近年湖沼等の静水域では、上流の川から流れ込む栄養分が多くなり、水生植物による浄化が追いつかず、しばしばアオコが大量に発生するようになった。このアオコは、核という構造を持たない原核生物で藍藻種に属し、シアノバクテリアとも呼ばれている。
アオコは、それぞれ鉛筆を束ねて蓋をしたような形状のガス胞(浮き袋)を有し、体内の栄養分が薄くなると浸透圧が上昇して、浮き袋が膨らんで浮上し、太陽光によって光合成を行う。光合成によって体内の栄養分の濃度が濃くなると、浸透圧が低下して浮き袋が縮まり沈降すると考えられている。
アオコは、昼間水面に浮かび上がり光合成を行う際に、ミクロキスティンという猛毒を産出する。また水道等の取水口に流れ込むと、水が青臭いにおいを放つ。さらにはアオコが大量に発生すると、湖沼等の中に差し込む光を遮り、水生植物は光合成を行うことができないために死滅する。
またアオコが大量に発生すると、夜間においてはアオコの酸素呼吸によって湖沼等が酸欠状態となり、生物が死滅する結果となる。更にそれらの死骸からの栄養分を得て、アオコが益々増殖するという悪循環が生じる。この状態になると、たとえ上流の水を浄化しても、アオコが優先種となっているため湖沼等が再生することはなく、何らかの手段によって、アオコを駆除する以外はない。
従来、湖沼等に発生するアオコを駆除する手段として、湖沼等の水質や環境等を変化させて、アオコを死滅させる手段がある。例えば、湖沼等の水中にオゾンを吹き込んでアオコを死滅させる手段、湖沼等に薬品を添加して藻類を固定化して沈殿させる手段、水中に設置した透明ガラス板の間にアオコを含む水を通過させ、紫外線を照射してアオコを死滅させる手段、水中に気泡を発生させて群体状のアオコを分断して処理する手段、あるいは水中ファンによって水を撹拌し、群体状のアオコを分断して処理する手段がある。
しかし上述した手段では、湖沼等の広範囲において発生したアオコを駆除するためには、駆除に長時間が掛り費用も嵩み、さらには水質の汚染や生態系への影響が懸念される。
湖沼等に発生するアオコを駆除する他の手段として、アオコを機械的に破壊する手段が提案されている。例えばアオコを含む液体をポンプで加圧し、ノズルから噴出させて圧力を急激に低下させ、キャビテーションを発生させ、このキャビテーションによって、アオコを粉砕する手段がある。
またアオコを含む水を加圧してノズルから噴出させ、更に回転渦流に変換して速度を増し、この回転渦流を衝突部材に衝突させて、群体化したアオコを分離すると共に、アオコの浮き袋を破壊する手段がある。さらには、藻類を含む水に水撃圧を加えて、藻類を破壊する手段がある。またアオコを含む水に超音波振動を与えて、アオコの浮き袋を破壊する手段がある。
しかるに上述した手段においては、いずれもアオコを湖沼等から収集する必要がある。かかるアオコの収集手段としては、例えば藻類の発生場所にフロータを浮遊させ、このフロータの水面下に配置された集水口から、回収用ポンプによって、アオコを水と一緒に吸い込んで収集する手段が提案されている(特許文献1参照。)。なお上記フロータは、スクリュー等の移動手段によって移動できるとも記載されている。
またモーターによってアオコが発生した水面に渦流を生じさせ、この渦流の中心の水面下に設けた吸入口から、アオコを含む水を吸引する手段が提案されている(特許文献2参照。)。さらにはアオコが発生した水面の一定範囲を浮遊フェンスで取り囲み、この浮遊フェンスの内周に沿って配列したノズルから、水をポンプで浮遊フェンスの中央部に向けて噴出させ、この浮遊フェンスの中央部の水面下に設けた吸入口から、アオコを含む水を吸引する手段が提案されている(特許文献3参照。)。
また上方から見て末広がり形状の容器をネット状の部材によって作成し、この容器をフロートによって水面に浮かべ、この末広がり形状の容器の開口部に、風や波によって運ばれてくる浮遊物を流入させて収集する手段が提案されている(特許文献4参照。)。この末広がり形状の容器は、先端部をアンカーに連結すると共に後端部に風受け部を設け、開口部が、常に風に向うように構成されている。また藻類や微生物は、収集した浮遊物に付着させて回収している。
さらにアオコの発生水域を横切るように、2枚の浮遊フェンスを上方から見てハの字に配置し、この2枚の浮遊フェンスの先細側の端部を、アオコの発生水域の片方の岸に近接させ、末広側の両端部を、それぞれ他方の岸に近接させる。そして2枚の浮遊フェンスの先細側の端部と片方の岸との間に、吸入口を水面下に設け、吸引ポンプによって、アオコを含む水を吸引する手段が提案されている(特許文献5参照。)。2枚の浮遊フェンスをハの字に配置すれば、風によって移動する浮遊アオコが、浮遊フェンスに沿って先細側の端部に吹き寄せられるため、効率的にアオコを収集できると記載されている。
しかるに上述したアオコの収集手段には、改良すべき問題がある。特許文献1に記載の移動フロータによる収集手段では、湖沼等の広範囲において発生したアオコを収集するためには、極めて長時間が必要となる。また吸引能力を高めてフロータの移動速度を速めると、水面を乱してアオコを水面下に沈め、アオコの収集効率が大きく低下する。さらには、アオコ以外の浮遊物の吸引の防止や分離手段は言及されていない。
特許文献2に記載の渦流による収集手段では、アオコを渦流の中心部に集めることが容易ではなく、風による水面層の移動の影響を受けやすい。このためアオコを効率的に収集することが難しくなる。また水面に浮遊する木片、葉、ゴミ等々の夾雑物も吸引することとなり、吸引口およびその近傍がその夾雑物で目詰まりを生じるという問題がある。
特許文献3に記載の手段では、アオコが発生する広大な水域を、浮遊フェンスで取り囲むのは容易ではない。また浮遊フェンスの内周に沿って配列したノズルから水を噴出させると、水面を乱してアオコを水面下に沈め、アオコの収集効率が大きく低下する。また水面に浮遊する木片、葉、ゴミ等々の夾雑物も吸引することとなり、吸引口およびその近傍がその夾雑物で目詰まりを生じるという問題がある。
特許文献4に記載の手段は、アオコの収集は風や波等を利用するため、電力等を要しないという利点があるが、広大な水域に発生するアオコを収集するためには、巨大な収集容器が必要になる。また後端部に風受け部を設けて先端部をアンカーに連結し、これにより開口部が風に向うように構成されているため、収集容器がアンカーを中心として360度回転できる水域が必要となる。したがって収集容器の開口部は、常に、アオコが発生する水域の一部にのみ向かって開口するため、アオコが発生する全ての水域にわたって、アオコを収集することは困難となる。さらには収集した浮遊物に付着したアオコを処分するためには、多額の費用と手間とが必要となる。
特許文献5に記載の手段も、風等を利用してアオコの収集を行うため、電力等を要しないという利点がある。しかるにこの手段では、水面に浮遊する木片、葉、ゴミ等々の異物がポンプに吸引されないように、かつ異物で目詰まりを生じさせないように、3段階に分けてスクリーンを設け、次第にメッシュサイズを小さくすると共に、スクリーンに堆積した異物を除去するために、回転型のスクリーン、逆洗浄手段、及び異物剪断手段を設けている。このような異物の混入や目詰まり防止手段は、構造が複雑になって製造コストも高くなる。
そこで本発明の目的は、木葉等の浮遊性の異物や砂等の沈殿性の異物と分離しつつアオコを効率的に収集できる、小型、軽量かつ構造が簡単なアオコ収集装置を提供することにある。
上記課題を解決すべく、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、アオコには、昼間において光合成を行うため浮上して水面直下の層域に凝集するという特徴が有ること、湖沼等の静水域では、風によって水面直下の層域が移動する(以下「吹送流」という。)特徴があることに着目し、これらの特徴を利用することによって、浮遊性及び沈殿性の異物と分離しつつ、凝集したアオコを効率的に収集できる本発明に想到した。
すなわち本発明によるアオコ収集装置は、水面に浮遊するアオコを誘導する浮遊フェンスにおいて、アオコが集合する箇所に連通する収集容器を備えており、この収集容器は、前側壁、後側壁、この前側壁と後側壁との左右端部に連結する左側壁及び右側壁並びに底壁を有している。また上記収集容器は、上記左側壁及び右側壁の上端部を、それぞれ水面上に突出させる浮遊手段を有している。
また上記前側壁と後側壁とには、それぞれ水面より上方の位置から所定の水面下の深さにわたって開口する前部流入口と後部流出口とが設けてあり、この前部流入口は、上記浮遊フェンスにおいてアオコが集合する個所に開口している。上記収集容器には、上記前部流入口の内側近傍において、所定の高さ位置から水面に向かって水を噴射するシャワー装置が設けてある。さらに上記収集容器には、上記シャワー装置と後側壁との間であって、上記底壁より所定の高さ位置において水中に開口する吸入口が設けてあり、この収集容器には、上記吸入口が連通するアオコ取出し口が設けてある。そして上記アオコ取出し口は、ポンプの吸い込み口に連通させる。
上記前部流入口の下辺は、水面下の5〜30cmの深さに位置するように構成することが望ましい。また上記吸入口を、上方から見て左右方向に長い形状にして、この吸入口の左右端を、それぞれ上記左側壁及び右側壁の内側面の近傍に位置させ、この吸入口とアオコ取出し口とを、先細形状の通路を経由して連通させ、この流路の先細部分を上記アオコ取出し口に接続するように構成することが望ましい。
上記左側壁及び右側壁を、上方から見て、上記前側壁と後側壁との間の所定の位置からこの後側壁に向かって先細になるように構成することが望ましい。また上記後部流出口の下辺を、上記前部流入口の下辺より深い水面下の位置に設けることが望ましい。なお後部流出口の下辺は、前部流入口の下辺より3〜10cm深い位置に設けることが望ましい。後述するように、前部流入口から流入した浮揚性の異物が、後部流出口から流出し易くするためである。
上記後部流出口の外側には、堰き止め壁を上記後側壁と平行に設け、この堰き止め壁を上方から見て上流側に向かって開口する略コの字形状に形成すると共に底板を設け、この堰き止め壁の底板を所定の水面下の深さに位置するように配置することが望ましい。
ここで「水面に浮遊するアオコを集合させる浮遊フェンス」とは、自然風による吹送流によって風下に移動するアオコを、所定の箇所に誘導して集合させる浮遊囲いを意味し、アオコを所定の箇所に集合させるものであれば、その形状、構造及びサイズを問わない。例えば2本の浮遊フェンスを、アオコが発生した水域に向かって風下から末広がりに配置するもの、あるいは1本の浮遊フェンスを、アオコが発生した水域に向かって、岸から風上に向かって斜めに延伸させるものが該当する。また送風機等による人工的な風や水中ファン等によって、浮遊するアオコを移動させ、浮遊フェンスによって所定の箇所に誘導して集合させる場合も、浮遊するアオコが大きく水面下に沈下しない限り、本発明における浮遊フェンスに該当する。
浮遊フェンスの構造としては、例えば合成樹脂等の発泡体や中空体でフロートを製作して、複数個のフロートを一列に連結し、さらに合成樹脂等のシートの下辺に重りを着けて、フロートから所定の水面下深さまで垂らすものや、合成樹脂等のホースを延伸させ、このホースから上述したシートを垂らすものが該当する。なお浮遊フェンスは、湖底に設けたアンカーや支柱等に、上下方向に移動自在に連結して、移動したり変形したりすることを防止する。
「集合容器」は、前側壁、後側壁、この前側壁と後側壁との左右端部に連結する左側壁及び右側壁並びに底壁を有する限り、その形状、構造、材質及びサイズを問わない。例えば上部が開口する矩形形状の合成樹脂、ステンレス等の金属及び木製の容器が該当する。「浮遊手段」は、集合容器の上端辺を、水面上の所定の高さ位置に突出させるものであれば、その形状、構造、材質及びサイズを問わない。例えば合成樹脂及びステンレス等の金属の中空フロートや、発泡樹脂製や木製の中実フロートを合成樹脂やステンレス等の金属で覆ったり補強したりするものが該当する。なお「水面上の所定の高さ位置」としては、15cm前後が好ましい。集合容器に流入したアオコが、集合容器の上端を超えて外部に流出しないための十分な高さ位置であるからである。
「前部流入口と後部流出口と」は、それぞれ所定の水面上の高さから所定の水面下の深さにわたって開口するものであれば、その形状を問わない。なお前部流入口の底辺を、水面下の5〜30cmの深さ位置としたのは、水面下の5cm未満では、風や波によって集合容器が上下に搖動する場合には、前部流入口の底辺が水面上に露呈する場合があり、水面に浮遊するアオコを、前部流入口から流入させることが困難となるからである。
逆に前部流入口の底辺が、水面下の30cmの深さ位置を超えると、アオコが凝集した水面直下より下方の、アオコが希薄な層域が大量に流入し、集合容器内において浮遊性の異物や沈殿性の異物の分離が困難となり、さらにはアオコを効率的に収集することも困難となるからである。前部流入口の底辺は、水面下の5〜20cmの深さ位置とすることが、より望ましく、5〜10cmの深さ位置とすることが、さらに望ましい。
「上記浮遊フェンスにおいてアオコが集合する箇所」は、アオコが集合する箇所であれば、その位置を問わない。例えば2本の浮遊フェンスを末広がりに配置する場合は、2本の浮遊フェンスが連結する箇所が該当し、1本の浮遊フェンスを岸から斜めに延伸させる場合は、1本の浮遊フェンスが岸に連結する箇所が該当する。
「シャワー装置」としては、前部流入口に平行に、複数個の水の噴出ノズルを下方に向けて配列するものや、前部流入口に平行にパイプやホースを配置し、パイプやホースの底壁に複数個の貫通穴を開けて、水を噴出させるものが該当する。なおパイプやホースは、1列に限らず、2列以上配置する場合も含まれる。またシャワー装置へ供給する水は、アオコを処理した後に湖沼等に還流する水の一部を使用することが望ましい。異物が除去されているため、噴出ノズル等の閉塞を回避できるからである。
「上記底壁より所定の高さ位置において水中に開口する吸入口」の、「所定の高さ位置」は、底壁より10〜50cmとすることが望ましい。10cm未満では、後述する剥離流が生じ難くなり、沈殿性の異物が吸入口に吸入され易くなり、50cmを超えると、シャワー装置によって一旦沈んだアオコが浮上しても、吸入口に吸入され難くなるからである。なお「所定の高さ位置」は、底壁より10〜30cmとすることが、より望ましく、底壁より10〜20cmとすることが、さらに望ましい。また「水中に開口する吸入口」は、水面に平行に開口する場合が望ましいが、前部流入口に向かって、水面に斜めに開口する場合も含む。
「上記アオコ取出し口は、ポンプの吸い込み口に連通する」における「ポンプ」は、アオコ取出し口からアオコを含む水を吸引するものであれば、その形式や用途を問わない。例えばアオコの浮き袋を破壊したりアオコの群体を分離したり、あるいはアオコを含む水を貯水層や他の装置に輸送するための、遠心式ポンプやスクリュー式ポンプ等が該当する。またポンプは、収集容器とは別の箇所に設置する場合に限らず、収集容器に設置する場合も含む。
吹送流によって移動する浮遊アオコが浮遊フェンスに流入して集合する箇所に、収集容器を連通させることによって、アオコを効率的に収集することができる。収集容器の前側壁に水面より上方の位置から所定の水面下の深さにわたって開口する前部流入口を設けて、この前部流入口を、上記アオコが集合する箇所に開口させることによって、水面直下に凝集したアオコを、吹送流によって効率的に収集容器に流入させることができる。すなわち水面より下方であってアオコが希薄となる層域の水が、多量に収集容器に流入することを回避できるため、収集容器に凝集したアオコを含む水だけを流入させることができる。このため大量のアオコを迅速に収集することが可能となる。
前部流入口の内側近傍において、所定の高さ位置から水面に向かって水を噴射するシャワー装置を設けることによって、木葉等の比重の軽い浮遊性の異物や、浮遊性の異物に付着した砂等の比重の重い沈殿性の異物を除去して、アオコを含む水だけを分離することができる。すなわち流入した木葉等の比重の軽い浮遊性の異物は、シャワーによって水面下に沈んでも、直ちに水面に浮上するため、浮上したまま風に流されて後部流出口から流出する。
流入した浮遊性の異物に付着した砂等の比重の重い沈殿性の異物は、シャワーによって上方から押されると、水面の下方に向けて急勾配に沈んで収集容器の底壁の前部に沈殿堆積するため、シャワー装置と後側壁との間に設けた吸入口には届かない。浮遊アオコは比重がほぼ1であるため、シャワーによって水面下に沈むと、急には浮上しないため、シャワー装置の後方において水中に開口する吸入口に向かって移動して、この吸入口から吸引される。
さらに吸入口を底壁より所定の高さ位置に設けることによって、浮遊性の異物に付着して流入した砂等の比重の重い沈殿性の異物を、この吸入口から吸い込み難くすることができる。すなわち前部流入口から流入した水は、底壁より上方に位置する吸入口に向かって流れるが、前側壁、底壁、及び吸入口の立ち上がり部分の前側面によって囲まれた領域には、吸入口に向かう流れからの剥離流が生じる。このためシャワーによって沈んだ比重の重い沈殿性の異物は、この剥離流の領域から脱することができず、底壁に堆積する。なお一旦剥離流の領域に沈んだアオコは、浮上する際に、前部流入口から吸入口に向かう水の流れに乗って、この吸入口に吸入される。
また吸入口を、上方から見て左右方向に長い形状に形成して、左右端を左側壁及び右側壁の内側面の近傍に位置するように構成することによって、吸入口の開口面積を広くすることができ、この吸入口を通過する水の流速を抑えることが可能となる。したがって空気や浮遊性の異物の吸い込みを防止しつつ、前部流入口から流入してシャワーによって水面下に沈んだアオコを、吸入口の左右方向に均等になるように流入させることができる。
また吸入口に異物の侵入を防ぐスクリーンを設ける場合には、スクリーンの面積を広くすることが可能となり、スクリーンの目詰まりを発生し難くすることができる。
吸入口とアオコ取出し口とを先細形状の流路を経由して連通させ、この流路の先細部分をアオコ取出し口に接続することによって、吸入口からアオコを、左右方向に均等になるように吸引することができるため、吸入口を通過する水の流速が中央部において速くなることを回避でき、空気や浮遊性の異物を吸い込みし難くすることができる。
左側壁及び右側壁を、上方から見て、前側壁と後側壁との間の所定の位置から、この後側壁に向かって先細になるように構成することによって、収集容器内の流路が、後側壁に設けた後部流出口に向けて徐々に狭くなるため、前部流入口から収集容器に流入した吹送流は、後部流出口から流れ難くなる。このため収集容器に流入した水の一部が、前側壁に設けた前部流入口から流入する吹送流の下方を潜って、この前部流入口から逆流し易くなる。
かかる場合、前部流入口における流入箇所は、逆流する流れの上部に押し上げられるため、流入深さが減少する。したがって水面下のより浅い層域の水が流入するため、水面直下の、より凝集されたアオコを流入させることができる。なお左側壁及び右側壁を、上方から見て、後側壁に向かって先細になるように構成することによって、木葉等の浮遊性の異物が収集容器内に滞留することを回避することができる。
後部流出口の下辺を、前部流入口の下辺より深い水面下の位置に設けることによって、収集容器内に流入した浮遊性の異物を、より容易に後部流出口から流出させることができる。
後部流出口の後側に、堰き止め壁を設けることによって、後部流出口から流出する吹送流は、堰き止められて、この後部流出口から流出し難くなる。したがって前部流入口から収集容器に流入した吹送流も、後部流出口から流れ難くなる。このため上述したように、収集容器に流入した水の一部が、前側壁に設けた前部流入口から流入する吹送流の下方を潜って逆流し易くなり、この前部流入口における流入箇所が、逆流する流れの上部に押し上げられるため、流入深さが減少する。したがって水面下のより浅い層域の水が流入するため、水面直下の、より凝集されたアオコを流入させることができる。
一方後部流出口から流出した浮遊性の異物は、コの字断面形状であって有底の堰き止め壁に捕捉されるが、一定量以上滞留すると、この堰き止め壁の両端から外部に流出する。このため堰き止め壁に捕捉される浮遊性の異物によって、吹送流の流路が閉塞されることはない。
すなわち堰き止め壁は、浮上して水面直下に凝集したアオコが、風による吹送流によって移動するという特徴を最大限利用するものであり、吹送流の流れを堰き止めることによって、流入した浮遊性の異物によって吹送流の流路を閉塞させることなく、収集容器の前部流入口から、より水面に近い凝集度が高いアオコを取り入れることを可能とする。
図1〜図5を参照しつつ、本発明によるアオコ収集装置の構成と使用とを説明する。さて図1及び図2に示すように、本発明によるアオコ収集装置は、前後にやや長い立方体の収集容器1を備え、この収集容器は、前側壁11、後側壁12、この前側壁と後側壁との左右端部に連結する左側壁13及び右側壁14並びに底壁15を有している。なお収集容器1は、ステンレスの板金製である。
収集容器1は、左側壁13及び右側壁14の上端部13a、14aを、それぞれ水面上に略15cm突出させる浮遊手段2を有している。なお浮遊手段2は、収集容器1の底面よりやや広い、厚みのある平板であって、グラスファイバー製の容器に発泡スチロールを詰めて、ステンレス製のアングルで隅部を保護して製作する。浮遊手段2は、収集容器1の左右両サイドにボルト等で固定する。
左側壁13及び右側壁14は、上方から見て、前側壁11から後側壁12までの距離のほぼ2/3の位置において、それぞれ内側に向かって折れ曲がって先細の流路16を形成している。前側壁11には、全横幅にわたり、上端より水面下の略10cmの深さにわたって開口する前部流入口11aが設けてある。また後側壁12には、全横幅にわたり、前部流入口11aより5cm深い、上端より水面下の略15cmの深さにわたって開口する後部流出口12aが設けてある。
収集容器1には、前部流入口11aの内側近傍において、左側壁13及び右側壁14の上端よりやや高い位置から、水面に向かって水を噴射するシャワー装置3が設けてある。なおシャワー装置3は、2本のステンレス製のパイプ31の底部に、それぞれ噴出孔32を、このパイプの長手方向に複数個配列して設けてある。2本のステンレス製のパイプ31は、左側壁13及び右側壁14の上端を跨ぐようにして、図示しない固定具によって収集容器1に固定してある。
収集容器1には、先細の流路16の直前に、上方から見て左右方向に長い矩形形状の吸入口4が設けてある。なお吸入口4の左右端は、それぞれ左側壁13及び右側壁14の内側面にほぼ接している。また吸入口4は、収集容器1の底壁15の上方略15cmの高さ位置の水中に、水面とほぼ平行に開口しており、異物の吸入を防止するため、5〜6mmのメッシュサイズの金網41が被せてある。
収集容器1の後側壁12の底部の中央部には、吸入口4が連通するアオコ取出し口5が設けてある。吸入口4は、開口部から下方に向かって垂直に連通する垂直通路42と、この直通路の下端後部に全横幅にわたって連通し、アオコ取出し口5に向かって先細形状となる水平通路43とによって構成してある。なお垂直通路42及び水平通路43とは、ステンレスの板金製であり、収集容器1の底壁15に溶接によって固定する。
図3は、堰き止め壁6を、収集容器1の後部流出口12aの外側後方に、後側壁12と平行に設けた場合を示している。堰き止め壁6は、上方から見て上流側に向かって開口する略コの字形状を有し、底面に底板を設けている。なお堰き止め壁6は、ステンレス板で成形する。また堰き止め壁6の横幅は、収集容器1の横幅よりやや大き目であって、上辺は、収集容器1とほぼ同じ水面上の高さにしてある。堰き止め壁6の底板を後部流出口12aの下辺より略5cm深い位置に配置し、この底板の前側端を収集容器1の後側壁12の後面に溶接等によって取り付けてある。
次に図4を参照しつつ、アオコ収集装置におけるアオコの分離メカニズムを説明する。上述したように、アオコは日中において光合成を行うために水面に浮上する。したがってアオコは水面直下に凝集して最も濃度が高くなる。本発明においては、吹送流によって移動するアオコを収集するが、水面に浮遊するアオコは、移動する際に水面下に拡散すると考えられる。
水面下に拡散する程度は、自然風等の強さによるが、通常、風速が5m/秒を超えると、水面にさざ波が生じて、水面に浮遊するアオコは水面下に巻き込まれて深くまで拡散し、濃度が高いアオコを収集することが困難となり、アオコの収集効率が低下する。本発明者は、風速が約3m/秒のときに、水面に浮遊するアオコの移動速度(吹送流の流速)は、略3cm/秒となり、かかる場合には、前部流入口11aの下辺を、水面下略10cmの位置にすれば、濃度の高いアオコを、この前部流入口から流入させることができ、高いアオコの収集効率が得られることを見出した。
さて図4に示すように、吹送流によって移動する浮遊アオコは、木葉等の比重の軽い浮遊性の異物や、この浮遊性の異物に付着した砂等の比重の重い沈殿性の異物と共に、前部流入口11aから収集容器1の内部に流入する。しかるに前部流入口11aの内側近傍において、シャワー装置3から水面に向かって噴射する水によって、アオコ、浮遊性の異物及び沈殿性の異物は、水面下に強制的に押し込まれる。
しかるに前部流入口11aから収集容器1の内部に流入した吹送流は、図4に実線Aで示すように、底壁15の上方に開口する吸入口4から吸入されるが、前側壁11、底壁15及び吸入口4の垂直通路42の前側面とで囲まれた領域には、剥離流Bが生じる。流入した木葉等の比重の軽い浮遊性の異物は、破線Cで示すように、シャワーによって水面下に沈んでも直ちに水面に浮上するため、浮上したまま後部流出口12aから流出する。また浮遊性の異物に付着して流入した砂等の比重の重い沈殿性の異物は、シャワーによって上方から押されると、1点破線Dで示すように、水面の下方に向けて急勾配に沈み、剥離流Bに巻き込まれて脱出することができず、収集容器1の底壁15の前部に沈殿堆積する。
浮遊アオコは比重が約1であるため、シャワーによって、いったん水面下に沈むと、急には浮上しないため、2点破線Eで示すように、前部流入口11aから吸入口4に向かう水流に乗って、この吸入口から吸入される。
以上述べたように、本発明によるアオコ収集装置は、光合成を行うために浮上して水面直下に凝集したアオコを含む水層だけを、吹送流を利用して収集容器1の前部流入口11aから取り入れると共に、シャワー装置3によって、浮遊性の異物と沈殿性の異物とを、比重の差によって除去することができる。したがって小型、軽量かつ構造が簡単な装置によって、ほとんど動力源を要しないで、アオコを効率的に収集することができる。
図5を参照しつつ、本発明によるアオコ収集装置の使用態様の一例を説明する。アオコ収集装置を構成する収集容器1の前部流入口11aが、浮遊フェンス100に流入して浮遊アオコが集合する箇所101に開口するように、この収集容器を設置する。なお浮遊フェンス100は、空気を注入して膨らませた合成樹脂製の袋状の容器102を、相互にフック等で一列に連結したものを、アオコの発生水域に対向させて、風上に向かって末広がりになるように配置する。なお容器102の下部には、底辺に重りを着けた合成樹脂製の図示しないシートを取り付ける。
なお収集容器1は、湖沼等の底に複数の支柱300を立設して、これらの支柱に、上下方向に移動自在に連結する。収集容器1の後部には、この収集容器で収集したアオコを分離及び破壊する、アオコ処理部200を設置する。なおアオコ処理部200は、フロータ201によって水面上に浮遊させ、複数の支柱300と収集容器1に連結したロープ400とで、上下方向に移動自在に連結する。
なおフロータ201の上面には、遠心式ポンプ221等を備えるアオコ処理装置202が搭載してあり、このアオコ処理装置において、アオコの浮き袋を破壊すると共に、群体状に集合したアオコを分離する。収集容器1の後側壁12に設けたアオコ取出し口5は、フレキシブル・ホース203によって、アオコ処理装置202の遠心式ポンプ211の吸い込み口に連通させる。
アオコ処理装置202によって処理したアオコを含む水は、排水ホース204を介して湖沼等に還流する。またアオコ処理装置202によって処理したアオコを含む水の一部を、排水ホース204の途中から分岐させた分岐ホース205を介して、シャワー装置3に供給する。なお収集容器1の後部流出口12aから流出して、堰き止め壁6に捕えられた浮遊性の異物は、上述したように一定量滞留すると、この堰き止め壁の両端から外部に流出する。
なおアオコ収集装置のサイズは、処理すべきアオコの量及び処理に必要な時間、すなわちアオコ処理装置202の処理能力によって決める。一例として、アオコ処理装置202による処理流量が500リットル/分の場合には、収集装置1は、高さ約1m、左右幅約1.5m、及び長さ約2mにして、前部流入口11aを、左右幅が約1.5m、水面下の深さを10cmに設定する。
本発明者等は、上記サイズのアオコ収集装置を用いて試験を行った結果、浮遊フェンスで囲んだ約1000cm2の湖沼の水域に発生したアオコを、風の強さ等に影響されるものの、いずれも5〜6分間で、ほぼ収集することができた。