JP5676115B2 - 弁付人工血管及び弁付人工血管用柱状芯基材並びに弁付人工血管の製造方法 - Google Patents

弁付人工血管及び弁付人工血管用柱状芯基材並びに弁付人工血管の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、心臓弁付の人工血管に関するものであり、特に、主に生体組織によって構成され、弁の付け根部分近傍の血流方向下流側に、血流の逆流防止や弁の開口時の退避に役立つ、張り出し部位を有している、弁付人工血管に関するものである。
最近の弁膜症治療の動向として、自己弁温存術式もしくは、self repair,growth abilityを期待した弁形成術の適応拡大がみられるが、著しい弁の変性を来したケースにおいては、現在でも、従来からの代用弁を用いた弁置換術が行われている。
これまで開発されてきた人工弁としては、ブタ心臓から摘出した弁を脱血,アルデヒド処理などで非動化失活を行った生体弁等の他、ディスクの傾斜,回転運動を利用した機械弁等が挙げられるが、前者は、移植後5〜10年ほどで石灰化が起こり、亀裂が入るなど耐久性に問題があり、後者は、抗凝固剤を投与し続ける必要があるため、妊娠の可能性がある女性あるいは妊娠を希望する女性(胎児に催奇形性の可能性があるため)や高齢者などには適用が困難であり、また、傾斜ディスクが弁下組織へひっかかる危険性がある等の問題が残されていた。
そこで、これらの代用弁の問題点を克服すべく、1990年代以降は、“自身の心臓弁を自己組織によって再生させる”という組織工学的な手法による心臓弁の開発が始まった。
すでに動物への移植実験や臨床応用の報告があるが、その工程は、自己の骨髄細胞や血管前駆細胞の採取、高度な滅菌環境下での細胞培養、播種といった主にin vitroでの煩雑な操作が不可欠である。
このような再生医療の新しいアプローチの1つとして、カプセル化と呼ばれる、“体内においてコラーゲンを主成分とする生体組織で、埋入物の表面が被覆される現象”を利用した生体内組織形成技術の開発への取り組みがなされてきた。
生体内組織形成技術とは、生体を組織構築の場、つまり”リアクター”として利用して、自己の移植用組織を作製する手法であり、下記の利点を有している。
(1)免疫反応がない
(2)生体適合性が優れている
(3)移植後に体内で成長できる可能性がある
(4)基材により形状を自由に形成できる
(5)細胞採取,培養を必要としない
(6)無菌室管理を必要としない
本発明者等は、この生体内組織形成技術を利用して、特許文献1,2に記載したような、一部を自己組織で形成した心臓弁用の代用弁(バイオバルブ)を開発した。
これらは、柱状芯基材を皮下に埋入することで、弁付人工血管を作製しようとする試みであるが、いずれも、柱状芯基材の周りに、「チューブ状の、多孔質ポリウレタン製スキャホールド」を必要とするものであった。
人工血管部分の強度を担保するためには、チューブ状スキャホールド等が必要と考えられていたからである。
しかしながら、このようなチューブ状スキャホールドを用いると、柱状芯基材を引き抜いた後も、弁付人工血管自体と一体化したスキャホールド(人工物)が残り、移植後、免疫反応により排除されるリスクや、周辺部の炎症・石灰化の惹起,チューブ自体の分解による組織への悪影響(炎症,癌の誘発等)等の問題がある。
また、人工物を内包していることから、移植後に、体の成長に伴って弁付人工血管も大きくなることは見込めず、小児患者の場合には、永久使用を目的とした使用が困難(成長のたびに、再度移植を要する。)という問題も残されている。
更に、チューブ状スキャホールドと生体組織との接合が不十分であれば、その接合部分で破れる危険があり、移植物としての信頼性に劣るという致命的な欠点も有していた。
一方、生体の大動脈弁や肺動脈弁には、弁の下流側に、大動脈洞(バルサルバ洞)や肺動脈洞と呼ばれる膨らみを有している。
この膨らみは、例えば大動脈弁の場合、大動脈弁が閉鎖した際に大動脈内の血液が左心室内に逆流することを防ぐのに役立つものであり、肺動脈弁の場合、肺動脈弁が閉鎖した際に肺動脈内の血液が右心室に逆流することを防ぐのに役立つものである。
しかしながら、従来開発された組織工学技術による弁付人工血管には、バルサルバ洞や肺動脈洞(以下、本明細書において、「バルサルバ洞」と記載する場合には、特に断りの無い限り、これらの両方の動脈洞を意味するものとする。)のような膨らみを有するものが無かった。
本発明者等は、組織工学技術による弁付人工血管にバルサルバ洞に相当する膨らみを形成すべく、上記の「チューブ状スキャホールド」を用いる方法において、柱状芯基材に膨らみを設けることを検討したが、柱状芯基材の膨らみ部分と、チューブ状スキャホールドの間に、雑菌が入り込んだためか、移植後に感染が起こってしまい、上手くいかなかった。
特開2007−37764号公報 特開2007−37765号公報
本発明者等は、感染が起こったことをきっかけに、思い切って人工物であるチューブ状スキャホールド無しで行ってみたところ、意外にも、チューブ状スキャホールドを用いた場合よりも強い強度が得られ、しかもチューブが有るよりも短期間で製造でき、更にはバルサルバ洞に相当する膨らみ(血管の張り出し部位)によって、高血圧下においても血流の逆流を抑え得ることを見出し、本発明を完成したものであって、その目的とするところは、ほぼ生体組織のみからなり、しかもバルサルバ洞に相当する膨らみを予め持たせた人工血管付きの人工弁を提供することにある。
上述の目的は、下記第一基本発明〜第三基本発明と、第一の発明から第の発明と、によって、達成される。
<第一基本発明>
生体組織を主たる構成成分として含み、下記(A)乃至(C)を有することを特徴とする、弁付人工血管。
(A)血管部位
(B)弁部位
(C)血管部位表面の、弁の付け根部分近傍の血流方向下流側にある張り出し部位
<第二基本発明>
(C)の張り出し部位の形状が、提灯形状,または、1個又は複数個の球状であることを特徴とする、第一基本発明に記載の弁付人工血管。
<第三基本発明>
(C)の張り出し部位の形状が、バルサルバ洞の形状であることを特徴とする、第一基本発明又は第二基本発明に記載の、弁付人工血管。
<第一の発明>
生体組織で被覆されることによって弁付人工血管を形成する、柱状芯基材であって、下記(D)乃至(F−1)を有することを特徴とする、弁付人工血管用柱状芯基材。
(D)柱状部位
(E)弁形成部位
(F−1)柱状部位表面の弁形成部位近傍の血流方向下流側で、円周上の位置が弁形成部位と対応し、かつ弁形成部位よりも外側の位置にあり、一部が、へこんでいる張り出し部位
<第二の発明>
(F−1)の張り出し部位の形状が、提灯形状,または、1個又は複数個の球状であることを特徴とする、第一の発明に記載の弁付人工血管用柱状芯基材。
<第三の発明>
(F−1)の張り出し部位の形状が、バルサルバ洞の形状であることを特徴とする、第一の発明又は第二の発明に記載の、弁付人工血管用柱状芯基材。
<第四の発明>
(F−1)の張り出し部位の少なくとも一部が、着脱可能であることを特徴とする、第一の発明乃至第三の発明のいずれか一項に記載の、弁付人工血管用柱状芯基材。
<第五の発明>
生体組織を主たる構成成分として含み、下記(A)乃至(C)を有する弁付人工血管、の製造方法であって、
下記の工程1)〜3)を有することを特徴とする、弁付人工血管の製造方法。また、この製造方法によって製造したことを特徴とする弁付人工血管。
(A)血管部位
(B)弁部位
(C)血管部位表面の、弁の付け根部分近傍の血流方向下流側にある張り出し部位
1)第一の発明乃至第の発明のいずれか一項に記載の弁付人工血管用柱状芯基材を、生体組織材料の存在する環境下に置く工程
2)生体組織材料の存在する環境から、生体組織で被覆された柱状芯基材を、取り出す工程
3)生体組織で被覆された柱状芯基材から、柱状芯基材を抜き出す工程
<第の発明>
更に下記の工程4)を有することを特徴とする、第の発明に記載の、弁付人工血管の製造方法。また、この製造方法によって製造したことを特徴とする弁付人工血管。
4)弁付人工血管に、拍動を与える工程
本発明の弁付人工血管は、主に生体組織から形成されているため、拒絶反応のリスクや、成長に伴う再移植の必要も無いという優れた性質を有するとともに、十分な強度を有し、しかも、従来のチューブ状スキャホールドを内在するものよりもむしろ、強度の保持性に優れているという利点も有している。
また、本発明の弁付人工血管は、従来の組織工学技術による人工弁には無かった、バルサルバ洞に相当する張り出し部位を備えており、血液の逆流が殆ど起こらない。
更に、バルサルバ洞に相当する張り出し部位を設けることによって、従来、組織工学技術による人工弁において懸念されていた弁の開閉の障害が無く、生体の心臓弁と同程度の良好な最大開口率を達成し得るという利点も有している。
本発明の弁付人工血管用柱状芯基材を用いることで、上記本発明の弁付人工血管が、容易に製造できる。
本発明の弁付人工血管の製造方法によって、本発明の弁付人工血管を、容易に製造することができる。
また、本発明の弁付人工血管を、柱状芯基材を抜き出した後に、更に、拍動をかけることによって製造した場合、更にコラーゲンの配向が進んだ、高強度の弁付人工血管を製造することができる。
本発明の弁付人工血管を示す図である。上段の図は、実施例1の本発明の弁付人工血管の外観を表す。図の右側が、血流方向下流側である。中段の図は、実施例1の本発明の弁付人工血管の、血流方向下流側(上段の図の右側)から見た縦(円周方向)断面図である。下段の図は、実施例1の本発明の弁付人工血管の、横(血流方向)断面図である。図の上側が、血流方向の下流側である。 本発明の弁付人工血管の弁の一部が開いた状態を、血管の下流側から観察した様子を示す縦(円周方向)血管断面図である。 付人工血管を作製するための柱状芯基材(凹凸の一対型:張り出し部位有り)および弁付人工血管の作製過程を示す図である。尚、本図の上側が血流方向下流側,下側が血流方向上流側となる。左の図は、実施例1で用いた、本発明の柱状芯基材を表す。中央の図は、柱状芯基材と、その周りを被覆する弁付人工血管を表す。尚、被覆状態が理解できるように、弁付人工血管の一部を敢えて省略して記載している。右の図は、柱状芯基材を抜き出した後の、本発明の弁付人工血管の、横(血流方向)断面図である。 比較例1の柱状芯基材(凹凸の一対型:張り出し部位無し)を示す図である。尚、本図の上側が血流方向下流側,下側が血流方向上流側となる。 状芯基材(凹凸の一対型)の中心に、針金を通して組み合わせた様子を示す図である。 状芯基材から、着脱可能な張り出し部位を、一部外した様子を示す図である。 チューブ状スキャホールド無しで作製した)弁付人工血管の、縦(円周方向)と横(血流方向)断面の、コラーゲンの状態を示す図である。左上段の3枚が、縦(円周方向)断面の、シリウスレッド染色後の偏光顕微鏡写真である。左下段の3枚が、横(血流方向)断面の、シリウスレッド染色後の偏光顕微鏡写真である。右の図が、縦(円周方向)断面の、ヘマトキシリンエオシン染色写真である。 比較例の(チューブ状スキャホールド有りで作製した)弁付人工血管の、縦(円周方向)と横(血流方向)断面の、コラーゲンの状態を示す図である。左上段の3枚が、縦(円周方向)断面の、シリウスレッド染色後の偏光顕微鏡写真である。左下段の3枚が、横(血流方向)断面の、シリウスレッド染色後の偏光顕微鏡写真である。右の図が、縦(円周方向)断面の、ヘマトキシリンエオシン染色写真である。 付人工血管(参考例1)の移植後3ヶ月における、自家結合組織人工血管内部での縦(円周方向)でのコラーゲンの配向状態を示す図である。上図が、ヘマトキシリンエオシン染色写真である。下図が、シリウスレッド染色後の偏光顕微鏡写真である。 チューブ状スキャホールドの有無による、作製直後及び2日間拍動負荷培養を行った後の、弁付人工血管の破裂強度の差を示す図である。 張り出し部位の有無による、血液の、拍出量及び逆流量の差を示す図である。 張り出し部位の有無による、最大開口率の違いを示す図である。 チューブ状スキャホールドの有無による、弁付人工血管の作製成功率を示す図である。 付人工血管を作製したビーグル犬と同じ個体に、弁付人工血管を移植した後の超音波エコー写真を示す図である。 状芯基材の一例((F−1)張り出し部位:提灯型)を表す図である。 状芯基材の一例((F−1)張り出し部位:扁平提灯型)を表す図である。 状芯基材の一例((F−1)張り出し部位:不均一弁型)を表す図である。 状芯基材の一例((F−1)張り出し部位:1弁型)を表す図である。 状芯基材の一例((F−1)張り出し部位:多弁型)を表す図である。 状芯基材の一例((E)弁形成部位:内向き)の、横(血流方向)断面を表す図である。 状芯基材の一例((E)弁形成部位:内向き)の、張り出し部位における縦(円周方向)断面を表す図である。 状芯基材の一例((E)弁形成部位:外向き)の、張り出し部位における縦(円周方向)断面を表す図である。 状芯基材の一例((E)弁形成部位:a:外向き,b:血流方向に並行)の、横(血流方向)断面を表す図である。太い矢印は、血流方向を表す。細い矢印は、弁形成部位の方向(a:外向き,b:血流方向に並行)を表す。 状芯基材の一例((E)弁形成部位:外向き,(F−1)張り出し部位:バルサルバ洞型)を表す図である。図の、L,M,N同士がそれぞれ対応して勘合する。 状芯基材の一方の一例((E)弁形成部位:血流方向に並行)を表す図である。 状芯基材の一例((F−2):へこみ部位)の、横(血流方向)断面を表す図である。図中のa,bは、対称である。矢印は、血流方向を表す。実線は、芯基材の外形を表し、破線は、張り出し部位やへこみ部位と対称な形状等を意味する。 本発明の柱状芯基材の一例((F−1):張り出し部位の一部がへこんでいるもの)の、横(血流方向)断面を表す図である。図中のc,dは、対称である。矢印は、血流方向を表す。実線は、芯基材の外形を表し、破線は、へこみ部位と対称な形状等を意味する。 状芯基材の一例((F−2):へこみ部位の一部が張り出しているもの)の、横(血流方向)断面を表す図である。図中のe,fは、対称である。矢印は、血流方向を表す。実線は、芯基材の外形を表し、破線は、張り出し部位やへこみ部位と対称な形状等を意味する。 状芯基材の一例((E)弁形成部位:a:外向き,(F−1):張り出し部位)の、外観を表す図である。
[本発明の弁付人工血管]
本発明の弁付人工血管は、生体組織を主たる構成成分として含み、下記(A)乃至(C)を有することを特徴とするものである。
(A)血管部位
(B)弁部位
(C)血管部位表面の、弁の付け根部分近傍の血流方向下流側にある張り出し部位
《「(A)血管部位」の形状》
(A)の血管部位の形状は、円柱や、多角柱等が考えられるが、生体内に存在する血管と同じような断面の人工血管を製造するためには、円柱であることが好ましい。
《「(A)血管部位」の太さ》
「(A)血管部位」の太さは、これが代替する、移植生体中の血管の太さで良く、移植対象によって適宜選択すれば良い。
《「(A)血管部位」の厚み》
「(A)血管
部位」の厚みは、これが代替する移植生体中の血管の厚みで良く、移植対象によって適宜選択すれば良い。
《「(A)血管部位」の長さ》
「(A)血管部位」の長さは、(C)の張り出し部位を設けられる長さがあれば良く、移植に必要とされる長さに応じて、適宜選択すれば良い。
《「(B)弁部位」の形状,大きさ,数》
「(B)弁部位」とは、1又は複数枚の弁葉からなる組織である。
弁葉の形状,大きさ,数は、弁を開閉でき、血流をコントロールできるようなもの,及び弁の開口率が好ましい範囲となるものを適宜選択すれば良く、特に限定されるものでは無いが、弁葉の数は2〜5枚が好ましく、特に生体の弁の形である3つ(三葉形状)が、自然に近い状態での血流コントロールが可能であるため特に好ましい。
《「(C)張り出し部位」の定義》
「(C)張り出し部位」とは、血管が外部(血管の縦(円周方向)断面の中心部から見て遠心方向)に向かって広がり、血管の縦断面中心部からの距離が、基本となる血管部分よりも、長くなっている、凸状の曲面を言う。
尚、この「(C)張り出し部位」は、製造直後には、へこんでいても良く、芯基材を抜いた後、弁付人工血管の内部に(液体等を通す等して)圧力をかけることによって、張り出させることができるものであれば良い。
弁付人工血管には、ある程度の柔軟性があるため、へこみ形状に形成しても、逆さまに張り出させることが可能となるからである。
《「(C)張り出し部位」の位置》
この「(C)張り出し部位」は、弁の付け根部分近傍の血流方向下流側にある。
“弁の付け根部分近傍の血流方向下流側”とは、弁の付け根から血流方向で考えた際の下流側(弁が開口する方向)の部位を意味する。
また、「(C)張り出し部位」の血管の縦(円周方向)断面の円周上における位置は、開いた弁が、張り出し部位にスムーズに退避できるように、各弁に対応する位置が好ましい。
《「(C)張り出し部位」の大きさ》
「(C)張り出し部位」の、最大限張り出した際の大きさは、弁が閉じた際に溜まる血液を保持することで逆流が防止でき、また弁が退避できる大きさであれば良く、一概には規定されないが、血管方向を横とした場合、横の長さが、例えば人工血管部の内径の20〜200%,好ましくは50〜150%,より好ましくは70〜110%,張り出した部分の最大径が、人工血管部の内径の5〜60%,好ましくは10〜50%,より好ましくは20〜40%である。
《「(C)張り出し部位」の形状》
「(C)張り出し部位」の形状は、弁が閉じた際に溜まる血液を保持することで逆流が防止でき、弁が退避できる形状であれば良く、一概には規定されないが、提灯形状,または、1個又は複数個の球状(半球状を含む)等が好ましいものとして挙げられ、具体的には、例えば提灯型(図15),扁平提灯型(図16),不均一弁型(図17),1弁型(図18),多弁型(図19)等が挙げられる。
血液や弁の、張り出し部位内部での挙動をスムーズするためには、球状が好ましいと考えられ、中でも、血流方向の上流から下流に向けて、徐々に小さくなり、スムーズに血管本来の大きさと同化するような球状が、血流の正常な流れの方向を妨げず、かつ逆流した血流が速やかに退避できると考えられるために好ましく、特に、バルサルバ洞,中でも人間のバルサルバ洞の形状に近いもの(図1)であることが、より自然な状態での心臓弁機能を発揮し得るため好ましい。
「(C)張り出し部位」の形状は、ほぼ一定であるが、生体バルサルバ洞のように、血圧が低い時には、その形状を保持しつつ全体に1〜70%程度収縮しても良い。
《「(C)張り出し部位」の数》
「(C)張り出し部位」の数は、1乃至複数個であって、特に限定されないが、この「(C)張り出し部位」には、弁が開いた時の退避部としての役割もあるため、弁の開口率が好ましい範囲となるものを適宜選択すれば良く、例えば、弁の数に対応していることが好ましく、自然に近い状態での血流コントロールを行うには、3つが好ましい。
《(A)乃至(C)の材質》
上記の(A)乃至(C)は、いずれも、生体組織を主たる構成成分として含むものである。
生体組織としては、例えば、生細胞(主に線維芽細胞)や、細胞が放出する各種蛋白質(コラーゲン,エラスチン等)や糖(ヒアルロン酸等)等の細胞外マトリックス,細胞に栄養や酸素を届け、老廃物を除くる毛細血管,各種の生理活性物質等が挙げられる。
尚、この生体組織は、本発明の弁付人工血管の製造方法で示したような、生体組織材料の存在する環境から得られたものを主体とするが、弁付人工血管の「(A)血管部位」や「(B)弁部位」の形成を促進させるために、既に形成された、下記の(a)や(b)等を少なくとも一部に用いても良い。
(a)筋膜,粘膜,結合組織,皮下組織,脂肪組織等の生体組織成分
(b)膜状あるいはスポンジ状のコラーゲンやエラスチン等の細胞外マトリックス成分
生細胞は、ヤギ,ウシ,ブタ,イヌ,ウサギ,ラット,マウス,ヒト等の哺乳類,魚類,その他の生物に由来するものが使用でき、弁付人工血管を移植する対象に対して、同種(自家)移植,異種(他家)移植のいずれとなるものであっても良いが、免疫反応などの惹起し得ない同種移植が好ましい。
尚、異種移植の場合には、グルタルアルデヒド処理や、超高静水圧印加処理等の公知の方法によって、脱細胞化処理等をすることが好ましい。
生理活性物質としては、例えば、血管内皮増殖因子,インスリン様増殖因子,インスリン様増殖因子結合蛋白,線維芽細胞増殖因子等が使用可能である。
血管内皮増殖因子によって、毛細血管の誘導と内皮化の促進が可能となり、線維芽細胞増殖因子によって、弁付人工血管の完成を早めることができる。
また、インスリン様増殖因子又はインスリン様増殖因子結合蛋白を用いれば、弁付人工血管に筋繊維を誘導することができる。
生理活性物質は、弁付人工血管の鋳型となる柱状芯基材の表面に、単独であるいは高分子材料に混合して塗布する等の方法で、弁付人工血管に含ませるのが好ましい。柱状芯基材の表面に塗布しておくことで、弁付人工血管の製造の際に、血管,並びに弁の形成を促進し得るためである。
生理活性物質の塗布量としては、柱状芯基材の単位表面当たり、約0.1〜1.0μg/cm2,好ましくは0.5μg/cm2程度とするのが好適であり、弁付人工血管に要求される物性や弁や血管が形成されるまでの期間を考慮して、技術常識に基づいて適宜増減すれば良い。
“生体組織を主たる構成成分として含み”とは、構成成分の約90%以上,好ましくは95%以上,特に好ましくは98%以上,最も好ましくは、ほぼ100%が、生体組織であることを意味する。
つまり従来技術のような、強度保持のためのスキャホールドを含有せず、ほぼ100%生体組織からなるものであることが好ましいが、その他の目的で、微量の人工物を含む場合もある。
《本発明の弁付人工血管の保存方法》
本発明の弁付人工血管は、自己の体内にて成育させたものである場合には、これをそのまま用いることができるが、作製後に適やかに使用しない場合は凍結又は凍結乾燥,あるいは脱水処理や固定処理で保存することも可能である。
他の動物で生育した場合には、弁付人工血管を脱細胞処理するのが好ましい。
脱細胞処理の方法としては、超音波処理や界面活性剤処理,コラゲナーゼなどの酵素処理によって細胞外マトリックスを溶出させて洗浄する等の方法があり、脱水処理の方法としては、メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶媒で洗浄する方法があり、固定処理する方法としては、グルタアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド化合物で処理する方法がある。
具体的には、アルデヒド化合物を終濃度1〜3容量%程度となるように調整し、弁付人工血管の体積の約50倍量の固定液中へ弁付人工血管を2時間以上浸漬して固定化する方法が好ましい。これによってタンパク鎖のリジン残基などを架橋することで、弁付人工血管の構造を維持することが可能となるし、その処理後に凍結又は凍結乾燥の手法を組み合わせても良好に保存することができる。
さらに、これらの弁付人工血管には、その由来によらず移植前にアルガトロバン,ヒルジン,ヘパリンなどの抗血栓物質をコーティングなどで保持させることが可能であり、移植直後の血栓発生を抑制することができる。
脱細胞処理の後の弁付人工血管は、更に凍結乾燥することにより、密度などを安定して制御することができる。脱細胞処理後に凍結乾燥せずに、アルコールなどの水溶性有機溶媒,燐酸緩衝生理食塩水,生理食塩水中で保存することも可能であるが、保存時の物性変化を抑制する意味でも凍結保存するか又はさらに凍結乾燥させることが好ましく、中でも凍結のみで保存する方が弁膜の破壊が起こりにくく、より好ましい。
室温下又は高温下で乾燥させる方法もあるが、この場合は、乾燥時の収縮現象において空孔の閉塞や繊維質の会合が起こる可能性があり、再現性良く有用な物性を有する弁付人工血管を得られなくなる可能性があるため、凍結乾燥が好ましい。
《本発明の弁付人工血管の利点》
このような本発明の弁付人工血管は、「(C)張り出し部位」を有することによって、弁の可動性が良くなる結果、血流の逆流防止効果を有する。逆方向に血液が流れようとすると、「(C)張り出し部位」の内部の空間に渦状の血流が発生し、弁を横方向から押し出す結果、弁膜同士の重なりが生じて、すみやかに弁が閉じるからである。
また、「(C)張り出し部位」を有することによって、従来、組織工学技術による人工弁において懸念されていた弁の開閉の障害が無く、生体の心臓弁と同程度の良好な最大開口率を達成し得るという利点も有している。
「(C)張り出し部位」が、弁が開いた際に退避できる空間の役割を果たす結果、最大開口率が大きくなるからである。
また、本発明の弁付人工血管は、従来のようなチューブ状スキャホールドを含有しないため、血管を形成する主な成分の1つであるコラーゲン分子の配向が進み、弁付人工血管の強度が上がっており、しかもチューブ状スキャホールドの加水分解等による強度低下も無かった。
尚、本発明の弁付人工血管は、大動脈や肺動脈等の、弁とその付け根部分の洞を必要とする血管に利用可能である。
また、本発明の弁付人工血管は、基本的には、そのまま、病変した生体弁と完全に置換するのに用いられるものであるが、病変部分が生体弁の一部である場合には、作製した本発明の弁付人工血管のうち、(例えば、弁部位の3葉弁のうちの1葉弁部分など)必要な部分のみを切り出して、病変部位との置換に用いることも、勿論可能である。
[本発明の柱状芯基材]
本発明の弁付人工血管用柱状芯基材は、生体組織で被覆されることによって弁付人工血管を形成する、柱状芯基材であって、下記(D)乃至(F−1)を有することを特徴とするものである。
(D)柱状部位
(E)弁形成部位
(F−1)柱状部位表面の弁形成部位近傍の血流方向下流側にある張り出し部位
《「(D)柱状部位」の形状》
(柱状芯基材の基本形状)
本発明の柱状芯基材の基本形状は、円柱や、多角柱が考えられるが、生体内に存在する血管と同じような断面の人工血管を製造するためには、円柱であることが好ましい。
《「(D)柱状部位」の太さ》
「(D)柱状部位」の太さとしては、これが代替する、移植生体中の生体の血管の太さ(内径)で良く、移植対象によって適宜選択すれば良い。
《「(D)柱状部位」の長さ》
「(D)柱状部位」の長さは、(F−1)の張り出し部位を設けられる長さがあれば良く、移植に必要とされる長さに応じて、適宜選択すれば良い。
《「(D)柱状部位」の構成要素の数》
「(D)柱状部位」は、1本の柱状物からなるものであっても、複数の柱状物の組み合わせであっても良い。
「(D)柱状部位」が複数の柱状物の組み合わせである場合には、特許文献1の図8や、特許文献2の図2で示されるような、凹状の端面と凸状の端面で、互いに勘合可能で、なおかつ、当該凹凸端面の隙間に、弁が形成され得るような、2本の柱状物の組み合わせが挙げられ(図4)、この場合、「(F−1)張り出し部位」は、凹状端面を持つ基材側に、追加した形となる(図3)。
《「(D)柱状部位」の孔》
また、本発明の柱状芯基材が、複数の柱状物の組み合わせである場合には、それぞれの柱状物の中心部において、血管の縦方向に、孔が開けられていることが好ましい。
この孔に、針金等の細くて強く劣化しない針状物の心棒を通すことで、複数の柱状物を、少し離して、生体組織材料の存在する環境下に置く場合でも、中心を揃える(位置合わせする)ことができるからである(図5)。
この心棒を通した後、柱状芯基材の、接合面とは逆側の両端に、各々ストッパーを付けることが好ましいが、心棒を折り曲げる等しても良い。
尚、この心棒は、弁付人工血管の完成後、柱状芯基材とともに除去される。
孔の直径は、心棒が通る程度の小さいもので良く、例えば、約0.1〜1.0mm程度で良い。
心棒に対して大きすぎると位置合わせの効果が少なくなるからである。
《「(E)弁形成部位」の定義》
「(E)弁形成部位」とは、本発明の柱状芯基材を用いて、弁付人工血管を製造する際に、弁を形作る役目を果たすものであり、「(D)柱状部位」が1本の柱状物からなる場合には、弁形成部位は、柱状物の中間部(端部を除く部位)において、柱状物の表面から内部に向かって設けられた、弁形状に設けられた溝を意味する。
このような柱状物は、生体の弁をもとに作製した鋳型によって、製造することができる。
また、「(D)柱状部位」が、上述の“凹状の端面と凸状の端面で、互いに勘合可能な複数の柱状物の組み合わせ”である場合には、「(E)弁形成部位」とは、それぞれの柱状物の、勘合に用いる端面を意味する。
この端面形状を、弁の形状とすることによって、弁が形成される。
このような「(E)弁形成部位」を有する複数の柱状物を、凹凸の深さが同じ場合には、凹状の端面と凸状の端面が、互いに少し隙間を開けた状態で勘合し得るように向かい合わせにし、生体組織材料の存在する環境下に置くことによって、凹凸状の端面の間に、生体組織を主たる構成成分として含む弁を形成させることができる。
凹よりも、凸の方が深い場合には、最奥部まで勘合させても、凸部の稜線部分は塞がるものの、他には、若干の隙間ができるため、生体組織材料の存在する環境下に置く際に、敢えて隙間を開けて勘合させる必要は無い。
尚、この凹凸の深さの差は、作製したい弁の厚みに応じて、適宜選択すれば良い。
《「(E)弁形成部位」の形成位置》
「(E)弁形成部位」は、下記の(I)乃至(III)のような位置に設けることができる。
(I)生体内で弁が閉じた時のように、張り出し部位とは逆方向に向かって、膨らみを形成するような位置(内向き)(図20,21)
(II)張り出し部位の張り出し方向と同方向に向かって、膨らみを形成するような位置(外向き)(図22,23a)。
(III)血流方向に並行な位置(図23b)
尚、(II),(III)の場合でも、形成された弁は、血流の圧力によって弁が血管内部に向き、図22のように、血管を閉じることができる。
形成される弁の面積を、より生体内の弁に近づけるべく、十分に広く確保できる点で、(II)や(III)が好ましい。
(I)の場合には、図3で示す凸部が、仕切りとして存在するため、設計上、弁の断面長の合計(図21で言うx+y+z)が
x+y+z<2(p+q+r)
とならざるを得ず、図21のように、(1),(2)のような隙間が生じ、ぴったりと弁が閉じることができないが、(II),(III)の場合、
x+y+z≧2(p+q+r)
とすることが可能となり、それによって、弁の密閉性が向上し、血液の逆流が、より完璧に防止できるからである。
また、(II),(III)の場合弁付人工血管から芯基材を取り出す際に、「(F−1)張り出し部位」を後述のように着脱自在にしなくとも、基材の抜き取りが容易となる。
「(D)柱状部位」が、複数の柱状物からなる場合には、この「(E)弁形成部位」は、柱状物の勘合に用いる端面であるため、(I)は図3の左図で表されるが、(II)は、例えば図24のようになる。
《「(E)弁形成部位」の形状,大きさ,数》
「(E)弁形成部位」によって形成される弁の、形状,大きさ,数は、この部位によって形成された弁が開閉でき、血流をコントロールできるようなもの,弁の開口率が好ましい範囲となるものを適宜選択すれば良く、特に限定されるものでは無いが、弁葉の数は2〜5枚が好ましく、特に生体の弁の形である三葉形状を形成し得る凹凸の組み合わせが、自然に近い状態での血流コントロールが可能であるため好ましい。
尚、凹凸の深さが同じであれば、出来上がった各弁葉は、全て凸の突端に相当する稜線部分で繋がってしまう場合があるが(図1中段)、この稜線部分に切れ込みを入れるだけで、容易に各弁葉に分離可能である(図2)。
尚、この凸の深さを、凹の深さよりも大きくすることで、最奥部まで勘合させても、凸部の稜線部分は塞がるものの、他には、若干の隙間ができるため、切開無しで、複数の弁葉を形成することが可能である。
《「(F−1)柱状部位表面の弁形成部位近傍の血流方向下流側にある張り出し部位」の定義》
「(F−1)の張り出し部位」は、「(D)柱状部位」が、外部(柱状部位の縦(円周方向)断面の中心部から見て遠心方向)に向かって広がり、柱状部位の縦断面中心部からの距離が、その周辺部位よりも、長くなっている、凸状の曲面を言う(図3,20〜24等)。
さらに、本発明では、「(F−1)の張り出し部位」は、その一部がへこんでいるものをいう(図27等)。
また、張り出しとへこみが、同心円状に複数回繰り返されていても良いが、それぞれ1回ずつくらいが適当である。
「(F−1)張り出し部位」の形状は、特に制限されないが、生体内のバルサルバ洞の形状,又は、バルサルバ洞形状の一部を、それと同形状に一部へこませた形状が、血流が通った際に、内圧によってへこみ部が外側に膨らみ、生体内のバルサルバ洞と同じ形状を達成し得るため、好ましい。
つまり、横(血流方向)断面図においては、バルサルバ洞の形状と、へこませた部分の面積は等しくなる(図27:c=d)。
このような(F−1)によって、基本となる柱状部位よりも、大きな面積(柱状物の側面積)を獲得し得るため、本発明の弁付人工血管の「(C)張り出し部位」を形成し得るのである。
尚、本発明の芯基材によって製造される本発明の弁付人工血管は、柔軟性を有しているため、へこみ部位によって形成された血管も、中に血流が通って内部からの圧力がかかることによって、図27の外側の破線部まで膨らんだ「(C)張り出し部位」となることができる。
図27等のように、(F−1)の一部をへこませるのは、弁付人工血管を製造する際に、生体組織材料中では、(F−1)のような張り出し部位は、ストレスを受けるためか、形成される弁付人工血管が他の部分よりも薄くなる傾向があるからである。
また、(F−1)の一部をへこませることによって、(F−1)を、後述するように着脱自在としなくても、形成された弁付人工血管中から芯基材を引き抜くのが、容易となるからである。
《「(F−1)張り出し部位」の位置》
この「(F−1)張り出し部位」は、弁形成部位近傍の、血流方向下流側にある。
“弁形成部位近傍の、血流方向下流側”とは、弁の付け根を形成する部分から、血流方向で考えた際の下流側(形成された弁が開口する方向)の部位を意味する。
また、「(F−1)張り出し部位」の「(D)柱状部位」の縦(円周方向)断面の円周上における位置は、開いた弁が、「(F−1)張り出し部位」によって形成される空間にスムーズに退避できるように、各弁に対応する位置が好ましい(図1中段及び図3等参照)。
《「(F−1)張り出し部位」の大きさ》
「(F−1)張り出し部位」の、最大限張り出した際の大きさは、「(F−1)張り出し部位」によって形成される空間に、弁が閉じた際に溜まる血液を保持することで逆流が防止でき、また弁が退避できる大きさであれば良く、一概には規定されないが、血管方向を横とした場合、横の長さが、例えば人工血管部の内径の20〜200%,好ましくは50〜150%,より好ましくは70〜110%,張り出した部分の最大径が、人工血管部の内径の5〜60%,好ましくは10〜50%,より好ましくは20〜40%である。
《「(F−1)張り出し部位」の形状》
「(F−1)張り出し部位」の形状は、「(F−1)張り出し部位」によって形成される空間に、弁が閉じた際に溜まる血液を保持することで逆流が防止でき、弁が退避できる形状であれば良く、一概には規定されないが、提灯形状,または、1個又は複数個の球状(半球状を含む)の形状を基本とし、一部を、もとの形と対称となるようにへこませた形状等が好ましいものとして挙げられ、具体的には、例えば提灯型(図15),扁平提灯型(図16),不均一弁型(図17),1弁型(図18),多弁型(図19)を基本とし,これらの一部をへこませた形状(図27)等が挙げられる。
血液や弁の、「(F−1)張り出し部位」によって形成される空間内部での挙動をスムーズするためには、球状を基本とし,その一部をへこませた形状が好ましいと考えられ、中でも、製造された弁付人工血管が、血流方向の上流から下流に向けて、徐々に小さくなり、スムーズに血管本来の大きさと同化するような、球状の一部をへこませた形状が、血流の正常な流れの方向を妨げず、かつ逆流した血流が速やかに退避できると考えられるために好ましく、特に、バルサルバ洞の形状に近いもの(図3,図27)であることが、より自然な状態での心臓弁機能を発揮し得るため好ましい。
《「(F−1)張り出し部位」の数》
「(F−1)張り出し部位」の数は、1乃至複数個であって、特に限定されないが、この「(F−1)張り出し部位」によって形成され

る空間が、弁が開いた時の退避部としての役割もあるため、弁の開口率が好ましい範囲となるものを適宜選択すれば良く、例えば、弁の数に対応していることが好ましく、自然に近い状態での血流コントロールを行うには、3つが好ましい。
《「(F−1)張り出し部位」の分離性》
尚、「(F−1)張り出し部位」は、その少なくとも一部が、例えば図6等のように、柱状芯基材本体に対して、着脱可能であることが好ましい。
「(F−1)張り出し部位」の少なくとも一部を分離することで、柱状芯基材本体の、弁付人工血管からの抜き出しが容易となるからである。
柱状芯基材本体を分離して先に取り出せば、あとは、弁付人工血管を逆さにしたり、振るだけで、容易に、残った「(F−1)張り出し部位」も取り出すことができる。
尚、「(F−1)張り出し部位」の着脱可能な部分は、必ずしも基本となる柱状物の形状より張り出した部分だけでなく、柱状物の柱部分を一部含んでいても良い。
また、着脱可能な部分は張り出し部分の一部でも有効であり、更に、張り出し部位が複数である場合には、全ての張り出し部を着脱可能とする必要はない。
《(D)乃至(F−1)の材質》
上記の(D)乃至(F−1)は、いずれも、下記のような材質からなるものである。
本発明の柱状芯基材の(D)乃至(F−1)の各部位の材質は、弁付人工血管を製造するに際し、柱状芯基材を、生体組織材料の存在する環境下,特に、生物の生体中に埋入した場合に、容易に変形することがない強度(硬度)を有しており、化学的安定性があり、滅菌などの負荷に耐性があり、生体を刺激する溶出物がない又は少ないものであれば、特に種類は問わない。
具体的には、例えば、好ましいものとしては、アクリル樹脂,オレフィン樹脂,スチレン樹脂,ポリエステル樹脂,ポリアミド樹脂,塩化ビニル樹脂,シリコン樹脂,フッ素樹脂,エポキシ樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリエチレン樹脂,ガラス,金属(チタン,プラチナ,ステンレス,及びSUS(ステンレス鋼(Stainless steel))等)等が挙げられる。尚、材質は、1種類に限定される訳では無く、上記の材質から選択される1種又は2種以上を用いることができる。
尚、一定の強度を有する点では、アクリル樹脂等が好ましく、製造が容易である等の点では、シリコン樹脂が好ましい。
また、図25のように、柱状芯基材の一方を、円柱状にすると、他方は、硬い樹脂でも良いが、図24のbのように、一方に膨らみを持たせた場合、図24のaは、柔らかい材質であることが好ましい。
さらに、該柱状芯基材の表面には、柱状芯基材の表面の性状が改質され、良好な弁付人工血管を形成することができるように、特願2008−260861の[0034]乃至[0039]に示したような、メチルメタクリレート等のモノマーをグラフと重合すること,更にはメチルメタクリレート表面に、更にジチオカーボネートポリマー等でコーディングすることで表面の接触角を大きくすること,等が可能である。
グラフト重合は、例えば柱状芯基材の表面に、光重合開始剤を側鎖に有するポリスチレン誘導体を薄く塗布し、グラフト重合するモノマーの溶液へ浸漬し、光開始グラフト重合すること等によって行うことが可能である。
また、メチルメタクリレートをグラフト重合させた柱状芯基材の表面を、ジチオカーボネートポリマーでコーティングする方法としては、ジチオカーボネートポリマー溶液を噴霧する方法や、浸漬する方法等が挙げられる。
《(D)乃至(F−1)の構造》
尚、(D)柱状部位,(E)弁形成部位,(F−1)張り出し部位からなる本発明の弁付人工血管用柱状芯基材は、弁付人工血管を製造する際に、生体組織材料中で、その形状を保てる限り、内部が空洞となっていても良い。
《本発明の柱状芯基材の利点》
このような本発明の柱状芯基材は、「(F−1)張り出し部位」を有することによって、これによって製造される弁付人工血管に、血流の逆流防止効果を有し、弁の退避部の役割を果たす空間((C)張り出し部位)を設けることが可能となっている。
[参考の柱状芯基材]
参考の弁付人工血管用柱状芯基材は、生体組織で被覆されることによって弁付人工血管を形成する、柱状芯基材であって、下記(D)乃至(F−2)を有することを特徴とするものである。
(D)柱状部位
(E)弁形成部位
(F−2)柱状部位表面の弁形成部位近傍の血流方向下流側にあるへこみ部位
《「(F−2)柱状部位表面の弁形成部位近傍の血流方向下流側にあるへこみ部位」の定義》
「(F−2)のへこみ部位」は、「(D)柱状部位」が、内部(柱状部位の縦(円周方向)断面の中心方向)に向かって狭まり、柱状部位の縦断面中心部からの距離が、その周辺部位よりも、短くなっている、凹状の曲面を言う(図26等)。
この「(F−2)のへこみ部位」には、その一部が張り出しているものも含まれる(図28等)。
また、へこみと張り出しが、同心円状に複数回繰り返されていても良いが、それぞれ1回ずつくらいが適当である。
尚、参考の柱状芯基材においても、横(血流方向)断面図においては、バルサルバ洞の形状と、へこませた部分の面積は等しくなる(図26:a=b,図28:e=f)。
この参考の柱状芯基材のその他の詳細は、(F−2)が(F−1)に対応する以外は、本発明の柱状芯基材の場合と同様である。
参考の弁付人工血管は、柔軟性を有するため、(F−2)によって形成されたへこみ部位は、人工血管の内部に圧力をかけることによって、「(C)張り出し部位」とすることができる。
尚、図26や図28のような、へこみ部位を基本とする参考の柱状芯基材よりも、図3や図27のように、張り出し部位を基本とする本発明の柱状芯基材の方が好ましい。
芯基材の内部に、(E)弁形成部位も設ける必要があるため、へこみを基本とするよりも、張り出しを基本とする方が、芯基材の設計に自由度があるからである。
本発明の柱状芯基材は、「(E)弁形成部位」が、図25のタイプ(円柱),「(F−1)張り出し部位」が図27の組み合わせとするのが最も好ましい。
[本発明の弁付人工血管の製造方法]
本発明の弁付人工血管の製造方法は、下記の工程1)〜3)を有することを特徴とするものである。
1)本発明の、弁付人工血管用柱状芯基材を、生体組織材料の存在する環境下に置く工程
2)生体組織材料の存在する環境から、生体組織で被覆された柱状芯基材を、取り出す工程
3)生体組織で被覆された柱状芯基材から、柱状芯基材を抜き出す工程
生体組織材料の存在する環境下に置く工程とは、皮下や腹腔内への埋入等の他、生体組織材料が浮遊する溶液中に浸すこと等が挙げられるが、できた弁付人工血管を容易に取り出せるという点では、皮下埋入,生体組織材料が浮遊する溶液への浸漬等が好ましい。
皮下とは、生物の皮膚下を意味するが、生物としては、例えば、ヤギ,ウシ,ブタ,イヌ,ウサギ,ラット,マウス,ヒト等の哺乳類,魚類,その他の生物を意味する。弁付人工血管を移植する対象に対して、同種(自家)移植,異種(他家)移植のいずれとなるものであっても良いが、免疫反応などの惹起し得ない同種移植が好ましい。
尚、異種移植の場合には、グルタルアルデヒド処理や、超高静水圧印加処理等の公知の方法によって、脱細胞化処理等をすることが好ましい。
尚、「(D)柱状部位」の縦(円周方向)断面直径を太くするほど、生体組織を主たる構成成分として含む本発明の弁付人工血管の厚みを増すことができる。
また、本発明の弁付人工血管の、「(A)血管部位」や「(B)弁部位」の形成を促進させるためには、既に形成された下記の(a)や(b)等を、少なくとも一部に用いることが好ましい。
(a)筋膜,粘膜,結合組織,皮下組織,脂肪組織等の生体組織成分
(b)膜状あるいはスポンジ状のコラーゲンやエラスチン等の細胞外マトリックス成分
これらの(a)や(b)を「(B)弁部位」に用いる場合には、本発明の弁付人工血管用柱状芯基材の、「(E)弁形成部位」に(a)や(b)を挟み込む。
また、これらの(a)や(b)を「(A)血管部位」に用いる場合には、本発明の弁付人工血管用柱状芯基材の、「(D)柱状部位」及び/又は「(F−1)張り出し部位」に、生体吸収糸等の生分解性物によって固定する。
このような膜状組織や結合組織は、柱状芯基材に侵入してきた組織と次第に一体化され、1月程で見分けがつかなくなる。
また、上記の“(b)のスポンジ状コラーゲンやエラスチン”や、“(a),(b)を(D)や(F−1)に固定する生体吸収糸”等の人工物は、最終的には、移植後、自己の組織に置き換わることとなる。
尚、参考の柱状芯基材の場合には、生体組織で被覆された柱状芯基材から、柱状芯基材を抜き出す工程の後、内部に液体等の圧力をかけて、外部に張り出させる工程を設ける。
《本発明の弁付人工血管の製造方法の利点》
本発明の製造方法は、従来のような人工物(チューブ状スキャホールド)を必要としないため、早期に弁付人工血管を製造することができる。
チューブ状スキャホールドを用いる場合には、細胞が多孔質のチューブを通過する時間が必要であり、弁付人工血管の製造に、2ヶ月近く要するだけでなく、細胞の通過量が不十分であれば弁形成が抑制され、作製の成功率も低下(歩留まりの低下)するが、本発明の弁付人工血管の製造方法では、1ヶ月程度で製造可能であり、また作製の成功率も高い。
しかも、本発明の弁付人工血管の製造方法によって製造された弁付人工血管は、チューブ状スキャホールドを用いた場合よりも、コラーゲン組織の配向が進んでおり、強度に優れるという利点も有している。
尚、本発明の弁付人工血管の製造方法は、上記の1)〜3)の工程に加えて、更に下記の工程4)を有することが好ましい。
4)弁付人工血管に、拍動を与える工程
この工程を加えることによって、コラーゲン組織の配向が益々進み、より強度に優れた弁付人工血管を製造することができるからである。
参考例1]
図3で示したような、三葉弁形状の先端を有するシリコン製凸型円柱基材と、同形状と対称形からバルサルバ洞形状へと連続する3個の球状の膨らみを先端に持たせたシリコン製凹型円柱基材とからなる柱状芯基材を作製した。
尚、この柱状芯基材の、凹凸の深さは、ほぼ同じであった。
尚、このシリコン製の凹凸型円柱基材は、アクリル樹脂製の鋳型を用いて、成形加工して作製した。
円柱基材の円柱部の直径は、14mmとした。
この柱状芯基材の、凸型円柱基材と凹型円柱基材を、凹凸面が勘合するように、但し、若干の隙間ができるように、接合させた後、ビーグル犬の皮下に埋入した。
埋入後、2〜4週間で、柱状芯基材の外周面及び、凹凸間の隙間は、主としてコラーゲンと線維芽細胞からなる結合組織で、完全に被覆されていた。
この被覆体から、凹凸型円柱基材を抜き取ると、周囲と強固に一体化した三葉弁薄膜状弁付人工血管が形成されていた。尚、この三葉弁は、凸面の突端に相当する位置で繋がっていたが(図1中段)、切開することで、容易に3つの弁に分けることができた(図2)。
弁の位置に対応する側面部には、凹型円柱基材の球状に相当する張り出し部位が形成されており、生体のバルサルバ洞に極めて類似した形状の、弁付人工血管を作製することができた(参考例1)。
[比較例1]
図4で示したような、張り出し部位の無い柱状芯基材と、柱状芯基材を覆う大きさのチューブ状スキャホールドを用い、参考例1と同様にして、弁付人工血管を製造した。
柱状芯基材としては、外径14mmの円柱形のものを使用した。
チューブ状スキャホールドは、多孔質ポリウレタン製で、内径が14mm,孔の大きさが50〜100μmのものを使用した。
参考例2]
図29で示したような、バルサルバ洞形状の「(C−1)張り出し部位」を有し、かつ、「(E)弁形成部位」が、張り出し部位の張り出し方向と同方向に向かって、膨らみを形成するような位置(外向き)に設けられている、シリコン製凹型円柱基材(図29a)と、それに対応する凸状円柱基材(図29b)からなる柱状芯基材を作製した。
尚、このシリコン製の凹凸型円柱基材は、アクリル樹脂製の鋳型を用いて、成形加工して作製した。
円柱基材の円柱部の直径は、16mmとした。
このような柱状芯基材を用いて、参考例1と同様にして、弁付人工血管を製造した(参考例2)。
この参考例2の弁付人工血管は、参考例1の弁付人工血管よりも、柱状芯基材の抜き取りが容易であった。
[実施例
図27で示したような、一部がへこんだ、バルサルバ洞形状の「(C−1)張り出し部位」を有し、かつ、「(E)弁形成部位」が、張り出し部位の張り出し方向と同方向に向かって、膨らみを形成するような位置(外向き)に設けられている、シリコン製凹型円柱基材と、それに対応する凸状円柱基材(図29bと同様)からなる柱状芯基材を作製した。
尚、このシリコン製の凹凸型円柱基材は、アクリル樹脂製の鋳型を用いて、成形加工して作製した。
円柱基材の円柱部の直径は、16mmとした。
このような柱状芯基材を用いて、参考例1と同様にして、弁付人工血管を製造した(実施例)。
[試験例1:コラーゲンの配向度の確認]
人工血管部の縦(円周方向)ならびに横(血流方向)での薄切りの組織断面切片(厚さ約3〜5μm)を作製した。
シリウスレッド染色後に偏光顕微鏡観察すると、コラーゲンの配向が、オレンジ色の線(白黒図面では、白く発光している部分)として認められる。
上記の試験結果を、図7,8に示す。
参考例1の弁付人工血管を表す図7では縦(円周方向)断面(左上段3枚)においてオレンジ色の線の束が観察され、横(血流方向)断面(左下段3枚)ではオレンジ色の点の集まりが観察された。つまり、円周方向にコラーゲンが配向していることが分かった。
尚、生体の血管も同様な円周方向でのコラーゲンの配向が観察された。
一方、比較例1の弁付人工血管を表す図8では円周方向(上段3枚)に少し線状の束が観察されるが、右のヘマトキシリンエオシン染色写真(細胞の核は紫色(グレースケール写真では黒)にコラーゲンなどがピンク色(グレースケール写真ではグレー)に染まる)で白抜きに見える「チューブ状スキャホールドを形成する多孔質ポリウレタン」によって断絶され、一様な配向は起こっていないことが分かった。
尚、参考例1の弁付人工血管を移植した後、3ヶ月経過後のビーグル犬体内に存在する弁付人工血管のコラーゲンの配向を調べた。
図9で表される通り、かなりコラーゲンの配向が進んでいた。
[試験例2:弁付人工血管の強度確認試験(破裂圧の測定)]
弁付人工血管の方端を閉じ、もう一方の端を血管部の内径と同じ大きさの外径を有する管と接続し、内部を生理食塩水で満たし、ポンプで1秒間に50mmHgの割合で内圧を負荷し、破裂した時点の内圧を破裂圧とした。
破裂圧が高いほど、強度に優れることを示す。
尚、上記方法による測定は、参考例1と比較例1のそれぞれについて、弁付人工血管を作製した直後と、2日間、拍動負荷培養を行った後に実施した。
上記の試験結果を、図10に示す。
図10から解る通り、参考例1の弁付人工血管は、結合組織内のコラーゲンの配向はランダムであるため、製造直後の強度はそれほど高くない(破裂圧800〜900mmHg)。しかし、2日間の拍動負荷培養によって、コラーゲンに、生体内の血管と同様の配向が起こったため、破裂圧が約1800mmHgと、生体血管(破裂圧約2000mmHg)とほぼ同程度となった。
一方、比較例1の弁付人工血管は、製造直後こそ、チューブ状スキャホールドによって、ある程度の強度を保っているものの、チューブ状スキャホールドがコラーゲンの配向を阻害したためか、拍動負荷培養によっても、また移植してもコラーゲンの配向化は観察されず、強度はほとんど変化しなかった。
また、比較例1の弁付人工血管の測定の際に、チューブ状スキャホールドと結合組織との接合が不十分だったため、破裂するケースがあった(図示せず)。
[試験例3:血液の逆流防止効果の確認(拍出量及び逆流量測定)]
生理食塩水で満たしたローラーポンプを有する流れ回路(Windkessel改変拍動流回路)に弁付人工血管を接続し、定常流を負荷し、1分毎に10mmHgの割合で圧力を増加させ、弁を通して流れ出た水量(流量)を計測した。弁付人工血管の、血流方向上流側に接続した場合の流量を拍出量、弁付人工血管の、血流方向下流側に接続した場合の流量を逆流量とした。
上記の試験結果を、図11に示す。
バルサルバ洞に相当する「(C)張り出し部位」を有する参考例1の弁付人工血管を用いて試験した結果、低圧から高圧まで、あらゆる血圧の領域で、殆ど逆流が見られなかった(図11破線部分)。
一方、バルサルバ洞に相当する「(C)張り出し部位」の無い、比較例1の弁付人工血管を用いて試験すると、正常な血圧の範囲内であればほとんど逆流は起こっていないが、高血圧領域では逆流を生じた(図11実線部分)。
[試験例4:人工血管の弁の開口率の確認(最大開口率の測定)]
生体の大動脈弁の最大開口率は、Heart View vol.8,No.12,PP.127,2004より引用した。
開口率の測定は、具体的には、生理食塩水で満たした生理的な拍動流回路内において、拍動ポンプの下流部に弁付人工血管を血流に対して順方向(弁付人工血管の、血流方向上流側)に装着し、下流側からハイスピードビデオカメラで弁葉を撮影し、弁開口部の部分の投影面積と人工血管の内孔面積を求め、弁開口部分の投影面積を人工血管の内孔面積で割ることによって開口率を算出した。
上記の試験結果を、図12に示す。
バルサルバ洞に相当する張り出し部位「(C)張り出し部位」を有する実施例1の弁付人工血管を用いて試験した結果、最大開口率は、38〜49%(平均45.0%)と、ほぼ正常範囲であり、移植後も、心臓に必要以上の負担をかけることなく良好に開口すると考えられる(図12)。
一方、バルサルバ洞に相当する「(C)張り出し部位」の無い、比較例1の弁付人工血管を用いて試験すると、13〜41%(平均19.8%)と、軽度乃至中程度の狭窄症に相当する範囲であった(図12)。
これは、バルサルバ洞に相当する「(C)張り出し部位」が無いことで、弁が開く際に血管壁部分が邪魔になり開口しにくかったこと等が原因と考えられる。
また、文献の正常値と照らし合わせると、弁の前後(血管を基準にした場合の上流側と下流側)において、少なくとも軽度狭窄症と同程度の10〜25mmHgの平均圧較差が生じていると考えられ、心臓の拍出に負荷がかかっていることになる。
[試験例5:チューブ状スキャホールドの有無による、弁付人工血管の作製成功率の差]
参考例1,比較例1と同様にして製造した柱状芯基材を、各々30個ずつ、ビーグル犬の皮下に埋入し、弁付人工血管がきちんと作製された割合を、作製成功率とした。
失敗例としては、チューブ状スキャホールドへの組織侵入量が少なく、弁形成部位まで組織が達していないものや、あるいは感染等が起こって、組織が炎症しており、使用不可のもの等が挙げられる。
上記の試験結果を、図13に示す。
バルサルバ洞に相当する張り出し部位「(C)張り出し部位」を有する参考例1の弁付人工血管の場合、作製成功率は、4週間で、すでに80%であり、8週間では、85%とかなりの高確率であった(図13)。
一方、バルサルバ洞に相当する「(C)張り出し部位」の無い、比較例1の弁付人工血管の場合、8週間後であっても、50%と低かった。
これは、チューブ状スキャホールドの孔を、細胞が通過するのに時間がかかったり、通過量の不足によって、弁形成が不完全であったこと等が、原因として考えられる。
[試験例6:移植後3ヶ月経過時点の性能確認試験]
バルサルバ洞に相当する「(C)張り出し部位」を有する参考例1の弁付人工血管を、参考例1の弁付人工血管を製造した際に用いたのと同じビーグル犬の、心臓部分に移植した後、超音波エコー検査にて、弁付人工血管の「(C)張り出し部位」の形状,構造(移植時に比べて大きく膨らんだり、壁が厚くなったりなどの変形がないこと),弁葉部の開閉運動の良好な可動性(動きがスムーズであり、形状に変化がないこと)等を観察した。
上記の試験結果を、図14に示す。
図14に示す通り、弁葉形状と、バルサルバ洞に相当する張り出し部位の形状,構造,及び弁葉部の開閉運動の可動性が、移植後3ヶ月経過時点でも変化していないことが確認された。
[試験例7:血液の逆流防止効果の確認(逆流量測定)]
Windkessel改変拍動流回路を用いて、拍動数60bpm,拍出量1L/分の条件下で、試験例3と同様の方法で、逆流量を測定した。
バルサルバ洞の無い比較例1の弁付人工血管では、逆流量は、15〜20%であった。
一方、参考例1の、バルサルバ洞付の弁付人工血管では、逆流量は、7〜10%であった。
更に、バルサルバ洞付で、しかも、(E)弁形成部位が、外向きに形成された芯基材を用いて作製した、各弁葉の面積が参考例1よりも大きい参考例2では、逆流量は、0〜3%であった。
これらの結果から、弁付人工血管には、バルサルバ洞形状のような張り出し部位があり、かつ、各弁葉も、天然に近い大きさを有する参考例2のようなものが最適であることが分かった。
[試験例8:「(C)張り出し部位」の厚み比較試験]
参考例1、2及び実施例1の柱状芯基材を用いて作製した弁付人工血管の、「(C)張り出し部位」の厚みを比較した。
参考例1や2の弁付人工血管の「(C)張り出し部位」の最も張り出した部位付近の厚みは、その周りの部分より、若干薄くなっていた。
芯基材の張り出し部位に、へこみが存在する実施例の方では、「(C)張り出し部位」の厚みは、最も張り出した部分でも、薄くならず、均一な厚みの弁付人工血管を作製することができた。
このことから、均一な厚みの弁付人工血管を作製するには、柱状芯基材の「(F−1)張り出し部位」に、更にへこみを持たせることが有効であることが確認された。
本発明の弁付人工血管は、成長に伴う取り替えの必要がない、半永久的に使用可能な弁付人工血管である。

Claims (7)

  1. 生体組織で被覆されることによって弁付人工血管を形成する、柱状芯基材であって、下記(D)乃至(F−1)を有することを特徴とする、弁付人工血管用柱状芯基材。
    (D)柱状部位
    (E)弁形成部位
    (F−1)柱状部位表面の弁形成部位近傍の血流方向下流側で、円周上の位置が弁形成部位と対応し、かつ弁形成部位よりも外側の位置にあり、一部が、へこんでいる張り出し部位
  2. (F−1)の張り出し部位の形状が、提灯形状,または、1個又は複数個の球状であることを特徴とする、請求項1記載の弁付人工血管用柱状芯基材。
  3. (F−1)の張り出し部位の形状が、バルサルバ洞の形状であることを特徴とする、請求項1又は2記載の、弁付人工血管用柱状芯基材。
  4. (F−1)の張り出し部位の少なくとも一部が、着脱可能であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の、弁付人工血管用柱状芯基材。
  5. 生体組織を主たる構成成分として含み、下記(A)乃至(C)を有する弁付人工血管、の製造方法であって、
    下記の工程1)〜3)を有することを特徴とする、弁付人工血管の製造方法。
    (A)血管部位
    (B)弁部位
    (C)血管部位表面の、弁の付け根部分近傍の血流方向下流側にある張り出し部位
    1)請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の弁付人工血管用柱状芯基材を、人体を除く生体組織材料の存在する環境下に置く工程
    2)人体を除く生体組織材料の存在する環境から、生体組織で被覆された柱状芯基材を、取り出す工程
    3)生体組織で被覆された柱状芯基材から、柱状芯基材を抜き出す工程
  6. 更に下記の工程4)を有することを特徴とする、請求項5記載の、弁付人工血管の製造方法。
    4)弁付人工血管に、拍動を与える工程
  7. 請求項5又は6記載の製造方法によって製造したことを特徴とする弁付人工血管。
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