以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す車両Vは、左右の前輪WFL、WFR及び後輪WRL、WRRを備える四輪車両であり、その前部には、その動力源としての内燃機関(以下「エンジン」という)3が搭載されている。左右の前輪WFL、WFRの操向方向は、運転者がハンドル(図示せず)を操作することによって変更され、それにより走行中の車両Vが左右に旋回する。
上記のエンジン3は、例えばガソリンエンジンであり、そのクランク軸3aが、クラッチCLや、変速機TM、差動装置DG、左右の前軸SFL、SFRを介して、左右の前輪WFL、WFRに連結されている。エンジン3の出力は、これらの変速機TMなどを介して、左右の前輪WFL、WFRに伝達される。
また、車両Vの後部には、動力伝達装置1が搭載されている。図2に示すように、動力伝達装置1は、互いに同軸状に配置された第1及び第2遊星歯車装置PS1、PS2と、回転電機4を備えており、これらの回転電機4、第1及び第2遊星歯車装置PS1、PS2は、車両Vに固定されたケースCAに収容されている。ケースCAには、第1及び第2遊星歯車装置PS1、PS2などの潤滑油であるオイルOILが貯留されている。
第1遊星歯車装置PS1は、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置であり、第1サンギヤS1と、その周りに設けられた第1リングギヤR1と、両者S1、R1に噛み合う複数(例えば3つ)の第1ピニオンギヤP1と、これらの第1ピニオンギヤP1を回転自在に支持する第1キャリアC1を有している。第2遊星歯車装置PS2は、第1遊星歯車装置PS1と同様、シングルピニオンタイプの遊星歯車装置であり、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2、複数の第2ピニオンギヤP2、及び第2キャリアC2を有している。
周知のように、これらの第1サンギヤS1、第1キャリアC1及び第1リングギヤR1は、それらの回転数が共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たすように構成されており、このことは、第2サンギヤS2、第2キャリアC2及び第2リングギヤR2についても同様である。また、第1サンギヤS1の歯数及び第2サンギヤS2の歯数は互いに同じ値に、第1リングギヤR1の歯数及び第2リングギヤR2の歯数は互いに同じ値に、それぞれ設定されている。
第1及び第2サンギヤS1、S2は、連結軸5を介して互いに連結されており、互いに一体に回転自在である。連結軸5には、ギヤ6が同軸状に一体に設けられており、ギヤ6は、連結軸5の左右方向の中央に配置されている。また、第1キャリアC1は、左後軸SRLを介して左後輪WRLに連結されており、第2キャリアC2は、右後軸SRRを介して右後輪WRRに連結されている。左右の後軸SRL、SRRはそれぞれ、ケースCAに回転自在に支持されており、第1及び第2キャリアC1、C2と一体に回転自在である。
また、動力伝達装置1は、油圧式の第1ブレーキ7、第1クラッチ8、第2ブレーキ9及び第2クラッチ10をさらに備えている。これらの第1ブレーキ7、第1クラッチ8、第2ブレーキ9及び第2クラッチ10は、ケースCAに収容されるとともに、上述した第1及び第2リングギヤR1、R2よりも径方向の内側に配置されている。第1遊星歯車装置PS1、第1ブレーキ7及び第1クラッチ8と、第2遊星歯車装置PS2、第2ブレーキ9及び第2クラッチ10とは、上述したギヤ6を中央として、左右対称に設けられている。
第1ブレーキ7は、湿式摩擦クラッチで構成されており、円筒状のインナー7a及びアウター7bを有している。インナー7aは、ケースCAに固定されており、左後軸SRLの周りに同軸状に配置されている。インナー7aには、軸線方向に移動可能で、かつ相対的に回転不能なドーナツ板状の複数の摩擦板(図示せず)が設けられている。
アウター7bは、中空の回転軸11を介して、第1リングギヤR1に同軸状に一体に回転自在に設けられている。アウター7bには、軸線方向に移動可能で、かつ相対的に回転不能なドーナツ板状の複数の摩擦板(図示せず)が設けられている。これらの摩擦板は、インナー7aの摩擦板と軸線方向に交互に重なるように配置されており、復帰ばね(図示せず)による付勢によって、インナー7aの摩擦板との間に若干の隙間を存した状態で保持されている。
以上の構成の第1ブレーキ7では、後述する油圧ポンプ15からの油圧が供給されていないときには、インナー7a及びアウター7bの摩擦板が、復帰ばねの付勢力で互いに離れた状態になり、第1ブレーキ7は解放状態になる。一方、油圧が第1ブレーキ7に供給されているときには、それによりインナー7a及びアウター7bの摩擦板が互いに係合した状態になり、第1ブレーキ7は締結状態になる。また、第1リングギヤR1は、第1ブレーキ7の締結によって制動され、解放によってその制動が解除される。
第1クラッチ8は、第1ブレーキ7と同様、湿式摩擦クラッチであり、円筒状のインナー8a及びアウター8bを有している。インナー8aは、連結軸5に同軸状に一体に回転自在に設けられており、ギヤ6と第1サンギヤS1の間に配置されている。インナー8aには、軸線方向に移動可能で、かつ相対的に回転不能なドーナツ板状の複数の摩擦板(図示せず)が設けられている。
アウター8bは、中空の回転軸12を介して、第1リングギヤR1に同軸状に一体に回転自在に設けられており、アウター8bは、連結軸5の周りに配置されている。アウター8bには、軸線方向に移動可能で、かつ相対的に回転不能なドーナツ板状の複数の摩擦板(図示せず)が設けられている。これらの摩擦板は、インナー8aの摩擦板と軸線方向に交互に重なるように配置されており、復帰ばね(図示せず)による付勢によって、インナー8aの摩擦板との間に若干の隙間を存した状態で保持されている。
以上の構成の第1クラッチ8では、油圧ポンプ15からの油圧が供給されていないときには、インナー8a及びアウター8bの摩擦板が、復帰ばねの付勢力で互いに離れた状態になり、第1クラッチ8は解放状態になる。一方、油圧が第1クラッチ8に供給されているときには、それによりインナー8a及びアウター8bの摩擦板が互いに係合した状態になり、第1クラッチ8は締結状態になる。また、第1サンギヤS1と第1リングギヤR1の間が、第1クラッチ8の締結によって接続され、解放によって遮断される。
第2ブレーキ9及び第2クラッチ10はそれぞれ、第1ブレーキ7及び第1クラッチ8と同様に構成されているので、以下、その構成について簡単に説明する。第2ブレーキ9及び第2クラッチ10はそれぞれ、インナー9a及び10aと、アウター9b及び10bを有している。第2ブレーキ9のインナー9aは、ケースCAに固定されており、アウター9bは、中空の回転軸13を介して、第2リングギヤR2に同軸状に一体に回転自在に設けられている。また、両者9a、9bは、右後軸SRRの周りに同軸状に配置されている。
以上の構成の第2ブレーキ9は、油圧ポンプ15からの油圧が供給されていないときには、解放状態になる一方、油圧が供給されているときには、締結状態になる。また、第2リングギヤR2は、第2ブレーキ9の締結によって制動され、解放によってその制動が解除される。
第2クラッチ10のインナー10aは、連結軸5に同軸状に一体に回転自在に設けられており、ギヤ6と第2サンギヤS2の間に配置されている。アウター10bは、中空の回転軸14を介して、第2リングギヤR2に同軸状に一体に回転自在に設けられており、連結軸5の周りに配置されている。
以上の構成の第2クラッチ10は、油圧ポンプ15からの油圧が供給されていないときには、解放状態になる一方、油圧が供給されているときには、締結状態になる。また、第2サンギヤS2と第2リングギヤR2の間が、第2クラッチ10の締結によって接続され、解放によって遮断される。
また、動力伝達装置1には、油圧ポンプ15、第1電磁弁SV1、第2電磁弁SV2、第3電磁弁SV3及び第4電磁弁SV4(図3参照)が設けられている。油圧ポンプ15は、前述したオイルOILを汲み上げて、第1クラッチ7、第1ブレーキ8、第2クラッチ9及び第2ブレーキ10に油圧を供給するためのものである。このように、オイルOILは、第1及び第2遊星歯車装置PS1、PS2の潤滑油と、第1クラッチ7、第1ブレーキ8、第2クラッチ9及び第2ブレーキ10の作動油とに兼用されている。
第1及び第2ブレーキ7、9は、油路(図示せず)、第1及び第2電磁弁SV1、SV2をそれぞれ介して、油圧ポンプ15に接続されている。第1電磁弁SV1の開度は、後述するECU2(図3参照)によって制御され、それにより油圧ポンプ15から第1ブレーキ7に供給される油圧が調整されることによって、第1ブレーキ7の締結力、すなわち、その制動力が制御される。同様に、第2電磁弁SV2の開度は、ECU2によって制御され、それにより、油圧ポンプ15から第2ブレーキ9に供給される油圧が調整されることによって、第2ブレーキ9の締結力(制動力)が制御される。
第1及び第2クラッチ8、10は、油路(図示せず)、第3及び第4電磁弁SV3、SV4をそれぞれ介して、油圧ポンプ15に接続されている。第3電磁弁SV3の開度は、ECU2によって制御され、それにより、油圧ポンプ15から第1クラッチ8に供給される油圧が調整されることによって、第1クラッチ8の締結力が制御される。同様に、第4電磁弁SV4の開度は、ECU2によって制御され、それにより、油圧ポンプ15から第2クラッチ10に供給される油圧が調整されることによって、第2クラッチ10の締結力が制御される。
前記回転電機4は、例えば誘導モータで構成されており、第1及び第2遊星歯車装置PS1、PS2の軸線方向において、両遊星歯車装置PS1、PS2とオーバーラップするように配置されている。また、回転電機4では、電力が供給されると、供給された電力は、動力に変換され、その出力軸4aに出力される。また、出力軸4aに動力が入力されると、この動力は、電力に変換される(発電)。また、回転電機4は、パワードライブユニット(以下「PDU」という)21を介して、充電・放電可能なバッテリ22に接続されており、バッテリ22との間で電力を授受可能である。このPDU21は、インバータなどの電気回路で構成されている。図3に示すように、PDU21には、ECU2が電気的に接続されており、ECU2は、PDU21を制御することによって、回転電機4に供給する電力と、回転電機4で発電する電力と、回転電機4の回転数を制御する。
以下、回転電機4に供給された電力を動力に変換し、出力軸4aから出力することを適宜「力行」という。また、出力軸4aに入力された動力を用いて回転電機4で発電し、当該動力を電力に変換することを適宜「回生」という。
また、回転電機4の出力軸4aには、ギヤ16が一体に設けられており、このギヤ16は、前述したギヤ6に噛み合っている。また、回転電機4の出力軸4aの途中に、前述した油圧ポンプ15が設けられている。油圧ポンプ15は、回転電機4の駆動力や、左右の後輪WRL、WRRから第1及び第2サンギヤS1、S2に伝達される動力によって、駆動される。
また、図3に示すように、ECU2には、操舵角センサ31から車両Vのハンドルの操舵角θを表す検出信号が、車速センサ32から車速VPを表す検出信号が、入力される。ECU2にはさらに、電流電圧センサ33から、バッテリ22に入出力される電流・電圧値を表す検出信号が入力される。ECU2は、電流電圧センサ33からの検出信号に基づいて、バッテリ22の充電状態を算出する。
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAM及びROMなどから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、上述した各種のセンサ31〜33からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、回転電機4、第1クラッチ7、第1ブレーキ8、第2クラッチ9及び第2ブレーキ10を制御する。これにより、動力伝達装置1の各種の動作が行われる。
図4は、動力伝達装置1の動作モードと、各動作モードにおける各種の構成要素の動作を示している。同図に示すように、この動作モードには、「直進アシストモード」、「左旋回アシストモード」、「右旋回アシストモード」、「高速直進モード」、「高速左旋回モード」、「高速右旋回モード」及び「高速前進・後進モード」が含まれる。以下、図4〜図10を参照しながら、各動作モードにおけるECU2の制御動作を説明する。
[直進アシストモード]
この直進アシストモードは、エンジン3の運転中で、かつ車両Vが低・中速で前進・後進しているときに、左右の後輪WRL、WRRを同一の回転数で回転させ、車両Vの高い直進安定性を確保するとともに、回転電機4でエンジン3をアシストする動作モードである。
図4に示すように、直進アシストモード中、第1ブレーキ7を完全に締結することによって、第1リングギヤR1を停止状態に保持するとともに、第1クラッチ8を解放することによって、第1サンギヤS1と第1リングギヤR1の間を遮断する。また、第2ブレーキ9を完全に締結することによって、第2リングギヤR2を停止状態に保持するとともに、第2クラッチ10を解放することによって、第2サンギヤS2と第2リングギヤR2の間を遮断する。さらに、回転電機4で力行を行う。図5は、直進アシストモード中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係について、示している。
前述したように、第1サンギヤS1、第1キャリアC1及び第1リングギヤR1の回転数は互いに共線関係にあり、第2サンギヤS2、第2キャリアC2及び第2リングギヤR2の回転数は互いに共線関係にある。また、第1及び第2サンギヤS1、S2が互いに一体に回転可能に連結されているので、両者S1、S2の回転数は互いに等しい。
さらに、回転電機4の出力軸4aは、ギヤ16、ギヤ6及び連結軸5を介して、第1及び第2サンギヤS1、S2に連結されているので、これらのギヤ16、6による変速を無視すれば、回転電機4の回転数は、第1及び第2サンギヤS1、S2のそれと等しい。また、第1及び第2キャリアC1、C2は、左右の後軸SRL、SRRを介して左右の後輪WRL、WRRにそれぞれ連結されているので、第1及び第2キャリアC1、C2の回転数は、左後輪WRL及び右後輪WRRの回転数とそれぞれ等しい。
以上から、第1サンギヤS1、第1キャリアC1、第1リングギヤR1、第2サンギヤS2、第2キャリアC2、第2リングギヤR2、左右の後輪WRL、WRR及び回転電機4の回転数は、例えば図5や後述する共線図のように示される。なお、同図において、ZS1、ZR1、ZS2及びZR2はそれぞれ、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1、第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2の歯数である。
直進アシストモード中、回転電機4の出力トルク(以下「モータトルク」という)は、油圧ポンプ15に伝達され、さらに、第1及び第2サンギヤS1、S2に伝達される。図5に示すように、第1サンギヤS1に伝達されたモータトルクTSは、第1ブレーキ7から第1リングギヤR1に作用する制動力(以下「第1ブレーキ制動力BR1」という)を反力トルクとして、第1キャリアC1に伝達され、さらに左後輪WRLに伝達される。また、第2サンギヤS2に伝達されたモータトルクTSは、第2ブレーキ9から第2リングギヤR2に作用する制動力(以下「第2ブレーキ制動力BR2」という)を反力トルクとして、第2キャリアC2に伝達され、さらに右後輪WRRに伝達される。
なお、図5において、RRL及びRRRはそれぞれ、左右の後輪WRL、WRRから第1及び第2キャリアC1、C2にそれぞれ作用する反力トルクである。また、図5では、便宜上、第1及び第2サンギヤS1、S2にそれぞれ伝達されたモータトルクを同じ符号(TS)で示している。
以上により、図6に示すように、直進アシストモード中、回転電機4の駆動力が左右の後輪WRL、WRRに伝達される結果、回転電機4でエンジン3がアシストされる。また、図5から明らかなように、回転電機4の駆動力は、減速した状態で左右の後輪WRL、WRRに伝達されるので、回転電機4を左右の後輪WRL、WRRに直結した場合よりも大きなトルクを、左右の後輪WRL、WRRに伝達することができる。なお、図6、後述する図8及び図10では、動力の伝達状況を、矢印付きの太い線にハッチングを付して示している。
また、前述したように第1及び第2サンギヤS1、S2の歯数ZS1、ZS2は、互いに等しく、第1及び第2リングギヤR1、R2の歯数ZR1、ZR2は、互いに等しい。したがって、直進アシストモード中、前述したように第1及び第2ブレーキ7、9で第1及び第2リングギヤR1、R2をそれぞれ停止状態に保持することによって、左右の後輪WRL、WRRを互いに同一の回転数で回転させることができ、それにより車両Vの高い直進安定性を確保することができる。
[左旋回アシストモード]
この左旋回アシストモードは、エンジン3の運転中で、かつ車両Vが低・中速で左旋回しているときに、回転電機4の駆動力を用いて右後輪WRRの回転数を左後輪WRLの回転数よりも高くし、車両Vの左回りのヨーモーメントを増大させることによって、車両Vの旋回性を向上させる動作モードである。
図4に示すように、左旋回アシストモード中、第1ブレーキ7を完全に締結することによって、第1リングギヤR1を停止状態に保持するとともに、第1クラッチ8を解放することによって、第1サンギヤS1と第1リングギヤR1の間を遮断する。また、第2ブレーキ9を解放することによって、第2ブレーキ9による第2リングギヤR2の制動を解除するとともに、第2クラッチ10の締結力を制御する(「可変」と図示)。さらに、回転電機4で力行を行う。図7は、左旋回アシストモード中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係について、示している。
図7に示すように、左旋回アシストモード中、直進アシストモードの場合と同様、回転電機4のモータトルクは、油圧ポンプ15に伝達され、さらに、第1及び第2サンギヤS1、S2に伝達される。第1サンギヤS1に伝達されたトルクTSは、第1リングギヤR1に作用する第1ブレーキ制動力BR1を反力トルクとして、第1キャリアC1に伝達され、さらに左後輪WRLに伝達される。また、第2クラッチ10の締結力の制御によって、第2サンギヤS2と第2リングギヤR2の間の接続度合が調整されることによって、第2サンギヤS2に伝達されたトルクTSの一部が、第2リングギヤR2に伝達され、その結果、第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2に伝達されたトルクを合成したトルクが、第2キャリアC2を介して右後輪WRRに伝達される。なお、図5において、TR2は、第2リングギヤR2に伝達されたトルクである。
以上により、図8に示すように、左旋回アシストモード中、回転電機4の駆動力が左右の後輪WRL、WRRに伝達される結果、回転電機4でエンジン3がアシストされる。この場合、図7に示す回転数の関係から明らかなように、回転電機4から右後輪WRRに配分(伝達)される駆動力(トルク×回転数)は、左後輪WRLに配分される駆動力よりも大きくなる。また、第2クラッチ10の締結力の制御によって、右後輪WRRに伝達される駆動力(回転数)を自由に制御することができる。以上により、車両Vの左回りのヨーモーメントを増大させ、ひいては、その旋回性を向上させることができる。なお、第2クラッチ10を完全に締結したときには、第2サンギヤS2、第2キャリアC2及び第2リングギヤR2は一体に回転する。
[右旋回アシストモード]
この右旋回アシストモードは、エンジン3の運転中で、かつ車両Vが低・中速で右旋回しているときに、回転電機4の駆動力を用いて左後輪WRLの回転数を右後輪WRRの回転数よりも高くし、車両Vの右回りのヨーモーメントを増大させることによって、車両Vの旋回性を向上させる動作モードである。
図4に示すように、右旋回アシストモード中、第1ブレーキ7を解放することによって、第1ブレーキ7による第1リングギヤR1の制動を解除するとともに、第1クラッチ8の締結力を制御する(「可変」と図示)。また、第2ブレーキ9を完全に締結することによって、第2リングギヤR2を停止状態に保持するとともに、第2クラッチ10を解放することによって、第2サンギヤS2と第2リングギヤR2の間を遮断する。さらに、回転電機4で力行を行う。
右旋回アシストモードにおける各種の回転要素の動作は、左旋回アシストモードと左右逆に行われるため、その詳細な説明は省略する。また、右旋回アシストモード中、回転電機4から左後輪WRLに配分される駆動力(回転数)は、右後輪WRRに配分される駆動力よりも大きくなる。さらに、第1クラッチ8の締結力の制御によって、左後輪WRLに伝達される動力(左後輪WRLの回転数)を自由に制御することができる。以上により、車両Vの右回りのヨーモーメントを増大させ、ひいては、その旋回性を向上させることができる。なお、第1クラッチ8を完全に締結したときには、第1サンギヤS1、第1キャリアC1及び第1リングギヤR1は一体に回転する。
[高速直進モード]
この高速直進モードは、車両Vが高速で前進しているときに、左右の後輪WRL、WRRを互いに同一の回転数で回転させ、車両Vの高い直進安定性を確保するための動作モードである。
図4に示すように、高速直進モード中、第1ブレーキ7、第1クラッチ8、第2ブレーキ9及び第2クラッチ10の制御は、前述した直進アシストモードの場合と同様に行われ、直進アシストモードと比較して、回転電機4を停止状態に制御することのみが異なっている。したがって、直進アシストモードの場合と同様、車両Vの高い直進安定性を確保することができる。
また、高速直進モードは、主として直進アシストモードの設定後に、動作モードとして設定される。この場合、直進アシストモード中に力行を行っていた回転電機4は、高速直進モードへの動作モードの移行に伴って停止されるものの、第1及び第2ブレーキ7、9による第1及び第2リングギヤR1、R2の制動によって、左右の後輪WRL、WRRの動力を、第1及び第2キャリアC1、C2並びに第1及び第2サンギヤS1、S2を介して、油圧ポンプ15に伝達することができる。これにより、直進アシストモードから高速直進モードへの移行後においても、油圧ポンプ15を継続して駆動でき、したがって、第1及び第2ブレーキ7、9への油圧の供給を、支障なく行うことができる。
また、この場合、油圧ポンプ15が第1及び第2サンギヤS1、S2の双方に連結されているため、油圧ポンプ15の負荷を、左右の後輪WRL、WRRの一方にのみ作用させずに、双方に作用させることができ、したがって、車両Vのより高い直進安定性を確保することができる。さらに、左右の後輪WRL、WRRの動力の一部が回転電機4に伝達されるものの、回転電機4が誘導モータで構成されているため、PDU21を積極的に制御しない限り、発電することがないので、発電による制動トルクが左右の後輪WRL、WRRに作用せずに済み、その連れ回り抵抗を抑えることができる。
[高速左旋回モード]
この高速左旋回モードは、車両Vが高速で左旋回しているときに、左右の後輪WRL、WRRの間で動力の授受を行うことにより、右後輪WRRの回転数を左後輪WRLの回転数よりも高くし、車両Vの左回りのヨーモーメントを増大させることによって、車両Vの旋回性を向上させるための動作モードである。
図4に示すように、高速左旋回モード中、第1クラッチ7、第1ブレーキ8、第2クラッチ9及び第2ブレーキ10の制御は、前述した左旋回アシストモードの場合と同様に行われ、左旋回アシストモードと比較して、回転電機4を停止状態に制御することのみが異なっている。図9は、高速左旋回モード中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。
図9に示すように、高速左旋回モード中、左後輪WRLから第1キャリアC1に伝達されたトルクTRLは、第1リングギヤR1に作用する第1ブレーキ制動トルクBR1を反力トルクとして、第1サンギヤS1に伝達され、さらに第2サンギヤS2、油圧ポンプ15及び回転電機4に伝達される(図10参照)。図9において、RS1は、第1サンギヤS1に作用する反力トルクであり、TS2は第2サンギヤS2に伝達されるトルクであり、両者の大きさは互いに等しい。
また、第2サンギヤS2に伝達されたトルクTS2は、第2クラッチ10を介して、第2リングギヤR2に伝達される。その結果、第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2に伝達されたトルクTS2、TR2を合成したトルクが、第2キャリアC2及び右後軸SRRを介して、右後輪WRRに伝達される。
以上により、図10に示すように、左後輪WRLの動力の一部が、第1及び第2遊星歯車装置PS1、PS2を介して、右後輪WRRに伝達される。換言すれば、左後輪WRLに制動力が作用するとともに、右後輪WRRに駆動力が作用する。この場合、図9から明らかなように、第2クラッチ10の締結力を制御することによって、左後輪WRLから右後輪WRRに伝達される動力(右後輪WRRの回転数)を自由に制御することができ、したがって、車両Vの左回りのヨーモーメントを増大させ、ひいては、その旋回性を向上させることができる。なお、第2クラッチ10を完全に締結したときには、第2サンギヤS2、第2キャリアC2及び第2リングギヤR2は一体に回転する。
また、高速左旋回モード中、高速直進モードの場合と同様、回転電機4が停止されるものの、左後輪WRLから右後輪WRRへの動力の伝達に伴い、油圧ポンプ15にも、左後輪WRLの動力の一部が伝達されるので、第1ブレーキ7及び第2クラッチ10への油圧の供給を支障なく行うことができる。さらに、油圧ポンプ15の負荷を左右の後輪WRL、WRRの双方に作用させることができるので、車両Vのより高い走行安定性を確保することができる。また、左後輪WRLの動力の一部が回転電機4に伝達されるものの、回転電機4が誘導モータで構成されているので、その連れ回り抵抗を抑えることができる。
[高速右旋回モード]
この高速右旋回モードは、車両Vが高速で右旋回しているときに、左右の後輪WRL、WRRの間で動力の授受を行うことにより、左後輪WRLの回転数を右後輪WRRの回転数よりも高くし、車両Vの右回りのヨーモーメントを増大させることによって、車両Vの旋回性を向上させるための動作モードである。
図4に示すように、高速右旋回モード中、第1クラッチ7、第1ブレーキ8、第2クラッチ9及び第2ブレーキ10の制御は、前述した右旋回アシストモードの場合と同様に行われ、左旋回アシストモードと比較して、回転電機4を停止状態に制御することのみが異なっている。
高速右旋回モードにおける各種の回転要素の動作は、高速左旋回モードと左右逆に行われるため、その詳細な説明は省略する。また、高速右旋回モード中、第1クラッチ8の締結力を制御することによって、右後輪WRRから左後輪WRLに伝達される動力(左後輪WRLの回転数)を自由に制御することができ、したがって、車両Vの右回りのヨーモーメントを増大させ、ひいては、その旋回性を向上させることができる。なお、第1クラッチ8を完全に締結したときには、第1サンギヤS1、第1キャリアC1及び第1リングギヤR1は一体に回転する。
また、高速右旋回モード中、高速直進モードの場合と同様、回転電機4が停止されるものの、右後輪WRRから左後輪WRLへの動力の伝達に伴い、油圧ポンプ15にも、右後輪WRRの動力の一部が伝達されるので、第2ブレーキ9及び第1クラッチ8への油圧の供給を支障なく行うことができる。さらに、油圧ポンプ15の負荷を左右の後輪WRL、WRRの双方に作用させることができるので、車両Vのより高い走行安定性を確保することができる。さらに、右後輪WRRの動力の一部が回転電機4に伝達されるものの、回転電機4が誘導モータで構成されているので、その連れ回り抵抗を抑えることができる。
[高速前進・後進モード]
この高速前進・後進モードは、車両Vが高速で前進・後進しているときに行われる動作モードである。
図4に示すように、高速前進・後進モード中、第1ブレーキ7、第1クラッチ8、第2ブレーキ9及び第2クラッチ10をいずれも、完全に解放する。これにより、図5などに示す共線図から明らかなように、車両Vの走行中、左右の後輪WRL、WRRは、互いに差回転が可能である。
また、第1及び第2リングギヤR1、R2の反力(フリクション)よりも、第1及び第2サンギヤS1、S2に作用する油圧ポンプ15のフリクションの方が大きい。このため、左右の後輪WRL、WRRから第1及び第2キャリアC1、C2に動力が伝達されても、第1及び第2リングギヤR1、R2が空転するだけで、左右の後輪WRL、WRRの動力は、第1及び第2サンギヤS1、S2を介して、油圧ポンプ15及び回転電機4に無駄に伝達されず、両者15、4は、停止した状態に保持される。
なお、高速前進・後進モード中、上述したように左右の後輪WRL、WRRの動力を用いて油圧ポンプ15を駆動できないので、高速前進・後進モードから、高速直進モード、高速左旋回モード及び高速右旋回モードへの動作モードの移行時、油圧ポンプ15を駆動するために、回転電機4で力行が強制的に行われる。そして、高速直進モード、高速左旋回モード及び高速右旋回モードに移行した後、この回転電機4の力行によって、油圧ポンプ15の油圧が十分に立ち上がり、第1又は第2ブレーキ7、9を締結した後には、回転電機4が停止される。
また、図11は、車両Vの旋回時に動作モードを設定する処理を示している。本処理は、車両Vの旋回が開始されてから終了するまでの間に、所定時間ごとに実行される。まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、検出された車速VPが所定車速以上であるか否かを判別する。この答がYESのときには、車両Vの高速走行中であるとして、車両Vの旋回方向が右方向であるか否かを判別する(ステップ2)。この判別は、検出されたハンドルの操舵角θに基づいて行われる。
このステップ2の答がYESのとき、すなわち、車両Vが高速で右旋回しているときには、動作モードを前述した高速右旋回モードに設定し(ステップ3)、本処理を終了する。一方、ステップ2の答がNOのとき、すなわち、車両Vが高速で左旋回しているときには、動作モードを前述した高速左旋回モードに設定し(ステップ4)、本処理を終了する。
一方、前記ステップ1の答がNOで、車両Vの高速走行中でないときには、車両Vの旋回方向が右方向であるか否かを判別する(ステップ5)。この判別は、上記ステップ2と同様に行われる。このステップ5の答がYESのとき、すなわち、車両Vが低・中速で右旋回しているときには、動作モードを前述した右旋回アシストモードに設定し(ステップ6)、本処理を終了する。
一方、上記ステップ5の答がNOのとき、すなわち、車両Vが低・中速で左旋回しているときには、動作モードを前述した左旋回アシストモードに設定し(ステップ7)、本処理を終了する。
また、本実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、本実施形態における左右の後輪WRL、WRRが、本発明における第1及び第2車輪にそれぞれ相当し、本実施形態におけるECU2が、本発明における第1及び第2制御手段に相当するとともに、本実施形態における回転電機4及びエンジン3が、本発明における第1及び第2原動機にそれぞれ相当する。
また、本実施形態における第1サンギヤS1、第1キャリアC1及び第1リングギヤR1が、本発明における第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素にそれぞれ相当するとともに、第2サンギヤS2、第2キャリアC2及び第2リングギヤR2が、本発明における第4回転要素、第5回転要素及び第6回転要素にそれぞれ相当する。さらに、本実施形態における第1ブレーキ7、第1クラッチ8、第2ブレーキ9及び第2クラッチ10が、本発明における第1制動手段、第1断接手段、第2制動手段及び第2断接手段にそれぞれ相当する。また、本実施形態における油圧ポンプ15が、本発明における流体圧供給装置に相当するとともに、本実施形態における左右の前輪WFL、WFRが、本発明における第3車輪に相当する。
以上のように、本実施形態によれば、高速左旋回モード(図9及び図10)中、右後輪WRRの回転数を左後輪WRLの回転数よりも高くするときに、第1ブレーキ7が締結され、第2ブレーキ9が解放されるとともに、第1クラッチ8が解放され、第2クラッチ10の締結力が制御される。これとは逆に、高速右旋回モード中、左後輪WRLの回転数を右後輪WRRの回転数よりも高くするときに、第2ブレーキ9が締結され、第1ブレーキ7が解放されるとともに、第2クラッチ10が解放され、第1クラッチ8の締結力が制御される。以上により、高速左旋回モード中及び高速右旋回モード中、左右の後輪WRL、WRRの間で動力の伝達を適切に行うことができるので、左右の後輪WRL、WRRの動力を自由に変更でき、車両Vの旋回性を向上させることができる。
同様に、左旋回アシストモード(図7及び図8)中、右後輪WRRの回転数を左後輪WRLの回転数よりも高くするときに、回転電機4で力行が行われ、第1ブレーキ7が締結され、第2ブレーキ9が解放されるとともに、第1クラッチ8が解放され、第2クラッチ10の締結力が制御される。これとは逆に、右旋回アシストモード中、左後輪WRLの回転数を右後輪WRRの回転数よりも高くするときに、回転電機4で力行が行われ、第2ブレーキ9が締結され、第1ブレーキ7が解放されるとともに、第2クラッチ10が解放され、第1クラッチ8の締結力が制御される。以上により、回転電機4から左右の後輪WRL、WRRに配分される駆動力(回転数)を自由に変更することができ、したがって、車両Vの旋回性を向上させることができる。
また、前述した図13と図7及び図9との比較から明らかなように、左旋回アシストモード、右旋回アシストモード、高速左旋回モード及び高速右旋回モード中、前述した従来の動力伝達装置のように第2左側(右側)ブレーキの制動力を左(右)キャタピラに直接、作用させる場合と比較して、第1及び第2ブレーキ7、9に作用するトルクを低減することができる。したがって、第1及び第2ブレーキ7、9の小型化を図ることができる。同様に、第1及び第2クラッチ8、10に作用するトルクを、従来の場合よりも低減できるので、第1及び第2クラッチ8、10の小型化を図ることができる。以上により、動力伝達装置1全体の小型化を図ることができる。
さらに、高速前進・後進モード中、第1及び第2ブレーキ7、9並びに第1及び第2クラッチ8、10を解放することによって、左右の後輪WRL、WRRを互いに差回転可能な状態に保持することができる。
また、第1及び第2ブレーキ7、9並びに第1及び第2クラッチ8、10が、油圧ポンプ15からの油圧の供給によって作動する。さらに、この油圧ポンプ15が、回転電機4が連結された第1及び第2サンギヤS1、S2に連結されているので、油圧ポンプ15を回転電機4の駆動力によって駆動することができる。したがって、油圧ポンプ15の駆動用に別個に駆動装置を設ける必要がなく、したがって、その分、動力伝達装置1全体を小型化することができる。
また、高速前進・後進モードから、高速直進モード、高速左旋回モード及び高速右旋回モードへの動作モードの移行時、油圧ポンプ15を駆動するために、回転電機4で力行が強制的に行われる。そして、高速直進モード、高速左旋回モード及び高速右旋回モードに移行した後、この回転電機4の力行によって、油圧ポンプ15の油圧が十分に立ち上がり、第1又は第2ブレーキ7、9を締結した後には、回転電機4が停止される。したがって、高速前進・後進モードから、高速直進モード、高速左旋回モード及び高速右旋回モードへの動作モードの移行後、回転電機4を停止しても、左右の後輪WRL、WRRの動力によって、油圧ポンプ15を適切に駆動することができる。
さらに、この場合、油圧ポンプ15が第1及び第2サンギヤS1、S2の双方に連結されているので、油圧ポンプ15の負荷を左右の後輪WRL、WRRの双方に作用させることができ、したがって、車両Vの高い走行安定性を確保することができる。また、回転電機4が誘導モータで構成されているので、その連れ回り抵抗を抑えることができる。
さらに、直進アシストモード(図5及び図6)中及び高速直進モード中、左右の後輪WRL、WRRを互いに同一の回転数で回転させるときに、第1及び第2ブレーキ7、9が締結されるとともに、第1及び第2クラッチ8、10が解放される。また、第1及び第2サンギヤS1、S2の歯数ZS1、ZS2が互いに同じ値に設定されるとともに、第1及び第2リングギヤR1、R2の歯数ZR1、ZR2が互いに同じ値に設定されている。以上により、左右の後輪WRL、WRRを互いに同一の回転数で回転させることができ、したがって、車両Vの高い直進安定性を確保することができる。
また、直進アシストモード中及び高速直進モード中、第1及び第2ブレーキ7、9が締結状態に保持されるため、この状態から高速左旋回モード又は高速右旋回モードに移行するときに、第1及び第2ブレーキ7、9の一方への油圧の供給を停止するだけでよく、第1及び第2ブレーキ7、9の他方への油圧の供給を初めから行う必要がないので、左右の後輪WRL、WRRの間の動力の授受を早期に開始することができる。同様に、左旋回アシストモード又は右旋回アシストモードに移行するときに、回転電機4から左右の後輪WRL、WRRに伝達される駆動力の変更を早期に開始することができる。
さらに、油圧ポンプ15の作動油であるオイルOILが、動力伝達装置1の潤滑油として兼用されており、また、直進アシストモード中及び高速直進モード中には常に、第1及び第2ブレーキ7、9を締結するために、両者7、9に、油圧ポンプ15から油圧が供給される。これにより、動力伝達装置1のケースCA内に貯留されたオイルOILの量を減少させることができるので、第1及び第2サンギヤS1、第1及び第2リングギヤR1、R2並びに第1及び第2キャリアC1、C2が回転する際のオイルOILの攪拌抵抗を抑えることができる。
また、左右の前輪WFL、WFRが、エンジン3により駆動されるとともに、操向方向を変更可能に構成されているので、車両Vの旋回性をさらに向上させることができる。
さらに、第1及び第2ブレーキ7、9並びに第1及び第2クラッチ8、10は、第1及び第2リングギヤR1、R2よりも径方向の内側に配置されているので、動力伝達装置1全体の径方向の大きさを小さくすることができる。
また、内燃機関よりも高い応答性を有する回転電機4を用いるので、回転電機4による左右の後輪WRL、WRRの駆動の応答性を高めることができる。
さらに、第1及び第2遊星歯車装置PS1、PS2が互いに同一の軸線上に配置されており、その軸線方向において、第1及び第2遊星歯車装置PS1、PS2と回転電機4とが、互いにオーバーラップするように配置されているので、動力伝達装置1全体の径方向の大きさを小さくすることができる。
次に、図12を参照しながら、本発明の第2実施形態による動力伝達装置51について説明する。この動力伝達装置51は、第1実施形態と比較して、第1ブレーキ52、第1クラッチ53、第2ブレーキ54及び第2クラッチ55の構成が主に異なっている。図12において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
第1ブレーキ52、第1クラッチ53、第2ブレーキ54及び第2クラッチ55は、第1実施形態の第1ブレーキ7、第1クラッチ8、第2ブレーキ9及び第2クラッチ10と同様、油圧式の湿式摩擦クラッチであり、インナー52a、53a、54a及び55a、並びにアウター52b、53b、54b及び55bをそれぞれ有している。これらのインナー52a、53a、54a及び55a並びにアウター52b、53b、54b及び55bの基本的な構成は、第1実施形態と同様である(摩擦板が設けられている)ので、以下、第1実施形態と異なる点のみを説明する。
第1ブレーキ52のインナー52aは、ケースCAに固定されており、第1リングギヤR1の周りに同軸状に配置されている。また、アウター52bは、第1リングギヤR1の外周部に同軸状に取り付けられており、第1リングギヤR1と一体に回転自在である。
第1クラッチ53のインナー53aは、中空の回転軸61及びフランジ62を介して、第1実施形態で述べた連結軸5に連結されており、連結軸5、第1及び第2サンギヤS1、S2と一体に回転自在である。また、インナー53aは、第1リングギヤR1の周りに同軸状に配置されている。アウター53bは、第1リングギヤR1の外周部に同軸状に取り付けられており、第1リングギヤR1と一体に回転自在である。また、アウター53bは、第1ブレーキ52のアウター52bと、軸線方向において重なっている。
第2ブレーキ54のインナー54aは、ケースCAに固定されており、第2リングギヤR2の周りに同軸状に配置されている。また、アウター54bは、第2リングギヤR2の外周部に同軸状に取り付けられており、第2リングギヤR2と一体に回転自在である。
第2クラッチ55のインナー55aは、中空の回転軸63及びフランジ64を介して、連結軸5に連結されており、連結軸5、第1及び第2サンギヤS1、S2と一体に回転自在である。また、インナー55aは、第2リングギヤR2の周りに同軸状に配置されている。アウター55bは、第2リングギヤR2の外周部に同軸状に取り付けられており、第2リングギヤR2と一体に回転自在である。また、アウター55bは、第2ブレーキ54のアウター54bと、軸線方向において重なっている。
以上の構成の動力伝達装置51によれば、第1ブレーキ52、第1クラッチ53、第2ブレーキ54及び第2クラッチ55について、第1実施形態で述べた制御動作が同様にして行われる。したがって、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。また、第1ブレーキ52及び第1クラッチ53を第1リングギヤR1の周りに、第2ブレーキ54及び第2クラッチ55を第2リングギヤR2の周りに、それぞれまとめて配置することができる。これにより、第1実施形態で述べた回転軸11、13を省略できる分、動力伝達装置51全体を小型化することができる。同じ理由により、第1ブレーキ52、第1クラッチ53、第2ブレーキ54及び第2クラッチ55に油圧を供給するための油圧回路(図示せず)をまとめて配置することができる。
また、第2実施形態における第1及び第2ブレーキ52、54並びに第1及び第2クラッチ53、55が、本発明における第1及び第2制動手段並びに第1及び第2断接手段にそれぞれ相当する。
なお、本発明は、説明した第1及び第2実施形態(以下、総称して「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、第1及び第2ブレーキ7、9並びに第1及び第2クラッチ8、10は、油圧の供給により締結されるタイプのものであるが、解放されるタイプのものでもよい。また、実施形態では、左旋回アシストモード中、右旋回アシストモード中、高速左旋回モード中及び高速右旋回モード中、第1又は第2ブレーキ7、9を完全に締結しているが、完全に締結せずに、その締結力を制御してもよい。
さらに、実施形態では、油圧ポンプ15を、回転電機4の出力軸4aに直結しているが、ギヤを介して連結してもよい。また、実施形態では、第1及び第2ブレーキ7、9並びに第1及び第2クラッチ8、10として、油圧を動力源とするタイプのものを用いているが、他の流体圧を動力源とするタイプのものを用いてもよい。さらに、実施形態では、第1及び第2ブレーキ7、9並びに第1及び第2クラッチ8、10は、油圧式であるが、電磁式でもよい。
また、実施形態では、第1及び第2サンギヤS1、S2の歯数ZS1、ZS2を互いに同じ値に、第1及び第2リングギヤR1、R2の歯数ZR1、ZR2を互いに同じ値に、それぞれ設定しているが、第1サンギヤS1の歯数ZS1と第1リングギヤR1の歯数ZR1との比、及び、第2サンギヤS2の歯数ZS2と第2リングギヤR2の歯数ZR2との比が、互いに同じ値に設定されていれば、必ずしもZS1及びZS2を互いに同じ値に、ZR1及びZR2を互いに同じ値に、それぞれ設定しなくてもよい。
さらに、実施形態では、第1及び第2サンギヤS1、S2を互いに一体に回転可能に連結するとともに、第1及び第2リングギヤR1、R2を第1及び第2ブレーキ7、9にそれぞれ連結しているが、これとは逆に、第1及び第2リングギヤR1、R2を互いに一体に回転可能に連結するとともに、第1及び第2サンギヤS1、S2を第1及び第2ブレーキ7、9にそれぞれ連結してもよい。また、実施形態では、第1及び第2遊星歯車装置PS1、PS2として、シングルピニオンタイプのものを用いているが、ダブルピニオンタイプのものや、かさ歯車タイプのものを用いてもよい。
さらに、実施形態では、第1及び第2キャリアC1、C2を、左右の後軸SRL、SRRを介して、左右の後輪WRL、WRRにそれぞれ連結しているが、ギヤを介して連結してもよい。また、実施形態では、本発明の第1原動機として、誘導モータで構成された回転電機4を用いているが、駆動力を出力可能な他の原動機、例えば、同期モータや、内燃機関、外燃機関などを用いてもよい。さらに、実施形態では、本発明の第2原動機として、ガソリンエンジンであるエンジン3を用いているが、他の原動機、例えば回転電機や、外燃機関などを用いてもよい。あるいは、エンジン3又は回転電機4を省略してもよい。
また、実施形態では、本発明の第1及び第2車輪はそれぞれ、左右の後輪WRL、WRRであるが、左右の前輪WFL、WFRでもよく、あるいは、全輪駆動式車両の前輪及び後輪でもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。