JP5821436B2 - 皮膚色素濃度測定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、皮膚色素濃度の測定方法及びこの方法を用いた皮膚色素画像の形成方法に関する。
皮膚の見た目の色は、皮膚に含まれる色素の種類と濃度に依存する。そこで、従来より皮膚の色の観測に基づいて皮膚に含まれるメラニン、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンの濃度を測定する方法が提案されている。
例えば、ランベルト−ベールの法則から、皮膚の吸光度スペクトルは、皮膚に含まれるメラニン、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンの吸光度スペクトルの線形結合であるとのモデルをたて、皮膚のある領域に光を入射させると共に、同領域からの反射光を受光することにより平均値として得た所謂一点計測の皮膚の吸光度スペクトルを、メラニン、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンの吸光度スペクトルを用いて重回帰分析することにより、皮膚中のメラニン濃度、酸化ヘモグロビン濃度、又は還元ヘモグロビン濃度を求める方法が知られている(特許文献1)。
しかしながら、このモデルは、皮膚中の色素の吸収のみによって吸光度スペクトルが定まることを前提としており、皮膚を構成する表皮又は真皮における散乱や、表皮、真皮、皮下脂肪の各界面での散乱が考慮されていないため、色素濃度の測定精度が低い。
これに対し、皮膚における散乱を考慮したモンテカルロシミュレーションモデルで補われた重回帰分析法が提案されている(非特許文献1)。この分析法では、モンテカルロシミュレーションモデルによる吸光度スペクトルを目的変数とし、メラニン、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンの吸光係数スペクトルを説明変数として重回帰分析して、回帰パラメータの切片a0、メラニンの回帰パラメータam、及び総ヘモグロビンの回帰パラメータathを得(但し、ath=aoh+adh、aoh=酸化ヘモグロビンの吸収係数スペクトルの回帰パラメータ、adh=還元ヘモグロビン吸収スペクトルの回帰パラメータ)、これらa0、am及びathと、メラニン濃度Cm及び総ヘモグロビン濃度Cthとの関係式Cm=Fm(a0,am,ath)、Cth=Fth(a0,am,ath)を求めておく。
一方、任意の皮膚の吸光度スペクトルを、メラニン、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンの吸光係数スペクトルεm(λ)、εoh(λ)及びεdh(λ)を説明変数として重回帰分析して回帰パラメータの切片a0、メラニン吸光係数の回帰パラメータam、及び総ヘモグロビン吸光係数の回帰パラメータathを得、このa0、am、athと前述の関係式Cm=Fm(a0,am,ath)、Cth=Fth(a0,am,ath)とからメラニン濃度Cmと総ヘモグロビン濃度Cthを得る。
この方法において、酸素飽和度CStO2=aoh/(aoh+adh)である。
このモンテカルロシミュレーションモデルを用いた従来の色素濃度測定方法は、皮膚の吸光度スペクトルに散乱の影響を考慮しているので、色素濃度の測定精度が高い。しかしながら、ある程度の広がりをもった皮膚領域の色素濃度を調べるために、モンテカルロシミュレーションモデルを用いた従来の色素濃度測定方法を、皮膚画像を用いた色素濃度の測定方法に適用すると、肌の凹凸や照明ムラ等により画像面内に陰影が存在する場合に陰影の影響を受けて色素濃度の測定精度が低下する。
特開平11−299743号公報
Journal of Biomedical Optics 9(4): 700-710 (2004)
本発明は上述の従来の課題を解決しようとするものであり、皮膚画像から色素濃度を測定するにあたり、画像面内に陰影が存在する場合にもその影響を受けることなく、正確に測定できる方法を提供すること、また、皮膚の色素濃度分布を正確に表す皮膚色素画像を提供することを目的とする。
本発明者は、皮膚画像に陰影がない場合、皮膚の撮像により得た吸光度スペクトルを、メラニンの吸光係数スペクトルεm(λ)、酸化ヘモグロビンの吸光係数スペクトルεoh(λ)及び還元ヘモグロビンの吸光係数スペクトルεdh(λ)で重回帰分析して得られる回帰パラメータの切片a0には、各色素の濃度情報や皮膚散乱情報が反映されるために、この回帰パラメータの切片a0を用いて回帰パラメータと色素濃度との関係式を求めると、色素濃度を正確に求めることができるのに対し、皮膚画像に陰影がある場合には、回帰パラメータの切片a0を使用することなく、回帰パラメータと色素濃度との関係式を求めることにより、回帰パラメータと色素濃度との関係から陰影情報の影響を排除できることを見出し、そして、任意の皮膚の吸光度スペクトルを色素の吸光係数スペクトルで重回帰分析して得られる回帰パラメータと、前述の関係式とから皮膚の色素濃度を求めることにより、皮膚画像に形成された陰影の影響を受けることなく、色素濃度を正確に求められることを見出した。
即ち、本発明は、皮膚の色素濃度から分光反射率を算出するシミュレーションモデルに基づき、複数の色素を含む皮膚モデルの吸光度スペクトルを、各色素の吸光係数スペクトルεi(λ)(色素の種類をNとしてi=1,2,…,N、 以下同じ)を用いて、各色素濃度Ci(i=1,2,…,N)の組み合わせが異なる複数の場合について求め、得られた複数の皮膚モデルの吸光度スペクトルを、各色素の吸光係数スペクトルεi(λ)(i=1,2,…,N)を説明変数として重回帰分析することにより、以下の重回帰式(1)で得られる回帰パラメータai(i=1,2,…,N)の組を複数求め、
得られた複数の回帰パラメータai(i=1,2,…,N)と前記複数の色素濃度Ci(i=1,2,…,N)とから次式(2)の関係式Fi(i=1,2,…,N)を求め、
一方、被験者の皮膚の吸光度スペクトルを取得し、その吸光度スペクトルを、各色素の吸光係数スペクトルεi(λ)(i=1,2,…,N)を説明変数として重回帰分析することにより、被験者の皮膚の吸光度スペクトルの回帰パラメータai(i=1,2,…,N)を求め、この回帰パラメータai(i=1,2,…,N)と前述の関係式Fi(i=1,2,…,N)とから、被験者の皮膚の複数の色素濃度Ci(i=1,2,…,N)のうち少なくとも一つを求める皮膚色素濃度測定方法を提供する。
また、本発明は、被験者の皮膚の内部反射光画像の各ピクセルについて、上述の方法により皮膚の各色素濃度Ci(i=1,2,…,N)の少なくとも一つの色素濃度を求め、その色素濃度の分布画像を形成する皮膚色素画像の形成方法を提供する。
さらに、本発明は、こうして形成した皮膚色素画像を提供する。
本発明によれば、皮膚画像に基づき、その画像に形成された陰影の影響を受けることなく、皮膚のメラニン、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン等の各色素濃度分布を正確に求めることができる。したがって、皮膚を観察したときの見え方と皮膚中の色素濃度との関係がわかる。また、ヘモグロビンの酸素飽和度も容易に分析することが可能となり、皮膚における酸素の消費状態、血行状態などを推定することが可能となる。さらに、化粧料を適用した皮膚について、本発明の皮膚色素画像を経時的にとり、例えば、メラニン濃度、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンの各濃度変化を調べることにより、化粧料の有効性の評価を行うことが可能となる。また、本発明は、店頭での美容のための肌診断などでも有用となる。
図1は、被験者の内部反射光画像から分光反射スペクトルを得るための撮像系の一例である。 図2は、色素濃度Cm、Coh及びCdhと回帰パラメータam、aoh及びadhとの関係式Fm、Foh、Fdhを求めるフローの説明図である。 図3は、実施例及び比較例の方法で得られた回帰パラメータam、aoh、dh及びa0の画像である。 図4は、画像に陰影を形成する方法の説明図である。 図5は、実施例及び比較例のメラニン画像と総ヘモグロビン画像である。
以下、図面に基づき、本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は、同一又は同等の構成要素を表している。
本発明の皮膚色素濃度の測定方法では、被験者の皮膚の吸光度スペクトルA(λ)から被験者の皮膚中の色素濃度を求めるために、まず、皮膚のシミュレーションモデルに基づき、皮膚に複数の色素が種々の濃度Ci(i=1,2,…,N)で含まれている場合の吸光度スペクトルA(λ)を求め、この吸光度スペクトルA(λ)を各色素の吸光係数スペクトルεi(λ)(i=1,2,…,N)を説明変数として重回帰分析する。例えば、皮膚中の色素として、メラニン、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンを考える場合に、皮膚のシミュレーションモデルに基づく吸光度スペクトルA(λ)を、メラニンの吸光係数スペクトルεm(λ)、酸化ヘモグロビンの吸光係数スペクトルεoh(λ)及び還元ヘモグロビンの吸光係数スペクトルεdh(λ)を説明変数として重回帰分析して以下の重回帰式(1)aを得る。
そして、この式(1)aで得られる回帰パラメータam、aoh、adhとその切片aoのうち、切片aoを使用することなく、回帰パラメータam、aoh、adhからメラニン濃度Cm、酸化ヘモグロビン濃度Coh及び還元ヘモグロビン濃度Cdhを求める次式(2)aの関係式Fm、Foh、Fdhを求めておくことを特徴とする。
重回帰式(1)aの切片aoには、メラニン、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンの各色素の濃度情報が含まれると考えられ、さらに、波長依存性がないことから、真皮内の光散乱や真皮と皮下組織との界面での皮膚散乱の情報が含まれる、と考えられている。このため、メラニン、ヘモグロビン等の色素の種々の濃度ci(i=1,2,…,N)の組み合わせについて吸光度スペクトルを求め、色素濃度と重回帰式(1)の回帰パラメータai(i=1,2,…,N)あるいはその切片aoとの関係式Fを求めておき、一方、任意の吸光度スペクトルを重回帰分析することにより回帰パラメータaiあるいはその切片aoを得、得られた回帰パラメータaiあるいは切片ao、と前述の関係式Fとから色素濃度ciを得る場合に、モンテカルロシミュレーションモデルを用い、回帰パラメータとしてメラニンの吸光係数スペクトルεm(λ)の回帰パラメータamと総ヘモグロビンの吸光係数スペクトルεth(λ)の回帰パラメータathを使用する従来の色素濃度測定方法(非特許文献1)では、関係式Fに、回帰パラメータの切片aoが含まれていた。これに対し、本発明はこの関係式として、回帰パラメータの切片aoを含まない前述の式(2)、より具体的には、色素として、メラニン、酸化ヘモグロビン、及び還元ヘモグロビンを考える場合に前述の次式(2)aの関係式Fm、Foh、Fdhを使用する。
これにより、吸光度スペクトルを撮像画像から求める場合に、その画像に陰影があっても、それらによる画像の暗さが皮膚内部での吸収・散乱の影響と誤測定されることなく、正確に色素濃度を測定することが可能となる。これは、回帰パラメータの切片aoは、波長依存性がないことから、画像に陰影ができた場合、陰影情報がこの切片aoに集約されるためと考えられる。
また、モンテカルロシミュレーションモデルを用いた従来の色素濃度測定方法(非特許文献1)において色素濃度Cm、Coh及びCdhを得る場合に、単に切片aを除くだけでは、色素濃度がCm、Coh及びCdhの3種類であるのに対して、重回帰パラメータはamとathの2種類のみなので、3対2の対応となるために精度が低下してしまうが、athの代わりにaohとadhを用いると、3種類の重回帰パラメータを対応させることができるので、精度の低下を避けることができる。
本発明においては、上述のように、式(2)の関係式
を求めるため、まず、皮膚の色素濃度から分光反射率を算出するシミュレーションモデルに基づき、複数の色素を含む皮膚モデルの吸光度スペクトルを、既知の色素の吸光係数スペクトルεi(λ)(i=1,2,…,N)を用いて求める。
このシミュレーションモデルとしては、例えば、モンテカルロシミュレーション(L.-H. Wang, S.L. Jacques, and L.-Q.Zheng,Computer Methods and Programs in Biomedicine 47, 131-146 (1995).)を用いることができる。モンテカルロシミュレーションは、皮膚に入射した光が、実効散乱係数と吸収係数に従った確率で散乱、吸収され、拡散反射されるとするモデルである。この色素として、例えば図2に示すように、メラニン、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンを考える場合、実効散乱係数スペクトル(μs'(λ))と、メラニン、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンの各色素の吸光係数スペクトルεm(λ)、εoh(λ)、εdh(λ)と、各色素の濃度Cm、Coh、Cdhから分光反射率R(λ)を求めることを可能とする。
より具体的には、この皮膚モデルにおいて、
表皮の減衰係数は、Cm×εm(λ) で表され、
真皮の減衰係数は、Coh×εoh(λ)+Cdh×εdh(λ) で表される。
実効散乱係数スペクトル(μs'(λ))や各色素の吸光係数スペクトルεm(λ)、εoh(λ)、εdh(λ)は文献値を用いることができることから、任意に各色素の濃度Cm、Coh、Cdhを設定することにより、設定した色素濃度での分光反射率R(λ)を求めることができる。
なお、本発明において、皮膚の色素濃度から分光反射率を算出するシミュレーションモデルとしては、モンテカルロシミュレーションに限らず、例えば、クベルカ-ムンクの式 (Kubelka-Munk formula)、Adding-Doubling法 (Adding-Doubling method)、拡散理論 (Diffusion theory)、擬似皮膚を使った実測値に基づくモデルなどを使用してもよい。
現象記述の正確さと得られる複数のスペクトル間との整合性の高さから、モンテカルロシミュレーションに基づくモデルが好ましい。
こうして得られた分光反射率R(λ)は、吸光度スペクトルA=log(1/R)により、吸光度スペクトルに変換し、さらにメラニン、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンの各色素の吸光係数スペクトルεm(λ)、εoh(λ)、εdh(λ)を説明変数として式(1)aのように重回帰分析し、回帰パラメータam、aoh及びadhと切片a0を求める。
この色素の濃度Cm、Coh及びCdhと回帰パラメータam、aoh及びadhを、種々の色素濃度Cm、Coh及びCdhの組み合わせについて取得し、色素濃度Cm、Coh及びCdhと回帰パラメータam、aoh及びadhとの関係式Fm、Foh、Fdhを求める。
関係式の具体的な取得方法としては、例えば、次式のように多項式近似をすることができる。
色素濃度Cm、Coh及びCdhと回帰パラメータam、aoh及びadhとの関係式Fm、Foh、Fdhを求める手法としては、多項式近似に代えて、ルックアップテーブルによる対応付け、直線近似、指数関数近似、対数関数近似等を用いても良い。
本発明において、上述の図2に示した関係式Fm、Foh、Fdhの求め方は、皮膚内にさらに他の色素が存在する場合、例えば、カロテン、ビリルビン、AGEsなどが存在する場合にも適用することができ、式(2)を求めることができる。
一方、本発明の方法においては、上述の関係式Fi(a1,a2,…,aN)とは別に、被験者の皮膚の吸光度スペクトルを取得する。吸光度スペクトルの取得方法は、皮膚の狭い領域に所定波長の光を入射させると共にその領域から受光した反射光の平均値を用いる、所謂一点計測の分光反射率測定装置を使用してもよいが、皮膚の代謝や血行状態の観察のし易さの点から皮膚の内部反射光の撮像により求めることが好ましい。
例えば、図1に示す撮像系のように、被験者1に、第1の偏光フィルタ2aを通して光源3から光を入射させ、第2の偏光フィルタ2bを備えた波長可変フィルタ4を通してデジタルカメラ5で皮膚画像を撮る。この場合、第1の偏光フィルタ2aと第2の偏光フィルタ2bの偏光方向を直交させることにより、第2の偏光フィルタ2aで被験者1の皮膚からの表面反射光を遮光し、皮膚の色情報を担う内部反射光のみがデジタルカメラ5で受光されるようにする。
光源3としては、白色光を発するハロゲンランプ、メタルハロゲンランプ等を使用する。光源3は、平行光を発するものでも拡散光を発するものでもよい。本発明の方法によれば、取得画像内の陰影に関係なく皮膚中の色素濃度を正確に測定できるため、光源としては、被写体に陰影を形成するものでも使用することができる。好ましくは、入射角0〜45°の範囲で被験者1の皮膚に光を出射するものを使用する。
波長可変フィルタ4は、コントローラ6の制御により透過波長を変更する。これにより、例えば、波長500nmから20nm間隔で撮像波長をずらしながら、内部反射光画像を繰り返し撮る。この場合、白色板の明るさを基準に、波長領域ごとの感度を揃えることが好ましい。
デジタルカメラ5は、全測定波長領域に渡って感度を有するカメラであれば、モノクロカメラで充分であるが、カラーカメラでも差し支えない。
こうしてデジタルカメラ5で撮影した画像は、パーソナルコンピュータ等の演算装置7に保存する。演算装置7は、各ピクセルの画素値から、各ピクセルごとに反射率を算出する。撮影にカラーカメラを用いた場合は、画素値としてRGB各画素値の重み付き平均を用いればよく、測定波長に対する感度を有する特定の画素のみを用いても良い。演算装置7において、画素値から分光反射率を算出させるためには、画像処理が可能なプログラミング環境を用いて、波長ごとに白色板の画素値を反射率に変換するための係数を求め、その係数を該波長画像全体に適用すればよい。このようなプログラミング環境としては、MATLAB(Mathworks社製)等を使用することができる。
演算装置7は、分光反射率を吸光度スペクトルに変換し、さらにそれを各色素の吸光係数スペクトルεi(λ)(i=1,2,…,N)を説明変数として重回帰分析することにより回帰パラメータai(i=1,2,…,N)を算出する。
また、この演算装置7には、前述の色素濃度Ci=Fi(a1,a2,・・・aN)と回帰パラメータai(i=1,2,…,N)との関係式
を記憶させておき、この関係式(2)と、被験者の内部反射光画像から取得した分光反射率から算出した回帰パラメータai(i=1,2,…,N)から各色素濃度Ci(i=1,2,…,N)を算出できるようにすることが好ましい。より具体的には、色素としてメラニン、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンを考える場合、前述の式(2)a
と、メラニン、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンの各色素の回帰パラメータam、aoh及びadhから、メラニン、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンの各色素濃度Cm、Coh及びCdhを算出する。
さらに、被験者の皮膚画像の各ピクセルについて算出した各色素濃度Ci(i=1,2,…,N)の一つ又は任意の組み合わせを全ピクセルで表示させ、皮膚色素画像を形成することが好ましい。こうして得られる皮膚色素画像は、陰影の影響がなく、色素の正確な濃度分布を示すものとなる。
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1、比較例1
図1に示した撮像系で被験者の前腕内側の皮膚の内部反射光画像を、波長500nm〜600nmの間を20nm間隔で撮影して分光反射率を求めた。この場合、カメラの左右に配した光源が測定部位をできるだけむらなく照らすようにし設置し、画像に陰影ができないようにした。また、波長可変フィルタとして、VariSpec(CRi社製)を用いた。
得られた分光反射率を、メラニンの吸光係数スペクトルεm(λ)、酸化ヘモグロビンの吸光係数スペクトルεoh(λ)及び還元ヘモグロビンの吸光係数スペクトルεdh(λ)を説明変数として重回帰分析することにより回帰パラメータam、aoh、adh及び切片am0を算出した。この場合、メラニンの吸光係数スペクトルεm(λ)、酸化ヘモグロビンの吸光係数スペクトルεoh(λ)及び還元ヘモグロビンの吸光係数スペクトルεdh(λ)は、次の文献に記載されている値を用いた。こうして得た回帰パラメータを図3(上段)に示す。
IEEE Trans.Biomed.Eng.36(1989) 1146‐1154
http://omlc.ogi.edu/news/jan98/skinoptics.html
http://omlc.ogi.edu/spectra/
SPIE Proc. 3252(1998) 70‐82
J.Invest Dermatol 77,1(1981) 13‐19
一方、計算ソフト「MCML」(Computer Methods and Programs in Biomedicine 47:131-146 (1995))を使用し、メラニン、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンを含む皮膚モデルの分光反射スペクトルをモンテカルロシミュレーションモデル(Journal of Biomedical Optics 9(4):700-710 (2004))から求め、さらに吸光度スペクトルに換算した。
この場合、皮膚モデルは、表皮厚0.006cm、真皮厚0.494cmとし、表皮にメラニンが含まれ、真皮にヘモグロビンが含まれるとした。
表皮及び真皮の屈折率は1.4で一定とした。
分光波長は、500、520、540、560、580、600nmの6条件とした。
メラニン濃度は、1〜10%の間で1%ごとの10条件とし、ヘモグロビン濃度は、0.2〜1.0%の間で0.2%ごとの5条件とし、酸素飽和度は、0〜100%の間で20%ごとの6条件とした。ここで、メラニン濃度は、吸光度がJournal of Photochemistry and Photobiology Vol.53 No.6 769-775で与えられたメラノソームの吸光度と等しくなるときの濃度を100%としたときの比率である。また、酸化、還元ヘモグロビン濃度は、それぞれヘマトクリット45%の血液の酸素飽和度100%、0%のときの濃度を100%としたときの比率である。
そこで、6×10×5×6=1800条件の反射率を計算し、10×5×6=300条件の分光反射率を取得し、10×5×6=300条件の色素濃度と回帰パラメータの対を取得し、2次の多項式近似を行うことにより回帰パラメータam、aoh及びadhと色素濃度Cm、Coh及びCdhとの関係式Cm=F1 m(am,aoh,adh)、Coh=F1 oh(am,aoh,adh)、Coh=F1 oh(am,aoh,adh)を取得した(実施例1)。
また、同様にして、回帰パラメータ、am、ath(ath=aoh+adh)、a0を用いて
関係式Cm=F2 m(am,ath,a0)、Cth=F2 th(am,ath,a0)を取得した(比較例1)。
図3(上段)は、被験者の肌画像から得られた切片a0及び回帰パラメータam、aoh及びadh(実施例1、比較例1共通)である。モンテカルロシミュレーションから、切片a0がおよそ0.13から0.43の値をとることが予想されている。一方で、実施例1又は比較例1における画像中央付近では切片a0=約2.3程度であった。このa0の値は、前出のモンテカルロシミュレーションによる切片a0の値と比べて大きく乖離しているので、切片a0の値には肌の凹凸や照明の影響により意図しない陰影が反映されていると考えられる。
実施例1、比較例1のそれぞれで各色素濃度を求める関係式F1 m、F1 oh、F1 dh、F2 m、F2 thと、図3(上段)に示した回帰パラメータとから、実施例1、比較例1のそれぞれについてメラニン濃度と総ヘモグロビン濃度を求めた。このメラニン濃度と総ヘモグロビン濃度を画像の全ピクセルにおいて求め、表示させた。これを図5に示す。図5から、実施例1及び比較例1のいずれの方法でもメラニン濃度と総ヘモグロビン濃度が測定されているが、比較例1の画像はピンボケになっている。これは、実施例1及び比較例1の測定部位には、意図的に陰影を形成していないものの、肌状態や撮影条件等で生じた細かな陰影のため、比較例1の方法ではメラニン濃度や総ヘモグロビン濃度が正確には測定されていないことによる。
実施例2、比較例2
実施例1において画像を撮る際に、図4に示すように、カメラの左右に配置した2つある光源の内一方の光源3と被写体1との間に三日月型の遮蔽物8をおいてカメラ5で撮影される画像に意図的に明らかな陰影(三日月型の影)をつけ、この陰影付の画像を用いて実施例1、比較例1を繰り返した。なお、被験者の測定部位は実施例1と同じである。
図3(下段)は、陰影付の被験者の肌画像から得られた回帰パラメータ(実施例2、比較例2共通)である。同図から、陰影付画像では、与えた陰影の影響が回帰パラメータの切片a0に現れており、このことから切片a0が色素濃度を正しく反映していないことがわかる。
図3(下段)の回帰パラメータと、実施例1及び比較例1で求めたそれぞれの関係式F1 m、F1 oh、F1 dh、F2 m、F2 thから実施例2及び比較例2のメラニン濃度及び総ヘモグロビン濃度を画像の全ピクセルについて求め、図5に示した。図5から、比較例2によれば、メラニン画像にも総ヘモグロビン画像にも遮蔽物8の陰影が映っており、色素濃度が正しく測定されていないのに対し、実施例2では陰影の影響が完全に除かれていることがわかる。
1 被験者
2a 第1の偏光フィルタ
2b 第2の偏光フィルタ
3 光源
4 波長可変フィルタ
5 デジタルカメラ
6 コントローラ
7 演算装置
8 遮蔽物

Claims (7)

  1. 皮膚の色素濃度から分光反射率を算出するシミュレーションモデルに基づき、複数の色素を含む皮膚モデルの吸光度スペクトルを、各色素の吸光係数スペクトルεi(λ)(色素の種類をNとしてi=1,2,…,N、 以下同じ)を用いて、各色素濃度Ci(i=1,2,…,N)の組み合わせが異なる複数の場合について求め、得られた複数の皮膚モデルの吸光度スペクトルを、各色素の吸光係数スペクトルεi(λ)(i=1,2,…,N)を説明変数として重回帰分析することにより、以下の重回帰式(1)で得られる回帰パラメータai(i=1,2,…,N)の組を複数求め、
    得られた複数の回帰パラメータai(i=1,2,…,N)と前記複数の色素濃度Ci(i=1,2,…,N)とから次式(2)の関係式Fi(i=1,2,…,N)を求め、
    一方、被験者の皮膚の吸光度スペクトルを取得し、その吸光度スペクトルを、各色素の吸光係数スペクトルεi(λ)(i=1,2,…,N)を説明変数として重回帰分析することにより、被験者の皮膚の吸光度スペクトルの回帰パラメータai(i=1,2,…,N)を求め、この回帰パラメータai(i=1,2,…,N)と前述の関係式Fi(i=1,2,…,N)とから、被験者の皮膚の複数の色素濃度Ci(i=1,2,…,N)のうち少なくとも一つを求める皮膚色素濃度測定方法。
  2. 皮膚の色素濃度と分光反射率とのシミュレーションモデルとして、皮膚のモンテカルロシミュレーションを使用する請求項1記載の皮膚色素濃度測定方法。
  3. 被験者の皮膚の吸光度スペクトルを、被験者の皮膚の内部反射光画像から求める請求項1又は2記載の皮膚色素濃度測定方法。
  4. メラニン濃度Cm、酸化ヘモグロビン濃度Coh、及び還元ヘモグロビン濃度Cdhの少なくとも一つの色素濃度を求める請求項1〜3のいずれかに記載の皮膚色素濃度測定方法。
  5. 被験者の皮膚の内部反射光画像の各ピクセルについて、請求項1〜3のいずれかに記載の方法により皮膚の少なくとも一つの色素濃度を求め、その色素濃度の分布画像を形成する皮膚色素画像の形成方法。
  6. メラニン濃度Cm、酸化ヘモグロビン濃度Coh、及び還元ヘモグロビン濃度Cdhの少なくとも一つの色素濃度の分布画像を形成する請求項5記載の皮膚色素画像の形成方法。
  7. 演算装置を備えた皮膚色素画像の表示装置であって、該演算装置から出力される皮膚画像の各ピクセルが請求項5又は6記載の方法により形成され、各ピクセルが表示する色素濃度Ciが前記式(2)の関係式
    を満たす皮膚色素画像の表示装置

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