JP5733630B2 - 電極マウント、それを用いた高圧放電ランプ、及びそれらの製造方法 - Google Patents

電極マウント、それを用いた高圧放電ランプ、及びそれらの製造方法 Download PDF

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本発明は概略として電極マウント、それを用いた高圧放電ランプ、及びそれらの製造方法に関し、より具体的には、封止部に埋設される電極軸部の曲りを防止した電極マウント及びそれを用いた高圧放電ランプに関する。
図6にプロジェクタ用光源等に用いられる一般的な高圧放電ランプ11(例えば、超高圧水銀ランプ)を示す。高圧放電ランプ11は発光管2及びそれに含まれる一対の電極マウントからなる。発光管2は放電空間3及びそれを挟んだ一対の封止部4からなり、各電極マウントは互いに溶接された電極5、金属箔6及びリード線7からなる。電極5の先端側が発光管2の放電空間3に露出され、電極5の根元側の電極軸部5aの一部、金属箔6及びリード線7の一部が封止部4に埋設される。放電空間3には0.15mg/mm以上の水銀、希ガスおよびハロゲンガスが封入され、点灯時の水銀蒸気圧は150気圧以上になる。
ところで、高圧放電ランプ(以下、「ランプ」という)は点灯、消灯を繰り返して使用されるが、点灯時及び消灯時に電極軸部(タングステン)と封止部(石英ガラス)の熱膨張率の差に起因して電極軸部が曲がってしまうという問題があった。電極軸部の曲がり発生のメカニズムは次の通りである。まず、点灯時に電極軸部は径方向に膨張すると共に放電空間側に膨張するのに対し、封止部の石英ガラスの熱膨張率が電極軸部のそれよりもはるかに小さいため、電極軸部に比べてほとんど膨張しない。封止部の石英ガラスがその形状を維持した状態で、電極軸部が膨張することによって電極軸部の一部分が封止部の一部分に密着する。その後、ランプを消灯すると、電極軸部は元の位置に戻ろうとして収縮する際に、電極軸部と封止部との密着部分はその状態を維持し、他の部分は互いに離隔する(隙間ができる)。即ち、電極軸部の密着した部分は収縮が制限される一方で隙間部の収縮は制限されない結果として、電極軸部が曲がることになる。この電極軸部の曲がりは光軸のずれや照度の低下といった問題をもたらす。
上記の電極軸部の曲がりの問題を解決するために、特許文献1では、電極軸部に根元から先端にかけて細くなるテーパー部を設け、電極軸部の収縮が封止部石英ガラスによって制限され難い構成としている。
また、特許文献2では、封止部(石英ガラス)の内面と電極軸部の外面とがその接触部を小さくして互いに支持する構成とし、電極軸部の膨張及び収縮が封止部(石英ガラス)の内面によって阻害されないようにしている。具体的には、封止部(石英ガラス)の内面構造について、その断面が三角形等になるように、或いは凸状部分を有するように構成することによって、電極軸部との接触部分を小さくしている。
特開2009−99338号公報 特開2009−146590号公報
しかし、特許文献1では、電極軸部の構成が複雑となり、電極の生産における加工コストの大幅な増加がもたらされてしまう。また、テーパー部の細い側の強度を確保する工夫が必要であり、例えば全体を太くすると所望の熱容量範囲を超えてしまう。さらに、電極の加工は高い精度が要求されるので、高い歩留りを達成するためにもその形状はできるだけ簡素なものが望まれる。
また、特許文献2でも、封止部の加工が複雑となり、発光管生産における加工コストの大幅な増加がもたらされてしまう。特に、封止部は上記の問題以外にも熱的なストレスによるクラックの問題も考慮する必要があり、石英ガラス自体の応力又は電極軸部からの応力が径方向に均一に分散される構成とすることが望ましく、従って封止部断面は円形とすることが望ましい。
そこで、本発明は、高圧放電ランプ用電極において、生産コストを大幅に増加することなく、電極軸部の曲がりを効果的に防止する電極マウントを提供することを目的とする。また、電極軸部の曲がりを防止して光軸のずれや照度の低下を防止した高圧放電ランプを提供することを目的とする。
本発明の第1の側面は、高圧放電ランプ用の電極マウントである。本発明の電極マウントは、金属箔及び金属箔の一端に溶接されたタングステン電極を備え、タングステン電極は先端部及び電極軸部からなり、電極軸部の表面にタングステン酸化層が形成され、電極マウントが高圧放電ランプの石英ガラス発光管の封止部に埋設されるときにタングステン酸化層が封止部に含まれるようにタングステン酸化層が形成され、タングステン酸化層の最大層厚部分の厚みが1μm以上10μm以下であり、タングステン酸化層は、Wをタングステン原子、Oを酸素原子として、W2058、W1849、WO及びWOの1つ以上を含むタングステン酸化物からなる。
本発明の第2の側面は、対向配置される一対の上記第1の側面の電極マウント、及び一対の電極マウントが埋設及び封止される石英ガラス発光管からなる高圧放電ランプである。
本発明の第3の側面は、高圧放電ランプ用の電極マウントの製造方法である。本発明の製造方法は、相互に溶接されたタングステン電極及び金属箔からなる電極マウントを準備する工程、及びタングステン電極の電極軸部の表面を所定温度で加熱処理してタングステン酸化層を形成する工程を備え、タングステン酸化層は、電極マウントが高圧放電ランプの石英ガラス発光管の封止部に埋設されるときに封止部に含まれる位置に、最大層厚部分の厚みが1μm以上10μm以下となるように形成され、所定温度が600±40℃以上900±40℃以下であり、タングステン酸化層は、Wをタングステン原子、Oを酸素原子として、W2058、W1849、WO及びWOの1つ以上を含むタングステン酸化物からなるように所定温度が設定される。
本発明の第4の側面は、第3の側面の製造方法によって製造された電極マウントを石英ガラス発光管に埋設して封止する工程を備える、高圧放電ランプの製造方法である。
本発明の高圧放電ランプの図である。 図1の電極の拡大図である。 実験で使用した電極サンプルを説明する図である。 本発明の電極マウント及び高圧放電ランプの製造方法のフローチャートである。 本発明の電極マウントの製造方法を説明する図である。 本発明の電極マウントの製造方法を説明する図である。 本発明の封止部を形成する工程を説明する図である。 従来の高圧放電ランプの図である。
図1に本発明の電極マウントを含む高圧放電ランプ1を示す。高圧放電ランプ1は石英ガラス発光管2(以下、「発光管2」という)及び一対の電極マウント8(図5A参照)からなり、発光管2は放電空間3及びそれを挟んだ一対の封止部4からなり、各電極マウント8は互いに溶接されたタングステン電極5(以下、「電極5」という)、金属箔6及びリード線7からなる。図2は電極5付近の拡大図である。電極5は先端部及び電極軸部5aからなり、電極5の放電側(先端部側)が放電空間3に露出され、電極軸部5aの一部、金属箔6及びリード線7の一部が封止部4に埋設される。そして、電極軸部5aの埋設される一部に酸化物を生成したタングステン酸化層5b(以下、「酸化層5b」という)が形成される。放電空間3には0.15mg/mm以上の水銀、希ガスおよびハロゲンガスが封入され、点灯時の水銀蒸気圧は150気圧以上になる。
上述のように、電極軸部5aの埋設部に酸化層5bを形成することによる効果は以下の通りである。電極軸部5aはタングステンからなるので、酸化層5bは酸化タングステンからなる。タングステンは酸化タングステンとの密着性が小さい一方で、石英ガラスは還元性を有するので酸化タングステンとの密着性が高い。そのため、ランプ消灯時、即ち、冷却時に電極軸部5aの酸化層5bの一部が封止部4の石英ガラスに密着されても、電極軸部5aは酸化層5bには密着し難いので、酸化層5bと封止部4の部分的な密着によっては電極軸部5aの収縮は阻害されないことになる。従って、酸化層5bが電極軸部5aと封止部4の接触部に形成されていれば、ランプ点灯時に膨張した電極軸部5aはランプ消灯時には均一な態様(径方向及び軸方向にほぼ均一な応力がかかった状態)で収縮して元の位置に戻ることができる。言い換えると、酸化層5bは緩衝材として機能していることになる。上記構成により、ランプ点灯・消灯の繰り返しによる電極軸部の曲がりを防止できる。
本発明の酸化層5bは、Wをタングステン原子、Oを酸素原子として、W2058、W1849、WO及びWOの1つ以上を含むタングステン酸化物からなる。電極軸部5aの酸化工程において、酸化層5bとしてどのタングステン酸化物が形成されるかは加熱温度に依存する。表1に、空気中での加熱温度と、形成されるタングステン酸化物の種類を示す。なお、加熱温度の精度は±40℃である。また、タングステン酸化物の形態は、X線回折装置により特定した。
Figure 0005733630
ここで、図3にタングステン酸化物の形成状態が異なる電極サンプル1〜11を示す。サンプル5〜10のように複数のタングステン酸化物からなるものは、一点を加熱した場合に、電極軸の熱伝導により温度勾配ができ、それによってグラデーション状に異なるタングステン酸化物が形成されたものである。また、酸化状態のグラデーションは必ずしも一点のピークを持つとは限らず、複数のピークが形成されるようにしてもよい。例えば、酸化状態B、C及びDが形成される場合、D−C−B−C−Dのようにピークである酸化状態Bが1箇所形成されるものに限られず、D−C−B−C−B−C等のようにピークである酸化状態Bが複数個所形成されるようにしてもよい。電極軸部5aのタングステン酸化物の範囲(酸化層5bの長さ方向の範囲)は、封止部4に含まれる範囲(埋設部L)とほぼ一致するものとする。但し、図3は寸法通りではないため、各タングステン酸化物の長さは図面通りではない。
サンプル1〜11において、発光管2は高純度の石英ガラスからなり、放電空間3の内部容量は0.086ccである。放電空間3には約300mg/ccの水銀、20kPaの希ガス(例えば、アルゴン)、及びハロゲンガスが封入されている。投入ランプ電力は220Wである。電極軸部5aは、その軸部径が約0.45mmであり、切削加工を行った先端部にコイルが装着されている。なお、電極軸部5aは、先端部にコイルが巻回されてそれが溶融処理されたものであってもよい。
サンプル1〜11について、点滅回数に対する電極曲がりの有無を確認した。点滅試験は10分ON−10分OFFとし、目標点滅回数を500回とした。その結果、酸化処理を行わなかったサンプル11では50回以下の点滅回数で曲がりが発生したが、サンプル1〜10では500回以上の点滅回数において曲がりが発生しなかった。従って、タングステン酸化物は、W2058、W1849、WO及びWOの1つ以上を含むタングステン酸化物であればよいことが分かる。
次に、酸化層5bの厚さに対する点滅耐性を確認した。なお、酸化層の厚さ又は厚みとは、酸化層の最大層厚部分の厚さをいうものとする。表2に、目標点滅回数を500回として酸化層5bの厚さを変化させた場合の点滅試験結果を示す。電極のサンプルとして、表1のサンプルC(図3のサンプル3)を用いた。
Figure 0005733630
表2に示すように、酸化層の最大層厚部分の厚みが0.1μmの場合では、酸化層5bが電極軸部5aと発光管2との間の緩衝材として機能せず、点滅回数50回未満で曲がりが発生した。また、酸化層5bの最大層厚部分の厚みが10μmを超えると、電極とガラスの間で緩衝材の役割をする酸化層が電極とガラスのシールの密着性を低下させ、シールの耐圧が低くなる。そのため、酸化層5bの最大層厚部分の厚みは1μm以上10μm以下とすることが望ましい。但し、酸化層に10μm以上の厚みがある部分があっても、平均で10μm以下であれば、シールの耐圧性は確保できる。
図4に本発明の電極マウント及びランプの製造方法のフローチャートを示す。
工程S10において、相互に溶接された電極及び金属箔からなる電極マウントを準備する。具体的には、図5Aに示すように、金属箔6の一端に電極5を溶接し、他端にリード線7を溶接して電極マウント8を構成する。溶接には抵抗加熱溶接を用いることができる。なお、リード線7は後述する工程S12の後で金属箔6に溶接してもよい。
工程S12において、工程S10で得られた電極マウント8を加熱処理する。加熱処理は電極マウント8を900〜1000℃の水素雰囲気中に10分間曝すことにより行う。これにより、電極マウント上の不純物を除去する。
工程S14において、図5Bに示すように、電極軸部5aの表面の所定部分に酸化層5bを形成させる。酸化層5bの位置は、後述する工程S20で電極マウント8が封止部4に埋設されるときに、酸化層5bの全部又は一部(大部分)が封止部4に含まれるように決定される。即ち、酸化層5bが封止部4に完全に埋設されてもよいし、放電空間3に多少露出していてもよい。実際には、製造バラツキを考慮して、酸化層5bが放電空間3に多少露出される程度に酸化層5bを設けることが望ましい。これにより、本発明の電極マウント8が完成する。
工程S14の酸化工程はレーザを電極軸部5aの表面に照射することにより行うことができ、所望の範囲を酸化させるため照射強度、回数等適宜選択される。なお、酸化工程は、電極軸部5aの表面を600±40℃〜900±40℃で加熱することができれば、レーザ照射に限らず、酸素・水素混合ガスにおける加熱、プロパンガスによる加熱、高周波加熱等、他の加熱方法を用いてもよい。上述したように、酸化層5bは、Wをタングステン原子、Oを酸素原子として、W2058、W1849、WO及びWOの1つ以上を含むタングステン酸化物からなる。
工程S20において、図5Cに示すように、電極マウント8を発光管2に埋設及び封止し、封止部4を形成する。上述したように、この工程において、電極軸部5aの酸化層5bの全部又は一部(大部分)が封止部4に埋設されるとともに、水銀及び封入ガスが放電空間3に封入される。これにより、本発明の高圧放電ランプが完成する。
以上より、高圧放電ランプ用電極において、生産コストを大幅に増加することなく、電極軸部の曲がりを効果的に防止する電極マウントを提供することができる。また、この電極マウントを用いることにより、電極軸部の曲がりを防止して光軸のずれや照度の低下を防止した高圧放電ランプを提供することができる。
上記に本発明の実施例を説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で以下のように変更可能である。
(1)本実施例においては超高圧水銀ランプを例として説明したが、本発明は一般的な高圧放電ランプにも適用できる。
(2)実施例はタングステン酸化層を一対の電極軸部の両方に形成することを想定しているが、片方のみに形成してもよい。例えば、より電極軸部曲がりが発生し易い高温側の電極マウント(例えば、ランプを反射鏡に取り付けた場合に反射鏡ネック側に配置される電極マウント、又はランプに反射鏡だけでなく副鏡が取り付けられる場合に副鏡側に配置される電極マウント)のみにタングステン酸化層を形成してもよい。もちろんこの場合は、完成したランプにおいてどちら側の電極マウントにタングステン酸化層が形成されたかを識別できるようにしておく必要がある。
(3)タングステン酸化層は、径方向及び軸方向に均一な態様を得るためにも電極軸部の表面全周にわたって形成されていることが望ましいが、上記の緩衝材としての機能を果たす限りは必ずしも全周にわたってタングステン酸化層が存在していなくても本発明の効果を享受できる。例えば、タングステン酸化層を電極軸部に対して螺旋状に形成したり、ドット状に形成したりしてもよく、そのような形態のものも本発明の範囲に含まれる。
1.高圧放電ランプ
2.発光管
3.放電空間
4.封止部
5.電極
5a.電極軸部
5b.酸化層
6.金属箔
7.リード線
8.電極マウント
L.埋設部

Claims (4)

  1. 高圧放電ランプ用の電極マウントであって、
    金属箔及び該金属箔の一端に溶接されたタングステン電極を備え、該タングステン電極が先端部及び電極軸部からなり、
    前記電極軸部の表面にタングステン酸化層が形成され、前記電極マウントが前記高圧放電ランプの石英ガラス発光管の封止部に埋設されるときに該タングステン酸化層が該封止部に含まれるように該タングステン酸化層が形成され、
    前記タングステン酸化層の最大層厚部分の厚みが1μm以上10μm以下であり、
    前記タングステン酸化層が、Wをタングステン原子、Oを酸素原子として、W2058、W1849、WO及びWOの1つ以上を含むタングステン酸化物からなることを特徴とする電極マウント。
  2. 対向配置される一対の請求項1に記載の電極マウント、及び該一対の電極マウントが埋設及び封止される石英ガラス発光管からなる高圧放電ランプ。
  3. 高圧放電ランプ用の電極マウントの製造方法であって、
    相互に溶接されたタングステン電極及び金属箔からなる電極マウントを準備する工程、及び
    前記タングステン電極の電極軸部の表面を所定温度で加熱処理してタングステン酸化層を形成する工程
    を備え、
    前記タングステン酸化層は、前記電極マウントが前記高圧放電ランプの石英ガラス発光管の封止部に埋設されるときに前記封止部に含まれる位置に、最大層厚部分の厚みが1μm以上10μm以下となるように形成され、
    前記所定温度が600±40℃以上900±40℃以下であり、前記タングステン酸化層が、Wをタングステン原子、Oを酸素原子として、W2058、W1849、WO及びWOの1つ以上を含むタングステン酸化物からなるように該所定温度が設定されることを特徴とする製造方法。
  4. 高圧放電ランプの製造方法であって、
    請求項3に記載の製造方法によって製造された電極マウントを石英ガラス発光管に埋設して封止する工程
    を備える製造方法。
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