JP5822483B2 - 眼鏡用レンズ - Google Patents

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本発明は、眼鏡用レンズに関するものである。
特許文献1には、老視などの視力の補正に適した眼鏡レンズに用いられる累進多焦点レンズにおいて、従来、物体側の面に付加されていた累進屈折面を眼球側の面に設けることが記載されている。これにより、物体側の面をベースカーブが一定の球面にできるので、倍率のシェープ・ファクターによる変動を防止することが可能となり、遠用部と近用部の倍率差を縮小することができ、また、累進部の倍率の変化を抑制することができる。従って、倍率差による像の揺れや歪みを低減することができ、快適な視野が得られる累進多焦点レンズを提供することができる。さらに、特許文献1には、合成式を用いて累進屈折面と乱視矯正用のトーリック面とを眼球側の面に合成することが可能となり、乱視矯正用の累進多焦点レンズにおいても像の揺れや歪みを低減することができることが記載されている。
特許文献2には、遠用部および近用部といった屈折力の異なる視野部分を備えた眼鏡用の多焦点レンズにおいて、物体側の面の遠用部の平均面屈折力と近用部の平均面屈折力の差を加入度より数学的に小さくし、さらに、眼球側の面の遠用部の平均面屈折力および近用部の平均面屈折力を調整することにより所定の加入度を備えた眼鏡用の多焦点レンズを提供することが記載されている。物体側の面の平均面屈折力を遠用部および近用部の倍率差が小さくなるように調整することが可能となり、さらに、物体側の面の平均面屈折力の差を少なくすることも可能である。従って、倍率差による像の揺れや歪みが少なく、さらに、非点収差の改善された明視域が広く像の揺れなどの少ない快適な視野が得られる多焦点レンズを提供することができる。
特許文献3には、遠用部と近用部における像の倍率差を低減し、処方値に対する良好な視力補正と、装用時における歪みの少ない広範囲な有効視野を与える両面非球面型累進屈折力レンズを提供することが記載されている。そのため、特許文献3においては、物体側表面の第1の屈折表面において、遠用度数測定位置F1における横方向の表面屈折力及び縦方向の表面屈折力をそれぞれ、DHf、DVfとし、この第1の屈折表面において、近用度数測定位置N1における横方向の表面屈折力及び縦方向の表面屈折力をそれぞれDHn、DVnとするとき、DHf+DHn<DVf+DVn、かつ、DHn<DVnとなる関係式を満足させると共に、第1の屈折表面のF1及びN1における表面非点収差成分を、眼球側表面の第2の屈折表面にて相殺し、前記第1と第2の屈折表面とを合わせて処方値に基づいた遠用度数と加入度数とを与えることが記載されている。
特許文献4には、累進屈折力レンズに必然的に生じる像の歪みやボケを減少させ、装用感を向上させることができる累進屈折力レンズを提供することが記載されている。そのため、特許文献4においては、外面と内面の両面を累進面とする両面累進レンズとすると共に、外面の面加入度をマイナスとし、外面と内面の平均面屈折力分布が相似になるように累進面形状を設計する。
国際公開W097/19382号公報 国際公開W097/19383号公報 特開2003−344813号公報 特開2004−004436号公報
これらの技術により、性能の向上はされてきているものの、依然として累進屈折力レンズの特性、特にゆれに関して適合できないユーザーもおり、更なる改善が求められている。
本発明の一態様は、度数の異なる遠用部と近用部とを含む眼鏡用の累進屈折力レンズであって、主注視線またはフィッティングポイントを通る垂直基準線に沿った物体側の面の遠用部の水平方向の面屈折力OHPfおよび垂直方向の面屈折力OVPfと、近用部の水平方向の面屈折力OHPnおよび垂直方向の面屈折力OVPnとしたときに、物体側の面は、面屈折力OHPfが面屈折力OVPfよりも大きいトーリック面の要素を含み、主注視線または垂直基準線に沿った眼球側の面は、物体側の面のトーリック面の要素による面屈折力のシフトをキャンセルする要素を含む累進屈折力レンズである。すなわち、この累進屈折力レンズは以下の条件を満たす。
OHPf>OVPf・・・(1)
さらに、この累進屈折力レンズは以下の条件を満たす。
OHPf+OHPn>OVPf+OVPn・・・(2)
OVPn>OVPf・・・(3)
この累進屈折力レンズは、物体側の面(外面)の主注視線またはフィッティングポイントを通る垂直基準線(双方を主子午線とも呼ぶ)に沿ったトーリック面(トロイダル面とも呼ぶ)の要素を含む外面累進レンズである。物体側の面のトーリック面の要素は、遠用部において、水平方向の面屈折力OHPfの方が垂直方向の面屈折力OVPfより大きい。また、遠用部の水平方向の面屈折力OHPfと近用部の水平方向の面屈折力OHPnの和は、遠用部の垂直方向の面屈折力OVPfと近用部の垂直方向の面屈折力OVPnの和よりも大きい。すなわち、レンズ全体として水平方向の面屈折力が垂直方向の面屈折力よりも大きくなるように設定されている。また、物体側の面の主注視線上において、近用部の垂直方向の面屈折力OVPnは遠用部の垂直方向の面屈折力OVPfによりも大きくなるように設定されており、主注視線の中間部において遠用部から近用部に向かって累進的に増加する。
眼鏡レンズを通して得られる像にゆれが発生する際の視線(眼)の動きの典型的なものは、頭部の動きを補償する前庭動眼反射により頭部に対して眼球(視線)が動くことによるものである。前庭動眼反射により視線の動く範囲は水平方向(横方向)が一般的に広い。したがって、物体側の面に、水平方向の面屈折力が垂直方向の面屈折力よりも大きなトーリック面の要素を導入することにより、視線が水平方向に動く際に、視線が眼鏡レンズの物体側の面を通過する角度の変動を抑制できる。このため、視線を動かした際に眼鏡レンズを通して得る像の諸収差を低減でき、眼鏡レンズを通して得られる像のゆれの少ない眼鏡レンズを提供できる。
物体側の面の加入度は、垂直方向の面屈折力および水平方向の屈折力により得てもよい。しかしながら、物体側の面の構造が複雑になる。このため、面屈折力の小さい垂直方向の面屈折力により物体側の面に加入度を設けることが望ましい。水平方向の面屈折力の加入度は眼球側の面(内面)に設けることが可能である。
主注視線または垂直基準線に沿った眼球側の面(内面)の遠用部の水平方向の面屈折力IHPfおよび垂直方向の面屈折力IVPfと、近用部の水平方向の面屈折力IHPnおよび垂直方向の面屈折力IVPnとは、以下の条件を満たすことが望ましい。
OHPf−OVPf=IHPf−IVPf・・・(4)
OHPn−OVPn=IHPn−IVPn・・・(5)
ただし、これらの条件および以下に示す条件は乱視処方を含まない。すなわち、これらの条件は遠用処方における乱視処方は含まない。また、面屈折力IHPf、IVPf、IHPnおよびIVPnは絶対値である。
条件(4)および(5)により、外面の遠用部および近用部のトーリック面の要素による屈折力のシフトをそれぞれキャンセルするトーリック面の要素を内面の遠用部および近用部に設けることができる。これにより、中間部においても、外面のトーリック面の要素により屈折力のシフトをキャンセルするためのトーリック面の要素を設けることができる。
なお条件(4)および(5)はレンズの厚みが小さいとしたときの条件式であり、一般に眼鏡レンズの屈折力計算に用いられるレンズの厚みを考慮した形状係数(シェイプファクター)を加味した条件式(4a)および(5a)は以下の通りである。
IHPf−IVPf=
OHPf/(1−t/n*OHPf)−OVPf/(1−t/n*OVPf)
・・・(4a)
IHPn−IVPn=
OHPn/(1−t/n*OHPn)−OVPn/(1−t/n*OVPn)
・・・(5a)
ここで、tはレンズの厚み(単位メートル)、nはレンズ素材の屈折率である。
このようにレンズの厚みを加味して式を使い、より精度良く、外面に加えられたトーリック面の要素を内面でキャンセルできるが、式(4)および式(5)の簡略式によっても、目的はほぼ達成できる。
外面のトーリック面の要素を内面のトーリック面の要素によりキャンセルすることにより、内外面のトーリック面の要素を、乱視矯正を目的とするものではなく、眼(視線)の動きにともなう眼鏡レンズを通した像のゆれを抑制するために、いっそう効果的に利用できる。
さらに、この累進屈折力レンズは以下の条件を満たすことが望ましい。
IHPf>IVPf・・・(6)
IHPn>IVPn・・・(7)
IHPf>IHPn・・・(8)
条件(6)および(7)は、条件(4)および(5)と実質的には等価であるが、内面に水平方向の面屈折力の方が垂直方向の面屈折力より大きいトーリック面の要素を導入することにより、外面のトーリック面の要素により面屈折力のシフトをキャンセルできる。さらに、条件(8)により、水平方向の面屈折力の加入度を内面で確保することができる。
この累進屈折力レンズは以下の条件を満たすことも有効である。
OHPf=OHPn・・・(9)
IVPf=IVPn・・・(10)
外面の水平方向の面屈折力を一定(一律)にすることができ、内面の垂直方向の面屈折力を一定にできるので、製造が容易で収差の少ない累進屈折力レンズを提供できる。
累進屈折力レンズは遠用処方に乱視処方がない場合には、さらに以下の条件を満たすことが望ましい。
OHPf−OVPf=IHPf−IVPf=C1・・・(4´)
OHPn−OVPn=IHPn−IVPn=C2・・・(5´)
ただし、C1およびC2は定数であり、以下の範囲を満たすことが望ましい。
1(D)<C1、C2<6(D)・・・(11)
ただし、単位Dはディオプトリーである。
定数C1およびC2はさらに、以下の範囲を満たすことが望ましい。
1(D)<C1、C2<4(D)・・・(11´)
また、上記の累進屈折力レンズは、主注視線または垂直基準線を挟んだ±10mmの範囲内において上記の各条件を満たすことが望ましい。累進屈折力レンズを使用するときの人の視覚の特性として、主注視線上での使用頻度が極めて大きく、像のゆれを感じるのはその主注視線近傍を使い視作業をするときである。したがって、水平方向の面屈折力OHPの強度方向へのシフトは、少なくとも主注視線を中心として水平方向に±10mmあれば像のゆれを軽減する効果は十分に得ることができる。
本発明の異なる態様の1つは、上記の累進屈折力レンズと、累進屈折力レンズが取り付けられた眼鏡フレームとを有する眼鏡である。
眼鏡の一例を示す斜視図。 図2(a)は累進屈折力レンズの一方のレンズを模式的に示す平面図、図2(b)はその断面図。 図3(a)は眼鏡用レンズの等価球面度数分布を示す図、図3(b)は眼鏡用レンズの非点収差分布を示す図、図3(c)は正方格子を見たときの歪曲の状態を示す図。 前庭動眼反射を示す図。 前庭動眼反射の最大角度を示す図。 矩形模様を設定する様子を示す図。 矩形模様の幾何学的なずれを重ね合わせて示す図。 矩形模様の格子線の傾きの変化を示す図。 矩形模様の格子線の水平方向の格子線の変化量を示す図。 矩形模様の格子線の垂直方向の格子線の変化量を示す図。 図11(a)は実施例1の累進屈折力レンズの外面の主注視線上の面屈折力を示す図、図11(b)は実施例1の累進屈折力レンズの内面の主注視線上の面屈折力を示す図。 図12(a)は比較例1の累進屈折力レンズの外面の主注視線上 の面屈折力を示す図、図12(b)は比較例1の累進屈折力レンズの内面の主注視線上の面屈折力を示す図。 図13(a)は実施例1の累進屈折力レンズの外面の面非点収差分布を示す図、図13(b)は比較例1の累進屈折力レンズの外面の面非点収差分布を示す図。 図14(a)は実施例1の累進屈折力レンズの外面の等価球面屈折力分布を示す図、図14(b)は比較例1の累進屈折力レンズの外面の等価球面屈折力分布を示す図。 図15(a)は実施例1の累進屈折力レンズの内面の面非点収差分布を示す図、図15(b)は比較例1の累進屈折力レンズの内面の面非点収差分布を示す図。 図16(a)は実施例1の累進屈折力レンズの内面の等価球面屈折力分布を示す図、図16(b)は比較例1の累進屈折力レンズの内面の等価球面屈折力分布を示す図。 図17(a)は実施例1の累進屈折力レンズの非点収差分布を示す図、図17(b)は比較例1の累進屈折力レンズの非点収差分布を示す図。 図18(a)は実施例1の累進屈折力レンズの等価球面度数分布を示す図、図18(b)は比較例1の累進屈折力レンズの等価球面度数分布を示す図。 振動(ゆれ指標IDd)を示す図。 変形量(ゆれ指標IDs)を示す図。 図21(a)は実施例2の累進屈折力レンズの外面の主注視線上の面屈折力を示す図、図21(b)は実施例2の累進屈折力レンズの内面の主注視線上の面屈折力を示す図。 図22(a)は比較例2の累進屈折力レンズの外面の主注視線上の面屈折力を示す図、図22(b)は比較例2の累進屈折力レンズの内面の主注視線上の面屈折力を示す図。 図23(a)は実施例2の累進屈折力レンズの外面の面非点収差分布を示す図、図23(b)は比較例2の累進屈折力レンズの外面の面非点収差 分布を示す図。 図24(a)は実施例2の累進屈折力レンズの外面の等価球面屈折力分布を示す図、図24(b)は比較例2の累進屈折力レンズの外面の等価球面屈折力分布を示す図。 図25(a)は実施例2の累進屈折力レンズの内面の面非点収差分布を示す図、図25(b)は比較例2の累進屈折力レンズの内面の面非点収差分布を示す図。 図26(a)は実施例2の累進屈折力レンズの内面の等価球面屈折力分布を示す図、図26(b)は比較例2の累進屈折力レンズの内面の等価球面屈折力分布を示す図。 図27(a)は実施例2の累進屈折力レンズの非点収差分布を示す図、図27(b)は比較例2の累進屈折力レンズの非点収差分布を示す図。 図28(a)は実施例2の累進屈折力レンズの等価球面度数分布を示す図、図28(b)は比較例2の累進屈折力レンズの等価球面度数分布を示す図。 振動(ゆれ指標IDd)を示す図。 変形量(ゆれ指標IDs)を示す図。
図1は、眼鏡の一例を斜視図にて示している。図2(a)は、本発明の実施形態の1つの累進屈折力レンズの一方のレンズを平面図にて模式的に示している。図2(b)は、その累進屈折力レンズの一方のレンズを断面図にて模式的に示している。
本例では、使用者側(ユーザー側、着用者側、眼球側)からみて、左側を左、右側を右として説明する。この眼鏡1は、左眼用および右眼用の左右一対の眼鏡用レンズ10Lおよび10Rと、レンズ10Lおよび10Rをそれぞれ装着した眼鏡フレーム20とを有する。眼鏡用レンズ10Lおよび10Rは、それぞれ、累進屈折力レンズ、より具体的には、累進多焦点レンズ(累進屈折力レンズ)である。レンズ10Lおよび10Rは、それぞれ、基本的な形状は物体側に凸のメニスカスレンズである。したがって、レンズ10Lおよび10Rは、それぞれ、物体側の面(凸面、以下外面ともいう)19Aと、眼球側(使用者側)の面(凹面、以下内面ともいう)19Bとを含む。
図2(a)は右眼用レンズ10Rを示している。このレンズ10Rは、上方に遠距離の物を見る(遠方視の)ための視野部である遠用部11を含み、下方に遠用部11と異なる度数(屈折力)の近距離の物を見る(近方視の)ための視野部である近用部12を含む。さらに、レンズ10Rは、これら遠用部11と近用部12とを連続的に屈折力が変化するように連結する中間部(中間視のための部分、累進部、累進帯)13を含む。また、レンズ10Rは、遠方視・中間視・近方視をするときに視野の中心となるレンズ上の位置を結んだ主注視線(主子午線とも呼ばれる)14を含む。眼鏡用レンズ10Rをフレーム枠に合わせて外周を成形し枠入れする際に遠方水平正面視(第一眼位)での視線が通過するようにするレンズ上の基準点であるフィッティングポイントPeは遠用部11のほぼ下端に位置するのが通常である。以下においてはこのフィッティングポイントPeをレンズの座標原点とし、水平方向の座標をX座標、垂直方向の座標をY座標とする。主注視線14は遠用部11から近用部12方向にほぼ垂直に伸び、Y座標に対してフィッティングポイントPeを過ぎたあたりから鼻側に曲がる。
なお、以下において眼鏡用レンズとして右眼用の眼鏡用レンズ10Rを中心に説明するが、眼鏡用レンズ、眼鏡レンズまたはレンズは左眼用の眼鏡用レンズ10Lであってもよく、左眼用の眼鏡用レンズ10Lは、左右の眼の眼鏡仕様の差を除けば基本的には右眼用の眼鏡用レンズ10Rと左右対称の構成となる。また、以下においては、右眼用および左眼用の眼鏡用レンズ10Rおよび10Lを共通して眼鏡用レンズ(またはレンズ)10と称する。
累進屈折力レンズ10の光学性能のうち視野の広さについては、非点収差分布図や等価球面屈折力分布図により知ることができる。累進屈折力レンズ10の性能の1つは、累進屈折力レンズ10を着用して頭を動かしたときに感じるゆれ(ユレ、揺れ)も重要であり、非点収差分布や等価球面度数分布がほとんど同じであっても、ゆれに関して差が発生することがある。以下においては、まず、ゆれの評価方法について説明し、その評価方法を用いて、本願の実施形態と、従来例とを比較した結果を示す。
1. ゆれの評価方法
図3(a)に、典型的な累進屈折力レンズ10の等価球面度数分布(単位はディオプター(D))を示し、図3(b)に、非点収差分布(単位はディオプター(D))を示し、図3(c)に、このレンズ10により正方格子を見たときの歪曲の状態を示している。累進屈折力レンズ10においては、主注視線14に沿って所定の度数が加入される。したがって、度数の加入により、中間領域(中間部、累進領域)13の側方には大きな非点収差が発生し、そこの部分では物がぼやけて見えてしまう。等価球面度数分布は近用部12では所定の量だけ度数がアップし、中間部13、遠用部11へと順次度数が減少する。この累進屈折力レンズ10においては、遠用部11の度数(遠用度数、Sph)は3.00D(ディオプトリー)であり、加入度数(ADD)は2.00Dである。
この度数のレンズ10上の位置による違いにより、度数の大きな近用部12では遠用部11に比べ像の倍率が大きくなり、中間部13から近用部12の側方では、正方格子像はひずんで見える。これが頭を動かしたときの像のゆれ(ユレ)の原因となる。
図4に、前庭動眼反射(Vestibulo−Ocular Reflex(VOR))の概要を示している。人はものを見ているとき頭部が動くと視界も動く。このとき、網膜上の像も動く。その頭部の動き(顔の回旋(回転)、頭部の回旋)8を相殺するような眼球3の動き(眼の回旋(回転))7があれば視線2は安定し(動かず)、網膜像は動かない。このような網膜像を安定化させる機能をもつ、反射的な眼球運動を代償性眼球運動という。その代償性眼球運動の一つが前庭動眼反射であり、頭部の回旋が刺激となり反射を生じる。水平回転(水平回旋、水平旋回)による前庭動眼反射の神経機構はある程度解明されており、頭部の回旋8を水平半規管が検知し、それからの入力が外眼筋に抑制性と興奮性の作用を与え、眼球3を動かすと考えられている。
頭部が回旋したとき、前庭動眼反射により眼球が回旋すると網膜像は動かないが、図4に破線および一点鎖線で示したように頭部の回旋に連動して眼鏡レンズ10が回旋する。このため、前庭動眼反射により眼鏡レンズ10を通過する視線2は相対的に眼鏡レンズ10の上を動く。したがって、前庭動眼反射により眼球3が動く範囲、すなわち、前庭動眼反射により視線2が通過する範囲で眼鏡用レンズ10の結像性能に差があると、網膜像がゆれることがある。
図5は、視標探索時の頭位(眼位)運動を観察した一例を示している。図5に示した幾つかのグラフは、注視点より水平方向にある角度だけ移動した視標(対象物)を認識するために、頭部がどの程度回旋するかを示している。視標(対象物)を注目させる注視の状態においては、グラフ41に示すように頭部は対象物とともに回旋する。これに対して、視標(対象物)を単に認識する程度の弁別視の状態においては、グラフ42に示すように、頭部の動きは対象物の角度(移動)に対して10度程度小さく(少なく)なる。この観察結果により、眼球の動きにより対象物を認識できる範囲の限界を約10度程度に設定できる。したがって、自然な状態で人間が頭部を動かしながら前庭動眼反射により対象物を見るときの水平方向の頭部の回旋角度は左右にそれぞれ最大10度程度(前庭動眼反射により眼球3が動く最大水平角度θxm)と考えられる。
一方、前庭動眼反射により対象物を見る時の垂直方向の頭部の最大回旋角は、累進屈折力レンズの場合は、中間部では度数の変化があるため、大きく動くと対象物の距離に対して度が合わなくなり、像がぼけてしまうことから、水平方向のものよりも小さくなることが考えられる。以上から、ゆれのシミュレーションを行う場合のパラメータとなる頭部回旋角は水平方向で左右に約10度程度、垂直方向ではそれより小さく、例えば上下に5度程度を用いるのが好ましい。また、前庭動眼反射により視線が動く範囲の典型的な値は、水平方向では、主注視線14の左右±10度程度であることが分かる。
図6に、仮想空間の仮想面59に配置された観察目標物、本例においては矩形模様50に対して頭部を回旋させたときの前庭動眼反射を加味した視覚のシミュレーションを行う様子を示している。仮想空間に眼球3の回旋中心Rcを原点として、水平正面方向にz軸を設定し、水平方向にx軸、垂直方向にy軸を設定する。y−z平面に対して角度θx、x−z平面に対して角度θyをなす方向に、距離dを隔てた仮想面59に観察目標物の矩形模様50を配置する。
本例においては、矩形模様50は縦横に2等分された正方格子であり、幾何学的中心55を通る中心の垂直格子線51および中心の垂直格子線51に対して左右対称な左右の垂直格子線52と、幾何学的中心を通る中心の水平格子線53および中心の水平格子線53に対し上下対称な上下の水平格子線54とを含む。この正方格子の矩形模様50を、以下に示すようにピッチが眼鏡レンズ10の上に視野角で設定されるように仮想面59と眼球3との距離dを調整する。
この例では、眼鏡レンズ10を実際の装用時と同じ位置・姿勢で眼球3の前に配置し、注視点に対して前庭動眼反射により眼球3が動く最大水平角度θxmの近傍、すなわち、注視点に対して±10度に左右の垂直格子線52および上下の水平格子線54がそれぞれ見えるように仮想面59を設定する。
この正方格子の矩形模様50のサイズは視野角で規定することができ、見る対象物に合わせて設定することが可能である。例えばモバイルパソコンの画面などでは格子の視野ピッチは小さく、デスクトップパソコンの画面のような対象物では格子の視野ピッチは大きくとることができる。
一方、観察目標物(仮想面)59までの距離dについては、累進屈折力レンズ10の場合は、遠用部、中間部、近用部により想定される観察対象物の距離が変わるので、それを考慮して遠用部では数m以上の遠距離、近用では40cmから30cm程度の近距離、中間部は1mから50cm程度の中間距離にすることが妥当である。ただし、例えば歩行時には中間部、近用部でも2mから3mの距離のものが観察対象となるので、あまり厳密にレンズ上の遠・中・近の領域に合わせて距離dを設定する必要はなく、そのゆれ指標計算結果に対する影響も大きくはない。
レンズ屈折作用により目標対象物である矩形模様50は視野方向(θx、θy)からずれた視野角方向に観察される。このときの矩形模様50の観察像は通常の光線追跡法により求めることができる。この状態を基本として、水平方向に+α°頭部を回旋させると顔と一緒にレンズ10も+α°回旋する。このとき前庭動眼反射により眼球3は逆方向にα°、即ち−α°回旋するので、レンズ10の上では視線2は−α°移動した位置を使って目標物の矩形模様50の幾何学的中心55を見ることになる。したがって、レンズ10の視線2の透過箇所や視線2のレンズ10への入射角度が変わるので、目標対象物である矩形模様50は違った形で観察される。
このため、頭部を左右または上下に反復回旋したときの、最大または所定の回旋角度θx1の両端位置における観察目標物(矩形模様)50の画像を観察目標物の幾何学中心55で重ね合わせ、両者の形状のずれを幾何学的に計算する。水平角度θx1の一例は前庭動眼反射により眼球3が動く最大水平角度θxm(約10度)である。
ゆれの評価に用いられる指数の1つはゆれ指標IDdであり、このゆれ指標IDdは、水平格子線53および54、および垂直格子線51および52の傾きの変化を計算するものである。ゆれ指標IDsは水平格子線53および54、および垂直格子線51および52の移動面積を計算するものである。
図7は、注視点に対して第1の水平角度(振り角)θx1(10度)で左右に眼球3および矩形模様50を動かしたときの矩形模様50の像の一例を示している。この状態は、水平角度(振り角)10度で頭部とともに眼鏡用レンズ10を左右に動かしたときに、矩形模様50を動かさず視線2が矩形模様50の幾何学的中心55から動かないように矩形模様50を見ている状態に相当する。矩形模様50a(破線)は、振り角10°で光線追跡法により眼鏡レンズ10を介して観察される像(右回旋画像)であり、矩形模様50b(実線)は同様に振り角−10°で観察される像(左回旋画像)であり、それらの矩形模様50aおよび50bを幾何学的中心55が一致するように重ねて示している。ちなみに、振り角0°で観察される矩形模様50の像はこれらのほぼ中間に位置する。振り角を上下に設定した場合に観察される像(上回旋画像および下回旋画像)も同様に求めることができる。
これらの画像(矩形模様)50aおよび50bは、観察目標物を、眼鏡レンズ10を通して見ながら、頭を振ったときにユーザーが実際に得られる目標対象物の像であり、これらの像50aおよび50bの差(変形)は、頭を振ったときの像の動きを表していると見なすことができる。
図8に、ゆれ指標(ゆれ指数)IDdを示している。ゆれ指標IDdは、各格子線51〜54の傾きの変化である。図8に示すように矩形模様50の各辺(格子線)51〜54の勾配の変化量を幾何学的に計算することにより、ゆれ指数IDdを12個求めることができる。このうち水平方向の格子線53および54の勾配の変化量は「波打ち(うねり)」を表し、垂直方向の格子線51および52の勾配の変化量は「揺らぎ」を表していると考えられる。したがって、格子線51〜54の勾配の変化量を方向毎に合算するとそれぞれ「波打ち(うねり)感」、「揺らぎ感」としてゆれ(ユレ)を定量評価できる。
図9および図10に、ゆれ指標(ゆれ指数)IDsを示している。ゆれ指標IDsは、ゆれの評価に用いられる異なる指数であり、矩形模様50の全体形状の変形の大きさである。ゆれ指標IDsは、図9および10に示すように矩形模様50の格子線51〜54のそれぞれの移動量を面積として幾何学的に計算することによって、12個の数値を得ることができる。図9は水平方向の格子線53および54の移動量(斜線塗りつぶし部分)を表し、図10は垂直方向の格子線51および52の移動量(斜線塗りつぶし部分)を表したものである。移動量(面積)で表わされるゆれ指標IDsは、先の勾配の変化量で表わされるゆれ指標IDdと同じ傾向を示すが、レンズ10がゆれ評価位置付近で大きな倍率変化を持っていた場合、例えば水平方向に伸び縮みが生ずるような変形がある場合は、それらの要素も包含した指標となる。
これらのゆれ指標IDdおよびIDsは、水平方向成分、垂直方向成分、それらの合算値として、用途により使い分けることができる。以降において、勾配の変化から得られるゆれ指標IDdは「振動」と表現し、格子線の移動量から得られるゆれ指標IDsを「変形量」と表現することがある。
「振動」のゆれ指標IDdの単位は、視野角座標上での各格子線の勾配の変化量であるので無次元である。一方、「変形量」のゆれ指標IDsの単位は、視野角座標上での面積であるので、度の二乗である。なお、この変形量によるゆれ指数IDsは、頭部の回旋を加える前の0度での面積で変化量の面積を割って、無次元化して、比率(たとえば、パーセント)表示することも可能である。
振動に関する指標IDdは、中心格子線(Center Line)51および53の振動のうち、水平方向の格子線53のものを「水平@CL」、垂直方向の格子線51のものを「垂直@CL」として指標化する。また、その中心格子線53を含むすべての水平格子線53および54の振動を「水平L」、同様にすべての垂直格子線51および52の振動を「垂直L」、その両者を合算したすべての格子線の振動の総和または平均を「全L」として指標化する。
「水平@CL」と「垂直@CL」は計算が容易で簡便であるので、レンズ10の全面にわたって計算し、マップ化するような場合には便利である。一方、「水平L」、「垂直L」は、実際に人(ユーザー)がゆれを感じているときにはただ1つの水平あるいは垂直の線の変動だけではなく、形として捉えている対象物のアウトラインの変動が同時に知覚されているという事実からすると、よりユーザーの感覚に近い指標であると言える。
さらに、ユーザーにおいては水平方向も垂直方向も同時に知覚されるので、それらを合算した「全L」が一番妥当な指標となる。しかしながら、ユーザーによって「波打ち(うねり)」と「揺らぎ」に対する感受性が異なる可能性や、個人の生活環境による視線の使い方が水平方向での視線移動が多く「波打ち(うねり)」を問題としたり、その逆に「揺らぎ」を問題にするケースが考えられる。したがって、各方向成分により、ゆれを指標化し、評価することも有用である。
変形量に関する指標IDsについては、すべての水平格子線53および54の変動面積を「水平L」、すべての垂直格子線51および52の変動面積を「垂直L」、それらの合算を「全L」として指標化する。成分毎の指標化とその合算による指標化の必要性については前述の振動に関するものと同じである。変形量による指標IDsのメリットは、倍率の変化が加味される点である。特に累進屈折力レンズ10の場合は垂直方向に度数の加入がされる。このため、首を縦方向に振ってものを見た場合、度数の変化によって像が拡大・縮小されたり、前後に揺動して見えたりする現象がある。また加入度数が大きい場合も近用部の側方で倍率が落ちる現象が顕著になる。このため、像の横方向での伸び縮みが発生する。変形量による指標IDsはこれらの変化を数値化できるので、評価方法として有用である。
2. 実施形態1
2.1 実施例1
図11(a)に実施例1の累進屈折力レンズ10aの外面(物体側の面)19Aの主注視線14に沿った水平方向の面屈折力(表面屈折力)OHP(y)と、垂直方向の面屈折力(表面屈折力)OVP(y)とをディオプトリー(D)を単位として示している。図11(b)に、累進屈折力レンズ10aの内面(眼球側の面)19Bの主注視線14に沿った水平方向の面屈折力(表面屈折力)IHP(y)と、垂直方向の面屈折力(表面屈折力)IVP(y)とをディオプトリー(D)を単位として示している。内面19Bの面屈折力IHP(y)と、垂直方向の面屈折力IVP(y)とは本来負の値になるが、本明細書においては、内面19Bの面屈折力はいずれも絶対値を示す。以下においても同様である。また、y座標は、フィッティングポイントPeを原点とする垂直基準線の座標である。以下において述べるx座標は、フィッティングポイントPeを原点とする垂直基準線に垂直な水平基準線に垂直な水平基準線の座標である。主注視線(主子午線)14は、垂直基準線に対して鼻よりに輻輳しているが、座標としてはy座標を用いて示す。
この累進屈折力レンズ10aにおいて主注視線14に沿った水平方向の透過屈折力(度数)HPおよび垂直方向の透過屈折力(度数)VPにおいては視線2がレンズ10aの各面19Aおよび19Bに対して垂直であるとするとHPおよびVPは以下の式により近似的に得られる。
HP(y)=OHP(y)−IHP(y)・・・(12)
VP(y)=OVP(y)−IVP(y)・・・(13)
ここで式(12)および式(13)はレンズの厚みが小さいとしたときの関係式であり、一般に眼鏡レンズの屈折力計算に用いられるレンズの厚みを考慮した形状係数(シェイプファクター)を加味した関係式に置き換えることも可能である。その場合は、以下の式(12a)および式(13a)となる。
HP(y)=OHP(y)/(1−t/n*OHP(y))−IHP(y)
・・・(12a)
VP(y)=OVP(y)/(1−t/n*OVP(y))−IVP(y)
・・・(13a)
ここで、tはレンズの厚み(単位メートル)nはレンズ素材の屈折率である。また、式(12)、(12a)、(13)、(13a)のy座標についても、より正確に行うためには、レンズ周辺部においては、視線のレンズ上の透過位置の外面側と内面側でのズレを光線追跡により求めて適用することも可能である。
また、主注視線14以外の領域においては、レンズ10の各面19Aおよび19Bに対する視線2が垂直方向から傾き、プリズム効果を考慮する必要がある。しかしながら、上記の式(12)および(13)の関係が近似的に成立する。
同様に、上述したように、物体側(外面)19Aに加えられたトーリック面の要素をキャンセルするために眼球側(内面側)19Bの面屈折力は条件(4a)および(5a)にしたがって操作することが好ましい。しかしながら、レンズ厚みが十分に小さい薄肉のレンズにおいては条件(4)および(5)によりトーリック面の要素をほぼキャンセルできる。したがって、以下においては、レンズ厚みが充分に小さい薄肉レンズを例に本発明をさらに説明する。
実施例1の累進屈折力レンズ10aは、セイコーエプソン社製累進屈折力レンズ「セイコーP−1シナジーAS(屈折率1.67)に眼鏡仕様として累進帯長14mm、処方度数(遠用度数、Sph)が3.00(D)、加入度数(Add)が2.00(D)を適用して設計されたものである。なお、レンズ10aの直径は65mmであり、乱視度数は含まれていない。
実施例1の累進屈折力レンズ10aは、さらに、外面19Aを水平方向の面屈折力OHPが垂直方向の面屈折力OVPより大きなトーリック面(トロイダル面)の要素を含む累進面(外面累進面)で構成し、内面19Bを、外面のトーリック面の要素により面屈折力のシフトをキャンセルするトーリック面の要素を含む内面累進面により構成している。
具体的には、図11(a)に示した外面19Aでは、遠用部11の垂直方向(縦方向)の面屈折力OVPfは一定で6.0(D)である。中間部13の垂直方向の面屈折力OVPmは累進的に増加し、近用部12で2.0(D)の所定の加入度に到達している。近用部12の垂直方向の面屈折力OVPnは一定の8.0(D)になっている。
一方、外面19Aの遠用部11の水平方向の面屈折力OHPf、中間部13の水平方向の面屈折力OHPmおよび近用部12の水平方向の面屈折力OHPnは一定で、9.0(D)となっている。したがって、遠用部11においては、垂直方向の面屈折力OVPfに対して水平方向の面屈折力OHPfが3.0(D)大きくなる方向にシフトしている。また、近用部12においては、垂直方向の面屈折力OVPnに対して水平方向の面屈折力OHPnが1.0(D)大きくなる方向にシフトしている。中間部13においても、垂直方向の面屈折力OVPmに対して水平方向の面屈折力OHPmが大きくなる方向にシフトしているが、シフト量は遠用部11から近用部12に向かって3.0(D)から1.0(D)に変化している。
図11(b)に示した内面19Bでは、遠用部11の垂直方向の面屈折力IVPf、中間部13の垂直方向の面屈折力IVPmおよび近用部12の垂直方向の面屈折力IVPnは一定で、3.0(D)となっている。
一方、内面19Bの遠用部11の水平方向(横方向)の面屈折力IMPfは一定で6.0(D)であり、中間部13の水平方向の面屈折力IMPmは累進的に減少し、近用部12で2.0(D)の所定の加入度に到達している。近用部12の水平方向の面屈折力IMPnは一定の4.0(D)になっている。
したがって、遠用部11においては、垂直方向の面屈折力IVPfに対して水平方向の面屈折力IHPfが3.0(D)大きくなる方向にシフトしている。また、近用部12においては、垂直方向の面屈折力IVPnに対して水平方向の面屈折力IHPnが1.0(D)大きくなる方向にシフトしている。中間部13においては、垂直方向の面屈折力IVPmに対して水平方向の面屈折力IHPmが大きくなる方向にシフトしているが、シフト量は遠用部11から近用部12に向かって3.0(D)から1.0(D)に変化している。このため、この累進屈折力レンズ10aは、内面19Bは、外面19Aのトーリック面の要素による面屈折力のシフトをキャンセルするトーリック面の要素を含む。
また、実施例1の累進屈折力レンズ10aは、上記の条件(1)〜(11)の全ての条件を備えている。すなわち、外面19Aの主注視線14に沿った領域の遠用部11の水平方向の面屈折力OHPfは、垂直方向の面屈折力OVPfより大きい(条件(1))。また、外面19Aの主注視線14に沿った領域の遠用部の水平方向の面屈折力OHPfと近用部の水平方向の面屈折力OHPnの和は、遠用部の垂直方向の面屈折力OVPfと近用部の垂直方向の面屈折力OVPnの和よりも大きい。(条件(2))。さらに、近用部の垂直方向の面屈折力OVPnは、遠用部11の垂直方向の面屈折力OVPfより大きい(条件(3))。なお、外面19Aの主注視線14に沿った領域の中間部13の水平方向の面屈折力OHPmも、垂直方向の面屈折力OVPmより大きい。
内面19Bの遠用部11は、外面19Aの水平方向の面屈折力OHPfと垂直方向の面屈折力OVPfとのシフトをキャンセルする水平方向の面屈折力IHPfと垂直方向の面屈折力IVPfとを含む(条件(4))。内面19Bの近用部12は、外面19Aの水平方向の面屈折力OHPnと垂直方向の面屈折力OVPnとのシフトをキャンセルする水平方向の面屈折力IHPnと垂直方向の面屈折力IVPnとを含む(条件(5))。なお、同様に、内面19Bの中間部13は、外面19Aの水平方向の面屈折力OHPmと垂直方向の面屈折力OVPmとのシフトをキャンセルする水平方向の面屈折力IHPmと垂直方向の面屈折力IVPmとを含む。
さらに、内面19Bの主注視線14に沿った領域の遠用部11の水平方向の面屈折力IHPfは、垂直方向の面屈折力IVPfより大きい(条件(6))。また、内面19Bの主注視線14に沿った領域の近用部12の水平方向の面屈折力IHPnは、垂直方向の面屈折力IVPnより大きい(条件(7))。さらに、遠用部11の水平方向の面屈折力IHPfは、近用部の水平方向の面屈折力IHPnより大きい(条件(8))。なお、内面19Bの主注視線14に沿った領域の中間部13の水平方向の面屈折力IHPmも、垂直方向の面屈折力IVPmより大きい。
また、外面19Aの遠用部11の水平方向の面屈折力OHPfと近用部12の水平方向の面屈折力OHPnは、中間部13の水平方向の面屈折力OHPmも含めて一定(9.0(D))である(条件(9))。一方、内面19Bの遠用部11の垂直方向の面屈折力IVPfと近用部12の垂直方向の面屈折力IVPnは、中間部13の垂直方向の面屈折力IVPmも含めて一定(3.0(D))である(条件(10))。
さらに、この累進屈折力レンズ10aでは、遠用部11の外面19Aの水平方向の面屈折力OHPfと垂直方向の面屈折力OVPfとの差(シフト)と、内面19Bの水平方向の面屈折力IHPfと垂直方向の面屈折力IVPfとの差(シフト)は一定の値C1であり、C1は3.0(D)である(条件(11)および(11´))。また、近用部12の外面19Aの水平方向の面屈折力OHPnと垂直方向の面屈折力OVPnとの差(シフト)と、内面19Bの水平方向の面屈折力IHPnと垂直方向の面屈折力IVPnとの差(シフト)は一定の値C2であり、C2は1.0(D)である(条件(11)および(11´))。
2.2 比較例1
実施例1の累進屈折力レンズ10aと比較するために、比較例1として、上記と同じ眼鏡仕様で外面19Aおよび内面19Bの遠用部が球面を基本として構成されるような内外面累進屈折力レンズ10bを設計した。
図12(a)に比較例1の累進屈折力レンズ10bの外面(物体側の面)19Aの主注視線14に沿った水平方向の面屈折力OHP(y)と、垂直方向の面屈折力OVP(y)とをディオプトリー(D)を単位として示している。図12(b)に、累進屈折力レンズ10bの内面(眼球側の面)19Bの主注視線14に沿った水平方向の面屈折力(表面屈折力)IHP(y)と、垂直方向の面屈折力(表面屈折力)IVP(y)とをディオプトリー(D)を単位として示している。
比較例1の累進屈折力レンズ10bは、外面19Aの遠用部11は球面であり、水平方向の面屈折力OHPfと、垂直方向の面屈折力OVPfとは同一で6.0(D)である。中間部13の垂直方向の面屈折力OVPmは累進的に増加し、近用部12で2.0(D)の所定の加入度に到達している。近用部12の垂直方向の面屈折力OVPnは一定の8.0(D)になっている。一方、中間部13の水平方向の面屈折力OHPmおよび近用部12の水平方向の面屈折力OHPnは一定で、6.0(D)となっている。
内面19Bも、遠用部11は球面であり、水平方向の面屈折力IHPfと、垂直方向の面屈折力IVPfとは同一で3.0(D)である。中間部13の水平方向の面屈折力IHPmは累進的に減少し、近用部12で所定の加入度(2.0(D))に到達している。近用部12の水平方向の面屈折力IHPnは一定の1.0(D)になっている。一方、中間部13の垂直方向の面屈折力IVPmおよび近用部12の垂直方向の面屈折力IVPnは一定で、3.0(D)となっている。
なお、図11および図12に示した面屈折力の変化は、あくまでも基本構成を理解するために簡略して示したものある。実際の設計においては、レンズ周辺視における収差を補正するための意図した非球面補正がこれに加わり、遠用部の上方や近用部においては垂直方向と水平方向で多少の屈折力の変動が生じてくる。
2.3 比較
実施例1の累進屈折力レンズ10aは、図11(a)および図11(b)に示すように、主注視線14に沿った領域にトーリック面の要素を含むが、外面19Aのトーリック面の要素による面屈折力のシフトは、内面19Bのトーリック面の要素によりキャンセルされ、比較例1の累進屈折力レンズ10bと変わらぬ度数が確保される。
図13(a)に実施例1の累進屈折力レンズ10aの外面19Aの面非点収差分布を示し、図13(b)に比較例1の累進屈折力レンズ10bの外面19Aの面非点収差分布を示している。また、図14(a)に実施例1の累進屈折力レンズ10aの外面19Aの等価球面屈折力分布を示し、図14(b)に比較例1の累進屈折力レンズ10bの外面19Aの等価球面屈折力分布を示している。等価球面屈折力ESPは以下の式(14)で得られる。
ESP=(OHP+OVP)/2・・・(14)
なお、図の縦横の直線は円形のレンズの幾何学中心を通る基準線(垂直基準線yおよび水平基準線x)を示し、その交点である幾何学中心をフィッティングポイントとした眼鏡フレームへの枠入れ時の形状イメージも示されている。以下に示す図においても同様である。
図13(b)に示すように、比較例1の累進屈折力レンズ10bの外面19Aの面非点収差は、垂直方向の面屈折力OVPの変化によりほぼ水平方向に等量線が表れる。一方、図13(a)に示す実施例1の累進屈折力レンズ10aの外面19Aの面非点収差は、さらに、水平方向に強主経線を持つ非点収差が合成される。
図14(b)に示すように、比較例1の累進屈折力レンズ10bの外面19Aの等価球面屈折力は、垂直方向の面屈折力OVPの変化によりほぼ水平方向に等量線が表れる。一方、図14(a)に示す実施例1の累進屈折力レンズ10aの外面19Aの等価球面屈折力は、ほぼ1.5(D)の等価球面屈折力が全体に合成されている。
図15(a)に実施例1の累進屈折力レンズ10aの内面19Bの面非点収差分布を示し、図15(b)に比較例1の累進屈折力レンズ10bの内面19Bの面非点収差分布を示している。また、図16(a)に実施例1の累進屈折力レンズ10aの内面19Bの等価球面屈折力分布を示し、図16(b)に比較例1の累進屈折力レンズ10bの内面19Bの等価球面屈折力分布を示している。
図15(a)に示した実施例1の累進屈折力レンズ10aの面非点収差は、基本的に水平方向に強主経線をもつ3.0(D)の面非点収差が、図15(b)に示した比較例1の累進屈折力レンズ10bの面非点収差に加わる。しかしながら、収差を調整するための非球面補正も加わっているために単純な合成とはなっていないことがわかる。
図16(a)に示した実施例1の累進屈折力レンズ10aの等価球面屈折力分布では基本的に+1.5(D)の等価球面屈折力が、図16(b)に示した比較例1の累進屈折力レンズ10bの等価球面屈折力分布に対して一律に付加される。しかしながら、非球面補正の影響により、これも単純な合成にはなっていないことがわかる。
図17(a)に実施例1の累進屈折力レンズ10aのレンズ上の各位置を透して観察したときの非点収差分布を示し、図17(b)に比較例1の累進屈折力レンズ10bのレンズ上の各位置を透して観察したときの非点収差分布を示している。また、図18(a)に実施例1の累進屈折力レンズ10aのレンズ上の各位置を透して観察したときの等価球面度数分布を示し、図18(b)に比較例1の累進屈折力レンズ10bのレンズ上の各位置を透して観察したときの等価球面度数分布を示している。
図17(a)に示した実施例1の累進屈折力レンズ10aの非点収差分布は、図17(b)に示した比較例1の累進屈折力レンズ10bの非点収差分布とほぼ同等である。また、図18(a)に示した実施例1の累進屈折力レンズ10aの等価球面度数分布は、図18(b)に示した比較例1の累進屈折力レンズ10bの等価球面度数分布とほぼ同等である。したがって、実施例1の累進屈折力レンズ10aとして、非球面補正を効果的に使用することにより、非点収差分布および等価球面度数分布において比較例1の累進屈折力レンズ10bとほとんど同じ性能の累進屈折力レンズが得られることがわかる。
図19に、上述した、ゆれの評価方法により求めた振動に関する指標IDdを示している。また、図20に、上述した、ゆれの評価方法により求めた変形量に関する指標IDsを示している。なお、観察対象格子50の視野角ピッチは10度、頭部の振りは左右方向とし、その振り角は左右に各10度としている。また図20では、変形量に関する指標
IDsは変形量を比率(%)で表している。
振動に関する指標IDdについては、中心格子線53を含むすべての水平格子線53および54の振動の和である「水平L」と、同様にすべての垂直格子線51および52の振動の和である「垂直L」と、その両者を合算したすべての格子線の振動の総和または平均を示す「全L」とを、実施例1の累進屈折力レンズ10a、および比較例1の累進屈折力レンズ10bの主注視線(主子午線)に沿った幾つかの点で求めている。それぞれのレンズ10aおよび10bのフィッティングポイントPeが視野角0度の水平正面視、即ち第一眼位にある。遠用部11はフィッティングポイントPeから上方に20度まで、中間部13はフィッティングポイントPeから下方に−28度付近までであり、そこから下が近用部12に当たる。
変形量に関する指標IDsについても、中心格子線53を含むすべての水平格子線53および54の変動面積の和である「水平L」と、すべての垂直格子線51および52の変動面積の和である「垂直L」と、その両者を合算したすべての格子線の変動面積の総和または平均を示す「全L」とを、実施例1の累進屈折力レンズ10a、および比較例1の累進屈折力レンズ10bの主注視線(主子午線)に沿った幾つかの点で求めている。
図19および図20に示すように、振動に関する指標IDdおよび変形量に関する指標IDsのいずれでも、実施例1の累進屈折力レンズ10aの方が比較例1の累進屈折力レンズ10bより小さくなっている。ゆれの改善効果は指標IDdおよびIDsの全Lによく表れており、主注視線14上の遠中近のすべての領域にわたってゆれが小さくなっていることが示されている。特に遠用部11の上方、中間部13から近用部12に向かう領域においてゆれの改善効果が大きい。また、垂直Lと水平Lとを比較すると、いずれの指標IDdおよびIDsにおいても垂直Lの方が、改善効果が大きいことが分かる。
このように、外面19Aおよび内面19Bにトーリック面の要素を導入した実施例1の累進屈折力レンズ10aは、眼鏡レンズとしての一般的な性能である非点収差分布および等価球面屈折力分布は、トーリック面の要素を含まない(乱視矯正を対象としてない眼鏡レンズとして)球面をベースとした比較例1の累進屈折力レンズ10bと同等の性能を備えている。さらに、実施例1の累進屈折力レンズ10aは、比較例1の累進屈折力レンズ10bに対し、前庭動眼反射により視線2(眼球3)が動くような場合の像のゆれを小さくできることがわかった。これは、内外面にトーリック面の要素を入れることにより、特に、主注視線14に沿った領域の内外面にトーリック面の要素を導入することにより、視線2が前庭動眼反射により動いたときに、視線2が眼鏡レンズ10aに対して入射および出射する角度変化を抑制でき、視線2が前庭動眼反射により動いたときの諸収差の変動を抑制できることが1つの要因であると考えられる。
したがって、実施例1の累進屈折力レンズ10aは、像のゆれに適合しにくいユーザーあるいはアプリケーションに対して好適な眼鏡レンズである。なお、累進屈折力レンズ10を使用するときの人の視覚の特性として、主注視線14上での使用頻度が極めて大きく、像のゆれを感じるのはその主注視線14近傍を使い視作業をするときである。したがって、外面19Aにおける水平方向の面屈折力OHPの強度方向へのシフトは、少なくとも主注視線14を中心として水平方向に約10mmあれば像のゆれを軽減する効果は十分に得ることができる。
3. 実施形態2
3.1 実施例2
図21(a)に実施例2の累進屈折力レンズ10cの外面(物体側の面)19Aの主注視線14に沿った水平方向の面屈折力(表面屈折力)OHP(y)と、垂直方向の面屈折力(表面屈折力)OVP(y)とをディオプトリー(D)を単位として示している。図21(b)に、累進屈折力レンズ10cの内面(眼球側の面)19Bの主注視線14に沿った水平方向の面屈折力(表面屈折力)IHP(y)と、垂直方向の面屈折力(表面屈折力)IVP(y)とをディオプトリー(D)を単位として示している。
実施例2の累進屈折力レンズ10cは、セイコーエプソン社製累進屈折力レンズ「セイコーP−1シナジーAS(屈折率1.67)に眼鏡仕様として累進帯長14mm、処方度数(遠用度数、Sph)が−3.00(D)、加入度数(Add)が2.00(D)を適用して設計されたのである。なお、レンズ10cの直径は65mmであり、乱視度数は含まれていない。
実施例2の累進屈折力レンズ10cも、実施例1の累進屈折力レンズ10aと同様に、外面19Aおよび内面19Bにトーリック面の要素を含む。具体的には、実施例2の累進屈折力レンズ10cは、外面19Aの遠用部11の垂直方向(縦方向)の面屈折力OVPfは2.5(D)で、中間部13の垂直方向の面屈折力OVPmは累進的に増加し、近用部12で2.0(D)の所定の加入度に到達し、近用部12の垂直方向の面屈折力OVPnは4.5(D)になっている。
一方、外面19Aの遠用部11の水平方向の面屈折力OHPf、中間部13の水平方向の面屈折力OHPmおよび近用部12の水平方向の面屈折力OHPnは一定で、5.5(D)となっている。したがって、遠用部11においては、垂直方向の面屈折力OVPfに対して水平方向の面屈折力OHPfが3.0(D)大きくなる方向にシフトしている。また、近用部12においては、垂直方向の面屈折力OVPnに対して水平方向の面屈折力OHPnが1.0(D)大きくなる方向にシフトしている。中間部13においても、垂直方向の面屈折力OVPmに対して水平方向の面屈折力OHPmが大きくなる方向にシフトしているが、シフト量は遠用部11から近用部12に向かって3.0(D)から1.0(D)に変化している。
内面19Bでは、遠用部11の垂直方向の面屈折力IVPf、中間部13の垂直方向の面屈折力IVPmおよび近用部12の垂直方向の面屈折力IVPnは一定で、5.5(D)となっている。内面19Bの遠用部11の水平方向(横方向)の面屈折力IMPfは8.5(D)で、中間部13の水平方向の面屈折力IMPmは累進的に減少し、近用部12で2.0(D)の所定の加入度に到達し、近用部12の水平方向の面屈折力IMPnは6.5(D)になっている。
したがって、遠用部11においては、垂直方向の面屈折力IVPfに対して水平方向の面屈折力IHPfが3.0(D)大きくなる方向にシフトしている。また、近用部12においては、垂直方向の面屈折力IVPnに対して水平方向の面屈折力IHPnが1.0(D)大きくなる方向にシフトしている。中間部13においては、垂直方向の面屈折力IVPmに対して水平方向の面屈折力IHPmが大きくなる方向にシフトしているが、シフト量は遠用部11から近用部12に向かって3.0(D)から1.0(D)に変化している。このため、この累進屈折力レンズ10cは、内面19Bは、外面19Aのトーリック面の要素による面屈折力のシフトをキャンセルするトーリック面の要素を含む。
また、実施例2の累進屈折力レンズ10cは、実施例1の累進屈折力レンズ10aと同様に上記の条件(1)〜(11)の全ての条件を備えている。なお、定数C1は3.0(D)であり、定数C2は1.0(D)である。
3.2 比較例2
実施例2の累進屈折力レンズ10cと比較するために、比較例2として、上記と同じ眼鏡仕様で外面19Aおよび内面19Bの遠用部が球面を基本として構成されるような内外面累進屈折力レンズ10dを設計した。
図22(a)に比較例2の累進屈折力レンズ10dの外面(物体側の面)19Aの主注視線14に沿った水平方向の面屈折力OHP(y)と、垂直方向の面屈折力OVP(y)とをディオプトリー(D)を単位として示している。図22(b)に、累進屈折力レンズ10dの内面(眼球側の面)19Bの主注視線14に沿った水平方向の面屈折力(表面屈折力)IHP(y)と、垂直方向の面屈折力(表面屈折力)IVP(y)とをディオプトリー(D)を単位として示している。
比較例2の累進屈折力レンズ10dは、外面19Aの遠用部11は球面であり、水平方向の面屈折力OHPfと、垂直方向の面屈折力OVPfとは同一で2.5(D)である。中間部13の垂直方向の面屈折力OVPmは累進的に増加し、近用部12で2.0(D)の所定の加入度に到達し、近用部12の垂直方向の面屈折力OVPnは4.5(D)になっている。一方、中間部13の水平方向の面屈折力OHPmおよび近用部12の水平方向の面屈折力OHPnは一定で、2.5(D)となっている。
内面19Bも、遠用部11は球面であり、水平方向の面屈折力IHPfと、垂直方向の面屈折力IVPfとは同一で5.5(D)である。中間部13の水平方向の面屈折力IHPmは累進的に減少し、近用部12で所定の加入度(2.0(D))に到達し、近用部12の水平方向の面屈折力IHPnは3.5(D)になっている。一方、中間部13の垂直方向の面屈折力IVPmおよび近用部12の垂直方向の面屈折力IVPnは一定で、5.5(D)となっている。
なお、図21および図22に示した面屈折力の変化は、あくまでも基本構成を理解するために簡略して示したものある。実際の設計においては、レンズ周辺視における収差を補正するための意図した非球面補正がこれに加わり、遠用部の上方や近用部においては垂直方向と水平方向で多少の屈折力の変動が生じてくる。
3.3 比較
実施例2の累進屈折力レンズ10cにおいても、図21(a)および図21(b)に示すように、主注視線14に沿った領域にトーリック面の要素を含む。そして、外面19Aのトーリック面の要素による面屈折力のシフトは、内面19Bのトーリック面の要素によりキャンセルされ、比較例2の累進屈折力レンズ10dと変わらぬ度数が確保される。
図23(a)に実施例2の累進屈折力レンズ10cの外面19Aの面非点収差分布を示し、図23(b)に比較例2の累進屈折力レンズ10dの外面19Aの面非点収差分布を示している。また、図24(a)に実施例2の累進屈折力レンズ10cの外面19Aの等価球面屈折力分布を示し、図24(b)に比較例2の累進屈折力レンズ10dの外面19Aの等価球面屈折力分布を示している。
実施形態1と同様に、実施例2の累進屈折力レンズ10cの外面19Aの面非点収差は、比較例2の累進屈折力レンズ10dの外面19Aの面非点収差に水平方向に強主経線を持つ面非点収差が合成される。実施例2の累進屈折力レンズ10cの外面19Aの等価球面屈折力は、比較例2の累進屈折力レンズ10dの外面19Aの等価球面屈折力にほぼ1.5(D)の等価球面屈折力が全体に合成されている。
図25(a)に実施例2の累進屈折力レンズ10cの内面19Bの面非点収差分布を示し、図25(b)に比較例2の累進屈折力レンズ10dの内面19Bの面非点収差分布を示している。また、図26(a)に実施例2の累進屈折力レンズ10cの内面19Bの等価球面屈折力分布を示し、図26(b)に比較例2の累進屈折力レンズ10dの内面19Bの等価球面屈折力分布を示している。
実施形態1と同様に、実施例2の累進屈折力レンズ10cの面非点収差は、基本的に水平方向に強主経線をもつ3.0(D)の面非点収差が比較例2の累進屈折力レンズ10dの面非点収差に加わる。しかしながら、収差を調整するための非球面補正も加わっているために単純な合成とはなっていない。また、実施例2の累進屈折力レンズ10cの等価球面屈折力分布では基本的に+1.5(D)の等価球面屈折力が比較例2の累進屈折力レンズ10dの等価球面屈折力分布に対して一律に付加される。しかしながら、非球面補正の影響により、これも単純な合成にはなっていない。
図27(a)に実施例2の累進屈折力レンズ10cのレンズ上の各位置を透して観察したときの非点収差分布を示し、図27(b)に比較例2の累進屈折力レンズ10dのレンズ上の各位置を透して観察したときの非点収差分布を示している。また、図28(a)に実施例2の累進屈折力レンズ10cのレンズ上の各位置を透して観察したときの等価球面度数分布を示し、図28(b)に比較例2の累進屈折力レンズ10dのレンズ上の各位置を透して観察したときの等価球面度数分布を示している。
図27(a)に示した実施例2の累進屈折力レンズ10cの非点収差分布は、図27(b)に示した比較例2の累進屈折力レンズ10dの非点収差分布とほぼ同等である。また、図28(a)に示した実施例2の累進屈折力レンズ10cの等価球面度数分布は、図28(b)に示した比較例2の累進屈折力レンズ10dの等価球面度数分布とほぼ同等である。したがって、実施例2の累進屈折力レンズ10cとして、非球面補正を効果的に使用することにより、非点収差分布および等価球面度数分布において比較例2の累進屈折力レンズ10dとほとんど同じ性能の累進屈折力レンズが得られることがわかる。
図29に、上述した、ゆれの評価方法により求めた振動に関する指標IDdを示している。また、図30に、上述した、ゆれの評価方法により求めた変形量に関する指標IDsを示している。なお、観察対象格子50の視野角ピッチは10度、頭部の振りは左右方向とし、その振り角は左右に各10度としている。また図30では、変形量に関する指標
IDsは変形量を比率(%)で表している。実施形態1と同様に、振動に関する指標IDdについては、「水平L」と、「垂直L」と、「全L」とを示し、変形量に関する指標IDsについても、「水平L」と、「垂直L」と、「全L」とを示している。
実施形態2の累進屈折力レンズ10cおよび10dにより得られる像のゆれは、実施形態1の累進屈折力レンズ10aおよび10bにより得られる像のゆれよりも相対的に小さいことがわかる。このため、累進屈折力レンズ10cの指標IDdおよびIDsと、累進屈折力レンズ10dの指標IDdおよびIDsとの差は小さい。しかしながら、実施例2の累進屈折力レンズ10cの指標IDdおよびIDsは、比較例2の累進屈折力レンズ10dの指標IDdおよびIDsよりも主注視線14上の遠中近のすべての領域にわたって小さいか同等であり、実施例2の累進屈折力レンズ10cにより、ゆれが改善されていることがわかる。特に、遠用部11から中間部13にかけた広い範囲でユレが低減されている。
なお、上記においては、評価のための観察指標の模様として正方格子の矩形模様50を用いたが、水平方向と垂直方向での格子のピッチを変えることにより各方向での評価の精度や密度を変えたり、さらに格子の本数を増やすことにより、評価の精度・密度を変えることも可能である。
また、この眼鏡用の累進屈折力レンズ10は、外面19Aが水平方向の面屈折力OHPの方が垂直方向の面屈折力OVPよりも大きいトーリック面の要素を含み、内面19Bも外面19Aと同等のトーリック面の要素を含む。したがって、この累進屈折力レンズ10は、レンズ全体が顔に沿ってトロイダル状にカーブしたレンズにしやすく、レンズ外面の水平方向が従来のものより深くなっている。このため、この累進屈折力レンズ10は、近年注目を浴びているラップアラウンドタイプと呼ばれる、顔のカーブに合わせてこめかみ側にレンズが回り込む眼鏡デザインに好適である。
また、上記では、外面19Aの水平方向の面屈折力が一定の累進屈折力レンズ10を例に説明しているが、外面19Aの水平方向の面屈折力で加入度の全部あるいは一部を達成してもよい。さらに、内面19Bの垂直方向の面屈折力が一定の累進屈折力レンズ10を例に説明しているが、垂直方向の面屈折力の加入度を内外面に分散してもよい。いずれの場合も、外面19Aの水平方向の面屈折力と垂直方向の面屈折力が異なることによる面屈折力のシフトをキャンセルするように内面19Bの水平方向の面屈折力および垂直方向の面屈折力を選択することが望ましい。
以上の説明は遠用処方に乱視処方がない場合についてのものであったが、乱視処方がある場合には、内面側に乱視補正のためのトーリック面(トロイダル面)成分を合成することにより乱視処方を含めることが可能である。また、レンズの肉厚が大きい場合にはシェープファクターを考慮して、内面側に補正を加えることにより、より精度良い眼鏡レンズを提供することが出来る。
1 眼鏡、 10、10L、10R 眼鏡用レンズ
11 遠用部、 12 近用部、 13 中間部(累進部)
19A 物体側の面、 19B 眼球側の面
20 フレーム

Claims (8)

  1. 度数の異なる遠用部と近用部とを含む眼鏡用の累進屈折力レンズであって、主注視線またはフィッティングポイントを通る垂直基準線に沿った物体側の面の前記遠用部の水平方向の面屈折力OHPfおよび垂直方向の面屈折力OVPfとし、前記近用部の水平方向の面屈折力OHPnおよび垂直方向の面屈折力OVPnとしたときに、
    前記物体側の面は、前記面屈折力OHPfが前記面屈折力OVPfよりも大きいトーリック面の要素を含み、
    前記主注視線または前記垂直基準線に沿った眼球側の面は、前記物体側の面のトーリック面の要素による面屈折力のシフトをキャンセルする要素を含み、さらに、以下の条件を満たす累進屈折力レンズ。
    OHPf+OHPn>OVPf+OVPn
    OVPn>OVPf
  2. 請求項1において、前記主注視線または前記垂直基準線に沿った眼球側の面の前記遠用部の水平方向の面屈折力IHPfおよび垂直方向の面屈折力IVPfと、前記近用部の水平方向の面屈折力IHPnおよび垂直方向の面屈折力IVPnとが以下の条件を満たす累進屈折力レンズ。
    OHPf−OVPf=IHPf−IVPf
    OHPn−OVPn=IHPn−IVPn
    ただし、乱視処方を含まず、前記面屈折力IHPf、IVPf、IHPnおよびIVPnは絶対値である。
  3. 請求項1において、前記主注視線または前記垂直基準線に沿った眼球側の面の前記遠用部の水平方向の面屈折力IHPfおよび垂直方向の面屈折力IVPfと、前記近用部の水平方向の面屈折力IHPnおよび垂直方向の面屈折力IVPnとが以下の条件を満たす累進屈折力レンズ。
    IHPf−IVPf=
    OHPf/(1−t/n*OHPf)−OVPf/(1−t/n*OVPf)
    IHPn−IVPn=
    OHPn/(1−t/n*OHPn)−OVPn/(1−t/n*OVPn)
    ここで、tは前記累進屈折力レンズの厚み(単位メートル)、nは前記累進屈折力レンズの基材の屈折率であり、前記面屈折力IHPf、IVPf、IHPnおよびIVPnは絶対値であり、乱視処方は含まない。
  4. 請求項1ないし3のいずれかにおいて、さらに、以下の条件を満たす累進屈折力レンズ。
    OHPn>OVPn
  5. 請求項4において、前記主注視線または前記垂直基準線に沿った眼球側の面の前記遠用部の水平方向の面屈折力IHPfおよび垂直方向の面屈折力IVPfと、前記近用部の水平方向の面屈折力IHPnおよび垂直方向の面屈折力IVPnとが以下の条件を満たす累進屈折力レンズ。
    IHPf>IVPf
    IHPn>IVPn
    IHPf>IHPn
    ただし、乱視処方を含まず、前記面屈折力IHPf、IVPf、IHPnおよびIVPnは絶対値である。
  6. 請求項5において、さらに、以下の条件を満たす累進屈折力レンズ。
    OHPf=OHPn
    IVPf=IVPn
  7. 請求項1において、前記主注視線または前記垂直基準線を挟んだ、少なくとも±10mmの範囲内において前記条件が満たされている累進屈折力レンズ。
  8. 請求項1ないし7のいずれかに記載の累進屈折力レンズと、
    前記累進屈折力レンズが取り付けられた眼鏡フレームとを有する眼鏡。
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