従来、基質として、稲藁等のリグノセルロース系バイオマスを、微生物が産生する糖化酵素により糖化し、得られた糖を発酵させることによりエタノールを製造する方法が知られている。ここで、リグノセルロース系バイオマスは、セルロース又はヘミセルロースにリグニンが強固に結合した構成を備えている。そこで、糖化には、リグノセルロース系バイオマスを前処理し、リグノセルロース系バイオマスに含まれるリグニンを解離し、又はリグノセルロース系バイオマスを膨潤させた糖化前処理物が用いられている。
尚、本願では、「解離」との用語は、セルロース又はヘミセルロースとリグニンとの結合の少なくとも一部を切断することを意味する。又、「膨潤」との用語は、液体の浸入によって結晶性セルロースを構成するセルロース若しくはヘミセルロースに空隙を生じ、又はセルロース繊維の内部に空隙を生じて、結晶性セルロースが膨張することを意味する。
従来のエタノールの製造方法では、糖化酵素が高価であるので、糖化前処理物に含まれる基質を低濃度にし、糖化酵素の使用量を低減することが行われている。ところが、糖化前処理物に含まれる基質を低濃度にすると、このような糖化前処理物から得られる糖化溶液も低濃度になり、ひいては糖化溶液を発酵させて得られるエタノールも低濃度となる。この結果、得られたエタノールを濃縮するために蒸留する際に、蒸留に要する時間及び熱エネルギーが増加するという問題がある。
前記問題を解決するために、糖化前処理物に含まれる基質を高濃度にすると共に、糖化酵素の使用量を増加させ、高濃度のエタノールを得ることが考えられる。この場合には、高価な糖化酵素の使用量が増加しコスト増となるため、エタノールの製造方法の全体としてのコストを低減する必要がある。
エタノール製造方法におけるコスト低減の一方策として、リグノセルロース系バイオマスの糖化前処理を効率化することが考えられる。
リグノセルロース系バイオマスの糖化前処理方法として、例えば、リグノセルロース系バイオマスを液体の純アンモニアと混合し、加熱、加圧した後、急激に圧力を低下させる方法が知られている。このようにすると、気化したアンモニアのガスが急激に膨張されることによって、リグノセルロース系バイオマスも膨張され、リグノセルロース系バイオマスからリグニンが物理的に除去される(特許文献1参照)。
しかし、純アンモニアを使用するには、その保管のための圧力容器等、特殊な装置を必要とするので、純アンモニアを水溶液としたアンモニア水を用いることが検討されている。
アンモニア水を使用する方法として、リグノセルロース系バイオマスをオゾンに接触させた後、アンモニア水に浸漬する方法が知られている(特許文献2参照)。しかし、この場合には、リグノセルロース系バイオマスをオゾンに接触させるための装置が必要であり、またそのための工程が加わるため、必ずしもコストを低減することができない。
また、リグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合して得られた混合物を加熱する方法が知られている(特許文献3参照)。特許文献3記載の方法によれば、リグノセルロース系バイオマスを0.8〜15重量%の濃度のアンモニア水に分散し、加熱することにより、リグノセルロース系バイオマスからリグニンを解離し、又は該リグノセルロース系バイオマスを膨潤させることができるとされている。
しかしながら、特許文献3記載の方法を実施するには、リグノセルロース系バイオマスからリグニンを解離し、又は該リグノセルロース系バイオマスを膨潤させるための熱エネルギーを供給する加熱手段を備える装置を必要とするという不都合がある。
そこで、本発明は、かかる不都合を解消して、熱エネルギーを供給することなく、リグノセルロース系バイオマスからリグニンを解離し、又はリグノセルロース系バイオマスを膨潤させることができ、糖化前処理に要するコスト低減することができるリグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置を提供することを目的とする。
本発明のリグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置は、基質としてのリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合して、得られた湿粉体の基質混合物を処理して該基質に含まれるリグニンを解離し、又は該基質を膨潤させて湿粉体の糖化前処理物を得るように構成された処理ユニットと、該糖化前処理物からアンモニアを分離するように構成されたアンモニア分離ユニットとを備えるリグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置において、該処理ユニットは、処理槽と、該処理槽に該基質を連続して供給するように構成された基質供給ユニットと、該処理槽に該アンモニア水を連続して供給するように構成されたアンモニア水供給ユニットと、該処理槽に供給された該基質及び該アンモニア水を攪拌して該基質に剪断力及び衝撃力を付与すると共に、該アンモニア水と該基質とを混合して、該基質混合物を得るように構成された混合ユニットと、該処理槽と連通して該処理槽の直下に配設され、該処理槽から供給される基質混合物を所定時間貯留すると共に、貯留する間に非加熱状態で該基質に含まれるリグニンを解離し、又は該基質を膨潤させて、糖化前処理物を得るように構成された貯留ユニットとを備え、該アンモニア分離ユニットは、該貯留ユニットの下部に配設され、該糖化前処理物を該貯留ユニットから該アンモニア分離ユニットに連続して供給するように構成された糖化前処理物供給ユニットを備えると共に、該貯留ユニットの直下に配設され、該アンモニア水供給ユニットは、20〜30質量%の範囲の濃度のアンモニア水を供給すると共に、該基質供給ユニットにより供給される該基質に対し、前記アンモニア水を、1:0.7〜1:1.3の範囲の質量比で供給することを特徴とする。
本発明のリグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置(以下、糖化前処理装置と略記することがある)によれば、まず、処理槽に、基質供給ユニット及びアンモニア水供給ユニットから、それぞれ基質としてのリグノセルロース系バイオマスと、アンモニア水とを連続して供給する。
ここで、基質としてのリグノセルロース系バイオマスは、単にアンモニア水と混合するだけでは、アンモニア水が均一に含浸しにくく、このような基質にアンモニアを作用させてリグニンを解離するには加熱を必要とする。
これに対して、本発明の糖化前処理装置では、基質及びアンモニア水が処理槽に連続して供給されると共に、混合ユニットにより攪拌されることによりアンモニア水と基質とが混合される。このとき、基質に剪断力及び衝撃力が付与されることにより、基質にアンモニア水が均一に含浸された湿粉体の基質混合物を得る。
次に、混合ユニットで得られた基質混合物を、処理槽と連通する貯留ユニットに供給し、貯留する。貯留ユニットに供給された基質混合物中の基質にはアンモニア水が均一に含浸されているので、貯留ユニットに貯留されている間に、アンモニアにより基質からリグニンを解離し、又は基質を膨潤させる反応が、加熱によることなく進行する。
次に、貯留ユニットに貯留される糖化前処理物を、貯留ユニットの下部に配設された糖化前処理物供給ユニットにより、貯留ユニットからアンモニア分離ユニットに連続して供給する。貯留ユニットに貯留される糖化前処理物は移送し難い湿粉体であるので、糖化前処理物供給ユニットにより、強制的に糖化前処理物を貯留ユニットから排出し、アンモニア分離ユニットに連続して供給する。
そして、アンモニア分離ユニットにより、糖化前処理物からアンモニアを分離することにより、アンモニアが分離された糖化前処理物を得る。
本発明の糖化前処理物によれば、基質混合物を貯留ユニットに所定時間貯留することにより、加熱することなく基質からリグニンを解離し、又は該基質を膨潤させた糖化前処理物を得ることができ、糖化前処理に要するコストを低減することができる。
また、本発明の糖化前処理装置によれば、貯留ユニットが処理槽の直下に配設され、アンモニア分離ユニットが貯留ユニットの直下に配設されるので、移送し難い湿粉体の基質混合物に対する処理槽から貯留ユニットへの移送を容易にし、基質混合物から得られた移送し難い湿粉体の糖化前処理物に対する貯留ユニットからアンモニア分離ユニットへの移送も容易にする。従って、基質混合物及び糖化前処理物の移送に要するコストを低減することができ、糖化前処理に要するコストを低減することができる。
さらに、本発明の糖化前処理装置によれば、アンモニア分離ユニットにより糖化前処理物からアンモニアを分離するので、糖化される糖化前処理物のpHを至適pHに調整するpH調整剤の使用量を低減することができる。
尚、本発明の糖化前処理装置において、アンモニア水供給ユニットは、20〜30質量%の範囲の濃度のアンモニア水を供給すると共に、基質供給ユニットにより供給される基質に対し、アンモニア水を、1:0.7〜1:1.3の範囲の質量比で供給する。
従って、混合ユニットにおいて、基質にアンモニア水をより均一に含浸させ、基質からのリグニンの解離又は基質の膨潤をより容易に行うことができる。
ここで、アンモニア水の濃度が20質量%未満であるときは、基質からのリグニンの解離又は基質の膨潤が不十分になることがある。一方、アンモニア水の濃度が30質量%を超えても、基質からのリグニンの解離又は基質の膨潤について、それ以上の効果を得ることはできない。
また、基質1質量部に対して添加されるアンモニア水が0.7質量部未満であるときは、アンモニア水が過少になり、基質にアンモニア水を均一に含浸させることができないことがある。この結果、基質からのリグニンの解離又は基質の膨潤が不十分になることがある。
一方、基質1質量部に対して添加されるアンモニア水が1.3質量部を超えても、基質からのリグニンの解離又は基質の膨潤について、それ以上の効果を得ることはできない。
本発明の糖化前処理装置において、前記アンモニア分離ユニットは、前記糖化前処理物を熱媒体により加熱し、該糖化前処理物からアンモニアを分離し、前記アンモニア分離ユニット内の該糖化前処理物の流れと該熱媒体の流れとが対向流であることが好ましい。
アンモニア分離ユニットに供給される糖化前処理物は、アンモニア分離ユニット内で加熱されることによりアンモニアを放散するので、糖化前処理物がアンモニア分離ユニットに供給されてから排出されるまでの間、糖化前処理物中のアンモニア水の濃度が低下する。また、糖化前処理物中のアンモニア水の濃度が低下すると、アンモニア水の沸点が上昇する。
そこで、アンモニア分離ユニットは、糖化前処理物がアンモニア分離ユニットに供給されてから排出されるまでの間、糖化前処理物からアンモニアを十分に分離するために、アンモニア分離ユニット内を流れる糖化前処理物の温度をアンモニア水の濃度に対応した沸点の温度とする必要がある。
従って、アンモニア分離ユニット内の糖化前処理物の流れと熱媒体の流れとが対向流であることから、糖化前処理物がアンモニア分離ユニットに供給されてから排出されるまでの間、糖化前処理物からアンモニアを十分に分離するために必要な糖化前処理物と熱媒体との温度差を実現でき、効率の良い熱交換を行うことができる。
尚、アンモニア分離ユニットにおいて糖化前処理物を加熱することだけでは、十分にアンモニアを分離することができない場合がある。
そこで、本発明の糖化前処理装置において、前記アンモニア分離ユニットは、該アンモニア分離ユニット内に供給された糖化前処理物から気化したアンモニアガスを吸引するように構成されたアンモニアガス吸引ユニットと、該アンモニアガス吸引ユニットを用いて該アンモニアガスを吸引することにより、該アンモニア分離ユニット内を移動する糖化前処理物を真空状態に保持可能に構成された真空保持ユニットとを備え、該真空保持ユニットは、該アンモニア分離ユニット内の糖化前処理物を真空状態に保持すると共に、前記貯留ユニットから供給された糖化前処理物を該アンモニア分離ユニットに導入するように構成された導入ユニットと、該アンモニア分離ユニット内の糖化前処理物を真空状態に保持すると共に、アンモニアが分離された糖化前処理物を該アンモニア分離ユニットから導出するように構成された導出ユニットとを含むことが好ましい。
この結果、導入ユニット及び導出ユニットにより、糖化前処理物を真空状態に保持しながら、アンモニア分離ユニット内を移動させることができる。そして、アンモニアガス吸引ユニットにより、糖化前処理物から気化したアンモニアガスが吸引されるので、糖化前処理物からアンモニアを十分に分離することができる。
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
図1に示すように、本実施形態のリグノセルロース系バイオマスの糖化前処理装置1は、処理ユニット2と、アンモニア分離ユニット3と、移送ユニット4とを備えている。処理ユニット2は、基質としてのリグノセルロース系バイオマスと水とを混合して基質混合物を形成すると共に、基質混合物中の基質からリグニンを解離し、又は基質を膨潤させて糖化前処理物を得る装置である。また、アンモニア分離ユニット3は、糖化前処理物からアンモニアを分離する装置である。また、移送ユニット4は、アンモニアが分離された糖化前処理物を後工程の酵素糖化工程に移送する装置である。
本実施形態において、基質としてのリグノセルロース系バイオマスとしては、例えば稲藁を用いることができる。
処理ユニット2は、処理槽21を備えており、処理槽21は基質を連続して供給する基質供給ユニット22と、アンモニア水を連続して供給するアンモニア水供給ユニット23とを備えている。また、処理槽21は、基質及びアンモニア水を攪拌して基質に剪断力及び衝撃力を付与すると共に、アンモニア水と基質とを混合する混合ユニット(図示せず)を備えている。
また、処理ユニット2は、処理槽21と配管24を介して連通すると共に、処理槽21においてアンモニア水と基質とを混合して得られた基質混合物が供給され、該基質混合物を貯留する貯留ユニットとしてのサイロ25を備えている。サイロ25は、処理槽21の直下に配設されている。配管24はその下端部がサイロ25内に挿入され、基質混合物が排出される排出口がサイロ25内に開口している。
サイロ25は、基質混合物を所定時間貯留する間に、加熱することなく基質からリグニンを解離し、又は基質を膨潤させることにより、糖化前処理物を得る。また、サイロ25は、サイロ25内の基質混合物及び糖化前処理物の表面を検知するレベル計25aを備えている。
サイロ25は、その上部に、排気口26を備えている。排気口26は、処理槽21から基質混合物が供給される際に混入するアンモニアガス及び空気を外部に排出する機能を備えている。
アンモニア分離ユニット3は、図1に示すように、シェル内部に多管式加熱管束が設けられ、多管式加熱管束の管内に熱媒体を流して、アンモニア分離ユニット3に供給される糖化前処理物を加熱するものである。また、アンモニア分離ユニット3はサイロ25の直下に配設されている。
アンモニア分離ユニット3は、サイロ25で得られた糖化前処理物を、強制的に所定量連続してアンモニア分離ユニット3に供給する糖化前処理物供給ユニットとしての粉体供給機27を備えている。粉体供給機27は、サイロ25の直下に配設され、サイロ25に直結されている。
アンモニア分離ユニット3は、アンモニア分離ユニット3内で糖化前処理物を加熱する熱媒体を供給する熱媒体供給導管28が接続されている。熱媒体としては、例えば、水蒸気、温水等を用いることができる。そして、アンモニア分離ユニット3内において、糖化前処理物の流れと熱媒体の流れとが対向流となるように構成されている。
また、アンモニア分離ユニット3は、アンモニア分離ユニット3内の糖化前処理物から気化したアンモニアガスを吸引するアンモニアガス吸引ユニット29を備えている。アンモニアガス吸引ユニット29として、例えば真空ポンプ等を用いることができる。
さらに、アンモニア分離ユニット3は、粉体供給機27と直結し、粉体供給機27を介してサイロ25から供給された糖化前処理物をアンモニア分離ユニット3内に導入する導入ユニット30と、アンモニア分離ユニット3のシェルに対して導入ユニット30と反対側に配設され、アンモニアが分離された糖化前処理物をアンモニア分離ユニット3から導出する導出ユニット31と備えている。
導入ユニット30と導出ユニット31とは、アンモニアガス吸引ユニット29を用いてアンモニアガスを吸引することにより、アンモニア分離ユニット3内の糖化前処理物を真空状態に保持できる真空保持ユニットとしての機能も備える。導入ユニット30と導出ユニット31として、例えばロータリーバルブを用いることができる。
図2は、本実施形態の導入ユニット30と導出ユニット31として用いられるロータリーバルブを示したものである。ロータリーバルブ32は、ロータリーバルブケース33の中にモータ34を駆動することにより回転するロータ35が挿入され、上部からロータ35に充填される糖化前処理物を回転により下部に移動させ排出供給するものである。
ロータリーバルブ32は、ロータ35の上部と下部とが圧力差を有する場合でも、糖化前処理物をロータ35の上部から下部に移送すると共に、ロータ35の上部及び下部の圧力を維持する。
次に、本実施形態の前処理装置1の作動について説明する。
前処理装置1では、まず、処理ユニット2において、基質供給ユニット22から処理槽21に基質を連続して供給すると共に、アンモニア水供給ユニット23から処理槽21にアンモニア水を連続して供給する。本実施形態では、基質供給ユニット22として、基質を定量的に供給できる定量フィーダを用い、アンモニア水供給ユニット23として、流量制御可能な送液ポンプを用いる。
基質としては、例えば稲藁を用いることができる。稲藁は、例えば図示しないカッターミルにより約3mmの長さに粉砕されている。基質の供給量として、本実施形態では、粉体供給機27によりサイロ25からアンモニア分離ユニット3に供給される糖化前処理物の供給量に対応した基質の供給量が基質供給ユニット22を介して処理槽21に供給される。
また、アンモニア水として、本実施形態では、20〜30質量%の範囲の濃度、例えば25質量%の濃度を備えるものを用いる。アンモニア水を供給するときに、アンモニア水供給ユニット23は、基質供給ユニット22により供給される基質1質量部に対し、アンモニア水を、0.7〜1.3質量部の範囲で、好ましくは1質量部供給する。
前記のようにして供給された基質及びアンモニア水は、処理槽21内で攪拌されることにより、アンモニア水と基質とが混合されて湿粉体の基質混合物となる。このとき、基質には、同時に供給されるアンモニア水との衝突、基質同士の衝突、又は基質と処理槽21との衝突等による衝撃力と、攪拌による剪断力とが付与される。この結果、基質にアンモニア水が均一に含浸される。
次に、基質混合物は、配管24を介して処理槽21から連続的に排出され、サイロ25に供給される。このとき、基質混合物は湿粉体となっているが、サイロ25は処理槽21の直下に配設され、配管24はその下端部がサイロ25内に挿入されている。従って、基質混合物が配管24から排出される排出口がサイロ25内で開口し、周囲に基質混合物を飛散させるのを防止する。さらに、配管24の長さを短縮することにより、基質混合物はブリッジ現象を起こして配管24を閉塞させることなく、サイロ25に供給される。
また、サイロ25内には、基質混合物と共に、アンモニアガスや空気が混入する。しかし、アンモニアガス及び空気は、サイロ25の上部に設けられた排気口26からサイロ25の外部に排出されるので、アンモニアガス及び空気がサイロ25における基質混合物の貯留を妨げることはなく、サイロ25の内部空間は基質混合物の貯留に有効に利用される。
本実施形態では、処理槽21として、例えば、図3に示す構成を備えるミキサ41(大平洋機工株式会社製、商品名:スパイラル・ピンミキサ(W型))を用いることができる。ミキサ41は、平板状の上蓋42と、上蓋42の外周縁から下方に連なる逆円錐形の側壁43とからなるハウジング44を備え、上蓋42の中央部に粉体投入口45と液体投入口46とを同心円状に備えている。ハウジング44は、内部に回転自在のミキシングロータ47を備えると共に、側壁43の下方の一部に開口する排出口48を備えている。
ミキシングロータ47は、上蓋42との間に間隔を存して対向する水平面49と、水平面49の外周縁から下方に連なり、側壁43との間に間隔を存して対向する斜面50とからなる。水平面49には複数の一次分散ピン51が螺旋状に配設されており、斜面50には複数の二次分散ピン52が配設されている。
ミキサ41では、粉体投入口45が基質供給ユニット22に接続され、液体投入口46がアンモニア水供給ユニット23に接続される。また、排出口48が配管24の排出口に相当し、ミキシングロータ47が混合ユニットに相当する。
ミキサ41によれば、ミキシングロータ47を回転させながら、粉体投入口45から基質を連続して供給すると共に、液体投入口46からアンモニア水を連続して供給する。このようにすると、アンモニア水がミキシングロータ47の水平面49に沿って外周方向に拡散される一方、基質が水平面49上でアンモニア水に合流することにより攪拌される。また、基質は、前記のように攪拌されながら、一次分散ピン51に衝突することにより衝撃力及び剪断力が付与される。
そして、基質はアンモニア水と共に、ミキシングロータ47の斜面50に沿って流下する一方、二次分散ピン52により上方へ押し上げられる。この結果、アンモニア水と基質とが混合されると共に、基質にアンモニア水が均一に含浸された基質混合物が形成され、排出口48から連続して排出される。
処理槽21は、供給された基質及びアンモニア水を攪拌して基質に剪断力及び衝撃力を付与することができ、基質とアンモニア水とを混合して、基質混合物を形成することができるものであればよく、図3に示すミキサ41に限定されるものではない。このような処理槽21として、図3に示すミキサ41の他、連続噴射混合機(例えば、株式会社粉研パウテックス製、商品名:フロージェットミキサー)、砥石式摩砕機(例えば、増幸産業株式会社製、商品名:スーパーグラインデル)等を挙げることができる。
次に、糖化前処理装置1では、処理槽21からサイロ25に供給された基質混合物が、サイロ25内に貯留される。基質混合物は、加熱されることなく、例えば25℃の温度で、サイロ25内を24〜360時間の範囲の時間、例えば100時間を掛けて通過する。
このとき、基質には、20〜30質量%の範囲の濃度、例えば25質量%の濃度のアンモニア水が、基質1質量部に対して0.7〜1.3質量部の範囲で、例えば1質量部、均一に含浸されている。そこで、基質はサイロ25内を通過する間にアンモニアの作用を受け、基質からリグニンが解離され、又は基質が膨潤される。この結果、基質からリグニンが解離され、又は該基質が膨潤された糖化前処理物が形成される。
次に、糖化前処理物は、粉体供給機27によりサイロ25から連続して所定量取出され、アンモニア分離ユニット3に供給される。本実施形態では、粉体供給機27による糖化前処理物の供給量に対応した基質を基質供給ユニット22により供給し、レベル計25aを用いてサイロ25内の基質混合物及び糖化前処理物の表面を検知し、その保有量を一定にするようにアンモニア水供給ユニット23により供給されるアンモニア水の供給量を制御する。従って、サイロ25における物質収支が保たれ、安定した連続操業が行われる。
また、粉体供給機27は、湿粉体である糖化前処理物が排出され難いので、サイロ25の直下に直結され、スクレーパーにより該糖化前処理物を強制的に切り出してアンモニア分離ユニット3に供給する機能を備えるものが好ましい。このような粉体供給機27として、連続定量供給機(例えば、大盛工業株式会社製、商品名:スムースオートフィーダCF300)等を挙げることができる。
次に、粉体供給機27によりアンモニア分離ユニット3に供給された糖化前処理物は、アンモニア分離ユニット3において、糖化前処理物からアンモニアを分離する。
アンモニア分離ユニット3内の糖化前処理物は、加熱によりアンモニアを放散するので、導入ユニット30及び導出ユニット31により、導入ユニット30側から導出ユニット31側に移動するに従い、糖化前処理物中のアンモニア水の濃度が次第に低下し、アンモニア水の沸点が上昇する。本実施形態では、アンモニア分離ユニット3内の糖化前処理物の流れと熱媒体の流れとを対向流とすることで、アンモニア分離ユニット3内を流れる糖化前処理物の温度をアンモニア水の濃度に対応した沸点の温度とし、糖化前処理物からアンモニアを分離する。
さらに、導入ユニット30及び導出ユニット31によりアンモニア分離ユニット3内の圧力を保持できるので、アンモニアガス吸引ユニット29により糖化前処理物から気化したアンモニアガスを吸引することにより、糖化前処理物からアンモニアを十分に分離する。
アンモニア分離ユニット3としては、糖化前処理物を加熱してアンモニアガスを放散させるものであれば、どのようなものでもよいが、アンモニア分離ユニット3内における糖化前処理物と加熱管束との接触及び糖化前処理物内部のアンモニアの放散を効果的に行うために、シェル内部で回転する多管式加熱管束を備えるものが好ましい。例えば、連続式伝導伝熱乾燥機(例えば、株式会社大川原製作所製、商品名:インナーチューブロータリー)等を用いることができる。
そして、アンモニア分離ユニット3によりアンモニアが分離された糖化前処理物は、導出ユニット31よりアンモニア分離ユニット3から導出され、移送ユニット4により後工程の酵素糖化工程に移送される。