可搬消防ポンプでは、エンジンの始動、吸水ポンプの運転、放水バルブの開放及び放水量を調整するためのエンジンのスロットル開度の調整の順序で運転操作を行うようにしている。例えば、可搬消防ポンプに設けられた操作パネルを用いて運転操作を行う場合には、次の手順により運転操作が行われる。
(1)キースイッチをオンにしてエンジンを始動する。
(2)スロットルダイヤルを最小開度位置(スロットル開度を最も絞った状態にする位置)から吸水位置(吸水時に適した位置)まで操作した後、吸水スイッチをオンにしてエンジンから吸水ポンプに動力を伝達する動力伝達機構をオンにし、エンジンの回転を吸水ポンプに伝達する。これにより吸水ポンプを回転させて放水ポンプへの吸水を行わせ、吸水が終了した後、放水に備えてスロットルダイヤルを最低位置に戻す。
(3)放水バルブを手動で開いて放水が可能な状態にする。
(4)スロットルダイヤルを回してスロットル開度を開くことによりエンジンの回転速度を上昇させ、放水ポンプから放水を行わせる。
上記のように、可搬消防ポンプにおいては、放水を開始する前に、エンジンを始動する操作と、エンジンの回転速度を上昇させて吸水ポンプを運転する操作と、吸水動作が完了した際にエンジンの回転速度を最低速度まで低下させる操作とを所定の順序で行う必要があるため、放水を開始するまでの作業を迅速に行うために熟練を要するという問題があった。
そこで、特許文献1に示された可搬消防ポンプでは、制御モード選択スイッチを設けて、このスイッチにより自動モードが選択された際に、エンジンの始動から吸水ポンプの運転までの操作を自動的に行わせることができるようにしている。しかしながら、制御モード選択スイッチにより制御モードを選択する方式を採用した場合には、エンジンを始動する前に制御モードを選択する操作を行う必要があるため、操作に手間取るおそれがあった。火災現場で可搬消防ポンプの立ち上げを迅速に行うためには、運転を開始する際の操作をできるだけ簡単にしておくことが望ましい。
また従来の可搬消防ポンプにおいては、始動スイッチ及び吸水スイッチがスロットルダイヤルから離れた位置に設けられていたため、始動スイッチ及び吸水スイッチを操作した後にスロットルダイヤルに手を持ち替える必要があり、操作が面倒であった。
また従来の可搬消防ポンプでは、放水圧を調整するためにスロットル開度を調整する際にスロットル開度を正確に把握する手段が設けられていなかったため、勘に頼ってスロットルダイヤルを操作する必要があり、放水圧力の調整に熟練を要するという問題があった。
本発明の目的は、運転開始時の操作の簡略化を図ることができるだけでなく、エンジンの始動から放水圧力の調整までの一連の操作を片手で行うことができるようにして操作性を向上させた可搬消防ポンプを提供することにある。
本発明の他の目的は、運転操作の簡略化を図り、操作性を向上させるとともに、放水圧力を調整する際にスロットル開度を目視で確認できるようにして、放水圧力の調整を容易に行い得るようにした可搬消防ポンプを提供することにある。
本発明は、エンジンと、エンジンにより駆動される放水ポンプと、エンジンからオンオフ制御が可能な動力伝達機構を介して動力が伝達されて放水ポンプのポンプケース内を水で満たすための吸水動作を行う吸水ポンプと、運転に必要な操作部材が設けられたポンプ側操作パネルと、操作部材の操作に応じてエンジン及び動力伝達機構を制御する制御部とを備えた可搬消防ポンプを対象とする。
本発明においては、ポンプ側操作パネルに設けられた操作部材が、エンジンを始動する際に押されるポンプ側始動ボタンと、吸水ポンプを始動する際に押されるポンプ側吸水ボタンと、放水時にエンジンのスロットル開度をマニュアル調整する際に回転操作されるスロットルダイヤルと、スロットル開度を一定角度ずつ増大させる際に操作される第1のポンプ側スロットル調整ボタンと、スロットル開度を一定開度ずつ減少させる際に操作される第2のポンプ側スロットル調整ボタンとを含み、ポンプ側吸水ボタン及びポンプ側始動ボタンが、スロットルダイヤルに片手を添えた状態で、該片手のいずれかの指を伸すことにより操作し得る位置に配置される。
また制御部は、ポンプ側吸水ボタンが押される前にポンプ側始動ボタンが押されたときにエンジンを始動するマニュアルモード時エンジン始動手段と、ポンプ側始動ボタンが押される前にポンプ側吸水ボタンが押されたときにエンジンを始動する自動モード時エンジン始動手段と、マニュアルモード時エンジン始動手段がエンジンを始動した状態でポンプ側吸水ボタンが押されたとき及び自動モード時エンジン始動手段がエンジンを始動したときにスロットル開度を吸水時の開度に自動調整する吸水時スロットル開度調整手段と、スロットル開度が吸水時の開度である状態でポンプケース内の水圧が設定値未満であるときに動力伝達機構をオン状態にして吸水ポンプに吸水動作を行わせ、ポンプケース内の水圧が設定値に達したときに動力伝達機構をオフ状態にした後エンジンのスロットル開度を最小開度位置に自動調整する吸水制御手段と、吸水制御手段による制御が完了している状態にあるときにマニュアル操作による放水時のスロットル開度の調整を可能にする放水時スロットル調整手段とを備えた構成とする。
上記のように構成すると、最初に始動ボタンを押した後、吸水ボタンを押すことにより、マニュアルモードで運転を開始することができ、最初に吸水ボタンを押すことにより、自動モードで運転を開始することができるため、制御モード選択スイッチを設けることなく、エンジンの始動と吸水ポンプの運転とを操作員の指示により順次行うマニュアルモードによる運転と、エンジンの始動及び吸水ポンプの運転を自動的に行わせる自動モードによる運転とを選択的に行わせることができる。このように構成しておくと、可搬消防ポンプを火災現場に搬送して吸水ホース及び放水ホースをセットした後、吸水ボタンを押すだけで、エンジンの始動から吸水動作の完了までの一連の動作を自動的に行わせることができるため、消防ポンプの運転を開始する際の操作を簡単にすることができ、慌ただしい火災現場で慌てることなく、消防ポンプを始動するための準備を行わせることができる。
また上記のように、ポンプ側吸水ボタン及びポンプ側始動ボタンを、スロットルダイヤルに添えた手のいずれかの指を伸すことにより操作し得る位置に配置しておくと、エンジンの始動から放水圧力の調整までの一連の操作をすべて片手で、手を持ち替えることなく行うことができる。複数の操作を手で行う場合に、一連の操作を両手に分担させて行うよりも、すべての操作を片手で行った方が操作性がよいことは、人間工学的に実証されている。
また本発明においては、ポンプ側操作パネルに、エンジンのスロットル開度を表示するバーグラフ式のスロットル開度表示部が設けられる。このバーグラフ式表示部としては、整列配置された多数の発光表示部を備えて、発光させる発光表示部の数によりスロットル開度を表示するようにしたものを用いるのが好ましい。
上記のように操作パネルにバーグラフ式のスロットル開度表示部を設けておくと、各瞬時におけるスロットル開度を視認して直感的に把握することができるため、放水圧を調整するためのエンジンのスロットル開度の微調整を、操作員の勘に頼ることなく正確に行うことができる。
また本発明においては、ポンプ側始動ボタン、ポンプ側吸水ボタン、第1のポンプ側スロットル調整ボタン及び第2のポンプ側スロットル調整ボタンとそれぞれ同一の機能を果たす遠隔操作用始動ボタン、遠隔操作用吸水ボタン、第1の遠隔操作用スロットル調整ボタン及び第2の遠隔操作用スロットル調整ボタンを有する遠隔操作パネルが設けられて、この遠隔操作パネルが可搬消防ポンプの制御部にケーブルを通して接続される。
この場合、制御部に設けられる放水時スロットル調整手段は、遠隔操作パネルが接続されていない状態で吸水制御手段による制御が完了したときに、スロットルダイヤルによるスロットル開度の調整を許可し、遠隔操作パネルが接続された状態で吸水制御手段による制御が完了したときには、スロットルダイヤルによるスロットル開度の調整を禁止して、第1及び第2のポンプ側スロットル調整ボタンによるスロットル開度の調整と、第1及び第2の遠隔操作用スロットル調整ボタンによるスロットル開度の調整とを許可するように構成される。また遠隔操作パネルにも、エンジンのスロットル開度を表示するバーグラフ式のスロットル開度表示部が設けられる。
上記のように遠隔操作パネルにポンプ側操作パネルに設ける押ボタンと同じ機能を果たす操作部材を設けておくと、遠隔操作用操作パネル側からも消防ポンプの操作を簡単に行うことができる。
本発明によれば、吸水ボタンを押すだけで、エンジンの始動から吸水動作の完了までの一連の動作を自動的に行わせることができるようにしたため、消防ポンプの運転を開始する際の操作を簡単にすることができ、慌ただしい火災現場で操作の手順を誤ったり、操作に手間取ったりすることなく、消防ポンプを始動するための準備を迅速に行わせることができる。
また吸水ボタンを最初に押すことにより自動モードで運転を開始することができ、最初に始動ボタンを押すことによりマニュアルモードで運転を開始することができるため、制御モード選択スイッチを省略して操作パネルの構成の簡素化を図ることができる。
また本発明では、ポンプ側吸水ボタン及びポンプ側始動ボタンをスロットルダイヤルに片手を添えた状態で、該片手のいずれかの指を伸すことにより操作し得る位置に配置したため、消防ポンプを始動させる際の操作をすべて片手で、手を持ち替えることなく、人間工学的的に好ましい形で行うことができ、操作性を向上させることができる。
また本発明においては、操作パネルにバーグラフ式のスロットル開度表示部を設けて、各瞬時におけるスロットル開度を視認して直感的に把握することができるようにしたので、放水圧を調整するためのエンジンのスロットル開度の微調整を容易に行うことができる。
以下図面を参照して、本発明の一実施形態を詳細に説明する。
図1及び図2は、本発明に係る可搬消防ポンプ1の外観を示したものである。これらの図において、2は可搬消防ポンプのフレームの四隅に設けられた持ち運び用のハンドルであり、図示の状態では各ハンドル2が折りたたまれている。可搬消防ポンプを持ち運ぶ際には、各ハンドル2を90度回動させて起すことにより水平方向に向けて、そのグリップ部2aを手で把持し得るようにする。可搬消防ポンプ1は、その下部に放水ポンプ3を備えている。放水ポンプ3は、ポンプ室3a内に羽根車を収容したタービン式ポンプからなっている。
図示してないが、可搬消防ポンプ1の上部には、放水ポンプ3を駆動するエンジンと、放水ポンプ3のポンプ室3a内を吸引してポンプ室3a内を水で満たす吸水ポンプとが設けられ、エンジンと吸水ポンプとを覆うように上部カバー4が取り付けられている。吸水ポンプはポンプ室3a内を真空引きする真空ポンプからなっていて、その駆動軸は、オンオフ制御が可能なクラッチ機構を備えた動力伝達機構を介してエンジンの出力軸に連結されている。
可搬消防ポンプ1の下部にはまたエンジンの燃料を貯留する燃料タンク11が設けられている。放水ポンプ3の吐出口に中心軸線を鉛直方向に向けた状態で配置された放水管5の下端が接続され、放水管5の上端に、操作ハンドル6aを備えた放水バルブ6が取り付けられている。放水バルブ6には、ジョイント部6bが設けられ、このジョイント部に図示しない放水ホースを接続するようになっている。
放水ポンプ3のポンプケース3aに設けられた吸水口に吸水管7の下端が接続され、吸水管7の上端には、消防ポンプを使用しないときにカバー7aで覆われるジョイント部が設けられている。消防ポンプを使用する際には、カバー7aを外して、吸水管7のジョイント部に図示しない吸水ホースの一端が接続され、吸水管の他端が水源に浸漬される。
可搬消防ポンプ1の上部カバー4の前面には、パネル800に必要な操作部材を取り付けたポンプ側操作パネル8が取り付けられている。図3に示されているように、本実施形態で用いるポンプ側操作パネル8は、エンジンを始動する際に押されるポンプ側始動ボタン801と、吸水ポンプを始動する際に押されるポンプ側吸水ボタン802と、エンジンのスロットルバルブを開く際及び絞る際にそれぞれ押される第1のポンプ側スロットル調整ボタン803及び第2のポンプ側スロットル調整ボタン804と、スロットルバルブを開く際及び絞る際にそれぞれ異なる方向に回転操作されるスロットルダイヤル805と、エンジンを停止する際に操作される停止スイッチ806と、照明灯を点灯及び消灯する際に操作される照明スイッチ807とを含む操作部材をパネル800に支持した構造を有する。図示の例では、停止スイッチ806及び照明スイッチ807が押しボタンスイッチからなっているが、これらのスイッチは他の形式のスイッチでもよい。また照明スイッチは、場合によっては省略することもできる。一連の操作部材を支持したパネル800は、台形状の板からなっていて、その平行な2辺の内の短い方の辺を下側に位置させた状態で配置されている。
本実施形態においては、スロットルダイヤル805と、ポンプ側始動ボタン801と、ポンプ側吸水ボタン802とを片手で操作することができるように、ポンプ側操作パネル8が構成されている。そのため、スロットルダイヤル805は操作パネル8の隅に配置され、ポンプ側吸水ボタン802及びポンプ側始動ボタン801は、運転員がスロットルダイヤル805に片手を添わせた状態で、その片手のいずれかの指を伸すことにより操作し得る位置に配置されている。
図示の例では、スロットルダイヤル805を右手で操作することを想定して、スロットルダイヤル805が操作パネル8の右下に配置され、スロットルダイヤル805の左斜め上に、スロットルダイヤル805に隣接させた状態でポンプ側吸水ダイヤル802が配置されている。またスロットルダイヤル805の左斜下の側方に、スロットルダイヤル805との間に所定の距離を隔てた状態で、ポンプ側始動ボタン801が配置されている。本実施形態では、運転員が右手の指をスロットルダイヤル805に添わせた状態で、伸ばした右手の人差し指によりポンプ側吸水ボタン802を押すことができるように、ポンプ側吸水ボタン802の配設位置が設定され、右手の指をスロットルダイヤル805に添わせた状態で、伸ばした右手の親指でポンプ側始動ボタン801を押すことができるように、ポンプ側始動ボタン801の配設位置が設定されている。停止ボタン806及び照明ボタン807は、操作パネル8の上部の左端寄りに、横方向に並べて配置されている。
ポンプ側操作パネル8にはまた、エンジンの各瞬時におけるスロットル開度を表示するバーグラフ式のスロットル開度表示部809が設けられている。スロットル開度表示部809は、ポンプ側始動ボタン801の左側方からポンプ側吸水ボタン802の上方にかけてのびる円弧に沿って整列配置された多数の発光表示部809aを備えて、発光させる発光表示部の数によりスロットル開度を表示するように構成されている。各発光表示部は例えばLEDにより構成されている。
図1及び図2には図示してないが、可搬消防ポンプ1の上部カバー4の内側には、ポンプ側操作パネル8に設けられた始動ボタン801,吸水ボタン802、第1及び第2のポンプ側スロットル調整ボタン803及び804、スロットルダイヤル805等の操作部材の操作に応じてエンジン及び動力伝達機構を制御する制御部が設けられ、操作パネル8に設けられた各操作部材を操作した際に発生する操作指令が制御部に与えられるようになっている。
スロットルダイヤル805は、操作パネル8に回転自在に支持され、スロットルダイヤル805の回転軸には、その回転角度(回転操作量)を検出する位置センサが取り付けられている。この位置センサとしては、ポテンショメータ等のアナログ式の位置センサや、スロットルダイヤルが微小角度回転する毎にパルスを発生するデジタルエンコーダ等を用いることができる。上記位置センサが出力する位置検出信号は、スロットルダイヤル805の操作量の情報を含む信号である。位置センサが出力する位置検出信号は、エンジン及び動力伝達機構を制御する制御部に、エンジンのスロットル開度の指示値を与える信号として与えられている。
放水ポンプ3を駆動するエンジンには、サーボモータ等を駆動源としたアクチュエータによりスロットルバルブを操作するスロットル操作装置が取り付けられている。上記制御部は、エンジンの始動と吸水ポンプによる吸水動作とを自動的に行う自動モードでエンジン及び吸水ポンプを制御する際にスロットルダイヤル805の操作を有効として(スロットルダイヤル805の操作量を検出する位置センサの出力信号を読み込んで)、上記位置センサが出力する信号に応じてスロットル操作装置を制御することにより、エンジンのスロットルバルブの開度(スロットル開度)をスロットルダイヤル805の回転操作量に対応した量だけ変化させる。
上記制御部はまた、エンジンの始動と吸水ポンプによる吸水動作とをマニュアルモードで行わせる際に、スロットルダイヤル805の操作を無効として(スロットルダイヤル805の操作量を検出する位置センサの出力信号を無視して)、第1のポンプ側スロットル調整ボタン803が1回押される毎にスロットルバルブの開度を所定量ずつ増大させ、第2のポンプ側スロットル調整ボタン804が1回押される毎にスロットルバルブの開度を所定量ずつ減少させる。なお第1及び第2のポンプ側スロットル調整ボタン803及び804が同時に押された際にはスロットルバルブの開度を変化させないようになっている。
本実施形態においてはまた、可搬消防ポンプ1を遠隔操作することを可能にするために、複数の遠隔操作パネルを可搬消防ポンプ1に接続することができるようになっている。本実施形態では、図4に示すように、3個の遠隔操作パネル9A〜9Cが設けられていて、一つの遠隔操作パネル9Aがケーブル10Aを通して可搬消防ポンプ1の制御部に接続され、遠隔操作パネル9Bがケーブル10Bを通して遠隔操作パネル9Aに接続されている。また他の一つの遠隔操作パネル9Cがケーブル10Cを通して遠隔操作パネル9Bに接続され、可搬消防ポンプ1に設けられた制御部と遠隔操作パネル9A〜9Cのそれぞれとの間で必要な信号のやりとりを行うことができるようになっている。
各遠隔操作パネルは、長方形状のパネル900に、必要な操作部材と表示部とを取り付けた構造を有する。本実施形態では、各遠隔操作パネルのパネル900に、ポンプ側操作パネル8に設けられた第1のポンプ側スロットル調整ボタン803及び第2のポンプ側スロットル調整ボタンとそれぞれ同一の機能を果たす第1の遠隔操作用スロットル調整ボタン903及び第2の遠隔操作用スロットル調整ボタン904と、ポンプ側吸水ボタン802と同じ機能を果たす遠隔操作用吸水ボタン902と、ポンプ側始動ボタン801と同じ機能を果たす遠隔操作用始動ボタン901と、ポンプ側停止スイッチ806と同様の機能を果たす遠隔操作用停止スイッチ906とを含む操作部材が取り付けられていて、これらの操作部材を操作することによっても、ポンプ側操作パネル8に設けられた操作部材により操作する場合と同様の操作を行うことができるようになっている。操作性を向上させるため、第1及び第2の遠隔操作用スロットル調整ボタン903及び904と、遠隔操作用吸水ボタン902と、遠隔操作用始動ボタン901とは、片手のいずれかの指で操作し得る位置にまとめて配置されている。
各遠隔操作パネルにはまた、エンジンの各瞬時におけるスロットル開度を表示する遠隔操作パネル側スロットル開度表示部909が更に設けられている。遠隔操作パネル側スロットル開度表示部909は、ポンプ側スロットル開度表示部809と同様に、整列配置された多数の発光表示部909aを備えて、発光させる発光表示部の数によりスロットル開度を表示するバーグラフ式の表示部からなっている。
図示の例では、各遠隔操作パネルの中央に遠隔操作パネル側スロットル開度表示部909が配置され、各遠隔操作パネルの右端に第1及び第2の遠隔操作用スロットル調整ボタン903及び904が上下に並べて配置されている。また第1の遠隔操作用スロットル調整ボタン903の左側方に遠隔操作用吸水ボタン902が配置され、遠隔操作用吸水ボタン902の下方に遠隔操作用始動ボタン901が配置されている。更に、遠隔操作パネル側スロットル開度表示部909の左側の下部に遠隔操作用停止スイッチ906が設けられ、第2の遠隔操作用スロットル調整ボタン904の下方に照明ボタン907が配置されている。遠隔操作パネル9A〜9Cは、可搬消防ポンプを積載する積載車の内部や両サイドに取り付けられて、可搬消防ポンプの遠隔操作を可能にする。
図6を参照すると、可搬消防ポンプ1の上カバー4の内側に配置された制御部の構成例が示されている。図6においては、放水ポンプ3を駆動するエンジンが符号20で示されている。また放水ポンプ3に吸水を行う吸水ポンプが符号21で示され、エンジン20の出力軸と吸水ポンプ21の駆動軸との間に設けられる動力伝達機構が符号22で示されている。エンジン20には、サーボモータやパルスモータなどからなるスロットル操作用アクチュエータを用いてスロットルバルブを操作するスロットル操作装置23と、スタータモータを備えたエンジン始動装置24と、スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ25と、エンジン20の回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段26とが取り付けられている。
放水ポンプ3には、そのポンプケース3a内の圧力(水圧)を検出する水圧センサ27が取り付けられている。スロットル開度センサ25は、スロットルバルブの操作軸の回転変位量を検出するポテンショメータなどの変位センサにより構成され、水圧センサ27は、放水ポンプのポンプケース3a内が水で満たされて、ポンプケース3a内の圧力が設定値に達したときに状態が変化する圧力検出スイッチからなっている。
スロットル開度センサ25の出力は操作パネル8及び9にそれぞれ設けられたポンプ側スロットル開度表示部809及び遠隔操作パネル側スロットル開度表示部909に表示動作を行わせる表示部駆動回路28に与えられている。表示部駆動回路28はケーブル10,10A〜10Cを通してポンプ側操作パネル8及び遠隔操作パネル9A〜9Cに接続されていて、スロットル開度センサ25により検出されているエンジンのスロットル開度をポンプ側操作パネル8のスロットル開度表示部809及び遠隔操作パネル9A〜9Cのスロットル開度表示部909に同時に表示させる。
図6においては、ポンプ側操作パネル8及び遠隔操作パネル9A〜9Cに設けられた操作部材の操作に応じてエンジン20及び動力伝達機構22を制御する制御部が符号30で示されている。図示の制御部30は、マニュアルモード時エンジン始動手段31と、自動モード時エンジン始動手段32と、吸水時スロットル開度調整手段33と、吸水制御手段34と、放水時スロットル調整手段35とにより構成されている。これらの手段は、制御部30に設けられたマイクロプロセッサに所定のプログラムを実行させることにより実現される。
更に詳細に説明すると、マニュアルモード時エンジン始動手段31は、エンジンの始動と吸水ポンプの運転とを運転員の指示により行うマニュアルモードで可搬消防ポンプの運転を開始する際にエンジンを始動する手段で、ポンプ側吸水ボタン802(又は遠隔操作用吸水ボタン902)が押される前にポンプ側始動ボタン801(又は遠隔操作用始動ボタン901)が押されたときに、エンジン始動装置24を動作させてエンジン20を始動するように構成される。エンジンの始動は、エンジン始動装置24のスタータモータを駆動してエンジンのクランキングを開始した後、エンジン回転速度検出手段26により検出されるエンジンの回転速度が始動完了時の速度に達した時にスタータモータを停止させることにより行う。
自動モード時エンジン始動手段32は、エンジンの始動から吸水ポンプの運転までの過程を自動的に行わせる際にエンジンを始動する手段で、ポンプ側始動ボタン801(又は遠隔操作用始動ボタン901)が押される前にポンプ側吸水ボタン802(又は遠隔操作用吸水ボタン902)が押されたときにエンジンを始動する。
吸水時スロットル開度調整手段33は、吸水動作に備えてエンジンのスロットル開度を吸水時に適したスロットル開度(吸水ポンプを運転するのに適した回転速度でエンジンを回転させるために必要なスロットル開度)に自動的に調整する手段で、マニュアルモード時エンジン始動手段31がエンジンを始動した状態でポンプ側吸水ボタン802(又は遠隔操作用吸水ボタン902)が押されたとき、及び自動モード時エンジン始動手段32がエンジンを始動したときにエンジンのスロットル開度を吸水時の開度に自動調整する。スロットル開度の自動調整は、スロットル開度センサ25により検出されるスロットル開度を目標開度(この場合は吸水時の開度)に一致させるように、スロットル操作装置23に設けられているスロットル操作用のアクチュエータを制御することにより行う。
吸水制御手段34は、放水ポンプ3のポンプケース内を水で満たすための吸水動作を自動的に行わせる手段で、この手段は、スロットル開度が吸水時の開度である状態でポンプケース内の水圧が設定値未満であるときに動力伝達機構22をオン状態にして吸水ポンプ21に吸水動作を行わせ、ポンプケース内の水圧が設定値に達したときに動力伝達機構22をオフ状態にした後エンジンのスロットル開度を最小開度位置に自動調整する。
放水時スロットル調整手段35は、吸水制御が完了した後、エンジンにより放水ポンプを駆動して放水動作を行わせる際に、放水圧力を調整するためのエンジンのスロットル開度の調整を行わせる手段である。この手段は、吸水制御手段34による制御が完了している状態にあるときに、スロットルダイヤル805による(マニュアル操作による)放水時のスロットル開度の調整を許可して、スロットルダイヤル805によるスロットル開度の調整を可能にする。マニュアル操作によるスロットル開度の調整は、スロットル開度センサ25により検出されるスロットル開度を、スロットルダイヤル805の回転操作量に相当するスロットル開度の目標値に一致させるように、スロットル操作装置23に設けられているスロットル操作用のアクチュエータを制御することにより行う。
本実施形態では、ポンプ側操作パネル8にスロットル開度表示部809が設けられているため、操作員は、スロットルダイヤル805を操作しながら表示部809を目視することにより、各瞬時におけるスロットル開度を把握することができ、操作員の経験から現場の状況に適した放水時のスロットル開度が予測できる場合には、スロットル開度をその開度に迅速に合わせることができる。従ってスロットルダイヤルによるスロットル開度の調整を迅速かつ適確に行わせることができる。
本実施形態では、可搬消防ポンプに設けられている制御部に、必要に応じて、ポンプ側始動ボタン801、ポンプ側吸水ボタン802、第1のポンプ側スロットル調整ボタン803及び第2のポンプ側スロットル調整ボタン804とそれぞれ同一の機能を果たす遠隔操作用始動ボタン901、遠隔操作用吸水ボタン902、第1の遠隔操作用スロットル調整ボタン903及び第2の遠隔操作用スロットル調整ボタン904を備えた遠隔操作パネル9を接続することができるようになっている。そして、可搬消防ポンプ1に搭載される制御部30に設けられる放水時スロットル調整手段35は、遠隔操作パネル9が接続されていない状態で吸水制御手段34による制御が完了したときに、スロットルダイヤル805によるスロットル開度の調整を許可し、遠隔操作パネル9が接続された状態で吸水制御手段34による制御が完了したときには、スロットルダイヤル805によるスロットル開度の調整を禁止して、第1及び第2のポンプ側スロットル調整ボタン803及び804によるスロットル開度の調整と、第1及び第2の遠隔操作用スロットル調整ボタン903及び904によるスロットル開度の調整とを許可するように構成されている。
従って、遠隔操作パネルを接続せずに、可搬消防ポンプ単体で消防活動を行う場合には、放水時にスロットルダイヤル805を用いてスロットル開度の調整を行う。また遠隔操作パネルが接続されている場合には、ポンプ側操作パネル8に設けられているスロットル調整ボタン803及び804又は遠隔操作パネル9A〜9Cに設けられているスロットル調整ボタン903及び904を操作することにより、放水時のスロットル開度の調整を行う。ポンプ側操作パネル及び遠隔操作パネルにはそれぞれスロットル開度表示部809及び909が設けられているため、ポンプ側操作パネル8に設けられているスロットル調整ボタン803及び804又は遠隔操作パネル9A〜9Cに設けられているスロットル調整ボタン903及び904によるスロットル開度の調整も適確かつ迅速に行うことができる。
図6に示した制御部30を構成するために、マイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムの一例を図7に示した。図7に示した処理は微小な時間間隔で繰り返し行われる。この処理が開始されると、先ずステップS01でポンプ側始動ボタン801及び遠隔操作用始動ボタン901のいずれかが押されているか否か(ON状態であるか否か)を判定する。その結果、ポンプ側始動ボタン801又は遠隔操作用始動ボタン901が押されていると判定された場合には、ステップS02で、エンジン回転速度検出手段26により検出されているエンジンの回転速度から、エンジンが回転しているか否かを判定する。その結果エンジンが始動してないと判定された場合には、ステップS03においてエンジンを始動する処理を行わせた後ステップS04に進む。ステップS02でエンジンが回転していると判定されたときには、ステップS03を行わずにステップS04に進む。
ステップS04においては、ポンプ側吸水ボタン802及び遠隔操作用吸水ボタン902のいずれかが押されているか否か(ON状態であるか否か)を判定する。その結果、ポンプ側吸水ボタン802又は遠隔操作用吸水ボタン902が押されていると判定されたときにはステップS05に進み、スロットル開度が吸水時の開度であるか否かを判定する。その結果、スロットル開度が吸水時の開度であると判定された場合には、ステップS06に進んでスロットル開度を吸水時の開度に調整する。
ステップS06でスロットル開度を吸水時に適した開度に調整した後、ステップS07に進んで、動力伝達機構22をオン状態にすることにより吸水ポンプ21を運転する。吸水ポンプを駆動した後ステップS08で、水圧センサ27により検出される放水ポンプのポンプケース内の圧力が設定値に達しているか否か(水圧スイッチがON状態にあるか否か)を判定し、ポンプケース内の圧力が設定値に達していないときには吸水ポンプの運転を継続する。ステップS08でポンプケース内の圧力が設定値に達していると判定されたときにステップS09に進んで動力伝達機構22をオフ状態にすることにより吸水ポンプを停止させる。ステップS07ないしS09により、自動吸水制御が行われる。
自動吸水制御を行った後、ステップS10でスロットル開度を最小開度(アイドリング時の開度)に自動調整し、次いでステップS11に進んで制御モードを放水時スロットル開度調整モードとする。この制御モードでは、遠隔操作パネルが接続されているか否かに応じて、スロットルダイヤル805によるスロットル開度の調整を可能にするか、又はスロットル調整ボタン803,804若しくは903,904によるスロットル開度の調整を可能にする。即ち、遠隔操作パネル9Aないし9Cが接続されていない状態で自動吸水制御が完了したときには、ポンプ側スロットル調整ボタン803,804によるスロットル開度の調整及び遠隔調整用スロットル調整ボタン903,904によるスロットル開度の調整を禁止して、スロットルダイヤル805によるスロットル開度の調整を許可し、遠隔操作パネル9Aないし9Cが接続されている場合には、自動吸水制御が完了したときに、スロットルダイヤル805によるスロットル開度の調整を禁止して、第1及び第2のポンプ側スロットル調整ボタン803及び804によるスロットル開度の調整と、第1及び第2の遠隔操作用スロットル調整ボタン903及び904によるスロットル開度の調整とを許可する。なおこの場合、第1及び第2のポンプ側スロットル調整ボタン803及び804と、第1及び第2の遠隔操作用スロットル調整ボタン903及び904とが同時に操作されたときには、いずれか一方、例えば第1及び第2のポンプ側スロットル調整ボタン803及び804の操作を優先するようにしておく。
図7に示した処理において、ステップS01でポンプ側始動ボタン801及び遠隔操作用始動ボタン901の何れもがONでないと判定されたときには、ステップS12に進んでポンプ側吸水ボタン802及び遠隔操作用吸水ボタン902のいずれかが押されているか否か(ON状態にあるか否か)を判定する。その結果、ポンプ側吸水ボタン802及び遠隔操作用吸水ボタン902のいずれもが押されていないと判定された場合には、ステップS01に戻り、ポンプ側吸水ボタン802及び遠隔操作用吸水ボタン902のいずれかが押されていると判定された場合には、ステップS13に進んでエンジンが回転しているか否かを判定し、その結果、エンジンが回転していないと判定されたときにはステップS14に進んでエンジンを始動する処理を行った後、前述のステップS05に進む。
図7に示したアルゴリズムによる場合には、ステップS01ないしS03によりマニュアルモード時エンジン始動手段31が構成され、ステップS12ないしS14により自動モード時エンジン始動手段32が構成される。またステップS04ないしS06により、吸水時スロットル開度調整手段33が構成され、ステップS07ないしS10により、吸水制御手段34が構成される。更にステップS11により、放水時スロットル調整手段35が構成される。
上記の実施形態においては、放水時にスロットルダイヤル805によるスロットル開度の調整を許可する際に、ポンプ側スロットル調整ボタン803,804及び遠隔操作用スロットル調整ボタン903,904の操作を禁止する(無効とする)ようにしたが、スロットルダイヤル805とポンプ側スロットル調整ボタン803,804及び(又は)遠隔操作用スロットル調整ボタン903,904とが同時に操作された際には、一番最初に操作された操作部材の操作を優先するようにするように構成することもできる。例えば、スロットルダイヤル805が先に操作されている場合には、後からポンプ側スロットル調整ボタン803,804及び(又は)遠隔操作用スロットル調整ボタン903,904を操作してもその操作は無効となるようにし、ポンプ側スロットル調整ボタン803,804及び(又は)遠隔操作用スロットル調整ボタン903,904が先に操作された場合には、後からスロットルダイヤル805を操作してもその操作を無効とするように構成してもよい。
上記の実施形態では、遠隔操作パネルにスロットルダイヤルを設けていないが、遠隔操作パネルにもスロットルダイヤルを設けることもできる。ポンプ側操作パネル及び遠隔操作パネルの双方にスロットルダイヤルを設ける場合には、ポンプ側操作パネルに設けるスロットルダイヤルと遠隔操作パネルに設けるスロットルダイヤルとを連動させるように(各スロットルダイヤルが発生するスロットル開度の目標値が常に同じになるように)しておく必要がある。
上記の実施形態では,スロットル開度を表示するバーグラフ式のスロットル開度表示部809,909として、整列配置された多数の発光表示部を有して、発光している発光表示部の数によりスロットル開度を表示するようにしたものを用いたが、バーグラフ式のスロットル開度表示部の構成は上記したものに限定されない。例えば、整列配置された多数の表示窓又は細長い一つの表示窓を有する表示板の裏側に彩色された部分を有する可動板を配置して、スロットル開度の変化に伴って該可動板を動かすことにより、可動板の彩色された部分を覗き見ることができる表示窓の数、又は表示窓を通して目視し得る彩色された部分の長さを変化させることにより、スロットル開度を表示するようにした機械式のバーグラフ式表示器を用いることもできる。