(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1ないし図5を参照して説明する。本第1実施形態に係る固定装置はチルト式ステアリングコラムのチルト調節機構の一部を構成する。そこで、まず初めに、本第1実施形態に係るチルト位置固定装置を適用することが出来るチルト式ステアリングコラム及びそのチルト調節機構の一例について、図1及び図2を参照して説明する。
本第1実施形態に係るチルト位置固定装置を適用することが出来るチルト式ステアリングコラム20は、図1に示すように、ステアリングコラム21とチルト調節機構を構成する固定装置25及び傾動中心部51とから成る。ステアリングコラム21は略円筒状をしており、その内部を貫いてステアリングシャフト22が配置されている。該ステアリングシャフト22は、ステアリングコラム21の両端部にそれぞれ止め輪29、30によって固定された軸受23、24によって回転自在に支持されている。図1に向かって右側のステアリングシャフト22部分にステアリングホイールが取り付けられる。
チルト調節機構の一部を構成する固定装置25は、車体に取り付けられ、ステアリングコラム21のアッパー側(車両後方側)を支持する装置であり、使用者はこの固定装置25のチルト調節レバー35を操作してチルト位置のロックとアンロックとを切り替える。傾動中心部51は、車体に取り付けられ、ステアリングコラム21のロア側(車両前方側)を支持する装置であって、アンロック状態の時にステアリングコラム21の傾動の中心となる部分である。傾動中心部51は、車体に取り付けられるロアブラケット26と、ステアリングコラム21に固定されたロアディスタンスブラケット28と、ロアブラケット26とロアディスタンスブラケット28とに形成された孔部に挿通されチルト動作の中心となるチルトピン27と、からなる。
図2(a)は、本第1実施形態に係る固定装置25をステアリングコラム21の長さ方向と垂直な面で切断した断面図である。固定装置25は、図2(a)に示すように、チルトブラケット31、チルト調節ボルト32、ナット33、ディスタンスブラケット34、チルト調節レバー35ならびに固定カム36及び可動カム37を備える。車体に固定されるチルトブラケット31は、車体に固定される部分から互いに間隔をおいて突出した一対のブラケット52a、52bを備えており、該一対のブラケット52a、52bの間にディスタンスブラケット34と連結されたステアリングコラム21が配置され、ステアリングコラム21の中にはステアリングシャフト22が収容されている。一対のブラケット52a、52bには、それぞれ対面する位置にステアリングコラムの傾動方向に延びる一対の円弧状長孔42a、42bが形成されており、また、該円弧状長孔42a、42bに対面するディスタンスブラケット34の部分には一対のボルト孔部53a、53bが形成されている。チルト調節ボルト32は、一対の円弧状長孔42a、42b、一対のボルト孔53a、53b、並びに、スラストベアリング40、チルト調節レバー35、固定カム36及び可動カム37に形成されたボルト孔に挿通され、チルト調節ボルト32の先端の雄ねじ部にはナット33が螺合している。スラストベアリング40は、チルト調節ボルト32の頭部とチルト調節レバー35との間で生じる摩擦によってレバー操作が重くなるのを防ぐ効果を有する。
固定カム36は、図2(b)に示すように、略ドーナツ状をしており、円弧状長孔42aを横断方向に跨いで配置される。図3(a)は、円弧状長孔42aとは反対側の固定カム36の面(以下、固定カムにおいてこの面を「正面」という。)を示している。固定カム6の正面には他の部分よりも突出したカム要素38a、38b、38c、38dが形成されている。図3(a)は、固定カム36の正面の詳細な平面図である。カム要素38aないし38dは、同一円周上に一定の円周方向の間隔を保って並んでいる。カム要素38aないし38dは、それぞれ、チルト調節ボルト32の軸線方向と垂直なカム要素頂上面60a、60b、60c、60dと、該カム要素頂上面60aないし60dの円周方向の端部に隣接し、カム要素頂上面60aないし60dよりもさらに突出して固定カム36の径方向に延びるストッパ突起39a、39b、39c、39dと、円周方向においてストッパ突起39aないし39dが隣接するのとは反対側でカム要素頂上面60aないし60dに隣接してカム要素頂上面60aないし60dとカム要素38aないし38dが形成されていない平面部119とを傾斜面でつなぐカム面62a、62b、62c、62dとを有している。ストッパ突起39aないし39dは、可動カム37の回転量を規制するストッパとして機能するものであり、チルト調節レバー35の操作が過大に行われた場合にも破損しない強度を有している。カム要素38aないし38dのいずれにおいても、ストッパ突起39aないし39dは、カム要素頂上面60aないし60dに対して、固定カム36の正面に向かって時計回りの進行方向とは反対側に隣接しており、カム面62aないし62dは、カム要素頂上面60aないし60dに対して、固定カム36の正面に向かって時計回りの進行方向側に隣接している。
円弧状長孔42aに対面する側の固定カム36の面(以下、固定カムにおいてこの面を「背面」という。)には、図3(b)及び(c)に示すように、円弧状長孔11の円弧状の内周面に対面する平行面Pを有する背面ボス41が形成されている。該背面ボス41が円弧状長孔42a内に挿入されることにより、固定カム36は、円弧状長孔42aの円弧方向に沿って移動することはできるが、チルト調節ボルト32を中心として回転することはできないものとなる。
図4は可動カム37の詳細を示す図である。可動カム37は、固定カム36と略同一の径寸法を有する略ドーナツ状をしている。図4(a)は固定カム36と対面する側の可動カム37の面(以下、可動カムにおいてこの面を「正面」という。)を示しており、この面には固定カム36と同様に同一円周上に一定の間隔を保って並ぶ4つのカム突起43a、43b、43c、43dが形成されている。カム突起43aないし43dは、固定カム36の正面と可動カム37の正面とが円周方向の一定の相対角度において対面した時に、固定カム36に形成されたカム要素38aないし38dにそれぞれ対面する。カム突起43aないし43dは、それぞれ、チルト調節ボルト32の軸線方向と垂直なカム突起頂上面70a、70b、70c、70dと、可動カム37の正面に向かって時計回りの進行方向側でカム突起頂上面70aないし70dに隣接する端部R71a、71b、71c、71dとを備えている。カム突起頂上面70aないし70dと端部R71aないし71dをこのように配置することで、固定カム36のカム要素38aないし38dと可動カム37のカム突起43aないし43dとが噛み合った状態(カム要素頂上面60aないし60dとカム突起頂上面70aないし70dが対面していない状態)において、固定カム36のカム面62aないし62dと、可動カム37の端部R71aないし71dとが円周方向に対面する。端部R71aないし71dは、径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2へ向かうにつれて小さくなるように、すなわち、径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2へ向かうにつれて曲率半径が小さくなるように成形されている。
チルト調節レバー35に対面する側の可動カム37の面(以下、可動カムにおいてこの面を「背面」という。)には、図4(b)及び(c)に示すように、チルト調節レバー35に形成された孔部(不図示)と係合するボス45を備える。該ボス45は、平行面Pを有し、チルト調節レバー35に一体的に圧入されており、可動カム37はチルト調節レバー35の回動に応じてチルト調節ボルト32を中心として回転する。
図5は本願の第1実施形態に係る固定カム36と可動カム37の動作を示しており、固定カム36及び可動カム37の径方向外側から径方向内側を見た状態を示している。図5(a)はカム突起43a、43bがカム要素38a、38bに乗り上げる前の状態を示している。この状態においては、カム突起43a、43bとカム要素38a、38bの位置が円周方向にずれており、カム突起43a、43bとカム要素38a、38bが、カム突起43a、43b、カム要素38a、38bの形成されていない部分に入り込み、全体として噛み合っているため、可動カム37は固定カム36と近接している。チルト調節ボルト32の頭部とナット33との間に配置されているスラストベアリング40、可動カム37、固定カム36、一対のブラケット52a、52b、ディスタンスブラケット34は、この状態において、その間に僅かな隙間を持つように設定されている。したがって、これらの部材の間に突っ張り力は発生せず、チルト調節機構は解除された状態(アンロックの状態)である。
図5(b)はカム突起43a、43bがカム要素38a、38bに乗り上げる途中の状態を示した図である。チルト調節レバー35を締付側へ(車両前方側から車両後方側)へ操作すると、それに伴って可動カム37が回転し、可動カム37のカム突起43a、43bの端部R71a、71bが、固定カム36のカム面62a、62bと接触する。このとき端部R71a、71bは、上述のように径方向外側の端部R1よりも径方向内側の端部R2の方が小さく、つまり、径方向外側の端部R1よりも径方向内側の端部R2の曲率が大きく成形されているので、径方向外側の端部R1は固定カム36のカム面62a、62bに接触せずに、円周内側の端部R2のみが固定カム36のカム面62a、62bと接触する。これにより、可動カム37の回転中心から固定カム36との間で摩擦が生じる部分までの距離が短くなるため、チルト調節レバー35の操作に要する操作力が小さくなる。また、可動カム37の端部R71a、71bの径方向外側の端部R1と径方向内側の端部R2が共にRで成形されているため、可動カム37のカム突起43a、43bが固定カム36のカム要素38a、38bのカム要素頂上面60a、60bに乗り移る際に、引っ掛かり無くスムーズに乗り移ることができ、レバー操作が滑らかになる。更に、端部Rの大きさ、つまり、端部Rの曲率を、可動カム37の端部R71a、71bの径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2に漸次変化させることで、チルト調節レバー35を繰り返し操作した時の磨耗による操作力の経時変化を少なくしている。
図5(c)はカム突起43a、43bがカム要素38a、38bに乗り上げてストッパ突起39a、39bまで達した状態を示している。カム要素頂上面60a、60bとカム突起頂上面70a、70bとが接触しているため、図5(a)の状態(アンロックの状態)と比較して、固定カム36と可動カム37の位置がチルト調節ボルト35の軸線方向に離れている。図5(a)の状態よりも離れた距離は、アンロックの状態でチルト調節ボルト35の頭部とナット33との間に配置された部材の間に設けられた上述の隙間よりも僅かに大きく設定されている。これにより、チルト調節ボルト35の頭部とナット33との間に配置された部材の間に突っ張り力が発生し、一対のブラケット52a、52bがディスタンスブラケット34を保持し、ディスタンスブラケット34に接合されたステアリングコラム21が固定される。このようにステアリングコラム21をロックしたときには、カム要素頂上面60a、60bとカム突起頂上面70a、70bが面接触するので、ボルト軸力を強大にした時の接触面の圧力上昇を抑えて、磨耗を抑える効果がある。これにより、チルト保持力を一段と高めることが可能になる。なお、ここまで図5を参照してカム突起43a、43b及びカム要素38a、38bについて説明したが、カム突起43c、43d及びカム要素38c、38dについても同様である。
本第1実施形態は、固定カム36にカム要素38aないし38dを、可動カム37にカム突起43aないし43dを設けているが、固定カムにカム突起を、可動カムにカム要素を設けても同様の効果を得ることが出来る。また、カム要素38aないし38d、カム突起43aないし43dの数は実施例に限定されず、例えば3つにしても良い。更に、可動カム37の端部R71aないし71dの径方向外側の端部R1の部分は、固定カムのカム面62aないし62dに接触しなければ必ずしもR形状にしなくても良い。例えば、平坦な傾斜面とすることができる。加えて、カム要素頂上面60aないし60dに対するカム面62aないし62d及びストッパ突起39aないし39dの円周方向の位置を相互に入れ替えても良い。すなわち、カム要素頂上面60aないし60dに対し、固定カム36の正面に向かって時計回りの進行方向側にストッパ突起39aないし39dを設け、該時計回りの進行方向とは反対側にカム面62aないし62dを設けることが出来る。この場合、可動カム37においては、カム突起頂上面70aないし70dに対し、可動カム37の正面に向かって時計回りの進行方向とは反対側に端部R71aないし71dを設ける必要があり、チルト調節レバー35の操作の向きが逆になる。
本第1実施形態ではチルト式ステアリングコラムについて述べたが、チルト・テレスコピック式ステアリングコラムでも同様の効果が得られる。さらに、テレスコピック式ステアリングコラムに用いても同様の効果が得られる。なお、これらのテレスコピック調整には、例えば、レバー操作によってアウターコラムの端部に設けられたクランプ部を締め付けることでアウターコラムに摺動可能に挿入されたインナーコラムを包持し、レバー操作によってアウターコラムの端部の締め付けを解除することでインナーコラムのテレスコピック調整を可能にするものがある。
(第2実施形態)
次に、図6ないし図8を参照しつつ本願の第2実施形態に係るチルト位置固定装置について説明する。本第2実施形態に係るチルト位置固定装置は、第1実施形態に係るチルト位置固定装置とは固定カム及び可動カムの構成のみが異なり、その他の構成は第1実施形態と同様である。したがって、本第2実施形態の説明においては、固定カム及び可動カムの構成についてのみ説明し、その他の構成については省略する。
図6(a)は、本第2実施形態に係る固定カム236の正面を示している。固定カム236の正面には、他の部分よりも突出したカム要素238a、238b、238c、238dが形成されている。カム要素238aないし238dは、同一円周上に一定の円周方向の間隔を保って並んでいる。カム要素238aないし238dは、それぞれ、固定カム236中央の貫通孔に挿通されるチルト調節ボルトの軸線方向と垂直なカム要素頂上面260a、260b、260c、260dと、その円周方向の端部に隣接し、カム要素頂上面260aないし260dよりもさらに突出して固定カム236の径方向に延びるストッパ突起239a、239b、239c、239dと、円周方向においてストッパ突起239aないし239dが隣接するのとは反対側でカム要素頂上面260aないし260dに隣接して、カム要素頂上面260aないし260dからカム要素238aないし238dが形成されていない平面部219に向かって緩やかに傾斜するカム緩斜面261a、261b、261c、261dと、カム要素頂上面260aないし260dとは反対側でカム緩斜面261aないし261dに隣接してカム緩斜面261aないし261dとカム要素238aないし238dが形成されていない平面部219とを傾斜面でつなぐカム面262a、262b、262c、262dとを有している。本第2実施形態はカム緩斜面261aないし261dを設けている点において第1実施形態と異なっている。カム面262aないし262dは、カム要素頂上面260aないし260dに対して、カム緩斜面261aないし261dよりも傾斜している。ストッパ突起239aないし239dは、カム回転量を規制するストッパとして機能するものであり、後述する可動カム237を回転させるチルト調節レバーの操作が過大に行われた場合にも破損しない強度を有している。カム要素238aないし238dのいずれにおいても、ストッパ突起239aないし239dは、カム要素頂上面260aないし260dに対して、固定カム236の正面に向かって時計回りの進行方向と反対側に隣接しており、カム緩斜面261aないし261dとカム面262aないし262dは、カム要素頂上面260aないし260dに対して、固定カム236の正面に向かって時計回りの進行方向側に隣接している。
固定カム236の背面には、図6(b)及び(c)に示すように、チルトブラケットに形成された円弧状長孔の円弧状の内周面に対面する平行面Pを有する背面ボス241が形成されている。該背面ボス241が円弧状長孔内に挿入されることにより、固定カム236は、円弧状長孔の円弧方向に沿って移動することはできるが、固定カム236の中央に挿通されるチルト調節ボルトを中心として回転することはできないものとなる。
図7は可動カム237の詳細を示す図である。可動カム237は、固定カム236と略同一の径寸法を有する略ドーナツ状をしている。図7(a)は可動カム237の正面を示しており、この面には固定カム236と同様に同一円周上に一定の間隔を保って並ぶ4つのカム突起243a、243b、243c、243dが形成されている。カム突起243aないし243dは、固定カム236の正面と可動カム237の正面とが円周方向の一定の相対角度において対面した時に、固定カム236に形成されたカム要素238aないし238dにそれぞれ対面する。カム突起243aないし243dは、それぞれ、可動カム237の中央の貫通孔に挿通されるチルト調節ボルトの軸線方向と垂直なカム突起頂上面270a、270b、270c、270dと、該カム突起頂上面270aないし270dに対して、可動カム237の正面に向かって時計回りの進行方向側に隣接する端部R271a、271b、271c、271dとを備えている。カム突起頂上面270aないし270dと端部R271aないし271dをこのように配置することで、固定カム236のカム要素238aないし238dと可動カム237のカム突起243aないし243dとが噛み合った状態(カム要素頂上面260aないし260dとカム突起頂上面270aないし270dが対面していない状態)において、固定カム236のカム面262aないし262dと、可動カム237の端部R271aないし271dとが円周方向に対向する。端部R271aないし271dは、径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2へ向かうにつれて小さくなるように成形されている。すなわち、径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2へ向かうにつれて曲率半径が小さくなるように成形されている。
可動カム237の背面には、図7(b)及び(c)に示すように、チルト調節レバーに形成された孔部(不図示)と係合する背面ボス245を備える。該背面ボス245は、平行面Pを有し、チルト調節レバーに一体的に圧入されており、チルト調節レバーの回動に応じて、可動カム237もチルト調節ボルトを中心として回転する。
図8は本第2実施形態に係る固定カム236と可動カム237の動作を示しており、固定カム236及び可動カム237を径方向外側から径方向内側を見た状態を示している。図8(a)はカム突起243a、243bがカム要素238a、238bに乗り上げる前の状態を示している。カム突起243a、243bとカム要素238a、238bの位置が円周方向にずれており、カム突起243a、243bとカム要素238a、238bが、カム突起243a、243b、カム要素238a、238bの形成されていない部分に入り込み、全体として噛み合っているため、可動カム237は固定カム236と近接している。この状態において、チルト調節ボルトの頭部とチルト調節ボルトに螺合されたナットとの間に配置されているスラストベアリング、可動カム237、固定カム236、一対のブラケット、ディスタンスブラケットは、その間に僅かな隙間を持つように設定されている。したがって、これらの部材の間に突っ張り力は発生せず、チルト調節機構は解除された状態(アンロックの状態)である。
図8(b)はカム突起243a、243bがカム要素238a、238bに乗り上げる途中の状態を示した図である。チルト調節レバーを締付側へ(車両前方側から車両後方側)へ操作すると、それに伴って可動カム237が回転し、可動カム237のカム突起243a、243bの端部R271a、271bが、固定カム236のカム面262a、262bと接触する。このとき端部R271a、271bは、上述のように径方向外側の端部R1よりも径方向内側の端部R2の方が小さく、つまり、径方向外側の端部R1よりも径方向内側の端部R2の曲率が大きく成形されているので、径方向外側の端部R1は固定カム236のカム面262a、262bに接触せずに、円周内側の端部R2のみが固定カム236のカム面262a、262bと接触する。これにより、可動カム237の回転中心から可動カム237と固定カム236との間で摩擦が生じる部分までの距離が短くなるため、チルト調節レバーの操作に要する操作力が小さくなる。また、固定カム236のカム要素頂上面260a、260bとカム面262a、262bとの間にカム緩斜面261a、261bが形成されており、さらに、可動カム237の端部R271a、271bの径方向外側の端部R1と径方向内側の端部R2が共にRで成形されているため、可動カム237の突起要素243a、243bがカム面262a、262bからカム要素頂上面260a、260bに乗り移る際に、引っ掛かり無くスムーズに乗り移ることができ、チルト調節レバー操作が滑らかになる。加えて、端部Rの大きさ、つまり、端部Rの曲率を、可動カム237の端部R271a、271bの径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2に漸次変化させることで、チルト調節レバーを繰り返し操作した時の磨耗による操作力の経時変化を少なくしている。
図8(c)はカム突起243a、243bがカム要素238a、238bに乗り上げてストッパ突起239a、239bまで達した状態を示している。カム要素頂上面260a、260bとカム突起頂上面270a、270bとが接触しているため、図8(a)の状態(アンロックの状態)と比較して、固定カム236と可動カム237の位置がチルト調節ボルトの軸線方向に離れている。図8(a)の状態よりも離れた距離は、アンロックの状態でチルト調節ボルトの頭部とナットとの間に配置された部材の間に設けられた上述の隙間よりも僅かに長く設定されている。これにより、チルト調節ボルトの頭部とナットとの間に配置された部材の間に突っ張り力が発生し、チルトブラケットがディスタンスブラケットを保持し、ディスタンスブラケットに接合されたステアリングコラムが固定される。このようにステアリングコラムをロックしたときは、カム要素238a、238bのカム頂上面260a、260bと突起要素243a、243bの頂上面270a、270bが面接触するので、ボルト軸力を強大にした時の接触面の圧力上昇を抑えて、磨耗を抑える効果がある。これにより、チルト保持力を一段と高めることが可能になる。なお、ここまで図8を参照してカム突起243a、243b及びカム要素238a、238bについて説明したが、カム突起243c、243d及びカム要素238c、238dについても同様である。
本第2実施形態は、固定カム236にカム要素238aないし238dを、可動カム237にカム突起243aないし243dを設けているが、固定カムにカム突起を、可動カムにカム要素を設けても同様の効果を得ることが出来る。また、カム要素238aないし238d、カム突起243aないし243dの数は実施例に限定されず、例えば3つにしても良い。更に、可動カム237の端部R271aないし271dの径方向外側の端部R1の部分は、固定カムのカム面262aないし262dに接触しなければ必ずしもR形状にしなくても良い。例えば、平坦な傾斜面とすることができる。加えて、カム要素頂上面260aないし260dに対するカム面262aないし262d及びカム緩斜面261aないし261dと、ストッパ突起239aないし239dとの円周方向の位置を相互に入れ替えても良い。すなわち、カム要素頂上面260aないし260dに対し、固定カム236の正面に向かって時計回りの進行方向側にストッパ突起239aないし239dを設け、該時計回りの進行方向とは反対側にカム面262aないし262d及びカム緩斜面261aないし261dを設けることが出来る。この場合、可動カム237においては、カム突起頂上面270aないし270dに対し、可動カム237の正面に向かって時計回りの進行方向とは反対側に端部R271aないし271dを設ける必要があり、チルト調節レバーの操作の向きが逆になる。
また、本第2実施形態ではチルト式ステアリングコラムについて述べたが、チルト・テレスコピック式ステアリングコラムでも同様の効果が得られる。さらに、テレスコピック式ステアリングコラムに用いても同様の効果が得られる。なお、これらのテレスコピック調整には、例えば、レバー操作によってアウターコラムの端部に設けられたクランプ部を締め付けることでアウターコラムに摺動可能に挿入されたインナーコラムを包持し、レバー操作によってアウターコラムの端部の締め付けを解除することでインナーコラムのテレスコピック調整を可能にするものがある。
(第3実施形態)
次に、図9ないし図11を参照しつつ本願の第3実施形態に係るチルト位置固定装置について説明する。本第3実施形態に係るチルト位置固定装置は、第1実施形態に係るチルト位置固定装置とは固定カム及び可動カムの構成のみが異なり、その他の構成は第1実施形態と同様である。したがって、本第3実施形態の説明においては、固定カム及び可動カムについて説明し、その他の構成については説明を省略する。
図9(a)は、本第3実施形態に係る固定カム336の正面を示している。固定カム336の正面には、他の部分よりも突出したカム要素338a、338b、338c、338dが形成されている。カム要素338aないし338dは、同一円周上に一定の円周方向の間隔を保って並んでいる。カム要素338aないし338dは、それぞれ、固定カム336中央の貫通孔に挿通されるチルト調節ボルトの軸線方向と垂直なカム要素頂上面360a、360b、360c、360dと、その円周方向の端部に隣接し、カム要素頂上面360aないし360dよりもさらに突出して固定カム336の径方向に延びるストッパ突起339a、339b、339c、339dと、円周方向でストッパ突起339aないし339dが隣接するのとは反対側でカム要素頂上面360aないし360dに隣接し、カム要素頂上面360aないし360dとカム要素338aないし338dが形成されていない平面部319とをつなぐカム面362a、362b、362c、362dとを有している。カム面362aないし362dは、カム要素338aないし338dが形成されていない平面部319からカム要素頂上面360aないし360dまでの高さの半分より高い部分において、カム要素頂上面360aないし360dに向かうに従って曲率が低くなるように湾曲している。本第3実施形態に係る固定装置は、この点において上記第1実施形態に係る固定装置と異なる。ストッパ突起339aないし339dは、カム回転量を規制するストッパとして機能するものであり、後述する可動カム337を回転させるチルト調節レバーの操作が過大に行われた場合にも破損しない強度を有している。カム要素338aないし338dのいずれにおいても、ストッパ突起339aないし339dは、カム要素頂上面360aないし360dに対して、固定カム336の正面に向かって時計回りの進行方向と反対側に隣接しており、カム面362aないし362dは、カム要素頂上面360aないし360dに対して、固定カム336の正面に向かって時計回りの進行方向側に隣接している。
固定カム336の背面には、図9(b)及び(c)に示すように、チルトブラケットに形成された円弧状長孔の円弧状の内周面に対面する平行面Pを有する背面ボス341が形成されている。該背面ボス341が円弧状長孔内に挿入されることにより、固定カム336は、円弧状長孔の円弧方向に沿って移動することはできるが、固定カム336の中央に挿通されるチルト調節ボルトを中心として回転することはできないものとなる。
図10は可動カム337の詳細を示す図である。可動カム337は、固定カム336と略同一の径寸法を有する略ドーナツ状をしている。図10(a)は可動カム337の正面を示しており、この正面には固定カム336と同様に同一円周上に一定の間隔を保って並ぶ4つのカム突起343a、343b、343c、343dが形成されている。カム突起343aないし343dは、固定カム336の正面と可動カム337の正面とが円周方向の一定の相対角度において対面した時に、固定カム336に形成されたカム要素338aないし338dにそれぞれ対面する。カム突起343aないし343dは、それぞれ、可動カム337の中央の貫通孔に挿通されるチルト調節ボルトの軸線方向と垂直なカム突起頂上面370a、370b、370c、370dと、該カム突起頂上面370aないし370dに対して、可動カム337の正面に向かって時計回りの進行方向側に隣接する端部R371a、371b、371c、371dとを備えている。カム突起頂上面370aないし370dと端部R371aないし371dをこのように配置することで、固定カム336のカム要素338aないし338dと可動カム337のカム突起343aないし343dとが噛み合った状態(カム要素頂上面360aないし360dとカム突起頂上面370aないし370dが対面していない状態)において、固定カム336のカム面362aないし362dと、可動カム337の端部R371aないし371dとが円周方向に対向する。端部R371aないし371dは、径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2へ向かうにつれて小さくなるように成形されている。すなわち、径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2へ向かうにつれて曲率半径が小さくなるように成形されている。
可動カム337の背面には、図10(b)及び(c)に示すように、チルト調節レバーに形成された孔部と係合するボス345を備える。該ボス345は、平行面Pを有し、チルト調節レバーに一体的に圧入されており、チルト調節レバーの回動に応じて、可動カム337もチルト調節ボルトを中心として回転する。
図11は本第3実施形態に係る固定カム336と可動カム337の動作を示しており、固定カム336及び可動カム337の径方向外側から径方向内側を見た状態を示している。図11(a)はカム突起343a、343bがカム要素338a、338bに乗り上げる前の状態を示している。カム突起343a、343bとカム要素338a、338bの位置が円周方向にずれており、カム突起343a、343bとカム要素338a、338bが、カム突起343a、343b、カム要素338a、338bの形成されていない部分に入り込み、全体として噛み合っているため、可動カム337は固定カム336と近接している。この状態において、チルト調節ボルトの頭部とチルト調節ボルトに螺合されたナットとの間に配置されているスラストベアリング、可動カム337、固定カム336、一対のブラケット、ディスタンスブラケットは、その間に僅かな隙間を持つように設定されている。したがって、これらの部材の間に突っ張り力は発生せず、チルト調節機構は解除された状態である。
図11(b)はカム突起343a、343bがカム要素338a、338bに乗り上げる途中の状態を示した図である。チルト調節レバーを締付側へ(車両前方側から車両後方側)へ操作すると、それに伴って可動カム337が回転し、可動カム337のカム突起343a、343bの端部R371a、371bが、固定カム336のカム面362a、362bと接触する。このとき端部R371a、371bは、上述のように径方向外側の端部R1よりも径方向内側の端部R2の方が小さく、つまり、径方向外側の端部R1よりも径方向内側の端部R2の方が曲率が大きく成形されているので、径方向外側の端部R1は固定カム336のカム面362a、362bに接触せずに、円周内側の端部R2のみが固定カム336のカム面362a、362bと接触する。これにより、可動カム337の回転中心から固定カム336との間で摩擦が生じる部分までの距離が短くなるため、チルト調節レバーの操作に要する操作力が小さくなる。また、上述のようにカム面362aないし362dは、カム要素338aないし338dが形成されていない平面部319からカム要素頂上面360aないし360dまでの高さの半分より高い部分において、カム要素頂上面360aないし360dに向かうに従って曲率が高くなるように湾曲しているため、摩擦抵抗が大きくなるカム要素頂上面360aの直前の傾斜が緩やかになり、レバー操作に要する操作力が小さくなる。更に、端部Rの大きさ、つまり、端部Rの曲率を、可動カム337の端部R371a、371bの径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2に漸次変化させることで、チルト調節レバー335を繰り返し操作した時の磨耗による操作力の経時変化を少なくしている。
図11(c)はカム突起343a、343bがカム要素338a、338bに乗り上げてストッパ突起339a、339bまで達した状態を示している。カム要素頂上面360a、360bとカム突起頂上面370a、370bとが接触しているため、図11(a)の状態(アンロックの状態)と比較して、固定カム336と可動カム337の位置がチルト調節ボルトの軸線方向に離れている。図11(a)の状態よりも離れた距離は、アンロックの状態でチルト調節ボルトの頭部とナットとの間に配置された部材の間に設けられた上述の隙間よりも僅かに長く設定されている。これにより、チルト調節ボルトの頭部とナットとの間に配置された部材の間に突っ張り力が発生し、チルトブラケットがディスタンスブラケットを保持し、ディスタンスブラケットに接合されたステアリングコラムが固定される。このようにステアリングコラムをロックしたときは、カム要素338a、338bのカム頂上面360a、360bと突起要素343a、343bの頂上面370a、370bが面接触するので、ボルト軸力を強大にした時の接触面の圧力上昇を抑えて、磨耗を抑える効果がある。これにより、チルト保持力を一段と高めることが可能になる。なお、ここまで図11を参照してカム突起343a、343b及びカム要素338a、338bについて説明したが、カム突起343c、343d及びカム要素338c、338dについても同様である。
本第3実施形態は、固定カム336にカム要素338aないし338dを、可動カム337に突起要素343aないし343dを設けているが、各々入れ替えても同様の効果を得ることが出来る。また、カム要素338aないし338d、突起要素343aないし343dの数は実施例に限定されず、例えば3つにしても良い。更に、可動カム337の端部R371aないし371dの径方向外側の端部R1の部分は、固定カムのカム面362aないし362dに接触しなければ必ずしもR形状にしなくても良い。例えば、平坦な傾斜面とすることができる。加えて、カム要素頂上面360aないし360dに対するカム傾斜面362aないし362d及びストッパ突起339aないし339dの円周方向の位置を相互に入れ替えても良い。すなわち、カム要素頂上面360aないし360dに対し、固定カム336の正面に向かって時計回りの進行方向側にストッパ突起339aないし339dを設け、該時計回りの進行方向とは反対側にカム面362aないし362dを設けることが出来る。この場合、可動カム337においては、カム突起頂上面370aないし370dに対し、可動カム337の正面に向かって時計回りの進行方向とは反対側に端部R371aないし371dを設ける必要があり、チルト調節レバーの操作の向きが逆になる。
また、本第3実施形態ではチルト式ステアリングコラムについて述べたが、チルト・テレスコピック式ステアリングコラムでも同様の効果が得られる。さらに、テレスコピック式ステアリングコラムに用いても同様の効果が得られる。なお、これらのテレスコピック調整には、例えば、レバー操作によってアウターコラムの端部に設けられたクランプ部を締め付けることでアウターコラムに摺動可能に挿入されたインナーコラムを包持し、レバー操作によってアウターコラムの端部の締め付けを解除することでインナーコラムのテレスコピック調整を可能にするものがある。
(第4実施形態)
次に、図12ないし図14を参照しつつ本願の第4実施形態に係るチルト位置固定装置について説明する。本第4実施形態に係るチルト位置固定装置は、第1実施形態に係るチルト位置固定装置とは固定カム及び可動カムの構成のみが異なり、その他の構成は第1実施形態と同様である。したがって、本第4実施形態の説明においては、固定カム及び可動カムについてのみ説明し、その他の構成については説明を省略する。
図12(a)は、本第4実施形態に係る固定カム436の正面を示している。固定カム436の正面には、他の部分よりも突出したカム要素438a、438b、438c、438dが形成されている。カム要素438aないし438dは、同一円周上に一定の円周方向の間隔を保って並んでいる。カム要素438aないし438は、それぞれ、固定カム436中央の貫通孔に挿通されるチルト調節ボルトの軸線方向と垂直なカム要素頂上面460a、460b、460c、460dと、その円周方向の端部に隣接し、カム要素頂上面460aないし460dよりもさらに突出して固定カム436の径方向に延びるストッパ突起439a、439b、439c、439dと、円周方向においてストッパ突起439aないし439dが隣接するのとは反対側でカム要素頂上面460aないし460dに隣接してカム要素頂上面460aないし460dから円周方向でカム要素438aないし438dが形成されていない平面部419に向かって緩やかに傾斜するカム緩斜面461a、461b、461c、461dと、カム要素頂上面460aないし460dが隣接するのとは反対側でカム緩斜面461aないし461dに隣接してカム緩斜面461aないし461dから円周方向でカム要素438aないし438dが形成されていない平面部419に向かって傾斜するカム面462a、462b、462c、462dとを有している。カム面462aないし462dは、カム要素頂上面460aないし460dに対して、カム緩斜面461aないし461dよりも傾斜している。カム緩斜面461aないし461d及びカム面462aないし462dは、固定カム436と同心でカム要素頂上面460aないし460dの径方向外側の端部と内側の端部の中間位置を通る円周の内側にのみ形成されている。本第4実施形態は、この点において第2実施形態と異なっている。ストッパ突起439aないし439dは、カム回転量を規制するストッパとして機能するものであり、後述する可動カム437を回転させるチルト調節レバーの操作が過大に行われた場合にも破損しない強度を有している。カム要素438aないし438dのいずれにおいても、ストッパ突起439aないし439dは、カム要素頂上面460aないし460dに対して、固定カム436の正面に向かって時計回りの進行方向と反対側に隣接しており、カム緩斜面461aないし461dとカム面462aないし462dは、カム要素頂上面460aないし460dに対して、固定カム436の正面に向かって時計回りの進行方向側に隣接している。
固定カム436の背面には、図12(b)及び(c)に示すように、チルトブラケットに形成された円弧状長孔の円弧状の内周面に対面する平行面Pを有する背面ボス441が形成されている。該背面ボス441が円弧状長孔内に挿入されることにより、固定カム436は、円弧状長孔の円弧方向に沿って移動することはできるが、固定カム436の中央に挿通されるチルト調節ボルトを中心として回転することはできないものとなる。
図13は可動カム437の詳細を示す図である。可動カム437は、固定カム436と略同一の径寸法を有する略ドーナツ状をしている。図13(a)は可動カム437の正面を示しており、この正面には固定カム436と同様に同一円周上に一定の間隔を保って並ぶ4つのカム突起443a、443b、443c、443dが形成されている。カム突起443aないし443dは、固定カム436の正面と可動カム437の正面とが円周方向の一定の相対角度において対面した時に、固定カム436に形成されたカム要素438aないし438dにそれぞれ対面する。カム突起443aないし443dは、それぞれ、可動カム437の中央の貫通孔に挿通されるチルト調節ボルトの軸線方向と垂直なカム突起頂上面470a、470b、470c、470dと、該カム突起頂上面470aないし470dに対して、可動カム437の正面に向かって時計回りの進行方向側に隣接する端部R471a、471b、471c、471dとを備えている。カム突起頂上面470aないし470dと端部R471aないし471dをこのように配置することで、固定カム436のカム要素438aないし438dと可動カム437のカム突起443aないし443dとが噛み合った状態(カム要素頂上面460aないし460dとカム突起頂上面470aないし470dが対面していない状態)において、固定カム436のカム面462aないし462dと、可動カム437の端部R471aないし471dとが円周方向に対向する。端部R471aないし471dは、径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2へ向かうにつれて小さくなるように成形されている。すなわち、径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2へ向かうにつれて曲率半径が小さくなるように成形されている。
可動カム437の背面には、図13(b)及び(c)に示すように、チルト調節レバーに形成された孔部(不図示)と係合するボス445を備える。該ボス445は、平行面Pを有し、チルト調節レバーに一体的に圧入されており、チルト調節レバーの操作に応じて、可動カム437もチルト調節ボルトを中心として回転する。
図14は本第4実施形態に係る固定カム436と可動カム437の動作を示しており、固定カム436及び可動カム437の径方向外側から径方向内側を見た状態を示している。図14(a)はカム突起443a、443bがカム要素438a、438bに乗り上げる前の状態を示している。カム突起443a、443bとカム要素438a、438bの位置が円周方向にずれており、カム突起443a、443bとカム要素438a、438bが、カム突起443a、443b、カム要素438a、438bの形成されていない部分に入り込み、全体として噛み合っているため、可動カム437は固定カム436と近接している。この状態において、チルト調節ボルトの頭部とチルト調節ボルトに螺合されたナットとの間に配置されているスラストベアリング、可動カム437、固定カム436、一対のブラケット、ディスタンスブラケットは、その間に僅かな隙間を持つように設定されている。したがって、これらの部材の間に突っ張り力は発生せず、チルト調節機構は解除された状態である。
図14(b)はカム突起443a、443bがカム要素438a、438bに乗り上げる途中の状態を示した図である。チルト調節レバーを締付側へ(車両前方側から車両後方側)へ操作すると、それに伴って可動カム437が回転し、可動カム437のカム突起443a、443bの端部R471a、471bが、固定カム436のカム面462a、462bと接触する。このとき端部R471a、471bは、上述のように径方向外側の端部R1よりも径方向内側の端部R2の方が小さく、つまり、径方向外側の端部R1よりも径方向内側の端部R2の方が曲率を大きく成形してあり、また、カム緩斜面461aないし461d及びカム面462aないし462dも上述のように径方向内側にのみ形成されているため、径方向外側の端部R1は固定カム436のカム面462a、462bに接触せずに、円周内側の端部R2のみが固定カム436のカム面462a、462bと接触する。これにより、可動カム437の回転中心から固定カム436との間で摩擦が生じる部分までの距離が短くなるため、チルト調節レバーの操作に要する操作力が小さくなる。また、径方向外側の傾斜面を無くす事でカム機構を軽量化している。さらに、固定カム436のカム要素頂上面460a、460bとカム面462a、462bとの間にカム緩斜面461a、461bが形成されており、可動カム437の端部R471a、471bの径方向外側の端部R1と径方向内側の端部R2が共にRで成形されているため、可動カム437の突起要素443a、443bがカム面462a、462bからカム要素頂上面460a、460bに乗り移る際に、引っ掛かり無くスムーズに乗り移ることができ、レバー操作が滑らかになる。また、端部Rの大きさ、つまり、端部Rの曲率を、可動カム437の端部R471a、471bの径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2に漸次変更させることで、チルト調節レバーを繰り返し操作した時の磨耗による操作力の経時変化を少なくしている。
図14(c)はカム突起443a、443bがカム要素438a、438bに乗り上げてストッパ突起439a、439bまで達した状態を示している。カム要素頂上面460a、460bとカム突起頂上面470a、470bとが接触しているため、図14(a)の状態(アンロックの状態)と比較して、固定カム436と可動カム437の位置がチルト調節ボルトの軸線方向に離れている。図14(a)の状態よりも離れた距離は、上述したチルト調節ボルトの頭部とナットとの間に配置された部材の間に設けられた隙間よりも僅かに大きく設定されている。これにより、チルト調節ボルト435の頭部とナット433との間に配置された部材の間に突っ張り力が発生し、チルトブラケットがディスタンスブラケットを保持し、ディスタンスブラケットに接合されたステアリングコラムが固定される。このようにステアリングコラムをロックしたときは、カム要素438a、438bのカム頂上面460a、460bと突起要素443a、443bの頂上面470a、470bが面接触するので、ボルト軸力を強大にした時の接触面の圧力上昇を抑えて、磨耗を抑える効果がある。これにより、チルト保持力を一段と高めることが可能になる。なお、ここまで図14を参照してカム突起443a、443b及びカム要素438a、438bについて説明したが、カム突起443c、443d及びカム要素438c、438dについても同様である。
本第4実施形態は、固定カム436にカム要素438aないし438dを、可動カム437に突起要素443aないし443dを設けているが、固定カムにカム突起を、可動カムにカム要素を設けても同様の効果を得ることが出来る。また、カム要素438aないし438d、突起要素443aないし443dの数は実施例に限定されず、例えば3つにしても良い。更に、可動カム437の端部R471aないし471dの径方向外側の端部R1の部分は、固定カムのカム面462aないし462dに接触しなければ必ずしもR形状にしなくても良い。例えば、平坦な傾斜面とすることができる。加えて、カム要素頂上面460aないし460dに対するカム面462aないし462d及びカム緩斜面461aないし461dと、ストッパ突起439aないし439dの円周方向の位置を相互に入れ替えても良い。すなわち、カム要素頂上面460aないし460dに対し、固定カム436の正面に向かって時計回りの進行方向側にストッパ突起439aないし439dを設け、該時計回りの進行方向とは反対側にカム面462aないし462d及びカム緩斜面461aないし461dを設けることが出来る。この場合、可動カム437においては、カム突起頂上面470aないし470dに対し、可動カム437の正面に向かって時計回りの進行方向とは反対側に端部R471aないし471dを設ける必要があり、チルト調節レバーの操作向きが逆になる。
また、本第4実施形態ではチルト式ステアリングコラムについて述べたが、チルト・テレスコピック式ステアリングコラムでも同様の効果が得られる。さらに、テレスコピック式ステアリングコラムに用いても同様の効果が得られる。なお、これらのテレスコピック調整には、例えば、レバー操作によってアウターコラムの端部に設けられたクランプ部を締め付けることでアウターコラムに摺動可能に挿入されたインナーコラムを包持し、レバー操作によってアウターコラムの端部の締め付けを解除することでインナーコラムのテレスコピック調整を可能にするものがある。
(第5実施形態)
次に、図15ないし図17を参照しつつ本願の第5実施形態に係るチルト位置固定装置について説明する。本第5実施形態に係るチルト位置固定装置は、第1実施形態に係るチルト位置固定装置とは固定カム及び可動カムの構成のみが異なり、その他の構成は第1実施形態と同様である。したがって、本第5実施形態の説明においては、固定カム及び可動カムについてのみ説明し、その他の構成については説明を省略する。
図15(a)は、本第5実施形態に係る固定カム536の正面を示している。固定カム536の正面には、他の部分よりも突出したカム要素538a、538b、538c、538dが形成されている。カム要素538aないし538dは、同一円周上に一定の円周方向の間隔を保って並んでいる。カム要素538aないし538は、それぞれ、固定カム536中央の貫通孔に挿通されるチルト調節ボルトの軸線方向と垂直なカム要素頂上面560a、560b、560c、560dと、その円周方向の端部に隣接し、カム要素頂上面560aないし560dよりもさらに突出して固定カム536の径方向に延びるストッパ突起539a、539b、539c、539dと、円周方向においてストッパ突起539aないし539dが隣接するのとは反対側でカム要素頂上面560aないし560dに隣接して、カム要素頂上面560aないし560dから円周方向でカム要素538aないし538dが形成されていない平面部519に向かって緩やかに傾斜するカム緩斜面561a、561b、561c、561dと、カム要素頂上面560aないし560dが隣接するのとは反対側でカム緩斜面561aないし561dに隣接してカム緩斜面561aないし561dから円周方向でカム要素538aないし538dが形成されていない平面部519に向かって傾斜するカム面562a、562b、562c、562dとを有している。カム面562aないし562dは、カム要素頂上面560aないし560dに対して、カム緩斜面561aないし561dよりも傾斜している。カム緩斜面561aないし561dは、カム要素頂上面560aないし560dの径方向内側の端部から径方向外側の端部まで隣接して形成されているが、カム面562aないし562dは、固定カム536と同心でカム要素頂上面560aないし560dの径方向外側の端部と内側の端部の中間位置を通る円周の内側にのみ形成されている。本第5実施形態は、この点において、上述の第4実施形態と異なる。ストッパ突起539aないし539dは、カム回転量を規制するストッパとして機能するものであり、後述する可動カム537を回転させるチルト調節レバーの操作が過大に行われた場合にも破損しない強度を有している。カム要素538aないし538dのいずれにおいても、ストッパ突起539aないし539dは、カム要素頂上面560aないし560dに対して、固定カム536の正面に向かって時計回りの進行方向と反対側に隣接しており、カム緩斜面561aないし561dとカム面562aないし562dは、カム要素頂上面560aないし560dに対して、固定カム536の正面に向かって時計回りの進行方向側に隣接している。
固定カム536の背面には、図15(b)及び(c)に示すように、チルトブラケットに形成された円弧状長孔の円弧状の内周面に対面する平行面Pを有する背面ボス541が形成されている。該背面ボス541が円弧状長孔内に挿入されることにより、固定カム536は、円弧状長孔の円弧方向に沿って移動することはできるが、固定カム536の中央に挿通されるチルト調節ボルトを中心として回転することはできないものとなる。
図16は可動カム537の詳細を示す図である。可動カム537は、固定カム536と略同一の径寸法を有する略ドーナツ状をしている。図16(a)は可動カム537の正面を示しており、この正面には固定カム536と同様に同一円周上に一定の間隔を保って並ぶ4つのカム突起543a、543b、543c、543dが形成されている。カム突起543aないし543dは、固定カム536の正面と可動カム537の正面とが円周方向の一定の相対角度において対面した時に、固定カム536に形成されたカム要素538aないし538dにそれぞれ対面する。カム突起543aないし543dは、それぞれ、可動カム537の中央の貫通孔に挿通されるチルト調節ボルトの軸線方向と垂直なカム突起頂上面570a、570b、570c、570dと、該カム突起頂上面570aないし570dに対して、可動カム537の正面に向かって時計回りの進行方向側に隣接する端部R571a、571b、571c、571dとを備えている。カム突起頂上面570aないし570dと端部R571aないし571dをこのように配置することで、固定カム536のカム要素538aないし538dと可動カム537のカム突起543aないし543dとが噛み合った状態(カム要素頂上面560aないし560dとカム突起頂上面570aないし570dが対面していない状態)において、固定カム536のカム面562aないし562dと、可動カム537の端部R571aないし571dとが円周方向に対向する。端部R571aないし571dは、径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2へ向かうにつれて小さくなるように成形されている。すなわち、径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2へ向かうにつれて曲率半径が小さくなるように成形されている。
可動カム537の背面には、図16(b)及び(c)に示すように、チルト調節レバーに形成された孔部(不図示)と係合するボス545を備える。該ボス545は、平行面Pを有し、チルト調節レバーに一体的に圧入されており、チルト調節レバーの操作に応じて、可動カム537もチルト調節ボルトを中心として回転する。
図17は本願の第5実施形態に係る固定カム536と可動カム537の動作を示しており、固定カム536及び可動カム537の径方向外側から径方向内側を見た状態を示している。図17(a)はカム突起543a、543bがカム要素538a、538bに乗り上げる前の状態を示している。カム突起543a、543bとカム要素538a、538bの位置が円周方向にずれており、カム突起543a、543bとカム要素538a、538bが、カム突起543a、543b、カム要素538a、538bの形成されていない部分に入り込み、全体として噛み合っているため、可動カム537は固定カム536と近接している。この状態において、チルト調節ボルトの頭部とチルト調節ボルトに螺合されたナットとの間に配置されているスラストベアリング、可動カム537、固定カム536、一対のブラケット、ディスタンスブラケットは、その間に僅かな隙間を持つように設定されている。したがって、これらの部材の間に突っ張り力は発生せず、チルト調節機構は解除された状態である。
図18(b)はカム突起543a、543bがカム要素538a、538bに乗り上げる途中の状態を示した図である。チルト調節レバーを締付側へ(車両前方側から車両後方側)へ操作すると、それに伴って可動カム537が回転し、可動カム537のカム突起543a、543bの端部R571a、571bが、固定カム536のカム面562a、562bと接触する。このとき端部R571a、571bは、上述のように径方向外側の端部R1よりも径方向内側の端部R2の方が小さく、つまり、径方向外側の端部R1よりも径方向内側の端部R2の方が曲率を大きく成形してあり、また、カム面562aないし562dもカム要素頂上面560aないし560dの径方向外側の端部と内側の端部の中間位置よりも径方向内側にのみ形成されているため、径方向外側の端部R1は固定カム536のカム面562a、562bに接触せずに、円周内側の端部R2のみが固定カム536のカム面562a、562bと接触する。これにより、可動カム537の回転中心から固定カム536との間で摩擦が生じる部分までの距離が短くなるため、チルト調節レバーの操作に要する操作力が小さくなる。また、径方向外側の傾斜面を無くす事でカム機構を軽量化している。さらに、カム要素頂上面560a、560bに隣接してカム緩斜面561a、561bが形成されており、可動カム537の端部R571a、571bの径方向外側の端部R1と径方向内側の端部R2が共にRで成形されているため、可動カム537の突起要素543a、543bがカム面562a、562bからカム要素頂上面560a、560bに乗り移る際に、引っ掛かり無くスムーズに乗り移ることができる。したがって、レバー操作が滑らかになる。また、端部Rの大きさ、つまり、端部Rの曲率を、可動カム537の端部R571a、571bの径方向外側の端部R1から径方向内側の端部R2に漸次変化させることで、チルト調節レバーを繰り返し操作した時の磨耗による操作力の経時変化を少なくしている。
図17(c)はカム突起543a、543bがカム要素538a、538bに乗り上げてストッパ突起539a、539bまで達した状態を示している。カム要素頂上面560a、560bとカム突起頂上面570a、570bとが接触しているため、図17(a)の状態(アンロックの状態)と比較して、固定カム536と可動カム537の位置がチルト調節ボルトの軸線方向に離れている。図17(a)の状態よりも離れた距離は、アンロックの状態でチルト調節ボルトの頭部とナットとの間に配置された部材の間に設けられた上述の隙間よりも僅かに大きく設定されている。これにより、チルト調節ボルト535の頭部とナット533との間に配置された部材の間に突っ張り力が発生し、チルトブラケットがディスタンスブラケットを保持する力が生じるため、ディスタンスブラケットに接合されたステアリングコラムも固定される。このようにステアリングコラムをロックしたときは、カム要素538a、538bのカム頂上面560a、560bと突起要素543a、543bの頂上面570a、570bが面接触するので、ボルト軸力を強大にした時の接触面の圧力上昇を抑えて、磨耗を抑える効果がある。これにより、チルト保持力を一段と高めることが可能になる。なお、ここまで図17を参照してカム突起543a、543b及びカム要素538a、538bについて説明したが、カム突起543c、543d及びカム要素538c、538dについても同様である。
本第5実施形態は、固定カム536にカム要素538aないし538dを、可動カム537に突起要素543aないし543dを設けているが、固定カムにカム突起を、可動カムにカム要素を設けても同様の効果を得ることが出来る。また、カム要素538aないし538d、突起要素543aないし543dの数は実施例に限定されず、例えば3つにしても良い。更に、可動カム537の端部R571aないし571dの径方向外側の端部R1の部分は、固定カムのカム面562aないし562dに接触しなければ必ずしもR形状にしなくても良い。例えば、平坦な傾斜面とすることができる。加えて、カム要素頂上面560aないし560dに対するカム面562aないし562d及びカム緩斜面561aないし561dと、ストッパ突起539aないし539dとの円周方向の位置を相互に入れ替えても良い。すなわち、カム要素頂上面560aないし560dに対し、固定カム536の正面に向かって時計回りの進行方向側にストッパ突起539aないし539dを設け、該時計回りの進行方向とは反対側にカム面562aないし562d及びカム緩斜面561aないし561dを設けることが出来る。この場合、可動カム537においては、カム突起頂上面570aないし570dに対し、可動カム537の正面に向かって時計回りの進行方向とは反対側に端部R571aないし571dを設ける必要があり、チルト調節レバーの操作の向きが逆になる。
また、本第5実施形態ではチルト式ステアリングコラムについて述べたが、チルト・テレスコピック式ステアリングコラムでも同様の効果が得られる。さらに、テレスコピック式ステアリングコラムに用いても同様の効果が得られる。なお、これらのテレスコピック調整には、例えば、レバー操作によってアウターコラムの端部に設けられたクランプ部を締め付けることでアウターコラムに摺動可能に挿入されたインナーコラムを包持し、レバー操作によってアウターコラムの端部の締め付けを解除することでインナーコラムのテレスコピック調整を可能にするものがある。
上記第1実施形態ないし第5実施形態に係る固定カム及び可動カムは、焼結金属成形、プレス成形などで成形することができる。固定カム及び可動カムに形成されたRも型で成形するため工法上簡単に成形することができる。また、固定カム及び可動カムに焼き入れをすることで硬度を上げ、摩耗耐久性を向上させることもできる。
以上のように、本発明のステアリングコラム装置によれば、固定装置のレバー操作に要する操作力を低減させることができる。また、ステアリングコラムの固定力を高くしてもカム要素同士の接触面の面圧を低く抑えることができ、チルト調節機構の固定力を強固にする事が出来る。