以下に、本発明の実施形態に係る車両制御装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
(第1実施形態)
図1から図5を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、車両制御装置に関する。図1は、第1実施形態の車両制御装置の動作を示すフローチャート、図2は、第1実施形態に係る車両の概略構成を示す図、図3は、転舵機構およびEPS装置を示す図である。
本実施形態の車両制御装置1−1は、パワーステアリング装置(EPS装置)を搭載した車両において、車両の走行中にエンジンを停止状態とするエンジン停止制御を実行することができる。EPS装置およびエンジンのスタータには、共通のバッテリから電力が供給される。EPS装置に対する電力供給能力を確保する観点から、走行中のエンジン始動時においてスタータによって消費される電力に基づくバッテリの電圧降下を考慮する必要がある。
また、エンジンの吸気負圧により作動するブレーキ倍力装置を備えた車両では、吸気負圧の低下時にエンジンの始動要求がなされる。ここで、EPS装置に対する電力供給能力を確保し、かつバッテリの大容量化を抑制する観点からは、EPS装置による電力要求が大きいときにエンジンの始動タイミングが重なることを抑制できることが望ましい。一方、制動能力を確保する観点からは、吸気負圧の低下を抑制できるように適切なタイミングでエンジンを再始動できることが望ましい。
つまり、EPS装置に対する電力供給能力の確保と蓄電装置の大容量化の抑制とを両立でき、かつ制動能力を確保できることが望ましい。
本実施形態の車両制御装置1−1は、エンジンを停止して走行しているときに、吸気負圧に基づいてスタータによってエンジンを再始動する。エンジンを再始動するときの吸気負圧の値は、EPS装置の作動状態、具体的にはEPS装置の出力や消費電力に応じて変化する。車両制御装置1−1は、EPS装置の負荷が大きいときには、負荷が小さいときよりも吸気負圧が大きい段階でエンジンを再始動する。これにより、EPS装置に対する電力供給能力の確保とバッテリの大容量化の抑制とを両立でき、かつ制動能力を確保することが可能となる。
本実施形態は、下記の構成を備えることを前提としている。
(1)一般的な乗用車の構成。
(2)走行中に、タイヤ軸とエンジン軸とを切り離し、エンジンを停止できる機構。
(3)(2)の操作を、自動(例えば、アクセルOFF)、もしくは手動(ドライバ操作)で行う機構。
(4)EPS装置の動作、車速、ブレーキ負圧、ブレーキストローク、踏力を受け取り、エンジン始動・停止の判断を行うECU。
図2に示す車両制御装置1−1は、車両10に搭載されたエンジン1、バッテリ2、スタータ3、EPS装置4、ブレーキ倍力装置22およびECU20を備える。エンジン1は、車両10の動力源である。バッテリ2は、充放電が可能な蓄電装置である。バッテリ2は、例えば、鉛蓄電池であり、スタータ3、EPS装置4、EPS装置4以外の補機9等に電力を供給することができる。また、バッテリ2は、オルタネータ5や後述する回生オルタネータ15によって発電された電力によって充電されることが可能である。
エンジン1には、スタータ3、オルタネータ5および空調装置のコンプレッサ6が設けられている。スタータ3は、電力を消費してエンジン1を始動させる始動装置である。スタータ3は、エンジン1のクランクシャフト7に対して動力を伝達可能なモータ(例えば、DCモータ)を有しており、電力を消費してこのモータを回転させることによりエンジン1を始動させる。スタータ3は、バッテリ2、オルタネータ5、および後述する回生オルタネータ15と電気的に接続されており、バッテリ2、オルタネータ5および回生オルタネータ15からそれぞれ電力の供給を受けることができる。
オルタネータ5は、クランクシャフト7の回転と連動して回転することによって発電する発電機である。オルタネータ5の回転軸5aと、コンプレッサ6の回転軸6aと、クランクシャフト7とは、ベルト8を介して動力を伝達することができる。つまり、オルタネータ5は、クランクシャフト7からベルト8を介して伝達される動力によって発電する。オルタネータ5は、バッテリ2と接続されており、オルタネータ5において発電された電力は、バッテリ2に充電可能である。
エンジン1のクランクシャフト7は、クラッチ11を介して変速機12の入力軸13と接続されている。変速機12は、運転者の変速操作によって手動で変速がなされるものである。変速機12の入力軸13に入力されたエンジン1の動力は、出力軸14に出力される。エンジン1の回転は、変速機12において変速され、出力軸14を介して車両10の駆動輪に伝達される。変速機12には、回生オルタネータ15が設けられている。回生オルタネータ15の回転軸15aは、変速機12の出力軸14とギアを介して接続されている。回生オルタネータ15は、出力軸14から回転軸15aに伝達される動力によって発電する。回生オルタネータ15は、例えば、惰性走行時に発電を行う。回生オルタネータ15によって発電された電力は、バッテリ2に充電可能である。なお、本実施形態において、回生オルタネータ15は必須のものではなく、車両10は回生オルタネータ15を備えていなくてもよい。
クラッチ11は、例えば、摩擦係合式のクラッチ装置である。クラッチ11は、係合あるいは開放することにより、エンジン1と変速機12との動力の伝達経路を接続あるいは遮断する。クラッチ11は、運転者によってクラッチペダルが操作されることにより、係合あるいは開放する。また、クラッチ11は、係合状態と開放状態とを切替えるアクチュエータを有する。アクチュエータは、例えば、電磁力や油圧等によってクラッチ11を駆動することでクラッチ11を係合状態あるいは開放状態に切替える。
車両10は、ブレーキ倍力装置22を有する。ブレーキ倍力装置22は、エンジン1の吸気負圧によって作動するものである。ブレーキ倍力装置22は、エンジン1の吸気通路と連通された負圧室を有している。ブレーキ倍力装置22は、負圧室の圧力と大気圧との差圧によって、ブレーキペダル等の操作子に対する操作力を倍力してブレーキ装置のマスターシリンダに伝達することができる。ブレーキ倍力装置22の負圧室には、エンジン1の運転に伴って吸気通路に生成される負圧が導かれる。本実施形態では、負圧室における負圧を「ブレーキ負圧」とも記載する。ブレーキ負圧は、吸気通路の負圧と略同じ大きさである。運転者によってブレーキ操作がなされる毎にブレーキ倍力装置22によって負圧が消費され、吸気通路からブレーキ倍力装置22に負圧が補給される。
なお、「負圧」とは、大気圧よりも低圧であることを示すものである。本実施形態では、負圧の値を正の値で示すものとする。例えば、負圧室の負圧の値は、大気圧に対して負圧室の圧力が低圧であるときの負圧室の圧力と大気圧との差圧の大きさを示す。従って、負圧室の負圧が大きくなるほど、負圧室の圧力が大気圧よりも低圧である度合いが大きくなる。
ECU20は、例えば、コンピュータを有する電子制御ユニットである。ECU20は、エンジン1、スタータ3、EPS装置4、クラッチ11とそれぞれ接続されており、エンジン1、スタータ3、EPS装置4、クラッチ11を制御する。また、ECU20は、バッテリ2と接続されており、バッテリ2の状態を監視する。ECU20は、例えば、バッテリ2の電圧値を検出する電圧センサおよびバッテリ2の電流値や液温を検出するセンサとそれぞれ接続されており、各検出結果を示す信号を取得することができる。また、ECU20は、ブレーキ倍力装置22と接続されており、負圧室の負圧を取得することができる。ECU20は、例えば、負圧室の圧力を検出する圧力センサと接続されており、圧力センサの検出結果に基づいて負圧室の負圧を取得する。
EPS装置4は、バッテリ2と接続され、電力を消費してアシストトルクを発生させるパワーステアリング装置である。EPS装置4は、図3に示すように、転舵機構50に組み付けられた電動モータ41、ボールねじ機構42、回転角センサ43、トルクセンサ44を有する。転舵機構50は、ハンドル51に対する回転操作に応じて左右前輪FW1,FW2を転舵する機構である。ハンドル51は、運転者が操舵操作を行う操舵ハンドルである。転舵機構50は、ハンドル51に加えて、ステアリングシャフト52、ピニオンギア53、ラックバー54を有する。ステアリングシャフト52は、その上端がハンドル51に、下端がピニオンギア53にそれぞれ接続されている。ピニオンギア53は、ラックバー54に形成されたラック歯とかみ合ってラックアンドピニオン機構を構成している。ラックバー54の両端には、タイロッドやナックルアーム等を介して前輪FW1,FW2がそれぞれ接続されている。左右前輪FW1,FW2は、ラックバー54の軸線方向の変位に応じて転舵される。
EPS装置4の電動モータ41は、ラックバー54に組み付けられている。電動モータ41としては、例えば、DCモータが用いられる。電動モータ41の回転軸は、ボールねじ機構42を介してラックバー54に動力を伝達可能に接続されている。電動モータ41は、動力をラックバー54に伝達することによって運転者の操舵操作をアシストする。つまり、電動モータ41は、運転者の操舵力をアシストするアシストトルクを転舵機構50に作用させる。ボールねじ機構42は、電動モータ41の回転を減速すると共に直線運動に変換してラックバー54に伝達する。電動モータ41は、ラックバー54に代えて、ステアリングシャフト52に組み付けられてステアリングシャフト52に動力を伝達するものであってもよい。
ステアリングシャフト52には、トルクセンサ44が設けられている。トルクセンサ44は、ハンドル51に対する回転操作(操舵操作)によってステアリングシャフト52に入力されるトルクなど、ステアリングシャフト52に発生する操舵トルクを検出する。トルクセンサ44は、ECU20に接続されており、トルクセンサ44によって検出された操舵トルクは、ECU20に出力される。
電動モータ41には、回転角センサ43が設けられている。回転角センサ43は、電動モータ41の回転子の回転角度位置を検出することができる。回転角センサ43は、ECU20に接続されており、回転角センサ43によって検出された回転角度位置を示す信号は、ECU20に出力される。ECU20は、検出された回転角度位置に基づいて、電動モータ41の回転角および回転角速度を算出することができる。以下の説明において、電動モータ41の回転角速度を単に「回転速度」とも記載する。
電動モータ41の回転角は、ハンドル51の操舵角に対応しており、電動モータ41の回転速度は、ハンドル51の操舵角速度に対応する。本実施形態では、ハンドル51の操舵角速度を「ハンドル速度」とも記載する。電動モータ41は、ECU20に接続されており、ECU20によって制御される。ECU20は、電動モータ41の駆動用電流値であるアシスト電流値を検出することができる。アシスト電流値は、電動モータ41の駆動回路によって電動モータ41に供給される電流値であり、電動モータ41の出力トルクと比例する。アシスト電流値は、例えば、駆動回路に設けられた電流センサによって検出される。
ECU20には、車速センサ21が接続されている。車速センサ21によって検出された車速を示す信号は、ECU20に出力される。ECU20は、EPS装置4を制御する制御部としての機能を有している。ECU20は、トルクセンサ44によって検出された操舵トルクと、車速センサ21によって検出された車速とに基づいて、アシストトルクを決定する。ECU20は、車速および操舵トルクと、アシストトルクとの対応関係を予めマップ等として記憶している。ECU20は、このマップに基づいて電動モータ41によって発生させるアシストトルクの目標値を算出する。図4は、所定の操舵トルクにおける車速とアシスト電流値I_eps(アシストトルク)との関係の一例を示す図である。図4に示すように、低車速におけるアシストトルクは、高車速におけるアシストトルクよりも大きなトルクとされている。これは、例えば、転舵に対する抵抗力の大きさの違い等に基づく。
ECU20は、アシストトルクの目標値に応じたアシスト電流値の目標値を算出する。ECU20は、算出されたアシスト電流値の目標値を実現するようにアシスト電流値をフィードバック制御する。
ECU20は、エンジン1を制御する制御部としての機能を有している。ECU20は、車両10の走行中にエンジン1を停止状態とするエンジン停止制御を実行可能である。ECU20は、車両10の走行中に予め定められたエンジン停止制御の実行可能条件が成立した場合にエンジン停止制御を実行する。エンジン停止制御を実行する場合、ECU20は、エンジン1に対する燃料の供給を停止し、かつクラッチ11を開放状態に制御する。エンジン1への燃料供給が停止され、かつクラッチ11が開放状態とされてエンジン1と駆動輪との動力の伝達経路が遮断されることで、エンジン1の回転は停止する。つまり、エンジン停止制御がなされると、エンジン1は停止状態となって車両10が走行する。また、駆動輪がエンジン1から切り離されることで、エンジンブレーキが作用しない状態となり、駆動輪はフリーラン状態となる。エンジン停止制御が実行されることで、燃費の向上が可能となる。エンジン停止制御の実行可能条件は、例えば、アクセルOFFされて車両10が惰性で走行する惰性走行時である条件を含む。
ECU20は、エンジン停止制御の実行中にエンジン停止制御の実行可能条件が成立しなくなると、エンジン停止制御を終了する。ECU20は、例えば、エンジン停止制御の実行中にアクセルONとなると、エンジン停止制御を終了する。エンジン停止制御を終了する場合、ECU20は、スタータ3によってエンジン1を始動させ、エンジン1の始動完了後にクラッチ11を係合状態とする。このように走行中にエンジン停止と再始動とを自動的に行うフリーランS&S制御は、その燃費効果とコストの安さなどが利点として挙げられる。
ここで、走行中にエンジン停止と再始動とを自動的に行うシステムを低コストで実現しようとすると、一つの電源(鉛バッテリなど)からEPS装置4を含む補機全ての電力と、スタータ3の電力とを供給することが有利である。EPS装置4を含む補機およびスタータ3に共通の電源から電力を供給するシステムでは、スタータ3の大電流消費によるバッテリ電圧の低下を考慮する必要がある。例えば、EPS装置4の電力要求とスタータ3の電力要求とが重なる可能性がある。EPS装置4の電力要求とスタータ3の電力要求とが互いに独立してなされた場合であっても両者に同時に電力を供給できる電源は、大容量のものとなるが、このような大容量の電源はコスト増や重量増を招く。走行中にEPS装置4に対する電力供給能力を確保でき、かつバッテリ2の容量を低減できることが望まれている。
また、ブレーキ倍力装置22を作動させるためのブレーキ負圧は、エンジン1が回転していないと生成できない。制動能力を確保するために、エンジン停止中にブレーキ負圧が低下した場合、エンジン1を始動し、負圧の生成を行うことが望ましい。
本実施形態の車両制御装置1−1は、エンジン1を停止して走行しているときに、吸気負圧に基づいてスタータ3によってエンジン1を再始動する。エンジン停止制御の実行中にブレーキ操作がなされた場合など、吸気負圧が低下したときには、吸気負圧に関する閾値に基づいてエンジン1を再始動する。エンジン1の再始動を判定する閾値は、EPS装置4の作動状態に応じて可変とされている。つまり、エンジン1を再始動するときの吸気負圧の値は、EPS装置4の作動状態に応じて変化する。
EPS装置4の作動状態は、例えば、現在あるいは将来のEPS装置4の負荷や消費電力に関する物理量とすることができる。本実施形態では、EPS装置4のハンドル速度V_epsやEPSアシストトルクT_epsに応じて吸気負圧の閾値が可変とされる。EPS装置4の負荷が大きい場合には、負荷が小さい場合よりもエンジン1を再始動するときの吸気負圧が高い。また、後述するように、吸気負圧の閾値は、バッテリ2の負荷が過大となる前にエンジン1の始動を行うことができるように定められている。
よって、本実施形態によれば、EPS装置4に対する電力の供給とスタータ3に対する電力の供給とを両立可能なタイミングでエンジン1を再始動することができる。また、吸気負圧が不足することを抑制して制動能力を確保することが可能である。EPS装置4の負荷が大きい場合は吸気負圧の低下が小さい段階でエンジン1が再始動され、EPS装置4の負荷が小さい場合、吸気負圧が大きく低下するまでエンジン1を停止したままとできる。よって、本実施形態によれば、EPS装置4に対する電力の供給能力を確保し、かつ制動能力を確保するだけでなく、燃費の向上を図ることができる。
図1を参照して、本実施形態の車両制御装置1−1の動作について説明する。図1に示す制御フローは、例えば、車両10の走行中に所定の間隔で繰り返し実行される。
ステップS1では、ECU20により、EPSアシストトルクT_epsあるいはハンドル速度V_epsが取得される。ECU20が取得するEPSアシストトルクT_epsは、例えば、電動モータ41によって発生させるアシストトルクの目標値である。EPSアシストトルクT_epsは、車速と、操舵トルクとに基づいて取得することができる。また、ハンドル速度V_epsは、電動モータ41の回転角度位置に基づいて取得することができる。
次に、ステップS2では、ECU20により、許容ブレーキ負圧P_brk_okが演算される。許容ブレーキ負圧P_brk_okは、ステップS1で取得されたEPSアシストトルクT_epsやハンドル速度V_epsに基づいて演算される。図5は、許容ブレーキ負圧P_brk_okの説明図である。
図5において、横軸はEPSアシストトルクT_epsあるいはハンドル速度V_eps、縦軸はブレーキ負圧を示す。EPSアシストトルクT_epsやハンドル速度V_epsは、EPS装置4の負荷の大きさに対応している。すなわち、EPSアシストトルクT_epsやハンドル速度V_epsが大きい場合、EPSアシストトルクT_epsやハンドル速度V_epsが小さい場合よりもEPS装置4の消費電力が大きくなる。その結果、バッテリ2に対する電力要求が大きくなり、バッテリ2の負荷が大きくなる。ここでは、EPSアシストトルクT_epsに基づいて許容ブレーキ負圧P_brk_okを定める場合について説明する。
図5において、領域R1は、エンジン1の始動時にEPS装置4によるアシストが低下する可能性がある領域(以下、単に「高負荷領域R1」と記載する。)を示す。高負荷領域R1は、EPS装置4の要求電力が大きくなる領域である。この領域R1でEPS装置4が作動しているときにスタータ3によってエンジン1の始動がなされると、バッテリ2に対する電力要求が重なり、バッテリ2の負荷が高くなる。高負荷領域R1は、EPSアシストトルクT_epsが符号T_eps1で示す境界値以上の領域である。
符号P_brk_minは、負圧低下判定値である。負圧低下判定値P_brk_minは、例えば、ブレーキ倍力装置22の負圧室において最低限確保する負圧の値である。負圧低下判定値P_brk_minは、ブレーキ倍力装置22において適切にブレーキ踏力をアシストすることができるブレーキ負圧P_brkの最小値とすることができる。ブレーキ負圧P_brkが負圧低下判定値P_brk_min以下であると、EPSアシストトルクT_epsにかかわらずエンジン1が再始動される。
符号C1は、EPSアシストトルクT_epsと許容ブレーキ負圧P_brk_okとの関係を示す許容ブレーキ負圧曲線である。許容ブレーキ負圧曲線C1は、負圧低下判定値P_brk_minおよびEPSアシストトルクT_epsの境界値T_eps1を漸近線とする双曲線である。許容ブレーキ負圧曲線C1が湾曲する方向は、EPSアシストトルクT_epsの増加方向でかつブレーキ負圧P_brkの減少方向である。つまり、許容ブレーキ負圧曲線C1は、EPSアシストトルクT_epsが大きい場合は、EPSアシストトルクT_epsが小さい場合よりも大きな値となり、かつEPSアシストトルクT_epsが大きくなるほど値が大きくなる。また、EPSアシストトルクT_epsが大きくなるにつれて、EPSアシストトルクT_epsの増加に対する許容ブレーキ負圧曲線C1の増加の度合いが大きくなる。
ECU20は、ブレーキ負圧P_brkが許容ブレーキ負圧P_brk_ok以上である場合にエンジン停止制御を許容する。一方、ブレーキ負圧P_brkが許容ブレーキ負圧P_brk_ok未満である場合、エンジン停止制御が禁止される。つまり、許容ブレーキ負圧曲線C1よりもブレーキ負圧P_brkが小さい側の領域は、エンジン停止禁止領域であり、ブレーキ負圧P_brkが許容ブレーキ負圧曲線C1以上である領域は、エンジン停止許容領域である。図5からわかるように、EPSアシストトルクT_epsが大きい場合は、EPSアシストトルクT_epsが小さい場合よりもエンジン1を再始動するときのブレーキ負圧P_brkが大きい。
ECU20は、許容ブレーキ負圧曲線C1および取得したEPSアシストトルクT_epsに基づいて、許容ブレーキ負圧P_brk_okを演算する。ブレーキ負圧P_brkが、許容ブレーキ負圧P_brk_okよりも小さい場合、エンジン停止制御が禁止される。エンジン停止制御が禁止されると、停止していたエンジン1は再始動され、運転中であるエンジン1を新たに停止することが禁止される。許容ブレーキ負圧曲線C1が、負圧低下判定値P_brk_minを漸近線としていることから、ブレーキ負圧P_brkが低下していく場合、ブレーキ負圧P_brkが負圧低下判定値P_brk_minまで低下する前にエンジン1が再始動される。また、許容ブレーキ負圧曲線C1が境界値T_eps1を漸近線としていることから、EPSアシストトルクT_epsが増加していく場合に、EPSアシストトルクT_epsが境界値T_eps1に到達する前にエンジン1が再始動される。
EPSアシストトルクT_epsが小さい場合、EPSアシストトルクT_epsが短時間のうちに境界値T_eps1を超えるまで増加する可能性は小さい。このため、EPSアシストトルクT_epsが小さい場合、ブレーキ負圧P_brkが比較的低圧となるまでエンジン1を停止しておくことができるように許容ブレーキ負圧曲線C1が定められている。これにより、エンジン停止制御の実行期間を延長し、燃費の向上を図ることができる。
一方、EPSアシストトルクT_epsが大きい場合、高負荷領域R1までEPSアシストトルクT_epsが増加する前にエンジン1を再始動しておくことができるように、許容ブレーキ負圧P_brk_okとして大きな値が選択されるように許容ブレーキ負圧曲線C1が定められている。ブレーキ負圧P_brkに余裕がある状態でエンジン再始動の要求がなされることで、何らかの事情でエンジン1の始動タイミングが遅らされたとしても、制動能力を確保することができる。ステップS2で許容ブレーキ負圧P_brk_okが演算されると、ステップS3に進む。
ステップS3では、ECU20により、ブレーキ負圧P_brkが取得される。ECU20は、圧力センサの検出結果を示す信号に基づいて、エンジン1の吸気負圧を取得する。ステップS3が実行されると、ステップS4に進む。
ステップS4では、ECU20により、閾値判定がなされる。ECU20は、ステップS2で演算した許容ブレーキ負圧P_brk_okを閾値として、ステップS3で取得したブレーキ負圧P_brkの閾値判定を行う。具体的には、ECU20は、下記式(1)が成立するか否かを判定する。
P_brk < P_brk_ok…(1)
ステップS4の判定の結果、上記式(1)が成立すると判定された場合(ステップS4−Y)にはステップS5に進み、そうでない場合(ステップS4−N)には本制御フローは終了する。
ステップS5では、ECU20により、エンジン停止中であるか否かが判定される。その判定の結果、エンジン停止中であると判定された場合(ステップS5−Y)にはステップS6に進み、そうでない場合(ステップS5−N)にはステップS7に進む。ステップS6およびステップS7では、ECU20により、エンジン停止制御が禁止される。
ステップS6では、ECU20によりエンジン始動制御がなされる。ECU20は、スタータ3によってエンジン1を回転させ、エンジン1を始動する。これにより、エンジン1の吸気負圧が回復する。また、オルタネータ5による発電が開始されることで、スタータ3に対する電力の供給と、EPS装置4に対する電力の供給とを両立できる。ステップS6が実行されると、本制御フローは終了する。
ステップS7では、ECU20により、エンジン停止が禁止される。ECU20は、運転中のエンジン1を停止することを禁止する。ステップS7が実行されると、本制御フローは終了する。
EPS装置4の動作による消費電力は、車両10の状態、道路状態、運転者の操作、進行方向などによって時々刻々と変化し、かつ消費電力の変化幅が大きい。本実施形態では、ブレーキ負圧P_brkに基づくエンジン1の再始動判定において、EPS装置4の作動状態が再始動判定の閾値に反映される。本実施形態によれば、負圧低下判定値P_brk_minに基づくエンジン1の再始動要求が入る前で、かつEPS装置4の動作の負荷があまり大きくないときにエンジン1を再始動することができる。よって、EPS装置4およびスタータ3の両者に対する電力の供給を両立させることができ、操舵力、ブレーキ力を確保することができる。
なお、許容ブレーキ負圧P_brk_okは、EPSアシストトルクT_epsに代えてハンドル速度V_epsに基づいて演算されてもよく、EPSアシストトルクT_epsおよびハンドル速度V_epsに基づいて演算されてもよい。例えば、EPSアシストトルクT_epsに代えてハンドル速度V_epsに基づいて許容ブレーキ負圧P_brk_okを定める場合、図5に示す許容ブレーキ負圧曲線C1に基づいて許容ブレーキ負圧P_brk_okを決定することができる。すなわち、ハンドル速度V_epsが大きい場合は、ハンドル速度V_epsが小さい場合よりもエンジン1を再始動するときのブレーキ負圧P_brkが大きくなるようにすることができる。
また、ECU20は、EPSアシストトルクT_epsに加えてハンドル速度V_epsに基づいて許容ブレーキ負圧P_brk_okを定める場合、例えば、EPSアシストトルクT_epsが大きくなるほど、かつハンドル速度V_epsが大きくなるほど許容ブレーキ負圧P_brk_okを大きな値とするようにしてもよい。
なお、本実施形態では許容ブレーキ負圧P_brk_okがEPSアシストトルクT_epsやハンドル速度V_epsに応じて可変とされたが、許容ブレーキ負圧P_brk_okは、ブレーキ負圧P_brkの過去の推移や履歴に基づいて可変とされてもよい。例えば、EPSアシストトルクT_epsやハンドル速度V_epsに加えて、ブレーキ負圧P_brkの過去の推移や履歴に基づいて許容ブレーキ負圧P_brk_okが変化するようにされてもよい。一例として、ブレーキ負圧P_brkの減少速度が大きい場合、ブレーキ負圧P_brkの減少速度が小さい場合よりも許容ブレーキ負圧P_brk_okが大きくされてもよい。このようにすれば、ブレーキ負圧P_brkの減少速度が大きい場合、ブレーキ倍力装置22の負圧室の圧力がより低圧の段階でエンジン1が再始動される。
なお、車両制御装置1−1が適用可能な車両は、本実施形態で説明したものには限定されない。例えば、本実施形態では、変速機12が手動変速機であったが、変速機12は自動変速機であってもよい。
本実施形態では、エンジン停止制御がECU20によって自動的に実行される場合を例に説明したが、これには限定されない。例えば、エンジン停止制御は、手動(運転者の操作)によって行われるものであってもよい。例えば、エンジン停止制御が、運転者によって操作されるスイッチ等に対する操作入力に基づいて実行されてもよい。このような車両において、ブレーキ負圧P_brkに基づいてECU20によってエンジン停止制御が禁止された場合には、エンジン停止制御の実行を要求する操作入力がなされたとしても、エンジンの停止が禁止される。
なお、本実施形態の車両制御装置1−1によるエンジン停止制御の禁止は、パワーステアリング装置に限らず、電力を消費して運転者の操作をアシストする機器に適用可能である。
(第1実施形態の第1変形例)
上記第1実施形態では、ブレーキ負圧P_brkと許容ブレーキ負圧P_brk_okとに基づいてエンジン1の再始動が判定されたが、エンジン1の再始動を判定する方法はこれには限定されない。例えば、ブレーキ負圧P_brkに基づいてEPS装置4の負荷の許容範囲を定め、EPS装置4の負荷が許容範囲から外れる場合にエンジン1を再始動するようにしてもよい。図6は、許容EPSアシストトルクT_eps_okの説明図である。
図6において、符号T_eps_okは、許容EPSアシストトルクを示す。許容EPSアシストトルクT_eps_okは、エンジン1の停止状態を許容できるEPSアシストトルクT_epsの範囲の上限を示す。符号C2は、許容EPSアシストトルク曲線である。許容EPSアシストトルク曲線C2は、負圧低下判定値P_brk_minおよびEPSアシストトルクT_epsの境界値T_eps1を漸近線とする双曲線である。許容EPSアシストトルク曲線C2が湾曲する方向は、EPSアシストトルクT_epsの増加方向でかつブレーキ負圧P_brkの減少方向である。
ECU20は、許容EPSアシストトルク曲線C2および取得したブレーキ負圧P_brkに基づいて、許容EPSアシストトルクT_eps_okを演算する。ECU20は、EPSアシストトルクT_epsが、許容EPSアシストトルクT_eps_okを超えると、エンジン1を再始動する。
このように、EPSアシストトルクT_epsに基づいてエンジン1を再始動するか否かが判定されてもよい。ブレーキ負圧P_brkが十分に大きい場合には、ブレーキ負圧P_brkが短時間のうちに負圧低下判定値P_brk_minまで低下してしまう可能性は小さい。従って、ブレーキ負圧P_brkに基づくエンジン再始動がなされてスタータ3による電力要求とEPS装置4による電力要求とが重なる可能性は小さい。このため、EPSアシストトルクT_epsが比較的大きな値となるまでエンジン1を停止しておくことができる。これにより、エンジン停止制御を実行できる期間を拡大し、燃費の向上を図ることができる。
一方、ブレーキ負圧P_brkが低下しているときには、ブレーキ負圧P_brkに基づくエンジン再始動がなされる可能性が高い状況と考えられる。よってEPSアシストトルクT_epsが比較的小さな値であるうちにエンジン1の再始動がなされるようにする。これにより、スタータ3による電力要求とEPS装置4による電力要求とが重なることを抑制し、バッテリ2の負荷が大きくなることを抑制することができる。
なお、EPSアシストトルクT_epsに代えて、ハンドル速度V_epsに基づいてエンジン1の再始動判定がなされてもよい。例えば、許容EPSアシストトルクT_eps_okと同様にして、ブレーキ負圧P_brkに基づいて許容ハンドル速度V_eps_okを定め、ハンドル速度V_epsが許容ハンドル速度V_eps_okを超えている場合にエンジン1を再始動するようにしてもよい。また、EPSアシストトルクT_epsが許容EPSアシストトルクT_eps_okを超えている条件、あるいはハンドル速度V_epsが許容ハンドル速度V_eps_okを超えている条件の少なくともいずれか一方が成立する場合にエンジン1を再始動すると判定されてもよい。
(第1実施形態の第2変形例)
車両制御装置1−1は、手動変速式のハイブリッド車両(MT−HV)に適用されてもよい。図7は、手動変速式のハイブリッド車両の一例を示す図である。ハイブリッド車両60は、図2に示す車両10の回生オルタネータ15に代えて、モータジェネレータ(以下、「MG」と記載する。)16を備える。MG16は、電力の供給により駆動する電動機としての機能(力行機能)と、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えている。MG16としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。MG16の回転軸16aは、変速機12の出力軸14とギアを介して接続されている。MG16が出力する動力は、回転軸16aからギアを介して出力軸14に伝達されてハイブリッド車両60を駆動する。
MG16は、インバータ17を介してリチウム電池18と接続されている。リチウム電池18の出力電圧は、バッテリ2の出力電圧よりも高圧である。リチウム電池18は、コンバータ19を介してバッテリ2、スタータ3、EPS装置4等と接続されている。コンバータ19は、DC−DCコンバータであり、リチウム電池18の電圧を降圧してバッテリ2側に出力する。
ハイブリッド車両60は、少なくともエンジン1の動力によって走行するエンジン走行と、MG16の動力によって走行するEV走行とを選択的に行うことができる。走行モードの切替えは、例えば、シフトレバーの操作によってなされる。シフトレバーは、エンジン走行用のレンジに加え、EV走行用のレンジに切替え可能となっている。ECU20は、シフトレバーのシフトポジションを検出するシフトポジションセンサと接続されている。ECU20は、シフトレバーがエンジン走行用のレンジに操作されている場合、エンジン1の動力によってハイブリッド車両60を走行させる。エンジン走行において、更に、MG16による動力のアシストやMG16による回生発電がなされてもよい。
運転者によってシフトレバーがEV走行用のレンジに操作されると、シフトレバーと連動する機構によってクラッチ11が開放される。ECU20は、運転者によってシフトレバーがEV走行用のレンジに操作されたことが検出されると、エンジン走行モードからEV走行モードに移行する。EV走行モードに移行すると、ECU20は、エンジン1を停止させ、MG16の出力する動力によってハイブリッド車両60を走行させる。
ECU20は、エンジン走行モードにおいて、エンジン停止制御を実行することができる。ECU20は、エンジン停止制御の実行中にエンジン停止制御の実行可能条件が成立しなくなると、エンジン停止制御を終了する。エンジン1の再始動の際に、ハイブリッド車両60においてバッテリ2の電圧低下が生じる。リチウム電池18からコンバータ19を介してスタータ3等に電力を供給可能ではあるものの、スタータ3の要求電力を満たすには足りない。エンジン始動時におけるスタータ3の要求電力を満たすほどの大容量のコンバータ19を設けることは、コスト面からも難しい。コンバータ19の容量は、例えば、補機9の要求電力の一部を賄うことができる程度であり、エンジン始動時には、バッテリ2において電圧低下が生じる。
ECU20は、エンジン走行モードにおいて、ブレーキ負圧P_brkと許容ブレーキ負圧P_brk_okとに基づいてエンジン停止制御を禁止するか否かを判定する。これにより、手動変速式のハイブリッド車両60において、走行中のEPS装置4に対する電力供給能力の向上とバッテリ2の小容量化とを両立させ、かつ制動能力を確保することができる。
また、ECU20は、シフトレバーの操作によってエンジン走行モードからEV走行モードへ移行するときや、EV走行モードでの走行中に、ブレーキ負圧P_brkに基づいて、エンジン停止制御を許可するか否かを判定してもよい。
(第2実施形態)
図8から図10を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図8は、本実施形態に係る車両の概略構成を示す図、図9は、本実施形態の車両制御装置の動作を示すフローチャート、図10は、ブレーキ加圧制御の説明図である。
本実施形態の車両制御装置1−2は、ブレーキ負圧P_brkの低下によるエンジン1の始動要求があった場合、EPS装置4の動作をみて、アシスト低下の可能性があればエンジン1の始動を遅らせ、かつブレーキアクチュエータによってブレーキ液圧を加圧する。これにより、操舵力およびブレーキ力を確保することができる。本実施形態は、ドライバーの踏力と無関係にブレーキ加圧できる機構(VSCアクチュエータなど)を備える車両を前提としている。
図8に示すように、車両10は、ブレーキ装置に発生させる制動力を制御するブレーキアクチュエータ23を備える。ブレーキアクチュエータ23は、ブレーキ装置のホイールシリンダに供給するブレーキ液圧を制御することができる。すなわち、ブレーキアクチュエータ23は、運転者のブレーキ操作によって発生するマスターシリンダ圧にかかわらず、ホイールシリンダに供給するブレーキ液圧(以下、単に「ホイールシリンダ圧」と記載する。)を増圧すること、および減圧することが可能である。ブレーキアクチュエータ23は、例えば、電動ポンプを有しており、電動ポンプによって加圧されたブレーキ液をホイールシリンダに送ることでホイールシリンダ圧を増圧することができる。また、ブレーキアクチュエータ23は、予めアキュームレータに蓄圧したブレーキ液をホイールシリンダに供給することによってホイールシリンダ圧を増圧するものであってもよい。
図9を参照して、本実施形態の動作について説明する。図9に示す制御フローは、例えば、車両10の走行中に所定の間隔で繰り返し実行される。
まず、ステップS11では、ECU20により、エンジン1が停止中であるか否かが判定される。その判定の結果、エンジン停止中であると判定された場合(ステップS11−Y)にはステップS12に進み、そうでない場合(ステップS11−N)には本制御フローは終了する。
ステップS12では、ECU20により、負圧低下によるエンジン始動要求があるか否かが判定される。ECU20は、圧力センサによって検出されたブレーキ負圧P_brkと、予め定められた閾値とに基づいてステップS12の判定を行う。閾値は、例えば、負圧低下判定値P_brk_minとすることができる。ECU20は、検出されたブレーキ負圧P_brkが閾値未満である場合にステップS12で肯定判定を行う。その判定の結果、負圧低下によるエンジン始動要求があると判定された場合(ステップS12−Y)にはステップS13に進み、そうでない場合(ステップS12−N)には本制御フローは終了する。
ステップS13では、ECU20により、EPSアシストトルクT_epsあるいはハンドル速度V_epsの少なくともいずれか一方が取得される。ステップS13が実行されると、ステップS14に進む。
ステップS14では、ECU20により、閾値判定がなされる。例えば、ECU20は、EPSアシストトルクT_epsの閾値判定では、ステップS13で取得したEPSアシストトルクT_epsが閾値T_eps_xよりも大である場合にステップS14で肯定判定を行うことができる。また、ECU20は、ハンドル速度V_epsの閾値判定では、ステップS13で取得したハンドル速度V_epsが閾値V_eps_xよりも大である場合にステップS14で肯定判定を行うことができる。また、ECU20は、EPSアシストトルクT_epsおよびハンドル速度V_epsの両方について閾値判定を行う場合、EPSアシストトルクT_epsが閾値T_eps_xよりも大である条件、あるいはハンドル速度V_epsが閾値V_epsよりも大である条件の少なくとも一方が成立するときにステップS14で肯定判定を行うことができる。
EPSアシストトルクT_epsの閾値T_eps_xやハンドル速度V_epsの閾値V_eps_xが大きすぎると、EPS装置4による電力要求とスタータ3による電力要求とが重なったときにバッテリ2の負荷が大きくなってアシストトルクが低下する可能性がある。一方、閾値T_eps_xや閾値V_eps_xが小さすぎるとエンジン1の始動タイミングを遅らせすぎてしまう可能性がある。閾値T_eps_xや閾値V_eps_xは、アシストトルクの低下を抑制でき、かつエンジン1の始動を遅らせすぎないように適合実験の結果等に基づいて定められる。ECU20は、ステップS14で肯定判定がなされた場合(ステップS14−Y)にはステップS15に進み、そうでない場合(ステップS14−N)にはステップS16に進む。
ステップS15では、ECU20により、エンジン1が始動される。ステップS15が実行されると、本制御フローは終了する。
ステップS16では、ECU20により、エンジン1を始動することなく、ブレーキ踏力に応じた加圧制御がなされる。ECU20は、運転者によりブレーキペダルに対して入力されるブレーキ踏力を取得する。ECU20は、取得したブレーキ踏力に応じて、ブレーキアクチュエータ23によってホイールシリンダ圧を増圧する加圧制御を実行する。ECU20は、例えば、ブレーキ踏力に基づいてホイールシリンダ圧の加圧量の目標値を決定し、この目標加圧量を実現するようにブレーキアクチュエータ23を制御する。
ECU20は、図10に示すブレーキ踏力とブレーキ加圧量との対応関係を定めたマップを予め記憶している。ECU20は、このマップに基づいてブレーキアクチュエータ23によるブレーキ液圧の加圧量を決定する。ECU20は、例えば、実際のホイールシリンダ圧をセンサによって検出し、フィードバック制御によってホイールシリンダ圧を目標加圧量に応じた目標ホイールシリンダ圧に収束させるようにしてもよい。ブレーキアクチュエータ23による加圧制御は、供給される負圧が低下したブレーキ倍力装置22に代えて制動力をアシストする制御、あるいは制動力をアシストすることでブレーキ負圧P_brkを温存する制御として実行される。すなわち、ブレーキアクチュエータ23による加圧制御は、ブレーキ倍力装置22をアシストする制御である。
ステップS16が実行されると、ステップS14に移行する。ECU20は、ステップS14で肯定判定がなされるまで、エンジン1の始動を遅らせて加圧制御を継続して実行する。
本実施形態によれば、ブレーキ負圧P_brkの低下によるエンジン始動要求がある場合に、EPSアシストトルクT_epsが閾値T_eps_xより大となるまで、あるいはハンドル速度V_epsが閾値V_eps_xより大となるまで、エンジン1の始動が遅らされ、かつブレーキアクチュエータ23による制動力のアシストがなされる。つまり、ブレーキ負圧P_brkに基づいてエンジン1の再始動が要求されてからエンジン1が始動されるまで、ブレーキアクチュエータ23によってブレーキ倍力装置22をアシストする。これにより、スタータ3による電力要求とEPS装置4による電力要求とが重なり、バッテリ2の負荷が大となることが抑制される。その結果、走行中のEPS装置4に対する電力供給能力の向上とバッテリ2の小容量化とを両立させ、かつ制動能力を確保することができる。
なお、エンジン1の始動を遅らせてブレーキアクチュエータ23によって制動力をアシストする制御が、上記第1実施形態の制御に加えて実行されてもよい。例えば、ブレーキ負圧P_brkに基づいてエンジン1の再始動が要求された場合に、すぐにエンジン1を始動することが適当でない状況となる可能性がある。一例として、エンジン1の再始動が判定された直後にEPSアシストトルクT_epsやハンドル速度V_epsが高負荷領域R1まで大きく上昇している可能性も考えられる。このような場合に、エンジン1の再始動を遅らせることにより、EPS装置4に対する電力供給の低下を抑制することができる。
上記の各実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。