以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1.本実施形態に係るプロジェクターの光学系
図1は、本実施形態に係るプロジェクター500の光学系を示す説明図である。プロジェクター500は、光源装置200と、平行化レンズ305と、照明光学系310と、色分離光学系320と、3つの液晶ライトバルブ330R、330G、330Bと、クロスダイクロイックプリズム340と、投写光学系350とを有している。
光源装置200は、光源ユニット210と、放電灯点灯装置10と、を有している。光源ユニット210は、主反射鏡112と副反射鏡50(後述)と放電灯90とを有している。放電灯点灯装置10は、放電灯90に電力を供給して、放電灯90を点灯させる。主反射鏡112は、放電灯90から放出された光を、照射方向Dに向けて反射する。照射方向Dは、光軸AXと平行である。光源ユニット210からの光は、平行化レンズ305を通過して照明光学系310に入射する。この平行化レンズ305は、光源ユニット210からの光を、平行化する。
照明光学系310は、光源装置200からの光の照度を液晶ライトバルブ330R、330G、330Bにおいて均一化する。また、照明光学系310は、光源装置200からの光の偏光方向を一方向に揃える。この理由は、光源装置200からの光を液晶ライトバルブ330R、330G、330Bで有効に利用するためである。照度分布と偏光方向とが調整された光は、色分離光学系320に入射する。色分離光学系320は、入射光を、赤(R)、緑(G)、青(B)の3つの色光に分離する。3つの色光は、各色に対応付けられた液晶ライトバルブ330R、330G、330Bによって、それぞれ変調される。液晶ライトバルブ330R、330G、330Bは、液晶パネル560R、560G、560B(後述)と、液晶パネル560R、560G、560Bのそれぞれの光入射側及び出射側に配置される偏光板(不図示)を備える。変調された3つの色光は、クロスダイクロイックプリズム340によって合成される。合成光は、投写光学系350に入射する。投写光学系350は、入射光を、図示しないスクリーンに投写する。これにより、スクリーン上には映像が表示される。
なお、平行化レンズ305と、照明光学系310と、色分離光学系320と、クロスダイクロイックプリズム340と、投写光学系350とのそれぞれの構成としては、周知の種々の構成を採用可能である。
図2は、光源装置200の構成を示す説明図である。光源装置200は、光源ユニット210と放電灯点灯装置10とを有している。図中には、光源ユニット210の断面図が示されている。光源ユニット210は、主反射鏡112と放電灯90と副反射鏡50とを有している。
放電灯90の形状は、第1端部90e1から第2端部90e2まで、照射方向Dに沿って延びる棒形状である。放電灯90の材料は、例えば、石英ガラス等の透光性材料である。放電灯90の中央部は球状に膨らんでおり、その内には、放電空間91が形成されている。放電空間91内には、水銀、希ガス、金属ハロゲン化合物等を含む放電媒体であるガスが封入されている。
放電灯90は、第1電極92及び第2電極93を含んでいる。図2に示す例では、第1電極92及び第2電極93は、放電空間91内に突き出すように設けられている。第1電極92は、放電空間91の第1端部90e1側に配置され、第2電極93は、放電空間91の第2端部90e2側に配置されている。これらの第1電極92及び第2電極93の形状は、光軸AXに沿って延びる棒形状である。放電空間91内では、第1電極92及び第2電極93の電極先端部(「放電端」とも呼ぶ)が、所定距離だけ離れて向かい合っている。なお、これらの第1電極92及び第2電極93の材料は、例えば、タングステン等の金属である。
放電灯90の第1端部90e1には、第1端子536が設けられている。第1端子536と第1電極92とは、放電灯90の内部を通る導電性部材534によって電気的に接続されている。同様に、放電灯90の第2端部90e2には、第2端子546が設けられている。第2端子546と第2電極93とは、放電灯90の内部を通る導電性部材544によって電気的に接続されている。第1端子536及び第2端子546の材料は、例えば、タングステン等の金属である。また、各導電性部材534、544としては、例えば、モリブデン箔が利用される。
第1端子536及び第2端子546は、放電灯点灯装置10に接続されている。放電灯点灯装置10は、第1端子536及び第2端子546に、放電灯90を駆動する駆動電流を供給する。その結果、第1電極92及び第2電極93の間でアーク放電が起きる。アーク放電により発生した光(放電光)は、破線の矢印で示すように、放電位置から全方向に向かって放射される。
放電灯90の第1端部90e1には、固定部材114によって、主反射鏡112が固定されている。主反射鏡112の反射面(放電灯90側の面)の形状は、回転楕円形状である。主反射鏡112は、放電光を照射方向Dに向かって反射する。なお、主反射鏡112の反射面の形状としては、回転楕円形状に限らず、放電光を照射方向Dに向かって反射するような種々の形状を採用可能である。例えば、回転放物線形状を採用してもよい。この場合は、主反射鏡112は、放電光を、光軸AXにほぼ平行な光に変換することができる。したがって、平行化レンズ305を省略することができる。
放電灯90の第2端部90e2側には、固定部材522によって、副反射鏡50が固定されている。副反射鏡50の反射面(放電灯90側の面)の形状は、放電空間91の第2端部90e2側を囲む球面形状である。副反射鏡50は、放電光を、主反射鏡112に向かって反射する。これにより、放電空間91から放射される光の利用効率を高めることができる。
なお、固定部材114、522の材料としては、放電灯90の発熱に耐える任意の耐熱材料(例えば、無機接着剤)を採用可能である。また、主反射鏡112及び副反射鏡50と放電灯90との配置を固定する方法としては、主反射鏡112及び副反射鏡50を放電灯90に固定する方法に限らず、任意の方法を採用可能である。例えば、放電灯90と主反射鏡112とを、独立に、プロジェクターの筐体(図示せず)に固定してもよい。副反射鏡50についても同様である。
2.本実施形態に係るプロジェクターの回路構成
図3は、本実施形態に係るプロジェクター500の回路構成の一例を示す図である。プロジェクター500は、先に説明した光学系の他に、映像信号変換部510、直流電源装置80、放電灯点灯装置10、放電灯90、液晶パネル560R、560G、560B、映像処理装置570、CPU(Central Processing Unit)580、操作受付部590を含んでいてもよい。
映像信号変換部510は、外部から入力された映像信号502(輝度−色差信号やアナログRGB信号など)を所定のワード長のデジタルRGB信号に変換して映像信号512R、512G、512Bを生成し、映像処理装置570に供給する。また、映像信号変換部510は、映像信号502を入力するための配線などの有無に関する情報や、映像信号502の有無に関する情報を、通信信号514を介してCPU580に出力してもよい。
映像処理装置570は、3つの映像信号512R、512G、512Bに対してそれぞれ映像処理を行い、液晶パネル560R、560G、560Bをそれぞれ駆動するための駆動信号572R、572G、572Bを液晶パネル560R、560G、560Bに供給する。液晶パネル560R、560G、560Bに入力される駆動信号572R、572G、572Bに基づいて、図1を用いて説明した光学系によって、スクリーン700に映像が投影される。
直流電源装置80は、外部の交流電源600から供給される交流電圧を一定の直流電圧に変換し、トランス(図示しないが、直流電源装置80に含まれる)の2次側にある映像信号変換部510、映像処理装置570及びトランスの1次側にある放電灯点灯装置10に直流電圧を供給する。
放電灯点灯装置10は、起動時に放電灯90の電極間に高電圧を発生して絶縁破壊させて放電路を形成し、以後放電灯90が放電を維持するための駆動電流Iを供給する。
液晶パネル560R、560G、560Bは、それぞれ駆動信号572R、572G、572Bに基づいて、先に説明した光学系を介して各液晶パネルに入射される色光の輝度を変調する。
操作受付部590は、プロジェクター500に対する操作592を受け付け、操作592に関する情報を、通信信号594を介してCPU580に出力する。操作受付部590は、ボタン、レバー、スイッチなど、種々の公知の構成を含んで構成されていてもよい。
CPU580は、プロジェクターの点灯開始から消灯に至るまでの動作を制御する。例えば、点灯命令や消灯命令を、通信信号582を介して放電灯点灯装置10に出力してもよい。また、CPU580は、放電灯点灯装置10から放電灯90の点灯状態を表す点灯情報を、通信信号584を介して受け取ってもよい。また、操作受付部590が受け付けた操作592に関する情報を、通信信号594を介して受け取ってもよい。
また、CPU580は、プロジェクター500の動作モードが第1モードであるか第2モードであるかを判定する判定部150として機能してもよい。動作モードは、例えば、第1モードを、プロジェクター500が映像を投影する通常モードとし、第2モードを、プロジェクター500が通常モードよりも投影する映像を大幅に暗くする(あるいは、映像を投影しない)スタンバイ状態となるスタンバイモードとしてもよい。なお、動作モードとして、第1モード及び第2モードとは異なる第3モードを有していてもよい。例えば、第3モードを、通常モードの80%程度の電力で放電灯90を駆動する省エネルギーモードとしてもよい。
判定部150は、例えば、通信信号514に基づいて、映像信号502を入力するための配線などがプロジェクター500と接続されていない場合や映像信号502の入力がない場合に動作モードを第2モードとしたり、通信信号594に基づいて、操作受付部590が操作592として、プロジェクター500の状態を通常モードよりも投影する映像を暗くする(あるいは、映像を投影しない)スタンバイ状態とするミュート操作を受け付けた場合に動作モードを第2モードとしたり、他の場合には動作モードを第1モードとしたりしてもよい。
判定部150は、判定した動作モードに関する情報である動作モード情報を、通信信号582を介して放電灯点灯装置10に出力してもよい。
3.本実施形態における放電灯点灯装置の構成
図4は、放電灯点灯装置10の回路構成の一例を示す図である。
放電灯点灯装置10は、電力制御回路20を含む。電力制御回路20は、放電灯90に供給する駆動電力を生成する。本実施形態においては、電力制御回路20は、直流電源80を入力とし、当該入力電圧を降圧して直流電流Idを出力するダウンチョッパー回路で構成されている。
電力制御回路20は、スイッチ素子21、ダイオード22、コイル23及びコンデンサー24を含んで構成されることができる。スイッチ素子21は、例えばトランジスターで構成することができる。本実施形態においては、スイッチ素子21の一端は直流電源80の正電圧側に接続され、他端はダイオード22のカソード端子及びコイル23の一端に接続されている。また、コイル23の他端にはコンデンサー24の一端が接続され、コンデンサー24の他端はダイオード22のアノード端子及び直流電源80の負電圧側に接続されている。スイッチ素子21の制御端子には制御部40(後述)から電力制御信号が入力されてスイッチ素子21のON/OFFが制御される。電力制御信号には、例えばPWM(Pulse Width Modulation)制御信号が用いられてもよい。
ここで、スイッチ素子21がONすると、コイル23に電流が流れ、コイル23にエネルギーが蓄えられる。その後、スイッチ素子21がOFFすると、コイル23に蓄えられたエネルギーがコンデンサー24とダイオード22とを通る経路で放出される。その結果、スイッチ素子21がONする時間の割合に応じた直流電流Idが発生する。
放電灯点灯装置10は、極性反転回路30を含む。極性反転回路30は、電力制御回路20から出力される直流電流Idを入力し、所与のタイミングで極性反転することにより、制御された時間だけ継続する直流であったり、任意の周波数をもつ交流であったりする駆動電流Iを生成出力する。本実施形態においては、極性反転回路30はインバーターブリッジ回路(フルブリッジ回路)で構成されている。
極性反転回路30は、例えば、トランジスターなどで構成される第1のスイッチ素子31、第2のスイッチ素子32、第3のスイッチ素子33及び第4のスイッチ素子34を含み、直列接続された第1のスイッチ素子31及び第2のスイッチ素子32と、直列接続された第3のスイッチ素子33及び第4のスイッチ素子34を、互いに並列接続して構成される。第1のスイッチ素子31、第2のスイッチ素子32、第3のスイッチ素子33及び第4のスイッチ素子34の制御端子には、それぞれ制御部40から極性反転制御信号が入力され、極性反転制御信号に基づいて第1のスイッチ素子31、第2のスイッチ素子32、第3のスイッチ素子33及び第4のスイッチ素子34のON/OFFが制御される。
極性反転回路30は、第1のスイッチ素子31及び第4のスイッチ素子34と、第2のスイッチ素子32及び第3のスイッチ素子33を交互にON/OFFを繰り返すことにより、電力制御回路20から出力される直流電流Idの極性を交互に反転し、第1のスイッチ素子31と第2のスイッチ素子32との共通接続点及び第3のスイッチ素子33と第4のスイッチ素子34との共通接続点から、制御された時間だけ継続する直流であったり、制御された周波数をもつ交流であったりする駆動電流Iを生成出力する。
すなわち、第1のスイッチ素子31及び第4のスイッチ素子34がONの時には第2のスイッチ素子32及び第3のスイッチ素子33をOFFにし、第1のスイッチ素子31及び第4のスイッチ素子34がOFFの時には第2のスイッチ素子32及び第3のスイッチ素子33をONにするように制御する。したがって、第1のスイッチ素子31及び第4のスイッチ素子34がONの時には、コンデンサー24の一端から第1のスイッチ素子31、放電灯90、第4のスイッチ素子34の順に流れる駆動電流Iが発生する。また、第2のスイッチ素子32及び第3のスイッチ素子33がONの時には、コンデンサー24の一端から第3のスイッチ素子33、放電灯90、第2のスイッチ素子32の順に流れる駆動電流Iが発生する。
本実施形態において、電力制御回路20と極性反転回路30とを合わせて放電灯駆動部230に対応する。すなわち、放電灯駆動部230は、駆動電流Iを放電灯90に供給することによって、放電灯90に駆動電力を供給して放電灯90を駆動する。
放電灯点灯装置10は、制御部40を含む。制御部40は、動作モードとして第1モード及び第2モードを有し、動作モードに基づいて放電灯駆動部230を制御する。図4に示される例では、制御部40は、CPU580の一部として構成された判定部150によって判定された動作モードに関する情報である動作モード情報を、通信信号582を介して受け付け、受け付けた動作モード情報に基づいて放電灯駆動部230を制御する。
また、図4に示される例では、制御部40は、電力制御回路20及び極性反転回路30を制御することにより、放電灯90へ供給される駆動電力、駆動電流Iが同一極性で継続する保持時間、駆動電流Iの電流値、周波数等を制御する。制御部40は、極性反転回路30に対して駆動電流Iの極性反転タイミングにより、駆動電流Iが同一極性で継続する保持時間、駆動電流Iの周波数等を制御する極性反転制御を行う。また、制御部40は、電力制御回路20に対して、出力される直流電流Idの電流値を制御することによって、放電灯90へ供給される駆動電力を制御する駆動電力制御を行う。
制御部40の構成は、特に限定されるものではないが、本実施形態においては、制御部40は、システムコントローラー41、電力制御回路コントローラー42及び極性反転回路コントローラー43含んで構成されている。なお、制御部40は、その一部又は全てを半導体集積回路で構成されていてもよい。
システムコントローラー41は、電力制御回路コントローラー42及び極性反転回路コントローラー43を制御することにより、電力制御回路20及び極性反転回路30を制御する。システムコントローラー41は、後述される放電灯点灯装置10内部に設けられた状態検出部60の電圧検出部によって検出された駆動電圧Vla及び駆動電流Iに基づき、電力制御回路コントローラー42及び極性反転回路コントローラー43を制御してもよい。
本実施形態においては、システムコントローラー41は記憶部44を含んで構成されている。なお、記憶部44は、システムコントローラー41とは独立に設けてもよい。
システムコントローラー41は、記憶部44に格納された情報に基づき、電力制御回路20及び極性反転回路30を制御してもよい。記憶部44には、例えば駆動電流Iが同一極性で継続する保持時間、駆動電流Iの電流値、周波数、波形、変調パターン等の駆動パラメーターに関する情報が格納されていてもよい。
電力制御回路コントローラー42は、システムコントローラー41からの制御信号に基づき、電力制御回路20へ電力制御信号を出力することにより、電力制御回路20を制御する。
極性反転回路コントローラー43は、システムコントローラー41からの制御信号に基づき、極性反転回路30へ極性反転制御信号を出力することにより、極性反転回路30を制御する。
なお、制御部40は、専用回路により実現して上述した制御や後述する処理の各種制御を行うようにすることもできるが、例えばCPU(Central Processing Unit)が記憶部44等に記憶された制御プログラムを実行することによりコンピューターとして機能し、これらの処理の各種制御を行うようにすることもできる。図5は、制御部40の他の構成例について説明するための図である。図5に示すように、制御部40は、制御プログラムにより、電力制御回路20を制御する電力制御手段40−1、極性反転回路30を制御する極性反転制御手段40−2として機能するように構成してもよい。
また、図4に示される例では、制御部40は、放電灯点灯装置10の一部として構成されているが、制御部40の機能の一部又は全部をCPU580が担うように構成されていてもよい。
放電灯点灯装置10は、動作検出部60を含んでもよい。動作検出部60は、例えば放電灯90の駆動電圧Vlaを検出し、駆動電圧情報を出力する電圧検出部や、駆動電流Iを検出し、駆動電流情報を出力する電流検出部を含んでもよい。本実施形態においては、電圧検出部は、第1及び第2の抵抗61及び62を含んで構成され、電流検出部は、第3の抵抗63を含んで構成されている。
本実施形態において、電圧検出部は、放電灯90と並列に、互いに直列接続された第1の抵抗61及び第2の抵抗62で分圧した電圧により駆動電圧Vlaを検出する。また、本実施形態において、電流検出部は、放電灯90に直列に接続された第3の抵抗63に発生する電圧により駆動電流Iを検出する。
放電灯点灯装置10は、イグナイター回路70を含んでもよい。イグナイター回路70は、放電灯90の点灯開始時にのみ動作し、放電灯90の点灯開始時に放電灯90の電極間(第1電極92と第2電極93との間)を絶縁破壊して放電路を形成するために必要な高電圧(放電灯90の通常点灯時よりも高い電圧)を放電灯90の電極間(第1電極92と第2電極93との間)に供給する。本実施形態においては、イグナイター回路70は、放電灯90と並列に接続されている。
4.駆動電流の極性と電極の温度との関係
図6(A)ないし図6(D)は、放電灯90に供給する駆動電流Iの極性と電極の温度との関係を示す説明図である。図6(A)及び図6(B)は、第1電極92及び第2電極93の動作状態を示している。図中には、第1電極92及び第2電極93の先端部分が示されている。第1電極92及び第2電極93の先端にはそれぞれ突起552p、562pが設けられている。第1電極92と第2電極93の間で生じる放電は、主として突起552pと突起562pとの間で生じる。本実施例では、突起が無い場合と比べて、第1電極92及び第2電極93における放電位置(アーク位置)の移動を抑えることができる。ただし、このような突起を省略してもよい。
図6(A)は、第1電極92が陽極として動作し、第2電極93が陰極として動作する第1極性状態P1を示している。第1極性状態P1では、放電によって、第2電極93(陰極)から第1電極92(陽極)へ電子が移動する。陰極(第2電極93)からは、電子が放出される。陰極(第2電極93)から放出された電子は、陽極(第1電極92)の先端に衝突する。この衝突によって熱が生じ、そして、陽極(第1電極92)の先端(突起552p)の温度が上昇する。
図6(B)は、第1電極92が陰極として動作し、第2電極93が陽極として動作する第2極性状態P2を示している。第2極性状態P2では、第1極性状態P1とは逆に、第1電極92から第2電極93へ電子が移動する。その結果、第2電極93の先端(突起562p)の温度が上昇する。
このように、陽極の温度は、陰極と比べて高くなりやすい。ここで、一方の電極の温度が他方の電極と比べて高い状態が続くことは、種々の不具合を引き起こし得る。例えば、高温電極の先端が過剰に溶けた場合には、意図しない電極変形が生じ得る。その結果、アーク長が適正値からずれる場合がある。また、低温電極の先端の溶融が不十分な場合には、先端に生じた微少な凹凸が溶けずに残り得る。その結果、いわゆるアークジャンプが生じる(アーク位置が安定せずに移動する)場合がある。
このような不具合を抑制する技術として、駆動電流Iとして、各電極の極性を繰り返し交替させる交流電流を放電灯90に供給する交流駆動を利用可能である。図6(C)は、放電灯90(図2)に供給される駆動電流Iの一例を示すタイミングチャートである。横軸は時間Tを示し、縦軸は駆動電流Iの電流値を示している。駆動電流Iは、放電灯90を流れる電流を示す。正値は、第1極性状態P1を示し、負値は、第2極性状態P2を示す。図6(C)に示す例では、駆動電流Iとして矩形波交流電流が利用されている。そして、図6(C)に示す例では、第1極性状態P1と第2極性状態P2とが交互に繰り返されている。ここで、第1極性区間Tpは、第1極性状態P1が続く時間を示し、第2極性区間Tnは、第2極性状態P2が続く時間を示す。また、図6(C)に示す例では、第1極性区間Tpの平均電流値はIm1であり、第2極性区間Tnの平均電流値は−Im2である。なお、放電灯90の駆動に適した駆動電流Iの周波数は、放電灯90の特性に合わせて、実験的に決定可能である(例えば、30Hz〜1kHzの範囲の値が採用される)。他の値Im1、−Im2、Tp、Tnも、同様に実験的に決定可能である。
図6(D)は、第1電極92の温度変化を示すタイミングチャートである。横軸は時間Tを示し、縦軸は温度Hを示している。第1極性状態P1では、第1電極92の温度Hが上昇し、第2極性状態P2では、第1電極92の温度Hが降下する。また、第1極性状態P1と第2極性状態P2状態が繰り返されるので、温度Hは、最小値Hminと最大値Hmaxとの間で周期的に変化する。なお、図示は省略するが、第2電極93の温度は、第1電極92の温度Hとは逆位相で変化する。すなわち、第1極性状態P1では、第2電極93の温度が降下し、第2極性状態P2では、第2電極93の温度が上昇する。
第1極性状態P1では、第1電極92(突起552p)の先端が溶融するので、第1電極92(突起552p)の先端が滑らかになる。これにより、第1電極92での放電位置の移動を抑制できる。また、第2電極93(突起562p)の先端の温度が降下するので、第2電極93(突起562p)の過剰な溶融が抑制される。これにより、意図しない電極変形を抑制できる。第2極性状態P2では、第1電極92と第2電極93の立場が逆である。したがって、2つの状態P1、P2を繰り返すことによって、第1電極92及び第2電極93のそれぞれにおける不具合を抑制できる。
ここで、電流Iの波形が対称である場合、すなわち、電流Iの波形が「|Im1|=|−Im2|、Tp=Tn」という条件を満たす場合には、第1電極92と第2電極93との間で、供給される電力の条件が同じである。したがって、第1電極92及び第2電極93の熱的条件(温度の上がりやすさや下がりやすさ)が同一であれば、第1電極92と第2電極93との間の温度差が小さくなるものと推定される。
また、電極が広い範囲にわたり加熱されすぎる(アークスポット(アーク放電に伴う電極表面上のホットスポット)が大きくなる)と過剰な溶融により電極の形状が崩れる。逆に、電極が冷えすぎる(アークスポットが小さくなる)と電極の先端が十分に溶融できず、先端を滑らかに戻せない、すなわち電極の先端が変形しやすくなる。したがって、電極に対して一様なエネルギー供給状態を継続すると、電極の先端(突起552p及び突起562p)が意図しない形状に変形しやすくなる。
また、放電灯90の点灯状態を維持したまま放電灯90の第1電極92及び第2電極93に供給される電力を下げて駆動し続けると、放電灯90の第1電極92及び第2電極93の温度が下がり、電極材料(タングステンなど)が放電灯90の封体に析出する黒化現象が発生しやすくなる。黒化現象が発生すると、黒化した部分が光を吸収して放電灯の温度が上昇し、封体に用いられるガラスなどが結晶化して、失透現象が発生する原因となる。失透現象が発生すると、放電灯の照度が低下したり、封体が破損しやすくなったりする。
5.本実施形態における駆動電力の制御例
次に、本実施形態に係るプロジェクター500における駆動電力の制御の具体例について説明する。
本実施形態において、プロジェクター500の制御部40は、動作モードが第1モードである場合には、駆動電力として第1電力W1を放電灯90に供給するように放電灯駆動部230を制御し、動作モードが第2モードである場合には、第1電力W1よりも小さい第2電力W2以下であり、かつ、第2電力W2よりも小さい第3電力W3以上である範囲で、駆動電力を変化させながら放電灯90に供給するように放電灯駆動部230を制御する。
放電灯駆動部230が、放電灯90に駆動電流Iとして交流電流を供給することによって放電灯90に駆動電力を供給する場合には、第1電力W1、第2電力W2及び第3電力W3は、駆動電流Iの1周期あたりの平均電力としてもよい。
図7は、本実施形態に係るプロジェクター500における駆動電力の制御の一例を説明するためのグラフである。横軸は時間、縦軸は放電灯90の駆動電力を表す。
図7に示される例では、時刻t0から時刻t1までの期間と、時刻t4以降の期間は、プロジェクター500の動作モードが第1モードとなる第1モード期間である。また、時刻t1から時刻t4までの期間は、プロジェクター500の動作モードが第2モードとなる第2モード期間である。なお、本実施形態においては、動作モードは、第1モードを、プロジェクター500が映像を投影する通常モードとし、第2モードを、プロジェクター500が通常モードよりも投影する映像を大幅に暗くする(あるいは、映像を投影しない)スタンバイ状態となるスタンバイモードとしている。
制御部40は、動作モードが第1モードとなる第1モード期間において、駆動電力として第1電力W1を放電灯90に供給するように放電灯駆動部230を制御する。第1電力は、例えば、放電灯90の定格電力の100%であってもよい。
制御部40は、動作モードが第2モードとなる第2モード期間において、第1電力W1よりも小さい第2電力W2以下であり、かつ、第2電力W2よりも小さい第3電力W3以上である範囲で、駆動電力を変化させながら放電灯90に供給するように放電灯駆動部230を制御する。第2電力W2は、例えば、放電灯90の定格電力の30%程度であってもよい。第3電力W3は、例えば、放電灯90の定格電力の20%程度であってもよい。第2電力W2と第3電力W3との差は、例えば、放電灯90の5%〜10%程度であってもよい。
動作モードが第2モードである場合における放電灯90に供給される駆動電力の変化のさせ方は、周期的なパターンで変化させてもよいし、ランダムに変化させてもよい。図7に示される例では、放電灯90に供給される駆動電力を周期的なパターンで変化させている。また、図7に示される例では、時刻t1から時刻t2までの期間、時刻t2から時刻t3までの期間、時刻t3から時刻t4までの期間をそれぞれ1周期とする正弦曲線となるように、放電灯90の駆動電力を周期的なパターンで変化させている。駆動電力を周期的なパターンで変化させる場合における周期の長さは、例えば、10秒〜1分程度であってもよい。また、第2モード期間において駆動電力が最大値をとる間隔、又は、第2モード期間において駆動電力が最小値をとる間隔は、例えば、10秒〜1分程度であってもよい。
本実施形態に係るプロジェクター500によれば、相対的に低電力となる第2モードを有することにより、消費電力を抑制できる。また、本実施形態に係るプロジェクター500によれば、相対的に低電力となる第2モードにおいて、駆動電力を変化させながら放電灯90に供給されるように放電灯駆動部230が制御されるので、放電灯90の電極温度が低い状態を長時間継続することがなくなる。これによって、放電灯90の黒化現象の発生を抑制できる。したがって、消費電力を抑制しつつ、放電灯の劣化を抑制できるプロジェクターを実現できる。また、相対的に低電力となる第2モードで駆動電力を変化させるので、駆動電力の変化により放電灯90の照度が変化したとしても、ユーザーに不快感を与えにくい。
本実施形態に係るプロジェクター500において、第3電力W3は、放電灯90が点灯状態を維持できる電力であってもよい。放電灯90が点灯状態を維持できる電力は、通常は、放電灯90の定格電力の20%程度である。
第3電力W3を放電灯90が点灯状態を維持できる電力とすることによって、第1モードにおいても第2モードにおいても、放電灯90は点灯状態を維持できる。したがって、第2モードから第1モードへと変更する場合に放電灯90を再点灯する必要がなく、短時間で動作モードを変更できる。
6.本実施形態における駆動電流の制御例
次に、本実施形態に係るプロジェクター500における駆動電流の制御の具体例について説明する。
図8は、本実施形態に係るプロジェクター500における駆動電力と駆動電流Iの関係の一例を模式的に表すタイミングチャートである。図8の上のグラフの横軸は時間、縦軸は放電灯90の駆動電力を表す。図8の下のグラフの横軸は時間、縦軸は放電灯90の駆動電流Iを表す。また、図8の下のグラフにおいて、放電灯90の第1電極92が陽極(第2電極93が陰極)となる場合の駆動電流Iを正値とし、放電灯90の第2電極93が陽極(第1電極92が陰極)となる場合の駆動電流Iを負値として表している。
図8の上のグラフは、図7に示されるグラフの時刻t0から時刻t2までの期間に対応したグラフである。図8の下のグラフは、図8の上のグラフに対応する駆動電流I、すなわち、時刻t0から時刻t2までの期間における駆動電流Iを模式的に表している。
放電灯90の駆動電圧Vlaが一定である場合には、放電灯90の駆動電力と駆動電流Iの絶対値とは比例関係となる。したがって、放電灯90の駆動電流Iを変化させることによって、放電灯90の駆動電力を変化させることができる。
本実施形態において、放電灯駆動部230は、駆動電流Iとして交流電流を放電灯90に供給することにより駆動電力を放電灯90に供給している。駆動電流Iとして交流電流を放電灯90に供給する利点については、「4.駆動電流の極性と電極の温度との関係」の項で述べたとおりである。
図8に示される例では、駆動電流Iの1周期の期間中は、駆動電流Iの絶対値は一定となっている。すなわち、駆動電流Iの波形は、いわゆる矩形状の波形となっている。なお、駆動電流Iの波形はこれに限らず、駆動電流Iの半周期の期間中において、駆動電流Iの絶対値が、第1の電流値となる期間で始まり、第1の電流値よりも大きい第2の電流値となる期間で終わる波形や、駆動電流Iの半周期の期間中において、駆動電流Iの絶対値が単調増加する波形など、駆動電流Iの1周期の期間中において、駆動電流Iの絶対値が異なる値をとる波形であってもよい。
本実施形態において、制御部40は、動作モードが第2モードである場合には、駆動電流Iの1周期あたりの駆動電力の平均値を変化させるように駆動電力を変化させながら、放電灯90に供給するように放電灯駆動部230を制御してもよい。この場合には、駆動電力を周期的なパターンで変化させる場合においては、駆動電力の変化の周期は、駆動電流Iの周期よりも長くなる。
図8に示される例では、例えば、駆動電流Iの1周期ごとに駆動電力の平均値を順に算出すると、第2モード期間において、駆動電力の平均値が互いに異なる値となる期間が存在している。
また、第2モード期間において、駆動電流Iの1周期ごとに、駆動電流Iの絶対値を変更してもよい。この場合には、駆動電力は、階段状に異なる値をとるように変化する。すなわち、駆動電流Iの1周期あたりの駆動電力の平均値が、駆動電流Iの1周期ごとに変更される。
本実施形態に係るプロジェクター500によれば、動作モードが第2モードである場合には、制御部40が、駆動電流Iの1周期あたりの駆動電力の平均値を変化させるように駆動電力を変化させながら放電灯90に供給するように放電灯駆動部230を制御することによって、放電灯90の電極温度をより確実に上昇させることができる。これによって、放電灯90の電極温度が低い状態を長時間継続することがなくなる。したがって、放電灯90の黒化現象の発生を抑制できる。
7.駆動電力の制御の変形例
図9(A)及び図9(B)は、本実施形態に係るプロジェクター500における駆動電力の制御の変形例を説明するためのグラフである。横軸は時間、縦軸は放電灯90の駆動電力を表す。以下では、図7を用いて説明した制御との相違点について説明する。
図9(A)に示される例では、放電灯90の駆動電力を周期的なパターンで変化させている。また、図9(A)に示される例では、時刻t1から時刻t11までの期間、時刻t2から時刻t21までの期間、時刻t3から時刻t31までの期間では、駆動電力が第3電力W3から第2電力W2まで直線的に単調増加し、時刻t11から時刻t2までの期間、時刻t21から時刻t3までの期間、時刻t31から時刻t4までの期間では、駆動電力が第2電力W2から第3電力W3まで直線的に単調減少するように、放電灯90の駆動電力を周期的なパターンで変化させている。
図9(B)に示される例では、放電灯90の駆動電力を周期的なパターンで変化させている。また、図9(B)に示される例では、時刻t1から時刻t12までの期間、時刻t2から時刻t22までの期間、時刻t3から時刻t32までの期間では、駆動電力が第3電力W3で一定となり、時刻t12から時刻t2までの期間、時刻t22から時刻t3までの期間、時刻t32から時刻t4までの期間では、駆動電力が第2電力W2で一定となるように、放電灯90の駆動電力を周期的なパターンで変化させている。また、図9(B)に示される例では、第2モード期間における駆動電力の平均値よりも大きくなる期間(図9(B)では、第2電力W2となる期間)の長さと、第2モード期間における駆動電力の平均値よりも小さくなる期間(図9(B)では、第3電力W3となる期間)の長さとが異なるような周期的なパターンで放電灯90の駆動電力を変化させている。
図9(A)及び図9(B)に示される例においても、相対的に低電力となる第2モードを有することにより、消費電力を抑制できる。また、図9(A)及び図9(B)に示される例においても、相対的に低電力となる第2モードにおいて、駆動電力を変化させながら放電灯90に供給されるように放電灯駆動部230が制御されるので、放電灯90の電極温度が低い状態を長時間継続することがなくなる。これによって、放電灯90の黒化現象の発生を抑制できる。したがって、消費電力を抑制しつつ、放電灯の劣化を抑制できるプロジェクターを実現できる。また、相対的に低電力となる第2モードで駆動電力を変化させるので、駆動電力の変化により放電灯90の照度が変化したとしても、ユーザーに不快感を与えにくい。
上記各実施形態においては、3つの液晶パネルを用いたプロジェクターを例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、1つ、2つ又は4つ以上の液晶パネルを用いたプロジェクターにも適用可能である。
上記各実施形態においては、透過型のプロジェクターを例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、反射型のプロジェクターにも適用することが可能である。ここで、「透過型」とは、透過型の液晶パネル等のように光変調手段としての電気光学変調装置が光を透過するタイプであることを意味しており、「反射型」とは、反射型の液晶パネルやマイクロミラー型光変調装置などのように光変調手段としての電気光学変調装置が光を反射するタイプであることを意味している。マイクロミラー型光変調装置としては、例えば、DMD(デジタルマイクロミラーデバイス;Texas Instruments社の商標)を用いることができる。反射型のプロジェクターにこの発明を適用した場合にも、透過型のプロジェクターと同様の効果を得ることができる。
本発明は、投写画像を観察する側から投写するフロント投写型プロジェクターに適用する場合にも、投写画像を観察する側とは反対の側から投写するリア投写型プロジェクターに適用する場合にも可能である。
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。