以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る通信システムの構成を模式的に示している。図示の通信システムは、アクセスポイント(AP)として動作する通信局STA0と、端末局(クライアント・デバイス)(MT)として動作する複数の通信局STA1、STA2、STA3で構成される。
各通信局STA1、STA2、STA3はそれぞれの通信範囲内に通信局STA0を収容し、それぞれSTA0とは直接通信を行なうことができる(言い換えれば、各通信局STA1、STA2、STA3は、アクセスポイントとしてのSTA0の配下に置かれ、BSS(Basic Service Set)を構成する)。但し、端末局としての各通信局STA1、STA2、STA3が互いの通信範囲内に存在する必要はなく、以下では端末局間での直接通信については言及しない。
ここで、アクセスポイントとしてのSTA0は、複数のアンテナを備えアダプティブ・アレイ・アンテナによる空間分割多元接続を行なう通信装置からなり、空間軸上の無線リソースを複数ユーザーに割り当てて、フレーム通信を多重化する。すなわち、STA0は、IEEE802.11acなどの新規規格に準拠する通信装置であり、宛て先通信局が異なる2以上のフレームを同一の時間軸上で多重化したり、2以上の通信局が同一の時間軸上で多重化送信した自局宛てのフレームを送信元毎に分離したりして、1対多のフレーム通信を行なう。STA0は、より多くのアンテナを装備することで、空間多重が可能な端末局の台数を増大することができる。勿論、STA0は、空間分割多元接続を適用して各通信局STA1、STA2、STA3と1対多のフレーム通信を行なうだけでなく、各通信局STA1、STA2、STA3と個別に1対1でフレーム通信を行なってもよい。
他方、端末局としての通信局STA1、STA2、STA3は、複数のアンテナを備え、アダプティブ・アレイ・アンテナによる空間分割多元接続を行なう通信装置からなるが、受信時のみユーザー分離を行ない、送信時のユーザー分離すなわち送信フレームの多重化を行なわないので、アクセスポイントほどのアンテナ本数を装備する必要はない。なお、端末局のうち少なくとも一部の端末局は、IEEE802.11aなどの従来規格に準拠した通信装置であってもよい。言い換えれば、図1に示す通信システムは、該新規規格の通信機が従来規格の通信機と混在する通信環境である。
図2には、空間分割多元接続を適用し、複数ユーザーの多重化を行なうことができる通信装置の構成例を示している。図1に示した通信システムにおいて、アクセスポイントとして動作する通信局STA0や、端末局として動作する通信局STA1〜STA3のうち一部の空間分割多元接続に対応したものは、図2に示した構成を備え、新規規格に則って通信動作を行なうものとする。
図示の通信装置は、それぞれアンテナ素子21−1、21−2、…、21−Nを備えたN本の送受信ブランチ20−1、20−2、…、20−Nと、各送受信ブランチ20−1、20−2、…、20−Nと接続して、送受信データの処理を行なうデータ処理部25で構成される(但し、Nは2以上の整数)。これら複数のアンテナ素子21−1、21−2、…、21−Nは、適当なアダプティブ・アレイ・アンテナの重みをかけることによって、アダプティブ・アレイ・アンテナとして機能することができる。アクセスポイントとしての通信局STA0は、アダプティブ・アレイ・アンテナによる空間分割多元接続を行なうが、多くのアンテナ素子を持つことで、多元接続により収容可能な端末局台数を向上することが可能である。
各送受信ブランチ20−1、20−2、…、20−N内では、各アンテナ素子21−1、21−2、…、21−Nが、共用器22−1、22−2、…、22−Nを介して、送信処理部23−1、23−2、…、23−N並びに受信処理部24−1、24−2、…、24−Nに接続されている。
データ処理部25は、上位層アプリケーションからの送信要求に応じて送信データを生成すると、各送受信ブランチ20−1、20−2、…、20−Nに振り分ける。また、通信装置がアクセスポイントとして動作するSTA0の場合、データ処理部25は、上位層アプリケーションからの送信要求に応じて、複数のユーザーすなわち各通信局STA1、STA2、STA3宛ての送信データを生成すると、送受信ブランチ毎のアダプティブ・アレイ・アンテナの送信重みを乗算して空間分離してから、各送受信ブランチ20−1、20−2、…、20−Nに振り分ける。但し、ここで言う送信時の「空間分離」は、フレームを同時送信するユーザー毎に空間分離するユーザー分離のみを意味するものとする。
各送信処理部23−1、23−2、…、23−Nは、データ処理部25から供給されたディジタル・ベースバンド送信信号に対し、符号化、変調などの所定の信号処理を施した後にD/A変換して、さらにRF(Radio Frequency)信号へのアップコンバートし、電力増幅する。そして、かかる送信RF信号は、共用器22−1、22−2、…、22−Nを介してアンテナ素子21−1、21−2、…、21−Nに供給され、空中に放出される。
一方、各受信処理部24−1、24−2、…、24−Nでは、アンテナ素子21−1、21−2、…、21−NからのRF受信信号が共用器22−1、22−2、…、22−Nを介して供給されると、低雑音増幅してからアナログ・ベースバンド信号へダウンコンバートし、その後にD/A変換し、さらに所定の復号、復調などの所定の信号処理を施す。
データ処理部25は、各受信処理部24−1、24−2、…、24−Nから入力されるディジタル受信信号に対してアダプティブ・アレイ・アンテナの受信重みをそれぞれ乗算して空間分離し、ユーザー毎すなわち通信局STA1、STA2、STA3の各々からの送信データを再現すると、上位層アプリケーションに渡す。但し、ここで言う受信時の「空間分離」には、フレームを同時送信するユーザー毎に空間分離するユーザー分離と、空間多重されたMIMOチャネルを元の複数のストリームに分離するチャネル分離の双方の意味を含むものとする。
ここで、データ処理部25は、複数のアンテナ素子21−1、21−2、…、21−Nは、アダプティブ・アレイ・アンテナを機能させるために、各送受信ブランチ20−1、20−2、…、20−Nに振り分けた送信データに対してアダプティブ・アレイ・アンテナの送信重みをかけ、また、各送受信ブランチ20−1、20−2、…、20−Nからの受信データに対してアダプティブ・アレイ・アンテナの受信重みをかけるよう、各送信処理部23−1、23−2、…、23−N並びに各受信処理部24−1、24−2、…、24−Nを制御する。また、データ処理部25は、各通信局STA1、STA2、STA3との空間分割多元接続に先立ち、アダプティブ・アレイ・アンテナの重みを学習しておく。例えば、各通信相手STA1〜STA3から受信した既知シーケンスからなるトレーニング信号(後述)に対してRLS(Recursive Least Square)などの所定の適応アルゴリズムを用いて、アダプティブ・アレイ・アンテナの重みの学習を行なうことができる。
データ処理部25は、例えば図1に示す通信システムで実装されるメディア・アクセス制御(Media Access Control:MAC)方式における通信プロトコルの各層の処理を実行する。また、各送受信ブランチ20−1、20−2、…、20−Nは、例えばPHY層に相当する処理を実行する。後述するように、長さが異なる複数のフレームが上位層から送られてくるが、最終的にPHY層から送信されるフレームの長さを揃えるようになっている。但し、かかるフレーム長の制御は、データ処理部25又は各送受信ブランチ20−1、20−2、…、20−Nのいずれで行なうかは特に限定されない。
なお、端末局としての通信局STA1、STA2、STA3は、複数のアンテナを備えアダプティブ・アレイ・アンテナによる空間分割多元接続を行なうが、受信時のみユーザー分離を行ない、送信時のユーザー分離すなわち送信フレームの多重化を行なわないので、アクセスポイントほどのアンテナ本数を装備する必要はない。
また、図3には、空間分割多元接続を適用せず、IEEE802.11aなどの従来規格に準拠した通信装置の構成例を示している。図1に示した通信システムにおいて、端末局として動作する通信局STA1〜STA3の中には、図3に示した構成を備え、従来規格に則ってのみ通信動作を行なうものも存在する。
図示の通信装置は、アンテナ素子31を備えた送受信ブランチ30と、この送受信ブランチ30と接続して、送受信データの処理を行なうデータ処理部35で構成される。また、送受信ブランチ30内では、アンテナ素子31が、共用器32を介して、送信処理部33並びに受信処理部34に接続されている。
データ処理部35は、上位層アプリケーションからの送信要求に応じて送信データを生成して、送受信ブランチ30に出力する。送信処理部33は、ディジタル・ベースバンド送信信号に対し、符号化、変調などの所定の信号処理を施した後、D/A変換し、さらにRF信号へのアップコンバートし、電力増幅する。そして、かかる送信RF信号は、共用器32を介してアンテナ素子31に供給され、空中に放出される。
一方、受信処理部34では、アンテナ素子31からのRF受信信号が共用器32を介して供給されると、低雑音増幅してからアナログ・ベースバンド信号へアップコンバートし、その後にD/A変換して、さらに所定の復号、復調などの所定の信号処理を施す。データ処理部35は、受信処理部34から入力されるディジタル受信信号から元の送信データを再現して、上位層アプリケーションに渡す。
図1に示した通信システムにおいて、アクセスポイントとしてのSTA0は、自局が備えるアダプティブ・アレイ・アンテナに含まれる各アンテナ素子と通信局STA1〜STA3が備える各アンテナ素子との間の伝達関数を取得することによって、アダプティブ・アレイ・アンテナの重みを学習する。あるいは、各通信相手STA1〜STA3から受信した既知シーケンスからなるトレーニング信号に対してRLS(Recursive Least Square)などの所定の適応アルゴリズムを用いて、アダプティブ・アレイ・アンテナの重みの学習を行なうことができる。そして、STA0は、いずれかの方法によって学習したアダプティブ・アレイ・アンテナの重みに基づいて各通信局STA1〜STA3に対する指向性を形成する。これによって、STA0は、同一時間上で多重化した通信局STA1〜STA3の各々に宛てた送信フレーム、あるいは同一時間上で多重化された各通信局STA1〜STA3からの受信フレームを空間分離することが可能となり、すなわち、空間軸上の無線リソースを複数のユーザーで共有する空間分割多元接続を実現することができる。
従来からの無線LAN規格であるIEEE802.11では、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance:搬送波感知多重アクセス)などのキャリアセンスに基づくアクセス制御手順を採り入れて、各通信局はランダム・チャネル・アクセス時におけるキャリアの衝突を回避するようにしている。
また、無線通信においては、通信局が互いに直接通信できない領域が存在するという隠れ端末問題が生じることが知られているが、IEEE802.11では、これを解決する方法論として、RTS/CTSハンドシェイクを併用する。データ送信元の通信局が送信要求フレーム(RTS:Request To Send)を送信し、データ送信先の通信局から確認通知フレーム(CTS:Clear To Send)を受信したことに応答してデータ送信を開始する。そして、隠れ端末は、自局宛てでないRTS又はCTSのうち少なくとも一方のフレームを受信すると、受信フレーム中に記載されているデュレーション(Duration)情報に基づいて送信停止期間を設定して、衝突を回避する。送信局にとっての隠れ端末は、CTSを受信して送信停止期間を設定し、データ・フレームとの衝突を回避し、受信局にとっての隠れ端末は、RTSを受信して送信期間を停止し、ACKとの衝突を回避する。CSMA/CA制御手順にRTS/CTSハンドシェイクを併用することにより、過負荷状態における衝突のオーバーヘッドの削減が図られることがある。
図1に示した通信システムでも、CSMA/CA制御手順にRTS/CTSハンドシェイクを併用することができる。
図4には、図1に示した通信システムにおいて、アクセスポイントとして動作する通信局STA0がデータ送信元となり、端末局として動作する各通信局STA1〜STA3がデータ送信先となり、STA0が各通信局STA1〜STA3宛ての送信フレームを空間軸上で多重して同時送信する場合のシーケンス例を示している。なお、図4中の通信局STA4は、図1には含まれないが、通信局STA0〜STA3のうち少なくとも1つの通信範囲内の存在する隠れ端末であるとする。
STA0は、事前に物理キャリアセンスを行ない、メディアがクリアであることを確認し、さらにバックオフを行なった後に、アダプティブ・アレイ・アンテナの重みを利用することで、各通信局STA0〜STA3宛ての複数のRTSフレーム(RTS0−1、RTS0−2、RTS0−3)を空間分割多重して同時送信する。
従来規格に従うSTA4は、自局を宛て先に含まないRTSフレームを受信した場合には、当該フレーム内のデュレーションに記述された情報に基づいてNAVのカウンター値を設定して(周知)、送信動作を控える。
各通信局STA1、STA2、STA3は、受信したRTSフレームが自局宛てであることを認識すると、当該フレームを受信終了してから所定のフレーム間隔SIFS(Short Inter Frame Space)が経過した後に、RTS送信元であるSTA0宛てのCTSフレーム(CTS1−0、CTS2−0、CTS3−0)を同時に送信する。
STA0は、RTSフレームを送信完了した後、RTSフレームの各宛て先局からそれぞれ返信されるCTSフレームを受信待機している。その際、アダプティブ・アレイ・アンテナの重みを利用して各通信局STA1、STA2、STA3と空間分割多元接続していることから、同時に受信した複数のCTSフレームを空間軸上で分離して受信することができる。
他方、従来規格に従うSTA4は、自局を宛て先に含まないいずれかのCTSフレームを受信した場合には、当該フレーム内のデュレーションに記述された情報に基づいてNAVのカウンター値を設定して(周知)、送信動作を控える。
STA0は、各通信局STA1、STA2、STA3からのCTSフレームを受信完了してから所定のフレーム間隔SIFSが経過した後に、各通信局STA1、STA2、STA3の各々に宛てたデータ・フレーム(Fragment1−0、Fragment2−0、Fragment3−0)をそれぞれ送信する。STA0は、上記の学習したアダプティブ・アレイ・アンテナの重みを利用することで、複数のデータ・フレームを空間分割多重して同時送信する。これによって、複数ユーザー全体でのスループットを向上させることができる。なお、送信するデータ・フレームを、CTSフレームを受信できた通信局を宛て先とするもののみに制限するようにしてもよい。
これに対し、各通信局STA1、STA2、STA3は、それぞれ自局宛てのデータ・フレーム(Fragment1−0、Fragment2−0、Fragment3−0)を受信完了すると、所定のフレーム間隔SIFSが経過した後に、ACKフレーム(ACK1−0、ACK2−0、ACK3−0)を同時に返信する。
STA0の複数本のアンテナ素子は既にアダプティブ・アンテナとして機能しており、同時受信した複数のACKフレーム(ACK1−0、ACK2−0、ACK3−0)を空間分離することができる。
また、図5には、図1に示した通信システムにおいて、端末局として動作する各通信局STA1〜STA3がそれぞれデータ送信元となり、アクセスポイントとして動作する通信局STA0がデータ送信先となり、各通信局STA1〜STA3がSTA0宛ての送信フレームを空間軸上で多重して同時送信する場合のシーケンス例を示している。なお、図5中の通信局STA4は、図1には含まれないが、通信局STA0〜STA3のうち少なくとも1つの通信範囲内の存在する隠れ端末であるとする。
各通信局STA1〜STA3は、事前に物理キャリアセンスを行ない、メディアがクリアであることを確認し、さらにバックオフを行なった後に、STA0宛てのRTSフレーム(RTS1−0、RTS2−0、RTS3−0)を、同時に送信する。
従来規格に従うSTA4は、自局を宛て先に含まないいずれかのRTSフレームを受信した場合には、当該フレーム内のデュレーションに記述された情報に基づいてNAVのカウンター値を設定して(周知)、送信動作を控える。
STA0は、アダプティブ・アレイ・アンテナの重みを利用して各通信局STA1、STA2、STA3と空間分割多元接続していることから、同時に受信した複数のRTSフレームを空間軸上で分離して受信することができる。そして、STA0は、受信した各RTSフレームが自局宛てであることを認識すると、当該フレームを受信終了してから所定のフレーム間隔SIFSが経過した後に、各通信局STA1〜STA3をそれぞれ宛て先とする複数のCTSフレーム(CTS0−1、CTS0−2、CTS0−3)を、アダプティブ・アレイ・アンテナの重みを利用して、空間分割多重により同時送信する。
各通信局STA1、STA2、STA3は、RTSフレームを送信完了した後、RTSフレームの宛て先局であるSTA0から返信されるCTSフレームをそれぞれ受信待機している。そして、各通信局STA1、STA2、STA3は、STA0からのCTSフレームを受信したことに応答して、STA0宛てのデータ・フレーム(Fragment0−1、Fragment0−2、Fragment0−3)を同時に送信する。これによって、複数ユーザー全体でのスループットを向上させることができる。
他方、従来規格に従うSTA4は、自局を宛て先に含まないいずれかのCTSフレームを受信した場合には、当該フレーム内のデュレーションに記述された情報に基づいてNAVのカウンター値を設定して(周知)、送信動作を控える。
STA0は、アダプティブ・アレイ・アンテナの重みを利用して各通信局STA1、STA2、STA3と空間分割多元接続していることから、同時に受信した複数のデータ・フレームを空間軸上で分離して受信することができる。そして、STA0は、受信した各データ・フレームが自局宛てであることを認識すると、当該フレームを受信終了してから所定のフレーム間隔SIFSが経過した後に、各通信局STA1〜STA3をそれぞれ宛て先とする複数のACKフレーム(ACK0−1、ACK0−2、ACK0−3)を、アダプティブ・アレイ・アンテナの重みを利用して、空間分割多重により同時送信する。
そして、各通信局STA1、STA2、STA3は、STA0からのACKフレームをそれぞれ受信することによって、STA0へのデータ送信シーケンスを成功裏に終了させる。
無線LANは、一般にパケット通信方式を採用するが、各ユーザーが通信したいトラフィックの量はまちまちである。このため、パケット(フレーム)の長さに相違が生じる。空間分割多元接続により複数のユーザー宛てのフレームを多重化して同時送信する場合、フレーム長の相違により総送信電力の急峻な変化が生じると、受信側での受信電力の急峻な変化に伴うAGCの不安定な動作を誘発するなどの問題がある(前述)。また、多重化するフレームの一部が先に終了し、その他のフレームの送信が継続していると、通信可能な帯域を有効に利用できていないことになり、空間分割多元接続の効果が減じられる。
このため、同一時間上で多重されるフレームは、ユーザー毎の送信データ長がまちまちであったとしても、最終的には同じフレーム長で送信される必要がある。
例えば、図4に示した通信シーケンス例では、RTS、CTS、ACKの各フレームはフレーム長が均一であることが期待されるが、STA0が送信する複数のデータ・フレームは、宛て先毎に送信データ量が相違することに起因して、MAC層からPHY層へ送られてくるフレーム長が相違する可能性がある。
また、図5に示した通信シーケンス例では、RTS、CTS、ACKの各フレームはフレーム長が均一であることが期待されるが、各通信局STA1、STA2、STA3がそれぞれSTA0に宛てたデータ・フレームは、各々の上位層アプリケーションから要求される送信データ量が相違することに起因して、MAC層からPHY層へ送られてくるフレーム長が相違する可能性がある。
そこで、本実施形態では、空間的に多重する複数のフレームのうち短いものに対し、例えばPHY層においてパッディングを施してフレーム長の長いものに合わせるという方法を採用している。
例えば、図4に示した通信シーケンス例では、通信局STA0において各通信局STA1〜STA3宛てのデータ・フレーム(Fragment0−1、Fragment0−2、Fragment0−3)がMAC層からPHY層に送られてきたときに、PHY層において、フレーム長の相違からパッディングを行なう必要が否かを判断する。そして、パッディングが必要であると判断された(フレーム長の短い)フレームに対してパッディングを施し、最終的にフレーム長が揃うようにしてから、宛て先となる各通信局STA1〜STA3へ、フレームを空間分割多重して送信する。これによって、所望する空間分割多元接続の効果を奏することができる。
また、図5に示した通信シーケンス例では、データ・フレームの送信元となる各通信局STA1〜STA3の間では、フレーム送信時間毎の最終的に揃えるべきフレーム長を互いに事前に認識していることを前提とする。例えば、RTSフレームやCTSフレームを交換する際に、アクセスポイントであるSTA0からフレーム長の指定を受けるようにしてもよい。あるいは、端末局STA1〜STA3からアクセスポイントSTA0へアップリンクでデータ・フレームを送信する場合に限り、固定長フレーム・フォーマットを用いるようにしてもよい。そして、各通信局STA1〜STA3では、STA0宛てのデータ・フレーム(Fragment1−0、Fragment2−0、Fragment3−0)がMAC層からPHY層に送られてきたときに、それぞれのPHY層において、フレーム長の相違からパッディングを行なう必要が否かを判断する。そして、パッディングが必要であると判断した通信局では、自分の送信フレームに対してパッディングを施し、他の通信局からの送信フレームとは最終的にフレーム長が揃うようにする。これによって、所望する空間分割多元接続の効果を奏することができる。
なお、図4並びに図5に示した通信シーケンス例において、フレーム長を均一にするために一部のデータ・フレームにパッディングを施す場合、RTS、CTS、ACKの各フレームの送受信方法について何らの制限を与えるものではない。
図6Aには、上位層(例えばMAC層)から送られてくる、同一時間上で多重すべき複数のフレームの長さが異なる様子を示している。図6Bには、上位層(例えばMAC層)から送られてくる長さの異なる複数のフレームを、同一時間上で多重する場合にパッディングを施して、最終的にPHY層から送信されるフレームの長さが均一になるイメージを示している。
但し、最終的にPHY層から送信されるフレームは、フレーム送信時間毎に揃っていればよく、システム全体を通じて(すなわち、送信時間が異なるフレームの間で)常に一定の長さに揃える必要はない。
図6中の縦軸は、複数のフレームを多重するための無線リソースを示す軸である。ここでは、空間分割多重を示しているが、符号分割多重、周波数分割多重、直交周波数分割多重する場合、あるいはこれらの多重方式のうち2以上を組み合わせる場合にも、同様に当て嵌まる。
なお、ここで言うフレームの「長さ」とは、時間的な長さ、シンボル数、ビット数、データ・サイズの意味を含むものとする。また、フレームへのパッディングは、ビットあるいはシンボルを最小単位として行なうことができる。
ここで、パッディングに利用されるビット又はシンボルは、パッディングされたフレームを交換する通信装置間で既知であることが好ましい。
例えば、図4に示したシーケンス例において、アクセスポイントSTA0が複数の端末局STA1〜STA3宛てのデータ・フレームを同一時間上で多重して送信する際、アクセスポイントSTA0がいずれかのデータ・フレームにパッディングを施すときには、当該データ・フレームの宛て先となる端末局との間で既知であるビット又はシンボルを利用してパッディングを行なうようにする。
また、図5に示したシーケンス例において、端末局STA1〜STA3がアクセスポイントSTA0宛てに同一時間上でデータ・フレームを送信する際、いずれかの端末局STA1〜STA3がフレームにパッディングを施す際には、アクセスポイントSTA0との間で既知であるビット又はシンボルを利用してパッディングを行なうようにする。
特に、既知シンボルをパッディングに利用する場合、パッディングされたフレームの受信処理を行なう際に、当該既知シンボルをパイロット・シンボルとして用いて、周波数誤差推定や、タイミング誤差推定、チャネル推定など、受信動作の補助としても再利用することができる。また、図4に示すようにデータ・フレームが空間分割多重されている際には、受信する各端末局STA1〜STA3側では、パッディングされた既知シンボルを空間ダイバーシティー利得の獲得に利用することができる。
ビット単位でパッディングを施す場合、送信処理の誤り訂正符号化の入力あるいは出力でパッディングすることが可能である、また、インターリーブの入力あるいは出力でパッディングすることが可能である。処理の後段でパッディングすると、シンボル変調後も既知シンボルとして利用することができるので、できる限り、訂正出力、インターリーブ出力でパッディングすることが好ましい。
一方、シンボル単位でパッディングを施す場合、最小単位としては、シングル・キャリア変調のシンボル、あるいは、直交周波数分割多重の1サブキャリア上のシンボルが考えられる。また、パッディングの単位はこれに限らず、シングル・キャリア変調であれば1以上の所定のシンボルの組み合わせ、直交周波数分割多重であれば1以上の所定のサブキャリアの組み合わせのシンボルや直交周波数分割多重シンボルの組み合わせが考えられる。
ここで、フレーム内でパッディングを施す直交周波数分割多重シンボルの位置により、所定のサブキャリアの組み合わせを変化させることも可能である。これにより、フレームにわたってより多くのサブキャリアに既知シンボルを配置することができるようになる。
図7には、パッディングするシンボル位置に応じてパッディングするサブキャリアの組み合わせを変化させる様子を例示している。同図では、直交周波数分割多重方式が適用されるものとし、同一時間上で多重して送信するSTA1宛てのフレームとSTA2宛てのフレーム(若しくは、STA1とSTA2の各々から同一時間上で同じ宛て先に送信されるフレーム)のうち、後者のフレームに対してパッディングを施して、フレーム長を同じにすることを想定している。
図7Aに示すように、STA2宛てのフレーム(若しくは、STA2からのフレーム)のデータ部内の複数の位置、A、B、C、D、…において、シンボル単位でパッディングが施されている。そして、図7Bに示すように、パッディングを施す直交周波数分割多重シンボルのフレーム内での位置A〜Bにより、パッディングするサブキャリアの組み合わせを変化させている。パッディングされたサブキャリアを用いて周波数誤差推定、タイミング誤差推定、チャネル推定を行なう場合、サブキャリアの位置が図7Bに示すようにシンボル全体にわたって分散していることから、推定精度を向上させることができる。
また、ビット又はシンボルのいずれを単位としてパッディングを施す場合も、フレーム内でパッディングを施す位置についても幾つかの方法論が考えられる。図8〜図11には、フレーム内でパッディングを施す配置例を示している。但し、最終的に送信されるフレームは、プリアンブル部、ヘッダー部、及びデータ部で構成され、データ部にパッディングが施される。プリアンブル分並びにヘッダー部について特に制限はないが、これらのフィールドの長さは多重されるフレーム間で同じであることが好ましい。また、各図では、説明の簡単のため、2つのフレームを多重する際にフレーム長の短い方にパッディングを施す場合を想定している。
図8に示す例では、データ部の後方にパッディング領域をまとめて配置している。これに対し、図9に示す例では、データ部の前方にパッディング領域をまとめて配置している。図9に示すように、フレーム前方で既知シンボルをパッディングする場合、フレームの受信側ではそのシンボルをパイロット・シンボルとして用いることで、図8に示すようにフレーム後方でパッディングする場合と比較すると、周波数誤差推定、タイミング誤差推定、チャネル推定など受信補助の効果が大きくなる。
また、図10並びに図11に示す例では、パッディング領域を細かく分割して、データ部全体にわたって分散してパッディング位置を配置している。
このうち、図10に示す例では、データ部内で均一に分散してパッディング位置を配置している。分散して既知シンボルをパッディングすることで、周波数誤差推定、タイミング誤差推定、チャネル推定のトラッキングをフレームにわたって行なうことが可能となる。
一方、図11に示す例では、データ部内で不均一に分散してパッディング位置を配置している。この場合も、周波数誤差推定、タイミング誤差推定、チャネル推定のトラッキングを行なうことが可能である。また、分散させる際にフレーム前方で密にパッディング位置を配置することで、データ部の前方でパッディングする場合の効果が併せて得られる。
また、データ部内でパッディングする位置を、常に一定にするのではなく、多重されるフレーム毎に都度変えてもよい。後者の場合、あらかじめ定義された有限個のパッディング位置パターンの中から、逐次選択してパッディングしてもよい。例えば、図8〜図11に示したパッディング位置パターンを順にあるいはランダムに選択するようにしてもよい。多重フレームの送信側で、有限個のパッディング位置パターンから選択する場合、パッディングが施されたフレームの受信側に対してパッディング位置の通知方法が簡素になるという利点がある。
パッディングが施されたフレームを受信する側では、パッディング領域を除去してから本来のデータ部分を復号することから、フレーム内でパッディングが施された位置を認識する必要がある。パッディング位置パターンがシステム全体を通じて一定ではなくフレーム毎に変化する場合には、フレームの送信側から受信側へ、パッディング位置に関する情報を通知することが1つの解決策となる。
パッディング位置に関する情報を通知する方法として、例えば、最終的に送信されるフレームに付加されているプリアンブル部あるいはヘッダー部の中にパッディング位置に関する情報を入れることが挙げられる。
図8並びに図9に示したように、パッディングがデータ部の前方又は後方にまとめて行なわれる場合、送信側は、パッディング前のフレームの長さとパッディング後のフレームの長さを通知すれば、受信側では、パッディングが施された領域を特定することが可能である。
また、有限個のパッディング位置パターンの中から選択してパッディングを行なう場合、送信側は、使用したパターンを識別する情報を通知すれば、受信側では、パッディングが施された領域を特定することが可能である。
図12には、図2に示した通信装置が、図4に示した通信シーケンスにおけるアクセスポイントSTA0として動作して動作して、複数の端末局STA1〜STA3宛ての各フレームを同一の時間上で多重して送信するための処理手順をフローチャートの形式で示している。
上位層から送信フレームを受け取ると(ステップS1)、受け取ったフレームが複数あるか(言い換えれば、同一時間上で多重すべきか)をチェックし(ステップS2)、続いて、多重するフレームの長さが異なるか否かをチェックする(ステップS3)。
ここで、受け取ったフレームが1つだけで多重する必要がない場合(ステップS2のNo)、若しくは、多重するフレームの長さが同じでフレーム長を調整する必要がない場合には(ステップS3のNo)、多重されるフレーム間で長さを揃えるためのパッディングは行なわないようにする(ステップS5)。但し、ステップS5は、直交周波数分割多重シンボル内のサブキャリア本数をそろえるなど、他の目的でパッディングを行なうことを制限するものではない。
他方、上位層から受け取ったフレームが複数あり、且つ、これらのフレーム長が同じでない場合には(ステップS2、S3がともにYes)、多重するフレームの長さが同じでフレーム長を調整するために、各フレームが所定のフレーム長となるように、長さの不足するフレームに対し、パッディングを施す(ステップS4)。パッディングは、基本的には、フレーム内のデータ部に対して実施される。また、パッディングの方法として、例えば、図8乃至図11に示したもののいずれかを用いることができるが、その他の方法であってもよい。
次いで、フレーム長の調整が施された後の各フレームの先頭に対し、プリアンブル部、及び、ヘッダー部を付与する(ステップS6)。各フレームのプリアンブル部及びヘッダー部のデータ長は、基本的に同一とする。また、パッディング位置パターンをフレーム毎に変化させる場合には、フレーム受信側に対してパッディング位置に関する情報をヘッダー部に記載するようにしてもよい。
そして、フレームの送信処理を実行して(ステップS7)、本処理ルーチンを終了する。送信フレームが複数ある場合には、最終的には互いに同じフレーム長となった各フレームを、同一時間上で多重して送信する。
図13には、図2に示した通信装置が、図4に示した通信シーケンスにおけるいずれかの端末局STA1〜STA3として動作して、アクセスポイントSTA0が同一の時間上で多重して送信したフレームを受信するための処理手順をフローチャートの形式で示している。
通信装置は、フレームを受信すると(ステップS11)、まず、ヘッダー部を復号してその内容を解析する(ステップS12)。そして、多重フレーム数に関する情報を取得する(ステップS13)。また、フレーム毎にパッディング位置パターンを変化させる場合には、ヘッダー部からパッディング位置に関する情報を合わせて取得するようにする(ステップS14)。
次いで、ペイロード部の復号を開始する(ステップS15)。
シンボルが、パッディング・シンボルではないときには(ステップS16のNo)、データ・シンボルとして復号処理を実施する(ステップS19)。
また、パッディング・シンボルについては(ステップS16のYes)、パイロット・シンボルとして利用して、周波数誤差推定、タイミング誤差推定、チャネル推定のトラッキングを行ない(ステップS17)、さらにキャンセリングを実施する(ステップS18)。
そして、このような処理をペイロード部のすべてのシンボルにわたり繰り返し実施し終えると(ステップS20)、本処理ルーチンを終了する。
図14には、図2に示した通信装置が、図5に示した通信シーケンスにおけるいずれかの端末局STA1〜STA3として動作して、アクセスポイントSTA0宛ての各フレームを同一の時間上で送信するための処理手順をフローチャートの形式で示している。
他の通信装置とともに同一時間上で送信すべきフレームを上位層から受け取ると(ステップS31)、受け取ったフレームの長さが所定のフレーム長よりも短いか否かをチェックする(ステップS32)。
ここで、受け取ったフレームの長さが所定のフレーム長となるときには(ステップS32のNo)、所定のフレーム長に揃えるためのパッディングは行なわないようにする(ステップS34)。但し、ステップS5は、直交周波数分割多重シンボル内のサブキャリア本数をそろえるなど、他の目的でパッディングを行なうことを制限するものではない。
他方、受け取ったフレームの長さが所定のフレーム長よりも短いときには(ステップS32のYes)、所定のフレーム長に揃えるために、パッディングを施す(ステップS33)。パッディングは、基本的には、フレーム内のデータ部に対して実施される。また、パッディングの方法として、例えば、図8乃至図11に示したもののいずれかを用いることができるが、その他の方法であってもよい。
次いで、フレーム長の調整が施された後のフレームの先頭に対し、プリアンブル部、及び、ヘッダー部を付与する(ステップS35)。フレームのプリアンブル部及びヘッダー部のデータ長は、基本的に他の通信装置と同一とする。また、パッディング位置パターンをフレーム毎に変化させる場合には、フレーム受信側に対してパッディング位置に関する情報をヘッダー部に記載するようにしてもよい。
そして、他の通信装置と同一時間上でフレームの送信処理を実行して(ステップS36)、本処理ルーチンを終了する。
なお、図5に示した通信シーケンスにおいてアクセスポイントSTA0が、複数の端末局STA1〜STA3から同一時間上で送信された各フレームを受信する処理は、図13と同様の手順となるので、ここでは説明を省略する。
このように本実施形態に係る通信システムでは、空間分割多元接続により長さの異なるデータ・フレームを同一時間上で多重するが、多重されるフレームを最終的には長さを同じにして送信することから、図4中でアクセスポイントSTA0から多重されたデータ・フレームを各通信局STA1〜STA3において受信する際、あるいは図5中で各通信局STA1〜STA3から同時送信されたデータをアクセスポイントSTA0において受信する際に、受信電力の急峻な変化に伴うAGCの動作不安定を解消することができる。