JP5740841B2 - 細胞培養方法、細胞培養装置、及び細胞培養装置の制御方法 - Google Patents

細胞培養方法、細胞培養装置、及び細胞培養装置の制御方法 Download PDF

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Description

本発明は、細胞や組織、微生物等の細胞を、培養容器を用いて培養するための培養方法に関し、特に所定量の培養液を用いて所定時間内に得られる細胞数を最大化させるための細胞培養方法、細胞培養装置、及び細胞培養装置の制御方法に関する。
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織、微生物などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような細胞培養においては、細胞の増殖に併せて、細胞の生育に必要な培養液(培地)を補給する必要がある。
培養液の補給にあたり、従来は、細胞が培養容器内で十分に増殖すると、図14に示すように、より容量の大きな培養容器などに移し替え(植え継ぎ)、これを繰り返すことで、細胞の大量培養が行われていた。
すなわち、同図に示す通り、まずフラスコ内に培養液と細胞を入れて培養し、細胞増殖に併せて培養液を追加して培養するとともに植え継ぎを行い、一定量に増殖した時点で、より容量の大きいバックなどに移し替えて、さらに培養と培養液の補給、植え継ぎを繰り返し、細胞の大量培養が行われていた。
このように細胞を大量培養するにあたり植え継ぎを行うのは、培養開始時の細胞密度が低いと、細胞の増殖が抑制されるためである。
一方、このような細胞培養においては、植え継ぎのたびに新たなフラスコやバックなどの培養容器に培養細胞の一部を移さなければならず作業が煩雑になるとともに、細胞にダメージを与える可能性がある。また、コンタミネーション(contamination:汚染)のリスクが高いという問題があった。
そこで、植え継ぎを行なうことなく適正な培養環境を維持するための技術が種々提案されている。
例えば、特許文献1に記載の細胞培養用具によれば、バッグ中の培養液の流通を阻止するための部材を用いて、培養領域を段階的に拡張できる。このため、培養細胞の植え継ぎは必要なく、コンタミネーションのリスクを軽減することが可能となっている。
また、特許文献2に記載の培養容器は、単一のバッグ様密閉室をサブ区画室に分けるための外部区分手段を備えている。
この外部区分手段により、バッグ様密閉室の一部を締め付けることで複数のサブ区画室をつくることができ、培養開始時に適した細胞密度を確保するために十分に小さな規模の出発環境を提供できる。そして、このようなコンタミネーションが発生しない環境で、培養領域を段階的に拡張することができるようになっている。
ところが、これらのような培養バッグを用いた細胞培養は、一般的に、開放形である培養ディッシュ又は培養フラスコと比較して、培養効率が低いという問題があった。
そこで、このような培養バッグを用いた細胞培養の培養効率を向上させるための様々な提案がなされている。
例えば、特許文献3に記載の細胞培養方法では、培養容器に所定の部材を押しつけて、当該培養容器を培養部と拡張可能部を含む二室以上に仕切り、培養部における細胞数の増加に合わせて部材と培養容器を相対的に移動させて、培養部の容積を拡大することができる。そして、培養部に新たな培養液を追加して混合した後において培養環境が細胞増殖に最適な条件になるように、追加する培養液のpH及び溶存ガス量を予め調整することで、培養環境を最適な状態に保つことを可能としている。
この方法によれば、培養時の細胞密度やpH、二酸化炭素濃度などの培養環境を適正に維持することが可能になっている。
また、特許文献4に記載の細胞培養装置は、拡大培養方法において用いられるものであり、培養容器が載置台に載置され、載置台の一部を昇降することにより培養面積を変化させることができる。このように培養の進行に合わせて、培養面積を変化させることにより、細胞密度を増殖に好適な密度に保持することができ、細胞を効率的に増殖することが可能とされている。
特開2000−125848号公報 特許第2981684号公報 国際公開2008/136339号パンフレット 国際公開2008/052716号パンフレット
しかしながら、従来の拡大(流加)培養では底面積拡大と同時に容積も拡大され、体積密度を一定範囲に保つことが行われていた。このような方法では、例えば浮遊系細胞は通常沈むため、容器底付近の体積細胞密度が過剰になり、局所的な酸素不足や栄養物質の不足が生じ、培養効率が低下するという問題があった。
また、培養容器内の液厚は一般的に比較的厚めに維持される場合が多いが、培養される浮遊系細胞は通常底に沈むため、培養細胞の底面積密度、すなわち培養容器底面の単位面積上に存在する細胞数は過剰になりやすく、どうすれば最適になるかが明らかではなかった。このため、従来の細胞培養方法によれば、局所的に酸素が不足し、増殖効率が低下する場合があった。
そこで、本発明者らは、培養容器内における培養細胞の底面積密度と培養効率との関係について鋭意研究した結果、面積細胞密度が一定の式を満たすように培養面積を拡大して細胞培養を行うことにより、培養効率を向上させ得ることを見いだし、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、培養部の容積を拡大可能な培養容器を用いて細胞を培養する細胞培養方法であって、一定の範囲内の面積細胞密度を維持しながら培養面積を拡大して前記細胞を培養する面積拡大工程を含む細胞培養方法、このような細胞培養を行うことの可能な細胞培養装置、及びその制御方法を提供することを目的とする。
本発明の細胞培養方法は、培養液及び細胞が封入された培養部の底面積を拡大可能な培養容器を用いて細胞を培養する細胞培養方法であって、下記式(1)を満足する面積細胞密度を維持しながら培養部の底面積を拡大し、培養部における細胞を流加培養する面積拡大工程を含む方法としてある。
本発明の細胞培養装置は、培養液及び培養細胞が封入され、軟包材で形成された培養容器が載置される容器積載台と、培養容器を培養部と拡大可能部とに仕切る仕切部材と、この仕切部材及び/又は培養容器を移動させる駆動手段とを備え、培養部における面積細胞密度が、下記式(1)を満たすように、駆動手段を移動させて培養部の底面積を拡大し、培養部に培養液を追加する構成としてある。
また、本発明の細胞培養装置の制御方法は、培養液及び培養細胞が封入され、軟包材で形成された培養容器が載置される容器積載台と、培養容器を培養部と拡大可能部とに仕切る仕切部材と、この仕切部材及び/又は培養容器を移動させる駆動手段とを備えた細胞培養装置の制御方法であって、培養部における面積細胞密度が、下記式(1)を満たすように、駆動手段を移動させて培養部の底面積を拡大し、培養部に培養液を追加する方法としてある。
本発明によれば、培養容器を用いて浮遊系細胞を培養するにあたり、所定量の培養液を用いて所定時間内に得られる細胞数を最大化させ得ることが可能になる。
本発明の実施形態における面積細胞密度維持流加培養方法の工程を示す図である。 通常の流加培養方法の工程を示す図である。 通常の回分培養方法の工程を示す図である。 本発明の実施形態における面積細胞密度維持流加培養方法を行う細胞培養装置を示す図である。 本発明の実施形態における面積細胞密度維持流加培養方法を行う細胞培養装置の駆動装置を示す図である。 実施例1及び比較例1の培養方法における各工程を示す図である。 実施例1及び比較例1の実験条件・実験結果を示す図である。 実施例1及び比較例1の実験結果を表すグラフを示す図である。 実施例1及び比較例1の面積培養密度の推移を示す図である。 実施例2及び比較例2,3の培養方法における各工程を示す図である。 実施例2及び比較例2,3の実験条件・実験結果を示す図である。 実施例2及び比較例2,3の実験結果を表すグラフを示す図である。 実施例2及び比較例2の面積培養密度の推移を示す図である。 従来の細胞培養方法を示す図である。
以下、本発明の細胞培養方法、細胞培養装置、及び細胞培養装置の制御方法の実施形態について具体的に説明する。
[細胞培養方法]
まず、本実施形態の細胞培養方法について、図1を参照して説明する。同図は、本実施形態の面積細胞密度維持流加培養方法の工程を示す図である。
図1(a)は、培養開始時における培養容器11(バッグ)を示している。培養容器11は、軟包材を材料として袋状に形成され、仕切部材12により培養部11−1と拡大可能部11−2の二室に分けられている。
培養部11−1には、培養液(培地)13と浮遊系の細胞14が封入されており、この培養部11−1において細胞培養が行われる。浮遊系細胞は、一般的な培養液13では培養部11−1の底に沈んでいる。
拡大可能部11−2は、細胞数の増加に合わせて仕切部材12の位置を移動させ、培養部11−1の容積を大きくするために用いられる。同図の例では、拡大可能部11−2は空であり、萎んだ状態となっている。仕切部材12を、この拡大可能部11−2が狭くなりかつ培養部11−1が広くなる方向に移動させ、チューブ15から新たな培養液13を培養部11−1内に注入することで、培養部11−1の底面積及び容積を拡大することができるようになっている。
仕切部材12としては、クリップやローラなどを使用することができるが、これらに限定されるものではなく、培養容器11を複数の空間に仕切ることができるものであれば良い。また、拡大可能部11−2に新たな培養液13を予め入れておくとともに、拡大可能部11−2と培養部11−1とをチューブ等で接続し、仕切部材12を移動させると同時に、拡大可能部11−2から培養部11−1に培養液13を移動させる構成とすることも可能である。
本実施形態の細胞培養方法は、細胞の増殖に合わせて仕切部材12を移動させ、培養部11−1における培養面積(底面積)を拡大する面積拡大工程を含むが、このとき培養容器11における細胞14の面積細胞密度が下記式(1)の条件を満足するように、培養面積を拡大する。
ここで、面積細胞密度は、(1個当たりの細胞の占める平均面積)×(培養部内の細胞総数)/(培養部の底面積)により算出することができる。
このように培養容器11における培養面積を拡大すると、やがて、図1(b)に示すように、培養部11−1の底面積は最大となる。
この状態において、培養部11−1(この場合は培養容器11全体)にさらに培養液13を注入すると、培養容器11は軟包材からなるため、厚みが増加し、その容積が拡大する。図1(c)は、このようにして容積が拡大された培養容器11を示している。
ここで、本実施形態の面積拡大工程で、面積細胞密度が上記式(1)の条件を満足するように培養面積を拡大するのは、培養容器11の底面積の範囲内において、できるだけ培養部11−1の細胞14の層が厚くならない環境を維持しながら培養を行うためである。
すなわち、本実施形態ではまず細胞層における多くの細胞が一層になるように培養部11−1の底面積を拡大しながら細胞培養を行う。これは、細胞層が薄いほど、培養細胞の酸素吸収効率等を向上させることができる結果、細胞の増殖効率が高くなるためである。
そして、培養部11−1の底面積が最大になった後、さらに培養液13を追加して培養容器11の厚みを増加させ、その容積を拡大させることで、細胞層を増加させる細胞増殖を行う。これは、培養部11−1の底面全体にほぼ一層になるように培養細胞が得られた後に、細胞層を増加させることで、一定時間内に得られる培養細胞数をさらに増加させることができるためである。
このように、最初に面積細胞密度が維持されるように流加培養を行い、培養面積が可能な限り最大になった後に、次に培養部11−1の容積を拡大して流加培養を行うことで、得られる培養細胞数をより増加させることが可能となる。
なお、面積拡大工程において培養部11−1の底面積が最大に達しないうちに培養を終了する場合、本実施形態の面積細胞密度維持流加培養方法には、容積拡大工程が含まれず、面積拡大工程のみが含まれる。
一方、これまでの流加培養では、培養細胞の底面積密度と培養効率との具体的関係については考慮されておらず、例えば図2に示すように、細胞数の増加に伴って、単純に培養部11−1の底面積が拡大されていた。このため、培養時間の早い時点で細胞が積層していることが多く、培養部11−1内に透過してくる酸素の吸収効率などが、本実施形態の面積細胞密度維持流加培養方法における場合よりも低くなり、増殖効率が低下する場合があった。
また、図3に示すような従来の回分培養方法では、培養初期における細胞密度が低すぎるため、細胞が増殖するための環境を整えるのに時間が必要となる。また、培養後期においては、培養液13が熱で新鮮さを失い、増殖効率が大きく低下する。
これに対して、本実施形態の面積細胞密度維持流加培養方法によれば、同じ培養容器11で同一量の培養液13を用いての同一時間の培養を、通常の流加培養や回分培養により行った場合に比較して一層効率良く行うことができ、得られる培養細胞数を増加させることが可能となっている。
このように、本実施形態の細胞培養方法によれば、同一の培養容器により、同一量の培養液を同一時間用いて培養した場合に得られる培養細胞数を、一層増加させことが可能である。
[細胞培養装置、及び細胞培養装置の制御方法]
次に、本実施形態の細胞培養装置、及び細胞培養装置の制御方法について、図4及び図5を参照して説明する。
本実施形態の細胞培養装置10は、図4に示すように、培養容器11、仕切部材12、及び容器積載台16を有している。
培養容器11は、仕切部材12によって、培養部11−1と拡大可能部11−2の二室に仕切られており、培養部11−1には培養液13と細胞14が封入され、チューブ15が接続されている。
培養容器11は、軟包材を材料として、袋状(バック型)に形成した容器である。このように、培養容器11の材料として軟包材を用いることで、培養容器11に可撓性・柔軟性を付与することができる。軟包材としては、例えば、特開2009−247225号公報(培養容器)や、特開2006−262876号公報(培養バッグ、培地保存方法および細胞培養方法)に記載されているものなどを用いることができる。
また、培養容器11は、細胞培養に必要なガス透過性を有しており、内容物を確認できるように、一部又は全部が透明性を有している。このような条件を満たす培養容器の材料としては、例えばポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン系エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム等を挙げることができる。
仕切部材12は、細胞の増殖に応じて培養容器11における培養部11−1の容積を変更するための部材であり、培養容器11を二室以上に仕切ることができるものであれば特に限定されないが、例えば図4に示すように、ローラ12−1及び支持部材12−2を備えたものとすることができる。また、図1〜図3に示すようなクリップなどを用いることもできる。
なお、培養容器11を三室以上に仕切る例としては、例えば培養容器11の長手方向両端に二室の培養部を設けるとともに、同両端にチューブ15を設け、これら二室の培養部に挟まれた中央部分に一室の拡大可能部を設けることができる。このようにすることによって、培養初期の培養効率をより向上させることが可能である。このとき、仕切部材12として、クリップとローラ等を組み合わせて用いても良い。
ローラ12−1は、円柱状に形成されており、軸方向が培養容器11の幅方向と平行になるように培養容器11の上面に配設され、培養容器11の長手方向に沿って水平に回転移動できるようになっている。ローラ12−1の軸方向の長さは、培養容器11の幅(あるいは、収容部11−1の幅)よりも長くなるように構成されている。
このローラ12−1を用いて、培養容器11を、その内部空間が分離されるように押さえつけることで、培養容器11は、ローラ12−1の位置を境に、培養部11−1と拡大可能部11−2の二室に分けられる。このとき、培養容器11における、培養液13を培養部11−1に供給するためのチューブを含むチューブ15が接続されている側が、培養部11−1となり、この培養部11−1に培養液13及び細胞14が封入される。
このように仕切部材12として、ローラ12−1を用いれば、培養部11−1の容積を連続的に変化させることが可能である。
なお、同図の例では、一つのローラ12−1を用いて培養容器11を上方向から押圧して仕切る構成としてあるが、これに限定されるものではなく、二つのローラにより培養容器11を上下方向から挟みつけることで、培養容器11を培養部11−1と拡大可能部11−2とに仕切る構成にすることも可能である。
支持部材12−2は、ローラ12−1を保持しつつ水平方向に回転移動させる移動手段である。
具体的には、支持部材12−2は、図4に示すように、容器積載台16の両脇に1箇所ずつ計2箇所に上方に向かって立設しており、ローラ12−1の端部にそれぞれ接続されてローラ12−1を支える部材である。
さらに、この支持部材12−2を駆動手段により駆動させ、ローラ12−1を容器積載台16の上方で水平移動させて、培養容器11の容積を連続的に変化させることが可能である。
例えば、図5に示すように、支持部材12−2を、連結部下に取り付けたロッド型電動シリンダ12−4(垂直方向動作用アクチュエータ)によって上下に移動させ、ローラ12−1により培養容器11内の空間を分割することができる。
ロッド型電動シリンダ12−4は、スライダ型電動シリンダ12−5(水平方向動作用アクチュエータ)上の移動台12−3に取り付けられており、容器積載台16に対して水平方向に移動する。このように、本実施形態の細胞培養装置10における駆動装置は、支持部材12−2、移動台12−3、ロッド型電動シリンダ12−4、スライダ型電動シリンダ12−5等によって構成されている。なお、ロッド型電動シリンダ12−4やスライダ型電動シリンダ12−5のような電動アクチュエータにかえて、空気圧や油圧、電磁力を利用したアクチュエータを使用したり、モータやカムを用いた構成にしたりすることもできる。
なお、上記の例では、培養容器11上で仕切部材12を移動させる構成としているが、仕切部材12を固定して、培養容器11を移動させるようにしてもかまわない。
培養液13としては、細胞14の増殖に適した培地を適宜使用することができ、特に限定されるものではないが、本実施形態の細胞培養方法は、浮遊系細胞の培養に用いられるため、液体培地が使用される。
また、細胞14としては、ヒト、その他の動物、植物、微生物などにおける各種細胞を用いることができるが、特に浮遊系細胞を好適に用いることができる。例えば、ヒトの白血病Tリンパ腫における細胞や正常末梢血単核球、浮遊化ヒト胎児腎臓由来細胞株、造血幹細胞等を用いることができる。
チューブ15は、培養液13及び/又は細胞14を外部から培養部11−1内に注入し、又は、外部へ回収するためのものであり、培養容器11の四方各辺は密封されているが、通常は2本以上のチューブ15が接続されている。このうち1本は培養細胞や培地を外部から培養容器11に注入するための注入用、他の1本は培養細胞や培地を培養容器11から回収するための回収用である。また、チューブ15が3本取り付けられているときは、3本目は、培養細胞や培地をサンプルとして培養容器11から取り出すためのサンプリング用として使用することができる。
このチューブ15の材質としては、適宜使用環境に合わせて選択すれば良い。例えば、シリコーンゴム、軟質塩化ビニル樹脂、ポリブタジエン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、スチレン系エラストマー、例えば、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)、SIS(スチレン・イソプレン・スチレン)、SEBS(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン)、SEPS(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン)、ポリオレフィン樹脂、フッ素系樹脂等を用いることができる。
容器積載台16は、その上面に培養容器11が載置される平面の台である。この容器積載台16の上面のうち、培養容器11が載置される部分の四隅に止め部材を立設するとともに、培養容器11の四隅に止め部材が係入する孔を設け、止め部材のそれぞれに培養容器11の各孔を通すことで、培養容器11を容器積載台16の上面に定置させる構成とすることができる。なお、止め部材は、上記部材に限る必要はなく、培養容器11がずれるのを防ぐ機構を有するものであれば種々のものを用いることができる。
本実施形態では、細胞の増殖に合わせて上記駆動装置によりローラ12−1を移動させ、培養部11−1の底面積を拡大する面積拡大工程を行うにあたり、培養部11−1における細胞14の面積細胞密度が下記式(1)の条件を満足するように、培養面積を拡大する。
これにより、本実施形態の細胞培養装置10によれば、最初に培養細胞の層ができるだけ一層程度になるように培養することができる。そして、培養面積が最大値に達した後に、培養部11−1の厚さを増加させる容積拡大工程により、培養を続行することができる。
このように、培養部11−1における培養面積を増加できる間は、できるだけ面積細胞密度を低く維持しながら培養することで、培養細胞による酸素の吸収効率等を向上させることができ、培養効率を高めることが可能となる。そして、培養部11−1の底面積が最大になった後に、細胞層が積層する培養を行うことで、一定量の培養液13を用いた一定時間あたりの培養細胞数をより一層増加させることが可能となっている。
なお、細胞培養装置10に攪拌部材を備え、容積拡大工程において、培養部11−1内の培養液13を攪拌し、得られる細胞数をさらに増加させることもできる。
以下、本発明の細胞培養方法、細胞培養装置、及び細胞培養装置の制御方法により、面積細胞密度維持流加培養を行った実施例、及び面積細胞密度を維持することなく細胞培養を行った比較例について、図6〜図13を参照して説明する。
(実施例1)
上記実施形態において説明した面積細胞密度維持流加培養を、以下の条件で行った。
培養容器として、7×30cmのLLDPE製バッグ(フィルム厚み:90 μm、酸素透過率:4500 ml/m・day・atm)を使用した。培養液には、株式会社細胞科学研究所製のALyS505N−0を300ml使用した。培養細胞としては、ヒト白血病Tリンパ種のJurkatE6.1株(直径約16μm)を使用した。
この培養容器をクリップで仕切って培養部の底面積を7×15cmとし、上記培養溶液50mlと上記培養細胞1525万個を培養部に封入して、細胞培養を開始した。このとき、培養部における液厚は0.48cmであった。この条件で39時間培養を行った。
培養開始時から39時間後、クリップを外して、培養部の底面積を最大面積の7×30cmとし、培養溶液50mlを追加して、培養液を全量で100mlとした。培養細胞は追加していない。このとき、培養部における液厚は0.48cmのままであり、培養細胞数は5300万個であった。この条件でさらに24時間培養を行った。
培養開始時から63時間後、培養溶液200mlを追加し、培養液を全量で300mlとした。培養細胞は追加していない。このとき、培養部における液厚は1.43cmであり、培養細胞数は6800万個であった。この条件でさらに24時間培養を行った。
培養開始時から87時間後の培養細胞数は1億2000万個であった。
(比較例1)
上記実施形態において説明した通常の流加培養を、以下の条件で行った。
培養容器、培養液、及び培養細胞は、実施例1と同条件のものを使用した。
この培養容器をクリップで仕切って培養部の底面積を7×5cmとし、上記培養溶液50mlと上記培養細胞1525万個を培養部に封入して、細胞培養を開始した。このとき、培養部における液厚は1.43cmであった。この条件で39時間培養を行った。
培養開始時から39時間後、クリップを移動させて、培養部の底面積を7×10cmとし、培養溶液50mlを追加して、培養液を全量で100mlとした。培養細胞は追加していない。このとき、培養部における液厚は1.43cmのままであり、培養細胞数は
2400万個であった。この条件でさらに24時間培養を行った。
培養開始時から63時間後、クリップを外して、培養部の底面積を最大面積の7×30cmとし、培養溶液200mlを追加し、培養液を全量で300mlとした。培養細胞は追加していない。このとき、培養部における液厚は1.43cmのままであり、培養細胞数は4800万個であった。この条件でさらに24時間培養を行った。
培養開始時から87時間後の培養細胞数は8600万個であった。
実施例1及び比較例1の培養方法における各工程、実験条件、及び実験結果を図6〜図8に示す。
これらの実施例1及び比較例1で使用した培養容器は同様のものであり、培養開始時の培養液、培養細胞、培養液量及び細胞数は同一であり、その後の培養液の追加タイミング及び追加した培養液量も同一である。
一方、実施例1及び比較例1における実験条件は、培養面積の拡大手順が相違し、その結果として培養部の液厚の変化が相違している。
これらの培養方法による細胞の増殖比について、図7及び図8を参照して説明する。
図8には、培養開始時の細胞数を1とした場合の、培養時間に対する細胞の増殖比を表すグラフが示されている。
このグラフの平均液厚の変化を参照すると、実施例1では培養開始時から63時間までは液厚は同じ薄い状態のまま培養部の底面積を拡大して培養が行われ、その後培養部の底面積はそのままで液厚を3倍にして培養部の容積を拡大して培養が行われていることがわかる。一方、比較例1では、培養開始時から87時間まで液厚を一定にし、培養部の底面積を拡大して培養が行われていることがわかる。
また、このグラフによれば、培養開始時から39時間後までの増殖比が、比較例1では1.6であるのに対し、実施例1では3.5となっており、増殖効率が2倍以上向上している。
そして、図7に示す通り、培養開始時から87時間後における最終細胞数は、比較例1では約8600万個であるのに対し、実施例1では約1億2千万個となっている。
したがって、同じ培養容器を使用して、同じ培養液を同じ培養期間で同量ずつ使用したにも拘わらず、本実施形態の細胞培養方法によれば、最終的に約4割増しの細胞数が得られていることがわかる。
ここで、図9を参照して、実施例1及び比較例1における面積細胞密度の推移について検証する。
同図には、培養時間に対する面積細胞密度の変化の様子を表すグラフが示されている。
このグラフによれば、実施例1の細胞培養方法では、全培養時間において面積細胞密度が600000cells/cmを超えていない。この600000cells/cmの値は、(1個当たりの細胞の占める平均面積)×(培養部内の細胞総数)/(培養部の底面積)が1.2となる面積細胞密度を示している。したがって、実施例1の細胞培養方法では、上記式(1)を満足する面積細胞密度を維持した培養が行われていることがわかる。
なお、上記の1.2となる面積細胞密度は、以下のようにして算出したものである。
JurkatE6.1株はほぼ球形(上から見たら円形)で直径が約16μmであることから1個当たりの細胞が占める面積は約2.0×10−6cmとなる。この逆数は「1cmの面積を占有するのに必要な細胞数」となり、この値は500000(cells/cm)である。このことから600000cells/cmは(1個当たりの細胞が占める平均面積)×(培養部内の総細胞数)/(培養部の底面積)が1.2となる面積細胞密度であると言える。なお、細胞が球形であることによって発生する隙間は無視している。実施例2、比較例2,3で用いたhPBMCにおいても同様に計算することができる。
一方、比較例1の細胞培養方法では、培養開始時から39時間時点及び63時間時点において面積細胞密度が600000cells/cmを超えており、上記式(1)を満足することができていない。その結果、実施例1に比較すると培養効率が劣り、最終的に得られる細胞数は、実施例1の細胞培養方法により得られる細胞数に比べて少なくなっている。
一般に、面積細胞密度を制御することなく細胞培養を行った場合には、このように短時間の培養で簡単に面積細胞密度が600000cells/cmを超えてしまうことが多くある。
したがって、実施例1のように、面積細胞密度を、上記式(1)を満たすように制御して培養を行うことで、細胞培養を一層効率化することが可能である。
(実施例2)
上記実施形態において説明した面積細胞密度維持流加培養を、以下の条件で行った。
培養容器は、実施例1と同様のものを使用した。培養液には、株式会社細胞科学研究所製のALyS505N−7を300ml使用した。培養細胞としては、ヒト正常末梢血単核球(略称hPBMC、直径約12μm、抗CD3抗体で刺激し増殖能を持たせたもの)を使用した。
この培養容器をクリップで仕切って培養部の底面積を7×15cmとし、上記培養溶液50mlと上記培養細胞900万個を培養部に封入して、細胞培養を開始した。このとき、培養部における液厚は0.48cmであった。この条件で93時間培養を行った。
培養開始時から93時間後、クリップを外して、培養部の底面積を最大面積の7×30cmとし、培養溶液50mlを追加して、培養液を全量で100mlとした。培養細胞は追加していない。このとき、培養部における液厚は0.48cmのままであり、培養細胞数は6400万個であった。この条件でさらに19時間培養を行った。
培養開始時から112時間後、培養溶液200mlを追加し、培養液を全量で300mlとした。培養細胞は追加していない。このとき、培養部における液厚は1.43cmであり、培養細胞数は1億個であった。この条件でさらに28時間培養を行った。
培養開始時から140時間後の培養細胞数は1億3000万個であった。
(比較例2)
上記実施形態において説明した通常の流加培養を、以下の条件で行った。
培養容器、培養液、及び培養細胞は、実施例2と同条件のものを使用した。
この培養容器をクリップで仕切って培養部の底面積を7×5cmとし、上記培養溶液50mlと上記培養細胞900万個を培養部に封入して、細胞培養を開始した。このとき、培養部における液厚は1.43cmであった。この条件で93時間培養を行った。
培養開始時から93時間後、クリップを移動させて、培養部の底面積を7×10cmとし、培養溶液50mlを追加して、培養液を全量で100mlとした。培養細胞は追加していない。このとき、培養部における液厚は1.43cmのままであり、培養細胞数は
4700万個であった。この条件でさらに19時間培養を行った。
培養開始時から112時間後、クリップを外して、培養部の底面積を最大面積の7×30cmとし、培養溶液200mlを追加し、培養液を全量で300mlとした。培養細胞は追加していない。このとき、培養部における液厚は1.43cmのままであり、培養細胞数は6200万個であった。この条件でさらに28時間培養を行った。
培養開始時から140時間後の培養細胞数は1億個であった。
(比較例3)
上記実施形態において説明した通常の回分培養を、以下の条件で行った。
培養容器、培養液、及び培養細胞は、実施例2と同条件のものを使用した。
この培養容器をクリップで仕切らずに、培養部の底面積を最大面積の7×30cmとし、上記培養溶液300mlと上記培養細胞900万個を培養部に封入して、細胞培養を開始した。このとき、培養部における液厚は1.43cmであった。この条件で140時間培養を行った。
培養開始時から140時間後の培養細胞数は5900万個であった。
実施例2及び比較例2,3の培養方法における各工程、実験条件、及び実験結果を図10〜図12に示す。
実施例2と比較例2,3で使用した培養容器は同様のものであり、培養に用いた培養液、培養細胞、培養液量及び細胞数は同一であり、培養時間も同じである。
しかしながら、実施例2の面積細胞密度維持流加培養方法によれば、最終細胞数が1億3千万個となっており、比較例2の通常の流加培養方法による最終細胞数1億万個の約3割増しの培養細胞を得ることができている。また、比較例3の通常の回分培養方法による最終細胞数5900万個に比較すると、2倍以上の培養細胞を得ることができている。
次に、これらの培養方法による細胞の増殖比について、図12を参照して説明する。
同図には、培養開始時の細胞数を1とした場合の、培養時間に対する細胞の増殖比を表すグラフが示されている。
このグラフによれば、培養開始時から93時間後までの増殖比が、比較例2では5.2、比較例3では2.8となっているのに対し、実施例2では7.1となっており、その増殖効率は、比較例2に対して3割以上、比較例3に対して2.5倍以上向上している。
また、上記の通り、培養開始時から140時間後における実施例2の最終細胞数は、比較例2の約3割増し、比較例3の2倍以上となっている。
このように、実施例2によっても、同じ培養容器を使用して、同じ培養液を同じ培養時間で同量使用した比較例2,3に示す培養に比べて、本実施形態の細胞培養方法がより一層優れた培養効率を得られるものであることが明らかとなった。
さらに、図13を参照して、実施例2及び比較例2における面積細胞密度の推移について検証する。
同図には、培養時間に対する面積細胞密度の変化の様子を表すグラフが示されている。
このグラフによれば、実施例2の細胞培養方法では、全培養時間において面積細胞密度が1060000cells/cmを超えていない。この1060000cells/cmの値は、(1個当たりの細胞の占める平均面積)×(培養部内の細胞総数)/(培養部の底面積)が1.2となる面積細胞密度を示している。したがって、実施例2の細胞培養方法では、上記式(1)を満足する面積細胞密度を維持した培養が行われていることがわかる。
一方、比較例2の細胞培養方法では、培養開始時から93時間時点において面積細胞密度が1060000cells/cmを超えており、上記式(1)を満足することができていない。その結果、実施例2に比較すると培養効率が劣り、最終的に得られる細胞数は、実施例2の細胞培養方法により得られる細胞数に比べて少なくなっている。
このように、面積細胞密度を、上記式(1)を満たすように制御して培養を行うことで、細胞培養をより効率化し得ることが明らかとなった。
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施形態及び実施例では、ヒトの細胞を培養対象としているが、浮遊系細胞であれば、その他の細胞培養に適用することも可能である。また、培養液の比重を細胞の比重よりも大きくし、細胞を培養部の上部に集めて培養することも可能である。さらに、細胞培養装置に攪拌部材を備え、容積拡大工程において培養部の培養液を攪拌して増殖効率をより向上させるなど適宜変更することが可能である。
本発明は、細胞培養容器を用いて、細胞を大量培養する場合に好適に利用することが可能である。
10 細胞培養装置
11 培養容器
11−1 培養部
11−2 拡大可能部
12 仕切部材
12−1 ローラ
12−2 支持部材
12−3 移動台
12−4 ロッド型電動シリンダ(垂直方向動作用アクチュエータ)
12−5 スライダ型電動シリンダ(水平方向動作用アクチュエータ)
13 培養液
14 細胞
15 チューブ
16 容器積載台

Claims (5)

  1. 培養液及び細胞が封入された培養部の底面積を拡大可能な軟包材からなる培養容器を用いて細胞を培養する細胞培養方法であって、
    下記式(1)を満足する面積細胞密度を維持しながら前記培養部の底面積を拡大し、前記培養部における細胞を流加培養する面積拡大工程と、
    前記培養部の底面積が最大値に達した後、前記培養部に培養液を追加して前記培養部の容積を拡大して、前記培養部における細胞を流加培養する容積拡大工程を含む
    ことを特徴とする細胞培養方法。
  2. 前記培養容器を、仕切部材を用いて前記培養部と拡大可能部とに仕切り、この仕切部材を移動させて、前記培養部の底面積を拡大することを特徴とする請求項1記載の細胞培養方法。
  3. 前記仕切部材として、クリップ、及び/又は、水平方向に連続的に移動可能な一又は二以上のローラを用いることを特徴とする請求項記載の細胞培養方法。
  4. 前記面積拡大工程において前記細胞を静置培養した後、前記容積拡大工程において前記培養部内の培養液を攪拌して培養することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の細胞培養方法。
  5. 培養液及び培養細胞が封入され、軟包材で形成された培養容器が載置される容器積載台と、前記培養容器を培養部と拡大可能部とに仕切る仕切部材と、この仕切部材及び/又は前記培養容器を移動させる駆動手段とを備えた細胞培養装置の制御方法であって、
    前記培養部における面積細胞密度が、下記式(1)を満たすように、前記駆動手段を移動させて前記培養部の底面積を拡大し、前記培養部に前記培養液を追加し、
    前記培養部の底面積が最大値となった後、前記培養部に前記培養液を追加して前記培養部の厚さを増大させ、前記培養部の容積を拡大する
    ことを特徴とする細胞培養装置の制御方法。

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