本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。なお、各図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺等は変更して簡略化している。また、各図面において、同様の構成又は同様の意味をなすものには同じ符号を付しており、これらについては説明を省略することがある。さらに、各図面において、繰り返しとなる符号は一部省略している場合がある。
1つの実施形態にかかる製造方法により製造された光学シート10の断面の一部を図1に概略的に示した。光学シート10は、後述するロール金型20(図5参照)を用いて製造された光学シートの一例である。
図1は、光学シート10の厚さ方向断面の一部を示し、その層構成を模式的に表した図である。光学シート10は、映像表示装置に配置されたときに映像光源より観察者側に備えられ、観察者側から照射された光(いわゆる外光)を適切に遮蔽し、コントラストを向上させることができるシート状の部材である。
光学シート10は、基材層11と、該基材層11上に形成された光学機能層12とを有している。以下に基材層11及び光学機能層12について説明する。
(基材層11)
基材層11は、後で詳しく説明する光学機能層12を形成するための基材となる層である。基材層11は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とした材料で構成されることが好ましい。基材層11がPETを主成分とする場合、基材層11には、他の樹脂が含まれてもよい。また、各種添加剤を適宜添加してもよい。一般的な添加剤としては、フェノール系等の酸化防止剤、ラクトン系等の安定剤等を挙げることができる。ここで「主成分」とは、基材層を形成する材料全体に対して当該物質が50質量%以上含有されていることを意味する(以下、同様とする。)。
ただし、基材層11を構成する材料の主成分は、必ずしもPETであることは必要なく、その他の材料でもよい。これには例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、テレフタル酸−イソフタル酸−エチレングリコール共重合体、テレフタル酸−シクロヘキサンジメタノール−エチレングリコール共重合体などのポリエステル系樹脂、ナイロン6などのポリアミド系樹脂、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン系樹脂、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、イミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。また、これら樹脂中には、必要に応じて適宜、紫外線吸収剤、充填剤、可塑剤、帯電防止剤等の添加剤を加えても良い。
なお、性能に加え、量産性、価格、入手可能性等の観点からは、PETを主成分とする樹脂によって基材層11を構成することが好ましい。
(光学機能層12)
光学機能層12は、映像光源側からの映像光の光路を制御するとともに、迷光や外光を適切に吸収する機能を有する層である。光学機能層12は、図1に示した断面を有して紙面奥/手前側に延在する形状を備える。すなわち、図1に表れる断面において、断面が略台形である光透過部13と、該光透過部13の間に形成され、断面が略台形の凹部13a(図3参照)に形成される光吸収部14とを備えている。図2には、図1に示した光学シート10のうち、1つの光吸収部14及びこれに隣接する光透過部13を拡大して示した。また、図3には、図2に示した光学シート10のうち、光透過部13及び光透過部13間に形成される凹部13aを示した。
光透過部13は光を透過する部位であり、図1に示しように、シート面に沿って所定の間隔で並列されている。また、光透過部13は、図1に表れる断面において、基材層11側となる面に下底を有し、これとは反対側の面に下底より短い上底を有する略台形断面の要素である。さらに、光透過部13間には、図3に示したように、シート面に沿って並列した凹部13aが形成されている。凹部13aの形状は、図1乃至図3に表れる断面において、光透過部13の上底側に下底を有し、光透過部13の下底側に上底を有する略台形となっている。より詳細には、凹部13aは、シート厚方向断面において、開口部側が漏斗状に広がった形状を有している。このような形状を有していることによって、後述する必要な材料を凹部13aに充填することが容易になり、凹部13aに光吸収部14を形成することが容易になる。
なお、後述する必要な材料を光透過部間の溝に充填することを容易にするという観点からは、該溝の開口部が漏斗状に広がっていればよく、該溝の形状は図1乃至図3に例示した形状に限定されない。図4は、光透過部及び該光透過部間に形成される凹部の他の例を概略的に示した断面図である。
光透過部間の凹部は、例えば、図4(a)に示した凹部113aのように、開口部側を構成する両側の面がそれぞれ曲面で構成されており、開口部に向かうにつれて当該面同士の間隔が広くなっている形態であってもよい。図4(b)及び図4(c)は、シート厚方向断面において開口部側を構成する両側の面がそれぞれ2つの辺で構成された凹部213a、313aを例示している。図4(b)に示した形態では、上記2つの辺のうち、凹部213aの底部側の辺の方が、光学シートのシート出光面の法線方向と成す角が大きくなっている。図4(c)に示した形態では、上記2つの辺のうち、凹部313aの底部側の辺の方が、光学シートのシート出光面の法線と成す角が小さくなっている。なお、図4(b)及び図4(c)には凹部の開口部側の一部を構成する両側の面がそれぞれ2つの辺で構成された形態を例示したが、1つの辺で構成されていてもよく、さらに多くの辺によって構成されていてもよい。また、凹部の形状は、図4に示したような凹部の長手方向に直交する断面において、左右非対称であってもよい。
図1乃至図3に戻って、光透過部13の説明を続ける。光透過部13が並列される間隔(1つの光透過部13とこれに隣接する光透過部13との間隔、ピッチ、図6のP)は、特に限定されることはないが、20μm以上100μm以下であることが好ましい。
図3には、凹部13aの各寸法をA〜Dで表わした。図3にAで表わしたのは凹部13aの開口部側において漏斗状に広がった部分を除いた部分の幅である。Bは凹部13aの底部側の幅(上底の長さ)、Cは凹部13aの深さ、Dは凹部13aのうち漏斗状に広がった部分を除いた部分について、略台形断面の斜辺がシート法線となす角度である。各寸法A〜Dとも光学シートとして必要な性能を有するように設計され、その値は特に限定されるものはないが、Aは5μm以上20μm以下であることが好ましい。同様にBはAと同一又はAよりも小さく、かつ、2μm以上20μm以下、Cは50μm以上150μm以下、Dは0度以上5度以下であることが好ましい。
後述するように、ここで必要とされる各寸法に対応したロール金型が製造される。
光透過部13は屈折率がNpであり、光透過性を有する。このような光透過部13は、例えば後述する光透過部構成組成物を硬化させることにより形成することができる。詳しくは後で説明する。屈折率Npの値は特に限定されることはないが、適用する材料の入手性の観点等から1.49〜1.56であることが好ましい。
次に、光吸収部14について説明する。光吸収部14は、上記した光透過部13間の凹部13aに形成され、全体として光を吸収することができるように構成されている。従って、その形状は概ね凹部13aに沿うものとなっている。
光吸収部14は、光透過部13の屈折率Npと同じ、又はこれより小さい屈折率Nbを有する所定の材料により構成される。光透過部13の屈折率Npと光吸収部14の屈折率NbとをNp>Nbとしたときには、光吸収部14と光透過部13との界面において、屈折率差と該界面への入光角との関係に基づいて、一部の映像光をこの界面で適切に反射させて観察者側に出光することができる。これにより、界面に入射することなく光透過部13を透過した映像光に加え、このように反射した映像光が観察者に提供され、明るい映像とすることができる。また、外光や迷光の一部は、界面で反射することなく光吸収部14に入射して吸収され、映像の質の向上が図られている。NpとNbとの屈折率の差は特に限定されるものではないが、0以上0.07以下であることが好ましい。屈折率差が大きいほど界面での反射がしやすくなる。
本実施形態では、光吸収部14は、光吸収粒子16を含有することにより光吸収性能を有するものとされている。すなわち、光吸収粒子16を分散させたバインダ(光吸収部構成組成物)が凹部13aに充填されている。従ってこの場合にはバインダーが屈折率Nbである物質となる。光吸収部14を形成する材料や方法等は後で詳しく説明する。
なお、光を吸収させるための手段は本実施形態のように光吸収粒子による方法に限定されるものではない。他には例えば、顔料や染料により光吸収部全体を着色することもできる。
このような光学シート10によれば、外光を適切に遮蔽することができる。図1に、光学シート10に入射した外光の光路例を概略的に示した。この説明に際しては図1の紙面上を観察者側とする。すなわち、図1に示すように、所定の角度を有して光学シート10に入射した外光L1は、光学シート10を透過中に、光吸収部14によって吸収される。これによりコントラストを向上させることができる。
図1には示していないが、光学シート10には、さらに必要に応じて他の機能を有する層が積層されてもよい。具体的には、例えば電磁波遮蔽層、波長フィルタ層、防眩層、反射防止層、ハードコート層等を、粘着層を用いて貼合することで構成することができる。これらの層の積層順、及び積層数は、光学シートの用途に応じて適宜決定される。いずれの層も公知のものを適用することができる。以下に各層について説明する。
電磁波遮蔽層は、電磁波を遮断する機能を有する層である。当該機能を有する層であれば、電磁波を遮断する手段は特に限定されるものではない。これには、例えばエッチング方式、印刷方式、蒸着方式、スパッタ方式等の方法で形成された金属メッシュを挙げることができる。
波長フィルタ層は、所定の波長の光を減衰して透過する機能を有する層である。減衰されるべき波長の光は必要に応じて適宜選択することができるが、プラズマディスプレイパネル(PDP)から出射されるネオン線を減衰・遮断する層、赤外線、近赤外線や紫外線を減衰・遮断する層、及び色調を補正する層を挙げることができる。
防眩層は、いわゆるぎらつきを抑制する機能を有する層であり、アンチグレア層、AG層と呼ばれることもある。
反射防止層は最も観察者側に配置され、外光の反射を防止する機能を有する層である。これによれば、外光が光学シートの観察者側面で反射して観察者側へ戻って、いわゆる映り込みが生じて映像が見え難くなることを抑制することができる。
ハードコート層は、保護層やHC層とも呼ばれることもある。これは、画像表示面に傷がつくことを抑えるために耐擦傷性を付与することができる機能を有するフィルムが配置された層である。
粘着層は、粘着剤が配置される層である。該粘着剤としてアクリル系粘着剤を挙げることができる。ただし、必要な光透過性、粘着性、耐候性を得ることができれば粘着剤はこれに限定されるものではない。また、層構成によっては、色素の劣化を防止するために、紫外線を吸収する効果のあるUV吸収剤(ベンゾトリアゾール系など)を粘着剤に含めることが望ましい。また、粘着層にはUV吸収剤、近赤外吸収剤、ネオン線吸収剤、及び調色色素などを粘着剤に含める場合もある。
次にロール金型について説明する。図5は、ロール金型20の外観を概略的に示した斜視図である。図6は、図5に示したロール金型20の外周面に形成された環状突起22及び溝23の断面の一部を拡大して示した図である。当該断面は環状突起22及び溝23が延在する方向に直交する断面で、ロール金型20の回転軸に沿った方向の断面である。
図5に示すように、ロール金型20は、円柱状のいわゆるロール状の金型であり、円柱状のロール基体21の外周面から突出する複数の環状突起22、及び該環状突起22間に形成される溝23を有している。ここで環状突起22及び溝23は、ロール金型20においてその円周方向に延び、これがさらに幅方向(ロール回転軸方向)に並列されるように具備されている。さらに詳しくは次の通りである。
ロール基体21は、ベースとなる基体及び該基体外表面に積層された被加工層を有している。
基体は、ロール基体21の剛性を確保するための部位で、ロール基体21の大部分を占めている。かかる観点から基体は、機械構造用の鉄系材料が用いられることが好ましい。また、必要な剛性を確保しつつも軽量化をする観点から、基体は両端に底を有する有底の円筒状であってもよい。また、ロール金型20表面の温度調節ができるようにロール基体21の内部に冷水や温水、蒸気又は高温の油を循環できるように2重構造にするのが一般的である。
一方、被加工層は、基体の外表面を被覆するように積層された層である。基体は上記したように構造上の観点からその材料が選択されるので、加工が困難である場合が多い。そこで、実際に加工するのはロール基体21の表面付近のみでよいことから、加工される部分に比較的加工のしやすい被加工層を設ける。従って、被加工層は、銅メッキ層、ニッケルメッキ層等の加工が容易な材料によるメッキ層であることが好ましい。被加工層の厚さは、その性質上、加工されるべき形状により決められる。例えば銅メッキ層の厚さは、必要な形状の高さ以上あれば問題ないが、通常は0.3mmから1.0mmである。
環状突起22及び溝23は、図6を図1乃至図3と対比させることからわかるように、光学機能層12の光透過部13及び凹部13aに対応する形状となっている。すなわち環状突起22が凹部13aの形状であり、溝23が光透過部13の形状となっている。従って、図3に表わしたA〜Dは、図6におけるA’〜D’のそれぞれに対応する寸法となっている。ただし、光透過部を構成する材料を成形するときに伸縮があること等を考慮すれば、図3のA〜Dが、図6のA’〜D’と完全に同一の寸法になるとは限らないことはいうまでもない。
図5、図6からわかるように、光学シートに微細な凹凸を形成するためのロール金型20では、溝23及び環状突起22自体が非常に微細である。また、この溝23及び環状突起22はロール金型20の周方向に延びるとともに、ロール金型20の幅方向(ロール回転軸方向)略全長(両端部を除く。)に亘って並ぶように密に形成されている。さらに、ロール金型20は光学的な部材を成形するためのものであるため、溝23及び環状突起22の精度を十分に確保する必要がある。従って、ロール金型20を製造する際には、精度を保ちつつも長く効率よく環状突起22及び溝23を形成することが必要である。
次に、ロール金型20の製造方法について説明する。まず、基体上に被加工層が積層されたロール基体21を準備し、これをロール回転軸により回転させる。はじめに基準面を得るための前加工として、所定の切削工具(Rバイト)により、必要な切り込み深さ及び送りで鏡面加工をおこなう。Rバイトとは、先端の形状が円弧状のバイトであり、曲率半径が2mmから10mmのダイヤモンドバイトがよく用いられる。送りピッチは0.1mmから0.4mmが一般的である。ここで、ロール基体21の直径は特に限定されることはないが、300mm以上500mm以下であることが好ましい。
その後、得られた基準面に基づいてロール基体21を回転させつつ切削工具により溝23を形成する。
本製造例において、切削工具により溝23を切削する工程は、以下の第1切削工程と、該1切削工程の後に行う第2切削工程とを含んでいる。また、第1切削工程と第2切削工程とでは、異なる形状の切削工具を用いる。具体的には、第1切削工程では、すくい面側から見た刃先の形状が直線状である切削工具を用いる。一方、第2切削工程では、すくい面側から見た刃先の形状が被切削物側に突出した曲線状又は折れ線状である切削工具を用いる。
図7に、第1切削工程において用いる切削工具の一例である切削チップ30の概略的な図を示した。図7ではすくい面を符号31、前逃げ面を符号32、横逃げ面を符号33、刃先を符号34でそれぞれ表わしている。図7(a)は斜視図、図7(b)はすくい面31側からみた図、図7(c)は前逃げ面32側から見た図、図7(d)は横逃げ面33側から見た図である。
図7に表わしたバイト角度θa1、θa2、横逃げ角θb、及び前逃げ角θcは、次の通りである。ここでバイト角度θa1とθa2との和を頂角と呼ぶ。頂角は、製造されるべき光学シートの形状により決められる角度である。図7(b)のwはバイト先端幅である。頂角及びバイト先端幅は形成されるべき溝の形状により適宜変更する。
横逃げ角θbは、2度以上5度以下が好ましい。当該横逃げ角θbを2度以上にすることにより、切削チップ30の切れ性が向上し、切削チップへの負担が減少するので、摩耗を減らすことができ、1つの切削チップで精度良く加工することができる。すなわち、溝23の深さを深くしたり、ピッチを小さくして切削本数を増やすことが可能となる。従って、切削チップを交換することなく、又はその交換回数を抑制して光学シートのロール金型を製造することができる。すなわち、ロール金型20の製造の効率及び精度を向上させ、最終製品である光学シート10の凹凸形状も高精度に製造することが可能となる。また、横逃げ角θbを5度よりも大きくすると、前逃げ角も大きくする必要があり、切削チップ30の強度が低下する懸念が出てくる。
前逃げ角θcは、通常5度以上20度以下にすることが多い。5度より小さいと横逃げ角と同様に切れ性が悪くなる傾向にある。一方、20度よりも大きくすると切削チップ先端の剛性がなくなり、欠けやチッピングが生じやすい。
切削チップの材質は被加工層の材質、加工形状等により適宜選択できる。これには例えば超硬合金、CBN(立方晶窒化ホウ素)、ダイヤモンド等を挙げることができる。このなかでも高い精度を得ることができる観点からダイヤモンドであることが好ましい。ダイヤモンドには天然及び合成のものがあるが特に限定されることはない。
切削時におけるロール基体21の回転速度は特に限定されるものではないが、300rpm以上600rpm以下であることが好ましい。ロール基体21の直径にもよるが、例えば直径が400mmの場合、300rpm未満だと切削速度が遅いため、切削チップへの負担が大きくなり精度良く加工することができなくなる虞がある。600rpmはおおよそ旋盤の最大回転速度である。ロール基体21の回転速度を上げていくとロール基体の振れが生じやすくなり、かかる観点から400rpm程度が好ましい。
上記した切削チップ30を用いて次のように第1切削工程を行う。図8に模式図を示した。図8(a)、図8(b)、図8(c)の順に切削が進められていく。
第1切削工程は、上述したようにして鏡面加工を行ったロール基体21を回転させ、ロール基体21の表面に形成された被加工層を切削チップ30(切削工具)により切削することによって行われる。この第1切削工程は、切削チップ30のような、すくい面31側から見た刃先34の形状が直線状である切削工具を用いて、以下に説明するように溝23の開口部側の一部を形成する工程である。すなわち、第1切削工程によって形成された溝23’(以下、未完成の溝23を「溝23’」と表記する。)は、底面が平らに形成される。
第1切削工程では、まず、図8(a)に示したように、切削チップ30によりロール基体21の外周面からロール基体21の回転軸の軸心方向に向けていわゆる切り込みをおこなう。第1切削工程では、このようにして溝23の開口部側の一部を切削し、溝23’を形成する。
次に、図8(a)に示した状態から、切削チップ30を溝23’からロール基体21の半径方向に後退させる。そして、溝23のピッチの半ピッチ分送り、図8(b)に示したように環状突起22の外周部位置までロール基体21の半径方向に切り込む。これにより、環状突起22の外周部が形成される。
その後、切削チップ30をロール基体21の半径方向に後退させ、次の溝を切削するために切削チップ30を送る。
以上の工程を繰り返すことによって、図8(c)に示したように、複数の溝23’及び環状突起22’(未完成の環状突起22を「環状突起22’」と表記することがある。以下同じ。)を形成することができる。
次に、第2切削工程について説明する。上述したようにして第1切削工程で溝23’を形成した後、第2切削工程では、すくい面側から見た刃先の形状が被切削物側に突出した曲線状又は折れ線状である切削工具を用いる。図9に、第2切削工程において用いる切削工具の一例である切削チップ130の概略的な図を示した。図9ではすくい面を符号131、前逃げ面を符号132、横逃げ面を符号133、刃先を符号134でそれぞれ表わしている。図9(a)は斜視図、図9(b)はすくい面131側からみた図、図9(c)は前逃げ面132側から見た図、及び図9(d)は横逃げ面133側から見た図である。
上記した切削チップ130を用いて次のように第2切削工程を行う。図10に模式図を示した。図10(a)、図10(b)の順に切削が進められていく。
第2切削工程では、第1切削工程によって形成された溝23’について、図10(a)に示したように、切削チップ130によりロール基体21の外周面からロール基体21の回転軸の軸心方向に向けて目的の深さまで切り込みを行い、溝23を形成する。すなわち、第2切削工程において、長手方向に直交する断面において折れ線状の溝23の底部を形成する。その後、切削チップ130をロール基体21の半径方向に後退させ、次の溝23を切削するために切削チップ130を送る。以上の工程を繰り返すことによって、図10(b)に示したように、複数の溝23及び環状突起22を形成することができる。
第1切削工程及び第2切削工程において、切り込み速度は、2(μm/回転)以上、5(μm/回転)以下であることが好ましい。さらに、切削チップ(切削工具)が切り込み深さに達したとき、そのままの姿勢でロール基体21を1回転以上させてから切削チップ30、130を後退させることが好ましい。これにより、ロール基体21の円周方向全周にわたり所定の切り込み深さになる。1回転未満で切削チップ30、130を後退させると、円周方向で部分的に所定の切り込み深さまで達していない箇所ができてしまう虞があり、外観不良や光学性能にばらつきが生じることがある。
また、第1切削工程及び第2切削工程において、切り込みの方向を、ロール基体21の回転軸の軸心方向に向かいつつ、送り方向(紙面左方向)にも進むような斜め方向とすることが好ましい。例えば第1切削工程についてより具体的に説明すると、図8(a)に矢印VIIIで示したように、切削チップ30のうち、切削時において送り方向と反対側(紙面右方向)となるバイト角度θa1と同じ角度となるように送りつつ、回転軸の軸心方向に切り込んでいく。切削工具によって溝を形成する際、切削工具によって該溝に隣接する環状突起が押され、該環状突起が曲がるようにして倒れる虞がある。しかしながら、上述したようにして斜めに切り込みをおこなうことにより、切削チップ30によって環状突起22’に加えられる力を小さく抑え、環状突起22’が倒れることを抑制することができる。
上記切削工程により環状突起22及び溝23が形成された後には、ロール金型の表面が腐食することの防止や、後述する光透過部構成組成物の離型性向上などの観点から、ロール金型の表面をクロム等でメッキすることが好ましい。
以上のようにしてロール基体21の周方向に延びるとともに、ロール基体21の回転軸方向(幅方向)の略全長(両端部を除く。)に亘って並列されるように環状突起22及び溝23を形成する。
切削工具によってロール金型の表面に溝を形成する際、該溝に隣接する環状突起が切削工具によって押される。その結果、環状突起が、該環状突起を介して切削工具によって切削されている溝とは反対側の溝の方に曲がるようにして倒れる現象が生じる虞がある。上述したように、この現象は、図9に示した切削チップ130ように、刃先の形状が複雑な切削工具を用いた場合により顕著になることがわかっている。これは、刃先が複雑な形状をした切削工具は、刃先が単純な形状をした切削工具に比べて切れ性が悪くなり易いため、上記のようにして切削工具が環状突起を押す力が強くなるためであると考えられる。しかしながら、上述した本製造方法では、第1切削工程においては刃先が単純な形状をした切削工具を用いているため、刃先が複雑な形状をした切削工具のみを用いて溝を形成する場合に比べて、環状突起が倒れる現象が生じることを抑制できる。したがって、長手方向に直交する断面における底部の形状が曲線や折れ線などの複雑な形状をした溝をロール金型の表面に形成する場合において、本製造方法によれば、該溝に隣接する環状突起が倒れる現象が生じることを抑制できる。
なお、第2切削工程において用いる切削工具が、ロール金型の表面に形成する溝の形状に応じて適宜変更可能である。図11は、第2切削工程で用いる切削工具の他の例を概略的に示す図である。図11(a)及び図11(b)は、それぞれ切削チップをすくい面側から見た図である。例えば、図4(a)に示したように先端が凸レンズ状に形成された光透過部を成型するための溝をロール金型の表面に形成するには、図11(a)に示したように、すくい面231から見た刃先234の形状が曲線状である切削チップ230を第2切削工程において用いればよい。また、図4(b)に示したように先端が多角形状に突出した光透過部を成型するための溝をロール金型の表面に形成するには、図11(b)に示したように、すくい面331から見た刃先334の形状が折れ線状である切削チップ330を第2切削工程において用いればよい。
次に、上記ロール金型20を用いて、光学シート10を製造する方法を説明する。図12に概要図を示した。はじめに基材11上に光透過部13を形成する。すなわち、図12からわかるようにロール金型20とこれに対向するように配置されたニップロール41との間に、基材層11となる基材11’を挿入する。このとき、基材11’とロール金型20との間に光透過部構成組成物13’を供給しながら図12に矢印で示したようにロール金型20及びニップロール41を回転させる。これによりロール金型20の表面に形成された溝23内に光透過部構成組成物13’が充填され、該光透過部構成組成物13’がロール金型20の表面形状に沿ったものとなる。
ここで、光透過部構成組成物13’としては、例えば、光硬化型プレポリマー(P1)に、反応性希釈モノマー(M1)及び光重合開始剤(S1)を配合した光硬化型樹脂組成物が好ましく用いられる。
上記光硬化型プレポリマー(P1)としては、例えば、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリエーテルアクリレート系、ポリエステルアクリレート系、ポリチオール系等のプレポリマーを挙げることができる。
また、上記反応性希釈モノマー(M1)としては、例えば、ビニルピロリドン、2−エチルヘキシルアクリレート、β−ヒドロキシアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等を挙げることができる。
また、上記光重合開始剤(S1)としては、例えば、ヒドロキシベンゾイル化合物(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインアルキルエーテル等)、ベンゾイルホルメート化合物(メチルベンゾイルホルメート等)、チオキサントン化合物(イソプロピルチオキサントン等)、ベンゾフェノン(ベンゾフェノン等)、リン酸エステル化合物(1,3,5−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等)、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。これらの中から、光硬化型樹脂組成物を硬化させるための照射装置及び光硬化型樹脂組成物の硬化性から任意に選択することができる。なお、光透過部13、13、…の着色防止の観点から好ましいのは、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及びビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドである。
光硬化型樹脂組成物に含まれる光重合開始剤(S1)の量は、光硬化型樹脂組成物の硬化性及びコストの観点から、光透過部構成組成物全量を基準(100質量%)として、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。一般に、光重合開始剤は少なくとも部分的に可溶性(例えば、樹脂の処理温度で)であり、重合された後、実質的に無色である。光重合開始剤を着色(例えば、黄色に着色)していてもよいが、光透過部構成組成物を硬化させて光透過部を形成したときに実質的に無色になることを条件とする。
これらの光硬化型プレポリマー(P1)、反応性希釈モノマー(M1)及び光重合開始剤(S1)は、それぞれ、1種類で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ロール金型20と基材11’との間に挟まれ、ここに充填された光透過部構成組成物に対し、基材11’側から光照射装置42により光を照射する。これにより、光透過部構成組成物13’を硬化させ、その形状を固定させることができる。そして、離型ロール43によりロール金型20から基材層11及び成形された光透過部13を離型する。
次に、光吸収部14を形成する。光吸収部14を形成するには、まず、凹部13aに光吸収部構成組成物を過剰に塗布する。その後、余剰分の光吸収部構成組成物をドクターブレード等で掻き落とす。そして、凹部13aに残った光吸収部構成組成物に光透過部側から光を照射することによって、光吸収部構成組成物に含まれるバインダ15を硬化させ、光吸収部14を形成することができる。
バインダとして用いられるものは特に限定されないが、これには例えば、光硬化型プレポリマー(P2)に、反応性希釈モノマー(M2)及び光重合開始剤(S2)を配合した光硬化型樹脂組成物が好ましく用いられる。
光硬化型プレポリマー(P2)としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、およびブタジエン(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
また、反応性希釈モノマー(M2)としては、例えば、単官能モノマーとして、ビニルモノマー、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、(メタ)アクリルアミド誘導体が挙げられる。また、多官能モノマーとして、(メタ)アクリレート系のものが挙げられる。
また、光重合開始剤(S2)としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。これらの中から、光硬化型樹脂組成物を硬化させるための照射装置及び光硬化型樹脂組成物の硬化性から任意に選択することができる。
なお、光硬化型樹脂組成物に含まれる光重合開始剤(S2)の量は、光硬化型樹脂組成物の硬化性及びコストの観点から、光硬化型樹脂組成物全量を基準(100質量%)として、0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
これらの光硬化型プレポリマー(P2)、反応性希釈モノマー(M2)及び光重合開始剤(S2)は、それぞれ、1種類で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
具体的には、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレートおよびメトキシトリエチレングリコールアクリレートからなる光重合性成分(詳しくは、光硬化型プレポリマー(P2)及び反応性希釈モノマー(M2))の屈折率、粘度、又は光学機能層12の性能への影響等を考慮して任意に配合して用いる。
また必要に応じて、添加剤として、シリコーン、消泡剤、レベリング剤及び溶剤等を光吸収部構成組成物に添加してもよい。
光吸収粒子16としては、カーボンブラック等の光吸収性の着色粒子が好ましく用いられるが、これらに限定されるものではなく、映像光の特性に合わせて特定の波長を選択的に吸収する着色粒子を使用してもよい。具体的には、カーボンブラック、グラファイト、黒色酸化鉄等の金属塩、染料、顔料等で着色した有機微粒子や着色したガラスビーズ等を挙げることができる。特に、着色した有機微粒子が、コスト面、品質面、入手の容易さ等の観点から好ましく用いられる。より具体的には、カーボンブラックを含有したアクリル架橋微粒子や、カーボンブラックを含有したウレタン架橋微粒子等が好ましく用いられる。こうした着色粒子は、通常、上記の光吸収部構成組成物中に3質量%以上30質量%以下の範囲で含まれる。着色粒子の平均粒子径は1.0μm以上20μm以下であることが好ましい。後に説明するように、光吸収部14を形成する際には、着色粒子を含有する光吸収部構成組成物を光透過部13間の凹部13aに充填した後にドクターブレードを用いて余剰分の光吸収部構成組成物を掻き落とす工程が含まれる。このとき、平均粒子径が1.0μm以上の着色粒子を用いることによって、着色粒子がドクターブレードと光透過部13の上部との間の隙間を抜け難くなり、光透過部13の上部に着色粒子が残留することを防止できる。
以上により、基材層11上に光透過部13及び光吸収部14を形成することによって光学シート10を得ることができる。なお、上述したようにロール金型20は従来のロール金型と比べて環状突起の倒れが抑制されているため、ロール金型20を用いて光透過部13が成型された光学シート10は、光透過部13の倒れが従来の光学シートより抑制されており、光学性能が優れている。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし本発明は実施例に限定されるものではない。
直径400mmの金型シリンダーを用意し、被加工層としての硬質銅メッキ(ビッカース硬度210Hv)を厚さ(片肉)0.5mmで表面に形成した。これをロール基体とした。そして、当該ロール基体の幅(軸方向の長さ)780mmの部分に溝を形成してロール金型を製造した。旋盤は東芝機械株式会社製のULR−635を使用した。
(第1切削工程)
第1切削工程における切り込み対象となる溝は、ピッチ(図6に示したP)を45μmとし、溝における切り込み深さは91μm、環状突起の外周部を形成する際の切り込み深さは10μmとした。ロール基体の回転数は440rpmに設定した。切削チップとしては、図13(a)に示したような、先端幅が35μm、テーパー角度が1.83度のダイヤモンドバイトを使用した。また切り込みは、ロール基体の半径方向に対して送り方向に1.83度の方向に斜めにした。すなわち、バイト角と同じである。切り込み速度は2μm/回転とした。
(第2切削工程)
第2切削工程では、切削チップとして、図13(b)に示したような、刃先の形状が被切削物側に突出しており、先端幅が34μm、テーパー角度が1.5°のバイトを使用した。第2切削工程では、第1切削工程にて形成された溝の底部から更に3μm深く彫り込んだ。第1切削工程での切り込み深さは91μmであったため、第1切削工程及び第2切削工程を合わせた切込み深さは94μmであった。また、第2切削工程における切り込み速度は6μm/回転とした。さらに、第2切削工程ではロール基体の回転軸に対して垂直に送なるように切り込んだ。
上記のようにしてロール金型を製造した結果、従来の方法で溝を形成した場合に比べて環状突起の倒れが少なかった。なお、従来の方法とは、上記実施例の第2切削工程で用いた切削チップと同様の形状の切削チップのみを用いてロール金型の表面に溝を形成する方法であり、その他の条件は実施例と同じである。以上の結果から、本発明によれば、環状突起の倒れが抑制されたロール金型を得られることがわかった。