JP5652811B2 - スルホン化ポリマー溶液の製造方法およびその利用 - Google Patents

スルホン化ポリマー溶液の製造方法およびその利用 Download PDF

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Description

本発明は、固体高分子形燃料電池に好適な高分子電解質膜および触媒層バインダーなどの電解質材料作製に用いるスルホン化ポリマー溶液の製造方法に関するものである。
スルホン化ポリマーの製造方法としては、ポリマーを濃硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸などのスルホン化剤を用いてスルホン化させることが知られている。特に、濃硫酸を用いてスルホン化する方法は簡便なスルホン化法として一般的に用いられており、例えば特許文献1では、濃硫酸を用いてポリマーを溶解しスルホン化しているが、スルホン化に100時間もの時間を要する。また、生じたスルホン化ポリマーを大量の水に加えて沈殿させ、粉砕後、酸が除ききれるまで洗浄を繰り返すといった、多段階の精製工程を行う必要があるため、スルホン化ポリマーの回収率が低下すると考えられ、またこの精製工程では大量の酸と水を混合するため激しく発熱して危険であり、また大量の酸性廃液が排出されるといった問題があった。また、非特許文献1では、ポリマーを溶媒に溶かし、クロロスルホン酸を滴下している。しかしながら、この方法では、スルホン化されたポリマーの溶解度が低下し系中に析出するために、反応後のスルホン化ポリマーを系中から取り出すのが困難であるなど、実用的ではなかった。特許文献2では、架橋したポリマーの膜をクロロホルム中でクロロスルホン酸を用いてスルホン化しているが、スルホン化に100時間を要している。スルホン化されたポリマーは膜の形状であるため、簡単な洗浄のみで酸が除去可能であるが、このスルホン化ポリマーの膜は、明らかに膜の表面と内部とでスルホン化の程度に差が生じてしまい、スルホン化ポリマーが架橋されているため製膜しなおすことができず、膜内部にスルホン酸基(スルホ基)導入量の少ない部位が残ってしまうという問題があった。
特開2006−313740号公報 特開2006−282957号公報
European Polymer Journal,2006,42,1206−1214.
すなわち、従来のスルホン化ポリマーの製造方法では、短時間でスルホン化反応を行い、高収率かつ反応器からの取出しが容易であり、さらに、高分子電解質膜などの電解質材料の内部と表面とでスルホン酸基導入量が実質的に均一なスルホン化ポリマー材料は製造出来なかった。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、電解質材料の表面と内部でのスルホン酸基量の差を無くすために、ポリマーをスルホン化してから成型加工することとし、スルホン化の工程においてポリマーとスルホン化ポリマーのいずれにも溶解性の低い溶媒を用いることで、表面積の多い固体状のポリマーを固体状のままスルホン化することが可能であることを見出し、またスルホン化後の形状が取り出しに適していることから、反応後に反応器からスルホン化ポリマーを取り出す工程、及び取り出したスルホン化ポリマーを洗浄する工程が簡便になり、製造工程としてコスト面で優位であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(A)固体状のポリマーをスルホン化溶液中でスルホン化させ、固体状のスルホン化ポリマーを製造する工程、および(B)上記固体状のスルホン化ポリマーを溶媒に溶解する工程を含む、スルホン化ポリマー溶液の製造方法に関する。
上記固体状のポリマー、及び、上記固体状のスルホン化ポリマーは、フィルム形状であることが好ましい。
上記(A)工程において、上記固体状のポリマーを、支持体で夾持した状態でスルホン化させることが好ましい。
上記スルホン化溶液が、有機溶媒を含有することが好ましい。
上記有機溶媒が、ハロゲン系溶媒であることが好ましい。
上記有機溶媒が、1,2−ジクロロエタン、1−クロロブタン、1−クロロペンタンおよび1−クロロオクタンからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
上記ポリマーが、主鎖に芳香族基を含む構造を有することが好ましい。
上記ポリマーが、ブロック共重合体であることが好ましい。
上記ポリマーが、スルホン酸基が導入されるブロックとスルホン酸基が導入されないブロックを含むことが好ましい。
上記ポリマーが、下記式(3)の構造を含むことが好ましい。
Figure 0005652811
上記ポリマーが、繰り返し単位中にスルホン酸基を3個以上導入することができるブロックを有することが好ましい。
上記(A)工程において、スルホン化剤としてクロロスルホン酸を用いることが好ましい。
さらに、本発明は、上記のスルホン化ポリマー溶液の製造方法を用いて得られるスルホン化ポリマー溶液に関する。
さらに、本発明は、上記のスルホン化ポリマー溶液の製造方法を含むことを特徴とする、高分子電解質膜の製造方法に関する。
さらに、本発明は、上記のスルホン化ポリマー溶液の製造方法を含むことを特徴とする、触媒層バインダー溶液の製造方法に関する。
本発明のスルホン化ポリマー溶液の製造方法により、短時間かつ高収率で均一な電解質材料を得ることができる。
本発明の一実施形態について説明すれば以下の通りである。なお、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
本発明のスルホン化ポリマー溶液の製造方法は、(A)固体状のポリマーをスルホン化溶液中でスルホン化させ、固体状のスルホン化ポリマーを製造する工程、および、(B)前記固体状のスルホン化ポリマーを溶媒に溶解する工程を含む。
<スルホン化ポリマーの製造>
上記(A)工程は、スルホン化溶液中で、固体状のポリマーをスルホン化させ、固体状のスルホン化ポリマーを取り出し、回収するものである。
支持体を用いる場合は、固体状のポリマーを支持体に固定し、支持体と共にスルホン化溶液に分散あるいは浸漬し、支持体ごと固体状のスルホン化ポリマーを取り出す。
続いて、回収したスルホン化ポリマーを支持体と共に水の入った水槽に浸漬し、洗浄する。水槽の水を交換する、あるいは別の水槽へと移すことで、スルホン化ポリマー中の酸を除去する。その後スルホン化ポリマーを乾燥する。
反応時間(ポリマーをスルホン化溶液に分散又は浸漬する時間)は、1分以上2時間以下、好ましくは1分以上1時間以下、より好ましくは1分以上30分以下、さらに好ましくは1分以上15分以下である。
スルホン化溶液は、スルホン化剤と溶媒とを含む。スルホン化溶液に用いることのできる溶媒としては、ポリマーの溶解性の低い溶媒が好ましく、ポリマーのスルホン化溶液への溶け出し量が5重量%以下になることが好ましい。ポリマーとスルホン化ポリマーのいずれも溶解性の低い溶媒がさらに好ましい。ポリマーあるいはスルホン化ポリマーを溶媒に浸漬した場合に軟化してもかまわない。溶媒としては、有機溶媒を用いることができ、例えば、炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒などが挙げられる。炭化水素系溶媒としては飽和脂肪族炭化水素、特に5〜15の炭素原子を有する分岐もしくは直鎖炭化水素がよく、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどが挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、例えば、ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素あるいはハロゲン化芳香族炭化水素が挙げられ、例えばモノクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、モノクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン1,1,2,2−テトラクロロエタン、1−モノクロロプロパン、2−モノクロロプロパン、1,1−ジクロロプロパン、1,2−ジクロロプロパン、1,3−ジクロロプロパン、1−モノクロロブタン、2−モノクロロブタン、1,1−ジクロロブタン、1,2−ジクロロブタン、1,3−ジクロロブタン、2,2−ジクロロブタン、2,3−ジクロロブタン、1−モノクロロペンタン、2−モノクロロペンタン、3−モノクロロペンタン、1,1−ジクロロペンタン、1,5−ジクロロペンタン、1−モノクロロヘキサン、2−モノクロロヘキサン、3−モノクロロヘキサン、1,1−ジクロロヘキサン、1,6−ジクロロヘキサン、1−モノクロロヘプタン、2−モノクロロヘプタン、3−モノクロロヘプタン、4−モノクロロヘプタン、1,1−ジクロロヘプタン、1,7−ジクロロヘプタン、1−モノクロロオクタン、2−モノクロロオクタン、3−モノクロロオクタン、4−モノクロロオクタン、1,1−ジクロロオクタン、1,8−ジクロロオクタン、クロロシクロペンタン、クロロシクロヘキサン、クロロシクロヘプタン、クロロシクロオクタンなどが挙げられる。中でも1,2−ジクロロエタン、1−クロロブタン、1−クロロペンタンおよび1−クロロオクタンが取扱いの容易さから好ましい。これらは2種以上を混合して用いても良い。
スルホン化剤としては、ポリマーをスルホン化できればよく、例えば無水硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、硫酸、アセチル硫酸などが挙げられる。中でも反応性が適度なクロロスルホン酸が好ましい。
スルホン化溶液におけるスルホン化剤の濃度は0.1〜30重量%であり、好ましくは0.5〜20重量%であり、さらに好ましくは1〜10重量%である。
スルホン化溶液におけるスルホン化剤の含有量は、ポリマーに含まれるスルホン化される部位の全量を1とした場合、1当量〜50当量であることが好ましい。1当量より低いと、スルホン化の程度が不十分になり、50当量より多いとポリマーの主鎖が切断されるおそれがある。
スルホン化溶液の温度は、スルホン化されるポリマーの構造により適宜選択され得るが、通常−50℃〜150℃の範囲内であればよく、特に0℃〜100℃の範囲が好ましい。
上記ポリマー及びスルホン化ポリマーの形状は、表面積が大きいことが好ましく、粉末状であるか、繊維状であるか、膜状(フィルム形状)であることが好ましい。より好ましくはスルホン化工程における回収の容易さから繊維状、あるいは膜状であり、さらに好ましくは膜状である。膜状である場合、膜の厚みに特に制限はないが、5〜200μmであることが好ましい。
スルホン化工程において、固体状のポリマーを支持体とともにスルホン化してもよい。ここで支持体とは、スルホン化工程における溶媒およびスルホン化剤によってほとんど化学変化を起こさないものが好ましい。
支持体の形状は、固体状のポリマーの形状に応じて選択することができる。たとえば支持体は繊維状、紐状、棒状、筒状、袋状、あるいはフィルム状であることが好ましく、特にポリマーが膜状であれば、支持体はフィルム状であることが好ましい。フィルム状の支持体とはメッシュ、不織布、織布、抄紙、複数個の独立した貫通孔や3次元網目構造を有するものでも良い。フィルム状の支持体の膜厚は5〜2000μm、より好ましくは10〜1000μmである。
フィルム状の支持体を用いる場合、ポリマーを1枚の支持体で支えてもよく、2枚の支持体で挟んで支えてもよい。筒状あるいは袋状の支持体を用いる場合はポリマーを包み込むように支えても良い。繊維状、紐状、棒状、筒状の支持体を用いる場合はポリマーを巻きつける、あるいは絡ませるように支えても良い。本願発明の製造方法では、固体状のポリマーを、支持体で夾持した状態でスルホン化させることが好ましい。
また、支持体は、スルホン化工程においてポリマーあるいはスルホン化ポリマーと密着していても密着していなくても良い。
支持体の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリオキシベンゾエート、ポリオキシアゾール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体などが好ましい。さらに好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンである。
スルホン化されるポリマーは、ブロック共重合体であることが好ましく、中でも、低加湿におけるプロトン伝導度の低下を抑制するためのミクロ相分離の観点から、スルホン酸基が導入されるブロックとスルホン酸基が導入されないブロックの両方を含むことが好ましい。
また、スルホン酸基が導入されるブロックとして、繰り返し単位中にスルホン酸基を3個以上導入することができるものが好ましい。
スルホン酸基が導入されないブロックとしては、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリスルホン等の構造が挙げられる。
スルホン化されるポリマーは、電子密度が高く、容易にスルホン化可能な下記式(1)の構造を含んでいることが好ましい。
Figure 0005652811
(式中、Xは直接結合、−O−及び−S−から選ばれる連結基又は水素原子である。mは1〜10の整数を表す。またArは下記式(2)の構造から選ばれる芳香環を表す。)
Figure 0005652811
上記式(1)の構造において、電子密度がより高い方が容易にスルホン化されることから、電子供与性基が芳香環に隣接することが好ましく、特に−O−Ar−、−O−Ar−Ar−であることが好ましい。
上記式(1)の構造において、下記式(3)の構造を含むものがより好ましい。
Figure 0005652811
<スルホン化ポリマー溶液の製造>
上記方法により製造したスルホン化ポリマーを、可溶性の溶媒に溶解し、スルホン化ポリマー溶液を製造する。
用いることのできる溶媒としては、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、あるいは水が挙げられ、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、1−ブタノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1−メチル−2−ピロリドン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、水などが挙げられる。中でもメタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、及び、水が好ましい。
溶媒の温度は−30〜250℃であり、好ましくは10〜180℃、より好ましくは15〜100℃である。
<高分子電解質膜の製造方法>
上記方法により製造したスルホン化ポリマー溶液を、ガラスやフィルムなどの平滑な基板上にキャストし、乾燥することで、膜を作製し、得られた膜をさらに酸性水溶液に浸し、純水に浸した後、乾燥することで高分子電解質膜を作製することができる。
平滑な基板としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリオキシベンゾエート、ポリオキシアゾール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体などが好ましい。さらに好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートである。基板の表面はシリカ蒸着、アルミナ蒸着などの加工が施されていても良い。
酸性水溶液としては、塩酸水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液などが挙げられるが、なかでも硫酸水溶液が好ましく、さらに1N硫酸水溶液が好ましい。
乾燥は20〜200℃で行うことが好ましく、40〜170℃で行うことがより好ましく、60〜140℃でおこなうことがさらに好ましい。
<触媒層バインダー溶液の製造方法>
本発明にかかるスルホン化ポリマー溶液の製造方法により、触媒層バインダー溶液を得ることもできる。ここで、触媒層バインダーとは、燃料電池の触媒層を作成する際に用いられるバインダーのことである。バインダーとは、触媒層を薄膜状に形成するための結着剤であり、イオノマーとも呼ばれる。
上記触媒層バインダー溶液を用いた触媒層の製造方法としては、公知の方法を用いることができる。
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
合成例で得られたポリマーの分子量、実施例で得られた高分子電解質のイオン交換容量および高分子電解質膜のプロトン伝導度は次にとおり測定した。
〔分子量の測定方法〕
GPC法により分子量を測定した。条件は以下の通り。
GPC測定装置 TOSOH社製 HLC−8220
カラム SHOWA DENKO社製 SuperAW4000、SuperA
W2500の2本を直列に接続
カラム温度 40℃
移動相溶媒 NMP(LiBrを10mmol/dmになるように添加)
溶媒流量 0.3mL/min
H−NMR評価方法〕
Varian社製NMR測定装置Gemini−300を用いてH−NMR分析を行った。溶媒は重クロロホルムを用いた。
〔高分子電解質膜の作製方法〕
スルホン化ポリマーをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に5wt%となるように溶解し、得られたスルホン化ポリマー溶液を平滑なガラス基板上に流延し80℃で減圧乾燥することで電解質膜とし、さらに1N硫酸水溶液に浸し、純水に浸した後、減圧乾燥することで作製した。
〔イオン交換容量(以下IECと略す)の測定方法〕
高分子電解質膜(約100mg:十分に乾燥)を25℃の塩化ナトリウム飽和水溶液20mLに浸漬し、ウォーターバス中で60℃、3時間イオン交換反応させた。25℃まで冷却し、次いで膜をイオン交換水で充分に洗浄し、塩化ナトリウム飽和水溶液および洗浄水をすべて回収した。この回収した溶液に、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を加え、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定し、IEC(meq/g)を算出した。
〔プロトン伝導度の測定方法〕
プロトン伝導度測定は恒温恒湿器(ESPEC社製、SH−221)を用いて温度と湿度を一定に保ち(約3時間)、インピーダンスアナライザー(日置社製、3532−50)を用いて、電解質の抵抗を測定した。具体的にはインピーダンスアナライザーにより50kHz〜5MHzまでの周波数応答性を測定し、次式からプロトン伝導性を算出した。
プロトン伝導度(S/cm)=D/(W×T×R)
ここでDは電極間距離(cm)、Wは膜幅(cm)、Tは膜厚(cm)、Rは測定した抵抗値(Ω)である。本測定においては、D=1cm、W=1cmで行い、膜厚はそれぞれのサンプルについてマイクロメーターを用いて測定した値を用いた。温度と湿度は85℃、30%RHと85℃、95%RHとした。
(合成例1)
下記の方法でポリマーを得た。
窒素導入口、還流管を付した100mLの三つ口フラスコに9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(4.00g、11.42mmol、東京化成工業社製)と、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン(2.58g、10.15mmol、東京化成工業社製)と、炭酸カリウム(3.16g、22.83mmol、関東化学社製)と、脱水N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc、20mL、関東化学社製)と、脱水トルエン(10mL、関東化学社製)とを加えた。三つ口フラスコにDean−Starkトラップを設置し、この混合物を窒素気流下で攪拌して、透明な均一溶液を得た。この溶液を140℃で3時間加熱した後、Dean−Starkトラップを除去し、165℃で12時間加熱した。反応終了後、DMAc(20mL)を加えてから常温まで冷却し、1000mLの純水中に反応溶液をゆっくりと滴下した。得られた沈殿物を吸引ろ過によって回収し、80℃の純水で3時間洗浄した後メタノールで洗浄し、60℃で15時間真空乾燥するとスルホン化可能な部位を含むオリゴマーを白色繊維状にて得た。
別途、窒素導入口、還流管を付した100mLの三つ口フラスコにビス(4−フルオロフェニル)スルホン(2.00g、7.86mmol、東京化成工業社製)と、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン(1.63g、7.61mmol、東京化成工業社製)と、炭酸カリウム(2.17g、15.72mmol、関東化学社製)と、炭酸カルシウム(15.73g、157.20mmol)と、脱水N,N−ジメチルアセトアミド(20mL、関東化学社製)と、脱水トルエン(10mL、関東化学社製)を加えた。三つ口フラスコにDean−Starkトラップを設置し、この混合物を窒素気流下で攪拌して、透明均一溶液を得た。この溶液を140℃で1.5時間加熱した後、Dean−Starkトラップを除去し、165℃で1.5時間加熱することによって、ポリエーテルを含む溶液を得た。ここに、先に得たスルホン化可能な部位を含むオリゴマー(1.20g)を添加した後、165℃で更に3時間加熱した。反応終了後、DMAc(20mL)を加えてから常温まで冷却し、塩酸水溶液(1000mL、10mLの濃塩酸/1000mL純水)中に反応溶液をゆっくりと滴下した。この作業もう一度繰り返し、メタノールで洗浄した後に、60℃で15時間真空乾燥することによって、スルホン化可能な構造を有するポリマーを得た。
得られたポリマーのH−NMRを測定し、p=8、n=30のスルホン化可能な構造の繰り返し単位と、スルホン酸基が実質導入されない繰り返し単位を含む高分子であることを確認した(分子量Mn=54,000、Mw=95,000)。
Figure 0005652811
(実施例1)
合成例1で得られたポリマーを、N,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、ガラス板にキャストすることでフィルム(12cm×12cm、平均厚み40μm)を作製した。
作製したフィルムを2枚のテフロン(登録商標)パンチングシート(14cm×14cm、膜厚550μm)ではさみ、室温(25℃)のスルホン化溶液(クロロスルホン酸10g/1−クロロブタン300mL)に浸した。10分後スルホン化溶液から取り出し、純水300mLに浸した。さらに2度水浸漬により膜を洗浄することで酸を除き、80℃で15時間乾燥することでスルホン化ポリマーを得た(収率99%)。スルホン化ポリマーを80℃のDMAcに溶解し、スルホン化ポリマー溶液を作製した。
電解質膜を作製し、分析を行ったところIECは1.46(meq/g)であった。
フィルムをスルホン化する工程において、テフロン(登録商標)パンチングシートにはさむことで容易にスルホン化ポリマーの回収を行うことができた。また、回収後に水浸漬するのみで酸の除去が可能であり、酸性水溶液の廃液量はおよそ900mLであった。
(実施例2)
合成例1で得られたポリマーを、N,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、ガラス板にキャストすることでフィルム(8cm×8cm、平均厚み40μm)を作製した。
作製したフィルムを1枚のポリエチレンフィルム(12cm×12cm、膜厚550μm)に貼り付け、室温のスルホン化溶液(クロロスルホン酸6.2g/1−クロロブタン200mL)に浸した。30分後スルホン化溶液から取り出し、純水200mLに浸した。さらに2度水浸漬により膜を洗浄することで酸を除き、80℃で15時間乾燥することでスルホン化ポリマーを得た(収率99%)。スルホン化ポリマーを80℃のDMAcに溶解し、スルホン化ポリマー溶液を作製した。
電解質膜を作製し、分析を行ったところIECは1.51(meq/g)であった。
(実施例3)
合成例1で得られたポリマーを、N,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、ガラス板にキャストすることでフィルム(4cm×5cm、平均厚み40μm)を作製した。
作製したフィルムを、室温のスルホン化溶液(クロロスルホン酸6.2g/1−クロロブタン100mL)に浸した。2分後スルホン化溶液から取り出し、純水100mLに浸した。さらに2度水浸漬により膜を洗浄することで酸を除き、80℃で15時間乾燥することでスルホン化ポリマーを得た(収率99%)。スルホン化ポリマーを80℃のDMAcに溶解し、スルホン化ポリマー溶液を作製した。
電解質膜を作製し、分析を行ったところIECは1.51(meq/g)であった。
(比較例1)
合成例1で得られたポリマーを、ジクロロメタンに溶解し、均一なポリマー溶液(ポリマー1.0g/ジクロロメタン50mL)を調製した。
調製したポリマー溶液を室温のスルホン化溶液(クロロスルホン酸1.7g/ジクロロメタン50mL)にゆっくりと滴下しながら加えた。そのまま攪拌しながら12時間反応させた。反応後は赤褐色の沈殿物が生じており、上澄み液を除き、水を加えて洗浄した。水を加えて白色になった固体を取り出し、吸引ろ過しながら水洗を行った。洗浄後、80℃で15時間減圧乾燥することでスルホン化ポリマーを得た(収率92%)。スルホン化ポリマーを80℃のDMAcに溶解し、スルホン化ポリマー溶液を作製した。
電解質膜を作製し、分析を行ったところIECは1.64(meq/g)であった。
ただし、吸引ろ過工程において酸を除去するために5時間を要し、酸性水溶液の廃液を10リットル排出した。
スルホン化溶液からスルホン化ポリマーを回収する際、スルホン化ポリマーが反応容器の内部に付着しており回収が困難であった。また、回収後に酸の除去を行うために、あらかじめスルホン化ポリマーを粉砕する必要があり、吸引ろ過の操作には5時間を要した。酸性水溶液の廃液量はおよそ10リットルであった。
(比較例2)
合成例1で得られたポリマーを、室温でジクロロメタンに溶解し、均一なポリマー溶液(ポリマー0.5g/ジクロロメタン50mL)を調製した。
調製したポリマー溶液に室温でクロロスルホン酸(4g)をゆっくりと滴下しながら加えた。そのまま攪拌しながら12時間反応させた。反応後は赤褐色の沈殿物が生じており、上澄み液を除き、水を加えて洗浄した。水を加えて白色になった固体を取り出し、吸引ろ過しながら水洗を行った。洗浄後、80℃で15時間減圧乾燥することでスルホン化ポリマーを得た(収率91%)。スルホン化ポリマーを80℃のDMAcに溶解し、スルホン化ポリマー溶液を作製した。
電解質膜を作製し、分析を行ったところIECは1.48(meq/g)であった。
スルホン化溶液からスルホン化ポリマーを回収する際、スルホン化ポリマーが反応容器の内部に付着しており回収が困難であった。また、回収後に酸の除去を行うために、あらかじめスルホン化ポリマーを粉砕する必要があり、吸引ろ過の操作には5時間を要した。酸性水溶液の廃液量はおよそ8リットルであった。
(比較例3)
合成例1で得られたポリマー1gを、98%硫酸30mLに溶解し、室温で20時間反応させた。反応後に大量の水に加えることでスルホン化ポリマーを析出させ、吸引ろ過しながら水洗を行った。洗浄後、80℃で15時間減圧乾燥することでスルホン化ポリマーを得た(収率94%)。分子量の低下が見られ、またNMR分析でもスルホン酸基はほとんど導入されなかった。濃硫酸によるスルホン化ではスルホン化反応の速度が遅く、またポリマーの分解が起こったものと考えられる。
得られたスルホン化ポリマーを80℃のDMAcに溶解し、スルホン化ポリマー溶液を作製した。電解質膜を作製したが、非常に脆く分析を行うことができなかった。
(比較例4)
合成例1で得られたポリマーを、N,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、ガラス板にキャストすることでフィルム(4cm×5cm、平均厚み40μm)を作製した。
作製したフィルムを、室温のスルホン化溶液(クロロスルホン酸6.2g/1−クロロブタン100mL)に浸した。30秒後スルホン化溶液から取り出し、純水100mLに浸した。さらに2度水浸漬により膜を洗浄することで酸を除き、80℃で15時間乾燥することでスルホン化ポリマーを得た(収率99%)。スルホン化ポリマーを80℃のDMAcに溶解し、スルホン化ポリマー溶液を作製した。
電解質膜を作製し、分析を行ったところIECは0.56(meq/g)であった。
スルホン化を行う時間が30秒では浸漬した膜は部分的に色のムラが見られ、スルホン化剤が膜内部まで浸透していない様子であった。またIECは低い値であった。
(比較例5)
合成例1で得られたポリマーを、N,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、ガラス板にキャストすることでフィルム(3cm×5cm、平均厚み70μm)を作製した。
作製したフィルムを2枚のテフロン(登録商標)パンチングシート(4cm×6cm、膜厚550μm)ではさみ、室温のクロロスルホン酸30gに浸した。2分後スルホン化ポリマーは流動性が高くなり、テフロン(登録商標)パンチングシートから漏れ出してしまった。反応10分後、反応溶液を多量の水に加え、析出した固体を回収し、吸引ろ過しながら水洗を行った。洗浄後、80℃で15時間減圧乾燥することでスルホン化ポリマーを得た(収率60%)。スルホン化ポリマーを80℃のDMAcに溶解し、スルホン化ポリマー溶液を作製した。
電解質膜を作製し、分析を行ったところIECは1.48(meq/g)であった。
有機溶媒を使用せず、クロロスルホン酸のみを用いてスルホン化すると、スルホン化ポリマーは流動性が高くなり、回収が困難であった。
各種評価した結果を表1に示した。
Figure 0005652811
実施例1〜3と比較例1、2を比較すると、実施例は短時間でスルホン化を行うことができ、かつ簡便な回収操作で、高収率でスルホン化ポリマーを得られることが分かる。
実施例1〜3と比較例3を比較すると、濃硫酸を用いてスルホン化すると、スルホン化が遅く、またポリマーが分解してしまうことが分かる。
実施例1〜3と比較例4を比較すると、比較例4のようにスルホン化時間が30秒では十分なスルホン化を行うことができないが、実施例3のようにスルホン化時間が2分では十分にスルホン化を行うことができることがわかる。
実施例1〜3と比較例5を比較すると、比較例5のように有機溶媒を用いず、クロロスルホン酸のみでスルホン化を行うと、スルホン化ポリマーの流動性が高くなりすぎてしまうため、回収が困難になってしまうことが分かる。
よって、本発明のスルホン化ポリマー溶液の製造方法は、固体高分子形燃料電池の材料のためのスルホン化ポリマー溶液の製造方法として有用であり、特に高分子電解質膜の製造のためのスルホン化ポリマー溶液の製造方法として有用であることは明らかである。

Claims (15)

  1. (A)固体状のポリマーをスルホン化溶液中で1分以上2時間以下の反応時間でスルホン化させ、固体状のスルホン化ポリマーを製造する工程、および(B)前記固体状のスルホン化ポリマーを溶媒に溶解する工程を含み、前記固体状のポリマー、及び、前記固体状のスルホン化ポリマーは、フィルム形状であることを特徴とする、スルホン化ポリマー溶液の製造方法であって、
    前記ポリマーが、下記式(3)
    Figure 0005652811
    の構造を含み、工程(A)で該構造がスルホン化され、
    スルホン化溶液中のスルホン化剤の濃度が、3.3〜30重量%であり、スルホン化剤の含有量が、スルホン化される部位の全量を1とすると1〜50当量である製造方法
  2. (A)固体状のポリマーをスルホン化溶液中で1分以上2時間以下の反応時間でスルホン化させ、固体状のスルホン化ポリマーを製造する工程、および(B)前記固体状のスルホン化ポリマーを溶媒に溶解する工程を含み、前記ポリマーが、主鎖に芳香族基を含む構造を有することを特徴とする、スルホン化ポリマー溶液の製造方法であって、
    前記ポリマーが、下記式(3)
    Figure 0005652811
    の構造を含み、工程(A)で該構造がスルホン化され、
    スルホン化溶液中のスルホン化剤の濃度が、3.3〜30重量%であり、スルホン化剤の含有量が、スルホン化される部位の全量を1とすると1〜50当量である製造方法
  3. (A)固体状のポリマーをスルホン化溶液中で1分以上2時間以下の反応時間でスルホン化させ、固体状のスルホン化ポリマーを製造する工程、および(B)前記固体状のスルホン化ポリマーを溶媒に溶解する工程を含み、前記ポリマーが、スルホン酸基が導入されるブロックとスルホン酸基が導入されないブロックを含むことを特徴とする、スルホン化ポリマー溶液の製造方法であって、
    前記ポリマーが、下記式(3)
    Figure 0005652811
    の構造を含み、工程(A)で該構造がスルホン化され、
    スルホン化溶液中のスルホン化剤の濃度が、3.3〜30重量%であり、スルホン化剤の含有量が、スルホン化される部位の全量を1とすると1〜50当量である製造方法
  4. 前記固体状のポリマー、及び、前記固体状のスルホン化ポリマーは、フィルム形状であることを特徴とする、請求項2又は3に記載のスルホン化ポリマー溶液の製造方法。
  5. 前記(A)工程において、前記固体状のポリマーを、支持体で夾持した状態でスルホン化させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のスルホン化ポリマー溶液の製造方法。
  6. 前記スルホン化溶液が、有機溶媒を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のスルホン化ポリマー溶液の製造方法。
  7. 前記有機溶媒が、ハロゲン系溶媒であることを特徴とする、請求項6に記載のスルホン化ポリマー溶液の製造方法。
  8. 前記有機溶媒が、1,2−ジクロロエタン、1−クロロブタン、1−クロロペンタンおよび1−クロロオクタンからなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする、請求項6又は7に記載のスルホン化ポリマー溶液の製造方法。
  9. 前記ポリマーが、主鎖に芳香族基を含む構造を有することを特徴とする、請求項1及び3〜8のいずれかに記載のスルホン化ポリマー溶液の製造方法。
  10. 前記ポリマーが、ブロック共重合体であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のスルホン化ポリマー溶液の製造方法。
  11. 前記ポリマーが、スルホン酸基が導入されるブロックとスルホン酸基が導入されないブロックを含むことを特徴とする、請求項1、2及び4〜10のいずれかに記載のスルホン化ポリマー溶液の製造方法。
  12. 前記ポリマーが、繰り返し単位中にスルホン酸基を3個以上導入することができるブロックを有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のスルホン化ポリマー溶液の製造方法。
  13. 前記(A)工程において、スルホン化剤としてクロロスルホン酸を用いることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載のスルホン化ポリマー溶液の製造方法。
  14. 請求項1〜13のいずれかに記載のスルホン化ポリマー溶液の製造方法を含むことを特徴とする、高分子電解質膜の製造方法。
  15. 請求項1〜13のいずれかに記載のスルホン化ポリマー溶液の製造方法を含むことを特徴とする、触媒層バインダー溶液の製造方法。
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