JP5660218B2 - 質量分析データ解析方法及び装置 - Google Patents
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Description
本発明は、MSn(nは2以上の整数)型の質量分析装置で得られるデータを解析処理して物質の構造を解析する方法及び装置に関し、さらに詳しくは、構造が既知である原物質から何らかの要因によって構造の一部が変化した副次的な未知物質等の構造を推定するための質量分析データ解析方法及び装置に関する。
近年、高分子化合物等の各種物質の構造解析に、MSn分析が可能な質量分析装置が盛んに利用されている。即ち、試料に含まれる目的成分由来のイオンを衝突誘起解離(CID)により開裂させると、結合エネルギーなどに依存する特定の部位で分子結合が切れ、様々なプロダクトイオンやニュートラルロスが発生する。そこで、試料から生成される各種イオンの中から目的成分に応じた特定の質量電荷比m/zを持つイオンを選択し、その選択したイオンをCIDにより開裂させ、開裂によって発生した各種プロダクトイオンを質量分析してMS2スペクトルを取得する。このMS2スペクトルには目的成分由来の各種断片(プロダクトイオン、ニュートラルロスを含む)に関する情報が含まれるから、このMS2スペクトルデータを解析処理することによって目的成分の化学的な構造を推定することができる。
しかしながら、実際には、1回の解離操作により得られるMS2スペクトルや複数回の解離操作を繰り返すことにより得られるMSnスペクトルから収集される情報を利用して未知物質の構造式を決定するのは必ずしも容易な作業ではない。例えばアミノ酸のような特定の要素から成り、配列構造も1次元的(鎖状)であるような高分子化合物の場合には、MSnスペクトルからの構造推定は比較的容易である。これに対し、分子量が50〜1000程度である一般的な低分子の化合物はその構造式が非常に多様で配列も複雑であるため、多くの場合、MSnスペクトルからの構造推定は困難である。こうした場合に有用な構造解析手法は、既知物質のMSnピークパターン等が収録されたデータベースを利用したデータベース検索である(特許文献1など参照)。しかしながら、データベースに収録されている既知物質には限りがあるため、検索がヒットしないこともよくある。
例えば、医薬品を合成する際には目的とする物質以外に構造が類似した多数の副産物が同時に生成されるため、試料に含まれる多種の副産物の構造の類似性や相違性などを調べたいようなことがある。また、医薬品の生体内での代謝を調べる際に、未知の物質を含め多数の代謝物の構造の類似性や相違性を知りたいようなこともある。こうした場合、構造が既知である目的物質に関する情報はデータベースに収録されていたとしても、構造が僅かに異なる副産物や代謝物全てがデータベースに収録されているということは通常あり得ない。そのため、データベース検索を行っても構造式を決定することができない未知物質が残ってしまう、ということがよくある。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、構造が既知である原物質に類似した又は該原物質から構造が変化した未知の物質の構造を、MSnスペクトルデータに基づいて効率的に且つ高い信頼性で以て推定する質量分析データ解析方法及び装置を提供することである。
上記課題を解決するために成された第1発明は、構造既知物質に対する質量分析データ及び該構造既知物質を1回以上解離して得られる断片に対する質量分析データ、並びに、前記構造既知物質とは部分的に構造が相違する未知物質に対する質量分析データ及び前記未知物質を1回以上解離して得られる断片に対する質量分析データ、に基づいて前記未知物質の構造を解析するための質量分析データ解析方法であって、
前記構造既知物質及び前記未知物質に対する質量分析データから求まる両物質の質量差に基づいて構造既知物質と未知物質との構造の相違を予測し、
前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、前記未知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量との差が、前記予測した構造相違による質量差と一致するような、構造既知物質由来の断片の質量と未知物質由来の断片の質量との組み合わせを複数抽出し、
その複数の組み合わせに含まれる未知物質由来の各断片がそれぞれ構造が相違する部分構造であるとみなし、前記組み合わせにおいて未知物質由来の断片と組となる構造既知物質由来の断片の質量から推測される部分構造の情報を用いて、最小の共通部分構造を見いだし、
その見いだされた共通部分構造と、前記構造既知物質の既知の構造と、予測される構造相違とから、未知物質の構造を推定することを特徴としている。
前記構造既知物質及び前記未知物質に対する質量分析データから求まる両物質の質量差に基づいて構造既知物質と未知物質との構造の相違を予測し、
前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、前記未知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量との差が、前記予測した構造相違による質量差と一致するような、構造既知物質由来の断片の質量と未知物質由来の断片の質量との組み合わせを複数抽出し、
その複数の組み合わせに含まれる未知物質由来の各断片がそれぞれ構造が相違する部分構造であるとみなし、前記組み合わせにおいて未知物質由来の断片と組となる構造既知物質由来の断片の質量から推測される部分構造の情報を用いて、最小の共通部分構造を見いだし、
その見いだされた共通部分構造と、前記構造既知物質の既知の構造と、予測される構造相違とから、未知物質の構造を推定することを特徴としている。
上記課題を解決するために成された第2発明は、第1発明に係る質量分析データ解析方法を実施するための装置であり、構造既知物質に対する質量分析データ及び該構造既知物質を1回以上解離して得られる断片に対する質量分析データ、並びに、前記構造既知物質とは部分的に構造が相違する未知物質に対する質量分析データ及び前記未知物質を1回以上解離して得られる断片に対する質量分析データ、に基づいて前記未知物質の構造を解析するための質量分析データ解析装置であって、
a)前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、既知である構造既知物質の構造から求まる部分構造とが対応付けて記憶された部分構造情報記憶手段と、
b)前記構造既知物質及び前記未知物質に対する質量分析データから求まる両物質の質量差に基づいて予測される、構造既知物質と未知物質との構造の相違に関する情報を設定するための構造相違予測情報設定手段と、
c)前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、前記未知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量との差が、前記構造相違予測情報設定手段により設定された予測構造相違による質量差と一致するような、構造既知物質由来の断片の質量と未知物質由来の断片の質量との組み合わせを複数抽出する断片組み合わせ抽出手段と、
d)その複数の組み合わせに含まれる未知物質由来の各断片がそれぞれ構造が相違する部分構造であるとみなし、前記組み合わせにおいて未知物質由来の断片と組となる構造既知物質由来の断片の質量に対応付けられた部分構造の情報を前記部分構造情報記憶手段により取得して比較することにより、最小の共通部分構造を見いだし、その見いだされた共通部分構造と、前記構造既知物質の既知の構造と、予測される構造相違とから、未知物質の構造を推定する構造推定手段と、
を備えることを特徴としている。
a)前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、既知である構造既知物質の構造から求まる部分構造とが対応付けて記憶された部分構造情報記憶手段と、
b)前記構造既知物質及び前記未知物質に対する質量分析データから求まる両物質の質量差に基づいて予測される、構造既知物質と未知物質との構造の相違に関する情報を設定するための構造相違予測情報設定手段と、
c)前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、前記未知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量との差が、前記構造相違予測情報設定手段により設定された予測構造相違による質量差と一致するような、構造既知物質由来の断片の質量と未知物質由来の断片の質量との組み合わせを複数抽出する断片組み合わせ抽出手段と、
d)その複数の組み合わせに含まれる未知物質由来の各断片がそれぞれ構造が相違する部分構造であるとみなし、前記組み合わせにおいて未知物質由来の断片と組となる構造既知物質由来の断片の質量に対応付けられた部分構造の情報を前記部分構造情報記憶手段により取得して比較することにより、最小の共通部分構造を見いだし、その見いだされた共通部分構造と、前記構造既知物質の既知の構造と、予測される構造相違とから、未知物質の構造を推定する構造推定手段と、
を備えることを特徴としている。
第1及び第2発明において、構造既知物質に対する質量分析データ及び該構造既知物質を1回以上解離して得られる断片に対する質量分析データとは、構造既知物質を実際に質量分析(MS1分析)及びMSn(nは2以上の整数)分析することにより取得したデータであってもよいが、結合エネルギーなどの既知の情報に基づいて予め計算により推定して求めた質量分析データ(MS1スペクトルデータ、MSnスペクトルデータ)であってもよい。一方、未知物質はその構造が部分的に不明であることから、未知物質に対する質量分析データ及び前記未知物質を1回以上解離して得られる断片に対する質量分析データとは、未知物質を実際に質量分析(MS1分析)及びMSn(nは2以上の整数)分析することにより取得したデータである。
第1及び第2発明において構造解析の対象である「未知物質」とは例えば、構造が既知である原物質から代謝等の化学変化により生成される物質である。また、原物質を合成等により生成する際に、その構造の一部が置換されたり欠損したり或いは別の成分が付加されたりして生じる副産物であってもよい。また、「未知物質」は或る物質からの変化によって生じた物質でなくてもよく、構造既知物質と部分的に構造が異なり他の構造が共通している物質であればよい。
また第1及び第2発明において「断片」とは、解離によって生成されるプロダクトイオン、又は、プロダクトイオンとニュートラルロスの両方である。プロダクトイオンは質量分析によって検出されるから質量分析データに含まれる、より具体的には、質量分析データに基づいて作成されるマススペクトル(MSnスペクトル)上にピークとして現れる。一方、ニュートラルロスは質量分析によって直接的には検出されず、例えば上記マススペクトル(MSnスペクトル)上に現れるプロダクトイオンピークとプリカーサイオンピークとの質量差として求まる。
原物質等の構造既知物質の構造は既知であるから、その化学構造式において様々な結合部位が切れたと仮定したときに生成される様々な断片の部分構造や質量は、予め計算により求めることができる。そこで、例えば構造既知物質を1回以上解離して質量分析することにより得られる断片に対する質量分析データに基づいて各断片の実測の質量を求め、上記のような計算により求めた質量と対比することで各断片の部分構造を特定することにより、部分構造情報記憶手段の記憶情報を作成することができる。もちろん、実際の測定を行わずに計算及びそれに基づく予測のみから部分構造情報記憶手段の記憶情報を作成してもよい。また、このような各断片の質量と部分構造とを対応付けた情報を予め求めておかずに、必要に応じて、つまり、或る断片の質量が与えられたときに該質量に対応する部分構造を構造既知物質の既知の構造から導出するようにしてもよい。
構造既知物質に対する質量分析データから構造既知物質の質量が、未知物質に対する質量分析データから未知物質の質量がそれぞれ求まる。その両物質の質量差は構造既知物質と未知物質との構造の相違により生じたものであるから、その質量差から構造の相違を或る程度予測することができる。当然のことながら、構造の相違が複雑であるほど構造相違の予測は困難になるから、本発明が適用可能であるのは、質量差から構造相違が予測可能である程度の比較的小規模の構造相違がある未知物質の構造解析である。
或る物質のイオンをプリカーサイオンとして衝突誘起解離(CID)などにより解離させると、同一物質の様々な箇所で結合が切れるため、構造の一部が共通であって異なる質量を持つ様々な断片が生成される。そのため、未知物質を解離して得られた各種断片のうちの何種類かは構造の一部が共通している筈である。また、その共通の部分構造に予測された構造相違が含まれる場合には、未知物質に由来するそれら断片の各質量に対し、予測した構造相違に伴う質量差の分だけ質量が相違する構造既知物質由来の断片が存在する筈である。そこで、構造既知物質由来の各断片の質量と未知物質由来の各断片の質量とを組み合わせ、その質量差を計算して質量差が予測した構造相違による質量差と一致するような組み合わせを抽出する。
上述したように解離による結合の切断位置が多様であれば、複数の、一般的には或る程度多数の組み合わせが抽出される筈である。そこで、その組み合わせの一方である未知物質由来の各断片はそれぞれ同じ構造相違を有する部分構造であるとみなし、それぞれが組となる構造既知物質由来の断片の質量から推測される部分構造の情報を利用して、予測した構造相違が生じている共通の部分構造を絞り込む。最小の共通部分構造が見いだされたならば、構造既知物質の既知の構造から共通でない部分構造が分かるから、その非共通の部分構造、共通の部分構造、及び、予測される構造相違に基づいて、未知物質の構造を推定し、例えば構造式の候補を表示等によりユーザに提示する。
ただし、構造既知物質由来の断片の質量と未知物質由来の断片の質量との差が予測した構造相違による質量差と一致したとしても、構造既知物質由来の断片に対する質量分析データの中に上記質量差を持つ断片がもともと存在する場合には、上記未知物質由来の断片が予測される構造相違を含んでいるとは限らない。そこで、第1及び第2発明において、好ましくは、前記組み合わせと同じ質量の組み合わせが、構造既知物質由来の断片に対する質量分析データの中に存在するか否かを確認し、存在する場合には、未知物質の構造を推定する上で該組み合わせを信頼性が低いものとして取り扱うようにするとよい。
ここで「信頼性が低いものとして取り扱う」最も単純な方法は、その質量の組み合わせを未知物質の構造推定から除外することであるが、それ以外にも、例えばその取扱いをユーザの判断に委ねるようにしてもよい。具体的には例えば、構造相違に対応した質量差を持つ組み合わせに含まれる未知物質由来の断片が構造相違を含むものであるとみなすか、或いは構造相違によるものではなく構造既知物質にもともと含まれているものであるとみなすかの選択を、ユーザに委ねるようにしてもよい。また、構造既知物質、未知物質をそれぞれ2回以上解離させることで生じた断片に対する質量分析データを利用することで、目的の断片が構造相違を含むものか、或いは構造既知物質にもともと含まれているものであるのか、の推定を行うようにしてもよい。
また、代謝等に伴う構造既知物質から未知物質への構造の変化(構造既知物質と未知物質との構造が相違する箇所)は必ずしも1箇所であるとは限らず2箇所以上である場合もある。また、構造相違が1箇所であったとしても、構造既知物質の質量と未知物質の質量との差から予測され得る構造相違は1つであるとは限らない。そこで、第1及び第2発明では、好ましくは、前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、前記未知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量との差が、前記予測した構造相違による質量差と一致するような、構造既知物質由来の断片の質量と未知物質由来の断片の質量との組み合わせが抽出できない場合に、構造既知物質と未知物質との構造相違の予測を変更した上で、再度、未知物質の構造推定を行うようにするとよい。
また、上述したように構造既知物質と未知物質とで部分的に構造が相違する箇所は必ずしも1箇所であるとは限らず2箇所以上である場合もあるため、第1及び第2発明では、好ましくは、構造既知物質と未知物質との構造の相違が1箇所であるとの仮定の下に、前記構造既知物質及び前記未知物質に対する質量分析データから求まる両物質の質量差に基づいて構造相違を予測し、前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、前記未知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量との差が、前記予測した構造相違による質量差と一致するような、構造既知物質由来の断片の質量と未知物質由来の断片の質量との組み合わせが抽出できない場合に、構造既知物質と未知物質との構造の相違が複数箇所であると推定するようにしてもよい。
なお、第1及び第2発明では、基本的には、構造既知物質及び未知物質をそれぞれプリカーサイオンとして1回だけ解離を行って得られた断片を質量分析することで収集した質量分析データ、つまりMS2スペクトルデータを用いればよいが、MS2スペクトルデータを用いただけでは未知物質の構造が推定できない場合や十分に高い信頼度で推定できない場合には、構造既知物質、未知物質をそれぞれ2回以上解離させて得られた断片を質量分析することで収集した質量分析データ、つまりnが3以上であるMSnスペクトルデータを用いるようにするとよい。
本発明に係る質量分析データ解析方法及び装置によれば、例えば代謝といった化学変化などにより構造既知物質の構造の一部が変化した未知物質の構造を、効率的に且つ高い信頼性で以て推定することができる。特に構造式が非常に多様で配列も複雑である、分子量が50〜1000程度の低分子化合物を構造既知物質とする代謝物や副産物、或いは類似化合物などについて、部分的に構造が相違する物質に対するデータベースが完備されていなくても、目的とする未知物質の構造を的確に推定し、ユーザが物質の構造を決定する際に有用な情報を提供することができる。
以下、本発明に係る質量分析データ解析装置を含む質量分析システムの一実施例について、図面を参照しながら説明する。図1は本実施例の質量分析システムの概略構成図である。
分析対象である試料はイオン源1に導入され、イオン源1では試料に含まれる成分がイオン化される。生成されたイオンは、イオンガイド2を経て、リング電極と一対のエンドキャップ電極により構成される3次元四重極型のイオントラップ3に導入され、ここでプリカーサイオンの選別が行われるとともに外部から導入されるCIDガスとの接触によるCIDによってプリカーサイオンの開裂が促進される。開裂によって生成された各種のプロダクトイオンは所定の運動エネルギーを付与されて一斉にイオントラップ3から放出され、飛行時間型質量分析計(TOFMS)4に導入される。その飛行空間を飛行する間にプロダクトイオンは分離されて時間的にずれてイオン検出器5に到達し検出される。イオン検出器5による検出信号はデータ処理部6に入力され、ここで、飛行時間から質量電荷比への換算が行われ、MS n スペクトルが作成されるとともに該スペクトルデータに基づいた各種の処理が実行される。
イオン源1、イオントラップ3、飛行時間型質量分析計4などの各部の動作は分析制御部8により制御され、この分析制御部8やデータ処理部6は中央制御部7の制御の下に動作する。中央制御部7には例えばキーボードなどを含む操作部9とモニタ等の表示部10とが接続されている。一般的に、中央制御部7、分析制御部8、データ処理部6の機能の多くは、パーソナルコンピュータにインストールされた専用の処理/制御プログラムを実行することにより実現することができる。データ処理部6は、データ格納部61のほか、代謝物構造推定部62、質量−部分構造データ保持部63を含み、後述するように、未知の代謝物の構造を推定するために特徴的なデータ処理を実行する。
なお、図1に示した質量分析システムでは、三次元四重極型イオントラップと飛行時間型質量分析計とを組み合わせた構成であるが、質量分析計の構成はこれに限らない。例えばMS2分析のみを実行するのであれば、三連四重極型質量分析計を用いても構わない。
本実施例の質量分析システムは、構造式が既知である原物質(構造既知物質)から代謝等、何らかの要因で構造の一部が変化した代謝物、副生成物、分解物などの構造が未知である物質の構造を推定するデータ解析処理に特徴を有する。ここでは、原物質から代謝により生成された代謝物を例に挙げて説明するが、構造の変化は代謝に限るものではなく、一部構造の置換、脱落、付加(修飾)などを伴う様々な変化に対応可能である。また、必ずしも原物質からの構造の変化によって生じた物質ではなく、構造が既知である物質と部分的に構造が相違する未知物質一般の構造推定に利用可能である。
図2は試料に対する測定を含めた代謝物構造推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。また、図3は代謝物構造推定処理の概念図である。まず、図3を用いて、この代謝物構造推定処理の概念を説明する。
いま、図3中に示すような簡略化した構造式を持つ原物質Aと、この原物質Aの構造の一部が変化した代謝物A’とを考える。Pで示す部位が構造変化部位である。原物質Aの構造式は既知であり、代謝物A’の構造式は未知である。原物質AをCID等により開裂させると、その構造中の様々な部位で結合が切れて各種の断片が生成される。この断片には電荷を持つ(つまり質量分析により検出され得る)プロダクトイオンと中性である(つまり質量分析により直接的には検出されない)ニュートラルロスとが含まれるが、ここでは説明を簡単にするために区別しない(或いは全てプロダクトイオンであると考える)。
代謝物A’はその構造の殆どが原物質Aと共通であるため、代謝物A’を原物質Aの解離と同条件の下で解離させると、原物質Aとほぼ同様の部位で結合が切れて各種の断片が生成される。原物質A由来の各種断片と代謝物A’由来の各種断片とでは同一の質量(イオンであれば質量電荷比)を持つ断片もあるが、代謝物A’由来の構造変化部位Pを含む断片と原物質A由来である構造変化前の状態の断片とを比べると、その構造変化に伴う分だけ質量に差がある筈である。換言すれば、原物質A由来の或る断片と代謝物A’由来の或る断片との質量差を調べたときに、構造変化に対応した質量差、つまりは原物質Aと代謝物A’との質量差ΔMに一致すれば、構造変化部位Pのみが相違する同じ部分構造である可能性が高いといえる。上述したように分子結合は様々な部位で切れるため、上記のように構造変化部位Pのみが相違する同じ部分構造であるとみなせる原物質A由来の断片と代謝物A’由来の断片との組み合わせは数多く存在する筈である。
原物質Aの構造式は既知であるから、様々な部位で結合が切れた状態の部分構造を容易に求めることができる。そうして求めた部分構造の質量とMS2分析により求めた各断片の質量とを対比することにより、原物質A由来の各断片の部分構造を調べることができる。こうして調べた情報を用いれば、構造変化部位P以外は同じ部分構造であるとみなせる原物質A由来の断片と代謝物A’由来の断片との組み合わせのそれぞれについて、原物質A由来の断片に対応する部分構造を求めることができる。そして、それら異なる部分構造を比較することで、最も小さな共通部分構造を見つけることが可能であれば、その共通部分構造は構造変化部位Pが生じる部分構造であると考えられる。代謝物A’において上記共通部分構造以外の部分は原物質Aと同じ筈であって、共通部分構造には、原物質Aと代謝物A’の質量差ΔMに対応する構造変化が生じているから、その質量差ΔMから構造変化の状態が予測できれば、それら情報に基づいて代謝物A’の構造を高い確度で推定することができる。
ただし、上記のような構造推定が可能であるためには幾つか前提がある。例えば、原物質A由来の各種断片の中で、原物質Aと代謝物A’との質量差ΔMと同じ質量差を持つ2つの断片が存在する場合、代謝物A’由来の断片と原物質A由来の断片との質量差が質量差ΔMに一致したとしても、その代謝物A’由来の断片は代謝等の構造変化により生じたものか、或いは、構造変化とは関係なくもともとの原物質A由来の断片と同じものか、の判別ができない。即ち、この場合には、判別の不確定性がある。そこで、原物質A由来の各種断片の中に、原物質Aと代謝物A’との質量差ΔMと同じ質量差を持つ2つの断片が存在するか否かを予め調べておき、少なくとも上記のような不確定性がある断片であることを認識して、それに応じた処理を実行するとよい。具体的には例えば、上記のような不確定性が見込まれる断片の情報は代謝物の構造推定から除外する、構造推定に利用するか否かをユーザに問い合わせ、その指示に応じた処理を行う、といった対応が考えられる。
また、上記説明は代謝による構造変化が1箇所でのみ生じることを前提としており、複数の異なる部位で構造変化が起こった場合には上述したような単純な判断は行えない。この場合には、例えば複数の構造変化の組み合わせを考える必要がある。
また、上記説明では考慮しなかったが、断片にはプロダクトイオンとニュートラルロスとがあり、プロダクトイオンに構造変化部位Pが存在する場合とニュートラルロスに構造変化部位Pが存在する場合とがある。或るプリカーサイオンからプロダクトイオンが生成される場合、そのプロダクトイオンと対となるニュートラルロスが必ず存在する。したがって、或るプロダクトイオンに構造変化部位Pが存在する場合には、それに対応するニュートラルロスには構造変化部位Pは存在せず、それ故に、原物質A由来のニュートラルロスと代謝物A’由来のニュートラルロスとの質量差が0になるようなニュートラルロス同士の組み合わせが数多く現れる。逆に、或るニュートラルロスに構造変化部位Pが存在する場合には、それに対応するプロダクトイオンには構造変化部位Pは存在せず、それ故に、原物質A由来のプロダクトイオンと代謝物A’由来のプロダクトイオンとの質量差が0になるようなプロダクトイオン同士の組み合わせが数多く現れる。このことから、原物質A由来のプロダクトイオンと代謝物A’由来のプロダクトイオンとの質量差、及び、原物質A由来のニュートラルロスと代謝物A’由来のニュートラルロスとの質量差、の両方を調べ、その両方の整合性を確認すれば代謝物A’の構造推定の確実性は向上する。後述する処理手順ではこうした手法を用いている。
また、上記説明では、プリカーサイオンに対して1回の解離操作によって生成される断片のみを考えたが、2回以上の解離操作によって生成される断片、つまりnが3以上のMS3スペクトルデータを構造推定に利用してもよい。例えば、前述のように代謝物A’由来の断片と原物質A由来の断片との質量差が代謝物A’と原物質Aとの質量差ΔMに一致し、その代謝物A’由来の断片が代謝等の構造変化により生じたものかどうか判断できない不確定性がある場合に、MS3スペクトルに基づく情報を用いて、代謝物A’由来の断片が代謝等の構造変化により生じたもの、或いはもともとの原物質A由来の断片と同じもの、のいずれであるかを判定するとよい。
なお、或る部分構造に構造変化部位Pが存在する可能性があって、それを確認するためにnが3以上のMSn分析を行う場合には、構造変化部位Pが存在する可能性があって且つ質量ができるだけ小さなイオンをプリカーサイオンに設定するとよい。これにより、不要なプロダクトイオンが少なくて済むので、構造変化部位Pに関連した情報を得やすくなる。
次に、図2に示したフローチャート及び実際の処理の一例である図4〜図7を参照して、本実施例の質量分析システムにおける代謝物構造推定処理の詳細について説明する。
実際の解析処理に先立って、まず、原物質に対する質量分析で得られる結果に基づいて、代謝物の構造推定に必要な情報を用意する。即ち、解析が開始されると、分析制御部8の制御の下に、構造式が既知である原物質に対するMS測定及びMS2測定が実行され、それら測定データがデータ格納部61に保存される(ステップS1)。次に、代謝物構造推定部62は、ステップS1で取得されたMS2スペクトルに現れている各ピークの質量を、該物質の既知の構造の結合の切断によって生じる部分構造に帰属させ、質量と部分構造とが対応した対応表を作成して質量−部分構造データ保持部63に格納する(ステップS2)。なお、ステップS1では、原物質に対してMS測定及びMS2測定を実際に行わずに、既知の構造から得られる結合エネルギー等の情報に基づいた計算により、MSスペクトルデータ、MS2スペクトルデータを取得し、ステップS2ではこれらデータに基づいて質量と部分構造とが対応した対応表を作成してもよい。
図4は原物質の一例であるブスピロン(Buspirone)の構造式とMS2スペクトルとを示す図である。MS2スペクトルに現れる各ピークの質量に対し装置の質量誤差等に基づいて決まる質量範囲と上記部分構造から計算される質量との対比から、各ピークを部分構造に帰属させることができる。例えば、MS2スペクトルにおいてm/z122.0678のピークは構造式上のaの位置で結合が切断されて生じるプロダクトイオンbに対応付けられる。このように、MS2スペクトルにおける多くのピークは部分構造と対応付けることが可能である。また、MS2スペクトルに現れているピークはプロダクトイオンによるものであるが、上述したように原物質が解離して生じる断片には中性のニュートラルロスもあり、ニュートラルロスはMS2スペクトル上ではプリカーサイオンの質量とプロダクトイオンピークの質量との差を持つ。そこで、こうしてMS2スペクトルから求めたニュートラルロスの質量と部分構造とを対応付けた対応表も作成し、質量−部分構造データ保持部63に格納する。
次いで、構造が未知である(ただし、原物質からの代謝によって構造変化が生じた物質であることは既知である)代謝物試料に対するMS測定及びMS2測定を実行し、それら測定データをデータ格納部61に保存する(ステップS3)。なお、試料中に複数の代謝物が混じっている場合には、MS測定の結果から信号強度が高い順に自動的にイオンを選択してプリカーサイオンに設定してMS2測定を実行するか、或いは、MS測定によるマススペクトルを表示部10の画面上に表示し、解析対象のイオンピークをユーザに選択させてその選択されたイオンをプリカーサイオンに設定してMS2測定を実行するとよい。
代謝物構造推定部62は、原物質に対するMS測定結果から求めた質量と代謝物に対するMS測定結果から求めた質量との質量差に基づいて、代謝による構造変化の種類を予測する(ステップS4)。例えば後述の例では、原物質がm/z386.2547、代謝物がm/z402.2500であり、質量差は約+16である。この場合、構造変化が1箇所の修飾であると仮定すると、水酸化(Hが水酸基OHに置換)が構造変化の候補の1つとして挙げられる。一般的に質量差が大きくなるほど予測される構造変化の種類は増える。そこで、例えば、予測される構造変化の種類を候補としてリスト化し、その中で1つずつ以下に述べるような手順で構造式推定処理を実行し、適切な解(代謝物の構造式の候補)が得られない場合には上記リスト中で別の構造変化の候補を挙げて構造式推定を実行すればよい。
続いて、代謝物構造推定部62は、データ格納部61に格納されている測定データに基づいて得られる原物質のMS2スペクトルと代謝物のMS2スペクトルとを比較する(ステップS5)。具体的には、原物質のMS2スペクトルから求まる各プロダクトイオンの質量と代謝物のMS2スペクトルから求まる各プロダクトイオンの質量との差、及び、原物質のMS2スペクトルから求まる各ニュートラルロスの質量と代謝物のMS2スペクトルから求まるニュートラルロスの質量との差、に着目し、プロダクトイオン同士又はニュートラルロス同士の質量差が原物質と代謝物との質量差と一致し、そのプロダクトイオン又はニュートラルロスに対応する断片であるニュートラルロス同士又はプロダクトイオン同士の質量差が0であるか否かを調べる(ステップS6)。
ステップS6の処理を定式化すると以下のように表すことができる。いま、各記号について、Pre:プリカーサイオン、Pi:プロダクトイオン、Nls:ニュートラルロス、代謝による質量変化:Mod、と定義し、代謝物由来であれば「’」記号を付加する。また、原物質、代謝物から生成されるプロダクトイオンやニュートラルロスは多数存在するから、それを識別するために下付き文字を用いる。例えば、原物質については、Pre=Pin+Nlsn、代謝物については、Pre’=Pre+Mod0=Pin’+Nlsn’と記すことができる。ただし、Mod0=Σ(n=1〜m)Modnとする。
原物質由来のプロダクトイオンと代謝物由来のプロダクトイオンの質量差を求めるが、どのプロダクトイオン同士が対応するのかは不明であるため、そこで基本的には、原物質由来の全てのプロダクトイオンと代謝物由来の全てのプロダクトイオンとの組み合わせを総当たり的に調べることとする。ニュートラルロスについても同様である。
即ち、全てのプロダクトイオン同士の組み合わせについてPi−Pi’=αを計算し、全てのニュートラルロス同士の組み合わせについてNls−Nls’=βを計算する。いま、図3で説明したように、代謝物由来のプロダクトイオンPin’に対応する部分構造が代謝による構造変化部位Pを含んでいれば、Pin’−Pin=Mod0である筈である。また、1箇所のみの構造変化を想定した場合、代謝物由来のプロダクトイオンPin’の部分構造が代謝による構造変化部位Pを含んでいれば、そのプロダクトイオンPin’と対になるニュートラルロスNlsn’には代謝による構造変化部位Pは含まれない。つまり、Nlsn−Nlsn’=0である。このことから、プロダクトイオンの質量差α=Mod0で、それに対応するニュートラルロスの質量差β=0であれば、プロダクトイオンPin’の部分構造が代謝による構造変化部位Pを含んでいると判断することができる。同様に、代謝物由来のニュートラルロスNlsn’の部分構造が代謝による構造変化部位Pを含んでいれば、そのニュートラルロスNlsn’と対になるプロダクトイオンPin’には代謝による構造変化部位Pが含まれない。つまり、Pin−Pin’=0である。このことから、ニュートラルロスの質量差β=Mod0で、それに対応するプロダクトイオンの質量差α=0であれば、ニュートラルロスNlsn’の部分構造が代謝による構造変化部位Pを含んでいると判断することができる。
一方、α=0又はβ=0になるプロダクトイオン同士又はニュートラルロス同士の組み合わせが存在しない場合には、代謝による構造変化の予測が妥当でないか又は1箇所の構造変化という仮定自体が妥当でないと判断できる。これは、ステップS6でNoと判定された場合であり、その場合には、代謝による構造変化の予測を変更した上で(ステップS10)、ステップS5に戻って上記処理を再び実行する。
1箇所の構造変化という仮定と代謝による構造変化の予測が妥当であれば、複数のプロダクトイオンPi、Pi’の組み合わせでMod0と同じ値の質量差が検出される。これは、既述のように、構造変化部位Pを含む部分構造が複数種存在するからである。そこで、ステップS6でYesと判定された場合には、代謝物構造推定部62は、上記のようにしてMod0と同じ値の質量差が検出される複数のプロダクトイオンPi、Pi’の組み合わせを見つけ、質量−部分構造データ保持部63に格納されている対応表を参照して最小共通部分構造を抽出する(ステップS7)。
上述したように最小共通部分構造が抽出されたならば、それを既知である原物質の構造式と比較する。これにより、構造変化部位Pを含まない部分の構造が分かるから、原物質の構造式、最小共通部分構造、及び予測された構造変化の情報に基づいて、代謝物の構造式を推定する(ステップS8)。なお、構造変化部位Pが存在するのは最小共通部分構造であることは判明するが、最小共通部分構造の中で構造変化部位Pが存在し得る箇所が複数ある場合、いずれの箇所に構造変化部位Pが存在するのかは分からない。その場合には、推定される構造式の候補を複数求めればよい。そして、得られた構造式の候補を表示部10の画面上に表示してユーザに提供する(ステップS9)。
図5は図4に示した原物質のMS2スペクトルとm/z402.2500である代謝物のMS2スペクトルである。両MS2スペクトルに現れているピークの質量(質量電荷比m/z)を対比させると、原物質と代謝物のプリカーサイオン同士の質量差とほぼ同じだけ質量がシフトしているピークの組み合わせが複数存在することが分かる。一方、両MS2スペクトルにおいて同一の質量を持つピークが存在していることも分かる。これは上述した判別の不確定性をもたらす可能性のあるピークであると言える。
上述したような原物質由来のプロダクトイオンと代謝物由来のプロダクトイオンの質量差を総当たり的に求める際には、図6に示すように、両プロダクトイオンの質量をそれぞれ行方向、列方向に並べ、両者の交差する位置のセル内に、計算される質量差を記述したテーブルを作成すると分かり易い。図6は図5に示した原物質及び代謝物のMS2スペクトル上のピークから求まる質量及び質量差をテーブルにまとめたものである。このテーブル中の幾つかのプロダクトイオンの組み合わせにおいて質量差は、原物質と代謝物との質量差に相当する+16になっていることが一目で分かる。
図7は、図6と同じプロダクトイオンの組み合わせの質量差を求めたテーブルを上に、これに対応するニュートラルロスの組み合わせの質量差を求めたテーブルを下に示したものである。上下のテーブル中のセルの位置は対応しており、上のテーブルにおいて質量差が+16となっているセルの多くに対応した下のテーブル中のセルで、質量差が0となっていることが分かる。これらセルに対応したプロダクトイオンの組み合わせ及びニュートラルロスの組み合わせは、上述の、プロダクトイオンの質量差α=Mod0で、それに対応するニュートラルロスの質量差β=0という条件を満たしており、プロダクトイオンPin’に対応する部分構造が代謝による構造変化部位Pを含んでいると判断できる。図7の上のテーブルの上には、質量−部分構造データ保持部63に格納されている対応表に基づく部分構造(一点鎖線で囲んだ部分)を一部例示している。このように、原物質由来のプロダクトイオンの各質量それぞれに部分構造が対応しているから、プロダクトイオンPin’の部分構造が代謝による構造変化部位Pを含んでいると判断できる部分構造の中から、最小の共通部分構造を容易に見つけ出すことができる。
ただし、原物質のMS2スペクトルの中でMod0と同じ質量差を持つピークがもともと存在する場合、これが代謝物のMS2スペクトルにも現れ、実際には構造変化部位Pを有していないにも拘わらず構造変化部位Pを有する、つまり代謝を受けた部分構造であると誤って判定されてしまうおそれがある。そこで、ステップS5での比較を行う前に、原物質のMS2スペクトルの中でMod0と同じ質量差を持つピークがもともと存在するか否かを判定する。これは、例えば原物質由来のプロダクトイオンの質量を行方向、列方向の両方に並べ、これから計算した質量差を各セル内に記述したテーブルを作成すると分かり易い。このテーブル上で或るプロダクトイオンの質量M1と別のプロダクトイオンの質量M2との差がMod0とほぼ一致していたとする。これは、元のプリカーサイオンの構造を解離させたときに偶然、構造変化部位Pと同じ質量差を持つプロダクトイオンができてしまったためであると考えられる。この場合、代謝物のMS2スペクトルにおいてM2と同じ質量を持つピークは、質量がM1である部分構造の一部が代謝によって構造変化部位Pになったもの、或いは、質量がM2である部分構造と同じもの、のいずれかの可能性がある。これが上述した判別の不確定性である。したがって、上記の事前判定結果を用いて、例えば不確定性のあるプロダクトイオン(又はニュートラルロス)は構造推定から除くことによって代謝物の構造推定を行えばよい。
上記実施例で挙げた具体例では、代謝による構造変化がプロダクトイオンに対応する部分構造に生じていたが、代謝による構造変化がニュートラルロスに対応する部分構造に生じていた場合であっても同じ手法で代謝物の構造推定が可能であることは明らかである。もちろん、その場合には、図7に示した上下のテーブルにおいて、下のテーブルでは代謝による構造変化に対応したニュートラルロス同士の質量差を見いだし、上のテーブルではプロダクトイオン同士の質量差が0になるものを見いだすことになる。また、この場合にも、上述したように構造変化とは関連なく偶然に質量差が一致するイオンがないかどうかの事前の判定処理は必要である。
なお、上記実施例は本発明の一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜に修正、変更、追加などを行っても本願請求の範囲に包含されることは明らかである。
1…イオン源
2…イオンガイド
3…イオントラップ
4…飛行時間型質量分析計
5…イオン検出器
6…データ処理部
61…データ格納部
62…代謝物構造推定部
63…部分構造データ保持部
7…中央制御部
8…分析制御部
9…操作部
10…表示部
2…イオンガイド
3…イオントラップ
4…飛行時間型質量分析計
5…イオン検出器
6…データ処理部
61…データ格納部
62…代謝物構造推定部
63…部分構造データ保持部
7…中央制御部
8…分析制御部
9…操作部
10…表示部
Claims (6)
- 構造既知物質に対する質量分析データ及び該構造既知物質を1回以上解離して得られる断片に対する質量分析データ、並びに、前記構造既知物質とは部分的に構造が相違する未知物質に対する質量分析データ及び前記未知物質を1回以上解離して得られる断片に対する質量分析データ、に基づいて前記未知物質の構造を解析するための質量分析データ解析方法であって、
前記構造既知物質及び前記未知物質に対する質量分析データから求まる両物質の質量差に基づいて構造既知物質と未知物質との構造の相違を予測し、
前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、前記未知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量との差が、前記予測した構造相違による質量差と一致するような、構造既知物質由来の断片の質量と未知物質由来の断片の質量との組み合わせを複数抽出し、
その複数の組み合わせに含まれる未知物質由来の各断片がそれぞれ構造が相違する部分構造であるとみなし、前記組み合わせにおいて未知物質由来の断片と組となる構造既知物質由来の断片の質量から推測される部分構造の情報を用いて、最小の共通部分構造を見いだし、
その見いだされた共通部分構造と、前記構造既知物質の既知の構造と、予測される構造相違とから、未知物質の構造を推定することを特徴とする質量分析データ解析方法。 - 請求項1に記載の質量分析データ解析方法であって、前記断片は、プロダクトイオン、又は、プロダクトイオンとニュートラルロスの両方であることを特徴とする質量分析データ解析方法。
- 請求項2に記載の質量分析データ解析方法であって、
前記組み合わせと同じ質量の組み合わせが、構造既知物質由来の断片に対する質量分析データの中に存在するか否かを確認し、存在する場合には、未知物質の構造を推定する上で該組み合わせを信頼性が低いものとして取り扱うことを特徴とする質量分析データ解析方法。 - 請求項2に記載の質量分析データ解析方法であって、
前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、前記未知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量との差が、前記予測した構造相違による質量差と一致するような、構造既知物質由来の断片の質量と未知物質由来の断片の質量との組み合わせが抽出できない場合に、構造既知物質と未知物質との構造相違の予測を変更した上で、再度、未知物質の構造推定を行うことを特徴とする質量分析データ解析方法。 - 請求項2に記載の質量分析データ解析方法であって、
構造既知物質と未知物質との構造の相違が1箇所であるとの仮定の下に、前記構造既知物質及び前記未知物質に対する質量分析データから求まる両物質の質量差に基づいて構造相違を予測し、
前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、前記未知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量との差が、前記予測した構造相違による質量差と一致するような、構造既知物質由来の断片の質量と未知物質由来の断片の質量との組み合わせが抽出できない場合に、構造既知物質と未知物質との構造の相違が複数箇所であると推定することを特徴とする質量分析データ解析方法。 - 構造既知物質に対する質量分析データ及び該構造既知物質を1回以上解離して得られる断片に対する質量分析データ、並びに、前記構造既知物質とは部分的に構造が相違する未知物質に対する質量分析データ及び前記未知物質を1回以上解離して得られる断片に対する質量分析データ、に基づいて前記未知物質の構造を解析するための質量分析データ解析装置であって、
a)前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、既知である構造既知物質の構造から求まる部分構造とが対応付けて記憶された部分構造情報記憶手段と、
b)前記構造既知物質及び前記未知物質に対する質量分析データから求まる両物質の質量差に基づいて予測される、構造既知物質と未知物質との構造の相違に関する情報を設定するための構造相違予測情報設定手段と、
c)前記構造既知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量と、前記未知物質由来の断片に対する質量分析データから求まる各断片の質量との差が、前記構造相違予測情報設定手段により設定された予測構造相違による質量差と一致するような、構造既知物質由来の断片の質量と未知物質由来の断片の質量との組み合わせを複数抽出する断片組み合わせ抽出手段と、
d)その複数の組み合わせに含まれる未知物質由来の各断片がそれぞれ構造が相違する部分構造であるとみなし、前記組み合わせにおいて未知物質由来の断片と組となる構造既知物質由来の断片の質量に対応付けられた部分構造の情報を前記部分構造情報記憶手段により取得して比較することにより、最小の共通部分構造を見いだし、その見いだされた共通部分構造と、前記構造既知物質の既知の構造と、予測される構造相違とから、未知物質の構造を推定する構造推定手段と、
を備えることを特徴とする質量分析データ解析装置。
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