JP2022021390A - 分析システム、情報処理装置、分析方法及びプログラム - Google Patents

分析システム、情報処理装置、分析方法及びプログラム Download PDF

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Abstract

【課題】試料の結晶内部の3次元的な性質を効率的に可視化することが可能な分析システムを提供する。【解決手段】分析装置制御部110は、分析装置10を制御して、位置kに、フェムト秒レーザパルス2を照射させる。分析装置制御部110は、光学遅延ステージ40を制御して、トリガパルス6が光伝導スイッチ32に到達する時間を制御する。これにより、位置kで発生したテラヘルツ波80の時間波形が得られる。情報処理装置100の取得部120は、観測されたテラヘルツ波80を示す観測データを取得する。分析部130は、得られた観測データに対して上述した因子分析を行う。【選択図】図4

Description

本発明は、分析システム、情報処理装置、分析方法及びプログラムに関する。
試料の結晶内部の3次元的な性質を可視化する技術(ドメインイメージング)が提案されている。例えば、非特許文献1~4は、第二高調波発生(second-harmonic generation:SHG)による3次元ドメイン可視化手法を開示している。また、非特許文献5は、フェムト秒レーザを結晶に照射することにより結晶から放射されるテラヘルツ(THz)波を観測することによってドメインを可視化する方法を開示している。また、非特許文献6は、歯にテラヘルツ波を当てて、エコーの位置からその断面構造を解析する研究について開示している。
Kaneshiro, Junichi, et al.、"Three-dimensional observations of polar domain structures using a confocal second-harmonic generation interference microscope"、Journal of Applied Physics 104.5 (2008): 054112 Sheng, Y., Best, A., Butt, H. J., Krolikowski, W., Arie, A., & Koynov, K.、"Three-dimensional ferroelectric domain visualization by Cerenkov-type second harmonic generation"、Optics express, 18(16), 16539-16545 (2010) Potnis, P. R., Tsou, N. T., & Huber, J. E.、"A review of domain modelling and domain imaging techniques in ferroelectric crystals"、Materials, 4(2), 417-447 (2011) Ayoub, M., Futterlieb, H., Imbrock, J., & Denz, C.、"3D imaging of ferroelectric kinetics during electrically driven switching"、Advanced Materials, 29(5), 1603325 (2017) M. Sotome, N. Kida, S. Horiuchi and H. Okamoto、"Terahertz radiation imaging of ferroelectric domain topography in room-temperature hydrogen-bonded supramolecular ferroelectrics"、ACS Photonics 2, 1373: 1-11 (2015) David A. Crawley, Christopher Longbottom, Vincent P. Wallace, Bryan E. Cole, Donald D. Arnone, and Michael Pepper、"Three-dimensional terahertz pulse imaging of dentaltissue"、Journal of Biomedical Optics 8(2), 303-307 (April 2003)
上述した非特許文献にかかる技術では、ドメインイメージングを行う際に、対象物質について、屈折率スペクトル等の光学スペクトル情報(分光データ)を予め準備しておく必要がある可能性がある。一方、未知の対象物質の場合、光学スペクトル情報はない。また、物質の表面粗さや形状や加工の制限のために予め光学スペクトルの取得することは困難であるおそれがある。したがって、非特許文献にかかる技術では、試料の結晶内部の3次元的な性質(ドメイン)を効率的に可視化することができないおそれがある。
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、試料の結晶内部の3次元的な性質を効率的に可視化することが可能な分析システム、情報処理装置、分析方法及びプログラムを提供することを目的とする。
本発明にかかる分析システムは、試料の第1の面に沿ってレーザ光を走査して前記レーザ光を前記第1の面の側から前記試料に入射させ、前記試料から出射したテラヘルツ波を検出する分析装置と、前記テラヘルツ波の観測された振幅の時間的な推移を示す観測データを取得する取得部と、取得された前記観測データに対して統計的データ解析を行うことによって、前記試料の、前記レーザ光の入射方向に沿った方向である深さ方向の複数の深さ位置それぞれにおける、前記レーザ光を走査した位置に対応する照射位置に関するドメインの分布を推定する分析部と、を有する。
好ましくは、前記取得部は、前記試料の前記複数の深さ位置それぞれで発生し前記試料内を伝搬した後に前記試料の外に出射された前記テラヘルツ波に関する前記観測データを取得し、前記分析部は、取得された前記観測データに対して統計的データ解析を行うことによって、前記取得部で取得された前記観測データに対応する前記テラヘルツ波の波形を推定する。
好ましくは、前記分析部は、前記複数の深さ位置それぞれで発生したテラヘルツ波の波形に対応する位相スペクトルを用いて、推定された前記ドメインの分布に対応する前記深さ位置を推定する。
好ましくは、前記分析部は、取得された前記観測データに対して因子分析を行うことによって、前記ドメインの分布を推定する。
好ましくは、前記分析部は、前記複数の深さ位置それぞれで発生したテラヘルツ波の波形に対応する位相スペクトルを用いて、テラヘルツ帯の屈折率スペクトルを推定する。
好ましくは、前記分析部は、前記複数の深さ位置それぞれで発生したテラヘルツ波の波形に対応する複素振幅スペクトルを用いて、テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルを推定する。
好ましくは、前記分析装置は、前記レーザ光の偏光方向及び前記テラヘルツ波の偏光方向の組み合わせである複数の偏光配置のそれぞれについて、前記試料にレーザ光を入射させて、前記試料から出射した前記テラヘルツ波を検出し、前記分析部は、前記照射位置ごとに、複数の前記偏光配置それぞれの前記観測データを時間軸方向に並べることで合成された波形ベクトルを生成し、合成された波形ベクトルに対して統計的データ解析を行うことによって、前記ドメインの分布を推定する。
また、本発明にかかる情報処理装置は、試料の第1の面に沿ってレーザ光を走査して前記レーザ光を前記第1の面の側から前記試料に入射させ、前記試料から出射したテラヘルツ波を検出する分析装置を制御する分析装置制御部と、前記テラヘルツ波の観測された振幅の時間的な推移を示す観測データを取得する取得部と、取得された前記観測データに対して統計的データ解析を行うことによって、前記試料の、前記レーザ光の入射方向に沿った方向である深さ方向の複数の深さ位置それぞれにおける、前記レーザ光を走査した位置に対応する照射位置に関するドメインの分布を推定する分析部と、を有する。
また、本発明にかかる分析方法は、試料の第1の面に沿ってレーザ光を走査して前記レーザ光を前記第1の面の側から前記試料に入射させ、前記試料から出射したテラヘルツ波を検出し、前記テラヘルツ波の観測された振幅の時間的な推移を示す観測データを取得し、取得された前記観測データに対して統計的データ解析を行うことによって、前記試料の、前記レーザ光の入射方向に沿った方向である深さ方向の複数の深さ位置それぞれにおける、前記レーザ光を走査した位置に対応する照射位置に関するドメインの分布を推定する。
好ましくは、前記試料の前記複数の深さ位置それぞれで発生し前記試料内を伝搬した後に前記試料の外に出射された前記テラヘルツ波に関する前記観測データを取得し、取得された前記観測データに対して統計的データ解析を行うことによって、取得された前記観測データに対応する前記テラヘルツ波の波形を推定する。
好ましくは、前記複数の深さ位置それぞれで発生したテラヘルツ波の波形に対応する位相スペクトルを用いて、推定された前記ドメインの分布に対応する前記深さ位置を推定する。
好ましくは、取得された前記観測データに対して因子分析を行うことによって、前記ドメインの分布を推定する。
好ましくは、前記複数の深さ位置それぞれで発生したテラヘルツ波の波形に対応する位相スペクトルを用いて、テラヘルツ帯の屈折率スペクトルを推定する。
好ましくは、前記複数の深さ位置それぞれで発生したテラヘルツ波の波形に対応する複素振幅スペクトルを用いて、テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルを推定する。
好ましくは、前記レーザ光の偏光方向及び前記テラヘルツ波の偏光方向の組み合わせである複数の偏光配置のそれぞれについて、前記試料にレーザ光を入射させて、前記試料から出射した前記テラヘルツ波を検出し、前記照射位置ごとに、複数の前記偏光配置それぞれの前記観測データを時間軸方向に並べることで合成された波形ベクトルを生成し、合成された波形ベクトルに対して統計的データ解析を行うことによって、前記ドメインの分布を推定する。
また、本発明にかかるプログラムは、試料の第1の面に沿ってレーザ光を走査して前記レーザ光を前記第1の面の側から前記試料に入射させ、前記試料から出射したテラヘルツ波を検出する分析装置を制御するステップと、前記テラヘルツ波の観測された振幅の時間的な推移を示す観測データを取得するステップと、取得された前記観測データに対して統計的データ解析を行うことによって、前記試料の、前記レーザ光の入射方向に沿った方向である深さ方向の複数の深さ位置それぞれにおける、前記レーザ光を走査した位置に対応する照射位置に関するドメインの分布を推定するステップと、をコンピュータに実行させる。
本発明によれば、試料の結晶内部の3次元的な性質を効率的に可視化することが可能な分析システム、情報処理装置、分析方法及びプログラムを提供できる。
実施の形態1にかかる分析システムの構成を示す図である。 実施の形態1にかかる試料保持装置を示す図である。 実施の形態1にかかる試料保持装置の動作を説明するための図である。 実施の形態1にかかる情報処理装置の構成を示す図である。 実施の形態1にかかる分析システムによって実行される分析方法を示すフローチャートである。 実施の形態1にかかる、試料で発生するテラヘルツ波形を説明するための図である。 実施の形態1にかかる、試料で発生するテラヘルツ波形を説明するための図である。 実施の形態1にかかる、試料で発生するテラヘルツ波形を説明するための図である。 実施の形態1において、観測されるテラヘルツ波の波形を離散的に示す図である。 試料のある照射位置にレーザパルスを照射したときに発生したテラヘルツ波形を例示する図である。 図10に示したテラヘルツ波形のスペクトル(周波数スペクトル)を例示する図である。 実施の形態1にかかる因子分析の結果を例示する図である。 実施の形態1にかかる因子分析の結果を例示する図である。 実施の形態1にかかる因子分析の結果を例示する図である。 図12に示したテラヘルツ波形に対応する位相スペクトルを例示する図である。 図12~図15に示した例における、最も位相差の大きい2組の因子成分の波形を示す図である。 図12~図15に示した例における、最も位相差の大きい2組の因子成分の位相スペクトルを示す図である。 図12~図15に示した例における、因子分析の結果を用いて推定されたテラヘルツ帯の屈折率スペクトルを例示する図である。 図12~図15に示した例における、因子分析の結果を用いて推定されたテラヘルツ帯の吸収係数スペクトルを例示する図である。 実施の形態1にかかる、信頼できる因子数の決定方法を説明するための図である。 テラヘルツ振幅の絶対値の3次元行列のヒストグラムを示す図である。 本実施の形態にかかるドメインイメージング方法と他の光学的ドメインイメージング方法との比較を示す図である。 実施の形態2にかかる、テラヘルツ波発生の偏光依存性測定の概念を説明するための図である。 実施の形態2にかかる、各偏光配置で観測されたテラヘルツ波形を例示する図である。 実施の形態2にかかる因子分析の方法を説明するための図である。 実施の形態2にかかる分析システムによって実行される分析方法を示すフローチャートである。 実施の形態3にかかる光学配置の例を示す図である。 実施の形態4にかかる方法を説明するための図である。
(実施の形態の概要)
従来の3次元的強誘電ドメイン可視化技術の問題点について述べる。なお、ここでは簡単のため強誘電体に限定して記述するが、本実施の形態で説明する手法自体は強磁性体及び焦電体などにも応用可能である。
3次元的強誘電ドメインの可視化においては、非特許文献1~4に示すような第二高調波発生が研究されている(その詳細は後述する)。しかしながら、対象物質に求められる位相整合条件が厳しく、また、表面の凸凹が100nm(近赤外レーザの第二高調波の波長の1/10程度)以下であることが必要であるため、対象物の光学研磨が必要であった。さらに、対象物質について、位相整合条件が満たされていることを担保するため屈折率スペクトル等の光学スペクトル情報(分光データ)を予め準備しておく必要がある。したがって、第二高調波発生では、試料の結晶内部の3次元的強誘電ドメインを効率的に可視化することができないおそれがある。
また、テラヘルツ波発生によって強誘電ドメイン構造を可視化する研究を、本発明者は報告している(例えば非特許文献5)。この方法は、レーザ光が結晶内部に侵入することができるならば、発生する電磁波(テラヘルツ波)の波長の約1/10の10μm程度まで表面粗さにロバストである。
本発明者は、非特許文献5において、複数の偏光方向のテラヘルツ波が発生し、かつそれぞれの偏光のテラヘルツ波に対して吸収係数が大きく異なる結晶において、検出するテラヘルツ波の偏光方向を変えることによって擬三次元的にドメイン構造を可視化できることを報告している。しかしながら、非特許文献5にかかる技術では、テラヘルツ波のピーク振幅のみを測定しており、テラヘルツ波に対する「再吸収」の大小によって、これが小さければ深さ方向で平均した像、大きければテラヘルツ波出射側の面付近の像を見ていることを利用している。したがって、ドメイン構造の深さ方向(電磁波の進行方向)の分割した可視化を実現することは困難である。
上述したような、従来のテラヘルツ波発生による強誘電ドメインイメージングでは、レーザスポット位置をスキャンしながら、ピーク振幅のみを観測していた。これに対し、本発明者は、レーザ光の各照射位置で照射したときに観測されたテラヘルツ波を統計的に解析することにより、深さ方向で断面構造を可視化できることを着案した。着眼した点は、それぞれの深さで発生したテラヘルツ波の「和」として観測されるテラヘルツ波が結晶外に出射しているということである。そして、さらに、本発明者は、ある深さで発生し放射されるテラヘルツ波の波形はその深さで一定であることを見出した。さらに、本発明者は、屈折率などの光学スペクトルの情報がない状態でもこの手法は有効であることを見出した。
(実施の形態1)
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
図1は、実施の形態1にかかる分析システム1の構成を示す図である。分析システム1は、分析装置10及び情報処理装置100を有する。分析装置10は、試料90の入射面90a(第1の面)に沿ってレーザパルスを走査してレーザパルス(レーザ光)を入射面の側から試料に入射させる。そして、分析装置10は、試料90から出射したテラヘルツ波を検出する。詳しくは後述する。
分析装置10は、例えば、レーザ走査テラヘルツ放射顕微鏡(Laser scanning THz emission microscopy(LTEM))である。分析装置10は、レーザ光源12と、ビームスプリッタ14と、オプティカルチョッパ16と、反射型可変ND(Neutral Density)フィルタ18と、1/2波長板20と、近赤外対物レンズ22と、試料保持装置50とを有する。レーザ光源12は、フェムト秒レーザパルス2(レーザパルス)を射出する。
また、分析装置10は、軸外し放物面鏡24,30と、黒色低密度ポリエチレンフィルム26と、ワイヤーグリッド偏光子28A,28B(wire-grid polarizer:WG)とを有する。黒色低密度ポリエチレンフィルム26(Black LDPE(Low Density Polyethylene))の厚さは、例えば5μmである。また、分析装置10は、光伝導スイッチ32と、光学遅延ステージ40と、レンズ44と、電流電圧変換器46と、ロックイン検出器48とを有する。
試料保持装置50は、結晶である試料90を保持する。試料保持装置50に保持された試料90にフェムト秒レーザパルス2が照射されると、試料90からテラヘルツ波が出射する。ここで、本実施の形態では、右手系の座標系を考える。具体的には、試料90にフェムト秒レーザパルス2が入射する方向(光軸方向)を、Z軸方向とする。そして、Z軸正方向を見て左方向をX軸方向とし、上方向をY軸方向とする。そして、試料90の光軸方向の位置(試料90の深さ方向の位置)をzで示す。また、試料90のZ軸に垂直な面内(以下、単に面内又はxy面内と称する)のX軸方向の座標をxとし、試料90の面内のY軸方向の座標をyとする。また、試料90の厚さ(光軸方向(深さ方向)の寸法)をdとする。
分析装置10において、レーザ光源12から射出されたフェムト秒レーザパルス2は、ビームスプリッタ14で、ポンプパルス4とトリガパルス6(プローブパルス)とに分割される。ここで、レーザ光源12は、例えば、モードロックTi:Sappireレーザ(Mode-locked Ti:sapphire laser)である。レーザ光源12から射出されたフェムト秒レーザパルス2のパルス幅は、例えば、130fsである。なお、以降、フェムト秒レーザパルス2を単にレーザパルスと称することがある。
ポンプパルス4は、オプティカルチョッパ16によって、例えば4.5kHzに強度変調される。その強度変調された周期信号は、電気回路によって参照信号としてロックイン検出器48に入力される。また、ポンプパルス4は、反射型可変NDフィルタ18と、1/2波長板20と、近赤外対物レンズ22とを通過して、試料保持装置50に保持された試料90に照射される。これにより、入射面90aの側から試料90にフェムト秒レーザパルス2(ポンプパルス4)が入射する。これにより、試料90の、入射面90aとは反対側の出射面90b(第2の面)から、テラヘルツ波80(テラヘルツ電磁波)が出射する。なお、試料保持装置50の構成については後述する。
試料90から出射したテラヘルツ波80は、軸外し放物面鏡24で反射し、黒色低密度ポリエチレンフィルム26とワイヤーグリッド偏光子28A(WG1),28B(WG2)とを通過し、軸外し放物面鏡30で反射して、光伝導スイッチ32によって受光される。なお、光伝導スイッチ32(光伝導アンテナ)は、例えば、低温成長GaAs光伝導スイッチである。光伝導スイッチ32は、テラヘルツ波80を検出するために用いられる。
トリガパルス6は、レンズ44を通過して光伝導スイッチ32に入射する。ここで、トリガパルス6の光路上には、光学遅延ステージ40が設けられている。光学遅延ステージ40は、情報処理装置100によって制御される。光学遅延ステージ40によってポンプパルス4とトリガパルス6との間に光学遅延を与えることにより、その光学遅延に応じた時刻のテラヘルツ波80の電場振幅を検出することができる。可動鏡42を移動させることで光路長が変化するので、トリガパルス6が光伝導スイッチ32に到達する時間を変化させることができる。これにより、トリガパルス6の到達タイミングごとにサンプリングを行うことで、光伝導スイッチ32において、テラヘルツ波80の時間波形が得られる。光伝導スイッチ32は電流出力であり、光伝導スイッチ32によって得られたテラヘルツ波80の時間波形は、電流電圧変換器46で電圧に変換されて増幅される。ロックイン検出器48(ロックインアンプ)は、オプティカルチョッパ16からの参照信号に基づいて、テラヘルツ波80の時間波形を抽出(検出)する。
情報処理装置100は、例えばコンピュータである。情報処理装置100は、少なくとも、試料保持装置50及び光学遅延ステージ40の動作を制御する。また、情報処理装置100は、1/2波長板20及びワイヤーグリッド偏光子28を制御してもよい。情報処理装置100は、ロックインアンプから、テラヘルツ波に関する情報を受信する。そして、情報処理装置100は、テラヘルツ波に関する情報を用いて、試料90の結晶内部の3次元的な性質を可視化するための処理を行う。情報処理装置100の構成については後述する。なお、「結晶内部の3次元的な性質」とは、結晶の対称性を特徴づける要素であって、例えば分極(電気分極又は磁気分極)の向き及び大きさである。また、各ドメインそれぞれが有する性質は、そのドメイン内部で実質的に同じであり、各ドメインは、他のドメインとは異なる性質を有し得る。
図2は、実施の形態1にかかる試料保持装置50を示す図である。また、図3は、実施の形態1にかかる試料保持装置50の動作を説明するための図である。試料保持装置50は、試料保持部52と、可動ステージ54,56とを有する。試料保持部52は、試料90を保持する。具体的には、試料保持部52は、試料90の入射面90aをZ軸の負方向に、出射面90bをZ軸の正方向に向けるようにして、試料90を保持する。これにより、試料90の入射面90aにフェムト秒レーザパルス2(ポンプパルス4)が入射され、出射面90bからテラヘルツ波80が出射する。
可動ステージ54は、矢印Ayで示すように、試料保持部52をY軸に沿った方向に移動させるように構成されている。可動ステージ56は、矢印Axで示すように、試料保持部52をX軸に沿った方向に移動させるように構成されている。可動ステージ54,56が動作することによって、図3の矢印で示すように、フェムト秒レーザパルス2が、試料90の入射面90aを、XY平面に沿ってラスタースキャンする。そして、kをxy面内でのレーザ照射位置のインデックスとすると、分析装置10は、xy面内の各位置kそれぞれに対してフェムト秒レーザパルス2を照射して、発生したテラヘルツ波80を観測する。なお、照射位置k(レーザスポット位置k)と、xy面における座標(x,y)とは、予め対応付けられている。そして、情報処理装置100は、位置kと座標(x,y)との対応を示すデータを、予め記憶している。
ここで、位置kの総数をKとする。したがって、kは、1以上K以下の整数である。フェムト秒レーザパルス2が試料90の入射面90aをラスタースキャンすることによって、K個のテラヘルツ波形を測定できる。したがって、Kは測定される波形数を示す。波形数Kは、得たい面内分解能のピクセル数に対応する。例えば、直径10μmのレーザスポット径で、1mm×1mmのエリアをイメージングする場合、1mm/10μm=100であるので、K=100×100=10000個のテラヘルツ波形を観測できる。
図4は、実施の形態1にかかる情報処理装置100の構成を示す図である。また、図5は、実施の形態1にかかる分析システム1によって実行される分析方法を示すフローチャートである。なお、図5については後述する。情報処理装置100は、主要なハードウェア構成として、制御部102と、記憶部104と、通信部106と、インタフェース部108(IF;Interface)とを有する。制御部102、記憶部104、通信部106及びインタフェース部108は、データバスなどを介して相互に接続されている。
制御部102は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサである。制御部102は、制御処理及び演算処理等を行う演算装置としての機能を有する。記憶部104は、例えばメモリ又はハードディスク等の記憶デバイスである。記憶部104は、例えばROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等である。記憶部104は、制御部102によって実行される制御プログラム及び演算プログラム等を記憶するための機能を有する。また、記憶部104は、処理データ等を一時的に記憶するための機能を有する。記憶部104は、データベースを含み得る。
通信部106は、他の装置と有線又は無線のネットワーク等を介して通信を行うために必要な処理を行う。通信部106は、通信ポート、ルータ、ファイアウォール等を含み得る。インタフェース部108は、例えばユーザインタフェース(UI;User Interface)である。インタフェース部108は、キーボード、タッチパネル又はマウス等の入力装置と、ディスプレイ又はスピーカ等の出力装置とを有する。インタフェース部108は、ユーザ(オペレータ等)によるデータの入力の操作を受け付け、ユーザに対して情報を出力する。
また、情報処理装置100は、その機能を実現する構成要素として、分析装置制御部110、取得部120、分析部130及び分析結果出力部140を有する。なお、各構成要素は、例えば、制御部102の制御によって、プログラムを実行させることによって実現できる。より具体的には、各構成要素は、記憶部104に格納されたプログラムを、制御部102が実行することによって実現され得る。また、必要なプログラムを任意の不揮発性記録媒体に記録しておき、必要に応じてインストールすることで、各構成要素を実現するようにしてもよい。また、各構成要素は、プログラムによるソフトウェアで実現することに限ることなく、ハードウェア、ファームウェア、及びソフトウェアのうちのいずれかの組み合わせ等により実現してもよい。また、各構成要素は、例えばFPGA(field-programmable gate array)又はマイコン等の、ユーザがプログラミング可能な集積回路を用いて実現してもよい。この場合、この集積回路を用いて、上記の各構成要素から構成されるプログラムを実現してもよい。
分析装置制御部110は、分析装置10を制御して、試料90の位置kにレーザパルスを照射させる。これにより、分析装置10は、試料90から発生するテラヘルツ波80を観測する。具体的には、分析装置制御部110は、レーザ光源12及び試料保持装置50を制御して、位置kに、フェムト秒レーザパルス2を照射させる。また、分析装置制御部110は、光学遅延ステージ40を制御して、トリガパルス6が光伝導スイッチ32に到達する時間を制御する。これにより、位置kで発生したテラヘルツ波80の時間波形が得られる。そして、分析装置制御部110は、試料保持装置50を制御して、次の位置k+1にフェムト秒レーザパルス2が照射されるように、試料90を移動させる。このような動作を繰り返すことによって、試料90にフェムト秒レーザパルス2が走査される。これにより、全ての位置k(k=1~K)について、試料90から出射したテラヘルツ波80が検出される。
取得部120は、上述した方法によって観測されたテラヘルツ波80を示す観測データを取得する。分析部130は、取得された観測データを用いて後述するような分析を行う。分析結果出力部140は、分析結果を出力する。取得部120、分析部130及び分析結果出力部140の処理については、図5を用いて後述する。
以下、観測されたテラヘルツ波形を用いて試料90の3次元的な性質(分極ドメイン)を推定する方法について説明する。
[テラヘルツ波について]
図6~図8は、実施の形態1にかかる、試料90で発生するテラヘルツ波形を説明するための図である。図6~図8では、試料90の深さ方向(Z軸方向;光軸方向)に着目している。図6に示すように、ポンプパルス4を入射面90aの側から試料90に照射したときに、ある深さ方向の点(z,z+dz)で、テラヘルツ波82が発生したとする。なお、dzは、深さ方向の微小区間である。
このとき、テラヘルツ波82の波形は、テラヘルツ波82の試料90への吸収、及び、入射波(ポンプパルス4)と出射波(テラヘルツ波82)との間の位相整合条件によって、変形及び時間遅延を生じる。また、検出器(光伝導スイッチ32,ロックイン検出器48)で観測されるテラヘルツ波82の複素スペクトルE(ω,z)は、以下の式1で表される。なお、この複素スペクトルE(ω,z)は、深さ依存性のない要素に影響される装置関数H(ω)を乗算することによって得られる。深さ依存性のない要素とは、例えば、テラヘルツ波82の出射面90bでの透過率、テラヘルツ光路での回折、検出器の応答関数、及びレーザパルス幅がある。
Figure 2022021390000002
・・・(1)
ここで、ωは、テラヘルツ波82の角周波数であり、テラヘルツ波82の周波数をfとすると、ω=2πfである。E(ω,z)は、深さzで発生して結晶(試料90)を伝搬し結晶外に放射される、角周波数ωのテラヘルツ波82の周波数空間での複素振幅である。χ(2)(z,ω)は、深さzで発生したテラヘルツ波82の発生機構における二次の非線形光学係数である。nは、レーザパルスに対する群屈折率を示す。αlaserは、レーザパルスに対する吸収係数である。n(ω)は、テラヘルツ帯の屈折率スペクトルを示す。α(ω)は、テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルを示す。
また、H(ω)は、テラヘルツ波82の振幅測定の際の測定系の応答関数である。ここで、装置関数H(ω)は、複素スペクトルとなる。なお、上述したように、H(ω)には、例えば、テラヘルツ波82の回折及び透過率、光伝導スイッチ32の光キャリア寿命、レーザパルス幅、及び、レーザ光強度などが影響する。H(ω)を逆フーリエ変換することにより、時間領域の装置関数H(t)が得られる。ここで、装置関数H(ω)を実験的に決定することは困難である。
そして、式1を逆フーリエ変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform)することで得られる以下の式2が、試料90の深さ方向の各点(z,z+dz)で発生したテラヘルツ波82を実際に分析装置10(テラヘルツ波形検出系)によって観測して得られる観測結果に対応する。
Figure 2022021390000003
・・・(2)
ここで、E(t,z)は、深さzで発生して結晶を伝搬し結晶外に放射されたテラヘルツ波82の時間領域での電場振幅波形を示す。なお、実際に光伝導スイッチ32で観測される波形は、式2で表される各深さzで発生したテラヘルツ波82の波形についてz=0~dで和をとり、さらに時間領域の装置関数H(t)を畳み込み積分したものに対応する。
また、式2で表される波形の振幅は、二次の非線形光学係数χ(2)(z)や分極値P(z)に比例する。なお、P(x,y,z)は、結晶内の位置(x,y,z)における強誘電分極を示す。なお、フーリエ変換の基本原理として、波形の時間遅れは、周波数空間では、位相の線形関数の積として表される。つまり、時間波形でのΔt(>0)の時間差(時間遅れ)は、exp(-iΔtω)の複素スペクトルへの乗算に対応する。なお、Δtは、テラヘルツ波形測定での時間差を示す。
ここで、上述したように、実際に観測されるテラヘルツ波80の波形は、試料90のそれぞれの深さで発生したテラヘルツ波82の和(線形和)として表される。つまり、試料90のそれぞれの深さで発生したテラヘルツ波82が重ね合わされたテラヘルツ波80の波形が結晶外に出射している。以下、図7及び図8を用いて説明する。
図7は、均質な非線形光学結晶である試料90において、フェムト秒レーザパルス2(ポンプパルス4)によって発生したテラヘルツ波82の伝播を概念的に示す。時刻t1において、フェムト秒レーザパルス2が深さz1に到達すると、深さz1において、テラヘルツ波82-1が発生する。そして、テラヘルツ波82-1は、Z軸の正方向に伝搬する。時刻t2において、フェムト秒レーザパルス2が深さz2に到達すると、深さz2において、テラヘルツ波82-2が発生する。そして、テラヘルツ波82-2は、Z軸の正方向に伝搬する。時刻t3において、フェムト秒レーザパルス2が深さz3に到達すると、深さz3において、テラヘルツ波82-3が発生する。そして、テラヘルツ波82-3は、Z軸の正方向に伝搬する。時刻t4において、フェムト秒レーザパルス2が深さz4に到達すると、深さz4において、テラヘルツ波82-4が発生する。そして、テラヘルツ波82-4は、Z軸の正方向に伝搬する。時刻t5において、フェムト秒レーザパルス2が深さz5に到達すると、深さz5において、テラヘルツ波82-5が発生する。そして、テラヘルツ波82-5は、Z軸の正方向に伝搬する。
ここで、深さz1~z5で同位相でそれぞれ発生したテラヘルツ波82-1~82-5は、テラヘルツ帯の屈折率に対応する速さで伝搬する。なお、試料90の内部では、テラヘルツ波の速度は、フェムト秒レーザパルス2の速度よりも遅い。したがって、図7に示すように、先に発生したテラヘルツ波82が、後で発生したテラヘルツ波82の後ろを進むこととなる。つまり、試料90の入射面90aに近い深さで発生したテラヘルツ波82は、試料90の出射面90bに近い深さで発生したテラヘルツ波82よりも、遅延することとなる。そして、深さz1~z5で発生したテラヘルツ波82-1~82-5の総和が、テラヘルツ波80として観測される。
ここで、試料90の内部で、テラヘルツ波の位相伝播速度がフェムト秒レーザパルス2の強度包括線の伝播速度よりも遅い場合について述べた。しかしながら、テラヘルツ波の位相伝播速度がフェムト秒レーザパルス2の強度包括線の伝播速度よりも速い場合についても分析への影響はない。この場合については後述する。
図8は、光軸方向に分極ドメイン構造を有する強誘電体である試料90において、フェムト秒レーザパルス2(ポンプパルス4)によって発生したテラヘルツ波82の伝播を概念的に示す。時刻t1において、フェムト秒レーザパルス2が深さz1に到達すると、深さz1において、テラヘルツ波82-1が発生する。そして、テラヘルツ波82-1は、Z軸の正方向に伝搬する。時刻t2において、フェムト秒レーザパルス2が深さz2に到達すると、深さz2において、テラヘルツ波82-2が発生する。そして、テラヘルツ波82-2は、Z軸の正方向に伝搬する。時刻t3において、フェムト秒レーザパルス2が深さz3に到達すると、深さz3において、テラヘルツ波82-3が発生する。そして、テラヘルツ波82-3は、Z軸の正方向に伝搬する。時刻t4において、フェムト秒レーザパルス2が深さz4に到達すると、深さz4において、テラヘルツ波82-4が発生する。そして、テラヘルツ波82-4は、Z軸の正方向に伝搬する。時刻t5において、フェムト秒レーザパルス2が深さz5に到達すると、深さz5において、テラヘルツ波82-5が発生する。そして、テラヘルツ波82-5は、Z軸の正方向に伝搬する。
図7の例と同様に、深さz1~z5で同位相でそれぞれ発生したテラヘルツ波82-1~82-5は、テラヘルツ帯の屈折率に対応する速さで伝搬する。ここで、各深さzで発生するテラヘルツ波82の振幅は、その深さzにおける分極Pに依存(比例)する。そして、図8の例では、深さz1~z5における分極P~Pは、それぞれ、+P,-P,+P,-P,+Pである。したがって、深さz2及びz4で発生したテラヘルツ波82-2,82-4では、符号が反転している。したがって、図8の例における、深さz1~z5で発生したテラヘルツ波82-1~82-5の総和として観測されるテラヘルツ波80の波形は、図7の場合と異なる。つまり、観測されるテラヘルツ波80の波形は、試料90の各深さ位置の分極構造に依存することとなる。
なお、試料90の入射面90aで発生したテラヘルツ波82-1のピーク位置と、試料90の出射面90bで発生したテラヘルツ波82-5のピーク位置との、波形測定における時間差をΔtとすると、Δtは、概ね、cΔn/dに一致する。ここで、cは光速を示す。cは、真空中の光速であってもよい。また、Δnは、テラヘルツ波の屈折率とレーザパルスの群屈折率との差を示す。なお、テラヘルツ波の屈折率を正に、レーザパルスの群屈折率を負にとる。
図9は、実施の形態1において、観測されるテラヘルツ波80の波形を離散的に示す図である。実際に観測されるテラヘルツ波80は、後述する式3で示すように、離散的なM点の成分からなるベクトルとして表される。つまり、テラヘルツ波80は、M個の点でサンプリングされたデータとして観測される。ここで、各測定時刻の間隔をΔtexp、テラヘルツ波80の始点の時刻及び最終点の時刻をそれぞれtmin,tmaxとすると、tmax-tmin=MΔtexpである。また、離散化されたテラヘルツ波形での時刻インデックスをm(mは1以上M以下の整数)とする。このとき、tminはtであり、tmaxはtである。なお、Mは、テラヘルツ波形測定での総点数である。また、Δtexpは、Δtの実験での設定値である。Δtexpは、例えば、0.05~0.1psに設定される。なお、フーリエ変換の定理から、Δtexpを、測定系の最大周波数(例えば3.0THz)の2倍の逆数(1/6.0ps=0.166ps)以下に設定すれば、テラヘルツ波80の信号を良好に再現できる。
ここで、xy面内位置kにレーザパルスを照射することで発生したテラヘルツ波80をベクトル(波形ベクトル)として表現すると、以下の式3で表される。ここで、Ekmは、面内位置kで発生したテラヘルツ波80の、時刻tでの振幅値を示す。式3で示すように、ベクトルeは、サンプリング数M個の成分で表される。
Figure 2022021390000004
・・・(3)
また、xy面内の全ての位置(k=1~K)について、テラヘルツ波80の振幅を行列ETHzとして表現すると、以下の式4で表される。なお、式4の行列(「振幅行列」と称する)は、K×Mの2次元行列である。また、式4の行列は、全ての照射点(k=1~K)について観測されるテラヘルツ波形を表した行列となる。なお、式中において、太字は行列(又はベクトル)を示す(他の式についても同様)。
Figure 2022021390000005
・・・(4)
ここで、試料90の深さ方向(光軸方向;Z軸方向)の位置のインデックスをl(lは1以上L以下の整数)とする。そして、深さ位置l(深さz(0≦z≦d))で発生したテラヘルツ波82の波形ベクトルをvとする。なお、波形ベクトルvは、基底ベクトルであるとする。波形ベクトルvは、式3と同様に、M個の成分で表され得る。なお、後述するように、観測したテラヘルツ波80から波形ベクトルvの各成分値が直接測定できるわけではない。また、波形ベクトルvは、xy面内位置kとは独立している。つまり、波形ベクトルvは、xy面内位置kに依存せず、深さ位置lのみに依存する。また、レーザパルスの各照射位置kのときに観測されるテラヘルツ波80の波形は、この波形ベクトルvで示される波形をl=1~Lについて重ね合わせたものに対応する。そして、図8を用いて説明したように、レーザパルスの照射位置kのときに深さ位置lで発生したテラヘルツ波82の振幅は、試料90内の点(k,l)での分極値Pklに比例する。
以下の式5は、各点(k,l)の分極値Pklを行列で表したものである。なお、行列Pklは、K×Lの2次元行列である。なお、以下、行列Pklを、分極行列と称することがある。
Figure 2022021390000006
・・・(5)
例えば、ベクトルPk1(式5の1列目の列ベクトルに対応)は、試料90の深さ方向の1層目(l=1)のxy面内におけるドメイン構造を表す分極のベクトルである。試料90が一様な非線形光学感受率を持つ非線形光学結晶である場合は、Pk1が一定のもの(つまりPk1の各成分が互いに同じ)としてモデル化することができる。
ここで、深さ方向の位置の分割数をLとする。上述したように、レーザパルスの照射位置kのときに深さ位置lで発生したテラヘルツ波82の振幅は、その点(k,l)での分極値Pklに比例する。そして、各レーザ照射位置kについて観測されるテラヘルツ波80は、分極値Pklを振幅とし、波形ベクトルvで示される波形をl=1~Lについて重ね合わせたものに対応する。したがって、各レーザ照射位置kについて観測されるテラヘルツ波80は、以下の式6で表される。
Figure 2022021390000007
・・・(6)
なお、式6を行列のまま表現すると、以下の式7のように表される。なお、行列ETHz,kは、式4と同様に、K×Mの2次元行列である。
Figure 2022021390000008
・・・(7)
式6(及び式7)で示すように、あるスポット位置kにレーザパルスを照射したときに観測されるテラヘルツ波形(行列ETHz,k)は、各深さ位置lからの寄与の線形和で表される。そして、実施の形態1にかかる3次元的イメージングでは、分極Pklをスポット位置k及び深さ位置lの双方について推定する。
しかしながら、式6,式7に示したvを実験的に求めることは、以下に説明するように、極めて困難である。vを完全に解析的に決定するためには、テラヘルツ帯の屈折率スペクトルn(ω)及び吸収係数スペクトルα(ω)、レーザ光に対する群屈折率n及び吸収係数αlaser、さらに、テラヘルツ波形計測の装置関数H(ω)が必要である。とくにH(ω)の決定は非常に困難であり、H(ω)を推定できたとしてもその測定誤差がH(ω)に影響を与える。また、大きさ1mm以上の結晶合成が難しい対象物については、テラヘルツ帯のスペクトル(n(ω),α(ω))を測定することが難しい。
そこで、本実施の形態にかかる分析部130は、全ての照射位置k(k=1~K)について実験的に得られた振幅行列ETHz(式4)に対して統計データ解析を行うことにより、分極行列Pklを推定する。具体的には、分析部130は、統計データ解析手法の「因子分析(Factor analysis)」を用いることで、分極行列Pklと波形ベクトルv(基底ベクトル)を一意に決定することができる。さらに、その推定誤差も得られる。ここで、分極行列Pklの各成分Pklは、試料90内の点(k,l)での振幅に対応する。また、分極行列Pklは、推定された分極ドメインの分布に対応する。
なお、本実施の形態に関して行われた実証実験では、試料90として、有機強誘電体クロコン酸結晶を用いた。また、試料90の厚さをd=320μmとした。また、試料90のXY平面に沿った方向の寸法については、X軸方向の寸法を400μmとし、Y軸方向の寸法を600μmとした。
図10は、試料90のある照射位置kにレーザパルスを照射したときに発生したテラヘルツ波形を例示する図である。また、図11は、図10に示したテラヘルツ波形のスペクトル(周波数スペクトル)を例示する図である。なお、式3及び図9を用いて上述したように、実際には、図10に例示したテラヘルツ波形に対応するM個の離散的なデータが観測される。この観測されたデータ(観測データ)は、振幅の時間的な推移を示す。
[統計データ解析手法(因子分析)]
因子分析は、例えばPythonのようなデータ解析プログラムで実行され得る。したがって、情報処理装置100の制御部102は、Python等のデータ解析プログラムを実行し、分析部130は、Python等のデータ解析プログラムによって実現され得る。また、実施の形態1における因子分析では、波形ベクトルvを共通因子とし、分極行列Pklを因子負荷行列とする。この場合、分極行列Pklの各成分が、因子負荷量に対応する。また、観測データに対応する振幅行列ETHz,kを観測変数とする。そして、波形ベクトルv及び振幅行列ETHz,kが離散的なM個の成分からなるベクトル(式4)で表されることから、全ての位置kについて、式6に対応するK×M個の方程式を最適に満たす分極行列Pkl(因子負荷行列)及び波形ベクトルv(共通因子)を求める。より具体的には、全ての位置kについて、式6に対応するK×M個の方程式を最適に満たす分極行列Pkl(因子負荷行列)の各成分及び波形ベクトルv(共通因子)の各成分を求める。また、因子分析において、深さ位置の因子数をFとする。Fは、例えば、試行錯誤によって決定されてもよい。なお、F≦Lである。また、因子成分のインデックスをb(bは1以上F以下の整数)とする。
図12~図14は、実施の形態1にかかる因子分析の結果を例示する図である。図12~図14は、深さ位置の因子数Fを7つ(F=7)とした場合の因子分析の結果を例示している。なお、図12~図13は、7つの因子成分(b=1~7)のそれぞれに関する波形ベクトルv(l=1~7)に対応する。但し、lの値とbの値とは一致するわけではないことに留意されたい。例えば、深さ位置l=1で発生した波形ベクトルvは、因子成分b=1(第1因子成分)の波形ベクトルに対応するわけではない。
図12は、7つの因子成分のそれぞれについて、因子分析によって抽出された波形ベクトルv(共通因子)のM個の点(成分)でサンプリングされたデータをプロットして得られたテラヘルツ波形を示す。また、図13は、図12に示すテラヘルツ波形それぞれのスペクトルを示す。図12及び図13において、7つの因子成分のそれぞれについての波形が、互いに異なる線種で示されている。例えば、第1成分(b=1)は、細い実線で示されている。なお、図12及び図13に示す細い二点鎖線は、xy面内のイメージ全体での平均のテラヘルツ波形を示す。なお、図12及び図13では、それぞれの波形及びスペクトルが見やすくなるように、各波形及び各スペクトルが縦方向にオフセット調整されて示されている。したがって、実際には、各因子成分の波形及びスペクトルの左右両端における振幅は、略0である。
図12及び図13から、7つの因子成分のそれぞれについて、異なる波形構造及びスペクトルであることが分かる。また、7つの因子成分のそれぞれの間には時間遅延が表れている。例えば、図12において、第1成分(b=1)と第7成分(b=7)とでは、ピーク位置が異なっている。
また、図14は、7つの因子成分のそれぞれに対応する深さにおける、xy面内における分極ドメイン(振幅)の分布を示す。図14は、因子分析によって抽出された分極行列Pkl(因子負荷行列)の各成分をプロットすることで得られた分極P(x,y,z)のドメインの分布を示している。これにより、図14で示すように、試料90の3次元的な分極(振幅)のイメージングを実現することができる。
図14に示した分極ドメインの分布において、色の濃さによって、分極値(振幅)の大小を示している。色が薄い位置ほど分極値は大きく、色が濃い位置ほど分極値は小さい。また、色の濃さが黒と白との中間色(グレー)の位置では、分極値は0となっている。したがって、黒色の位置では、分極値は負である。また、図14に示した分極ドメインの分布においては、それぞれの層(因子成分)で、カラースケールを規格化している。
なお、図14では、どの因子成分bがどの深さ位置lに対応するかが示されている。例えば、因子成分b=1(第1成分)は、深さ位置l=7に対応する。なお、その対応付けは、因子分析を行うだけでは分からない。この、どの因子成分bがどの深さ位置lに対応するかを対応付ける方法について、以下に説明する。
図15は、図12に示したテラヘルツ波形に対応する位相スペクトルを例示する図である。本実施の形態にかかる分析部130は、この位相スペクトル(位相特性)を用いて、どの因子成分bがどの深さ位置lに対応するかを対応付ける。なお、位相スペクトルは、図12に示した因子成分ごとのテラヘルツ波形それぞれについてフーリエ変換を行うことによって得られる。図15に示すように、位相スペクトルは、横軸を周波数とし、縦軸を位相として表される。
図7及び図8を用いて上述したように、試料90の入射面90aに近い深さで発生したテラヘルツ波82は、試料90の出射面90bに近い深さで発生したテラヘルツ波82よりも、遅延する。したがって、分析部130は、各因子成分bの時間遅延を分析することによって、因子成分bと深さ位置lとの対応を判定する。ここで、上述したように、フーリエ変換の基本原理として、波形の時間遅れΔtは、周波数空間では、関数exp(-iΔtω)の積として表される。したがって、各因子成分について位相の周波数依存性を解析することによって、各因子成分についての時間遅延を抽出することができる。
具体的には、分析部130は、複数の因子成分b(b=1~7)についての位相スペクトルそれぞれについて、線形関数でカーブフィッティング解析(回帰分析)を行う。この線形関数(位相曲線)の傾きが、時間遅延に対応する。図15で示すように、各因子成分bについて、位相の周波数依存性が異なっているので、位相曲線の傾きも異なっている。分析部130は、位相曲線の傾きから、因子成分bと深さ位置lとの対応を判定する。
ここで、実施の形態1にかかるPythonのフーリエ変換の計算では、時間遅延が位相曲線(θ(f)曲線)の負の傾きと対応するようになっている。したがって、位相曲線の傾きがプラス側に大きい(つまり周波数が増加すると位相がより増加する傾向にある)場合に、その因子成分bに対応するテラヘルツ波形の時間遅延は小さい。したがって、位相曲線の傾きがプラス側に大きい場合に、対応する因子成分bは、出射面90bの側の深さ位置lに対応する。逆に言うと、位相曲線の傾きがマイナス側に大きい(つまり周波数が増加すると位相がより減少する傾向にある)場合に、その因子成分bに対応するテラヘルツ波形の時間遅延は大きい。したがって、位相曲線の傾きがマイナス側に大きい場合に、対応する因子成分bは、入射面90aの側の深さ位置lに対応する。
図15に示すように、各因子成分bについて、第1成分、第2成分、第4成分、第5成分、第3成分、第6成分、第7成分の順で、位相曲線の傾きが、プラス側に大きい。つまり、第1成分(b=1)の位相曲線の傾きが最もプラス側に大きく、第7成分(b=7)の位相曲線の傾きが最もプラス側に小さい。したがって、図15の例では、分析部130は、因子成分のインデックスb=7は深さ位置l=1に対応すると判定する。したがって、因子成分b=7に対応する分極ドメインの分布は、分極のベクトルPk1(式5)に対応する。
同様に、分析部130は、因子成分のインデックスb=6は深さ位置l=2に対応すると判定する。したがって、因子成分b=6に対応する分極ドメインの分布は、分極のベクトルPk2に対応する。また、分析部130は、因子成分のインデックスb=3は深さ位置l=3に対応すると判定する。したがって、因子成分b=3に対応する分極ドメインの分布は、分極のベクトルPk3に対応する。また、分析部130は、因子成分のインデックスb=5は深さ位置l=4に対応すると判定する。したがって、因子成分b=5に対応する分極ドメインの分布は、分極のベクトルPk4に対応する。また、分析部130は、因子成分のインデックスb=4は深さ位置l=5に対応すると判定する。したがって、因子成分b=4に対応する分極の分布は、分極のベクトルPk5に対応する。
また、分析部130は、因子成分のインデックスb=2は深さ位置l=6に対応すると判定する。したがって、因子成分b=2に対応する分極ドメインの分布は、分極のベクトルPk6に対応する。また、分析部130は、因子成分のインデックスb=1は深さ位置l=7に対応すると判定する。したがって、因子成分b=1に対応する分極ドメインの分布は、分極のベクトルPk7に対応する。
このようにして、式5に示した分極行列の各成分Pklが求められる。したがって、分析部130は、試料90の3次元的な分極ドメインを可視化することができる。
なお、図12~図15に示した例では、因子数F=7であるので、深さ方向の分解能は、Δz=320/7~45μm程度である(但し「~」は近似記号)。ただし、急激に分極ドメイン構造が変化している場合、より高い深さ分解能で層が分離される。この場合、因子分析の際に有効な因子数が増え、これにより深さ分解能が向上する。また、時間分解能(最大周波数)を向上することにより、深さ方向の分解能を向上できる。また、図15に示した位相スペクトルは、イメージ全体での平均のテラヘルツ波形を、位相計算の際の参照信号としている。これにより、深さ方向のインデックスの決定の精度を向上させることができる。
なお、本実施の形態にかかる方法における深さ方向の分解能Δzは、下記のように決めてもよい。信号雑音比が十分大きい周波数の最大(最大周波数)をfmaxとする。その波長λはλ=c/fmaxと表される。テラヘルツ波形測定での近接点間の時間をΔtとすると、テラヘルツ波形測定の最大位相感度Δθは、Δθ=fmaxΔtとなる。そして、Δzは、Δz=λΔθ=cΔtで求められる。なお、実証実験では、fmax=3.0THz(λ=100μm),Δt=0.08psであり、Δz=24μmとなる。なお、波形測定の時間幅を長くする、またはΔtを小さくすることにより、Δzを改善できる。
[テラヘルツ帯の屈折率スペクトルの推定]
分析部130は、さらに、以下に説明するように、テラヘルツ帯の屈折率スペクトルの推定を行う。上述した各因子成分bに対応するテラヘルツ波形は、対応する深さ位置lから発生したものとみなせる。したがって、各成分間の時間遅延及び結晶厚さ(d)の情報から、以下の式8で示されるΔn(ω)を決定することができる。
Figure 2022021390000009
・・・(8)
ここで、Δn(ω)は、テラヘルツ波の屈折率スペクトルn(ω)とレーザ群屈折率nとの差を示すスペクトルを表す。また、レーザ群屈折率nは、例えばレーザ波長帯の屈折率スペクトル測定方法によって、予め取得されているものとする。したがって、式8から、Δn(ω)を求めてレーザ群屈折率nを加算することで、テラヘルツ波の屈折率スペクトルn(ω)を求めることができる。
ここで、Δn(ω)の精度は、結晶厚さd及び最大観測周波数に比例する。また、最も位相差の大きい2組の因子成分の波形について、それぞれに対応する深さの差は、概ねd×(F-1)/Fとなる。したがって、Δn(ω)とΔθ(ω)の間には、以下の式9で示される関係式が成り立つ。なお、Δθ(ω)は、角周波数ωにおける、最も位相差の大きい2組の因子成分の位相差を示す。
Figure 2022021390000010
・・・(9)
図16は、図12~図15に示した例における、最も位相差の大きい2組の因子成分の波形を示す図である。上述した因子分析の結果、最も位相差の大きい2組の因子成分は、第1因子成分及び第7因子成分である。そして、分析部130は、最も位相差の大きい2組の因子成分の波形の位相スペクトルを算出し、算出された位相スペクトルから、Δθ(ω)を算出する。
図17は、図12~図15に示した例における、最も位相差の大きい2組の因子成分の位相スペクトルを示す図である。分析部130は、各周波数について、第1因子成分の位相と第7因子成分の位相との位相差Δθを算出する。例えば、周波数f=1.0THzのとき、Δθ=2.5πである。また、周波数f=1.5THzのとき、Δθ=4.0πである。また、周波数f=2.0THzのとき、Δθ=5.0πである。そして、ω=2πfであるので、分析部130は、式8及び式9を用いて、各角周波数ωについて、テラヘルツ波の屈折率を算出できる。そして、分析部130は、各周波数とそのときの屈折率との関係から、テラヘルツ波の屈折率スペクトルn(ω)を算出する。
図18は、図12~図15に示した例における、因子分析の結果を用いて推定されたテラヘルツ帯の屈折率スペクトルを例示する図である。図18において、因子分析の結果を用いて推定されたテラヘルツ波の屈折率スペクトルが、黒丸で示されている。また、比較のため、本実施の形態にかかる方法とは別の方法であるテラヘルツ時間領域分光によって得られたテラヘルツ波の屈折率スペクトルが、実線で示されている。なお、図18に示したテラヘルツ波の屈折率スペクトルは、各周波数とそのときの屈折率とをプロットすることによって得られる。因子分析の結果を用いて推定されたテラヘルツ波の屈折率スペクトルは、テラヘルツ時間領域分光によって得られたテラヘルツ波の屈折率スペクトルと、10%程度の精度で一致している。したがって、因子分析の結果を用いて、良好に、テラヘルツ波の屈折率スペクトルを推定することができる。
[テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルの推定]
分析部130は、さらに、以下に説明するように、テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルの推定を行う。分極Pklの絶対値をkについて平均をとったものを、以下の式10のように表す。なお、便宜上、以後、式10を「P 」と表記することがある。
Figure 2022021390000011
・・・(10)
は、第l層(深さ位置l)から発生し検出されたテラヘルツ波82の振幅となる。位相スペクトルθ(ω)(図15,図17)の傾きから計算された第l層の深さ、及びαlaserより、テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルの推定を行うことができる。なお、αlaserについて、実証実験で用いた物質(単軸性強誘電体結晶クロコン酸)で光子エネルギ1.55eV(波長800nm)において、αlaser=52cm-1=0.0052μm-1である。ここで、深さの差が大きい層についてのテラヘルツ波82の振幅を用いることで、深さの差の推定誤差が小さくなり、推定される吸収係数スペクトルの精度が高くなる。したがって、ここでは、図12~図15の例において、分析部130は、第7層及び第1層それぞれのP 、及び、テラヘルツ波の振幅スペクトルから、レーザ光の吸収を考慮に入れたうえで解析を行う。
観測値とテラヘルツ帯の複素振幅との間には、以下の式11で示す関係が成り立つ。
Figure 2022021390000012
・・・(11)
ここで、
Figure 2022021390000013

・・・(12)
は、第l層で発生したテラヘルツ波形をフーリエ変換して得られたテラヘルツ帯の複素振幅スペクトルである。また、
Figure 2022021390000014
・・・(13)
は、テラヘルツ帯の複素屈折率スペクトルである。なお、便宜上、以後、式13を「n(ω)」と表記することがある。
ここで、テラヘルツ帯の複素屈折率スペクトルn(ω)について、以下の式14が成り立つ。
Figure 2022021390000015
・・・(14)
なお、κ(ω)は、テラヘルツ帯の消衰係数スペクトルである。
式11の左辺及び「z-z」は、因子分析の結果から求まる。また、αlaserは、光学スペクトルの計測から独立に決定されているものとする。すると、式11は、n(ω)に関する方程式となり、n(ω)が得られる。そして、式14から、κ(ω)が求まる。そして、κ(ω)が求まれば、テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルα(ω)は、一意に決定される。
なお、式11の絶対値の方程式はα(ω)に関する方程式となり、以下の式15で示すように解くことができる。したがって、テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルα(ω)を一意に決定することができる。なお、式15において、「log」は自然対数である。なお、式15において、「Abs」は複素数の絶対値を得る演算子である。
Figure 2022021390000016
・・・(15)
このようにして、分析部130は、テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルα(ω)を算出する。図19は、図12~図15に示した例における、因子分析の結果を用いて推定されたテラヘルツ帯の吸収係数スペクトルを例示する図である。
[分析方法]
図5に示した分析方法について説明する。まず、分析システム1は、試料90の照射位置kについて、k=1とする(ステップS100)。具体的には、情報処理装置100の分析装置制御部110は、照射位置kをk=1に決定する。分析システム1は、照射位置kにフェムト秒レーザパルス2を照射させて、それによって発生するテラヘルツ波80を観測する(ステップS102)。
具体的には、分析装置制御部110は、上述したように、分析装置10(レーザ光源12及び試料保持装置50)を制御して、位置kに、フェムト秒レーザパルス2を照射させる。また、分析装置制御部110は、光学遅延ステージ40を制御して、トリガパルス6が光伝導スイッチ32に到達する時間を制御する。これにより、位置kで発生したテラヘルツ波80の時間波形が得られる。そして、情報処理装置100の取得部120は、観測されたテラヘルツ波80を示す観測データを取得する(ステップS104)。このとき、取得部120は、観測データに照射位置kを対応付けて、観測データを記憶部104に記憶する。
分析システム1は、試料90の照射位置kについて、k=Kであるか否かを判定する(ステップS106)。具体的には、情報処理装置100の分析装置制御部110は、k=Kであるか否かを判定する。そして、k=Kでない場合(S106のNO)、全ての照射位置kについて観測が終了していないので、分析装置制御部110は、kを1つインクリメントする(ステップS108)。そして、分析装置制御部110は、次の照射位置kについて、S102~S104の処理を繰り返す。これにより、レーザパルスがxy面を走査されることとなる。そして、k=Kである場合(S106のYES)、全ての照射位置kについて観測が終了する(ステップS112)。
分析部130は、得られた観測データに対して上述した因子分析を行う(ステップS114)。これにより、分析部130は、上述したように、分極行列Pkl及び波形ベクトルvを推定する(ステップS116)。また、分析部130は、上述したように、テラヘルツ帯の屈折率スペクトルを推定する(ステップS118)。また、分析部130は、上述したように、テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルを推定する(ステップS120)。
さらに、分析結果出力部140は、分析結果を出力する(ステップS122)。具体的には、分析結果出力部140は、S116~S120で推定された結果を、インタフェース部108に出力させる。例えば、分析結果出力部140は、図12~図14に示す分析結果をインタフェース部108に表示させる。
[因子数の解析的決定方法]
ここで、因子数F(層数)をどのように設定するか、及びその信頼性の評価方法について述べる。解析的手法として、因子分析における「因子数」(F)を、パラメータとして設定する必要がある。因子数Fを増やせば増やすほどモデルが実験結果を再現するようになるが、あまりに因子数Fが大きくなりすぎると、ノイズを再現するだけになり、つまりアーティファクトを表現することとなる。したがって、因子分析においては、共分散行列の固有値をベイズ分析に基づいた赤池の情報基準(Akaike's Information Criterion:AIC)などで分析し最適な因子数を決定する方法がある。
図20は、実施の形態1にかかる、信頼できる因子数の決定方法を説明するための図である。本実施の形態にかかる方法では、共分散行列の固有値から適切な因子数Fを決定する。図20は、因子数を十分大きくとって(図20の例では因子数を25個として)因子分析を行い、共分散行列の固有値を因子インデックスに対してプロットした結果を示す。この図20に示したグラフは、スクリープロット(Scree Plot)と呼ばれる。図20から、因子インデックス7以下と因子インデックス8以上では固有値の減少度合い(傾き)が異なることが分かる。因子分析においては、経験的に、この傾きの変化点が判断点になるとされている。これより、図20の点線で示す直線に沿ったプロットに対応する因子インデックス8以上の因子分析の結果は、アーティファクトやノイズによるものと判断できる。このようにして、解析的に信頼できる層数(因子数)を設定することができる。これにより、試行錯誤による場合よりも、効率的にかつ適切に、因子数Fを決定することが可能となる。
なお、縦軸を対数スケールにしていることについては、テラヘルツ波形のデータ集合の持つ統計的性質による。
図21は、テラヘルツ振幅の絶対値の3次元行列(x,y,t依存性)のヒストグラムを示す図である。図21から、データが指数分布をしていることが分かる。そのため、三次元像(テラヘルツ振幅のx,y,t依存性)の因子分析における固有値も指数分布をしたことがわかる。
[効果]
以下、本実施の形態にかかる技術の効果を、従来技術と比較しつつ説明する。特に、非特許文献1~4にかかる第二高調波発生(SHG)による3次元ドメイン可視化手法との比較について述べる。
まず、SHGによるドメイン可視化の原理について述べる。強誘電体では、電気分極の向きにより二次の非線形光学係数(χ(2))の符号が変化する。特に、単軸性の強誘電体(分極の向きが結晶の1つの軸方向に限られる強誘電体)の場合、この符号が変わる。すなわち、電気分極がχ(2)と強く関連しているので、χ(2)の変化を調べることで電気分極に関しての知見を得ることができる。実験的には、レーザ等の強いビームを強誘電体に照射し、第二高調波発生強度の場所依存性を測定することで、強誘電ドメインを可視化できる。その原理は、ビームが強誘電ドメイン内部に当たっている場合には、レーザ照射位置それぞれで発生したSHGが同位相で重なるためにSHGの強度が強くなり、一方、ビームが強誘電ドメイン境界に当たると、隣り合う強誘電ドメイン間でSHGが逆位相であるためにSHGが弱くなるということである。この原理は、基本波に対してSHGが透過型であるか反射型であるかによらない。そして、強誘電体のSHG測定によって強誘電ドメインを可視化する研究は数多く行われている。
しかしながら、上記のようなSHGの強度測定による強誘電ドメインイメージングでは、電気分極の大きさは分かるが、電気分極の符号を特定することは容易ではない。参照体からのSHGと試料からのSHGとを干渉させることで位相も含めて電気分極の符号を測定する手法があるが(非特許文献3)、装置や測定方法が複雑になる難点がある。また、試料の厚さをSHGのコヒーレンス長より短くする必要があり、位相整合条件を満たすことが難しい試料の場合にはSHGによる手法は有効ではない。また、SHGや差周波発生(DFG)では、3次元可視化にある位相整合条件が満たされる必要がある(非特許文献1)。これに対し、本実施の形態にかかる方法では、時間領域で発生した電磁波(光)の振幅波形を観測できるため、このような制限条件は存在しない。
また、本実施の形態にかかる方法の利点として、長いコヒーレンス長による厚み不均一及び表面荒れに対するロバストさがあげられる。SHGを用いた三次元強誘電ドメイン可視化手法を実行するためには、コヒーレンス長を試料の厚さより長くすることが求められる。そのため、コヒーレンス長が試料厚さより長くなるようにするために、入射波長や偏光を制御するなど様々な工夫が行われている。しかしながら、この場合、使用することができるテンソル成分は制限され、結晶の対称性によっては位相整合条件を満たすことができないおそれがある。また、SHGは、試料の加工性が高い場合に有効である半面、波長の短さから散乱などの影響を受けやすい傾向がある。
これに対して、本実施の形態にかかる方法で用いるテラヘルツ電磁波の発生のコヒーレンス長は、SHGの場合のコヒーレンス長に比べて2桁程度長くなる傾向を持つ。例えば、ポンプ光とテラヘルツ電磁波との屈折率の差が1程度と大きいケースでも、透過配置の場合(入射方向と出射方向とが同じ方向の場合)のコヒーレンス長は、1THzで150μmとなる。このように、本実施の形態にかかる方法では、テラヘルツ電磁波の波長が長いため、厚みの不均一性や散乱の影響を受けにくい。さらに、上述したように、本実施の形態にかかる方法では、電場振幅を観測できる利点があり、したがって、非特許文献3にかかる技術で行われる干渉を用いずに電気分極の方向まで特定できる。
図22は、本実施の形態にかかるドメインイメージング方法と他の光学的ドメインイメージング方法との比較を示す図である。図22を用いて、テラヘルツ放射によるイメージング技術が他の光学的手法と比べてどのような特徴を有しているかについてさらに説明する。本実施の形態にかかる方法の1つの利点は、上述したように、分極方向の特定が容易であることである。
代表的な分光手法である蛍光や第二高調波発生においては、発生した光の「強度」をフォトダイオードなどで測定する。強誘電体での第二高調波発生(SHG)の場合、SH光の強度は対称性の破れ度合いに比例する分極(P)の2乗に比例することが知られている。つまり、SHGでは、±Pのドメインを区別することは、SH光強度の測定のみでは可能でない。そこで、上述したように、参照物質を横に置き、その物質からのSHを試料からのSHと干渉させて計測することにより、±Pを区別する手法が開発されてきた。ただし、干渉信号取得のためには、試料端面をλ/10レベルに光学研磨する必要がある。そのため、結晶の端面の光学研磨が容易な無機非線形光学結晶(LiNbOなど)にのみ、SHGの手法を適用可能であった。
これに対し、本実施の形態にかかる方法では、テラヘルツ放射の「振幅」は、対称性の破れ度(強誘電体の場合は分極P)に比例するので、光伝導スイッチや電気光学サンプリングによって符号を含めた振幅を測定することができる。そのため、干渉のための外部信号が不要である。また、発生するテラヘルツ波の波長は100μm程度であるため、試料端面の厚みの不均一性に対してロバストである。例えば、10μm程度の凸凹があってもテラヘルツ波の位相には10%以下の変化率しか及ぼさない。
本実施の形態にかかるイメージング手法の特筆すべき技術優位性は、(1)非接触、(2)非破壊、(3)実デバイスへ使用可能(適用容易)、である。特に(3)については、外部電場による屈折率変調やピエゾ効果を用いる手法に比べて、強電場を印加しながら観測を行うことができるという長所がある。これに対し、第二高調波発生を用いる手法では、外部電場による屈折率変調が外部SHG信号との干渉パターンに大きな影響を与えてしまうため、外部電場下での3次元ドメイン可視化は困難である。
また、本実施の形態にかかる方法では、放射されたテラヘルツ波形に対して統計的データ解析である因子分析を行う。これにより、3次元的に、分極値の推定を行うことができる。したがって、対象物質に関する光学スペクトルの情報の準備が最小限であっても、3次元ドメインの可視化を実現することが可能である。なお、上述したように、未知の対象物質の場合、光学スペクトル情報を予め取得することは困難であるおそれがある。したがって、本実施の形態にかかる分析システム1は、試料の結晶内部の3次元的な性質を効率的に可視化することが可能となる。なお、上述した非特許文献では、統計的データ解析を行って3次元ドメインの可視化を行うことについて、開示していない。したがって、3次元的なイメージング行うためには、対象物質に関する光学スペクトルの情報が必要である。したがって、試料の結晶内部の3次元的な性質を効率的に可視化することは困難である。
また、テラヘルツ波を試料に照射して、その波形に現れるエコー(反射波)から、試料の断面形状を解析する研究が行われている(例えば非特許文献6)。このような研究では、テラヘルツ波を試料に照射しているのであって、本実施の形態のように、レーザパルスを試料に照射してテラヘルツ波を試料から発生させているわけではない。また、このような研究では、試料の分極ドメインを可視化することは困難である。さらに、このような研究では、本実施の形態のように、統計的データ解析を行っているわけではない。したがって、3次元的なイメージング行うためには、対象物質に関する光学スペクトルの情報が必要である。したがって、試料の結晶内部の3次元的な性質を効率的に可視化することは困難である。
また、上述したように、本実施の形態にかかる分析システム1は、テラヘルツ帯の光学スペクトル(屈折率スペクトル及び吸収係数スペクトル)を抽出することも可能である。したがって、本実施の形態にかかる分析システム1は、未知の対象物質に対して効果的に分析を行うことが可能である。特に、テラヘルツ時間領域分光が困難な小さい物資への優位性がある。
また、本実施の形態にかかる分析システム1では、テラヘルツ波形測定によって絶対位相の情報が得られる。これにより、上述したような分析を行うことが可能となる。また、位相整合長の数倍(数mm)レベルのサイズの材料にも、本実施の形態にかかる方法は適用可能である。なお、強度測定では、位相の情報を得ることはできない。また、干渉法(非特許文献3)では、相対位相(0~360度)の情報のみ得られる。
また、本実施の形態にかかる方法は、厚い結晶に対するロバスト性も有している。SHGによる3次元イメージングでは、レーザを高開口数レンズで集光する必要がある。一方、本実施の形態にかかる方法では、低開口数のレンズで焦点深度を1mm程度にしても問題なく、深さ方向で全体に焦点が合った形で可視化を行うことが可能である。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。実施の形態2では、多軸性強誘電体に対して本実施の形態にかかる方法を適用する例について説明する。なお、実施の形態2にかかるハードウェア構成及び機能構成は、図1及び図4に示したものと実質的に同様であるので、実施の形態2に特有の構成を除き、説明を省略する。
分極の向きが結晶の1つの軸方向に限られる強誘電体を単軸強誘電体という。例えば、実施の形態1では、分極の向きは、±方向の1つの軸方向である。一方、強誘電分極が結晶の複数の軸方向に向きうる強誘電体を多軸性強誘電体という。多軸性強誘電体においては、その非線形光学テンソルが変わるため、テラヘルツ波発生の偏光依存性が異なると考えられる。また、テラヘルツ波の発生機構が偏光により異なる場合や、レーザ又はテラヘルツ波に対する屈折率に偏光依存性があるために位相整合条件に偏光依存性が生じる場合は、テラヘルツ波形に入射偏光または検出偏光による変化が生じる。すなわち、深さ方向の同位置であっても、多軸性の異なる軸方向を向いたドメインについて発生したテラヘルツ波80は異なる偏光依存性を示す。つまり、±方向以外の方向に対するドメインについて、異なる入射偏光依存性を示すテラヘルツ波80が発生することになる。このように、多軸性の異なる軸方向を向いたドメインについて発生したテラヘルツ波80に対してドメインの分布の推定及びベクトル分解を行うことによって、試料90の3次元的な性質(ドメイン)をさらに精緻に分析することができる。
レーザパルス(ポンプパルス4)の偏光方向及び検出するテラヘルツ波80の偏光方向を制御することで、多軸性のドメインにおいても、本実施の形態にかかる方法を適用できる。ここで、レーザパルス及びテラヘルツ波80の偏光方向の設定値のインデックスをqとし、その最大値をQとする。つまり、レーザパルス及びテラヘルツ波80の偏光方向の組み合わせは、Q個である。また、Qは、偏光配置数ともいえる。なお、偏光配置qそれぞれがレーザパルス及びテラヘルツ波80の偏光方向についてのどのような設定値に対応するかは、予め定められており、その対応付けは、情報処理装置100によって予め記憶されている。
多軸性の強誘電体において生じ得るドメインの種類の数を、符号等の違いも考慮してNdirectionsとする。例えば、単軸性の場合は、ドメインの方向が+方向及び-方向であるので、Ndirections=2である。また、例えば、平面内の二軸性強誘電体の場合は、Ndirections=2×2=4となる。なお、ドメインの種類は、結晶の対称性を特徴づける要素であって、分極の方向だけでなく、例えば結晶構造の種類(α相又はβ相等)も含まれ得る。また、偏光方向の設定値qのそれぞれで2つのドメインの種類を区別できるので、偏光方向の設定値Qのテラヘルツ放射イメージングで区別できるドメインの種類数は2である。したがって、Ndirections種類のドメインを区別するためには、2≧Ndirectionsとすればよい。または、冗長性を持たせるために、2>Ndirectionsを満たす偏光配置数Qでテラヘルツ波を観測してもよい。なお、本実施の形態では統計的データ解析を行っているため、冗長性を与えることで、より実際のドメイン構造を解析することができる。どのような偏光条件が最適かについては、結晶のもつ対称性から決定できる。
あるレーザスポット位置kにおいて、ある偏光配置qで観測した波形ベクトルを、以下の式16のように表す。
Figure 2022021390000017
・・・(16)
上記の式16を上述した因子分析に適用する場合、上記の式16を、以下の式17に示すような1次元ベクトルに変形する。以下の式17で示す波形ベクトルeは、それぞれの偏光配置qで観測された波形ベクトルekqを合成することによって得られた波形ベクトルである。なお、波形ベクトルekqの成分がM個であるから、波形ベクトルeは、M×Q個の成分で表され得る。
Figure 2022021390000018
・・・(17)
これを各レーザスポット位置kで測定し、実施の形態1(単軸強誘電体)の場合と同様の解析を行うことにより、全ての方向(ドメインの種類)を区別したドメイン可視化を実現することが可能である。なお、各因子に対応する分極ドメイン構造の深さ方向のインデックスについては、ぞれぞれの因子のテラヘルツ波形の位相スペクトルから決定できる。
図23~図25は、実施の形態2にかかる方法を説明するための図である。図23~図25を用いて、具体的なレーザパルス(ポンプパルス4)の偏光及び検出するテラヘルツ波80の偏光方向の制御とその解析手順について述べる。テラヘルツ電磁波発生の偏光依存性の測定法としてよく用いられる方法は、入射光及び検出するテラヘルツ電磁波の偏光を固定し、試料を光軸周りで回転させる方法である。しかしながら、この方法は、試料が小さく、照射位置依存性も大きい場合には実験が困難であり、測定誤差も大きい。
そこで、実施の形態2では、ワイヤーグリッド偏光子28A,28Bを用いたテラヘルツ波80の偏光解析法と、1/2波長板20による入射偏光の制御と、を組み合わせた方法を用いて、多軸性強誘電体の3次元的なドメイン可視化を実現する。この方法は、試料90を回転又は移動させる必要がなく、試料90の同じ位置にレーザを当てることができるため、照射位置のばらつきによる実験誤差を低減させる利点を有する。また、1/2波長板20を自動回転させることで、測定の大部分を自動化できるメリットがある。
図23は、実施の形態2にかかる、テラヘルツ波発生の偏光依存性測定の概念を説明するための図である。ポンプパルス4の光路上に配置された1/2波長板20は、自動回転ステージ(図示せず)にセットされる。情報処理装置100は、自動回転ステージを制御して、1/2波長板20による入射光の偏光方向(偏光角θlaser)を制御する。1/2波長板20を通過した直線偏光は、遅軸または速軸に対して折り返した直線偏光となる。
さらに、図23の矢印Aで示すように、実施の形態2にかかる分析システム1は、1/2波長板20の回転角で制御した様々な偏光角θlaserの入射光について発生するテラヘルツ波80の、水平方向(X軸方向)の偏光成分と垂直方向(Y軸方向)の偏光成分とを、それぞれ測定する。そのために、テラヘルツ波80の光路には、テラヘルツ放射源(試料90)と光伝導スイッチ32(テラヘルツ波80の検出器)との間に、2つのワイヤーグリッド偏光子28A,28Bが配置されている。ワイヤーグリッド偏光子28は、ワイヤーに垂直な方向の偏光を透過し、ワイヤーに平行な方向の偏光を遮断する。
光伝導スイッチ32の側のワイヤーグリッド偏光子28B(WG2)は、光伝導アンテナ(光伝導スイッチ32)の検出偏光を水平方向のみに制限する機能を有する。光伝導アンテナの間隙の方向は水平に固定されているとする。また、よく用いられるダイポール型の光伝導アンテナは、間隙の方向に平行なテラヘルツ波80の電場成分を効率よく検出する。一方、間隙の方向に垂直な方向についての感度も、平行成分の感度の100分の1程度あることが知られている。垂直成分の漏れは、このように成分測定上のノイズとなるため、垂直成分の漏れを完全にカットするために、ワイヤーグリッド偏光子28B(WG2)を、検出器(光伝導スイッチ32)と平行な水平方向を透過する配置で用いる。
テラヘルツ電磁波の偏光解析法について説明する。検出器としてダイポール型の光伝導スイッチ32を用いる場合を考え、最も敏感に検出する方向をX軸方向とする。ただし、検出器に偏光依存性がない場合でも、ワイヤーグリッド偏光子28BにおいてX軸方向の偏光のみを透過させるため、ベクトルマッピングを行うことが可能である。発生したテラヘルツ波80の振幅ベクトルEを、E=(E,E)とする。テラヘルツ波80の偏光をベクトルとして得るために、ワイヤーグリッド偏光子28A(WG1)の角度が±45度の2つの配置それぞれでテラヘルツ波80の波形の測定を行う。この場合、例えば、ワイヤーグリッド偏光子28Aは自動回転ステージ(図示せず)にセットされてもよい。そして、情報処理装置100は、自動回転ステージを制御して、ワイヤーグリッド偏光子28Aの角度を制御する。なお、上述したように、ワイヤーグリッド偏光子28B(WG2)の角度は0度に固定する。
また、ワイヤーグリッド偏光子28Aの角度が+45度,-45度の配置で得られる信号を、それぞれ、Edetected +45°,Edetected -45°とする。また、+45度,-45度の配置のワイヤーグリッド偏光子28A(WG1)を透過した直後のテラヘルツ波の偏光ベクトル(振幅含む)を、それぞれ、E’+45°,E’-45°とする。
また、+45度及び-45度の方向の基底ベクトルを、それぞれ、以下の式18及び式19で示すように定める。
Figure 2022021390000019
・・・(18)
Figure 2022021390000020
・・・(19)
ここで、図23の矢印Bで示すように、振幅ベクトルEを+45度及び-45度の方向に射影することを考える。このとき、ベクトルの射影の公式から、以下の式20及び式21が得られる。
Figure 2022021390000021
・・・(20)
Figure 2022021390000022
・・・(21)
ここで、ベクトルの射影の公式から、X軸方向及びY軸方向の基底ベクトルを、以下の式22で表す。
Figure 2022021390000023
・・・(22)
このとき、ワイヤーグリッド偏光子28B(WG2)の高透過率の偏光方向をx軸偏光としている場合、Edetected +45°,Edetected -45°は、それぞれ以下の式23,式24のように表される。
Figure 2022021390000024
・・・(23)
Figure 2022021390000025
・・・(24)
式23及び式24で示される連立方程式を行列の形式で表すと、以下の式25のように表される。
Figure 2022021390000026
・・・(25)
そして、両辺に係数行列の逆行列をかけると、以下の式26で示される関係式が得られる。
Figure 2022021390000027
・・・(26)
上記の式26より、発生したテラヘルツ波80の振幅ベクトルEの元々の水平偏光成分E及び元々の垂直偏光成分Eは、それぞれ、以下の式27,式28のように得られることが分かる。
Figure 2022021390000028
・・・(27)
Figure 2022021390000029
・・・(28)
したがって、ワイヤーグリッド偏光子28Aの角度が+45度,-45度の配置で得られる信号Edetected +45°,Edetected -45°から、テラヘルツ波80の振幅ベクトル(電磁波ベクトル)E=(E,E)を算出することができる。なお、上述した例では、ワイヤーグリッド偏光子28A(WG1)を±45度に設定した場合について述べたが、ワイヤーグリッド偏光子28Aの角度は、±45度に限定されるものではない。ベクトルの射影の公式を用いることで、任意のWG1の角度の場合についても計算することができる。
図24は、実施の形態2にかかる、各偏光配置で観測されたテラヘルツ波形を例示する図である。図24は、1/2波長板20の回転角で制御した偏光角θlaserを0度及び90度としたときそれぞれについて、ワイヤーグリッド偏光子28Aを±45度としたときに観測されるEdetected +45°,Edetected -45°の波形を示している。
ここで、偏光角θlaserが90度の場合にワイヤーグリッド偏光子28Aを±45度としたときに観測される波形ベクトルEdetected +45°,Edetected -45°を、それぞれE,Eとする。また、偏光角θlaserが0度の場合にワイヤーグリッド偏光子28Aを±45度としたときに観測される波形ベクトルEdetected +45°,Edetected -45°を、それぞれE,Eとする。また、E,E,E,Eそれぞれの偏光配置qのインデックスを、それぞれ、q=1,2,3,4とする(Q=4)。なお、図24に示した偏光配置は、あくまでも例示である。偏光配置は、適宜設定され得る。
図25は、実施の形態2にかかる因子分析の方法を説明するための図である。図25に例示するように、実施の形態2では、観測された波形ベクトルE,E,E,Eを、時間軸方向に並べる。つまり、Eは式17のek1に対応し、Eは式17のek2に対応し、Eは式17のek3に対応し、Eは式17のek4に対応する。そして、波形ベクトルE,E,E,Eを時間軸方向に並べた波形ベクトルは、式17のeに対応する。
実施の形態2では、分析部130は、各照射位置kについて、観測された波形ベクトルE,E,E,Eを時間軸方向に並べて波形ベクトルeを生成する。そして、分析部130は、式6における波形ベクトルvの成分数をM×Q個とした波形ベクトルvを共通因子として、実施の形態1と実質的に同様の因子分析を行う。なお、実施の形態2では、式6の行列ETHz,kは、K×(M×Q)の2次元行列となる。これにより、全ての方向の偏光に関するドメインを区別でき得る。したがって、実施の形態2にかかる分析システム1は、一軸性ドメイン構造に加えて、多軸性ドメイン構造を可視化することが可能となる。
図26は、実施の形態2にかかる分析システム1によって実行される分析方法を示すフローチャートである。まず、図5のS100と同様に、分析装置制御部110は、試料90の照射位置kについて、k=1とする(ステップS200)。さらに、分析装置制御部110は、偏光配置qについて、q=1とする(ステップS201)。
そして、分析システム1は、偏光配置qで照射位置kにフェムト秒レーザパルス2を照射させて、それによって発生するテラヘルツ波80を観測する(ステップS202)。具体的には、分析装置制御部110は、上述したように、試料90の位置kにフェムト秒レーザパルス2が照射されるように、試料保持装置50を制御する。また、分析装置制御部110は、偏光配置qに対応する偏光方向の設定となるように、1/2波長板20の回転角及びワイヤーグリッド偏光子28Aの回転角を制御する。そして、分析装置制御部110は、上述したように、レーザ光源12を制御して、位置kに、フェムト秒レーザパルス2を照射させる。また、分析装置制御部110は、光学遅延ステージ40を制御して、トリガパルス6が光伝導スイッチ32に到達するタイミングを制御する。これにより、偏光配置qのときに位置kで発生したテラヘルツ波80の時間波形が得られる。
ここで、例えば、各偏光配置qが1/2波長板20の回転角で制御した偏光角θlaserとワイヤーグリッド偏光子28Aの角度との組み合わせによって設定される場合、情報処理装置100は、各偏光配置qのときのこれらの組み合わせを記憶している。図24の例では、情報処理装置100は、偏光配置q=1のときの偏光角θlaserが90度であること及びワイヤーグリッド偏光子28Aの角度が-45度であることを記憶している。同様に、情報処理装置100は、偏光配置q=2のときの偏光角θlaserが90度であること及びワイヤーグリッド偏光子28Aの角度が+45度であることを記憶している。また、情報処理装置100は、偏光配置q=3のときの偏光角θlaserが0度であること及びワイヤーグリッド偏光子28Aの角度が-45度であることを記憶している。さらに、情報処理装置100は、偏光配置q=4のときの偏光角θlaserが0度であること及びワイヤーグリッド偏光子28Aの角度が+45度であることを記憶している。したがって、例えば、q=1の場合、S202の処理において、分析装置制御部110は、偏光角θlaserが90度となるように1/2波長板20の回転角を制御する。また、分析装置制御部110は、ワイヤーグリッド偏光子28Aの角度が-45度となるようにワイヤーグリッド偏光子28Aを制御する。
そして、情報処理装置100の取得部120は、観測されたテラヘルツ波80を示す観測データを取得する(ステップS203)。このとき、取得部120は、観測データに偏光配置q及び照射位置kを対応付けて、観測データを記憶部104に記憶する。
分析システム1は、偏光配置qについて、q=Qであるか否かを判定する(ステップS204)。具体的には、情報処理装置100の分析装置制御部110は、q=Qであるか否かを判定する。そして、q=Qでない場合(S204のNO)、全ての偏光配置qについて観測が終了していないので、分析装置制御部110は、qを1つインクリメントする(ステップS205)。そして、分析装置制御部110は、次の偏光配置qについて、S202~S203の処理を繰り返す。そして、q=Qである場合(S204のYES)、位置kについて、全ての偏光配置qでの観測が終了する。
分析システム1の分析装置制御部110は、試料90の照射位置kについて、k=Kであるか否かを判定する(ステップS206)。そして、k=Kでない場合(S206のNO)、全ての照射位置kについて観測が終了していないので、分析装置制御部110は、kを1つインクリメントする(ステップS208)。そして、分析装置制御部110は、次の照射位置kについて、S202~S205の処理を繰り返す。そして、k=Kである場合(S206のYES)、全ての照射位置kについて、全ての偏光配置qでの観測が終了する(ステップS212)。
分析部130は、得られた観測データを用いて、各照射位置kについて、図25に例示されるような波形を示す波形ベクトルeを生成する(ステップS214)。具体的には、分析部130は、照射位置kごとに、偏光配置qのインデックスの1からQの順序で、観測データを時間軸方向に並べる。これにより、分析部130は、各照射位置kについての波形ベクトルe(式17)を生成する。
分析システム1は、得られた波形ベクトル(観測データ)を用いて、図5に示したS114~S122と実質的に同様の処理を行う(ステップS220)。具体的には、分析部130は、得られた波形ベクトルに対して、上述した因子分析を行う(S114)。これにより、分析部130は、分極行列Pkl及び波形ベクトルvを推定する(S116)。ここで、実施の形態2では、推定された分極行列Pkl及び波形ベクトルvには多軸性のドメインの特徴が示されている。すなわち、vの符号およびq依存性から多軸性のドメインを区別することが可能である。vに対応する分極行列Pklがそのドメインの分布を示している。
また、分析部130は、実施の形態1と同様にして、テラヘルツ帯の屈折率スペクトルを推定する(S118)。また、分析部130は、実施の形態1と同様にして、テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルを推定する(S120)。さらに、分析結果出力部140は、分析結果を出力する(S122)。
実施の形態2にかかる分析システム1は、レーザパルス(レーザ光)の偏光方向及びテラヘルツ波の偏光方向の組み合わせである複数の偏光配置qのそれぞれについて、試料90にレーザ光を入射させて、試料90から出射したテラヘルツ波を検出する。そして、分析システム1は、照射位置kごとに、複数の偏光配置qそれぞれの観測データを時間軸方向に並べることで合成された波形ベクトル(e)を生成し、合成された波形ベクトルに対して統計的データ解析を行うことによって、ドメインの分布を推定する。これにより、多軸性の強誘電体において生じ得る複数のドメインの種類について、ドメインの分布を推定する。したがって、複数のドメインの方向や種類を持つ物質に対して、複数のドメインを区別したドメインの可視化を行うことができる。
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
図27は、実施の形態3にかかる光学配置の例を示す図である。上述した実施の形態では、図27の矢印Aで示すように、フェムト秒レーザパルス2が試料90に入射する入射方向と試料90からテラヘルツ波80が出射する出射方向とが同一方向である(透過配置)。しかしながら、フェムト秒レーザパルス2の入射方向とテラヘルツ波80の出射方向とは、同一方向である必要はない。
例えば、図27の矢印B~Dで示すように、フェムト秒レーザパルス2の入射方向とテラヘルツ波80の出射方向とは、同一方向でなくてもよい。図27の矢印Bは、フェムト秒レーザパルス2が試料90に垂直に入射して、テラヘルツ波80が垂直に反射する配置(反射配置)を示す。また、図27の矢印Cは、フェムト秒レーザパルス2が試料90に垂直に入射して、テラヘルツ波80が斜め方向に反射する配置(斜出射検出配置)を示す。また、図27の矢印Dは、フェムト秒レーザパルス2が試料90に斜め方向から入射して、テラヘルツ波80が斜め方向に反射する配置(斜出射検出配置)を示す。このような場合であっても、上述した実施の形態と同様に、3次元的なドメインの可視化が可能である。
なお、このように、フェムト秒レーザパルス2の入射方向とテラヘルツ波80の出射方向とが同一方向でない場合、深さ方向の各層(深さ位置lそれぞれ)で発生するテラヘルツ波82の時間遅延がより大きくなるため、深さ方向の分解能が向上する可能性がある。テラヘルツ波の最大周波数fmax=3THzとすると、その波長は100μmである。ここで、テラヘルツ波観測ではπ/6程度の位相差を検知できることから、深さ方向の分解能としては、100/12μm~10μmを実現できる(但し「~」は近似記号)。反射配置は、さらに、テラヘルツ波又はレーザ光に対して透過率が低い場合に有効である。
(実施の形態4)
次に、実施の形態4について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
上述した実施の形態では、Δn(ω)>0(つまり、式8よりn(ω)>n)であるとしていたが、試料によっては、Δn(ω)<0(つまり、n(ω)<n)である場合もある。本発明は、Δn(ω)<0の試料についても適用可能である。以下、Δn(ω)<0の場合も考慮した方法について述べる。具体的には、実施の形態4では、レーザ波長での群屈折率で決まる、レーザ光の包括線の伝搬速度(c/n)とテラヘルツ波の伝搬速度(c/n(ω))の大小によって本手法がどのような影響を受けるかについて述べる。
上述した実施の形態にかかる実証に用いた試料(クロコン酸結晶)においては、観測されるテラヘルツ波の帯域全体でn(ω)>nの条件が満たされていることは、テラヘルツ時間領域分光の結果からすでに明らかになっていた。しかし、多くの物質で屈折率の分散の傾向はn(ω)>nであるものの、この関係式が一般の未知の物質において成り立っているとは限らない。
ここで、上述したように、n(ω)>nである物質の場合、位相スペクトルθ(ω)の曲線の傾きがマイナス側に大きいテラヘルツ波の発生した深さ位置が、レーザ入射側の深さ位置に対応する。一方、n(ω)<nである物質の場合は、位相スペクトルθ(ω)の曲線の傾きがプラス側に大きいテラヘルツ波の発生した深さ位置が、レーザ入射側の深さ位置に対応する。すなわち、時間軸上では、レーザ入射側の面(深さ位置)で発生したテラヘルツ波の方が、レーザパルスよりもより早く伝搬し、レーザパルスの信号よりもマイナス時刻側にテラヘルツ波の信号が出現する。このようにして、n(ω)<nの試料の場合でも、位相曲線の傾きから、因子成分bと深さ位置lとの対応を判定することができる。
図28は、実施の形態4にかかる方法を説明するための図である。図28を用いて、n(ω)とnの大小関係を概算評価する方法を述べる。ここでは、レーザ光に対して試料は十分透明であるとする。まず、レーザパルス(フェムト秒レーザパルス2)に対する群屈折率nは、レーザ波長域での屈折率スペクトルから計算することができ、これは本発明での解析では既知としてよい。一方、テラヘルツ帯の屈折率スペクトルn(ω)は未知である。
そこで、可視・テラヘルツ帯の屈折率情報が知られており、観測されるテラヘルツ周波数帯で位相整合条件がよく満たされている結晶を参照物質として、同条件でテラヘルツ波形を測定することを考える。ここでは、チタンサファイアモードロックレーザの波長(800nm)で非線形光学効果によるテラヘルツ波発生の位相整合条件がよく満たされている結晶を参照物質として用いる。チタンサファイアモードロックレーザの波長(800nm)では、ZnTe結晶がよく使用される。参照物質はn ref~nTHz refで位相整合条件がよく満たされているとする(但し「~」は近似記号)。ここで、nTHz refは、テラヘルツ放射の参照物質のテラヘルツ帯の屈折率の平均値である。この場合、観測されるテラヘルツ波はほぼ全周波数で同位相となるため、シャープなピークをとることが知られている。
図28は、レーザパルス及びテラヘルツ波が伝播した際のある時刻での位置を示している。図28において、横軸は光軸方向を示す。図28の(a)は、物体(試料)がない場合(つまり真空の場合)の、フェムト秒レーザパルス2の伝播を示す。図28の(a)は、ある時刻におけるフェムト秒レーザパルス2の位置を示す。また、図28の(b)は、フェムト秒レーザパルス2、及び、位相整合条件が良い参照物質で発生したテラヘルツ波の伝播を示す。図28の(c)は、フェムト秒レーザパルス2、及び、n(ω)>nの試料で発生したテラヘルツ波の伝播を示す。図28の(d)は、フェムト秒レーザパルス2、及び、n(ω)<nの試料で発生したテラヘルツ波の伝播を示す。
n(ω)とnの大小の評価方法について述べる。参照物質の厚さをdrefとすると、真空を伝搬する場合と比べ、光路長は、以下に示す式29のように増加している。ここで、n refは、テラヘルツ放射の参照物質におけるレーザ波長での群屈折率である。この群屈折率n refは既知であるとする。
Figure 2022021390000030
・・・(29)
したがって、以下の式30で示す時間遅延が生じていると看做される。δtrefは、真空を伝搬した場合と比べた、参照物質伝搬時の時間遅延を示す。
Figure 2022021390000031
・・・(30)
これにより、後述する、試料伝搬時のレーザ光及びテラヘルツ波の時間遅延の、基準点が定まる。つまり、図28において、cδtrefから、矢印Aで示す遅延の基準点Pが定まる。
一方、試料のレーザ入射側で発生したテラヘルツ波が試料内を伝搬し、放射される場合の時間遅延は、以下の式31で表される。式31は、真空を伝搬した場合(基準点Pに対応)と比べた、試料伝搬時のテラヘルツ波の時間遅延を示す。式31において、nは観測テラヘルツ帯域での屈折率の平均値である。
Figure 2022021390000032
・・・(31)
また、テラヘルツ波出射側でテラヘルツ波が発生した場合の時間遅延は、以下の式32で表される。式32は、真空を伝搬した場合(基準点Pに対応)と比べた、試料伝搬時のレーザ光の時間遅延を示す。
Figure 2022021390000033
・・・(32)
図28の(c)で示すように、実験で観測されたテラヘルツ波の第一のメインピーク(最も早く観測点に到達したピーク)の時刻がδtlaser samから予想される位置にある場合、レーザ光がテラヘルツ波よりも早く伝搬している。この場合、この試料では、n(ω)>nとみなせる。一方、図28の(d)で示すように、実験で観測されたテラヘルツ波の第一のメインピークの時刻がδtlaser samからの予測位置よりも早い場合、この関係式n(ω)>nは成り立っていない。したがって、この試料では、n(ω)<nと予測される。なお、図28の(c)及び(d)の黒丸は、試料においてテラヘルツ波の第一のメインピークが発生したと予想される点を示す。つまり、n(ω)>nの試料では、試料のテラヘルツ波出射側で発生したテラヘルツ波が、最も早く観測点に到達すると予想される。一方、n(ω)<nの試料では、試料のレーザ入射側で発生したテラヘルツ波が、最も早く観測点に到達すると予想される。このようにして、n(ω)とnの大小関係は、試料からのテラヘルツ波形の第一のメインピークの位置を、参照物質からの波形のメインピークの位置と比較することにより、判定することができる。
(変形例)
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述した実施の形態では、試料が強誘電体であるとしたが、このような構成に限られない。本実施の形態は、強磁性体、焦電体又は非線形光学結晶にも適用可能である。また、上述した実施の形態では、試料の電気分極の3次元ドメインを可視化するとしたが、このような構成に限られない。例えば、試料が強磁性体である場合、磁気分極(磁化)の3次元ドメインを可視化するようにしてもよい。
また、上述した実施の形態では、試料の3次元的な分極の分布及び試料の各深さ位置で発生したテラヘルツ波の波形を推定するために、因子分析を用いているが、このような構成に限定されない。例えば、動的因子分析(Dynamic factor analysis)を用いてもよい。すなわち、試料の厚さが一様でない場合は、それぞれの照射位置で観測されるテラヘルツ波に時間シフトが生じる。この場合、動的因子分析(Dynamic factor analysis)を適用することで、厚さの揺らぎによる時間軸上でのシフトを考慮して、上記の推定を行うことができる。
また、上述した実施の形態では、試料90にフェムト秒レーザパルス2等のレーザパルスを照射することによってテラヘルツ波80を発生させるとしたが、このような構成に限られない。テラヘルツ波80を発生させることが可能な任意のレーザ光を照射してもよい。
また、上述したフローチャートにおいて、各処理(ステップ)の順序は、適宜、変更可能である。また、複数ある処理(ステップ)のうちの1つ以上は、省略されてもよい。例えば、図5のS118,S120の処理の少なくとも一方はなくてもよい。また、図26においては、ある照射位置kについて全ての偏光配置q(q=1~Q)で観測を行ってから、次の照射位置k+1で同様の観測を行うようにしているが、このような順序に限られない。ある偏光配置qについて全ての照射位置kで観測を行ってから、次の偏光配置q+1で同様の観測を行うようにしてもよい。つまり、図26において、kとqとを入れ替えてもよい。
1 分析システム
2 フェムト秒レーザパルス
4 ポンプパルス
6 トリガパルス
10 分析装置
12 レーザ光源
14 ビームスプリッタ
16 オプティカルチョッパ
18 反射型可変NDフィルタ
20 1/2波長板
22 近赤外対物レンズ
24,30 軸外し放物面鏡
26 黒色低密度ポリエチレンフィルム
28 ワイヤーグリッド偏光子
32 光伝導スイッチ
40 光学遅延ステージ
42 可動鏡
44 レンズ
46 電流電圧変換器
48 ロックイン検出器
50 試料保持装置
52 試料保持部
54,56 可動ステージ
80,82 テラヘルツ波
90 試料
90a 入射面
90b 出射面
100 情報処理装置
110 分析装置制御部
120 取得部
130 分析部
140 分析結果出力部

Claims (16)

  1. 試料の第1の面に沿ってレーザ光を走査して前記レーザ光を前記第1の面の側から前記試料に入射させ、前記試料から出射したテラヘルツ波を検出する分析装置と、
    前記テラヘルツ波の観測された振幅の時間的な推移を示す観測データを取得する取得部と、
    取得された前記観測データに対して統計的データ解析を行うことによって、前記試料の、前記レーザ光の入射方向に沿った方向である深さ方向の複数の深さ位置それぞれにおける、前記レーザ光を走査した位置に対応する照射位置に関するドメインの分布を推定する分析部と、
    を有する分析システム。
  2. 前記取得部は、前記試料の前記複数の深さ位置それぞれで発生し前記試料内を伝搬した後に前記試料の外に出射された前記テラヘルツ波に関する前記観測データを取得し、
    前記分析部は、取得された前記観測データに対して統計的データ解析を行うことによって、前記取得部で取得された前記観測データに対応する前記テラヘルツ波の波形を推定する、
    請求項1に記載の分析システム。
  3. 前記分析部は、前記複数の深さ位置それぞれで発生したテラヘルツ波の波形に対応する位相スペクトルを用いて、推定された前記ドメインの分布に対応する前記深さ位置を推定する、
    請求項2に記載の分析システム。
  4. 前記分析部は、取得された前記観測データに対して因子分析を行うことによって、前記ドメインの分布を推定する、
    請求項1から3のいずれか1項に記載の分析システム。
  5. 前記分析部は、前記複数の深さ位置それぞれで発生したテラヘルツ波の波形に対応する位相スペクトルを用いて、テラヘルツ帯の屈折率スペクトルを推定する、
    請求項2から4のいずれか1項に記載の分析システム。
  6. 前記分析部は、前記複数の深さ位置それぞれで発生したテラヘルツ波の波形に対応する複素振幅スペクトルを用いて、テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルを推定する、
    請求項2から5のいずれか1項に記載の分析システム。
  7. 前記分析装置は、前記レーザ光の偏光方向及び前記テラヘルツ波の偏光方向の組み合わせである複数の偏光配置のそれぞれについて、前記試料にレーザ光を入射させて、前記試料から出射した前記テラヘルツ波を検出し、
    前記分析部は、前記照射位置ごとに、複数の前記偏光配置それぞれの前記観測データを時間軸方向に並べることで合成された波形ベクトルを生成し、合成された波形ベクトルに対して統計的データ解析を行うことによって、前記ドメインの分布を推定する、
    請求項1から6のいずれか1項に記載の分析システム。
  8. 試料の第1の面に沿ってレーザ光を走査して前記レーザ光を前記第1の面の側から前記試料に入射させ、前記試料から出射したテラヘルツ波を検出する分析装置を制御する分析装置制御部と、
    前記テラヘルツ波の観測された振幅の時間的な推移を示す観測データを取得する取得部と、
    取得された前記観測データに対して統計的データ解析を行うことによって、前記試料の、前記レーザ光の入射方向に沿った方向である深さ方向の複数の深さ位置それぞれにおける、前記レーザ光を走査した位置に対応する照射位置に関するドメインの分布を推定する分析部と、
    を有する情報処理装置。
  9. 試料の第1の面に沿ってレーザ光を走査して前記レーザ光を前記第1の面の側から前記試料に入射させ、前記試料から出射したテラヘルツ波を検出し、
    前記テラヘルツ波の観測された振幅の時間的な推移を示す観測データを取得し、
    取得された前記観測データに対して統計的データ解析を行うことによって、前記試料の、前記レーザ光の入射方向に沿った方向である深さ方向の複数の深さ位置それぞれにおける、前記レーザ光を走査した位置に対応する照射位置に関するドメインの分布を推定する、
    分析方法。
  10. 前記試料の前記複数の深さ位置それぞれで発生し前記試料内を伝搬した後に前記試料の外に出射された前記テラヘルツ波に関する前記観測データを取得し、
    取得された前記観測データに対して統計的データ解析を行うことによって、取得された前記観測データに対応する前記テラヘルツ波の波形を推定する、
    請求項9に記載の分析方法。
  11. 前記複数の深さ位置それぞれで発生したテラヘルツ波の波形に対応する位相スペクトルを用いて、推定された前記ドメインの分布に対応する前記深さ位置を推定する、
    請求項10に記載の分析方法。
  12. 取得された前記観測データに対して因子分析を行うことによって、前記ドメインの分布を推定する、
    請求項9から11のいずれか1項に記載の分析方法。
  13. 前記複数の深さ位置それぞれで発生したテラヘルツ波の波形に対応する位相スペクトルを用いて、テラヘルツ帯の屈折率スペクトルを推定する、
    請求項10から12のいずれか1項に記載の分析方法。
  14. 前記複数の深さ位置それぞれで発生したテラヘルツ波の波形に対応する複素振幅スペクトルを用いて、テラヘルツ帯の吸収係数スペクトルを推定する、
    請求項10から13のいずれか1項に記載の分析方法。
  15. 前記レーザ光の偏光方向及び前記テラヘルツ波の偏光方向の組み合わせである複数の偏光配置のそれぞれについて、前記試料にレーザ光を入射させて、前記試料から出射した前記テラヘルツ波を検出し、
    前記照射位置ごとに、複数の前記偏光配置それぞれの前記観測データを時間軸方向に並べることで合成された波形ベクトルを生成し、合成された波形ベクトルに対して統計的データ解析を行うことによって、前記ドメインの分布を推定する、
    請求項9から14のいずれか1項に記載の分析方法。
  16. 試料の第1の面に沿ってレーザ光を走査して前記レーザ光を前記第1の面の側から前記試料に入射させ、前記試料から出射したテラヘルツ波を検出する分析装置を制御するステップと、
    前記テラヘルツ波の観測された振幅の時間的な推移を示す観測データを取得するステップと、
    取得された前記観測データに対して統計的データ解析を行うことによって、前記試料の、前記レーザ光の入射方向に沿った方向である深さ方向の複数の深さ位置それぞれにおける、前記レーザ光を走査した位置に対応する照射位置に関するドメインの分布を推定するステップと、
    をコンピュータに実行させるプログラム。
JP2020124905A 2020-07-22 2020-07-22 分析システム、情報処理装置、分析方法及びプログラム Pending JP2022021390A (ja)

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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TWI816446B (zh) * 2022-06-21 2023-09-21 米雷迪恩飛秒光源股份有限公司 一種雷射應用處理系統及其方法

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TWI816446B (zh) * 2022-06-21 2023-09-21 米雷迪恩飛秒光源股份有限公司 一種雷射應用處理系統及其方法

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