JP5790547B2 - 燃料電池システムおよびその制御方法、膜電極接合体の疲労の検出方法 - Google Patents

燃料電池システムおよびその制御方法、膜電極接合体の疲労の検出方法 Download PDF

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Description

この発明は、燃料電池に関する。
固体高分子形燃料電池(以下、単に「燃料電池」とも呼ぶ)は、通常、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す電解質膜の両面に電極が配置された膜電極接合体を備える。電解質膜は、燃料電池の運転中には、その運転状態(運転温度や発電量など)に応じた膨潤と収縮とを繰り返す。電解質膜の膨潤と収縮とが繰り返されると、膜電極接合体では、電解質膜や電極における亀裂や微小穴の発生等の不可逆的な劣化が生じてしまうことが知られている(下記特許文献1等)。
こうした膜電極接合体における不可逆的な劣化の蓄積は、燃料電池の発電性能の著しい低下などの不具合を引き起こす可能性がある。そのため、燃料電池システムでは、システム障害の発生を回避するために、そうした膜電極接合体における不可逆的な劣化の蓄積に起因する不具合の発生を予防できる技術が要求されている。
特開2011−159559号公報 特開2008−108612号公報 特開2009−048816号公報
本発明は、膜電極接合体の不可逆的劣化に起因する燃料電池システムの不具合の発生を予防する技術を提供することを目的とする。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。本発明の第1形態は、燃料電池システムであって、膜電極接合体を有する燃料電池と、前記膜電極接合体に生じる応力の大きさに応じて、前記膜電極接合体に蓄積されていく疲労に基づいて、前記膜電極接合体の使用限界を管理する疲労管理部と、を備え、前記疲労管理部は、前記燃料電池の運転中にわたって前記膜電極接合体に生じる応力を表す応力情報を取得し、前記応力情報に基づいて、前記燃料電池の運転中に前記膜電極接合体に生じる応力の大きさに応じて取得される疲労度の総和である蓄積疲労度を取得し、前記蓄積疲労度に基づいて、前記膜電極接合体の使用限界を管理する、燃料電池システムとして提供される。本発明の第2形態は、膜電極接合体を有する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、(a)前記燃料電池の運転中にわたって前記膜電極接合体に生じる応力を繰り返し検出する工程と、(b)前記応力を検出するごとに、前記膜電極接合体に生じる応力の大きさに応じて、前記膜電極接合体に蓄積されていく疲労を表す疲労度を取得する工程と、(c)前記疲労度の総和に基づいて、前記膜電極接合体の使用限界を報知する工程と、を備える、制御方法として提供される。本発明の第3形態は、燃料電池に用いられる膜電極接合体に蓄積されている疲労を検出する方法であって、(a)前記燃料電池の運転中にわたって前記膜電極接合体に生じる応力を繰り返し検出する工程と、(b)前記応力を検出するごとに、前記応力の大きさごとに予め設定された前記大きさの応力の発生を許容する発生許容回数に対する、前記大きさの応力の発生を検出した回数である応力発生回数の割合として取得される、前記応力の大きさごとの疲労度を積算していく工程と、を備える、方法として提供される。
[適用例1]
燃料電池システムであって、膜電極接合体を有する燃料電池と、前記膜電極接合体に生じる応力の大きさに応じて、前記膜電極接合体に蓄積されていく疲労に基づいて、前記膜電極接合体の使用限界を管理する疲労管理部と、を備える、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、燃料電池の運転状態に応じて変動する、膜電極接合体に生じる応力の大きさに応じて、膜電極接合体に蓄積される疲労に基づいて、膜電極接合体の使用限界を管理するため、膜電極接合体の不可逆的劣化の蓄積に起因する燃料電池システムの不具合の発生を、より適切に予防することが可能である。
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池システムであって、前記疲労管理部は、前記膜電極接合体に蓄積されていく疲労を表す値として、前記応力の大きさごとに予め設定された前記大きさの応力の発生を許容する発生許容回数に対する、前記大きさの応力の発生を検出した回数である応力発生回数として取得される、前記応力の大きさごとの値を積算した値である蓄積疲労度を取得する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、膜電極接合体における応力の発生履歴に応じて、膜電極接合体に蓄積される疲労を蓄積疲労度として、適切に検出することができる。
[適用例3]
適用例2記載の燃料電池システムであって、前記疲労管理部は、発電中の前記膜電極接合体に生じる応力を検出する応力検出部と、前記応力検出部が応力を検出するごとに、前記蓄積疲労度を更新する疲労度更新部と、前記蓄積疲労度に基づいて、前記膜電極接合体の使用限界を報知する報知部と、を備える、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、燃料電池の運転中に、膜電極接合体に生じる応力を適宜検出して、その応力に基づいて蓄積疲労度を更新する。従って、膜電極接合体の疲労度を、より適切に検出することができる。また、蓄積疲労度に基づいて、膜電極接合体の使用限界をユーザーに適切に報知できるため、燃料電池システムの不具合の発生を適切に予防することが可能である。
[適用例4]
適用例1から3のいずれかに記載の燃料電池システムであって、前記疲労管理部は、前記膜電極接合体に蓄積されていく疲労が所定のレベルに到達したときに、前記燃料電池の運転条件を制限する運転制限処理を実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、膜電極接合体に所定のレベルの疲労が蓄積した場合に、膜電極接合体に対する負荷が緩和されるように、燃料電池の運転が制限される。従って、膜電極接合体の疲労の蓄積に起因する燃料電池システムの不具合の発生を適切に予防することが可能である。
[適用例5]
適用例2に記載の燃料電池システムであって、前記燃料電池システムは、予め規定された運転パターンでの運転を実行し、前記疲労管理部は、前記運転パターンで運転したときの、前記膜電極接合体に生じる前記応力の発生パターンに基づいて予め設定された前記蓄積疲労度の限界値を記憶しており、前記疲労管理部は、前記蓄積疲労度が、前記限界値に到達したときに、前記膜電極接合体の使用限界を報知する報知部を備える、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、規定の運転パターンでの運転を実行している場合に、膜電極接合体に生じる応力変動に基づいた膜電極接合体の使用限界を適切に設定しておくことができる。従って、膜電極接合体の疲労の蓄積に起因する燃料電池システムの不具合の発生を適切に予防することが可能である。
[適用例6]
膜電極接合体を有する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、
(a)前記膜電極接合体に生じる応力を検出する工程と、
(b)前記応力を検出するごとに、前記膜電極接合体に生じる応力の大きさに応じて、前記膜電極接合体に蓄積されていく疲労を表す値を更新する工程と、
(c)前記膜電極接合体に蓄積されていく疲労を表す値に基づいて、前記膜電極接合体の使用限界を報知する工程と、
を備える、制御方法。
この制御方法であれば、膜電極接合体の使用限界が適切に報知されるため、膜電極接合体の不可逆的な劣化に起因する燃料電池システムの不具合の発生を予防できる。
[適用例7]
燃料電池に用いられる膜電極接合体に蓄積されている疲労を検出する方法であって、
(a)前記膜電極接合体に生じる応力を検出する工程と、
(b)前記応力の大きさごとに予め設定された前記大きさの応力の発生を許容する発生許容回数に対する、前記大きさの応力の発生を検出した回数である応力発生回数として取得される、前記応力の大きさごとの値を積算する工程と、
を備える、方法。
この方法であれば、膜電極接合体の疲労状態を適切に検出することが可能である。
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。また、本発明は、燃料電池の備える電解質膜の疲労度を検出する方法およびその方法を実行する装置、その方法を利用した燃料電池システムの制御方法および制御装置、それらの方法または装置等の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
燃料電池システムの構成を示す概略図。 膜電極接合体における不可逆的な劣化の発生メカニズムを説明するための模式図。 発電体疲労管理処理の処理手順を示す説明図。 電解質膜の湿潤度の取得工程を説明するための説明図。 電解質膜のひずみ量εの取得工程を説明するための説明図。 膜電極接合体に生じている応力の取得工程を説明するための説明図。 膜電極接合体に生じる応力と、その応力の発生許容回数との関係を説明するための説明図。 膜電極接合体に生じる応力と、その応力の発生許容回数との関係を表すグラフの取得方法を説明するための説明図。 第2実施例の発電体疲労管理処理の処理手順を示す説明図。 第3実施例の発電体疲労管理処理の処理手順を示す説明図。 第4実施例の燃料電池システムの構成を示す概略図。 第4実施例の燃料電池車両の走行ルートの一例を示す模式図。 規定ルートの走行によって膜電極接合体に生じる応力の発生パターンを説明するための説明図。 第4実施例の発電体疲労管理処理の処理手順を示す説明図。 第5実施例の燃料電池車両の走行ルートの例を示す模式図。 第5実施例の発電体疲労管理処理の処理手順を示す説明図。 第6実施例の発電体疲労管理処理の処理手順を示す説明図。
A.第1実施例:
図1は本発明の一実施例としての燃料電池システムの構成を示す概略図である。この燃料電池システム100は、燃料電池車両に搭載され、運転者からの要求に応じて、駆動力として用いられる電力を出力する。燃料電池システム100は、燃料電池10と、制御部20と、カソードガス供給系30と、カソードガス排出系40と、アノードガス供給系50と、アノードガス排出系60とを備える。さらに、燃料電池システム100は、膜抵抗検出部70と、運転温度検出部72と、発電体疲労報知部74と、を備える。
燃料電池10は、反応ガスとして水素(アノードガス)と空気(カソードガス)の供給を受けて発電する固体高分子形燃料電池である。燃料電池10は、複数の単セル11が積層されたスタック構造を有する。各単セル11は、電解質膜の両面に電極を配置した発電体である膜電極接合体(図示せず)と、膜電極接合体を狭持する2枚のセパレータ(図示せず)とを有する。膜電極接合体については後述する。
制御部20は、中央処理装置と主記憶装置とを備えるマイクロコンピュータによって構成することができる。制御部20は、運転制御部21としての機能と、発電体疲労管理部22としての機能と、を備える。運転制御部21は、以下に説明する各系30,40,50,60を制御して、システムに対する出力要求に応じた電力を燃料電池10に発電させる。
発電体疲労管理部22は、燃料電池10の運転中に、定期的に燃料電池10が備える膜電極接合体に生じている応力を検出し、その応力の発生によって、膜電極接合体に不可逆的に蓄積されていく劣化の度合いを管理する。膜電極接合体の劣化の発生メカニズムや、発電体疲労管理部22が実行する処理(以下、「発電体疲労管理処理」と呼ぶ)の内容については後述する。
カソードガス供給系30は、カソードガス配管31と、エアコンプレッサ32と、エアフロメータ33と、開閉弁34とを備える。カソードガス配管31は、燃料電池10のカソード側の入口に接続された配管である。エアコンプレッサ32は、カソードガス配管31を介して燃料電池10と接続されており、外気を取り込んで圧縮した空気を、カソードガスとして燃料電池10に供給する。
エアフロメータ33は、エアコンプレッサ32の上流側において、エアコンプレッサ32が取り込む外気の量を計測し、運転制御部21に送信する。運転制御部21は、この計測値に基づいて、エアコンプレッサ32を駆動することにより、燃料電池10に対する空気の供給量を制御する。開閉弁34は、エアコンプレッサ32と燃料電池10との間に設けられている。開閉弁34は、通常、閉じた状態であり、エアコンプレッサ32から所定の圧力を有する空気がカソードガス配管31に供給されたときに開く。
カソードガス排出系40は、カソード排ガス配管41と、調圧弁43と、圧力計測部44とを備える。カソード排ガス配管41は、燃料電池10のカソード側の出口に接続された配管である。カソード排ガスは、カソード排ガス配管41を介して、燃料電池システム100の外部へと排出される。
調圧弁43は、運転制御部21によって、その開度が制御されており、カソード排ガス配管41におけるカソード排ガスの圧力(燃料電池10のカソード側の背圧)を調整する。圧力計測部44は、調圧弁43の上流側に設けられており、カソード排ガスの圧力を計測し、その計測値を運転制御部21に送信する。
アノードガス供給系50は、アノードガス配管51と、水素タンク52と、開閉弁53と、レギュレータ54と、水素供給装置55と、圧力計測部56とを備える。水素タンク52は、アノードガス配管51を介して燃料電池10のアノードと接続されており、タンク内に充填された水素を燃料電池10に供給する。
開閉弁53と、レギュレータ54と、水素供給装置55と、圧力計測部56とは、アノードガス配管51に、この順序で、上流側(水素タンク52側)から設けられている。開閉弁53は、運転制御部21からの指令により開閉し、水素タンク52から水素供給装置55の上流側への水素の流入を制御する。レギュレータ54は、水素供給装置55の上流側における水素の圧力を調整するための減圧弁であり、その開度が運転制御部21によって制御されている。
水素供給装置55は、例えば、電磁駆動式の開閉弁であるインジェクタによって構成することができる。圧力計測部56は、水素供給装置55の下流側の水素の圧力を計測し、運転制御部21に送信する。運転制御部21は、圧力計測部56の計測値に基づき、水素供給装置55を制御することによって、燃料電池10に供給される水素量を制御する。
アノードガス排出系60は、アノード排ガス配管61と、開閉弁66と、圧力計測部67とを備える。アノード排ガス配管61は、燃料電池10のアノードの出口接続された配管である。発電反応に用いられることのなかった未反応ガス(水素や窒素など)を含むアノード排ガスは、アノード排ガス配管61を介して、燃料電池システム100の外部へと排出される。
開閉弁66は、アノード排ガス配管61に設けられており、運転制御部21からの指令に応じて開閉する。アノードガス排出系60の圧力計測部67は、アノード排ガス配管61に設けられている。圧力計測部67は、燃料電池10の水素マニホールドの出口近傍において、アノード排ガスの圧力(燃料電池10のアノード側の背圧)を計測し、運転制御部21に送信する。
膜抵抗検出部70は、燃料電池10の単セル11の中でも、特に運転温度が高くなる傾向にある単セル11mに接続されている。具体的に、単セル11mは、単セル11の中でも、燃料電池10の積層方向における中央近傍に配置されたものであるとしても良い。膜抵抗検出部70は、単セル11mの電解質膜の電気的抵抗(以下、単に「膜抵抗」とも呼ぶ)を検出し、発電体疲労管理部22に送信する。
なお、膜抵抗検出部70は、単セル11mの出力電流と出力電圧とに基づいて膜抵抗を取得するものとしても良い。また、膜抵抗検出部70は、単セル11mのカソード側の入口に近い部位など、最も乾燥しやすい部位における局所的な膜抵抗を検出するものとしても良い。
運転温度検出部72は、燃料電池10の運転温度を検出して運転制御部21および発電体疲労管理部22に送信する。なお、運転温度検出部72は、燃料電池10の運転温度を、燃料電池10に循環供給される冷媒(詳細な説明は省略)の温度に基づいて検出するものとしても良いし、燃料電池10の排ガスの温度に基づいて検出するものとしても良い。
発電体疲労報知部74は、表示部を備え、発電体疲労管理部22の指令に応じて、燃料電池10の膜電極接合体の疲労状態やメンテナンス時期に関する警告等の情報を、燃料電池車両の運転者に報知する。なお、発電体疲労報知部74は、表示以外の手段(例えば、音声)によって、そうした警告を報知するものとしても良い。
燃料電池システム100は、図示や詳細な説明は省略するが、二次電池と、DC/DCコンバータとを備える。二次電池は、燃料電池10が出力する電力や回生電力を蓄電し、燃料電池10の補助電力源として機能する。DC/DCコンバータは、二次電池の充放電や、燃料電池10の出力電圧の制御に用いられる。
図2は、燃料電池10の備える膜電極接合体5における不可逆的な劣化の発生メカニズムを説明するための模式図である。図2(A)は、燃料電池10が備える膜電極接合体5の構成を示す概略図である。膜電極接合体5は、電解質膜1の両面に電極2,3が配置された構成を有している。
電解質膜1は、湿潤状態のときに良好なプロトン伝導性を示す固体高分子薄膜であり、例えば、フッ素系のイオン交換樹脂の薄膜によって構成することができる。電極2,3は、発電反応を促進させるための触媒が担持された導電性粒子と、電解質膜1を構成するのと同種又は類似のアイオノマーと、を分散させた、いわゆる触媒インクの塗布膜として形成される。なお、触媒としては、例えば、白金(Pt)を採用することができ、導電性粒子としては、例えば、カーボン(C)粒子を採用することができる。
図2(B)は、電解質膜1の湿潤状態に応じた寸法変化を説明するための模式図である。図2(B)には、基準となる湿潤度のときの電解質膜1を中段に示し、基準となる湿潤度よりも乾燥した状態の電解質膜1をその上段に、基準となる湿潤度よりも膨潤した状態の電解質膜1をその下段に、模式的に図示してある。
電解質膜1は、通常、その含水状態を表す湿潤度に応じて膨潤し、その表面に沿った方向(以下、「平面方向」とも呼ぶ)における寸法が変化する。具体的には、その湿潤度が高いほど、その平面方向における寸法は増大し、その湿潤度が低いほど、その平面方向における寸法は減少する。
本明細書では、基準となる湿潤度のときの、平面方向のうちの所定の方向における電解質膜1の長さLs(基準長Ls)に対する、当該方向における電解質膜1の長さの変化量Leの百分率を、電解質膜の「ひずみ量ε」と呼ぶ(式(1))。
ε=Le/Ls×100…(1)
なお、電解質膜1のひずみ量εを規定するための基準となる湿潤度は、工場出荷時における湿潤度であるものとしても良い。また、ひずみ量εを規定する所定の方向は、例えば、電解質膜1の表面が長方形形状を有している場合には、その長辺に沿った方向であるものとしても良い。
燃料電池10の運転中には、電解質膜1の湿潤度は運転状態(例えば、燃料電池10の運転温度や、発電量、反応ガスの流量等)に応じて変動する。しかし、電解質膜1は、燃料電池10の各単セル11において、その外周端がシール部材(図示せず)などによって固定的に保持された状態であるため、その湿潤度に応じた変形(特に、収縮する方向への変形)が抑制される。なお、本実施例では、電解質膜1は、各単セル11において、基準長Lsで保持されているものとする(図2(A))。
そのため、燃料電池10の運転中には、湿潤度が基準となる湿潤度よりも低下したときに、ひずみ量εの収縮変形が抑制された分だけの応力が電解質膜1に生じる。また、膜電極接合体5の電極2,3は、湿潤度に応じた変形の度合いが電解質膜1と異なるため、電解質膜1の湿潤状態に応じた変形が繰り返されたときに、電解質膜1から繰り返し応力を付与されることになる。
発電中の燃料電池10において膜電極接合体5に発生するこれらの応力は、膜電極接合体5に、不可逆な劣化を生じさせる原因となる。具体的には、電解質膜1の内部に繰り返し生じる応力変動は、電解質膜1の構造に粗密分布を生じさせたり、電解質膜1の微小穴の径の増大を生じさせ、電解質膜1の透気性を増加させてしまう。また、電極2,3に生じる応力の変動は、電極2,3に亀裂を生じさせる原因となる。電極2,3の亀裂は、さらに、その亀裂を起点とした電解質膜1の応力集中を発生させ、電解質膜1にも亀裂を発生させてしまう原因となる。
このように、発電中の膜電極接合体5に発生する応力の変動は、膜電極接合体5の透気度が増大する方向に膜電極接合体5が構造的に変化させる不可逆的な劣化を生じさせる。そのため、膜電極接合体5における不可逆的な劣化の蓄積(以下、「膜電極接合体5の疲労」とも呼ぶ)は、膜電極接合体5において、反応ガスが供給された側とは反対側の電極へと漏洩してしまう、いわゆるクロスリークの発生を促進させる原因となる。
膜電極接合体5におけるクロスリークの発生が増大すると、燃料電池10の発電性能が著しく低下してしまい、燃料電池システム100のシステム障害の発生原因となる。そこで、本実施例の燃料電池システム100では、以下に説明する発電体疲労管理処理によって、適格に膜電極接合体5に蓄積されている疲労の度合いを検出し、膜電極接合体5の使用限界(寿命)を適切に管理することにより、その可用性を確保する。
図3は、発電体疲労管理部22が実行する発電体疲労管理処理の処理手順を示すフローチャートである。発電体疲労管理部22は、この発電体疲労管理処理を、燃料電池システム100の運転中に所定の周期で実行する。
発電体疲労管理処理では、発電体疲労管理部22は、膜電極接合体に発生している応力を検出し、その応力の発生によって膜電極接合体に不可逆的に蓄積されていく劣化の度合いを表す値(以下、「蓄積疲労度」と呼ぶ)を取得する。そして、その蓄積疲労度が所定のレベル(値)に到達したときに、燃料電池車両の運転者(ユーザー)に警告を報知する。
ステップS10〜S50では、発電体疲労管理部22は、膜電極接合体の現在の膜抵抗に基づいて、膜電極接合体に生じている応力を検出する。具体的には、以下の通りである。ステップS10では、発電体疲労管理部22は、膜抵抗検出部70から単セル11mにおける膜抵抗の計測値Rcを取得する。
なお、発電体疲労管理部22は、膜抵抗の計測値Rcが所定の閾値よりも低く、電解質膜が収縮変形を生じない程度に湿潤状態であることを示している場合には、膜電極接合体には応力が発生していないものとして、今回の疲労管理処理を終了する(ステップS20)。一方、膜抵抗の計測値Rcが所定の閾値以上であり、電解質膜が収縮変形を生じる程度に乾燥状態であることを示している場合には、発電体疲労管理部22は、ステップS30において、取得した膜抵抗の計測値Rcに基づいて、現在の電解質膜の湿潤度を取得する。
図4は、ステップS30における電解質膜の湿潤度の取得工程を説明するための説明図である。図4には、予め準備された膜抵抗と電解質膜の湿潤度との関係を表したグラフの一例を示してある。通常、膜抵抗は、電解質膜の湿潤度が高いほど、下に凸の曲線カーブを描くように低下する。本実施例の燃料電池システム100では、発電体疲労管理部22が、そうした膜抵抗と電解質膜の湿潤度との関係を表したマップを予め記憶しており、そのマップを用いて、膜抵抗の計測値Rcに対する電解質膜の湿潤度Wcを取得する。
なお、発電体疲労管理部22は、燃料電池10の運転温度ごとの、膜抵抗と電解質膜の湿潤度との関係を表したマップを有しており、運転温度検出部72から取得する燃料電池10の運転温度Tに基づいて、使用するマップを適宜選択するものとしても良い。ステップS40(図3)では、発電体疲労管理部22は、電解質膜の湿潤度Wcに基づいて、電解質膜のひずみ量εを取得する。
図5は、ステップS40における電解質膜のひずみ量εの取得工程を説明するための説明図である。図5には、予め準備された電解質膜の湿潤度と、その湿潤度において電解質膜に生じるひずみ量εとの関係を表したグラフの一例を示してある。図5のグラフでは、基準となる所定の湿潤度である基準湿潤度Wsのときのひずみ量εを0として表してある。なお、電解質膜の湿潤度が基準湿潤度Wsより小さいときが、電解質膜が収縮する方向に変形する場合である。
通常、電解質膜のひずみ量εは、電解質膜の湿潤度が高いほど、下に凸の曲線カーブを描くように増大する。本実施例の燃料電池システム100では、発電体疲労管理部22が、そうした電解質膜の湿潤度と電解質膜のひずみ量εとの関係を表したマップを予め記憶しており、そのマップを用いて、現在の電解質膜の湿潤度Wcに対するひずみ量εcを取得する。ステップS50(図3)では、発電体疲労管理部22は、取得した電解質膜のひずみ量εcに基づいて、膜電極接合体に生じている応力δcを取得する。
図6は、ステップS50における膜電極接合体に生じている応力の取得工程を説明するための説明図である。図6には、予め準備された電解質膜のひずみ量εと、そのひずみ量εでの収縮変形が抑制されることによって電解質膜に生じている応力との関係を表したグラフの一例を示してある。通常、ひずみ量εが大きいほど、電解質膜に生じる応力は、上に凸の曲線カーブを描くように大きくなる。
本実施例の燃料電池システム100では、発電体疲労管理部22が、そうした電解質膜のひずみ量と電解質膜の応力との関係を表したマップを予め記憶している。発電体疲労管理部22は、そのマップを用いて、電解質膜のひずみ量εcに対する電解質膜の応力δcを、膜電極接合体に生じている応力として取得する。
ステップS60〜S70では、発電体疲労管理部22は、いわゆる累積疲労損傷則の考え方に基づいて蓄積疲労度を取得する。具体的には、以下のように、蓄積疲労度を取得する。
(i)膜電極接合体に発生する所定の大きさの応力ごとに、その大きさの応力の発生に膜電極接合体が耐えることができる許容回数(発生許容回数)を求め、膜電極接合体に発生する応力に対する発生許容回数の関係を予め規定しておく。
(ii)応力の発生を検出するごとに、検出された応力の発生許容回数に対する、その応力と同じ大きさの応力が発生した回数(検出された回数)を、その大きさの応力に対する疲労度とし、各応力に対する疲労度を積算した値(各応力ごとの疲労度の総和)を蓄積疲労度とする。
即ち、蓄積疲労度Dは、以下の数式(2)として表すことができる。
D=n1/N1+n2/N2+…ni-1/Ni-1+ni/Ni=Σni/Ni…(2)
ここで、niは、膜電極接合体に応力δiが発生した回数であり、Niは、膜電極接合体における応力δiの発生許容回数である(iは任意の自然数)。
図7は、膜電極接合体に生じる応力と、その応力の発生許容回数との関係を示すグラフである。本発明の発明者は、膜電極接合体に生じる応力と、その応力の発生許容回数との間の関係は、発生許容回数を対数表示したときに、膜電極接合体に生じる応力が大きいほど、その発生許容回数が線形的に小さくなる関係として規定できることを見出した。なお、本発明の発明者は、このグラフを、以下のような方法により取得した。
図8は、図7のグラフの取得方法を説明するための説明図である。本発明の発明者は、以下に説明する「膜電極接合体の乾湿サイクル試験」と「膜電極接合体の疲労試験」と、を行い、それぞれの試験において、膜電極接合体の応力ごとの発生許容回数を計測した。
「膜電極接合体の乾湿サイクル試験」では、単セルにおいて、電解質膜が基準湿潤度となる基準の湿潤状態と、所定の乾燥状態とを所定の周期で繰り返し発生させた。そして、膜電極接合体において、アノード側の水素がカソード側へとリークする量が所定量に到達するまでに、基準の湿潤状態から乾燥状態へと移行した回数を、発生許容回数として計測した。なお、膜電極接合体に生じる応力は、乾燥状態のときの電解質膜のひずみ量εに基づいて求めた。図8の上段には、その計測結果を表すグラフの一例を示してある。
「膜電極接合体の疲労試験」では、膜電極接合体に所定の周期で、平面方向に一定の応力を繰り返し付与した。そして、電解質膜のひずみ量εが所定の基準値になるまでの応力の付与回数を、応力の大きさを変えて計測し、その付与回数を、その応力の発生許容回数とした。図8の中段には、その計測結果を表すグラフの一例を示してある。なお、膜電極接合体の疲労試験におけるひずみ量εの基準値は、応力に対する発生許容回数の計測結果が、膜電極接合体の乾湿サイクル試験における計測結果と同程度となるように設定した。
本発明の発明者は、膜電極接合体の乾湿サイクル試験の計測結果と、膜電極接合体の疲労試験の計測結果とを統合することにより、図7のグラフに表された関係を取得した(図8の下段)。このように、2種類の試験の計測結果を組み合わせることにより、十分な計測データを得ることができ、より適切な、膜電極接合体に発生する応力と、その応力の発生許容回数との関係を取得することができる。
本実施例の燃料電池システム100では、発電体疲労管理部22が、図7のグラフに表された、膜電極接合体に生じる応力と、その発生許容回数との関係を表したマップを予め記憶している。発電体疲労管理処理(図3)のステップS60では、そのマップを用いて、ステップS50で取得した膜電極接合体に生じている応力δcに対する発生許容回数Ncを取得する。
ステップS65では、発電体疲労管理部22は、前回処理において取得され、不揮発的記憶領域に格納された、蓄積疲労度の前回値Dpを読み込み、取得する。ステップS70では、発電体疲労管理部22は、ステップS65で取得しておいた前回値Dpに、1/Ncを加算して蓄積疲労度Dとする(D=Dp+1/Nc)。
結果として、蓄積疲労度Dは、膜電極接合体における応力δiの発生許容回数Niに対する膜電極接合体に応力δiが発生した回数niの現時点での総和となる(D=Σni/Ni)。このように、発電体疲労管理部22は、膜電極接合体に生じている応力を検出するごとに、その応力の大きさに応じて、蓄積疲労度Dを増加させる。発電体疲労管理部22は、更新された蓄積疲労度Dを、燃料電池システム100の再起動後にも読み込みが可能なように、不揮発性記憶領域に格納しておく。
ステップS80では、発電体疲労管理部22は、蓄積疲労度Dが所定の閾値(例えば1)に到達しているか否かを判定する。蓄積疲労度Dが所定の閾値に到達していない場合には、膜電極接合体に蓄積された疲労のレベルが低く、膜電極接合体の疲労の蓄積に起因する不具合の発生の可能性が低いものとして、燃料電池システム100の通常の運転を継続させる。
一方、発電体疲労管理部22は、蓄積疲労度Dが所定の閾値に到達してしまった場合には、ステップS90において、燃料電池車両の運転者に対する警告処理を実行する。具体的には、発電体疲労管理部22は、発電体疲労報知部74を介して、燃料電池車両の運転者に、膜電極接合体のメンテナンスや交換を推奨するメッセージを表示する。発電体疲労管理部22は、膜電極接合体の具体的なメンテナンス時期を、これまでの蓄積疲労度Dの増大速度に基づいて算出し、報知するものとしても良い。
以上のように、本実施例の燃料電池システム100では、燃料電池10の発電中に、定期的に膜電極接合体に生じている応力を検出し、検出した応力の大きさに応じて、膜電極接合体の使用限界の目安となる蓄積疲労度Dを更新していく。これによって、燃料電池10の膜電極接合体に蓄積している不可逆的な劣化を適切に検知して管理することができ、膜電極接合体の不具合に起因する燃料電池システム100のシステム障害の発生を回避することができる。
B.第2実施例:
図9は、本発明の第2実施例としての燃料電池システムにおいて実行される発電体疲労管理処理の処理手順を示すフローチャートである。図9は、ステップS80,S90に換えてステップS81が設けられている点以外は図3とほぼ同じである。図9では、ステップS81を示すブロック内に、蓄積疲労度Dを示すグラフの表示例を図示してある。なお、第2実施例における燃料電池システムの構成は、第1実施例の燃料電池システム100と同様である(図1)。
第2実施例の燃料電池システムでは、発電体疲労管理部22は、発電体疲労報知部74の備える表示部に、現在の蓄積疲労度Dの値を棒グラフGにより表示する。具体的には、発電体疲労管理部22は、発電体疲労管理処理のステップS70において、蓄積疲労度Dを更新した後、ステップS81において、更新された蓄積疲労度Dの値に応じて、発電体疲労報知部74の表示部に表示された棒グラフGを更新する。
なお、発電体疲労報知部74の表示部に表示された棒グラフGには、膜電極接合体の使用限界の目安となる蓄積疲労度Dの所定の限界値を目盛り表示してあることが望ましい。これによって、燃料電池車両の運転者は、燃料電池システム100の運転中に逐次更新されるグラフ表示によって、膜電極接合体の使用限界までの目安を視覚的に知ることができる。
以上のように、第2実施例の燃料電池システムであっても、燃料電池10の膜電極接合体に蓄積されている疲労の度合いを適切に検知して管理することができ、膜電極接合体の不具合に起因するシステム障害の発生を回避することができる。
C.第3実施例:
図10は本発明の第3実施例としての燃料電池システムにおいて実行される発電体疲労管理処理の処理手順を示すフローチャートである。図10はステップS95が追加されている点以外は、図3とほぼ同じである。なお、第3実施例における燃料電池システムの構成は、第1実施例の燃料電池システム100と同様である(図1)。
第3実施例の燃料電池システムでは、発電体疲労管理部22は、蓄積疲労度Dが所定の閾値以上になった場合には、ステップS80において警告表示をした後に、ステップS90において運転制御部21に対して、燃料電池10の制限運転を指令する。ここで、「燃料電池10の制限運転」とは、疲労が蓄積した膜電極接合体を保護するために、燃料電池10の運転条件を制限し、膜電極接合体に対する負荷を緩和させた状態で、燃料電池10の発電を継続する運転制御を意味する。
燃料電池10の制限運転としては、例えば、以下の(1)〜(3)のような運転制御がある。
(i)燃料電池10に対する反応ガスの供給流量を制限する運転制御:
この運転制御では、燃料電池10に対する反応ガスの供給流量を、通常の運転制御のときよりも低下させるものとしても良いし、ある所定の流量以上での反応ガスの供給を制限するものとしても良い。
このように、反応ガスの供給流量を制限することにより、反応ガスの圧力によって、膜電極接合体が受けるダメージを緩和させることができる。また、燃料電池10の出力増加が制限され、燃料電池10の高温化が抑制されるため、電解質膜が乾燥して過度に収縮することにより、膜電極接合体に著しく大きな応力が発生してしまうことが抑制される。
(ii)燃料電池10におけるカソードとアノードの差圧を制限する運転制御:
この運転制御では、燃料電池10におけるアノード側とカソード側での差圧が、通常の運転制御のときよりも低減されるように、エアコンプレッサ32の回転数や、調圧弁43やレギュレータ54の開度を調整する。これによって、アノード側とカソード側との間の差圧によって膜電極接合体に生じる歪みを低減し、膜電極接合体に発生する応力を低減させることができる。
(iii)燃料電池10の出力電流を制限する運転制御:
この運転制御では、燃料電池10が、所定の値以上の電流を、所定の時間以上出力しないように時間的に制限するものとしても良いし、燃料電池10が所定の電流値以上の電流を出力しないように、電流値の上限値を設けるものとしても良い。この運転制御を実行することにより、燃料電池10の高温化が抑制され、電解質膜の乾燥に伴って膜電極接合体に著しく大きな応力が発生してしまうことが抑制される。
なお、上記の(i)〜(iii)の制限運転は、いずれか1つが実行されるものとしても良いし、それぞれが任意に組み合わされて実行されるものとしても良い。また、制限運転としては、膜電極接合体を保護するために、通常の運転制御のときよりも、何らかの制限が加えられた、他の運転制御が実行されるものとしても良い。さらに、この燃料電池10の制限運転が実行されている場合には、発電体疲労報知部74によって、燃料電池10の出力が制限されている旨のメッセージが、燃料電池車両の運転者に対して報知されるものとしても良い。
以上のように、第3実施例の燃料電池システムであれば、蓄積疲労度Dが所定の閾値に到達した場合には、膜電極接合体を保護するための制限運転が実行される。従って、燃料電池システムにおいて、膜電極接合体に蓄積された疲労に起因するシステム障害の発生がさらに抑制される。
D.第4実施例:
図11は、本発明の第4実施例としての燃料電池システム100Aの構成を示す概略図である。図11は、膜抵抗検出部70が省略されている点と、走行情報取得部75が追加されている点以外は、図1とほぼ同じである。走行情報取得部75は、燃料電池車両の走行距離を計測し、制御部20に出力する。
図12は、第4実施例の燃料電池車両の走行ルートの一例を示す模式図である。図12には、道路地図MPをノードNとリンクLとで模式的に図示してあり、その道路地図MP上に、起点Sからの燃料電池車両の走行ルートが矢印Rで図示してある。第4実施例の燃料電池車両は、図示されたような特定のルートを定期的に運行する車両であり、例えば、路線バスであるものとしても良い。
図13は、第4実施例の燃料電池車両の規定ルートの走行により、膜電極接合体に生じる応力の発生パターンを説明するための説明図である。図13の上段には、燃料電池車両が規定の走行ルートを走行したときの、燃料電池車両の起点Sからの走行距離に対する膜抵抗の値を示すグラフの一例を図示してある。図13の下段には、上段のグラフに基づいて得られる、燃料電池車両の走行距離と膜電極接合体に生じる応力との関係を示すグラフの一例を図示してある。なお、図13の2つのグラフでは、起点Sにおける走行距離を0とし、燃料電池車両が規定の走行ルートを一巡したときの走行距離をMとして示してある。
燃料電池車両に、所定の走行速度で規定の走行ルートを走行させることにより、図13の上段のグラフのような、膜電極接合体の膜抵抗についての、規定の走行ルートにおける走行距離に応じた変化パターンを得ることができる。そして、図4〜図6で説明したような、膜抵抗と膜電極接合体に生じる応力との間の関係に基づいて、図13の下段のグラフのような、規定の走行ルートにおける走行距離に応じた、膜電極接合体に生じる応力の発生パターンを取得することが可能である。通常、膜抵抗の増大・低下にともなって、膜電極接合体に生じる応力も増大・低下する。
この応力の発生パターンを用いれば、その規定の走行ルートにおける走行距離ごとの蓄積疲労度Dを予め算出することが可能である。また、蓄積疲労度Dが、膜電極接合体の使用限界の目安となる所定の閾値に到達するまでの規定の走行ルート上での走行距離の累積(以下、「使用限界距離」とも呼ぶ)を算出することも可能である。第4実施例の燃料電池システム100Aでは、以下に説明する疲労管理処理において、膜電極接合体の疲労が限界まで蓄積されたか否かを、膜電極接合体における応力の発生パターンに基づいて設定された使用限界距離を用いて判定する。
図14は、第4実施例の燃料電池システム100Aにおいて発電体疲労管理部22が実行する発電体疲労管理処理の処理手順を示すフローチャートである。ステップS100では、発電体疲労管理部22は、走行情報取得部75から燃料電池車両の走行距離を取得する。ステップS110では、その走行距離が使用限界距離以上であるか否かを判定する。
走行距離が使用限界より小さい場合には、発電体疲労管理部22は、運転制御部21に通常の運転制御を継続させる。走行距離が使用限界以上となった場合には、発電体疲労管理部22は、ステップS120において、膜電極接合体のメンテナンス時期に関する所定の警告処理を実行する。なお、この第4実施例の疲労管理処理においても、ステップS120の警告処理の後に、第3実施例で説明した燃料電池10の制限運転が実行されるものとしても良い。
以上のように、第4実施例の燃料電池システム100Aを搭載する燃料電池車両であれば、規定の膜電極接合体における応力の発生パターンに基づいて設定された使用限界によって、膜電極接合体のメンテナンス時期を適切に管理することができる。
E.第5実施例:
図15は、本発明の第5実施例としての燃料電池システムを搭載する燃料電池車両の走行ルートの例を説明するための模式図である。図15には、燃料電池車両の規定の走行ルートとして、3種類の走行ルートの例を、図12と同様な模式図により示してある。以下では、便宜上、各走行ルートを、紙面上側から、「走行ルートA」、「走行ルートB」、「走行ルートC」と呼ぶ。なお、第5実施例の燃料電池システムの構成は、以下に説明する点以外は、第4実施例の燃料電池システム100Aの構成と同様である(図11)。
第5実施例の発電体疲労管理部22は、各走行ルートA〜Cごとに取得した、図13で説明したのと同様な膜電極接合体における応力の発生パターンに基づいて、予め設定された各走行ルートA〜Cごとの使用限界距離を記憶している。以下では、その各走行ルートA〜Cの使用限界距離をそれぞれX,Y,Zとして説明する。
第5実施例の走行情報取得部75は、現在の燃料電池車両の走行ルートの種類を特定できる機能を有している。具体的には、走行情報取得部75は、GPS機能を有しており、燃料電池車両の走行履歴から走行ルートの種類を特定するものとしても良い。あるいは、走行情報取得部75は、運転者から、走行ルートの種類を特定するための入力を受け付けることができるものとしても良い。
走行情報取得部75は、各走行ルートA〜Cごとの累積走行距離を計測して、制御部20に出力する。以下では、各走行ルートA〜Cごとの累積走行距離をそれぞれx,y,zとする。
図16は、第5実施例の燃料電池システムにおいて発電体疲労管理部22が実行する発電体疲労管理処理の処理手順を示すフローチャートである。図16は、ステップS105が追加されている点と、ステップS110に換えてステップS111が設けられている点以外は、図14とほぼ同じである。
ステップS100では、発電体疲労管理部22は、走行情報取得部75から、各走行ルートA〜Cごとの累積走行距離x,y,zを取得する。ステップS105では、その累積走行距離x,y,zと、予め設定されている使用限界距離X,Y,Zとを用いて、膜電極接合体の疲労度Wを以下の式(3)によって算出する。
W=x/X+y/Y+z/Z …(3)
ステップS111では、算出した疲労度Wが、膜電極接合体の使用限界の目安となる所定の値(例えば1)以上であるか否かを判定する。疲労度Wが、所定の値より小さい場合には、発電体疲労管理部22は、運転制御部21に通常の運転制御を継続させる。疲労度Wが、所定の値以上となった場合には、発電体疲労管理部22は、ステップS120において、膜電極接合体のメンテナンス時期に関する所定の警告処理を実行する。
以上のように、第5実施例の燃料電池システムを搭載する燃料電池車両であれば、複数種類の走行ルートを走行する場合であっても、各走行ルートにおける膜電極接合体の応力の発生パターンに基づいて設定された使用限界に基づいて、膜電極接合体のメンテナンス時期を適切に管理することができる。
F.第6実施例:
図17は、本発明の第6実施例としての燃料電池システムにおいて実行される発電体疲労管理処理の処理手順を示すフローチャートである。図17は、ステップS10〜ステップS40に換えて、ステップS11が設けられている点以外は、図3とほぼ同じである。なお、第6実施例の燃料電池システムの構成は、第4実施例の燃料電池システム100Aの構成と同様であり、第4実施例の燃料電池車両と同様な、規定の走行ルートを走行する燃料電池車両に搭載される。
第6実施例の発電体疲労管理部22は、図13で説明したような燃料電池車両が規定の走行ルートを走行したときの、起点Sからの走行距離に応じた膜電極接合体の応力の発生パターンを表したマップを予め記憶している。ここで、規定の走行ルート上における、起点Sからの燃料電池車両の走行距離は、規定の走行ルート上における現在の燃料電池車両の走行位置を示している。従って、上記マップは、走行位置に応じた膜電極接合体の応力の発生パターンを表したマップであると言える。
なお、膜電極接合体に生じる応力の発生パターンは、燃料電池車両の運転速度や、走行時の環境温度などの諸条件に影響を受けて変化する。従って、発電体疲労管理部22は、膜電極接合体の応力の発生パターンを表したマップを、例えば、燃料電池車両の平均速度ごとや、燃料電池車両の平均運転温度ごと、走行時の環境温度ごとに取得しておくことが好ましい。
発電体疲労管理部22は、ステップS21では、走行情報取得部75から、燃料電池車両の現在の走行距離を取得し、その走行距離に基づいて、走行ルート上における現在の燃料電池車両の走行位置を取得する。なお、走行情報取得部75にGPS機能を搭載しておき、燃料電池車両の走行位置を検出するものとしても良い。
ステップS50では、予め記憶されている燃料電池車両の走行位置と膜電極接合体に生じている応力との間の関係を表したマップに基づいて、取得した走行位置に対する膜電極接合体に生じている応力δcを取得する。ステップS60では、発電体疲労管理部22は、ステップS50で取得した応力δcに対する発生許容回数Ncを取得する。ステップS65,S70では、その発生許容回数Ncを用いて、第1実施例で説明したように蓄積疲労度Dを更新する。
以上のように、第6実施例の燃料電池システムを搭載する燃料電池車両であれば、その走行パターンに応じた、膜電極接合体における応力の発生パターンに基づいて、蓄積疲労度Dを算出することができる。なお、燃料電池車両の規定の走行パターンが複数種類ある場合には、それぞれの走行ルートについての、走行位置に対する膜電極接合体の応力発生パターンを表すマップを用いて応力を求め、その応力に基づき、蓄積疲労度Dを更新することも可能である。
G.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
G1.変形例1:
上記第1実施例では、膜電極接合体に生じた応力と、その応力に対する発生許容回数との関係を、2種類の試験(乾湿サイクル試験および疲労試験)における計測結果を組み合わせて取得していた。しかし、膜電極接合体に生じた応力と、その応力に対する発生許容回数との関係は、乾湿サイクル試験の計測結果のみに基づいて取得するものとしても良いし、疲労試験の計測結果のみに基づいて取得するものとしても良い。
G2.変形例2:
上記第1〜第3実施例では、膜抵抗検出部70は、燃料電池10の単セル11の中でも特に、運転温度が高くなる傾向にある単セル11mについて膜抵抗を検出していた。しかし、膜抵抗検出部70は、他の単セル11について膜抵抗を検出するものとしても良いし、燃料電池10の全ての単セル11について膜抵抗を検出するものとしても良い。また、複数の単セル11で構成されたグループごとに膜抵抗を検出するものとしても良い。さらに、上記実施例では、膜抵抗検出部70は、単セル11mの出力電流と出力電圧とに基づいて膜抵抗を検出していたが、膜抵抗検出部70は、例えば、交流インピーダンス法によって膜抵抗を検出するものとしても良い。
G3.変形例3:
上記第1〜第3実施例では、発電体疲労管理部22は、膜抵抗の計測値Wcから電解質膜の湿潤度Wcを取得し、電解質膜の湿潤度Wcから電解質膜のひずみ量εcを取得し、電解質膜のひずみ量εcから膜電極接合体に生じている応力δcを取得していた。しかし、発電体疲労管理部22は、予め準備されたマップ等を用いて、膜抵抗の計測値Rcから直接的に、膜電極接合体に生じている応力δcを取得するものとしても良い。また、応力δcを取得することなく、膜抵抗の計測値Rcから直接的に応力δcに対する発生許容回数Ncを取得するものとしても良い。さらに、発電体疲労管理部22は、歪みゲージなどを用いて、膜電極接合体に生じている応力を直接的に検出するものとしても良い。
G4.変形例4:
上記第1〜第3実施例では、発電体疲労管理部22は、燃料電池10の運転中に、膜電極接合体に発生している応力を検出して蓄積疲労度Dを更新していた。しかし、発電体疲労管理部22は、燃料電池10の運転中以外のタイミングにおいても、膜電極接合体に発生している応力を検出して蓄積疲労度Dを更新するものとしても良い。例えば、発電体疲労管理部22は、燃料電池10の運転終了後に電解質膜が収縮した場合に生じる応力を検出して蓄積疲労度Dを更新するものとしても良い。
G5.変形例5:
上記実施例では、電解質膜の湿潤度Wcや、電解質膜のひずみ量εc、膜電極接合体に生じている応力δcを取得するのに、予め準備されたマップを用いていた。しかし、発電体疲労管理部22はそうしたマップに換えて、そうしたマップに相当する関数や、数式等を用いてそれらの値を取得するものとして良い。
G6.変形例6:
上記実施例では、発電体疲労管理部22は、蓄積疲労度Dを、応力の大きさごとに予め設定された、その大きさの応力の発生を許容する発生許容回数に対する、その大きさの応力の発生を検出した回数である応力発生回数として取得される、応力の大きさごとの値を積算した値として取得していた(上記数式(2))。しかし、発電体疲労管理部22は、他の方法により、膜電極接合体に蓄積される疲労を表す値を取得するものとしても良い。膜電極接合体に蓄積される疲労を表す値は、膜電極接合体に生じる応力の大きさに応じて、累積されていく値として取得されていれば良い。
G7.変形例7:
上記実施例では、燃料電池システムは車両に搭載されていたが、燃料電池システムは車両に搭載されていなくとも良く、車両以外の移動体(例えば、列車や船舶等)に搭載されるものとしても良い。なお、第1〜第3実施例の燃料電池システム100は、移動体以外の施設や建造物に固定的に設置されるものとしても良い。
G8.変形例8:
上記第4〜第6実施例の燃料電池システムは車両に搭載されており、規定の走行ルートを走行する際の特定の運転パターンに基づいた、膜電極接合体の応力の発生パターンを利用して、膜電極接合体の疲労の度合いを管理していた。しかし、上記第4〜第6実施例の燃料電池システムは、所定の運転パターンでの燃料電池の運転制御が可能な、車両以外の移動体や、移動体以外の施設や建造物に適用されるものとしても良い。この場合には、その所定の運転パターンに基づいた、膜電極接合体の応力の発生パターンを利用して、膜電極接合体の疲労の度合いを管理することができる。
1…電解質膜
2,3…電極
5…膜電極接合体
10…燃料電池
11,11m…単セル
20…制御部
21…運転制御部
22…発電体疲労管理部
30…カソードガス供給系
31…カソードガス配管
32…エアコンプレッサ
33…エアフロメータ
34…開閉弁
40…カソードガス排出系
41…カソード排ガス配管
43…調圧弁
44…圧力計測部
50…アノードガス供給系
51…アノードガス配管
52…水素タンク
53…開閉弁
54…レギュレータ
55…水素供給装置
56…圧力計測部
60…アノードガス排出系
61…アノード排ガス配管
66…開閉弁
67…圧力計測部
70…膜抵抗検出部
72…運転温度検出部
74…発電体疲労報知部
75…走行情報取得部
100,100A…燃料電池システム
G…棒グラフ
L…リンク
MP…道路地図
N…ノード
R…矢印
S…起点

Claims (8)

  1. 燃料電池システムであって、
    膜電極接合体を有する燃料電池と、
    前記膜電極接合体に生じる応力の大きさに応じて、前記膜電極接合体に蓄積されていく疲労に基づいて、前記膜電極接合体の使用限界を管理する疲労管理部と、
    を備え
    前記疲労管理部は、前記燃料電池の運転中にわたって前記膜電極接合体に生じる応力を表す応力情報を取得し、前記応力情報に基づいて、前記燃料電池の運転中に前記膜電極接合体に生じる応力の大きさに応じて取得される疲労度の総和である蓄積疲労度を取得し、前記蓄積疲労度に基づいて、前記膜電極接合体の使用限界を管理する、燃料電池システム。
  2. 請求項1記載の燃料電池システムであって、
    前記疲労管理部は、前記膜電極接合体に蓄積されていく疲労を表す値として、前記応力の大きさごとに予め設定された前記大きさの応力の発生を許容する発生許容回数に対する、前記大きさの応力の発生を検出した回数である応力発生回数として取得される、前記応力の大きさごとの値を積算した値を前記蓄積疲労度として取得する、燃料電池システム。
  3. 請求項2記載の燃料電池システムであって、
    前記発生許容回数をN (iは1以上の自然数)とし、
    前記応力発生回数をn とし、
    前記蓄積疲労度をDとしたときに、
    D=n /N +n /N +…+n i−1 /N i−1 +n /N
    である、燃料電池システム。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
    前記疲労管理部は、
    発電中の前記膜電極接合体に生じる応力を検出する応力検出部と、
    前記応力検出部が応力を検出するごとに、前記蓄積疲労度を更新する疲労度更新部と、
    前記蓄積疲労度に基づいて、前記膜電極接合体の使用限界を報知する報知部と、
    を備える、燃料電池システム。
  5. 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
    前記疲労管理部は、前記膜電極接合体に蓄積されていく疲労が所定のレベルに到達したときに、前記燃料電池の運転条件を制限する運転制限処理を実行する、燃料電池システム。
  6. 請求項に記載の燃料電池システムであって、
    前記燃料電池システムは、予め規定された運転パターンでの運転を実行し、
    前記疲労管理部は、前記運転パターンで運転したときの、前記膜電極接合体に生じる前記応力の発生パターンを表す前記応力情報に基づいて予め設定された前記蓄積疲労度の限界値を記憶しており、
    前記疲労管理部は、前記蓄積疲労度が、前記限界値に到達したときに、前記膜電極接合体の使用限界を報知する報知部を備える、燃料電池システム。
  7. 膜電極接合体を有する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、
    (a)前記燃料電池の運転中にわたって前記膜電極接合体に生じる応力を繰り返し検出する工程と、
    (b)前記応力を検出するごとに、前記膜電極接合体に生じる応力の大きさに応じて、前記膜電極接合体に蓄積されていく疲労を表す疲労度取得する工程と、
    (c)前記疲労度の総和である蓄積疲労度に基づいて、前記膜電極接合体の使用限界を報知する工程と、
    を備える、制御方法。
  8. 燃料電池に用いられる膜電極接合体に蓄積されている疲労を検出する方法であって、
    (a)前記燃料電池の運転中にわたって前記膜電極接合体に生じる応力を繰り返し検出する工程と、
    (b)前記応力を検出するごとに、前記応力の大きさごとに予め設定された前記大きさの応力の発生を許容する発生許容回数に対する、前記大きさの応力の発生を検出した回数である応力発生回数の割合として取得される、前記応力の大きさごとの疲労度を積算して蓄積疲労度を取得する工程と、
    を備える、方法。
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