JP5781508B2 - 高親和性抗体を産生させるための手段および方法 - Google Patents

高親和性抗体を産生させるための手段および方法 Download PDF

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Description

本発明は細胞生物学の分野に関する。より具体的には、本発明は抗体産生の分野に関する。本発明は、高特異性抗体のインビトロでの産生および/または選択のための方法および手段を提供する。
抗体を分泌しながら細胞表面上にB細胞受容体(BCR)を発現する不死化したヒト初代B細胞の安定したモノクローナル細胞株は、BCRシグナリングの多様な側面を研究するためだけでなく、ヒトモノクローナル抗体の生成にも使える魅力的なツールである。ポリクローナルな不死化したヒトB細胞上のBCR発現により、特異的なBCRへの抗原の結合に基づいて抗原特異的細胞の選択が容易になり、一方で、抗体の産生により、分泌抗体の機能的な活性に基づいてB細胞クローンの選択が可能になる。ナイーブB細胞および記憶B細胞は、細胞表面BCRは発現するが、Igは分泌しない。BCRを発現しかつ抗体を分泌する細胞が、胚中心(GC)の明領域に存在することはあり得る。この細胞は、選択されて形質細胞コンパートメントへ入る用意ができている形質芽細胞を表している可能性がある。
GCは、2つの領域、暗領域および明領域からなり、それらの領域はそれぞれ、中心芽細胞および中心細胞によって占められている。GC内の抗原活性化されたナイーブB細胞および記憶B細胞は、広範に増殖し、それに伴って、両方とも活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)に媒介される過程である、Ig遺伝子の体細胞高頻度変異(SHM)およびクラススイッチ組換え(CSR)が起こる。次いで、明領域GC B細胞は、濾胞樹状細胞上でのBCR-抗原相互作用を介して選択され、濾胞ヘルパーT細胞からの助けを受けて、記憶形質細胞または抗体分泌形質細胞へ最終的に分化する。この選択された明領域GC B細胞は、Bcl-xLを発現する。Bcl-xLは、抗アポトーシスのBcl-2タンパク質ファミリーのメンバーであり、細胞死からこのB細胞を守ると考えられている。Ig遺伝子の体細胞高頻度変異およびクラススイッチ組換えは、もはや明領域では起こらない。
成熟B細胞は、GC反応のいくつかの重要な側面、すなわちCD40リガンド(L)およびインターロイキン(IL)-4、IL-1O、またはIL-21のようなサイトカインの存在によるB細胞の活性化を模倣する条件下でインビトロにて培養することができる。CD40L、IL-2、およびIL-4と共に培養されたB細胞は、Igをほとんど産生しないが、IL-21の添加により、高度なIg分泌を伴う形質細胞に分化する(Ettinger, R.ら J Immunol 175、7867〜79(2005); Kuo, T.C.ら J Exp Med 204、819〜830(2007))。このインビトロ系は、B細胞分化のいくつかの側面を検討するのに有用であると判明したが、ナイーブIgD+B細胞およびスイッチされたIgD-記憶B細胞の両方は、末端分化形質細胞に最終的に分化し、長期抗原特異的BCR陽性細胞株の生成を妨げる細胞周期停止を起こす。
Bリンパ球誘導成熟タンパク質1(B-lymphocyte-induced maturation protein 1)(BLIMP1)、X-box結合タンパク質1(X-box-binding protein 1)(XBP1)、およびB細胞リンパ腫(BCL)6を含む多くの転写因子がアレストした抗体産生形質細胞へのGC B細胞の分化をどのように制御しているかに対する洞察が、最近の進歩により得られた。転写リプレッサーBCL6は形質細胞分化を妨げることが示された。BCL6は、GC B細胞の中で高度に発現されており、p53をダウンレギュレートすることによってB細胞の増殖を促進し、BLIMP1を負に調節することによって形質細胞へのGC細胞の早発性分化を妨げる。
生体外の細胞培養は、現在の生物学的および医学的適用において重要なツールとなっている。重要な1つの適用として、抗体、好ましくはモノクローナル抗体を収集するために抗体産生細胞を培養することが挙げられる。モノクローナル抗体(mAb)は、単一抗体分子の複数の同一コピーを表し、そのコピーは同じ親和性で抗原に結合し、同じエフェクター機能を促進する。mAbの利点には、抗原上の同じエピトープに対する特異性がある。この特異性により、従来の処置にまさる、mAbに関する確かな臨床上の利点が与えられ、効果的で、全般的に副作用が弱く十分に許容性のある治療オプションが患者に提供される。さらに、mAbは生物学的および医学的研究に役立つ。
国際出願PCT/NL2008/050333号明細書 米国特許出願公開第2008305076号明細書
Ettinger, R.ら J Immunol 175、7867〜79(2005) Kuo, T.C.ら J Exp Med 204、819〜830(2007) Rousset Fら PNAS 89、1890〜1893(1992) Banchereau Jら Science 251、70〜72(1991) Boise, L.H.ら Cell 74、597〜608(1993) Adams J.M.ら Current Opinion in Immunology 19、488〜496(2007) Chipuk, J.E.ら Trends in Cell Biol 18、157〜163(2007) Sean A Diehl、Heike Schmidlin、Maho Nagasawa、Simon D van Haren、Mark J Kwakkenbos、Etsuko Yasuda、Tim Beaumont、Ferenc A Scheeren、Hergen Spits STAT3-mediated up-regulation of BLIMP1 is coordinated with BCL6 down-regulation to control human plasma cell differentiation J Immunol 2008 180巻 (7) 4805〜15頁 Tan Sら PNAS 100、11997〜12002(2003) Kee B.L. Nat Rev Immunol 9、175〜84(2009) Zamoreら Cell 101、25〜33(2000) Baron, U.およびBujard, H. Methods Enzymol 327、401〜21(2000) Gossen, M.およびBujard, H. PNAS 89、5547〜51(1992) Gossen, M.ら Science 268、1766〜9(1995) Christopherson, KS.ら PNAS 89、6314〜8(1992) Guzman, L.M.ら Bacteriol 177、4121〜4130(1995) Ichikawaら J. Immunol. 177、355〜361(2006) Shvarts, A.ら Genes Dev 16、681〜6(2002) Jaleco, A.C.ら Blood 94、2637〜46(1999) Spits H.ら J Exp Med 192、1775〜83(2000) Maurer, U.ら Mol Cell 21、749〜760(2006) Kinsella, T.M.ら Hum Gene Ther 7、1405〜1413(1996) Diehl, S.A.ら J Immunol 180、4805〜15(2008) Smit, L.A.ら Cancer Res 63、3894〜8(2003) Scheeren, F.A.ら Nat Immunol 6、303〜13(2005) Liu, Y.J.およびArpin, C. Immunol Rev 156、111〜26(1997) Muramatsu, M.ら J Biol Chem 274、18470〜6(1999) Thompson, W.W.ら JAMA 289、179〜86(2003) Hall CB.ら NEMJ 360、588〜599(2009) Johnson, S.ら J Infect Dis 180、35〜40(1999) Peled, J.U.ら Annu Rev Immunol 26、481〜511(2008) Sayegh, C.E.ら Nat Immunol 4、586〜93(2003)
本発明の目的は、高親和性抗体の産生および/または選択のための方法を提供することである。
本発明は、抗体産生形質芽細胞様B細胞における体細胞高頻度変異の発生を調節する方法であって、B細胞におけるBcl-6の発現を誘導、増強、および/または維持し、前記B細胞における抗アポトーシス核酸の発現を誘導、増強、および/または維持し、それにより抗体産生形質芽細胞様B細胞を生成させるステップを含み、前記B細胞におけるAIDの機能的活性を調節するステップをさらに含む方法を提供する。
好ましくは、所望の特異性を有する記憶B細胞を単離し、本発明による方法に供して、所望の特異性を有する抗体産生形質芽細胞様B細胞を得る。したがって、抗体産生形質芽細胞様B細胞における体細胞高頻度変異の発生を調節する方法であって、記憶B細胞におけるBcl-6の発現を誘導、増強、および/または維持し、前記記憶B細胞における抗アポトーシス核酸の発現を誘導、増強、および/または維持し、それにより抗体産生形質芽細胞様B細胞を生成させるステップを含み、前記記憶B細胞におけるAIDの機能的活性を調節するステップをさらに含む方法をさらに提供する。好ましくは、前記記憶B細胞におけるAIDの機能的活性が調節される。その後、前記記憶B細胞は、AIDの機能的活性が調節される、形質芽細胞様抗体産生細胞になる。
本明細書において使用する用語「抗アポトーシス核酸」とは、B細胞におけるアポトーシスを遅延および/または妨害することができる核酸を指す。好ましくは、前記抗アポトーシス核酸は、形質芽細胞様抗体産生B細胞におけるアポトーシスを遅延および/または妨害することができる。好ましくは、外来性の核酸を含む抗アポトーシス核酸を使用する。このことは、形質芽細胞において天然では発現されない核酸配列を使用するか、天然に存在する核酸の追加のコピーを使用するかのいずれかを意味し、結果として得られる形質芽細胞様B細胞における発現は天然の形質芽細胞と比較して増強される。様々な抗アポトーシス核酸が当技術分野で知られているので、様々な実施形態が利用可能である。抗アポトーシスBcl-2タンパク質が好適なアポトーシス阻害剤であるので、Bcl-2ファミリーの抗アポトーシスメンバーである抗アポトーシス核酸を使用することが好ましい。本明細書において以下により詳細に概説するように、Bcl-2ファミリー(このファミリーはアポトーシス促進タンパク質および抗アポトーシスタンパク質の両方を含む)によって制御される多くの過程が、アポトーシスのミトコンドリア経路に関係する。抗アポトーシスBcl-2ファミリーメンバーであるBcl-2、Bcl-xL、Bcl-w、A1、およびMcl-1は、ミトコンドリア外膜に概ね溶け込んでいる。これらのファミリーメンバーは、Bcl-2ファミリーに属するアポトーシス促進タンパク質に直接結合して阻害し、ミトコンドリア膜の完全性を保つ。
特に好ましい実施形態では、前記抗アポトーシス核酸は、Bcl-xLおよび/またはMcl-1および/またはBcl-xLの機能性部分および/またはMcl-1の機能性部分をコードする。実施例で実証されるように、Bcl-6核酸およびBcl-xL核酸の組合せならびにBcl-6核酸およびMcl-1核酸の組合せは、B細胞の不死化およびその結果得られる形質芽細胞様B細胞の長期培養にとって特に適している。Bcl-6およびBcl-xLの組合せがB細胞を特によく安定化させるため、前記抗アポトーシス核酸がBcl-xLまたはその機能性部分をコードすることが最も好ましい。
Bcl-xLの機能性部分およびMcl-1の機能性部分は、それぞれBcl-xLおよびMcl-1のフラグメントとして本明細書において定義され、これらのフラグメントは、完全長のBcl-xLおよびMcl-1と、その質において(必ずしもその量ではなく)同種の抗アポトーシス特性を保持していた。Bcl-xLおよびMcl-1の機能性フラグメントは、通常B細胞におけるアポトーシスを遅延および/または妨害することができるBcl-xLおよびMcl-1のより短いフラグメントである。このような機能性フラグメントは、例えばBcl-xLまたはMcl-1の抗アポトーシス活性に寄与しない配列が欠損している。
好ましくは、前記抗体産生細胞は哺乳類細胞を含む。非限定例としては、ヒト個体、げっ歯類、ウサギ、ラマ、ブタ、雌牛、ヤギ、馬、類人猿、チンパンジー、マカク、およびゴリラに由来する抗体産生細胞が挙げられる。好ましくは、前記抗体産生細胞は、ヒト細胞、マウス細胞、ウサギ細胞、類人猿細胞、チンパンジー細胞、マカク細胞、および/またはラマ細胞を含む。最も好ましくは、前記抗体産生細胞はヒトB細胞を含む。
好ましい実施形態では、前記記憶B細胞はヒト記憶B細胞である。さらに別の好ましい実施形態では、前記記憶B細胞は末梢血記憶B細胞である。末梢血記憶B細胞は、それらが由来する個体にそれほどの不快感を与えずに容易に得られ、本発明による方法において使用するのにまさに適していると考えられる。
本発明者らは、AIDの機能的活性の調節が抗体産生形質芽細胞様B細胞における体細胞高頻度変異の発生に影響を与えることを意外にも発見した。ヒトのナイーブ細胞および記憶B細胞は、IL-2、IL-4、およびIL-10を含むサイトカインの存在下で、CD40の結合に続いて、ある一定期間培養することが可能であることが十分に立証されており(Rousset Fら PNAS 89、1890〜1893(1992); Banchereau Jら Science 251、70〜72(1991))、この系は、抗原刺激を受けた同系のCD40L発現ヘルパーT細胞に対するB細胞のインビボ応答を模倣すると考えられている。しかしながら、これらの条件下で培養された成熟B細胞の生存および増殖の調節メカニズムは、ほんの部分的にしか知られていない。
抗体産生形質芽細胞様B細胞は、増殖することができ、抗体またはその機能的等価物を産生および/または分泌することができる細胞として定義される。前記抗体産生形質芽細胞様B細胞は、少なくとも6週間、より好ましくは少なくとも9週間、より好ましくは少なくとも3ヶ月間、より好ましくは少なくとも6ヶ月間安定である。
抗体産生形質芽細胞様B細胞を生成させるための改良方法が、国際出願PCT/NL2008/050333号明細書に最近記載された。この特許は参照によって本明細書に組み込まれる。この方法によれば、Bcl-6およびBcl-2ファミリーメンバー、好ましくはBcl-xLの量は、B細胞、好ましくは記憶B細胞において調節されて、抗体産生形質芽細胞様B細胞が生成される。国際出願PCT/NL2008/050333号明細書では、Bcl-6および/またはBcl-xL発現産物の量は直接的または間接的のいずれかで影響を受ける。前記抗体産生細胞内のBcl-6発現産物およびBcl-xL発現産物の両方の量を増加させることが好ましい。なぜならば、両方の発現産物が抗体産生記憶B細胞の安定性に関係するためである。前記Bcl-xLは抗アポトーシスBcl-2ファミリーのメンバーである。アポトーシス促進タンパク質および抗アポトーシスタンパク質の両方が含まれるBcl-2ファミリーによって制御される過程は、アポトーシスのミトコンドリア経路に関係する。ミトコンドリアの外膜と内膜との間に隔離された分子がミトコンドリア外膜の透過性上昇によってサイトゾルに放出されるときに、この経路が進行する。アポトーシス促進ファミリーメンバーは2種類に分類することができる。いわゆるBcl-2相同ドメイン3(BH3)ドメインを含有するエフェクター分子であるBaxおよびBakは、プロテオリピド孔の形成によって生ずるミトコンドリア外膜の透過性上昇に関係する。アポトーシス促進BH3-onlyタンパク質(Bad、Bik、Bim、Bid、Hrk、Bmf、bNIP3、Puma、およびNoxa)は、他の(抗アポトーシス)Bcl-2ファミリーメンバーとのタンパク質-タンパク質相互作用によって、様々な細胞ストレスに対して機能する(Boise, L.H.ら Cell 74、597〜608(1993); Adams J.M.ら Current Opinion in Immunology 19、488〜496(2007); Chipuk, J.E.ら Trends in Cell Biol 18、157〜163(2007))。抗アポトーシスBcl-2ファミリーメンバーであるBcl-2、Bcl-xL、Bcl-w、A1、およびMcl-1は、ミトコンドリア外膜に概ね溶け込んでいる。これらのメンバーは、アポトーシス促進Bcl-2タンパク質に直接結合して阻害し、ミトコンドリア膜の完全性を保つ。
前記抗体産生形質芽細胞様B細胞をIL21およびCD40Lと共にインキュベートすることがさらに好ましい。ほとんどのB細胞の複製がCD40Lによって促進されるので、抗体産生形質芽細胞様B細胞などのB細胞を、CD40Lの存在下で培養することが好ましい。前記抗体産生記憶B細胞においてSTAT3を活性化することがさらに好ましい。STAT3の活性化は、様々な方法で達成することができる。抗体産生細胞にサイトカインを与えることによってSTAT3を活性化することが好ましい。B細胞分化に天然において関与するサイトカインがSTATタンパク質を調節するのに極めて効果的である。STAT3の極めて効果的な活性化因子は、IL2、IL10、IL21、およびIL6であるが、IL7、IL9、IL15、IL23、およびIL27もまた、STAT3を活性化することが知られている。追加的または代替的に、STAT3の活性化は、STAT3を構成的に活性化するSTAT3の変異体をコードする核酸をB細胞へ移入することによって達成される(Sean A Diehl、Heike Schmidlin、Maho Nagasawa、Simon D van Haren、Mark J Kwakkenbos、Etsuko Yasuda、Tim Beaumont、Ferenc A Scheeren、Hergen Spits STAT3-mediated up-regulation of BLIMP1 is coordinated with BCL6 down-regulation to control human plasma cell differentiation J Immunol 2008 180巻 (7) 4805〜15頁)。
抗体産生形質芽細胞様B細胞の安定性に影響を与えるのにIL21が特に適しているので、IL21を使用することが最も好ましい。STAT3のアップレギュレーションに加えて、Blimp1の発現をBCL6が妨げる場合でさえ、IL21はBlimp1の発現をアップレギュレートすることができる。国際出願PCT/NL2008/050333号明細書に開示の方法によって、複製が起こる発生段階においてB細胞を維持することが可能になったため、抗体産生細胞の複製寿命を延ばすことが可能になった。以前の生体外B細胞培養では、複製寿命はわずか数週から2ヶ月であった。この間に、培養細胞は、複製する能力、抗体を産生する能力、および/または抗体を産生する細胞へ分化する能力を失う。しかしながら、国際出願PCT/NL2008/050333号明細書に開示の方法によって、抗体産生記憶B細胞の複製寿命を延長させることが可能になったため、複製しかつ抗体を産生することができる形質芽細胞様B細胞を含む生体外培養物を生成できる。
活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)は、免疫グロブリン遺伝子中のデオキシシチジン残基を脱アミノ化し、それによって抗体多様化が誘発される。IL21が体細胞高頻度変異ではなくBLIMP、Bcl-6、およびAIDの発現を誘導することが米国特許出願公開第2008305076号明細書において実証された。この実証とは対照的に、本発明者らは、IL21により刺激される抗体産生形質芽細胞様B細胞におけるAIDの機能的活性が調節されることにより、体細胞高頻度変異の発生の調節が明確にもたらされることを示すことができた。したがって、米国特許出願公開第2008305076号明細書の教示に反して、本発明は、B細胞をIL21およびCD40Lの存在下で培養し、かつ抗体産生形質芽細胞様B細胞における体細胞高頻度変異の発生を調節する方法を提供する。
一実施形態では、AIDの機能的活性は抗体産生形質芽細胞様B細胞において低下する。これによって、前記抗体産生形質芽細胞様B細胞の体細胞高頻度変異の発生が低下することになる。抗体産生形質芽細胞様B細胞におけるAIDの発現および/または比活性が低下することによりAIDの機能的活性が低下することが好ましい。上記で説明したように、好ましい実施形態では、AIDの機能的活性は、形質芽細胞様B細胞へ後に分化するB細胞(記憶B細胞など)において低下する。これによって、目的の特異性を有するB細胞におけるAIDの機能的活性が低下し、前記細胞におけるBcl-6および抗アポトーシス核酸の発現が誘導、増強、または維持された後に、前記細胞を収集する比較的簡単な手順が可能になる。前記細胞は、AIDの機能的活性が低下している抗体産生形質芽細胞様B細胞へその後分化する結果、長期間の培養の間の、得られた抗体産生形質芽細胞様B細胞における体細胞高頻度変異の発生は低下する。さらに、AID活性を条件に応じて低下させることができる核酸配列を記憶B細胞に与えることも可能である。この実施形態では、記憶B細胞または得られた形質芽細胞様B細胞のAID活性は、随意に調節できる。
AIDの発現を低下させる方法は当技術分野で知られている。AIDの発現レベルの低下は、転写レベルで、mRNAレベルで、もしくはタンパク質レベルで、またはそれらを組合せて達成することができる。前記低下が、最大で75%、より好ましくは最大で60%、より好ましくは最大で50%、より好ましくは最大で40%、より好ましくは最大で30%、より好ましくは最大で20%、より好ましくは最大で10%、より好ましくは最大で5%のレベル、またはAIDが無処置抗体産生形質芽細胞様B細胞において発現されるレベルにまで至ることが好ましい。
AIDの発現レベルの低下は、例えばAIDのプロモーター領域へ結合することができるように改変され、Kruppel結合boxA/Bリプレッサードメイン(Kruppel-associated box A/B repressor domain)などの転写リプレッサードメインに結合する(非天然の)ジンクフィンガータンパク質をB細胞(好ましくは記憶B細胞)の中へ導入することによって達成される。特異的なヌクレオチド配列に結合するジンクフィンガータンパク質を設計する方法は、当技術分野で知られており、例えばTan Sら PNAS 100、11997〜12002(2003)によって開示されている。この文献は参照によって本明細書に組み込まれる。
さらなる例として、AIDの発現レベルの低下は、抗体産生形質芽細胞様B細胞におけるAIDの転写活性化を妨害する分子をB細胞の中へ導入することによって達成することができる。AIDの発現は、例えば両方ともE2A遺伝子によってコードされるE47およびE12などの塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス(bHLH)タンパク質によって調節されることが知られている。bHLH転写因子はホモダイマーおよび/またはヘテロダイマーを形成することが知られている。したがって、E47および/もしくはE12のホモダイマー化またはヘテロダイマー化を妨害する分子は、抗体産生形質芽細胞様B細胞におけるAIDの転写活性化を妨害することになる。したがって、E47および/もしくはE12のホモダイマー化またはヘテロダイマー化を妨害する分子をB細胞の中へ導入することによって、AIDの発現レベルの低下がもたらされる。
一実施形態では、前記分子は化合物分子である。用語「化合物」は、ポリヌクレオチド、脂質、またはホルモンアナログなどの比較的低分子量であることを特徴とする無機または有機化合物を指す。他の生重合体の有機試験化合物としては、約2から約40のアミノ酸を含むペプチド、および約40から約500のアミノ酸を含む、抗体または抗体結合体などのより大きなポリペプチドが挙げられる。結合してE47および/もしくはE12のホモダイマー化またはヘテロダイマー化を妨害する、したがって、E47および/もしくはE12のホモダイマーまたはヘテロダイマーの転写活性化を妨害する1つまたは複数の化合物を同定するためにペプチドライブラリー(例えばLOPAPTM、Sigma Aldrich)、脂質ライブラリー(BioMol)、合成化合物ライブラリー(例えばLOPACTM、Sigma Aldrich)、または天然化合物ライブラリー(Specs、TimTec)などの化合物ライブラリーをスクリーニングすることができる。
E47および/またはE12ポリペプチドへの化合物の結合親和性は、当技術分野で知られている任意の方法、例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサー(Biacore)を用いて、標識化合物による飽和結合分析(例えばスキャッチャード分析およびリンドモ分析)、微分UV分光光度計、ケイ光偏光測定、ケイ光イメージングプレートリーダー(FLIP(登録商標)システム、ケイ光共鳴エネルギー転移、または生体発光共鳴エネルギー転移によって測定できる。また、化合物の結合親和性は、解離定数(Kd)によって、またはIC50もしくはEC50として表現することもできる。IC50は、該ポリペプチドへのダイマー化の相手の結合を50%阻害するために必要とされる化合物濃度を表す。EC50は、E47および/もしくはE12のホモダイマーまたはヘテロダイマーのダイマー化および/または転写活性化を測定する任意の測定において最大効果の50%を得るために必要とされる濃度を表す。解離定数(Kd)は、化合物がポリペプチドにどれほどよく結合するかの尺度であり、ポリペプチド上の結合部位の正確に半分を飽和させるために必要とされる化合物濃度に等しい。高親和性結合を有する化合物は、低いKd、IC50、およびEC50値、すなわち100nM〜1pMの範囲の値を示し、中程度〜低い親和性結合は、高いKd、IC50、およびEC50値、すなわちμmolの範囲の値に合致する。
好ましくは、該化合物は低分子量化合物である。低分子量化合物、すなわち500ダルトン以下の分子量を有する化合物は、生物学的システムにおいて良好な吸収性および透過性を有し、それ故分子量が500ダルトンを超える化合物より優れた薬剤候補になり得ると考えられる。
本発明による好ましい方法では、前記分子はDNA結合の阻害剤(ID)である。IDタンパク質は、ID1、ID2、ID3、およびID4と呼ばれ、E12および/またはE47 bHLHタンパク質とダイマー化することができ、これらのbHLHタンパク質のDNA結合を妨げる4つからなるファミリーを含む。AIDの発現を前記抗体産生形質芽細胞様B細胞におけるIDタンパク質の(過剰)発現によって調節することが好ましい。最も好ましい分子はID2であり、さらにより好ましいのはID3である。IDタンパク質は、E-タンパク質、特にE47への結合およびそれらの調節を介してAID発現の調節に関与すると説明されてきた(Kee B.L. Nat Rev Immunol 9、175〜84(2009))。抗体産生形質芽細胞様B細胞におけるAID発現レベルがIDタンパク質の存在下で低下することが本発明者らによって見出された。細胞増殖は、Bcl-6およびBcl-xLに加えてID2を発現する細胞においてわずかに阻害される。このことはID3には当てはまらない。したがって、ID3の使用が好ましい。こうしてIDの過剰発現によって、AIDの発現ならびに抗体産生形質芽細胞様B細胞において発現される免疫グロブリンのVH鎖およびVJ鎖の体細胞突然変異のその後の蓄積が制限されたりまたは阻止さえもされたりする。好ましくは、IDは、前記抗体産生形質芽細胞様B細胞において条件に応じて、例えばあるインデューサーの投与の後に発現される。このようにして、ID発現の程度は、それ故AID発現の程度は随意に制御される。条件的発現系の非限定例を本明細書において以下に説明する。
一層さらに好ましい実施形態では、前記分子は、E12および/またはE47に向けられたアンチセンス核酸および/またはリボザイム、好ましくは完全長のハンマーヘッド型リボザイムである。前記アンチセンス核酸は、E12および/またはE47のタンパク質をコードするRNA転写物に対してアンチセンスであり、該RNA転写物と塩基対合することができる50超の一続きの核酸分子を含むことが好ましい。アンチセンスRNAの発現により、アンチセンスRNAおよび内因性のセンスmRNAを含む二本鎖RNA分子の形成がしばしば起こる。この二本鎖RNA分子は、mRNAがタンパク質に翻訳されるのを妨げる。
一層さらに好ましい実施形態では、前記分子はRNA干渉(RNAi)を利用してmRNAの分解を誘導するdsRNA分子である。RNAiは、高度に特異的なRNA分解(Zamoreら Cell 101、25〜33(2000))および/または翻訳の抑制に導く正常な細胞過程を活性化する短い二本鎖RNA(dsRNA)の生成に基づいている。最近の研究により、RNA干渉は、低分子干渉RNA(siRNA)二本鎖と名付けられた、2ヌクレオチド長の3'オーバーハングを有する18〜23ヌクレオチドのdsRNA分子の生成によって媒介されることが実証されてきた。RNAiはその配列に基づいて遺伝子をサイレンシングさせることができる。抗体産生形質芽細胞様B細胞におけるdsRNA分子の発現のためには、dsRNA二本鎖分子の2つの鎖をコードする発現カセットがポリメラーゼIIIエンハンサー/プロモーターを含むことが好ましい。好ましいポリメラーゼIIIエンハンサー/プロモーターは、U6およびH1プロモーターから選択される。ポリメラーゼIIIエンハンサー/プロモーターは、塩基対合による二本鎖形成の際に、E12および/またはE47 bHLHタンパク質をコードするmRNA転写物の一部に広範囲な相同性を示す鎖の1つと共に、2ヌクレオチド長の3'オーバーハングを有する、18〜23(通常は19)ヌクレオチド長の二本鎖siRNA分子を含む低分子干渉RNA(siRNA)鎖の発現を促進することが好ましい。前記siRNAはRNA干渉(RNAi)経路を活性化し、前記遺伝子の発現を妨害する。
アンチセンスRNAおよび/またはリボザイム、あるいはジンクフィンガータンパク質もしくはIDタンパク質などのタンパク質の発現用の発現カセットは、前記細胞株においてRNA分子を発現させるのに適したエンハンサー/プロモーターと、例えばプロモーターがポリメラーゼIIプロモーターである場合の、ポリ(A)シグナルなどの転写停止信号とを含むことが好ましい。前記エンハンサー/プロモーターおよび転写停止信号は該細胞株においてRNAの発現を促進するように機能的に結合されることが好ましい。前記エンハンサー/プロモーターにはポリメラーゼIIプロモーターまたはポリメラーゼIIIエンハンサー/プロモーターのいずれかが好ましい。ポリメラーゼIIエンハンサー/プロモーターは主なmRNA前駆体の発現を促進する。好ましいポリメラーゼIIエンハンサー/プロモーターは、ヒトサイトメガロウイルスの前初期遺伝子、SV40プロモーター、およびラウス肉腫ウイルスの長い末端反復配列から選択される。
本発明の好ましい実施形態では、抗体産生形質芽細胞様B細胞におけるAIDの機能的活性は、例えばジンクフィンガータンパク質、またはID、好ましくはID2および/またはID3の条件的発現によって調節される。前記B細胞はまた、Bcl-6および抗アポトーシス核酸を形質導入される。例えばID2および/またはID3の遺伝子発現は、遺伝子発現をインデューサーの存在に依存させることにより増大させることができる。さらに、AID発現のレベルは、dsRNA分子の発現がインデューサーの存在に依存するRNA干渉によって低下させることができる。AID、ID2および/またはID3、dsRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、および/またはジンクフィンガータンパク質の発現を制御するために使用することができるいくつかの誘導性遺伝子発現系が現在利用可能である。
Tet-OnおよびTet-Off発現系(例えば、Tet-On(登録商標)およびTet-Off(登録商標) Advanced Inducible Gene Expression Systems、Clontech)は、目的遺伝子の誘導発現に使用することができる。これらの系では、転写活性化因子(tTA)の発現は、テトラサイクリン(TC)またはドキシサイクリン(dox)のような誘導体の存在(Tet-On)または非存在(Tet-Off)によって調節される。原則として、tTAは、大腸菌(Escherichia coli)のTetリプレッサータンパク質(TetR)および単純ヘルペスウイルスのトランス活性化ドメインVP16からなる。tTAは、Tetオペレーター(TetO)DNA塩基配列およびプロモーター配列、例えばヒトサイトメガロウイルス(hCMV)プロモーター(Baron, U.およびBujard, H. Methods Enzymol 327、401〜21(2000)))を含むテトラサイクリン応答配列(TRE)の制御下で目的遺伝子の転写を調節する。例えばID2および/またはID3および/またはジンクフィンガータンパク質をコードする遺伝子を、このプロモーターの下流に置くことができる。dsRNAの発現については、H1およびU6などのRNAポリメラーゼIIIプロモーターを使用することが好ましい。
Tet-off系では、tTAがTCまたはdoxの非存在下でTREに結合し(Gossen, M.およびBujard, H. PNAS 89、5547〜51(1992))、例えばID2および/もしくはID3遺伝子、dsRNA、および/またはジンクフィンガータンパク質をコードする遺伝子の転写が活性化されるが、TCまたはdoxの存在下では、tTAはTREに結合できず、例えばID2および/もしくはID3遺伝子、dsRNA、および/またはジンクフィンガータンパク質をコードする遺伝子の発現が阻害される。対照的に、Tet-on系では、doxの存在下でのみTREに結合できるリバースtTA(rtTA)を使用する(Gossen, M.ら Science 268、1766〜9(1995))。例えばID2および/もしくはID3遺伝子、dsRNA、および/またはジンクフィンガータンパク質をコードする遺伝子の転写は、doxの非存在下で阻害され、doxの存在下で活性化される。
別の実施形態では、誘導発現は、例えばエクジソン誘導性遺伝子発現系(例えばRheoSwitch(登録商標)、New England Biolabs) (Christopherson, K.S.ら PNAS 89、6314〜8(1992))などのホルモン誘導性遺伝子発現系を使用して実行される。エクジソンは、例えばキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)由来の昆虫ステロイドホルモンである。エクジソン受容体を形質移入された細胞では、エクジソン受容体(Ecr)およびレチノイドX受容体(RXR)からなるヘテロダイマーが、エクジソン、ムリステロンAおよびポナステロンAなどのそのアナログの1つ、ならびに非ステロイド性エクジソンアゴニストから選択されるエクジソンアゴニストの存在下で形成される。アゴニストの存在下で、EcrおよびRXRは相互作用し、発現カセット上に存在するエクジソン応答配列に結合する。したがって、発現カセット内でエクジソン応答配列の下流に置かれるタンパク質の転写は、抗体産生形質芽細胞様B細胞をエクジソンアゴニストにさらすことにより誘導される。
本発明のさらに別の実施形態では、誘導発現は、アラビノース誘導遺伝子発現系(例えばpBAD/gIIIキット、Invitrogen)(Guzman, L.M.ら Bacteriol 177、4121〜4130(1995))を使用して実行される。アラビノースは5つの炭素原子を含有する単糖である。アラビノース誘導プロモーターPBADを形質移入された細胞では、その後、PBADの下流に置かれた遺伝子の転写を、アラビノース存在下で誘導することができる。
さらに、さらなる実施形態では、AIDの機能的活性は、抗体産生形質芽細胞様B細胞におけるAIDの比活性の低下により減少する。AIDの比活性の低下は、例えばAIDの酵素活性を妨害する化合物の添加によって達成される。好ましい化合物は低分子量化合物である。低分子量化合物、すなわち500ダルトン以下の分子量を有する化合物は、生物学的システムにおいて良好な吸収性および透過性を有し、それ故分子量が500ダルトンを超える化合物より優れた薬剤候補になり得ると考えられる。結合してAIDの活性を妨害する1つまたは複数の化合物を同定するためにスクリーニングすることができるペプチドライブラリー(例えばLOPAPTM、Sigma Aldrich)、脂質ライブラリー(BioMol)、合成化合物ライブラリー(例えばLOPACTM、Sigma Aldrich)、または天然化合物ライブラリー(Specs、TimTec)などの化合物ライブラリーが利用可能である。AIDの活性を測定する方法は当技術分野で知られている。例えば、シチジンデアミナーゼ活性は細菌突然変異誘発遺伝子アッセイ(bacterial mutator assay)で測定することができる。このアッセイでは、シチジン残基におけるAID媒介DNA脱アミノ化により、リファンピシン(Rif)ターゲットをコードする遺伝子、RNAに突然変異があるRif-耐性細菌コロニーの頻度が増加する。代替的または追加的に、例えばIchikawaら J. Immunol. 177、355〜361(2006)に記載のように、相補性検定を、AID欠損マウスのB細胞で行うことができる。
さらに別の実施形態では、抗体産生形質芽細胞様B細胞のAIDの量を、B細胞、好ましくは記憶B細胞にAIDをコードする核酸配列を与えることによって増加させることが好ましい。B細胞の体細胞高頻度変異を増加させ、それによって対象とするオリジナル抗体の改良された変異体を得るために、一時的にAIDの量を増加させることが時として好ましい。このような改良された変異体は、対象とする前記オリジナル抗体と比較して、高い親和性および/または特異性を有する抗体であることが好ましい。目的の変異体を産生する形質芽細胞様B細胞が得られた場合、前記B細胞のさらなる体細胞高頻度変異を妨げるために、続けてAIDの機能的活性を低下させることが好ましい。
さらなる実施形態では、本発明は、本発明による方法によって得られる抗体産生形質芽細胞様B細胞を提供する。好ましい実施形態では、AID発現がIDタンパク質の発現によって低下する形質芽細胞様B細胞を産生する。したがって、Bcl-6と、抗アポトーシス核酸と、IDタンパク質とを発現する単離または組換え抗体産生B細胞をさらに提供する。好ましい一実施形態では、ID2および/またはID3が発現される。したがって、Bcl-6と、抗アポトーシス核酸と、ID2およびID3からなる群から選択されるIDタンパク質とを発現する単離または組換え抗体産生B細胞をさらに提供する。本明細書において前述したように、前記抗アポトーシス核酸は外来性の核酸を含むことが好ましい。好ましい一実施形態では、Bcl-2ファミリーのメンバーである抗アポトーシス核酸を使用する。前記抗アポトーシス核酸は、Bcl-xLまたはMcl-1またはBcl-xLの機能性部分またはMcl-1の機能性部分を含むことが好ましい。したがって、Bcl-6と、IDタンパク質と、Bcl-xLおよびMcl-1およびBcl-xLの機能性部分およびMcl-1の機能性部分からなる群から選択される化合物をコードする核酸配列とを発現する単離または組換え抗体産生B細胞をさらに提供する。
前記抗体産生B細胞は、外来性の核酸を含むことが好ましい。したがって、Bcl-6をコードする外来性の核酸と、IDタンパク質をコードする外来性の核酸と、Bcl-xLおよびMcl-1およびBcl-xLの機能性部分およびMcl-1の機能性部分からなる群から選択される化合物をコードする外来性の核酸とを含む単離または組換え抗体産生B細胞をさらに提供する。前述したように、前記IDタンパク質はID2および/またはID3を含むことが好ましい。したがって、好ましい一実施形態では、Bcl-6をコードする外来性の核酸と、ID2をコードする外来性の核酸と、Bcl-xLおよびMcl-1およびBcl-xLの機能性部分およびMcl-1の機能性部分からなる群から選択される化合物をコードする外来性の核酸とを含む単離または組換え抗体産生B細胞を提供する。さらに別の好ましい一実施形態では、Bcl-6をコードする外来性の核酸と、ID3をコードする外来性の核酸と、Bcl-xLおよびMcl-1およびBcl-xLの機能性部分およびMcl-1の機能性部分からなる群から選択される化合物をコードする外来性の核酸とを含む単離または組換え抗体産生B細胞を提供する。
本発明による任意の方法によって得られる単離または組換え抗体産生形質芽細胞様B細胞もまた提供する。
上記に概説したように、抗体産生形質芽細胞様B細胞(に分化することになるB細胞)中のAIDを増加させることにより、BCL6および抗アポトーシス核酸による形質導入の前に、該B細胞中に存在しなかった突然変異を保有する新規の免疫グロブリンを生成させることが可能になる。例えば、体細胞高頻度変異がAIDの発現によって誘導される培養形質芽細胞様B細胞により、例えば免疫グロブリンによって認識されるリガンドに対してより高い親和性を有するか、あるいは例えば水溶液中もしくは高塩条件下またはそれらの任意の組合せにおいてより安定である1つまたは複数の免疫グロブリン変異体を得ることが可能になる。さらに別の実施形態では、オリジナル抗原への結合が低下または消失した免疫グロブリン変異体を選択する。VHおよびVLの配列を分析することによって、抗原結合に重要な免疫グロブリン残基を決定することが可能である。したがって、本発明は、抗体産生記憶B細胞における体細胞高頻度変異の発生を増加させるための、AIDの発現および/または活性が増加したB細胞の使用をさらに提供する。
さらなる実施形態では、本発明は、抗体の大規模産生のための、AIDの発現および/または活性が低下した、したがって体細胞高頻度変異の発生が低下した抗体産生形質芽細胞様B細胞の使用を提供する。AIDの機能的活性の低下によって体細胞高頻度変異が低下しているか、または阻害さえされている培養形質芽細胞様B細胞により、これらの細胞が望まない変異体を得るリスクを低くして免疫グロブリンを産生することが可能になる。用語「大規模産生」とは、調査レベルを超えた、すなわち免疫グロブリンを同定するためではない、抗体産生形質芽細胞様B細胞による抗体産生を意味する。前記大規模産生とは、少なくとも1ml、より好ましくは少なくとも5ml、より好ましくは少なくとも10ml、より好ましくは少なくとも25ml、より好ましくは少なくとも50ml、より好ましくは少なくとも100ml、より好ましくは少なくとも1000mlの培地を含む培養を指すことが好ましい。
本発明は、本発明による抗体産生形質芽細胞様B細胞によって産生される抗体をさらに提供する。前記抗体はヒト抗体であることが好ましい。
本発明は、以下の非限定例によってさらに説明される。
図1は、CD27+記憶末梢血液細胞は、BCL6およびBcl-xLの形質導入ならびにその後の培養によって安定したGC様表現型を獲得する(本特許出願を通して、これらの細胞は「抗体産生形質芽細胞様細胞」と命名する)ことを示す図である。具体的には、図1aは、扁桃腺GC細胞(GC、CD38+CD20+、暗灰色)、扁桃腺ナイーブ細胞および記憶細胞(N/M、CD38-CD20low、明灰色ヒストグラム線)、および扁桃腺形質細胞(PC、CD38++CD20low、暗灰色ヒストグラム線)と比較した、BCL6+Bcl-xL形質導入CD27+記憶B細胞(6XL、黒ヒストグラム線)の表現型を示す図である。BCL6+Bcl-xL形質導入モノクローナル細胞株は同一の表現型を示す(図示せず)。 図1bは、定量的RT-PCRの使用による、BCL6+Bcl-xL形質導入バルクCD27+記憶細胞と比較した、CD19+IgG+CD27+PB記憶B細胞およびCD19+CD38+CD20+IgD-扁桃腺GC B細胞(値を1と設定)におけるAICDA(AIDをコードする)の相対的なmRNAレベルを示す図である。 図2は、BCL6+Bcl-xL形質導入細胞におけるAIDの発現および活性を調べた実験結果である。具体的には、図2aは、1つまたは複数のアミノ酸置換を有するすべてのD25サブクローンの概要を示す図である。追加のサイレント変異はイタリック体で示す。 図2bは、定量的RT-PCRの使用による、23のBCL6+Bcl-xL形質導入モノクローナル細胞株およびモノクローナル抗RSV特異的細胞株D25と比較した、CD19+CD38+CD20+IgD-扁桃腺GC B細胞およびCD19+IgG+CD27+PB記憶B細胞におけるAICDA(AIDをコードする)のmRNAレベルを示す図である。 図2cは、配列決定した全サブクローン数に対する、指定の数のVH変異を有するサブクローンの割合を示す図である。 図2dは、VH変異の位置、VH領域ごとの塩基対当たりの変異の割合を示す図である。 図2eは、RSV感染HEp2細胞へのD25サブクローンIgの結合を示す図である。四角は個々のD25サブクローンであり、黒丸はrD25である。灰色の円は、外れた親和性を有するクローンを示す。 図3は、IdがBCL6 Bcl-xL形質導入B細胞におけるAID発現を調節することを示す図である。具体的には、図3aは、定量的RT-PCRの使用による、対照-YFP、AID-YFP、ID2-YFP、またはID3-YFPを形質導入されたモノクローナル抗RSV特異的細胞株D25におけるAICDAのmRNAレベルを示す図である。 図3bは、対照-YFP、AID-YFP、ID2-YFP、またはID3-YFPを形質導入されたモノクローナル抗RSV特異的細胞株D25の増殖曲線を示す図である。 図4は、RSV感染HEp2細胞に対する、変異D25クローンのB細胞上清由来組換えタンパク質の結合および競合の増強を調べた実験結果である。具体的には、図4aは、オリジナルD25配列に比較して2つの同一アミノ酸置換および1つの追加の変異(#29: S83Y/V111I/V112Lおよび#189: G63D/V111I/V112L)に基づいて選択された2つのクローン、RSV感染細胞への結合を消失したクローン(#77; E107K)、および非変異D25クローン(#54)のB細胞培養上清の抗体価測定を示す図である。これらの変異クローンは以下の操作の後に遡及的に選択した。1)培養液IgGレベルの測定およびRSV感染HEp2への結合の実施の両方を内容とする2つの試験。結合の増強を示したIgをトップ25にランク付けた。Igがトップ25に2度入った場合に、それを選択した。2)次いで、該Igを、オリジナルD25クローンと競合しなければならない競合実験で試験した。3)該Igは、上記実験で見られた表現型について説明することができる変異を有していた。置換は、以下のように実施した。PE標識D25でRSV感染Hep2細胞を飽和し、3回洗浄し、250ng ml-1のD25-PEおよび変動量の競合D25サブクローン(0-800ng ml-1)と共にインキュベートし、37℃で3時間インキュベートし、2回洗浄して、FACSで分析する。 図4bは、同じクローンによるD25競合を示す図である。250ng ml-1のD25-PEおよび変動量の競合D25サブクローン(0-800ng ml-1)と共にRSV感染Hep2細胞をインキュベートし(置換アッセイで使用のものと同じ混合物)、4℃で30分間インキュベートし、2回洗浄して、FACSで分析する。 図5は、BCL6、Bcl-xL、およびMCL-1によるヒトIgG+記憶B細胞の形質導入を調べた実験結果である。形質導入後4日目および21日目の、GFP(BCL6またはBCL6およびBcl-xL)ならびにNGFR(Bcl-xLまたはMCL-1)発現細胞の割合のFACS分析を示す図である。 図6は、BCL6および/またはBcl-xlとMCL1の発現により、ヒト記憶B細胞の増殖が起こることを示す図である。具体的には、活性化されたCD19+CD27+IgM-IgA-記憶細胞に、BCL6-GFPおよびMCL-1-NGFR(図6a)、BCL6-GFPおよびBcl-xL-NGFR(図6b)、または、BCL6-Bcl-xL-GFPおよびMCL-1-NGFR(図6c)を形質導入し、形質導入マーカーをFACS分析により経過観察した結果を示す図である。例えば放射線照射されたCD40L-L細胞およびrmIL-21と共に標準培養条件下で維持されたバルク培養中の形質導入細胞の割合を示す。MCL-1と一緒にBCL6を形質導入された細胞は、これら導入遺伝子の1つを欠く細胞と比較して増殖優位性を示し、最終的に該培養において支配的となった(>90%)。 図6a参照。 図6a参照。 図7は、BCL6および/またはBcl-xlと一緒にMCL1を発現するヒト記憶B細胞の細胞数の相対的な増加を示す図である。図6のように、活性化されたCD19+CD27+IgM-IgA-記憶細胞を次のもので形質導入した:(a)BCL6-GFPおよびMCL-1-NGFR、(b)BCL6-GFPおよびBcl-xL-NGFR、または(c)BCL6-Bcl-xL-GFPおよびMCL-1-NGFR。カウントにより細胞数を経過観察した。図6に示す目的の導入遺伝子を保有する細胞の割合に対して補正することにより相対的な細胞数を決定した。BCL6およびMCL-1を発現する細胞は増殖し、BCL6だけを伴う細胞と比較して増殖が速いことを示した。しかしながら、生存と増殖は、BCL6およびBcl-xLのみの組合せの場合、またはMCL-1と一緒の場合に最も顕著であった。興味深いことには、(c)では、BCL6-Bcl-xL細胞は、MCL-1も含有する細胞よりも増殖することはなく、MCL-1の追加に利点があることが示された。 図7a参照。 図7a参照。 図8は、二重形質導入細胞数の相対的な増加を示す図である。BCL6、Bcl-xL、およびMCL1の同時形質導入細胞の培養物を、形質導入後21日目に採取し、同数の細胞で培養を開始し、細胞数を1に設定した。BCL6/Bcl-xLおよびBCL6/MCL-1の培養では、21日目に100%が二重に形質導入されている。BCL6/Bcl-xLおよびMCL-1では、21日目に86%、43日目に約96%が二重に形質導入されていた。BCL6/Bcl-xL形質導入細胞およびMCL-1形質導入細胞の増加は、BCL6 Bcl-xL形質導入細胞の増加と等しい。細胞数は、形質導入後少なくとも43日目まで増加する。 図9は、形質導入後4日目および21日目のCD20およびCD38の発現に基づいた、BCL6、Bcl-xL、およびMCL-1形質導入細胞の表現型を調べた実験結果である。具体的には、MCL-1および/またはBcl-xLと一緒にBCL6を発現する細胞は、BCL6 Bcl-xL同時形質導入細胞に類似して、胚中心細胞様表現型を獲得し(図9a)、細胞表面IgG(BCR)陽性になる(図9b)。BCL6を欠く細胞は、高発現CD38および低発現CD20を有する形質芽細胞様細胞に分化する。 図9a参照。
[方法]
B細胞の単離。我々はフィコール(Ficoll)分離およびCD22 MACS微小ビーズ(Miltenyi Biotech)によって末梢血(Sanquinからのバフィーコート)からB細胞を得た。次いで、我々は、CD19+CD3-CD27+IgM-IgA-(IgG記憶細胞)またはCD19+CD3-CD27+IgG-IgA-(IgM記憶細胞)に対してこれらの細胞をFACSAria(Becton Dickinson)上でソートした。
扁桃腺B細胞のソーティング。我々は、Academic Medical Center、Amsterdam、The Netherlandsの耳鼻咽喉科学部門で実施された、常法による扁桃腺摘出から扁桃腺B細胞を得た。我々はフィコールによってB細胞を分離し、CD19+CD3-CD44-IgD-GC集団をソートした。この組織の使用については、該機関の医療倫理委員会の承認を受けた。
細胞培養。我々は、組換えマウスIL21(25ng ml-1、R&D systems)を補充した、8%FBS(Gibco)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Roche)を含有するIMDM(Gibco)培地中でB細胞(2xlO5細胞ml- 1)を維持し、CD40L(CD40L-L細胞、105細胞ml-1)を安定して発現する、γ線照射(50Gy)されたマウスL細胞繊維芽細胞上で該B細胞を共培養した。我々は、マイコプラズマおよびEBVの存在に関してPCRによって細胞を常法によって試験した。
レトロウイルスの形質導入。BCL6、ID2、およびID3のレトロウイルスコンストラクトが以前に記載されている(Shvarts, A.ら Genes Dev 16、681〜6(2002); Jaleco, A.C.ら Blood 94、2637〜46(1999); Spits H.ら J Exp Med 192、1775〜83(2000))。手短に言えば、我々は、形質導入された標的細胞において両遺伝子の生成物が独立して翻訳されることが可能である、下流の配列内リボソーム進入部位(IRES)に結合した目的遺伝子およびマーカー遺伝子を保有するバイシストロニックなベクターを構築した。ID3コード配列は、pCDNA-Id3プラスミド(C. Murre博士、University of California at San Diego、San Diego、CAからの贈与)からクローン化した。該生成物を、我々のプラスミドLZRS-リンカー-IRES-GFPおよび/またはYFPにあるポリリンカーのXho I部位とSnaBI部位との間に連結し、レトロウイルスベクターLZRS-Id3-IRES-GFPを得た。
ヒトID2のコード配列は、Not1を用いてpSG5-Id2ベクター(R.de Groot博士、University of Utrecht、Utrecht、Netherlandsからの贈与)から切り出し、我々のプラスミドLZRS-リンカー-IRES-GFPおよび/またはYFPにあるポリリンカーのNot1部位内に連結した。ヒトMCL-1(Maurer, U.ら Mol Cell 21、749〜760(2006))のリン酸化部位変異体(S159A)のコドン最適化配列は、GeneArt(Regensburg Germany)に注文し、LZRSレトロウイルスベクターにクローン化した。ヒトBcl-xL cDNAをLZRSレトロウイルスベクターにクローン化し、293Tベースの広宿主性レトロウイルスパッケージング細胞株、Phoenix(Kinsella, T.M.ら Hum Gene Ther 7、1405〜1413(1996))に形質移入した後に、ヘルパーフリー組換えレトロウイルスを産生させた。以前のように(Diehl, S.A.ら J Immunol 180、4805〜15(2008))、ヒト記憶B細胞をrmIL-21の存在下で36時間CD40L-L細胞上で活性化した後、それに様々なレトロウイルスを同時形質導入したが、さらに、細胞およびウイルスを、360×g(1800RPM)で60分間室温にて遠心分離した。
フローサイトメトリー。我々は、LSRII(BD)上で染色細胞を分析し、FlowJoソフトウェア(Tree Star)を用いてフローサイトメトリーデータを処理した。我々は、ヒト分子に対する次のmAbを、他に指示がない限り、BD-Pharmingenから購入した。CD3(SK7)、CD10(HI10a)、CD19(SJ25C1)、CD20(B9E9; Beckman Coulter)、CD21(B-Iy4)、CD22(B-ly8; IQ Products)、CD25(BC96; eBioscience)、CD27(O323; eBioscience)、CD30(BerH8)、CD38(HB7)、CD40(MAB89; Beckman Coulter)、CD70(Ki24)、CD71(YDJ1.2.2; Beckman Coulter)、CD80(L307.4)、CD86(2331)、CD95(DX2)、CD132(TUGh4)、CD184(CXCR4, 12G5)、CD271(LNGFR; ME20.4-1.H4; Miltenyi Biotech)、CD275(MIH12; eBioscience)、HLA-DR(L243)、IgA(F(ab)2; DAKO)、IgD(IA6-2)、IgG(G18-145)、IgM(G20-127)(BD)、IL-21R(152512; R&D systems)、Ig-kappa(F(ab)2; DAKO, G20-193)、およびIg-lambda(F(ab)2; JDC12, DAKO)。
RT-PCR。我々は、BioRad iCyclerを使用して定量的RT-PCRを実施し、2-(ΔΔCT)法を用いてACTINに対して標準化された相対的なmRNA発現レベルを計算した。AICDA(AIDをコードする)のためのプライマーが記載されている(Smit, L.A.ら Cancer Res 63、3894〜8(2003))。
ELISA。我々は、PBS中で5μg ml-1の抗ヒトIgG Fcフラグメント(Jackson ImmunoResearch Laboratories)を使用して、37℃または必要に応じて4℃で1時間プレートをコートし、ELISA洗浄緩衝液(PBS, 0.5% Tween-20)中でプレートを洗浄した。PBS中の4%ミルクをブロッキング剤として使用した後、我々は系列希釈の細胞培養上清およびHRPを結合した検出Ab(HRP結合IgG抗体(Jackson)に対する希釈1:2500)を添加した。我々はTMB基質溶液(Biosource)をELISAの展開のために使用した。
D25変異体のクローニングおよびシークエンシング。我々は、RNeasy(登録商標)ミニキット(Qiagen)を使用して全RNAを単離し、cDNAを生成させ、VH 1-69 PCRを実施してD25サブクローンの配列を決定した。興味深いクローン(#29、#59、#77、#189)から、重鎖可変領域をpCR2.1 TAクローニングベクター(Invitrogen)にクローン化した。逆転写酵素またはDNAポリメラーゼによる誘発突然変異を除外するために、我々は数回の独立したクローニング実験を実施した。組換えD25 mAbの産生のために、我々は、ヒトIgG1およびκ定常領域を有するフレーム内のD25変異重鎖可変領域およびオリジナル軽鎖可変領域をpcDNA3.1(Invitrogen)ベースベクターにクローン化し、一過性に293T細胞に形質移入した。さらにD25サブクローンのVL配列も決定したが、オリジナルD25軽鎖配列と比較して、いかなる変異も保有していなかった。我々はプロテインAを用いて培養上清から組換えD25を精製した。
[結果]
(BCL6およびBcl-xLを形質導入したヒト末梢記憶B細胞は、GC様B細胞に類似している)
我々は、BCL6およびBcl-xLの過剰発現(胚中心(GC)B細胞において発現し、STAT5の制御下にある(Scheeren, F.A.ら Nat Immunol 6、303〜13(2005);国際出願PCT/NL2008/050333号明細書))が相乗作用を示して、ヒト記憶B細胞のインビトロでの増殖および生存のポテンシャルが、放射線照射されたCD40L発現L細胞(CD40L-L細胞)上にてIL21の存在下で培養されるとき、増大することを示した。CD40L-L細胞上にてIL21の存在下で培養されるとき、正常ヒトB細胞は速やかに抗体産生形質細胞に分化し(Ettinger, R.ら J Immunol 175、7867〜79(2005))、それに伴って表面のBCRおよびMHCクラスIIの発現が減少し、かつCD38の発現が増加した(Liu, Y.J.およびArpin, C. Immunol Rev 156、111〜26(1997))。同じ培養における非形質導入細胞またはBcl-xLのみを発現する細胞とは対照的に、BCL6のみを発現する細胞およびBCL6+Bcl-xLを発現する細胞は両方とも、BCR発現を保持し、HLA-DRhighCD38intermediate(図1a)になり、BCL6がB細胞分化を阻害することが確認された(Scheeren, F.A.ら Nat Immunol 6、303〜13(2005); Diehl, S.A.ら J Immunol 180、4805〜15(2008))。
CD40LおよびIL21により増殖したBCL6+Bcl-xL陽性B細胞は、CD19、CD20、CD21およびCD22、活性化マーカーCD25、CD30、CD70、CD80、CD86、CD95、ICOSL、ならびにサイトカイン受容体CD132(γc)およびIL-21Rを発現する。この細胞は扁桃腺GC細胞と等価なレベルでCD38およびCD20を発現する。形質導入細胞上のCD27、CXCR4、CD71、CD10、およびHLA-DRの発現は、新たに単離した扁桃腺GC細胞と比較して、一貫して高く(図1a)、このことは細胞の活性化状態およびその増大した大きさによる可能性がある。
BCL6+Bcl-xL形質導入細胞は、新たに単離したGC B細胞による発現に匹敵するレベルでAICDA(酵素AIDをコードする)を発現した(図1b)。以下に示すように、増殖したB細胞のIg遺伝子中のSHMが誘導されたので、AIDはこれらの細胞において機能している。AIDは末梢血記憶細胞(図1b)または形質細胞(Muramatsu, M.ら J Biol Chem 274、18470〜6(1999))では発現されず、また形質導入細胞は典型的なGC細胞表面マーカーの発現を示したので、我々の結果は、CD40LおよびIL21シグナリングと組み合わさったBCL6およびBcl-xLの発現がヒトCD27+記憶B細胞にGC様の特徴を与えたことを実証する。
(抗RSV抗体D25およびD25変異体)
BCL6+Bcl-xL形質導入B細胞は比較的大量の抗体を分泌する。そのために、我々は特異抗体の分泌に基づいて抗原特異的B細胞を選択することができた。我々は病原性の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)を抗原性成分に選んだ。RSVは、1歳未満の幼児および小児の間の細気管支炎および肺炎の最も一般的な原因であり、また高齢者にとっての深刻な健康問題である(Thompson, W.W.ら JAMA 289、179〜86(2003); Hall CB.ら NEMJ 360、588〜599(2009))。健康的なドナーのBCL6+Bcl-xL形質導入記憶B細胞を、CD40L-L細胞およびIL21により増殖し、マイクロ中和実験(Johnson, S.ら J Infect Dis 180、35〜40(1999))においてRSV中和抗体の存在についてスクリーニングした。最も高い中和活性を有する抗体の1つ、D25を、限界希釈法によってクローニングし、さらに特徴づけした(国際出願PCT/NL2008/050333号明細書)。我々は、2.1ng ml-1の範囲においてRSV-A2ウイルスに対して最大活性の半分を阻害する濃度(IC50)を観察した。
我々は、D25細胞株におけるAIDの機能的活性を研究する前に、リアルタイムPCRによって23のモノクローナル細胞株におけるAICDA発現を分析した。これらの細胞株におけるAID発現は多様であった。いくつかのクローンは、GC扁桃腺B細胞と類似のレベルの発現を示したが、他のクローンではAICDAは低いものであった(図2b)。AIDがB細胞クローンにおいて機能的かどうか決定するために、我々は単一細胞ソーティングによりRSV特異的モノクローナルB細胞株D25をサブクローニングし、変異の存在についてそれらのVH遺伝子を分析した。1個の細胞がまかれたウェルの63パーセントが力強い増殖を示し、AIDの発現により増殖停止および細胞死をもたらす深刻な遺伝的不安定性が起きないことが示された。3週間後、108のサブクローンの培養上清を収集して、細胞からRNAを単離した。次いで、cDNAを生成させて、VH領域をシークエンシングした。配列分析により、合計184のVH変異(107のユニーク変異、図2a)が明らかになり、細胞分裂ごとにbp当たり8.85×10-5〜5.14×10-5変異の変異率の評価が得られた。この変異率はインビボで評価されたAID媒介変異率(10-5〜10-3)の下限に相当する(Peled, J.U.ら Annu Rev Immunol 26、481〜511(2008))。個々のサブクローンのVH遺伝子は、様々な数の変異を示し、65%のサブクローンはそのVH領域に1〜3個の変異(その23%はサイレント変異)を、11%のサブクローンは3個を超えるVH変異を保持していた。該クローンの24パーセントはVH変異を有していなかった(図2c)。D25の372塩基対のVH遺伝子は、全変異の30%を占める26個のAID突然変異ホットスポット(RGYW/WRCY)を含有している。変異は、CDR領域およびFR3に主として観察された(図2d)。
大多数のD25サブクローンの上清は、組換えD25と同様にRSV感染HEp2細胞に結合したが、これらのクローンの中には、D25より弱くまたは強くのいずれかで結合するものもあった(図2e)。結合活性の相違はVH領域の変異と関連していた。
(Bcl6+Bcl-xL形質導入B細胞におけるAID発現の調節)
いくつかの適用にとっては、AIDを阻害して、BCL6+Bcl-xL形質導入B細胞クローンのIg遺伝子中に突然変異が蓄積することを妨げることが望ましい。これを達成するために、我々は、塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス転写因子E47によってAIDが調節されるという事実を利用した(Sayegh, C.E.ら Nat Immunol 4、586〜93(2003))。我々は、転写的に不活性な複合体をE47と形成することが知られている、ヘリックス・ループ・ヘリックス因子のDNA結合の阻害剤であるID2およびID3を過剰発現させ、それによってAID発現を阻害した(Sayegh, C.E.ら Nat Immunol 4、586〜93(2003))。図3aに示すように、ID2およびID3の両方が過剰発現すると、D25細胞株におけるAICDAレベルが顕著に低下した。ID2が発現した場合は、該細胞株の増殖は低下したが、ID3の場合は低下しなかった(図3b)。AIDの過剰発現もまた、D25細胞の増殖能を低下させた。予想通りに、AIDの過剰発現はAIDの発現を顕著に増強した(図3a)。このように、ID2および/またはID3レベルの調節は、BCL6+Bcl-xL形質導入B細胞におけるAID誘発変異を調節する方法を提供する。
(D25の機能はAID活性によるアミノ酸置換によって変更する)
我々は、機能が変更したD25の新しいサブクローンを見出す可能性を考えた。しかしながら、その推定上のターゲットであるRSV融合(F)タンパク質に対するD25の親和性はすでに高く、D25は低濃度ですでにRSVを中和するので、D25自体より優れたクローンを見出すことは困難であった。それにもかかわらず、我々は、D25サブクローンのB細胞培養上清を、RSV感染HEp2細胞への結合について2回、PE標識D25との競合について1回試験した。これらの実験から様々な結果(データを示さず)が得られたが、各データセットからのトップ25の抗体すべてをVH配列と比較すると、ある極めて興味深いアミノ酸位置が現れた。いくつかのD25サブクローンが組換えタンパク質として産生された。その中でクローン59番の構成はオリジナルD25クローンとなお同じものであったが、77番は位置107に極めて典型的な変異(E107K)を含有しており、感染HEp2細胞に対する結合を消失した他のクローンもまた該変異を保持していたので、該変異はRSV感染HEp2細胞に対する結合を低下させるものと考えられる。さらに、クローン29番(S83Y/V111I/V112L)および189番(G63D/V111I/V112L)は、位置111および112での変異(V→IおよびV→L)を共に保持している。これら2つのクローンは、オリジナルD25抗体のRSV感染HEp2細胞への結合を用量依存的に置換するが(図4a)、一方で、D25自体および非結合性抗体はPE標識D25抗体を置換することができない。さらに、直接の競合でも、2つのクローン29番および189番は、再びオリジナル免疫グロブリンD25の結合を低下させる(図4b)。したがって、我々のBCL6+Bcl-xL B細胞株におけるAIDの発現によって、我々は、オリジナルB細胞内のインビトロ抗体親和性の成熟化を実行できる。
(抗アポトーシス遺伝子MCL-1単独またはBCL6および/もしくはBcl-xLと一緒の発現は、ヒトB細胞の生存および増殖を増強する)
単独のBCL6と一緒の、かつCD40LおよびIL21で共同刺激されたB細胞培養は、形質芽細胞への分化をブロックすることを示すが、生存と増殖の増強のためのシグナルを欠くため、我々は、Bcl-xLに加えてこの過程における抗アポトーシス分子MCL-1の役割も研究した。活性化されたCD19+CD27+IgM-IgA-記憶細胞が、(i)BCL6-GFPおよびMCL-1-NGFR、または(ii)BCL6-GFPおよびBcl-xL-NGFR、または(iii)BCL6-Bcl-xL-GFPおよびMCL-1-NGFRを形質導入した場合(図5)、該細胞はすべて生存が増強されることを示した。BCL6 MCL-1を含有する細胞は、BCL6およびBcl-xL、またはBCL6、Bcl-xL、およびMCL-1を含有する細胞と比較して、3倍遅く増殖した(図6、7および8)。Bcl-xLのように、MCL-1はBCL6の機能、すなわち形質芽細胞への分化のブロックを妨害せず、これらを同時形質導入された細胞は、実際にまだ胚中心表現型(CD20+CD38+)を保持し(図9A)、かつ表面発現免疫グロブリンをまだ発現している(図9B)。MCL1、BCL6、および/またはBcl-xL形質導入細胞のAIDの発現は、変化しないと予想される。
(Bcl6+Mcl-1形質導入B細胞におけるAID発現の調節)
BCL6+Bcl-xL形質導入B細胞クローンについて上記に示したように、ID2およびID3もまた、Bcl6+Mcl-1形質導入B細胞において過剰発現し、それによってAID発現が阻害される(Sayegh, C.E.ら Nat Immunol 4、586〜93(2003))。続いて、ID2およびID3の両方の過剰発現により、これらの細胞のAICDAレベルが低下することが、例えば定量的RT-PCRを用いて実証される。したがって、ID2および/またはID3のレベルを増加させることにより、BCL6+Mcl-1形質導入B細胞におけるAID誘導変異を妨げる方法が提供される。この手順は上記の「方法」の部に記載されている。
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Claims (9)

  1. 抗体産生形質芽細胞様B細胞における体細胞高頻度変異の発生を調節する方法であって、
    B細胞におけるBcl-6の発現を誘導、増強、および/または維持し、前記B細胞におけるBCL2ファミリーの遺伝子の発現を誘導、増強、および/または維持し、それにより抗体産生形質芽細胞様B細胞を生成させるステップを含み、
    AIDの発現および/または比活性を低下させることによって、前記B細胞における体細胞高頻度変異の発生を低下させるステップをさらに含む方法。
  2. 前記B細胞が、記憶B細胞である、請求項1に記載の方法。
  3. 記BCL2ファミリーの遺伝子が、Bcl-xLもしくはMcl-1、またはそれらの機能性部分であり、前記機能性部分が、抗アポトーシス特性を保持している、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記B細胞にIL21およびCD40Lを与えるステップをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
  5. AIDの発現が、前記B細胞におけるIDタンパク質の発現によって減少される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
  6. Bcl-6と、
    BCL2ファミリーの遺伝子と、
    IDタンパク質
    を発現する単離または組換え抗体産生B細胞。
  7. 前記BCL2ファミリーの遺伝子が、Bcl-xLおよびMcl-1ならびにBcl-xLの機能性部分およびMcl-1の機能性部分からなる群から選択される核酸を含み、前記機能性部分が、抗アポトーシス特性を保持している、請求項6に記載の単離または組換え抗体産生B細胞。
  8. 請求項1から5のいずれか一項に記載の方法によって得られる単離または組換え抗体産生形質芽細胞様B細胞。
  9. 抗体の大規模産生のための、AIDの発現および/または活性が低下し、それにより体細胞高頻度変異の発生が低下した抗体産生形質芽細胞様B細胞の使用。
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