以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する写真以外の図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
なお、本明細書において、「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「フィルム」は板やシートと呼ばれ得るような部材も含む概念であり、したがって、「透過率異方性フィルム」は、「透過率異方性板」や「透過率異方性シート」と呼ばれる部材と呼称の違いのみにおいて区別され得ない。
また、「フィルム面(板面、シート面)」とは、対象となるフィルム状(板状、シート状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となるフィルム状部材(板状部材、シート状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
<<透過率異方性フィルム>>
ここで説明する透過率異方性フィルム10は、凹凸面21を有する凹凸構造層20と、凹凸構造層20の凹凸面21上に設けられた金属薄膜30と、を有している。凹凸構造層20の凹凸面21は、可視光線帯域の最短波長以下の間隔で配列された微小突起22によって形成されている。凹凸面21上に設けられた金属薄膜30は、凹凸面21の凹凸に沿って延びている。透過率異方性フィルム10の一方の側の面は金属薄膜30によって形成され、この透過率異方性フィルム10の一方の側の面は、凹凸構造層20の凹凸面21の凹凸に起因した凹凸を有する凹凸面11として形成されている。図1及び図2に示された透過率異方性フィルム10は、透明基材15をさらに有している。透明基材15は、金属薄膜30を支持している。
ここで説明する透過率異方性フィルム10は、光の入射角度に依存じて、より厳密には、透過率異方性フィルム10のフィルム面への法線方向nd(以下において単に「法線方向nd」とも呼ぶ)に依存じて、当該光の透過率が大きく変動するといった特徴を有している。すなわち、透過率異方性フィルム10の透過率は、角度依存性を顕著に呈する。より具体的には、正面方向(法線方向nd)およびその近傍方向に沿って進む光、すなわち透過率異方性フィルム10の法線方向およびその近傍方向に沿って進む光は、高い透過率で透過率異方性フィルム10を透過することができる。その一方で、正面方向から大きく傾斜した方向に沿って進む光の透過率は、正面方向およびその近傍方向に沿って進む光の透過率に対し、著しく低下する。
また他の特徴として、ここで説明する透過率異方性フィルム10は、優れた色再現性を呈するようになる。従来技術で説明した透光性樹脂フィルムの一方の面に透光性の金属薄膜を成膜してなるハーフミラーは、金属色を示し、さらには、金属光沢を持つようになる。加えて、このような従来のハーフミラーでは、長波長域の光の透過率が、短波長域の光の透過率に対して10〜20%程度も低下してしまうといった傾向を呈する。このため、従来のハーフミラー越しに観察した像は、もはや、現物とは異なる色でしか観察され得なくなっていた。その一方で、ここで説明する透過率異方性フィルム10は、金属色を示すことなく無色であり、且つ、透過率の可視光線帯域内でのスペクトル分布におけるバラツキが低減されている。このため。透過率異方性フィルム10越しに、本来の色と同様の色合いにて、像を観察することが可能となる。
以下、透過率異方性フィルム10の各構成について説明し、その後、透過率異方性フィルム10の特性について実験データを参照しながら更に詳述する。
<透明基材>
透明基材15としては、透明導電フィルムに用いられる公知の透明基材を適宜選択して用いることができ、特に限定されない。透明基材15に用いられる材料としては、例えば、透明樹脂が挙げられる。透明樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース等のアセチルセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレンやポリメチルペンテン等のオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテルサルホンやポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、アクロニトリル、メタクリロニトリル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマ一等を挙げることができる。また、透明基材15に用いられる材料としては、例えばソーダ硝子、カリ硝子、鉛ガラス等の硝子、PLZT等のセラミックス、石英、蛍石等の各種透明無機材料等も挙げられる。
透明基材15は、可視光領域における透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。ここで、透明基材の透過率は、JISK7361−1(プラスチック−透明材料の全光透過率の試験方法)により測定することができる。
透明基材15の厚みは、透過率異方性フィルム10の用途に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、通常20〜5000μmであり、透明基材15は、ロールの形で供給されるもの、巻き取れるほどには曲がらないが負荷をかけることによって湾曲するもの、完全に曲がらないもののいずれであってもよい。
透明基材15の構成は、単一の層からなる構成に限られるものではなく、複数の層が積層された構成を有してもよい。複数の層が積層された構成を有する場合は、同一組成の層が積層されてもよく、また、異なった組成を有する複数の層が積層されてもよい。また、透明基材15と凹凸構造層20とが別の材料から形成される場合には、透明基材15と金属薄膜30との密着性を向上させ、ひいては耐摩耗性を向上させるためのプライマー層を透明基材15上に形成してもよい。このプライマー層は、透明基材15および凹凸構造層20との双方に密着性を有し、可視光学的に透明であることが好ましい。プライマー層の材料としては、例えば、フッ素系コーティング剤及びシランカップリング剤等から適宜選択して使用することができる。フッ素系コーティング剤の市販品としては、例えば、フロロテクノロジー製のフロロサーフ FG−5010Z130等が挙げられ、前記シランカップリング剤の市販品としては、例えば、ハーベス製のデュラサーフプライマーDS−PC−3B等が挙げられる。
<凹凸構造層>
上述したように、凹凸構造層20は、可視光線帯域の最短波長以下の間隔で配列された微小突起22によって形成された凹凸面21を有している。ここで、微小突起22の「微小」とは、可視光線帯域の最短波長以下の平均間隔dAVGで配列される程度に微小であることを意味している。また、可視光線帯域の最短波長は、透過率異方性フィルム10が使用される環境下における可視光線帯域の最短波長を指している。したがって、透過率異方性フィルム10が使用される環境下に制限された光源からの光のみが存在する場合には、当該光源から射出される可視光の最短波長が、ここでいう可視光線帯域の最短波長となり、それ以外の場合には、一般的な可視光線帯域の最短波長として380nmを、ここでいう可視光線帯域の最短波長として採用する。
図1に示すように、凹凸構造層20が有する凹凸面21上には後に詳述する金属薄膜30が形成される。そして、金属薄膜30によって形成される透過率異方性フィルム10の一方の表面は、凹凸面21に起因した凹凸面11となっている。このため、最終的な透過率異方性フィルム10に形成される凹凸面11をなす微小突起12が配列される平均間隔も、可視光線帯域の最短波長以下の間隔となる。
凹凸構造層20の厚みは、特に限定されないが、一例として10〜300μmとすることができる。なお、この場合の凹凸構造層20の厚みとは、図1に示すように、凹凸構造層20の透明基材15側の界面から、当該凹凸構造層20の凹凸面21をなす微小突起22の頂部23までの透過率異方性フィルム10のフィルム面への法線方向ndに沿った高さt1を意味する。
凹凸構造層20は、樹脂を含有してなる層とすることができ、更に、樹脂組成物の硬化物からなる層とすることができる。凹凸構造層20の形成に用いられる樹脂組成物は、少なくとも樹脂を含み、必要に応じて重合開始剤等その他の成分を含有する。凹凸構造層20の形成に用いられる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系等の電離放射線硬化性樹脂、アクリレート系、ウレタン系、エポキシ系、ポリシロキサン系等の熱硬化性樹脂、アクリレート系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系等の熱可塑性樹脂等の各種材料及び各種硬化形態の賦型用樹脂を使用することができる。なお、電離放射線とは、分子を重合させて硬化させ得るエネルギーを有する電磁波または荷電粒子を意味し、例えば、すべての紫外線(UV、UV−B、UV−C)、可視光線、ガンマー線、X線、電子線等が挙げられる。
凹凸構造層20の形成に用いられる樹脂としては、微小突起22の成形性及び機械的強度に優れる点から電離放射線硬化性樹脂が好ましい。電離放射線硬化性樹脂とは、分子中にラジカル重合性及び/又はカチオン重合性結合を有する単量体、低重合度の重合体、反応性重合体を適宜混合したものであり、重合開始剤によって硬化されるものである。なお、非反応性重合体を含有してもよい。
樹脂組成物は、さらに必要に応じて、重合開始剤、離型剤、光増感剤、酸化防止剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、粘度調整剤、密着性向上剤等を含有することもできる。
[凹凸面]
図2には、凹凸構造層20の凹凸面21が示されている。凹凸面21は、可視光線帯域の最短波長以下の平均間隔dAVGで配列された微小突起22によって形成されている。より好ましくは、凹凸構造層20の凹凸面21をなす微小突起22の最大間隔dMAXが可視光線帯域の最短波長以下となっている。このため、凹凸構造層20の凹凸面21は、いわゆるモスアイ構造体として、極めて優れた反射防止機能を有するようになる。また後述するように、凹凸面21上に設けられる金属薄膜30は、凹凸面21の凹凸に沿って延びる薄膜として形成される、このため、金属薄膜30によって形成される透過率異方性フィルム10の凹凸面11も、凹凸構造層20の凹凸面21をなす微小突起22に対応して形成される微小突起12によって形成され、凹凸構造層20の凹凸面21と略同一の構成を有することが可能となる。この結果、凹凸構造層20の凹凸面21が反射防止機能を有している場合、透過率異方性フィルム10の凹凸面11が、微小突起12の配列に起因して、凹凸構造層20の凹凸面21と同様の反射防止機能を発揮することができる。
また本件発明者が鋭意実験を重ねたところ、反射防止機能を発揮し得る程度にまで高精細に形成された凹凸構造層20によれば、当該凹凸構造層20を用いて作製される透過率異方性フィルム10に対して、入射光の入射角度に依存する透過率異方性を付与し得ることが知見された。以下、反射防止機能を発揮し得る程度に微細に形成された凹凸構造層20の凹凸面21の構成について詳述する。
凹凸構造層20に作製される微小突起22は、隣接する微小突起22の平均間隔dAVGが、より好ましくは、隣接する微小突起22の最大間隔dMAXが、反射防止を図ることとなる可視光波長帯域の最短波長Λmin以下(dAVG≦Λmin、dMAX≦Λmin)となるよう密接して配置される。上述したように、透過率異方性フィルム10が使用されている環境下に特に制限されることなく種々の波長域の光が存在する場合には、可視光波長帯域の最短波長Λminを380nmに設定し、凹凸面21の配列間隔dを、当該配列間隔dのばらつきを考慮して100〜300nmとすることができる。またこの間隔dに係る隣接する微小突起22は、いわゆる隣り合う微小突起22であり、透明基材15側の付け根部分である微小突起の裾の部分が接している突起である。凹凸構造層20では微小突起22が密接して配置されることにより、微小突起22間の谷の部位を順次辿るようにして線分を作成すると、平面視において各微小突起を囲む多角形状領域を多数連結してなる網目状の模様が作製されることになる。間隔dに係る隣接する微小突起22は、この網目状の模様を構成する一部の線分を共有する突起である。
なお微小突起22に関しては、より詳細には以下のように定義される。モスアイ構造による反射防止機能では、モスアイ構造体とこれに隣接する媒質との界面における有効屈折率を、厚み方向に連続的に変化させて反射防止を図るものであることから、モスアイ構造体の突起に関しては一定の条件を満足することが必要である。この条件のうちの1つであるモスアイ構造体の突起の間隔に関して、例えば特開昭50−70040号公報、特許第4632589号公報等に開示のように、微小突起が一定周期で規則正しく配置されている場合、隣接する微小突起の間隔dは、突起配列の周期P(d=P)となる。これにより可視光線帯域の最長波長をλMAX、最短波長をλminとした場合、最低限、可視光線帯域の最長波長において反射防止効果を奏し得る必要最小限の条件は、Λmin=λMAXであるため、P≦λMAXとなり、可視光線帯域の全波長に対して反射防止効果を奏し得る必要十分の条件は、Λmin=λminであるため、P≦λminとなる。
なお波長λMAX、λminは、観察条件、光の強度(輝度)、個人差等にも依存して多少幅を持ち得るが、標準的には、λMAX=780nm及びλmin=380nmとされる。これらにより可視光線帯域の全波長に対する反射防止効果をより確実に奏し得る好ましい条件は、d≦300nmであり、より好ましい条件は、d≦200nmとなる。なお反射防止効果の発現及び反射率の等方性(低角度依存性)の確保等の理由から、周期dの下限値は、通常、d≧50nm、好ましくは、d≧100nmとされる。これに対して突起の高さH(図2参照)は、十分な反射防止効果を発現させる観点より、H≧0.2×λMAX=156nm(λMAX=780nmとして)とされる。
一方、微小突起22が不規則に配置されている場合には、隣接する微小突起間の間隔dはばらつきを有することになる。より具体的には、図3に示すように、透明基材15の表面又は裏面の法線方向から見た平面視において、微小突起が一定周期で規則正しく配列されていない場合、以下のように算定される。
(1)すなわち先ず、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)又は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて突起の面内配列(突起配列の平面視形状)を検出する。なお図3は、実際に原子間力顕微鏡により求められた拡大写真である。
(2)続いてこの求められた面内配列から各突起の高さの極大点(以下、単に極大点と呼ぶ)を検出する。なお極大点を求める方法としては、平面視形状と対応する断面形状の拡大写真とを逐次対比して極大点を求める方法、平面視拡大写真の画像処理によって極大点を求める方法、AFMから得られた微小突起群の高さデータの解析等、種々の手法を適用することができる。図4は、図3に示した拡大写真に対応した高さの面内分布データ(図3のAFM画像濃淡データとも大略対応関係は有り)の処理による極大点の検出結果を示す図であり、この図において黒点により示す個所がそれぞれ各突起の極大点である。なおこの処理では4.5×4.5画素のガウシアン特性によるローパスフィルタにより事前に高さデータを処理し、これによりノイズによる極大点の誤検出を防止した。また8画素×8画素による最大値検出用のフィルタを順次スキャンすることにより1nm(=1画素)単位で極大点を求めた。
(3)次に検出した極大点を母点とするドロネー図(Delaunary Diagram)を作成する。ここでドロネー図とは、各極大点を母点としてボロノイ分割を行った場合に、ボロノイ領域が隣接する母点同士を隣接母点と定義し、各隣接母点同士を線分で結んで得られる三角形の集合体からなる網状図形である。各三角形は、ドロネー三角形と呼ばれ、各三角形の辺(隣接母点同士を結ぶ線分)は、ドロネー線と呼ばれる。図5は、図4から求められるドロネー図(白色の線分により表される図である)を図4による原画像と重ね合わせた図である。ドロネー図は、ボロノイ図(Voronoi diagram)と双対の関係に有る。またボロノイ分割とは、各隣接母点間を結ぶ線分(ドロネー線)の垂直二等分線同士によって画成される閉多角形の集合体からなる網状図形で平面を分割することを言う。ボロノイ分割により得られる網状図形がボロノイ図であり、各閉領域がボロノイ領域である。
(4)次に、各ドロネー線の線分長の度数分布、すなわち隣接する極大点間の距離(以下、隣接突起間距離と呼ぶ)の度数分布を求める。図6は、図5のドロネー図から作成した度数分布のヒストグラムである。なお、後述する図11に示すように、突起22の頂部23に溝状等の凹部が存在する、或いは、頂部23が複数の峰に分裂している場合は、求めた度数分布から、このような突起の頂部に凹部が存在する微細構造、頂部が複数の峰に分裂している微細構造に起因するデータを除去し、突起本体自体のデータのみを選別して度数分布を作成する。
具体的には、突起22の頂部23に凹部が存在する微細構造、頂部23が複数の峰に分裂している多峰性の微小突起22に係る微細構造においては、このような微細構造を備えていない単峰性の微小突起22の場合の数値範囲から、隣接極大点間距離が明らかに大きく異なることになる。これによりこの特徴を利用して対応するデータを除去することにより突起本体自体のデータのみを選別して度数分布を検出する。より具体的には、例えば図3に示すような微小突起(群)の平面視の拡大写真から、5〜20個程度の互いに隣接する単峰性微小突起を選んで、その隣接極大点間距離の値を標本抽出し、この標本抽出して求められる数値範囲から明らかに外れる値(通常、標本抽出して求められる隣接極大点間距離平均値に対して、値が1/2以下のデータ)を除外して度数分布を検出する。図6の例では、隣接極大点間距離が56nm以下のデータ(矢印Aにより示す左端の小山)を除外する。なお図6は、このような除外する処理を行う前の度数分布を示すものである。因みに上述の極大点検用のフィルタの設定により、このような除外する処理を実行してもよい。
(5)このようにして求めた隣接突起間距離dの度数分布から平均値(平均間隔)dAVG及び標準偏差σを求める。ここでこのようにして得られる度数分布を正規分布とみなして平均値dAVG及び標準偏差σを求めると、図6の例では、平均値dAVG=158nm、標準偏差σ=38nmとなった。これにより隣接突起間距離の最大値dMAXを、dMAX=dAVG+2σとし、この例ではdMAX=234nmとなる。
なお同様の手法を適用して突起の高さを定義する。この場合、上述の(2)により求められる極大点から、特定の基準位置からの各極大点位置の相対的な高さの差を取得してヒストグラム化する。図7は、このようにして求められる突起付け根位置を基準(高さ0)とした突起高さHの度数分布のヒストグラムを示す図である。このヒストグラムによる度数分布から突起高さの平均値HAVG、標準偏差σを求める。ここでこの図7の例では、平均値HAVG=178nm、標準偏差σ=30nmである。これによりこの例では、突起の高さは、平均値HAVG=178nmとなる。なお図7に示す突起高さHのヒストグラムにおいて、多峰性の微小突起の場合は、頂部を複数有していることにより、1つの突起に対してこれら複数のデータが混在することになる。そこでこの場合は麓部が同一の微小突起に属するそれぞれ複数の頂部の中から高さの最も高い頂部を、当該微小突起の突起高さとして採用して度数分布を求める。
なお上述した突起の高さを測る際の基準位置は、隣接する微小突起の間の谷底(高さの極小点)を高さ0の基準とする。但し、係る谷底の高さ自体が場所によって異なる場合(例えば、図13に示すように、谷底の高さが微小突起の隣接突起間距離に比べて大きな周期でウネリを有する場合等)は、(1)先ず、透明基材15の表面又は裏面から測った各谷底の高さの平均値を、該平均値が収束するに足る面積の中で算出する。(2)次いで、該平均値の高さを持ち、透明基材15の表面又は裏面と平行な面を基準面として考える。(3)その後、該基準面を改めて高さ0として、該基準面からの各微小突起の高さを算出する。
隣接する微小突起22の間の谷底の高さ自体が場所によって異なる場合、例えば図13に示すように、各微小突起間の谷底を連ねた包絡面が、可視光線帯域の最長波長λMAX以上の周期D(すなわちD>λMAXである)でうねることもある。該周期的なうねりは、透明基材15の表裏面に平行な平面(図13におけるXY平面)における1方向(例えばX方向)のみでこれと直交する方向(例えばY方向)には一定高さであっても良いし、或いは透明基材15の表裏面に平行な平面(図13におけるXY平面)における2方向(X方向及びY方向)共にうねりを有していても良い。D>λMAXを満たす周期Dでうねった凹凸面26が多数の微小突起からなる微小突起群に重畳することによって、微小突起群で完全に反射防止し切れずに残った反射光を散乱させ、殘留反射光、とくに鏡面反射光を更に視認し難くし、以って、透過率異方性フィルム10の透過視認性を一段と向上させることができる。
尚、係る凹凸面26の周期Dが全面に渡って一定では無く分布を有する場合は、該凹凸面について凸部間距離の度数分布を求め、その平均値をDAVG、標準偏差をΣとしたときの、
Dmin=DAVG―2Σ
として定義する最小隣接突起間距離を以って周期Dの代わりとして設計する。即ち、微小突起群の殘留反射光の散乱効果を十分奏し得る条件は、
Dmin>λMAX
である。通常、D又はDminは1〜200μm、好ましくは10〜100μmとされる。
突起が不規則に配置されている場合には、このようにして求められる隣接突起間距離の平均値dAVG、突起の高さの平均値(平均高さ)HAVGが、規則正しく配置されている場合の上述の条件を満足することが、凹凸構造層20に有効な反射防止機能を付与する観点において或る程度有効であり、且つ、入射光の入射角度に依存する透過率異方性を透過率異方性フィルム10に付与する観点においても或る程度有効であることが判った。具体的には、反射防止効果を発現する微小突起間距離の条件は、dAVG≦Λminとなる。最低限、可視光線帯域の最長波長において反射防止効果を奏し得る必要最短限の条件は、Λmin=λMAXであるため、dAVG≦λMAXとなり、可視光線帯域の全波長に対して反射防止効果を奏し得る必要十分の条件は、Λmin=λminであるため、dAVG≦λminとなる。そして、可視光線帯域の全波長に対する反射防止効果をより有効に奏し得る好ましい条件は、dAVG≦300nmであり、更に好ましい条件は、dAVG≦200nmである。また反射防止効果の発現及び反射率の等方性(低角度依存性)の確保等の理由から、通常、dAVG≧50nmであり、好ましくは、dAVG≧100nmとされる。また突起高さについては、十分な反射防止効果を発現する為には、HAVG≧0.2×λMAX=156nm(λMAX=780nmとして)とされる。
さらに、突起が不規則に配置されている場合、隣接突起間距離の最大値dMAX=dAVG+2σが、規則正しく配置されている場合の上述の条件を満足することが、凹凸構造層20に有効な反射防止機能を付与する観点においてより有効であり、且つ、入射光の入射角度に依存する透過率異方性を透過率異方性フィルム10に付与する観点においてもより有効であることが判った。具体的には、反射防止効果を発現する微小突起間距離の条件は、dMAX≦Λminとなる。最低限、可視光線帯域の最長波長において反射防止効果を奏し得る必要最短限の条件は、Λmin=λMAXであるため、dMAX≦λMAXとなり、可視光線帯域の全波長に対して反射防止効果を奏し得る必要十分の条件は、Λmin=λminであるため、dMAX≦λminとなる。そして、可視光線帯域の全波長に対する反射防止効果をより確実に奏し得る好ましい条件は、dMAX≦300nmであり、更に好ましい条件は、dMAX≦200nmである。また反射防止効果の発現及び反射率の等方性(低角度依存性)の確保等の理由から、dMAX≧50nmであることが有効であり、好ましくは、dMAX≧100nmとすることがより有効である。
因みに、図3〜図7の例により説明するとdMAX=234nm≦λMAX=780nmとなり、dMAX≦λMAXの条件を満足して十分に反射防止効果を奏し得ることが判る。また可視光線帯域の最短波長λminが380nmであることから、可視光線の全波長帯域において反射防止効果を発現する十分条件dMAX≦λminも満たすことが判る。また平均突起高さHAVG=178nmであることにより、平均突起高さHAVG≧0.2×λMAX=156nmとなり(可視光波長帯域の最長波長λMAX=780nmとして)、十分な反射防止効果を実現するための突起の高さに関する条件も満足していることが判る。なお標準偏差σ=30nmであることから、HAVG−σ=148nm<0.2×λMAX=156nmとの関係式が成立することから、統計学上、全突起の50%以上、84%以下が、突起の高さに係る条件(178nm以上)の条件を満足していることが判る。なおAFM及びSEMによる観察結果、並びに微小突起の高さ分布の解析結果から、詳しくは後述する多峰性の微小突起は相対的に高さの低い微小突起よりも高さの高い微小突起でより多く生じる傾向にあることが判明した。
[凹凸構造層の製造方法]
図8は、この凹凸構造層20の製造方法を示す図である。図示された製造方法では、樹脂供給工程において、ダイ92により帯状フィルム形態の透明基材15に凹凸構造層20を構成するようになる未硬化で液状の紫外線硬化性樹脂を塗布する。なお紫外線硬化性樹脂の塗布については、ダイ92による場合に限らず、各種の手法を適用することができる。続いて、押圧ローラ94により、凹凸構造層の賦型用金型であるロール版(金型)93の周側面に透明基材15を押圧し、これにより透明基材15に未硬化状態で液状のアクリレート系紫外線硬化性樹脂を密着させると共に、ロール版93の周側面に作製された微細な凹凸形状の凹部に紫外線硬化性樹脂を充分に充填する。この状態で、紫外線の照射により紫外線硬化性樹脂を硬化させ、これにより透明基材15の表面に微小突起22を有した凹凸構造層20を作製する。次に、剥離ローラ95を用いてロール版93から、硬化した紫外線硬化性樹脂からなる凹凸構造層20と一体に透明基材15を剥離する。次に、後述するようにして、凹凸構造層20の凹凸面21上に金属薄膜30を形成することにより、透過率異方性フィルム10が得られる。
図9は、ロール版93の構成を示す斜視図である。ロール版93は、円筒形状の金属材料である母材の周側面に、陽極酸化処理およびエッチング処理の繰り返しにより、凹凸構造層20の凹凸面21を賦型するための微細な凹凸形状が作製される。このため母材は、少なくとも周側面に純度の高いアルミニウム層が設けられた円柱形状又は円筒形状の部材が適用される。一例として、母材に中空のステンレスパイプが適用され、直接に又は各種の中間層を介して、純度の高いアルミニウム層が設けられる。ステンレスパイプに代えて、銅やアルミニウム等のパイプ材等を適用してもよい。ロール版93は、陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返しにより、母材の周側面に微細穴が密に作製され、この微細穴を掘り進めると共に、開口部に近付くに従ってより大きな径となるようにこの微細穴の穴径を徐々に拡大して凹凸形状が作製される。これによりロール版93は、深さ方向に徐々に穴径が小さくなる微細穴が密に作製され、凹凸構造層20には、この微細穴に対応して、頂部23に近付くに従って徐々に径が小さくなる多数の微小突起22からなる凹凸面21が作製される。その際に、アルミニウム層の純度(不純物量)や結晶粒径、陽極酸化処理及び/又はエッチング処理等の諸条件を適宜調整することによって、上述してきた凹凸面21を賦型し得るロール版93を作製することができる。
図10は、ロール版93の製造方法を示す図である。この製造方法では、まず、電解溶出作用と、砥粒による擦過作用の複合による電解複合研磨法によって、母材の周側面を超鏡面化する(電解研磨)。続いて、母材の周側面にアルミニウムをスパッタリングし、純度の高いアルミニウム層を作製する。次に、陽極酸化工程A1、…、AN、エッチング工程E1、…、ENを交互に繰り返して母材を処理し、ロール版93を作製する。
この製造方法において、陽極酸化工程A1、…、ANでは、陽極酸化法により母材の周側面に微細な穴を作製し、さらにこの作製した微細な穴を掘り進める。ここで陽極酸化工程では、例えば負極に炭素棒、ステンレス板材等を使用する場合のように、アルミニウムの陽極酸化に適用される各種の手法を広く適用することができる。また溶解液についても、中性、酸性の各種溶解液を使用することができ、より具体的には、例えば硫酸水溶液、シュウ酸水溶液、リン酸水溶液等を使用することができる。この製造工程A1、…、ANは、液温、印加する電圧、陽極酸化に供する時間等の管理により、微細な穴を、作製対象となる微小突起22の形状に対応した形状に形成することができる。
続くエッチング工程E1、…、ENは、金型をエッチング液に浸漬し、陽極酸化工程A1、…、ANにより作製、掘り進めた微細な穴の穴径をエッチングにより拡大し、深さ方向に向かって滑らか、かつ徐々に穴径が小さくなるように、これら微細な穴を整形する。なおエッチング液については、この種の処理に適用される各種エッチング液を広く適用することができ、より具体的には、例えば硫酸水溶液、シュウ酸水溶液、リン酸水溶液等を使用することができる。これらによりこの製造工程では、陽極酸化処理とエッチング処理とを交互にそれぞれ複数回実行することにより、賦型に供する微細穴を母材の周側面に作製する。
なお、図13を参照しながら説明した凹凸構造層20、すなわち、隣接する微小突起22の間の谷底の高さ自体が場所によって異なる凹凸構造層20を作製するためのロール版93は、次のようにして製造され得る。即ち、ロール版93の製造工程において、円筒(又は円柱)形状の母材の表面にサンドブラスト又はマット(つや消し)メッキによって凹凸面26の凹凸形状に対応する凹凸形状を賦形する。次いで、該凹凸形状の面上に、直接或いは必要に応じて適宜の中間層を形成した後、アルミニウム層を積層する。その後、該凹凸形状表面に対応した表面形状を賦形されたアルミニウム層に上述の方法と同様にして陽極酸化処理及びエッチング処理を施し、微小突起22を含む凹凸面21を形成するためのロール版93が得られる。
[耐擦傷性の向上]
ところでこの陽極酸化処理及びエッチング処理の交互の繰り返しにより微細穴を作製して凹凸構造層20を作製したところ、耐擦傷性に改善の余地が見られた。そこで凹凸構造層20を詳細に観察したところ、従来のこの種の凹凸構造層20のように、多角錘形状や回転放物面形状のような1つの頂部のみを持つ単峰性の微小突起のみからなり、各頂部の高さも一様に作製されている場合には、例えば他の物体が接触した場合に、広い範囲で微小突起の形状が一様に損なわれ、これにより反射防止機能等の微小突起22に起因した機能が局所的に劣化し、また、凹凸構造層20並びに最終的に得られる透過率異方性フィルム10において、接触個所に白濁、傷等が発生して外観不良が発生し得ることが判った。そして、ロール版の製造条件を変更することにより、微小突起12,22を有した凹凸構造層20並びに透過率異方性フィルム10の耐擦傷性を改善し得ることが判った。
このような耐擦傷性が改善された凹凸構造層20の表面形状をAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)及びSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)により観察したところ、多数の微小突起の中に、頂部23を複数有する多峰性の微小突起22が存在することが判った。また、多峰性の微小突起22を含む凹凸構造層20の凹凸面21に金属薄膜30を形成して透過率異方性フィルム10を作製した場合、透過率異方性フィルム10の凹凸面11にも、多峰性の微小突起22に対応して多峰性の微小突起12を含ませることができた。この結果、多峰性の微小突起22に起因して奏される凹凸構造層20の作用効果と同様の作用効果を、この凹凸構造層20を含む透過率異方性フィルム10も奏することができた。なおここで微細形状の観察のために、種々の方式の顕微鏡が提供されているものの、微細構造を損なわないようにして凹凸構造層20や透過率異方性フィルム10の表面形状を観察する場合には、AFM及びSEMが適している。
図11は、頂部23を複数有する多峰性の微小突起22の説明に供する断面図(図11(a))、斜視図(図11(b))、平面図(図11(c))である。なおこの図11は、理解を容易にするための模式図であり、図11(a)は、連続する微小突起22の頂部23を結ぶ折れ線に沿って断面を切り出して示す図である。この図11(b)及び(c)において、xy方向は、透過率異方性フィルム10のフィルム面に沿った方向であり、z方向は透過率異方性フィルム10の法線方向nd(微小突起の高さ方向)である。凹凸構造層20において、多くの微小突起22は、透明基材15から離間して頂部23に向かうに従って徐々に断面積(高さ方向に直交する面(図11においてXY平面と平行な面)で切断した場合の断面積)が小さくなって、頂部23が1つの単峰性微小突起として作製される。しかしながら、複数の微小突起22が結合したかのように、先端部分に溝が形成され、頂部23が2つになった微小突起22(22A)、頂部23が3つになった微小突起(22B)、さらには頂部23が4つ以上の微小突起(図示略)等からなる多峰性微小突起22も存在することが確認された。なお単峰性の微小突起22の形状は、概略、回転放物面の様な頂部の丸い形状、或いは円錐の様な頂点の尖った形状で近似することができる。一方、多峰性の微小突起22A、22Bの形状は、概略、単峰性の微小突起22の先端部近傍に溝状の凹部を切り込んで、先端部を複数の峰に分割したような形状で近似される。多峰性の微小突起22A、22Bの形状、或いは、複数の峰を含み高さ方向(図11ではZ軸方向)を含む仮想的切断面で切断した場合の縦断面形状は、極大点を複数個含み各極大点近傍が上に凸の曲線になる代数曲線Z=a2X2+a4X4+・・+a2nX2n+・・で近似されるような形状となる。
このような頂部23を複数有する多峰性の微小突起22は、単峰性の微小突起22に比して、先端部近傍の寸法に対する基端部(裾の部分)の太さが相対的に太くなる。これにより、多峰性の微小突起22は、単峰性の微小突起に比して機械的強度が優れていると言える。これにより頂部23を複数有する多峰性の微小突起22が存在する場合、凹凸構造層20では、単峰性の微小突起22のみによる場合に比して、同じ隣接突起間距離(同じ反射防止性能)でも耐擦傷性がより向上するものと考えられる。さらに、具体的に凹凸構造層20に外力が加わった場合、単峰性の微小突起22のみの場合に比して、外力をより多くの頂部23で分散して受けることができる為、各頂部23に加わる外力を低減し、微小突起22が損傷し難いようにすることができ、これにより反射防止機能の局所的な劣化を低減し、さらに透過率異方性フィルム10の外観不良の発生を低減することができる。また仮に微小突起22が損傷した場合でも、その損傷個所の面積を低減することができる。更に、多峰性の微小突起22の多くは、最高峰高さ(麓が同じ微小突起に属する最も高い峰の高さ)が突起高さの平均値HAVG以上の微小突起に生じやすい傾向があるので、外力を先ず各峰部分が受止めて犠牲的に損傷することによって、該微小突起22の峰より低い本体部分、及び該多峰性の微小突起22よりも高さの低い微小突起22の損耗を防ぐ。これによっても反射防止機能の局所的な劣化を低減し、さらにこの凹凸構造層20を用いた透過率異方性フィルム10の外観不良の発生を低減することができる。
なお上述した図3〜図7に係る測定結果は、多峰性の微小突起22を含む凹凸構造層20についての測定結果であり、図6に示す度数分布においては、隣接突起間距離d(横軸の値)について、20nm及び40nmの短距離の極大値と120nm及び164nmの長距離の極大値との2種類の極大値が存在する。これらの極大値のうちの長距離の極大値は、微小突起本体(頂部よりも下の中腹から麓にかけての部分)の配列に対応し、一方、短距離の極大値は先端部近傍に存在する複数の頂部(峰)23に対応する。これにより極大点間距離の度数分布によっても、多峰性の微小突起22の存在を確認することができる。
なお多峰性の微小突起22は、その存在により耐擦傷性を向上できるものの、充分に存在しない場合には、この耐擦傷性を向上する効果を十分に発揮できないことは言うまでもない。そして、耐擦傷性を有効に改善する観点からは、表面に存在する全微小突起中における多峰性の微小突起の個数の比率は10%以上とすることが好ましく、30%以上であればより好ましく、50%以上であればさらにより好ましい。
さらにこのような多峰性の微小突起22A、22Bを含む微小突起群(22、22A、22B、・・)を有する凹凸構造層20を詳細に検討したところ、各微小突起22の高さが種々に異なることが判った(図7、図11(a)参照)。なおここで各微小突起22の高さとは、上述したように、麓(付け根)部を共有するある特定の微小突起22について、その先端部に存在する最高高さを有する峰(最高峰)の高さを言う。図11(a)の微小突起22の如くの単峰性の微小突起の場合は、頂部における唯一の峰(極大点)の高さが該微小突起の突起高さとなる。また図11(a)の微小突起22A、22Bのような多峰性の微小突起の場合は、先端部に在る麓部を共有する複数の峰のうちの最高峰の高さをもって該微小突起22の高さとする。このように微小突起22の高さが種々に異なる場合には、例えば物体の接触により高さの高い微小突起22の形状が損なわれた場合でも、高さの低い微小突起22においては、形状が維持されることになる。これによっても凹凸構造層20では、反射防止機能の局所的な劣化を低減し、さらには透過率異方性フィルム10の外観不良の発生を低減することができ、その結果、耐擦傷性を向上することができる。
また凹凸構造層20表面の微小突起群と物体との間に塵埃が付着すると、当該物体が凹凸構造層20に対して相対的に摺動した際に、該塵埃が研磨剤として機能して微小突起(群)の磨耗、損傷が促進されることになる。この場合に、微小突起群を構成する各微小突起間に高低差が有ると、塵埃は高さの高い微小突起に強く接触し、これを損傷させる。一方で低高さの微小突起との接触は弱まり、高さの低い微小突起については損傷が軽減され、無傷ないしは軽微な傷で残存した高さの低い微小突起によって反射防止性能が維持される。
またこれに加えて、各微小突起22の高さに分布(高低差)の有る微小突起群は、反射防止性能が広帯域化され、白色光のような多波長の混在する光、あるいは広帯域スペクトルを持つ光に対して、全スペクトル帯域で低反射率を実現するのに有利である。これは、かかる微小突起群によって良好な反射防止性能を発現し得る波長帯域が、隣接突起間距離dの他に、突起高さにも依存する為である。
またこの場合には、多数の微小突起のうちの高さの高い微小突起22のみが、例えば凹凸構造層20と対向するように配置された各種の部材表面と接触することになる。これにより、高さが同一の微小突起のみによる場合に比して格段的に滑りを良くすることができ、製造工程等における凹凸構造層20の取り扱いが容易にもなる。なおこのように滑りを良くする観点から、ばらつきは、標準偏差により規定した場合に、10nm以上必要であるものの、50nmより大きくなると、このばらつきによる表面のざらつき感が感じられるようになる。従ってこの高さのばらつきは、10nm以上、50nm以下であることが好ましい。
またこのように多峰性の微小突起22が混在する場合には、単峰性の微小突起22のみによる場合に比して反射防止の性能を向上することができる。すなわち、図11及び図12等に示すような多峰性の微小突起22A、22B等は、隣接突起間距離dが同じ場合であっても、また突起高さHが同じ場合であっても、単峰性の微小突起22と比べて、より光の反射率が低減することになる。その理由は、多峰性の微小突起22A、22B等は、先端部より下(中腹及び麓)の形状が同じ単峰性の微小突起22よりも、先端部近傍における有効屈折率の高さ方向の変化率が小さくなる為である。
すなわち図11において、z=0を高さH=0とおき、高さ方向(Z軸方向)に直交する仮想的切断面Z=zで微小突起22、22A等を切断したと仮定した場合の面Z=zにおける微小突起と周辺の媒質(通常は空気)との屈折率の平均値として得られる有効屈折率nefは、切断面Z=zにおける周辺媒質(ここでは空気とする)の屈折率をnA=1、微小突起22、22A、・・の構成材料の屈折率をnM>1とし、又周辺媒質(空気)の断面積の合計値をSA(z)、微小突起22、2A、・・の断面積の合計値をSM(z)としたとき、
nef(z)=1×SA(z)/(SA(z)+SM(z))+nA×SM(z)/(SA(z)+SM(z))
・・・(式1)
で表される。これは、周辺媒質の屈折率nA及び微小突起構成材料の屈折率nMを、各々周辺媒質の合計断面積SA(z)及び微小突起の合計断面積の合計値SM(z)で比例配分した値となる。
ここで、単峰性の微小突起22を基準にして考えたときに、多峰性の微小突起22A、22B、・・は、先端部近傍が複数の峰に分裂している。そのため、先端部近傍を切断する仮想的切断面Z=zにおいて、多峰性の微小突起22A、22B、・・は、単峰性の微小突起22、・・に比べて相対的に低屈折率である周辺媒質の合計断面積SA(z)の比率が、相対的に高屈折率である微小突起22の合計断面積SM(z)の比率に比べて、より増大することになる。
その結果、仮想的切断面Z=zにおける有効屈折率nef(z)は、多峰性の微小突起22A、22B、・・の方が単峰性の微小突起22、・・に比べて、より周辺媒質の屈折率nAに近くなる。面Z=zにおける多峰性の微小突起の有効屈折率と周辺媒質の屈折率との差を|nef(z)−nA(z)|multi、単峰性の微小突起の有効屈折率と周辺媒質の屈折率との差を|nef(z)−nA(z)|monoとすると、
|nef(z)−nA(z)|multi<|nef(z)−nA(z)|mono
・・・(式2)
となる。ここでnA(z)=1とすると、
|nef(z)−1|multi<|nef(z)−1|mono ・・・(式2A)
となる。
これにより先端部近傍において、多峰性の微小突起22を含む微小突起群(各微小突起間に周辺媒質を含む)については、単峰性の微小突起22のみからなる突起群に比べて、その有効屈折率と周辺媒質(空気)の屈折率との差、より詳細に言えば、微小突起22の高さ方向の単位距離当たりの屈折率の変化率をより低減化すること、換言すれば、屈折率の高さ方向変化の連続性をより高めること)が可能になることが判る。
一般に、隣接する屈折率n0の媒質と屈折率n1の媒質との界面に光が入射する場合に、該界面における光の反射率Rは、入射角=0として、
R=(n1−n0)2/(n1+n0)2 ・・・(式3)
となる。この式より界面両側の媒質の屈折率差n1−n0が小さいほど界面での光の反射率Rは減少し、(n1−n0)が値0に近づけばRも値0に近づくことになる。
(式2)、(式2A)及び(式3)より、多峰性の微小突起22A、22B、・・を含む微小突起群(各微小突起間に周辺媒質を含む)については、単峰性の微小突起22、・・のみからなる突起群に比べて光の反射率が低減する。
なお単峰性の微小突起22のみからなる微小突起群を用いても、隣接突起間距離の平均値dAVGまたは最大値dMAXを反射防止を図る可視光波長帯域の最短波長λmin以下の十分小さな値にすることによって、十分な反射防止効果を発現することは可能である。但し、その場合、隣接峰間の距離と隣接微小突起間距離とが同一となる為、隣接微小突起間が接触、一体複合化する現象(いわゆるスティッキング)が発生し易くなる。スティッキングを生じると、実質上の隣接突起間距離dは一体複合化した微小突起数22の分だけ増加する。
例えば、間隔d=200nmの微小突起が4個スティッキングすると、実質上、スティッキングして一体化した突起の大きさは、d=4×200nm=800nm>可視光線帯域の最長波長(780nm)となり、これにより局所的に反射防止効果を損なうことになる。
一方、多峰性の微小突起22A、22B、・・からなる微小突起群の場合、先端部近傍の各峰間の隣接突起間距離dPEAKは、麓から中腹にかけての微小突起本体部の隣接突起間距離dBASEよりも小さくなり(dPEAK<dBASE)、通常、dPEAK=dBASE/4〜dBASE/2程度である。その為、各峰間の隣接突起間距離dPEAK≪λminとすることで十分な反射防止性能を得ることができる。但し、多峰性の微小突起の各峰部は、麓部の幅に対する峰部の高さの比が小さく、単峰性の微小突起の麓部の幅に対する頂点の高さの比の1/2〜1/10程度である。従って、同じ外力に対して、多峰性微小突起の峰部は単峰性の微小突起に比べての変形し難い。且つ、多峰性微小突起の本体部自体は峰部よりも隣接突起間距離は大であり、且つ強度も大である。その為、結局、多峰性の微小突起からなる微小突起群は、単峰性の微小突起からなる突起群に比べて、スティッキングの生じ難さと低反射率とを容易に両立させることができる。
なお可視光の反射防止用途の他の用途であっても、又は可視光環境下であっても、当該反射防止材料が設置、使用される環境条件に応じて、想定する反射防止波長に応じたモスアイ構造を形成し、高さ分布を持たせる事により、前記の通り、従来のものより耐擦性があり、かつ、プロセス要件などで低硬度の材料を使用した場合においても互いのスティッキングを防止し、光学的必要性能を合わせ持つ凹凸構造層20を作製する事が可能となる。例えば、380nm前後の紫外領域について反射防止性能を得たい場合はモスアイの高さが約50μmでも可能であり、同様に700nm前後の赤外領域については約150μm〜実用上を考慮し400μmであれば可能である。なお、前記の通りモスアイの配置間隔については高さについて飽和するような製作条件を見出し、モスアイの反射率を効果的に操作する事が可能である。さらに、モスアイの先端部構造についても、従来の単峰から改良を加える事で高さと反射率を両立し且つ物理的にスティッキングを起こしにくく、効果的に反射率を低減する事が可能となっている。
ところでこのような微小突起22の作製に供するロール版では、陽極酸化処理とエッチング処理との交互の繰り返しにより、穴径を拡大しながら微細穴を掘り進め、これにより微小突起の賦型に供する微細穴が作製される。多峰性の微小突起22は、係る構造の先端部に対応する形状の凹部を備えた微小穴により作成されるものであり、このような微小穴は、極めて近接して作製された微細穴が、エッチング処理により、一体化して作製されると考えられる。これにより多峰性の微小突起と単峰性の微小突起とを混在させるには、陽極酸化により作製される微細穴の間隔を大きくばらつかせることにより実現することができ、陽極酸化処理におけるばらつきを大きくすることにより実現することができる。
また微細穴の高さのばらつきは、ロール版に作製される微細穴の深さのばらつきによるものであり、このような微細穴の深さのばらつきについても、陽極酸化処理におけるばらつきに起因するものと言える。
なお、陽極酸化処理における印加電圧(化成電圧)と微細穴の間隔とは或る程度の相関にて比例関係にあり、さらに一定範囲より印加電圧が逸脱するとばらつきが大きくなる。これにより濃度0.01M〜0.03Mの硫酸、シュウ酸、リン酸の水溶液を使用して、電圧15V(第1工程)〜35V(第2工程:第1工程に対して約2.3倍)の印加電圧により、多峰性の微小突起と単峰性の微小突起とが混在し、かつ微小突起の高さがばらついた凹凸構造層20生産用のロール版を作製することができた。なお印加電圧が変動すると、微細穴の間隔のばらつきが大きくなることにより、例えば直流電源によりバイアスした交流電源を使用して印加用電圧を生成する場合等、印加電圧を意図的に変動させてもよい。また電圧変動率の大きな電源を使用して陽極酸化処理を実行してもよい。
図12は、頂部23が複数の微小突起22を示す写真であり、図12(a)は、AFMによるものであり、図12(b)及び(c)は、SEMによるものである。図12(a)では、溝g及び3つの頂部23を有する微小突起、及び溝g及び2つの頂部23を有する微小突起22を見て取ることができ、図12(b)では、溝g及び4つの頂部23を有する微小突起22、及び溝g及び2つの頂部23を有する微小突起22を見て取ることができ、図12(c)では、溝g及び3つの頂部23を有する微小突起22、溝g及び2つの頂点を有する微小突起22を見て取ることができる。なおこの図12は、水温20℃、濃度0.02Mのシュウ酸水溶液を適用し、印加電圧40Vにより120秒、陽極酸化処理を実行したものである。またエッチング処理には、第1工程に同上陽極酸化液、第2工程に水温20℃、濃度1.0Mのリン酸水溶液を適用した。陽極酸化処理とエッチング処理との回数は、それぞれ3(〜5)回である。
以上の構成によれば、頂部23が複数からなる多峰性の微小突起22と頂点が1つの単峰性の微小突起22とを混在させることにより、従来に比して凹凸構造層20の耐擦傷性、さらには透過率異方性フィルム10の耐擦傷性を向上することができる。またさらに微小突起22の高さに分布を持たせることにより、滑り性を向上することができる。
<金属薄膜>
次に、金属薄膜30について説明する。上述したように、凹凸面21上に設けられた金属薄膜30は、凹凸面21の凹凸に沿って延びている。金属薄膜30の「薄膜」とは、金属薄膜30の表面上に凹凸面21の微小突起22に起因した凹凸が残存する程度に薄膜であることを意味している。
とりわけ、図1に示された金属薄膜30は、或る程度の均一な厚みにて、凹凸面21上に設けられている。このような形態によれば、金属薄膜30によって構成される透過率異方性フィルム10の凹凸面11が、凹凸構造層20の凹凸面21と同様の形状となり、凹凸構造層20の凹凸面21によって発現される機能と同様の作用効果、すなわち反射防止機能、擦傷に対する耐性等を発揮することができる。
透過率異方性フィルム10が角度依存性を有した光透過性を示すようにする前提として、金属薄膜30は透過性を有している必要がある。金属薄膜30の透過率は特に限定されるものではないが、透過率異方性フィルム10を法線方向ndに透過する可視光帯域の光の透過率が、少なくとも10%以上となるように、好ましくは30%以上となるように、さらに好ましくは50%以上となるように、金属薄膜30の透過率が設定されていることが好ましい。したがって、金属薄膜30自体の透過率は、少なくとも10%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上に設定される。
金属薄膜30は、単層であってもよいし、複数の層によって形成されていてもよい。金属薄膜30をなす金属材料は、特に限定されることなく、アルミニウム、銀、銅、金、および、これらの合金等を用いることができる。金属薄膜30の形成方法は、特に限定されることなく、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、CVD法等の気相法(ドライプロセス) 、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンサ印刷法、スリットコート法、ダイコート法、ドクターブレードコート法、ワイヤーバーコート法、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法等の溶液塗布法(ウェットプロセス) が挙げられる。さらに、金属薄膜30の厚みは、特に限定されることなく、上述した透過率を確保し得るように設定され得る。
ただし、本件発明らが鋭意研究を重ねたところ、後述する作用効果を確保する観点からは、金属薄膜30は、アルミニウム又はアルミニウム合金をスパッタリング法で凹凸構造層20の凹凸面21上に成膜することにより形成された膜であることが好ましい。また、金属薄膜30は、凹凸構造層20の凹凸面21が平坦面であったと仮定した場合にスパッタリング法を用いて形成される膜が可視光線帯域の最短波長の1/40以上1/15以下となる量のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる膜であることが好ましい。すなわち、金属薄膜30をなすアルミニウム又はアルミニウム合金は、平面視において同面積となる平坦面に成膜した際に、可視光線帯域の最短波長の1/40以上1/15以下となる量であることが好ましい。さらに言い換えると、金属薄膜30は、平面視において同面積となる平坦面に成膜した場合に、可視光線帯域の最短波長の1/40以上1/15以下となる厚さの膜が形成される条件でのスパッタリング法にて成膜されたアルミニウム又はアルミニウム合金からなる膜であることが好ましい。
<透過率異方性フィルムの特性>
次に、図14及び図15を参照しながら、上述してきた構成の透過率異方性フィルム10の光学特性について説明する。
なお図14及び図15に示された光学特性は、まず上述した方法にて凹凸構造層20を作製するための金型(ロール版93)を作製し、次に作製された金型を用いて上述した方法にて透過率異方性フィルムのサンプルを作製し、そして、得られたサンプルについて測定された光学特性である。
より具体的には、まず次のようにして、透過率異方性フィルムのサンプルを作製するための金型を作製した。純度99.50%の圧延されたアルミニウム板を、小さいうねりとして表面粗さRzが30nm、大きいうねりが1μmとなるように研磨した後、0.02Mシュウ酸水溶液の電解液中で、化成電圧40V、20℃の条件にて120秒間、陽極酸化を実施した。次に、第一エッチング処理として、陽極酸化後の電解液で60秒間エッチング処理を行った。続いて、第二エッチング処理として、1.0Mリン酸水溶液で150秒間孔径処理を行った。さらに、上記処理を繰り返し、これらを合計5回追加実施した。これにより、アルミニウム基板上に陽極酸化アルミニウム膜が形成された。最後に、フッ素系離型剤を塗布し、余分な離型剤を洗浄することで、凹凸構造層製造用金型を得た。
その後、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)20重量部、アロニックスM―260(商品名;東亜合成社製)70重量部、ヒドロキシエチルアクリレート10重量部、及び、光開始剤としてルシリン(商品名;TPO社製)3重量部を溶解させ、活性エネルギー線硬化性組成物(紫外線硬化型樹脂組成物)を得た。得られた紫外線硬化型樹脂組成物を、上記で得られた金型の表面を覆うようにして、厚さ20μmとなるように塗布・充填し、その上に透明基材15として厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム社製)を斜めから貼り合わせた後、貼り合わせられた貼合体をゴムローラーで10N/cmの加重で圧着した。金型全体に均一な組成物が塗布されたことを確認し、フィルム側から2000mJ/cm2のエネルギーで紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させて凹凸構造層20を透明基材15上に作製した。その後、紫外線硬化型樹脂組成物の硬化物としての凹凸構造層20を透明基材15とともに、金型より剥離した。次に、得られた凹凸構造層20の凹凸面21上に、スパッタリング法により、アルミニウムを成膜することにより、透過率異方性フィルム10を作製した。
なお、金型の作製において、陽極酸化処理およびエッチングの条件を変化させて複数種類の金型を用意した。これにともなって、互いに異なる凹凸面21を有した複数の凹凸構造層20が得られた。さらに、スパッタリング法によるアルミニウムの成膜量を変化させた。
図14及び図15に示された結果は、得られた各サンプルについて、入射角度を変化させながら、各入射角度での透過率を調査した結果の一例である。図14のグラフには、サンプルA−1、サンプルA−2、サンプルB−1、サンプルB−2について測定された、種々の入射角度で入射する波長550nmの光の透過率が示されている。図15には、5°から75°までの5°きざみの入射角度でサンプルA−1に可視光を入射させた場合における透過率のスペクトル分布が示されている。
サンプルA−1及びサンプルA−2は、同一の金型を用いて作製された同一の凹凸構造層20に、異なる膜厚でアルミニウムを蒸着させた。サンプルB−1及びサンプルB−2は、同一の金型を用いて作製された同一の凹凸構造層20に、異なる膜厚でアルミニウムを蒸着させた。サンプルA−1及びサンプルA−2の凹凸構造層において、隣接突起間距離の平均値(平均間隔)dAVGは略200nmであり、突起高さの平均値HAVG、は略280nmであった。一方、サンプルB−1及びサンプルB−2の凹凸構造層において、隣接突起間距離の平均値(平均間隔)dAVGは略100nmであり、突起高さの平均値HAVG、は略170nmであった。また、サンプルA−1及びサンプルB−1では、当該サンプルと平面視において同面積となる平坦面を有した板材に成膜した場合に厚さ10nmのスパッタリング膜が形成される条件にて、アルミニウムをスパッタリングして金属薄膜を作製した。一方、サンプルA−2及びサンプルB−2では、当該サンプルと平面視において同面積となる平坦面を有した板材に成膜した場合に厚さ30nmのスパッタリング膜が形成される条件にて、アルミニウムをスパッタリングして金属薄膜を作製した。図16は、サンプルA−1を写した写真である。
本件発明者が確認したところ、以上に説明した透過率異方性フィルム10では、典型的には図14及び図15に示されているように、入射角度(入射光の進行方向が透過率異方性フィルムのフィルム面の法線方向に対してなす角度)が大きくなるにつれて、透過率が低下した。図14に示すように、このような傾向は、金属薄膜30の厚みが薄い場合に顕著となった。とりわけ、平面視において同面積となる平坦面に成膜した場合に厚さが可視光線帯域の最短波長としての380nmの1/40以上1/15以下となる条件にて、アルミニウム又はアルミニウム合金をスパッタリングして金属薄膜30を形成した場合、入射角度が一定の値(略55°)を超えると、透過率が急激に低下するようになった。このような現象が生じる原因の詳細は不明であるが、モスアイ構造体の反射防止機能が傾斜した方向からの入射光よりも正面方向からの入射光に対して効果的に発揮されることに連動しているものと推察される。
また、金属薄膜30の厚みを低減することにより、透過率異方性フィルム10の凹凸面11に起因した反射防止機能が効果的に発揮されるようになる。これは、金属薄膜30に起因した反射が抑制され、凹凸構造層20の反射防止機能がより有効に発揮されるようになるからであると考えられる。そして、このような透過率異方性フィルム10を正面方向(法線方向nd)から覗いた際に、透過率異方性フィルム10での映り込みを抑えながら、透過率異方性フィルム10の背面側の像を観察することが可能となる。
加えて、図15に示すように、金属薄膜30の厚みが薄い場合、より具体的には、平面視において同面積となる平坦面に成膜した場合に厚さが可視光線帯域の最短波長としての380nmの1/40以上1/15以下となる条件にて、アルミニウム又はアルミニウム合金をスパッタリングして金属薄膜30を形成した場合、可視光線帯域内の各波長の光の透過率が略同一の値を示すようになった。例えば図19に示すように、従来技術で説明した凹凸が形成されていない透光性樹脂フィルムの一方の面に透光性の金属薄膜を成膜してなるハーフミラーでは、長波長域の光の透過率が、短波長域の光の透過率に対して10〜20%程度も低下してしまうといった傾向を呈する。そして、この傾向は、入射角が小さい程、強く現れる。このような傾向からすると、可視光域内での透過率のスペクトル分布におけるバラツキが少なくなるといった作用効果は、従来の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであると言える。したがって、このような透過率異方性フィルム10によれば、当該透過率異方性フィルム10の背面側の像を、優れた色再現性にて変色させることなく、観察することが可能となる。
なお、図19に結果が示された実験においては、金属薄膜を積層される透光性樹脂フィルムに紫外線吸収剤が添加されていた。この紫外線吸収剤に起因して、図19に示された結果では、略420nm以下の短波長側での透過率が低下している。透光性樹脂フィルムに紫外線吸収剤が添加されていない場合には、波長が長くなるにつれて透過率が低下するといった現象がより強く現れる。
さらに、属薄膜30の厚みが薄い場合、より具体的には、平面視において同面積となる平坦面に成膜した場合に厚さが可視光線帯域の最短波長としての380nmの1/40以上1/15以下となる条件にて、アルミニウム又はアルミニウム合金をスパッタリングして金属薄膜30を形成した場合、透過率異方性フィルム10の表面に、金属薄膜30に起因した金属光沢、さらには、金属色の色味すら確認し難くなった。したがって、透過率異方性フィルム10の背面側の像を、変色させることなく、明瞭に観察することが可能となる。
<<透過率異方性フィルム10の用途>>
次に、以上のような構成及び特性を有した透過率異方性フィルム10の用途の一例について説明する。
<表示装置1>
図17には、透過率異方性フィルム10を表示装置50に組み込んだ例が開示されている。表示装置50は、表示面52を有した表示機構51と、透過率異方性フィルム10と、を含んでいる。透過率異方性フィルム10は、表示機構51の表示面52を覆うように配置されている。表示機構51は、液晶表示パネル、エレクトロルミネッセンス表示パネル、プラズマディスプレイパネル等の既知の表示機構を用いることができる。
使用者は、透過率異方性フィルム10越しに、表示機構51の表示面52に表示される画像を観察する。上述したように、透過率異方性フィルム10は、光の入射角度に依存じて、当該光の透過率が大きく変動するといった特徴を有している。より具体的には、正面方向(透過率異方性フィルム10の法線方向nd)及びその近傍方向に沿って進む光は、高い透過率で透過率異方性フィルム10を透過することができる。その一方で、正面方向(法線方向nd)から大きく傾斜した方向に沿って進む光の透過率は、正面方向およびその近傍方向に沿って進む光の透過率に対し、著しく低下する。とりわけ、入射角度が一定の値を超えると(図14の例では入射角度が55°を超えると)、透過率異方性フィルム10の透過率が急激に低下し得る。したがって、透過率異方性フィルム10が覗き見防止機能を発揮するようになる。すなわち、例えば、表示装置50が、携帯電話等の携帯端末用表示装置である場合には、表示機構51の表示面52に表示される画像を、表示面52の法線方向に位置する使用者のみが明瞭に観察することができ、広角度から表示面52を覗き込む者が表示面52に表示された画像を観察することを防止することができる。すなわち、透過率異方性フィルム10は、表示機構51の視野角を制御する視野角制御シートとして機能する。
この点について、例えば特開2006−189867号公報には、互いに平行となるように配列された直線状のブラックストライプからなるフィルタが開示されている。このフィルタも、いわゆるルーバーとして機能し、覗き見防止機能を発揮することができる。しかしながら、特開2006−189867号公報に開示されたタイプのルーバーでは、正面方向からブラックストライプの配列方向に傾斜した方向からの観察に対してのみ、覗き見防止機能を発揮する。そして、正面方向からブラックストライプの長手方向に傾斜した方向からの観察に対して、覗き見防止機能を何ら発揮しない。また、特開2006−189867号公報に開示されたブラックストライプは、黒色顔料を含有する樹脂硬化物からなり、高精細化が困難である。このため、表示機構の画素配列とブラックストライプの配列とに起因したモアレの発生を防止することができないこともあった。
この点について、ここで説明した透過率異方性フィルム10によれば、正面方向(法線方向nd)からいずれの方向に傾斜した方向からの覗き見も効果的に防止することが可能となる。また、凹凸構造層20の凹凸面21をなす微小突起22の平均間隔dAVGが可視光線帯域の最短波長以下まで短くなっているので、微小突起22の配列と表示機構51の画素配列とに起因したモアレの発生を極めて効果的に防止することができる。これらの点において、ここで説明した透過率異方性フィルム10は、従来のルーバーと比較して、異質または極めて顕著な作用効果を奏することができる。
なお、上述したように、ここで説明する透過率異方性フィルム10は、金属色を示すことなく無色であり、且つ、可視光域内での透過率のスペクトル分布におけるバラツキが少なくなる。このため、表示機構51の表示面52に表示される画像を、色味の変化を来すことなく、優れた覗き見防止機能を有した透過率異方性フィルム10越しに観察することができる。
<表示装置2>
ここで説明した透過率異方性フィルム10は、当該透過率異方性フィルム10に画像光を投射する画像光源61とともに、表意装置60を構成することができる。上述したように、透過率異方性フィルム10は、正面方向(法線方向nd)に対して大きく傾斜した方向から入射する光を、高い反射率で選択的に反射することができる。したがって、画像光源61からの画像光が透過率異方性フィルム10にて高い反射率で反射するように配置された画像光源61および透過率異方性フィルム10によって、特定の角度域からのみ画像を明瞭に観察することができる表示装置60を構成することができる。
このような表示装置60として、図18に示すように、プレンゼンターを例示することができる。図18に示された表示装置60の透過率異方性フィルム10には、画像光源61からの画像光が大きな入射角度で入射するようになっている。このため、画像光の大部分は、透過率異方性フィルム10を透過することなく透過率異方性フィルム10で反射され、特定の人物、例えば、透過率異方性フィルム10を見下ろす位置にいる講演者P1のみが画像を観察することができる。一方、講演者P1に対面する位置にいる聴講者P2は、画像光源61からの画像光を目に入れることはない。さらには、聴講者P2は、透過率異方性フィルム10に概ね正対する位置にいるので、透過率異方性フィルム10を透明なフィルムとして認識することになる。
このような表示装置60の他の例として、ヘッドアップディスプレイを挙げることができる。ヘッドアップディスプレイの使用者は、透過率異方性フィルム10を介して、透過率異方性フィルム10の背面側の像(景色)を観察することができるとともに、画像光源61によって特定の方向から透過率異方性フィルム10に投射され且つ当該透過率異方性フィルム10で選択的に反射される画像光からなる画像を視認することもできる。
<その他の用途>
ここで説明した透過率異方性フィルム10は、その他の種々の用途に限定されることなく利用され得る。例えば、視野角制御機能を有した窓材として透過率異方性フィルム10を使用することができる。
<<変形例>>
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、変形の一例について説明する。以下の説明では、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。
例えば、上述した実施の形態において、凹凸構造体20の凹凸面21をなす微小突起22が複数の頂部23を有する例を示したが、これに限られず、すべての微小突起22が頂部23を一つしか有さないようにしてもよい。
また、上述した実施の形態において、透過率異方性フィルム10が、一方の面側のみに、凹凸構造層20の凹凸面21を有し且つ当該当該凹凸面21上に金属薄膜30が形成されている例を示したが、これに限られない。透過率異方性フィルム10が、一方の面側および他方の面側の両側に凹凸構造層20の凹凸面21を有し、且つ、両方の凹凸面21上に金属薄膜30が形成されていてもよい。或いは、透過率異方性フィルム10が、一方の面側および他方の面側の両側に凹凸構造層20の凹凸面21を有し、且つ、片方の凹凸面21上のみに金属薄膜30が形成されていてもよい。
さらに、上述した実施の形態において、透過率異方性フィルム10が、透明基材15と、凹凸構造層20と、金属薄膜30と、からなる例を示したが、これに限られない。透過率異方性フィルム10から透明基材15が省かれてもよいし、透過率異方性フィルム10に、他の層が追加されてもよい。