以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明の要旨を超えない限りこれらの内容に限定はされない。
本実施形態の太陽電池モジュールは、第1の透明電極と、第2の透明電極と、第1の透明電極と第2の透明電極との間に位置する活性層と、を備える太陽電池モジュールである。この活性層は、有機化合物を含む有機活性層であることが好ましい。また、本実施形態の太陽電池モジュールは、活性層より第2の透明電極側に、粒子が内部に分散されてなる拡散反射層を備える。本実施形態の太陽電池モジュールにおいては、第1の透明電極が太陽電池モジュールの受光面側である。
<太陽電池モジュール>
図1は本発明の一実施形態としての太陽電池モジュールの構成を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の太陽電池モジュール109は、第1の透明電極101と、活性層103と、第2の透明電極105と、拡散反射層106と、をこの順に備える。そして、第1の透明電極101が形成された側(図中下方)から光が照射されると、発電が行われる。
本実施形態の太陽電池モジュール109はさらに、基板100と、バッファ層(正孔取り出し層)102と、バッファ層(電子取り出し層)104と、基板107とを備えてもよい。また本実施形態の太陽電池モジュール109はさらに、基板100と基板107の縁部をシールするシール材108を備えてもよい。すなわち、図1に示される本発明の好適な実施形態に係る太陽電池モジュール109は、基板100と、第1の透明電極101と、バッファ層(正孔取り出し層)102と、活性層103と、バッファ層(電子取り出し層)104と、第2の透明電極105と、拡散反射層106と、基板107と、をこの順に備える。
別の実施形態に係る太陽電池モジュールは、これらの層に加えて、他の層を有していてもよい。また、上述の層の全てが必要なわけではなく、例えば電子取り出し層102と正孔取り出し層104との少なくとも一方は存在しなくてもよい。また、電子取り出し層102と正孔取り出し層104とは逆に配置されていてもよい。正孔取り出し層102に隣接する第1の透明電極101は正孔の捕集に適した電極(以下、アノードと記載する場合もある)であることが好ましい。また、電子取り出し層104に隣接する第2の透明電極105は、電子の捕集に適した電極(以下、カソードと記載する場合もある)であることが好ましい。したがって、電子取り出し層102と正孔取り出し層104とが逆に配置される場合、第1の透明電極101と第2の透明電極105も逆に配置されることが好ましい。
以下の説明において、第1の透明電極101と、バッファ層102と、活性層103と、バッファ層104と、第2の透明電極105とを、まとめて太陽電池素子110と呼ぶ。しかしながらこのことは、太陽電池素子110と拡散反射層106とが別個のものであることを意味するわけではなく、むしろ拡散反射層106は太陽電池素子110に組み込まれていてもよい。
図1に示される実施形態において、第2の透明電極105は、拡散反射層106の少なくとも一部と活性層103とに挟まれている。より具体的には拡散反射層106は、活性層103とは反対側の、第2の透明電極105の面に隣接して配置されている。このような構成は、第1の透明電極101、活性層103、及び第2の透明電極105を透過した光が、活性層103に向けて反射されうる点で好ましい。しかしながら、太陽電池モジュール109に入射した光が、拡散反射層106によって活性層103へと反射されるように配置されているのであれば、拡散反射層106はどのように配置されていてもよい。このような構成によれば、太陽電池モジュール109に入射した光を、活性層103がより有効に活用することができる。そもそも拡散反射層106は、以下で説明する構成を有するのであれば層状である必要はなく、ブロック状の構造を有していてもよい。
特に、太陽電池モジュール109に入射しかつ活性層103を透過した光が、拡散反射層106によって活性層103へと反射されるように配置されていることが好ましい。このような構成によれば、反射された光が活性層103内において光の干渉を引き起こすことが防止されうる。
例えば、活性層103の面に水平な方向に、活性層103と並んで、拡散反射層106と同様の構成を有する拡散反射部材が配置されていてもよい。図1の例によれば、太陽電池素子110とシール材108との間に、拡散反射部材が配置されていてもよい。このような構成によれば、太陽電池素子110に入射して太陽電池素子110の側面に達した光が、活性層103に向けて反射されうる。このような本発明の別の実施形態においては、電極105は必ずしも透明電極である必要はない。また、拡散反射層106は例えば、基板107よりも外側に、すなわち基板107に対して受光面とは反対側に、配置されていてもよい。
さらには、拡散反射層106が、太陽電池素子110を覆うように配置されていてもよい。すなわち、図1に示される拡散反射層106の位置に加えて、太陽電池素子110とシール材108との間にも、拡散反射層106が配置されてもよい。このような場合においても、第2の透明電極105は、拡散反射層106の少なくとも一部と活性層103とに挟まれることとなる。好適な実施形態においては、第1の透明電極101、第2の透明電極105、及び活性層103の、受光面に垂直な側面は、拡散反射層106によって覆われる。特に好適な実施形態においては、太陽電池素子110の受光面(図1の例では、第1の透明電極101の受光面)以外の部分は拡散反射層106によって覆われる。このような構成によれば、太陽電池素子110に入射して太陽電池素子110の側面に達した光、及び太陽電池素子110に入射して第2の透明電極105を透過した光の双方が、活性層103に向けて反射されうる。
拡散反射層106は独立の部材である必要はなく、他の要素に組み込まれていてもよい。例えば、基板107が拡散反射層の機能を有してもよい。同様に、シール材108が拡散反射層の機能を有してもよい。さらには、バッファ層104又は第2の透明電極105が拡散反射層の機能を有してもよい。このように拡散反射層が、活性層103に対して、受光面の反対側に配置されている場合、太陽電池モジュール109に入射した光を活性層103に向けて反射するという機能が発揮されうる。この場合基板107などの拡散反射層の機能を有する層は、後述する拡散反射層と同様に、粒子が分散されている構成を有すればよい。
図1に示される太陽電池モジュール109の構成は一例にすぎず、他の構成を有する太陽電池モジュールに対しても本発明の構成を適用しうる。例えば、太陽電池モジュールの層構成及び層材料については、特開2011−046697号公報、特開2004−165512号公報、特開2004−165513号公報及び特開2010−87339号公報等の公知文献の記載内容を、適宜採用することができる。
また、太陽電池素子110は、第1及び第2の透明電極間に2以上の活性層を有するタンデム型太陽電池素子であってもよい。この場合活性層103は、2層以上の活性層と、それぞれの活性層間に配置された再結合層と、を備える。再結合層とは、2層以上の活性層を分離すると同時に、それぞれの活性層で生じた正孔及び電子が再結合する層のことである。再結合層の材料としては、このような性能を有すれば特段の制限はないが、例えば、ITO、酸化モリブデン等の金属酸化物層;電子受容性の有機物、金属又は金属酸化物などをドーピングしたp型半導体化合物層と、電子供与性の有機物、金属及び金属酸化物などをドーピングしたn型半導体化合物層との接合層;並びにこれらの組み合わせからなる層などが挙げられる。
再結合層の膜厚は、上記の性能を有すれば特段の制限はなく、通常0.5nm以上、好ましくは5nm以上であり、一方、通常300nm以下であり、好ましくは200nm以下である。再結合層の膜厚を上記範囲とすることにより、透光性を保ちつつ、電気を流す能力を発揮することができる。
<1.拡散反射層106>
拡散反射層106は、粒子が内部に分散されている層である。拡散反射層106は、入射した光を拡散反射しうる。本実施形態においては、第1の透明電極101から入射し、活性層103で吸収されなかった入射光が、拡散反射層106へと入射しうる。拡散反射層106は、入射した光を、活性層103に向けて拡散反射することができる。拡散反射層106の内部には粒子が分散されているため、拡散反射層106に入射した光はそれぞれの粒子によって様々な方向へと反射されうる。このため拡散反射層106により、入射した光は様々な方向へと反射され、すなわち拡散反射される。
光が鏡面反射する場合、入射した光と反射した光との間で干渉が起こりうる。このため、例えば拡散反射層106の代わりに鏡面層を設けた場合、鏡面層に入射した光は活性層103に向けて反射されるかもしれないが、光の干渉のために活性層103に吸収される光が少なくなることが考えられる。活性層103における光の干渉を低減するために、活性層の膜厚を変えること、及び光学スペーサー(バッファ層と呼ぶこともある)を導入することが考えられる。しかしながらこれらの場合直列抵抗が高くなるため、フィルファクター(FF)が下がり変換効率が向上しないことが考えられる。
拡散反射層106を備える本実施形態においては、拡散反射層106に入射する光と、拡散反射層106によって反射された光とが、干渉を起こしにくい。このため、活性層103による光の吸収効率が向上するため、光学スペーサーを導入することなく、高い短絡電流密度(Jsc)が得られうる。このように本実施形態においては、高い短絡電流密度(Jsc)と高いフィルファクター(FF)とが両立されうる。
また、鏡面層を有する構成において、垂直に光が入射した場合に活性層における光の干渉が少なくなるように光学スペーサーの厚さが調節されているとしても、斜めに光が入射すると活性層における光の干渉が増えてしまうことが考えられる。このように、斜めに光が入射すると、短絡電流密度(Jsc)が下がる可能性がある。一方で拡散反射層106を備える本実施形態においては、光は拡散反射されるために、光の入射角度が変わっても活性層103における光の干渉の程度はあまり変化しない。したがって、入射角度に対するJscの変化は小さくなりうる。
このように本実施形態においては、活性層103における干渉の影響を低減できる。このことは、非常に薄い活性層を有する、有機薄膜太陽電池において特に有利である。さらにこの本実施形態の利点は、高い効率を得るために光学設計が非常に重要となる、いわゆるタンデム型太陽電池素子で特に顕著に現れると考えられる。
拡散反射層106の反射率は400nm〜800nmの範囲で通常60%以上、好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上である。上限に特段の制限はない。反射率が高いことは、短絡電流密度(Jsc)を有効に上げることが可能となる点で好ましい。
拡散反射層106の膜厚は、上記の性能を有すれば特段の制限はなく、通常10μm以上、好ましくは200μm以上であり、一方、通常1cm以下であり、好ましくは3mm以下である。拡散反射層106が厚すぎないことにより、太陽電池モジュール109をより薄くすることができる。一方で拡散反射層106が薄すぎないことにより、光の拡散反射率が向上しうる。ここでいう拡散反射率とは、入射光強度に対する、反射層で反射された全光束の強度を積分して得られる強度のことである。拡散反射層は積分球を備えた分光光度計、例えば日立 U4000分光光度計などで測定することができる。拡散反射層が水分及び/又は酸素を吸収する層であってもよい。このことは、後述する有機活性層の水分及び酸素に対する劣化を抑制する点で、好ましい。
(粒子)
本実施形態の拡散反射層106は、粒子を含有する。この粒子としては、上述のように光を拡散反射できるものであれば、特に限定されない。反射率を向上させる観点からは、拡散反射層106は微粒子を含有することが好ましい。粒子の平均一次粒径は通常3nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、一方、通常10μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは800nm以下である。平均一次粒径が3nm以上3000nm以下であることにより、粒子を含有する拡散反射層が拡散反射を起こしやすくなるため、好ましい。
拡散反射層106が含有する粒子は、体積抵抗率が通常0.1Ω・cm以上、好ましく10Ω・cm以上、より好ましくは1.0×103Ω・cm以上である。一方、通常1.0×1020Ω・cm以下、好ましくは1.0×1019Ω・cm以下、より好ましくは1.0×1018Ω・cm以下である。体積抵抗率は、抵抗が106Ω以下の場合は低電流印加法(JIS K 7194)により、抵抗が106Ω以上の場合は低電圧印加法(JIS K 6911)により測定することができる。この体積抵抗率は、公知文献(新しい透明導電膜、株式会社東レリサーチセンター調査部門制作、2005年、TRC R&D LIBRARY)の記載を参考に測定することができる。
より具体的には粒子は誘電体粒子であることが好ましい。誘電体はバンドギャップが広くまた自由電子が少ないため、可視光領域の光を吸収しにくい点で好ましい。また、誘電体は屈折率が比較的大きいため、誘電体粒子が分散されている媒質との間の屈折率差が大きくなることが期待される。粒子と媒質との屈折率差が大きくなると、粒子と媒質との界面における反射率が向上することが期待される。
誘電体粒子としては、上記の性能を有すれば特段の制限はない。具体的な例としては、酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏、ポリマー、油脂、ここまでに挙げられていないその他のセラミックス等が挙げられる。なかでも、酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化アルミニウム又は酸化モリブデン等の無機酸化物が好ましく、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化アルミニウム又は酸化モリブデン等の金属酸化物がより好ましい。
粒子の屈折率(n1)は、特段の制限はないが、通常1.3以上であり、好ましくは2.5以上である。一方、通常5.5以下であり、好ましくは3.5以下である。また、媒質、例えばポリマー組成物の屈折率(n2)は、特段の制限はないが、通常1.2以上であり、好ましくは1.5以上である。一方、通常3以下であり、好ましくは2.5以下であり、より好ましくは2以下である。粒子の屈折率(n1)が上記の範囲に入ることにより、粒子の周囲のガス又はポリマー組成物との屈折差が大きくなるため、粒子界面での光反射率が向上する点で好ましい。また、媒質の屈折率(n2)が上記範囲に入ることによっても、粒子との屈折差が大きくなるため、粒子界面での光反射率が向上する点で好ましい。粒子の屈折率(n1)及び媒質の屈折率(n2)は、粒子(媒質)を構成する物質の膜を石英基板上などに成膜し、分光エリプソメトリー(公知文献:分光エリプソメトリー,藤原裕之著,平成15年,丸善株式会社)で測定することにより決めることができる。
粒子の屈折率(n1)と後述する媒質の屈折率(n2)との差(n1−n2)は、特段の制限はないが、通常0.1以上であり、好ましくは0.3以上である。一方、通常5以下であり、好ましくは4以下であり、より好ましくは3以下である。屈折率差(n1−n2)が上記範囲に入ることは、粒子界面での光反射率が向上する点で好ましい。
拡散反射層106中の粒子の量は通常通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上であり、より好ましくは30重量%以上である。一方、通常99重量%以下であり、好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。粒子の量がこの範囲にあることにより、拡散反射層106の光反射率が向上しうる。
(媒質)
本実施例に係る拡散反射層106は、通常、媒質中に粒子が分散されてなる。媒質としては特に限定はないが、ポリマー組成物であることが、粒子が分散されやすい点で好ましい。ポリマー組成物としては、特段の制限はないが、熱硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、紫外線硬化型樹脂、及び電子線硬化型樹脂が挙げられる。なかでも、シリコーン系エラストマー又はポリエーテル系等の熱硬化性エラストマー;オレフィン系エラストマー又はスチレン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーが好ましく、より好ましくはフッ素化シリコーン系熱硬化性エラストマーである。エラストマーは、安定性、耐熱性、プロセス性の点から好ましい。また、エラストマーは熱を加えることなく積層することができるために、気泡が生じることを防止する点からも好ましい。
媒質、例えばポリマー組成物の粘度は、特段の制限はないが、通常0.1Pa・s以上であり、好ましくは1Pa・s以上である。一方、通常1.0×104Pa・s以下であり、好ましくは5000Pa・s以下である。粘度が1Pa・s以上5000Pa・s以下であることにより、粒子を適度に分散しやすくなるため好ましい。また適度に粘度があることは、塗布プロセスにより作成した場合に拡散反射層のパターニングが容易になる点で好ましい。媒質の粘度は毛管粘度計(公知文献:物理化学実験のてびき, 足立吟也・石井康敬・吉田郷弘編, 1993年, 化学同人)により測定することができる。
拡散反射層106を構成する媒質は、透光性があることが、粒子による拡散反射を効率化する点で好ましい。透光性があるとは太陽光が40%以上透過することを指す。媒質の太陽光線透過率は、60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。上限に特段の制限はない。なお、光の透過率は、通常の分光光度計で測定可能である。
拡散反射層106は、粒子及び媒質の他に、各種硬化剤、可塑剤、分散剤、抗酸化剤、粘性改質剤、潤滑剤、光安定化剤等の添加剤を含有していてもよい。
拡散反射層106の形成方法に特段の制限はない。例えば、媒質に粒子を均一に混合して、塗布液を調製し、ロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、ディップコート法、カーテンフローコート法、スプレーコート法、バーコート法、キャスト法若しくはスピンコート法等の塗布法で層を形成する方法、並びに真空成膜法等が挙げられる。なかでも、スプレーコート法、バーコート法、キャスト法又はスピンコート法等の塗布法が、プロセス上簡便なため好ましい。すなわち、例えば第2の透明電極105のような拡散反射層106が隣接する層に、拡散反射層106の材料である粒子及び媒質を含む組成物を塗布することにより、拡散反射層106を積層することができる。
また、太陽電池モジュール109が基板107を有する場合、基板107に拡散反射層106を積層した後に、基板107及び拡散反射層106を第2の透明電極105に貼り合わせてもよい。さらにこの場合、第2の透明電極105に拡散反射層106の材料である粒子及び媒質を含む組成物を塗布し、基板107を押しつけることにより、拡散反射層106を形成することもできる。この方法は、基板100と基板107との間の太陽電池素子110の側部へと組成物が押し出されるため、太陽電池素子110の側部が拡散反射層106によって覆われうる点で、好ましい。
<2.基板100,107>
本実施形態に係る太陽電池モジュール109は、通常は支持体となる基板100を有する。また、本実施形態に係る太陽電池モジュール109は、通常は基板107をさらに有する。すなわち、太陽電池モジュール109の好適な例においては、基板100と基板107との間に、第1の透明電極101、活性層103、バッファ層(102、104)、第2の透明電極105、及び拡散反射層106が形成される。
基板100,107の材料(基板材料)は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。基板材料の好適な例を挙げると、石英、ガラス、サファイア又はチタニア等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル又はポリエチレン等のポリオレフィン、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン又はエポキシ樹脂等の有機材料;紙又は合成紙等の紙材料;ステンレス、チタン又はアルミニウム等の金属に、絶縁性を付与するために表面をコート又はラミネートしたもの等の複合材料等が挙げられる。ガラスとしてはソーダガラスや青板ガラスや無アルカリガラスなどが挙げられる。ガラスの材質については、ガラスからの溶出イオンが少ない方がよいので無アルカリガラスの方が好ましい。
基板100,107の形状に制限はなく、例えば、板、フィルム、シート等の形状を用いることができる。基板100,107の膜厚に制限はない。ただし、通常5μm以上、中でも20μm以上に形成することが好ましく、一方、通常20mm以下、中でも10mm以下に形成することが好ましい。基板100,107の膜厚が5μm以上であると、半導体デバイスの強度が不足する可能性は少なくなるため、好ましい。基板100,107の膜厚が20mm以下であることで、コストが抑えられ、かつ重量が重くならず、好ましい。又、基板100,107がガラスの場合の膜厚は、通常0.01mm以上、好ましくは0.1mm以上であり、一方、また、通常1cm以下、好ましくは0.5cm以下である。ガラス基板の膜厚が0.01mm以上であると、機械的強度が増加し、割れにくくなるために、好ましい。ガラス基板の膜厚が0.5cm以下であると、重量が重くならないために好ましい。
基板100,107のうち、受光面側にある基板には、透光性があることが好ましい。透光性があるとは太陽光が40%以上透過することを意味する。太陽光線透過率は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。上限に特段の制限はない。透光性が高いほど、基板を透過して活性層に到達する光を増やすことができる。なお、光の透過率は、通常の分光光度計で測定可能である。
本実施形態において基板100は受光面側にあるため、基板100は、透光性があることが好ましい。また、本実施形態において基板107は受光面の反対側にあるため、透光性があることは必須ではない。
<3.シール材108>
シール材108は、基板100及び基板107の縁部をシールして、これらの基板で被覆された空間内に湿気及び酸素が浸入しないようにシールする部材である。特に、第1の透明電極101、バッファ層(正孔取り出し層)102、活性層103、バッファ層(電子取り出し層)104、及び第2の透明電極105などに湿気及び酸素が浸入しないようにシールすることにより、太陽電池モジュール109の耐久性を向上させることができる。
シール材108に要求される防湿能力の程度は、単位面積(1m2)の1日あたりの水蒸気透過率が0.1g/m2/day以下であることが好ましく、0.05g/m2/day以下であることがより好ましい。従来はこのように高い防湿能力を有するシール材108の実装が困難であったため、化合物半導体系太陽電池素子及び有機太陽電池素子のように優れた太陽電池素子を備えた太陽電池を実現することが困難であった。しかしながら、このようなシール材108を適用することにより、化合物半導体系太陽電池素子及び有機太陽電池素子の優れた性質を活かした太陽電池モジュール109を実現することが容易となる。
さらに、太陽電池モジュール109は光を受けて熱せされることが多いため、シール材108も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、シール材108の構成材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
シール材108を構成する材料としては、例えば、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂等のポリマーが挙げられる。なお、シール材108は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていても良い。
このシール材108を形成する方法に制限は無いが、例えば、シール材材料を基板100と基板107との間に注入することにより形成できる。形成方法の具体例を挙げると、以下の方法が挙げられる。例えば、基板100と、第1の透明電極101と、バッファ層(正孔取り出し層)102と、活性層103と、バッファ層(電子取り出し層)104と、第2の透明電極105と、拡散反射層106と、基板107とを積層する。そして、各層101〜106の外周部であって、基板100と基板107との間の部分に、シール材材料である液状のポリマーを注入し、このポリマーを硬化させればよい。十分にポリマーを硬化させること及び太陽電池モジュールの劣化を防ぐという観点から、ポリマーを架橋・硬化させるための温度範囲は通常130℃以上、好ましくは140℃以上であり、通常180℃以下、好ましくは170℃以下である。
なお、拡散反射層106を積層するのは、シール材材料を注入する前でも注入した後でもよい。
<4.第1の透明電極101、第2の透明電極105>
第1の透明電極101及び第2の透明電極105は、光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有するものである。本実施形態においては、正孔取り出し層102に隣接する第1の透明電極101は正孔の捕集に適した電極(アノード)であることが好ましい。また、電子取り出し層104に隣接する第2の透明電極105は、電子の捕集に適した電極(カソード)であることが好ましい。
本実施形態において、活性層103よりも受光面側に位置する第1の透明電極101は、透光性を有する。また、活性層103と拡散反射層106との間に位置する第2の透明電極105もまた、透光性を有する。透光性があるとは太陽光が40%以上透過することをいう。第1の透明電極101及び第2の透明電極105の太陽光線透過率は、60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。上限に特段の制限はない。太陽光線透過率が高いほど、透明電極を透過して活性層に到達する光の量を増やすことができる。なお、光の透過率は、通常の分光光度計で測定可能である。
受光面とは反対側の電極(裏面電極ということがある)には、従来金属電極が用いられてきた。しかしながら、裏面電極に金属を用いる場合、活性層を通過した光が裏面電極表面で鏡面反射する。活性層において反射光による光干渉が起こりうるため、このことは太陽電池の効率を低下させることがあった。特に活性層が薄い有機薄膜太陽電池素子においては、干渉による影響が大きくなるものと考えられる。
干渉を低減するために裏面電極の表面を凸凹構造とすることも考えられる。しかしながらこのような凸凹構造により、太陽電池素子が短絡してしまう危険がある。この問題は、有機薄膜太陽電池素子のように電極間が薄い場合に、特に問題となりうる。
本実施形態においては、活性層103と拡散反射層106との間に位置する裏面電極(第2の透明電極105)を、透明電極(裏面側透明電極ということがある)とする。このような構成によって、活性層103及び第2の透明電極105を透過した光は、拡散反射層106で拡散反射され、再び第2の透明電極105を透過して活性層103に達することができる。したがって本実施形態の構成は、太陽電池素子を短絡させる問題点を回避しつつ、光を有効活用できる点で、好ましい。このような観点から、第2の透明電極105の活性層103側表面は平坦であることが好ましい。同様に、第1の透明電極101の活性層103側表面は平坦であることが好ましい。
正孔の捕集に適した電極101(アノード)とは、一般には仕事関数がカソードよりも高い値を有する導電性材料で、活性層103で発生した正孔をスムーズに取り出す機能を有する電極である。
アノード101の材料としては、このような機能を有すれば特段の制限はないが、例えば、ITO、酸化亜鉛又は酸化錫等の透光性がある導電性金属酸化物を用いることが好ましく、特にITOが好ましい。これらの物質は高い仕事関数を有するため、好ましく、さらに、ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルホン酸をドーピングしたPEDOT/PSSで代表されるような導電性高分子材料を積層することができるため、好ましい。
ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルホン酸をドーピングしたPEDOT/PSSや、ポリピロール又はポリアニリン等にヨウ素等をドーピングした導電性高分子材料をアノードの材料として使用することもできる。
アノード101の膜厚は特に制限は無いが、通常10nm以上、好ましくは20nm以上、さらに好ましくは50nm以上である。一方、通常10μm以下、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下である。アノード105の膜厚が10nm以上であることにより、シート抵抗が抑えられ、アノード105の膜厚が10μm以下であることにより、光透過率が低下しないために効率よく光を電気に変換することができる。これらの光透過率とシート抵抗を両立する膜厚を選ぶことが好ましい。アノード101のシート抵抗は、特段の制限はないが、通常1Ω/□以上であり、一方、1000Ω/□以下、好ましくは500Ω/□以下、さらに好ましくは100Ω/□以下である。
アノード101の形成方法は、蒸着若しくはスパッタ等の真空成膜方法、及びアノード材料、例えばナノ粒子や前駆体など、を含有するインクを塗布して成膜する方法等がある。本明細書において前駆体とは、所望の物質へと変換可能な物質のことをいう。例えば、アノード材料の前駆体を含有するインクを塗布し、その後前駆体をアノード材料へと変換することにより、アノード101の膜を形成することができる。変換方法としては、例えば熱変換、光変換などが挙げられる。
電子の捕集に適した電極105(カソード)とは、一般には仕事関数がアノードよりも高い値を有する導電性材料で、活性層103で発生した電子をスムーズに取り出す機能を有する電極である。本願の実施形態では、拡散反射層を有効に利用するために、電極105は可視光領域での光透過率が高いことが望ましい。
カソード105の材料としては、このような機能を有すれば特段の制限はないが、例えば、フッ化リチウムやフッ化セシウム等の無機塩;酸化ニッケル、酸化アルミニウム、酸化リチウム又は酸化セシウムのような金属酸化物等が挙げられる。これらの材料は低い仕事関数を有する材料であるため、好ましい。また、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、タングステン−亜鉛ドープ酸化インジウム(IWZO)等の透明導電性酸化物のようなアノード101に適した高い仕事関数を有する材料も、後述の電子取り出し層104を活性層103との間に有することにより、用いることができる。またPEDOT/PSS、ポリピロール又はポリアニリン等にヨウ素等をドーピングした導電性高分子材料、カーボンナノチューブ分散液なども用いることができる。
カソード105の膜厚は特に制限は無いが、通常10nm以上、好ましくは20nm以上下、より好ましくは50nm以上である。一方、通常10μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下である。カソード105の膜厚が10nm以上であることにより、シート抵抗が抑えられ、カソード105の膜厚が10μm以下であることにより、光透過率が低下しないために効率よく光を電気に変換することができる。光透過率とシート抵抗を両立する膜厚を選ぶことが好ましい。カソード105のシート抵抗は、特に制限は無いが、通常1000Ω/□以下、好ましくは500Ω/□以下、さらに好ましくは100Ω/□以下である。下限に制限は無いが、通常は1Ω/□以上である。
カソード105の形成方法としては、蒸着若しくはスパッタ等の真空成膜方法、及びカソード材料、例えばナノ粒子や前駆体など、を含有するインクを塗布して成膜する方法等がある。さらに、アノード101又はカソード105は2層以上積層してもよく、表面処理により特性(電気特性やぬれ特性等)を改良してもよい。
<5.活性層103>
本実施形態に係る太陽電池モジュール109において、活性層103は光電変換が行われる層を指し、通常、p型半導体化合物とn型半導体化合物とを含む。太陽電池モジュール109が光を受けると、光が活性層103に吸収され、p型半導体化合物とn型半導体化合物の界面で電気が発生し、発生した電気が電極101及び105から取り出される。
活性層103の材料としては無機化合物又は有機化合物のいずれを用いてもよい。活性層103は、簡易な塗布プロセスにより形成しうることが好ましい。この観点から、より好ましくは、活性層103は有機化合物を含有する有機活性層である。以下では、活性層103が有機活性層であるものとして説明する。この場合、活性層103は有機化合物であるp型半導体化合物と有機化合物であるn型半導体化合物とを含有する。
有機活性層の層構成としては、p型半導体化合物とn型半導体化合物とが積層された薄膜積層型、p型半導体化合物とn型半導体化合物とが混合しているバルクヘテロ接合型、薄膜積層型の中間層にp型半導体化合物とn型半導体化合物が混合した層(i層)を有する構造等が挙げられる。中でも、p型半導体化合物が後述する高分子有機半導体化合物の場合には、p型半導体化合物とn型半導体化合物とが混合しているバルクヘテロ接合型が好ましい。また、p型半導体化合物が後述する低分子有機半導体化合物である場合には、薄膜積層型の中間層にp型半導体化合物とn型半導体化合物が混合した層(i層)を有する構造が好ましい。このような構造によれば、光電流を発生できる活性層を厚くすることができる。
有機活性層103の膜厚は特に限定されないが、通常10nm以上、好ましくは50nm以上であり、一方通常1000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下である。有機活性層の膜厚が10nm以上であることで、均一性が保たれ、短絡を起こしにくくなるため、好ましい。また、有機活性層の厚さが1000nm以下であることで、内部抵抗が小さくなり、かつ電極間の距離が近くなって電荷の拡散が良好となるため、好ましい。
有機活性層103の作成方法としては、特段に制限はないが、塗布法が好ましい。塗布法については、以下に示す方法のうち任意のもので行うことができる。例えば、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、カーテンコート法などが挙げられる。
<5.1 p型半導体化合物>
本実施形態に係るp型半導体化合物としては、特に限定はないが、低分子有機半導体化合物と高分子有機半導体化合物が挙げられる。
(低分子有機半導体化合物)
低分子有機半導体化合物の分子量は、上限、下限ともに特に制限されないが、通常5000以下、好ましくは2000以下であり、一方、通常100以上、好ましくは200以上である。
低分子有機半導体化合物は、p型半導体化合物としての性能を満たせば特段の制限はないが、具体的には、ナフタセン、ペンタセン又はピレン等の縮合芳香族炭化水素;α−セキシチオフェン等のチオフェン環を4個以上含むオリゴチオフェン類;チオフェン環、ベンゼン環、フルオレン環、ナフタレン環、アントラセン環、チアゾール環、チアジアゾール環及びベンゾチアゾール環のうち少なくとも一つ以上を含み、かつ合計4個以上連結したもの;フタロシアニン化合物及びその金属錯体、又はテトラベンゾポルフィリン等のポルフィリン化合物及びその金属錯体、等の大環状化合物等が挙げられる。好ましくは、フタロシアニン化合物及びその金属錯体又はポルフィリン化合物及びその金属錯体である。
フタロシアニン化合物及びその金属錯体の中でも、好ましくは、29H,31H−フタロシアニン、銅フタロシアニン錯体、亜鉛フタロシアニン錯体、マグネシウムフタロシアニン錯体、鉛フタロシアニン錯体、チタンフタロシアニンオキシド錯体、バナジウムフタロシアニンオキシド錯体、インジウムフタロシアニンハロゲン錯体、ガリウムフタロシアニンハロゲン錯体、アルミニウムフタロシアニンハロゲン錯体、スズフタロシアニンハロゲン錯体、ケイ素フタロシアニンハロゲン錯体、又は銅4,4’,4’’,4’’’−テトラアザ−29H,31H−フタロシアニン錯体であり、より好ましくは、チタンフタロシアニンオキシド錯体、バナジウムフタロシアニンオキシド錯体、インジウムフタロシアニンクロロ錯体、又はアルミニウムフタロシアニンクロロ錯体である。なお、低分子有機半導体化合物としては一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物の混合物を用いてもよい。
ポルフィリン化合物及びその金属錯体の中でも、好ましくは、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンコバルト(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン銅(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン亜鉛(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンニッケル(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンバナジウム(IV)オキシド、5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィン、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィン、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィンコバルト(II)、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィン銅(II)、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィン亜鉛(II)、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィンニッケル(II)又は29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィンバナジウム(IV)オキシドであり、好ましくは、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン又は29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィンである。低分子有機半導体化合物としては一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物の混合物を用いてもよい。
フタロシアニン化合物及びその金属錯体又はポルフィリン化合物及びその金属錯体の合成方法には、特段の制限はなく、公知の方法に従って合成することができる。例えば、公知文献(The Porphyrin Handbook(2003),Volume 15,edited by Karl M. Kadish, Kevin M. Smith, Roger Guilard)に記載の方法が挙げられる。
低分子有機半導体化合物を含む層の製膜方法としては、蒸着法及び塗布法などがあげられる。また、低分子有機半導体化合物前駆体を塗布し、低分子有機半導体化合物前駆体を低分子有機半導体化合物に変換することにより製膜を行う方法もある。塗布製膜できるというプロセス上の利点からは後者が好ましい。後者の方法は、例えば国際公開第2007/126102号に記載されている方法に従って行うことができる。以下で、この方法について詳しく説明する。
(低分子有機半導体化合物前駆体)
低分子有機半導体化合物前駆体とは、例えば加熱や光照射等の外的刺激を与えることにより、その化学構造が変化し、低分子有機半導体化合物に変換される物質である。本実施形態で用いる低分子有機半導体化合物前駆体は、成膜性に優れることが好ましい。特に、塗布法による成膜を行うためには、前駆体自体が液状であるか又は前駆体が何らかの溶媒に対して溶解性が高いことが好ましい。本実施形態で用いられる低分子有機半導体化合物前駆体の溶媒に対する溶解性は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。一方、上限に特段の制限はないが、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下である。溶解度が高いほど、塗布法による成膜を容易に行うことができる。
溶媒の種類としては、半導体前駆体化合物を均一に溶解あるいは分散できるものであれば特に限定されない。例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン又はデカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン又はオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール又はプロパノール等の低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン又はシクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル又は乳酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン又はトリクロロエチレン等のハロゲン系炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド又はジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられる。なかでも好ましくは、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン又はオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン又はシクロヘキサノン等のケトン類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン又はトリクロロエチレン等のハロゲン系炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサン等のエーテル類である。より好ましくは、トルエン、キシレン又はシクロヘキシルベンゼン等の非ハロゲン系芳香族炭化水素類;シクロペンタノン又はシクロヘキサノン等の非ハロゲン系ケトン類;テトラヒドロフラン又は1,4−ジオキサン等の非ハロゲン系脂肪族エーテル類である。特に好ましくは、トルエン、キシレン又はシクロヘキシルベンゼン等の非ハロゲン系芳香族炭化水素類である。なお、溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
さらに、本実施形態において用いられる低分子有機半導体化合物前駆体は、容易に半導体化合物に変換できることが好ましい。低分子有機半導体化合物前駆体から半導体化合物への変換工程において、どのような外的刺激を半導体前躯体に与えるかは任意であるが、通常は、熱処理、光処理等を行なう。好ましくは、熱処理である。この場合には、低分子有機半導体化合物前駆体の骨格の一部として、逆ディールス・アルダー反応によって脱離可能である、所定の溶媒に対する親溶媒性の基を有することが好ましい。
また、低分子有機半導体化合物前駆体は、変換工程を経て、高い収率で半導体化合物に変換されることが好ましい。この際、低分子有機半導体化合物前駆体から得られる低分子有機半導体化合物の収率は、太陽電池モジュールの性能を損なわない限り任意であるが、通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは99モル%以上である。収率が高いほど、太陽電池モジュールの変換効率が向上しうる。
本実施形態で用いられる低分子有機半導体化合物前駆体は、上記特徴を有するものであれば特に制限はない。具体的な例としては、特開2007−324587号公報に記載の化合物、及び国際公開第2007/126102号に記載の化合物などが挙げられる。好ましい例としては、後に述べるビシクロポルフィリン化合物CPのような、ビシクロ[2.2.2]オクタジエン構造が縮合したポルフィリン化合物が挙げられる。
本実施形態で用いられる低分子有機半導体化合物前駆体は、位置異性体が存在する構造を有してもよい。この場合本実施形態で用いられる低分子有機半導体化合物前駆体は、複数の位置異性体の混合物を含んでいてもよい。複数の位置異性体を含む低分子有機半導体化合物前駆体は、単一異性体成分からなる低分子有機半導体化合物前駆体と比較して、溶媒に対する溶解度が向上しうる。このため、塗布製膜が行いやすいことが期待される。複数の位置異性体の混合物の溶解度が高い理由は、化合物そのものの結晶性は潜在的に保持されるものの、複数の異性体混合物が溶液内に混在することにより、三次元規則的な分子間相互作用が困難になるためであると考えられる。
本実施形態で用いられる、複数の位置異性体を含む低分子有機半導体化合物前駆体の非ハロゲン系溶媒への溶解度は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上である。上限に制限は無いが、通常50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。溶解度が高いほど、塗布法による成膜を容易に行うことができる。
[高分子有機半導体化合物]
本実施形態において用いられる高分子有機半導体化合物としては、特に限定はない。例えば、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリアセチレン又はポリアニリン等の共役ポリマー半導体;アルキル基やその他の置換基が置換されたオリゴチオフェン等のポリマー半導体などが挙げられる。また、二種以上のモノマー単位を共重合させた半導体ポリマーを用いることもできる。
高分子有機半導体化合物としては、種々の公知の化合物を用いることができる。高分子有機半導体化合物の例としては、Handbook of Conducting Polymers,3rd Ed.(全2巻),2007、Materials Science and Engineering,2001,32,1−40、Pure Appl. Chem.2002,74,2031−3044、Handbook of THIOPHENE−BASED MATERIALS(全2巻),2009などの公知文献に記載されたポリマーが挙げられる。また、これら公知のポリマーの誘導体、又はこれら公知のポリマーを構成するモノマーを組み合わせることにより合成し得るポリマーを用いることもできる。なお、高分子有機半導体化合物としては一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物の混合物を用いてもよい。
さらに、高分子有機半導体化合物を構成するモノマーの骨格及びモノマーの置換基は、高分子有機半導体化合物の溶解性、結晶性、製膜性、HOMOレベル及びLUMOレベル等を制御するために、適宜選択することができる。また、高分子有機半導体化合物を含む層を塗布法により形成できるという観点からは、高分子有機半導体化合物は有機溶媒に可溶なものであることが好ましい。
高分子有機半導体化合物の具体例としては以下のものが挙げられるが、これに限定されることはない。
以上挙げたp型半導体化合物の中でも、低分子有機半導体化合物としては、ナフタセン、ペンタセン、ピレン等の縮合芳香族炭化水素、フタロシアニン化合物及びその金属錯体、又はテトラベンゾポルフィリン(BP)等のポルフィリン化合物及びその金属錯体、が好ましい。また、高分子有機半導体化合物としては、ポリチオフェン等の共役ポリマー半導体が好ましい。p型半導体化合物としては一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物の混合物を用いてもよい。
p型半導体化合物層の作製方法については、特段の制限はないが、形成の容易性という観点からは塗布法が好ましい。塗布法については、以下の任意の方法で行うことができる。例えば、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、及びカーテンコート法などが挙げられる。
本実施形態で用いられる低分子有機半導体化合物及び/又は高分子有機半導体化合物は、製膜された状態において、何らかの自己組織化した構造を有していてもよいし、アモルファス状態であっても良い。
p型半導体化合物のHOMOレベルには、特に限定は無い。後述のn型半導体化合物の種類によって、適切なHOMOレベルを有するp型半導体化合物を選択することができる。例えばn型半導体化合物がフラーレン化合物である場合、p型半導体化合物のHOMOレベルは、通常−5.7eV以上、より好ましくは−5.5eV以上であり、一方、通常−4.6eV以下、より好ましくは−4.8eV以下である。p型半導体化合物のHOMOレベルが−5.7eV以上であることによりp型半導体としての特性が向上し、p型半導体のHOMOレベルが−4.6eV以下であることにより化合物の安定性が向上するとともに開放端電圧(Voc)が向上しうる。
また、p型半導体のLUMOレベルには、特に限定は無い。後述のn型半導体化合物の種類によって、適切なLUMOレベルを有するp型半導体化合物を選択することができる。例えばn型半導体化合物がフラーレン化合物である場合、p型半導体のLUMOレベルは、通常−3.7eV以上、好ましくは−3.6eV以上である。一方、通常−2.5eV以下、好ましくは−2.7eV以下である。p型半導体のLUMOレベルが−2.5eV以下であることにより、バンドギャップが調整され長波長の光エネルギーを有効に吸収することができるために、短絡電流密度が向上しうる。p型半導体のLUMOレベルが−3.7eV以上であることにより、n型半導体への電子移動が起こりやすくなるために短絡電流密度が向上しうる。
<5.2 n型半導体化合物>
n型半導体化合物としては、フラーレン(C60、C70、C76等)化合物;オクタアザポルフィリン;前述したp型半導体化合物のパーフルオロ体;ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物;及び、これらの化合物を骨格として含む誘導体などが挙げられる。
その中でも、フラーレン(C60、C70、C76等)化合物が好ましい。より好ましくは、C60フラーレン化合物、C70フラーレン化合物である。特に好ましくは、それぞれ独立して炭素数1〜50の有機基を2〜4個有するC60フラーレン化合物又はC70フラーレン化合物である。ここで、有機基同士は連結して環を形成していても良い。
それぞれ独立して炭素数1〜50の有機基を2個有するフラーレン化合物の具体例としては、下式に示すSIMEF若しくはSIMEF2のように、ケイ素原子上に芳香環基が結合しているシリルアルキル基を2個有するフラーレン化合物が挙げられる。また、有機基同士が連結して環を形成している場合の例としては、下式に示すC60(Ind)2若しくはC70(Ind)2等の環がインダン構造を有するフラーレン;C60(QM)2若しくはC70(QM)2等の環がキノジメタン構造を有するフラーレン;並びにPCBM、C70PCBM、及びbis−PCBM等のメタノフラーレン等が挙げられる。
以下にフラーレン化合物の具体例を挙げるが、例示のものには限定されない。
なお、本実施形態に用いられるn型半導体化合物は、一種の化合物で構成されていてもよいし、複数種の化合物の混合物であってもよい。
フラーレン化合物を含むn型半導体層を塗布法によって成膜するためには、フラーレン化合物自体が液状であるか又はフラーレン化合物が何らかの溶媒に対して溶解性が高いことが好ましい。例えば、本実施形態に用いられるフラーレン化合物は、25℃でのトルエンに対する溶解度が、通常0.1重量%以上、好ましくは0.4重量%以上、より好ましくは0.7重量%以上である。フラーレン化合物の溶解度が0.1重量%以上であることで、フラーレン化合物の分散安定性が増加する。この場合、凝集、沈降、分離等が起こりにくくなるために、塗布法によってn型半導体層を形成することが容易となる。
本実施形態のフラーレン化合物の溶媒は、非極性有機溶媒であれば、特段に制限はないが、非ハロゲン系溶媒が好ましい。ジクロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒を用いることもできるが、環境負荷の面からは非ハロゲン系溶媒を用いることがより好ましい。非ハロゲン系溶媒としては、例えば、非ハロゲン系芳香族炭化水素類が挙げられる。その中でもトルエン、キシレン又はシクロヘキシルベンゼンなどが、好ましい溶媒として挙げられる。
n型半導体化合物の最低空分子軌道(LUMO)の値は、特に限定はされない。例えばサイクリックボルタモグラム測定法により算出される真空準位に対する値は、通常−3.85eV以上、好ましくは−3.80eV以上である。
p型半導体から効率良くn型半導体へと電子を移動させるためには、p型半導体化合物の最低空軌道(LUMO)エネルギー準位に合わせて、n型半導体化合物を選択することが好ましい。具体的には、p型半導体化合物のLUMOエネルギー準位が、n型半導体化合物のLUMOエネルギー準位より所定のエネルギー、好ましくは約0.3eV程度、だけ浅い位置にあることが好ましい。言い換えると、n型半導体化合物の電子親和力が、p型半導体化合物の電子親和力より所定のエネルギー、好ましくは約0.3eV程度、だけ大きいことが好ましい。
開放電圧(Voc)は、p型半導体化合物の最高被占軌道(HOMO)のエネルギー準位と、n型半導体化合物のLUMOエネルギー準位との差で決定されるため、n型半導体化合物のLUMOを高くすると、Vocが高くなる傾向がある。一方でn型半導体化合物のLUMOを低くすることで、電子の移動が起こりやすくなり、短絡電流密度(Jsc)が高くなる傾向がある。このような観点から、本実施形態で用いられるn型半導体化合物のLUMOエネルギー準位の値は通常−3.9eV以上、好ましくは−3.8eV以上である。一方、通常−1.0eV以下、好ましくは−2.0eV以下、より好ましくは−2.5eV以下、更に好ましくは−3.0eV以下である。
n型半導体のLUMOの値の算出方法は、理論的に計算値で求める方法と実際に測定する方法が挙げられる。理論的に計算値で求める方法としては、半経験的分子軌道法及び非経験的分子軌道法があげられる。実際に測定する方法としては、紫外可視吸収スペクトル測定法、及びサイクリックボルタモグラム測定法があげられる。その中でも好ましくは、サイクリックボルタモグラム測定法であり、本明細書ではサイクリックボルタモグラム測定法を採用する。
(フラーレン化合物の製造方法)
本実施形態で用いられるフラーレン化合物の合成方法に特に制限はなく、公知の方法に従って合成することができる。例えば、SIMEF若しくはSIMEF2のような、ケイ素原子上に芳香環基が結合しているシリルアルキル基を有するフラーレンは、国際公開第2008/059771号やJ.Am.Chem.Soc.,2008,130(46),15429−15436などの公知文献に従って合成可能である。
C60(Ind)2若しくはC70(Ind)2等の環がインダン構造を有するフラーレン、並びにC60(QM)2若しくはC70(QM)2等の環がキノジメタン構造を有するフラーレンは、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.1993,32,78−80、Tetrahedron Lett.1997,38,285−288、国際公開第2008/018931号、及び国際公開第2009/086210号などの公知文献に従って合成可能である。
PCBM、C70PCBM若しくはbis−PCBM等のメタノフラーレンは、J.Chem.Soc., Perkin Trans.1,1997 1595、Thin Solid Films 489(2005)251−256、Adv.Funct.Mater.2005,15,1979−1987、及びJ.Org.Chem.1995,60,532−538などの公知文献に従って合成可能である。
<6 バッファ層(102、104)>
上述のようにバッファ層102,104は、電子取り出し層104及び正孔取り出し層102に分類することができる。電子取り出し層104と正孔取り出し層102の少なくとも一方は、異なる複数の膜により構成されていてもよい。
<6.1 電子取り出し層104>
電子取り出し層104の材料は、p半導体化合物とn半導体化合物とを含む有機活性層103から電極101へ電子の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。具体的には、無機化合物又は有機化合物が挙げられる。
無機化合物である電子取り出し層104の材料としては、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のアルカリ金属の塩;酸化チタン(TiOx)や酸化亜鉛(ZnO)のようなn型の酸化物半導体、などが望ましい。
アルカリ金属の塩としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、又はフッ化セシウムのようなフッ化物塩が望ましい。このような材料は、カソード105と組み合わされて、カソード105の仕事関数を小さくし、太陽電池素子内部に印加される電圧を上げる事が期待される。
有機化合物である電子取り出し層104の材料としては、具体的には、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(Bphen)、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、並びにホスフィンオキシド化合物及びホスフィンスルフィド化合物等のような第16族元素との間に二重結合を有するリン原子を含むホスフィン化合物が挙げられる。なかでも、アリール基で置換されたホスフィンオキシド化合物又はアリール基で置換されたホスフィンスルフィド化合物等のような、アリール基との間に結合を有しかつ第16族元素との間に二重結合を有するリン原子を含むホスフィン化合物を用いることが好ましい。より好ましくは、トリアリールホスフィンオキシド化合物、トリアリールホスフィンスルフィド化合物、ジアリールホスフィンオキシドユニットを2つ以上有する芳香族炭化水素化合物、又はジアリールホスフィンスルフィドユニットを2つ以上有する芳香族炭化水素化合物が用いられる。これらのアリール基はフッ素原子を置換基として有していてもよく、パーフルオロアルキル基等のフッ素原子で置換されたアルキル基を置換基として有していてもよい。
アリール基で置換されたホスフィンオキシド化合物、及びアリール基で置換されたホスフィンスルフィド化合物の具体例を以下に挙げるが、本実施形態で用いられる電子取り出し層104の材料はこれらに限定されるわけではない。
電子取り出し層104の膜厚は特に限定はないが、通常0.01nm以上である。一方、通常40nm以下、好ましくは20nm以下である。電子取り出し層104の膜厚が0.01nm以上であることで膜が均一となってバッファ材料としての機能がよく発揮されうる。また、電子取り出し層104の膜厚が40nm以下であることで、活性層103から電極105へと電子を取り出し易くなり、光電変換効率が向上しうる。
<6.2 正孔取り出し層102>
正孔取り出し層102の材料は、有機活性層103からアノード101へ正孔の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。具体的な例としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミン又はポリアニリンなどに、スルホン酸及び/又はヨウ素などがドーピングされた導電性ポリマー;スルホニル基を置換基として有するポリチオフェン誘導体;アリールアミン等の導電性有機化合物;上述のp型半導体化合物等が挙げられる。
これらの中でも、スルホン酸をドーピングした導電性ポリマーを用いることが好ましく、ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルホン酸をドーピングしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)を用いることがより好ましい。
正孔取り出し層102の膜厚は特に限定はないが、通常2nm以上である。一方、通常40nm以下、好ましくは20nm以下である。正孔取り出し層102の膜厚が2nm以上であることで膜が均一となってバッファ材料としての機能がよく発揮されうる。また、正孔取り出し層102の膜厚が40nm以下であることで、活性層103から電極101へと正孔を取り出し易くなり、光電変換効率が向上しうる。
電子取り出し層104及び正孔取り出し層102の形成方法に制限はない。例えば、昇華性を有する材料を用いる場合は真空蒸着法等により形成することができる。また、例えば溶媒に可溶な材料を用いる場合は、スピンコートやインクジェット等の湿式塗布法等により形成することができる。正孔取り出し層102の材料として半導体化合物を用いる場合は、低分子有機半導体化合物の層を形成する上述の場合と同様に、前駆体の層を形成した後に、前駆体を半導体化合物へと変換してもよい。
<7.太陽電池モジュールの作製方法>
本実施形態の太陽電池モジュール109の作製方法に特に限定はなく、公知の技術を採用することができる。例えば、基板100上に各層101〜106を順次積層し、基板107とシール材108とで封止すればよい。もちろん、各層101〜106の間には別の層が挿入されていてもよいし、各層101〜106のうち少なくとも一層が存在しなくてもよい。
各層101〜106を積層している途中で、あるいは積層した後で、積層体を加熱することがより好ましい(この工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。アニーリング処理によって、隣接する層間の密着性が向上し、太陽電池モジュール109の変換効率が向上することが期待される。例えばアニーリング処理により、バッファ層(正孔取り出し層102、電子取り出し層104)と電極(アノード101、カソード105)との間の密着性が向上しうる。また、バッファ層(正孔取り出し層102、電子取り出し層104)と活性層103との密着性も向上しうる。
このような効果を得るために、アニーリング処理は通常50℃以上で行われ、80℃以上で行うことが好ましい。また、アニーリング処理は通常300℃以下で行われ、好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下で行われる。アニーリング処理の温度を300℃以下にすることで、活性層の有機化合物が熱分解する可能性を下げることができる。なお、加熱温度を一定の温度にする必要はなく、複数の温度で段階的に加熱してもよい。
密着性向上効果を十分に得るため、そして化合物が熱分解する可能性を下げるために、加熱時間は通常1分以上、好ましくは3分以上であり、一方、通常3時間以下、好ましくは1時間以下である。このアニーリング処理は、太陽電池モジュールの性能を示すパラメータ、例えば開放電圧、短絡電流密度又はフィルファクターが一定の値になったところで終了させることが好ましい。また、このアニーリング処理は、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。加熱方法としては、ホットプレート等の熱源に積層体を載せる方法でもよいし、オーブン等の加熱雰囲気下に積層体を入れてもよい。また、バッチ式でのアニーリング処理を行ってもよいし、連続方式でのアニーリング処理を行ってもよい。
以下、本発明の実施例を示して本発明について更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
<合成例1 ビシクロポルフィリン化合物CPの合成>
特開2003−304014号公報の[0060]〜[0066]の記載に従って合成した。得られた化合物を化合物CPと記す。質量分析(FAB−MS法)により、目的物の質量と一致するm/z:623[M++1]を検出した。
テトラキス(ビシクロ[2.2.2]オクタジエン)ポルフィリン(化合物CP):1H NMR(400MHz,CDCl3) δ10.40(m,4H),7.20(m,8H),5.81(m,8H),2.24(m,8H),−4.80(brs,2H).
窒素雰囲気下、500mL三口ナスフラスコに、PCBM(1−(3−メトキシカルボニル)プロピル−1−フェニル(6,6)−C60,フロンティアカーボン社製E100H,1.0g,1.098mmol)、ヨウ化テトラn−ブチルアンモニウム(TBAI;2.03g,5.49mmol,5当量)、及びトルエン(200mL)を入れた。減圧脱気後、α,α’−ジブロモ−o−キシレン(1.45g,5.49mmol,5当量)を加えて加熱還流した。9時間後、室温に戻し、シリカゲルろ過カラム(トルエン)に供し、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン)に供した後、GPC精製(クロロホルム)を行うことにより、収率49%(545mg,0.537mmol)で目的物(C60(PCBM)(QM))を得た。質量分析(APCI法,negative)により、目的物の質量と一致するm/z:1014[M−]を検出した。
窒素雰囲気下、1−ブロモピレン(東京化成:14g,50mmol)を脱水テトラヒドロフラン(関東化学:200mL)に溶かし、−78℃に冷却した後、n−ブチルリチウム(関東化学:33mL、1.6M)をゆっくり滴下し、−78℃を保持したまま30分撹拌した。つづいて、ジクロロフェニルホスフィン(東京化成:4.3g,9.0mmol)を滴下し、十分攪拌した後、室温まで昇温し、さらに1.5時間撹拌した。得られた反応溶液にメタノール(純正化学)30mLを加え、得られた粗精製物をろ過し、ベンゼンを用いて再結晶することにより、10.7gの目的物を得た。ここで得られた化合物をテトラヒドロフラン(純正化学)350mL、ジクロロメタン(関東化学)300mL、及びアセトン(関東化学)100mLに溶かし、過酸化水素水(和光純薬:30%溶液10mL)を加え、室温で30分撹拌した。反応溶液に水30mLを加えた後に反応溶液が600mLとなるまで濃縮した後、ろ過することにより、目的物(POPy2)を7.5g得た。
<実施例1 拡散反射層の作製と評価>
フッ素化シリコーン系熱硬化性エラストマー材料である、フッ素系オイル(商品名 信越化学 信越SIFEL8370 A)を20g、フッ素系オイル(商品名 信越化学 信越SIFEL8370 B)を6g、それぞれ計量し、ミキサー(シンシー製 あわとり練太郎)を用いて2000rpmで4分間攪拌した。
続いて攪拌したフッ素系オイルを真空中110℃で2時間加熱した後に、窒素雰囲気下150℃で2時間加熱した粒系0.1μm〜0.3μmのアナターゼ型酸化チタン11gと混合し、再びミキサーをもちいて2000rpm、4分間攪拌した。このようにして得られた液体を、以下、酸化チタン分散液と呼ぶ。
得られた酸化チタン分散液をガラス基板上へ塗布し、掘り込みガラスを上から押さえつけることにより、0.5mm厚の拡散反射層を成膜した。得られた拡散反射層の拡散反射率を、分光光度計(日立 U4000分光光度計)を用いて測定した。結果を図2に示す。図2から、実施例1で得られた拡散反射層の反射率は、400〜800nmの間で70%以上と良好であることが分かる。
<実施例2 太陽電池モジュールの作製と評価>
ITO電極がパターニングされたガラス基板上に、正孔取り出し層(バッファ層)としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)水性分散液(エイチ・シー・スタルク社製 商品名「CLEVIOUSTM PVP AI4083」)をスピンコートにより塗布し、塗布後の基板を120℃のホットプレート上で大気中10分間加熱処理した。得られた正孔取り出し層の膜厚は約30nmであった。
クロロベンゼンとクロロホルムとを1対1で混ぜた溶媒に、合成例1で得られたビシクロポルフィリン化合物(化合物CP)を0.5重量%加え、ろ過することによって化合物CPの塗布液を調製した。正孔取り出し層を成膜した基板を、窒素雰囲気下180℃で3分間加熱処理し、この基板上に化合物CPの塗布液を500rpmでスピンコートした。さらに塗布後の基板を窒素雰囲気下180℃で加熱処理することにより、正孔取り出し層の上に約25nmのp型半導体テトランベンゾポルフィリン化合物(化合物BP)の層を形成した。なお、化合物CPは加熱処理によって化合物BPへと変換される。
トルエンに合成例2で得られたフラーレン化合物(C60(PCBM)(QM))を1重量%溶解した液をろ過することにより、フラーレン化合物の塗布液を調製した。化合物BPを成膜した基板上に、フラーレン化合物(C60(PCBM)(QM))の塗布液を500rpmでスピンコートし、120℃で5分間加熱処理した。これによって、化合物BPの層上にフラーレン化合物(C60(PCBM)(QM))の層を形成した。
続いて、真空蒸着装置内に配置されたメタルボートに合成例3で得られたPOPy2を入れた。加熱して真空蒸着を行うことにより、フラーレン化合物(C60(PCBM)(QM))の層上に、POPy2を含む電子取り出し層(バッファ層)を、膜厚30nmになるまで蒸着した。
更に、電子取り出し層の上にスパッタにより厚さ150nmのIWZO透明電極を設けた。その後、得られた積層体を180℃のホットプレートで5分間加熱し、さらに190℃のホットプレートで5分間加熱した。
次に、実施例1で作製した酸化チタン分散液をIWZO透明電極上に塗布し、掘り込みのある裏面ガラス基板を上から押さえつけることで0.5mmの厚さの拡散反射層を形成した。最後に裏面ガラスと基板ガラスとをシール材(光硬化樹脂)によって貼り合わせた。以上のようにして、5mm×5mmのサイズの受光部分を有する太陽電池モジュールを作製した。本実施例の方法によれば、酸化チタン分散液が裏面ガラス基板によって押さえつけられるため、正孔取り出し層、化合物BPの層、フラーレン化合物層、電子取り出し層、及びIWZO透明電極の側面もまた酸化チタン分散液によって覆われる。
この太陽電池モジュールに4mm×4mmの開口を持つマスクをかぶせ、ソーラシュミレーター(AM1.5G)の光を100mW/cm2の照射強度で照射することにより、電圧−電流特性を測定した。短絡電流密度(Jsc)の測定結果は、4.3mA/cm2であった。また、この太陽電池素子モジュールについて、各波長の照射光に対する外部量子収率(EQE)を、ペクセル・テクノロジーズ社製、PEC−S20型作用スペクトル測定装置を用いて測定した。測定結果を図3に示す。
<比較例1>
実施例2において、拡散反射層の代わりに、80nmの金属(アルミニウム)反射層を蒸着によって設けたこと以外は同様にして、太陽電池モジュールを作成した。この太陽電池モジュールについて電圧−電流特性を測定したところ、短絡電流密度(Jsc)は3.8mA/cm2であった。また、この太陽電池素子モジュールについて、各波長の照射光に対する外部量子収率(EQE)を、ペクセル・テクノロジーズ社製、PEC−S20型作用スペクトル測定装置を用いて測定した。測定結果を図3に示す。
<参考例1>
実施例2において、電子取り出し層を蒸着する前の膜について、分光光度計(オーシャンオプティクス社製 USB2000)を用いて吸光度を測定した。測定結果を図4に示す。
以上の結果から、拡散反射層を有する実施例2の太陽電池モジュールは、金属反射層を有する比較例1の太陽電池モジュールと比較して、短絡電流密度が向上することが判る。また図3及び図4によれば、実施例2の太陽電池モジュールにおいて、各波長に対する外部量子収率(EQE)は、吸収スペクトルと相関することが分かる。一方で比較例1の太陽電池モジュールにおいては、各波長に対する外部量子収率(EQE)の吸収スペクトルとの相関は、実施例2と比較して低くなる。このことから、金属反射層を有する比較例1の太陽電池モジュールは、拡散反射層を有する実施例2の太陽電池モジュールと比較して光学的干渉効果を受けやすく、このことが短絡電流密度の減少につながっているものと考えられる。