JP5741098B2 - 複合酸化物粉末およびその製造方法 - Google Patents

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本発明は、複合酸化物粉末およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、微細で不純物の少ない複合酸化物粉末およびその製造方法に関する。
一般式ABOで表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する複合酸化物は、優れた電気特性を有しており、電子部品を構成する材料として広く用いられている。特に、ABOのBサイトにZrが含まれる複合酸化物は、キュリー点が低下し、室温付近の誘電率を高くすることができるため、非常に重要である。
このような複合酸化物は、一般的に、Aを構成する元素の原料と、Bを構成する元素の原料と、を熱処理等により固相反応させて製造される(たとえば特許文献1参照)。
しかしながら、ABOのBサイトにZrが含まれる複合酸化物を製造する場合、ZrがABOに固溶し難いため、熱処理温度を高くしなければ、反応後の粉末中に未反応のZr原料が残存するなどの問題が生じる。一方、熱処理温度を高くすると、固相反応で生成するABO粒子が粒成長するため、微細な粉末が得られず、電子部品の小型化や高性能化に対応できないという問題がある。
これに対し、固相反応以外の反応(たとえば、水熱合成など)を利用して、複合酸化物を製造する方法が知られている(たとえば特許文献2参照)。
しかしながら、特許文献2に記載された方法により、複合酸化物を製造した場合、合成方法に由来して結晶粒子内部に空孔が生じることや、設備コストが高いこと、含有成分が増えるにつれ、工程も増えるなどの問題があった。
特開2005−8471号公報 特開2005−75700号公報
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、微細で不純物の少ない複合酸化物粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る複合酸化物粉末の製造方法は、
一般式A(BZr)Oで表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する複合酸化物粉末を製造する方法であって、前記Zrの原料粉末を準備する工程と、前記Aを構成する元素の原料粉末と、前記Bを構成する元素の原料粉末と、を準備する工程と、前記Zrの原料粉末と、前記Aを構成する元素の原料粉末と、前記Bを構成する元素の原料粉末と、を800〜1000℃で熱処理する工程と、を有し、前記Zrの原料粉末が、正方晶構造を有するZrの酸化物を含むことを特徴とする。
本発明では、Zrの原料粉末として、正方晶構造を有するZrの酸化物を含む原料を用いている。このような原料を用いることで、熱処理温度を低くしても、A(BZr)Oを合成する固相反応を十分に進行させることができる。その結果、反応後の粉末において、異相(たとえば、未反応のZr原料)がほとんど含まれず、かつ結晶性の高いA(BZr)O粉末が得られる。しかも、熱処理温度が低いため、A(BZr)O粒子の粒成長が抑制され、平均粒子径の小さい粉末が得られる。
好ましくは、前記Zrの原料粉末全体に対し、正方晶構造を有するZrの酸化物の割合が10%以上である。このようにすることで、本発明の効果を高めることができる。
好ましくは、前記Zrの原料粉末のBET法による比表面積が30m/g以上である。
好ましくは、前記Aを構成する元素の原料粉末のBET法による比表面積が20m/g以上である。
好ましくは、前記Bを構成する元素の原料粉末のBET法による比表面積が30m/g以上である。
原料粉末の比表面積を上記の範囲とすることで、本発明の効果を高めることができる。
好ましくは、前記Aが、Ba単独、または、BaとCa、SrおよびMgから選ばれる少なくとも1つとである。
好ましくは、前記Bが、Ti単独、または、TiとHfおよびSnから選ばれる少なくとも1つとである。
AおよびBを構成する元素を上記の元素とすることで、電気特性に優れた複合酸化物粉末を得ることができる。
本発明に係る複合酸化物粉末は、
一般式A(BZr)Oで表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する複合酸化物粒子の集合である複合酸化物粉末であって、
前記複合酸化物粒子内には空孔が存在しておらず、
前記複合酸化物粉末の平均粒子径が0.30μm以下であり、
前記複合酸化物粉末中に含まれる異相量が1.0%以下である。
本発明に係る複合酸化物粉末の用途としては、特に限定されないが、電子部品を構成する材料として好適である。
図1(A)および図1(B)は、本発明の実施例に係る複合酸化物粉末におけるZrのマッピング画像であり、図1(C)および図1(D)は、本発明の比較例に係る複合酸化物粉末におけるZrのマッピング画像である。
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
<複合酸化物粉末>
本実施形態に係る複合酸化物粉末は、一般式A(BZr)Oで表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する粒子の集合である。上記式中のAを構成する元素は、ペロブスカイト型結晶構造において、Aサイトと呼ばれる特定の位置を占有しており、Bを構成する元素は、Bサイトと呼ばれる特定の位置を占有している。
また、Zrは、Bを構成する元素を置換しBサイトに存在している。すなわち、Zrは、ABOで表される複合酸化物のBサイトに固溶している。BサイトにおけるZrの置換割合(固溶割合)は、Bサイトを占有する原子の総数を100%とすると、0%より多く、20%以下であることが好ましい。
本実施形態では、Aを構成する元素としては、Ba単独、または、BaとCa、SrおよびMgから選ばれる少なくとも1つとであることが好ましい。また、Bを構成する元素としては、Ti単独、または、TiとHfおよびSnから選ばれる少なくとも1つとであることが好ましい。Aを構成する元素およびBを構成する元素として、上記の元素を選択することで、特に電子部品の誘電体層を製造するのに好適な複合酸化物粉末が得られる。
本実施形態に係る複合酸化物粉末は、その平均粒子径が0.30μm以下、好ましくは0.20μm以下であり、複合酸化物粉末中に含まれる異相量が好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下である。
本実施形態において、異相量とは、一般式A(BZr)Oで表される化合物以外の相が含まれている割合を示す。異相量を測定する方法としては、本実施形態では、リートベルト解析により測定する。
具体的には、製造された複合酸化物粉末に対し、X線回折を行い、得られた回折強度をリートベルト解析することにより、主成分(A(BZr)O)および異相成分のピーク強度を精密化し、そのピーク強度比を求め異相量を算出する。
なお、粒子径を測定する方法としては特に制限されないが、本実施形態では、SEMやTEMなどの電子顕微鏡を用いて粉末を観察し、粒子の輪郭から該粒子の面積を算出し、円相当径として直径を算出した値を該粒子の粒子径とする。そして、500個以上の原料粉末粒子についてその粒子径を測定し、累積個数が50%となる粒子径を平均粒子径とすればよい。
以上より、本実施形態に係る複合酸化物粉末は、微細かつ不純物が少ない粉末である。しかも、該複合酸化物粉末は後述する方法により製造されるため、粒子内に、製造方法に起因するナノメーターサイズ(数ナノメートル〜数10ナノメートル)の欠陥(空孔)が生じない。そのため、該複合酸化物粉末を用いて製造される電子部品は高温負荷寿命等が良好である。
なお、たとえば、水熱合成法を用いて複合酸化物粉末を製造した場合、原料種結晶中に含まれるOH基に由来するナノメータサイズ(数10ナノメートル程度)の欠陥が生じやすい。
したがって、このような複合酸化物粉末は、電子部品を構成する材料の原料として好適に用いることができる。
<複合酸化物粉末の製造方法>
次に、本実施形態に係る複合酸化物粉末の製造方法を、以下に具体的に説明する。
まず、Zrの原料粉末と、Aを構成する元素の原料粉末と、Bを構成する元素の原料粉末と、を準備する。
Zrの原料粉末には、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が含まれていてもよいが、本実施形態では、正方晶構造を有するZrの酸化物(t−ZrO)の粉末が少なくとも含まれている。
本実施形態では、Zrの原料粉末において、正方晶構造を有するZrの酸化物を含む原料を使用する。このような原料を使用することにより、後述する熱処理工程において熱処理温度を1000℃以下にした場合であっても、十分に固相反応を進行させることが可能となる。その結果、未反応のZrOが残留しにくくなるという利点を有する。
本実施形態では、Zrの原料粉末が、正方晶構造を有するZrの酸化物の粉末を含むことにより反応性の向上が期待できるが、Zrの原料粉末における正方晶ZrOの含有割合は、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上である。Zrの原料粉末に単斜晶ZrOの粉末のみが含まれている場合、BaZrOなどの異相を生じるなどの不具合が生じることがある。そこで、本実施形態では、Zrの原料粉末に、正方晶ZrO粉末を含ませ、ZrOの正方晶化率を上記の範囲としている。このようにすることで、上記の利点をさらに高めることができる。
なお、ZrOの正方晶化率は、X線回折により得られる、正方晶の101面のピーク強度It101と、単斜晶の111面のピーク強度Im111と、から、正方晶化率(%)=100×It101/(It101+Im111)の計算式を用いて算出することができる。
Zrの原料粉末のBET法による比表面積は、好ましくは30m/g以上、より好ましくは50m/g以上である。比表面積を上記の範囲とすることで、原料粉末同士の反応性をより高めることができる。
Aを構成する元素の原料粉末としては、酸化物であってもよいし、熱処理により酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
具体的には、AがBa、Ca、Sr等のアルカリ土類元素である場合には、酸化物(BaOなど)であってもよいし、炭酸塩(BaCOなど)であってもよい。
Aを構成する元素の原料粉末のBET法による比表面積は、好ましくは20m/g以上、より好ましくは30m/g以上である。比表面積を上記の範囲とすることで、原料粉末同士の反応性をより高めることができる。
Bを構成する元素の原料粉末としては、酸化物であってもよいし、熱処理により酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
具体的には、BがTiである場合には、酸化物(TiOなど)であってもよいし、塩化物(TiClなど)、水酸化物(Ti(OH)など)であってもよい。
Bを構成する元素の原料粉末のBET法による比表面積は、好ましくは30m/g以上、より好ましくは50m/g以上である。比表面積を上記の範囲とすることで、原料粉末同士の反応性をより高めることができる。
次に、上記で準備した原料を、所定の組成比となるように秤量して混合、必要に応じて粉砕し、原料混合物を得る。混合・粉砕する方法としては、たとえば、水等の溶媒とともに原料をボールミル等の公知の粉砕容器に投入し、混合・粉砕する湿式法が挙げられる。また、乾式ミキサーなどを用いて行う乾式法により、混合・粉砕してもよい。このとき、投入した原料の分散性を向上させるために、分散剤を添加するのが好ましい。分散剤としては公知のものを用いればよい。
続いて、得られた原料混合物を、必要に応じて乾燥した後、熱処理を行う。熱処理における昇温速度は、好ましくは200〜400℃/時間である。また、熱処理における保持温度は、800〜1000℃、好ましくは900〜1000℃である。また、保持時間は、反応状態に応じて適宜決定すればよいが、好ましくは2〜8時間である。熱処理における雰囲気は空気中または減圧雰囲気中が好ましい。
なお、上記の保持温度および保持時間の範囲内であれば、一定温度である必要はなく、段階的に温度が変化してもよいし、温度が漸次高くなるあるいは低くなるように変化してもよい。
本実施形態では、Zrの原料粉末として上述した粉末を用いるため、熱処理温度を上記の範囲とした場合であっても、ペロブスカイト型結晶構造のBサイトにZrが固溶する反応が十分に進行する。その結果、A(BZr)O以外の相(不純物)、たとえば未反応のZrOなどがほとんど含まれない複合酸化物粉末を得ることができる。しかも、熱処理温度が低いため、生成するA(BZr)O粒子の粒成長が抑制され、粒子径の小さい(微細な)粉末が得られる。
このようにして得られた複合酸化物粉末を用いて、たとえば、誘電体層および電極層を有する電子部品を製造することができる。電子部品の製造には、公知の方法を適用することができ、たとえば、該複合酸化物粉末を含む誘電体層用ペースト等を調製し、これを用いてグリーン積層体を作製することができる。そして、グリーン積層体を焼成し、電子部品を得ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
<実験例1>
まず、Zrの原料粉末として、単斜晶構造を有するZrO(m−ZrO)と正方晶構造を有するZrO(t−ZrO)とを含むZrO粉末を準備した。このZrO粉末の比表面積、正方晶化率は表1に示す値であった。
なお、正方晶化率は、正方晶の(101)のピーク強度(It(101))と、単斜晶の(111)のピーク強度(Im(111))と、を用いて、算出した。また、正方晶化率および半値幅(ΔH(111))におけるX線回折の測定条件は、後述する異相量の測定において行うX線回折と同じ測定条件とした。
次に、Aを構成する元素の原料粉末として、BaCO(比表面積:20m/g)を準備し、Bを構成する元素の原料粉末として、TiO(比表面積:48.5m/g)を準備した。
これらの原料を、一般式Ba(Ti0.90Zr0.10)Oを満足するように秤量して、水および分散剤とともにボールミルにて混合した。得られた混合粉を、以下の熱処理条件で処理し、複合酸化物粉末を作製した。
熱処理条件は、昇温速度:400℃/時間、保持温度:表1に示す温度、温度保持時間:4時間、冷却速度:400℃/時間、雰囲気:空気中とした。
得られた複合酸化物粉末(BaTi0.90Zr0.10)に対して、下記に示す方法により異相量および平均粒子径を測定した。
<異相量>
異相量を求めるため、まずX線回折を行った。X線源としてCu−Kα線を用い、その測定条件は、電圧45kV、電流40mAで、2θ=20°〜120°の範囲を、走査速度2deg/minであった。
測定により得られたX線回折強度よりリートベルト解析を行い、各ピーク強度を精密化して異相量を評価した。結果を表1に示す。
<平均粒子径>
得られた粉末を構成する一次粒子についてSEM観察を行い、500個の粒子について観察し、粒子の輪郭を判別して、粒子の面積を求め、その面積の円相当径を粒子径とした。そして、累積個数が50%となる粒子径を平均粒子径とした。結果を表1に示す。
Figure 0005741098
表1より、Zrの原料粉末として、t−ZrOが含まれる粉末を用いることで、熱処理温度を低くした場合であっても、平均粒子径が0.30μm以下で、不純物の少ない複合酸化物粉末が得られることが確認できた。
また、実施例2および9、比較例11および16について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)により観察を行い、付属のエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を用いて、測定を行い、得られたZrの特性X線を定量分析して、Zrについてのマッピング画像を得た。結果を図1(A)〜(D)に示す。
図1(A)は実施例2、図1(B)は実施例9のマッピング画像である。また、図1(C)は比較例11、図1(D)は比較例16のマッピング画像である。
図1(A)〜(D)より、明らかに図1(A)および(B)の方が、図1(C)および(D)よりも、Zrの分布が均一であることが確認できた。すなわち、図1(C)および(D)では、Zrが少ない領域とZrが多い領域とが存在している。Zrが少ない領域は、ZrがBaTiO粒子に固溶した状態となっており、Zrが多い領域は、未反応のZr原料に起因していると考えられる。これに対し、図1(A)および(B)では、固相反応が十分に進行しているため、ZrがBaTiO粒子に固溶し、Ba(Ti0.90Zr0.10)O以外の不純物(未反応のZr原料など)がほとんど存在しないことが確認できた。また、粒子内には製造方法に起因するナノメーターサイズの欠陥(空孔)は観察されなかった。
以上より、本発明によれば、微細で不純物の少ない粉末が得られることが確認できた。

Claims (6)

  1. 一般式A(BZr)O3で表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する複合酸化物粒子の集合である複合酸化物粉末を製造する方法であって、
    前記Zrの原料粉末を準備する工程と、
    前記Aを構成する元素の原料粉末と、前記Bを構成する元素の原料粉末と、を準備する工程と、
    前記Zrの原料粉末と、前記Aを構成する元素の原料粉末と、前記Bを構成する元素の原料粉末と、を混合する工程を有し、
    前記混合粉末を800〜1000℃で熱処理する工程と、を有し、
    前記Zrの原料粉末が、前記Zrの原料粉末全体に対し、正方晶構造を有するZrの酸化物が10%以上含まれていることを特徴とする複合酸化物粉末の製造方法。
  2. 前記Zrの原料粉末のBET法による比表面積が30m2/g以上である請求項に記載の複合酸化物粉末の製造方法。
  3. 前記Aを構成する元素の原料粉末のBET法による比表面積が20m2/g以上である請求項1〜のいずれかに記載の複合酸化物粉末の製造方法。
  4. 前記Bを構成する元素の原料粉末のBET法による比表面積が30m2/g以上である請求項1〜のいずれかに記載の複合酸化物粉末の製造方法。
  5. 前記Aが、Ba単独、または、BaとCa、SrおよびMgから選ばれる少なくとも1つとである請求項1〜のいずれかに記載の複合酸化物粉末の製造方法。
  6. 前記Bが、Ti単独、または、TiとHfおよびSnから選ばれる少なくとも1つとである請求項1〜5のいずれかに記載の複合酸化物粉末の製造方法。
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