、第14の実施の形態と同様な利点を得ることができるとともに、内部空間7と天井裏5と内部空間12とは、互いに独立した閉空間を構成しているので、居住空間6との気体のやり取りを、それぞれ独立してすることができる。これにより、外気導入口と排出口とを独立して構成することができ、居住空間6への外気の導入および排出を独立した複数の外気導入空間を通じて行うことができる。これにより、居住空間6に外気の導入のみをする経路および居住空間6から外部へ不要なガスを排出のみをする経路を構成することができる。
<18.第18の実施の形態>
図43は第18の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。なお、図中の斜線部は高清浄部屋システム10の構成を明確にするために示したものであり、断面を示すものではない。図中、破線部は、部屋1内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1の内部の構成は実線で示している。
図43に示すように、この高清浄部屋システム10は、第2〜17のいずれかの実施の形態による高清浄部屋システム10の外壁の外部に接するようにして100%循環フィードバック系を有する前室40を設けたものである。
前室40は100%循環フィードバック系を有する密閉空間であれば基本的にはどのように構成されていても良いが、具体的には、例えば、第14の実施の形態による高清浄部屋システム10において構成された前室40と同様に構成することができる。
前室40を第1〜13のいずれかの実施の形態による高清浄部屋システム10の外部に設置する場合には、前室40は、高清浄部屋システム10の部屋1を構成する側面のうち、出入り口8を有する面に設けられる。前室40を構成する側面のうち部屋1と対向する面は、前室40と主室20との間で人間が出入りできるように構成されることが好ましく、例えば、前室40に出入り口8に対応した開口を設けてもよいし、前室40の出入り口8に対向する全面を開放にしてもよい。また、例えば、出入り口8を引き戸とすることが好ましい。前室40と主室20との接続は、前室40と主室20とが密閉されて接続されていれば基本的には限定されないが、前室40が部屋1の出入り口8を有する側面を覆うようにして密閉して設けられることが好ましい。また、第13〜16のいずれかの実施の形態による高清浄部屋システム10の外部に前室40を設置する場合には、部屋1の内部に前室を有するので、前室40は第2の前室として外部に設置される。
また、部屋1と主室20との間には、例えば、それぞれが形成する閉空間の内部に形成された外気導入空間を繋ぐ連結路である貫通口77を設けることが好ましい。この貫通口77を設けることにより、前室40の設置によって、部屋1に設けられた通気口11が塞がれてしまっても、部屋1内部に形成された外気導入空間に外気を導入することができる。また、例えば、主室20と前室40とを隔てる部屋1の少なくとも一部をガス交換膜26で構成したり、出入り口8の主要な面の少なくとも一部をガス交換膜26で構成したり、障子戸47で構成したりすることにより主室20と前室40との間で気体を交換可能にすることもできる。
図44は第18の実施の形態の変形例である高清浄部屋システム10を示す。図中の斜線部は高清浄部屋システム10の構成を明確にするために示したものであり、断面を示すものではない。図中、破線部は、部屋1内部に設けられた、隔壁、天井壁などの壁を示し、その他の部屋1の内部の構成は実線で示している。
図44に示すように、この高清浄部屋システム10は、第18の実施の形態による高清浄部屋システム10の前室40を、部屋1の外部に設けられた廊下33に設置したものである。
前室40は基本的には第14の実施の形態による高清浄部屋システム10における前室40と同様な構成を有するが、気体流路43は、例えば、部屋1の側面のうち廊下33が延びる方向と平行に設けられる。隔壁17aが前室40の内部に設けられることによって、内部空間7aが内部空間7と同様に形成される。また、例えば、部屋1の側面のうち廊下33が延びる方向とする2枚の側面に引き戸47cが設置されることで、前室40は通り抜け可能となる。その他のことは、第1〜16の実施のいずれかの形態による高清浄部屋システム10と同様である。
この第18の実施の形態によれば、第1〜17の実施の形態と同様な利点を得ることができるとともに、内部に前室40を設置できないような狭い部屋であっても、外部に前室40を設置することによって、高清浄環境を常に維持できる部屋とすることができる。また、例えば、屋内部屋であれば、部屋に通じる廊下を隔壁などによって仕切ることによって前室40にすることができる。
<19.第19の実施の形態>
図45は第19の実施の形態による高清浄部屋システム10を示す。
図45に示すように、この高清浄部屋システム10は、第1〜18のいずれかの実施の形態による高清浄部屋システム10において、内部空間7もしくは天井裏5に送風ファンを2系統備えるガス交換装置80を設けたものである。内部空間7と天井裏5とは空気が連通する構成を有している。ガス交換装置80は、ガス交換部70の一方の側面に外気導入口71と内気回収口72とを有し、もう一方の側面に排出口73と還流口74とを有する。外気導入口71は、内部空間7に通気口11aから導入された外気をガス交換部70内に導入する。また、内気回収口72は吸入管75に接続され、吸入管75は天井壁2aを気密性を持って挿通されることで居住空間6内に達し、吸入管75の先端部に設けられた開口から、居住空間6内において人76などによって発せられた臭いのきつい空気や汚染された空気を回収する。ガス交換装置80に接続された吸入管75と還流口74とは、居住空間6内においてそれぞれの開口が対になって設けられている。排出口73は、ガス交換装置80によって塵埃・菌等の粒子は交換することなく、ガス成分のみ外気と平衡状態に近づけられた、臭い分子等の濃度の小さい清浄化された空気を内部空間7に還流する。また、還流口74にはノズル77が接続され、ノズル77は天井壁2aに、ノズル77の出口に対応する開口に気密性を持って接続され、ガス交換装置80によって清浄化された空気が居住空間6内に戻される。また、居住空間6内にはスタンドアローンの空気清浄装置78あるいは光触媒脱臭装置が設置される。この場合、空気清浄装置78の目詰まりが皆無となるので、スタンドアローンの空気清浄器の装置寿命を伸ばし、そのフィルター能力を本来の能力の1000倍以上に引上げることができる。即ち、ダスト捕集効率γ=0.5では、ゴミ密度n=( 1−0.5) ×N0 よりn=3×105 程度となる。一方で、図17に示すように、スタンドアローンの空気清浄装置はクラス300が達成されている。よって、その比は、3×105 /300〜1000となる。また、ガス交換装置80に代えて、例えば、空気濾過器或いは空気清浄機を同様な構成で設置して用いてもよい。
図46〜図49は、ガス交換装置80の例を示した斜視図である。
図46〜図49に示すように、ガス交換装置80の内部にガス交換膜26を複数枚備えることによって、酸素が減少した空気や二酸化炭素が増加した空気、或いは、臭気や化学物質を含む汚れた部屋1内部の空気が、外気との間のガス交換・分子の相互濃度拡散により、濃度を外気と同じ濃度に極めて近い値に戻されて、部屋1内に還流する。この際、正味の空気流の交換はないので、塵埃の外気からの紛れ込みは無く、空気は分子成分的にのみ清浄化される。即ち、導入口71から導入された外気と内気回収口72から導入される部屋1内部の気体が、多重に配されたガス交換膜26を介してガス成分の交換を行うことで、内気のガス成分は、外気のそれにほぼ等しくなって、再び、室内に還流する。
ガス交換装置80を個別に説明する。図46に示すように、ガス交換装置80Aは、外気、内気の導入、送出を平行に行うことで、気流のハンドリングが容易なタイプであり、ガス交換膜26をジグザグ状に、一筆書きの要領でボックス内に配置するので、作製上、ガス交換膜26は一枚膜で構成できるメリットがある。また、図47に示すように、ガス交換装置80Bは、ガス交換装置80Aと同じく外気、内気の導入、送出を平行に行う構造を有し、さらに、ガス交換膜26を平行に多数枚並べるタイプで、各スロット毎に、外気と内気を別々に導入する。このように構成されることで、ガス交換膜26の面間隔が一定で気流に淀み層が少なくできるメリットがある。また、図48に示すように、ガス交換装置80Cもガス交換膜26を平行に多数枚並べるタイプであるが、外気導入と内気の導入方向を直交させることで、導入口71をひとまとめにでき、構造を簡単にすることができる。また、図49に示すように、ガス交換装置80Dは、ガス交換装置80Bおよび80Cの構造の利点を組み合わせたもので、外気、内気の導入、送出を平行に行いつつ、且つ、外気、部屋1内の空気について、各々、その導入口をひとまとめにできるメリットがある。ガス交換装置80Dのガス交換部70の寸法は、具体的には、例えば、高さ45cm]、幅が90[cm]で長さが180[cm]程度であり、ガス交換膜26は、例えば、3[mm]以上60[mm]以下程度の間隔dで張る。これにより、12[m2 ]以上240[m2 ]以下の極めて広い実効面積においてガス交換が可能となる。但し、dは、上記に限定されるものでなく、1〜2[mm]もガス交換時間短縮上、大変有効である。従って、ガス交換装置80Dは、前述の図11において示したガス交換膜26のガス交換能力の数十倍乃至数百倍の性能を有する。ガス交換装置80Dは、上述の通り、外気用と部屋還流空気(内気)用に2系統の送風ファンを装備し、これらが空気を能動的に送り出すので、ガス交換面を挟んでの2つの気流の速さを加味すると、更に、この10倍程度のガス交換能力向上も可能である。
上記、ガス交換装置80内のガス交換膜26の総面積は、最低限、数式(15)を満たせば、人が内部で活動するに十分な酸素濃度が担保され、この面積が大きければ大きいほど、これに加えて、脱臭や有害ガス排出機能も高まっていく。即ち、(V/A)/(D/L)}によるスケーリングは、また、ガス交換装置80のガス交換部70が有する“ガス交換膜/内気/ガス交換膜/外気”という繰り返し構造の“単位胞”についても当てはめることができる。例えば、図8或いは図11に示した高清浄部屋システム10の場合、V(〜24[m3 ])/A(〜1.8[m2 ])〜13[m]程度であるのに対し、図45〜49に示したガス交換装置80では、ガス交換膜26の面間隔dが典型的には数[mm]オーダーであるので、V(=A×d)/A=d〜3[mm]となる。両者の比13[m]/3[mm]〜4000[mm]より、ガス交換装置80のガス交換の時定数は、例えば図12Bで観測された“40分”のオーダーの量から、その4000分の1の短さ、即ち、約1秒弱のオーダーの時間であると分かる。例えば、体積30[m3 ]の居住空間に対しては、ガス交換装置80へ流入する外気、内気の風量は、定常時か緊急時かに応じて、0.25[m3 /min]〜数十[m3 /min]程度の値をとる(この値は、部屋の体積に対してスケールする)ので、上記のガス交換装置80の典型的サイズ(0.45×0.9×1.8[m3 ]〜0.8[m3 ])からすると、装置内を気流が通過する時間は、数秒〜約1分程度の時間となる。これは、上記のガス交換装置80のガス交換時定数の数倍以上であるので、外気と内気は、ガス交換装置80の内部を流れる間には十分にガス交換を行い、出口の部分では、両者はほぼ平衡状態に達しうることがわかる。このように、外気と、部屋1内の空気とのガス交換を、各ガス交換面の中央部で面を挟んで流れる2つの気流の間で、効率的に分子の相互濃度拡散を行わせることができる。ガス交換装置80に流れ込む内気の風量に対し、同じく流れ込む外気の風量を等しいかそれ以上とすることが望ましい。好適には、ガス交換装置80内を流れる内気の風量に対し、数倍乃至10倍以上とするが、この際には、同時に、ガス交換膜を挟んで流れる、内気と外気の2つの気流の速度ベクトルにおいて、平行成分が大きい配置をとることで、ベルヌーイの定理に従って、ガス交換膜を介する圧力差をほぼゼロにすることが望ましい。この2つの気流の速度ベクトルは完全に平行であることがベストであるが、各ガス交換面の中央部で面を挟んで対角線状にクロスさせることもこれに次いで大変有効である。このため、外気の流れる部分の断面積を、内気のそれより、上記の風量の比と相殺する様に大きくすることが肝要である。即ち、ガス交換装置80における、外気流量/内気流量の比を、外気流路におけるガス交換膜間隔/内気流路におけるガス交換膜間隔の比に一致させることが好ましい。また、上記ガス交換膜26の両側の空気流が平行、或いは準平行である場合には、この流れの方向に直交する面で切ったガス交換膜26の断面を、ジグザグ(山折り谷折り)形状として実効面積を増やし、ガス交換能を高めることも有効である。
図67Aは図48に示したガス交換装置の実機(試作機)を示し、図67Bは図67Aに示すガス交換装置の上面図である。図67Aにはガス交換装置の気流の配置が示されている。ガス交換装置の長さは約90cm、幅は約60cmで、多層膜構造の総厚みは約20cmである。図68は、高清浄部屋システム10の部屋に図67Aに示すガス交換装置を組み込んだ例であり、図45に示す高清浄部屋システム10を実機で実現したものに相当する。図68の向かって左の直方体形状の部屋の、6側面の内の5面をビニール、残る1面をTyvekとして、この空間を完全密閉にした上で、内部でガスコンロを炊くことで酸素を消費し、この状況で、上記のガス交換装置の動作の有り無しでの上記閉空間の酸素濃度を測定した結果を図69に示す。ガス交換装置を動作させないと、図69に示すように、19%を切って、酸素濃度は減少し続ける。しかし、ガス交換装置を動作させると、内部の酸素濃度の低下が下げ止まり、20%弱で一定となる。ガス交換装置が優れたガス交換能を持つことを証明している。段落0017で詳述した方法で得られるD/Lを基に、段落0116に記載した処方及び式17に従って、ガス交換膜の大きさと総枚数、流す流量を設定することで、ターゲット酸素濃度を実現することができる。このガス交換装置は、上記の解析から解る通り、本発明における部屋のV/Aが小さい場合の極限と考えることができることから、本発明のガス交換膜を備えた中空壁の極限形ととらえることができ、従って、このガス交換装置を以て、本発明のガス交換膜を備えた中空壁を代替することも用途に応じてできる。
また、例えば、この実施の形態において示した高清浄部屋システム10に設けられるガス交換装置80を、ガス交換装置80Dとすると、ガス交換装置80Dのガス交換部70の内部に設けられたガス交換膜26は、天井壁2aに対して垂直に並ぶことになる。即ち、ガス交換膜26の面の法線ベクトルは、重力方向と直交する。従って、外気が含む多様な塵埃は、ガス交換膜26の面上に降下するのではなく、ガス交換部70を構成する壁面上、例えば、図50向って手前の面上に留まるのみである。従って、ガス交換装置80Dのガス交換膜26のガス交換能力は、目詰まりの問題から格段に開放される。
高清浄部屋システム10を上述のようにして構成することで、局所排気系を備えた高清浄部屋システム10を実現することが出来る。例えば、養護ホームのオムツ交換時等の局所排気が望ましいときにこの高清浄部屋システム10を用いることで、内部の清浄度を犠牲にせず、且つ、局所的な異臭の発生にも対応できるようになる。また、この高清浄部屋システム10は、溶剤などを使う塗装工程を清浄環境を維持しながら、安全に行うことができる。その他のことは、第2〜18のいずれかの実施の形態の高清浄部屋システム10と同様である。
この第19の実施の形態によれば、第1〜18の実施の形態と同様な利点を有するとともに、局所排気系を備えた高清浄部屋システム10を実現することが出来る。例えば、養護ホームのオムツ交換時等の局所排気が望ましいときにこの高清浄部屋システム10を用いることで、内部の清浄度を犠牲にせず、且つ、局所的な異臭の発生にも対応できるようになる。また、この高清浄部屋システム10は、溶剤などを使う塗装工程を清浄環境を維持しながら、安全に行うことができる。
<第20の実施の形態>
図50は第20の実施の形態である高清浄部屋システム10を示す。この高清浄部屋システム10は、第4の実施の形態で示した高清浄部屋システム10と同様に複数の部屋1を連結した形態を有している。図50に示すように、高清浄部屋システム10は、主室20と前室40とを有する部屋1が廊下33に沿って4つ連結されているが、連結数は4に限られることなく、適宜選択することができる。部屋1の左側の側壁が、内部空間を内包する構造を有する壁9となっている。また、それぞれの部屋1は、前室40を備えており、主室20の清浄度を破ることなく、主室20と外部の間を行き来できる。
部屋1は、前室40と主室20とを有する。前室40は廊下33に面する側壁に出入り口8を有し、ユニットバスなどのユーティリティースペース19に接し、出入り口8と互いに対向するようにして設けられた障子戸47aによって部屋1の内部が仕切られることによって形成される。各部屋1の図中向かって左側の側壁は、第1の実施の形態において示した壁9の構造を有している。また、図50に示す構造から分かるように、ここに用いられる壁9は、重力に沿う方向で内部空間7へのフレッシュエアの出し入れを行う図1Bのタイプであり、壁9の頂面には外気導入口11eと内気排出口11fとが設けられており、壁9の頂面は天井壁2aと同一平面上にあるように設けられている。前室40の構成は、第3および第14〜18のいずれかの実施の形態において示した前室40の構成を適宜選択することが可能である。部屋1の内部の構成のうち、前室40以外の部分は主室20を構成するため、部屋1内に前室40を備えることで、主室20の清浄度を破ることなく、主室20と外部との間を行き来できる。主室20の構成は、図45において示した第19の実施の形態による部屋1(居住空間6)と同様な構成を有しており、例えば、気体流路24の内部にはさらに光触媒61が設けられている。この光触媒の設置の有無は、主室20の用途に応じて、適宜選択することができる。部屋1の主室20側の構成は、具体的には、主室20上の天井裏5に、主室20に空気が吹き出し可能なようにファン・フィルターユニット21が設けられており、主室20と内部空間7とを隔てる壁9aの一部がガス交換膜26で構成されており、内部空間7内の空気と主室20内の空気とがやり取り可能となっている。
主室20における天井裏5側の天井壁2a上には、外気導入ダクト83aと排気ダクト83bとが設けられている。外気導入ダクト83aは、4つの連なる部屋1を横断するようにして設けられ、外気導入ダクト83aの一方の端部である外気吸気口85にはシロッコファンなどの送風機構82を有する。排気ダクト83bも、外気導入ダクト83aと同様に設けられ、排気ダクト83bの外気吸気口85側の端部である排気口86にはシロッコファンなどの送風機構82を有する。また、外気導入ダクト83aと、排気ダクト83bとは一定間隔を置いて互いに平行に設けられている。外気導入ダクト83aは、各々の部屋1の外気導入口11eを気密性を持って順に連結するようにして設けられ、各々の部屋1の外気導入口11eには内部空間7内に外気を導入する管83cが接続される。また、排気ダクト83dは、各々の部屋1の内気排出口11fを気密性を持って順に連結するようにして設けられ、各々の部屋1の内気排出口11fには内部空間7内から気体を排出する管83dが接続されている。このように構成されることで、外気吸気口85から吸入された外気は、外気導入ダクト83aを通り外気導入口11eを介して各部屋1の壁9の内部空間7に順に導入され、各部屋1の壁9の内部空間7から内気排出口11fを経て排出される内気は、順に排出され、排気ダクト83bを通って排気口86から排出される。また、管83cは外気導入口となる先端開口部が、部屋1の床近傍となるように構成され、管83dは内気排出口となる先端開口部が天井壁2aの近傍となるように構成される。この構成は、例えば、夏など外気吸気口85から導入される空気が暖かい場合に、空気の循環効率が高まるが、これに限られるものではなく、例えば、管83cと管83dの長さを逆転させることで、冬など外気吸気口85から導入される空気が冷たい場合に、空気の循環効率の高まる構造とすることができる。特に後者は、ガス交換膜26を挟む2つの気流の速度ベクトルにおいて平行成分が大きくなることからも推奨される配置である。内部空間7内の外気導入部および排出部は、内部空間7内の領域のうち気体流路24が形成されていない領域から少なくとも一部が選ばれる。
主室20内の内壁9a側の角部2箇所には、2つのファン・フィルターユニット78が載置されている。ファン・フィルターユニット78は、風量がファン・フィルターユニット21の風量の少なくとも数分の一、望ましくは一桁以上小さく、除塵能力と送風能力を有する機器であれば基本的には限定されるものではないが、例えば、主室20の容積をVとすると、V/2h[m3 /h]以上であることが好ましく、空気供給量が15[m3 /h]以上66[m3 /h]以下の小流量ファン・フィルターユニットであることが好ましい。小流量ファン・フィルターユニットとしては、例えば、ブルーエア社製のブルーエアミニ(商品名)が好適である。図53は、この小流量ファン・フィルターユニットの概観を示した斜視図である。この小流量ファン・フィルターユニットは、本体部78aに、フィルター部78bが組み合わされて構成され、フィルター部78bの背面部から吸入された空気は本体部78aの前面から吹き出されるようにして、本体部78aの内部に送風機構が設けられる。この小流量ファン・フィルターユニットは、その外寸は幅が160[mm]、奥行き95[mm]、高さ190[mm]、重量が0.7kg(フィルター含む)、運転音が44[dB]、清浄空気供給量が29[m3 /h]、定格消費電力は5[W]である。また、この小流量ファン・フィルターユニットは、主室20の内部で設置位置を変更することが可能である。また、内部空間7と主室20との境界にファン・フィルターユニット78を2つ設置し、一方のファン・フィルターユニット78が外気の導入をするように、もう一方のファン・フィルターユニット78を内気の排気をするように設置することで主室と外部との換気機構とすることもできる。この場合、2つのファン・フィルターユニット78は一方が外気を吸気し、もう片方は内気を排気するため、この場合においても、内気排気用のファン・フィルターユニット78の寿命・効率を、開放系で用いる場合に比べ数百倍以上に高めることができることは維持される。また、この2つのファン・フィルターユニット78は、主室20と廊下や戸外等との間に設置してもよい。このことにより、例えば、時を経た場合のこれら小流量ファン・フィルターユニットの交換の“ロータリー交換”が可能となる。即ち、老朽化した外気吸気口85側の送風機構82をそれまで内気排気に用いていたファン・フィルターユニット78で置き換え、新品のファン・フィルターユニット78を内気排気用に設置することが勧められる。その他のことは、第1〜19のいずれかの実施の形態と同様である。
この第20の実施の形態によれば、第1〜19のいずれかの実施の形態と同様な利点を有するとともに、部屋1を複数連結し、各部屋1の外気導入部をダクトによって連結し、各部屋1の排出部を別のダクトによって連結し、それぞれのダクトに送風機構を設けたので、複数連結された部屋1への外気導入および内気排出を一括で行うことができる。また、多数の部屋1を有する集合住宅、介護ホーム、病院、或いは塗装工場などに対し必要に応じて、高清浄部屋システム10の構成を適宜選択し、さらに、ガス交換装置80を組み込むなどすることで、簡易に低塵埃空間を得られるだけでなく、化学物質、臭い、有機溶剤分子なども短時間に排出・分解できる超高清浄空間を得ることができる。高清浄部屋システム10をこのように構成することで、中で療養する人の健康回復を早めたり、或いは、中で塗装作業等に従事する人々の胆管ガン罹患リスク等を低減したりすることができる。
<第21の実施の形態>
図51は第21の実施の形態である高清浄部屋システム10を示す。この高清浄環境システム10は、第20の実施の形態において示した高清浄部屋システム10の、連結された複数の部屋1の居住空間を連通させ、この連通した部位に1つ或は少数のファン・フィルターユニット21を配置した集中システムである。
図51に示すように、高清浄環境システム10は、主室20と前室40とを有する部屋1が4つ連結されており、図50において示した高清浄環境システム10と基本的に同様な構成を有する。天井裏5側の天井壁2a上には、吸気側ダクト87aと送風側ダクト87bと吸気側ダクト87aと送風側ダクト87bとを連結する連結ダクト87cをさらに有する。吸気側ダクト87aと送風側ダクト87bとは一定距離を置いて互いに対向して設けられ、外気導入ダクト83aと排気ダクト83bとで挟まれる領域に設けられる。この場合、吸気側ダクト87aおよび送風側ダクト87bは、外気導入ダクト83aおよび排気ダクト83bと離れて設けられることが好ましいがこれに限定されるものではない。
各部屋1の壁9の内部空間7内には、天井壁2aに設けられた開口である、吹き出し口22が設けられており、吸気側ダクト87aは、各部屋1の吹き出し口22を順に接続するようにして設けられる。また、吹き出し口22の上流部には部屋1に風が送り出されるようにして各部屋1ごとに送風部88が設ける形態を有してもよく、その場合には、吸気側ダクト87aは、各部屋1の送風部88を気密性を持って順に接続される。また、各部屋1を構成する壁9の頂壁には、外気導入口11eおよび内気排出口11fに加えて、開口25が設けられている。開口25は、外気導入口11eと内気排出口11fとの間に設けられ、開口25と、内壁9aに設けられた開口23とは、気体流路24によって気密性を持って接続されている。吸気側ダクト87aは、各部屋1の開口25を順に接続するようにして設けられている。吸気側ダクト87aの下流側の端部と送風側ダクト87bの上流側の端部とは、部屋1の外部に設けられた連結ダクト87cで連結されており、連結ダクト87cの内部には光触媒61とファン・フィルターユニット21とが設けられている。ファン・フィルターユニット21は、例えば、集中空気濾過器、集中空気清浄機などで構成されるが、例えば、上記に示した、ガス交換装置80を用いることが好ましい。光触媒61は、例えば、光触媒材料を用いたフィルター、このフィルターを用いた空気清浄装置などが好適である。また、ファン・フィルターユニット21は、例えば、大容量ファン・フィルターユニットであることが好ましく、例えば、主室20の容積が45m3 の場合、各部屋当たり空気供給量が4[m3 /min]以上22[m3 /min]以下であることが好ましい。また、吸気側ダクト87aには、各部屋1の端に設けられた壁9に格納された気体流路24を通じて順に空気が送り出され、全ての部屋1からダクト87a内に空気が送り出され合流した後に、連結ダクト87cに内部に入って90度方向を転換する。連結ダクト87cに内部に入った後はファン・フィルターユニット21と光触媒61とを順次通過し、送風側ダクト87bの内部に入ってさらに90度方向転換をして、各部屋1に設けられた吹き出し口22から、各主室20に気体が送り出される。このとき、吸気側ダクト87aの上流端部に接続される気体流路24と送風側ダクト87bの下流端部に接続される吹き出し口22とが、同じ主室20内部に設けられているので、各部屋1において、当該部屋内気を取り込む気体流路24下端の開口23と、当該吸引空気を清浄化処理後、その吸引気体全量を、ファン・フィルターユニット21と光触媒61で処理後、再び、上記部屋内部に戻す吹き出し口22とが、対となって設けられており、全体として密閉されて構成されている。このように構成されることで、各部屋1のそれぞれに設けられた吸入口である気体流路24下端の開口23と、吹き出し口22とが、部屋1の外部に設置されたファン・フィルターユニット21と連通する。このことから、上述した100%循環フィードバック系を、1つのファン・フィルターユニット21で4つの部屋1に同時に設けることができ、1つのファン・フィルターユニット21で複数の部屋1に清浄空気を供給することができる。
図52は第21の実施の形態である高清浄部屋システム10の変形例を示す。この高清浄部屋システム10は、図51において示した高清浄部屋システム10のうち前室40の構成を省略したものである。その他の構成は、図51において示した高清浄部屋システム10と同様に構成することができる。この形態は、部屋1の出入りの頻度が少なく、相対的に居住空間内部に滞在する時間が長い場合に、好適なシステムである。その他のことは、第1〜20のいずれかの実施の形態と同様である。
この第21の実施の形態によれば、第1〜20のいずれかの実施の形態と同様な利点を有するとともに、100%循環フィードバック系を1つのファン・フィルターユニット21で複数の部屋1に同時に設けることができ、1つのファン・フィルターユニット21で複数の部屋1に清浄空気を供給することができ、このような集中システムにより、複数の部屋1の一括清浄化を行うことができる。
<第22の実施の形態>
第22の実施の形態においては、高清浄部屋システム10のファン・フィルターユニット21として図70A、BおよびCに示す放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニット150を用いる。
図70A、BおよびCに示すように、この放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニット150は直方体形状の箱状の筐体151を有する。筐体151は放射線遮蔽材料からなる。筐体151の内部に送風ファン152および塵埃フィルター153が設けられている。塵埃フィルター153としては、例えば、HEPAフィルター、ULPAフィルターなどのほか、ダスト微粒子の捕集効率がこれらのHEPAフィルター、ULPAフィルターより低い、例えば捕集効率が99%以下、あるいはさらに95%以下のフィルターを用いてもよい。筐体151の上壁154にはスリット状の長方形の開口155が互いに平行に複数設けられている。筐体151の上壁154と送風ファン152との間の空間には、各開口155に面して、各開口155より大きい長方形のスリット状の放射線遮蔽部材156が設けられている。この放射線遮蔽部材156は、上壁154に垂直な方向から各開口155を見たときに筐体151の内部が見えないように設けられる。同様に、筐体151の下壁157には長方形のスリット状の開口158が互いに平行に複数設けられ、筐体151の下壁157と塵埃フィルター153との間の空間には、各開口158に面して、各開口158より大きい長方形のスリット状の放射線遮蔽部材159が設けられている。この放射線遮蔽部材159は、下壁157に垂直な方向から各開口158を見たときに筐体151の内部が見えないように設けられる。この場合、放射線遮蔽部材156、159は、塵埃フィルター153のどの位置に捕集される放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から放射される放射線も、筐体151の各開口155、158から直接外部に出ないように形成される。また、筐体151の壁および放射線遮蔽部材156、159の厚さは、塵埃フィルター153のどの位置に捕集される放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から任意の方向に向かう直線について、その直線が筐体151の壁および/または放射線遮蔽部材156、159を横断する距離の合計が、放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から放射される放射線群の最大飛程または吸収長のうちの最も大きいもの以上になるように設定されている。筐体151の内部で塵埃フィルター153の近傍には、好適には、CsI(Tl)シンチレーター、NaI(Tl)シンチレーター、Bi4 Ge3 12シンチレーター、Si/CdTeコンプトンカメラ等の放射線モニターが設置される。この放射線モニターにより、塵埃フィルター153への放射性物質の蓄積量をモニターすることができる。また、この放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニット15の筐体151、塵埃フィルター153の外枠、あるいはこれらの表面コート材には、不安定放射性同位元素を持たない元素による素材を用いることが望ましい。筐体151を構成する素材はむき出しでなく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのコーティングや塗装等による表面保護が施されていることが望ましい。また、図1には図示していないが、放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニット15の筐体151の外部近傍にも上記と同様な放射線モニターを設置して、放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニット15が正常に動作していることを常時モニターしておくことが望ましい。
この放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニット150の筐体151の構造は、放射線は散乱がない限り直進し、気流は流路に沿って方向が制御できることに基づいて考案されている。遮蔽は考慮すべき放射線の飛程に関する考察により、β線よりも(エネルギー数百keV〜2MeV程度の)γ線を抑えることが必要であることが分かる。このエネルギー領域のγ線は、コンプトン散乱によりエネルギーを失う。この散乱断面積は知られており、たとえ散乱により進行方向が変わっても、十分に高い確率で(ほぼ100%)筐体151の壁または放射線遮蔽部材156、159を横切るように設計することができる。すなわち、この筐体151においては、上壁154の各開口155から入った空気は、図70B中の矢印で示すように放射線遮蔽部材156により流路が水平方向および垂直方向に繰り返して曲げられた後に送風ファン152を通って塵埃フィルター153に入る。そして、この塵埃フィルター153から出た空気は、放射線遮蔽部材159により流路が水平方向および垂直方向に繰り返して曲げられ、下壁157の各開口158から外部に出るようになっている。放射線遮蔽部材156と上壁154とのオーバーラップ長さは、放射線遮蔽部材156の間隔に対する比を、好適には1以上、例えば3程度に設定する。同様に、放射線遮蔽部材159と下壁157とのオーバーラップ長さは、放射線遮蔽部材159の間隔に対する比を、好適には1以上、例えば3程度に設定する。ここで、上壁154の開口155、放射線遮蔽部材156、下壁157の開口158および放射線遮蔽部材159の面積および位置は、上壁154の開口155から入る空気が円滑に流れて送風ファン152に入り、塵埃フィルター153から出た空気が円滑に流れて下壁157の開口158から出るように選択される。また、この塵埃フィルター153のフィルター材(ろ材)に捕集された放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から放射される放射線は、どの方向に放射される放射線であっても、筐体151の放射線遮蔽材料からなる壁および/または放射線遮蔽部材156、159に当たって確実に遮蔽され、筐体151の外部には放射されない。
筐体151および放射線遮蔽部材156、159を構成する放射線遮蔽材料の具体例について説明する。例えば、原子炉の事故に伴い外部に放出される放射性同位元素は、その崩壊の過程(β崩壊、γ崩壊)は、エネルギーを含め同定されている。
例えば、ヨウ素131( 131I)では、約90%がβ崩壊して606keVのβ線を放射した後、γ崩壊して364keVのγ線を放射し、約10%がβ崩壊して334keVのβ線を放射した後、γ崩壊して637keVのγ線を放射する。一方、セシウム137( 137Cs)では、約95%がβ崩壊して512keVのβ線を放射した後、γ崩壊して662keVのγ線を放射し、約5%がβ崩壊して1.17MeVのβ線を放射する。
以下においては、特にヨウ素131およびセシウム137について述べるが、種々の放射性同位元素から放射されるβ線のエネルギーと吸収係数との関係などの知見により、崩壊過程のエネルギーを勘案することにより、他の放射性同位元素にも適用することができる。
上述のように、ヨウ素131およびセシウム137のβ崩壊に対しては、606keVのβ線を遮蔽すれば、ヨウ素131では100%、セシウム137でも95%β線を遮蔽することができる。さらに、1.17MeVのβ線を遮蔽すれば、セシウム137についても100%β線を遮蔽することができる。
β線のエネルギーと最大飛程Rとの関係より、約640keVのβ線の最大飛程は、約250mg/cm2 と分かる。放射線遮蔽材料として、例えば鉛(Pb)を用いるとすると、その密度は11.3g/cm3 であるので、厚さが0.3mm程度あれば、640keVのβ線を十分遮蔽することができることが分かる。1.2MeVのβ線を遮蔽するには、最大飛程が約500mg/cm2 であることより、厚さが0.6mmあればよい。ストロンチウム90(90Sr)は中性子過剰であるためβ崩壊によりイットリウム90(90Y)を生成し、これは半減期が64時間と不安定でさらにβ崩壊して安定なジルコニウム90(90Zr)となる。90Srは半減期が28.79年であり、90Yのβ崩壊エネルギーは2279.783±1.619keVと、90Srのβ崩壊エネルギー545.908±1.406keVよりもかなり高いが、1.3g/cm2 程度の飛程であるので、厚さ1.5mmの鉛を用いて遮蔽することができる。このように、一般に荷電粒子である電子(β線)は、荷電中性である光子(γ線)に比べて電磁相互作用が大きくなり、その分飛程が小さくなるので、より薄い遮蔽物質(金属板、コンクリートスラブ等)で抑えることができる。
他方、ヨウ素131およびセシウム137のγ崩壊に対しては、662keVのγ線を遮蔽すれば、ヨウ素131では100%、セシウム137でも100%γ線を遮蔽することができる。
γ線のエネルギー、すなわち光子エネルギーと種々の物質のγ線の吸収長との関係より、662keVのγ線の吸収長は約9g/cm2 である。放射性物質としてセシウム137およびセシウム134を考慮に入れても、筐体151の壁および放射線遮蔽部材156、159の吸収長が10g/cm2 以上であれば、これらのセシウム137およびセシウム134からのγ線を遮蔽することができる。放射線遮蔽材料として例えば鉛(Pb)を用いるとすると、その密度は11.3g/cm3 であるので、(9/11.3)cm≒8mm程度あれば、ヨウ素131、セシウム137およびセシウム134からのγ線を十分遮蔽することができることが分かる。
β崩壊の後にγ崩壊が起こるというシリアル性を加味して、0.6mm+8mm〜9mmの厚さの鉛板を用いると良い。特に、光子エネルギー対吸収長プロットにおいて、600keVから1MeVにかけての光子エネルギーに対し、吸収長は、水素を除く元素で、狭い領域に収束してくるので、鉛以外の他の物質でも、その密度が小さければ、それに反比例して厚さを大きくすることで、鉛板に代えて用いることができる。例えば、部屋の側壁に用いるにはコンクリートでも良く、コンクリートの密度が2.3g/cm3 であることから、その厚さを9mm×(11.3/2.3)〜5cmとすれば良い。
1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故後の残存放射線の経時変化より、事故後、100日以降は、ヨウ素131は残存せず、3年目以降はセシウム137およびセシウム134から放射されるβ線およびγ線の影響を考えれば良い。
セシウム134からの寄与は、事故後600〜800日を越えると相対的に減ってくるが、この寄与も抑えることが望ましい。セシウム134からは、セシウム137からのγ線より高いエネルギー(796keV、802keV、1.365MeV)のγ線が出てくる。これらのγ線を抑えるには、20g/cm2 の吸収長を持つ遮蔽板を用いれば良い。鉛では、18mm程度の厚さになる。特に、光子エネルギー対吸収長プロットにおいて、600keVから1MeVにかけての光子エネルギーに対し、吸収長は、水素を除く元素で、15〜30g/cm2 でほぼ一致するので、2MeV以下のエネルギーのγ線を抑える上で、この吸収長は(水素を除いて)物質を選ばぬ普遍的な値となる。
次に、放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニット150の動作について説明する。ここでは、最初、高清浄部屋システム10の周囲の環境の空気中に放射性物質および/または放射性物質含有微粒子が含まれ、この高清浄部屋システム10の部屋1aの内部の空気も同じく放射性物質および/または放射性物質含有微粒子が含まれていて通常の室内環境のような低清浄度であるとする。
ファン・フィルターユニット150を作動させると、図70B中矢印で示すように、部屋1aの内部の空気は、ファン・フィルターユニット150の入口に入る。こうしてファン・フィルターユニット150の内部に入った空気は送風ファン152により塵埃フィルター153に送られ、塵埃フィルター153を通過することで放射性物質および/または放射性物質含有微粒子が除去される。こうして放射性物質および/または放射性物質含有微粒子が除去された空気は、ファン・フィルターユニット150の出口から出た後、下方に流れる。こうして、下方に流れた空気は再び、ファン・フィルターユニット150の入口に入り、上記のことが繰り返される。これを繰り返すことにより部屋1aの内部の空気から放射性物質および/または放射性物質含有微粒子が除去されて清浄化が行われる。また、この際、既に述べたように、この清浄化の過程で塵埃フィルター153のフィルター材に捕集された放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から放射される放射線が筐体151の外部に放射されるのを防止することができる。
以上のように、この第22の実施の形態によれば、ファンフィルターユニット150は、壁が放射線遮蔽材料から構成された筐体151および放射線遮蔽材料から構成された放射線遮蔽部材156、159により覆われているため、塵埃フィルター153に捕集された放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から放射される放射線が部屋1aの内部に放射されるのを確実に防止することができる。また、既に述べたように、塵埃フィルター153のダスト捕集効率γは、例えばHEPAフィルターのように99.99%以上とする必要はなく、例えば95%程度でも十分に高い清浄度を得ることができる。例えば、塵埃フィルター153としてγ=95%の中性能フィルター(障子紙ガス交換膜を用いたもの)を用いることができる。このように塵埃フィルター153としてγ=95%の中性能フィルターを使っても、クラス100を切る良好な清浄度が得られる。このため、塵埃フィルター153のフィルター材(ろ材)として例えば樹脂のような非ガラス繊維質材、またフレームとしても木材等の廃棄処理が容易なものを用いることができる。これによって、フィルター材としてガラス繊維を用いるHEPAフィルターでは、廃棄する際には埋め立て等の対処が必要であり、大量に廃棄物が発生するときはその対処が事実上不可能であったのに対し、フィルター材として樹脂のような非ガラス繊維質材、フレームとして木材等を用いた塵埃フィルター153は使用後の廃棄処理が、フィルター、フレーム一括焼却等が容易であり、廃棄物処理という静脈産業的見地の効率向上に絶大な効果がある。また、ダスト捕集効率γが例えば95%程度と小さい塵埃フィルター153を用いることにより、HEPAフィルターに比べて目詰まりが起きにくく、長期間使用することができるという利点を得ることができる。
〈第23の実施の形態〉
第23の実施の形態においては、高清浄部屋システム10のファン・フィルターユニット21として図71A、BおよびCに示す放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニット150を用いる点が、第22の実施の形態と異なる。ここで、図71Aは上面図、図71Bは正面図、図71Cは右側面図である。
図71A、BおよびCに示すように、この放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニット15は直方体形状の箱状の筐体151を有する。筐体151は放射線遮蔽材料からなる。筐体151の内部に送風ファン152および塵埃フィルター153が収容されている。筐体151の上壁154にはスリット状の長方形の開口155が互いに平行に複数設けられている。筐体151の上壁154と送風ファン152との間の空間には、各開口155に面して、各開口155より大きい細長い長方形状の平面形状を有する水平部156aとこれに垂直な垂直部156bとからなる逆T字型の断面形状を有する放射線遮蔽部材156が設けられている。放射線遮蔽部材156の垂直部156bは筐体151の上壁154の開口155を貫通して設けられており、各開口155に入る気体の流路を垂直部156bの両側に分割している。同様に、筐体151の下壁157には長方形のスリット状の開口158が互いに平行に複数設けられ、筐体151の下壁157と塵埃フィルター153との間の空間には、各開口158に面して、各開口158より大きい細長い長方形状の平面形状を有する水平部159aとこれに垂直な垂直部159bとからなる逆T字型の断面形状を有する放射線遮蔽部材159が設けられている。放射線遮蔽部材159の垂直部159bは筐体151の下壁157の開口158を貫通して設けられており、各開口158に入る気体の流路を垂直部159bの両側に分割している。この場合、放射線遮蔽部材156、159は、塵埃フィルター153のどの位置に捕集される放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から放射される放射線も、筐体151の各開口155、158から直接外部に出ないように形成される。また、筐体151の壁および放射線遮蔽部材156、159の厚さは、最も単純には、透過力の最大の放射線の飛程あるいは吸収長とすることで、塵埃フィルター153のどの位置に捕集される放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から任意の方向に向かう直線について、その直線が筐体151の壁および/または放射線遮蔽部材156、159を横断する距離の合計が、放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から放射される放射線群の最大飛程または吸収長のうちの最も大きいもの以上とすることができる。例えば、事故後3000日後の残存放射性物質であるセシウム137に対しては、661keVのγ線を抑えるべく、鉛の場合で厚さ約9mmの板を用いれば良い。ここでも、放射線遮蔽部材156の水平部156aと上壁154とのオーバーラップ長さは、流路幅(水平部156aの間隔)に対する比を、好適には1以上、例えば3程度に設定することが望ましい。例えば、流路幅が5mm(1cm)程度とすると、オーバーラップ長さは5mm〜15mm(1cm〜3cm)程度とする。この構造で開口155を形成すると、図71Bでは3列の場合を示しているが、例えば、65cm角の塵埃フィルター153を用いる場合で、流路幅が5mmの時、最大で650mm/(5mm+5mm+5mm+5mm+5mm+5mm)〜20列程度の開口155を設けることができる。流路幅が1cmの時、最大で65cm/(1cm+1cm+1cm+1cm+1cm+1cm)〜10列程度の開口155を設けることができる。事故後3000日以前では、セシウム134からのγ線も抑える能力を持つべきであり、1.365MeVのγ線を抑えるべく、20g/cm2 の吸収長を持つ遮蔽板を用いれば良い。鉛では、18mm程度の厚さになる。1〜2MeVのγ線を抑える吸収長は、炭素(C)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、錫(Sn)、鉛(Pb)等の物質を問わず20g/cm2 に収束しているので、密度が異なる分、物質毎に厚さは異なるものの、必要な厚さは、この吸収長を物質の密度で割った値として普遍的に得ることができる。また、上壁154の開口155、放射線遮蔽部材156、下壁157の開口158および放射線遮蔽部材159の面積および位置は、上壁154の開口155から入る空気が円滑に流れて送風ファン152に入り、塵埃フィルター153から出た空気が円滑に流れて下壁157の開口158から出るように選択される。また、この塵埃フィルター153のフィルター材(ろ材)に捕集された放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から放射される放射線は、どの方向に放射される放射線であっても、筐体151の放射線遮蔽材料からなる壁および/または放射線遮蔽部材156、159に当たって確実に遮蔽され、筐体151の外部には放射されない。
この第23の実施の形態によれば、第22の実施の形態と同様な利点を得ることができることに加えて、図71A、BおよびCに示すファン・フィルターユニット15を用いていることにより次のような利点を得ることができる。すなわち、上壁154の開口155に面して設けられた放射線遮蔽部材156はこの開口155から突出した垂直部156bを有し、同様に、下壁157の開口158に面して設けられた放射線遮蔽部材159はこの開口158から突出した垂直部158bを有するため、塵埃フィルター153のフィルター材に捕集された放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から開口155、158に向かって放射される放射線を放射線遮蔽部材156、159の水平部156a、159aまたは垂直部156b、159bにより確実に遮蔽することができる。
〈第24の実施の形態〉
第24の実施の形態においては、高清浄部屋システム10のファン・フィルターユニット21として図72A、BおよびCに示す放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニット150を用いる点が、第22の実施の形態と異なる。ここで、図72Aは上面図、図72Bは正面図、図72Cは右側面図である。
図72A、BおよびCに示すように、この放射性物質および放射線対応ファン・フィルターユニット13は直方体形状の箱状の筐体151を有する。筐体151は放射線遮蔽材料からなる。筐体151の内部に塵埃フィルター153が収容されているが、送風ファン152は筐体151の内部ではなく、筐体151の上壁154に設けられている。筐体151の上壁154にはスリット状の長方形の開口155が互いに平行に複数設けられている。筐体151の上壁154と塵埃フィルター153との間の空間においては、上壁154の各開口155の一方の側の部分の内側に、この上壁154に対して角度θ1 傾斜した方向に各開口155の中心に向かって延びて長方形状の放射線遮蔽部材156cが設けられているとともに、各開口155の他方の側の部分の内側にはこの上壁154に対して角度θ2 傾斜した方向に各開口155の中心に向かって延びて長方形状の放射線遮蔽部材156dが設けられている。ここで、θ1 、θ2 は、減容時の上下方向の圧力に対して容易に屈曲することを旨としているので、例えば30°以上60°以下であるが、これに限定されるものではない。また、放射線遮蔽部材156dは、放射線遮蔽部材156cと接触せず、かつ放射線遮蔽部材156cの先端とこの放射線遮蔽部材156dとの間にこの放射線遮蔽部材156dに沿った空気の流路が形成されるように、放射線遮蔽部材156cより幅が広く形成されている。また、筐体151の下壁157には長方形のスリット状の開口158が互いに平行に複数設けられ、筐体151の下壁157と塵埃フィルター153との間の空間には、各開口158に面して、水平な放射線遮蔽部材159が設けられている。この場合、放射線遮蔽部材156c、156d、159は、塵埃フィルター153のどの位置に捕集される放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から放射される放射線も、筐体151の各開口155、158から直接外部に出ないように形成される。また、筐体151の壁および放射線遮蔽部材156c、156d、159の厚さは、塵埃フィルター153のどの位置に捕集される放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から任意の方向に向かう直線について、その直線が筐体151の壁および/または放射線遮蔽部材156c、156d、159を横断する距離の合計が、放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から放射される放射線群の最大飛程または吸収長のうちの最も大きいもの以上になるように設定される。また、上壁154の開口155、放射線遮蔽部材156、下壁157の開口158および放射線遮蔽部材159の面積および位置は、上壁154の開口155から入る空気が円滑に流れて送風ファン152に入り、塵埃フィルター153から出た空気が円滑に流れて下壁157の開口158から出るように選択される。また、この塵埃フィルター153のフィルター材(ろ材)に捕集された放射性物質および/または放射性物質含有微粒子から放射される放射線は、どの方向に放射される放射線であっても、筐体151の放射線遮蔽材料からなる壁および/または放射線遮蔽部材156、159に当たって確実に遮蔽され、筐体151の外部には放射されない。
この第24の実施の形態によれば、第22の実施の形態と同様な利点を得ることができることに加えて、この高清浄部屋システム10を所定期間使用した後には、ファン・フィルターユニット150から、塵埃フィルター153を含む筐体151を取り外し、この筐体151を減容システムで減容すれば良いので、送風ファン152と塵埃フィルター153とを含むファンフィルターユニット15全体を含む筐体151を減容する場合に比べ、また直角部を含むH形構造材やT形構造材に比べて、減容時の抵抗を下げることができるとともに、減容対象物の容積を減少させることができる。
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、この実施の形態で示した壁9は、必ずしも部屋1の側壁に限られることなく、天井壁や床壁の一部であってもよい。また、この壁9は、ガス交換装置の多重層構造の一部を構成してもよい。
また、こうして算出したガス交換膜26の面積Aが、主室20への適切な酸素供給能を与える値である場合には、ガス交換膜26は、外界(例えば戸外、廊下の空間、或いは、図73AおよびBに示すようなガス交換膜よりなるテント状構造である[その側面・天井面の一角または全てを占めるガス交換膜の面積が上で述べた必要面積の条件を満たす]場合には、このテントが置かれる部屋そのもの)に直接接していても良い。このとき、十分な酸素透過能を有して良好な酸素濃度を維持しつつ、図74に示すように約7時間の睡眠時に平均でクラス1000を切る(特に、寝返りのない熟睡時では、約クラス100という)良好な清浄環境で快眠を得ることができる。図74に見られるスパイクは、寝返り等を打った時に舞う塵に起因するものであるが、このスパイク列の周波数スペクトルから、睡眠者の健康状態等も推測することができる。特別養護老人ホーム等に用いた場合には、この高清浄部屋システム10のユーザーの安否確認のみならず、通常の睡眠時の特徴からのズレなども(画像情報等に基づく分析ではない分、プライバシーへの適切な配慮を満たしつつ)遠隔地から高精度に複数療養者をもモニターすることができる。
また、部屋1は、部屋1の内部と外部との間においては、予めHEPAフィルター等を備えたファン・フィルターユニットで塵埃を除去した空気を、部屋1内の空気が2時間で一回転する程度の低風量で導入し、同じ機種のもう一台のファン・フィルターユニットにより、部屋1より同量を外部へ放出することも良い。
また、上記において示したガス交換装置80の外気導入口71を、例えば図50〜52に示した高清浄部屋システム10の外気吸気口85に繋ぐとともに、ガス交換装置80の排出口73を同排気口86に繋ぐことで、ガス交換機構とすることができる。この場合、ガス交換装置80に流れ込む内気の流量を少なくとも2時間で居住空間6の空気が一回転する以上の風量とすることが好ましい。また、当該高清浄部屋システム10を構成する部屋1の内部には、当該部屋の内気を取り込む開口と、この取り込まれた吸引空気を清浄化処理後、その全量を、再び、上記部屋内部に戻す吹き出し口とが、対となって設けられている循環フィードバック機構を有する。このように、高清浄部屋システム10が、ガス交換機構と循環フィードバック機構との2要件を持つことを特徴とする居住空間(高清浄部屋)を少なくとも1つ有することも有効である。これは、部屋1において、壁9の外界と連通した内部空間7が、ガス交換膜26を介して居住空間6と接するという、“外気/膜/内気”の3層構造を“切り出し”て、吸入管75、気体流路83等を通じて、天井裏等の別の場所に“貼り付け”たものと理解できる。この3層構造は、できるだけ、面積と体積の比(膜の総面積/装置体積)を大きくとったものとすることが望ましい。また、この“貼り付け先”或いは、当該機能部位の“移動先”は、内気還流路(例えば、気体流路24)が居住空間6と連通し、また、外気の吸排気口(例えば、外気吸気口85、排気口86)が外界と連通さえしていれば、居住空間6に対するその相対位置は問わない。つまり、ガス交換能が存在さえしていれば、“外気/膜/内気”の3層構造の存在位置自体は、居住空間6の外縁部に居住空間6に接して存在する必要は必ずしも無く、上記ガス交換能さえ担保できれば、気流配管(例えば、吸入管75、気体流路83等)を通じて、その場所を任意の所に“移動”し、設定することができる。上記、ガス交換装置80内のガス交換膜26の総面積は、最低限、数式(15)を満たさしめることで人が内部で活動するに十分な酸素濃度を担保し、さらに、この面積ができるだけ大きくとることで、以上に加えて、脱臭や有害ガス排出機能も高めることができる。また、上記の、居住空間6の内気を取り込む開口と、この取り込まれた吸引空気を清浄化処理後、その全量を、再び、居住空間6の内部に戻す吹き出し口としては、例えば、図5〜7、あるいは、図50〜52において示した高清浄部屋システム10における吸気口23や吹き出し口22の構造を持たせたりすることが有効である他、最も単純には、居住空間6内に連通して、上記ガス交換装置80を設置した上で、居住空間6内に、吸引した空気の全量を濾過後、再び気流出射口より噴出す壁据付掛けの空気調和機やスタンドアローンの空気清浄装置あるいは光触媒脱臭装置を設置して、これらを稼動させるということでも良い。
また、例えば、常時の機械換気設備の構造として、居住空間に換気上有効な高清浄フィルター着き給気機(機械)及び同排気機(機械)を有するよう設定することで、第1種換気設備を備えさせることが挙げられる。また、上述において示した各高清浄部屋システム10においても、図50〜52において示したような、系に風量的に殆ど影響を与えない吐出風量のHEPAフィルターつきの少風量ファン・フィルターユニットを吸入側(イン)と排出側(アウト)とに2個ペアで主室と廊下との間や主室と外部との間などに機械換気用として設けても良い。
また、日常生活を想定して居住空間と記載した上記の部屋1の内部空間は、単なる居住にかぎらず、塵埃のない漆塗りスペース、あるいは、塵埃による歩留まり低下の心配の無い、漆塗りを含む、高品位の塗装作業スペースなどの、高度作業スペースとして用いることが出来ることは言うまでもない。特に、塗装作業を行う場合は、特に有害な有機溶剤等を用い際に、上に述べた塵埃は通さずガス成分のみを交換するガス交換装置による、局所排気システムを用いることが、作業者の安全と健康維持上、望ましい。
また、ファン・フィルターユニット21の吹き出し口から流出する気体の全量が、内壁9aの一部に設けられた開口23を通過し、当該開口23とファン・フィルターユニット21への気体流入口とを気密性を持って連通する気体流路24を通って、ファン・フィルターユニット21へ還流させるのは、部屋の広さが減少することをいとわなければ、内壁9aに沿って設置した蛇腹等の後付ダクトを以って行っても良い。また、主室20に隣接する外部空間を外気導入空間とすることもできる。これは、主室20の側壁2をガス交換膜26とすることで、これを介して戸外の空間(外部空間)へ直接接続することができる。この場合、外気導入空間は半無限のオープンスペースということになる。
また、主室20に、HEPAフィルターを備えたファン・フィルターユニットをインレットとアウトレット用に計2個、2時間で主室内の空気が一回転するような風量を以って設置するのも良い。
部屋1は、ガス交換膜26を一部に含む隔壁とすることで、外界に対し完全な閉空間を作り、しかも部屋1の内外で圧力差が無いことで、電源喪失時のクリーン性・無菌性維持に関し、フェールセーフ機構をビルトインすることができる。
ファン・フィルターユニット21は、主室20または居住空間6と内部空間7との界面に用いることが望ましいが、到達清浄度を多少犠牲にすることを許せば、この配置を必ずしもとる必要はなく、当該内部空間7と主室20または居住空間6との間に設けられた隔壁の一部をガス交換膜とする構造を備え、内部空間7内にフレッシュエアを取り込むことさえ満たせば、メインのファン・フィルターユニット21としては、在来の壁据付掛けの空気調和機をそのまま用いることも可能である。
また、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いても良い。
また、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成を用いて、丁度真空技術・真空チェンバーが、内部一端真空にして然る後、内部のガス環境を自在に設定したり、また、真空環境ならではの薄膜成長や材料・デバイス作製に生かせるように、本発明を以て、所定の空間において、空気中を漂う(airborne)マイクローブを一旦ゼロとする(マイクロビアル(microbial)環境における“真空”等価状態を実現する)ことで、人間の活動環境、居住環境のマイクロビアル環境を所期のものへと制御することができる。この状況で、積極的に優位なマイクローブを導入したり、気相の医薬品、アロマ等の導入をすることで、新しい医療環境、手法、養護環境を実現するのみならず、新しい医療、療養技術・サービスを創成、開発することができる(例えば、段落0256記載の安否確認法・健康状態分析法を参照のこと)。特に、経肺の薬投与に際し、良好な“S/N比”、即ち、吸引する空気の中に塵埃や細菌類といった“ノイズ”がない(薬以外の成分がほぼゼロの)高品質の空気を以て行うことができる。必要に応じて、これらと異なる数値、構造、構成、用法を用いても良い。
1a…部屋、2…壁、3…中空壁、4…屋根、5…天井裏、6…居住空間、7…内部空間、8…出入り口、9…二重壁、10…高清浄部屋システム、11…通気口、19…ユーティリティースペース、21…ファン・フィルターユニット、22…吹き出し口、23…開口、24…気体流路、26…ガス交換膜

Claims (7)

  1. 閉空間である居住空間を内部に有する部屋の壁の少なくとも一つの少なくとも一部に上記居住空間に接して設けられる、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜より成るガス交換膜であって、
    上記膜の上記居住空間と反対側の面が外気と接するように用いられ、
    上記膜が、上記居住空間の体積をV、上記膜の面積をA、厚みをL、上記膜中の酸素の拡散定数をDとした時、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設定された面積Aを持ち、
    上記部屋内部の酸素消費レートをB、外部と平衡状態にある時の酸素濃度をηo 、上記部屋内部における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、上記膜の面積Aが、少なくとも、
    を満たすように設定されていることを特徴とするガス交換膜。
  2. 少なくとも一つの部屋を有し、
    上記部屋を構成する壁の少なくとも一つの少なくとも一部が、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜より成るガス交換膜より成り、
    上記部屋内部には、閉空間である居住空間を有し、
    上記居住空間は、その内部と外部との間において空気の気流としての出入りが無く、上記膜の上記居住空間と反対側の空間に、上記部屋を取り囲む外部空間より外気を導入し、上記部屋には、上記居住空間の内部に気体が送り出されるように吹き出し口が設けられたファン・フィルターユニットが設けられ、上記部屋の側壁の少なくとも一つには、上記ファン・フィルターユニットの吸入口に対応した少なくとも一つの開口が設けられ、上記吹き出し口から上記居住空間の内部に流出する気体の全部が、上記開口を通過し、上記吸入口と上記開口とを気密性を持って連通する気体流路を通って、上記ファン・フィルターユニットへ還流するように構成され、
    上記部屋には、上記居住空間に出入り可能に構成された出入り口が設けられており、
    上記膜が、上記居住空間の体積をV、上記膜の面積をA、厚みをL、上記膜中の酸素の拡散定数をDとした時、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設定された面積Aを持ち、
    上記居住空間の体積をV、上記居住空間内部の酸素消費レートをB、外部と平衡状態にあり上記居住空間内部で酸素消費の無い時の酸素体積をVO2、上記居住空間内における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、上記膜の面積Aが、少なくとも、
    を満たすように設定されていることを特徴とする高清浄部屋システム。
  3. 上記出入り口が引き戸であることを特徴とする請求項2記載の高清浄部屋システム。
  4. 少なくとも一つの部屋を有し、
    上記部屋を構成する壁の少なくとも一つの少なくとも一部が、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜より成るガス交換膜より成り、
    上記部屋内部には、閉空間である居住空間を有し、
    上記居住空間は、その内部と外部との間において空気の気流としての出入りが無く、上記膜の上記居住空間と反対側の空間に、上記部屋を取り囲む外部空間より外気を導入し、上記部屋には、上記居住空間の内部に気体が送り出されるように吹き出し口が設けられたファン・フィルターユニットが設けられ、上記部屋の側壁の少なくとも一つには、上記ファン・フィルターユニットの吸入口に対応した少なくとも一つの開口が設けられ、上記吹き出し口から上記居住空間の内部に流出する気体の全部が、上記開口を通過し、上記吸入口と上記開口とを気密性を持って連通する気体流路を通って、上記ファン・フィルターユニットへ還流するように構成され、
    上記部屋には、上記居住空間に出入り可能に構成された出入り口が設けられており、
    上記膜が、上記居住空間の体積をV、上記膜の面積をA、厚みをL、上記膜中の酸素の拡散定数をDとした時、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設定された面積Aを持ち、
    上記居住空間の体積をV、上記居住空間内部の酸素消費レートをB、外部と平衡状態にあり上記居住空間内部で酸素消費の無い時の酸素体積をVO2、上記居住空間内における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、上記膜の面積Aが、少なくとも、
    を満たすように設定されていることを特徴とする建築物。
  5. 上記出入り口が引き戸であることを特徴とする請求項4記載の建築物。
  6. 少なくとも一つの部屋を有し、
    上記部屋を構成する壁の少なくとも一つの少なくとも一部が、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜より成るガス交換膜より成り、
    上記部屋内部には、閉空間である居住空間を有し、
    上記居住空間は、上記膜の上記居住空間と反対側の空間に、上記部屋を取り囲む外部空間より外気を導入し、上記部屋には、上記居住空間の内部に気体が送り出されるように吹き出し口が設けられたファン・フィルターユニットが設けられ、上記部屋の側壁の少なくとも一つには、上記ファン・フィルターユニットの吸入口に対応した少なくとも一つの開口が設けられ、上記吹き出し口から上記居住空間の内部に流出する気体の全部が、上記開口を通過し、上記吸入口と上記開口とを気密性を持って連通する気体流路を通って、上記ファン・フィルターユニットへ還流するように構成され、
    上記部屋には、上記居住空間に出入り可能に構成された出入り口が設けられており、
    上記膜が、上記居住空間の体積をV、上記膜の面積をA、厚みをL、上記膜中の酸素の拡散定数をDとした時、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設定された面積Aを持ち、
    上記居住空間の体積をV、上記居住空間内部の酸素消費レートをB、外部と平衡状態にあり上記居住空間内部で酸素消費の無い時の酸素体積をV O2 、上記居住空間内における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、上記膜の面積Aが、少なくとも、
    を満たすように設定されていることを特徴とする高清浄部屋システム。
  7. 少なくとも一つの部屋を有し、
    上記部屋を構成する壁の少なくとも一つの少なくとも一部が、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜より成るガス交換膜より成り、
    上記部屋内部には、閉空間である居住空間を有し、
    上記居住空間は、上記膜の上記居住空間と反対側の空間に、上記部屋を取り囲む外部空間より外気を導入し、上記部屋には、上記居住空間の内部に気体が送り出されるように吹き出し口が設けられたファン・フィルターユニットが設けられ、上記部屋の側壁の少なくとも一つには、上記ファン・フィルターユニットの吸入口に対応した少なくとも一つの開口が設けられ、上記吹き出し口から上記居住空間の内部に流出する気体の全部が、上記開口を通過し、上記吸入口と上記開口とを気密性を持って連通する気体流路を通って、上記ファン・フィルターユニットへ還流するように構成され、
    上記部屋には、上記居住空間に出入り可能に構成された出入り口が設けられており、
    上記膜が、上記居住空間の体積をV、上記膜の面積をA、厚みをL、上記膜中の酸素の拡散定数をDとした時、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設定された面積Aを持ち、
    上記居住空間の体積をV、上記居住空間内部の酸素消費レートをB、外部と平衡状態にあり上記居住空間内部で酸素消費の無い時の酸素体積をV O2 、上記居住空間内における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、上記膜の面積Aが、少なくとも、
    を満たすように設定されていることを特徴とする建築物。
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