JP5754203B2 - 破壊靭性試験片 - Google Patents
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Description
しかし、非特許文献2に記載されているように、き裂は、必ずしもナゲット部ではなく、溶接継手の熱影響領域(以下、「HAZ部」と示す)や母材に進展している場合が多く、ナゲット部の破壊靭性値の測定に最適な、ナゲット部をほぼ直進するき裂のΔKθmaxについては明らかではない。また、ΔKθmaxは有限要素法(Finite Element Method:以下、「FEM」と示す)に基づく解析により得られる値であり、その計算には膨大な時間とコストがかかる。
しかし、破断強度パラメータは、各種要因(母材の引張強度、試験片幅、板厚、ナゲット径等)のフィッティングにより求めたものであり、多分に経験的なパラメータであると言え、ナゲット部そのものの破壊限界値を求める手法とは言い難い。また、FEM解析には膨大なる時間とコストがかかる。
しかし、破壊ひずみパラメータを求めるには、経験的に求めた種々の補正係数が必要であり、特許文献1に記載された技術と同様に、ナゲット部そのものの破壊限界値を求める手法とは言い難い。また、FEM解析には膨大なる時間とコストがかかる。
即ち、複数枚の鋼板を板厚方向に重ね合わせて鋼板相互をスポット溶接して鋼板厚み方向へ回転体状に連なる溶接継手を形成し、前記鋼板の板厚方向に引張荷重を繰り返し負荷して前記溶接継手のナゲット部に前記鋼板の積層界面から前記ナゲット部の径方向中心に向かって径方向長さacの1/10以上が前記ナゲット部に含まれる疲労予き裂領域を導入した十字形引張疲労試験片において、前記ナゲット部の径方向中心を原点として互いに直交するX軸およびY軸を定めて、前記ナゲット部の径方向に沿って幅W、およびXY面に平行かつ前記ナゲット部の径方向に直交する方向に沿って厚みTを有する直方体として、前記十字形引張疲労試験片から前記厚みTの中心を通り前記幅Wに沿って伸びる中心線と前記Y軸とから求まるY切片の大きさがND/4以下の下に切り出した破壊靭性試験片であって、前記厚みTに対する前記幅Wは1以上4以下、前記幅W[mm]に対する前記破壊靭性試験片に残存する疲労予き裂の長さaj[mm]は0.35以上0.75以下、および、前記ナゲット部の直径ND[mm]に対する前記厚みT[mm]は0.1以上1.0未満であることを特徴とするものである。
まず、ナゲット部に疲労予き裂が導入された、複数枚の鋼板をスポット溶接したスポット溶接継手を用意する。このスポット溶接継手は、破壊靱性値の測定に好適な、ナゲット部を直進する疲労予き裂が導入されていれば特に限定されない。例えば、図1(a)に示すような十字型引張疲労試験片のナゲット部において、図1(b)の断面観察結果に示すような、ナゲット部の長軸方向に直進する疲労予き裂が導入されたものとすることができる。
次いで、該スポット溶接継手の板厚方向に引張荷重を繰り返し負荷してナゲット部に疲労予き裂を導入する。その際、引張荷重は、開口モードの応力拡大係数の最大値KImax:15[MPa・m1/2]以下において、下記の式(1)に従うPmax[N]を上限として行う。
また、疲労予き裂導入回数が極端に増加すると、単位時間当たりの人的あるいは実験コストの増加が顕著となるため、Nの上限は1000万回とする。
(要件1)破壊靱性試験片の中心線とY軸との交点から求まるY切片の大きさが、ナゲット直径NDに対して1/4以下であること。
(要件2)ナゲット直径NDに対する破壊靭性試験片の厚みTは、0.1以上1.0未満であること。
(要件3)幅Wに対する破壊靭性試験片中の予き裂長さ:aj[mm]は、0.35以上0.75以下であること。および、
(要件4)厚みTに対する幅Wは、1以上4以下であること。
以下、上記各要件について説明する。
まず、要件1は、例えば十字形引張疲労試験片から破壊靱性試験片を採取する向きを規定するものである。本発明においては、破壊靭性試験片の切り出しは、破壊靭性試験片の厚みTの中心を通り幅Wに沿って伸びる中心線とY軸とから求まるY切片の大きさがND/4以下の下に行う。ここで、「中心線」は、十字形引張疲労試験片から厚みTの中心を通り幅Wに沿って伸びる線を意味する。中心線とY軸とから求まるY切片の大きさがND/4以下とする理由は、Y切片がND/4を超えると、試験片表裏面(図2の破壊靭性試験片において、幅W方向に平行かつ厚みT方向に垂直な2つの面)をそれぞれ横切る疲労予き裂の幅方向の長さが著しく異なり、aj(破壊靱性試験片の表裏面をそれぞれ横切る疲労予き裂の幅W方向の長さを平均した値とする)の値に信頼性が欠け、破壊靭性値が得られなくなるためである。
また、要件2は、ナゲット直径NDに対する破壊靭性試験片の厚みTを規定するものであり、0.1以上1.0以下となるようにする。これは、0.1未満の場合には、ナゲット部の局所的な破壊靱性値を求めてしまい、信頼性に欠けるためである。また、1.0を超える場合には、厚みTの大きさがナゲット直径NDの大きさを超えることを意味しており、図2において、厚み方向全体に亘って疲労予き裂を含む破壊靱性試験片を切り出すことができず、破壊靱性試験片自体が加工できないためである。
要件3は、破壊靭性試験片の幅Wに対する破壊靭性試験片に残存する疲労予き裂長さajを規定するものである。これは、aj/Wが0.35未満の場合あるいは0.75を超える場合には、後述の式(4)の条件を満足しなくなるためである。なお、aj/Wが0.35未満の場合にはき裂先端で平面ひずみ状態を満足せずに、破壊靱性値が得られない。一方で、aj/Wが0.75を超えると、き裂先端が大規模降伏状態となり、小規模降伏状態が前提の破壊靱性値を求めることができない。好ましくは、0.40以上0.60以下である。
要件4は、破壊靭性試験片の厚みTに対する幅Wを規定するものであり、1以上4以下とする。これは、1未満の場合には、後述の式(4)に示す、平面ひずみ条件を満足せずに、破壊靱性値が求めることができないためである。一方、4を超える場合には、試験片の厚みTに対して幅Wが過度に大きくなることを意味している。例えばT=NDとした場合に、W/Tが4を超えると、図2からも明らかなようにW>4NDとなり、疲労予き裂が小型破壊靱性試験片に2つ含まれることになり、破壊靱性値を求めることができない。好ましくは、1以上2以下である。
なお、上述した本発明の要件を満足するものであれば、3点曲げや4点曲げなどの各種曲げ試験片、あるいはCT(コンパクトテンション)試験片などを採用することもできる。
表1に示す、種々の引張強度:TSおよび板厚:tを有する高強度薄鋼板を用いて、ナゲット直径を2t1/2〜7t1/2の間で変化させて、図3(a)に示すような、2枚重ねのJIS Z 3138に準拠する十字引張疲労試験片を作製し、室温、大気中にて、溶接継手のナゲット部に疲労予き裂を導入した。
まず、疲労予き裂を導入するためのKImaxを設定し、式(1)から、十字引張疲労試験片に負荷する引張荷重の最大値:Pmaxを求めた。
次いで、疲労予き裂の長さ:acを設定し、表1に示した材料定数Cおよびmを用いて、上記式(3)から疲労予き裂の導入回数:Nを求めた。
その後、Pmaxを十字引張疲労試験片にN回繰り返して負荷し、溶接継手のナゲット部に疲労予き裂を導入した。ここで、Nは1000万回を上限とした。
なお、疲労予き裂導入後の疲労予き裂長さの実測値:ac *を、図1(b)に示したように、ナゲット部の中央で切断した断面観察から求めた。そして、ac */acが0.7以上1.3以下の場合に、所望の疲労予き裂長さacが得られたものとして○と判定し、上記範囲を超える場合を×と判定した。得られた結果を表2に示す。
以上の条件に従って予き裂を導入したところ、試験片T1〜T29の全てについて、所望の長さac(0.7≦ac */ac≦1.3)を有する疲労予き裂を導入することができた。
なお、母材の引張試験は、元厚のJIS Z 2201の5号試験片を、圧延方向と直角方向に採取したあと、JIS Z 2241に準拠して行い、母材の降伏応力:σyMおよび引張張力:TSを求めた。また、母材およびナゲット部のビッカース硬さを測定した。このビッカース硬さの測定は、圧痕押しつけ荷重:2.94N(300gf)の下で行った。ここで、横軸の溶接割れ感受性組成(以下、PCMと示す)は、鋼板の成分組成(質量%)に応じて、以下の式(8)から求めることができる。
図5には、比較のため、厚板母材のPCMと破壊靱性値との関係も示している。この図から、厚板母材およびナゲットの破壊靱性値は、PCMの上昇により低下することが分かる。また、本発明による破壊靭性試験片を用いて測定された破壊靱性値は、母材の値よりもやや低いものの、同程度の値を示していることが分かる。
なお、本発明による破壊靭性試験片を用いて測定された破壊靱性値が厚板母材と比較して低い理由は、ナゲット部は溶解後に急速凝固しているために硬化しており、同一のPcmで比較した時に破壊靭性値が低下したためと考えられる。
以上から、本発明による破壊靭性試験片を用いて測定された破壊靱性値は妥当であると言える。
また、本実施例に用いた鋼板は、いずれも表面処理を施していないが、亜鉛めっき処理などの表面処理を施していても、スポット溶接が適正に行われていれば、上記の試験方法で、裸材とほぼ同程度の破壊靱性試験片および破壊靱性値が得られることを確認している。
比較例1では、破壊靱性試験片を切り出す際の、Y切片が本発明において規定した上限を超えている。このため、試験片を採取した際に、疲労予き裂が短くなり、aj/Wが本発明において規定した下限を下回る。その結果、この試験片を用いて破壊靱性試験を行ったところ、Kの値が発明例よりもかなり大きな値となり、適正な破壊靱性値を得ることができなかった。
比較例2では、an/acが0.1を下回っている。このため、破壊靱性試験片を加工しても、式(4)の判定条件を満たさなかった。その結果、この試験片を用いて破壊靱性試験を行ったところ、Kの値が発明例よりもかなり大きな値となり、適正な破壊靱性値を得ることができなかった。
比較例3では、破壊靱性試験片の厚さTが本発明範囲を下回っており、式(4)の判定条件を満たさなかった。その結果、この試験片を用いて破壊靱性試験を行ったところ、Kの値が発明例よりもかなり大きな値となり、適正な破壊靱性値を得ることができなかった。
比較例4では、破壊靱性試験片の厚さTが本発明において規定した上限を上回っている。その結果、破壊靱性試験片に加工しても、試験片中に疲労予き裂を導入できずに、aj/Wが0となり、破壊靱性試験を行うことができなかった。
比較例5では、aj/Wが本発明において規定した上限を上回っている。その結果、この試験片を用いて破壊靱性試験を行ったところ、Kの値が発明例よりもかなり小さい値となり、適正な破壊靱性値を得ることができなかった。
比較例6では、破壊靱性試験片の幅Wが本発明において規定した下限を下回っており、式(4)の判定条件を満たさなかった。その結果、この試験片を用いて破壊靱性試験を行ったところ、Kの値が発明例よりもかなり大きな値となり、適正な破壊靱性値を得ることができなかった。
比較例7では、破壊靱性試験片の幅Wが本発明において規定した上限を上回っている。その結果、Wがナゲット直径を超えていたため、破壊靱性試験片を採取することができなかった。
以上の発明例1〜7に対する破壊靱性値を、発明例1〜22に対する破壊靱性値とともに図6に示す。この図から明らかなように、比較例1〜7の破壊靱性値は、発明例1〜22、ひいては母材の破壊靭性値と大きく相違していることが分かる。
Claims (2)
- 複数枚の鋼板を板厚方向に重ね合わせて鋼板相互をスポット溶接して鋼板厚み方向へ回転体状に連なる溶接継手を形成し、前記鋼板の板厚方向に引張荷重を繰り返し負荷して前記溶接継手のナゲット部に前記鋼板の積層界面から前記ナゲット部の径方向中心に向かって径方向長さacの1/10以上が前記ナゲット部に含まれる予き裂領域を導入した十字形引張疲労試験片において、
前記ナゲット部の径方向中心を原点として互いに直交するX軸およびY軸を定めて、前記ナゲット部の径方向に沿って幅W、およびXY面に平行かつ前記ナゲット部の径方向に直交する方向に沿って厚みTを有する直方体として、前記十字形引張疲労試験片から、前記厚みTの中心を通り前記幅Wに沿って伸びる中心線と前記Y軸とから求まるY切片の大きさがND/4以下の下に切り出した破壊靭性試験片であって、
前記厚みTに対する前記幅Wは1以上4以下、
前記幅W[mm]に対する前記破壊靭性試験片に残存する疲労予き裂の長さaj[mm]は0.35以上0.75以下、および、
前記ナゲット部の直径ND[mm]に対する前記厚みT[mm]は0.1以上1.0未満、
である破壊靭性試験片。 - 前記間隔Wに対する前記破壊靭性試験片に残存する疲労予き裂の長さajは0.40以上0.60以下であり、前記厚みTに対する前記幅Wは1以上2以下であることを特徴とする、請求項1に記載の破壊靭性試験片。
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