本発明の目的は、半導体基板の活性ドーパント濃度プロファイルを光学的測定値に基づいて決定する方法を提供することにある。本発明に係る実施形態の利点は、ピークドーパント濃度および/または接合深さを得ることができる点にある。本発明に係る実施形態の利点は、単一の測定値から半導体基板のピークドーパント濃度および接合深さを独立して抽出する方法および/またはシステムを提供することにある。
本発明に係る方法および/またはシステムは、とりわけ高濃度から低濃度までの濃度でドーピングされた構造体、すなわちCVD法、注入法、または、拡散法により形成またはドープされた半導体層などの基板バルクの表面近くで最大となり、バルクに向かって低減するドーパント濃度プロファイルまたはキャリア濃度プロファイルを有する半導体層内の活性ドーパントプロファイルを決定するのに適したものである。こうした高濃度から低濃度までの濃度でドーピングされた構造体は、表面近くで最大となり、基板に向かって低減するキャリアプロファイルを有する構造体であると考えてもよい。
本発明に係る少なくとも1つの実施形態の利点は、約45nm下方、とりわけ15〜30nm下方にある接合深さをサブナノメータの精度で再現性よく抽出する方法またはシステムを提供することにある。
本発明に係る少なくとも1つの実施形態の利点は、ドーピングプロファイルのピークドーピング濃度を抽出する方法またはシステムを提供することにある。
本発明に係る特定の実施形態の利点は、サンプルを破壊することなく、高いドーピング濃度を有するサンプルについて、完全な活性ドーピングプロファイルを測定することができる点にある。
本発明に係る特定の実施形態の利点は、非破壊式に、すなわちサンプルを作製せずに、極浅接合部内のキャリアプロファイルを決定することができる点にある。
本発明に係る特定の実施形態の利点は、プロセスフローにおいて、キーポイントでドーピングをモニタし、製品の品質を改善できる点にある。
本発明に係る特定の実施形態の利点は、活性ドーパントプロファイルの決定方法を製造ラインに組み込む、すなわち製造プロセス環境に適合させることができる点にある。
本発明に係る特定の実施形態の利点は、半導体基板の活性ドーパントプロファイルの決定方法であって、短い測定時間で、ユーザ利便性が高く、容易に実行できる方法を提供する点にある。
本発明に係る特定の実施形態の利点は、ドーピングプロファイルに対する光学的測定値から、完全な活性ドーピングプロファイルを決定または再構成することができる点にある。この活性ドーピングプロファイルは、任意のドーピングプロファイルであってもよい。
本発明に係る実施形態の利点は、活性ドーピングプロファイルの光学的測定値に基づいて、固有の解を決定することができる点にある。
本発明に係る実施形態の利点は、ドーピング濃度または接合深さについて事前に仮定することなく、光学的測定値に基づいて、未知で任意のドーピングプロファイルを迅速に、かつ柔軟な手法で再構築することができる点にある。
本発明に係る実施形態の利点は、たとえば異なるドーピング濃度を有する複数の半導体領域の間の接合部における内在的な電場等の半導体基板内の局在的な電場を考慮することにより、ドーピング濃度および/または接合深さを決定することができる。
本発明に係る実施形態の利点は、複素誘電率に対する電場の影響、ならびにバンドギャップナローウィング(BGN)効果およびバンドフィリング(BF)効果による影響を考慮に入れることができる点にある。本発明に係る実施形態の利点は、熱電効果を考慮に入れることができる点にある。
上記目的は、本発明に係る方法およびデバイスにより実現することができる。
本発明は、半導体基板の活性ドーパント濃度プロファイルを光学的測定値に基づいて決定する方法に関するものであって、活性ドーパント濃度プロファイルは濃度レベルおよび接合深さを有する。この方法は、光変調反射光(PMOR)の光学的測定値に基づいて、半導体基板に対する光変調反射光(PMOR)の振幅オフセット曲線および光変調反射光(PMOR)の位相オフセット曲線を取得するステップと、振幅オフセット曲線の一次導関数に基づいて減衰長パラメータを決定するとともに、位相オフセット曲線の一次導関数に基づいて波長パラメータを決定するステップと、減衰長パラメータおよび波長パラメータに基づいて、活性ドーパント濃度プロファイルの濃度レベルおよび接合深さを決定するステップとを有することを特徴とするものである。
驚くべきことに、振幅オフセット曲線および位相オフセット曲線の一次導関数を用いると、たとえば所定のドーパントプロファイル形状を考慮に入れることにより、ピーク濃度レベルの正確な値を得ることができる。
振幅オフセット曲線は、規格化された振幅のオフセット曲線であってもよい。
半導体基板に関するPMOR振幅オフセット曲線およびPMOR位相オフセット曲線を取得するステップは、濃度レベルおよび接合深さにより特徴付けられる活性ドーパント濃度プロファイルを有する半導体基板を入手するステップと、入手した半導体基板に関して、PMOR振幅オフセット曲線およびPMOR位相オフセット曲線を光学的に測定するステップとを有する。
振幅オフセット曲線の一次導関数に基づいて減衰長を決定するステップは、箱状の活性ドーパントプロファイル形状に関して、次式で表される信号減衰長Ld signalを決定するステップを有していてもよい。
信号減衰長Ld signalは、水平方向の距離であって、振幅が係数exp(1)で減衰するために必要な励起レーザとプローブレーザとの間の間隔である。これは、振幅オフセット曲線の一次導関数、たとえば振幅オフセット曲線の勾配と関係する。位相オフセット曲線の一次導関数に基づいて波長パラメータを決定するステップは、箱状の活性ドーパントプロファイル形状に関して、次式で表される水平距離λsignalを決定するステップを有していてもよい。
λsignalは、水平距離であって、位相を360度回転指させるために必要な励起レーザとプローブレーザとの間の間隔である。これは位相オフセット曲線の一次導関数、たとえば位相オフセット曲線の勾配と関係する。
振幅オフセット曲線の一次導関数および位相オフセット曲線の一次導関数は、励起レーザビームの入射ポイントとPMOR振幅およびPMOR位相を決定するために用いたプローブレーザビームの入射ポイントとの間の間隔に応じた、取得したPMOR振幅およびPMOR位相の変化を表すものである。
すなわち、(未知の)接合深さXjおよび(未知の)ピーク濃度Nactにより特徴付けられる(未知の)活性ドーパントプロファイルがPMORを用いて測定することができ、PMOR振幅オフセット曲線およびPMOR位相オフセット曲線を本発明の実施形態により決定することができ、これは1PMOR振幅オフセット曲線および1PMOR位相オフセット曲線を得る。これらの曲線のそれぞれの勾配を決定することにより、(1つの実験データポイントに対応して)水平方向の減衰長の値および波長の値を決定することができる。
減衰長パラメータおよび波長パラメータに基づいて、活性ドーパント濃度プロファイルの濃度レベルおよび接合深さを決定するステップは、濃度レベルおよび接合深さの関数として、所定の濃度プロファィル形状を選択するステップと、前記所定の濃度プロファィル形状、減衰長パラメータ、および波長パラメータの組み合わせに基づいて、活性ドーパント濃度プロファイルの濃度レベルおよび接合深さを決定するステップとを有していてもよい。
所定の濃度プロファィル形状を選択するステップは、箱状の濃度プロファィル形状、ガウス分布の濃度プロファィル形状、ローレンツ形状、誤差関数形状、またはこれらの一部のうちから選択するステップを有していてもよい。
減衰長パラメータおよび波長パラメータに基づいて、活性ドーパント濃度プロファイルの濃度レベルおよび接合深さを決定するステップは、接合深さおよびピーク濃度レベルに関する2つの未知数を含む2つの方程式に帰着する所定の濃度プロファイル形状を考慮に入れて、信号減衰長および波長に関する方程式を解くステップを有していてもよい。
たとえば箱状のドーパント濃度プロファイルを用いた場合、励起レーザとプローブレーザの間のビーム間隔xの次式で表される関数として、オフセット曲線TP(x)を光学的測定信号としてモデル化することができる。
ここで、GTPはサーマルプローブキャリア生成率であり、n0は屈折率であり、ΔNsubは基板内への光学的注入に起因する過剰自由電子濃度であり、Nactはピーク濃度あり、Xjは接合深さであり、λprobeはプローブレーザの波長であり、Ld plはキャリア拡散長であり、φplはプラズマ波の位相であり、λplはプラズマ波の波長であり、Ld thはサーマル拡散長であり、φthはサーマル波の位相であり、λthはサーマル波の波長であり、ΔTsurfaceは表面における温度変化である。
減衰長パラメータおよび波長パラメータに基づいて、活性ドーパント濃度プロファイルの濃度レベルおよび接合深さを決定するステップは、決定された減衰長パラメータおよび決定された波長パラメータを、既知のドーパント濃度プロファイルに関する既知の水平方向の減衰長パラメータ値および既知の波長パラメータ値に関連付けるステップと、関連付けるステップから濃度レベルおよび接合深さを決定するステップとを有していてもよい。
関連付けステップ、および濃度レベルおよび接合深さの前記決定ステップは、半導体基板に関する減衰長パラメータおよび波長パラメータを、参照テーブルと比較するか、既知の接合深さおよびピークドーパント濃度レベルに対応する一連の既知の水平方向の減衰長パラメータ値および既知の波長パラメータ値を表すグラフィック表示と比較することであってもよい。
この方法は、一連の既知のドーパント濃度プロファイルに対する振幅オフセット曲線および位相オフセット曲線を形成するステップを有していてもよく、それぞれの既知の活性ドーパント濃度プロファイルは、異なる濃度レベルおよび/または接合深さにより特徴付けられるものであってもよい。また、この方法は、形成された一連の振幅オフセット曲線および位相オフセット曲線から減衰長曲線を抽出するステップと、振幅オフセット曲線および波長関数の一次導関数を用いるステップと、位相オフセット曲線の一次導関数を用いるステップと、未知のサンプルに関して測定された減衰長および波長を抽出された減衰長曲線および波長曲線上にプロットすることにより、未知の濃度レベルおよび接合深さを決定するステップとを有していてもよい。
既知の水平方向の減衰長パラメータ値および既知の波長パラメータ値は、既知の活性ドーパントプロファイル、既知の接合深さ、および既知のピークドーパント濃度レベルを有する半導体基板を光学的に(実験的に)測定することにより取得してもよい。
既知の水平方向の減衰長パラメータ値および既知の波長パラメータ値は、既知の活性ドーパントプロファイル、既知の接合深さ、および既知のピークドーパント濃度レベルを有する半導体基板をシミュレーションし、所定の濃度プロファイル形状を用いることにより取得してもよい。
本発明は、半導体基板の活性ドーパント濃度プロファイルを光学的測定値に基づいて決定する計算デバイスに関するものである。活性ドーパント濃度プロファイルは濃度レベルおよび接合深さを有する。この計算デバイスは、光変調反射光(PMOR)の光学的測定値に基づいて、半導体基板に対する光変調反射光(PMOR)の振幅オフセット曲線および光変調反射光(PMOR)の位相オフセット曲線を取得するように構成された入力手段と、振幅オフセット曲線の一次導関数に基づいて減衰長パラメータを決定し、位相オフセット曲線の一次導関数に基づいて波長パラメータを決定し、減衰長パラメータおよび波長パラメータに基づいて、活性ドーパント濃度プロファイルの濃度レベルおよび接合深さを決定するプロセッサを備える。
この計算デバイスは、光変調反射光測定装置の一部であるか、上記説明した方法を実行するように構成されたものでよい。
本発明は、光変調光学反射法を実行するためのシステムに関するものである。このシステムは、光変調反射光(PMOR)のオフセット曲線測定データを取得するための励起レーザおよびプローブレーザを有するPMOR測定システムと、光変調反射光(PMOR)のオフセット曲線測定データを受信し、振幅オフセット曲線の一次導関数に基づいて減衰長パラメータを決定し、位相オフセット曲線の一次導関数に基づいて波長パラメータを決定し、減衰長パラメータおよび波長パラメータに基づいて、活性ドーパント濃度プロファイルの濃度レベルおよび接合深さを決定する処理システムとを備える。このシステムは、たとえば上記説明した計算デバイスであってもよい。
本発明は、機械判読可能コンピュータコードを実行することができるコンピュータプログラム製品に関し、上記説明した方法を実行することができるコンピュータプログラム製品に関するものである。
さらに本発明は、上記コンピュータプログラム製品を記憶する機械判読可能データキャリア、または上記コンピュータプログラム製品を表現する信号の、ローカルエリア通信ネットワークまたはワイドエリア通信ネットワークを介した送信に関するものである。
本発明は、ピーク濃度レベルおよび接合深さの関数としての一連の水平方向の減衰長パラメータ値および波長パラメータ値からなるデータセットに関し、水平方向の減衰長パラメータ値および波長パラメータ値のそれぞれは、対応するピーク濃度レベルおよび対応する接合深さを含む活性ドーパント濃度プロファイルを有する半導体基板に対する光変調反射光の光学的測定値に関する振幅オフセット曲線の一次導関数および位相オフセット曲線の一次導関数に基づくものであり、参照テーブルまたはグラフィック表示として用いられるデータセットに関するものである。
本発明の特定のおよび好適な態様が添付した独立クレームおよび従属クレームに記載されている。従属クレームに記載された特徴は、適当な場合には、独立クレームの特徴と組み合わせることができるのであって、単に、明示的にはクレームに記載されていないだけである。本発明のこれらの態様および他の態様は、上記説明した実施形態を参照することにより明らかである。
特定の実施形態に関する添付図面を参照しながら、本発明を以下説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、クレームによってのみ限定されるものである。説明する図面は、単に概略的なものであって、限定的なものではない。これらの図面において、いくつかの要素の寸法は、わかりやすくするために誇張されたものであって、実寸大で表されたものではない。寸法および相対的な大きさは、本発明の実際の実施形態に対応するものではない。
さらに明細書およびクレームにおいて、同様の構成要素を区別するために、「第1」および「第2」の用語を用いるが、必ずしも順序や、時間的、空間的、階級的、またはその他の順序を特定するものではない。このような用語は、適当な状況下において置換可能に用いられ、本明細書に記載する実施形態は、記載され、図示された順序以外の他の順序により実施できることに留意されたい。
さらに明細書およびクレームにおいて、わかりやすく説明するために、「上方」および「下方」等の用語を用いるが、必ずしも相対的な位置関係を示すものではない。このような用語は、適当な状況下において置換可能に用いられ、本明細書に記載する実施形態は、記載され、図示された位置関係以外の他の位置関係においても実施できることに留意されたい。
クレームにおける「備える(comprising)」なる用語は、列挙された構成要素に限定するものではなく、他の構成要素または構成ステップを排除するものではない。記載した特徴、整数、ステップ、構成要素を特定したことにより、それ以外の特徴、整数、ステップ、構成要素が存在すること、および追加することを排除するものではないことに留意されたい。すなわち「構成要素Aおよび構成要素Bを備えるデバイス」と記載された発明の技術的範囲は、「構成要素Aおよび構成要素Bのみからなるデバイス」と限定して解釈してはならない。本発明に係るデバイスのみに関連する構成要素が構成要素Aおよび構成要素Bであるという意味である。
本明細書において「1つの実施形態(one embodiment)」または「ある実施形態(an embodiment)」と記載したときは、実施形態に関連して説明した特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれるという意味である。すなわち、
本明細書のさまざまな部分における「1つの実施形態」または「ある実施形態」の記載は、必ずしもすべて同一の実施形態を示唆するものではなく、同一の実施形態を示唆するものであってもよい。さらに1つまたは複数の実施形態において、この明細書の記載から当業者ならば理解される特定の特徴、構造、または特性を適当に組み合わせてもよい。
同様に、本発明に係る例示的な実施形態の説明において、記載内容を能率的に説明し、1つまたはそれ以上の発明の態様を理解しやすくするために、本発明のさまざまな特徴が単一の実施形態、図面、または説明にまとめて記載されることに留意されたい。しかしながら、この明細書の記載方法は、特許請求の範囲に記載された発明が各請求項に明示的に記載された特徴以外の特徴を必要とすることを意図するものと解釈すべきではない。むしろ、添付の特許請求の範囲が示すように、本発明の態様は、記載された単一の実施形態の特徴のすべてを含むわけではない。すなわち発明の詳細な発明に続く特許請求の範囲は、発明の詳細な説明に明示的に含まれるものであって、各請求項は本発明の異なる実施形態として成立するものである。
さらに、ここに記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれる別の特徴を含むことがあり、当業者ならば理解されるように、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範疇に含まれ、異なる実施形態を構成することを意味するものである。たとえば添付された特許請求の範囲において、特許請求の範囲に係る実施形態は任意の組み合わせで用いることができる。
本願の明細書において、数多くの特定の詳細事項を説明する。しかし本発明の実施形態は、特定の詳細事項を有さずとも実施できる場合があることを理解されたい。別の具体例として、本発明に関する説明が理解しにくくなることを避けるため、既知の方法、構造体、および技術を詳細に説明しなかった。
第1の態様において、半導体基板の活性ドーパント濃度プロファイルを、光学的測定技術により決定する方法に関する。こうした光学的測定は、通常、光変調光学反射法(PMOR)であり得る。本発明の実施形態に係る光変調光学反射法(PMOR)は、たとえば温度プローブ測定器を用いて得られる光振幅または光位相のオフセット曲線である。半導体基板の活性ドーパント濃度プロファイルは、通常、濃度レベルおよび接合深さとも呼ばれるピーク濃度を有する。本発明の実施形態により測定/決定することができるピーク濃度レベルの典型的な値は、2×1018/cm3以上である。決定することができる典型的な接合深さは、15nm〜40nmの範囲である。本発明の実施形態は、これに限定しないが、たとえば任意的で標準的な方法ステップを示す図1を参照しながら、例示的な具体例について説明する。例示的な方法100は、第1のステップにおいて(ステップ120)、光変調光学反射測定技術(PMOR)を用いて、半導体基板に対する光変調反射光(PMOR)の振幅オフセット曲線および光変調反射光(PMOR)の位相オフセット曲線をデータ取得する。振幅オフセット曲線および位相オフセット曲線のデータ取得ステップ(ステップ120)は、入力データとしてこれらの曲線から取得することにより、事前に測定されたデータからテータを取得するステップを有するものであってもよい。これの代わりに、またはこれに追加して、振幅オフセット曲線および位相オフセット曲線のデータ取得ステップ120は、濃度レベルおよび接合深さにより特徴付けられる活性ドーパント濃度プロファイルを有する半導体基板を入手し、取得すべき半導体基板のPMOR振幅オフセット曲線およびPMOR位相オフセット曲線を光学的に測定することにより実験的に決定するステップ(ステップ110)を有していてもよい。
この方法100は、同様に、振幅オフセット曲線の一次導関数、すなわち勾配に基づいて、減衰長パラメータを決定するステップ(ステップ130)、および位相オフセット曲線の一次導関数、すなわち勾配に基づいて、波長パラメータを決定するステップ(ステップ130)を有する。減衰長パラメータLsignal dを信号減衰長として次式で定義することができる。
パラメータLd signalは、信号減衰長とも呼ばれ、振幅が係数exp(1)で減衰するために必要な励起レーザとプローブレーザとの間の間隔である。波長パラメータは、次式で定義される水平距離λsignalにより決定される。
λsignalは、水平距離とも呼ばれ、位相を360度回転させるために必要な励起レーザとプローブレーザとの間の間隔である。
例示的方法100は、減衰長パラメータおよび波長パラメータ、すなわち信号減衰長および水平距離から、研究対象となっている半導体基板の活性ドーパント濃度プロファイルの(ピーク)濃度レベルおよび接合深さを決定するステップ150を有する。
ピーク濃度レベルおよび接合深さは、さまざまな方法により決定することができる。1つの特定の実施形態では、選択された活性ドーパント濃度プロファイルに関連して、波長パラメータおよび減衰長パラメータに基づいて、ピーク濃度レベルおよび接合深さを決定することができる。利用可能な1つの活性ドーパント濃度プロファイルの1つの実施形態は、箱状活性ドーパント濃度プロファイルであり、オフセット曲線は、次式により記述される。
より一般的には、通常の活性ドーパント濃度プロファイル形状に対するTPオフセット曲線は、次式で表される。
p型の活性ドーパント濃度プロファイルについては次式で表される。
n型の活性ドーパント濃度プロファイルについては次式で表される。
TPオフセット曲線に関する方程式と、減衰長パラメータおよび波長パラメータに関する方程式を組み合わせると、ピーク濃度レベルと接合深さからなる2つの未知数を含む2つの方程式が導き出される。これらに基づいて、ピーク濃度レベルおよび接合深さを求めることができる。
第2の特別の実施例は、測定した波長パラメータおよび減衰長パラメータと、既知の活性ドーパント濃度プロファイルの波長パラメータおよび減衰長パラメータとを比較するものである。こうした既知の活性ドーパント濃度プロファイルの既知の波長パラメータおよび減衰長パラメータ、すなわち既知のピーク活性ドーパント濃度プロファイルおよび接合深さは、データの組(セット)として、たとえば参照テーブルまたはグラフ表示として提供することができる。グラフ表示として提供する場合、波長パラメータおよび減衰長パラメータをグラフ表示としてプロットすることができ、既知の活性ドーパント濃度プロファイルの対応するパラメータと比較することにより、ピーク活性ドーパント濃度および接合深さを求めることができる。
本発明に係るさらなる特徴および利点について、複数の実施形態および/または実施例において説明することができる。
1つの態様において、本発明は、半導体基板の活性ドーパント濃度プロファイルを光学的測定に基づいて決定する計算デバイスに関するものである。計算デバイスは、光変調光学反射測定法(PMOR)に基づき、半導体基板に対する光変調反射光(PMOR)の振幅オフセット曲線および位相オフセット曲線をデータ取得するように構成された入力手段を備える。この計算デバイスは、振幅オフセット曲線の一次導関数に基づいて減衰長パラメータを決定し、位相オフセット曲線の一次導関数に基づいて波長パラメータを決定し、さらに減衰長パラメータおよび波長パラメータから活性ドーパント濃度プロファイルの濃度レベルおよび接合深さを決定するように構成されている。この計算デバイス(プロセッサ)は、上述の機能を実行するようにプログラムされた任意の適当な専用または汎用のプロセッサであってもよい。それは1つまたはそれ以上のプロセッサであってもよい。本発明の実施形態で利用することができる計算デバイスは、たとえば図2に示すようなものであってもよい。図2には、少なくとも1つのプログラム可能なプロセッサ203と、これに接続されたRAMやROM等の少なくともメモリの形態を有するメモリサブシステム205とを備える。1つまたはそれ以上のプロセッサ203は、汎用プロセッサまたは専用プロセッサであってもよいし、他の機能を有する別の構成部品を含むチップ等のデバイスに内蔵されるものであってもよい。この計算デバイス(処理システム)は、すくなくとも1つのディスクドライブおよび/またはCD−ROMおよび/またはDVDドライブを含むストレージサブシステム207を備えたものであってもよい。いくつかの実施例では、ユーザが手動で情報を入力することができるように、ディスプレイシステム(表示装置)、キーボード、ポインティングデバイスを、ユーザインターフェイス209の一部として設けてもよい。またデータの入力ポートおよび出力ポートを設けてもよい。ネットワーク接続や、さまざまなデバイスに対するインターフェイス等の構成部品を設けてもよい。計算デバイス(処理システム)のさまざまな構成部品は、さまざまな手法で接続することができ、この具体例では簡略化するため、単一のバスサブシステムのバスサブシステム213で接続することができるが、当業者ならば理解されるように、少なくとも1つのバスシステムで接続することができる。メモリサブシステムのメモリは、本明細書で説明した実施形態に係る方法のステップを処理システムで実行するとき、一連の指令の一部または全部をしばらくの間保持することができるものである。
別の態様において、本発明は、光変調光学反射測定を実施するシステムに関するものである。こうしたシステムは、励起レーザおよびプローブレーザを備え、光変調反射光(PMOR)のオフセット曲線測定データを取得し、光変調反射光(PMOR)のオフセット曲線測定データを受信し、振幅オフセット曲線の一次導関数に基づいて減衰長パラメータを決定し、位相オフセット曲線の一次導関数に基づいて波長パラメータを決定し、減衰長パラメータおよび波長パラメータに基づいて、活性ドーパント濃度プロファイルの濃度レベルおよび接合深さを決定するものである。このプロセッサは、上記説明したような計算システムであってもよい。このプロセッサはさらに、光学的構成部品を用いて行われる測定を制御するように構成されてもよい。図3は、全体システム300であり、PMOR測定システム302は、計算デバイス200に接続され、入力データを計算デバイスに入力し、任意的には計算デバイスから制御指令を取得するものである。PMOR測定システム302の具体例は、テルマプローブ(TP:Therma-Probe、登録商標)システムであり、これに対応する技術は、「Review of Scientific Instruments, volume 74, number 1, January 2003」におけるLena Nicolaidesらの「熱波動技術を用いた極浅接合の非破壊解析(Non-destructive analysis of ultra shallow junctions using thermal wave technology)」に記載されている。TP技術は、PMOR技術の高変調周波数の実施形態である。このシステムは、たとえばテルマプローブTP630XPツール(TP)、このツールは、高周波変調(1MHz)で変調された励起レーザ出力を用い、固定された励起レーザ波長およびプローブレーザ波長(それぞれ790nmおよび670nm)、および固定された励起レーザ波長出力およびプローブレーザ出力(それぞれ13.5mWおよび2.5mW)を有し、励起レーザおよびプローブレーザが0.5μm半径に焦点を合わせたPMORの特別の実施形態であってもよいが、本発明の実施形態は、コケに限定されるものではない。
別の態様において、本発明は、第1の態様に係る1つの方法を実行する、たとえば第3の態様に基づくデバイスにおける処理手段で実行されるコンピュータプログラムプロダクトに関するものである。対応する処理システムは、第2の実施形態で上記説明した計算ではイスであってもよい。換言すると、本発明の実施形態に係る方法は、コンピュータにより実施される方法であって、ソフトウェアに基づいて実施される方法であってもよい。すなわち、本発明に係る1つまたはそれ以上の実施形態は、デジタル電気回路またはコンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、またはこれらの組み合わせにおいて実施することができる。
別の態様において、本発明は、上記説明した方法を実施するコンピュータプログラムプロダクトを記憶するデータキャリア、またはコンピュータプログラムプロダクトの広域ネットワークあるいはローカルネットワークにおける送受信に関連するものである。こうしたデータキャリアは、上記説明した方法を実施するコンピュータプログラムプロダクトを具体的に具現することができる。したがってキャリア媒体は、プロセッサにより実行される機械可読コードプログラムを担持するものである。よって本発明は、計算手段で実行するとき、上記説明した任意の方法を実施する指令を与えるコンピュータプログラムプロダクトを格納するキャリア媒体に関するものである。「キャリア媒体」の用語は、プロセッサが実行するための指令を与えることに関与する任意の媒体に関するものである。こうした媒体は、数多くの形態を有し、これに限定するものではないが、不揮発性媒体および伝送媒体であってもよい。不揮発性媒体は、たとえば大容量記憶装置の一部である記憶媒体などの光ディスクまたは磁気ディスクを含む。コンピュータ可読媒体の一般的な形態は、CD−ROM、DVD、フレキシブルディスク、テープ、メモリチップ、カートリッジ、コンピュータが判読できる任意の他の形態を含む。コンピュータ可読媒体のさまざまな形態は、プロセッサが実行するための1つまたはそれ以上の指令の1つまたはそれ以上のシーケンスを記憶するために利用されるものであってもよい。またコンピュータプログラムプロダクトは、LAN、WAN、またはインターネット等のネットワークにおいて搬送波を介して伝送することができる。伝送メディアは、ラジオ電波および赤外線データ通信の際に形成されるような音響波または電磁波の形態を有していてもよい。伝送メディアは、同軸ケーブル、銅線ワイヤ、光ファイバ、またはコンピュータ内のバスを含むワイヤである。説明の便宜上、理論に拘束されることなく、以下の理論的な考察および本発明を限定しない実施形態に基づいて、本発明の実施形態に係る特徴および利点を理解することができる。
最初に、変調光の反射について理論的に考察する。序説で説明したように、PMORは、励起−プローブ技術である。PMOR測定の際、変調励起レーザにより、複屈折率n(nは、複屈折率を示すために、当該文字nの上に波線を描いて表される特殊文字である。)が局所的に所定値Δn(Δn中のnは、複屈折率を示すために、当該文字nの上に波線を描いて表される特殊文字である。)だけ変調(変化)する。そしてプローブレーザは、反射光を用いて、この変調(変化)を測定する。このとき励起レーザが屈折率に与える物理的現象の違いを考察する。与える効果の異なる度合いを比較して、(励起−プローブ)変調屈折率の量的表現を求めることができる。
マクスウェル方程式によれば、プローブレーザ波長における損失材料の複屈折率は次式で与えられる。
ここで、nは複屈折率の実部を示し(当該文字の上に波線はない。)、(実部)屈折率ともいい、kは複屈折率の虚部を示し、減衰係数ともいう。また、εは全体誘電率であり(εは当該文字εの上に波線を描いて表される特殊文字である。)、εlatticeは半導体固有(導電性を与えるキャリアが存在しない状態)の誘電率であり(εlatticeは当該文字εの上に波線を描いて表される特殊文字である。)、σは周波数依存性の導電率であり、ωprobeはプローブ光角周波数であり、ε0は真空誘電率である。方程式[1]から明らかなように、屈折率は2つの寄与因子、すなわち(i)εlatticeおよび(ii)εσ(εσは当該文字εの上に波線を描いて表される特殊文字である。)に依存して変化する。第1の寄与因子εlatticeは、バンド同士の効果(バンド間効果)の主原因である。因子εlatticeは、温度および電場により明確に変化し、自由キャリア濃度(キャリア誘起バンドギャップ(BGN)およびバンドフィリング(BF))に付随して変化する。第2の寄与因子εσは、導電率(または自由電子)の因子を含み、すべてのバンド間効果に関与する。それは、自由キャリア濃度ともにのみ変化する。
上述の考察によれば、屈折率の励起−誘起の変化には3種類あることが分かる。第1には、フォトンエネルギがサンプルバンドギャップより大きいとき、励起レーザは変調過剰キャリア分布ΔN(x,y,z,t)を形成し、屈折率に(因子εlatticeおよび因子εσを介して)影響を与える。第2に、ポンプレーザにより、変調過剰温度分布または熱波動ΔT(x,y,z,t)が誘起され、屈折率を(因子εlatticeを介して)不安定にする。最後に、サンプルが平衡状態にある電場を形成する場合には、変調過剰キャリアにより、電場ベクトルΔE(x,y,z,t)が変動する(ΔE中のEは当該文字Eの上に水平矢印を描いて表されるベクトルを表す特殊文字である。)。したがって、一般に、屈折率の変調変化は次式で与えられる。
ほとんどの研究によれば、これらの効果の程度はきわめて小さい(レーザ放射照度が106Wcm−2のとき、屈折率の典型的な変化の絶対値は10−3より小さい。)と報告されている。(サンプル材料、サンプルのタイプ、レーザ波長等の)実験条件によるが、生じる寄与のいくつかは、さらにより小さく、ここでは無視することができる。異なる効果について以下説明するが、赤色光および近赤外光の範囲におけるシリコン(Si)に対する相対的な影響の程度について説明する。
第1に、電気光学的効果について考察する。電気光学的効果により、自由キャリアの存在または電場の存在に起因して複屈折率が変化する。自由キャリアによる3つの電気光学的現象が報告されており、すなわち(i)ドルーデ効果、(ii)キャリア誘起によるバンドギャップナローウィング(BGN)効果、および(iii)バンドフィリング(BF)効果が報告されている。さらに(i)カール(Kerr)効果、(ii)ポッケルス(Pockels)効果、および(iii)フランツケルディシュ(Franz-Keldysh)効果の3つの電場による効果を考慮する必要がある。これらの効果について個別に検討する。
ドルーデ効果は、導電性の変化、すなわち因子εσ(εσは当該文字εの上に波線を描いて表される特殊文字である。)に起因して、電界屈折率効果(すなわちnの変化)および電界吸光効果(すなわちkの変化)の両方の主たる原因となるものである。以下説明するように、赤色光および近赤外光のように光の波長が大きいとき、ドルーデの電界屈折率効果は線形であり(ΔnはΔNに比例)、ドルーデの電界吸光効果は無視することができる。
電荷qの電荷キャリアおよび濃度Nqでのモビリティμの周波数依存性のドルーデ導電性について次式が成立する。
ここでωscatt=q/(mμ)はキャリアの散乱周波数であり、mはキャリアの質量である。シリコンの場合、散乱周波数は、赤色光および近赤外光の波長(1PHzより小さい)に対応する散乱周波数ωscattより小さい(10THzより小さい)。換言すると、高い周波数の導電性は純粋に虚部からなる(抵抗損失がない)。上式[2]を用い、因子εlatticeの実部を推定するため、第1次テーラー展開を用いて、複屈折率を次式で求める。
ここでn0は、平衡状態にある半導体の屈折率である。電子および正孔は同一密度で形成される場合、複屈折率の実部と虚部の一次導関数は次のように表される。
ここでβは、いわゆるドルーデ係数であり、meおよびmhはそれぞれ電子および正孔の実効質量である。完全を期するため、上式[6]は可視光および近赤外光の波長にのみ厳格に限定して有効であることに留意されたい。赤外光より波長が長くなるほど、シリコンの吸光係数は自由キャリア濃度とともに急速に増大する。これは、しばしば自由キャリア吸光(FCA)と呼ばれる。同様に、可視光および近赤外光の波長がきわめて短い場合以外においては、上式[6]の左辺は常に正の値となることに留意されたい。換言すると、ドルーデ効果により、屈折率の実部と虚部には反対の符号を有し、異なる次元の大きさを有することになる。
要約すると、屈折率の変化は、実部であり、形成された自由キャリア濃度に比例する
ここでキャリア誘起によるバンドギャップナローウィング(BGN)効果について説明する。シリコンサンプルに自由キャリアを注入したときの格子バンド構造を図4aに示す。図4aは、シリコンのバンド構造を示す概略図である。バンドギャップナローウィング(BGN)効果およびバンドフィリング(BF)効果による作用を括弧書きで示す。Ecは伝導帯の基底エネルギ準位であり、Evは価電子帯の最大エネルギ準位であって、バンドギャップはEg=Ec−Evである。Ef nおよびEf pはそれぞれ、電子および正孔の擬フェルミ準位であって、光学的バンドギャップはEg=Ef n−Ef pである。この図より、半導体はきわめて縮退しているものと推定される(Ef nおよびEf pがバンドに位置している。)。注入された自由キャリアは、サンプルのバンドギャップEgを再規格化し、因子εlatticeを介して複屈折率を変更する。このキャリア誘起による屈折率の変更は、光変調光学反射法(PMOR)の従来式の光学的モデルでは考慮をされていなかった。
この効果が無視できるか否かについて検討する。バンド間吸光係数αBTBが変化すると、固定波長に対する電子正孔の対形成のあり得る状態が増大し始める。間接吸光端Egの上方では、バンド間吸光係数は(hωprobe−Eg)2に比例する。したがってバンドギャップが狭小化すると、吸光係数は増大し(図4b参照)、すなわち減衰係数が増大する。屈折率の変動は、クラマース・クローニッヒ(KK)の関係式に従う。図4bは、フォトンエネルギのバンド間吸光係数αBTBの変動に対するバンドギャップナローウィング(BGN)効果の影響を示すものである。Eg0は、バンドギャップナローウィング(BGN)前のバンドギャップである。バンドギャップナローウィング(BGN)は、間接吸光端Egを、実質的に2eVのフォトンエネルギだけ確実にシフト(移動)させるものである。この効果をモデル化するために次の方程式を用いる。
したがって2つの項を定量化する必要がある。第1項(d*Eg/d*ΔN)は、既知であり、モデル化されている(なお「d*」は偏微分の演算子「ラウンドディ」を意味するものであるが、本願明細書等においては「d*」を用いて便宜上表す。)ここではドーピングが関係しないので、シャヒードの実験的BGN近似式を用いる。このとき、シェンクの実験的BGNモデルを用いた伝送モデルと矛盾する問題が生じるが、過剰キャリアに起因する直接的な実験的BGN近似式であるので、より正確であると考えられている。第2項(d*n/d*Eg+i・d*k/d*Eg)については、これまでに未だ完全にモデル化されたことがない。以下説明する近似の理由を用いて定量化する。ドープされていないシリコンで測定された実験的なkスペクトルを用いると、過剰自由キャリアが間接吸光端を0〜2eVの範囲でのみ確実にシフトすると仮定する。よって、シフトしたkスペクトルと、シフトしていないkスペクトルとを比較することにより、直接的に項(d*k/d*Eg)を求めることができる。同様に、項(d*n/d*Eg)は、シフトしたkスペクトルと、シフトしていないkスペクトルのクラマース・クローニッヒ(KK)の変換値を比較することにより求めることができる。完全を期するため、クラマース・クローニッヒ変換された虚部の誘電率であることに留意されたい。図5において、バンドギャップにおける正または負の変動の両方に関して、1.85eVのフォトンエネルギで求められた結果が示されている。バンドギャップナローウィング(バンドギャップの負の変化)に関し、次のように求められる。
これは興味深いことに次式を意味する。
これは、屈折率の実部と虚部が異なる次元の大きさを有し、反対の符号を有するドルーデ効果とは実質的な異なるものである。数多くのクラマース・クローニッヒ(KK)の変換値に起因して、求められた屈折率nは多くのノイズを含むものである。しかしながら、最初の数百meVにおいては、明らかに線形な関係が得られる(シリコン内のキャリア誘起バンドギャップナローウィングは、常に約0.1eVより小さい)。
図6は、背景キャリア濃度を1×1018cm−3と仮定して、過剰キャリア濃度の関数として求められた(d*n/d*ΔN|BGN)および(d*n/d*ΔN|Drude)を比較するものである(これはプローブ形成の過剰キャリアおよび励起光形成の過剰キャリアの直流成分を示すものである。)。実部と虚部の寄与について個別に解析されている。一方、バンドギャップナローウィング(BGN)効果だけが無視できない虚部の寄与を与える。バンドギャップナローウィング(BGN)効果をドルーデ効果に加えると、ほとんど等しい実部と虚部を有する複屈折率の変化が増大する。ただし、実験結果の比較から明らかなように、この解析は、光変調光学反射(PMOR)モデルにおいて通常行われていたように、バンドギャップナローウィング(BGN)効果をあまりにも過大評価し、屈折率に対するバンドギャップナローウィング(BGN)効果の影響を無視している。
バースタインのシフト効果またはバンドフィリング(BF)について同様に検討する。バンドギャップナローウィング(BGN)効果と同様、シリコンに過剰キャリアが注入されると、図4(a)に示すように、バンドフィリング(BF)により光学的バンドギャップが変更される。実際、過剰キャリアが注入されると、伝導帯の底部の状態が充填されるため、価電子体の電子により吸光することがもはやできなくなる。さらに価電子体の頂部における状態は、注入により空の状態になり、吸光係数をさらに低減することはできなくなる。換言すると、注入キャリアにより、光学的バンドギャップが拡大し、吸光係数を小さくする。しかし、光変調光学反射(PMOR)実験において、バースタインのシフト効果を確認することは期待されない。これは、キャリア分布が縮退するまでキャリア濃度を増大させた場合に限り、有効なものとなる。これは、ボルツマン定数をkbとし、格子温度をTとしたとき、電子(または正孔)の擬フェルミ準位が伝導帯の底部の上方(価電子帯の頂部の下方から)から4kbTであるときに生じるものと通常推定される。これは、300Kのシリコンの場合、1.7×1020cm−3の電子濃度、および6.4×1019cm−3の正孔濃度に対応する。TPまたはCIのいずれの現在の実験では、これらの濃度は達しえないものである。換言すると、図4(a)に示すものとは異なり、電子および正孔の擬フェルミ準位がバンド内に入ることはなく、常に、バンドギャップ内に存在する。したがって、ここではこの効果を無視する。ただし、有効質量が小さい半導体(たとえばインジウムアンチモン:InSb)であって、この効果が実質的に大きくなる場合には留意しておくが重要である。
ポッケルス効果、カール効果、およびフランツケルディシュ効果について検討する。ポッケルス効果およびカール効果はそれぞれ、電場の存在に起因する一次および二次の電界屈折率効果である。フランツケルディシュ効果は、電場の存在に起因する電界吸収(高い電場のもとでバンド間吸光が改善される現象)をもたらすものである。これらの効果は、因子εlatticeに影響を与える。これらの現象のきわめて完全な調査がアスプネスにより行われた。これらの効果は、2つの半導体の接合部、または半導体サンプルの表面における電場を定量化するために利用することができる。
TPまたはCIの場合、これら3つの効果は2つの理由から無視することができる。第1には、これらの効果は、研究対象の半導体の(直接的または間接的)バンドギャップにきわめて近い波長においてのみ意義を有するためである。第2には、電場に影響されやすい反射光に関し、電場が浸透する深さは波長の次元のオーダである必要があるためである。電流モデルは、ドープされた2つのシリコン領域の間の接合部における固有の電場を取り扱うものである。強力な照明のもとでは、こうした電場が浸透する深さは、接合部に近接した数ナノメータにのみ限定される。デバイの長さは、密度Nqの自由キャリアによる電場の遮蔽距離を与えるものであるが、次式で表される。
すなわちデバイの長さは、過剰キャリア濃度が1018cm−3のとき、ほんの数ナノメータしかないということである。換言すると、変調電場ベクトルΔE(x,y,z,t)は(ΔE中のEは当該文字Eの上に→を描いて表されるベクトルを表す特殊文字である。)、変調屈折率のきわめて局在的なピークを形成する。ポッケルス効果、カール効果、およびフランツケルディシュ効果は、このモデルの場合では考慮されない。
次に、熱光学効果について検討する。複屈折率は、形成された過剰温度にも起因して(因子εlatticeを介して)変化する。こうした変化は、主として熱誘因バンドギャップナローウィング(BGN)効果、および部分的には熱膨張により決定される。これらの効果は、物理的にモデル化することはかなり複雑である。そこで実験データによるフィッティング(適合、近似)を用いることにする。このフィッティングによれば、熱吸光は熱屈折に関して無視することができることが分かる。すなわち現在のモデルでは、次式のような単純な線形の熱屈折効果を利用することができる。
以上まとめると、TPおよびCIに関し、シリコンの電気光学的効果および熱光学効果は、上式[5]および[8]を組み合わせることにより要約することができる。
以下詳述するように、この変調屈折率の変化により、変調プローブの反射光、すなわち光変調光学反射(PMOR)信号が発生する。上式[9]は、光変調光学反射(PMOR)において一般に用いられた光学モデルと一致するものである。しかしながら、上式[9]は、複屈折率におけるバンドギャップナローウィング(BGN)効果の影響を無視できるものと仮定していることに留意しておく必要がある。これは、本発明に係る実施形態を説明する実験で説明した実験的なPMORデータと許容可能に一致するものである。
次に、変調反射率に関し、光変調光学反射(PMOR)をモデル化するための理論的な検討を行う。上式[9]は、励起レーザにより形成される最終的な変調屈折率を与えるものである。上式[9]では、すべての変調要素が深さ依存することは明確ではない。このとき、通常の入射プローブレーザおよび空気中の系に対する所定の変調屈折率プロファイルが決まると、プローブレーザの最終的な変調屈折率を求めることができる。3つのケースについて検討する。第1には、均質なサンプルについて説明する。この場合、変調屈折率は、上部表面においてのみ変化する。第2に、箱状の屈折率プロファイルを検討する。この場合、屈折率には2つの急峻な変化が生じ、一方の変化は上部表面で生じ、他方の変化は接合深さと呼ばれる深さXjで生じる。最終的には、変調屈折率の一般的なプロファイル形状を表す式が求められる。
最初に、変調屈折率に起因する変調反射率が、サンプル全体において、平坦である場合について検討する。これは、TPおよびCIに関し、過剰キャリアの深さおよび過剰温度の変動が無視できるときに限り、均質にドープされたシリコンサンプルの場合に相当でする。これらの変化は、実際にプローブ波長λprobeのスケール程度に小さいことを証明することかできる(セクションIVにある通常の拡散長スケールを参照されたい。)。フレネルの反射式を用い、ΔnまたはΔkのすべての2次項を無視すると、反射率は以下のように表される。
R0、n0、およびk0はそれぞれ、平衡状態にあるときの反射率、(実部の)屈折率、および減衰係数である。シリコン内の赤外および近赤外の波長光について、k0<<n0である場合、均質な半導体サンプルに関する最終的なPMOR信号は次式で表される。
興味深いことに、Δkが上式[11]には含まれていない。これは上式[9]の結論ではなく、Δkは常にk0に比例し、シリコンに関し、k0は赤外光および近赤外光の範囲においてきわめて小さいという事実によるものである。換言すると、k0が存在しても、Δkは、均質なシリコンサンプルにおいて、赤外光および近赤外光の範囲で、変調反射に実質的な影響を与えない。セラフィンは、フレネルの反射式を直接的に微分することにより、同一の問題に関する択一的な数式を案出した。シリコン等の吸光しにくい媒体の場合、赤外光および近赤外光に対するセラフィンα係数が優勢であり、2/(n0(n0 2−1))が等しく、両式は同等のものである。
ここで、変調屈折率プロファイル(箱状のプロファイル)が2つのみの急峻な移行部を有し、一方が上部表面にあって、もう一方が接合深さXjにある場合の問題を検討する。これは興味深い状態であり、なぜなら詳細後述する実験におけるこうしたプロファイル形状は、箱状のドーピングプロファイルの変調屈折率であるためである。
検討対象となる状態が図7に示されている。図7は、2つの急峻な移行部を上部表面および接合界面に有する箱状の変調屈折率プロファイルを示し、接合界面は、プローブレーザの侵入深さ(1/αprobe)よりはるかに小さいと仮定される深さXjに位置している。変調屈折率は、箱内では(Δnl+iΔkl)の値を、層の下方では(Δnsub+iΔksub)の値を有する。平衡状態にあるサンプルの屈折率は、均一で(Δn0+iΔk0)の値に等しい。変調屈折率の大きさがあまりにも小さく、箱内で多重反射が生じないと仮定した場合、変調屈折率は、単に、上部表面および界面で生じた2つの反射光の全体の合計である。さらに深さXjがプローブレーザの侵入深さ(1/αprobe)よりはるかに小さいと仮定すると、次式が成立する。
ここでrl、rsubはそれぞれ、上部表面および界面における反射率であり(rl、rsubは当該文字rの上に波線を描いて表される特殊文字である。)、tl↑、tl↓はそれぞれ、入射光および反射光の表面を透過する際の透過率である(tl↑、tl↓は、当該文字tの上に波線を描いて表される特殊文字である。)。屈折率変動のすべての2次項を無視した。同様に、k0<<n0と仮定すると、変調反射率は、以下のように表される。
上式[13]によれば、吸光係数の変化は、キャリア誘因のバンドギャップナローウィング(BGN)効果に関して計算したものであるが、PMOR信号の深さXjに対する依存性に強く影響を受けていることが分かる。上式[13]には、純粋なコサイン(余弦)依存性に加え、ほぼ同一の振幅のサイン(正弦)依存性が含まれている。しかし実験では、実験データはコサイン(余弦)の挙動を示す。したがって、計算により得られた吸光係数の変化は、上記説明したように、かなり過大評価されたに違いない。換言すると、吸光係数の変化を無視すると、変調反射率は、以下のようになる。
深さXj=0であるとき、上式[14]は上式[13]を良好にも簡略化する。第2に、変調屈折率がどこでも正の値を示す場合であっても、表面反射と界面反射の間で生じる干渉に起因して、箱状プロファイル上のPMOR信号は負の値を示す。これは、変調反射率は常にΔnと同じとなる、均質なサンプルの場合とはまったく異なるものである。
最後に、変調屈折率のみが界面における変化を示すことを仮定した点を強調することは重要である。平衡状態の屈折率は確かに均一である。(活性ドーパントに由来する)平衡状態の自由キャリアのPMOR信号に対する影響は無視することができる。
任意の変調屈折率(任意のプロファイル)の場合、変調反射率は、プロファイルのすべての深さzで生じる反射率の全体的合計値となる。上式[14]を導出するのに必要な仮説と同じ仮説の下では、PMOR信号は次式で表される。
箱状プロファイルの場合、上式[15]は上式[14]に簡略化される事を容易にチェックすることができる。
アスプネスがセラフィンの変調反射理論を空間(深さ)依存性の変調屈折率に一般化したことについて言及する必要がある。この式とアスプネスの式との等価性については、部分積分することにより容易に証明することができる。アスプネスの式のように、これは、被積分関数が一次導関数ではなく、変調屈折率Δn(z)に比例するようにするものである。特に言及すると、上式[15]は、アスプネスの式より数値積分する上で、より適していることに留意されたい。
均質なシリコン基板およびドープ層における電熱輸送理論について以下説明する。上記説明から明らかなように、シリコンに対するPMOR信号の挙動を理解するためには、過剰キャリアおよび励起レーザにより形成された温度プロファイルを求める必要がある。均質にドープされたシリコンサンプルの場合について、過剰キャリアおよび励起レーザビームによる熱に関する輸送理論を説明する。浅いドープ層では輸送は生じないことを示す。キャリア輸送および熱輸送はバルク材料で生じる。バルク内輸送の後、静電気が過剰キャリアを用いて層を荷電する。PMOR構造で熱電効果が検討されたことはほとんどないようである。ワグナーは、これらの帰納的効果を自身のモデルに導入し、これらは無視することができることを示した。またオプサルは、キャリアの熱拡散の効果(ゼーベック効果に類似する。)を研究した。しかし一定の熱拡散係数のみが考慮された。ここでは、これらの電熱効果についても推測的に検討するとともに、他と一致して、無視することができることを示す。バンドギャップナローウィングの擬制ドリフトが、キャリア伝送のために、一般化された二極性の拡散方程式に組み込まれる。得られた方程式の1次元および3次元の解について説明する。1次元の解により、解析的表現を用いて、キャリアおよび熱の挙動を定性的に理解することができる。3次元の解により、定量的ではあるが、数値的ではない知見を得ることができる。光学的モデルおよびPMORの輸送モデルは変調を含むものであって、複素表示を含むものである。第1に、プローブレーザの光学的周波数における電磁場の変調に起因して、光学的モデルは複屈折率を用いる。第2に、輸送モデルは励起パワーの変調を示唆する。したがって励起形成された過剰キャリアおよび温度は複素数で表現することができる。当然に、これら2つの複素表示は、混乱または混同すべきではない。幸運にも、シリコンに関しては、両義性はない。実際、上式[9]、[11]、[14]、[15]で記述されたシリコンに関するPMORの光学的モデルは、純粋に実数である。最後のモデルにおける複素表示のみが、励起パワーの変調周波数における過剰キャリアおよび温度の時間変化に関連するものである。
第1に、過剰キャリア方程式について説明する。熱力学的モデルは、温度とキャリアの相互干渉である熱電効果を含むドリフト拡散モデルの拡張である。ここで用いられるモデルはケルズにより提唱されたものである。このモデルの主たる仮説は、電子および正孔は格子内において熱平衡状態にあるべきだということである(電子の温度Tn、正孔の温度Tp、および格子の温度Tは等しい)。シリコンの場合、観測時間の長さが数ピコ秒、すなわち高温キャリアの加熱時間より短くなければ、この仮説は許容可能なものである。さらに、熱キャリア生成が生じないと仮定している。この仮定は、検討すべき過剰温度が低いとき適当である。同様に、ノイマン境界条件が均質であると仮定している。これは、表面における再結合が無視できることを示唆するものであるが、一般には、そのようなことはない。したがって、この理論は研究対象の表面が不動態化されていると仮定している。このモデルは次のように記述することができる。ポアソンの方程式および電子正孔の連続方程式は、通常の形態では以下のように表すことができる。
ここでΨは静電ポテンシャルであり、N(=NDC+ΔN)、およびP(=PDC+ΔP)はそれぞれ、電子および正孔の全体濃度であり、ΔN(またはΔP)は変調電子濃度(または変調正孔濃度)である。後者は平衡状態にあるキャリアを含み、キャリアは励起レーザリ連続成分により生成され、同様にキャリアはプローブレーザにより生成される。この研究では、簡略化するために、NDCおよびPDCは既知の平坦な分布であると仮定されている。特に、この理論的考察において、P0を基板のドーピング濃度として、NDCおよびPDCを次のように仮定する。
位置(0,0,0)は、デカルト座標系の原点を示し、励起ビームの中心光線が空気−サンプルの界面と交差する点である。これにより、提示され、解くべき方程式の数を少なくすることができるが、理論により焦点が当てられる物理現象を変えるものではない。ただし厳格に言えば、連続的な変調過剰キャリアに対する連結した理論を提示する必要がある。Nd +およびNd −はそれぞれ、イオン化ドナーおよびアクセプタの濃度である。過剰キャリアの光学的生成のみを検討するので、全体的なキャリア生成の項G(=G[αBTB])は以下のように表される。
Ppumpは励起光照度である。RecはSRHおよびオージェ再結合の両方を含む再結合率である。しかしTPおよびCIは、励起光照度が強いので、キャリア誘起再結合(オージェ再結合)は欠陥誘起再結合(SRH)より有効である。これは当然に、結晶性の高いシリコン結晶において最も明白である。オージェ再結合のみを考慮するものもいる。換言すると全体的な再結合率Rec(=Rec[Cn,Cp])は次式で表される。
ここでCnおよびCpは2つの定数であり(キャリア濃度が極めて高いときに、これらの定数に変化が生じる可能性があるが、ここでは考慮しない。)、niは固有のキャリア密度である。電子と正孔の再結合率が同等であるということは、トラッピング(捕獲)は無視できると仮定していることに留意されたい。JnおよびJp(JnおよびJp中のJは当該文字Jの上に水平矢印を描いて表されるベクトルを表す特殊文字である。)はそれぞれ、電子および正孔の密度である。
ここでμnおよびμpはそれぞれ、電子および正孔のモビリティである。χは、対象とする半導体の電子親和性である。電子拡散性および正孔拡散性は、放物バンドおよびフェルミ・ディラック統計に関する一般化されたアインシュタインの関係式により次式で与えられる。
ここでkbはボルツマン定数である。EcおよびEvはそれぞれ、伝導帯端および価電子帯端である。EfnおよびEfpはそれぞれ、電子および正孔の擬フェルミ準位である。F1/2およびF-1/2はフェルミ・ディラック積分である。
上式[19]で記述される電子および正孔の両方の流れは、4つの項から構成される。第1の項には、通常のドリフトによる寄与により、印加された電場(ここでは考慮しない)および内部電場において電荷を移動させるものである。こうした内部電場の2つの具体例がここでは重要である。ここではデンバー効果による電場を検討するが、これは反対符号を有する電荷分布が移動することにより形成されるものである。ダイオードの内部電場について以下検討する。第2の電流寄与は、拡散成分であり、濃度の低い領域へ電荷を移動させるものである。第3には、熱力学的モデルにより、ゼーベック効果を具現する温度勾配に比例する電流項が付加されている。最後には、バンドギャップナローウィング(BGN)の擬制ドリフト電流の項が含まれ、これは親和性の勾配下で電子を移動させ、親和性およびバンドギャップの両方の勾配下で正孔を移動させるものである。実際、過去において、PMORを正確にモデル化するためには、BGN擬制ドリフト電流が必要であるということが確認されている。ただし、すでに上記説明したように、励起レーザを用いて局所的にキャリアを注入することにより、バンド構造を局所的に変化させることができる。BGN誘起ドリフト項は、相互拡散項として機能するものである。これらの第3および第4の電流寄与は、我々のキャリア輸送モデルの特異性である。
電流方程式[19]を組み入れたキャリア輸送方程式[16]から始めて、単一の方程式に、すなわち一般化された二極性拡散方程式に問題を簡素化することができる。この目的を達成するために、次の4つのステップが必要となる。
第1の簡素化は、荷電平衡の仮説である。これは、変調電子分布および変調正孔分布がどこでも同じであるということを仮定するものである(ΔN=ΔP)。この仮説は、光学的モデルですでに用いられたものである。当然に、トラッピングはないものと仮定する。また、この仮説は、電子および正孔が同じ速度で拡散し、ドリフト(移動)すると推定する。これは、独立した電子分布および正孔分布により形成された内部ポテンシャル(デンバーポテンシャル)により説明することができる。内部ポテンシャルは、これらの密度をどこでも一定にするように、電子を減速し、正孔を加速する傾向がある。温度分布が一定である場合、シリコンの場合は常に、ドバイの長さがキャリア拡散距離よりはるかに短い場合、この仮説は有効である。温度分布が一定でない場合、電子および正孔のゼーベック電流が二極性の動きを阻止しないことを確認する必要がある。この仮説は、さらに次式が成立する場合に有効である。
過剰温度が特性長さLthにより指数関数的に減衰すると仮定すると、シリコンの場合は常に、特にキャリアが高い濃度で注入されるTPおよびCIの形態において(基板が高い濃度でドープされた最悪の場合でも10−4未満)、上式は次式のように表される。
第2に、バンドギャップナローウィング(BGN)は、生成された自由キャリアにのみ起因するものと仮定する。この仮説は、均質にドープされた半導体サンプルの場合には明らかである。この場合、次式が成り立つ。
上記電流方程式[19]は、全拡散率Dn TOTおよびDp TOTの項を用いて、次のように書き換えることができる。
上式[22]に含まれる2つの導関数は、たとえばシェンクのBGNモデルを用いて表現することができる。BGNによる疑似電場は、反拡散性項として作用する。
ここに含まれるDn TOTおよびDp TOTの追加項は、実際には、常に負の値を有するので、全体的なキャリア拡散率を低減することになる。
第3に、上式[16b]および[16c]のそれぞれに、正孔導電率qμpPおよび電子導電率qμnNを代入し、上式[21]を用いて、次式を得る。これは一般化された二極性拡散方程式である。
ここでμ*およびD*は、二極性可動率(モビリティ)および二極性拡散率である。上記方程式[23]は、シリコンだけでなく、電子および正孔の電熱二極性移動が生じる他の任意の材料について、PMOR測定を理解するために必要なすべてのキャリア輸送情報を含むものである。
最後の第4の簡素化は、上式[23]の3つの項を無視することである。第1に、ドリフト項を無視する。実際、デンバーポテンシャルに付随するドリフト効果は拡散効果より相当に小さいことが知られている。さらに注入濃度が高いとき、キャリア濃度に差異がある場合、二極性可動率は極めて小さいことに留意されたい。第2に、勾配演算子項▽Tおよびラプラシアン演算子項▽2T(▽Tおよび▽2T中の▽は、ベクトル演算子を示すために、当該文字▽の上に波線を描いて表される特殊文字である。)に比例するので、上式[23]の最後の2つの(ゼーベック)項を無視する。電子および正孔は、同一の可動率μおよび拡散率kbTμ/qを有すると仮定した。この場合、勾配演算子項▽Tは次式のように表される。
励起光誘起された過剰温度が室温に比してはるかに小さい場合には、上記項は拡散項より小さい。これは、以下説明するように、シリコン基板の場合、TPおよびCIのパワー範囲において常に成り立つ。しかし、他の高い吸光性を有するゲルマニウムなどの材料の場合、上記項は実質的に大きくなり得ることが予想される。最後に、演算子項▽2Tに関しては、同様の理由により、通常無視できることができる。ただし、この結論は、より洗練された手法により得ることができる。時間依存性の熱方程式を用いると、演算子項▽2Tは次のように表される。
ここでkthは、サンプルの熱導電率である。両タイプのキャリアが等しい可動率および拡散率を有すると仮定すると、次式を推定することができる。
換言すると、この項はキャリア生成を低減し、キャリア再結合を促進するものである。ただし、シリコンの場合、電子および正孔の全体的な濃度がおよそ1020cm−3より小さいとき、キャリア再結合率およびキャリア生成率の10%より小さくなる。よって、これを無視する。ただし、演算子項▽2T中のこの項は、高い濃度でドーピングまたは注入された場合には考慮する必要がある。したがって、ゼーベック効果が実験的には観察されないことを確認する先に得られた結論とともに、拡散項および再結合率/結合率に比して無視できると結論付けることができる。
最終的な見解として、バンドギャップを正確にモデル化することの重要性を強調する。上式[23]を見ると、実際には、オージェ再結合係数(Cn,Cp)、バンド間吸光係数(αBTB)、および二極性拡散率(D*)の3つの輸送パラメータだけが正確に考慮されている。第1に、ドーピング濃度がきわめて高い場合については現在なお検討されているところであるが、オージェ再結合係数は正確にモデル化されている。第2に、スミスのモデルによれば、可視光および近赤外光の広範囲の波長領域において、アンドープシリコンに関する正確なバンド間吸光係数が得られることが確認されている。この係数は、バンドギャップナローウィング(BGN)効果により、ドーピングおよび注入とともに変化する。これらの変化は、残念ながら、学術文献で認証されたものではない。最終的には、二極性拡散率を正確にモデル化する必要がある。ドープ濃度の低いp型およびn型シリコンに関する実験的な挙動について記載した学術文献はある。クラ-センの可動率(モビリティ)および上式[20]を用いると、実験値および理論値がきわめて良好に一致する。ただし、これらの実験データは、上式[22]のBGN反拡散効果を含むものではない。これらの値を求めるために用いられる実験装置(大きないビーム径および小さい吸光効果)は、実際には、キャリア濃度の勾配を誘起するが無視できるものである。換言すると、BGN効果を考慮せずに、二極性拡散率についてモデルの正確性を検証することができるが、BGN効果を考慮すると、その正確性を証明することはきわめて煩雑となる。これらの効果は、キャリア濃度の勾配に関係するので、正確性の証明に際して、ビームサイズおよび波長に依存する二極性拡散率の変化をモニタする必要がある。結論としては、PMOR実験中のキャリア輸送は、ドーピングおよび注入されたバンドギャップの変化に対してきわめて影響を受けやすいということである。残念ながら、既存のBGNモデルは、実験データとはまだ一致していない。すでに説明したように、温度に関する主たる仮説は、キャリアの同等性および格子温度である。そして熱方程式は次式のように表される。
ここでσはシリコンの密度であり、cpは熱容量である。第1の熱生成項は直接的な加熱(ホットキャリア熱化)である。この寄与は、任意のキャリア輸送の前に生じ、次式で表される。
ここでは空帯を仮定している。ケルズは、格子が熱平衡状態にあるキャリアが定常的であると考えたので、この項にはケルズのモデルに含まれていない。これは、光学的生成の場合には、キャリアがバンドギャップを超えるエネルギ(hνpump−Eg)により当初から生成されているので、当然にあり得ない。この過剰エネルギは、格子に直接的に(数ピコ秒後に)解放され、この余分な項の存在を説明するものである。この項は、通常、市販されている数値シミュレーションソフトウェアには含まれておらず、PMORを研究する場合には、これを使用することはできない。この理由から、自ら数値シミュレーションコード(FSEM)を書き下ろした。さらに第2の生成項は、再結合熱であり、次式で表される。
ここで電子および正孔の熱電パワーは、ボルツマン統計を仮定して、それぞれ次式のように表される。
これを上式[29]に代入すると、次式が得られる。
熱電パワーの定義にボルツマン統計を用いると、過剰キャリアによるバンドフィリングの影響が黙示的に修正される。直接的な加熱について上記説明したが、熱生成があるとき、空帯が考慮される。上式[30]の5kTの項は、バンドフィリングに関連するものであるので無視できる。さらに、この項はエネルギ保存則のために無視する必要があることを以下説明する。この項は通常のモデルと一致する。
次の3つの生成項は、通常、考慮されないが、すべて電流パワーに比例する。これらはすべて室温で無視できることを容易に示すことができる。1次元線形モデルを用い、低周波数の拡散電流を仮定し(Jn=−Jp=−q√(D/τΔN)、τはキャリア再結合ライフタイムである。)、正孔および電子のモビリティが等しいと仮定すると、次式が得られる。
ここでωは励起角変調周波数である。室温において、これら3つの熱生成項は、再結合熱の数パーセントしか寄与しないため、無視することができる。高周波電流に関して、これらの効果は、輸送効果に比して無視されることを立証することもできる。
系の全エネルギが保存されることを確認することは不可欠である。サンプルの容量における直接的な加熱および再結合熱の合計は、(反射しない)入射光のエネルギに等しい。ジュール効果、ペルティエ効果、および/またはトムスン効果は無視できないが、エネルギ保存則を確認することは、ささいな問題とはいえない。
結論として、熱輸送の最適モデルのために制御すべき輸送パラメータについて説明する。シリコンの密度、熱容量、および伝熱性は、既知のパラメータであり、ドーピングまたは注入(シリコン中の音波を介した伝熱性)に依存しない。残されたパラメータは、バンド間吸光係数およびバンドギャップエネルギのみである。両者のパラメータに関するこのモデルの正確性については検討済のものである。結論としては、100%性格なBGNモデルが存在しないことは、明らかに、キャリアおよび熱輸送の両方に関するこのモデルの問題の1つである。
解くべき方程式の連結した系は、次のように表される。
最初に、1次元線形解について説明する。物理的に基本的な上式[34]を理解するために、1次元(水平方向の)シリコンサンプルにおける位置x=0で照射する励起レーザの線形問題を解く。線形問題であることから、再結合率は過剰キャリア濃度に関して線形に変化する、すなわちRec=ΔN/τ(τはキャリア再結合ライフタイムである。)が成り立つと仮定するという意味がある。線形性により、二極性拡散率が過剰キャリア濃度とは無関係であると仮定する。特に、D*=8cm2s−1であると考える。これは、低ドープシリコンサンプルの注入キャリア濃度が1018cm−3であるときの通常の値である。
励起光強度がPpumpexp(iωt)であるとき、吸光された光子束は次式のように表される。
励起光は、2つのプラズマ波ΔN(x,t)およびサーマル波(熱波、温度波)ΔT(x,t)と呼ばれる2つの分布を形成する(NおよびTは、複屈折率を示すために、当該文字NおよびTの上に波線を描いて表される特殊文字である。)。問題が線形であるので、これらは、同じ変調周波数を有し、それぞれ次式で表される。
したがって、ΔN(x)およびΔT(x)の解は、以下の方程式で表される。
上式[35a]および[35b]はそれぞれ、(励起光の下で)x=0におけるノイマン境界条件を用いた。
2つの不均質なノイマン境界条件はそれぞれ、励起キャリア生成および直接的な熱生成に関する情報を含む。この問題の最終的な解は、次式のようになる。
このとき熱電拡散率Dth、プラズマ波ベクトルρpl、サーマル波ベクトルρth、およびこれらの低周波拡散長さLpl,Lthは、次のように表される。
減衰波または拡散波の場に関するすべての定性的な物理現象は、上式[37]に含まれている。図8はそれぞれ、レーザビームの下、キャリア再結合ライフタイムを変化させる2つの減衰波に関する|ΔN(0)|および|ΔT(0)|の振幅、ならびに位相φpl(0)および位相φth(0)の挙動を示すものである。同様に、キャリアおよび熱拡散長さLd pl,Ld th,ならびに波長λpl,λthを示すものである。変調周波数が1MHzであり、レーザフォトンエネルギおよび照明強度は1.57evおよび0.76MWcm−2である。サンプルは未処理のシリコンであるので、Egは1.06eVで、ρ=2.3×10−3kgcm−3で、Cpは700Jkg−1K−1で、kthは1.3Wcm−1K−1である。2つの異なる領域を、これらのグラフ上で特定することができる。第1に、ライフタイムが短い領域または再結合が限定される領域において(ドープ濃度が高いか、注入濃度が高いシリコンに対応)、サーマル波のみが波のような挙動を示す。プラズマ波は、指数関数的に減衰する(位相がゼロで、波長が無限大)。第2に、ライフタイムが長い領域または拡散が限定される領域において、サーマル波およびプラズマ波は極めて類似した波状の挙動を示す。ライフタイムが短い場合と長い場合の提示されたパラメータの漸近的な挙動は、同様に図8に示されている。
完全を期するために、図8に示す振幅のオーダがこの具体例の1次元の特性に強く依存することに留意されたい。次の具体例で示すように、プラズマ波およびサーマル波の両方の振幅は、3次元形態において著しく(約1000分の1以下に)低減する。これは、拡散に対する余分の2つの自由度に起因し得る。位相に関しては、吸光のタイプに密接に関連する(表面に制限されるか否か)。したがって、寸法的に変化するとき、位相も変化する。最後に、拡散の長さおよび波長は、3次元問題においても縮減される。しかし、変化は振幅の1/10より小さい程度である。
3次元の軸対称サンプルに対する上記方程式[34]を解くために、マンデリスによるグリーン関数形式において提案されたように、数値シミュレーションまたは解析的解法を所望する。BGN効果が無視されるTPシステムの場合において、これらの結果を比較することは有益である。数値シミュレーションに関して、筆者が開発した有限要素法パッケージFSEMを用いることができる。解析的手法に関しては、学術文献に解決手法が提示されている。学術文献の解決手法は、線形方程式の解であるものの、非線形性については、ニュートンループで帰納的に含まれている。そのため、この形式は準解析的であるといわれている。全体の二極性の拡散率および再結合率である残された唯一の仮説は、有効で均一な値を有する。
得られた結果が図9に図示され、図9は、プラズマ波およびサーマル波の水平方向の拡散長さおよび波長とともに、ビーム(x=y=0)の下でサンプル表面(Z=0)における振幅および位相がプロットされている。準解析的形式と数値シミュレーション形式との間の不一致は、準解析的な解を求めるために必要な別の仮説により容易に説明することができる。ただし、全体的な一致させることは、両方の解決手法が有効であることを示唆し、すなわち数値誤差は数値シミュレーション形式のアプローチに限定を加えるものであり、解析的な解決手法に用いた仮説が許容可能であることを示唆するものである。図9に示す値は、1次元拡散波の場、すなわち次式で表される分布D(x)を用いて、サンプル表面における理論的な結果を近似(フィッティング)することにより得られたものである。
ここでD0およびφはそれぞれ、ビーム照射時の振幅および位相であり、Lおよびλは拡散の長さおよび波長である。図9で強調するように、4つの異なるがレジューム(型)を特定することができる。第1に領域1(低ドーピング)において、拡散制限レジュームが認められる。これは、TPが低濃度でドーピングされたシリコン基板における再結合に対して影響を受けない(あるいはほとんど少しだけ影響を受ける)ということを意味するので、非常に興味深い。したがって、この領域ではドーピング濃度とは無関係である。第2に、領域および領域3(中間ドーピング)において、再結合は、まず(ドーピング濃度が1017cm−3より高いとき)プラズマ波に影響を与えた後、(ドーピング濃度が5×1018cm−3より高いとき)サーマル波に影響を与える。これら2つの領域において、プラズマ波の予期しない挙動(1次元の解では見られなかったバンプ)について、ドーピング濃度に伴う再結合の増加と同時に、二極性拡散率の減少の微妙な均衡により、説明することができる。最後に、領域4(高いドーピング濃度)において、プラズマ波は、再結合制限レジュームに入る。4つすべての領域に対する簡素化された方程式が図9に示されている。
3次元非線形のプラズマ波およびサーマル波のBGN効果について検討する。図9にプロットされた結果は、BGN効果がないと仮定したときに得られたものである。ただし、上式[34]のいくつかの係数、すなわちαBTB、D*、および当然にEg自体は、バンドギャップエネルギに伴い変化する。p型ドーピング濃度が1015cm−3に関する準解析的手法を検討する。特に、BGNの範囲が(上述の)0eVから2.0×ΔEg schenkの間にあるとき、すなわちシェンクのBGNモデルを用いて得られたBGN値の2倍である場合について検討する。この全体のモデルは、上式[22]で用いられた導関数を含むが、0から2.0の範囲の係数によりスケーリングされ、非線形ループに当てはめられものであることを強調する必要がある。これは、現実的には、シェンクのBGNモデルにおいて生じ得る定量化誤差をも考慮に入れるものである。ここでプラズマ誘起BGN効果を考慮する。ドーピング誘起BGN効果ではなく、このプラズマ誘起BGN効果は、シェンクのBGNモデルにより考察することができるが、実験的にテストされたことはない。
結果を図10に示す。すべての中で最も重要なことは、プラズマ波の振幅がきわめて強く影響を受けていること(プラズマ波の振幅の感度)が図10aに示されている。上述の結果と比較して、2.0×Eg schenkのBGN値に対して、ほとんど1桁異なる振幅が得られることが分かる。この主たる効果は、二極性拡散率の変化に起因することが容易に理解される。この強い依存性は、二極性拡散率と過剰キャリア濃度との間の正のフィードバックの結果である。第1に、過剰キャリア濃度は、二極性拡散率が減少に伴い増大する(たとえば図8の漸近的挙動を参照されたい。)。第2に、キャリア濃度とともに、Dn BGNおよびDp BGNが増大するので(上式[22])、二極性拡散率が低減する。したがって、BGN効果に対するプラズマ波の強い依存性を説明するものは、完全に非線形の効果である。要約すると、BGN値に対する微小誤差でさえ、均質にドーピングされたシリコン基板についてPMORモデルを定量化する際には許容できるものではない。
上記輸送モデルは、活性ドープされたシリコンの表面の場合、ドープされた層に向かって拡張する。過剰キャリアおよび温度プロファイルは、バルク(ドープ表面より下方)で行われた輸送モデル計算から求めることができる。
図11に示すようにドープされた層に対するPMOR信号を予想するためには、上記方程式[16]を理論的に解く必要がある。均質な場合における主たる違いは、それ以外の電場、すなわち補償されないイオン化ドーパント原子による内在的電場を考慮する必要があるということである。活性(アニール処理された)ドーピングプロファイルの内在的電場は、接合部の領域および浅い領域におけるキャリアの挙動に強く影響を与える。これは、明らかに二極性拡散方程式を無効化するものである。
しかしながら、4つの仮説を用いると、最新のCMOSトランジスタが必要とする極浅活性ドーピングプロファイル(接合深さXjが100nmより小さい場合)を有するサンプルに対するキャリア方程式および熱輸送方程式の簡潔であるが、完全な解を求めることができる。第1に、100%の活性ドープ層を仮定する。不活性ドーパントは、複雑な手順でPMORの挙動を変化させる。第2および第3に、熱生成およびキャリア生成は、ドーピングプロファイルとは無関係であると仮定する。これは、TPおよびCIの極浅接合部(USJ)に対応するが、励起レーザビームの浸透深さがXjよりはるかに長いことを仮定することになる。結果として、熱輸送方程式は、基板内について解くことだけが必要となり(上式[34b])、層による効果を無視することができる。基板領域内(サブ接合領域)のキャリア輸送方程式については、1度だけドープされた層がないと仮定して(上式[34a])、これを解く必要がある。第4の最後の仮説は、空間電荷領域全体にわたって電子および正孔の擬フェルミ準位がフラット(平坦)であると仮定する。擬フェルミ準位は、ドーピングによる自由キャリア注入および光学的注入によらず、高い導電性を有する領域においては通常平坦である。次式で表される電流を流すためには、擬フェルミ準位を曲げる必要はない。
換言すると、半導体はどこでも金属のような挙動を示すと考えられる。この仮説の有効性より理解しやすい研究が学術文献に記載されている。
4つの仮説に基づいて、光学的に生成された自由キャリアの輸送および極浅接合部(USJ)に対する熱を次のように理解することができる。第1に、熱は、上式[34b]により拡散する領域で、低濃度でドープされた基板内で生成される。さらに室温でのシリコンの温度特性に対する影響が無視できるとすると、最終的な過剰温度は、層には依存しない。第2に、同様に、過剰キャリアは、上式[34 a]により二極的に拡散し、再結合する領域の基板内で生成される。したがって、基板内の最終的な過剰キャリア分布は、層には依存しない。擬フェルミ準位が平坦であると仮定して、ポアソンの方程式を解くことにより、層内の過剰キャリア濃度を推定することができる。換言すると、層内のキャリア輸送は存在しない。基板内でのキャリア輸送の後に、過剰キャリアを用いて層に電荷を与えるのは、静電気である
ドープされた層の過剰キャリア濃度を決定するためには、静電気、すなわちポアソン方程式を解く必要がある。しかし、p−nプロダクトを用いる方が、はるかに簡便であり、ポアソン方程式を解くことと等価である。p−nプロダクトは、各深さzにおいて、次式が成り立つ。
ドープされた層および基板の内部の両方について上式[39]を用いると、層内の荷重キャリア濃度を簡便な手法で記述することができる。この目的のために、ここではp型層にドーピング(Nact(z))すると仮定する。第1に、ドープされた層において、多数正孔濃度P(Z)=Nact(z)+ΔNi(z)で表され、多数電子濃度N(Z)=ΔNi(z)で表される。第2に高濃度で注入された基板について、N(Z)=P(Z)=ΔNsubである。深さ依存性の過剰キャリア濃度は、上式[39]の比を用いて、層内および基板内のそれぞれについて求めることができる。
ここでγl n(またはγl p)およびγsub n(またはγsub p)はそれぞれ、層内および基板内の電子(または正孔)のフェルミ係数であり、El gおよびEsub gはそれぞれ、層内および基板内のバンドギャップエネルギである。
上式[40]を解くと、次式が得られる。
上式[41]から、ΔN(z)は、ほとんどの場合、Nact(z)が小さくなると大きくなる。
これは、図11に示すように、過剰キャリアプロファイルが単調増加することを示している。
上式[41]を求める際、追加的に3つの暗黙的な仮説を立てている。第1には、ドバイの長さは、プロファイルの特性長さ(接合深さおよび減衰長さ)よりはるかに小さいことを仮定している。用いたp−nプロダクトは、ドバイ長さが消滅することを仮定し、この仮定は高濃度でドーピングし、注入した場合に有効である。第2に、接合部における電場が強いにもかかわらず、過剰電子濃度および過剰正孔濃度は、位置によらず等しいことを仮定している。これは、ドバイの長さがきわめて短いことにも関係している。接合部の周りのナノメートルの領域範囲においてのみ電場が存在する。この領域範囲において、電子および正孔は、わずかに異なる濃度を有するが、この違いは、TPまたはCIのプローブレーザなどの長い波長に比して無視できる程度である。最後に、基板の過剰キャリア濃度は、接合深さXjのスケールで平坦であると仮定した(図11)。これは、励起レーザの浸透深さおよびプラズマ波の拡散長さが接合深さXjよりはるかに長いことに関係する。
ドープされた層内では輸送効果がなく、上式[41]は各水平位置において有効であることに留意すべきである。これは、PMORオフセット曲線を理解する上で重要なことである。第2に、上式[41]は、生成キャリアの時間依存性の挙動を仮定して求めたものである。時間依存性の過剰キャリアが生成されることは無視できることではなく、他の段落で別途説明する。ここで簡素化した解決手法提案する。励起レーザの連続した、時間依存性を有する成分により生成された過剰キャリアが、等しい振幅を有するもの仮定する。シリコンの場合、誘電緩和時間(τd=ε/σ)は1ピコ秒のオーダを有する場合、過剰キャリアを用いて、ドープされた層への荷電は、TPおよびCIの両方に対するPMORの特性時間(1/ω程度)よりはるかに迅速に行われる。したがって層への荷電は、基板への荷電と同時になされるものと考えられる。接合深さXjがプラズマ波長よりはるかに短いと仮定すると、層内の過剰キャリアは、基板内のキャリアと同調する。換言すると、変調過剰キャリア濃度の振幅は上式[41]を用いて計算され、その位相は、基板内の変調過剰キャリアの位相に等しいと考えられる。この洞察は、活性度ピングプロファイルのPMOR信号の位相の挙動を理解するために必要なことである。最後の所見として、上式[41]において、BGNは意義ある役割を果たすことを指摘しておく。これは、PMOR信号を最適に理解する上で、BGNの定量的モデルがきわめて重要であることを示すものである。
上記モデルに基づいて、TPツールおよびCIツールの両方を用いて測定されるPMOR信号を説明する方程式について以下説明する。最初に、箱状活性ドーピングプロファイルの場合について、理論を簡略化する。このタイプのプロファイルは、このタイプのプロファイルは、均一に所定の深さまで活性ドーピングNactを行い、その下方では消滅することを特徴とする。ドーピングおよび/または接合深さが変化した場合に、この理論により、箱状活性ドーピングプロファイルへの信号の挙動を説明できることを説明する。さらに、このモデルの有効性を確認するために、パワー曲線およびオフセット曲線を説明できることを説明する。
最初の検討において、理論的な考察を行う。箱状活性ドーピングプロファイルに関し、層内の過剰キャリア濃度ΔNlが均一である。上式[9]および上式[14]を組み合わせると、次式が得られる。
層内および基板内の過剰温度は等しいと仮定した。これは、当然に、層が温度拡散長さよりはるかに浅い場合に有効な仮定である。箱状活性ドーピングプロファイル上のPMOR信号は、3成分の信号として発生する。第1の成分は、層プラズマ成分であり、ドープ層内の過剰キャリア濃度に関連する。この成分は、常に、均質な成分上のプラズマ成分の位相を有する。第2の成分は、基板プラズマ成分であり、基板内の過剰キャリア濃度に関連する。表面変調反射光と界面変調反射光の間の界面に依存して、この成分の符号は、接合深さに応じて変化し得る。その位相は、均質サンプル上で同一であるか、または180度反転している。これは、PMOR信号の180度位相変化は、(均質にドープされたシリコンのように)熱プラズマ転移の原因となるだけでなく、基板プラズマから層プラズマ転移の原因ともなる。これは、特にCIパワー曲線(領域VI.a)で示すように励起パワーが変化したときに生じる。第3の最後の成分は、均質なシリコン基板上のサーマル成分と同一のサーマル成分である。
層内の過剰キャリア濃度は、上式[41]に従い、次式で与えられる。
ここではボルツマン統計を仮定したか、BGN効果を仮定しない。この式は、(i)層のドーピング濃度が基板の注入濃度より高い場合、および(ii)層のドーピング濃度が基板の注入濃度より低い場合の2つの場合においてさらに簡略化することができる。
(i)ΔNsub 2/ΔNact 2<1のとき。TPおよびCIにおいて、活性ドーピング濃度が1019cm−3より高い場合、上式[43]は、ΔNsub 2/ΔNact 2の第1項まで展開して、次式を得ることができる。
上式[42]および[44]を組み合わせて、箱状活性ドーピングプロファイル上の最終的なPMOR信号を次式で得る。
完全を期するため、プラズマ波の位相φplおよびサーマル波の位相φthのそれぞれを加算した。基板内および層内のそれぞれの過剰キャリア濃度の位相φplが等しいことを仮定した。
(ii)ΔNsub/ΔNact>1のとき。これは、TPおよびCIにおいて、活性ドーピング濃度が1018cm−3より低い場合に相当する。上式[43]は、Nact 2/ΔNsub 2の第1項まで展開して、次式を得ることができる。
上式[42]および上式[46]を組み合わせたものは、低い濃度でドープされた層に対するPMORの挙動について説明する。
図12は、サンプルCVD2、サンプルCVD3、およびサンプルCVD5の3つの組に対して実験的に測定されたPMOR(TP)信号を示すものである。要約すると、3組すべては、ボロン(B)ドープされた化学気相成長法(CVD)で成長させた箱状ドーピングプロファイルを有し、同一のドーピング濃度を有するが、異なる接合深さを有するものである。活性ドーピング濃度はそれぞれ、約2.5×1019cm−3(CVD2)、約5×1019cm−3(CVD3)、および約7×1017cm−3(CVD5)である。
また図12は、基板プラズマ成分およびサーマル成分が図9の低濃度ドープ基板に対して得られたものであることを仮定するフィッティング曲線を示す。フィッティングに用いられる計算式は、CVD2およびCVD3については上式[45]であり、CVD5については上式[42]および上式[46]の組み合わせたものである。Nactの得られた値は、フィッティングパラメータのみであるが、実際の活性ドーピング濃度より約1桁小さい。実際、9.0×1017cm−3(CVD2)、1×1018cm−3(CVD3)、および8×1016cm−3(CVD5)の活性ドーピング濃度が得られた。参考に、そして理論値と実験値の定量的な不一致を強調するために、Nact=5×1019cm−3に対する理論的挙動は、同様に(図12の破線で示す余弦に)示唆されている。これらの不一致は、BGN効果を無視し、ボルツマン統計を仮定したことによるものである。BGN効果を考慮するとともにフェルミ・ディラック統計を採用したとき、両者の関係の一致を改善することになるが、BGN効果の定量的なモデルが欠落しているので、未だ満足できるものではない(以下の感度解析を参照されたい)。
実験値と理論値が定量的に一致しないものの、明らかに、定性的には一致する。第1に、実験値曲線および理論値曲線は、接合深さが変化するとき、余弦の挙動に従う。特に、余弦曲線は、接合深さXj=44nmのとき最小値を有し、これはTP(λprobe/(4n0)=44nm)に関して期待されることである。これは、上記仮定したように、シリコンに対するPMOR測定中の減衰係数の変化は、きわめて小さい(複屈折率に対するBGN効果は無視できる程度である)。第2に、接合深さXjがきわめて小さい場合、すべての曲線は、低濃度でドープされた基板で測定された信号に向かって収束し、これは、基板の過剰キャリア濃度および温度が層に依存しないことを確認するものである。最終的には、上式[45]から予想されるように、余弦曲線の振幅は活性ドーピング濃度とともに増大する。
BGN効果に対するΔNlの影響の受けやすさについて、ボルツマン統計およびΔNsub/Nact<1を仮定して、同様に単純化して解析すると、次式が得られる。
上式[47]は、ΔNlに対するBGN効果の影響が2つの項からなることを示す。第1の寄与項は、基板による寄与であり、BGN効果はΔNsubを介して間接的にΔNlに影響を与え(図10参照)、Eg subを介して直接的にΔNlに影響を与える。第2の寄与項は、層による寄与であり、BGN効果は層のバンドギャップEg lを介してΔNlに影響を与える。均質なシリコンに関して上述のように、BGN効果を検討する。BGNの範囲が0eVから2.0×ΔEg schenkの間にある場合について検討した。1020cm−3の濃度でドーピングされた層に関する結果を図13に示す。推測すると、ΔNlは、ΔNsubよりBGN効果による影響を強く受けやすい。しかし破線で示すように、基板によるBGN寄与は、ΔNlに対して多少の影響を与える。上式[47]が指数関数で表されることから、ΔNlは、振幅が数オーダにわたって変化し得るが、層のBGN寄与に起因するものである。この寄与は、主として活性ドーピング(低濃度で注入された層)、すなわちドーピング誘起のBGN効果に起因するので、層のBGN寄与に対する誤差は小さいものと仮定することができる。換言すると、基板によるBGN寄与だけが、誤差を含むBGN寄与である場合、この解析結果は、層のプラズマ成分の誤差が基板のプラズマ成分の誤差より小さいことを示す(係数2対係数10)。
上式[45]を用いて、CIパワー曲線およびTPオフセット曲線を説明することができる。励起パワーが変化する場合、およびレーザビームが分割される場合、上式[45]により、PMORの挙動を予想することも可能である。
上記PMORの結果に基づいて、その結果を検討し、本発明に係る特徴および利点について説明する。CIとは、いわゆるパワー曲線を増大させる励起レーザのパワーを変化させることができる低周波PMOR技術である。位相は0度または180度であると仮定する。特に、CI信号の符号は、位相が180度である場合には正であり、位相が0度である場合には負である。換言すると、上式[45]を用いて、箱状ドーピングプロファイル上のCI信号は次のようにあらわすことができる。
ここでGCIはCI信号の規格化係数である。この式を用いてCVD2およびCVD3に対するCI信号の挙動について定量的に説明することができる。測定されたパワー曲線は、図14に図示されている。
最初に、高い濃度でドーピングされた場合(CVD3)について説明する。パワー曲線は、ほとんど線形であって、基板プラズマ成分が支配的(ドミナント)であることを示す。これらのパワー曲線の勾配は、測定されるサンプルの接合深さに直接的に関係するものであるため、これを用いて接合深さを決定することかできる。しかしながら、サーマル成分の存在とともに方程式[34a]の非線形性により、決定された接合深さに多少の誤差が生じることがあった。
中間的な濃度でドーピングされた場合(CVD2)について、浅い層は、同様の線形の挙動を示す(白色の背景)。しかし、層が深くなるほど、より非線形パワー曲線の度合いが増す(灰色の背景)。いくつかのパワー曲線は、符号も変化し、これはPMOR信号の位相転移が180度から0度へ変化したことに相当する。上記説明したように、これは熱プラズマ転移に起因するものではない。この符号の変化は、実際には、層プラズマ成分の二次的挙動に起因するものである。特定の励起パワーにおいて、この正の成分は、基板プラズマ成分より大きくなり、その結果、基板注入濃度とともに線形に増加する。基板プラズマ成分が負の値である場合にのみ、この転移は生じる。この転移は、接合深さがおよそλprobe/(8n0)(約34nm)から3λprobe/(8n0)(約102nm)の間にあるときに生じる。
図14に示す実験で得たパワー曲線と上式[45]との間における定量的に良好な適合(整合性)を説明するために、基板注入濃度の関数としてのPMOR信号の理論的に予想される挙動ΔNsubを、0〜3×1018cm−3の間の関連する範囲において、図15にプロットした。簡略化のため、学術文献との容認可能な整合性を取るため、ここではサーマル成分は、基板信号の1/3を占めるもの(すなわち、δΔT=(β/3)(1/me+1/mh)ΔNsub)と仮定する。上式[45]は、明らかに、中間的な濃度(Nact=5×1018cm−3)および高い濃度(Nact=1.5×1019cm−3)でドーピングされた場合のパワー曲線の全体的挙動を正確に予測するものである。ここで選択されたドーピング濃度は、参考のためのものであり、正当化のためではない(BGN効果に対する影響の受けやすさ度合いに起因した定量的なものではない)ことに留意されたい。
学術文献に示された低濃度ドーピングされたCVD層(CVD5)に関し、上式[42]および上式[46]を組み合わせることにより、パワー曲線の挙動をきわめて的確に説明することが理解される。さらに上記説明したように、パワー曲線の屈折ポイントを用いて、箱状ドーピングプロファイルのキャリア・プロファイリングを行うことができる。ほとんどのこの屈折ポイントの位置は、ΔNsubの非線形性、ひいては二極性拡散方程式、すなわち過剰キャリア濃度に関する再結合率および二極性拡散率の非線形性に関連付けられることが上式[45]により示唆されている。これは、この技術が実際には実現困難であることを示す理由を説明するものである。
上式[45]と実験測定データとの良好な整合性を証明するために、PMOR信号の理論値と実験値を、レーザビームが分離された複数の状況、すなわちオフセット曲線について比較する。TPは、4μmの最大ビーム間隔でオフセット曲線を測定する機能を有することに留意されたい。残念ながら、パワー曲線の挙動は上式[45]により直接的に与えられるが、オフセット曲線については、さらに多少説明する必要がある。上記説明したように、活性ドーピングプロファイル上のPMOR信号は、3つの成分からなる。ただし、これら3つの成分の水平方向の挙動は同一でない。第1および第2の成分、すなわち基板プラズマ成分およびサーマル成分については、説明が最も容易である。これらは、ドープされた層により影響を受けないと仮定されているため、プラズマ波およびサーマル波は、均質なシリコンサンプル内で確認されるものと同様のものである。水平方向の挙動は、図9に示す通りである。第3の成分、すなわち層−プラズマ成分については、波長がλlで減衰長がLlの拡散波の形態を有する(方程式[38])。静電気により、無視できる程度の遅延時間内に、十分に速やかに、過剰キャリア濃度を層内に取り込むことができるので、層内および基板内の波長は同一でなければならない。減衰長に関しては、上式[44]が任意の水平位置において有効でなければならない(層内の拡散がまったくない)とすると、次式が得られる。
上式[49]は、減衰長Llが中間的濃度Nactとは無関係であることを示唆している点に留意されたい。これは、BGN効果を無視し、ボルツマン統計を仮定したという事実にのみ起因するものである。活性ドーピングに対する実際の(複雑な)減衰長Llの深さの依存性については学術文献において検討されている。
TPに関する興味深い見解は、3つすべての減衰長は、同じオーダの大きさを有するということである。実際のところ、基板のプラズマ拡散長Ld plが約3μmであり(図9)、サーマル拡散長Ld thが約2μmであり(図9)、層のプラズマ拡散長Llが約1.5μmである。したがって、ドープされた層に対するTPの水平方向の挙動は、3つの成分の減衰を組み合わせたものに対して微々たるものである。これに対して、CIオフセット曲線が利用可能であれば、低変調周波数に起因してサーマル拡散長がはるかに長くなるので、主として2つのプラズマ成分における減衰を示すことになる。
最終的なTP信号は、励起ビームとプローブビームとの間隔xの関数として、次式で表される。
ここでGTPおよびθTPはそれぞれ、TP信号の規格化因子および位相である。ここで説明する具体例においては、GTP=1900であり、θTP=45度である。
厳密に云えば、関係するすべての特性長さについて有限の値が与えられると、PMOR信号のために導出された上式[50]を含むすべての方程式を、プローブレーザビームの照射表面全体にわたって積分する必要がある。PMOR信号の水平方向の挙動について検討されたので、積分値はより関連性を有するものであるが、これらを検討することなく、実験的挙動が上式[50]により的確に再現されることを示す。
説明のため、本発明に係る実施形態は、これらに限定されるものではなく、TPオフセット曲線の実験結果について以下説明し、TPオフセット曲線の理論的挙動と比較する。これらの実験において、TP信号自体は、拡散波である(上式(38))。したがって、これらの水平方向の挙動は、信号減衰長Ld signalおよび信号波長λsignalにより完全に特徴付けられる。現在の具体例では、定義により、信号減衰長Ld signalは、振幅が係数exp(1)で減衰するために必要な励起レーザとプローブレーザとの間の間隔であり(すなわち位相のオフセット曲線の勾配と関係を有する。)、λsignalは、位相を360度回転させるために必要な励起レーザとプローブレーザとの間の水平距離である。これを数学的には、次式のように表すことができる。
こうした定義によれば、信号減衰長および信号波長の両方は負の値を有することを許容することに留意されたい。この推測的で非物理的な可能性により、混乱してはならず、これは2つのパラメータの数学的な定義の結論である。明らかに、減衰長および波長に関する3つの信号成分は、常に正の値を有する。しかしPMOR信号は、これら3つの成分の組み合わせである。したがって、信号振幅はレーザ間隔とともに増大し、すなわち減衰長は負の値となり得る。同様に、信号位相はレーザ間隔とともに減少し、すなわち信号波長は負の値となり得る。以下説明するように、予期しないことであるが、こうした状態を実験的に観測することができ、ここに提唱するモデルを用いて説明することができる。
テルマプローブ(TP:Therma-Probe、登録商標)システムを用いて、実験データを収集する。上記説明した他の測定は、キャリア・イルミネーション(CI:Carrier Illumination、登録商標)システムを用いて行うことができる。TPシステムおよびCIシステムは、2つの市販されたPMOR実施装置である。この具体例では、TPシステムは、波長が670nm(1.85eV)で、パワー(出力)が2.5mWであるプローブレーザを用いる。励起レーザは、波長が790nm(1.57eV)でパワー(出力)が13.5mWであり、1MHzで変調されたものである。プローブレーザおよび励起レーザはともに、0.5μmのビーム半径で集光される。用いられるTP装置は、2つのレーザビームの間隔を最大4μmまで広げる仕様を有している。これによりPMOR信号の水平方向の挙動を研究することができる。ビーム間隔を広げ、PMOR信号の挙動をビーム間隔の関数として記録することにより、いわゆるTPオフセット曲線を生成する。他方、CIシステムは、波長が980nm(1.26eV)で、ビーム半径が2.2μmで、照度が8×105Wcm−2であるプローブレーザを用いる。CIシステムの励起レーザは、830nm(1.49eV)の波長を有し、2kHzで変調周波数を有するものである。そのパワー(出力)は1.5μmのビーム半径で集光され、その照度は0〜4×105Wcm−2の範囲で変化し得る。CIシステムを用いて、PMOR信号の注入依存性を研究することができる。いわゆるCIパワー曲線は、PMOR信号の挙動を励起レーザパワーの関数として示すものである。これらのPMOR実施装置は、赤色および近赤外の範囲のレーザ光を高い照度で利用するものであるが、ここで提示する理論は、ほとんど、このケースに照準を合わせている。
x=0における信号減衰長Ld signalおよび信号波長λsignalの実験値と理論値を比較する。これら2つのパラメータ、すなわち第1に接合深さ、第2に活性ドーピング濃度の変化について説明する。接合深さの依存性については、CVD3基材にボロンをドープした6つの層について実験した結果のオフセット曲線(図16(a)および図16(b)参照)基づいて検討する。これらの層は、共通のドーピング濃度Nact(約5×1019cm−3)および異なる接合深さを有する。活性ドーピング濃度に対する依存性の検討については、CVD8基材にボロンをドープした6つの層について測定したオフセット曲線(図16(c)および図(d)参照)に依拠して検討する。これらのCVD層は同一の接合深さ(約40nm)および異なる活性ドーピングを有する。
最初に、接合深さの依存性について、すなわちCVD3基材に対して測定されたオフセット曲線(図16(a)および図16(b)参照)基づいて検討する。CVD3層が高い濃度でドーピングされたことに起因して、これらのオフセット曲線は、多くの場合、基板のプラズマ成分とサーマル成分の間の競合を示す。ビーム間隔がゼロのときの位相の挙動から開始して(図16(b))、明らかに、接合深さとともに変化する。これにより、接合深さXj=22nmのとき、基板のプラズマ成分の符号が変化する。位相オフセット曲線および信号波長の勾配も同様に、接合深さとともに変化する。この変化は、基板のプラズマ成分とサーマル成分の波長の差によるものである。低濃度でドーピングされた基板においては(図16(b)の太線)、信号波長はおよそ130μmであると計算することができる。レーザ間隔が4μmであるとき、位相の変化は、実際には、約11度である。換言すると、360度の回転を実現するためには、130μmのレーザ間隔が必要である。これは、低濃度でドーピングされた基板内のプラズマ波に対して計算された波長についても同様である(図12(d))。すなわち、こうした信号は、明らかにプラズマによるものである。これに対し、接合深さXj=24nmのとき、サーマル波の波長である36μmの波長を示すので、信号は温度によるものである(図9(d))。22nm(=λprobe/(8n0))付近にあるとき、プラズマ成分は実際に消滅し、サーマル成分が唯一の寄与となる。その他の接合深さであるとき、基板のプラズマ成分およびサーマル成分が接近して競合し、信号波長が変化することを説明するものである。
高濃度ドーピングした場合、すなわち層のプラズマ成分が存在しない(ΔNlがほとんど0である)場合において、接合深さに対する信号波長の全体的な温度依存性を図17(b)に示す。特に、λsignal(Xj=0)が低濃度ドーピング基板上で測定した信号波長であるとして、この図は、λsignal/λsignal(Xj=0)の変化をプロットした図である。CVD3基材上で得られた実験値がプロット(○印で)されている。この図から明らかなように、このモデルは、信号波長の全体的挙動をかなり正確に予測することができる。
図16(a)に示すCVD3基材上のTP信号の振幅の水平方向の変化、すなわち信号減衰長Ld signalは、一見するとまったく奇妙なものに見える。基板のプラズマ成分およびサーマル成分が競合する挙動に依存して、TP信号の減衰長は接合深さに依存する。減衰長は、16nmまでの接合深さXjに対して基板上の減衰長より長い。この場合、基板のプラズマ成分およびサーマル成分は、反対の符号を有する。支配的なプラズマ波は、サーマル波よりゆっくりと減衰するため、信号減衰長は大きくなる。接合深さXjが24nmであるか、またはそれより深いとき、信号減衰長は、基板上のものより短くなる。2つの信号成分が同一の符号を有する場合、サーマル成分が急速に減衰するということは、信号減衰長がより短いことを示唆する。
理論的な挙動が図17(a)に要約されており、Ld signalが低濃度ドーピング基板に対して計算された信号減衰長であるとき、図17(a)は、Ld signal/Ld signal(Xj=0)の接合深さXj依存性をプロットしたものである。CVD3基材上で測定された実験値が同様にプロット(○印で)され、予想値に接近している。
興味深いことに、接合深さに伴う信号減衰長および信号波長の変化は複雑であることを図17は示す。3つの領域に区別することができる。2つの波長は、低濃度ドーピング基板上の波長より長いこともあり(図17の領域1)、短いこともあり(図14の領域2)または負の値にさえなり得る(図14の領域3)。その挙動は、漸近線(平坦なオフセット曲線)を許容し、上式[51]および上式[52]に含まれる導関数の根に相当する。これらの漸近線の方程式は、きわめて複雑であるので、ここでは図示しない。
接合深さXjが40nmである場合において、信号減衰長および信号波長に対する活性ドーピング濃度の依存性、すなわちCVD8基材上で測定されたオフセット曲線(図16(c)および図16(d))について説明する。最初に、信号の位相および波長の挙動を見ると、特定の活性ドーピング濃度(約5×1019cm−3)に達すると、ともに飽和することが明らかである。これは、信号が層プラズマ成分と基板プラズマ成分との間の競合と考えられるか否かについて、容易に理解することができる。2つの成分は、異なる符号を有する(λprobe/(8n0)<40nm<3λprobe/(8n0))点、および層プラズマ成分は活性ドーピング濃度(1/Nactに比例)の増大に伴い減少する点に留意されたい。すなわちドーピング濃度が低いとき、層プラズマ成分が支配的である。位相の符号が変化したということは、層プラズマ成分が減少したことを示す。基板プラズマ成分が層プラズマ成分を完全に凌駕するとき、位相および波長が飽和する。減衰長の挙動(図16(c))は、2つのプラズマ成分の間の競合を示すが、より複雑な方法での競合を示す。ドーピング濃度が低いとき(この接合深さに対して1.1×1019cm−2)、層プラズマ成分が支配的となる。よって信号減衰長は、低濃度ドーピング基板上のものより短くなる(上式[49])。ドーピング濃度が増大すると、基板プラズマ成分が支配的となり始める。きわめて興味深いことに、活性ドーピング濃度Nactが約2.5×1019cm−3であるとき、負の減衰長(信号の水平方向の増大)が観測される。これは、層プラズマ成分の水平方向の減衰が急速であること、および基板プラズマ成分が反対の符号を有することから説明できる。ビーム間隔が増大し、層プラズマ成分の寄与が基板プラズマ成分の寄与に比して徐々に無視できるようになるほど、これらの低濃度ドーピングサンプルに関する位相が基板プラズマ成分の位相に収束することに留意されたい。より高いドーピング濃度については、減衰長は単調に減少する。図16(d)に示す波長とは異なり、減衰長は、活性ドーピング濃度が最大の場合でも、これに対して影響を受ける(飽和は観測されない)。これらすべての観測結果は、図18に示す理論的に予想される挙動と一致する。図18は、Ld signal/Ld signal(Xj=0)およびλsignal/λsignal(Xj=0)の測定値と、上式[50]、上式[51]、および上式[52]により表された理論値とを比較するものである。(BGN効果に起因する)濃度Nactの依存性を説明するための完全に定量的なモデルが存在しないことから、図18において、2つのx軸を用いる必要がある。下方のx軸は実験値(○印)を示し、上方のx軸は理論的曲線のために用いられる。
これらの具体例で示すような水平方向の減衰長および波長に対する活性ドーピング濃度および接合深さの依存性は、本発明の実施形態がこの相関関係を用いて、どのようにして半導体サンプルにおける活性ドーピング濃度および接合深さを決定できるかを説明するものである。
特定の実施形態について上記説明した。しかし本明細書において、これらの実施形態を如何に詳細に説明したとしても、本発明は数多くの手法で実施することができる。
発明の詳細な説明において、さまざまな実施形態に適用される本発明の新規な特徴について開示し、説明し、指摘したが、当業者ならば本発明の精神から逸脱することなく、開示されたデバイスまたは方法の形態および詳細内容について、さまざまな手法で省略し、代替し、変更することができると理解されたい。