JP5772967B2 - 飛行時間型質量分析装置 - Google Patents

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Description

本発明は飛行時間型質量分析装置(Time-of-Flight Mass Spectrometer、以下「TOFMS」と略す)に関し、さらに詳しくは、TOFMSにおいてイオンを通過させるとともに該イオンを加速したり減速したりするために用いられる格子状電極に関する。
TOFMSでは、試料成分由来のイオンに一定の運動エネルギーを付与して一定距離の空間を飛行させ、その飛行に要する時間を計測して該飛行時間からイオンの質量電荷比を求める。そのため、イオンを加速して飛行を開始させる際に、イオンの位置やイオンが持つ初期エネルギーにばらつきがあると、同一質量電荷比を持つイオンの飛行時間にばらつきが生じ質量分解能や質量精度の低下に繋がる。こうした課題を解決する手法の1つとして、イオンビームの入射方向と直交する方向にイオンを加速して飛行空間に送り込む直交加速(垂直加速や直交引出しともいう)方式のTOFMSが知られている(非特許文献1、非特許文献3など参照)。
図11(a)は典型的な直交加速方式TOFMSの概略構成図、図11(b)はイオン飛行の中心軸におけるポテンシャル分布図である。図示しないイオン源で生成されたイオンは、X軸方向に初速度を与えられて直交加速部1に入射される。直交加速部1において、押出し電極11と格子状電極12、13との間に印加されるパルス電場によりイオンはZ軸方向に射出され、TOF型質量分離器2の中の無電場飛行領域2A中を飛行する。そして、イオンは上り勾配ポテンシャルが形成されている反射領域2B中で反射され、折返し飛行して検出器3に達し検出される。
直交加速部1におけるイオンの空間広がりに起因する質量分解能低下を抑えるため、典型的には、直交加速部1から射出されたイオンパケット(イオンの集合体)は、無電場飛行領域2A中に存在する収束面21上に一旦収束され、その後、広がったイオンパケットが反射領域2Bにより再度、検出器3の検出面上で収束するように調整される。こうした収束を実現するため、直交加速部1は図11(a)に示すように、2枚の格子状電極12、13を利用して2段一様電場を形成するデュアルステージ型でもよいし、1枚の格子状電極を利用して1段一様電場を形成するシングルステージ型でもよい。一方、格子状電極22、23により形成される反射電場も、2段一様電場であるデュアルステージ型でもよいし、1段一様電場であるシングルステージ型でもよい。即ち、検出器3の検出面上でイオンパケットが収束するよう、複数の一様電場の強度を調整すればよい。このような収束条件を実現するための理論は、非特許文献1に詳細に記載されている。
上述したように直交加速方式TOFMSでは、直交加速電場や反射電場を形成するために、導電性材料を用いた格子状電極が広く用いられている。なお、ここでいう「格子状」の構造体とは、細長い部材を縦横両方向に碁盤目状(方眼状)に組み合わせた構造体と、細長い部材を一定間隔で並列した(一般的には平行並列であるが、必ずしも平行である必要はない)構造体と、の両方を含む。前者の構造の電極は単にグリッド電極と呼ばれることが多く、後者の構造の電極は前者と区別するためにパラレルグリッド電極などと呼ばれることがある。
図12は従来用いられている格子状電極の一例を示す一部破断斜視図である。この格子状電極200は、幅がW、厚さがTである桟部201が間隔Pで平行に配列された構造を有し、隣接する2本の桟部201の間の開口202の幅(短手方向サイズ)はP−W、開口202の長さ(長手方向サイズ)はLである。開口202の深さは桟部201の厚さTと等しい。
こうした格子状電極200の入口側と出口側(図12では下側と上側)とで電場強度が異なる場合、開口202の幅P−Wが広すぎると、開口202を通した電場の染み出しやレンズ効果によるビームの発散が著しくなる。そのため、開口202の幅P−Wはできるだけ小さいことが望ましい。一方、こうした構造の格子状電極200におけるイオンの透過率は幾何学的には、開口202の幅と桟部201の間隔との比、つまり(P−W)/P、で与えられる。したがって、桟部201の間隔Pが同じであれば桟部201の幅Wが小さいほどイオン透過率は大きくなる。イオンビームの発散が小さく且つ高いイオン透過率を達成し得る理想的な格子状電極を実現するには、桟部201の間隔P及び幅Wはできるだけ小さいほうが望ましいが、後述するように機械強度の点や製作可能性からその小ささには限界がある。
桟部201の間隔Pをできるだけ小さくしつつ高いイオン透過率を実現するために、電気鋳造技術を利用したTOFMS用微細格子状電極が開発されている。例えば非特許文献2、3には、桟部の間隔Pが83[μm]、桟部の幅Wが約25[μm]、桟部の厚さTが約10[μm]である、電気鋳造によるニッケル(Ni)製の格子状電極が開示されている。これら文献によれば、そのイオン透過率は70〜80%程度であるとされている。また、市販されている格子状電極の例としては非特許文献4に記載の製品がある。この製品では、φ18[μm]のタングステン線を格子間隔250[μm]で張設することにより、92%という高いイオン透過率を実現している。
上記のように電気鋳造や細線の張設などの手法によって微細格子状電極は実現されているものの、こうした構造の電極は機械的強度が比較的低い。そのため、次のような問題がある。
直交加速部1の内部におけるZ軸方向のイオン初期運動エネルギーの広がりは、TOFMSの質量分解能の低下を引き起こす。直交加速部1におけるイオン引出し電場の強さをF、イオンの初期運動エネルギーをE、イオンの質量をmとしたとき、ターンアラウンドタイムTA(イオンの初期位置と初期運動エネルギーとが同一で、運動方向が引出し方向に対して順方向(即ち+Z軸方向)と逆方向(即ち−Z軸方向)を向いているイオン対に生じる飛行時間の差)は次の(1)式で与えられる。
A∝√(mE)/F …(1)
この(1)式から、ターンアラウンドタイムTAを小さくするには、直交加速部1における電場を強くすることが有効であることが判る。一例として、熱運動(E=30[meV])で運動するm/z1000のイオンに対する、引出し電場とターンアラウンドタイムTAとの関係の計算結果を図13に示す。TOFMSで高質量分解能を得るため、例えばターンアラウンドタイムTAを1[ns](1.0E-09s)以下にするには、1500[V/mm]よりも強い電場が必要であることが分かる。
直交加速部においてこのように電場を強くすると、格子状電極を挟んでそのイオン入口側と出口側との電場強度の差が大きくなり、それによって格子状構造の桟部に大きな力が作用する。ターンアラウンドタイムを短くするために電場強度を上げようとするほど、桟部に作用する力は大きくなる。例えば電場強度が1500[V/mm]であるとき、格子状電極の単位面積当りに作用する力を算出すると10[N/m2]にもなる。本願発明者の考察によれば、現在知られている上記のような構造の格子状電極では、このような力に耐えることは難しい。一例として、イオン透過率が80%で、W=20[μm]、T=10[μm]、L=30[mm]のニッケル製(ヤング率200[GPa])の格子状電極を想定し、両端固定等分布荷重梁として中心付近の変位量を見積ると6[mm]程度にもなり、格子状構造の桟部の破損が容易に起きることが予想される。なお、図14は上記条件で桟部の厚さTを変えたときの、中心付近での予想変位量を計算した結果である。
こうした破損を防止するためには、桟部に線材を用いた構造である場合には太い線材を用いればよいが、そうすると桟部の幅Wが大きくなりイオン透過率が犠牲になる。また、太い線材を用いる代わりに、細い線材を使用しながら開口の長さLを短くすることで機械的強度を上げることも考えられるが、同じくイオン透過率が犠牲になる。一方、上述したような電気鋳造で微細な格子状電極を製作する場合には、鋳型に付着した金属薄板を引き剥がす工程の都合上、厚さTをあまり厚くすることができず、桟部の幅Wを小さく保ったまま機械的強度を上げることは困難である。また、電気鋳造により製作された格子状電極を複数枚、高い位置精度を保って重ね合わせて接合することで機械的強度を高める方法も考えられるが、技術面やコストの点で難しい。
また、格子状電極を挟んでそのイオン入口側と出口側とで電場強度の差が大きいと、格子状電極の開口幅を小さくしても、その開口を通した電場の染み出しが起こり、マススペクトルに悪影響を及ぼす。例えば図11(a)に示した構成において、直交加速部1内の押出し電極11と1段目の格子状電極12との間の空間にイオンを導入する際には、押出し電極11と1段目の格子状電極12は接地電位、2段目の格子状電極13は引出し加速高電位となっており、理想的には、導入されたイオンはZ軸方向に力を受けず、X軸方向に直進する。そしてイオン射出の際には、パルス状の電圧が押出し電極11及び1段目の格子状電極12に印加され、それにより形成される電場によってイオンはTOF型質量分離器2へと射出される。しかしながら実際には、イオン導入時に2段目の格子状電極13による引出し加速電場が1段目の格子状電極12の開口を通して直交加速部1内へ漏れ込む。その電場の作用によって、射出前にイオンはZ軸方向に加速されイオンの軌道が曲げられてしまい、結果として質量分解能が低下することになる。また、漏れ込んだ電場の作用によって、導入されたイオンが射出前にTOF型質量分離器2中の無電場飛行領域2Aへ流れ込み続け、マススペクトルのバックグラウンド信号の増加をもたらす。
これに対し、特許文献1では、直交加速部1内の格子状電極の枚数を増やして電位障壁を形成することによって、押出し電極11と格子状電極12との間の空間にイオンが導入された状態における無電場飛行領域2Aへのイオンの流出を防止している。一方、特許文献2に記載の技術は直交加速部1に格子状電極を用いない構成であるが、イオン加速領域と無電場飛行領域との間に設置されたアパーチャ電極への印加電圧を切り替えることによって特許文献1と同様に電位障壁を形成し、イオン加速領域からの無電場飛行領域へのイオンの流出を防止している。しかしながら、特許文献1に記載の手法では、格子状電極の枚数を増やすため、コストアップに繋がる、或いはイオン透過率が低下する、といった問題がある。一方、特許文献2に記載の手法でも、電圧切替えのためのスイッチを余分に設ける必要があるためコストアップに繋がるといった問題がある。
米国特許第6469296号明細書 米国特許第6903332号明細書
コター(R.J. Cotter)、「タイム・オブ・フライト・マス・スペクトロメトリー:インストゥルメンテイション・アンド・アプリケイション・イン・バイオロジカル・リサーチ(Time-of-Flight Mass Spectrometry:Instrumentation and Applications in Biological Research)」、アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(American Chemical Society)、1997年 セルビー(David S. Selby)、ほか2名、「リデューシング・グリッド・ディスパージョン・オブ・イオンズ・イン・オーソゴナル・アクセラレイション・タイム-オブ-フライト・マス・スペクトロメトリー:アドバンテージ・オブ・グリッズ・ウィズ・レクタンギュラー・リピート・セルズ(Reducing grid dispersion of ions in orthogonal acceleration time-of-flight mass spectrometry: advantage of grids with rectangular repeat cells)」、インターナショナル・ジャーナル・オブ・マス・スペクトロメトリー(International Journal of Mass Spectrometry)、206、2001年、p.201-210 グイルハウス(M. Guilhaus)、ほか2名、「オーソゴナル・アクセラレイション・タイム-オブ-フライト・エムエス(Orthogonal Acceleration Time-of-Flight MS)」、マス・スペクトロメトリー・レビュー(Mass Spectrometry Review)、19、2000年、p.65-107 「イオン・オプティカル・グリッズ・フォー・アプリケイションズ・イン・タイム-オブ-フライト・マス・スペクトロメトリー(Ion Optical Grids for Applications in Time-Of-Flight Mass Spectrometry)」、ETP社、[平成23年9月16日検索]、インターネット<URL: http://www.sge.com/uploads/0e/45/0e453a8d8744bec8a4f2a986878b8d6a/PD-0251-A.pdf>
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的の1つは、イオンを加速したり減速したりするために利用される格子状電極のイオン透過率を犠牲にすることなくその機械的強度を改善することで、例えば直交加速部などにおけるイオン加速のための電場強度を上げることができる飛行時間型質量分析装置を提供することにある。
また本発明の他の目的は、装置のコストアップやイオン透過率の低下を回避しつつ、格子状電極を通した飛行領域側からイオン加速領域側への電場の染み出しを防止することにより、イオン加速領域から射出されるイオンの軌道の曲がりを抑えるとともに飛行領域側へのイオンの流出を防止することができる飛行時間型質量分析装置を提供することにある。
上記課題を解決するために成された第1発明は、イオンを加速して飛行空間に導入し、該飛行空間を飛行する間に質量電荷比に応じて分離されたイオンを検出する飛行時間型質量分析装置であって、イオンを通過させつつ加速する及び/又は減速する電場を形成するために、通過させるイオンビームの断面内の異なる位置にあるイオンをそれぞれ通過させ得る複数の開口を有する格子状電極を具備する飛行時間型質量分析装置において、
前記格子状電極は前記開口短手方向のサイズに対し2倍以上の厚さを有する構造体であることを特徴としている。
従来一般的な格子状電極では、その厚さつまりは開口深さが開口短手方向のサイズよりも小さい。これに対し、第1発明に係る飛行時間型質量分析装置では、格子状電極の厚さが開口短手方向のサイズに対し2倍以上とされている。本願発明者の検討によると、格子状電極の厚さと開口短手方向のサイズとをこのように定めれば、格子状電極を挟んで一方の側の空間に形成されている電場が該格子状電極の開口を通して他方側の空間にまで侵入することを実質的に防止できる。ここで「実質的に防止できる」とは、他方側の空間に存在するイオンの挙動に影響を与えるような大きさの電位を持つ電場の染み出しを防止できるという意味である。
上記第1発明における特徴的な格子状電極は、特に、この格子状電極を第1の格子状電極とし、そのほかに、押出し電極と、該第1の格子状電極を挟んで押出し電極と反対側に配置された第2の格子状電極と、を含む直交加速部を有し、第1及び第2の格子状電極をその順に通してイオンを直交加速部から射出させて飛行空間に導入する構成の飛行時間型質量分析装置に好適である。
この構成の飛行時間型質量分析装置では、押出し電極と第1の格子状電極との間の空間を無電場状態とし、且つ、第1の格子状電極と第2の格子状電極との間の空間には第1の格子状電極側から第2の格子状電極側へとイオンを移動させるような電場を形成した状態で、分析対象であるイオンを上記無電場状態の空間に導入する。このとき、第1の格子状電極を挟んで一方の側の空間は無電場の状態で、他方側の空間は強い電場が存在している状態であるが、前述のように、第1の格子状電極を通した電場による電位の漏れはないので、導入されたイオンは第1の格子状電極と第2の格子状電極との間の空間の電場の影響を受けない。それによって、射出前のイオンは第1の格子状電極の開口を通して漏れ出すことはなく、また射出前のイオン軌道の偏向も生じない。
また上記課題を解決するために成された第2発明の第1の態様は、イオンを加速して飛行空間に導入し、該飛行空間を飛行する間に質量電荷比に応じて分離されたイオンを検出する飛行時間型質量分析装置であって、イオンを通過させつつ加速する及び/又は減速する電場を形成するために格子状電極を具備する飛行時間型質量分析装置において、
前記格子状電極は、複数枚の導電性薄板をそれぞれスペーサ用導電性部材を間に挟んで積層させて一体化し、それを前記導電性薄板と直交する平面で所定間隔に切断することにより形成された、前記スペーサ用導電性部材の厚さを開口幅、前記導電性薄板の厚さを格子状構造の桟部の幅、前記切断の間隔を該桟部の厚さとする構造体であることを特徴としている。
電気鋳造や線材の張設により製作される従来の格子状電極では、桟部の間隔や桟部の幅を小さく維持したまま桟部の厚さを大きくして機械的強度を高めることができない。これに対し、第2発明に係る飛行時間型質量分析装置における格子状電極は、隣接する2本の桟部の間隔及び桟部自体の幅は導電性薄板、典型的にはステンレス等の金属薄板、の厚さにより決まる。10[μm]〜100[μm]程度の厚さの金属薄板は比較的容易に入手可能であるから、隣接する2本の桟部の間隔や桟部の幅もこの程度のサイズとすることができる。一方、桟部の厚さは導電性薄板の積層体を切断する際の切断間隔で決まるから、桟部の間隔や幅とは無関係に決めることができ、所望の機械的強度が得られるような充分な厚さにすることができる。したがって、主としてイオン透過効率の観点から桟部の間隔や幅を定めながら、桟部を厚くすることで機械的強度を高めることができる。
第2発明に係る飛行時間型質量分析装置で用いられる格子状電極を作製する工程において、間にスペーサ用導電性部材を挟んで所定の空隙を確保しながら複数の導電性薄板を積層させて一体化させる際に、面同士が接触する導電性薄板とスペーサ用導電性部材とのの接合方法は電気的導通が充分に確保できさえすれば特に問わない。ただし、接合面の凹凸によって桟部同士の間隔が広がって設計上の許容範囲を逸脱することは性能上望ましくない。そこで、導電性薄板とスペーサ用導電性部材とを接合させる際には、良好な面接合を行うのに適した拡散接合を用いるとよい。一方、こうした接合によって一体化された積層体を切断する際には、切断時に薄板に掛かる力が小さく良好な切断面が得られるワイヤ放電加工を利用するとよい。
なお、桟部の厚さを大きくした場合、機械的強度が向上するとともに開口を通した電場の染み出しも軽減されるが、その反面、格子状電極に入射してくるイオンが該電極を通過する距離が長くなる。そのため、格子状電極の開口面に直交する方向に入射してくるイオンは確実に電極を通り抜けるものの、該直交方向に対して或る程度角度を有して斜めに入射してくるイオンは桟部の厚さ方向の壁面に接触して消失する可能性が増す。そのため、イオンの入射方向のばらつきが大きい場合には、イオン透過効率が下がることになる。そこで、第2発明で用いられる格子状電極は、イオンの入射方向のばらつきが小さい条件の下で使用されることが好ましい。
こうした条件を満たす構成としては、イオンを初期的に加速するために、押出し電極と前記格子状電極とを含む直交加速部を有する直交加速方式の飛行時間型質量分析装置が挙げられる。こうした飛行時間型質量分析装置であれば、格子状電極を通過する際のイオンの入射方向のばらつきが小さいので、桟部の厚さが大きくてもイオンが隣接する2本の桟部の間の空間を通り抜け易く、高いイオン透過率を達成することができる。
また、複数枚の導電性薄板とスペーサ用導電性部材とから積層体を製作する際に、矩形状又は平行四辺形状の対向する2辺のサイズが他方の2辺のサイズに比べて充分に小さい導電性薄板を用いれば、切断工程を省いて積層体をそのまま格子状電極として利用することができる。
即ち、第2発明に係る飛行時間型質量分析装置の第2の態様は、イオンを加速して飛行空間に導入し、該飛行空間を飛行する間に質量電荷比に応じて分離されたイオンを検出する飛行時間型質量分析装置であって、イオンを通過させつつ加速する及び/又は減速する電場を形成するために格子状電極を具備する飛行時間型質量分析装置において、
前記格子状電極は、複数枚の導電性薄板をそれぞれスペーサ用導電性部材を間に挟んで積層させて一体化することにより形成された、前記スペーサ用導電性部材の厚さを開口幅、前記導電性薄板の厚さを格子状構造の桟部の幅、前記導電性薄板の一辺のサイズを該桟部の厚さとする構造体であることを特徴としている。
第1発明に係る飛行時間型質量分析装置によれば、分析対象であるイオンをイオン加速領域へ導入する際に、格子状電極を通した飛行領域側からの電場の影響を遮断することができるので、イオン加速領域へ導入されるイオンの軌道の曲がりを抑えることができ、高い質量分解能を確保することができる。また、飛行領域側へのイオンの流出を防止することができるので、そうしたイオンに起因するバックグラウンドノイズの抑制に有効である。また、従来技術のように、電場の染み出しを阻止するために格子状電極の枚数を増やしたりアパーチャ電極に印加する電圧を切り換えたりする必要はないので、コストアップも抑えることができる。もちろん、格子状電極を厚くすることで、その機械的強度も上がり破損などを防止することにもなる。
一方、第2発明に係る飛行時間型質量分析装置によれば、例えば加速電場や減速電場を形成するための格子状電極のイオン透過率を高く保ちながら機械的強度を上げることができる。そのため、格子状電極を挟んだ両側の空間の電場強度の差を大きくすることができ、それによってイオン初期加速部におけるイオンのターンアラウンドタイムを短縮して質量分解能を向上させることができる。また、格子状電極の桟部を厚くすることで、その開口を通した電場の染み出しを軽減することもできる。それにより、イオンを飛行させる空間の電場状態(無電場である状態)が理想状態に近づき、質量分析装置の収束特性の理論設計からのずれを小さく抑えて質量分解能の向上に繋がる。
また特に第2発明に係る飛行時間型質量分析装置の第1の態様によれば、導電性薄板やスペーサ用導電性部材を積層させて作製した積層体を切断して多数の格子状電極を得ることができるので、格子状電極1つ当たりの製作コストを抑えることができる。
本発明の一実施例である直交加速方式TOFMSにおける格子状電極の製造手順及び該格子状電極の外観斜視図。 本実施例の直交加速方式TOFMSの全体構成図。 本実施例における格子状電極の一部破断斜視図。 本実施例における格子状電極の軸上ポテンシャル計算に用いた電極形状を示す図。 図4の構成における格子状電極の軸上ポテンシャル分布の計算結果を示す図。 格子状電極を2枚設けた場合の軸上ポテンシャル計算に用いた電極配置と軸上の電位とを示す図。 図6に示した条件の下でのイオン導入時の電位分布のシミュレーション結果を示す図。 図6に示した条件の下での格子状電極の軸上ポテンシャル分布の計算結果を示す図。 他の実施例における格子状電極の外観斜視図。 他の実施例における格子状電極の外観斜視図。 典型的な直交加速方式TOFMSの概略構成図(a)及びイオン飛行の中心軸におけるポテンシャル分布図(b)。 従来の格子状電極の一例を示す一部破断斜視図。 引出し電場強度とターンアラウンドタイムTAとの関係の計算結果の一例を示す図。 格子状電極の桟部の厚さTを変えたときの中心付近での予想変位量を計算した結果を示す図。
以下、本発明の一実施例である直交加速方式TOFMSについて、添付図面を参照して説明する。図2は本実施例の直交加速方式TOFMSの全体構成図、図1は本実施例の直交加速方式TOFMSに使用される格子状電極100の製造手順の説明図及び外観斜視図である。
本実施例による直交加速方式TOFMSは、目的試料をイオン化するイオン源4と、イオンを直交加速部1に送り込むイオン輸送光学系5と、イオンを加速してTOF型質量分離器2に送り込む直交加速部1と、リフレクトロン24を備えるTOF型質量分離器2と、TOF型質量分離器2の飛行空間を飛行して来たイオンを検出する検出器3と、直交加速部1に含まれる押出し電極11、及び格子状電極100に所定の電圧を印加する直交加速電源部6と、を備える。
イオン源4におけるイオン化法は特に限定されず、試料が液体状である場合にはエレクトロスプレイイオン化(ESI)法や大気圧化学イオン化(APCI)法などの大気圧イオン化法が用いられ、また試料が固体状である場合にはマトリクス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI)などが用いられる。
この直交加速方式TOFMSにおける基本的な分析動作は次の通りである。イオン源4で生成された各種イオンはイオン輸送光学系5を通して直交加速部1に導入される。イオンが直交加速部1に導入される時点では直交加速部1の各電極11、100には加速用の電圧は印加されておらず、イオンが充分に導入された時点で直交加速電源部6から押出し電極11、格子状電極100に所定電圧が印加されることで加速電場が形成され、その電場の作用によってイオンは運動エネルギーを付与されて格子状電極100の開口を通り抜け、TOF型質量分離器2の飛行空間に送り込まれる。
図2中に示すように、直交加速部1の加速領域から発して飛行を始めたイオンはリフレクトロン24により形成される電場によって折り返され、最終的に検出器3に到達する。検出器3は到達したイオンの量に応じた検出信号を生成し、図示しないデータ処理部はこの検出信号から飛行時間スペクトルを求め、さらに飛行時間を質量電荷比に換算することでマススペクトルを求める。
本実施例の直交加速方式TOFMSの大きな特徴は、直交加速部1に配設される格子状電極100の構造とそれを作製する手順にある。
図1(c)は格子状電極100の外観斜視図、図3は格子状電極100の一部破断斜視図である。本実施例のTOFMSで用いられる格子状電極100は、断面矩形状である桟部101の間隔Pが100[μm]、桟部101の幅Wが20[μm]、桟部101の厚さTが3[mm]、隣接する2本の桟部101の間に形成される開口102の長さLが30[mm]、該開口102の幅は80[μm]である。
図1により、格子状電極100を作製する際の手順(工程)を説明する。まず、図1(a)に示すように、厚さが20[μm]である金属薄板(本発明における導電性薄板に相当)113と、互いに平行である2本の角形棒状で厚さが80[μm]である金属部材(本発明におけるスペーサ用導電性部材に相当)112とを交互に幾重にも重ね合わせ、さらにその両側を厚さが数mm程度である金属厚板111でサンドイッチ状に挟み込み、金属部材112と金属薄板113、金属部材112と金属厚板111とをそれぞれ接合することで全体を一体化する。両端部の金属板として板厚の厚い金属厚板111を用いたのは、全体の強度を確保するためである。ここでは、金属厚板111、金属部材112、金属薄板113ともにステンレス製であるが、材料はこれに限らない。
金属同士を接合する方法は特に限定されないが、その接合には、各板部材が大きな変形を起こすことなく、且つ部材間の電気的接触が充分に確保される(電気抵抗が低い)ことが要求される。こうした要求を満たす適切な接合方法として、拡散接合を用いるとよい。拡散接合とは、接合する部材同士を清浄な状態で密着させ、真空雰囲気や不活性ガス導入雰囲気などの下で、部材の融点以下の温度条件で加熱するとともに、大きな塑性変形を生じさせないように部材を加圧することにより、接合面間で起きる原子の拡散を利用して接合する方法である。ここでは、接合対象は同種の金属であるが、拡散接合では、異種の金属の接合も容易である。
隣接する2枚の金属薄板113同士の間、又は金属薄板113と金属厚板111との間に挟まれた金属部材112はちょうどスペーサとして機能する。したがって、全ての金属薄板113、金属部材112、金属厚板111を接合すると、図1(b)に示すように、ごく薄い扁平直方体状の空隙が多数形成された金属ブロック状の積層体110が得られる。次に、この積層体110を金属薄板113と直交する平面(X軸−Z軸平面に直交する平面)で所定間隔に(例えば図1(b)中の破線114で示す位置、又は一点鎖線115で示す位置で)切断してゆく。この切断の際には、切断面ができるだけきれいになるように、各部材に掛かる力(変形)をできるだけ小さく抑え、且つ、大きなバリなどが生じないようにするべく、ワイヤ放電加工法を用いるとよい。
例えば上述のように積層体110を破線114で示す位置で薄く切断してゆくことにより、図1(c)に示したような、金属薄板113を桟部101とし、金属部材112をスペーサとして形成された、空隙を開口102とし、さらに両側が剛性の高い枠体103とされた格子状電極100ができ上がる。また、積層体110を一点鎖線115で示す位置で薄く切断してゆけば、幅は図1(c)と同一で長さが若干長い開口を有する格子状電極が形成されることになる。上記手順による製作方法では、積層体110を製作するために或る程度のコストが掛かるが、1つの積層体110から多くの枚数の格子状電極100を切り出すことができるので、格子状電極100一枚当りの単価を抑えることが可能であり、コスト的には従来の電気鋳造法などに劣ることはない。
図14に示した桟部の厚さTと中心付近での予想変位量との関係に照らしてみると、桟部101の厚さTを3[mm]にすると、従来の10[μm]程度の厚さに比べて遙かに変位量を抑えられることが分かる。即ち、本実施例における格子状電極100の機械的強度は従来よりも格段に高くなる。
また、このように高いアスペクト比を持つ格子状電極100は、機械的強度が高まるのみならず、他にも利点がある。図4に示した電極形状(紙面に垂直な方向に平面対称で計算)及び電圧印加条件で、格子状電極の桟部の厚さを10[μm]及び3[mm]としたときのポテンシャル分布の計算結果を図5に示す。図5において、理想ポテンシャル(Videal)とは、直交加速部1の内部(X<10[mm])に1400[V/mm]の電場が生じ、出口側の格子状電極100の後方(X>10[mm])では0[V]となる状態である。中心軸に沿って形成されるポテンシャル分布をそれぞれの厚さの格子状電極を用いた場合に対して計算し、軸上ポテンシャルの理想ポテンシャルからのずれ(差)ΔVを求めた。
図5から分かるように、格子状電極の厚さが10[μm]である場合(従来の電気鋳造等により製造される格子状電極)には、格子状電極の境界を超えて(つまりは開口を通して)電場の染み出しが起きており、X>10[mm]のかなり遠方まで大きなポテンシャルずれが生じている。このようなポテンシャルずれは、質量分析装置の収束特性の理論からのずれ、さらには性能の低下を引き起こす。これに対し、本実施例の直交加速方式TOFMSで使用されている厚さが3[mm]である格子状電極の場合には、X>10[mm]では電場の染み出しが殆ど生じておらず、ポテンシャルずれが殆ど0であることが分かる。このため、理論計算による収束条件を乱す要因を減らすことができる。
次に、既述の図11に示したように垂直加速部において格子状電極が2枚設けられ、イオン射出時のイオン加速領域が2段構成である場合について、格子状電極の開口を通した電場の染み出しと格子状電極の厚さとの関係を検討した結果を説明する。図6(a)はここで検討した直交加速部1の電極配置を示す図、図6(b)はイオン導入時と射出時の電位分布を示す図である。
図6(a)に示すように、Z軸方向に沿って、0≦Z≦5[mm]の位置に押出し電極11が配置され、11≦Z≦(11+T)[mm]の位置に格子状電極(G1)100(図11(a)における格子状電極12)が配置され、Z=31[mm]の位置に別の格子状電極(G2)13が配置されている。即ち、Z軸方向に沿って、5≦Z≦11[mm]の範囲が第1加速領域、(11+T)≦Z≦31[mm]の範囲が第2加速領域である。格子状電極100のサイズは、格子の幅W=20[μm]、格子の間隔P=100[μm]、開口幅P−W=80[μm]、格子の厚さT[mm]、である。
図6(a)中に示した格子状電極100の形状(紙面に垂直な方向に平面対称で計算)で、イオンを第1加速領域内にX軸方向に導入(充填)するときには押出し電極11と格子状電極100の電位をいずれも0[V]としておき、イオンが充分に導入された後に、押出し電極11に正電圧(+500[V])、格子状電極100に負電圧(−500[V])を印加することで、第1加速領域内に直流電場を形成し、正イオンをZ軸正方向に加速するものとする。
イオン導入時(即ち、押出し電極11と格子状電極100の電位が共に0[V]のとき)の電位分布のシミュレーション結果を図7に示す。図7は、電場の染み出しによる等電位面を、−1[V]〜−10[V]の範囲の1[V]間隔の等高線で以て示した図である。ここでは、格子状電極100の厚さTを10[μm](従来技術レベル)、100[μm](格子の矩形状開口の短辺(幅)のサイズDと同程度)、500[μm](5D程度)、1000[μm](10D程度)の4種類について計算を行った。この図7から、T=10[μm]では格子状電極100の開口を通して反対側へと大きく電場が染み出していることや、格子状電極100の厚さが大きくなるほど電場の染み出しが小さくなっていることが分かる。
図8はZ軸上のポテンシャルの計算結果で、(b)は(a)の縦軸の拡大図である。T=10[μm]では電場の染み出しが大きくその電場による電位は最大数Vにもなっている。この電場の影響で、X軸方向に第1加速領域中に導入されたイオンはZ軸方向に偏向され、イオン軌道が曲がるために結果として質量分解能が低下することが予想される。T=100[μm]の場合、T=10[μm]に比べれば染み出し電場による電位は大幅に減るが、それでも最大百mV程度の電位が生じている。室温におけるイオンの熱運動エネルギーがおおよそ30[meV]であることから、このエネルギーよりも大きな染み出し電位を示すT=100[μm]では、イオン導入時に無電場飛行領域側にイオンが流れ出す可能性が高いといえる。
これに対し、T=250[μm]、即ち格子(つまりは桟部101)の厚さが開口幅の2.5倍程度である場合には、染み出し電場による電位は10[mV]以下で室温におけるイオンの熱運動エネルギーよりも充分に小さくなっている。このため、染み出し電場によってイオンは大きく加速されず、無電場飛行領域側にイオンが流出することはない。T=100[μm]とT=250[μm]との間では、染み出し電場による電位はほぼリニアに変化すると推測し得るから、上記結果から、格子の厚さを開口幅の2倍以上としておけば、染み出し電場による電位を室温におけるイオンの熱運動エネルギーよりも確実に小さくすることができ、イオンの流出やイオン導入時のその軌道の曲がりを防止することができるといえる。
上記のように格子状電極100の桟部101の厚さを厚くしたことで考えられる不利な点は、イオンが開口102を通過する際に桟部101の壁面に衝突することによるイオン消失(イオン透過率の低下)が起こり易くなることである。このイオン消失は、格子状電極100の入射面に対し直交する方向にイオンが入射するとき(つまり、桟部101の厚さ方向とイオンの進行方向とが平行であるとき)には何ら問題がなく、イオンの入射方向の広がり(入射角度広がり)が大きい場合ほど問題となる。本実施例の飛行時間型質量分析装置のように、押出し電極11と格子状電極100とを用いて直交方向にイオンを加速する構成では、イオン射出時の方向が比較的揃い易く、格子状電極100へのイオンの入射角度広がりは小さい。そのため、桟部101の厚さを大きくしても、イオンの損失は少なくて済む。
即ち、本実施例の直交加速方式TOFMSでは、図2、図3に示すように、イオンをX軸方向に対しできるだけ平行なビームとなるように直交加速部1へ入射させる。格子状電極100はその開口102の長手方向がX軸方向と平行になるように配置されている。したがって、直交加速部1におけるイオン加速直前のイオンパケットは格子状電極100の開口102の長手方向と同方向に進行している。このとき、イオンが持つZ軸方向の初期速度成分は小さいので加速時のターンアラウンドタイムは小さく、ターンアラウンドタイムに起因するイオンパケットの時間広がりは小さくなる。それ故に、高い質量分解能が得られる。また、イオンが持つY軸方向の初期速度成分も小さいので、上述したような構造の格子状電極100でも少ない損失で以てイオンは開口102を通過する。
一例として、桟部101の厚さT=3[mm]、幅W=20[μm]、間隔P=100[μm]のときの許容初期Y軸方向エネルギーを見積る。幾何学的に求まる、格子状電極100への入射時の許容角度広がりθは次の(2)式となる。
θ=tan-1(0.04/3)=0.7639[deg] …(2)
一方、格子状電極100への入射時にイオンがEz=5600[eV]まで加速されるとすると、
θ=tan-1√(Ey/Ez) …(3)
である。したがって、(2)、(3)式から、許容される初期Y軸方向エネルギーは0.996[eV]と求まる。この値は、Y軸及びZ軸方向の初期エネルギーを熱運動エネルギー(30meV)程度以下まで落すことができる直交加速方式TOFMSでは充分に大きな値である。つまり、本実施例の直交加速方式TOFMSは、上記のような特徴的な構造の格子状電極100を直交加速部1に用いてもイオン透過率低下の影響は小さくて済み、質量分解能の改善効果を充分に享受することができる、と結論付けることができる。
図9は上記格子状電極100の一変形例である格子状電極100Bを示す斜視図である。この変形例の構成では、スペーサとして機能する金属部材を作製時に追加することにより、細長い開口102の途中に、桟部101を保持する保持部105を設けている。当然のことながら、保持部105を設けると機械的強度は上がるものの、イオン透過率を低下させてしまうことになる。したがって、機械的強度とイオン透過率との兼ね合いから、各部材の形状や数を決めればよい。即ち、イオン透過率を或る程度を犠牲にしながら機械的強度をより高めるために、保持部105の数を増やしてもよい。即ち、本発明に係る装置で使用される格子状電極は、N×M個(ただし、Nは1以上の整数、Mは或る程度大きな整数)の行列状の開口を有している構造であればよく、図1(c)に示した格子状電極100はN=1、M=15であり、図9に示した格子状電極100BはN=2、M=15の例である。また、NはMと同程度の大きな値であってもよい。
さらに改良として、図9に示した格子状電極100Bの構成において、保持部105をイオンパケットの進行方向に揃えておくことで、保持部105に衝突して消失するイオン量を最小限に抑えることができる。即ち、図10に示すように、保持部105の向きをイオンパケットの傾き角度に揃え、格子状電極100のイオン入射面に直交する線に対しθsだけ傾ける。このときのイオンパケットの傾き角θsは、
θs=tan-1√(Ex/Ez) …(4)
で与えられる。ここでExはX軸方向への初期エネルギー、Ezは格子状電極100を通過する際のZ軸方向への加速エネルギーである。このθsはイオン光学設計の際に得られる基本的な数値であるから、図10に示した構成の格子状電極100Bを得ることは容易である。
また、図1から分かるように、金属薄板113、金属部材112及び金属厚板111として始めからZ軸方向にサイズの小さな(例えば3[mm])部材を用いれば、拡散接合等による積層工程のみで、その後の切断工程を行うことなく、目的とする格子状電極100を得ることができる。
また、上記実施例は上記のような特徴的な構成の格子状電極を直交加速部1において加速電場を形成するために用いるものであるが、該格子状電極は例えば飛行空間においてイオンを通過させながら加速電場や減速電場を形成する必要がある箇所に利用することができる。つまり、図11における格子状電極22、23に代えて格子状電極100、100Bなどを利用することもできる。
また、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
1…直交加速部
11…押出し電極
100、100B…格子状電極
101…桟部
102…開口
103…枠体
105…保持部
110…積層体
111…金属厚板
112…金属部材
113…金属薄板
114…破線(切断線)
115…一点鎖線(切断線)
2…TOF型質量分離器
24…リフレクトロン
3…検出器
4…イオン源
5…イオン輸送光学系
6…直交加速電源部

Claims (8)

  1. イオンを加速して飛行空間に導入し、該飛行空間を飛行する間に質量電荷比に応じて分離されたイオンを検出する飛行時間型質量分析装置であって、イオンを通過させつつ加速する及び/又は減速する電場を形成するために、通過させるイオンビームの断面内の異なる位置にあるイオンをそれぞれ通過させ得る複数の開口を有する格子状電極を具備する飛行時間型質量分析装置において、
    前記格子状電極は前記開口短手方向のサイズに対し2倍以上の厚さを有する構造体であることを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
  2. 請求項1に記載の飛行時間型質量分析装置であって、
    イオンを初期的に加速するために、押出し電極と、前記格子状電極である第1の格子状電極と、該第1の格子状電極を挟んで前記押出し電極と反対側に配置された第2の格子状電極と、を含む直交加速部を有し、前記第1及び第2の格子状電極をその順に通してイオンを前記直交加速部から射出させて飛行空間に導入することを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
  3. イオンを加速して飛行空間に導入し、該飛行空間を飛行する間に質量電荷比に応じて分離されたイオンを検出する飛行時間型質量分析装置であって、イオンを通過させつつ加速する及び/又は減速する電場を形成するために格子状電極を具備する飛行時間型質量分析装置において、
    前記格子状電極は、複数枚の導電性薄板をそれぞれスペーサ用導電性部材を間に挟んで積層させて一体化し、それを前記導電性薄板と直交する平面で所定間隔に切断することにより形成された、前記スペーサ用導電性部材の厚さを開口幅、前記導電性薄板の厚さを格子状構造の桟部の幅、前記切断の間隔を該桟部の厚さとする構造体であることを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
  4. イオンを加速して飛行空間に導入し、該飛行空間を飛行する間に質量電荷比に応じて分離されたイオンを検出する飛行時間型質量分析装置であって、イオンを通過させつつ加速する及び/又は減速する電場を形成するために格子状電極を具備する飛行時間型質量分析装置において、
    前記格子状電極は、複数枚の導電性薄板をそれぞれスペーサ用導電性部材を間に挟んで積層させて一体化することにより形成された、前記スペーサ用導電性部材の厚さを開口幅、前記導電性薄板の厚さを格子状構造の桟部の幅、前記導電性薄板の一辺のサイズを該桟部の厚さとする構造体であることを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
  5. 請求項3又は4に記載の飛行時間型質量分析装置であって、
    前記導電性薄板と前記スペーサ用導電性部材とは拡散接合により一体化されていることを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
  6. 請求項3〜5のいずれかに記載の飛行時間型質量分析装置であって、
    イオンを初期的に加速するために、押出し電極と前記格子状電極とを含む直交加速部を有し、該格子状電極を通してイオンを該直交加速部から射出させて飛行空間に導入することを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
  7. 請求項3〜6のいずれかに記載の飛行時間型質量分析装置であって、
    前記格子状電極はその開口の長手方向に該開口を仕切り、隣接する導電性薄板の間に挟まれたスペーサ用導電性部材により形成される保持部を有することを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
  8. 請求項7に記載の飛行時間型質量分析装置であって、
    前記保持部は、前記開口内の空間に面した壁面が該開口を通過するイオンパケットの進行方向に一致するように設けられていることを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
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