JP5728449B2 - 光増強素子およびその作製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、金属微粒子による局在表面プラズモンを利用した光増強素子およびその作製方法に関する。
分析対象物に単波長の光(レーザー光)を照射して得られるラマン散乱光を分光してラマン散乱光のスペクトルを得るラマン分光法は、物質の同定等に利用されている。しかしながら、通常、分析対象物から得られるラマン散乱光は信号が微弱であるため高感度で検出することが困難である。一方、分析対象物の蛍光を利用した物質の同定には単波長のレーザー光は不要であり、その検出感度もラマン分光法に比べて桁違いに高いが、絶対量で1フェムトモルのレベルをはるかに下回る極微量成分の蛍光分析を実現するためには、現状の検出感度をさらに数桁高めることが望まれている。
近年においては、金属ナノ粒子の局在表面プラズモンを利用して、金属ナノ粒子の表面に吸着させた分析対象物にレーザー光などを照射し、これにより発生するラマン散乱光や蛍光を飛躍的に増強させて検出する表面増強ラマン散乱(SERS)や、表面増強蛍光(SEF)の研究が進められている。
例えば、特許文献1には、互いに独立して形成された、断面粒径が100〜800nm、厚みが30〜50nmの平板状金属粒子が基板上に多数設けられてなる蛍光増強素子が開示されている。
また、例えば、特許文献2には、基板と、基板上に形成されたプラズモン共鳴ミラーと、プラズモン共鳴ミラー上に形成された誘電体よりなるスペーサ層と、スペーサ層上に形成されたナノ粒子層と、ナノ粒子層上に形成された保護被覆層とを具えてなる光センサが開示されている。この保護被覆層は、例えば酸化ケイ素などの誘電体材料により形成され、その厚みが5nm未満とされることが記載されている。
特開2007−139540号公報 特表2007−538264号公報
而して、金属微粒子による局在表面プラズモンを利用した光増強素子においては、検体又は検体を含む溶媒等が金属微粒子と直接接触して化学反応が生ずることを抑制するために、上記特許文献2に記載されているように、保護層を形成することが行われている。
また、一般的には基板との化学結合が存在しない状態で基板上に担持される金属微粒子層の機械的堅牢性は甚だ小さく、柔らかい紙や布で触れる程度に拭うだけで基板から容易に除去されてしまうため、これを防ぐ意味でも保護層の役割は重要である。
しかしながら、保護層の厚さを増すと、検体と金属微粒子表面との間の距離が長くなり、光増強の程度が極端に低くなる、という問題がある。
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、保護層による増強電磁場形成層の十分な保護機能を有しながら、光増強効果の低下を十分に抑制することのできる光増強素子を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、このような光増強素子を確実に得ることのできる光増強素子の作製方法を提供することにある。
本発明の光増強素子は、基板と、この基板の表面上に形成された多数の金属微粒子による増強電磁場形成層とを具えている光増強素子において、
前記増強電磁場形成層における金属微粒子の各々は、互いに独立して分散しており、
隣接する金属微粒子間において露出される基板の表面部分を含む前記増強電磁場形成層の表面上には、保護層が形成されており、当該保護層は、当該金属微粒子を起点として厚さ方向に配向された柱状組織を有することを特徴とする。
本発明の光増強素子においては、前記金属微粒子が銀微粒子であって、
前記保護層の厚さが50nm以上である構成とされていることが好ましい。
本発明の光増強素子の作製方法は、上記の光増強素子を作製する方法であって、
隣接する金属微粒子間において露出される基板の表面部分を含む増強電磁場形成層の表面上に、RFスパッタ蒸着法、電子線蒸着法およびECRスパッタ蒸着法からなる群より選択される方法により、金属微粒子を起点として厚さ方向に配向された柱状組織を有する保護層を形成する工程を有することを特徴とする。
本発明の光増強素子によれば、保護層が柱状組織構造を有することにより、保護層の厚さを大きくした場合であっても、金属微粒子による局在表面プラズモンを有効に利用することができるので、光増強効果の低下を抑制することができると共に、光増強効果について高い再現性を得ることができる。
また、保護層の厚さを大きくすることができるので、例えばハロゲンイオンを多量に(例えば0.1M濃度以上)含有する溶液などの特定の分析対象物に対する増強電磁場形成層(金属微粒子)の十分な保護機能を得ることができる。
本発明の光増強素子の作製方法によれば、上記効果が発現される光増強素子を確実に得ることができる。
本発明の光増強素子の一例における構成の概略を示す模式図である。 実施例において、ラマン散乱光測定と蛍光測定を行うために構築した測定システムの構成の概略を示す説明図である。 本発明に係る光増強素子および比較用の光増強素子の各々について、試料としてローダミン6Gを用いて測定された、保護層の厚さと蛍光増強率の関係を示すグラフである。 本発明に係る光増強素子および比較用の光増強素子の各々について、試料としてフクシンを用いて測定された、保護層の厚さと蛍光増強率の関係を示すグラフである。 参考例1において作製した光増強素子について測定された、試料の透過吸光スペクトルを示すグラフである。 参考例2において作製した光増強素子について測定された、試料の透過吸光スペクトルを示すグラフである。 参考例3において作製した光増強素子について測定された、試料の透過吸光スペクトルを示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の光増強素子の一例における構成の概略を示す模式図である。
この光増強素子10は、例えば、ラマン活性化学種に対する励起光照射によるラマン散乱光を増強させるもの、あるいは、発光性化学種に対する励起光照射による発光(例えば蛍光)を増強させるものであって、例えば平板状の基板20と、この基板20の表面上に形成された、多数の金属微粒子31による増強電磁場形成層30とを具えている。
基板20の材質は、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂、金属などを例示することができる。後述するように、光増強素子10の作製工程において加熱処理(例えば100℃以上の加熱)が行われる場合には、例えばガラス、ポリイミド樹脂などの耐熱性を有するものであることが好ましい。
増強電磁場形成層30は、例えば積重されていない多数の金属微粒子31により構成されており、この例においては、各々の金属微粒子31は、基板20の表面上において、独立した状態で分散(散在)している。増強電磁場形成層30は、金属微粒子31が二次元的にランダムに配列された構成とされていても、金属微粒子31が規則的に配列されてなる構成とされていてもよい。
増強電磁場形成層30を構成する金属微粒子31としては、例えば銀を好適に用いることができるが、励起光の照射により励起されて表面プラズモンを励起しうるものであればよく、例えば金、アルミニウムなどが用いられてもよい。
金属微粒子31の形状としては、例えば扁平な球形状、平板状の形状など、形状異方性を有するものを好適に用いることができる。ここに、金属微粒子31は、いずれも均一の大きさ及び形状を備えていることが望ましいが、大きさや形状に多少のばらつきがあってもよい。
また、金属微粒子31の粒径としては、励起光の波長以下の大きさであることが好ましい。ここに、本明細書において「粒径」とは、顕微鏡法による投影面積円相当径をいう。具体的には、次のようにして求められる。すなわち、光増強素子10(増強電磁場形成層30)の表面における任意に選ばれる領域について、長さ2μmの線分が長さ6cmに拡大(倍率30K倍)されるよう観察される走査型顕微鏡の視野領域(例えば1.5μm×2μm)を撮像領域として、光増強素子10における当該領域の二次電子像を得、明るさの指標(256段階)が100程度以上の金属微粒子の各々について、金属微粒子31の面積と同一面積の真円の直径が当該金属微粒子31の粒径として取得される。
金属微粒子31の粒径は、例えば5〜300nmの範囲内であり、厚みは例えば5〜70nmの範囲内である。
増強電磁場形成層30における金属微粒子(金属ナノ粒子)31の密度は、例えば108 〜1010個/cm2 であることが好ましい。
このような増強電磁場形成層30の形成方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属ナノ粒子が適宜の溶媒に分散された分散液をスピンコート法により塗布して加熱する方法、ディッピングして加熱する方法、真空蒸着する方法、スパッタ蒸着する方法などを好適に用いることができる。
而して、上記の光増強素子10においては、隣接する金属微粒子31間において露出される基板20の表面部分を含む増強電磁場形成層30(金属微粒子31)の表面上には、柱状組織構造を有する保護層40が形成されている。
保護層40は、柱状組織41が増強電磁場形成層30を構成する各々の金属微粒子31に関連して、具体的には、金属微粒子31を起点として厚さ方向に配向されて構成されている。なお、柱状組織41は、個々の金属微粒子31に対応するものではない。
保護層40を構成する材料としては、例えば酸化ケイ素、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ボロン、酸化リン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウムなどを用いることができる。
保護層40の平均厚さは、例えば50〜250nmであることが好ましい。特に、保護層40の厚さが85nm以上であることにより、生理食塩水のようなハロゲンイオン(例えばCl- )を多量に含有する溶液を分析対象とする場合であっても、十分な耐性(保護機能)が得られる。一方、保護層40の厚さが50nm未満では十分な耐性が得られず光増強効果が低下する。また、保護層40の厚さが250nmを超える場合においても、徐々にではあるが保護層の厚さのさらなる増加により光増強効果が低下する。
個々の柱状組織41の平均幅は、例えば金属微粒子31の粒径と同等の大きさである。
上記の光増強素子10は、次のようにして作製することができる。
すなわち、先ず、基板20の表面上に金属ナノ粒子膜を形成し、これを加熱処理することにより粒状性を変化させ、これにより、粒径が所定範囲内にある金属微粒子31による増強電磁場形成層30を形成する(増強電磁場形成層形成工程)。ここに、形成すべき金属微粒子31の粒径は、加熱処理条件を適宜変更することにより調整することができる。 基板15の表面上に金属ナノ粒子膜を形成する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属ナノ粒子が適宜の溶媒に分散された分散液をスピンコート法により塗布して加熱する方法、ディッピングして加熱する方法、あるいは、真空蒸着法やスパッタリングなどの物理的蒸着法などを好適に用いることができる。
次いで、隣接する金属微粒子31間において露出される基板20の表面部分を含む増強電磁場形成層30(金属微粒子31)の表面上に、蒸着法により、金属微粒子31を起点として柱状組織(柱状結晶)41を厚さ方向に成長させることにより柱状組織構造を有する保護層40を形成し、以て、上記の光増強素子10を得ることができる。ここに、形成すべき保護層40の厚さは、成長条件、時間を適宜変更することにより調整することができる。柱状組織41の成長速度は、例えば8.5〔nm/min〕であり、時間は、例えば2〜60〔min〕である。
保護層40を形成する方法としては、RFスパッタ蒸着法、電子線蒸着法およびECRスパッタ蒸着法からなる群より選択される方法を好適に利用することができる。
而して、上記構成の光増強素子10によれば、保護層40が柱状組織構造を有することにより、保護層40の厚さを大きくした場合であっても、金属微粒子31による局在表面プラズモンを有効に利用することができるので、光増強効果の低下を抑制することができる。
また、保護層40の厚さを例えば100nm以上と大きくすることができるので、ハロゲンイオン(例えばCl- )を多量に含有する溶液などの特定の分析対象物に対する増強電磁場形成層30(金属微粒子31)の十分な保護機能(耐性)を得ることができる。
〔光増強素子の作製例1〕
図1に示す構成に従って、次のようにして、各々保護層の厚さの異なる8種類の本発明に係る光増強素子(10)を作製した。
基板(20)として数cm角の大きさのスライドガラスを用い、このスライドガラスの表面上に、銀を略10nmの厚みに蒸着させて金属微粒子形成用銀膜を形成し、その後約100℃のホットプレート上で数分間加熱処理することにより粒状性を変化させて増強電磁場形成層(30)としての多数の銀微粒子(31)による銀微粒子単層膜を形成した。得られた銀微粒子単層膜における銀微粒子の粒径は、50〜150nmの範囲内にあり、厚さは平均で約20nmであり、銀微粒子の密度はおおよそ5×109 個/cm2 である。
次いで、RFスパッタ装置「RFS−200型」(Ulvac社製)を用いて、酸化ケイ素(SiO2 )をターゲットとして下記条件でスパッタを行うことにより、隣接する銀微粒子間において露出される基板の表面部分を含む増強電磁場形成層の表面上に、柱状組織構造を有する保護層(40)を形成した。保護層の厚さは、時間を適宜に変更することにより調整した。
<スパッタ条件>
・ターゲットから増強電磁場形成層の表面までの離間距離:45mm
・雰囲気:Ar;3.0Pa(放電時)
・放電出力:100W
・RF周波数:13.6MHz
・柱状組織の成長速度:8.5nm/min
〔光増強素子の作製例2〕
上記の光増強素子の作製例1において、保護層をRFスパッタ法に代えてスピンコート法により形成したことの他は、上記光増強素子の作製例1と同様にして、各々保護層の厚さが異なる6種類の比較用の光増強素子を作製した。
〔実施例1〕
本発明に係る光増強素子および比較用の光増強素子の各々について、光増強素子における保護層の表面上に、ローダミン6G(Rh6G:発光量子収率およそ1)色素の希薄エタノール溶液を3000回転でスピンコートすることにより、色素分子を保護層の表面上に担持させた。ここに、光増強素子の表面に担持される色素分子の密度とスピンコートに用いた溶液の色素濃度との関係は、ローダミン6Gの濃度が1μMである場合に、色素分子の担持量は3×1011個/cm2 である。
そして、励起光照射により試料(色素分子)から発せられる蛍光(蛍光強度)を図2に示す構成の測定システムにより測定した。結果を図3に示す。図3において、縦軸は増強度〔単位:倍〕を示す。また、本発明に係る光増強素子の結果を実線(塗りつぶした四角形状のプロット)で示し、比較用の光増強素子の結果を二点鎖線(白抜きの四角形状のプロット)で示す。増強度(倍)とは、増強効果が無いスライドガラスの表面に同作法で試料をセットした場合の計測値に対して、何倍の強さの計測値を得たかを示すものである。 図2において、符号50は、蛍光の測定における励起用光源として用いた、出力1mW未満の緑色ダイオードレーザー(波長532nm)であり、フィルタ51を介して非集光(エネルギー密度約30mW/cm2 )もしくは反集光(デフォーカスされた、エネルギー密度約10mW/cm2 以下)励起光として光増強素子10に照射する。励起用光源50よりの励起光は、光増強素子10に対して45°の入射角度で入射させ、光増強素子10に担持された色素分子による90°の角度方向に散乱される蛍光を、集光レンズ52によって、電子冷却型ダイオードアレイ検出器55の受光ヘッド54にフィルタ53を介して集光した。
〔実施例2〕
実施例1において、試料としてフクシン(発光量子収率およそ0.01未満)を用い、光増強素子における保護層の表面上に3×1012個/cm2 の密度で担持させ、実施例1と同様の方法により蛍光(蛍光強度)を測定した。結果を図4に示す。図4において、縦軸は増強度〔単位:倍〕を示す。また、本発明に係る光増強素子の結果を実線(塗りつぶした四角形状のプロット)で示し、比較用の光増強素子の結果を二点鎖線(白抜きの四角形状のプロット)で示す。
以上の結果、本発明に係る光増強素子によれば、色素自体の発光性に拘らず、保護層の膜厚が200nm以上程度となるまでほぼ一定の蛍光増強率が維持されており、従って、保護層の厚さが大きくなっても、光増強効果の低下を抑制することができることが確認された。
また出力1mW未満のHe−Neレーザー(波長632.8nm)を励起光源として用いた他は、図2と同じ配置でローダミン6G色素のラマン散乱強度を保護膜の厚さの関数として測定した。その結果、保護層の膜厚が200nmを超えても、色素分子が直接銀微粒子表面に吸着した条件(通常では、SERS信号が最大になる条件)で得られた信号と変わらない大きさの増強ラマン信号(増強度は約105倍)が得られた。一方、比較用の光増強素子においては、保護膜の厚さが数nm以下でラマン散乱強度は激減し、保護膜の厚さが10nm以上の条件ではラマン信号は完全に消滅した。
このような長距離増強が生じる理由の一としては、次のように推察される。すなわち、蒸着により形成された保護層は、銀微粒子の表面上と隣接する銀微粒子間に露出される基板の表面部分とでは成膜状況が異なるので、銀微粒子の表面上に堆積した柱状組織と基板の表面部分に堆積した柱状組織の間には粒界が生じ、当該粒界は光増強素子の表面にまで達しているものと思われる。従って、保護層の厚さを大きくした場合であっても、銀微粒子に生ずる電場(局在表面プラズモン)が保護層の表面に伝達されやすくなるためであると推察される。
〔参考例1〕
上記光増強素子の作製例1と同様にして、保護層の厚さが25nmである試験用光増強素子を作製した。
この試験用光増強素子を、生理食塩水(0.9wt%/v)の2倍濃度にあたる食塩水(2wt%/v、モル濃度で約0.3Mに相当する高濃度)に15分間の間浸漬させる。その後、純水で十分にリンス、乾燥させ、試料をそれぞれの試験用光増強素子に担持させて透過吸光スペクトルを測定した。結果を図5−Aに示す。図5−Aにおいて、破線で示す曲線は、食塩水に浸漬する前の試験用光増強素子に係るものである。また、実線で示す曲線は食塩水に浸漬させた後の試験用光増強素子に係るものである。
〔参考例2〕
上記光増強素子の作製例1と同様にして、保護層の厚さが85nmである試験用光増強素子を複数個作製した。
これらの試験用光増強素子について、食塩水に対する浸漬時間を適宜変更したことの他は上記参考例1と同様の方法により、試料の透過吸光スペクトルを測定した。結果を図5−Bに示す。図5−Bにおいて、破線で示す曲線は、食塩水に浸漬する前の試験用光増強素子に係るものである。また、実線で示す曲線は食塩水に浸漬させた後の試験用光増強素子に係るものであって、数値は浸漬時間を示す。
〔参考例3〕
上記光増強素子の作製例1と同様にして、保護層の厚さが130nmである試験用光増強素子を複数個作製した。
これらの試験用光増強素子について、食塩水に対する浸漬時間を適宜変更したことの他は上記参考例1と同様の方法により、試料の透過吸光スペクトルを測定した。結果を図5−Cに示す。図5−Cにおいて、破線で示す曲線は、食塩水に浸漬する前の試験用光増強素子に係るものである。また、実線で示す曲線は食塩水に浸漬させた後の試験用光増強素子に係るものであって、数値は浸漬時間を示す。
以上の結果より、増強電磁場形成層としての銀微粒子単層膜の、例えば生理食塩水に含有される高濃度ハロゲン化物イオンによる腐食を確実に防止するためには、保護層の厚さをおよそ85nm以上とする必要があることが確認された。また、保護層を指や紙でこすっても当該保護層が剥がれない程度の機械的強度は、例えば保護層の厚さをおよそ30nm以上とすることにより得られることが確認された。
一方、保護層の厚さが85nm未満である場合(参考例1)には、透過吸光スペクトルは、肉眼で明確に識別できる色調の変化(ブルーシフト)を示した。これは、銀微粒子のサイズが腐食により減少することによって試料の色調が黄色に変化するためであると考えられる。
なお、保護層の厚さが15nm以下の光増強素子について同様の試験を行ったところ、食塩水に浸漬させた後の透過吸光スペクトルは取得不能であった。これは、保護層による保護作用が極めて不十分であるため、リンス時に全ての銀微粒子(増強電磁場形成層)が基板から剥がれ落ちてしまったためであると考えられる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明に係る光増強素子は、高反射層および誘電体層を更に具えた多層構造を有する構成とされていてもよい。このような構造のものにおいては、基板の表面上に高反射層および誘電体層がこの順で形成され、誘電体層の表面上に増強電磁場形成層が形成される。
10 光増強素子
20 基板
30 増強電磁場形成層
31 金属微粒子
40 保護層
41 柱状組織
50 励起用光源
51 フィルタ
52 集光レンズ
53 フィルタ
54 受光ヘッド
55 電子冷却型ダイオードアレイ検出器

Claims (3)

  1. 基板と、この基板の表面上に形成された多数の金属微粒子による増強電磁場形成層とを具えている光増強素子において、
    前記増強電磁場形成層における金属微粒子の各々は、互いに独立して分散しており、
    隣接する金属微粒子間において露出される基板の表面部分を含む前記増強電磁場形成層の表面上には、保護層が形成されており、当該保護層は、当該金属微粒子を起点として厚さ方向に配向された柱状組織を有することを特徴とする光増強素子。
  2. 前記金属微粒子が銀微粒子であって、
    前記保護層の厚さが50nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の光増強素子。
  3. 請求項1または請求項2に記載の光増強素子を作製する方法であって、
    隣接する金属微粒子間において露出される基板の表面部分を含む増強電磁場形成層の表面上に、RFスパッタ蒸着法、電子線蒸着法およびECRスパッタ蒸着法からなる群より選択される方法により、金属微粒子を起点として厚さ方向に配向された柱状組織を有する保護層を形成する工程を有することを特徴とする光増強素子の作製方法。
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