JP5784533B2 - タイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニット - Google Patents

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Description

本発明は、タイヤの各種特性を測定可能な多分力計測スピンドルユニットに関するものである。
一般的に、タイヤと路面との接地状態を模擬的に作りだしてタイヤが路面から受ける力やモーメントを動的に計測する装置としてタイヤ試験機が知られている。このタイヤ試験機は、スピンドルユニットのスピンドル軸に支持されたタイヤを所定の荷重をもって路面の代わりとなる回転ドラム等に接地させ、回転するタイヤに回転ドラム等から作用する各方向の力(荷重)やモーメントを、スピンドルユニットに組み込まれた多分力計によって計測する構成となっている。
例えば、回転ドラムへのタイヤの押し付け方向をz方向、タイヤの進行方向(接線方向)をx方向、タイヤの回転軸に沿った方向をy方向とおいた場合に、z方向を向く力Fz(接地荷重)、x方向を向く力Fx(前後方向力または転がり抵抗力)、y方向を向く力Fy(コーナーリングフォース)、z方向を向く軸回りのモーメントMz(セルフアライニングトルク)、x方向を向く軸回りのモーメントMx(オーバーターニングモーメント)、y方向を向く軸回りのモーメントMy(転がり抵抗モーメント)などを一般的なタイヤ試験機では計測可能となっている。
ところで、上述した多分力計にはひずみゲージ式のものがよく利用されている。このひずみゲージ式の多分力計は、例えば特許文献1などに示されるように内周側の着力体と外周側の固定体とを、径方向に沿って伸びる複数の棒状の起歪体を介して連結した構造となっている。
このような多分力計を用いたタイヤ試験機としては、例えば特許文献2に示すものが知られている。このようなタイヤ試験機では、ハウジング(以下、インナースリーブという)の両端に多分力計をそれぞれ1つずつ設置しておき、ハウジングを軸心方向に距離をあけた2箇所の多分力計で支持する構成となっている。そして、多分力計の内周側の着力体はインナースリーブに固定され、また外周側の固定体はハウジング保持部材(以下、アウタースリーブという)を介してスピンドルユニットを支える支持フレーム(基体)などに固定されていて、タイヤに作用した力やモーメントがインナースリーブを介して起歪体に伝達すると、起歪体が変形し、起歪体の変形をひずみゲージで測定することでタイヤに対して作用する力やモーメントを計測できるようになっている。
特開昭57−169643号公報 特許第4310365号公報
ところで、特許文献2のスピンドルユニットでは、2つの多分力計の間で並進と回転とが拘束された状態、言い換えれば不静定状態乃至は過拘束状態となっている。
また、インナースリーブとスピンドル軸との間には、スピンドル軸を回転自在に支持する軸受部が設けられており、この軸受部ではスピンドル軸の回転に伴って熱が発生し、発生した熱がインナースリーブとアウタースリーブとの双方に伝達する。このようにして伝達した熱によりインナースリーブとアウタースリーブとは膨張するが、その膨張状態はそれぞれ異なっており、膨張状態の差が歪みとなって両者に連結された両多分力計に作用する。つまり、両多分力計間において上述したような過拘束状態にあるスピンドルユニットでは、インナースリーブとアウタースリーブの膨張状態の差に起因する歪みが多分力計に生じ、その歪分の計測誤差が荷重やモーメントの計測値に加わるので、タイヤに発生する荷重やモーメントを精度良く計測することが困難になる。
このような問題を回避すべく、本発明者等は軸受の潤滑油を循環させて軸受部を積極的に冷却する冷却機構を設けることを試みたが、軸受部で発生する熱は非常に大きいため、冷却機構を設けても軸受で発生する熱を十分に除去できない場合があった。また、熱の除去を意図し多量の潤滑油を供給すると、逆に潤滑油が攪拌熱で加熱されてかえって軸受部で熱が発生する場合もあることが判明した。
本発明者等は、更に検討を重ね、発熱した軸受を潤滑油で積極的に冷却しなくても、インナースリーブに対して所定の冷却を与えることで多分力計の精度を向上させ得ることを知見して本発明を成したものである。
本発明は、タイヤに加わる力やモーメントを精度良く測定できるようにしたタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットを提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明のタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットは以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明のタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットは、タイヤを装着可能なスピンドル軸と、軸受部を介して該スピンドル軸を回転自在に支持するインナースリーブと、スピンドル軸の軸心方向に沿ってインナースリーブの外側に配備されたアウタースリーブと、前記インナースリーブの端部とアウタースリーブの端部とを連結すると共にインナースリーブからアウタースリーブに作用する荷重を計測可能な(前後)一対の多分力計測センサと、を備えたタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットにおいて、前記インナースリーブを軸方向に亘って冷却する冷却手段が設けられていることを特徴とするものである。
なお、好ましくは、前記冷却手段は、前記インナースリーブの外周面に沿って形成された冷媒流路を備えており、前記冷媒流路に沿って冷却用の冷媒を流通させることで、インナースリーブを冷却するように構成されているとよい。
なお、好ましくは、前記冷媒流路は、前記インナースリーブの軸方向に沿って螺旋状に形成されているとよい。
なお、好ましくは、前記冷媒流路は、前記インナースリーブの軸方向に2分割されていて、当該インナースリーブ前半部と当該インナースリーブ後半部に、それぞれ独立して形成されていて、それぞれの冷媒流路により、インナースリーブ前半部とインナースリーブ後半部とが個別に冷却可能とされているとよい。
なお、好ましくは、前記アウタースリーブには、前記インナースリーブとの温度差が小さくなるようにアウタースリーブを昇温する昇温手段が設けられているとよい。
また、本発明に係る多分力計測スピンドルユニットの最も好ましい形態は、タイヤを装着可能なスピンドル軸と、軸受部を介して該スピンドル軸を回転自在に支持するインナースリーブと、スピンドル軸の軸心方向に沿ってインナースリーブの外側に配備されたアウタースリーブと、前記インナースリーブの端部とアウタースリーブの端部とを連結すると共にインナースリーブからアウタースリーブに作用する荷重を計測可能な一対の多分力計測センサと、を備えたタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットにおいて、前記インナースリーブを軸方向に亘って冷却する冷却手段が設けられていて、前記冷却手段は、前記インナースリーブの外周面に沿って形成された冷媒流路を備えており、前記冷媒流路に沿って冷却用の冷媒を流通させることで、インナースリーブを冷却するように構成されていて、前記冷媒流路は、前記インナースリーブの軸方向に2分割されていて、当該インナースリーブ前半部と当該インナースリーブ後半部に、それぞれ独立して形成されていて、それぞれの冷媒流路により、インナースリーブ前半部とインナースリーブ後半部とが個別に冷却可能とされていることを特徴とする。
さらに、本発明に係る多分力計測スピンドルユニットの最も好ましい形態は、タイヤを装着可能なスピンドル軸と、軸受部を介して該スピンドル軸を回転自在に支持するインナースリーブと、スピンドル軸の軸心方向に沿ってインナースリーブの外側に配備されたアウタースリーブと、前記インナースリーブの端部とアウタースリーブの端部とを連結すると共にインナースリーブからアウタースリーブに作用する荷重を計測可能な一対の多分力計測センサと、を備えたタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットにおいて、前記インナースリーブを軸方向に亘って冷却する冷却手段が設けられ、前記アウタースリーブには、前記インナースリーブとの温度差が小さくなるようにアウタースリーブを昇温する昇温手段が設けられていることを特徴とする。
本発明のタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットによれば、ハウジング(インナースリーブ)に対する熱変形を抑制して、タイヤに加わる力やモーメントを精度良く測定できる。
(a)は本発明の多分力計測スピンドルユニットを備えたタイヤ試験機の正面図であり、(b)は側面図である。 (a)は本発明の多分力計測スピンドルユニットの正面断面図であり、(b)は従来例の多分力計測スピンドルユニットの正面断面図である。 正面から見た多分力計測スピンドルユニットの拡大断面図である。 (a)は多分力計測センサの斜視図であり、(b)は同センサを側方から見た側面図である。 多分力計測スピンドルユニットのタイヤ側の端部を拡大して示した図である。 第2実施形態の多分力計測スピンドルユニットの正面断面図である。
本発明の実施形態を、転がり抵抗試験機を例に説明する。なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
「第1実施形態」
図1(a)及び図1(b)は、本実施形態に係る多分力計測スピンドルユニット1が設けられたタイヤ試験機2の模式的に示している。
タイヤ試験機2はモータなどにより回転する円筒状の回転ドラム3を備えている。また、タイヤ試験機2は、タイヤTを取り付けるスピンドル軸4と、スピンドル軸4を回転自在に支持すると共に荷重やモーメントを計測する多分力計測スピンドルユニット1とを備えている。上述したタイヤ試験機2では、スピンドル軸4に取り付けられたタイヤTを、回転する回転ドラム3に接触させることで、走行状態にあるタイヤTの動的特性、例えば、タイヤTの転がり抵抗などが測定される。
図2に模式的に示すように、多分力計測スピンドルユニット1は、軸受部5を介して上述したスピンドル軸4を回転自在に支持する円筒状のインナースリーブ6を備えている。また、インナースリーブ6の外側には、スピンドル軸4の軸心方向に沿って配備されると共にインナースリーブ6と同軸な円筒状の孔が形成されたアウタースリーブ7が外套状に設けられている。このアウタースリーブ7は、多分力計測スピンドルユニット1自体を基体フレーム(図示せず)などに対して支持する支持フレーム8に連結されている。さらに、多分力計測スピンドルユニット1には、インナースリーブ6の端部とアウタースリーブ7の端部とを連結すると共に、インナースリーブ6からアウタースリーブ7に作用する荷重、すなわちタイヤTに作用する様々な荷重を計測可能な一対の多分力計測センサ9がスリーブ両端にそれぞれ設けられている(固定されている)。
なお、図1(b)に示すように配備されたタイヤ試験機2において、紙面の左右方向(タイヤの進行方向x)を、多分力計測スピンドルユニット1を説明する際の左右方向という。また、同じく図1(b)のタイヤ試験機2において、紙面貫通方向(タイヤ軸に沿った方向y)を、多分力計測スピンドルユニット1を説明する際の前後方向という。さらに、図1(b)のタイヤ試験機2において、紙面の上下方向(回転ドラムに対するタイヤの押し付け方向z)を、多分力計測スピンドルユニット1を説明する際の上下方向という。
次に、本発明の多分力計測スピンドルユニット1を構成するスピンドル軸4、インナースリーブ6、アウタースリーブ7、支持フレーム8、軸受部5、及び多分力計測センサ9について、それぞれ説明する。
図2(a)は、本発明の多分力計測スピンドルユニット1を模式的に示したものであり、便宜的に冷媒流路18への冷媒の供給路と排出路が上向きに作図されている。
図2(b)は、従来例の多分力計測スピンドルユニットを模式的に示したものである。
図2(a)に示すように、この第1実施形態の多分力計測スピンドルユニット1は、軸心が水平方向を向く長尺棒状のスピンドル軸4を備えている。スピンドル軸4の一端側(図2の左側)には図示しないリムを介してタイヤTが取り付けられている。スピンドル軸4は、インナースリーブ6に対して回転自在となっている。
インナースリーブ6は、軸心が水平方向を向く円筒状に形成されており、その内部には上述したスピンドル軸4が水平方向に軸心を向けて挿入されている。インナースリーブ6とこのインナースリーブ6に挿入されるスピンドル軸4との間には、インナースリーブ6に対してスピンドル軸4を回転自在に支持する複数の軸受(軸受部5)が設けられている。すなわち、多分力計測スピンドルユニット1には、スピンドル軸4の長手方向の中途部に複数の軸受部5が軸心方向に並んで設けられていて、これら複数の軸受(軸受部5)を介してスピンドル軸4はインナースリーブ6により回転自在に支持されている。
インナースリーブ6の外周側には、後述する多分力計測センサ9を介してインナースリーブ6を支持するアウタースリーブ7が外套状に取り付けられている。アウタースリーブ7は、インナースリーブ6の外周側に配備された筒状の部材であり、内部に形成された円筒状の孔がインナースリーブ6と同軸となるようにその軸心を水平方向に向けて配備されている。アウタースリーブ7の内部にはインナースリーブ6が収容可能となっており、アウタースリーブ7の軸心方向に沿った長さはインナースリーブ6と略等しくされている。それゆえ、アウタースリーブ7の内部に収容された状態では、インナースリーブ6の両端の位置はアウタースリーブ7の両端の位置とは軸心方向で同じ場所に位置し、互いに同じ位置に設けられる両スリーブ6、7の端部同士が後述する多分力計測センサ9で接続されている。
アウタースリーブ7の上側には、アウタースリーブ7を支持する支持フレーム8が設けられている。この支持フレーム8により、アウタースリーブ7だけでなくアウタースリーブ7に接続するインナースリーブ6、スピンドル軸4、多分力計測センサ9などが基体フレームへ吊下状態で支持される。
図3は、図2に示す多分力計測スピンドルユニット1の断面構造をより詳細に示したものである。図5は、多分力計測スピンドルユニット1の前部(タイヤ側)の断面構造を拡大して示したものである。
図3に示すように、複数の軸受部5はラジアル方向及び/又はスラスト方向の荷重を受けられるようになっており、本実施形態の多分力計測スピンドルユニット1には4つの軸受部5が設けられている。4つの軸受部5は、スピンドル軸4の軸心方向(y方向)に沿って所定の間隔をあけつつ並んで配備されており、インナースリーブ6の前後両端側に分かれて配備されている。それぞれの軸受部5の間には、それぞれの軸受部5を軸心方向に沿った所定の位置に位置決めするスペーサ10が配備されている。
具体的には、図3及び図5に示すように、上述したインナースリーブ6及びアウタースリーブ7の前後両端側には、アウタースリーブ7の外側からアウタースリーブ7及びインナースリーブ6を径方向に貫通するようにエア配管11が設けられている。また、これらのエア配管11よりも軸心方向の中央側には、スピンドル軸4の表面に接触することなく潤滑油をシールする非接触シール12(ラビリンスシール)がそれぞれ設けられている。非接触シール12を設けることにより、接触シールを用いる場合のようなシール部の温度変化に伴うシール抵抗変化に起因する測定誤差を無くすことができる。このエア配管11は、アウタースリーブ7の外側から高圧エアをスピンドル軸4とインナースリーブ6との間に導き、高圧エアを非接触シール12に向けて作用させる。この高圧エア及び非接触シール12の作用により、軸受部5に供給された潤滑油が外部に漏れ出ることを防止するものとしている。
なお、図示は省略するが、多分力計測スピンドルユニット1には、軸受部5に供給された潤滑油を回収するオイル回収路や、必要に応じて作動させる図外の吸引手段に接続されて、非接触シール12から意図せずに漏れ出た潤滑油を回収する図3、図5に示すようなオイル回収路26が設けられていてもよい。
上述したインナースリーブ6の端部とアウタースリーブ7の端部との間には、両スリーブに跨るようにして多分力計測センサ9(ロードセル)が配備されている。具体的には、インナースリーブ6の前端部とアウタースリーブ7の前端部とを連結するように、前側の多分力計測センサ9が配備される。また、インナースリーブ6の後端部とアウタースリーブ7の後端部とを連結するように、後側の多分力計測センサ9が配備される。前側の多分力計測センサ9と後側の多分力計測センサ9とは、取り付け方向が左右で反対であるものの、略同一の構造をしている(図4参照)。
図4(a)に示すように、第1実施形態の多分力計測センサ9は、略円盤状の外観を備えており、着力体13、固定体14、これら両者を繋ぐ起歪体15とから構成されている。
多分力計測センサ9は、その中央部にリング形状の着力体13を有している。このリング形状に形成された着力体13の開口中央をスピンドル軸4が遊嵌状態で貫通している。
この着力体13の径外側には、着力体13の外径より大きな内径を有するリング形状の固定体14が配備されている。着力体13と固定体14とは互いに同軸心となるように配備されていて、内周側の着力体13と外周側の固定体14とは、複数の起歪体15で径方向に連結されている。本実施形態の多分力計測センサ9では、これらの起歪体15は、着力体13から上方、左方、下方、右方の4方向に向かって径方向に放射状に伸びる角棒状に形成されており、スピンドル軸4の軸心回りに4つ設けられている。
多分力計測センサ9の着力体13と上述したインナースリーブ6の端縁とはボルト等の締結具(図示略)により強固に固定されていて、スピンドル軸4→軸受部5→インナースリーブ6の順に伝達された力を着力体13に伝達できるようになっている。また、多分力計測センサ9の固定体14とアウタースリーブ7の端縁との間にもボルト等の締結具(図示略)が設けられていて、両者は強固に結合されており、スピンドル軸4からアウタースリーブ7に伝達する力(タイヤに作用する様々な荷重)をその伝達経路の途中に設けられた起歪体15に発生する歪みにより計測できるようになっている。
図4(a)に示すように、それぞれの起歪体15には、厚みが薄くなっている薄肉部分が設けられていて、着力体13と固定体14との間に力が作用するとこの薄肉部分が起点となって起歪体15が変形するようになっている。また、それぞれの起歪体15には力やモーメントを検知可能な歪ゲージ16が貼り付けられている。この歪ゲージ16には、着力体13に近い側に貼り付けられて並進荷重を計測する歪ゲージ16と、固定体14に近い側に貼り付けられてモーメントを計測する歪ゲージ16とがある。
つまり、本発明の多分力計測スピンドルユニット1においては、インナースリーブ6(アウタースリーブ7)の両端部に配備された多分力計測センサ9を用いて、x、y、x方向の並進荷重(fx、fy、fz)と、x軸、y軸、z軸回りのモーメント(mx、my、mz)との6分力を計測可能となっている。
特に、転がり抵抗試験機においては上述した6分力のなかでも転がり抵抗fxはタイヤTの特性を評価する上で重要であるため、図4(a)及び図4(b)に示すように本発明のロードセル9では上下方向に伸びる起歪体15を左右方向に伸びる起歪体15より細く(薄く)形成することができる。このようにすれば、従来のように全ての起歪体15を同一で太く形成する場合と比べて、x方向に小さな荷重が加わった場合においても上下方向に伸びる起歪体15が変形し易く、転がり抵抗fxを高感度に計測することができるからである。
このようにして起歪体15の歪ゲージ16で計測されたアナログ信号は、ノイズが乗らないようにロードセル16の近くに配備されたアンプ(図示略)に入力されて増幅、A/D変換され、アンプに接続された処理部(パソコン)により校正行列などの校正式を用いて校正されて、転がり抵抗fxが算出される。
ところで、タイヤ試験機2には、キャンバ角や押し付け荷重が大きい場合や、制動乃至は駆動を伴う場合のように過酷な試験条件で試験が行われるものがある。このようなタイヤ試験機2では、スピンドル軸4に曲げ方向に大きな負荷(力やモーメント)が加わる虞がある。それゆえ、このようなタイヤ試験機2では、大きな負荷を支持することができるように、インナースリーブ6(スピンドル軸4)を上述したように前後2箇所のロードセル9(多分力計測センサ)で強固に支持する構成を採用している。
加えて、インナースリーブとスピンドル軸との間には、スピンドル軸を回転自在に支持する軸受部が設けられており、この軸受部ではスピンドル軸の回転に伴って熱が発生し、発生した熱がインナースリーブとアウタースリーブとの双方に伝達する。このようにして伝達した熱によりインナースリーブとアウタースリーブとは膨張するが、その膨張状態はそれぞれ異なっており、膨張状態の差が歪みとなって両多分力計に作用する。つまり、上述したような過拘束状態にあるスピンドルユニットでは、インナースリーブとアウタースリーブの膨張状態の差に起因する歪みが多分力計に生じ、その歪分の計測誤差が荷重やモーメントの計測値に加わるので、タイヤに発生する荷重やモーメントを精度良く計測することが困難になる。
そこで、本発明の多分力計測スピンドルユニット1には、インナースリーブ6を軸方向に亘って冷却する冷却手段17が設けられている。
具体的には、図2(a)模式的に示すように、この冷却手段17は、インナースリーブ6に対して冷媒を送り込んで、インナースリーブ6を内部から直接冷却する構成となっている。冷媒は、インナースリーブ6の外周面側であって軸方向に沿って螺旋状に形成された冷媒流路18、より具体的にはインナースリーブ6の軸心の回りを複数回に亘って周回するように形成された冷媒流路18を経由して流通し、インナースリーブ6自体を冷却するものとなっている。
以下、第1実施形態の冷却手段17及びこの冷却手段17を構成する冷媒流路18について説明する。
図3に示すように、第1実施形態の多分力計測スピンドルユニット1では、インナースリーブ6は、軸心方向にほぼ同じ設置長さの前後で別系統の冷媒流路18を備えた構造となっている。
すなわち、上述した冷媒流路18は、インナースリーブの前側(インナースリーブ前半部)6Fと後側(インナースリーブ後半部)6Rとの双方にそれぞれ独立して形成されている。
例えば、インナースリーブ前半部(以下、単に前半部という。)6Fにおいては、その外周面に軸方向に沿って(前半部6Fの前端側から後端側にかけて)螺旋状の溝が周回形成されている。この螺旋状の溝は前半部6Fの前端側から後端側へ交差することなく1条のまま連続して形成されており、この1条の螺旋状の溝が冷媒流路18とされている。なお、冷媒流路18を形成する螺旋状の溝は、1条に限定されず、2条以上であってもよい。また、冷媒流路18は、前半部6Fの軸方向に亘って冷却するものであれば外周面に沿ってどのような位置に設けられていても良いが、前半部6Fに配備される軸受部5を外套する位置には必ず形成されることが好ましい。
前半部6Fの外周面に形成された冷媒流路18の一方端(前方端)は、前半部6Fの内部を連通する連通流路(第1連通流路19)に繋がっている。この連通流路19は、前半部6Fの周壁内部を軸心方向に沿って貫通し、外部に繋がるものとなっている。同じように、前半部6Fの冷媒流路18の他方端(後方端)は、前半部6Fの内部を連通する連通流路(第2連通流路20)に繋がっている。第2連通流路20は、第1連通流路19とは別の流路であって、前半部6Fの周壁内部を軸心方向に沿って貫通し、外部に繋がるものとなっている。
第1連通流路19を介して導入された冷媒は、冷媒流路18の前方端へ達した後、冷媒流路18を流れながら、前半部6Fの表面近傍を周回しインナースリーブ6の外周面側から前半部6Fを軸方向に亘って冷却する。冷媒流路18の後端へ達した冷媒は、第2連通流路20を介して前半部6Fの外側へ排出される。冷媒の導入方向は、上記の逆の流れ、すなわち第2連通流路20→冷媒流路18→第1連通流路19であってもよい。
一方、後半部(以下、単に後半部という。)6Rの外周面に形成された冷媒流路18の構成、冷媒の流通態様も、前半部6Fと略同様である。
つまり、後半部6Rにおいては、その外周面に沿って、後半部6Rの後端側から前端側にかけて螺旋状の溝が形成されている。そして、この1条の螺旋状の溝が上述した冷媒流路18とされている。後半部6Rの外周面側に形成された冷媒流路18の前端および後端は、後半部6Rの周壁内部を連通する連通流路(第3連通流路21、第4連通流路22)により、外部と繋がっている。
第3連通流路21を介して導入された冷媒は、冷媒流路18の後端へ達した後、冷媒流路18を流れながら、後半部6Rの表面近傍を周回しインナースリーブ6の外周面側から後半部6Rを軸方向に亘って冷却する。冷媒流路18の前端へ達した冷媒は、第4連通流路22を介して後半部6Rの外側へ排出される。冷媒の導入方向は、上記の逆であってもよい。
なお、上述するような螺旋状の冷媒流路18を、インナースリーブ6の外周面側に形成するには、例えば、次のような加工を行えばよい。
すなわち、図3に示すように、上述したインナースリーブ6を、円筒状のインナースリーブ本体24と、この本体に外套する円筒状で薄肉の外殻体25と、から構成するとよい。その上で、インナースリーブ本体24の外周面に軸心方向に沿って螺旋周回状の溝を加工する。このとき加工される溝の幅や深さ、ピッチなどは、インナースリーブ6の大きさや冷却能に応じて適宜変更可能である。その後、インナースリーブ本体24に外殻体25を嵌め込み、溝の開口を外殻体25で被覆する。その際、必要に応じてインナースリーブ本体24と外殻体25との間に両者の端部をシールするシール部材を設けてもよく、インナースリーブ本体24に外殻体25を溶接して両者の端部をシールしてもよい。このようにすることで、インナースリーブ6の外周面(正確には、表面直下の内部)に沿って冷媒流路18を形成することができる。
また、冷媒流路18に流される冷媒としては、代替フロンのような有機化合物のクーラントを用いることができる。有機化合物のクーラントに代えて、水や油を用いても良い。この冷媒は、タイヤ試験機2の外部に設けられた図示しない冷却装置などで冷却されて、冷媒流路18に供給されている。
上述したようにインナースリーブ6の外周面に螺旋状に形成された冷媒流路18に冷媒を流通させれば、インナースリーブ6を軸方向及び周方向に全域に亘ってムラなく冷却することが可能となる。その結果、インナースリーブ6だけがアウタースリーブ7に比べて高温になることがなくなり、インナースリーブ6とアウタースリーブ7との長さを軸方向に略等しくすることが可能となる。つまり、インナースリーブ6とアウタースリーブ7との間に軸心方向に沿って伸びの差が生じなくなり、伸びの差に基づく歪み(内力)が多分力計測センサ9に誤差成分として作用することもなくなる。それゆえ、軸受部5で発生した熱が原因で多分力計測センサ9の精度が低下することもない。
特に、インナースリーブ6とアウタースリーブ7とを前後2箇所のロードセル9で過拘束する支持構造を採用する多分力計測スピンドルユニット1において、上下方向に伸びる起歪体15を左右方向に伸びる起歪体15より細く(薄く)形成してfxを高感度に計測するようにしたロードセル9を用いて転がり抵抗fxを計測しようとする場合には、軸受部5の発熱によりインナースリーブ6が熱膨張して計測精度が著しく低下してしまう可能性があるので、上述したような冷却手段17を設けるのが好ましい。
また、インナースリーブ6の前側(インナースリーブ前半部)6Fと後側(インナースリーブ後半部)6Rとに軸方向に2分割された冷媒流路18を設けておいて、それぞれ独立した冷媒流路18を用いて個別に冷媒を供給すれば、インナースリーブ6の発熱状況に合わせて独立に冷却することが可能となる。例えば、スピンドル軸4に加わる力の分布や軸受部5の配置によっては、インナースリーブ前半部6Fがインナースリーブ後半部6Rより大きく発熱する場合が考えられる。このような場合、インナースリーブ前半部6Fを流通する冷媒の流量をインナースリーブ後半部6Rのものより大きくすることで、発熱の大きいインナースリーブ6の前側を効果的に冷却することができ、多分力計の精度低下をより確実に防止することが可能となる。
「第2実施形態」
次に、本発明の多分力計測スピンドルユニット1の第2実施形態を説明する。
図6に模式的に示すように、第2実施形態の多分力計測スピンドルユニット1は、アウタースリーブ7とインナースリーブ6との温度差が小さくなるように、アウタースリーブ7に、当該アウタースリーブ7を昇温する昇温手段23が設けられている点が特徴である。
他の構成に関しては、第2実施形態の多分力計測スピンドルユニット1は、第1実施形態と略同じであり、インナースリーブ6には、当該インナースリーブ6を軸方向に亘って冷却する冷媒流路18(冷却手段17)が設けられている。なお、図6では、便宜的に冷媒流路18への冷媒の供給路と排出路が上向きに作図されている。
図6に示すように、第2実施形態のアウタースリーブ7に設けられた昇温手段23は、アウタースリーブ7を直接的に加熱する加熱手段を有している。また、アウタースリーブ7の外周面を被覆することでアウタースリーブ7の内部から外部に熱が拡散(流出)することを抑える断熱手段を有していてもよい。
加熱手段(加熱タイプ)の昇温手段23は、ラバーヒータやリボンヒータなどのようにシート状に形成されたヒータを備える構成を有している。これらのヒータは、アウタースリーブ7の外周面に巻き付けることで取り付け可能となっており、アウタースリーブ7を外側から積極的に加熱することでアウタースリーブ7を所定の温度に保持する。
断熱手段(断熱タイプ)の昇温手段23は、シート状に形成された断熱材などから構成される。これらの断熱材も、アウタースリーブ7の外周面に巻き付けて取り付けられ、アウタースリーブ7から外部に流出する熱の量を減少させることでアウタースリーブ7の温度を所定の状態に保持する。
このように昇温手段23を用いてアウタースリーブ7の温度を所定の状態に保持すれば、インナースリーブ6の温度とアウタースリーブ7の温度との差をさらに小さくすることが可能になる。また、外気温度の影響を少なくすることも可能になる。
例えば、軸受部5で発生する熱が予想以上に大きい場合を考える。この場合、上述した冷却手段17を用いて冷却したとしても、インナースリーブ6の温度を十分に下げることは困難であり、インナースリーブ6の温度がアウタースリーブ7の温度より若干高くなることがある。
このような場合に、上述した加熱タイプの昇温手段23を用いてアウタースリーブ7を加熱し所定の温度に保持すれば、アウタースリーブ7の温度をインナースリーブ6の温度に近づけることができ、両者の間に軸心方向に沿って伸びの差が生じ難くなり、多分力計測センサ9の精度低下をさらに確実に防止することができる。
なお、上述した昇温手段23を用いて、アウタースリーブ7とインナースリーブ6との温度差を小さくする際には、アウタースリーブ7とインナースリーブ6との双方に温度計測手段などを設けておき、温度計測手段で計測されたアウタースリーブ7及びインナースリーブ6の温度に基づいて、上述した冷却手段17及び/又は加熱タイプの昇温手段23を制御するのが好ましい。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。例えば、今回開示された実施形態においては、回転ドラムを用いたタイヤ試験機を例示しているがこれに限らない。また、今回開示された実施形態においては、転がり抵抗試験機を例示しているがこれに限らない。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
なお、上述した軸受部5を設ける場合には、ベアリングナットなどを用いて前後2つの軸受部5に対して軸方向に適切な予圧を加えるのが望ましい。このように適切な予圧を加えれば、軸受部5の転動体と転動面との間に隙間ができることを防止でき、転動体の変形も生じにくくなって、軸受部5の発熱を小さいものに留めることができるからである。
また、上述した多分力計測センサ9は、6分力計以外のもの、すなわち3分力計でも5分力計でも良く、また、全ての起歪体の太さが同一であってもよい。
また、冷媒流路18への冷媒の供給は、インナースリーブ6の外周側に接続した管路によって行ってもよい。その場合、アウタースリーブ7径方向に非接触状態で貫通するように冷媒供給用の管路を設けることが望ましい。同様に、冷媒流路18からの冷媒の排出は、インナースリーブ6の外周側に接続した管路によって行ってもよい。その場合、アウタースリーブ7径方向に非接触状態で貫通するように冷媒排出用の管路を設けることが望ましい。このように管路を設けることにより、インナースリーブに流路を形成するよりもインナースリーブ6の周方向の温度をより均一に冷却し易いものとなる。
1 多分力計測スピンドルユニット
2 タイヤ試験機
3 回転ドラム
4 スピンドル軸
5 軸受部
6 インナースリーブ
6F インナースリーブ前半部
6R インナースリーブ後半部
7 アウタースリーブ
8 支持フレーム
9 多分力計測センサ
10 スペーサ
11 エア配管
12 非接触シール
13 着力体
14 固定体
15 起歪体
16 歪ゲージ
17 冷却手段
18 冷媒流路
19 第1連通流路
20 第2連通流路
21 第3連通流路
22 第4連通流路
23 昇温手段
T タイヤ

Claims (5)

  1. タイヤを装着可能なスピンドル軸と、軸受部を介して該スピンドル軸を回転自在に支持するインナースリーブと、スピンドル軸の軸心方向に沿ってインナースリーブの外側に配備されたアウタースリーブと、前記インナースリーブの端部とアウタースリーブの端部とを連結すると共にインナースリーブからアウタースリーブに作用する荷重を計測可能な一対の多分力計測センサと、を備えたタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットにおいて、
    前記インナースリーブを軸方向に亘って冷却する冷却手段が設けられていて、
    前記冷却手段は、前記インナースリーブの外周面に沿って形成された冷媒流路を備えており、前記冷媒流路に沿って冷却用の冷媒を流通させることで、インナースリーブを冷却するように構成されていて、
    前記冷媒流路は、前記インナースリーブの軸方向に2分割されていて、当該インナースリーブ前半部と当該インナースリーブ後半部に、それぞれ独立して形成されていて、それぞれの冷媒流路により、インナースリーブ前半部とインナースリーブ後半部とが個別に冷却可能とされている
    ことを特徴とするタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニット。
  2. 前記冷媒流路は、前記インナースリーブの軸方向に沿って螺旋状に形成されていることを特徴とする請求項に記載のタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニット。
  3. タイヤを装着可能なスピンドル軸と、軸受部を介して該スピンドル軸を回転自在に支持するインナースリーブと、スピンドル軸の軸心方向に沿ってインナースリーブの外側に配備されたアウタースリーブと、前記インナースリーブの端部とアウタースリーブの端部とを連結すると共にインナースリーブからアウタースリーブに作用する荷重を計測可能な一対の多分力計測センサと、を備えたタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットにおいて、
    前記インナースリーブを軸方向に亘って冷却する冷却手段が設けられ、
    前記アウタースリーブには、前記インナースリーブとの温度差が小さくなるようにアウタースリーブを昇温する昇温手段が設けられていることを特徴とするタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニット。
  4. 前記冷却手段は、前記インナースリーブの外周面に沿って形成された冷媒流路を備えており、
    前記冷媒流路に沿って冷却用の冷媒を流通させることで、インナースリーブを冷却するように構成されていることを特徴とする請求項に記載のタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニット。
  5. 前記冷媒流路は、前記インナースリーブの軸方向に沿って螺旋状に形成されていることを特徴とする請求項に記載のタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニット。
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