次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は乾燥炉10の縦断面図である。乾燥炉10は、PETフィルムからなるシート50上に塗布された塗膜52の乾燥を赤外線及び冷風を用いて行うものであり、乾燥本体部14と、搬出路19と、第1風供給装置20と、第1風吸気装置25と、赤外線ヒーター30と、コントローラー60と、を備えている。また、乾燥炉10は、区画構造体70と、内気流出阻止部80と、排気装置81と、第2風供給装置90と、第3風供給装置95と、を備えている。乾燥炉10は、乾燥本体部14の左側に設けられたロール54と、搬出路19の右側に設けられたロール56と、を備えている。乾燥炉10は、乾燥対象となる塗膜52が上面に形成されたシート50を、ロール54,56により搬送方向(図の右方向)に連続的に搬送して乾燥を行う、ロールトゥロール方式の乾燥炉として構成されている。
乾燥本体部14は、略直方体に形成された断熱構造体であり、前端面15及び後端面16にそれぞれ開口17,18を有している。開口18は、シート50を乾燥本体部14から搬出路19を介して乾燥本体部14の外部に搬出する際の開口部となっている。この乾燥本体部14は、前端面15から後端面16までの長さが例えば1m〜6mである。乾燥本体部14の内部の空間である乾燥空間14には、赤外線ヒーター30や後述する第2風供給装置90のノズル93などが配置されている。
搬出路19は、開口18を介してシート50を乾燥本体部14から外部へ搬出するための搬送路であり、管路として構成されている。表面(図1の上面)に塗膜52が塗布されたシート50は、塗膜52が塗布された面を上にして、開口17から乾燥本体部14内へ搬入され、乾燥本体部14の内部(乾燥空間14a)を水平方向に進行し、開口18に至る。そして、シート50は開口17から搬出路19を通過して、搬出路19のうち乾燥本体部14とは反対側の搬出口19aから搬出される。
第1風供給装置20は、冷風である第1風をシート50の表面側に供給して乾燥本体部14内を通過する塗膜52やシート50を冷却させる装置である。第1風供給装置20は、給気ファン21と、パイプ構造体22と、供給口23と、を備えている。給気ファン21は、パイプ構造体22に取り付けられており、第1風をパイプ構造体22の内部へ供給するものである。第1風は、例えば常温や50℃以下の空気である。給気ファン21は、発生させる第1風の風量の調節が可能となっている。冷風の風量は、特に限定するものではないが、例えば5Nm3/h〜100Nm3/hの範囲で調節可能である。パイプ構造体22は、給気ファン21からの第1風の通路となるものである。パイプ構造体22は、給気ファン21から乾燥本体部14の天井を貫通して乾燥本体部14の内部までの通路を形成している。
供給口23は、給気ファン21からの第1風の供給口となるものである。供給口23は、図1の上下方向に隣接して形成された3つの供給口23a〜23cからなる。パイプ構造体22は、給気ファン21から供給口23に向かう通路が途中から内壁により仕切られ、供給口23a〜23cのそれぞれに給気ファン21からの第1風を供給可能となっている。供給口23a〜23cは、乾燥本体部14のうちシート50の搬出側である開口18側の端部に設けられ、搬入側である開口17側に向けて開口している。これにより、第1風供給装置20は、シート50の搬出側から搬入側に(図1の左方向に)向けて第1風を供給可能となっている。また、供給口23a〜23cの内部には、互いに独立して可動する可動板24a〜24cが設けられている(図1の拡大部分参照)。可動板24aは、例えば図示しないモーターにより、回転供給口23aの上下方向の中央位置に設けられた回転軸を中心として回転可能である。可動板24aが回転することで、供給口23aから乾燥本体部14内に供給される第1風の風向きを変更できるようになっている。また、可動板24aが垂直になると、供給口23aを封止して供給口23aからは第1風が供給されないようにすることができる。可動板24b及び可動板24cについても、供給口23a及び供給口23cに設けられている点以外は、可動板24aと同様の構成である。なお、図1では、可動板24aが垂直になって供給口23aを封止し、可動板24bが水平になって供給口23bからの第1風の風向きを水平方向にし、可動板24cが斜めになって供給口23cからの第1風の風向きを図1の左下方向にしている状態を示している。この状態では、図1の乾燥本体部14内の塗りつぶし矢印に示すように、供給口23bからの第1風は、シート50の上方を流れていき、供給口23cからの第1風は、シート50の上面に沿って流れていく。これらにより、第1風はシート50の上面を冷却する。なお、図示は省略するが、第1風の風向きを左上方向にすることも可能である。
第1風吸気装置25は、乾燥本体部14内の雰囲気ガスを排出する装置である。第1風吸気装置25は、排気ファン26と、パイプ構造体27と、排気口28と、を備えている。排気口28は、第1風供給装置20からの第1風の排気口となるものである。この排気口28は、乾燥本体部14のうちシート50の搬入側である開口17側の端部に設けられ、搬出側である開口18側に向けて開口している。排気口28はパイプ構造体27に取り付けられており、乾燥本体部14内の雰囲気ガス(主にシート50を乾燥した後の第1風)を吸気してパイプ構造体27内に導く。パイプ構造体27は、排気口28から排気ファン26への雰囲気ガスの流路となるものである。パイプ構造体27は、排気口28から乾燥本体部14の天井を貫通して乾燥本体部14の外部の排気ファン26までの通路を形成している。排気ファン26は、パイプ構造体27に取り付けられており、パイプ構造体27内部の雰囲気ガスを排気する。なお、排気ファン26は、例えば図示しない排気用の配管に接続されており、乾燥本体部14内の雰囲気ガスに含まれる揮発した有機溶剤などの成分を除去するなど、適切な処理を行ってから乾燥炉10外に雰囲気ガスを排気する。また、排気ファン26は、パイプ構造体27内の雰囲気ガスを乾燥炉10外に排気せず、給気ファン21の吸気として循環させてもよい。
赤外線ヒーター30は、赤外線を照射して乾燥炉10内を通過する塗膜52を乾燥させる装置であり、乾燥本体部14の天井近くに搬送方向に沿って複数(図1では4個)取り付けられている。図2は、赤外線ヒーター30の縦断面図であり、図3は図2のA−A断面図である。赤外線ヒーター30は、図2及び図3に示すように、発熱体であるフィラメント32を内管36が囲むように形成されたヒーター本体38と、このヒーター本体38を囲むように形成された外管40と、外管40の両端に気密に嵌め込まれた有底筒状のキャップ42と、ヒーター本体38と外管40との間に形成され冷却流体が流通可能な流路48と、外管40の表面温度を検出する温度センサ37と、を備えている。フィラメント32は、電力供給源62から電力が供給されて、例えば700〜1500℃に通電加熱され、波長が3.5μm以下(例えば3μm付近)にピークを持つ赤外線を放射する。このフィラメント32に接続された電気配線34は、キャップ42に設けられた配線引出部44を介して気密に外部へ引き出され、電力供給源62に接続されている。内管36は、石英ガラスやホウ珪酸クラウンガラスなどで作製されており、3.5μm以下の波長の赤外線を通過し、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するフィルタとして機能する。ヒーター本体38は、両端がキャップ42の内部に配置されたホルダー49に支持されている。外管40は、内管36と同様、石英ガラスやホウ珪酸クラウンガラスなどで作製されており、3.5μm以下の波長の赤外線を通過し、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するフィルタとして機能する。各キャップ42は、流体出入口46を有している。流路48は、冷却流体供給源64から供給された冷却流体が、一方の流体出入口46から他方の流体出入口46へ冷却流体が流れるようになっている。流路48を流れる冷却流体は、例えば空気や不活性ガスなどであり、内管36と外管40に接触して熱を奪うことにより各管36,40を冷却する。こうした赤外線ヒーター30は、フィラメント32から波長が3.5μm以下にピークを持つ赤外線が放射されると、そのうち3.5μm以下の波長の赤外線は内管36や外管40を通過して搬送通路を通過するシート50の塗膜52に照射される。この波長の赤外線は、シート50の塗膜52に含まれる溶剤の水素結合を切断する能力に優れるといわれており、効率的に溶剤を蒸発させることができる。また、シート50はPETフィルムからなり、PETフィルムは3.5μm以下の波長の赤外線によってはほとんど加熱されないため、シート50の加熱を抑制しつつ乾燥を行うことができる。一方、内管36や外管40は、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するが、流路48を流れる冷却流体によって冷却されるため、塗膜52から蒸発する溶剤の着火点未満の温度(例えば200℃以下など)に維持することが可能である。
第2風供給装置90は、冷風である第2風をシート50の裏面(下面)側に供給する装置であり、図1に示すように、給気ファン91と、パイプ構造体92と、複数のノズル93と、を備えている。給気ファン91は、パイプ構造体92に取り付けられており、第2風をパイプ構造体92の内部へ供給するものである。第2風は、例えば常温や50℃以下の空気である。給気ファン91は、発生させる第2風の風量の調節が可能となっている。冷風の風量は、特に限定するものではないが、例えば5Nm3/h〜100Nm3/hの範囲で調節可能である。パイプ構造体92は、給気ファン91からの第1風の通路となるものである。パイプ構造体92は、給気ファン91から乾燥本体部14の底部を貫通して乾燥本体部14の内部までの通路を形成している。ノズル93は、給気ファン91からの第2風の供給口となるものである。このノズル93は、シート50の裏面側に搬送方向に沿って複数(図1では5個)配置されている。このノズル93は、搬送方向に沿ってシート50に接近するように傾斜する向き(図1の右上方向)に開口しており、これにより、図1の矢印に示すように右上方向に第2風を供給する。これにより、第2風は右上方向に進み、シート50の裏面に到達した後はシート50の裏面に沿って搬送方向に進む流れとなる。また、ノズル93の各々には、自身の搬送方向側(右側)に保護板94が取り付けられている。この保護板94は、搬送方向に沿ってシート50から離間するように湾曲しており、搬送中にシート50が切断された場合などに、切断されて下方に垂れたシート50を受けるための部材である。ノズル93及び保護板94は、赤外線を吸収しない材料(例えばアルミニウムなど)で形成することが好ましい。こうすることで、ノズル93及び保護板94が赤外線ヒーター30からの赤外線により加熱され、自身が赤外線の二次放射体となることを抑制できる。また、ノズル93及び保護板94は、赤外線ヒーター30と搬送方向で交互に位置するように配置されており、赤外線ヒーター30に対して搬送方向にずれた位置に配置されている。より具体的には、赤外線ヒーター30(外管40)の直下の領域であるにヒーター存在領域Aにノズル93及び保護板94が存在しないようになっている。
区画構造体70は、図1に示すように、外壁72と内壁74とを有している。外壁72は、区画構造体70の乾燥本体部14側の面、搬出口19a側の面、及び下側の面を構成している。外壁72のうち乾燥本体部14側の面及び搬出口19a側の面は、乾燥本体部14に対して下部が遠ざかる方向に傾斜している。内壁74は、シート50の搬送方向に沿って複数(図1では3個)配置され、いずれも乾燥本体部14に対して下部が遠ざかる方向に傾斜している。この区画構造体70は、3つの内壁74によって外壁72内の空間が区画された第1〜第4区画空間76〜79を有する。第1〜第4区画空間76〜79は、シート50の搬送方向に沿って配置され、乾燥本体部14に近い側から第1区画空間76,第2区画空間77,第3区画空間78,第4区画空間79となっている。第1〜第4区画空間76〜79は、それぞれ、乾燥本体部14に対して下部が遠ざかる方向に傾斜した空間となっており、いずれも同じ角度θだけ傾斜している。傾斜の角度θは0°超過〜90°未満であればよい。特に限定するものではないが、例えば角度θを30〜60°としてもよい。第1〜第4区画空間76〜79は、それぞれ上方及び下方が開口している。第1〜第4区画空間76〜79の上方は搬出路19内に開口している。また、第1〜第3区画空間76〜78の下方は、パイプ構造体83内に開口している。第4区画空間79の下方は、パイプ構造体97内に開口している。
内気流出阻止部80は、搬送路19内に上部が開口して設けられ、シート50の下方に位置し、搬送方向に沿ってシート50の裏面から離れていくように傾斜した傾斜空間を有するものである。本実施形態では、内気流出阻止部80の傾斜空間は、第1〜第3区画空間76〜78で構成されている。すなわち、区画構造体70の第1〜第4区画空間76〜79のうち、乾燥本体部14側の3つが内気流出阻止部80の傾斜空間となっている。
排気装置81は、内気流出阻止部80内の雰囲気ガスを排出する装置である。排気装置81は、排気ファン82と、パイプ構造体83とを備えている。パイプ構造体83は、排気ファン82から第1〜第3区画空間76〜78に向かって3つに分岐している。パイプ構造体83は、内気流出阻止部80の下方の開口すなわち第1〜第3区画空間76〜78の下方の開口に取り付けられて、排気ファン82と第1〜第3区画空間76〜78との間の雰囲気ガスの流路となっている。排気ファン82は、排気ファン26と同様のものであり、パイプ構造体83を介して内気流出阻止部80内の雰囲気ガスを排出する。
第3風供給装置95は、第3風を搬送路19内に供給する装置である。第3風供給装置95は、給気ファン96と、パイプ構造体97と、乾燥本体部14に対して下部が遠ざかる方向に傾斜した傾斜経路としての第4区画空間79と、を備えている。すなわち、区画構造体70の第1〜第4区画空間76〜79のうち、乾燥本体部14とは反対側の1つが第3風供給装置95の傾斜経路となっている。給気ファン96は、パイプ構造体97に取り付けられており、第3風をパイプ構造体97の内部へ供給するものである。第3風は、例えば常温の空気である。給気ファン96は、発生させる第3風の風量の調節が可能となっている。第3風の風量は、特に限定するものではないが、例えば5Nm3/h〜100Nm3/hの範囲で調節可能である。パイプ構造体97は、給気ファン96から第4区画空間79の上部の開口までの第3風の通路を形成している。第3風供給装置95の傾斜経路である第4区画空間79は、上述したように乾燥本体部14に対して上部が遠ざかる方向に傾斜しており、傾斜角は角度θである。給気ファン96からの第3風は、第4区画空間79を通過することにより、搬送路19内でシート50の搬送方向に対して傾斜してシート50の下面に向かって供給される。その後、第3風はシート50の下面に沿って内気流出阻止部70の上方へ流れていく。図1では第3風の流れを白抜き矢印で示した。なお、図示するように、第3風の向きは第2風の向きと逆向きになっている。なお、第3風は、第3風は、内気流出阻止部80の上方を通過して開口18まで到達したり、開口18からさらに乾燥本体部14内に到達したりするものとしてもよい。また、第3風は、開口18に到達したときの第2風の温度よりも高温としてもよい。
シート50は、PETフィルムからなるものである。シート50は、特に限定するものではないが、例えば厚さ10〜100μm,幅200〜300mmである。また、塗膜52は、シート50の上面に塗布されたものであり、例えば乾燥後にMLCC(積層セラミックコンデンサ)用の薄膜として用いられるものである。塗膜52は、例えばセラミック粉末又は金属粉末と、有機バインダーと、有機溶剤とを含むものである。
コントローラー60は、CPUを中心とするマイクロプロセッサーとして構成されている。このコントローラー60は、第1風供給装置20の給気ファン21,第2風供給装置の給気ファン91及び第3風供給装置95の給気ファン96に制御信号を出力して、第1風,第2風及び第3風の風量を個別に制御する。コントローラー60は、図示しないモーターに制御信号を出力して、可動板24a〜24cの回転角を個別に制御する。また、コントローラー60は、第1風吸気装置25の排気ファン26や排気装置81の排気ファン82に制御信号を出力して、排気量を個別に制御する。コントローラー60は、熱電対である温度センサ37が検出した外管40の温度を入力したり、冷却流体供給源64と流体出入口46とを接続する配管の途中に設けられた開閉弁66及び流量調整弁68に制御信号を出力したりして、赤外線ヒーター30の流路48を流れる冷却流体の流量を個別に制御する。更に、コントローラー60は、電力供給源62からフィラメント32へ供給される電力の大きさを調整するための制御信号を電力供給源62へ出力して、赤外線ヒーター30のフィラメント温度を個別に制御する。また、コントローラー60は、ロール54,56の回転速度を制御することで、シート50に対して搬送方向に加える張力を調整したり、乾燥本体部14内の塗膜52の通過時間を調整することができる。なお、コントローラー60は、可動板24a〜24cの回転角を、乾燥前に予め定められた角度に調整するものとしてもよいし、乾燥中に変更するものとしてもよい。
次に、こうして構成された乾燥炉10を用いて塗膜52を乾燥する様子について説明する。まず、コントローラー60がロール54,ロール56を回転させ、シート50に対して所定の張力を加えつつシート50の搬送を開始する。シート50に加える張力は、例えばシート50の乾燥本体部14内でのたるみが塗膜52の乾燥工程上問題ない程度になるように、予め定められている(例えば20〜50N)。これにより、乾燥炉10の左端に配置されたロール54からシート50が巻き外されていく。また、シート50は開口17から乾燥本体部14内に搬入される直前に図示しないコーターによって上面に塗膜52が塗布される。そして、塗膜52が塗布されたシート50は、乾燥本体部14内に搬送される。このとき、コントローラー60は、第1風供給装置20(給気ファン21及び可動板24a〜24c),第1風吸気装置25,赤外線ヒーター30,排気装置81,第2風供給装置90,第3風供給装置95を制御する。これにより、シート50が乾燥本体部14内を通過する間に、シート50の上面に形成された塗膜52は、赤外線ヒーター30からの赤外線が照射されることによって乾燥される。また、これと同時に、第1風供給装置20からの第1風や第2風供給装置90からの第2風によって冷却される。コントローラー60は、シート50の温度がPETフィルムのガラス転移点(約70℃)以下の所定値(例えば60℃、50℃、45℃など)となるように第1風や第2風の流量を制御する。この流量はあらかじめ定められているものとしてもよい。あるいは、例えばシート50上や乾燥本体部14内に設けられた温度センサが検出した温度に基づいてシート50の温度がガラス転移点以下に保たれるように流量を調整するものとしてもよい。こうして、シート50がガラス転移点以下に保たれたままで塗膜52が乾燥されて薄膜となり、開口18から搬出される。その後、シート50は、開口18から搬出路19内へ搬入され、搬出路19内の区画構造体70の上方を通過して搬出口19aから搬出される。搬出された薄膜(塗膜52)は、乾燥本体部14の右端に設置されたロール56にシート50とともに巻き取られる。その後、薄膜はシート50から剥離され、所定形状に切断されて積層され、MLCCが製造される。
ここで、上述したように、赤外線ヒーター30は、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収する内管36及び外管40を有しているため、ピーク波長が3.5μm以下の赤外線が放射される。これにより、PETフィルムであるシート50は赤外線ヒーターからの赤外線によってはほとんど加熱されない。しかも、第1風及び第2風によりシート50は自身のガラス転移点以下の温度に維持される。このように乾燥を行うことで、シート50に熱膨張や乾燥後の収縮により応力が生じるのを抑制でき、この応力により塗膜52が変形するのを抑制できる。しかも、シート50はたるまないように張力を加えられているが、シート50の温度をガラス転移点以下に保つことで、張力によるシート50の変形(延伸など)を抑制できたり、シート50に加えることのできる張力の上限を大きくすることができる。シート50に加える張力を大きくするほど、シート50の搬送が安定しやすくなったり、第1風の風速を上げることができ乾燥速度を向上させて乾燥に要する時間を短縮したりすることができる。
また、ノズル93からの第2風は、搬送方向に沿って、且つシート50に接近するように傾斜する向きに供給される。このような向きに第2風を供給することにより、第2風が搬送方向に沿ってシート50の裏面付近を流れるため、シート50のばたつきを抑制することができる。シート50が比較的薄いときには特にばたつきが生じやすいが、そのような場合でもばたつきを抑制してシート50を安定して搬送することができる。また、第2風は、シート50の搬送方向に沿って供給しているため、シート50を搬送する推進力にも寄与する。
さらに、ノズル93からの第2風は、開口18を介して外部に向かって流れていくが、本実施形態では、内気流出阻止部80及び第3風によって雰囲気ガスの外部への流出を抑制することができる。以下、これについて説明する。第2風が供給されることにより、乾燥本体部14内のシート50の裏面側の雰囲気ガスの一部が、開口18から搬出路19内に到達し搬出口19aに向かって流れ出す場合がある。しかし、本実施形態では、給気ファン96からの第3風が、第4区画空間79の上方の開口部から、搬送路19内を図1における左上方向に向かって傾斜した向きでシート50の下面に向かうように流れる。そして、その後シート50の下面に沿って前記内気流出阻止部80の上方(内気流出阻止部80とシート50との間)へ流れていく。これにより、第3風が内気流出阻止部80の上方で乾燥本体部14からの雰囲気ガスの上側に潜りこむ。その結果、第3風は雰囲気ガスをシート50の下面からはぎ取るようにして雰囲気ガスを内気流出阻止部80へ押し下げる。これにより、乾燥本体部14からの雰囲気ガスは搬出口19aではなく内気流出阻止部80の第1〜第3区画空間76〜78内に向かって流れる。しかも、内気流出阻止部80の第1〜第3区画空間76〜78は乾燥本体部14に対して下部が遠ざかる方向に傾斜しているから、第3風により押し下げられた後の雰囲気ガスの流れる方向(図1における右下方向)と第1〜第3区画空間76〜78の傾斜とが一致する。そのため、内気流出阻止部80内に雰囲気ガスを導きやすい。そして、内気流出阻止部80内の雰囲気ガスは、排気ファン82により速やかに排出される。このように、本実施形態の乾燥炉10では、乾燥本体部14内の雰囲気ガスが搬出口19aから外部へ流出するのを内気流出阻止部80と流入風とにより抑制するのである。なお、開口18に到達したときの第2風の温度よりも第3風を高温とすれば、第3風が内気流出阻止部80の上方で乾燥本体部14からの雰囲気ガスの上側に潜りこみやすくなるため、内気流出阻止部80内に雰囲気ガスをより導きやすくなる。
以上説明した本実施形態の乾燥炉10によれば、乾燥対象となる塗膜52が表面に形成されたシート50に対して搬送方向に張力を加え、且つシート50を搬送方向に搬送する。そして、加熱により赤外線を放出するフィラメント32と3.5μmを超える波長の赤外線を吸収し該発熱体を覆う内管36,外管40とを有する赤外線ヒーター30により塗膜52に赤外線を照射すると共に、シート52の表面側に第1風を供給し、シート52の裏面側に搬送方向に沿って配置された複数のノズル93から裏面に第2風を供給して、第1風及び第2風を供給することでシート50を自身のガラス転移点以下の温度に維持する。このとき、第2風は、搬送方向に沿ってシート50に接近するように傾斜する向きに供給される。このような向きに第2風を供給することにより、シート50のばたつきを抑制することができる。したがって、乾燥対象となる塗膜52が表面に形成されたシート50を安定して搬送することができる。
また、複数のノズル93は、赤外線ヒーター30に対して搬送方向にずれた位置に配置されている。そのため、ノズル93が赤外線ヒーターからの赤外線により加熱されノズル93自身が赤外線の二次放射体となることを抑制でき、シート50をガラス転移点以下の温度に維持しやすくなる。
さらに、搬送方向端部に設けられシート50を搬出するための開口部18を有し、赤外線ヒーター30を含む乾燥空間14aを囲む乾燥本体部14と、開口部18を介してシート50を乾燥本体部14から搬出する搬出路19と、搬出路19内に開口して設けられ、シート50の裏面側に位置し、搬送方向に沿ってシート50の裏面から離れていくように傾斜した傾斜空間を有する内気流出阻止部80と、を備え、第1風供給手段20は、乾燥空間14a第1風を供給し、第2風供給手段90は、乾燥空間14aに第2風を供給する。こうすることで、ノズル93から供給された第2風が搬送路19を通過して外部に流出するのを、内気流出阻止部80によって抑制することができる。したがって、例えば乾燥により塗膜52から発生するガスなど、乾燥本体部14内の雰囲気ガスの炉外への流出を抑制することができる。
さらにまた、乾燥炉本体部14内に流入する方向に搬送路19を流れ、且つシート50の裏面に沿って内気流出阻止部80とシート50との間を流れるように第3風を供給する第3風供給装置95を備えている。これにより、雰囲気ガスが搬送路19を通過して外部に流出するのをより抑制できる。しかも、前記第3風供給装置95は、搬出路19内をシート50の搬送方向に対して傾斜してシート50の裏面に向かうように流れ、その後シート50の裏面に沿って内気流出阻止部80とシート50との間を流れるように第3風を供給する。そのため、第3風で搬出路19を塞ぐことができ、雰囲気ガスが搬出路19を通過して外部に流出するのをより抑制することができる。
そしてまた、搬出路19内に開口して設けられ、シート50の裏面側に位置し、搬送方向に沿ってシート50の裏面から離れていくように傾斜した第1〜第4区画空間76〜79をシート50の搬送方向に沿って複数有する区画構造体70を備えており、第1〜第4区画空間76〜79のうち乾燥本体部14側の第1〜第3区画空間76〜78が内気流入阻止部80の傾斜空間となり、乾燥本体部14とは反対側の第4区画空間79が第3風供給装置95の傾斜経路となっている。そのため、内気流出阻止部80の傾斜空間と第3風供給装置95の傾斜経路とを1つの区画構造体70にまとめることができる。そのため、内気流出阻止部80や第3風供給装置95を備えた乾燥装置10をより容易に製造できる。
そしてまた、第1風の風向きを変更可能な可動板24a〜24cを備えているため、第1風の風向きを変更することで、例えばより適切に塗膜52の乾燥やシート52の温度調節を行うなど、より適切な送風を行うことができる。しかも、第1風供給手段20は、複数の供給口23a〜23cを有し、これらの各々に設けられ互いに独立して可動する可動板24a〜24cを有しており、可動板24a〜24cは自身が設けられた供給口23a〜23cを封止可能である。このため、可動板24a〜24cにより第1風の風向きだけでなく流量を調整することができ、より適切な送風を行うことができる。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
例えば、上述した実施形態では、第1〜第3区画空間76〜78を内気流出阻止部80の傾斜空間とし、第4区画空間79を第3風供給装置95の傾斜経路として、これらを1つの区画構造体70にまとめるものとしたが、これに限られない。例えば第1〜第2区画空間76〜77を内気流出阻止部80の傾斜空間とし第3〜第4区画空間78〜79を第3風供給装置95の傾斜経路とするなどとしてもよい。また、内気流出阻止部80の傾斜空間と第3風供給装置95の傾斜経路とを別々に設けてもよい。あるいは、第3風供給装置95を備えないものとしてもよい。
上述した実施形態では、区画構造体70は第1〜第4区画空間76〜79の4つの区画空間を有するものとしたが、これに限らず2以上の区画空間を有するものであればよい。区画構造体70が区画空間を2以上有していれば、内気流出阻止部80の傾斜空間と第3風供給装置95の傾斜経路とを1つの区画構造体70にまとめることができる。
上述した実施形態では、第3風供給装置95は傾斜経路として第4区画空間79を有しているものとしたが、これに限らず、傾斜経路を有さないものとしてもよい。例えば、第3風供給装置95は、搬出路19における乾燥本体部14とは反対側の端部である搬出口19aからシート50の裏面に沿って水平に流れて乾燥本体部14に向かうように第3風を供給するものとしてもよい。図4は、この場合の変形例の乾燥炉110の縦断面図である。なお、図4では、図1と同じ構成要素については同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。図示するように、乾燥炉110では、区画構造体170は第1〜第3区画空間76〜78のみを有しており、区画構造体170がそのまま内気流出阻止部180となっている。また、第3風供給装置195は、給気ファン96と、パイプ構造体97と、給気口198と、を備えている。給気口198は、パイプ構造体97を介して給気ファン96からの第3風を搬出路19内に供給するものである。この給気口198は、搬出路19における搬出口19a側の端部に設けられ、搬出口19a側から開口18に向けて水平に開口している。この乾燥炉110では、給気口198から供給される第3風は、搬出口19a側からシート50の裏面に沿って水平に流れて乾燥本体部14に向かって流れる。このように第3風を供給しても、本実施形態と同様に、第3風が乾燥本体部14からの雰囲気ガスをシート50の裏面からはぎとるようにして雰囲気ガスを内気流出阻止部80内へ導くことができる。そのため、乾燥本体部14からの雰囲気ガスの流出をより抑制することができる。なお、給気口198を搬出路19の外側に設け、外部から搬出口19aを通って搬出路19内に向かいシート50の裏面に沿って水平に流れるように第3風を供給してもよい。
上述した実施形態では、区画構造体70,内気流出阻止部80,排気装置81,第3風供給装置95を搬出路19の下側に備えるものとしたが、搬出路19の上側にもこれらとシート50に対して対称な構成を備えるものとしてもよい。
上述した実施形態では、第2風供給装置90は、搬送方向に沿ってシート50の裏面に接近するように傾斜する向きに第2風を供給するものとしたが、シート50の裏面側に搬送方向に沿って(搬送方向と同方向に)搬送方向と平行に第2風を供給するものとしてもよい。また、複数のノズル93のうち、1以上のノズル93がシート50の裏面に接近するように傾斜する向きに第2風を供給し、1以上のノズル93が搬送方向と平行に第2風を供給するものとしてもよい。
上述した実施形態では、第1風供給装置20からの第1風はシート50の搬送方向と逆向きであるものとしたが、同方向としてもよい。あるいは、第1風の風向きは搬送方向に直交する向き(図1の下向き)であるものとしてもよい。
上述した実施形態において、搬出路19内や乾燥本体部14内には、シート50を下方から支える支持ローラーを複数個設けてもよい。こうすれば、重力によってシート50がたわむのをより抑制することができる。
上述した実施形態では、赤外線ヒーター30として、フィラメント32の外周が3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するフィルタとして機能する複数の管36,40によって同心円状に覆われ、これらの複数の管36,40の間に赤外線ヒーター30の表面温度の上昇を抑制する冷却流体の流路48を形成したものを用いたが、フィラメント32を覆う管は2つに限らず、3つ以上としてもよい。
上述した実施形態では、ノズル93及び保護板94は赤外線ヒーター30に対して搬送方向にずれた位置に配置されているものとしたが、ノズル93及び保護板94の少なくともいずれか一方が、赤外線ヒーター30の直下(ヒーター存在領域A内)に存在しているものとしてもよい。また、保護板94を備えないものとしてもよい。
上述した実施形態では、供給口23は3つの供給口23a〜23cを有するものとしたが、供給口は1つや2つとしてもよいし、4つ以上としてもよい。また、供給口が複数ある場合において、可動板を備えない供給口が存在してもよい。
上述した実施形態では、可動板24a〜24cは独立に独立して可動するものとしたが、互いに連動するものとしてもよい。また、可動板24a〜24cはそれぞれ供給口23a〜23cを封止できるものとしたが、封止できないものとしてもよい。
上述した実施形態では、可動板24a〜24cによって第1風の風向きを変更するものとしたが、第1風の風向きを変更可能なものであれば他の構成を採用してもよい。例えば、第1風供給装置20の供給口23自体が可動であるものとし、供給口23の向きを変えることで第1風の風向きを変更するものとしてもよい。
上述した実施形態では、各乾燥炉10の雰囲気ガスとして空気を用いたが、空気の代わりに窒素などの不活性ガスを用いてもよい。
上述した実施形態では、塗膜52はセラミック粉末又は金属粉末と、有機バインダーと、有機溶剤とを含むものとしたが、これに限られない。例えば、有機溶剤の代わりに水を用いるものとしてもよい。この場合、乾燥本体部14内の雰囲気ガス中には乾燥により蒸発した水気が含まれることになる。そのため、このような水気を含む雰囲気ガスが乾燥炉10の外部に流出するのを抑制する意義が高い。なお、有機溶剤や水に限らず、乾燥により塗膜52から発生するガスをそのまま乾燥炉10の外部へ流出することは好ましくない場合が多い。そのため、塗膜52の成分に関わらず雰囲気ガスの炉外への流出を抑制する意義はある。
上述した実施形態では、塗膜52はMLCC用の薄膜として用いられるものとしたが、これに限られない。例えば、LTCC(低温焼成セラミックス)やその他のグリーンシート用の薄膜として用いるものとしてもよい。また、塗膜52はコーターによってシート50上に塗布されるものとしたが、他の方法によりシート50の上面に膜を形成してもよい。