まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。図1は実施例1のエンジン始動制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。尚、FLは左前輪、FRは右前輪である。
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。尚、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。尚、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機であり、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。尚、詳細については後述する。
そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。尚、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。尚、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
また、路面勾配が所定値以上における上り坂等で、運転者がアクセルペダルを調整し車両停止状態を維持するアクセルヒルホールドが行われるような場合、WSC走行モードでは、第2クラッチCL2のスリップ量が過多の状態が継続されるおそれがある。エンジンEをアイドル回転数より小さくすることができないからである。そこで、実施例1では、エンジンEを作動させたまま、第1クラッチCL1を解放し、モータジェネレータMG1を作動させつつ第2クラッチCL2をスリップ制御させ、モータジェネレータMGを動力源として走行するモータスリップ走行モード(以下、「MWSC走行モード」と略称する)を備える。尚、詳細については後述する。
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。
また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。尚、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。更に詳細なエンジン制御内容については後述する。尚、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。尚、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。尚、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。尚、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検知する温度センサ10aと、前後加速度を検出するGセンサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、を行う。
以下に、図2に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
モード選択部200は、Gセンサ10bの検出値に基づいて路面勾配を推定する路面勾配推定演算部201を有する。路面勾配推定演算部201は、車輪速センサ19の車輪速加速度平均値等から実加速度を演算し、この演算結果とGセンサ検出値との偏差から路面勾配を推定する。
更に、モード選択部200は、推定された路面勾配に基づいて、後述する二つのモードマップのうち、いずれかを選択するモードマップ選択部202を有する。図4はモードマップ選択部202の選択ロジックを表す概略図である。モードマップ選択部202は、通常モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g2以上になると、MWSC対応モードマップに切り換える。一方、MWSC対応モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g1(<g2)未満になると、通常モードマップに切り換える。すなわち、推定勾配に対してヒステリシスを設け、マップ切り換え時の制御ハンチングを防止する。
次に、モードマップについて説明する。モードマップとしては、推定勾配が所定値未満のときに選択される通常モードマップと、推定勾配が所定値以上のときに選択されるMWSC対応モードマップとを有する。図5は通常モードマップ、図6はMWSCモードマップを表す。
通常モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」を目標モードとする。
図5の通常モードマップにおいて、HEV→WSC切換線は、所定アクセル開度APO1未満の領域では、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEのアイドル回転数よりも小さな回転数となる下限車速VSP1よりも低い領域に設定されている。また、所定アクセル開度APO1以上の領域では、大きな駆動力を要求されることから、下限車速VSP1よりも高い車速VSP1'領域までWSC走行モードが設定されている。尚、バッテリSOCが低く、EV走行モードを達成できないときには、発進時等であってもWSC走行モードを選択するように構成されている。
アクセルペダル開度APOが大きいとき、その要求をアイドル回転数付近のエンジン回転数に対応したエンジントルクとモータジェネレータMGのトルクで達成するのは困難な場合がある。ここで、エンジントルクは、エンジン回転数が上昇すればより多くのトルクを出力できる。このことから、エンジン回転数を引き上げてより大きなトルクを出力させれば、例え下限車速VSP1よりも高い車速までWSC走行モードを実行しても、短時間でWSC走行モードからHEV走行モードに遷移させることができる。この場合が図5に示す下限車速VSP1'まで広げられたWSC領域である。
MWSCモードマップ内には、EV走行モード領域が設定されていない点で通常モードマップとは異なる。また、WSC走行モード領域として、アクセルペダル開度APOに応じて領域を変更せず、下限車速VSP1のみで領域が規定されている点で通常モードマップとは異なる。また、WSC走行モード領域内にMWSC走行モード領域が設定されている点で通常モードマップとは異なる。MWSC走行モード領域は、下限車速VSP1よりも低い所定車速VSP2と所定アクセル開度APO1よりも高い所定アクセル開度APO2とで囲まれた領域に設定されている。尚、MWSC走行モードの詳細については後述する。
目標充放電演算部300では、図7に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ伝達トルク容量と自動変速機ATの目標変速段と第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。また、動作点指令部400には、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部が設けられている。
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。尚、シフトマップは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものである。
〔WSC走行モードについて〕
次に、WSC走行モードの詳細について説明する。WSC走行モードとは、エンジンEが作動した状態を維持している点に特徴があり、要求駆動力変化に対する応答性が高い。具体的には、第1クラッチCL1を完全締結し、第2クラッチCL2を要求駆動力に応じた伝達トルク容量としてスリップ制御し、エンジンE及び/又はモータジェネレータMGの駆動力を用いて走行する。
実施例1のハイブリッド車両では、トルクコンバータのように回転数差を吸収する要素が存在しないため、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2を完全締結すると、エンジンEの回転数に応じて車速が決まってしまう。エンジンEには自立回転を維持するためのアイドル回転数による下限値が存在し、このアイドル回転数は、エンジンの暖機運転等によりアイドルアップを行っていると、更に下限値が高くなる。また、要求駆動力が高い状態では素早くHEV走行モードに遷移できない場合がある。
一方、EV走行モードでは、第1クラッチCL1を解放するため、上記エンジン回転数による下限値に伴う制限はない。しかしながら、バッテリSOCに基づく制限によってEV走行モードによる走行が困難な場合や、モータジェネレータMGのみで要求駆動力を達成できない領域では、エンジンEによって安定したトルクを発生する以外に手段がない。
そこで、上記下限値に相当する車速よりも低車速領域であって、かつ、EV走行モードによる走行が困難な場合やモータジェネレータMGのみでは要求駆動力を達成できない領域では、エンジン回転数を所定の下限回転数に維持し、第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジントルクを用いて走行するWSC走行モードを選択する。
図8はWSC走行モードにおけるエンジン動作点設定処理を表す概略図、図9はWSC走行モードにおけるエンジン目標回転数を表すマップである。
WSC走行モードにおいて、運転者がアクセルペダルを操作すると、図9に基づいてアクセルペダル開度に応じた目標エンジン回転数特性が選択され、この特性に沿って車速に応じた目標エンジン回転数が設定される。そして、図8に示すエンジン動作点設定処理によって目標エンジン回転数に対応した目標エンジントルクが演算される。
ここで、エンジンEの動作点をエンジン回転数とエンジントルクにより規定される点と定義する。図8に示すように、エンジン動作点は、エンジンEの出力効率が高い動作点を結んだ線(以下、α線)上で運転することが望まれる。
しかし、上述のようにエンジン回転数を設定した場合、運転者のアクセルペダル操作量(要求駆動力)によってはα線から離れた動作点を選択することとなる。そこで、エンジン動作点をα線に近づけるために、目標エンジントルクは、α線を考慮した値にフィードフォワード制御される。
一方、モータジェネレータMGは、設定されたエンジン回転数を目標回転数とする回転数フィードバック制御が実行される。今、エンジンEとモータジェネレータMGは直結状態とされていることから、モータジェネレータMGが目標回転数を維持するように制御されることで、エンジンEの回転数も自動的にフィードバック制御されることとなる。
このとき、モータジェネレータMGが出力するトルクは、α線を考慮して決定された目標エンジントルクと要求駆動力との偏差を埋めるように自動的に制御される。モータジェネレータMGでは、上記偏差を埋めるように基礎的なトルク制御量(回生・力行)が与えられ、更に、目標エンジン回転数と一致するようにフィードバック制御される。
あるエンジン回転数において、要求駆動力がα線上の駆動力よりも小さい場合、エンジン出力トルクを大きくした方がエンジン出力効率は上昇する。このとき、出力を上げた分のエネルギをモータジェネレータMGにより回収することで、第2クラッチCL2に入力されるトルク自体は運転者の要求トルクとしつつ、効率の良い発電が可能となる。
ただし、バッテリSOCの状態によって発電可能なトルク上限値が決定されるため、バッテリSOCからの要求発電出力(SOC要求発電電力)と、現在の動作点におけるトルクとα線上のトルクとの偏差(α線発電電力)との大小関係を考慮する必要がある。
図8(a)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも大きい場合の概略図である。SOC要求発電電力以上にはエンジン出力トルクを上昇させることができないため、α線上に動作点を移動させることはできない。ただし、より効率の高い点へ移動させることで燃費効率を改善する。
図8(b)は、α線発電電力がSOC要求発電電力よりも小さい場合の概略図である。SOC要求発電電力の範囲内であれば、エンジン動作点をα線上に移動させることができるため、この場合は、最も燃費効率の高い動作点を維持しつつ発電することができる。
図8(c)は、エンジン動作点がα線よりも高い場合の概略図である。要求駆動力に応じた動作点がα線よりも高いときは、バッテリSOCに余裕があることを条件として、エンジントルクを低下させ、不足分をモータジェネレータMGの力行により補う。これにより、燃費効率を高くしつつ要求駆動力を達成することができる。
次に、WSC走行モード領域を、推定勾配に応じて変更している点について説明する。図10は車速を所定状態で上昇させる際のエンジン回転数マップである。
平坦路において、アクセルペダル開度がAPO1よりも大きな値の場合、WSC走行モード領域は下限車速VSP1よりも高い車速領域まで実行される。このとき、車速の上昇に伴って図9に示すマップのように徐々に目標エンジン回転数は上昇する。そして、VSP1'に相当する車速に到達すると、第2クラッチCL2のスリップ状態は解消され、HEV走行モードに遷移する。
推定勾配が所定勾配(g1もしくはg2)より大きい勾配路において、上記と同じ車速上昇状態を維持しようとすると、それだけ大きなアクセルペダル開度となる。このとき、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2は平坦路に比べて大きくなる。この状態で、仮に図9に示すマップのようにWSC走行モード領域を拡大してしまうと、第2クラッチCL2は強い締結力でのスリップ状態を継続することとなり、発熱量が過剰となるおそれがある。そこで、推定勾配が大きい勾配路のときに選択される図6のMWSC対応モードマップでは、WSC走行モード領域を不要に広げることなく、車速VSP1に相当する領域までとする。これにより、WSC走行モードにおける過剰な発熱を回避する。
〔MWSC走行モードについて〕
次に、MWSC走行モード領域を設定した理由について説明する。推定勾配が所定勾配(g1もしくはg2)より大きいときに、例えば、ブレーキペダル操作を行うことなく車両を停止状態もしくは微速発進状態に維持しようとすると、平坦路に比べて大きな駆動力が要求される。自車両の荷重負荷に対向する必要があるからである。
第2クラッチCL2のスリップによる発熱を回避する観点から、バッテリSOCに余裕があるときはEV走行モードを選択することも考えられる。このとき、EV走行モード領域からWSC走行モード領域に遷移したときにはエンジン始動を行う必要があり、モータジェネレータMGはエンジン始動用トルクを確保した状態で駆動トルクを出力するため、駆動トルク上限値が不要に狭められる。
また、EV走行モードにおいてモータジェネレータMGにトルクだけを出力し、モータジェネレータMGの回転を停止もしくは極低速回転すると、インバータのスイッチング素子にロック電流が流れ(電流が1つの素子に流れ続ける現象)、耐久性の低下を招くおそれがある。
また、1速でエンジンEのアイドル回転数に相当する下限車速VSP1よりも低い領域(VSP2以下の領域)において、エンジンE自体は、アイドル回転数より低下させることができない。このとき、WSC走行モードを選択すると、第2クラッチCL2のスリップ量が大きくなり、第2クラッチCL2の耐久性に影響を与えるおそれがある。
特に、勾配路では、平坦路に比べて大きな駆動力が要求されていることから、第2クラッチCL2に要求される伝達トルク容量は高くなり、高トルクで高スリップ量の状態が継続されることは、第2クラッチCL2の耐久性の低下を招きやすい。また、車速の上昇もゆっくりとなることから、HEV走行モードへの遷移までに時間がかかり、更に発熱するおそれがある。
そこで、エンジンEを作動させたまま、第1クラッチCL1を解放し、第2クラッチCL2の伝達トルク容量を運転者の要求駆動力に制御しつつ、モータジェネレータMGの回転数が第2クラッチCL2の出力回転数よりも所定回転数高い目標回転数にフィードバック制御するMWSC走行モードを設定した。
言い換えると、モータジェネレータMGの回転状態をエンジンのアイドル回転数よりも低い回転数としつつ第2クラッチCL2をスリップ制御するものである。同時に、エンジンEはアイドル回転数を目標回転数とするフィードバック制御に切り換える。WSC走行モードでは、モータジェネレータMGの回転数フィードバック制御によりエンジン回転数が維持されていた。これに対し、第1クラッチCL1が解放されると、モータジェネレータMGによってエンジン回転数をアイドル回転数に制御できなくなる。よって、エンジンE自体によりエンジン回転数フィードバック制御を行う。
MWSC走行モード領域の設定により、以下に列挙する効果を得ることができる。
1)エンジンEが作動状態であることからモータジェネレータMGにエンジン始動分の駆動トルクを残しておく必要が無く、モータジェネレータMGの駆動トルク上限値を大きくすることができる。具体的には、要求駆動力軸で見たときに、EV走行モードの領域よりも高い要求駆動力に対応できる。
2)モータジェネレータMGの回転状態を確保することでスイッチング素子等の耐久性を向上できる。
3)アイドル回転数よりも低い回転数でモータジェネレータMGを回転することから、第2クラッチCL2のスリップ量を小さくすることが可能となり、第2クラッチCL2の耐久性の向上を図ることができる。
〔マップ切り換え処理及びMWSC対応モードマップ選択時における走行制御処理〕
次に、マップ切り換え処理、及びMWSC対応モードマップ選択時における走行制御処理について図11のフローチャートに基づいて説明する。
ステップS1では、通常モードマップが選択されているかどうかを判断し、通常モードマップが選択されているときはステップS2へ進み、MWSC対応モードマップが選択されているときはステップS11へ進む。
ステップS2では、推定勾配が所定値g2よりも大きいかどうかを判断し、大きいときはステップS3へ進み、それ以外のときはステップS15へ進んで通常モードマップに基づく制御処理を実行する。
ステップS3では、通常モードマップからMWSC対応モードマップに切り換える。
ステップS4では、現在のアクセルペダル開度と車速により決定される動作点がMWSC走行モード領域内にあるかどうかを判断し、領域内にあると判断したときはステップS5へ進み、それ以外のときはステップS8へ進む。
ステップS5では、バッテリSOCが所定値Aよりも大きいかどうかを判断し、所定値Aよりも大きいときはステップS6へ進み、それ以外のときはステップS9へ進む。ここで、所定値Aとは、モータジェネレータMGのみによって駆動力を確保することが可能か否かを判断するための閾値である。SOCが所定値Aよりも大きいときはモータジェネレータMGのみによって駆動力を確保できる状態であり、所定値A以下のときはバッテリ4への充電が必要であるため、MWSC走行モードの選択を禁止する。
ステップS6では、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2が所定値B未満かどうかを判断し、所定値B未満のときはステップS7へ進み、それ以外のときはステップS9へ進む。ここで、所定値Bとは、モータジェネレータMGに過剰な電流が流れないことを表す所定値である。モータジェネレータMGは回転数制御されるため、モータジェネレータMGに発生するトルクは、モータジェネレータMGに作用する負荷以上となる。
言い換えると、モータジェネレータMGは第2クラッチCL2をスリップ状態となるように回転数制御されるため、モータジェネレータMGには第2クラッチ伝達トルク容量TCL2よりも大きなトルクが発生する。よって、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2が過剰なときは、モータジェネレータMGに流れる電流が過剰となり、スイッチング素子等の耐久性が悪化する。この状態を回避する為に所定値B以上のときはMWSC走行モードの選択を禁止する。
ステップS7では、MWSC制御処理を実行する。具体的には、エンジン動作状態のまま第1クラッチCL1を解放し、エンジンEをアイドル回転数となるようにフィードバック制御とし、モータジェネレータMGを第2クラッチCL2の出力側回転数Ncl2outに所定回転数αを加算した目標回転数(ただし、アイドル回転数よりも低い値)とするフィードバック制御とし、第2クラッチCL2を要求駆動力に応じた伝達トルク容量とするフィードバック制御とする。尚、通常モードマップにはMWSC走行モードは設定されていないことから、ステップS7におけるMWSC制御処理にはEV走行モードもしくはWSC走行モードからのモード遷移処理が含まれる。
ステップS8では、現在のアクセルペダル開度と車速により決定される動作点がWSC走行モード領域内にあるかどうかを判断し、領域内にあると判断したときはステップS9へ進み、それ以外のときはHEV走行モード領域内にあると判断してステップS10へ進む。
ステップS9では、WSC制御処理を実行する。具体的には、第1クラッチCL1を完全締結し、エンジンEを目標トルクに応じたフィードフォワード制御とし、モータジェネレータMGをアイドル回転数となるフィードバック制御とし、第2クラッチCL2を要求駆動力に応じた伝達トルク容量とするフィードバック制御とする。尚、MWSC対応モードマップにはEV走行モードが設定されていないことから、ステップS9におけるWSC制御処理にはEV走行モードからのモード遷移処理が含まれる。
ステップS10では、HEV制御処理を実行する。具体的には、第1クラッチCL1を完全締結し、エンジンE及びモータジェネレータMGを要求駆動力に応じたトルクとなるようにフィードフォワード制御し、第2クラッチCL2を完全締結する。尚、MWSC対応モードマップにはEV走行モードが設定されていないことから、ステップS10におけるHEV制御処理にはEV走行モードからのモード遷移処理が含まれる。
ステップS11では、推定勾配が所定値g2未満かどうかを判断し、g2未満のときはステップS12へ進み、それ以外のときはステップS4に進んでMWSC対応モードマップによる制御を継続する。
ステップS12では、MWSC対応モードマップから通常モードマップに切り換える。
ステップS13では、マップ切り換えに伴って走行モードが変更されたか否かを判断し、変更されたと判断したときはステップS14へ進み、それ以外のときはステップS15に進む。MWSC対応モードマップから通常モードマップに切り換えると、MWSC走行モードからWSC走行モードへの遷移、WSC走行モードからEV走行モードへの遷移、HEV走行モードからEV走行モードへの遷移が生じうるからである。
ステップS14では、走行モード変更処理を実行する。具体的には、MWSC走行モードからWSC走行モードへの遷移時には、モータジェネレータMGの目標回転数をアイドル回転数に変更し、同期した段階で第1クラッチCL1を締結する。そして、エンジン制御をアイドル回転数フィードバック制御から目標エンジントルクフィードフォワード制御に切り換える。
WSC走行モードからEV走行モードへの遷移のときは、第1クラッチCL1を解放し、エンジンEを停止し、モータジェネレータMGを回転数制御から要求駆動力に基づくトルク制御に切り換え、第2クラッチCL2を要求駆動力に基づくフィードバック制御から完全締結に切り換える。
HEV走行モードからEV走行モードへの遷移のときは、第1クラッチCL1を解放し、エンジンEを停止し、モータジェネレータMGは要求駆動力に基づくトルク制御を継続し、第2クラッチCL2を要求駆動力に基づくフィードバック制御から完全締結に切り換える。
ステップS15では、通常モードマップに基づく制御処理を実行する。
〔MWSC走行モードからWSC走行モードへの遷移処理〕
次に、MWSC走行モードからWSC走行モードへの遷移処理について説明する。図12はMWSC走行モードからWSC走行モードに遷移する際に行われる遷移制御処理を表すフローチャートである。
ステップS21では、MWSC走行モードからWSC走行モードへの遷移が行われるか否かを判断し、遷移が行われるときはステップS22へ進み、それ以外のときは本制御フローを終了する。この遷移は、例えば、MWSC走行モードで走行中にSOCが所定値Aを下回ったとき、第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2が所定値Bを上回ったとき、MWSC対応モードマップ内でアクセルペダル開度APOと車速VSPにより決定される点がWSC走行モード領域に移動したとき、もしくはMWSC対応モードマップから通常モードマップに切り換えられたときにMWSC走行モードからWSC走行モードに遷移する場合が想定される。
ステップS22では、第1モータジェネレータ回転数フィードバック制御処理を実行する。ここで、第1モータジェネレータ回転数フィードバック制御処理とは、モータジェネレータ回転数をエンジンアイドル回転数と同期するようにフィードバック制御するものであり、詳細については後述する。
ステップS23では、モータジェネレータ回転数が閾値を越えたか否かを判断し、閾値を越えたときはステップS24に進み、それ以外のときはステップS22を繰り返す。
ステップS24では、第1クラッチCL1の締結処理を実行する。具体的には、第1クラッチCL1の伝達トルク容量を徐々に増大させて完全締結を行う。
ステップS25では、第1クラッチCL1の締結が完了したかどうかを判断し、締結が完了していないときはステップS24へ戻り、締結が完了したときはステップS26,ステップS27へ進む。
ステップS26では、切替目標時間T1内で、エンジンEの出力トルクが目標エンジントルクとなるように制御する。具体的には図8に示すように、エンジンアイドル回転数における目標エンジントルクを算出する。このとき、エンジンアイドル回転数フィードバック制御を終了する。
ステップS27では、切替目標時間T1内で、第2クラッチCL2への入力トルクが要求駆動力となるようにモータジェネレータMGのトルクを制御する。この処理は、ステップS26と同時に行われ、ステップS26とS27によりいわゆるトルクの掛け替え制御を達成する。
ステップS28では、上記トルクの掛け替え制御開始から切替目標時間T1が経過したかどうかを判断し、経過したときはステップS29へ進み、経過していないときはステップS26,S27へ戻る。
ステップS29では、WSC走行モードへのモード遷移が完了したと判断してWSC制御を行う。
〔第1モータジェネレータ回転数フィードバック制御処理〕
次に、ステップS22における第1モータジェネレータ回転数フィードバック制御処理について説明する。図13は第1モータジェネレータ回転数フィードバック制御処理を表すフローチャートである。
ステップS221では、目標モータジェネレータ回転数を所定変化率で上昇させる。
ステップS222では、モータジェネレータ回転数がエンジンアイドル回転数に到達したかどうかを判断し、到達したときはステップS223へ進み、到達していないときはステップS221に戻って所定変化率で上昇を継続する。
ステップS223では、目標モータジェネレータ回転数をエンジンアイドル回転数に設定して本制御フローを終了する。
〔WSC走行モードからMWSC走行モードへの遷移処理〕
次に、WSC走行モードからMWSC走行モードへの遷移処理について説明する。図14はWSC走行モードからMWSC走行モードに遷移する際に行われる遷移制御処理を表すフローチャートである。
ステップS31では、WSC走行モードからMWSC走行モードへの遷移が行われるか否かを判断し、遷移が行われるときはステップS32へ進み、それ以外のときは本制御フローを終了する。この遷移は、例えば、通常モードマップからMWSC対応モードマップに切り換えられたとき、MWSC対応モードマップにおいてWSC走行モードで走行中に車速が低下したとき、MWSC対応モードマップにおいてWSC走行モードで走行中にアクセルペダル開度APOが小さくなったときにWSC走行モードからMWSC走行モードに遷移する場合が想定される。
ステップS32では、切替目標時間T1内で、エンジンEの出力トルクが0となるように制御する。このとき、エンジントルクフィードフォワード制御を終了する。
ステップS33では、切替目標時間T1内で、第2クラッチCL2への入力トルクが要求駆動力となるようにモータジェネレータMGのトルクを制御する。この処理は、ステップS32と同時に行われ、ステップS32とS33によりいわゆるトルクの掛け替え制御が達成される。
ステップS34では、上記トルクの掛け替え制御開始から切替目標時間T1が経過したかどうかを判断し、経過したときはステップS35へ進み、経過していないときはステップS32,S33へ戻る。
ステップS35では、エンジン回転数がアイドル回転数となるようにフィードバック制御を行う。
ステップS36では、第1クラッチCL1の解放処理を実行する。具体的には、第1クラッチCL1の伝達トルク容量を徐々に減少させて完全解放を行う。
ステップS37では、第2モータジェネレータ回転数フィードバック制御処理を実行する。ここで、第2モータジェネレータ回転数フィードバック制御処理とは、モータジェネレータ回転数を第2クラッチCL2の出力回転数Ncl2outに所定値αを加算した目標回転数、もしくはモータジェネレータ回転数を最低スリップ回転数βとなるようにフィードバック制御するものであり、詳細については後述する。
〔第2モータジェネレータ回転数フィードバック制御処理〕
次に、ステップS37における第2モータジェネレータ回転数フィードバック制御処理について説明する。図15は第2モータジェネレータ回転数フィードバック制御処理を表すフローチャートである。
ステップS371では、目標モータジェネレータ回転数を所定変化率で低下させる。
ステップS372では、モータジェネレータ回転数が第2クラッチCL2の出力回転数Ncl2outに所定値αを加算した目標回転数に到達したかどうかを判断し、到達していないときはステップS374に進み、到達したときはステップS373に進む。
ステップS373では、目標モータジェネレータ回転数を第2クラッチCL2の出力軸回転数Ncl2outに所定値αを加算した値に設定する。ここで、所定値αは、エンジンアイドル回転数よりも小さな値である。よって、下限車速VSP1よりも低車速の領域では、第2クラッチCL2のスリップ量がWSC走行モードに比べて小さくなる。
ステップS374では、モータジェネレータ回転数が最低スリップ回転数βに到達したかどうかを判断し、到達していないときはステップS371に進み、到達したときはステップS375に進む。
ステップS375では、目標モータジェネレータ回転数を最低スリップ回転数βに設定する。ここで、最低スリップ回転数βとは、モータジェネレータMGに駆動電流を供給するインバータのスイッチング素子等を保護するのに最適な最低回転数である。よって、車両がほぼ停車した状態では、モータジェネレータMGが最低スリップ回転数βで駆動されるため、特定のスイッチング素子に電流が流れる時間が抑制され、耐久性を確保する。
すなわち、ステップS372とステップS374を経過させることで、(Ncl2out+α)とβのうち、いずれか高い回転数が目標モータジェネレータ回転数として設定される。
〔MWSC走行モードからWSC走行モードへの遷移時におけるタイムチャート〕
図16は、MWSC走行モードからWSC走行モードへの遷移時におけるタイムチャートである。このタイムチャートは、推定勾配が所定値(g1もしくはg2)より大きくMWSC対応モードマップが選択された状態において、MWSC走行モードによる走行中に、運転者がアクセルペダルを踏み込んで発進する状態を表す。
時刻t1において、アクセルペダルを踏み込み、アクセルペダル開度APOが大きくなると、MWSC対応モードマップにおいて、MWSC走行モード領域からWSC走行モード領域に遷移する。すると、第1モータジェネレータ回転数フィードバック制御処理が実行される。
具体的には、モータジェネレータMGの回転数を所定変化率NA_1で上昇させ、エンジンアイドル回転数と同期させる。尚、アクセルペダル開度APOが大きくなるに従って第2クラッチCL2の伝達トルク容量も徐々に増大し、それに伴って第2クラッチCL2の出力回転数Ncl2outも上昇していく。
時刻t2において、モータジェネレータ回転数がエンジン回転数と同期すると判断できる閾値を上回ると、第1クラッチCL1の締結制御が開始される。
時刻t3において、第1クラッチCL1の伝達トルク容量が所定トルクを上回ると、エンジントルクとモータジェネレータトルクの掛け替え制御が実行される。
具体的には、エンジン制御として、アイドル回転数フィードバック制御から目標エンジントルクフィードフォワード制御に切り替えられ、エンジントルクを上昇させる。一方、モータジェネレータ制御として、回転数制御の目標回転数を((Ncl2out+α)もしくはβ)から、図9のマップに基づく車速に応じた目標回転数に切り替えられる。同時に、モータジェネレータトルクは、第2クラッチCL2への入力トルクが要求駆動力となるように制御される。
時刻t4において、切替目標時間T1が経過して掛け替え制御が終了すると、WSC走行モードへの遷移が完了する。
〔WSC走行モードからMWSC走行モードへの遷移時におけるタイムチャート〕
図17は、WSC走行モードからMWSC走行モードへの遷移時におけるタイムチャートである。このタイムチャートは、推定勾配が所定値(g1もしくはg2)より大きくMWSC対応モードマップが選択された状態において、WSC走行モードによる走行中に、運転者がアクセルペダルを解放してブレーキペダルを踏み込んで減速する状態を表す。
時刻t11において、減速により車速が所定車速VSP2を下回ると、WSC走行モード領域からMWSC走行モード領域に遷移する。すると、エンジントルクとモータジェネレータトルクの掛け替え制御が実行される。
具体的には、エンジン制御として目標エンジントルクフィードフォワード制御からアイドル回転数フィードバック制御に切り替えられ、エンジントルクを0に減少させる。一方、モータジェネレータ制御として、第2クラッチCL2への入力トルクが要求駆動力となるようにトルクを上昇させる。
時刻t12において、切替目標時間T1が経過して掛け替え制御が終了すると、第1クラッチCL1の解放制御が開始される。
時刻t13において、第1クラッチCL1の解放が行われると、第2モータジェネレータ回転数フィードバック制御処理が実行される。具体的には、モータジェネレータMGの回転数を所定変化率ND_1で低下させ、図9のマップに基づく車速に応じた目標回転数から(Ncl2out+α)もしくはβのうち高い方に設定する。そして、モータジェネレータMGの回転数が(Ncl2out+α)もしくはβのいずれかに到達すると、MWSC走行モードへの遷移が完了する。
以上説明したように、実施例1のハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)エンジンEと、車両の駆動力を出力すると共にエンジンEの始動を行うモータジェネレータMGと、第1クラッチCL1と、第2クラッチCL2と、車両負荷を検出または推定する車両負荷検出手段としての路面勾配推定演算部201と、路面勾配推定演算部201により検出された路面勾配が所定値(g1もしくはg2)以上のときは、エンジンEを所定回転数であるアイドル回転数で作動させたまま第1クラッチCL1を解放し、モータジェネレータMGをアイドル回転数よりも低い回転数として第2クラッチCL2をスリップ締結するモータスリップ走行制御手段としてのMWSC走行モードを備えた。
言い換えると、路面勾配が所定値以上のときは、エンジンEを作動させたまま第1クラッチCL1を解放し、モータジェネレータMGをエンジン回転数よりも低い回転数として第2クラッチCL2をスリップ締結することとした。
すなわち、エンジンEが作動状態であるためエンジン始動に必要なモータジェネレータトルクを確保する必要が無く、モータジェネレータMGの駆動トルク上限値を大きくすることができる。また、エンジン回転数よりも低い回転数でモータジェネレータMGを回転駆動するため、第2クラッチCL2のスリップ量を小さくすることが可能となり、第2クラッチCL2の発熱量を抑制できる。
(2)路面勾配が所定値未満のときは、エンジンEを作動させた状態で第1クラッチCL1を締結し、第2クラッチCL2をスリップ締結するエンジン使用スリップ走行制御手段としてのWSC走行モードを備えた。
すなわち、第2クラッチCL2の発熱量がさほど大きくないと予想される場合には、第1クラッチCL1を締結したままとすることで、第1クラッチCL1の締結・解放に伴う違和感を回避することができる。
(3)路面勾配が所定値以上であっても運転者の要求駆動力であるアクセルペダル開度APOが所定値APO2以上のときはWSC走行モードを選択することとした。
よって、モータジェネレータMGのみのトルクでは運転者の要求駆動力を満たせない場合にもエンジントルクを用いることで要求駆動力を満たすことができる。
(4)路面勾配が所定値以上であっても車速が所定値VSP2以上のときはWSC走行モードを選択することとした。
よって、発進時等の車速上昇時に十分な駆動力を得ることができる。
(5)MWSC走行モードからWSC走行モードに遷移するときは、エンジンEの制御を、アイドル回転数で作動するアイドル回転数フィードバック制御から目標エンジントルクを出力する目標エンジントルクフィードフォワード制御に切り替えることとした。
よって、エンジンEを用いて運転者の要求駆動力に応じたトルクを出力することができる。
(6)MWSC走行モードからWSC走行モードに遷移するときは、モータジェネレータMGの回転数を所定変化率NA_1で上昇させてエンジンのアイドル回転数と同期させることとした。よって、スムーズなモード遷移を達成できる。また、所定変化率を規定することで、モータジェネレータMGに過剰なトルクが要求されることがなく、過剰電流によるスイッチング素子等の耐久性の低下を抑制できる。
(7)WSC走行モードからMWSC走行モードに遷移するときは、エンジンEの制御を、目標トルクを出力する目標エンジントルクフィードフォワード制御からアイドル回転数で作動するアイドル回転数フィードバック制御に切り替えることとした。
よって、エンジン自立回転状態を安定して維持することができる。
(8)WSC走行モードからMWSC走行モードに遷移するときは、モータジェネレータMGの回転数を所定変化率ND_1で下降させてエンジンのアイドル回転数よりも低い回転数とした。よって、スムーズなモード遷移を達成できる。また、所定変化率を規定することで、モータジェネレータMGのトルク抜け等を防止することが可能となり、安定した走行状態を達成できる。
(9)MWSC走行モードは、エンジンEを最低回転数であるアイドル回転数となるようにフィードバック制御することとした。よって、無駄な燃料消費を回避することができる。
(10)車両負荷検出手段として、路面勾配を検出又は推定する手段とした。よって、路面勾配に応じた走行モードを選択することができる。
(11)第2クラッチCL2の伝達トルク容量TCL2が所定値B以上のときは、MWSC走行モードによる走行を禁止することとした。よって、モータジェネレータMGに流れる電流が過剰となり、スイッチング素子等の耐久性が悪化する状態を回避することができる。
(12)バッテリSOCが所定値A以下のときは、MWSC走行モードによる走行を禁止することとした。MWSC走行モードはエンジン作動状態とはいえ、あくまでモータジェネレータMGのみによって駆動する。よって、所定値A以下のときはMWSC走行モードを禁止することで、走行不能となることを回避することができる。
(13)MWSC走行モードにおけるモータジェネレータMGの回転数は、所定回転数β以上とした。ここで、最低スリップ回転数βとは、モータジェネレータMGに駆動電流を供給するインバータのスイッチング素子等を保護するのに最適な最低回転数である。よって、車両がほぼ停車した状態では、モータジェネレータMGが最低スリップ回転数βで駆動されるため、特定のスイッチング素子に電流が流れる時間が抑制され、耐久性を確保することができる。
以上、本発明を実施例1に基づいて説明したが、具体的な構成は他の構成であってもよい。例えば、実施例1では、車両負荷として路面勾配を検出又は推定することとしたが、車両牽引等の有無を検出するようにしてもよいし、車載荷重を検出してもよい。このように車両負荷が大きい場合には車速の上昇が遅く、第2クラッチCL2が発熱しやすいからである。
また、実施例1では、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。