しかしながら、上記の抗癌剤感受性試験は、効果のない抗癌剤を判定する確率はおよそ90%と高い一方、効果のある抗癌剤を特定できる確率は40〜50%程度と低いことが課題である。また、非特許文献2〜5の方法は、医療現場で実施するのは困難であると想定される手法であり、実際にも行われていない。したがって、効果がある抗癌剤を高い確率で判定できる方法がないのが現状であり、抗癌剤の効果そのものを正しく判定できる方法の開発が求められている。また、非特許文献7にあるように、現在補助化学療法の第一選択薬となっているオテラシルカリウム・ギメラシル・テガフール(TS−1)の出現により、その有用性が示されたものの、TS−1が奏効しない患者が存在することも事実であり、そのような患者に対しても、早い段階で効果の高い薬剤を選択し、効果的な化学療法を実施することが切望されている。
本発明は、胃がんの補助化学療法感受性の判定に有用となる判定用組成物、該組成物を用いた胃がんの補助化学療法感受性の判定方法、及び該組成物を利用した胃がんの補助化学療法感受性の判定用キットを提供することを目的とする。
胃がんの補助化学療法感受性を判定するためのマーカー探索の方法としては、手術時に摘出された胃組織において、補助化学療法感受性である患者由来の胃がん細胞と感受性でない患者由来の胃がん細胞における遺伝子発現やタンパク質発現、又は細胞の代謝産物などの量を何らかの手段によって比較する方法や、補助化学療法感受性である胃がん患者と感受性でない胃がん患者の体液中に含まれる遺伝子、タンパク質、代謝産物などの量を測定して比較する方法が挙げられる。
DNAアレイ等の核酸アレイを用いた発現遺伝子量解析は、近年、このようなマーカー探索の手法として特に汎用されている。核酸アレイには数百から数万種の遺伝子に対応した塩基配列を利用したプローブが固定されている。被検試料を核酸アレイに添加することによって試料中の遺伝子がプローブと結合し、この結合量を何らかの手段によって測定することにより、被検試料中の遺伝子量を知ることができる。核酸アレイ上に固定化するプローブに対応した遺伝子の選択は自由であり、また手術時又は内視鏡検査時に摘出される胃がん患者由来の腫瘍部、非腫瘍部それぞれの細胞を用いて、試料中の発現遺伝子量を比較することにより、胃がんの補助化学療法感受性に関連する遺伝子群を推定することが可能である。
上記の課題を解決するために、本発明者らは、胃がんの補助化学療法感受性である患者の遺伝子発現と感受性でない患者の遺伝子発現をそれぞれ核酸アレイによって解析し、胃がんの補助化学療法感受性に関連するマーカーとして使用可能な遺伝子を見出し、本発明を完成させた。
1.発明の概要
本発明は、以下の特徴を有する。
本発明は第1の態様において、下記の(a)〜(f)に示すポリヌクレオチドからなる群から選択される2以上のポリヌクレオチドを含む、胃がんの補助化学療法に対する感受性を判定するための組成物(以下、「胃がんの補助化学療法感受性判定用組成物」と称する。)である。
(a)配列番号1〜22で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、その前駆体ポリヌクレオチド、その変異体ポリヌクレオチド、又はその修飾ポリヌクレオチド
(b)配列番号1〜22で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド
(c)配列番号1〜22で表される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体ポリヌクレオチド、又はその修飾ポリヌクレオチド
(d)配列番号1〜22で表される塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド
(e)上記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド
(f)上記(a)〜(e)のいずれかのポリヌクレオチドをコードするDNA
またその実施形態において、胃がんの補助化学療法がフルオロウラシル(5−FU)又はフルオロウラシル(5−FU)系プロドラッグを投与するものである、上記の組成物である。
本発明の第2の態様として、上記の(a)〜(f)に示すポリヌクレオチドの2以上を含む、胃がんの補助化学療法感受性判定用キットである。
またその実施形態において、前記ポリヌクレオチドが、配列番号1〜22のいずれかで表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、その相補的配列からなるポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドをコードするDNA、又はそれらの修飾ポリヌクレオチドである、上記のキットである。
また別の実施形態において、上記ポリヌクレオチドが、別個に又は任意に組み合わせて容器に包装されている、上記のキットである。
本発明の第3の態様として、上記の(a)〜(f)に示すポリヌクレオチドの2以上を含む、胃がんの補助化学療法感受性判定用核酸アレイである。
第4の態様として、上記の組成物、上記のキット、上記の核酸アレイ、又はそれらの組み合わせを用いて、被験者由来の生体試料における標的核酸の発現レベルを測定することによって、被験者由来の検体試料中において胃がんの補助化学療法感受性の有無をin vitroで判定する方法である。
またその実施形態において、核酸アレイを用いる上記の判定方法である。
また別の実施形態において、上記の組成物、上記のキット、上記の核酸アレイ、又はそれらの組み合わせを用いて、胃がんの手術患者由来の検体試料であることが既知の複数の生体試料中の標的核酸の発現量をin vitroで測定する第1の工程、前記第1の工程で得られた該標的核酸の発現量の測定値を教師とした判別式(ニューラルネットワークモデル)を作成する第2の工程、被験者由来の検体試料中の該標的核酸の発現量を第1の工程と同様にin vitroで測定する第3の工程、前記第2の工程で得られた判別式に第3の工程で得られた該標的核酸の発現量の測定値を代入し、該判別式から得られた結果に基づいて、被験者由来の検体試料中において胃がんの補助化学療法感受性の有無を判定する第4の工程を含む、胃がんの補助化学療法感受性を判定する方法である。
2.定義
本明細書中で使用する用語は、以下の定義を有する。
本明細書において、「胃がんの補助化学療法」とは、胃がんの治癒切除後の微小残存腫瘍による再発予防を目的として行われる化学療法であり、抗癌剤を投与することで、術後の再発抑制、生存率の改善を目的として行われる治療のことをいう。ここで再発とは、画像診断、生検などの組織診断や手術などにより、確実に腫瘍の再出現が確認された場合を指す。ここで、本発明において、抗癌剤はフルオロウラシル(5−FU)又はフルオロウラシル系プロドラッグである。現在までの臨床試験において、体表面積当たり定められた量の5−FU製剤を術後1年間(オテラシルカリウム・ギメラシル・テガフール(商品名:ティーエスワン)の場合)又は16ヶ月間(ウラシル・テガフール(商品名:ユーエフティ)の場合)投与することで、投与しない症例より生存期間が延長することが示されており(上記の非特許文献6、非特許文献7参照)、それを基にガイドライン(胃癌治療ガイドライン改訂第3版(案))が定められている。現在、第一選択薬とされる抗癌剤のオテラシルカリウム・ギメラシル・テガフール(商品名:ティーエスワン(TS−1))を使用する場合、通常、手術からの回復を待って、術後6週間以内に投与を開始する。1日の標準量は体表面積1m2あたり80mgであり、それを4週間投与、2週間休薬を1コースとして、術後1年間継続する。
本明細書において「感受性」とは、補助化学療法が奏効したか否かを表すものであり、胃がん患者に対してフルオロウラシル又はフルオロウラシル系プロドラッグの投与による術後補助化学療法を行い、再発が認められず術後3年以上生存した場合(無再発症例)を「感受性である」又は「感受性が有る」、再発が認められた場合(再発症例)を「感受性でない」又は「感受性が無い」と示す。
本明細書において「5−FU」とは、胃がんをはじめとする消化器がんや、その他のがんの治療に古くから用いられている抗癌剤(商品名)であり、一般名は「フルオロウラシル」である。ピリミジン系代謝拮抗剤に分類され、細胞が分裂、増殖する際に必要な代謝物質に似た構造を持っているのが特徴であり、本来の代謝物質の代わりにがん細胞に取り込まれることで、そのDNAの合成を阻害する。体内で分解されやすく、効果の持続時間が短いため、他の薬剤との併用や、点滴による静脈内への持続注射などが多く行われている。
本明細書において「フルオロウラシル系プロドラッグ(5−FU系プロドラッグ)」とは、活性のない構造で生体内に投与され、生体内で代謝されることにより5−FUの構造となり、薬理活性を示す抗癌剤のことを指し、通常、経口投与剤として用いられる。上述の通り、5−FUは体内での分解が早く、効果の持続時間が短いことから、より長い時間体内に留めて効果を高めたり、副作用を軽減したりすることを目的に改良されたものである。製剤としては、オテラシルカリウム・ギメラシル・テガフール配合剤(商品名:ティーエスワン(TS−1))、ウラシル・テガフール配合剤(商品名:ユーエフティ(UFT))、ドキシフルリジン(商品名:フルツロン)、テガフール(商品名:フトラフール、サンフラール、ルナシン、テフシールなど)、カペシタビン(商品名:ゼローダ)などが挙げられる。
本明細書において、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、DNA、RNAなどの略号による表示は、三極共通のガイドラインである「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)及び当技術分野における慣用に従うものとする。
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNA、DNA、それらの修飾ポリヌクレオチドのいずれも包含する核酸として用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、miRNA、siRNA、snoRNA、snRNA、shRNA、non−coding RNA、pri−miRNA、pre−miRNA、及び合成RNAのいずれもが含まれる。また上記修飾ポリヌクレオチドには、核酸の天然の糖部分、塩基部分又はホスホジエステル結合を非天然構造に変換したポリヌクレオチドが含まれ、例えばLNA(Locked Nucleic Acid)、PNA(Peptide Nucleic Acid)、ホスホロチオエート結合を有するポリヌクレオチド、2'−O−アルキルリボース基を有する人工的ポリヌクレオチドなどが含まれる。また、本明細書では、ポリヌクレオチドは核酸と互換的に使用される。
本明細書において「遺伝子」とは、RNA、及び2本鎖DNAのみならず、それを構成する正鎖(又はセンス鎖)又は相補鎖(又はアンチセンス鎖)などの各1本鎖DNAを包含することを意図して用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。
従って、本明細書において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、cDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)、該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、及びこれらの断片、及びヒトゲノムのいずれも含む。また該「遺伝子」は特定の塩基配列(又は配列番号)で示される「遺伝子」だけではなく、これらによってコードされるRNAと生物学的機能が同等であるRNA、例えば同族体(すなわち、ホモログ)、遺伝子多型などの変異体、及び誘導体をコードする「遺伝子」が包含される。かかる同族体、変異体又は誘導体をコードする「遺伝子」としては、具体的には、後に記載したストリンジェントな条件下で、上記の配列番号1〜22で示されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」を挙げることができる。なお、「遺伝子」は、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンを含むことができる。また、「遺伝子」は細胞に含まれていてもよく、細胞外に放出されて単独で存在していてもよく、またエキソソームと呼ばれる脂質二重膜に包まれた小胞に内包された状態にあってもよい。
エキソソームとは、細胞から分泌される小さな小胞である。エキソソームは、多胞エンドソームに由来し、細胞膜と融合することによって内部の小胞を細胞外環境に放出するが、その際に小胞中にRNA、DNA等の「遺伝子」又は「核酸」を含むことがある。エキソソームは血液、血清、血漿、尿、リンパ液等の体液に含まれることが知られている。
本明細書において「転写産物」とは、遺伝子のDNA配列を鋳型にして合成されたRNAのことをいう。RNAポリメラーゼが遺伝子の上流にあるプロモーターと呼ばれる部位に結合し、DNAの塩基配列に相補的になるように3'末端にリボヌクレオチドを結合させていく形でRNAが合成される。このRNAには遺伝子そのもののみならず、発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンをはじめとする転写開始点からポリA配列の末端にいたるまでの全配列が含まれる。
また、本明細書において「マイクロRNA(miRNA)」は、特に言及しない限り、ヘアピン様構造のRNA前駆体として転写され、RNase III切断活性を有するdsRNA切断酵素により切断され、RISCと称するタンパク質複合体に取り込まれ、mRNAの翻訳抑制に関与する15〜25塩基のRNAを意図して用いられる。また該「miRNA」は特定の塩基配列(又は配列番号)で示される「miRNA」だけではなく、該「miRNA」の前駆体(pre−miRNA、pri−miRNA)を含有し、これらによってコードされるmiRNAと生物学的機能が同等であるmiRNA、例えば同族体(すなわち、ホモログ)、遺伝子多型などの変異体、及び誘導体をコードする「miRNA」も包含する。かかる前駆体、同族体、変異体又は誘導体をコードする「miRNA」としては、具体的には、miRBase(http://www.mirbase.org/)により同定することができ、後に記載したストリンジェントな条件下で、上記の配列番号1〜22で示されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「miRNA」を挙げることができる。
本明細書において「プローブ」とは、遺伝子の発現によって生じたRNA又はそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に検出するために使用されるポリヌクレオチド及び/又はそれに相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチドを包含する。
本明細書において「プライマー」とは、遺伝子の発現によって生じたRNA又はそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に認識し、増幅する、連続するポリヌクレオチド及び/又はそれに相補的なポリヌクレオチドを包含する。
ここで相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド(相補鎖若しくは逆鎖)とは、配列番号によって定義される塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、又はその部分配列、(ここでは便宜上、これを正鎖と呼ぶ)に対してA:T(U)、G:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味する。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズできる程度の相補関係を有するものであってもよい。
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、プローブが他の配列に対するよりも、検出可能により大きな程度(例えばバックグラウンドよりも少なくとも2倍)で、その標的配列に対してハイブリダイズする条件をいう。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、ハイブリダイゼーションが行われる環境によって異なる。ハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件のストリンジェンシーを制御することにより、プローブに対して100%相補的である標的配列が同定され得る。
本明細書において「変異体」とは、核酸の場合、多型性、突然変異、転写時の選択的スプライシングなどに起因した天然の変異体、或いは配列番号1〜22で表される塩基配列若しくはその相補的塩基配列において1又は2個のヌクレオチドの欠失、置換、付加又は挿入、好ましくは置換、を含む変異体、或いは該塩基配列又はその部分配列と約90%以上、約95%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の%同一性を示す変異体、或いは該塩基配列又はその部分配列を含むポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドと上記定義のストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸を意味する。
本明細書において「%同一性」は、上記のBLASTやFASTAによるタンパク質又は遺伝子の検索システムを用いて、ギャップを導入して、又はギャップを導入しないで、決定することができる(Karlin,S.ら、1993年、Proceedings of the National Academic Sciences U.S.A.、第90巻、p.5873-5877;Altschul,S.F.ら、1990年、Journal of Molecular Biology、第215巻、p.403−410;Pearson,W.R.ら、1988年、Proceedings of the National Academic Sciences U.S.A.、第85巻、p.2444-2448)。
本明細書において「誘導体」とは、蛍光団などによるラベル化誘導体、修飾ヌクレオチド(例えばハロゲン、メチルなどのアルキル、メトキシなどのアルコキシ、チオ、カルボキシメチルなどの基を含むヌクレオチド及び塩基の再構成、二重結合の飽和、脱アミノ化、酸素分子の硫黄分子への置換などを受けたヌクレオチドなど)を含む誘導体、人工的ポリヌクレオチド(例えばLNA、PNAなど)などの修飾ポリヌクレオチドを意味する。
本明細書において「(判定用)組成物」とは、胃がん患者の手術後に行われる補助化学療法の感受性を判定するために、直接又は間接的に利用されるものをいう。これには胃がんの補助化学療法感受性に関連して生体内、特に胃の腫瘍組織において発現が変動する遺伝子を特異的に認識し、また結合することのできるヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドが包含される。これらのヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドは、上記性質に基づいて生体内、組織や細胞内などで発現した上記遺伝子を検出するためのプローブとして、また生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。
本明細書において検出・診断対象となる「検体試料」とは、胃がんの発生にともない本発明の遺伝子が発現変化する生体組織及びそれら生体組織由来の物質、生体組織と接触する物質を指し、具体的には胃の手術組織や生検組織などを指す。
本明細書において「Sencitivity」及び「Specificity」とは、臨床検査の信頼度を評価する場合の後述の計算によって表される指標を意味する。具体的には、胃がんの補助化学療法感受性である集団に対して検査を行ったとき、陽性すなわち補助化学療法感受性であることを示す割合(真の陽性率)がSencitivityである。逆に、胃がんの補助化学療法感受性でない集団に対して検査を行ったとき、陰性すなわち補助化学療法感受性でないことを示す割合(真の陰性率)がSpecificityである。
本明細書において、「Accuracy」は「無再発症例を化学療法感受性であると正しく予測した回数」と「再発症例を化学療法感受性でないと正しく予測した回数」の和に対する全症例数の除数を意味する。
本明細書において、「PPV」は(無再発症例を補助化学療法感受性であると正しく予測した回数)/(補助化学療法感受性であると予測した回数)を意味する。
本明細書において、「NPV」は(再発症例を正しく補助化学療法感受性でないと予測した回数)/(補助化学療法感受性でないと予測した回数)を意味する。
本明細書において、「Efficacy」はPPVとNPVの積を意味する。したがって、この指標は胃がんの補助化学療法感受性の検査において、補助化学療法感受性である患者でも補助化学療法感受性でない患者でも正しい診断が成立した場合に高くなる。
本明細書で使用される「miR−148a遺伝子」又は「miR−148a」という用語は、配列番号4に記載のhsa−miR−148a遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0000243)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−425遺伝子」又は「miR−425」という用語は、配列番号1に記載のhsa−miR−425遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0003393)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−146a遺伝子」又は「miR−146a」という用語は、配列番号5に記載のhsa−miR−146a遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0000449)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−193b*遺伝子」又は「miR−193b*」という用語は、配列番号6に記載のhsa−miR−193b*遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004767)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−141遺伝子」又は「miR−141」という用語は、配列番号2に記載のhsa−miR−141遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0000432)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−22遺伝子」又は「miR−22」という用語は、配列番号7に記載のhsa−miR−22遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0000077)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−92a−2*遺伝子」又は「miR−92a−2*」という用語は、配列番号8に記載のhsa−miR−92a−2*遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004508)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−151−3p遺伝子」又は「miR−151−3p」という用語は、配列番号14に記載のhsa−miR−151−3p遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0000757)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−30d遺伝子」又は「miR−30d」という用語は、配列番号15に記載のhsa−miR−30d遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0000245)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−664遺伝子」又は「miR−664」という用語は、配列番号9に記載のhsa−miR−664遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0005949)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−1908遺伝子」又は「miR−1908」という用語は、配列番号16に記載のhsa−miR−1908遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0007881)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−200b遺伝子」又は「miR−200b」という用語は、配列番号17に記載のhsa−miR−200b遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0000318)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−769−3p遺伝子」又は「miR−769−3p」という用語は、配列番号10に記載のhsa−miR−769−3p遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0003887)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−1978遺伝子」又は「miR−1978」という用語は、配列番号3に記載のhsa−miR−1978遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0009453)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−605遺伝子」又は「miR−605」という用語は、配列番号11に記載のhsa−miR−605遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0003273)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−200c遺伝子」又は「miR−200c」という用語は、配列番号18に記載のhsa−miR−200c遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0000617)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−1915遺伝子」又は「miR−1915」という用語は、配列番号19に記載のhsa−miR−1915遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0007892)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−199b−5p遺伝子」又は「miR−199b−5p」という用語は、配列番号20に記載のhsa−miR−199b−5p遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0000263)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−145*遺伝子」又は「miR−145*」という用語は、配列番号12に記載のhsa−miR−145*遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004601)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−500*遺伝子」又は「miR−500*」という用語は、配列番号13に記載のhsa−miR−500*遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0002871)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−29b−2*遺伝子」又は「miR−29b−2*」という用語は、配列番号21に記載のhsa−miR−29b−2*遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004515)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本明細書で使用される「miR−155遺伝子」又は「miR−155」という用語は、配列番号22に記載のhsa−miR−155遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0000646)やその他生物種ホモログなどが包含される。
本発明は、胃がんの補助化学療法感受性の有無の判定に有用な組成物及び該組成物を用いた胃がんの補助化学療法感受性の判定方法を提供するものであり、これによって、胃がんの補助化学療法感受性に対して特異的かつ高予測率の、及び迅速でかつ簡便な、判定方法を提供することができる。
以下に本発明をさらに具体的に説明する
1.胃がんの補助化学療法感受性判定に用いられる標的核酸
本発明の上記定義の胃がんの補助化学療法感受性判定用組成物及びキットを使用して胃がん又は胃がん細胞の補助化学療法感受性を判定するためのマーカーとしての標的核酸には、例えば、配列番号1〜22で表される塩基配列を含むヒトmiRNA遺伝子(すなわち、それぞれ、miR−148a、miR−425、miR−146a、miR−193b*、miR−141、miR−22、miR−92a−2*、miR−151−3p、miR−30d、miR−664、miR−1908、miR−200b、miR−769−3p、miR−1978、miR−605、miR−200c、miR−1915、miR−199b−5p、miR−145*、miR−500*、miR−29b−2*、及びmiR−155)、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体が含まれる。ここで、遺伝子、同族体、転写産物、変異体及び誘導体は、上記定義のとおりである。好ましい標的核酸は、配列番号1〜22で表される塩基配列を含むヒトmiRNA遺伝子、それらの転写産物、より好ましくは該転写産物である。
本発明において胃がんの標的となる上記遺伝子はいずれも、健常な被験者と比べて胃がんに罹患した被験者において発現レベルが増加又は低下しているものである(後述の実施例の表1参照)。
第1の標的核酸は、miR−148a遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−148a遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第2の標的核酸は、miR−425遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−425遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第3の標的核酸は、miR−146a遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−146a遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第4の標的核酸は、miR−193b*遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−193b*遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第5の標的核酸は、miR−141遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−141遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第6の標的核酸は、miR−22遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−22遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第7の標的核酸は、miR−92a−2*遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−92a−2*遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第8の標的核酸は、miR−151−3p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−151−3p遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第9の標的核酸は、miR−30d遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−30d遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第10の標的核酸は、miR−664遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−664遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第11の標的核酸は、miR−1908遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−1908遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第12の標的核酸は、miR−200b遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−200b遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第13の標的核酸は、miR−769−3p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−769−3p遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第14の標的核酸は、miR−1978遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−1978遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第15の標的核酸は、miR−605遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−605遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第16の標的核酸は、miR−200c遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−200c遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第17の標的核酸は、miR−1915遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−1915遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第18の標的核酸は、miR−199b−5p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−199b−5p遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第19の標的核酸は、miR−145*遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−145*遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第20の標的核酸は、miR−500*遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−500*遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第21の標的核酸は、miR−29b−2*遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−29b−2*遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
第22の標的核酸は、miR−155遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−155遺伝子又はその転写産物の発現の増加が胃がんの補助化学療法感受性のマーカーになりうるという報告は知られていない。
2.胃がんの補助化学療法感受性判定用組成物
本発明において、胃がんの補助化学療法感受性を判定するための、或いは胃がんの補助化学療法感受性を診断するために使用可能な核酸組成物は、胃がんの補助化学療法感受性の標的核酸としての、ヒト由来のmiR−148a、miR−425、miR−146a、miR−193b*、miR−141、miR−22、miR−92a−2*、miR−151−3p、miR−30d、miR−664、miR−1908、miR−200b、miR−769−3p、miR−1978、miR−605、miR−200c、miR−1915、miR−199b−5p、miR−145*、miR−500*、miR−29b−2*、及びmiR−155、それらの同族体、それらの転写産物、或いはそれらの変異体又は誘導体の存在、発現レベル又は存在量を定性的及び/又は定量的に測定することを可能にする。
上記の標的核酸は、胃がんの補助化学療法感受性である被験者と比べて補助化学療法感受性でない被験者においてその発現レベルが増加又は低下する。それゆえ、本発明の組成物は、胃がん組織について標的核酸の発現レベルを測定し、それらを比較するために有効に使用することができる。
本発明で使用可能な組成物は、胃がんに罹患した患者の生体組織において配列番号1〜22で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド群、その前駆体ポリヌクレオチド群、及びそれらの相補的ポリヌクレオチド群、それらの変異体ポリヌクレオチド群、それらのポリヌクレオチド群の塩基配列とストリンジェントな条件でそれぞれハイブリダイズするポリヌクレオチド群、それらの修飾ポリヌクレオチド群、並びに、それらのポリヌクレオチド群の塩基配列において15以上、好ましくは20以上、21以上、より好ましくは22以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチド群から選ばれた1又は複数(2以上、例えば2から22のいずれかの数、又はそれ以上)のポリヌクレオチドの組み合わせを含む。
具体的には、本発明の組成物は、以下の1又は複数のポリヌクレオチドを含むことができる。
(1)配列番号1〜22で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、それらの前駆体ポリヌクレオチド、それらの変異体ポリヌクレオチド、又はそれらの修飾ポリヌクレオチド。
(2)配列番号1〜22で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド。
(3)配列番号1〜22で表される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、それらの変異体ポリヌクレオチド、又はそれらの修飾ポリヌクレオチド。
(4)配列番号1〜22で表される塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド。
(5)上記(1)〜(4)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列の各々とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、或いは、配列番号1〜22で表される塩基配列又はその相補的塩基配列の各々からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかのポリヌクレオチドの各々をコードするDNA。
上記前駆体ポリヌクレオチド又はその相補的ポリヌクレオチドの場合には、各ポリヌクレオチドの塩基配列において、非限定的に例えば、連続する15〜配列の全塩基数、15〜20塩基、15〜21塩基、15〜22塩基、15〜23塩基、18〜25塩基、18〜30塩基、18〜50塩基などの範囲の塩基数の断片を含むことができるが、この断片の塩基配列には少なくとも配列番号1〜22で表される各々の塩基配列又はその相補的塩基配列を含む。
本発明で使用される上記ポリヌクレオチド類又はその断片類はいずれもDNAでもよいし、RNAでもよいし、修飾ポリヌクレオチドでもよい。
本発明の組成物としてのポリヌクレオチドは、DNA組換え技術、PCR法、DNA/RNA自動合成機による方法などの一般的な技術を用いて作製することができる。
DNA組換え技術及びPCR法は、例えばAusubelら、 Current Protocols in Molecular Biology、 John Willey & Sons、 US (1993); Sambrookら、 Molecular Cloning A Laboratory Manual、 Cold Spring Harbor Laboratory Press、 US (1989)などに記載される技術を使用することができる。
ヒト由来の、miR−148a、miR−425、miR−146a、miR−193b*、miR−141、miR−22、miR−92a−2*、miR−151−3p、miR−30d、miR−664、miR−1908、miR−200b、miR−769−3p、miR−1978、miR−605、miR−200c、miR−1915、miR−199b−5p、miR−145*、miR−500*、miR−29b−2*、及びmiR−155は公知であり、前述のようにその取得方法も知られている。このため、これらの遺伝子をクローニングすることによって、本発明の組成物としてのポリヌクレオチド類を作製することができる。
本発明の組成物を構成するポリヌクレオチドは、DNA自動合成装置を用いて化学的に合成することができる。この合成には一般にホスホアミダイト法が使用され、この方法によって約100塩基までの一本鎖DNAを自動合成することができる。DNA自動合成装置は、例えばPolygen社、ABI社、Applied BioSystems社などから市販されている。
或いは、本発明のポリヌクレオチドは、cDNAクローニング法によって作製することもできる。cDNAクローニング技術は、例えばmicroRNA Cloning Kit Wakoなどを利用できる。
3.胃がんの補助化学療法感受性判定用キット
本発明はまた、本発明の組成物に含まれるものと同じ上記のポリヌクレオチド類(及び場合により、その断片)の1つ又は複数(2以上、例えば2から22のいずれかの数、又はそれ以上)を含む胃がんの補助化学療法感受性判定用キットを提供する。
本発明のキットは、好ましくは、上記1に記載したポリヌクレオチド類から選択される1又は複数のポリヌクレオチドを含む。
本発明のキットは、配列番号1〜22で表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、その前駆体ポリヌクレオチド、その相補的配列を含むポリヌクレオチド、それらの変異体ポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドをコードするDNA、又はそれらの修飾ポリヌクレオチドを、2以上含むことができる。
本発明のキットに含むことができるポリヌクレオチド断片は、例えば配列番号1〜22で表されるポリヌクレオチドの前駆体ポリヌクレオチド(すなわち、pri−miRNA、pre−miRNA)の塩基配列又はその相補的配列において、15以上の、又は20以上の連続した塩基を含むDNAである。
好ましい実施形態では、前記ポリヌクレオチドが、配列番号1〜22のいずれかで表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、その相補的配列からなるポリヌクレオチド、それらの変異体ポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドをコードするDNA、又はそれらの修飾ポリヌクレオチドである。
変異体ポリヌクレオチドは、例えば、配列番号1〜22のいずれかで表される塩基配列又は相補的配列において1個又は2個のヌクレオチドが別の塩基に置換されたポリヌクレオチドであるが、目的のマーカーmiRNAの塩基配列とハイブリダイゼーション可能である限り、上記のような変異に限定されない。変異には、例えばヌクレオチドの欠失又は付加も含まれる。
修飾ポリヌクレオチドは、核酸の天然の糖部分、塩基部分又はホスホジエステル結合を非天然構造に変換したポリヌクレオチドが含まれ、例えばLNA(Locked Nucleic Acid)、PNA(Peptide Nucleic Acid)、ホスホロチオエート結合を有するポリヌクレオチド、2'−O−アルキルリボース基を有する人工的ポリヌクレオチドなどが含まれる。好ましい修飾ポリヌクレオチドは、LNA及びPNAである。
LNAは、修飾RNAであり、天然型RNAの2'位と4'位とがメチレン基を介して架橋結合した構造をもつ人工的ポリヌクレオチドである(A.A. Koshkin et al., Tetrahedron 54:3607, 1998; S. Obika et al., Tetrahedron Lett., 39:5401, 1998)。これはPNAと同様に酵素に対する安定性に優れ、かつ、DNAやRNAとハイブリダイズ可能である。本発明方法で使用可能な修飾ポリヌクレオチドはLNAとDNAのハイブリッド型でもよく、この場合LNAの含量率は0%〜100%の間で変化しうる。
PNAは、主鎖が2−アミノエチルグリシル骨格からなる(ポリ)ペプチドであり、その側鎖に核酸塩基を有する人工的ポリヌクレオチド又は人工核酸である(P.E. Nielsen et al., Science, 254:1497, 1991; M. Castoldi et al., RNA, 12:913, 2006;大槻高史及び北松瑞生,未来材料,9巻,5号,16−21頁,2009年(エヌ・ティー・エス))。主鎖に電荷を有さないのでRNAやDNAと安定なハイブリッドを形成することができる。
好ましい実施形態では、上記ポリヌクレオチドは、15以上、好ましくは20以上、21以上、より好ましくは22以上、30以下、好ましくは25以下、より好ましくは24以下の連続した塩基を含むポリヌクレオチドであることができる。
上記の組み合わせの例は、配列番号1〜22に示した塩基配列又はその相補的配列を含むポリヌクレオド、それらの変異体ポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドをコードするDNA、及び修飾ポリヌクレオチドについて、後述の表1に示すようにポリヌクレオチドの優先順位(第1番目から第22番目まで)の高い方から順番(配列番号の順番)にポリヌクレオチドを組み合わせることである。この仕方で22種のポリヌクレオチドを順番に組み合わせたときの、胃がんの補助化学療法感受性を正しく判定した確率(Accuracy;%)を、胃がんの補助化学療法感受性の判定に必要なポリヌクレオチド数に対してプロットすると、確率は、例えば、miR−148a(配列番号1)及びmiR−425(配列番号2)の組み合わせで75%となり、及びmiR−146a(配列番号3)、miR−193b*(配列番号4)の組み合わせ(配列番号1〜4のポリヌクレオチドの組み合わせ)で80%となった。さらにmiRNAを組み合わせていったとき、miR−769−3p(配列番号13)までの組み合わせ(配列番号1〜13のポリヌクレオチドの組み合わせ)により、確率は90%となった(後述の図3参照)。
本発明のキットを構成する上記の組み合わせは、あくまでも例示であり、他の種々の可能な組み合わせのすべてが本発明に包含されるものとする。
本発明のキットには、上で説明した本発明におけるポリヌクレオチド類に加えて、胃がんの補助化学療法感受性の判定を可能とする既知の又は将来見出されるポリヌクレオチドも包含させることができる。
本発明のキットに含まれるポリヌクレオチド類は、個別に又は任意に組み合わせて容器に包装される。
本発明のキットは、ウエルプレート、ポリマーメンブレンなどの固相に上記ポリヌクレオチド類を結合した形態のものでもよい。結合は、共有結合又は非共有結合(例えばイオン結合、物理的又は疎水的結合など)のいずれでもよい。プレート表面はポリLリジンコートなどの表面処理を施されていてもよい。
上記キットには、ハイブリダイゼーションを実施するために必要なバッファー類、ウエルプレート又はメンブレン、使用説明書などが含まれてもよい。
4.核酸アレイ
本発明はさらに、本発明の組成物及び/又はキットに含まれるものと同じポリヌクレオチド類(或いは、上記の2節の組成物及び/又は3節のキットに記載されたポリヌクレオチド類)からの複数(2以上、例えば2から22のいずれかの数、又はそれ以上)のポリヌクレオチドの組み合わせを含む胃がんの補助化学療法感受性判定用核酸アレイを提供する。
ポリヌクレオチドを固定化する核酸アレイの基板(担体)としては、ポリヌクレオチドを固定化できるものであれば特に制限はなく、スライドガラス、シリコン製チップ、ポリマー製チップ及びナイロンメンブレンなどを例示することができる。またこれらの基板にはポリLリジンコート、アミノ基、カルボキシル基などの官能基導入などの表面処理がされていてもよい。
また固定化法については一般に用いられる方法であれば特に制限はなく、スポッター又はアレイヤーと呼ばれる高密度分注機を用いて核酸をスポットする方法や、ノズルより微少な液滴を圧電素子などにより噴射する装置を用いてDNAを基板に吹き付ける方法(インクジェット法)、又は基板上で順次ヌクレオチド合成を行う方法を例示することができる。高密度分注機を用いる場合には、例えば多数のウエルを持つプレートのおのおののウエルに異なった遺伝子溶液を入れておき、この溶液をピン(針)で取り上げて基板上に順番にスポットすることによる。インクジェット法では、ノズルより遺伝子を噴射し、基板上に高速度で遺伝子を整列配置することによる。基板上でのDNA合成は、基板上に結合した塩基を光又は熱によって脱離する官能基で保護し、マスクを用いることにより特定部位の塩基だけに光又は熱を当て、官能基を脱離させる。その後、塩基を反応液に加えて、基板上の塩基とカップリングさせる工程を繰り返すことによって行われる。
例えば、東レ株式会社の3D‐Gene(登録商標) Human miRNA Oligo chip、Agilent社のHuman miRNA Microarray Kit(V2)、EXIQON社のmiRCURY LNA(登録商標) microRNA ARRAYなど、標的遺伝子、RNA又はcDNAの発現レベルを検出、測定することができる既存の核酸アレイのプラットフォーム(基板等)を利用し、これに本発明のポリヌクレオチドを搭載して、本発明の胃がんの補助化学療法感受性判定に用いることもできる。
核酸アレイに固定化されるポリヌクレオチドは、上記で説明した本発明の全て又は一部のポリヌクレオチドを用いることができる。好ましい実施形態によれば、本発明の核酸アレイは、配列番号1〜22で表される塩基配列又はその相補的配列を含むポリヌクレオチド、或いは該ポリヌクレオチドをコードするDNA、或いは該ポリヌクレオチド又はDNAに対応するLNA又はPNAからなる人工的ポリヌクレオチド、の2以上から全部又はそれ以上を含むことができる。
本発明において、固定化されるポリヌクレオチドは、cDNA、RNA、合成DNA、合成RNA、人工的ポリヌクレオチドのいずれでもよいし、或いは1本鎖でもよいし又は2本鎖でもよい。
核酸アレイは、例えば予め調製したプローブを基板表面に固定化する方法により作製することができる。予め調製したポリヌクレオチドプローブを基板表面に固定化する方法では、官能基を導入したポリヌクレオチドを合成し、表面処理した基板の表面にオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを点着し、共有結合させる(例えば、J.B.Lamtureら、Nucleic.Acids.Research、1994年、第22巻、p.2121−2125、Z.Guoら、Nucleic.Acids.Research、1994年、第22巻、p.5456−5465)。ポリヌクレオチドは、一般的には、表面処理した基板にスペーサーやクロスリンカーを介して共有結合される。ガラス製基板の表面にポリアクリルアミドゲルの微小片を整列させ、そこに合成ポリヌクレオチドを共有結合させる方法も知られている(G.Yershovら、Proceedings of the National Academic Sciences U.S.A.、1996年、第94巻、p.4913)。また、シリカ核酸アレイ上に微小電極のアレイを作製し、電極上にはストレプトアビジンを含むアガロースの浸透層を設けて反応部位とし、この部位をプラスに荷電させることでビオチン化ポリヌクレオチドを固定し、部位の荷電を制御することで、高速で厳密なハイブリダイゼーションを可能にする方法も知られている(R.G.Sosnowskiら、Proceedings of the National Academic Sciences U.S.A.、1997年、第94巻、p.1119―1123)。
5.胃がんの補助化学療法感受性判定法
本発明は、本発明の組成物、キット、核酸アレイ、又はそれらの組み合わせを用いて、検体試料中に胃がんの補助化学療法感受性に関連するmiRNA遺伝子の発現挙動をin vitroで判定する方法であって、胃がん患者の検体試料を用いて、試料中のmiRNA遺伝子の発現レベルを比較し、該検体試料中における胃がん補助化学療法感受性に関連する遺伝子の発現挙動を判定することを含み、ここで、該標的核酸が該組成物、キット又は核酸アレイに含まれる上記ポリヌクレオチド類によって検出可能なものである、方法を提供する。
本発明の上記方法にて、検体試料から胃がんの補助化学療法感受性に関連するmiRNA又はその前駆体(pri−miRNA又はpre−miRNA)の検出、判定又は診断を行うことにより、感度及び特異度の高い、補助化学療法感受性の判定が可能になるだけでなく、患者に合った抗癌剤を正しく選定できることから、早期の治療及び予後の改善をもたらし、さらに、疾病憎悪のモニターや外科的、放射線療法的、及び化学療法的な治療の有効性のモニターを可能にする方法を提供する。
本発明の検体試料から胃がんの補助化学療法感受性に関連するmiRNA遺伝子転写産物を抽出する方法としては、Trizol(life technologies社)やIsogen(ニッポンジーン社)などの酸性フェノールを含むRNA抽出用試薬を使用してもよい。また、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)検体を用いる場合は、FFPEからRNAを抽出するための試薬、例えばRNeasy FFPE Kit(Qiagen)、RecoverAll(TM) Total Nucleic Acid Isolation Kit for FFPE(Ambion)、Agencourt FormaPure Kit(Beckman Coulter)、High Pure FFPE RNA Micro Kit(Roche)などを用いることができるが、この方法に限定されない。
本発明はまた、本発明の組成物、キット又は核酸アレイの、被験者由来の検体試料中の胃がん由来のmiRNAのin vitro検出のための使用を提供する。
本発明の上記方法において、組成物、キット又は核酸アレイは、上で説明したような、本発明のポリヌクレオチド類を単一で或いはあらゆる可能な組み合わせで含むものが使用される。
本発明の胃がんの検出、判定又は診断において、本発明の組成物、キット又は核酸アレイに含まれるポリヌクレオチド類は、プライマーとして又はプローブとして用いることができる。プライマーとして用いる場合には、Applied Biosystems社のTaqMan(登録商標) MicroRNA Assaysなどを利用できるが、この方法に限定されない。
本発明の組成物又はキットに含まれるポリヌクレオチド類は、ノーザンブロット法、サザンブロット法、RT−PCR法、in situ ハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法などの、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、定法に従ってプライマー又はプローブとして利用することができる。測定対象試料としては、使用する検出方法の種類に応じて、被験者の胃がん病変部、及び正常組織部の一部又は全部をバイオプシーなどで採取するか、もしくは手術によって摘出した生体組織から回収する。さらにそこから常法に従って調製したtotal RNAを用いてもよいし、さらに該RNAをもとにして調製される、cDNAを含む各種のポリヌクレオチドを用いてもよい。
或いは、生体組織における本発明における標的であるmiRNAの発現量は、核酸アレイ(DNAマクロアレイ又はDNAチップを含む)を用いて検出或いは定量することができる。この場合、本発明の組成物又はキットは核酸アレイのプローブとして使用することができる。かかる核酸アレイを生体組織から採取したRNAをもとに調製されるmiRNA又はそれらをコードするDNAを標識した核酸とハイブリダイズさせ、該ハイブリダイズによって形成された上記プローブと標識DNA又はRNAとの複合体を、該標識DNA又はRNAの標識を指標として検出することにより、生体組織中での本発明の胃がんの補助化学療法感受性に関連するmiRNA遺伝子の発現の有無又は発現レベル(発現量)を評価することができる。本発明の方法では、核酸アレイを好ましく使用できるが、これは、ひとつの生体試料について同時に複数のmiRNA遺伝子の発現の有無又は発現レベルの評価が可能である。
本発明の組成物、キット又は核酸アレイは、胃がんの補助化学療法感受性の判定のために有用である。具体的には、該組成物、キット又は核酸アレイを使用した胃がん補助化学療法感受性の判定は、手術時又は内視鏡検査時に採取した胃がんの補助化学療法感受性である細胞と感受性でない細胞を用いて、試料中のmiRNAの発現量を比較、又は手術時又は内視鏡検査時に採取した胃がん組織において、該診断用組成物で検出されるmiRNA遺伝子の発現レベルの違いを判定することによって行うことができる。この場合、miRNA遺伝子発現レベルの違いには、発現の有無だけではなく、胃がんの補助化学療法感受性である患者の生体組織と補助化学療法感受性でない患者の生体組織の両者ともに発現がある場合でも、両者間の発現量を比較した時の差がある場合が含まれる。
本発明の組成物、キット又は核酸アレイを利用して、検体試料中における胃がんの補助化学療法感受性であること/又は補助化学療法感受性でないことの判定方法は、被験者の生体組織の一部又は全部をバイオプシーなどで採取するか、手術によって摘出した生体組織から回収するかして、そこに含まれる遺伝子を、本発明のポリヌクレオチド群から選ばれた単数又は複数、好ましくは複数、のポリヌクレオチドを用いて検出し、その遺伝子発現量を測定することにより判定することを含む。このとき、再発の有無等の情報が付随したFFPE検体を用いても良い。また本発明の胃がんの補助化学療法感受性の判定方法は、例えば胃がん患者において、該疾患の再発を防ぐために治療薬を投与した場合における、該疾患の再発の有無を検出、判定又は診断することもできる。
本発明の方法は、例えば以下の(a)、(b)及び(c)の工程:
(a)被験者由来の検体試料を、本発明の組成物、キット又は核酸アレイのポリヌクレオチドと接触させる工程、
(b)生体試料中の標的核酸の発現レベルを、上記ポリヌクレオチドをプローブとして用いて測定する工程、
(c)(b)の結果をもとに、該検体試料中の胃がんの補助化学療法感受性を判定する工程、を含むことができる。
本発明方法で用いられる検体試料としては、被験者の生体組織、例えば胃組織及びその周辺組織を挙げることができる。具体的には該組織から調製されるRNA含有試料、或いはそれからさらに調製されるポリヌクレオチドを含む試料は、被験者の生体組織の一部又は全部をバイオプシーなどで採取するか、手術によって摘出した生体組織から回収し、そこから常法に従って調製することができる。
ここで被験者とは、哺乳動物、例えば非限定的にヒト、サル、マウス、ラットなどを指し、好ましくはヒトである。
本発明の方法は、測定対象として用いる生体試料の種類に応じて工程を変更することができる。
測定対象物としてRNAを利用する場合、胃がん(細胞)の検出は、例えば下記の工程(a)、(b)及び(c):
(a)被験者の生体試料から調製されたRNA又はそれから逆転写された相補的ポリヌクレオチド(cDNA)を、本発明の組成物、キット又は核酸アレイのポリヌクレオチドと結合させる工程、
(b) 該ポリヌクレオチドに結合した生体試料由来のRNA又は該RNAから逆転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記ポリヌクレオチドをプローブとして用いて測定する工程、
(c) 上記(b)の測定結果に基づいて、胃がんの補助化学療法感受性を判定する工程、
を含むことができる。
本発明によって胃がんの補助化学療法感受性を判定するために、例えば種々のハイブリダイゼーション法を使用することができる。かようなハイブリダイゼーション法には、例えばノーザンブロット法、サザンブロット法、RT−PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法などを使用することができる。
ノーザンブロット法を利用する場合は、本発明の診断用組成物をプローブとして用いることによって、RNA中の各miRNA遺伝子発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、本発明の判定用組成物(相補鎖)を放射性同位元素(32P、33P、35Sなど)や蛍光物質などで標識し、それを常法にしたがってナイロンメンブレンなどにトランスファーした被検者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせたのち、形成された判定用組成物(DNA)とRNAとの二重鎖を判定用組成物の標識物(放射性同位元素又は蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II、富士写真フィルム株式会社、などを例示できる)又は蛍光検出器(STORM860、GEヘルスケア社、などを例示できる)により検出、測定する方法を例示することができる。
定量RT―PCR法を利用する場合には、本発明の上記判定用組成物をプライマーとして用いることによって、RNA中のmiRNA遺伝子発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、被検者の生体組織由来のRNAから市販の逆転写反応用試薬を用いて常法にしたがってcDNAを調製し、これを鋳型として標的の各miRNA又はその前駆体RNAを増幅できるように、本発明の判定用組成物から調製した1対のプライマー(上記cDNAに結合する正鎖と逆鎖からなる)をcDNAとハイブリダイズさせて常法によりPCR法を行い、得られた二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。上述の逆転写用試薬としては、例えばmirVana qRT−PCR miRNA Detection Kit(Ambion)、TaqMan(登録商標)MicroRNA RT Kit(Applied Biosystems)、miScript Reverse Transcription Kit(Qiagen)等が好適に用いられる。なお、二本鎖DNAの検出法としては、上記PCRをあらかじめ放射性同位元素や蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行う方法、PCR産物をアガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドなどで二本鎖DNAを染色して検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法にしたがってナイロンメンブレンなどにトランスファーさせて標識した判定用組成物をプローブとしてこれとハイブリダイズさせて検出する方法をとることができる。
核酸アレイ解析を利用する場合は、本発明の上記判定用組成物を核酸プローブ(一本鎖又は二本鎖)として基板に貼り付けた核酸アレイを用いる。核酸を基板に固相化したものには、一般に核酸アレイ、DNAチップ又はDNAアレイという名称があり、DNAアレイにはDNAマクロアレイとDNAマイクロアレイが包含されるが、本明細書ではDNAチップといった場合、該DNAアレイを含むものとする。
ハイブリダイゼーション条件は限定されないが、例えば30℃〜60℃で、SSCと界面活性剤を含む溶液中で1〜24時間の条件とする。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウム及び15mMクエン酸ナトリウムを含む水溶液(pH7.2)であり、界面活性剤はSDS、Triton、もしくはTweenなどを含む。ハイブリダイゼーション条件としては、より好ましくは3〜4×SSC、0.1〜0.5% SDSを含む。ハイブリダイゼーション後の洗浄条件としては、例えば、30℃の0.5×SSCと0.1%SDSを含む溶液、及び30℃の0.2×SSCと0.1%SDSを含む溶液、及び30℃の0.05×SSC溶液による連続した洗浄などの条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが望ましい。具体的にはこのような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも80%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
本発明の組成物又はキットのポリヌクレオチド断片をプライマーとしてPCRを実施する際のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては、例えば10mM Tris−HCl(pH8.3)、50mM KCl、1〜2mM MgCl2などの組成のPCRバッファーを用い、当該プライマーの配列から計算されたTm+5〜10℃において15秒から1分程度処理することなどが挙げられる。かかるTmの計算方法として、Tm=2×(アデニン残基数+チミン残基数)+4×(グアニン残基数+シトシン残基数)などが挙げられる。
これらのハイブリダイゼーションにおける「ストリンジェントな条件」の他の例については、例えばSambrook、 J. & Russel、 D. 著、Molecular Cloning、 A LABORATORY MANUAL、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年1月15日発行、の 第1巻7.42〜7.45、第2巻8.9〜8.17などに記載されており、本発明において利用できる。
本発明はまた、本発明の組成物、キット、核酸アレイ、又はそれらの組み合わせを用いて、被験者由来の検体試料中の標的miRNA遺伝子の発現量を測定し、胃がんの補助化学療法感受性である患者由来の生体試料と感受性でない患者由来の生体試料のmiRNA遺伝子の発現量を教師サンプルとしたニューラルネットワークモデルを判別式として、検体試料が胃がんの補助化学療法感受性に関連するmiRNAを含むこと及び/又は含まないことを判定する方法を提供する。
すなわち、本発明はさらに、本発明の組成物、キット、核酸アレイ、又はそれらの組み合わせを用いて、検体試料が胃がんの補助化学療法感受性であること/又は胃がんの補助化学療法感受性でないことを判定することが既知の複数の生体試料中の標的核酸の発現量をin vitroで測定する第1の工程、前記第1の工程で得られた該標的miRNA遺伝子の発現量の測定値を教師サンプルとしたニューラルネットワークモデルによる判別式を作成する第2の工程、被験者由来の検体試料中の該標的miRNA遺伝子の発現量を第1の工程と同様にin vitroで測定する第3の工程、前記第2の工程で得られた判別式に第3の工程で得られた該標的miRNA遺伝子の発現量の測定値を代入し、該判別式から得られた結果に基づいて、検体試料が胃がんの補助化学療法感受性の有無を判定する第4の工程を含む、ここで、該標的miRNAが該組成物、キット又は核酸アレイに含まれるポリヌクレオチド類によって検出可能なものである、上記方法を提供する。
或いは、本発明の方法は、例えば下記の工程(a)、(b)及び(c):
(a)胃がんの補助化学療法感受性である組織及び/又は胃がんの補助化学療法感受性でない組織であることが既知の組織中の標的miRNA遺伝子の発現量を、本発明による判定用組成物、キット又は核酸アレイを用いて測定する工程、
(b)(a)で測定された発現量の測定値を、下記の数1〜数4の式に代入して、ニューラルネットワークモデルと呼ばれる判別式を作成する工程、
(c)被験者由来の検体試料中の該標的miRNA遺伝子の発現量を、本発明による判定用組成物、キット又は核酸アレイを用いて測定し、(b)で作成した判別式にそれらを代入して、得られた結果に基づいて、検体試料が胃がんの補助化学療法感受性であること/又は胃がんの補助化学療法感受性でないこと(有無)を判定する工程、
を含むことができる。
ニューラルネットワークモデルとはMcCulloch、WとPitts、Wにより提案された(McCulloch、W AND Pitts、W、1943年、Bulletin of Mathematical Biophysiscs、第7号、p.115−133)、神経細胞が多数並列に結ばれた神経回路を数理的にモデル化したものであり、非線形回帰分析及び非線形判別分析(パターン認識)の有力な学習機械である。
本発明の方法で使用可能な判別式の算出例を以下に示す。
ニューラルネットワークモデルを決めるためには検体試料が胃がんの補助化学療法感受性由来遺伝子を含むこと/又は胃がんの補助化学療法感受性由来miRNAを含まないことが既知の生体試料中の標的miRNA遺伝子の発現量を教師サンプルとして用意し、以下の手順によって識別関数の定数を決定することができる。
被験者が、胃がんの補助化学療法感受性である患者群、又は感受性でない患者群のいずれかに属しており、胃がんの補助化学療法感受性である患者群に属することを+1、感受性でない患者群に属することを−1にクラス分けする。これらのサンプルを教師サンプルとしたとき、教師サンプルが図1で示すニューラルネットワークモデルで分類できるとき、検体試料が胃がんの補助化学療法感受性であること及び/又は感受性でないことを判定する識別関数は例えば次式となる。
検体試料が胃がんの補助化学療法感受性由来miRNAを含むこと及び/又は含まないことを決定するmiRNA遺伝子の発現量を共変量Xnで定義し、その共変量Xnがp個存在する場合、検体試料Xの遺伝子発現、及び各ニューロンを構成する関数はそれぞれ
と標記でき、結合する各ニューロンの識別関数は出力信号である共変量Xnと結合荷重Wnの積の和で標記できる。このときに各識別関数は閾値(θ)をもち、閾値を基準にして各ニューロンを構成する関数は次式で標記できる一義的な識別関数(y)を得ることができる。
この関数に新たに与えられる胃がんの補助化学療法感受性由来miRNAを含むこと及び/又は含まないことが未知の検体試料についての共変量Xを代入することによって、f(Sj)をクラス分け(すなわち、+1又は−1)することができ、検体試料が胃がんの補助化学療法感受性由来miRNAを含むこと及び/又は含まないことを識別する。
以上に示すように、未知試料のクラス分けを行うためのニューラルネットワークモデルによる判別式の作成には2群の教師サンプルが必要となる。この教師サンプルは例えば今回の発明の場合、「胃がんの補助化学療法感受性である患者の組織から得られた発現miRNA遺伝子(遺伝子 X1、X2、..Xi、...Xn)」の各患者に対応したセット、及び「胃がんの補助化学療法感受性でない患者の組織から得られた発現miRNA遺伝子(遺伝子 X1、X2、..Xi、...Xn)」の各患者に対応したセット、の2群である。これらのセットについてそれぞれ測定される発現miRNA遺伝子数(n)は実験のデザインによって様々ではあるが、個々の遺伝子については、どのような実験においても2群間で大きく差がある場合と、比較的差が少ない、或いは差がない場合が観察される。ニューラルネットワークモデルによる判別式の精度を上げるためには、訓練サンプルとなる2群に、明確な差があることが条件となるため、遺伝子セットの中から2群間で発現量に差がある遺伝子のみを抽出して利用することが必要である。
また、ニューラルネットワークモデルによる判別式に用いるmiRNAセットに属する核酸の抽出は、次のように行うことが好ましい。まず、検体試料が胃がんの補助化学療法感受性であること/又は胃がんの補助化学療法感受性でないことが既知の複数の生体試料について、群内発現量の中央値、群内発現量の平均値、平均値の差を検出するパラメトリック解析であるt検定、ノンパラメトリック解析であるWilcoxon検定などを利用して、各miRNA遺伝子の2群間の発現量の差を求める。次に、ここで求めた2群間の発現量の差が大きいと認められる順にmiRNAを1個ずつセットに組み込み、その都度、Accuracy、Efficacy、PPV、NPVを算出する。このとき、「Accuracy」は「胃がんが再発しなかった症例を化学療法感受性であると正しく予測した回数」と「胃がんが再発して死亡した症例を化学療法感受性でないと正しく予測した回数」の和に対する全症例数の除数を意味する。「Efficacy」は「(無再発症例を化学療法感受性であると正しく予測した回数)/(化学療法感受性であると予測した回数)」と「(再発症例を化学療法感受性でないと正しく予測した回数)/(化学療法感受性でないと予測した回数)」の積、「PPV」は「(無再発症例を化学療法感受性であると正しく予測した回数)/(化学療法感受性であると予測した回数)」、「NPV」は「(再発症例を化学療法感受性でないと正しく予測した回数)/(化学療法感受性でないと予測した回数)」で算出でき、この遺伝子セットへの遺伝子の組み入れは、補助化学療法感受性である症例数と感受性でない症例数の和と一致するまで、もしくは測定したmiRNA数の上限に達するまでのいずれか小さい方に組み入れたmiRNA数が到達するまで繰り返す。無再発症例を化学療法感受性であると判定する確率のPPVと再発症例を化学療法感受性でないと判定する確率のNPVの両者が高くなる条件として、Efficacyが最大となる遺伝子のセットを採用する。
なお、このEfficacyが最大となる遺伝子セットを決定するときの方法として、全サンプルから1つのサンプルを除き、残りのサンプルで遺伝子セットを作製したときに、あらかじめ抜いていたサンプルに対する判定を行い、全サンプル分のEfficacyの平均が最高となるmiRNAセットを採用する、Leave one cross out validation法を実施することで、繰り返しの解析によるmiRNAセット選定の精度をあげることができる。
さらに、ここで選ばれるmiRNAは、Wilcoxon検定においてp値が小さい順に並べたときに繰り返し選択される回数であるmiRNAであり、また同じ回数である場合はp値が小さいものが選択される。
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。しかし、本発明は、この実施例によって制限されないものとする。
1.実験者の臨床病理学的所見
インフォームドコンセントを得た20例の胃がんFFPE検体を用いた。内訳は、無再発症例、すなわち補助化学療法感受性である症例が11例、再発症例、すなわち補助化学療法感受性でない症例が9例であった。なお、補助化学療法は、5−FU系プロドラッグ(TS−1、UFT、フルツロン)のいずれかにより行われた。
2.totalRNAの抽出
試料として上の1.で得た胃がんFFPE検体より、厚さ10μmの切片を作製し、チューブに入れた。キシレンを加えてパラフィンを溶解させ、遠心してキシレンを除いて、組織を回収した。組織にエタノールを加えて残存キシレンを溶解させ、遠心してエタノールを除いた。この操作を2回繰り返した。組織を風乾させた後、Proteinase K溶液(2μg/μL)を100μL加えて、37℃で一晩インキュベートした。シリカカラムを用いてタンパク質等の夾雑物を除き、DNaseI処理によりDNAを除くことで、精製されたtotal RNAを得た。
3.遺伝子発現量の測定
オリゴDNA核酸アレイは、東レ株式会社の3D‐Gene(登録商標) Human miRNA Oligo chipを用いた。東レ株式会社の3D‐Gene(登録商標) Human miRNA Oligo chipは、同社の定める手順に基づいて操作した。ハイブリダイゼーションを行ったDNAチップをDNAアレイスキャナー(ScanArrayLite、パーキンエルマージャパン)を用いてスキャンし、画像を取得してGenePix Pro5.0(MolecularDevice)にて蛍光強度を数値化した。統計学的処理はSpeed T.著「Statistical analysis of gene expression microarray data」Chapman & Hall/CRC、及びCauston H.C.ら著「A beginner’s guide Microarray gene expression data analysis」Blackwell publishingを参考にし、ハイブリダイズ後の画像解析から得られたデータの対数値を用いて解析した。その結果、胃がんの補助化学療法感受性である患者と感受性でない患者とで、発現量が減少、低減もしくは増加、増大しているmiRNA(ポリヌクレオチド)を見出すことができた。その一覧を表1に示す。これらの遺伝子を、検体試料が胃がんの補助化学療法感受性であること/又は感受性でないことを判定するのに利用できると考えられる。
4.予測スコアリングシステム
11症例の胃がんの補助化学療法感受性であった症例の検体試料及び9症例の感受性でなかった症例の検体試料の合計20症例を教師サンプルとして、R(http://cran.r−project.org/)を用いて判別式を作成した。miRNA(ポリヌクレオチド)は図2に示すような流れで決定した。すなわち、まず20症例の教師サンプルを19症例の学習セットと1症例のテストセットに分け、学習セットにおいて胃がんの補助化学療法感受性であった群から得た検体試料を用いて測定したmiRNA遺伝子発現量と感受性でなかった患者群から得た検体試料を用いて測定したmiRNA遺伝子発現量の間で、各々の遺伝子発現量についてWilcoxon検定のp値を算出した。次に、ここで求めたWilcoxon検定のp値が小さい順に遺伝子の1個ずつを組み入れたデータセットを用いたニューラルネットワークモデルを構築し、その都度、テストセットの検体試料が胃がんの補助化学療法感受性であること/又は感受性でないことを判定した。この検体試料が胃がんの補助化学療法感受性であること/又は感受性でないことの判定を20症例の教師サンプルから分けることができる20通りの学習セットとテストセットの組合せに対して行い、20症例を正しく予測できたAccuracy、Efficacy、Sencitivity、Specificity、PPV、及びNPVの割合を算出した。その結果を表2に示す。
このmiRNAセットへのmiRNAの組み入れは、Wilcoxon検定のp値が小さい順に繰り返し、最大のEfficacyを得られた時点の遺伝子(ポリヌクレオチド)のセットを求めた。その結果を図3に示す。図3の縦軸は胃がんの補助化学療法感受性を判定できる確率を、横軸は表1に記載の配列番号の順に増やした、胃がんの補助化学療法感受性の有無の判定に必要なmiRNA(ポリヌクレオチド)の合計数をそれぞれ示す。例えば、横軸の数字が5のときは表1の配列番号1〜5のmiRNA(ポリヌクレオチド)の組み合わせで予測した結果を、20のときは配列番号1〜20のmiRNA(ポリヌクレオチド)の組み合わせで予測した結果がそれぞれ示されている。13種類のmiRNA(ポリヌクレオチド)のセットの場合にEfficacyが最大であり、81%であった。以上のとおり、5−FU系プロドラッグによる補助化学療法感受性の有無を非常に高い確率で判定できるmiRNA(ポリヌクレオチド)のセットが見出された。