以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。なお、下記では、圧力調整装置を備える装置の一例としてインク供給装置について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(非循環型インク供給装置の全体構成)
図1は、非循環型インク供給装置の全体構成を示すブロック図であり、図1に示すインク供給装置10は、液体の供給対象であるインクジェットヘッド(以下、単に「ヘッド」と記載することがある。)50へインクタンク52からインクを供給し、ヘッド50の内部圧力(背圧)をインクの送液量によって制御する非循環型のインク供給装置である。
図1に示すように、インク供給装置10は、ヘッド50と連通する供給流路12と、ヘッド50と供給流路12との連通、非連通を切り換える供給バルブ14と、供給流路12の内部圧力の変動を抑制するように圧力調整を行う圧力調整装置である供給サブタンク18と、供給サブタンク18のヘッド50と反対側に接続される(供給サブタンク18とインクタンク52との間の供給流路12に接続される)供給ポンプ20と、を含んで構成される。
供給バルブ14は、制御信号により開閉が制御されるノーマルクローズ型(または、ラッチ型)の電磁バルブが適用される。供給バルブ14が開かれるとともに供給ポンプ20を正転動作させると、インクタンク52から供給流路12へインクが流れ込み、供給サブタンク18内を通過して、インクがヘッド50へ送られる。
図2は、図1に示すインク供給装置10における圧力調整装置の構成を示すブロック図である。図2に示す圧力調整装置は、供給サブタンク18を有し、供給サブタンク18は、可撓性を有する弾性膜22によって液室24と気室26に区画される構造を有する。液室24のインク流出口24Aは、供給流路12及び供給バルブ14を介してヘッド50と連通し、インク流入口24Bは、リリーフバルブ42、供給ポンプ20を介してインクタンク52と連通している(図1参照)。また、リリーフバルブ42は圧力開放流路43を介してインクタンク52と連通している。リリーフバルブ42および圧力開放流路43を設けることにより、供給サブタンク18、および、供給流路12内の圧力が高くなった場合に、圧力開放流路43を介してインクをインクタンク52に戻し、圧力を開放することができる。さらに、液室24は、ドレイン流路28及びドレインバルブ30を介してインクタンク52と連通している(図1参照)。
インク流入口24Bから液室24へインクが流入すると、流入したインクの体積に応じて弾性膜22が気室26側へ変形する。一方、インク流出口24Aから流出するインクの体積は変動しないので、供給流路12に圧力変動が生じたとしても、供給サブタンク18の作用によって当該圧力変動が抑制される。
すなわち、供給サブタンク18は、ヘッド50の内圧変動や、供給ポンプ20の動作による脈流による供給流路12の内部圧力の変動を抑制する圧力調整機能を有している。ドレイン流路28は、気泡排出口27を介して液室24と連通しており、液室24内の液を強制的に排出させる際の流路であり、図1に示すドレインバルブ30が開かれると、液室24内のインクが所定の流路を介してインクタンク52へ送られる。
気室26は、大気連通流路38に設けられたエアバルブ40を介して大気と連通可能に構成されている。したがって、気室26はエアバルブ40を開くことで、気室26を大気連通させることができる。また、大気連通流路38には、供給サブタンク18の気室26の内部圧力を検出する圧力センサ44を備える。
図3は、供給サブタンク18の構造例を示す断面図である。同図に示すように、供給サブタンク18は、弾性膜22を用いて密閉容器の内部を仕切り、弾性膜22の一方側を液室24とし、他方側を気室26としている。インク流入口24Bからインクが流入すると、液室24の圧力(インクの送液量)と気室26内の圧力がつり合うように弾性膜22が気室26側へ変形する。かかる構造によって、供給流路12に圧力変動が生じても供給サブタンク18がダンパとして機能する。また、インク流出口24A及びインク流入口24Bは液室24の弾性膜22と反対側の面に設けられており、下側から上方向へインクが供給される構造を有している。さらに、液室24の弾性膜22と反対側の面には、液室24に溜まった気泡を排出させるための気泡排出口27が設けられるとともに、気泡排出口27を介してドレイン流路28と連通している。気泡排出口27は気泡が上部から抜け易いため一番上部に設けられており、インク流出口24Aはヘッドに気泡が流れないように気泡が流れにくい一番下部に設けられている。
図3に示す供給サブタンク18の気室26は、弾性膜22と対向する面(対向面)26Aが曲面で構成される、おわん型(ドーム型)形状を有しているので、弾性膜22が変形して対向面26Aに接触しても角が当たって弾性膜22が破損することがなく、弾性膜22の耐久性が確保されている。また、気室26の対向面26Aを構成する壁には大気連通流路38(図2参照)と連通するエア流路連通口26Bが設けられている。
(制御系の構成)
図4は、本例に示すインク供給装置10の制御系の概略構成を示すブロック図である。同図に示すインク供給装置10は、制御系を統括制御するシステム制御部70と、システム制御部70から送られる制御信号に基づいて供給ポンプ20の制御を行うポンプ制御部72と、供給バルブ14、及びドレインバルブ30、エアバルブ40等のバルブ類の開閉を制御するバルブ制御部74と、装置各部に異常が発生した場合にその旨を報知する表示装置75と、を具備している。
図4に示すパラメータ記憶部80は、インク供給装置10の制御に用いられる各種パラメータや、制御の際に参照されるデータテーブルが格納されている。例えば、後述する供給サブタンク18の容積量と供給ポンプ20の駆動時間との関係を示すデータテーブル、供給ポンプ20の駆動時間とインクの送液量の関係を示すデータテーブル、または、圧力センサ44の気室の検出圧力と弾性膜22が気室26の対向面26Aに張り付く圧力であるPairとの関係を示すデータテーブルなどが格納される。
プログラム格納部82は、インク供給装置10の制御に使用されるプログラムが格納されている。システム制御部70は、プログラム格納部82に格納されている各種制御プログラムを読み出して実行し、パラメータ記憶部80に格納されている各種パラメータやデータテーブルを参照して、インク供給装置10を統括して制御する。
本例に示すインク供給装置10は、不図示のタイマーを具備し、インクの送液開始からの経過時間や、バルブの開閉からの経過時間が計測され、当該計測結果は不図示のメモリに逐次書き込まれる。または、圧力センサ44から得られた気室26内の圧力情報に基づいて、供給バルブ14等のバルブ類の動作を制御するとともに、供給ポンプ20の動作が制御される。
次に、非循環型インク供給装置10をマルチタイプのインクジェットヘッドのインク供給装置として適用した場合の構成例について説明する。図5に示す構成例は、非循環型インク供給装置10’からインクジェットヘッド50’へインクを供給する例を示している。なお、図5中、図1と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図5に示すヘッド50’は、n個のヘッドモジュール51‐1〜51‐nをつなぎ合わせて構成されている。ヘッド50’を構成するヘッドモジュール51は、供給流路12と連通する供給側マニホールド54から各ヘッドモジュール51に対応して個別に分岐された流路を介してインクが供給される。該個別流路のそれぞれには、供給バルブ14‐1〜14‐nが設けられるとともに、ダンパ15‐1〜15−nが設けられている。
以上説明したインク供給装置10,10’は、供給サブタンク18に設けられる弾性膜22の位置初期化時(初期位置調整時)において、供給バルブ14、エアバルブ40の開閉が制御されるとともに、供給ポンプ20の回転方向の切換が行なわれる。
(膜位置初期化制御)
≪第1実施形態≫
図6は、弾性膜22の膜位置初期化制御の流れを示すフローチャートである。本例に示す供給サブタンク18(図1〜3参照)は、経時により弾性膜22の変形量(位置)が変化してしまう。弾性膜22の位置が変化すると、供給流路12の圧力制御にバラつきが生じてしまう。したがって、弾性膜22の初期位置調整が適宜実行され、供給流路12の圧力制御のバラつきが回避されている。弾性膜22の初期位置調整が実行されるタイミングとして、装置の立ち上げ時、加圧パージの実行後、供給ポンプ20の異常等により供給流路12内の圧力が大きく変化したときなどが挙げられる。
図6に示すように、弾性膜22の膜位置初期化制御が開始されると(ステップS10)、供給バルブ14が閉じられ(ステップS12)、供給流路12とヘッド50は非連通とされる。その後、エアバルブ40が開かれ(ステップS14)、気室26が大気解放される。この状態で供給ポンプ20を正転させて液室24内を加圧して液室24内にインクが送液される(ステップS16)。供給ポンプ20の駆動時間は、供給サブタンク18の容積量(気室26と液室24の容積量の和)とインクの送液速度により決定することができる。具体的には、駆動時間を、(駆動時間)×(インクの供給速度)=(気室26と液室24の容積量の和)を満たすように決定する。これにより、駆動時間が終了する時点では、供給サブタンク18内の容積量を満たす量のインクを供給サブタンク18に送液することができるので、供給サブタンク18内は液室24で満たすことができ、供給サブタンク18の弾性膜22を気室26の対向面26Aに張り付けることができる(ステップS18)。また、本実施形態においては、リリーフバルブ42を、供給流路12のインク流入口24B側に設けているので、供給サブタンク18へのインクの供給量、液室24の圧力値を監視しながら供給していないが、供給量が多くなってもリリーフバルブ42により、供給サブタンク18内の圧力が高くなることを防止することができる。
指定時間経過後(Yes判定)、エアバルブ40が閉じられ、大気と遮断される(ステップS20)。その後、供給ポンプ20を逆転駆動させて液室24を減圧して液室24からインクが排出される(ステップS22)。供給ポンプ20の駆動時間は、気室26の容積とインクの排出速度により決定することができる。駆動時間を、(駆動時間)×(インクの排出速度)=(気室26の容積)により求めることにより、駆動時間が終了する時点で気室26の容積量のインクを排出することができる(ステップS24)。気室26の容積は弾性膜22の弾性力が生じない状態とする。ステップS24で排出したインクの量により、弾性膜22の初期位置が決まるため、弾性膜22の弾性力が生じない状態とすることで、ポンプの脈動を抑制する圧力緩衝部としての効果を果たすことができる。
指定時間経過後(Yes判定)、膜位置初期化制御が終了する(ステップS26)。ステップS24において、供給サブタンク18内から所定量(気室26の容積量)のインクが排出されており、弾性膜22はこのインクの排出量に対応して液室24を収縮させる方向に変形し、決められた初期位置に調整される。エアバルブ40を閉じた後に、インクを排出させることで、負圧の状態で膜位置を所望の位置に置くことができる。
≪第2実施形態≫
次に、膜位置初期化制御の第2実施形態について説明する。図7は第2実施形態に係る弾性膜22の膜位置初期化制御の流れを示すフローチャートである。
弾性膜22の膜位置初期化制御が開始されると(ステップS30)、第1実施形態と同様に、供給バルブ14が閉じられる(ステップS32)。エアバルブ40は閉じたままとする。この状態で供給ポンプ20を正転させて液室24内を加圧して液室24内にインクが送液される(ステップS34)。液室24内へのインクの送液は、圧力センサ44により監視される圧力が、Pairになるまで駆動する(ステップS36)。
Pairは、膜位置初期化制御の前に、図8に示す液圧と空気圧との静的応答を測定することで決定しておく。図8は、供給サブタンク18内に供給するインクの量に対する気室の圧力および液室の圧力の関係を示すグラフである。なお、図8は、弾性膜の影響を受けない領域の中点を0mlとしている。
図8に示す静的応答は、エアバルブ40を閉じた状態で、液室24にインクを供給し、液室24の圧力センサと、気室26の圧力センサの圧力を記録し、測定する。
図8に示すように、供給サブタンク18内のインク量が−13mLから13mLの範囲(図8の(2)の領域)では、液室の圧力と気室の圧力が同じ数値を示している。この範囲においては、図9(a)に示すように、弾性膜22が張っておらず、弾性膜22の膜弾性力の影響は受けていない。そして、インク量が約13mLを超えると、液室の圧力が気室の圧力より高くなっており(図8の(1)の領域)、これは、図9(b)に示すように、弾性膜22が張っているため、膜弾性力が液室24にかかるからであり、液室24の圧力は、気室26からの空気圧力と弾性膜22の膜弾性力の和でつりあっている。その後、インク量が約23mLを超えると、液室24の圧力は急激に上昇する。これは弾性膜22が供給サブタンク18の気室26の対向面26Aに張り付き、供給サブタンク18内が剛体の箱の状態になったからである。
したがって、液室24の圧力が急激に上昇したインク供給量に対応する気室26の圧力をPair(図8においては、約0kPa)とすることで、圧力センサ44が指定圧力Pairに達することで、弾性膜22が気室26の対向面26Aに張り付く圧力に達したと判断することができる。
ステップS36において、圧力センサ44の値がPairになったら(Yes判定)、エアバルブ40が開かれる(ステップS38)。これにより、気室26側の圧力が開放され、指定時間経過する(ステップS40)ことで弾性膜22を気室26の対向面26Aに張り付かせることができる(Yes判定)。次に、エアバルブ40が閉じられ、弾性膜22が気室26の対向面26Aに固定される(ステップS42)。
その後、第1実施形態と同様に、供給ポンプ20を逆転駆動させて、液室24を減圧して液室24からインクが排出される(ステップS44)。供給ポンプ20の駆動時間についても、第1実施形態と同様に、(駆動時間)×(インクの排出速度)=(気室26の容積)を満たすように、決定することができる(ステップS46)。
所定時間経過後(Yes判定)、供給サブタンク18内から所定量(気室26の容積量)のインクが排出されており、弾性膜22はこのインクの排出量に対応して液室24を収縮させる方向に変形し、決められた初期位置に調整され弾性膜22の膜位置初期化制御が終了する(ステップS48)。
(循環型インク供給装置の全体構成)
次に、循環型インク供給装置について説明する。図10に示すインク供給装置100は、循環系を備えた循環型である点で図1に示す非循環型インク供給装置と相違している。なお、以下の説明では、主として先に説明した非循環型のインク供給装置10と相違する構成について説明する。
(全体構成)
同図に示すインク供給装置100は、供給流路12と回収流路112とを有する。供給流路12には供給サブタンク18が設けられるとともに、回収流路112には回収サブタンク118が設けられている。供給サブタンク18は、供給ポンプ20及び所定のインク流路を介してインクタンク52と連通され、回収サブタンク118は回収ポンプ120及び所定のインク流路を介してインクタンク52と連通される。
図10に示すヘッド50は、n個のヘッドモジュール51‐1,51‐2,…,51‐nがつなぎ合わせられた構造を有するヘッドであり、ヘッドモジュール51のそれぞれが供給バルブ14‐1,14‐2,…,14‐nを介して供給流路12と連通されるとともに、回収バルブ114‐1,114‐2,…,114‐nを介して回収流路112と連通される。
供給側マニホールド54及び回収側マニホールド154は、供給流路12及び回収流路112とヘッド50との間に設けられるインクの一時貯留部である。供給側マニホールド54と回収側マニホールド154とは、バイパス流路190,192により連通され、バイパス流路190,192はそれぞれ、バイパス流路バルブ194,196が設けられている。
供給ポンプ20及び回収ポンプ120はチューブポンプが適用される。図10に示す供給ポンプ20は、インクタンク(バッファタンク)52からヘッド50へインクを供給する供給流路12の圧力(送液量)を制御し、回収ポンプ120はヘッド50からインクタンク52へインクを回収する(循環させる)回収流路112の圧力(送液量)を制御する。供給ポンプ20と回収ポンプ120は同一の性能(容量)を有するポンプを適用することができる。
供給ポンプ20及び回収ポンプ120は、ヘッド50が動作を停止している期間(すなわち、インクが安定して流れている期間)は、一方向にのみ回転し、ヘッド50が吐出動作をしている期間に内部圧力が減少すると、供給ポンプ20は回転速度を増加させるとともに、回収ポンプ120は逆転してヘッド50の内部圧力を上昇させる。
供給サブタンク18及び回収サブタンク118は、図3に図示した供給サブタンク18と同一の構造を有しているので、ここでの説明は省略する。なお、図10に図示した循環系(回収側)のドレイン流路128、ドレインバルブ130、大気連通流路138、エアバルブ140、圧力センサ144はそれぞれ、供給系のドレイン流路28、ドレインバルブ30、大気連通流路38、エアバルブ40、圧力センサ44に対応している。
なお、ドレインバルブ130は、ラッチタイプの電磁バルブが適用され、供給バルブ14、回収バルブ114、エアバルブ140はノーマルクローズ型の電磁バルブが適用される。また、エアコネクトバルブ34はノーマルオープン型の電磁バルブが適用される。
図10に示すインク供給装置100は、インクタンク52と供給ポンプ20との間に脱気モジュール160及びインクの逆流を防止するための一方向弁162が設けられるとともに、供給ポンプ20と供給サブタンク18の間には、フィルタ164及び熱交換器(冷却加熱装置)166が設けられている。インクタンク52から送り出されたインクは脱気モジュール160によって脱気処理が施され、フィルタ164によって気泡や異物が除去され、熱交換器166による温度調整処理が施された後に供給サブタンク18へ送られる。
また、脱気モジュール160と回収ポンプ120との間には、インクの逆流防止のための一方向弁170が設けられるとともに、フィルタ172が設けられ、インクタンク52から回収サブタンク118へインクが送られる場合にも、所定の脱気処理及びフィルタ処理が施される。
さらに、インク供給装置100は、安全弁(リリーフバルブ)174,176が設けられており、供給ポンプ20及び回収ポンプ120に異常が発生して供給流路12及び回収流路112の内部圧力が所定値よりも上昇した場合には、安全弁174,176が動作して供給流路12及び回収流路112の内部圧力を降下させる。また、供給ポンプ20及び回収ポンプ120を逆転動作させたときにインクの逆流を防止するための一方向弁178、180が設けられている。
図10に示すメインタンク56は、インクタンク52へ供給されるインクが貯留されている。インクタンク52内のインク量が減少すると、補充ポンプ182を動作させてメインタンク56内のインクがインクタンク52へ送られる。メインタンク56は、内部にフィルタ184が設けられている。
(循環の説明)
かかる構成を有するインク供給装置100は、供給ポンプ20と回収ポンプ120とを動作させて、供給側マニホールド54と回収側マニホールド154との間に差圧を設けてインクを循環させる。例えば、供給バルブ14及び回収バルブ114を開いた状態で、供給ポンプ20を正転動作させて供給側マニホールド54に負圧を発生させ、一方、回収ポンプ120を逆転動作させて回収側マニホールド154に供給側より低い負圧を発生させると、供給側マニホールド54からヘッド50を介して回収側マニホールド154へインクを流し、さらに回収流路112、回収サブタンク118等を介してインクを循環させることができる。
インクを循環させるときは、第2のバイパス流路192に設けられた第2のバイパス流路バルブ196を開き、供給側マニホールド54と回収側マニホールド154とを第2のバイパス流路192を介して連通させるとよい。なお、バイパス流路190、192が加圧時における圧力損失が発生しない直径を有するものであれば、いずれか一方を備えていればよい。
(膜位置初期化制御)
図10に示すインク供給装置100は、供給側の供給バルブ14、エアバルブ40および供給ポンプ20と、回収側の回収バルブ114、エアバルブ140および回収ポンプ120と、を独立に動作させることができるので、図6、図7を用いて説明した弾性膜22の膜位置初期化制御にも適用することができる。すなわち、回収側においては、回収サブタンク118内を加圧とするためには、回収ポンプ120を逆転動作させることで、回収サブタンク118内を加圧とすることができ、減圧とするためには、回収ポンプ120を正転動作させることで、回収サブタンク118内を減圧とすることができる。
弾性膜の膜位置初期化制御を行なうことにより、供給サブタンク18内において液室24と気室26とを隔離させる弾性膜22の初期位置が適宜調整されるので、経時により弾性膜22の変形量(位置)が変化せず、圧力制御のバラつきが回避される。
(圧力調整装置の他の実施例)
図11は、圧力調整装置(供給サブタンク18)の他の実施形態の構成を示す図である。図11に示す供給サブタンク18は、気室26が、エア流路32、エアコネクトバルブ34を介してエアタンク36と連通し、エアタンク36は大気連通流路38に設けられたエアバルブ40を介して大気と連通可能に構成されている点が図1、2に示す圧力調整装置と異なっている。また、圧力センサ44をエア流路32に設けられている。すなわち気室26は、エアコネクトバルブ34を開くことで、エアタンク36と連通させることができる。また、エアコネクトバルブ34およびエアバルブ40を開くことで、大気と連通させることができる。
気室26のバッファタンクとして機能するエアタンク36は、気室26の最大体積の3倍の体積を有していることが好ましい。なお、「気室26の最大体積」とは、弾性膜22が初期位置(上記の膜位置初期化制御により調整された位置)に位置する状態の気室26の体積である。エアタンク36の体積を大きくしておくと、インクジェットヘッドの加圧パージを実行する場合など、大きな圧力を必要とするときの容量を大きくすることができる。一方、エアタンク36の体積を大きくしすぎると、圧力制御の応答性が落ちるため、気室26の容積量とエアタンク36の容積量の総量には最適な値が存在する。また、圧力緩衝機能の観点から気室26の体積は大きい方が好ましい。しかし、弾性膜22の変形量は有限のために気室26の体積は弾性膜22の変形量により制限される。
(膜固定制御)
≪第3実施形態≫
次に図11の圧力調整装置を使用して、供給サブタンク18内の弾性膜22を固定化する制御について説明する。弾性膜22の固定化は、ヘッド50(図1参照)の内部圧力を正圧としてヘッド50内のインクを強制的に排出させる加圧パージを行なう場合に行なわれる。以下は、膜固定制御実行時における、供給バルブ14、エアコネクトバルブ34、エアバルブ40の制御および供給ポンプ20の制御について説明する。
図12は、膜固定制御(ステップS110)のフローチャートである。膜固定制御は、弾性膜22を変形させて気室26の対向面26Aに貼り付けた状態とする工程である。膜固定制御が開始すると、供給バルブ14およびドレインバルブ30が閉じられ(ステップS112)、エアコネクトバルブ34が開かれるとともに(ステップS114)、エアバルブ40が開かれ(ステップS116)、気室26とエアタンク36が連通されるとともに大気連通される。
この状態で供給ポンプ20を正転動作させて液室24内を加圧する(ステップS118)。供給ポンプ20の正転駆動時間は、供給サブタンク18の容積量(気室26と液室24の容積量の和)とインクの送液速度により決定することができる。駆動時間を、(駆動時間)×(インクの供給速度)=(気室26と液室24の容量の和)により求めることにより、駆動時間が終了する時点では、供給サブタンク18内の弾性膜22を気室26の対向面26Aに張り付けることができる。また、駆動時間経過後は、液室24内に供給サブタンク18の容量分のインクを供給サブタンク18内に供給することができるので、弾性膜22が供給サブタンク18内のいずれの位置にあったとしても、弾性膜22を気室26の対向面26Aに貼り付けることができる。また、液室24へのインクの供給時にインクの送液量および液室24の圧力は監視していないが、リリーフバルブ42を有しているので、供給サブタンク18内の圧力が高くなることを防止することができる。
弾性膜22が気室26の対向面26Aに張り付いた状態となると、エアコネクトバルブ34が閉じられるとともに(ステップS122)、エアバルブ40が閉じられ(ステップS124)、膜位置固定制御が終了する(ステップS126)。
なお、図10に示す循環型のインク供給装置においても、上記膜固定制御を同様の方法により行なうことができる。
また、図11に示す圧力調整装置を用いて膜固定制御を行なったが、図1、5、10に示すインク供給装置のエアバルブ40、140の開閉を制御し、気室26と大気を連通させることで、図1、5、10に示すインク供給装置についても膜固定制御を行なうことができる。
≪第4実施形態≫
次に、膜固定制御の第4実施形態について説明する。図13は第4実施形態に係る弾性膜22の膜固定制御の流れを示すフローチャートである。
まず、弾性膜22が気室26の対向面26Aに張り付く液室の圧力に対応する気室の圧力Pairを測定し、メモリーに記憶する。
Pairは、弾性膜の膜位置初期化制御と同様の方法で、図8に示す液圧と空気圧との静的応答を測定することで決定しておく。具体的には、次の方法により、静的応答を測定する。エアバルブ40を閉じ、エアコネクトバルブ34を開けた状態で、液室24にインクを供給する。液室24へのインクの供給量、および、空気式圧力センサ、液体式圧力センサの圧力値を記録し、これらを繰り返すことで、図8に示す静的応答を測定する。弾性膜22に張力が生じた状態では、弾性膜22に膜弾性力が働くため、空気式圧力センサと液体式圧力センサとの間で数値に差が生じる(図8の(1)の領域)。その後、弾性膜22が供給サブタンク18の気室26の対向面26Aに張り付くと液体式圧力センサの数値が一定になる。この状態での空気式圧力センサの数値をPairとして記録しておくことで、空気式圧力センサの数値がPairに達した時点を、弾性膜22が気室26の対向面26Aに張り付いていると判定することができる。
図13に戻り、弾性膜22の膜位置固定制御が開始されると(ステップS130)、供給バルブ14およびドレインバルブ30が閉じられ(ステップS132)、エアコネクトバルブ34が開かれ、エアバルブ40は閉じた状態のままとする(ステップS134)。これにより、気室26とエアタンク36が連通されるが、大気とは遮断した状態となる。
この状態で供給ポンプ20を正転動作させて液室24内を加圧する(ステップS136)。液室24内へのインクの送液は、圧力センサ44により監視される圧力が事前に測定したPairになるまで駆動する(ステップS138)。上述したように、圧力センサ44をPairの値とすることで、弾性膜22が気室26の対向面26Aに張り付く圧力に達したと判断することができる。
ステップS138において、圧力センサ44の値がPairになったら(Yes判定)、エアバルブ40が開かれる(ステップS140)。これにより、気室26側の圧力が開放され、指定時間経過する(ステップS142)ことで弾性膜22を気室26の対向面26Aに張り付かせることができる(Yes判定)。次に、エアバルブ40が閉じられ、弾性膜22が気室26の対向面26Aに固定される(ステップS144)。
その後、エアコネクトバルブ34が閉じられ(ステップS146)、膜位置固定制御が終了する(ステップS148)。
また、図11に示す圧力調整装置を用いて、膜固定制御について説明したが、図11に示す圧力調整装置を用いて膜位置初期化制御を行なうこともできる。図11に示す圧力調整装置を用いる場合、エアコネクトバルブ34、エアバルブ40の開閉により、大気と連通、あるいは、エアタンク36と連通した状態とすることで、上述した膜位置初期化制御も同様の方法で実施することができる。
(加圧パージ)
上記膜固定制御は、加圧パージなどの圧力を高くしてインクの送液を行いた場合などに、弾性膜22の影響を受けずにインクの送液を行なう必要がある時に行なわれる。以下、膜固定制御後に行なわれる動作の一例として加圧パージの方法について説明する。
<非循環型インク供給装置>
図14は、加圧パージの制御の流れを示すフローチャートである。同図に示すように、加圧パージは、膜位置固定工程(ステップS220)、圧力貯留工程(ステップS240)、及びインク排出工程(ステップS240)から構成されている。
膜位置固定工程(ステップS220)は、上述した方法により行うことができる。膜位置固定工程の終了後、圧力貯留工程(ステップS240)を行う。
図15は、図1、5に示す非循環型インク供給装置の圧力貯留工程のフローチャートである。膜位置固定工程により、弾性膜22は気室26の対向面26Aに張り付いた状態で固定されると、圧力貯留工程が開始される。圧力貯留工程は、最大体積状態の液室24にインクを充填してパージに要する圧力を供給サブタンク18(及び供給流路12)に溜める工程である。すなわち、圧力貯留工程では、供給バルブ14が閉じられた状態で、圧力センサ44の検出圧力を監視しながら液室24を加圧して、圧力センサ44の検出圧力が指定圧力になるまで加圧を続ける(ステップS242)。圧力センサ44の検出圧力が指定圧力になると、液室24及び供給流路12はインクで満たされるととともに、供給サブタンク18内及び供給流路12内に所定の圧力が貯留され、圧力貯留工程は終了される(ステップS244)。
図16は、インク排出工程のフローチャートである。インク排出工程は、圧力貯留工程により溜められた圧力を利用して、ヘッド50のノズルからインクを排出(パージ)させる工程である。まず、供給バルブ14が開かれる(ステップS262)。そうすると、圧力貯留工程によって溜められたインクがヘッド50内に流れ込むことで、ヘッド50の内部圧力が正圧となり、ヘッド50からインクが排出される。この時、ヘッド50の内部圧力が落ちないように、供給ポンプ20を加圧方向に動作させる(ステップS263)。
インクの排出が開始されると、供給バルブ14が開かれてからの経過時間が監視され(ステップS264)、所定時間が経過すると(Yes判定)、供給バルブ14が閉じられ(ステップS266)、供給ポンプ20を停止させて(ステップS268)、インク排出工程が終了される(ステップS270)。加圧パージが終了すると、バルブ制御及びポンプ制御は所定の状態へ遷移する。
加圧パージを実行する際に、液室の容積が最大となる状態(圧力緩衝による圧力損失が発生しない状態)に弾性膜22を固定する。すなわち、弾性膜22を気室26の対向面26Aに張り付いた状態とする。かかる状態において供給サブタンク18及び供給流路12に圧力が貯留される。これにより、供給サブタンク18に圧力を貯留する時間が短縮されるとともに、加圧パージの圧力波がシャープになり(シャープな加圧曲線に基づく加圧特性を得ることができ)、気泡や異物をノズルから除去しやすくなるといった効果を得ることができる。
<循環型インク供給装置>
次に循環型インク供給装置の加圧パージの方法について説明する。加圧パージの工程、および、膜位置固定工程については、非循環型インク供給装置を用いて同様の工程で行なうことができるため、圧力貯留工程(ステップS340)、インク排出工程(ステップS360)について説明する。
図17は、圧力貯留工程のフローチャートである。図17に示す圧力貯留工程は、第1のバイパス流路バルブ194及び第2のバイパス流路バルブ196、回収バルブ114を閉じた後に(ステップS342〜346)、回収ポンプ120を加圧方向に動作させ(ステップS348)、回収側の圧力センサ144を監視しながら、指定圧力に達するまで回収サブタンク118に圧力を貯留する(ステップS350)。
また、インク排出工程のフローチャートを図18に示す。図18に示すインク排出工程は、加圧パージを行う流路の供給バルブ14を開いた後に(ステップS362)、第1のバイパス流路バルブ194及び第2のバイパス流路バルブ196を開く(ステップS364〜ステップS366)。この時、圧力が落ちないように供給ポンプ20及び回収ポンプ120を加圧方向に動作させる(ステップS368〜ステップS370)。
インクの排出が開始されてから所定時間経過すると(ステップS372のYes判定)、第2のバイパス流路バルブ196が閉じられ(ステップS374)、第1のバイパス流路バルブ194(ステップ3276)、供給バルブ14が閉じられる(ステップS378)。そして、回収ポンプ120が停止されるとともに(ステップS380)、供給ポンプ20が停止され(ステップS382)、インク排出工程は終了される(ステップS284)。
〔応用例〕
次に、上述したインク供給装置の応用例として、インクジェットヘッドのインク供給部に上述したインク供給装置10、100を適用したインクジェット記録装置について説明する。
(インクジェット記録装置の全体構成)
図19は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成を示した構成図である。同図に示すインクジェット記録装置200は、色材を含有するインクと該インクを凝集させる機能を有する凝集処理液を用いて、所定の画像データに基づいて記録媒体214の記録面に画像を形成する二液凝集方式の記録装置である。
インクジェット記録装置200は、主として、給紙部220、処理液塗布部230、描画部240、乾燥処理部250、定着処理部260、及び排出部270を備えて構成される。また、図19では図示を省略されているが、描画部240へインク供給を行うインク供給装置が設けられている。
処理液塗布部230、描画部240、乾燥処理部250、定着処理部260の前段に搬送される記録媒体214の受け渡しを行う手段として渡し胴232,242,252,262が設けられるとともに、処理液塗布部230、描画部240、乾燥処理部250、定着処理部260のそれぞれに記録媒体214を保持しながら搬送する手段として、ドラム形状を有する圧胴234,244,254,264が設けられている。
渡し胴232〜262及び圧胴234〜264は、外周面の所定位置に記録媒体214の先端部を挟んで保持するグリッパー280A,280Bが設けられている。グリッパー280Aとグリッパー280Bにおける記録媒体214の先端部を挟んで保持する構造、及び他の圧胴又は渡し胴に備えられるグリッパーとの間で記録媒体214の受け渡しを行う構造を同一であり、かつ、グリッパー280Aとグリッパー280Bは、圧胴234の外周面の圧胴234の回転方向について180°移動させた対称位置に配置されている。
グリッパー280A,280Bにより記録媒体214の先端部を狭持した状態で渡し胴232〜262及び圧胴234〜264を所定の方向に回転させると、渡し胴232〜262及び圧胴234〜264の外周面に沿って記録媒体214が回転搬送される。
なお、図19中、圧胴234に備えられるグリッパー280A,280Bのみ符号を付し、他の圧胴及び渡し胴のグリッパーの符号は省略する。
給紙部220に収容されている記録媒体(枚葉紙)214が処理液塗布部230に給紙されると、圧胴234の外周面に保持された記録媒体214の記録面に、凝集処理液(以下、単に「処理液」と記載することがある。)が付与される。なお、「記録媒体214の記録面」とは、圧胴234〜264の保持された状態における外側面であり、圧胴234〜264に保持される面と反対面である。
その後、凝集処理液が付与された記録媒体214は描画部240に送出され、描画部240において記録面の凝集処理液が付与された領域に色インクが付与され、所望の画像が形成される。
さらに、該色インクによる画像が形成された記録媒体214は乾燥処理部250に送られ、乾燥処理部250において乾燥処理が施されるとともに、乾燥処理後に定着処理部260に送られ、定着処理が施される。乾燥処理及び定着処理が施されることで、記録媒体214上に形成された画像が堅牢化される。このようにして、記録媒体214の記録面に所望の画像が形成され、該画像が記録媒体214の記録面に定着した後に、排出部270から装置外部に搬送される。
以下、インクジェット記録装置200の各部(給紙部220、処理液塗布部230、描画部240、乾燥処理部250、定着処理部260、排出部270)について詳細に説明する。
(給紙部)
給紙部220は、給紙トレイ222と不図示の送り出し機構が設けられ、記録媒体214は給紙トレイ222から一枚ずつ送り出されるように構成されている。給紙トレイ222から送り出された記録媒体214は、渡し胴(給紙胴)232のグリッパー(不図示)の位置に先端部が位置するように不図示のガイド部材によって位置決めされて一旦停止する。そして、グリッパー(不図示)が記録媒体214の先端部を挟んで保持し、処理液胴234に備えられるグリッパーとの間で記録媒体214の受け渡しを行う。
(処理液塗布部)
処理液塗布部230は、給紙胴232から受け渡された記録媒体214を外周面に保持して記録媒体214を所定の搬送方向へ搬送する処理液胴(処理液ドラム)234と、処理液胴234の外周面に保持された記録媒体214の記録面に処理液を付与する処理液塗布部230と、含んで構成されている。処理液胴234を図17における反時計回りに回転させると、記録媒体214は処理液胴234の外周面に沿って反時計回り方向に回転搬送される。
図19に示す処理液塗布部230は、処理液胴234の外周面(記録媒体保持面)と対向する位置に設けられている。処理液塗布部230の構成例として、処理液が貯留される処理液容器と、処理液容器の処理液に一部が浸漬され、処理液容器内の処理液を汲み上げる汲み上げローラと、汲み上げローラにより汲み上げられた処理液を記録媒体214上に移動させる塗布ローラ(ゴムローラ)と、を含んで構成される態様が挙げられる。
なお、該塗布ローラを上下方向(処理液胴234の外周面の法線方向)に移動させる塗布ローラ移動機構を備え、記録媒体214以外の部分に処理液の塗布を行わないように構成する態様が好ましい。また、記録媒体214の先端部を挟持するグリッパー280A、280Bは、周面から突出しないように配置されている。
処理液塗布部230により記録媒体214に付与される処理液は、描画部240で付与されるインク中の色材(顔料)を凝集させる色材凝集剤を含有し、記録媒体214上で処理液とインクとが接触すると、インク中の色材と溶媒との分離が促進される。
処理液塗布部230は、記録媒体214に塗布される処理液量を計量しながら塗布することが好ましく、記録媒体214上の処理液の膜厚は、描画部240から打滴されるインク液滴の直径より十分に小さくすることが好ましい。
(描画部)
描画部240は、記録媒体214を保持して搬送する描画胴(描画ドラム)244と、記録媒体214を描画胴244に密着させるための用紙押さえローラ246と、記録媒体214にインクを付与するインクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yを備えている。描画胴244の基本構造は先に説明した処理液胴234と共通している。
用紙押さえローラ246は、描画胴244の外周面に記録媒体214を密着させるためのガイド部材であり、描画胴244の外周面に対向し、渡し胴242と描画胴244との記録媒体214の受渡位置よりも記録媒体214の搬送方向下流側であり、且つ、インクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yよりも記録媒体214の搬送方向上流側に配置される。
また、用紙押さえローラ246と記録媒体214の搬送方向における最上流側のインクジェットヘッド248Yとの間には、用紙浮き検出センサ(不図示)が配置されている。該用紙浮き検出センサは、記録媒体214がインクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yの直下に進入する直前の浮き量を検出している。本例に示すインクジェット記録装置200は、用紙浮き検出センサにより検出された記録媒体214の浮き量が所定のしきい値を超える場合には、その旨を報知するとともに記録媒体214の搬送を中断させるように構成されている。
渡し胴242から描画胴244に受け渡された記録媒体214は、グリッパー(符号省略)によって先端が保持された状態で回転搬送される際に、用紙押さえローラ246によって押圧され、描画胴244の外周面に密着する。このようにして、記録媒体214を描画胴244の外周面に密着させた後に、描画胴244の外周面から浮き上がりのない状態で、インクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yの直下の印字領域に送られる。
インクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yはそれぞれ、マゼンダ(M)、黒(K)、シアン(C)、イエロー(Y)の4色のインクに対応しており、描画胴244の回転方向(図17における反時計回り方向)に上流側から順に配置されるとともに、インクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yのインク吐出面(ノズル面)が描画胴244に保持された記録媒体214の記録面と対向するように配置される。なお、「インク吐出面(ノズル面)」とは、記録媒体214の記録面と対向するインクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yの面であり、後述するインクが吐出されるノズル(図19に符号308を付して図示する。)が形成される面である。
また、図18に示すインクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yは、描画胴244の外周面に保持された記録媒体214の記録面とインクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yのノズル面が略平行となるように、水平面に対して傾けられて配置されている。
インクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yは、記録媒体214における画像形成領域の最大幅(記録媒体214の搬送方向と直交する方向の長さ)に対応する長さを有するフルライン型のヘッドであり、記録媒体214の搬送方向と直交する方向に延在するように固定設置される。また、インクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yのそれぞれは、詳細を後述するインク供給装置からインクが供給される。
インクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yのノズル面(液体吐出面)には、記録媒体214の画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルがマトリクス配置されて形成されている。
記録媒体214がインクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yの直下の印字領域に搬送されると、インクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yから記録媒体214の凝集処理液が付与された領域に画像データに基づいて各色のインクが吐出(打滴)される。
インクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yから、対応する色インクの液滴が、描画胴244の外周面に保持された記録媒体214の記録面に向かって吐出されると、記録媒体214上で処理液とインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料系色材)又は不溶化する色材(染料系色材)の凝集反応が発現し、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体214上に形成された画像における色材の移動(ドットの位置ずれ、ドットの色ムラ)が防止される。
また、描画部240の描画胴244は、処理液塗布部230の処理液胴234に対して構造上分離しているので、インクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yに処理液が付着することがなく、インクの吐出異常の要因を低減することができる。
なお、本例では、MKCYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
(乾燥処理部)
乾燥処理部250は、画像形成後の記録媒体214を保持して搬送する乾燥胴(乾燥ドラム)254と、該記録媒体214上の水分(液体成分)を蒸発させる乾燥処理を施す乾燥処理装置256を備えている。なお、乾燥胴254の基本構造は、先に説明した処理液胴234及び描画胴244と共通しているので、ここでの説明は省略する。
乾燥処理装置256は、乾燥胴254の外周面に対向する位置に配置され、記録媒体214に存在する水分を蒸発させる処理部である。描画部240により記録媒体214にインクが付与されると、処理液とインクとの凝集反応により分離したインクの液体成分(溶媒成分)及び処理液の液体成分(溶媒成分)が記録媒体214上に残留してしまうので、かかる液体成分を除去する必要がある。
乾燥処理装置256は、ヒータによる加熱、ファンによる送風、又はこれらを併用して記録媒体214上に存在する液体成分を蒸発させる乾燥処理を施し、記録媒体214上の液体成分を除去するための処理部である。記録媒体214に付与される加熱量及び送風量は、記録媒体214上に残留する水分量、記録媒体214の種類、及び記録媒体214の搬送速度(乾燥処理時間)等のパラメータに応じて適宜設定される。
乾燥処理装置256による乾燥処理が行われる際に、乾燥処理部250の乾燥胴254は、描画部240の描画胴244に対して構造上分離しているので、インクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yにおいて、熱又は送風によるヘッドメニスカス部の乾燥によるインクの吐出異常の要因を低減することができる。
記録媒体214のコックリングの矯正効果を発揮させるために、乾燥胴254の曲率を0.002(1/mm)以上とするとよい。また、乾燥処理後の記録媒体の湾曲(カール)を防止するために、乾燥胴254の曲率を0.0033(1/mm)以下とするとよい。
また、乾燥胴254の表面温度を調整する手段(例えば、内蔵ヒータ)を備え、該表面温度を50℃以上に調整するとよい。記録媒体214の裏面から加熱処理を施すことによって乾燥が促進され、次段の定着処理時における画像破壊が防止される。かかる態様において、乾燥胴254の外周面に記録媒体214を密着させる手段を具備するとさらに効果的である。記録媒体214を密着させる手段の一例として、真空吸着、静電吸着などが挙げられる。
なお、乾燥胴254の表面温度の上限については、特に限定されるものではないが、乾燥胴254の表面に付着したインクをクリーニングするなどのメンテナンス作業の安全性(高温による火傷防止)の観点から75℃以下(より好ましくは60℃以下)に設定されることが好ましい。
このように構成された乾燥胴254の外周面に、記録媒体214の記録面が外側を向くように(すなわち、記録媒体214の記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)保持し、回転搬送しながら乾燥処理を施すことで、記録媒体214のシワや浮きに起因する乾燥ムラが確実に防止される。
(定着処理部)
定着処理部260は、記録媒体214を保持して搬送する定着胴(定着ドラム)264と、画像形成がされ、さらに、液体が除去された記録媒体214に加熱処理を施すヒータ266と、該記録媒体214を記録面側から押圧する定着ローラ268と、を備えて構成される。なお、定着胴264基本構造は処理液胴234、描画胴244、及び乾燥胴254と共通しているので、ここでの説明は省略する。ヒータ266及び定着ローラ268は、定着胴264の外周面に対向する位置に配置され、定着胴264の回転方向(図17において反時計回り方向)の上流側から順に配置される。
定着処理部260では、記録媒体214の記録面に対してヒータ266による予備加熱処理が施されるとともに、定着ローラ268による定着処理が施される。ヒータ266の加熱温度は記録媒体の種類、インクの種類(インクに含有するポリマー微粒子の種類)などに応じて適宜設定される。例えば、インクに含有するポリマー微粒子のガラス転移点温度や最低造膜温度とする態様が考えられる。
定着ローラ268は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、インクを被膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体214を加熱加圧するように構成される。具体的には、定着ローラ268は、定着胴264に対して圧接するように配置されており、定着胴264との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体214は、定着ローラ268と定着胴264との間に挟まれ、所定のニップ圧でニップされ、定着処理が行われる。
定着ローラ268の構成例として、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成する態様が挙げられる。かかる加熱ローラで記録媒体214を加熱することによって、インクに含まれるポリマー微粒子のガラス転移点温度以上の熱エネルギーが付与されると、該ポリマー微粒子が溶融して画像の表面に透明の被膜が形成される。
この状態で記録媒体214の記録面に加圧を施すと、記録媒体214の凹凸に溶融したポリマー微粒子が押し込み定着されるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、好ましい光沢性を得ることができる。なお、画像層の厚みやポリマー微粒子のガラス転移点温度特性に応じて、定着ローラ268を複数段設けた構成も好ましい。
また、定着ローラ268の表面硬度は71°以下であることが好ましい。定着ローラ268の表面をより軟質化することで、コックリングにより生じた記録媒体214の凹凸に対して追随効果を期待でき、記録媒体214の凹凸に起因する定着ムラがより効果的に防止される。
図19に示すインクジェット記録装置200は、定着処理部260の処理領域の後段(記録媒体搬送方向の下流側)には、インラインセンサ282が設けられている。インラインセンサ282は、記録媒体214に形成された画像(又は記録媒体214の余白領域に形成されたチェックパターン)を読み取るためのセンサであり、CCDラインセンサが好適に用いられる。
本例に示すインクジェット記録装置200は、インラインセンサ282の読取結果に基づいてインクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yの吐出異常の有無が判断される。また、インラインセンサ282は、水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段を含む態様も可能である。かかる態様において、水分量、表面温度、光沢度の読取結果に基づいて、乾燥処理部250の処理温度や定着処理部260の加熱温度及び加圧圧力などのパラメータを適宜調整し、装置内部の温度変化や各部の温度変化に対応して、上記制御パラメータが適宜調整される。
(排出部)
図17に示すように、定着処理部260に続いて排出部270が設けられている。排出部270は、張架ローラ272A,272Bに巻きかけられた無端状の搬送チェーン274と、画像形成後の記録媒体214が収容される排出トレイ276と、を備えて構成されている。
定着処理部260から送り出された定着処理後の記録媒体214は、搬送チェーン274によって搬送され、排出トレイ276に排出される。
〔インクジェットヘッドの構造〕
次に、描画部240に具備されるインクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yの構造の一例について説明する。なお、各色に対応するインクジェットヘッド248M,248K,248C,248Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号300によってインクジェットヘッド(以下、単に「ヘッド」ともいう。)を示すものとする。
図20は、インクジェットヘッド300の概略構成図であり、同図はインクジェットヘッド300から記録媒体の記録面を見た図(ヘッドの平面透視図)となっている。同図に示すヘッド300は、n個のヘッドモジュール302‐i(iは1からnの整数)をヘッド300の長手方向に沿って一列につなぎ合わせてマルチヘッドを構成している。また、各ヘッドモジュール302‐iは、ヘッド300の短手方向の両側からヘッドカバー304,306によって支持されている。なお、ヘッドモジュール302を千鳥状に配置してマルチヘッドを構成することも可能である。
複数のサブヘッドにより構成されるマルチヘッドの適用例として、記録媒体の全幅に対応したフルライン型ヘッドが挙げられる。フルライン型ヘッドは、記録媒体の移動方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)について、記録媒体の主走査方向における長さ(幅)に対応して、複数のノズル(図21に符号308を付して図示する。)が並べられた構造を有している。かかる構造を有するヘッド300と記録媒体とを相対的に一回だけ走査させて画像記録を行う、いわゆるシングルパス画像記録方式により、記録媒体の全面にわたって画像を形成し得る。
ヘッド300を構成するヘッドモジュール302‐iは、略平行四辺形の平面形状を有し、隣接するサブヘッド間にオーバーラップ部が設けられている。オーバーラップ部とは、サブヘッドのつなぎ部分であり、ヘッドモジュール302‐iの並び方向について、隣接するドットが異なるサブヘッドに属するノズルによって形成される。なお、図20に示すヘッド300は図5に示したヘッド50’と等価であり、ヘッドモジュール302はヘッドモジュール51と等価である。
図21は、ヘッドモジュール302‐iのノズル配列を示す平面図である。同図に示すように、各ヘッドモジュール302‐iは、ノズル308が二次元状に並べられた構造を有し、かかるヘッドモジュール302‐iを備えたヘッドは、いわゆるマトリクスヘッドと呼ばれるものである。図19に図示したヘッドモジュール302‐iは、副走査方向Yに対して角度αをなす列方向W、及び主走査方向Xに対して角度βをなす行方向Vに沿って多数のノズル308が並べられた構造を有し、主走査方向Xの実質的なノズル配置密度が高密度化されている。図21では、行方向Vに沿って並べられたノズル群(ノズル行)は符号310を付し、列方向Wに沿って並べられたノズル群(ノズル列)は符号312を付して図示されている。
なお、ノズル308のマトリクス配置の他の例として、主走査方向Xに沿う行方向、及び主走査方向Xに対して斜め方向の列方向に沿って複数のノズル308を配置する構成が挙げられる。
図22は、記録素子単位となる1チャンネル分の液滴吐出素子(1つのノズル308に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図である。同図に示すように、本例のヘッド300(ヘッドモジュール302)は、ノズル308が形成されたノズルプレート314と、圧力室316や共通流路318等の流路が形成された流路板320等を積層接合した構造から成る。ノズルプレート314は、ヘッド300のノズル面314Aを構成し、各圧力室316にそれぞれ連通する複数のノズル308が2次元的に形成されている。
流路板320は、圧力室316の側壁部を構成するとともに、共通流路318から圧力室316にインクを導く個別供給路の絞り部(最狭窄部)としての供給口322を形成する流路形成部材である。なお、説明の便宜上、図22では簡略的に図示しているが、流路板320は一枚又は複数の基板を積層した構造である。
ノズルプレート314及び流路板320は、シリコンを材料として半導体製造プロセスによって所要の形状に加工することが可能である。
共通流路318はインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路318を介して各圧力室316に供給される。
圧力室316の一部の面(図22における天面)を構成する振動板324には、個別電極326及び下部電極328を備え、個別電極326と下部電極328との間に圧電体330がはさまれた構造を有するピエゾアクチュエータ332が接合されている。振動板324を金属薄膜や金属酸化膜により構成すると、ピエゾアクチュエータ332の下部電極328に相当する共通電極として機能する。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様では、振動板部材の表面に金属などの導電材料による下部電極層が形成される。
個別電極326に駆動電圧を印加することによってピエゾアクチュエータ332が変形して圧力室316の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル308からインクが吐出される。インク吐出後、ピエゾアクチュエータ332が元の状態に戻る際、共通流路318から供給口322を通って新しいインクが圧力室316に再充填される。
かかる構造を有するインク室ユニットを図19に示す如く、主走査方向Xと角度βをなす行方向V及び副走査方向Yに対して角度αをなす列方向Wに沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。かかるマトリクス配列において、副走査方向Yの隣接ノズル間隔をLsとするとき、主走査方向Xについては実質的に各ノズル308が一定のピッチP=Ls/tanθで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。
本例では、ヘッド300に設けられたノズル308から吐出させるインクの吐出力発生手段としてピエゾアクチュエータ332を適用したが、圧力室316内にヒータを備え、ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させるサーマル方式を適用することも可能である。