JP5671435B2 - 不燃組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、様々な材料に適用可能な不燃組成物、及びその製造方法に関する。なお、本発明において、「不燃」は、防火、耐火、難燃等の概念を含み、本発明に言う「不燃組成物」は、防火組成物、耐火組成物、難燃組成物等も含む。
ホウ酸(H3BO3)、及びホウ砂(Na247・10H2O、四ホウ酸ナトリウム十水和物)は、古くから木材の防火剤として利用が検討されてきた。ホウ酸やホウ砂を木材に適用するためには、水溶液の形態で、木材に含浸する方法が検討される。しかしながら、ホウ酸の水への溶解度は、20℃の水100gに対して4.90g、ホウ砂の水への溶解度は、20℃の水100gに対して5.14gと、低い。
そのため、水溶液中のホウ酸やホウ砂の濃度を高めることには限界があり、ホウ酸やホウ砂の水溶液を用いて、木材の不燃レベルを実現することは困難であった。
もっとも、上述したように、ホウ酸やホウ砂の室温(15〜25℃)での水への溶解度は低いが、熱水に対しては比較的溶解度が高いので、熱水に溶解した後、木材に含浸するという方法も考えられる。しかしながら、このようにして溶解した状態で、木材に含浸すると、木材が室温まで冷却された際に、ホウ酸やホウ砂の再結晶が生じ、結晶が木材表面に折出する、いわゆる白化現象が生じるという問題がある。
このように白化現象が起こると、ホウ酸やホウ砂等の不燃成分の木材における分布に偏りができ、その機能が十分に発揮されないという問題や外観不良の問題が生じる。
このような背景下、ホウ素化合物の水溶液に糖類などの有機化合物を用いてホウ素化合物濃度を高める手法が開示されている(特許文献1など)。また、ホウ素化合物の水溶液にアルカリ金属化合物を添加する高濃度ホウ素化合物の水溶液も開示されている(特許文献2)。
なお、四ホウ酸ナトリウム五水和物(Na247・5H2O)は、ホウ酸やホウ砂と比較し、水に対する溶解度が一層低いため、水溶液の形態で用いる不燃成分としては全く注目されていなかった。
特開2011−162743号公報 特開2008−74670号公報
建築基準法で不燃性が求められる高層建築や地下用建築物における木材の使用は、不燃木材の開発により認可されるようになり、その需要が飛躍的に増大している。
このような背景の下、当初は不燃木材として大臣認定を受けた材料10件のうち9件が、その後大臣認定仕様に合致していない事が確認され、より一層高い不燃レベルの実現が求められている。
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載された手法によっては、水溶液中に安定的に含有させることができるホウ素化合物の量に限界がある。
そこで、本発明は、ホウ素化合物を高濃度で含有する水溶液を提供することを課題とする。
また、従来の方法により、一定以上の濃度のホウ素化合物を水溶液に含有せしめたとしても、水溶液を、実際に木材に含浸させるなどした時に、ホウ素化合物の再結晶が起こり、木材表面に結晶が析出する、いわゆる白化現象が問題となる。
そこで、本発明は、ホウ素化合物を含む水溶液について、析出を抑制し、白化現象を起こりにくくする技術を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記のような水溶液を製造するのに好適な、ホウ素化合物を含む原料を提供することを課題とする。
また、本発明は、木材などの種々の材料に適用することにより、不燃レベルを実現し得る不燃組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、木材などの材料に、不燃組成物を適用する技術を提供し、優れた不燃材料を提供することをも課題とする。
さらに、本発明は、不燃組成物を適用した木材などの材料(不燃材料)の防火性能を安定化する技術を提供することを課題とする。
本発明者は、ホウ素化合物として、ホウ酸と、四ホウ酸ナトリウム五水和物を混合することにより、これらのホウ素化合物の水への溶解度が顕著に高くなり、ホウ素化合物を高濃度で含有する水溶液を得ることが出来ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
上記課題を解決する本発明は、ホウ酸と、四ホウ酸ナトリウム五水和物とを含有する、不燃組成物である。
ホウ酸と四ホウ酸ナトリウム五水和物とを組み合わせることにより、これらのホウ素化合物を、水に高濃度で含有させることが可能となる。すなわち、上記ホウ素化合物を組み合わせることによって、上記ホウ素化合物の水への溶解度が向上する。
本発明の好ましい形態では、前記不燃組成物は、ホウ酸1重量部に対し、四ホウ酸ナトリウム五水和物を0.5〜1.5重量部含有する。
このように、ホウ酸と、四ホウ酸ナトリウム五水和物とを、概ね等重量とすることにより、両化合物の相互作用により、水への溶解度が向上する。
本発明の好ましい形態では、前記不燃組成物は、結晶粉末状である。
結晶粉末状とすることにより、保管、流通時における取扱い性に優れ、しかも水への溶解も容易になる。
本発明の好ましい形態では、ホウ酸の結晶粉末の重量平均粒子径が、四ホウ酸ナトリウム五水和物の結晶粉末の重量平均粒子径に対し、0.5〜1.5倍である。
このように、ホウ酸の結晶粉末の粒子径と、四ホウ酸ナトリウム五水和物の結晶粉末の粒子径とを、概ね揃えておくことで、水への溶解がさらに容易になる。
さらに、本発明の好ましい形態では、前記ホウ酸の結晶粉末と、四ホウ酸ナトリウム五水和物の結晶粉末を混合した混合結晶粉末の重量平均粒子径は、0.01〜0.5mmである。
このような範囲の粒子径とすることで、水への溶解が一層容易になる。
さらに、本発明の不燃組成物の剤形としては、ホウ酸、及び四ホウ酸ナトリウム五水和物の水溶液が好ましい。
剤形を水溶液とすることで、防火性、耐火性を付与したい様々な材料に、不燃成分であるホウ素化合物を含有させることが容易となり、様々な材料に防火性、耐火性を付与することができる。
しかも、上述した通り、ホウ酸と四ホウ酸ナトリウム五水和物を組み合わせることにより、これらのホウ素化合物を水へ高濃度で配合することが可能となるため、上記のような水溶液は、その防火或いは耐火性能の付与の効果に優れるものである。
上記のような水溶液の形態において、ホウ酸、及び四ホウ酸ナトリウム五水和物の合計濃度は、ホウ素換算濃度で好ましくは10〜50重量%である。このような高濃度でホウ素化合物を配合する水溶液は従来にはなく、種々の材料に対する防火性能、耐火性能の付与の効果に優れるものである。
しかも、上記のような水溶液は、上記のような高濃度でホウ酸、及び四ホウ酸ナトリウム五水和物を配合しているにもかかわらず、従来の方法により調製されたホウ素化合物含有水溶液に比べて、沈殿、析出等を抑制できるものである。
本発明の好ましい形態では、前記不燃組成物は、さらに全シリカを含有する。
これにより、上述したホウ素化合物の溶解安定性をさらに向上させることが可能となる。
本発明の好ましい形態では、前記水溶液の溶媒は、電解イオン水である。
溶媒として電解イオン水を用いることにより、上述したホウ素化合物の溶解安定性をさらに高めることができる。
本発明は、また、上述した水溶液の不燃組成物を製造する方法に関する。
このような方法は、前記の結晶粉末状の不燃組成物を、水及び電解イオン水から選ばれる溶媒に添加する工程と、前記結晶粉末を添加した水を加温して、前記結晶粉末を前記溶媒に溶解し、ホウ酸、及び四ホウ酸ナトリウム五水和物の水溶液を調製する工程と、を含む。
このような製造方法により、水溶液の剤形の不燃組成物を製造することにより、効率よく安定的にホウ素化合物を水に溶解することができ、ホウ素化合物の溶解安定性に優れる水溶液の不燃組成物を得ることができる。
また、本発明は、上述した水溶液の不燃組成物を、防火処理の対象材料に含浸、噴霧又は塗布することを特徴とする、防火材料の製造方法をも提供する。
本発明の水溶液の不燃組成物は、安定的にホウ素化合物を含有するため、防火性能に優れた防火材料の製造を行うのに好適である。
本発明の防火材料の製造方法では、好ましくは、前記水溶液の不燃組成物を含浸、噴霧又は塗布し、乾燥させた後、対象材料の表面を、フッ素系樹脂でコーティングする。
このように、不燃組成物を保持した対象材料の表面をフッ素系樹脂でコーティングすることで、雨や湿気等により、上述したホウ素化合物が溶出することを防ぐことが可能となる。
また、本発明は、上述した防火材料の製造方法により製造された防火材料にも関する。
このような防火材料は、極めて良好な防火性能を有する。
また、好ましい形態では、白化現象の発生が起こらない。さらに好ましい形態では、ホウ素化合物の溶出も起こらない。
本発明によれば、ホウ酸と四ホウ酸ナトリウム五水和物とを組み合わせることにより、ホウ素化合物の水への溶解度が格段に向上し、ホウ素化合物を高濃度で含有する水溶液の不燃組成物が提供される。
また、本発明によれば、このような水溶液の不燃組成物を製造するのに好適な固形タイプの不燃組成物も提供される。
本発明の水溶液の不燃組成物は、室温(15〜25℃程度)の環境においても、ホウ素化合物の再結晶の発生が抑制されるため、様々な材料に適用しても、安定的に防火性能を発揮する。
また、本発明の不燃組成物を、防火性能を付与したい木材、合板、紙、織布などの様々な材料に適用することにより、当該材料に高い防火性能を付与することができる。また、このようにして得られる防火材料の表面に、ホウ素化合物が析出する、いわゆる白化現象を防ぐことができる。また、好ましい形態では、このように加工した防火材料からの不燃成分の溶出を有効に抑制することができる。
また、本発明の不燃組成物は、木、合板、紙、織布などの材料の質感、色、柄等を損なうことがないので、建築材料、家具等の防火対策に極めて有用である。
本発明において「部」とは、重量部を意味する。
「室温」とは、15〜25℃程度の温度範囲を意味する。
ホウ素換算での重量モル濃度「mol/kg」は、溶媒1kg当たりに含有されるホウ素化合物を、ホウ素換算モル数で表したものである。数値が大きいほどホウ素原子を高濃度で含有することを意味する。
「全シリカ含有電解イオン水溶液」は、鉱石から抽出した水溶液で、全シリカを含む混合水溶液である。
本発明の不燃組成物は、ホウ酸と、四ホウ酸ナトリウム五水和物とを含有する。
すなわち、本発明は、ホウ酸と、四ホウ酸ナトリウム五水和物とを組み合わせる点に特徴がある。このような組み合わせによって、不燃成分であるホウ素化合物を水に高濃度で溶解させることが可能となる。
本発明の不燃組成物におけるホウ酸と、四ホウ酸ナトリウム五水和物の配合比率は、ホウ酸1重量部に対し、四ホウ酸ナトリウム五水和物が、好ましくは0.5〜1.5重量部、さらに好ましくは0.7〜1.3重量部、より好ましくは0.8〜1.2重量部、特に好ましくは0.9〜1.1重量部、最も好ましくは1重量部である。このように、ホウ酸と、四ホウ酸ナトリウム五水和物とを、概ね等量とすることにより、両化合物の分子間の相互作用により、両化合物の水への溶解度が向上し、高濃度のホウ素化合物を含む水溶液を調製することが容易となる。
本発明の不燃組成物の剤形は特に制限されず、固体状、液体状、ゲル状等が挙げられる。保管性、流通性の観点からは固体状であることが好ましく、使用性の観点からは液体状が好ましい。
固体状の場合には、結晶粉末状であることが好ましい。結晶粉末状の不燃組成物は、これを水などの溶媒に溶解して使用することができるため、使用性にも優れる。
この場合において、ホウ酸の結晶粉末の重量平均粒子径は、四ホウ酸ナトリウム五水和物の結晶粉末の重量平均粒子径に対し、好ましくは0.5〜1.5倍、さらに好ましくは0.7〜1.3倍、より好ましくは0.8〜1.2倍、さらに好ましくは0.9〜1.1倍、特に好ましくは1倍である。
このように、ホウ酸の結晶粉末の粒子径と、四ホウ酸ナトリウム五水和物の結晶粉末の粒子径とを、概ね揃え均一な粒子としておくことで、水等への溶解が容易になる。
各ホウ素化合物の結晶粉末の重量平均粒子径は、好ましくは0.01〜0.5mmであり、さらに好ましくは0.08〜0.3mmであり、より好ましくは0.1〜0.2mmであり、特に好ましくは0.12〜0.18mmである。
このような範囲の重量平均粒子径とすることにより、水への溶解が一層容易になり、高濃度のホウ素化合物水溶液を得ることが容易となる。
また、前記ホウ酸の結晶粉末と、四ホウ酸ナトリウム五水和物の結晶粉末を組み合わせた不燃組成物の結晶粉末全体の重量平均粒子径も、好ましくは0.01〜0.5mmであり、さらに好ましくは0.08〜0.3mmであり、より好ましくは0.1〜0.2mmであり、特に好ましくは0.12〜0.18mmである。
本発明において、重量平均粒子径は、ふるい分け試験法により粒度分布を測定することにより求めた値として定義することができる。
上述した結晶粉末状の不燃組成物は、水や電解イオン水に溶解することにより、水溶液の形態とすることができる。本発明の不燃組成物における不燃成分、すなわちホウ酸と四ホウ酸ナトリウム五水和物の組み合わせは、水や電解イオン水への溶解度が高く、高濃度のホウ素化合物水溶液を調製するのに適している。従って、本発明の不燃組成物は、水溶液であることが特に好ましい。
また、本発明の不燃組成物を水溶液として用いることにより、木材、合板、紙、織布、不織布などの様々な材料に、不燃成分であるホウ素化合物を効率よく含有させることが容易となる。これにより、防火性能を有する様々な防火材料を提供することができる。本発明の不燃組成物の上記材料への適用方法については、後述する。
水溶液の形態において、ホウ酸、及び四ホウ酸ナトリウム五水和物の合計濃度は、ホウ素換算濃度で、好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは15〜45重量%、より好ましくは20〜40重量%、特に好ましくは20〜30重量%である。このような高濃度でホウ素化合物を配合する水溶液の剤形の不燃組成物は、上述した種々の材料に、優れた防火性能を付与することを可能にする。また、上述した通り、ホウ酸、及び四ホウ酸ナトリウム五水和物を組み合わせることで、このような高濃度のホウ素化合物を水溶液に安定的に含有せしめることができる。
本発明の不燃組成物は、後に詳述するように、木材、合板、紙、織布、不織布等、様々な材料に適用することができるが、これらの用途に応じて、不燃組成物の組成を調製することで、白化現象をより有効に抑制することができる。以下、この観点から、それぞれの好ましい一実施形態について説明する。
木材、合板用の不燃組成物は、水溶液200部に対して、ホウ酸及び四ホウ酸ナトリウム五水和物の溶重量60〜70部であることが好ましい。60部の場合、ホウ素換算での重量モル濃度は4.364mol/kg、重量パーセント濃度は20%である。また、70部の場合、ホウ素換算での重量モル濃度は5.068mol/kgで重量パーセント濃度は22%である。
このような水溶液は、室温で安定(再結晶無し)であり、またpHは6.68〜6.75と中性である。
紙、織布、不織布用の不燃組成物は、水溶液200部に対してホウ酸及び四ホウ酸ナトリウム五水和物の溶重量40〜50部であることが好ましい。40部の場合、ホウ素換算での重量モル濃度は2.936mol/kgで、重量パーセント濃度14%である。50部の場合、ホウ素換算での重量モル濃度は3.653mol/kgで重量パーセント濃度は17%である。
このような水溶液は、室温で安定(再結晶無し)であり、pHは7.15〜7.10と中性で折出しないことを特徴としている。
また、水溶液の形態において、溶媒である電解イオン水として、全シリカ含有電解イオン水を用いることも好ましい。このような溶媒を用いることにより、高濃度のホウ素化合物を安定的に配合できる。
なお、上述した固体状、好ましくは結晶粉末状の不燃組成物に、シリカ粉末を配合しておいてもよい。
また、水溶液のpHは、好ましくは中性である。好ましくはpH6〜7.5、さらに好ましくはpH6.5〜7.4である。本発明の水溶液の不燃組成物は、上記のホウ酸及び四ホウ酸ナトリウム五水和物の濃度を高めることによって、中性に近づく性質を持っている点も特徴的である。
このような不燃組成物の性質により、木材、合板、紙、織布等、不燃組成物を適用する対象物の質感、色、柄、性質を損なうことを極力抑制することができる。
上述した水溶液の不燃組成物は、上述したホウ酸と四ホウ酸ナトリウム五水和物との混合結晶粉末を、水や電解イオン水等の溶媒に溶解することで調製することができる。
以下に、水溶液の具体的な調製方法について、説明する。
本発明の水溶液の剤形の不燃組成物を製造する際には、上述した結晶粉末状の不燃組成物、すなわち、ホウ酸と四ホウ酸ナトリウム五水和物の混合結晶粉末を水及び電解イオン水から選ばれる溶媒に溶解すればよい。
溶解する際には、必要に応じて加温する。溶解温度としては特に制限されないが、好ましくは60℃以下、さらに好ましくは40〜60℃、より好ましくは55〜60℃である。
なお、上記の結晶粉末を水に溶解する際、溶解濃度の最高値は、水温60℃以下の場合に計測された。すなわち、本発明では、溶媒の温度を60℃以上にして溶解してもよいが、溶媒の温度が60℃以下であっても十分にホウ素化合物を溶解させることができる。
続いて、結晶粉末の水溶液を、室温(15〜25℃)に冷却する。冷却方法は、自然冷却等を用いることができ、特に制限されない。ここで、実施例に記載するように、本発明の場合は、室温まで冷却しても上記ホウ素化合物の再結晶、析出が起こらないことが確認された。
このような製造方法により、ホウ素化合物の溶解安定性に優れた水溶液の不燃組成物を、容易に得ることができる。
上記のようにして調製した水溶液の不燃組成物によって、防火性能を付与したい対象材料を処理することで、防火材料を製造することができる。
対象材料としては、木、合板、織布、不織布、紙等、様々なものが用いられる。対象材料として、ここに挙げた例のように、多孔質材料に用いることが、水溶液の性質を生かす観点から特に好ましい。水溶液の剤形であれば、多孔質材料の微細孔にまで不燃成分であるホウ酸、四ホウ酸ナトリウム五水和物を効率よく、均一に送達させることができるためである。
水溶液の不燃組成物の適用の方法としては、含浸、噴霧又は塗布等が挙げられるが、特に制限されるものではない。
このような方法を取ることにより、防火材料の製造を効率よく行うことができる。
以下に、木材への適用方法の好ましい形態を示す。
木材の水分含量が高い場合には、前処理として適宜水分量を低減させておくことが好ましい。これにより、水溶液の不燃組成物を十分に含浸させることが可能となる。
水溶液の木材への含浸は、室温〜70℃で1時間以上、好ましくは2時間以上行うことが好ましい。
また、上記の含浸に先立ち、70〜90℃程度で5〜30分、好ましくは5〜20分、含浸を行うことがより好ましい。このような比較的高温での含浸を行うことで、木材内部の微細孔に含まれていた空気を効率よく逃がすことができ、水溶液の含浸を効率よく行うことができる。また、これにより、樹液が多い木材から樹液を取り除くことが容易になる。
樹液が多い木材については、樹液を木材表面から除去しながら上記2段階での含浸を複数回繰り返すことにより、多量の水溶液の含浸が可能となる。繰り返しの回数としては、5回以下が好ましい。これにより、白化現象を抑制することが容易となる。
一つの形態として、70〜90℃程度で5〜30分、好ましくは5〜20分含浸させた後、1〜2時間かけて室温まで自然冷却することを1サイクルとして含浸を行うことが挙げられる。もちろん、これらの時間は、木材の大きさ等によるので、適宜調節することが可能である。
上記のようにして、水溶液の剤形の不燃組成物を各種材料に適用した後には、これを乾燥する。乾燥の方法としては、風乾、熱乾燥等を用いることができる。これにより、不燃成分であるホウ素化合物が材料中に保持された状態となる。
このようにして得られた材料は、その表面や内部に不燃成分であるホウ素化合物が保持されているので、防火性能を有している。すなわち、このような方法により防火材料を製造することができる。
本発明の防火材料は、前記ホウ素化合物を、材料に対し、好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは65重量%以上保持するものである。
さらに、上記のようにして乾燥した材料の表面を、フッ素系樹脂でコーティングすることも好ましい。フッ素系樹脂によるコーティングにより、防火材料表面に撥水効果が付与され、防火材料が雨や湿気にさらされた場合でも、防火材料中の不燃成分が溶出することを防ぐことが可能となる。
このようにして得られた防火材料は、ホウ酸及び四ホウ酸ナトリウム五水和物からなるホウ素化合物を、材料表面への析出(白化現象)を抑制しながら、ホウ素化合物を安定的に保持するものであり、極めて良好な防火或いは耐火性能を有する。すなわち、建築材料などに必要な長期間にわたる防火或いは耐火性能が実現できるのである。
<試験例1>不燃組成物の適用
水200部に対して、ホウ酸及び四ホウ酸ナトリウム五水和物をほぼ等重量含有する結晶粉末を70部添加し、40〜60℃に加熱制御しながら、結晶粉末を水に溶解せしめ、22%のホウ素化合物を含有する水溶液(実施例1の水溶液)を調製した。
ホウ酸及び四ホウ酸ナトリウム五水和物、それぞれの結晶粉末の平均粒子径、及び両者の混合結晶粉末の重量平均粒子径は、何れも0.15mmであった。なお、重量平均粒子径は、ふるい分け試験法により、粒度分布を測定することにより求めた。
実施例1の水溶液に含まれるホウ素含有量は、以下のとおりであった。
重量モル濃度:5.068mol/kg(ホウ素換算)
重量パーセント濃度:22%(ホウ素換算)
実施例1の水溶液を、下記の工程で各種木材に含浸させ、含浸量及び析出(白化現象)の有無について試験した。
[木材の前処理]
スギ材(200mm×90mm×5mm)の水溶液含浸前の重量は59gであった。含浸率を高めるため、含浸前に、スギ材をオーブントースターで80〜100℃に加温し、約15分間乾燥させた。水分を取り除いたスギ材の重量は56gで3g(5.1%)の水が蒸発した。
赤身スギ材(200mm×90mm×5mm)の水溶液含浸前の重量は70.5gであった。含浸率を高めるため、含浸前に、赤身スギ材をオーブントースターで80〜100℃に加温し、約15分間乾燥させた。水分を取り除いた赤身スギ材の重量は67.5gで3g(4.2%)の水が蒸発した。
ヒノキ材(200mm×90mm×5mm)の含浸前の重量は97.5gであった。含浸率を高めるため、含浸前に、ヒノキ材をオーブントースターで80〜100℃に加温し、約15分間乾燥させた。水分を取り除いたその重量は93gで4g(4.6%)の水が蒸発した。
[水溶液の含浸]
以下の方法にて、実施例1の水溶液を上記前処理した各種木材に含浸した。
ステンレス容器(260mm×200mm×30mm)に木材を置き、上から重しを載せ、600gの実施例1の水溶液を容器内に入れた。プロパンガスコンロで、水溶液を70〜90℃に加温し、加温下で10分間含浸させた。加熱によってステンレス容器の底面より泡が噴き出し、泡振動によりスギ材の断面から小粒の泡が噴き出し、繊維に水溶液が含浸していくのが観察された。
約10分後、スギ材の断面から小粒の泡の噴き出しが止まると火を消し、重しを取り除いて、表面を布で拭き取って計量すると、何れも木材重量の20%程度の水溶液を吸収していた。
続いて、得られたスギ材を水溶液中に浮かし、5分後スギ材の表面が乾燥したところで裏返し、約1〜2時間浮かしながら含浸させた。
スギ材を取り出し、表面を布で拭き取って計量すると、何れも木材重量の160%程度の多量の水溶液を吸収していた。
スギ材の重量56gに対して、含浸された水溶液の重量は90gで、含浸後の全重量は146gであった。
赤身スギ材の場合において、上記スギ材に適用した含浸工程を2回ほど繰り返すと、樹液が多量に木材表面に噴き出した。その表面の樹液を布で拭き取り、水溶液をつぎ足しながら含浸工程を3回繰り返した。さらに、樹液が多量に表面に付着したり、水溶液に混合したりすると、含浸が妨げられるので、木材表面の樹液を布で拭き取り、水溶液を取り替えながら、含浸工程を合計7回ほど繰り返した。赤身スギ材の表面に樹液の付着が無くなり、水溶液の含浸量を木材重量の47%まで高める事ができた。
赤身スギ材の重量67.5gに含浸された水溶液の重量は32gで、含浸後の全重量は、99.5gであった。
ヒノキ材においても、上記の含浸工程を2回繰り返した後、室温で2時間含浸させ計量すると、木材重量の68%まで水溶液の含浸量を高める事ができた。
ヒノキ材の重量93gに含浸された水溶液の重量は63gで、含浸後の全重量は156gであった。
上記より、各種木材について、70〜90℃程度に加温して含浸した後、徐々に冷却しながらさらに含浸することにより、多量の水溶液を木材に含浸させることができることが分かった。また、材料に応じて、冷却時間を調節する事によって含浸量は増えるものと推認された。
また、樹液の多い木材においては、樹液を取り除きながら含浸を行うことが好ましいことが確認できた。
上記のように水溶液を含浸した後、各種木材を24時間風乾し、さらにオーブントースターを用いて、70℃以下で乾燥せしめた。
スギ材を風乾と熱乾燥したところ、スギ材の重量は99.5gとなり、木材に対して重量比77.7%の無機固形分(ホウ酸と四ホウ酸ナトリウム五水和物)を導入できた。また、高濃度のホウ素化合物が導入されているのにも関わらず、スギ材の表面に白化現象は観察されなかった。
赤身スギ材を風乾と熱乾燥したところ、赤身スギ材の重量は81gとなり、木材に対して重量比20%の無機固形分を導入できた。
また、高濃度のホウ素化合物が導入されているのにも関わらず、赤身スギ材の表面にわずかながら白化現象が観察されたのみであった。
なお、赤身スギ材において、わずかに白化現象が観察されたのは、樹液が多かったため、及び含浸工程を多く繰り返したためと考えられる。赤身スギ材において樹液を予め十分に除去し、含浸工程を、例えば5回以下とすることにより、白化現象をなくすことができると考えられる。
ヒノキ材を風乾と熱乾燥したところ、ヒノキ材の重量は123gとなり、木材に対して重量比32%の無機固形分を導入できた。
また、高濃度のホウ素化合物が導入されているのにも関わらず、ヒノキ材の表面に白化現象は観察されなかった。
スギ材において重量比77%、赤身スギ材においては重量比20%、ヒノキ材の重量比は32%と、高濃度で無機固形分を導入する事が出来た。
特に、スギ材においては、建築基準法に基づく不燃試験の合格レベルである65%以上の無機固形分の導入基準を満たしている。
以上の試験によって、本発明の不燃組成物である水溶液を、各種材料に適用した場合に、スギ材、及びヒノキ材に白化現象は観察されなかったが、赤身スギ材にわずかながら白化現象が観察された。
本試験により、ホウ素含有濃度22重量%の極めて高濃度のホウ素化合物水溶液を用いた場合でも、白化現象が殆ど問題とならないこと、さらに、材質によっては白化現象が全く生じない事が分かった。特に、スギ材では、極めて高濃度でホウ素化合物を含有することができる上に、白化現象も生じないことが分かった。
<試験例2>燃焼試験
乾燥後の木材に、ガスバーナーを使用して簡易燃焼試験を行った。スギ材より10cm距離から約5分間接炎した。ホウ酸ナトリウム塩が表面に泡状で点々と膨らむのが観察され、炎は出ず炭化するのみであった。スギ材の断面繊維から多量のホウ酸ナトリウム塩が白い泡状に噴き出し固形化した。
更に、15分間同場所に接炎させた。更にホウ酸ナトリウム塩の白い泡が多量に噴き出してきた。その固形部分に接炎すると着火せず、固形部分が溶けた。
20分間の簡易燃焼試験において、炭化するのみで炎を離しても着火する事なく炭化する現象のみが観察された。
乾燥後の赤身スギ材も同様な簡易燃焼試験を行った。赤身スギ材に無機固形分が20%程度しか導入出来なかった分、ホウ酸ナトリウム塩の白い泡は、上記の例に比べて少量であった。20分間接炎したが着火せず炭化するのみであった。裏面まで丸く炭化したが、炭化するのみで着火は見られなかった。
乾燥後のヒノキ材も同様に簡易燃焼試験を行った。ヒノキ材に無機固形分を32%導入できた分、赤身スギ材よりホウ酸ナトリウム塩の白い泡は多く繊維断面より噴出した。20分間接炎したが、炭化するのみで炎を離しても着火せず炭化のみが観察された。
無機固形分の木材への導入量に比例して、燃焼によるホウ酸ナトリウム塩の発泡量が変わることが観察された。
<試験例3>折出(白化現象)試験
スギ材での簡易含浸法で白化現象が観察されなかったので、更に白化現象を観察するために赤綿織布、黒綿織布(300mm×300mm)を使用した。
赤綿織布はTシャツ用でソフト感もあり含浸率も良いので、白化現象の観察には最適である。黒綿織布はシャークスキンで一般的によく使用されている布である。白化現象を観察するには両布に含浸させ、乾燥させる事によってより確実に白化現象が観察できる。
赤綿織布(300mm×300mm)の重量は12.5gであった。
実施例1の水溶液を60℃に加温し、布に20分間含浸せしめた。含浸後布を絞らずに3時間風乾し、その後熱風乾燥をしたところ、赤綿織布の重量は22.5gとなり重量比80%の固形分を導入できた。赤綿織布の全表面を観察したところ、白化現象がうっすらと表面に観察された。
黒綿織布(300mm×300mm)の重量は25gであった。
実施例1の水溶液を60℃に加温し、20分間含浸せしめた。含浸後布を絞らずに3時間風乾し、その後熱風乾燥をしたところ黒綿織布の重量は34gとなり、重量比36%の固形分が導入できた。黒綿織布の全表面を観察したところ、赤綿織布より少量の白化が観察された。含浸率が低かったために、白化現象の影響も少量であったと思われる。
以上の試験によって、本発明の不燃組成物である水溶液を、織布に適用した場合に、赤綿織布、黒綿織布の表面にわずかながら白化現象が観察された。
本試験により、ホウ素濃度22重量%の極めて高濃度のホウ素化合物水溶液を用いた場合でも、白化現象がかなり抑制されることが確認できた。
上記の試験において、赤綿織布、黒綿織布で白化現象が観察されたので、ホウ素化合物の添加量を減らし、水溶液のホウ素換算濃度を20重量%とした実施例2の水溶液を用いて、同様に析出試験を行った。
その結果、赤綿織布、黒綿織布の全表面に白化現象は観察されなかった。
<試験例4>燃焼試験
実施例1の水溶液(ホウ素濃度22重量%)、実施例2の水溶液(ホウ素濃度20重量%)を含浸した綿織布の簡易燃焼試験を、ガスバーナーを用いて行った。
その結果、いずれの綿織布においても、約15cmの距離で約1分間接炎しても炎は出ず炭化するのみであった。炎を離すと着火せず炭化のみが観察された。
これより、水溶液のホウ素化合物濃度を、20重量%程度とすることで、多種にわたる材料で白化原料を生じさせない、不燃効果の高い、汎用性の不燃剤が製造できることが分かった。
<試験例5>溶出試験
綿織布を用いて溶出試験を行った。
溶出試験に先立ち、コントロールとして、以下の試験を行った。
試験体の綿織布(200mm×100mm)を、60℃に加熱した実施例2の水溶液に20分間含浸せしめ、風乾及び熱風乾燥後、水を入れた容器に5分間浸した。その綿織布を取り出し再度風乾及び熱風乾燥した後、簡便燃焼試験を、ガスバーナーを用いて行った。
試験体に約15cmの距離から接炎すると、試験体に着火し燃焼した。これより、高濃度の固形分を対象材料に導入せしめても、対象材料が水に接触すると不燃成分(固形分)が溶出してしまうことが確認された。
試験体の綿織布(200mm×100mm)を、60℃に加熱した実施例2の水溶液に20分間含浸せしめた。綿織布を風乾及び熱風乾燥した後、フッ素系ホウ素化合物の撥水水溶液を綿織布の両面に刷毛で1回塗り仕上げをし、風乾及び熱風乾燥(70℃)した後、溶出試験を行った。
綿織布の表面に水滴を落とし、撥水状態を観察すると、水滴は水玉となり、綿織布の表面で転がる様子が観察された。
容器に入れた水に、撥水処理済みの綿織布を1時間浸けると、綿織布を手で容器の底まで押しても撥水効果により水面に浮上する事が観察された。また、水面に浮上した綿織布の表面に水滴を落とすと水玉となり、1時間経っても綿織布に吸収される事なく、そのままの状態を保っている事が観察された。1時間後、その綿織布を取り出し、風乾し熱風乾燥後も同様に水滴は水玉となり、何の変化も無く撥水効果は最良である事が確認できた。
これより、本発明の不燃組成物は、通常のフッ素系樹脂による撥水加工に対しても不利な影響を与えないことが分かった。
同様にスギ材に対しても、水溶液を含浸させ、溶出防止のため、撥水水溶液を刷毛で全面(両面×高さ)に1回塗布し、風乾及び熱風乾燥(70℃)した後、両面と木口部分に水滴を落とし、撥水状態を観察した。全面とも水玉が転がり撥水している事が観察された。
続いて、上述した撥水加工した後、水に1時間浸けて乾燥した綿織布の簡易燃焼試験を行った。
試験体に対し、約15cmの距離からガスバーナーの炎を接触すると、綿織布は着火せず炭化するのみであった。
薄い綿織布での1時間の溶出試験の結果、溶出が完全に抑制できたことから、本加工を木材に対して行うことにより、さらに長時間の溶出防止が可能である事が推認された。
本発明は、木材、合板、紙、段ボール、綿織布、不織布など、様々な材料に効率よく優れた防火性を付与することを可能にするものであり、材料の用途に応じた応用が期待される。

Claims (7)

  1. ホウ酸1重量部に対し、四ホウ酸ナトリウム五水和物0.7〜1.3重量部の割合で、ホウ酸と、四ホウ酸ナトリウム五水和物の結晶粉末を40〜60℃の水に溶解して、ホウ酸と、四ホウ酸ナトリウム五水和物の溶解濃度が、ホウ素換算濃度で、20〜40重量%の水溶液を調製することを特徴とする、不燃組成物の製造方法。
  2. 前記ホウ酸の結晶粉末の重量平均粒子径が、四ホウ酸ナトリウム五水和物の結晶粉末の重量平均粒子径に対し、0.5〜1.5倍である、請求項1に記載の不燃組成物の製造方法。
  3. 重量平均粒子径が、0.01〜0.5mmである、請求項1又は2に記載の不燃組成物の製造方法。
  4. ホウ酸と、四ホウ酸ナトリウム五水和物の水溶液からなる不燃組成物であって、
    ホウ酸1重量部に対し、四ホウ酸ナトリウム五水和物0.7〜1.3重量部の割合で、ホウ酸と、四ホウ酸ナトリウム五水和物の結晶粉末を40〜60℃の水に溶解することにより調製され、
    ホウ酸と、四ホウ酸ナトリウム五水和物の溶解濃度が、ホウ素換算濃度で、20〜40重量%であることを特徴とする、不燃組成物。
  5. 請求項1〜3の何れかの製造方法により製造された不燃組成物、又は請求項4に記載の不燃組成物を、防火処理の対象材料に含浸、噴霧又は塗布する組成物処理工程と、
    前記不燃組成物を含浸、噴霧又は塗布した対象材料を乾燥する乾燥工程と、を有する、
    防火材料の製造方法。
  6. 前記乾燥工程の後、対象材料の表面をフッ素系樹脂でコーティングするコーティング工程を行う、請求項に記載の防火材料の製造方法。
  7. 請求項5又は6に記載の方法により製造された、防火材料。
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