以下、図1〜図7を参照してこの発明の実施形態につき説明する。以下の説明において、特定の素子および動作条件などを取り上げることがあるが、これら素子および動作条件は好適例の一つに過ぎず、したがって、何らこれらに限定されない。また、図2及び図6は、この発明に係る一構成例を図示するものであり、この発明が理解できる程度に各構成要素の配置関係などを概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。なお、図1、図2、及び図6において共通する構成要素については同一の番号を付して示し、その重複する説明を省略することもある。
<量子鍵配送システムにおける基礎的概念>
図1を参照してこの発明の量子鍵配送方法及び量子鍵配送システムで用いられる相関光子対の生成状態のモニター及び制御並びにクロック信号抽出についての基礎的概念について説明する。
相関光子対発生機能を実現させるための基本構成は、非線形光学媒質101と、励起光を出力する励起光発生部105と、補助信号光を出力する補助信号光発生部106と、非線形光学媒質101から出力される出力光に含まれる補助信号光成分の強度を検出する第1フォトディテクタ102と、補助アイドラー光成分の強度を検出する第2フォトディテクタ103と、制御信号生成器104とから成る。
励起光発生部105は、波長λp、波数kp、角周波数ωpの励起光パルス列を出力する光源である。励起光発生部105から出力された励起光を非線形光学媒質101に入力することにより、自然パラメトリック蛍光に基づいて、上述した式(1)及び式(2)、あるいは式(3)及び式(4)の関係を満足する波長λs、波数ks、角周波数ωsの信号光と、波長λi、波数ki、角周波数ωiのアイドラー光の相関光子対が発生する。この相関光子対を利用して、従来例と同様に量子もつれ光源を構成する。
また、補助信号光発生部106は、波長λs-2、波数ks-2、角周波数ωs-2の補助信号光パルス列を出力する光源である。補助信号光発生部106から出力される補助信号光を、励起光と共に非線形光学媒質101に入力する。非線形光学媒質101が、2次非線形光学媒質である場合は、励起光と補助信号光との間で光差周波発生DFGが発現する。
また、非線形光学媒質101が、3次非線形光学媒質である場合は、励起光と補助信号光との間で4光波混合(FWM: Four Wave Mixing)が発現する。
その結果、上述した式(1)及び式(2)、あるいは式(3)及び式(4)における信号光とアイドラー光を、それぞれ対応する補助信号光と補助アイドラー光に変更した形の関係式を満足する波長λi-2、波数ki-2、角周波数ωi-2の補助アイドラー光が発生する。
すなわち、補助信号光及び補助アイドラー光は、非線形光学媒質101が2次非線形光学媒質である場合は、
kp=ks-2+ki-2+K (5)
ωp=ωs-2+ωi-2 (6)
非線形光学媒質101が3次非線形光学媒質である場合は、
2kp=ks-2+ki-2+K (7)
2ωp=ωs-2+ωi-2 (8)
の関係式を満足する。
この発明の量子鍵配送システムにおいて、これら補助信号光及び補助アイドラー光は、光子数の期待値が長時間にわたって一定に保たれるように監視するモニター機能、及び光子到来を検出するクロック抽出機能、更に長距離量子鍵配送を実現するための偏波制御機能を実行するために専ら利用され、暗号鍵の生成には利用されない。
制御信号生成器104は、第1フォトディテクタ102及び第2フォトディテクタ103からの出力を比較する、出力比較器(図示を省略してある)と制御信号生成器(図示を省略してある)から成り、励起光の強度、励起光の波長、及び非線形光学媒質101の温度の少なくとも何れか1つの値を制御するための信号を出力する。
図1では、制御信号生成器104は、相関光子対の発生状態のモニター及びその制御、並びにクロック信号抽出を実行する装置の基本動作を説明するために専ら図示されている。すなわち、図1においては制御信号生成器104を1つのブロックで簡略化して示してあるが、この発明の量子鍵配送システムの実施形態においては、制御信号生成器104の機能を果す構成部分は、複数の構成部分としてより具体的に細分化されて構成される。
<第1の量子鍵配送システム>
この発明の実施形態の第1の量子鍵配送システムは、信号光の波長λsと補助信号光の波長λs-2とが異なる(λs≠λs-2)場合に対応させて構築されるシステムであり、上述の式(2)、式(4)、式(6)、及び式(8)によって、アイドラー光の波長λiと補助アイドラー光の波長λi-2も異なる(λi≠λi-2)値に設定される。
図2を参照して、安定な相関光子対の生成とクロック信号の抽出が実行されるように実装された非線形光学媒質及び周辺装置、更に長距離量子鍵配送を実現するための偏波制御機能を備えた、この発明の実施形態の第1の量子鍵配送システムについて説明する。
第1の量子鍵配送システムは、相関光子対生成部10と、第1光分岐器20、第2光分岐器、第3光分岐器と、制御信号生成部12と、相関光子対生成過程制御部14と、相関光子対受信部16とを備えている。第1光分岐器20は、第1波長分離フィルタ112と、第1波長合成フィルタ114、及び第2波長合成フィルタ115を備えている。第2光分岐器は第2波長分離フィルタ116で構成され、第3光分岐器は第3波長分離フィルタ117で構成されている。また、制御信号生成部12は、第1制御信号生成部12-1及び第2制御信号生成部12-2で構成されている。
相関光子対生成部10は、励起光パルスを出力する励起光発生部105と、補助信号光パルスを出力する補助信号光発生部106と、励起光パルスと補助信号光パルスとを合波して出力する光合波器108と、ループ光路11とを備える。光合波器108は、波長分離合成(WDM: Wavelength Division Multiplexing)フィルタを用いて形成できる。以後、励起光パルスを単に励起光、補助信号光パルスを単に補助信号光ということもある。
相関光子対生成部10が備えるループ光路11は、第1〜第3入出力端を備える偏波分離合成器109の第2入出力端109-2及び第3入出力端109-3を結んで構成されるサニャック干渉計の形態のループ光路であって、このループ光路11中に非線形光学媒質101と90度偏波面変換部110とが設置されて構成される。ループ光路11は、非線形光学媒質101と90度偏波面変換部110等の光学部品を光結合レンズで空間的に結合する構成としてもよく、また、偏波面保存光ファイバを用いて光モジュールとして構成してもよい。
90度偏波面変換部110は、1/2波長板あるいは、偏波面保存光ファイバを切断し、進相軸と遅相軸の方向を90度回転させて融着させることで構成することができる。
偏波分離合成器109においては、第1入出力端109-1から入力されたp偏波成分は、第2入出力端109-2に出力され、第1入出力端109-1から入力されたs偏波成分は、第3入出力端109-3に出力される。また、第2入出力端109-2から入力されたp偏波成分は、第1入出力端109-1に出力され、第3入出力端109-3から入力されたs偏波成分は、第1入出力端109-1に出力されるように設定されている。
このような機能を有する偏波分離合成器としては、市販されている偏波分離合成器から適宜選択して利用することができる。すなわち、偏波分離合成器として、薄膜を用いたタイプの偏波分離合成器や、複屈折結晶で形成される偏光プリズムを用いたタイプの偏波分離合成器を適宜選択すればよい。
更に、第1の量子鍵配送システムは、ループ光路11から出力される相関光子対の波長成分、受信者A及び受信者Bに伝達する第1及び第2クロック信号の生成の元となる補助信号光の波長成分、及び補助アイドラー光の波長成分を選択して出力するために光学部品として、光サーキュレータ107及び光ローパスフィルタ111も備えている。
光サーキュレータ107は、補助信号光を入力するための第1入力端107-1と、第1入力端107-1からの入力光を出力し光合波器108へと結合する第2入出力端107-2と、第2入出力端107-2からの入力光を出力する第3出力端107-3を備えている。
光サーキュレータ107の第2入出力端107-2から出力される補助信号光は、光合波器108において励起光と合成され、偏波分離合成器109の第1入出力端109-1へと入力される。光合波器108として好適に利用できるのは、例えば、AWG(Array Waveguide Gratings)型のWDMフィルタである。あるいは、誘電体多層膜フィルタを利用して形成されるいわゆる光バンドパスフィルタも適宜利用できる。
励起光と補助信号光のそれぞれのp偏波成分が偏波分離合成器109の第2入出力端109-2へと出力され、また、s偏波成分が第3入出力端へと出力される。
偏波分離合成器109から出力される励起光のp偏波成分とs偏波成分は、後述するように同一の強度でなければならない。そのために、偏波分離合成器109の第1入出力端109-1へと入力される励起光は、p偏波成分とs偏波成分の強度比が1:1となるように偏波調整する必要がある。この偏波調整は、図示は省略してあるが、市販の偏波面コントローラ等を利用すれば容易に行える。
一方、補助信号光の偏波状態については、励起光と同様に、p偏波成分とs偏波成分の強度比が1:1となるように偏波調整して偏波分離合成器109の第1入出力端109-1へと入力すればよい。あるいは、偏波分離合成器109に対して、s偏波として入力しても、p偏波として入力してもよい。補助信号光を、いずれの偏波状態で偏波分離合成器109の第1入出力端109-1へ入力させるかは、システムの設計事項であり、偏波状態の調整手法はこの発明の第1の量子鍵配送システムの効果に影響しない。
以後、p偏波成分とs偏波成分の強度比が1:1となるように偏波調整された励起光及び補助信号光を、それぞれ「45度偏光の励起光」及び「45度偏光の補助信号光」と呼ぶこともある。
光ローパスフィルタ111は、非線形光学媒質101に2次非線形光学媒質を用いた場合に発生する、SPDC過程における励起光成分、又は後述する第2高調波発生(SHG: Second Harmonic Generation)/自然パラメトリック下方変換過程(SHG/SPDC過程)におけるSHG光成分を除去する役割を果す。
第1光分岐器20は、非線形光学媒質101から出力される出力光を、信号光成分及び補助信号光成分の組112-1、並びにアイドラー光成分及び補助アイドラー光成分の組112-2に分別して出力する。第1光分岐器20は、信号光成分、補助信号光成分、アイドラー光成分及び補助アイドラー光成分の4つの波長成分に分離して出力する第1波長分離フィルタ112と、信号光成分と補助信号光成分とを波長多重して出力する第1波長合成フィルタ114と、アイドラー光成分と補助アイドラー光成分とを波長多重して出力する第2波長合成フィルタ115とで構成される。第1波長分離フィルタ112、第1波長合成フィルタ114、及び第2波長合成フィルタ115は、AWG型のWDMフィルタを適宜利用することができる。
第1波長分離フィルタ112は、光ローパスフィルタ111の通過光のうち、信号光の波長成分(波長λs)、アイドラー光の波長成分(波長λi)、補助信号光の波長成分(波長λs-2)、及び補助アイドラー光の波長成分(波長λi-2)を、それぞれ別々の光経路に切り分けて出力する。
以後、信号光の波長成分、アイドラー光の波長成分、補助信号光の波長成分、及び補助アイドラー光の波長成分を、それぞれ信号光成分、アイドラー光成分、補助信号光成分、及び補助アイドラー光成分、あるいは、単にそれぞれ信号光、アイドラー光、補助信号光、及び補助アイドラー光と略記することもある。
第1波長分離フィルタ112を通過した信号光成分と補助信号光成分の組112-1は、第1波長合成フィルタ114によって合波される。また、第1波長分離フィルタ112を通過したアイドラー光成分と補助アイドラー光成分の組112-2は、第2波長合成フィルタ115によって合波される。
第1波長合成フィルタ114から出力された信号光と補助信号光との合波光、第2波長合成フィルタ115から出力されたアイドラー光と補助アイドラー光の合波光は、それぞれ最終的に光ファイバや自由空間などによる第1量子チャンネル201、第2量子チャンネル202を伝送される。
相関光子対生成過程制御部14は、第1量子チャンネル201中に挿入されるアイドラー光成分及び補助アイドラー光成分の偏波状態を制御する第1偏波制御装置601と、第2量子チャンネル202中に挿入される信号光成分及び補助信号光成分の偏波状態を制御する第2偏波制御装置602とを備える。第1偏波制御装置601と第2偏波制御装置602は、それぞれ1/2波長板、1/4波長板等で構成される。
第2光分岐器である第2波長分離フィルタ116は、第1光分岐器20から出力されて第1量子チャンネル201を伝播した信号光成分と補助信号光成分の組112-1からなる第1量子チャンネル伝送信号が入力されて、新信号光成分(波長λs)と新補助信号光成分(波長λs-2)とに再度分離して出力する。
第3光分岐器である第3波長分離フィルタ117は、第1光分岐器20から出力されて第2量子チャンネル202を伝播したアイドラー光成分と補助アイドラー光成分の組112-2からなる第2量子チャンネル伝送信号が入力されて、新アイドラー光成分(波長λi)と新補助アイドラー光成分(波長λi-2)とに再度分離して出力する。
制御信号生成部12は、第1制御信号生成部12-1及び第2制御信号生成部12-2から構成される。第1制御信号生成部12-1は、第1光分配器401、第1偏波モニター501、及び第1フォトディテクタ118を備えている。また、第2制御信号生成部12-2は、第2光分配器402、第2偏波モニター502、及び第2フォトディテクタ119を備えている。
そして、第1制御信号生成部12-1は、第1サブ制御信号121-2S、第1電気補助信号118-1S、118-2S及び第3制御信号501Sを発生させ、第2制御信号生成部12-2は、第1制御信号121-1S、第2電気補助信号119-1S、119-2S、及び第2制御信号502Sを発生させる。
第1電気補助信号118-1S、118-2Sは、新補助信号光成分が電気信号に変換された信号である。第2電気補助信号119-1S、119-2Sは、新補助アイドラー光成分が電気信号に変換された信号である。
第1制御信号121-1Sは、第3波長分離フィルタ117から出力される新補助アイドラー光成分が制御信号生成器121-1に入力されて、第1フォトディテクタ118から出力された新補助信号光成分とこの新補助アイドラー光成分との強度比が予め設定された値に等しくなるように、励起光の強度、励起光の波長、及び非線形光学媒質101の温度の少なくとも何れか1つの値を制御するための信号である。
第2制御信号502Sは、新補助アイドラー光成分の偏波状態を検出してその結果に基づきアイドラー光成分及び補助アイドラー光成分の偏波状態を第2偏波制御装置602で制御するための信号である。
第3制御信号501Sは、新補助信号光成分の偏波状態を検出してその結果に基づき信号光成分及び補助信号光成分の偏波状態を第1偏波制御装置601で制御するための信号である。
相関光子対受信部16は、第1電気補助信号118-1Sが入力されて第1クロック信号122Cを出力する第1クロック信号抽出部122と、第2電気補助信号119-1Sが入力されて第2クロック信号123Cを出力する第2クロック信号抽出部123と、第1クロック信号122Cに同期させて新信号光成分が電気信号に変換された電気受信信号を受信する第1受信部124と、第2クロック信号123Cに同期させて新アイドラー光成分が電気信号に変換された電気アイドラー信号を受信する第2受信部125とを備える。
上述したように、信号光と補助信号光との組112-1は、第2波長分離フィルタ116によって新信号光成分と新補助信号光成分とに再度分離される。そして、新補助信号光成分は第1光分配器401で2分岐され、その一方の出力が第1フォトディテクタ118で受信されて第1電気補助信号118-1Sに変換され、第1クロック信号抽出部122におけるクロック信号抽出に使われる。また、第1光分配器401で2分岐された他方の出力が第1偏波モニター501に入力され、第3制御信号501Sが生成されて出力される。第1偏波モニター501は、公知の出力比較器を備えて適宜構成することができる。
第1フォトディテクタ118から出力される第1電気補助信号118-2Sは、制御信号生成器121-2に供給される。制御信号生成器121-2に第2フォトディテクタ119から出力された新補助アイドラー光成分とこの第1電気補助信号118-2Sが入力されて、第1サブ制御信号121-2Sが生成されて出力される。第1サブ制御信号121-2Sは古典チャンネル(図示を省略してある)を介して相関光子対生成部10に伝達される。第1サブ制御信号121-2Sは、後述するように、第1制御信号121-1Sと比較することによって、第1量子チャンネル201、第2量子チャンネル202で生じた光過剰損失を見積もるために利用される。
第3制御信号501Sが古典チャンネル(図示を省略してある)を介して第1偏波制御装置601に供給されることによって、信号光成分及び補助信号光成分の偏波状態を、第1偏波制御装置601を構成する1/2波長板及び1/4波長板を回転制御することによって一定の状態に保たれるように制御される。この第3制御信号501Sによる調整手法は、周知のフィードバックによる制御方法が適宜利用できるので、その具体的な説明を省略する。
一方、第2波長分離フィルタ116から出力される新信号光成分が、第1受信部124が備える光子検出器(図示を省略してある)によって受信者Aに受信される。その受信の際、第1クロック信号抽出部122から出力されたクロック信号にタイミング同期された同期検出が実行される。
上述したように、アイドラー光と補助アイドラー光との組112-2は、第3波長分離フィルタ117によって、新アイドラー光成分と新補助アイドラー光成分とに再度分離される。そして、新補助アイドラー光成分は、第2光分配器で2分岐され、その一方の出力が、第2フォトディテクタ119で受信されて第2電気補助信号119-1Sに変換され、第2クロック信号抽出部123におけるクロック信号抽出に使われる。
一方、第3波長分離フィルタ117から出力される新アイドラー光成分が、第2受信部125が備える光子検出器(図示を省略してある)によって受信者Bに受信される。その受信の際、第2クロック信号抽出部123から出力されたクロック信号にタイミング同期された同期検出が実行される。
また、第2光分配器で2分岐された他方の出力が第2偏波モニター502に入力され、第2制御信号502Sが生成されて出力される。第2偏波モニター502は、公知の出力比較器を備えて適宜構成することができる。
第2制御信号502Sが古典チャンネル(図示を省略してある)を介して第2偏波制御装置602に供給されるによって、アイドラー光成分及び補助アイドラー光成分の偏波状態を、第2偏波制御装置602を構成する1/2波長板及び1/4波長板を回転制御することによって一定の状態に保たれるように制御される。この第2制御信号502Sによる調整手法は、周知のフィードバックによる制御方法が適宜利用できるので、その具体的な説明を省略する。
第2フォトディテクタ119から出力される第2電気補助信号119-2Sは、制御信号生成器121-1に供給される。制御信号生成器121-1に第2電気補助信号119-2Sが入力されて、第1制御信号121-1Sが生成されて出力される。第1制御信号121-1Sは古典チャンネル(図示を省略してある)を介して相関光子対生成部10に伝達される。
第1制御信号121-1Sが相関光子対生成部10に伝達されることによって、第1制御信号121-1Sに基づいて励起光発生部105が制御され励起光強度が調整される。もしくはその波長が調整される。または、非線形光学媒質101の温度が調整される。このように第1制御信号121-1Sによって、励起光発生部105あるいは非線形光学媒質101が制御されることによって、相関光子対生成部10から出力される補助アイドラー光の強度が常に一定値となるように制御される。この第1制御信号121-1Sによる調整手法は、周知のフィードバックによる制御方法が適宜利用できるので、その具体的な説明を省略する。
受信者A及び受信者Bがそれぞれ光子検出器を備える第1受信部124及び第2受信部125で受信した信号を用いることによって、暗号通信システムに必要とされる共通鍵を生成することができる。
相関光子対の量子力学的状態、すなわち、この発明の量子鍵配送システム(第1の量子鍵配送システム及び後述する第2の量子鍵配送システムを含む)において、1パルスあたり光子対が何組発生しているかを直接測定して知ることは量子状態を破壊するためできない。また、正規の受信者以外が測定行為を実行することは、量子通信システムにおいて、そのシステムの構成上許容されない。
一方、相関光子対生成過程とは独立な過程で生じながら、その期待値が相関光子対の生成効率の期待値と相関する物理量があれば、その物理量を測定することで、相関光子対の量子状態を破壊することなく、相関光子対の生成過程の期待値を知ることができる。すなわち、相関光子対の量子状態自体を知ることはできなくとも、その期待値については間接的に検出できる。このことから、相関光子対生成効率の期待値と相関する物理量を基にフィードバック制御すれば、相関光子対を安定して発生させることが可能となる。
<相関光子対の生成効率の期待値と相関する物理量に関する検証実験>
この出願の発明者は、相関光子対の生成効率の期待値が、光差周波発生DFGの変換効率(出力アイドラー光と入力信号光の強度比)と比例関係にあることを実験によって確かめた。以下、この相関光子対の生成効率の期待値がDFGの変換効率と比例することを確かめた検証実験について説明する。
検証実験において、非線形光学媒質として、MgOをドープした化学量論的組成のLiNbO3基板に周期的分極反転構造を施し、またプロトン交換とダイシングによるリッジ形状加工により光導波路を形成したPPLN導波路素子を用いた。PPLN導波路素子の長さは6cm、リッジの幅を10μmとした。また、分極反転構造の周期Λを19.6μmとした。
この周期Λは、このPPLN導波路素子でQPMに基づくSHGを発生させた場合に最大のSHG出力が得られる励起光の波長(以下、QPM波長ということもある。)が1562.75nmとなるように設定されたものである。ただし、これらPPLN導波路素子の長さ、周期Λ等の値は任意に設定可能であり、この発明の構成を限定するものではない。また、製作したPPLN導波路素子の伝播損失の大きさは、1550nm帯の光に対して、0.1dB/cm程度であった。
検証実験は、上述のPPLN導波路素子を、温度制御素子や結合レンズ、光入出力のための光ファイバ等と共に光モジュール化して一体化したPPLNモジュールを用いて行った。ここでは、温度制御素子としてペルチエクーラーを用いた。このPPLNモジュールの光挿入損失は1560nm帯の光に対して3.7dB程度であった。
まず、PPLNモジュールにQPM波長1562.75nmの半波長である781.375nmの波長の励起光を入力し、そのときのPPLNモジュールから出力される出力光の光スペクトルを測定した。この測定に用いた光スペクトルアナライザーの波長分解能は、5nmに設定した。また、励起光のPPLNモジュールへの入力強度を、当該PPLNモジュールの入力の直前部分で測定し+15dBmとなるように設定した。
図3(A)〜(C)を参照して、この検証実験の結果について説明する。図3(A)〜(C)は、SPDC過程で発生された出力光の強度とDFG変換効率との相関関係を示す実験結果を示す図である。
図3(A)はQPM条件が満たされた条件下でのSPDC光の光スペクトルを示しており、QPM波長(1562.75nm)を中心として対称な形状で広がった光スペクトルが観測された。これはSPDC過程によって生じた相関光子対のスペクトル分布を示しており、上述した式(2)の関係を満足する様々な波長の組み合わせの相関光子対が発生していることを示している。ここで観測されたSPDC光の光スペクトル強度は、それぞれの波長の組み合わせの相関光子対の発生確率に比例しているものと解釈される。
また、励起光の強度を変化させ、あるいは励起光の波長を変化させて、SPDC光の光スペクトルを測定した。そして、励起光の波長から+10nm離調した波長でのSPDC光の強度を測定した。これは、それぞれの条件での+10nm離調した波長での相関光子対の発生確率、すなわち発生の期待値を測定していることに相当する。
次に、PPLNモジュールに先の励起光と共に補助信号光も同時に入力して、PPLNモジュールから出力される出力光の光スペクトルを観測した。ここで、補助信号光の波長もまた励起光の波長から+10nm離調した波長となるようにその都度設定した。そして、この観測された光スペクトルから、出力補助信号光の強度と式(6)を満足する角周波数位置に生じる補助アイドラー光の出力強度を測定し、その強度比(補助アイドラー光の強度/補助信号光の強度)をDFGによる波長変換効率として定義した。
そして上述の例と同様に、励起光強度を変化させ、あるいは励起光の波長を変化させて波長変換効率を測定した。これらの実験のデータから、SPDC光強度とDFGによる波長変換効率の関係をプロットして示した図が、図3(B)及び(C)である。
図3(B)は励起光の波長をQPM波長(1562.75nm)の半分の波長(781.375nm)として固定して、すなわちQPM条件が満たされた条件下で、励起光の強度を変化させて測定した、SPDF光強度に対するDFG変換効率の関係を示している。また、図3(C)は励起光強度を+15dBmに固定して、励起光の波長を変化させたときのSPDC光強度に対するDFG変換効率の関係を示している。図3(C)の結果は、励起光、信号光、アイドラー光が上述した式(1)及び式(5)のQPM条件を厳密には満たしていない条件下で得られたものである。
図3(B)及び(C)に示す結果から、SPDC光強度とDFGによる波長変換効率とは互いに比例関係にあることが確かめられた。因みに、図3(B)に示すSPDC光強度をxとしDFG変換効率をyで示し直線で近似すると、xとyとの関係はy=0.98217x+44.033で表される比例関係であり、図3(C)に示すSPDC光強度をxとしDFG変換効率をyで示し直線で近似すると、xとyとの関係はy=1.0055x+45.742で表される比例関係である。すなわち両者の直線の傾きが0.98217及び1.0055とほぼ等しいことから、図3(B)及び図3(C)に示すいずれの条件下においても比例係数まで一致することが分かる。
図3(B)及び図2(C)に示す結果は、相関光子対の発生確率の期待値と、DFGによる波長変換効率は比例関係にあること、更にその比例係数は位相整合の有無によらないことを示している。
この出願の発明者らは、相関光子対の発生過程としてSHGとSPDCとが単一の2次非線形光学媒質で生じることによるカスケードSHG/SPDC過程について研究した結果を既に報告している(参考文献:荒平慎、岸本直、「PPLNリッジ導波路デバイスを用いたカスケードχ(2)方式によるパラメトリック下方変換光発生」第21回量子情報技術研究会試料、電子情報通信学会、量子情報技術時限研究専門委員会、pp.184-187、2009年)。
この参考文献に記載された方法によれば、PPLN導波路素子に励起光を入力するとPPLN導波路素子内でまずSHG光が発生する。次にこのSHG光を種光としてSPDC過程により相関光子対が発生する。このSHG/SPDC過程は擬似的な3次非線形光学効果と見ることもでき、入力励起光と発生する相関光子対(信号光及びアイドラー光)の波数及び角周波数は、上述した式(3)及び式(4)で与えられる関係を満たしている。
上述した通常のSPDC過程とDFGとの関係に相当する、カスケードSHG/DFG過程が存在することはよく知られており、むしろ、カスケードSHG/DFG過程の方がより研究者の間では周知されている。すなわち、非線形光学媒質に補助信号光と励起光とを同時に入力しカスケードSHG/DFG過程を発現させると、上述した式(8)を満足する角周波数の補助アイドラー光が発生する。
次に、図3(A)〜(C)示した結果が得られた実験に用いたものと同じPPLN導波路素子によって、カスケードSHG/SPDC方式並びにカスケードSHG/DFG方式による相関光子対発生の実験を行った。すなわち、入力励起光の強度及び波長を変化させて、カスケードSHG/SPDC方式で発生されるSPDC光の強度を測定した。入力励起光は波長が、1562.75nmのQPM波長近傍の波長の光とした。更に引き続いて、励起光と補助信号光とを同時に非線形光学媒質に入力して、カスケードSHG/DFG方式による波長変換効率を測定した。
ここでも、上述した通常のSPDC過程における相関光子対の発生のための検証実験と同様に、励起光の強度を変化させ、あるいは励起光の波長を変化させて、SPDC光の光スペクトルを測定した。そして、励起光の波長から+10nm離調した波長でのSPDC光の強度を測定した。次に、PPLNモジュールに先の励起光と共に補助信号光も同時に入力して、PPLNモジュールから出力される出力光の光スペクトルを観測した。ここで、補助信号光の波長もまた励起光の波長から+10nm離調した波長となるようにその都度設定した。
図4(A)〜(C)を参照してカスケードSHG/SPDC方式並びにカスケードSHG/DFG方式による相関光子対発生の実験の結果を説明する。図4(A)〜(C)は、SPDC過程で発生された出力光の強度とDFG変換効率との相関関係の実験結果を示す図である。図4(A)は励起光の波長をQPM波長(1562.75nm)としQPM条件が満たされた条件下でのSPDC光の光スペクトルを示す図であり、図4(B)は励起光の波長をQPM波長(1562.75nm)として固定し励起光強度を変化させたときのSPDC光強度に対するDFG変換効率を示す図であり、図4(C)は励起光強度を+18dBmに固定して、励起光の波長を変化させたときのSPDC光強度に対するDFG変換効率の関係を示している。
図4(B)及び(C)に示す結果から、カスケードSHG/SPDC光強度とカスケードSHG/DFGによる波長変換効率とは互いに比例関係にあることが確かめられた。そして、図4(B)に示すSPDC光強度をxとしDFG変換効率をyで示し直線で近似すると、xとyとの関係はy=0.97976x+44.284で表される比例関係であり、図4(C)に示すSPDC光強度をxとしDFG変換効率をyで示し直線で近似すると、xとyとの関係はy=0.99326x+44.839で表される比例関係である。すなわち両者の直線の傾きが0.97976及び0.99326とほぼ等しいことから、図4(B)及び(C)に示すいずれの条件下においても比例係数まで一致することが分かる。
図4(B)及び(C)に示す結果は、相関光子対の発生確率の期待値と、DFGによる波長変換効率は比例関係にあること、更にその比例係数は位相整合の有無によらないことを示している。
この出願の発明者らは、PPLN導波路素子の素子長を変え、またPPLN導波路素子の光導波路構造を変えて上述した実験と同様の実験を試みた結果、相関光子対の発生確率の期待値とDFGによる波長変換効率との比例関係及び比例係数は、PPLN素子の素子長や導波路構造には依存しないことを確かめている。
すなわち、この出願の発明者らは、上述の検証実験によって、以下の(A)及び(B)に示す知見を得ることができた。
(A)SPDC過程による相関光子対の発生確率の期待値と、DFGによる波長変換効率は比例関係にある。この関係は、通常のSPDC過程あるいはカスケードSHG/SPDC過程のいずれの過程によっても成立する。また、この比例関係は、3次の非線形光学媒質におけるSFWMと補助アイドラー光のSFWM変換効率との関係においても成立していると推定される。
(B)上述の比例係数は位相整合(QPMを含む。)条件を厳密に満たしているか否か、あるいはPPLN導波路素子等の相関光子対の発生素子の素子長あるいは光導波路構造等を確定する構造パラメータには依存しない。従って、相関光子対の発生素子を構成する非線形光学媒質の組成が同一であれば、比例係数も同一の値を取る。またさらに言えば、実準位を介さない仮想準位を介した非線形過程による自然パラメトリック蛍光、誘導パラメトリック変換を利用する場合においては、非線形光学媒質の材料にも依存せず、同一の比例係数を取ることも推測される。
<相関光子対の生成過程のモニター及び制御並びにクロック信号抽出>
以上述べた検証実験によって得られた知見から、補助アイドラー光の波長変換効率からSPDCやSFWMによって生じる相関光子対の発生確率の期待値を知ることが可能となる。そしてその際、SPDC(あるいはSFWM)過程とDFG(あるいはFWM)過程は、基本的にどちらがどちらに従属して生じているわけではなく独立な過程であるから、補助アイドラー光の波長変換効率を測定しても相関光子対の量子状態を破壊することはない。
以下、図2及び図5を参照して、2次の非線形光学媒質による相関光子対の生成過程のモニター及び制御並びにクロック信号抽出について詳しく説明するが、3次の非線形光学媒質を利用して同様の量子相関光子対発生装置についても同様に説明できる。3次の非線形光学媒質を利用して構成される量子相関光子対発生装置の動作態様については、以下の説明において、SPDCとあるところをSFWMと読み替え、DFGとあるところをFWMと読み替えればよい。
相関光子対の元となるSPDC過程を発現させる励起光発生部105から出力される励起光パルス列と、補助信号光発生部106から出力される補助信号光パルス列を合波して、非線形光学媒質101に入力する。補助信号光パルス列は、この励起光とのDFGによって補助アイドラー光を発生させる。
励起光パルス列と補助信号光パルス列の合波方法は、半透鏡等を用いて実行してもよいし、あるいは励起光の波長と補助信号光の波長とが異なっていることから、WDMフィルタを用いて実行してもよい。
励起光パルス列と補助信号光パルス列とを合波して非線形光学媒質101に入力すると、非線形光学媒質101からは、量子もつれ光子対の元となる信号光及びアイドラー光の相関光子対、並びに補助信号光及び補助アイドラー光が出力される。
このうち補助信号光及び補助アイドラー光に相当する波長成分のみを、それぞれ個別に取り出す。一方、相関光子対に相当する波長成分についても、補助信号光及び補助アイドラー光に相当する波長成分とは分別されて取り出される。
分別して取り出された補助信号光及び補助アイドラー光の強度を、それぞれ第1フォトディテクタ118及び第2フォトディテクタ119によって検出する。そして第1フォトディテクタ118及び第2フォトディテクタ119からそれぞれ出力される強度信号が制御信号生成器121-1に入力され、補助信号光と補助アイドラー光の強度比が予め設定された値に等しくなるように、励起光の強度、励起光の波長、及び非線形光学媒質101の温度の少なくともいずれか一つの値を調整するための第1制御信号121-1Sが生成されて出力される。
補助信号光と補助アイドラー光の強度比は、DFGによる波長変換効率となる。そして既に述べたように、この値から相関光子対の発生確率の期待値を知ることができる。従って、第1制御信号121-1Sによって補助信号光と補助アイドラー光の強度比を予め設定しておく規定値になるように制御すれば、相関光子対の発生確率の期待値が、予め設定された所望の期待値に安定化される。
このように制御するための手法の一つは、第1制御信号121-1Sによって励起光発生部105の出力強度を調整する構成とすればよい。この手法は、強度信号に基づいて周知の帰還制御を行うことで実現可能である。カスケード方式によらない通常のDFGにおいては、DFG変換効率、ひいては相関光子対の発生確率の期待値は励起光強度に比例する。従って、励起光強度を調整することで、上述の制御が可能である。一方、カスケードSHG/DFGにおいては、DFG変換効率は励起光の強度の2乗に比例するので、励起光強度を調整することによって、上述の制御が可能である。
また、励起光の波長が位相整合条件からずれると、非線形光学媒質101の屈折率分散のために、上述の式(1)、(3)、(5)、及び(7)で与えられる位相整合条件からずれるため、DFG変換効率は励起光の波長に依存する。従って、第1制御信号121-1Sに基づいて励起光発生部105の出力波長を調整して位相整合条件からのずれを与える方法によっても、相関光子対の発生確率の期待値が予め設定された所望の期待値に安定化させることも可能である。
更に、非線形光学媒質101による非線形光学効果の効率は温度に依存するので、第1制御信号121-1Sに応じて非線形光学媒質101の温度を制御することによっても上述の制御が可能である。すなわち、非線形光学媒質101の温度を変化させると、屈折率の温度依存性によって位相整合条件が変化し、DFG変換効率が変化する。この現象を利用したのが上述の非線形光学媒質101の温度の制御による相関光子対の発生確率の期待値の制御である。
補助信号光発生部106から出力される補助信号光の強度が安定であり、また、モジュール化などにより光結合系も安定している場合は、補助信号光が非線形光学媒質101から出力される強度も安定であると考えることができ、補助信号光についてその出力強度を改めて測定する必要はない。この場合には、第1フォトディテクタ118からの出力を得る代わりに、補助信号光発生部106に付随の光強度モニター等(図示を省略してある)で代用すればよい。つまり、第1フォトディテクタ118は不要であり、第2フォトディテクタ119のみで、上述の補助信号光及び補助アイドラー光の強度のモニター及び制御は可能である。
次に、励起光として、連続光ではなくパルス光を用いることが好都合であることについて説明する。一般的には、情報通信システムでは信号のやり取りは時間同期して行うので、励起光としてパルス光を利用するのが一般的である。このとき、相関光子対となる信号光とアイドラー光は、励起光パルスに同期してパルス状に発生する。更に補助信号光もまた、励起光パルスに同期してパルス光とする。仮に、補助信号光を連続光としても補助アイドラー光はパルス光となる。
励起光及び補助信号光として互いに時間同期したパルス光を用いれば、その結果、信号光、アイドラー光、補助アイドラー光の各パルス光は、時間同期して発生する。
図5を参照して、励起光パルスと、補助信号光パルスと、補助アイドラー光パルスと、量子もつれ光子対の元となる信号光及びアイドラー光の相関光子対と、第1及び第2クロック信号抽出部で生成される第1及び第2クロック信号との、時間相関関係について説明する。図5は、上段から順に、励起光パルスの時間波形、補助信号光パルスの時間波形、補助アイドラー光パルスの時間波形、信号光・アイドラー光の相関光子対の時間波形、第1クロック信号の時間波形、及び第2クロック信号の時間波形を示している。
図5に示すように、励起光が繰り返し周期Tの光パルス列、補助信号光が同様に繰返し周期Tの光パルス列で、互いに時間軸上で重なるように(時間同期するように)ループ光路11(図2参照)に入力されると、補助アイドラー光も、信号光・アイドラー光(信号光・アイドラー光の相関光子対)も、励起光パルス、補助信号光パルスが存在する時間にのみ発生する。
従って、第1量子チャンネル201を伝播してきた信号光パルスの到着時間は、補助信号光パルスの到着時間から知ることができる。また、第2量子チャンネル202を伝播してきたアイドラー光パルスの到着時間は、補助アイドラー光パルスの到着時間から知ることができる。すなわち、補助信号光パルス、補助アイドラー光パルスに対してそれぞれクロック信号を抽出して、そのクロック信号に同期したゲート電圧信号を、それぞれ第1受信部124及び第2受信部125に内包された光子検出器(図示を省略してある)のゲート電圧信号として印加して、信号光、アイドラー光をそれぞれ検出すれば、信号光とアイドラー光の同期検出が可能となる。
また、信号光および補助信号光のそれぞれの波長が十分に近く、第1量子チャンネル201を通過したときの信号光の偏波状態と補助信号光の偏波状態が同一であるとみなすことができるとき、補助信号光の偏波状態を検出することで信号光の偏波状態を知ることができる。従って、補助信号光の偏波状態を検出して、第1量子チャンネル201を通過したときに生じる第1量子チャンネル201を構成している伝送路の複屈折による偏波状態変化を補償するように第1偏波制御装置601で偏波制御すれば、信号光が第1量子チャンネル201を通過したときに生じる伝送路の複屈折による偏波状態変化を補償することができる。
また、信号光および補助信号光のそれぞれの波長が十分に近いとき、アイドラー光と補助アイドラー光のそれぞれの波長も十分近くなる。同様に、第2量子チャンネル202を通過したときのアイドラー光の偏波状態と補助アイドラー光の偏波状態が同一と見なすことができるとき、補助アイドラー光の偏波状態を検出することでアイドラー光の偏波状態を知ることができる。従って、補助アイドラー光の偏波状態を検出して、第2量子チャンネル202を通過したときに生じる、第2量子チャンネル202を構成する伝送路の複屈折による偏波状態変化を補償するように第2偏波制御装置602で偏波制御すれば、アイドラー光が第2量子チャンネル202を通過するときに生じる伝送路の複屈折による偏波状態変化を補償することができる。
いま、非線形光学媒質101に入出力する励起光、補助信号光、補助アイドラー光、SHG光、信号光、アイドラー光は、同一偏波方向の直線偏波であると規定する。このようなことは、非線形光学媒質101としてPPLN(2次の非線形光学媒質と見なせる)の2次非線形光学定数のテンソル成分であるd33成分を利用して、PPLN結晶のz軸方向に偏波した励起光を入力することで実現される。
励起光パルスが45度偏光の励起光であれば、偏波分離合成器109の第2入出力端109-2、第3入出力端109-3から、それぞれp偏波、s偏波で、同じ強度の励起光パルスが出力される。p偏波方向と、PPLN結晶のz軸方向が一致するように、非線形光学媒質101であるPPLN結晶を配置する。
まず、ループ光路11を時計回りに伝播する励起光(偏波分離合成器109の第2入出力端109-2からp偏波光として出力される励起光成分)によって生じる相関光子対発生過程を考える。ここでは、相関光子対の発生過程として、単純なSPDC過程のみを考える。このとき、SPDC過程により、信号光、アイドラー光の相関光子対が発生する。また、補助信号光のp偏波成分に対して、DFG過程により補助アイドラー光が発生する。
PPLN結晶から出力される励起光、信号光、アイドラー光、補助信号光、補助アイドラー光(これらは全て度同じ偏波状態である)は、次に90度偏波面変換部110を通過する。この際、偏波面が90度回転してs偏波となって偏波分離合成器109の第3入出力端109-3に入力され、第1入出力端109-1にs偏波として出力される。すなわち、ループ光路11を時計回りに伝播する励起光によって、s偏波の信号光とアイドラー光の相関光子対、並びにs偏波の補助信号光、補助アイドラー光が偏波分離合成器109の第1入出力端109-1から出力される。
一方、ループ光路11を反時計回りに伝播する励起光(偏波分離合成器109の第3入出力端109-3からs偏波光として出力される励起光成分)によって生じる相関光子対発生過程を考える。励起光は、まず、90度偏波面変換部110を通過することで90度偏波面回転が生じ、p偏波となる。補助信号光のs偏波成分が存在すれば、90度偏波面回転が生じ、s偏波となる。
その後、PPLN結晶に入力されるとき、励起光の偏波はPPLN結晶のz軸方向と一致する。ループ光路11を反時計回りに伝播するように励起光が入力されることで、SPDC過程により信号光とアイドラー光の相関光子対が発生し、また、DFG過程により補助アイドラー光が発生する。
90度偏波面変換部110での光損失を無視すると、PPLN結晶に入力される励起光強度は、ループ光路11を時計回りに伝播する励起光がPPLN結晶に入力されるときの励起光強度と等しい。
ここで、PPLN結晶の前後から入力される時計回り及び反時計回りの励起光の偏波方向が同一で、強度も等しいから、PPLN結晶が中心対称構造であれば、PPLN結晶内で発生するSHG光とSPDC光の相関光子の発生確率は、時計回り及び反時計回りの励起光に対して同一である。これは、補助アイドラー光の変換効率に対しても同様である。
反時計回りの励起光に対してPPLN結晶から出力される励起光、信号光、アイドラー光、補助信号光、補助アイドラー光(これらは全て同一の偏波状態である)は、p偏波として偏波分離合成器109の第2入出力端109-2に入力され、第1入出力端109-1にp偏波として出力される。すなわち、ループ光路11を反時計回りに伝播する励起光によって、p偏波の信号光とアイドラー光の相関光子対、p偏波の補助信号光、補助アイドラー光が偏波分離合成器109の第1入出力端109-1から出力される。
励起光強度が十分に弱い場合、偏波分離合成器109の第1入出力端109-1から出力される、信号光とアイドラー光の相関光子対は、ループ光路11を時計回りに伝播する励起光によって発生したs偏波の相関光子対か、ループ光路11を反時計回りに伝播する励起光によって発生したp偏波の相関光子対のどちらか一方となる。すなわち、ループ光路11から発生する相関光子対の状態は、ループ光路11を時計回りに伝播する相関光子対と、反時計回りに伝播して時計回り成分とは直交偏波した相関光子対との重ね合わせ状態となる。従って、ループ光路11から偏波量子もつれ光子対が発生する。
ループ光路11から出力される補助信号光の強度は、ループ光路11に入力される補助信号光の偏波状態によらず一定である。また、補助アイドラー光の変換効率は、ループ光路11を時計回りに伝播する補助アイドラー光と反時計回りに伝播する補助アイドラー光と同一なので、ループ光路11から出力される補助アイドラー光の強度も、ループ光路11に入力される補助信号光の偏波状態によらず一定である。すなわち、補助信号光のループ光路11への入力偏波状態によらず、補助アイドラー光の変換効率は一定である。
従って、光指数のモニター及びクロック信号の抽出のみを考慮した場合には、ループ光路11に入力される補助信号光の偏波状態は任意でよい。一方、偏波制御機能を考慮した場合、発生する補助信号光、補助アイドラー光の偏波状態は一定の状態にした方が、光伝送路で生じる複屈折による偏波状態の変化を正確に検出するのに都合がよい。
そのために、例えば、補助信号光を45度偏光の補助信号光とすれば、発生する補助信号光、補助アイドラー光の偏波状態は、共に45度偏光で一意的に決まる。また、例えば、補助信号光をp(あるいはs)偏波の補助信号光とすれば、発生する補助信号光、補助アイドラー光の偏波状態はs(あるいはp)偏波光で一意的に決まる。
いずれの条件を採用するかは、設計的事項に属し、応用される光通信システムの設計仕様に応じて最適になるように補助信号光の偏波状態を選択すればよい。
偏波分離合成器109の第1入出力端109-1から出力された励起光、補助信号光、補助アイドラー光、信号光、アイドラー光は、光合波器108において、励起光成分は光合波器108の透過出力端(図2では図示を省略してある)から出力される。一方、補助信号光、補助アイドラー光、信号光、アイドラー光は、合波器108の反射出力端(図2では図示を省略してある)から出力され、光サーキュレータ107を介して光サーキュレータ107の第3出力端107-3から出力される。そして、光ローパスフィルタ111において、励起光の残存成分が除去される。
次に、第1波長分離フィルタ112において、光ローパスフィルタ111の透過光の内、信号光成分(波長λs)、アイドラー光成分(波長λi)、補助信号光成分(波長λs-2)、補助アイドラー光成分(波長λi-2)は、それぞれ別々の光経路に切り分けて出力される。第1波長分離フィルタ112を通過した補助信号光成分、補助アイドラー光成分がそれぞれ第1量子チャンネル201、第2量子チャンネル202を通過する長距離量子鍵配送用のクロック信号抽出用の信号となる。また、補助信号光成分、補助アイドラー光成分は、量子もつれ光子対の期待値を監視するモニター機能、及び伝送路の複屈折を補償する偏波制御機能を実現するための、上述した第2制御信号502S及び第3制御信号501Sを生成する光信号として利用される。
また、制御信号生成器121-2から出力された第1サブ制御信号121-2Sと、制御信号生成器121-1から出力された第1制御信号121-1Sとを比較することによって、第1量子チャンネル201、第2量子チャンネル202で生じた光過剰損失を見積もることができる。すなわち、一方の量子チャンネルで光過剰損失が生じれば、その量子チャンネルを伝送後の補助信号光強度もしくは補助アイドラー光強度が低下するため、第1サブ制御信号121-2Sの強度と第1制御信号121-1Sの強度との差に大きな違いが生じるためである。この現象を利用して、量子チャンネルにおける光過剰損失の検出に基づいて、第1量子チャンネル201、第2量子チャンネル202間の光過剰損失を等しく保つ等の制御も可能となる。
第1サブ制御信号121-2Sと第1制御信号121-1Sとの比較は、図2において図示は省略してあるが、第1サブ制御信号121-2Sと第1制御信号121-1Sとの強度比を、上述の制御信号生成器121-1あるいは121-2と同様に形成される制御信号生成部によって行える。すなわち、この制御信号生成部が備える出力比較器によってこの強度比が求められ、この強度比に比例する電気信号をこの制御信号生成部が備える制御信号生成器によって生成し、第1量子チャンネル201、第2量子チャンネル202間の光過剰損失を等しく保つための制御信号として利用することができる。
第1量子チャンネル201、第2量子チャンネル202間の光過剰損失を等しく保つための制御は、例えば、第1及び第2量子チャンネルの何れかに光強度変調器を挿入し、この光強度変調器の光透過率を制御することによって実現可能である。あるいは、第1サブ制御信号121-2Sと第1制御信号121-1Sとの強度比に比例する電気信号によって、励起光発生部105を制御して励起光強度、励起光の波長を制御するか、または非線形光学媒質101の温度制御を行えばよい。
なお、以上の説明では、相関光子対の発生に、2次非線形光学媒質におけるSPDC過程を用いたが、この発明の量子鍵配送システムにおいては、この他の非線形光学過程を利用することも可能である。例えば、2次非線形光学媒質におけるカスケードSHG/SPDC過程を利用することもできる。この場合、光ローパスフィルタ111は、SHG光の除去を主目的として利用する。またこの場合、励起光を遮断するための付加的な光バンドパスフィルタを追加することもある。更に、励起光の波長、信号光の波長、アイドラー光の波長、補助信号光の波長、補助アイドラー光の波長が同じ波長帯域にあるため、特に最終段の第1波長分離フィルタ112における波長分離に十分な精度を持たせることで、この発明の量子鍵配送システムの機能を十分果させることが可能である。2次非線形光学媒質におけるカスケードSHG/SPDC過程を用いる場合は、DFG過程はカスケードSHG/DFG過程に相当する。
同様に、3次非線形光学媒質におけるSFWM過程を利用することもできる。この場合、半波長帯域の光(単純SPDC過程における励起光やカスケードSHG/SPDC過程におけるSHG光)が存在しないので、光ローパスフィルタ111は不要である。一方、カスケードSHG/DFG過程の場合と同様に、励起光の波長、信号光の波長、アイドラー光の波長、補助信号光の波長、補助アイドラー光の波長が同じ波長帯域にあるため、特に最終段の第1波長分離フィルタ112における波長分離を十分高精度に行うことが必要となる。
<第2の量子鍵配送システム>
この発明の実施形態の第2の量子鍵配送システムは、信号光の波長λsと補助信号光の波長λs-2とが等しく(λs=λs-2)、アイドラー光の波長λiと補助アイドラー光の波長λi-2とが等しく(λi=λi-2)設定された場合に対応させて構築されるシステムである。
図2、図5、図6、及び図7を参照して、この発明の実施形態の第2の量子鍵配送システムについて、上述の第1の量子鍵配送システムとの相違点が明確となるように説明する。図6は第2の量子鍵配送システムの概略的ブロック構成図であり、図7は第2の量子鍵配送システムにおける、励起光パルス等と、第1及び第2クロック信号との時間相関関係についての説明に供する図である。
図5に示したように、第1の量子鍵配送システムにおいては、励起光パルスと補助信号光パルスは共に同一の繰返し周期Tで時間同期がされた光パルス列であったのに対して、第2の量子鍵配送システムにおいては、補助信号光パルスは、励起光パルスの(n+1)倍の繰返し周期でかつ励起光パルスと時間同期が取れた光パルス列である。
図7は、上段から順に、励起光パルスの時間波形、補助信号光パルスの時間波形、補助アイドラー光パルスの時間波形、信号光・アイドラー光の相関光子対の時間波形、第1及び第2クロック信号の時間波形、及びゲート電圧の時間波形を示している。また、図7では、n=1である場合の例を示している。
第1の量子鍵配送システムと第2の量子鍵配送システムの構成上の相違点は、以下のとおりである。
まず、図6に示すように、第2の量子鍵配送システムは、第1波長合成フィルタ114、第2波長合成フィルタ115、第2波長分離フィルタ116、及び第3波長分離フィルタ117が不要であるのでこれらを備えていない。すなわち、第1光分岐器は、波長分離フィルタ113を備えて構成される。波長分離フィルタ113には、AWG型のWDMフィルタ等を適宜用いることができる。
また、第2光分岐器として第1光スイッチ701が使用され、第3光分岐器として第2光スイッチ702が使用される。これ以外の構成要素は、第1の量子鍵配送システムと共通するので、以下の説明では共通する構成要素についての重複する説明を省略する。
第1の量子鍵配送システムでは、信号光の波長λsと補助信号光の波長λs-2とが異なり(λs≠λs-2)、アイドラー光の波長λiと補助アイドラー光の波長λi-2も異なる(λi≠λi-2)値に設定されることに対応させて構築されるシステムであった。そして、第1の量子鍵配送システムにおける偏波状態制御機能は、第1及び第2量子チャンネルを通過した信号光及び補助信号光、並びにアイドラー光及び補助アイドラー光の偏波状態が、それぞれ同一とみなせるときに限り適用が可能であった。
このような、第1及び第2量子チャンネルを通過した光の偏波状態がそれぞれ同一とみなせるという条件は、量子鍵を配送する距離が比較的短距離である場合には成立している。しかしながら、量子鍵を配送する距離が長くなるに従って、波長が異なる信号光、補助信号光、アイドラー光、及び補助アイドラー光等の信号光は、量子チャンネルを通過後その偏波状態が変化していることが予想される。すなわち、第1の量子鍵配送システムは、量子鍵の配送距離、すなわち第1及び第2量子チャンネルの長さが短い場合にその応用範囲が限定される。
一方、信号光と補助信号光、並びにアイドラー光と補助アイドラー光の波長がそれぞれ同一である場合、量子チャンネルを構成する光ファイバ中での自己位相変調効果や相互位相変調効果等の非線形光学効果が無視できれば、量子チャンネルを伝播後の信号光と補助信号光、並びにアイドラー光と補助アイドラー光の偏波状態はそれぞれ同一となる。すなわち、より高精度でより安定な偏波制御が可能となるため、より長距離の量子鍵配送システムの実現が可能となる。
第2の量子鍵配送システムでは、信号光λsと補助信号光λs-2とが同一波長(λs=λs-2)に設定される。従って、上述の式(2)、式(4)、式(6)、及び式(8)によって、アイドラー光の波長λiと補助アイドラー光の波長λi-2も同一(λi=λi-2)値に設定される。
信号光λsと補助信号光λs-2とが同一波長(λs=λs-2)で、アイドラー光の波長λiと補助アイドラー光の波長λi-2も同一波長(λi=λi-2)であるので、第1の量子鍵配送システムで利用された第2波長分離フィルタ116及び第3波長分離フィルタ117は用いることができない。
そこで、第2の量子鍵配送システムでは、以下のようにする。すなわち、図7に示すように、励起光パルスを繰り返し周期Tの光パルス列とすると、補助信号光パルスは、nを自然数として、励起光パルスの(n+1)倍の繰返し周期(n+1)Tで、かつ、励起光パルスと時間同期が取れた光パルス列とする。励起光パルスと時間同期が取れたとは、時間軸上で、補助信号光パルスの時間位置が、励起光パルスのいずれかの光パルスの時間位置と一致していることを意味する。
上記の構成をとると、補助信号光パルスがないときは、信号光とアイドラー光の相関光子対のみが発生し、これに基づいた量子もつれ光子対が発生する。これらの光子対を、図7に示すように、時系列順に(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、(H)、・・・とする。このとき、補助信号光及び補助アイドラー光は共に存在しない。
一方、補助信号光パルスがあるときも、信号光及びアイドラー光の相関光子対は発生し、これに基づいた量子もつれ光子対が発生する。これらの光子対を、図7に示すように、時系列順に(B)、(D)、(F)、(H)、・・・とする。このとき、補助信号光及び補助アイドラー光は共に存在する。
量子もつれ光子対(B)、(D)、(F)、(H)、・・・には、平均光子数が数桁も大きい補助信号光及び補助アイドラー光が同一時間スロットに存在するため、これら量子もつれ光子対だけを選択して抽出することができず、これを基にした暗号鍵を作成することができない。
一方、量子もつれ光子対(A)、(C)、(E)、(G)、・・・には、同じ時間スロットに補助信号光及び補助アイドラー光が存在しない。従って、時間ゲート信号を利用して、これら(A)、(C)、(E)、(G)、・・・量子もつれ光子対だけを選択して抽出することが可能であり、これを基にした暗号鍵を作成することができる。
上述した時間ゲート信号による時間ゲート処理は、次のように実行することができる。暗号鍵に利用する量子もつれ光子対は、繰り返し周期2Tで、第1受信部124及び第2受信部125に到達するので、繰り返し周期が2Tである時間ゲート処理をすればよい。一方、補助信号光パルス、補助アイドラー光パルスの繰返し周期は2Tであるので、第1クロック信号抽出部122及び第2クロック信号抽出部123からは繰り返し周期が2Tである、第1クロック信号122C及び第2クロック信号123Cがそれぞれ抽出される。従って、第1クロック信号122Cを第1受信部124で、第2クロック信号123Cを第2受信部125で、それぞれゲート信号として利用することができる。
ただし、第1クロック信号122C及び第2クロック信号123Cは、補助信号光パルス及び補助アイドラー光パルスと同期するため、量子もつれ光子対の第1受信部124及び第2受信部125に到達する時間とは時間Tだけの差がある。従って、時間Tだけの遅延時間を掛けて、第1クロック信号122C及び第2クロック信号123Cを、それぞれ第1受信部124及び第2受信部125に印加する。このように、クロック信号に時間遅延を掛けることは、電気ケーブルの長さを調節する等、遅延線を利用することで可能である。
また、第1受信部124及び第2受信部125に繰り返し周期が2Tであるゲート信号を掛けるだけでは、平均光子数が数桁も大きい補助信号光および補助アイドラー光もまた第1受信部124及び第2受信部125に到達するので、これによる光電子が発生する可能性もある。そこで、第2光分岐器には第1光スイッチ701を使用し、第3光分岐器には第2光スイッチ702を使用する。
第1光スイッチ701及び第2光スイッチ702は、ゲート電圧信号等の電気変調信号により光の出力経路をスイッチすることが可能であるものを利用する。このような光スイッチとして、LiNbO3結晶に発現するポッケルス効果を利用した光スイッチを適宜利用するのが好適である。
第1クロック信号抽出部122及び第2クロック信号抽出部123から、それぞれ出力される繰り返し周期2Tの第1クロック信号122C及び第2クロック信号123Cは、それぞれ第1光スイッチ701及び第2光スイッチ702の光出力切り換えのための電気変調信号として利用可能である。すなわち、図7に示すように、暗号鍵として利用する量子もつれ光子対は、繰返し周期2Tで第1受信部124及び第2受信部125に到達するので、このときだけ第1光スイッチ701及び第2光スイッチ702の光出力経路が第1受信部124及び第2受信部125に側に接続されるように、第1光スイッチ701及び第2光スイッチ702を駆動すればよい。この状態を、第1光スイッチ701及び第2光スイッチ702が「オフ」の状態であるとする。その際、時間Tの遅延時間を掛けるか否かはこれらの光スイッチの動作条件に伴う設計的事項に属する。
一方、第1光スイッチ701及び第2光スイッチ702が「オン」の場合、光出力は別の光経路に出力される。その出力先に第1フォトディテクタ118及び第2フォトディテクタ119を配置する。第1光スイッチ701及び第2光スイッチ702が「オン」の場合、第1フォトディテクタ118及び第2フォトディテクタ119には、それぞれ補助信号光、補助アイドラー光が入力されるため、その出力結果に基づいて、光子数の期待値が長時間にわたって一定に保たれるように監視するモニター機能、光子の到来を検出するクロック信号検出機能、及び量子チャンネルを構成する光伝送路の複屈折を補償する偏波制御機能を実現することが可能となる。
<この発明の第1及び第2の量子鍵配送システムの変形例>
この発明の第1及び第2の量子鍵配送システムでは、非線形光学媒質としてPPLN結晶の2次の非線形光学効果を用いた場合を想定したが、PPLN結晶以外の2次の非線形光学効果が発現する媒体であれば利用可能である。更に、光ファイバやシリコン細線等の3次の非線形光学効果が発現する媒体を用いても、上述の光合波器108、第1光分岐器20の波長透過特性等の設計的な事項を変更することで、この発明の第1及び第2の量子鍵配送システムで実現されたものと同様の効果が得られる量子鍵配送システムを実現することが可能である。
また、この発明の第1の量子鍵配送システムにつき、励起光や補助信号光の入力方法等は他の周知の手法によっても実現できる。すなわち、例えば、励起光と補助信号光との両者を光カプラで合波する手法も採用することができる。それに伴い、光サーキュレータ107の配置形態を適宜変更すればよい。
更に、非線形光学媒質の光学軸の方向と、入力出力される励起光、相関光子対、補助信号光、補助アイドラー光などの偏波方向等も設計的事項であり、非線形光学定数のテンソル成分のどの成分を利用するかによって適宜設定することができる。その際には、偏波分離合成器109等の入出力端の配置等を適宜変更すればよい。
第2の量子鍵配送システムの第1光スイッチ701及び第2光スイッチ702において、信号光と補助信号光間のクロストーク、アイドラー光と補助アイドラー光間のクロストークが十分でなく、一段構成の光スイッチを用いたのでは、第1受信部124及び第2受信部125への補助信号光、補助アイドラー光の漏れが発生する場合、光スイッチを複数段直列接続することによって十分なクロストークが得られるように変形することも可能である。
また、第2の量子鍵配送システムでは、n=1の場合、すなわち励起光パルスの繰り返し周期がTであるのに対して、補助信号光パルスの繰り返し周期が2T(繰り返し周波数は1/2)と設定した場合について説明したが、nの値は利用する光通信システムの仕様に応じて柔軟に設定可能である。例えば、n=3とした場合(補助信号光パルスの繰返し周期が4T)、図7で示した(D)並びに(H)の量子もつれ光子対は、補助信号光パルス、補助アイドラー光パルスと時間的に重畳するため暗号鍵の生成には利用できないが、その他の、(A)〜(C)、(E)〜(G)の量子もつれ光子対は暗号鍵の生成には利用できる。この場合、n=1と設定した場合と比較して、暗号鍵の生成に利用できる量子もつれ光子対が増加するため、暗号鍵の生成効率を高めることができるという利点がある。