JP5655925B2 - 応力検出素子、触覚センサー、および把持装置 - Google Patents
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また、特許文献1の触覚センサーでは、所定の1点に対して、剪断力および押圧力のいずれか一方のみしか検出することができない。例えば、剪断力検出用の構造体では、剪断力のみ検出され、押圧力は、この構造体の近傍に位置する押圧力検出用の構造体で検出される。このため、剪断力検出用の構造体が設けられる位置に作用する正確な押圧力を検出することができないという問題がある。
このような応力検出素子では、弾性膜に対象物が接触し、開口部の直線部の直線方向と直交する方向(剪断力検出方向)に剪断力が加わると、弾性膜および支持膜に歪みが生じる。そして、この弾性膜の歪みによりメンブレン全体が撓み、第一圧電体部から電気信号が出力される。また、弾性膜に対象物が接触した際に、メンブレンに対して直交する厚み方向に押圧力が加わると、弾性膜および支持膜が厚み方向に撓み、これにより第二圧電体部から電気信号が出力される。
ここで、剪断力および押圧力を検出するために、それぞれ別の素子を設ける場合では、例えば剪断力検出用の素子が設けられる位置に加えられる押圧力や、押圧力検出用の素子が設けられる位置に加えられる剪断力は、正確に検出することができない。これに対して、上記のように1つのメンブレン上に剪断力を検出するための第一圧電体部、および押圧力を検出するための第二圧電体部を設けることで、このメンブレンに作用する剪断力および押圧力の双方を正確に検出することができる。
また、剪断力検出用の素子、および押圧力検出用の素子をそれぞれ別体として形成する場合、剪断力および押圧力を検出するセンサーを構成するために、2つ素子分のスペースを確保する必要があり、センサーサイズが大型化する。これに対して本発明では、1つの素子分のスペースで剪断力および押圧力の双方を検出可能であり、センサーサイズを小型化することができる。
この発明では、第一直線部に配置される第一圧電体部により、第一直線部に直交する第一剪断方向に作用する剪断力を検出することができ、第二直線部に配置される第一圧電体部により、第二直線部に直交する第二剪断方向に作用する剪断力を検出することができる。これにより、1つの応力検出素子により、メンブレンの面内に作用するあらゆる剪断力を検出することができる。
弾性膜に対象物が接触して剪断力が加えられた際、例えば、開口部の一対の直線部のうち一方を第一辺、他方を第二辺とし、第一辺から第二辺に向かう検出方向に剪断力が加わる場合、弾性膜では、次のような力が作用する。すなわち、弾性膜の第二辺側では、支持体が設けられる一方の面とは反対方向側に盛り上る力が発生し、第一辺側では、支持体の開口部内に入り込む力が発生する。したがって、これらの第一辺および第二辺の双方に第一圧電体部を設けることで、2つの第一圧電体部により剪断方向に働く剪断力を検出することができ、1つの第一圧電体部により剪断力を検出する場合に比べて、より大きい信号値(電流値)により剪断力を検出することができ、検出精度を向上させることができる。
開口部に、一対の第一直線部と、これらの第一直線部に直交する一対の第二直線部が設けられる場合においても、同様に、これらの一対の第一直線部および一対の第二直線部に沿ってそれぞれ第一圧電体部を設けることで、第一直線部に直交する第一剪断力と、第二直線部に直交する第二剪断力とを、大きい信号値により検出することができ、これらの剪断力の検出精度を高めることができる。
このような構成では、第二圧電体部から出力される電流が流れる電極線を支持梁として用いることができ、別途支持梁を設けることなく、構成を簡単にすることができる。
また、例えば剪断力検出用の素子と押圧力検出用の素子とを交互に配設したセンサーアレイ形状とした場合、単位面積当たりに配置される剪断力検出用の領域、押圧力検出用の領域は、それぞれ前記単位面積の約半分の面積となる。これに対して、本発明では、応力検出用素子をアレイ状に配設することで、前記単位面積の全面積を剪断力検出用および押圧力検出用の領域として使用することができる。したがって、単位面積当たりにおける応力の分析能も向上し、剪断力および押圧力を精度よく検出することが可能となる。
この発明では、規制溝が形成されることで、隣接する応力検出素子に作用した剪断力や押圧力が弾性膜を介して伝達され、ノイズ成分として検出されることがなく、1つの応力検出素子に係る剪断力および押圧力をより精度良く検出することができる。
以下、本発明に係る第一実施形態の応力検出素子について、図面に基づいて説明する。
〔1.応力検出素子の構成〕
図1は、第一実施形態の応力検出素子200の概略構成を示す平面図であり、図2は、応力検出素子200の断面図である。
センサー基板11は、例えばSiにより形成され、厚み寸法が例えば200μmに形成されている。このセンサー基板11には、図1および図2に示すように、開口部111が形成されている。この開口部111は、センサー基板11の厚み方向から当該センサー基板11を見る平面視(センサー平面視)において、正方形状に形成されており、正方形の辺111A,111Bが本発明の第一直線部を構成し、辺111C,111Dが本発明の第二直線部を構成する。本実施形態では、この開口部111は、例えば一辺の長さ寸法Lが500μmに形成されている。
支持膜14は、図示は省略するが、センサー基板11上に例えば厚み寸法が3μmに成膜されるSiO2層と、このSiO2層上に積層される厚み寸法が例えば400nmのZrO2層との2層構造により形成されている。ここで、ZrO2層は、後述する剪断力検出用圧電体210や押圧力検出用圧電体310の焼成形成時に、剪断力検出用圧電膜211や押圧力検出用圧電膜311の剥離を防止するために形成される層である。すなわち、剪断力検出用圧電膜211および押圧力検出用圧電膜311が例えばPZTにより形成される場合、焼成時にZrO2層が形成されていないと、剪断力検出用圧電膜211に含まれるPbがSiO2層に拡散して、SiO2層の融点が下がり、SiO2層の表面に気泡が生じ、この気泡によりPZTが剥離してしまう。また、ZrO2層がない場合、剪断力検出用圧電膜211の歪みに対する撓み効率が低下するなどの問題もある。これに対して、ZrO2層がSiO2層上に形成される場合、剪断力検出用圧電膜211の剥離、撓み効率の低下などの不都合を回避することが可能となる。
また、以降の説明において、図1に示すようなセンサー平面視において、支持膜14のうち、開口部111を閉塞する領域をメンブレン141と称す。
剪断力検出用圧電体210は、メンブレン141上で、開口部111の各辺111A〜111Dに沿って、各辺111A〜111Dの直線方向と同一方向に長手となる矩形状に形成される。また、各剪断力検出用圧電体210は、センサー平面視において、開口部111の各辺111A〜111Dを挟んで、開口部111の内外に跨って配置されている。
これらの剪断力検出用圧電体210は、膜状の剪断力検出用圧電膜211と、この剪断力検出用圧電膜211膜厚み方向にそれぞれ形成される剪断力検出用下部電極212および剪断力検出用上部電極213と、を備えている。
また、この剪断力検出用上部電極213としても、剪断力検出用下部電極212と同様に導電性薄膜であれば、いかなる素材を用いてもよいが、本実施形態では、Ir薄膜を用いる。
ここで、圧電積層部214は、メンブレン141の内部と外部に亘って形成されるが、圧電積層部214のメンブレン141内の剪断力検出方向(例えば、剪断力検出用圧電体210A,210BではX方向、剪断力検出用圧電体210C,210DではY方向)に沿う寸法Wp1が、圧電積層部214の長手方向(例えば、剪断力検出用圧電体210A,210BではY方向、剪断力検出用圧電体210C,210DではX方向)に沿う寸法Lpの1/3以下に形成されていることが好ましい。例えば、本実施形態では、Wp1=30μm、Lp=260μmに形成されている。これは、圧電積層部214のメンブレン141内の剪断力検出方向に沿う寸法Wp1が、圧電積層部214の長手方向に沿う寸法Lpの1/3よりも大きく形成される場合、圧電積層部214において、圧電積層部214の長手方向に沿う剪断力の影響を受ける可能性が大きくなるためである。これに対して、上記のように、3Wp1≦Lpとなるように、圧電積層部214の寸法を形成することで、圧電積層部214の長手方向に沿う剪断力の影響を除外し、剪断力検出方向の剪断力のみを精度良く検出することが可能となる。
ここで、圧電積層部214のメンブレン141の外部におけるX方向に沿う寸法Wp2が、支持膜14および圧電積層部214の膜厚総和の5倍よりも小さい寸法である場合、次のような問題がある。すなわち、メンブレン141が剪断力により変形する際、各層が剪断力により開口部111内に入り込もうとするモーメント力、または開口部111から離れる方向に浮き上がろうとするモーメント力が発生する。これらのモーメント力は、支持膜14、剪断力検出用下部電極212、剪断力検出用圧電膜211、および剪断力検出用上部電極213のそれぞれに作用して、メンブレン141および剪断力検出用圧電体210を変形させる。この時、剪断力検出用圧電体210における圧電積層部214のメンブレン141の外部の領域において、開口部111の縁(辺111A〜111D)から離れるに従ってメンブレン141の変形に係る応力も小さくなる。ここで、圧電積層部214におけるメンブレン141の外部に形成される部分のX方向寸法Wp2がWp2<5t(tは、膜厚総和)となる場合、メンブレン141の変形に係る応力を十分に受けることができないため、安定したメンブレン141の変形が得られない。また、剪断力検出用圧電体210を構成する各膜311,312,313が剥離するおそれもある。これに対して、寸法Wp2がWp2≧5tとなるように剪断力検出用圧電体210を形成することで、メンブレン141の変形を安定させることができ、剥離などの不都合も回避することができる。
この弾性膜15は、剪断力検出用圧電体210の保護膜として機能するとともに、当該弾性膜15に加わる剪断力をメンブレン141に伝達して撓ませる。そして、この弾性膜15の撓みにより、メンブレン141が撓むことで、剪断力検出用圧電体210も撓み、その撓み量に応じた電気信号が出力される。
押圧力検出用圧電体310は、メンブレン141上で、開口部111の中心位置に形成される。この押圧力検出用圧電体310は、本発明の第二圧電体層である押圧力検出用圧電膜311と、押圧力検出用圧電膜311および支持膜14の間に配置される、本発明の第二下部電極層である押圧力検出用下部電極312と、押圧力検出用圧電膜311および弾性膜15の間に配置される、本発明の第二上部電極層である押圧力検出用上部電極313と、を備えている。
これらの押圧力検出用圧電膜311、押圧力検出用下部電極312、および押圧力検出用上部電極313は、上述した応力検出素子200の剪断力検出用圧電膜211、剪断力検出用下部電極212、剪断力検出用上部電極213と同様の素材により、同一厚み寸法により形成されている。つまり、剪断力検出用圧電体210および押圧力検出用圧電体310は、応力検出素子200の製造時において、例えばスパッタリングなどにより同時に成膜され、フォトリソグラフィ法などによりパターニングされることで同時に形成される。
すなわち、正方形状の開口部111の対角線に沿って、押圧力検出用下部電極線314、押圧力検出用上部電極線315、および2つのダミー電極線316A,316Bが形成されている。このように、各電極線314,315,316A,316Bをパターニングすることにより、メンブレン141の剛性のバランスが安定化し、例えば、押圧力を受けた際にメンブレン141の+X側が−X側よりも大きく撓むなどといった不都合が回避される。
次に上記のような応力検出素子200の動作について、図面に基づいて説明する。
応力検出素子200では、X方向に沿って剪断力が加えられた際には、剪断力検出用圧電体210A,210Bによりその剪断力が検出され、Y方向に沿って剪断力が加えられた際には、剪断力検出用圧電体210C,210Dによりその剪断力が検出される。また、センサー基板11に対して直交する押圧力が加えられた際には、押圧力検出用圧電体310によりその押圧力が検出される。
ここでは、一例として、メンブレン141の面方向に直交する押圧力と、X方向に向う剪断力とが加えられた場合における、剪断力検出用圧電体210A,210Bによる剪断力の検出方向について説明する。なお、Y方向に向かって剪断力が加えられた場合については、同様の動作により剪断力が検出されるものであるから、その説明を省略する。
図3は、剪断力検出素子に把持対象物Zが接触した状態を示す図であり、(A)は、メンブレン141の変形前の状態を示す図、(B)は、応力(押圧力および剪断力)によりメンブレン141が変形した状態を示す図である。
すなわち、弾性膜15に剪断力が発生すると、メンブレン141の−X側の面では、矢印M1に示すように、開口部111内に入り込むモーメント力が発生し、+X側の面では、矢印M2に示すように、開口部111から浮き上がろうとするモーメント力が発生する。また、弾性膜15に対象物Zが接触して、矢印P2の方向に押圧力が加えられることで、図3中の矢印F1に示すような力が加えられるため、図(3)に示すように、メンブレン141に開口部111の内部に沈み込むような撓みが発生する。
なお、図示は省略するが、押圧力が加えられず、剪断力のみが作用する場合では、メンブレン141は、1波長分の略sin波形状に撓み、剪断力が加えられず、押圧力のみが作用する場合では、メンブレン141は、全体が開口部111内に凸となる円弧状に撓む。
上記のような応力検出素子200により押圧力および剪断力を検出するためには、予め剪断力検出用上部電極213および剪断力検出用下部電極212間、押圧力検出用上部電極313および押圧力検出用下部電極312間に電圧を印加し、図4(A)に示すように、電圧を印加して分極させておく。この状態で、メンブレン141に撓みが発生すると、剪断力検出用圧電膜211および押圧力検出用圧電膜311に電位差が発生する。
一方、+X方向側の剪断力検出用圧電体210の剪断力検出用圧電膜211は、モーメント力により、図4(C)に示すように、剪断力検出用圧電膜211に圧縮応力が発生し、膜厚も大きくなる。これにより、剪断力検出用圧電膜211では、分極モーメント量が増大し、剪断力検出用上部電極213に負電荷、剪断力検出用下部電極212に正電荷が発生する。このため、剪断力検出用上部電極213から剪断力検出用下部電極212に向かう方向に電流が流れ、電気信号として出力される。
また、剪断力のみが加えられ押圧力が加えられない場合には、押圧力検出用圧電体310からは電流が検出されない。したがって、この場合、図5の(i)に示すような電流検出パターンの信号値が得られる。また、−X方向に沿う剪断力が加えられた場合、メンブレンが逆方向に撓むため、図5(ii)に示すような電流検出パターンの信号値が得られる。
ここで、剪断力検出用圧電体210Aから出力される信号値A、剪断力検出用圧電体210Bから出力される信号値B、剪断力検出用圧電体210Cから出力される信号値C、剪断力検出用圧電体210Dから出力される信号値D、押圧力検出用圧電体310から出力される信号値Eを用いると、X方向に沿う剪断力Sx、Y方向に沿う剪断力Sy、および押圧力Oは、次式により演算することが可能となる。なお、下記(1)式〜(3)式において、k1、k2は、それぞれ定数である。なお、式(1)(2)において、sign(M−N)とは、(M−N)の値が負である場合に「−1」を返し、正である場合に「+1」を返し、0である場合に「0」を返す演算式を意味する。また、ABS(M−N)とは、(M−N)の絶対値を意味する。
Sy=sign(C−D)×(abs(C−D)−k 1 ×E)・・・(2)
O=E−k 2 ×(A+B+C+D)/4 ・・・(3)
上記のような応力検出素子200は、−X方向側の剪断力検出用圧電体210Aから出力される信号値A、および+X方向側の剪断力検出用圧電体210Bから出力される信号値Bを加減算して出力する出力回路と、−Y方向側の剪断力検出用圧電体210Cから出力される信号値C、および+Y方向側の剪断力検出用圧電体210Dから出力される信号値Dを加減算して出力する出力回路と、を備えている。
これらの出力回路は、例えばセンサー基板11上に形成されていてもよく、センサー基板11とは別体として設けられ、センサー基板11上に形成される剪断力検出用下部電極212および剪断力検出用上部電極213に接続される構成などとしてもよい。なお、センサー基板11と別体として設けられる場合では、例えば応力検出素子200が取り付けられる装置などに収納される構成などとしてもよい。
本実施形態の応力検出素子200の出力回路220において、剪断力検出用圧電体210Aの剪断力検出用下部電極212には接続線224A1が接続され、剪断力検出用圧電体210Aの剪断力検出用上部電極213には、接続線224A2が接続され、剪断力検出用圧電体210Bの剪断力検出用下部電極212には、接続線224B1が接続され、剪断力検出用圧電体210Bの剪断力検出用上部電極213には、接続線224B2が接続されている。そして、この出力回路220は、前記接続線224A1,221A2,221B1,221B2の接続状態を切り替えるスイッチング回路221と、増幅器(Amp)222と、積分器223と、を備えている。この出力回路220では、このスイッチング回路221の切り替え状態により、加算回路および減算回路のいずれか一方として機能する。
これは、図3(B)に示すように、剪断力が作用した際には、剪断力検出用圧電体210Aと剪断力検出用圧電体210Bとでは、撓み方向が逆となるためであり、これらの剪断力検出用圧電体210Aおよび剪断力検出用圧電体210Bから出力される電流は、正負が逆転する。したがって、信号値Aと信号値Bとの差を出力するように、剪断力検出用圧電体210Aの剪断力検出用上部電極213と、剪断力検出用圧電体210Bの剪断力検出用下部電極212とを接続し、剪断力検出用圧電体210Aの剪断力検出用下部電極212と、剪断力検出用圧電体210Bの剪断力検出用上部電極213とを接続することで、剪断力検出用圧電体210A,210Bから出力される電流の正負符号を揃えて、その信号を増幅器(Amp)222に出力する。
図7(A)は、図6中の点Saでの発信波形を示す図であり、(B)は、図6中の点Sbでの発信波形を示す図である。
応力検出素子200は、弾性膜15に対象物Zが当接してX方向に剪断力が発生するタイミングt1で、図7(A)に示すように、例えば正の電気信号が出力される。また、例えば対象物Zが弾性膜15から離れて剪断力がなくなるタイミングt2で、弾性膜15が弾性により元の位置に戻るため、メンブレン141も元の位置に戻り、この時発生する剪断力検出用圧電体210の変形により、負の電気信号が出力される。このような電気信号を積分器223に入力することで、図7(B)に示すような、剪断出力信号(A−B)が得られる。この剪断出力信号では、剪断力が作用している期間中、剪断力に応じた信号が連続的に出力される。
また、この時、剪断力検出用圧電体210Cおよび剪断力検出用圧電体210Dに接続される出力回路も同様に、剪断力検出用圧電体210Cからの信号値と剪断力検出用圧電体210Dからの信号値Dとを加算した信号値(C+D)を得る。
そして、図示しない演算回路に、上述した信号値(A+B),(C+D)と、押圧力検出用圧電体310から得られる信号値Eとを出力し、(3)式に基づいて演算が実施され、押圧力検出信号が出力される。
上述したように、上記第一実施形態の応力検出素子200は、開口部111が形成されるセンサー基板11上に、支持膜14が設けられ、この支持膜14上に、開口部111の各辺111A〜111Dに沿ってメンブレン141の内外に跨って配置される剪断力検出用圧電体210が形成される。また、メンブレン141の内側には、剪断力検出用圧電体210から離れて押圧力検出用圧電体310が形成される。さらに、これらの支持膜14、各圧電体210,310の上層に弾性膜15が積層形成される。このような構成の応力検出素子200では、弾性膜15に剪断力および押圧力が加わることで、メンブレン141も撓み、剪断力検出用圧電体210から剪断力に応じた電気信号、押圧力検出用圧電体310から押圧力に応じた電気信号が出力される。したがって、これらの電気信号を検出することで、1つのメンブレン141に作用する剪断力および押圧力の双方を正確に検出することができる。また、剪断力および押圧力を検出するために、剪断力を検出するための検出素子、および押圧力を検出するための検出素子の2つの素子を設ける場合に比べて、上記応力検出素子200では1つの素子で剪断力および押圧力の双方を検出することができ、センサーサイズを小型化することができる。
このような構成の応力検出素子200では、剪断力検出用圧電体210A、210BによりX方向の剪断力を検出することができ、剪断力検出用圧電体210C,210DによりY方向の剪断力を検出することができる。すなわち、1つの応力検出素子200により、X方向およびY方向に対して作用する剪断力をそれぞれ検出することができる。また、これらの剪断力を検出することで、メンブレン141の面方向に作用するあらゆる方向の剪断力を検出することができる。
このため、メンブレン141のX方向の撓みを2つの剪断力検出用圧電体210A,210Bにより検出し、Y方向の撓みを2つの剪断力検出用圧電体210C,210Dにより検出することができる。したがって、これらの信号値の絶対値を加算することで、より大きな信号値を得ることができ、より精度の高い正確な剪断力を検出することができる。
すなわち、押圧力検出用下部電極線314およびダミー電極線316Aは、メンブレン141の中心点を通るX方向に平行なX仮想線Lx(図1参照)に対して線対称となる位置に設けられ、押圧力検出用上部電極線315およびダミー電極線316Bも、メンブレン141の中心点を通るX仮想線に対して、線対称となる位置に設けられている。また、押圧力検出用下部電極線314およびダミー電極線316Bは、メンブレン141の中心点を通るY方向に平行なY仮想線Ly(図1参照)に対して線対称となる位置に設けられ、押圧力検出用上部電極線315およびダミー電極線316Aも、メンブレン141の中心点を通るY仮想線に対して、線対称となる位置に設けられている。このように、電極線314,315,316A,316Bを設けることで、メンブレン141の撓みを安定化させることができる。
この場合、例えばX方向の剪断力を検出する際に、剪断力検出用圧電体210Aや剪断力検出用圧電体210Bの+Y方向側の領域が−Y方向側の領域よりも大きく撓み、剪断力の検出精度が低下してしまう。
ここで、押圧力検出用下部電極線314および押圧力検出用上部電極線315を、−X方向側に位置する開口部111の頂点112A,112Bに向かって形成することで、メンブレン141のY方向に対する剛性は一様にすることができ、X方向の剪断力を検出する場合には、検出精度を向上させることができる。しかしながら、この場合は、メンブレン141の−X方向側の領域が撓みにくく、+X方向側の領域が撓みやすくなるため、Y方向の剪断力の検出精度が低下してしまう。
これに対して、上記実施形態のように、ダミー電極線316A,316Bを形成し、各電極線314,315,316A,316Bを、X仮想線Lx、Y仮想線Lyに対して線対称となるように、すなわち、開口部111の対角線に沿うように形成することで、X方向およびY方向の双方に対して、メンブレン141の撓みを安定化させることができ、X方向およびY方向の剪断力の検出精度、押圧力の検出精度を向上させることができる。
また、押圧力を検出する際には、スイッチング回路221の接続状態を図6(B)に示すように、接続線224A1と接続線224B1とを接続し、接続線224A2と接続線224B2とを接続して、剪断力検出用圧電体210Aからの信号値Aと、剪断力検出用圧電体210Bからの信号値Bとの和を出力回路220から出力する。これにより、(3)式に基づいて、容易に正確な押圧力を測定することができる。
次に、上述したような応力検出素子200の応用例として、応力検出素子200を備えた触覚センサーについて、図面に基づいて説明する。
図9は、触覚センサーの一部を断面した断面図である。
これらの応力検出素子200は、本発明の支持体を構成するセンサー基板11上に、マトリクス状に配置されている。ここで、これらの応力検出素子200において、センサー基板11、支持膜14、および弾性膜15は、共通の部材により構成されている。すなわち、1つのセンサー基板11にマトリクス状に配置される複数の開口部111が形成されており、このセンサー基板11の一面側の全面に、連続する支持膜14が形成されている。これにより、各開口部111を覆うメンブレン141が形成され、このメンブレン141上に、剪断力検出用圧電体210および押圧力検出用圧電体310が形成されている。また、支持膜14上には、支持膜14の全面を覆って弾性膜15が形成されている。
すなわち、この図10に示すように、弾性膜15の接触面から支持膜14の表面に亘って規制溝151が形成される構成などとしてもよい。この場合、より確実に、隣り合う応力検出素子200間での弾性膜15の撓みの伝搬を防ぐことができる。
さらには、図8に示すセンサー平面視において、規制溝151が各応力検出素子200を囲う矩形環状に形成される例を示したが、これに限定されず、例えば、センサー平面視において、各応力検出素子200を囲う略円環状に形成される構成などとしてもよい。
上述したような第二実施形態の触覚センサー10は、複数の応力検出素子200を備え、これらの応力検出素子200がマトリクス状に配置される二次元アレイ構造に構成されている。
このため、この触覚センサー10を、対象物に接触する例えばセンサー面に設けることで、対象物がセンサー面に与える剪断力および押圧力を検出することができる。
また、例えば、剪断力用の検出素子と、押圧力用の検出素子とを交互に配設することで形成されるセンサーでは、1点に作用する剪断力および押圧力の双方を検出することができない。例えば、剪断力検出用の検出素子が設けられる位置では、押圧力を検出することができない。しかしながら、本実施形態のように、1つの応力検出素子200を用いる構成とすることで、触覚センサー10の任意の点に作用する剪断力と押圧力との双方を検出することができる。
さらに、例えば剪断力用の検出素子と、押圧力用の検出素子とを交互に配設したセンサーでは、単位面積当たりにおける剪断力を検出可能な領域は、単位面積のほぼ半分の面積であり、押圧力を検出可能な領域は残りの半分の面積となる。また、X方向の剪断力を検出するための検出素子と、Y方向の剪断力を検出するための検出素子と、押圧力を検出するための検出素子とを交互に設ける場合では、X方向の剪断力を検出可能な面積、Y方向の剪断力を検出可能な面積、押圧力を検出可能な面積は、それぞれ単位面積の1/3となってしまう。これに対して、上記第二実施形態の触覚センサー10では、単位面積のほぼ全面積において、X方向の剪断力、Y方向の剪断力、および押圧力を検出できる。したがって、単位面積当たりの応力分析能も向上し、精度の高い応力検出を実施することができる。
次に、上述した触覚センサー10を用いた装置の応用例として、触覚センサー10を備えた把持装置について、図面に基づいて説明する。
図11において、把持装置1は、少なくとも一対の把持アーム2を備え、この把持アーム2により、把持対象物Zを把持する装置である。この把持装置1としては、例えば製品を製造する製造工場などにおいて、ベルトコンベアーなどにより搬送された対象物を把持して持ち上げる装置である。そして、この把持装置1は、前記把持アーム2と、把持アーム2を駆動するアーム駆動部3と、アーム駆動部3の駆動を制御する制御装置4と、を備えて構成されている。
保持部材6は、例えば把持アーム2の移動方向に沿う案内溝を備え、この案内溝内で把持アーム2を保持することで、把持アーム2を移動可能に保持する。また、保持部材6は、鉛直方向に移動可能に設けられている。
駆動源7は、例えば駆動モーターであり、制御装置4から入力される駆動制御信号に応じて駆動力を発生させる。
駆動伝達部8は、例えば複数のギアにより構成され、駆動源7で発生した駆動力を把持アーム2および保持部材6に伝達させ、把持アーム2および保持部材6を移動させる。
なお、本実施形態では、一例として上記構成を示したが、これに限定されるものではない。すなわち、把持アーム2を保持部材6の案内溝に沿って移動させる構成に限らず、把持アームを回動可能に保持する構成などとしてもよい。駆動源7としても駆動モーターに限られず、例えば油圧ポンプなどにより駆動される構成としてもよく、駆動伝達部8としても、例えば駆動力を歯車により伝達する構成に限らず、ベルトやチェーンにより伝達する構成、油圧などにより駆動されるピストンを備えた構成などとしてもよい。
具体的には、制御装置4は、図11に示すように、アーム駆動部3および触覚センサー10に接続され、把持装置1の全体動作を制御する。この制御装置4は、触覚センサー10から入力される剪断力検出信号、および押圧力検出信号を読み取る信号検出手段41、対象物Zの滑り状態を検出する把持検出手段42、およびアーム駆動部3に把持アーム2の駆動を制御するための駆動制御信号を出力する駆動制御手段43を備えている。また、この制御装置4としては、例えばパーソナルコンピューターなどの汎用コンピューターを用いることもでき、例えばキーボードなどの入力装置や、対象物Zの把持状態を表示させる表示部などを備える構成としてもよい。
また、信号検出手段41、把持検出手段42、および駆動制御手段43は、プログラムとして例えばメモリーなどの記憶部に記憶され、CPUなどの演算回路により適宜読み出されて実行されるものであってもよく、例えばICなどの集積回路により構成され、入力された電気信号に対して所定の処理を実施するものであってもよい。
ここで、図12に、把持装置1の把持動作における触覚センサーに作用する押圧力および剪断力の関係を示す図を示す。
図12において、押圧力が所定値に達するまでは、押圧力の増加に応じて剪断力が増加する。この状態は、対象物Zと把持面5との間に動摩擦力が作用している状態であり、把持検出手段42は、対象物Zが把持面5から滑り落ちている滑り状態で、把持が未完了であると判断する。一方、押圧力が所定値以上となると、押圧力を増大させても剪断力が増加しない状態となる。この状態は、対象物Zと把持面5との間に静摩擦力が作用している状態であり、把持検出手段42は、対象物Zが把持面5により把持された把持状態であると判断する。
具体的には、剪断力検出信号の値が、静摩擦力に対応した所定の閾値を越える場合に、把持が完了したと判断する。
図13は、制御装置4の制御による把持装置1の把持動作を示すフローチャートである。図14は、把持装置1の把持動作時において、アーム駆動部3への駆動制御信号、触覚センサー10から出力される検出信号の発信タイミング示すタイミング図である。
駆動制御手段43は、把持検出手段42において、押圧力検出信号を検出すると、把持アーム2の近接移動(対象物Zへの押圧)を停止させる(図13:ステップS3、図14:タイミングT2)。また、駆動制御手段43は、アーム駆動部3に駆動制御信号を出力し、把持アーム2を上方に持ち上げる動作(持上げ動作)を実施させる(図13:ステップS4、図14:タイミングT2〜T3)。この時、制御装置4は、応力検出素子200に制御信号を出力し、出力回路220のスイッチング回路221を、図6(A)に示すような剪断力検出用の切り替え状態とし、演算回路から剪断力検出信号を出力させる。
把持検出手段42は、信号検出手段41に入力される剪断力検出信号に基づいて、滑りがあるか否かを判断する(ステップS5)。
すなわち、制御装置4は、図14におけるタイミングT3において、駆動制御手段43にて把持動作を実施させ、対象物Zへの押圧力を増大させ、信号検出手段41にて、再び応力検出素子200の剪断力検出用圧電体210から出力される剪断力検出信号を検出する。以上のような滑り検知動作(タイミングT2〜T6)を繰り返し、剪断力検出信号が、所定の閾値S1以上となった場合(タイミングT6)に、ステップS5において、滑りがない、すなわち把持が完了したと判断し、滑り検知動作を停止させる。
上述したような第三実施形態の把持装置1では、上記第二実施形態の触覚センサー10を備えている。このような触覚センサー10は、上述したように、任意位置における剪断力および押圧力を精度良く検出することができるものであるため、把持装置1においても精度の高い剪断力検出信号および押圧力検出信号に基づいて、正確な把持動作を実施することができる。
また、このような触覚センサー10では、X方向およびY方向の双方に対して剪断力を検出することができる。したがって、第三実施形態では、対象物Zを持ち上げる際の剪断力を測定したが、例えばベルトコンベアー上で搬送される対象物に対して把持を実施する際に、搬送方向への剪断力をも測定することができる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
図15において、応力検出素子200Aは、X方向の剪断力と押圧力を検出する検出素子であり、互いに平行となる一対の直線部(辺111A,111B)を有する開口部111を備えたセンサー基板11と、支持膜14と、剪断力検出用圧電体210と、押圧力検出用圧電体310と、弾性膜15とを備えている。なお、図15には、開口部111が矩形状に形成される例を示すが、X方向に剪断力が加わった際に、メンブレン141にsin波形状の撓みを発生させる形状であればよい。したがって、例えば、辺111A、111B、およびこれらの辺111A,111Bの両端部間を結ぶ半円形状の曲線部を備えた開口部111が形成されるものであってもよい。
また、この応力検出素子200Aでは、辺111Aに沿って剪断力検出用圧電体210が設けられ、他方の辺111Bには剪断力検出用圧電体210が設けられない。なお、一対の辺111A,111Bの双方に剪断力検出用圧電体210が設けられる構成としてもよい。
なお、この応力検出素子200Aでは、X方向に沿う剪断力と押圧力とのみを検出するため、剪断力検出方向であるX方向と平行するX仮想線Lxに対して線対称な位置に押圧力検出用下部電極線314および押圧力検出用上部電極線315が設けられていればよい。したがって、例えば押圧力検出用下部電極線314が開口部111の−X+Y方向側頂点112Bに向かって延出し、押圧力検出用上部電極線315が開口部111の−X−Y方向側頂点112Aに向かって延出して形成される構成であってもよく、第一実施形態の応力検出素子200のように、ダミー電極線316A,316Bを設け、開口部111の対角線に沿って各電極線314,315,316A,316Bをパターニングする構成としてもよい。
Claims (9)
- 互いに平行である一対の第一直線部を外周縁に有する開口部を備えた支持体と、
前記支持体上に形成されて前記開口部を閉塞する支持膜と、
前記支持体を前記支持膜の膜厚み方向から見る平面視において、前記開口部の外周縁の前記一対の第一直線部のうち少なくとも一方の第一直線部の一部に重なり前記開口部の内外に跨る領域であって、かつ前記支持膜上に設けられた第一圧電体部と、
前記平面視において、前記開口部の内側かつ前記第一圧電体部から離間した位置であって、かつ前記支持膜上に設けられた第二圧電体部と、
前記第一圧電体部、前記第二圧電体部、および前記支持膜を覆う弾性膜と、
前記第一圧電体部から出力される信号値および前記第二圧電体部から出力される信号値に基づいて応力検出信号を出力する出力回路と、
を具備したことを特徴とする応力検出素子。 - 請求項1に記載の応力検出素子において、
前記開口部は、前記一対の第一直線部と、前記一対の第一直線部に直交する方向に沿う一対の第二直線部と、を外周縁に備え、
前記第一圧電体部は、前記支持膜上であって、前記平面視において、前記一対の第一直線部のうちの少なくとも一方の第一直線部の一部に重なり前記開口部の内外に跨る領域、および前記一対の第二直線部のうちの少なくとも一方の第二直線部の一部に重なり前記開口部の内外に跨る領域のそれぞれに設けられる
ことを特徴とする応力検出素子。 - 請求項1または請求項2に記載の応力検出素子において、
前記第一圧電体部は、前記一対の第一直線部および前記一対の第二直線部のうちの少なくとも一方の一対の双方に対して、それぞれ設けられる
ことを特徴とする応力検出素子。 - 請求項1から請求項3のいずれかに記載の応力検出素子において、
前記第二圧電体部は、前記平面視において、前記開口部の中心位置に設けられ、
前記支持膜上には、前記平面視において、前記第二圧電体部の中心点を通り、かつ前記一対の第一直線部に直交する直線に対して線対称となる位置に、それぞれ支持梁が設けられる
ことを特徴とする応力検出素子。 - 請求項4に記載の応力検出素子において、
前記開口部は、前記平面視において、矩形状に形成され、
前記支持梁は、前記平面視において、前記開口部の対角線上に形成される
ことを特徴とする応力検出素子。 - 請求項4または請求項5に記載の応力検出素子において、
前記第二圧電体部は、前記支持膜上に形成される第二下部電極層、この第二下部電極層の上層に形成される第二圧電体層、および、この第二圧電体層の上層に形成される第二上部電極層を備え、
前記支持梁は、前記第二下部電極層に接続される第二下部電極線、および、前記第二上部電極層に接続される第二上部電極線を備える
ことを特徴とする応力検出素子。 - 請求項1から請求項6のいずれかに記載の応力検出素子を複数備えるとともに、前記応力検出素子がアレイ状に配列される
ことを特徴とする触覚センサー。 - 請求項7に記載の触覚センサーにおいて、
前記弾性膜は、隣り合う前記応力検出素子の間の位置に、前記弾性膜間の撓み伝達を規制する規制溝が設けられる
ことを特徴とする触覚センサー。 - 請求項7または請求項8の触覚センサーを備え、対象物を把持する把持装置であって、
前記対象物を把持するとともに、前記対象物に接触する接触面に前記触覚センサーが設けられる少なくとも2本の把持アームと、
前記触覚センサーから出力される前記応力検出信号に基づいて、前記対象物のすべり状態を検出する把持検出手段と、
前記すべり状態に基づいて、前記把持アームの駆動を制御する駆動制御手段と、
を備えることを特徴とする把持装置。
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